(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082507
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】シーラント用組成物及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240613BHJP
C08L 57/02 20060101ALI20240613BHJP
C08L 91/08 20060101ALI20240613BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C08L21/00
C08L57/02
C08L91/08
C08K5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196399
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 拓也
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC003
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC063
4J002AE053
4J002BA012
4J002BC022
4J002BK002
4J002EK036
4J002FD023
4J002FD146
4J002GJ02
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】シーラント層の形状保持性を確保しつつ塗布時における製造効率を改善する。
【解決手段】実施形態に係るシーラント用組成物は、ジエン系ゴムを含む固形ゴム成分100質量部に対して、炭化水素樹脂95~150質量部、液状可塑剤20~100質量部、及び、有機過酸化物架橋剤0.05~4.5質量部、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムを含む固形ゴム成分100質量部に対して、炭化水素樹脂95~150質量部、液状可塑剤20~100質量部、及び、有機過酸化物架橋剤0.05~4.5質量部、を含む、シーラント用組成物。
【請求項2】
前記有機過酸化物架橋剤の10時間半減期温度が80~150℃である、請求項1に記載のシーラント用組成物。
【請求項3】
前記有機過酸化物架橋剤が、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ビス[(t-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス[4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル]プロパン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、及びt-ブチルパーオキシアセテートからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のシーラント用組成物。
【請求項4】
前記ジエン系ゴムが、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ポリブタジエン、イソプレンコポリマー、及びブタジエンコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載のシーラント用組成物。
【請求項5】
前記液状可塑剤が、オイル及び/又は液状ゴムである、請求項1に記載のシーラント用組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のシーラント用組成物により形成されたシーラント層を備える空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シーラント用組成物、及び、それを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
パンク防止機能を備えた空気入りタイヤとして、タイヤ内面にシーラント層を配置したものが知られている。シーラント層を備えたタイヤでは、トレッドに釘などの異物が突き刺さって貫通孔が形成されたときに、その貫通孔をシーラント層が自動的に塞いで、タイヤからの空気の漏れが防止される。シーラント層は、例えば、特許文献1に記載されたような塗布装置を用いて、そのノズルからシーラント用組成物を吐出してタイヤ内面に塗布することにより形成されている。
【0003】
このようなシーラント用組成物として、例えば特許文献2には、不飽和ジエンエラストマーと、30phrと90phrの間の炭化水素樹脂と、Tgが-20℃よりも低い0phrと60phrの間の液体可塑剤と、0~30phr未満の充填剤とを含むものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-076890号公報
【特許文献2】特表2011-529972号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載のシーラント用組成物は、塗布する温度において粘性が高く、塗布装置に負荷がかかるため、塗布速度を抑える必要があり、製造効率(即ち、塗布工程での工程性)に改善の余地がある。
【0006】
製造効率を改善するため、可塑剤を多量に配合してシーラント用組成物の粘性を低くすることが考えられる。このような低粘性タイプのシーラント用組成物では製造効率は有利であるが、シーラント用組成物の塗布後において、常温でのタイヤの静置下やタイヤの高速回転時にシーラント層が流動変形しやすくなり、形状保持性に劣る。一方、可塑剤の量を減らした高粘性タイプのシーラント用組成物では、シーラント層の形状保持性は有利であるが、製造効率の点で問題がある。そのため、シーラント層の形状保持性を確保しつつ、塗布時における製造効率を改善することが求められる。
【0007】
本発明の実施形態は、以上の点に鑑み、シーラント層の形状保持性を確保しつつ塗布時における製造効率を改善することができるシーラント用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] ジエン系ゴムを含む固形ゴム成分100質量部に対して、炭化水素樹脂95~150質量部、液状可塑剤20~100質量部、及び、有機過酸化物架橋剤0.05~4.5質量部、を含む、シーラント用組成物。
[2] 前記有機過酸化物架橋剤の10時間半減期温度が80~150℃である、[1]に記載のシーラント用組成物。
[3] 前記有機過酸化物架橋剤が、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ビス[(t-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス[4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル]プロパン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、及びt-ブチルパーオキシアセテートからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]に記載のシーラント用組成物。
[4] 前記ジエン系ゴムが、天然ゴム、合成ポリイソプレン、ポリブタジエン、イソプレンコポリマー、及びブタジエンコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のシーラント用組成物。
[5] 前記液状可塑剤が、オイル及び/又は液状ゴムである、[1]~[4]のいずれか1項に記載のシーラント用組成物。
[6] [1]~[5]のいずれか1項に記載のシーラント用組成物により形成されたシーラント層を備える空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態によれば、シーラント層の形状保持性を確保しつつ塗布時における製造効率を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係るシーラント用組成物は、ジエン系ゴムを含む固形ゴム成分と、炭化水素樹脂と、液状可塑剤と、有機過酸化物架橋剤と、を含むゴム組成物である。
【0012】
本実施形態において、固形ゴム成分はジエン系ゴムを含む。固形ゴム成分はジエン系ゴムを主成分として含むことが好ましく、従って、固形ゴム成分100質量%におけるジエン系ゴムの含有割合は50質量%以上であることが好ましく、より好ましくは80質量%以上であり、更に好ましくは90質量%以上であり、100質量%でもよい。本明細書において、「固形」とは、23℃において流動性を有さないことをいう。
【0013】
ジエン系ゴムとは、共役二重結合を持つジエンモノマーに対応する繰り返し単位を持つゴムをいう。固形ゴム成分のジエン系ゴムとしては、例えば、天然ゴム(NR)、合成ポリイソプレン(イソプレンゴム;IR)、ポリブタジエン(ブタジエンゴム;BR)、イソプレンコポリマー、ブタジエンコポリマーなどが挙げられる。これらはいずれか1種用いても又は2種以上併用してもよい。
【0014】
ここで、イソプレンコポリマーとは、イソプレンと他のモノマーとの共重合体ゴムであり、例えば、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴムなどが挙げられる。ブタジエンコポリマーとは、ブタジエンと他のモノマーとの共重合体であり、例えば、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-ブタジエン-イソプレン共重合体ゴムなどが挙げられる。なお、モノマーとしてイソプレンとブタジエンの双方を含む共重合体ゴムについては、モル比率の高いモノマーのコポリマーに包含されるものとする。すなわち、イソプレンのモル比率が高ければイソプレンコポリマーに包含され、ブタジエンのモル比率が高ければブタジエンコポリマーに包含されるものとする。
【0015】
上記のジエン系ゴムには、必要に応じて末端や主鎖を変性したものや、所望の特性を付与するべく改質したもの(例えば、改質NR)も、その概念に包含されるものとする。
【0016】
一実施形態において、固形ゴム成分は、天然ゴム及び/又はポリイソプレン20~80質量%とポリブタジエン20~80質量%とを含んでもよく、天然ゴム及び/又はポリイソプレン30~70質量%とポリブタジエン30~70質量%とを含んでもよく、天然ゴム及び/又はポリイソプレン40~60質量%とポリブタジエン40~60質量%とを含んでもよい。
【0017】
固形ゴム成分は、ジエン系ゴム以外の固形のゴムを含んでもよく、そのような非ジエン系ゴムとして、例えばブチルゴムなどが挙げられる。
【0018】
炭化水素樹脂は、炭素と水素を本質的にベースとするポリマーである。炭化水素樹脂としては、23℃で流動性を有しない固体の熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。炭化水素樹脂は、脂肪族系でもよく、脂環式系でもよく、芳香族系でもよく、またこれらを組み合わせたもの、例えば脂肪族/芳香族系でもよい。炭化水素樹脂は、石油樹脂でもよく、石油系でない天然樹脂又は合成樹脂でもよい。
【0019】
炭化水素樹脂の好ましい例としては、石油樹脂、スチレン系樹脂、テルペン系樹脂が挙げられ、これらをいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0020】
石油樹脂は、石油留分を重合して得られる樹脂であり、例えば、C5系の脂肪族系石油樹脂、C9系の芳香族系石油樹脂、C5/C9系の脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂が挙げられ、これらをいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。脂肪族系石油樹脂は、炭素数4~5個相当の石油留分(C5留分)を重合することにより得られる樹脂であり、水添したものであってもよい。芳香族系石油樹脂は、炭素数8~10個相当の石油留分(C9留分)を重合することにより得られる樹脂であり、水添したものであってもよい。脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂は、C5留分とC9留分とを共重合することにより得られる樹脂であり、水添したものであってもよい。
【0021】
スチレン系樹脂(スチレン系炭化水素樹脂)は、スチレン又はその誘導体(例えば、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、4-tert-ブチルスチレンなど)であるスチレン系モノマーを重合して得られる樹脂であり、スチレン系モノマーと他の芳香族モノマー又は脂肪族モノマーとの共重合体でもよい。スチレン系樹脂としては、例えば、スチレン/α-メチルスチレン共重合体、α-メチルスチレン単独重合体、スチレン系モノマー/脂肪族モノマー共重合体、α-メチルスチレン/脂肪族モノマー共重合体、スチレン/α-メチルスチレン/脂肪族モノマー共重合体などが挙げられ、これらをいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。
【0022】
テルペン系樹脂(テルペン系炭化水素樹脂)は、テルペン化合物を重合してなる樹脂であり、テルペン化合物に由来する単位を有する。テルペン化合物としては、例えばα-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテンなどが挙げられる。テルペン系樹脂としては、テルペン化合物のみを重合して得られるポリテルペン樹脂の他、テルペン化合物とテルペン以外のモノマーを重合して得られる変性テルペン樹脂が例示され、これらをいずれか1種用いても2種以上併用してもよい。変性テルペン樹脂としては、例えばテルペン化合物と芳香族化合物を重合して得られる芳香族変性テルペン樹脂(例えばテルペン-フェノール樹脂)が挙げられる。
【0023】
炭化水素樹脂の軟化点は、特に限定されないが、80~150℃であることが好ましく、より好ましくは80~120℃である。本明細書において、軟化点は、ASTM D6090に準拠して測定される値であり、実施例ではメトラートレド社製「DP70」(自動軟化点測定装置)を用いて測定した値とした。
【0024】
炭化水素樹脂の含有量は、固形ゴム成分100質量部に対して、95~150質量部であり、好ましくは95~130質量部であり、より好ましくは95~115質量部である。炭化水素樹脂の含有量が95質量部以上であることにより、塗布時の粘性を低くして塗布速度を向上しやすくなる。炭化水素樹脂の含有量が150質量部以下であることにより、シーラント層に割れが生じにくくなる。
【0025】
液状可塑剤とは、23℃において液体である可塑剤をいう。すなわち、「液状」とは23℃で流動性を有することをいう。液状可塑剤としては、オイル又は液状ゴムを用いることが好ましく、オイルと液状ゴムを併用してもよい。
【0026】
オイルとしては、一般にゴム組成物に配合される各種オイルを用いることができ、例えば、鉱物油、植物油、ポリオレフィンオイルなどが挙げられる。好ましいオイルの具体例は、炭化水素を主成分とする鉱物油であり、例えば、パラフィン系オイル、ナフテン系オイル、及びアロマ系オイルからなる群から選択される少なくとも1種の鉱物油を用いることが好ましい。
【0027】
液状ゴムは、23℃において液状であるゴムである。液状ゴムとしては、例えば、液状イソプレンゴム、液状ブタジエンゴム、液状スチレンブタジエンゴム、液状イソプレンブタジエンゴム、液状イソプレンスチレンゴム、液状イソプレンブタジエンスチレンゴム、液状イソブチレン、液状エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)などが挙げられる。これらの液状ゴムは、カルボキシル化やメタクリレート化などによって変性されたものでもよい。これら液状ゴムは、いずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。液状ゴムとしては、液状ジエン系ゴムが好ましく用いられる。
【0028】
液状ゴムの重量平均分子量(Mw)は、特に限定されないが、一般に10万未満であり、1000~8万でもよく、2000~6万でもよい。なお、固形ゴム成分のジエン系ゴムの重量平均分子量(Mw)は、一般に20万以上であり、液状ゴムとは区別される。
【0029】
本明細書において、重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される値であり、詳細には、例えば示差屈折率検出器(RI)を備えた東ソー(株)製「HLC8320-GPC」を測定装置として用い、溶媒としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、カラムとして東ソー(株)製「TSKgel SuperHZM-M」を用い、測定温度を40℃、流量を0.35mL/分、濃度を1.0g/L、注入量を40μLとし、市販の標準ポリスチレンを用いてポリスチレン換算で算出される。
【0030】
液体可塑剤の含有量は、固形ゴム成分100質量部に対して、20~100質量部であり、好ましくは30~80質量部であり、より好ましくは35~80質量部であり、更に好ましくは35~70質量部である。液体可塑剤の含有量が20質量部以上であることにより、塗布時の粘性を低くして塗布速度を向上しやすくなり、またシーラント層におけるシーリング特性を向上することができる。ここで、シーリング特性とは、貫通孔を自動的に塞いでタイヤからの空気の漏れを防止する性能をいう。液体可塑剤の含有量が100質量部以下であることにより、シーラント層の形状保持性を確保しやすくなる。
【0031】
有機過酸化物架橋剤は、分子中に1個又はそれ以上の酸素-酸素結合(-O-O-)を持つ有機化合物からなる架橋剤である。有機過酸化物架橋剤としては、例えば、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、パーオキシエステル類、ジアシルパーオキサイド類等が挙げられ、これらをいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0032】
ジアルキルパーオキサイド類としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ビス[(t-ブチルパーオキシ)イソプロピル]ベンゼン、ジ-t-ヘキシルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイドなどが挙げられ、これらをいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0033】
パーオキシケタール類としては、例えば、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1-ジ(t-ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレート、2,2-ビス[4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキシル]プロパン、2,2-ジ(t-ブチルパーオキシ)ブタンなどが挙げられ、これらをいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0034】
パーオキシエステル類としては、例えば、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシアセテートなどが挙げられ、これらをいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0035】
ジアシルパーオキサイド類としては、例えば、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(メチルベンゾイル)パーオキサイド、ベンゾイルメチルベンゾイルパーオキサイドなどが挙げられ、これらをいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0036】
有機過酸化物架橋剤としては、10時間半減期温度が80~150℃であるものを用いることが好ましい。10時間半減期温度は、より好ましくは85~130℃、より好ましくは85~125℃、更に好ましくは90~120℃である。
【0037】
本明細書において、有機過酸化物架橋剤の10時間半減期温度(半減期10時間を得るための分解温度)は、日油株式会社のカタログ「有機過酸化物第10版」(2015年2月作成)に記載された値であり、記載のない場合は同カタログに記載された方法と同様の下記方法により求められる値を採用する。すなわち、ラジカルに対して比較的不活性な溶媒(通常はベンゼン、場合によりトルエン、クメン又は酢酸エチルなど)を使用して0.1mol/L(場合により0.05mol/L)濃度の有機過酸化物溶液を調製し、これを窒素雰囲気下に一定温度で熱分解させ、活性酸素量をヨウ素滴定法により測定することで、有機過酸化物の分解量を求める。分解速度定数をk、時間をt、有機過酸化物の初期濃度をa、分解量をxとすると、
ln a/(a-x)=kt
との関係にある。そのため、時間(t)とln a/(a-x)の関係をプロットし、得られた直線の傾きからkが求められる。半減期(t1/2)は、上記kの値を、
式:kt1/2=ln2
に代入することにより求められる。数点の温度(絶対温度T)について上記熱分解を行い、半減期t1/2を求める。そして、lnt1/2とTとの関係をプロットし、得られた直線から10時間半減期を得るための分解温度が求められる。
【0038】
有機過酸化物架橋剤としては、分子量が100~500であるものが好ましく用いられる。有機過酸化物架橋剤の分子量は、より好ましくは150~450であり、更に好ましくは180~400であり、更に好ましくは200~280である。
【0039】
有機過酸化物の含有量は、固形ゴム成分100質量部に対して、0.05~4.5質量部であり、好ましくは0.08~4.0質量部であり、より好ましくは0.1~2.5質量部であり、更に好ましくは0.3~2.0質量部である。有機過酸化物架橋剤の含有量が0.05質量部以上であることにより、シーラント層の形状保持性を確保しつつ塗布時における製造効率を改善することができる。有機過酸化物架橋剤の含有量が4.5質量部以下であることにより、塗布時の流動性を確保しやすい。
【0040】
本実施形態に係るシーラント用組成物には、上記成分の他に、充填剤、酸化亜鉛、ステアリン酸、加工助剤、軟化剤、ワックス、老化防止剤などの各種添加剤が、通常の範囲内で適宜配合されてもよい。
【0041】
上記充填剤としては、カーボンブラック及び/又はシリカが挙げられる。カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。具体的には、SAF級(N100番台)、ISAF級(N200番台)、HAF級(N300番台)、FEF級(N500番台)、GPF級(N600番台)(ともにASTMグレード)が挙げられる。カーボンブラックとしては、窒素吸着比表面積(N2SA)が100~150m2/gであるものが好ましく用いられる。ここで、窒素吸着比表面積は、JIS K6217-2(A法):2017に準拠して測定される。
【0042】
シリカとしては、例えば湿式シリカ、乾式シリカが挙げられ、好ましくは湿式沈降法シリカ、湿式ゲル化法シリカなどの湿式シリカを用いることである。
【0043】
充填剤の含有量は、特に限定されず、固形ゴム成分100質量部に対して、例えば0~60質量部でもよく、10~50質量部でもよく、15~40質量部でもよい。
【0044】
酸化亜鉛の含有量は、特に限定されず、固形ゴム成分100質量部に対して、例えば、0~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~4質量部でもよい。
【0045】
ステアリン酸の含有量は、特に限定されず、固形ゴム成分100質量部に対して、例えば、0~10質量部でもよく、0.5~5質量部でもよく、1~4質量部でもよい。
【0046】
本実施形態に係るシーラント用組成物には、加硫剤及び加硫促進剤が配合されてもよいが、好ましくは加硫剤及び加硫促進剤を含まないことである。ここで、加硫剤としては硫黄が挙げられる。加硫促進剤としては、スルフェンアミド系、グアニジン系、チウラム系、及びチアゾール系などの各種加硫促進剤が挙げられる。
【0047】
本実施形態に係るシーラント用組成物は、ゴム業界で通常用いられる混練機を用いて、常法に従い混練し製造することができる。例えば、第1工程において、固形ゴム成分に対して、炭化水素樹脂及び有機過酸化物架橋剤を除く配合剤を添加し混練する。次いで、第2工程において、炭化水素樹脂及び有機過酸化物架橋剤を添加し混練する。これによりシーラント用組成物が得られる。
【0048】
第1工程では、例えば、バンバリーミキサーやロールミル、混練押出機などの混練機が用いられる。第1工程では、混練機に固形ゴム成分とともに液状可塑剤を投入し、更に炭化水素樹脂及び有機過酸化物架橋剤を除く配合剤を任意に添加し、混練物の温度を上昇させながら混練する。第1工程における混練機からの混練物の排出温度は特に限定されないが、例えば120~160℃でもよい。
【0049】
第2工程では、例えば、二軸混練押出機やコニーダーなどの混練押出機が用いられる。第2工程では、混練押出機に第1工程で得られた混練物とともに炭化水素樹脂及び有機過酸化物架橋剤を投入し混練する。第2工程における混練機からの混練物の排出温度は特に限定されないが、炭化水素樹脂の軟化点よりも高い温度であることが好ましい。これにより炭化水素樹脂の分散性を向上させることができる。また、有機過酸化物架橋剤の架橋反応を進行させるために、第2工程における排出温度は、100~180℃であることが好ましく、より好ましくは120~160℃である。第2工程における混練時間は、0.5~6分であることが好ましく、より好ましくは1~5分である。
【0050】
本実施形態に係るシーラント用組成物は、空気入りタイヤの内面にシーラント層を形成するために用いることができる。空気入りタイヤとしては、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる重荷重用タイヤなど、各種用途及び各種サイズの空気入りタイヤが挙げられる。
【0051】
シーラント層を有する空気入りタイヤの一実施形態について、
図1を用いて説明する。空気入りタイヤ1は、路面に接地する環状のトレッド2と、トレッド2のタイヤ半径方向RDの内側に位置する左右一対のビード部3,3と、トレッド2とビード部3,3の間に位置する左右一対のサイドウォール4,4とを備える。タイヤ1は、ビード部3に埋設されたビードコア5と、左右のビード部3,3間にトロイダル状に延びるカーカスプライ6と、トレッド2におけるカーカスプライ6の外周側に設けられたベルト7及びトレッドゴム8と、カーカスプライ6のタイヤ内面側に設けられたインナーライナー9と、インナーライナー9のタイヤ内面側に設けられたシーラント層10とを備える。
【0052】
シーラント層10は、空気入りタイヤ1の内面1A、詳細にはインナーライナー9の内側に重ねて設けられている。この例では、シーラント層10は、トレッド2におけるタイヤ内面1Aにおいて、タイヤ軸方向ADの一方側の端部から他方側の端部にかけて設けられている。このようにシーラント層10は、トレッド2の内面の全体にわたって設けられることが好ましく、トレッド2の内面のみに設けてもよいが、トレッド2の内面を含むより広い範囲で設けてもよい。すなわち、シーラント層10は、トレッド2の内面を含むタイヤ1の内面1Aに設けられることが好ましい。
【0053】
シーラント層の形成方法は特に限定されないが、好適には、シーラント用組成物を炭化水素樹脂の軟化点よりも高い温度(例えば80~160℃)に加熱し、塗布装置を用いて、空気入りタイヤの内面に塗布する。詳細には、例えば、塗布装置のノズルからシーラント用組成物を帯状に吐出し、タイヤ内面に対して該帯状物をタイヤ軸方向に変位させつつタイヤ周方向に沿って塗布してもよい。塗布した後、常温で放置することにより、シーラント用組成物の流動性が低下して空気入りタイヤの内面に定着することで、シーラント層が形成される。
【0054】
シーラント層の厚みは特に限定されず、例えば3~7mmでもよい。
【実施例0055】
以下、実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
実施例及び比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
・IR:JSR(株)製「IR2200」
・BR:UBE(株)製「UBEPOL BR150B」
・カーボンブラック:N234、東海カーボン(株)製「シースト7HM」、N2SA=126m2/g、DBP=120cm3/100g
・液状可塑剤1:プロセスオイル、ENEOS(株)製「プロセスNC140」
・液状可塑剤2:液状ポリイソプレンゴム、クラレ(株)製「クラプレンLIR-50」
・炭化水素樹脂:東ソー(株)製「ペトロタック90」、脂肪族/芳香族共重合系石油樹脂、軟化点=95℃、重量平均分子量(Mw)=1600、Mw/Mn=1.8
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛2種」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
・加硫促進剤1:住友化学(株)製「ソクシノールD-G」、グアニジン系加硫促進剤
・加硫促進剤2:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」、スルフェンアミド系加硫促進剤
【0057】
・有機過酸化物架橋剤1:1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、10時間半減期温度90.7℃、日油(株)製「パーヘキサC-40」(有効成分40質量%)
・有機過酸化物架橋剤2:ジクミルパーオキサイド、10時間半減期温度116.4℃、日油(株)製「パークミルD-40」(有効成分40質量%)
・有機過酸化物架橋剤3:t-ブチルクミルパーオキサイド、10時間半減期温度119.5℃、日油(株)製「パーブチルC」(有効成分90質量%以上)
【0058】
[実施例1~8,比較例1~5]
下記表1に示す配合(質量部)に従って実施例1~8及び比較例1~5のシーラント用組成物を調製した。なお、表1において、有機過酸化物架橋剤1~3の配合量は、有効成分としての質量部である。
【0059】
詳細には、まず、第1工程において、バンバリーミキサーを用いて、炭化水素樹脂と架橋系配合剤(即ち、有機過酸化物架橋剤、硫黄、及び加硫促進剤)を除く成分を混練した(排出温度120℃)。次いで、第2工程において、二軸混練押出機を用いて、第1工程で得られた混練物に炭化水素樹脂と架橋系配合剤を添加し混練して、シーラント用組成物を得た。第2工程において、二軸混練押出機からの排出温度は140℃とし、混練時間は3分であった。
【0060】
得られた各シーラント用組成物について、塗布時における製造効率として塗布速度を評価するとともに、シーラント層の形状保持性、及びシーリング特性を評価した。評価方法は以下のとおりである。なお、シーラント用組成物を塗布装置のノズルから吐出できず、シーラント層を作製できなかったものは、形状保持性及びシーリング特性の評価は実施しておらず、表1において「-」で示した。
【0061】
(1)塗布速度:ノードソン(Nordson)製の材料塗布システムを用いて、その塗布装置にシーラント用組成物を充填し、140℃で40分間温調した後、4.0×105Paの圧力にて、シーラント用組成物を1kg排出する時の時間を測定し、塗布速度とした。比較例1の塗布速度を100とした指数で表した。指数が大きいほど、塗布速度が速く、シーラント層の製造効率に優れていることを示す。なお、上記圧力にてノズルからシーラント用組成物を吐出できなかったものは「×」と表示した。
【0062】
(2)形状保持性:ノードソン(Nordson)製の材料塗布システムを用いて、シーラント用組成物を空気入りタイヤ(タイヤサイズ:215/55R17)の内面に塗布し、厚さ4mmのシーラント層を形成した。シーラント層を形成した空気入りタイヤを常温で平積みして2週間放置した後、タイヤ内面を観察してシーラント層が流動変形しているか否かを確認した。流動変形しなかったものを「○」(形状保持性良好)、流動変形したものを「×」(形状保持性不良)で表示した。
【0063】
(3)シーリング特性:上記形状保持性の評価と同様に作製したシーラント層を備える空気入りタイヤを用い、該タイヤをリム組みし、内圧180kPaにて空気を充填した。トレッドに釘(直径5.2mm、長さ50mm)を貫通させた後、釘を引き抜いた。釘を引き抜いた後、空気の漏れがあるかないかで、シーリング特性を評価した。
【0064】
【0065】
結果は表1に示すとおりである。比較例1では十分な量の液状可塑剤と炭化水素樹脂を配合しており、そのため、塗布速度は許容範囲内であり、またシーリング特性を有していたが、形状保持性に劣っていた。このように、液状可塑剤を多量に配合した低粘性タイプのシーラント用組成物では、製造効率とシーリング特性は有利であるが、シーラント層の形状保持性に劣る傾向がある。
【0066】
比較例2は、比較例1に対して形状保持性の改善を目的として、硫黄による架橋を導入したものである。この場合、シーラント用組成物は塗布装置の加熱温調中に流動性を失い、塗布装置のノズルからシーラント用組成物を吐出できなかった。硫黄による架橋の場合、シーラント用組成物を調製する際の第2工程において、短時間の押出過程では熱を十分に与えることができず、得られたシーラント用組成物は未架橋の状態である。かかる未架橋のシーラント用組成物が、その後の塗布装置での加熱温調中に架橋反応が促進されてしまい、流動性を失った結果、ノズルから吐出できなかったと考えられる。
【0067】
これに対し、実施例1~8であると、固形ゴム成分に所定量の炭化水素樹脂及び液状可塑剤とともに有機過酸化物架橋剤を配合したことにより、塗布速度が速く製造効率に優れるとともに、形状保持性及びシーリング特性に優れていた。その理由は次のように推察される。すなわち、有機過酸化物架橋剤であれば、上記第2工程における短時間の押出過程で架橋反応を進行させることができる。その際、押出過程では剪断がかかるので、流動性を維持しつつ架橋反応を進行させることができる。よって、得られたシーラント用組成物は架橋された状態にありながら、流動性を有する。かかる架橋済みのシーラント用組成物であれば、その後の塗布装置での加熱温調中に硬化することはなく、温調により塗布可能な程度の流動性が維持され、かつ塗布後のシーラント層において形状保持性及びシーリング特性に優れると考えられる。
【0068】
比較例3では、有機過酸化物架橋剤を配合したが、液状可塑剤及び炭化水素樹脂の含有量が少なかった。そのため、シーラント層の形状保持性には優れていたが、塗布速度が遅く製造効率に劣っており、また釘抜き後に空気漏れが発生し、シーリング特性に劣っていた。比較例4では、有機過酸化物架橋剤を配合したものの、液状可塑剤を多量に配合したことにより、常温静置下においてシーラント層が流動変形し、形状保持性に劣っていた。比較例5では、有機過酸化物架橋剤の配合量が多すぎて、塗布装置の加熱温調中にシーラント用組成物が流動性を失い、塗布装置のノズルから吐出できなかった。
【0069】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
1…空気入りタイヤ、2…トレッド、3…ビード部、4…サイドウォール、5…ビードコア、6…カーカスプライ、7…ベルト、8…トレッドゴム、9…インナーライナー、10…シーラント層