(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082510
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】ベーストレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20240613BHJP
C08L 15/00 20060101ALI20240613BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240613BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L15/00
C08K3/04
C08K3/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196407
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福西 智史
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AC011
4J002AC112
4J002DA036
4J002DJ017
4J002FD016
4J002FD017
4J002GN01
(57)【要約】
【課題】発熱性を維持しつつ、優れた硬度、破断強度、及び引裂強さを得ることができる、ベーストレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】芳香族ビニル-共役ジエン共重合体が水素添加された水添共重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された重量平均分子量が30万以上であり、共役ジエン部の水素添加率が80モル%以上である水添共重合体を15~45質量部と、天然ゴムを50~85質量部含有するゴム成分100質量部に対して、シリカを5~50質量部と、カーボンブラックを20~65質量部とを含有する、ベーストレッド用ゴム組成物とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ビニル-共役ジエン共重合体が水素添加された水添共重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された重量平均分子量が30万以上であり、共役ジエン部の水素添加率が80モル%以上である水添共重合体を15~45質量部と、天然ゴムを50~85質量部含有するゴム成分100質量部に対して、
シリカを5~50質量部と、
カーボンブラックを20~65質量部とを含有する、ベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
前記水添共重合体が末端に官能基を有する、請求項1に記載のベーストレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のゴム組成物をベーストレッドに用いて作製された、空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーストレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タイヤの低燃費化に対する要求はますます高まっており、接地面を構成するキャップトレッドの低燃費化だけではその要求に応えることが難しくなっており、ベーストレッドの発熱性や操縦安定性(硬度)を改善することによる低燃費化も重要となっている。
【0003】
また、ベーストレッドにおいては、溝底でクラックが発生した場合に亀裂が成長しないことが重要であり、耐カット性(破断強度、及び引裂強さ)が強く求められる。
【0004】
特許文献1には、水添スチレンブタジエン共重合体と所定の比表面積を有するカーボンブラックとシリカとを配合したゴム組成物を用いて作製することで、ゴム破壊強度、低燃費性、及び操縦安定性が改善された空気入りタイヤが記載されている。しかしながら、引裂強さについて改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6627511号公報
【特許文献2】特開平11-349732号公報
【特許文献3】特許第4402566号公報
【特許文献4】特許第5592160号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、発熱性を維持しつつ、優れた硬度、破断強度、及び引裂強さを得ることができるベーストレッド用ゴム組成物、及びそれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【0007】
なお、特許文献2~4には、転がり抵抗性や、操縦安定性、耐カット性を改善できるゴム組成物が記載されているが、いずれも水添共重合体を含有するものではない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] 芳香族ビニル-共役ジエン共重合体が水素添加された水添共重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された重量平均分子量が30万以上であり、共役ジエン部の水素添加率が80モル%以上である水添共重合体を15~45質量部と、天然ゴムを50~85質量部含有するゴム成分100質量部に対して、シリカを5~50質量部と、カーボンブラックを20~65質量部とを含有する、ベーストレッド用ゴム組成物。
[2] 上記水添共重合体が末端に官能基を有する、[1]に記載のベーストレッド用ゴム組成物。
[3] [1]又は[2]に記載のゴム組成物をベーストレッドに用いて作製された、空気入りタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明のベーストレッド用ゴム組成物によれば、発熱性を維持しつつ、優れた硬度、破断強度、及び引裂強さを有する空気入りタイヤを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0011】
本実施形態に係るベーストレッド用ゴム組成物は、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体が水素添加された水添共重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された重量平均分子量が30万以上であり、共役ジエン部の水素添加率が80モル%以上である水添共重合体を15~45質量部と、天然ゴムを50~85質量部含有するゴム成分100質量部に対して、シリカを5~50質量部と、カーボンブラックを20~65質量部とを含有するものとする。
【0012】
本実施形態に係るゴム組成物において用いられるゴム成分は、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体が水素添加された水添共重合体であって、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定された重量平均分子量が30万以上であり、共役ジエン部の水素添加率が80モル%以上である水添共重合体を含むものである。ここで、本明細書において、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定された重量平均分子量とは、検出器として示差屈折率検出器(RI)を用い、溶媒としてTHFを用い、測定温度を40℃、流量を1.0mL/min、濃度を1.0g/L、注入量を40μLとし、市販の標準ポリスチレンを用いてポリスチレン換算で算出した値とする。また、水素添加率は、H1-NMRを測定して得られたスペクトルの不飽和結合部のスペクトル減少率から計算した値とする。
【0013】
上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体を構成する芳香族ビニルとしては、特に限定されないが、例えばスチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、3-ビニルトルエン、エチルビニルベンゼン、ジビニルベンゼン、4-シクロヘキシルスチレン、2,4,6-トリメチルスチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体を構成する共役ジエンとしては、特に限定されないが、例えば1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン、2-フェニル-1,3-ブタジエン、1,3-ヘキサジエンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
上記芳香族ビニル-共役ジエン共重合体は、特に限定されないが、スチレン及び1,3-ブタジエンの共重合体(スチレンブタジエン共重合体)であることが好ましい。従って、水添共重合体としては、水添スチレンブタジエン共重合体であることが好ましい。また、水添共重合体は、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であっても、交互共重合体であってもよい。
【0016】
上記水添共重合体は、例えば、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体を合成し、水素添加処理を行うことで合成することができる。芳香族ビニル-共役ジエン共重合体の合成方法は、特に限定されないが、溶液重合法、気相重合法、バルク重合法等を挙げることができ、特に溶液重合法が好ましい。また、重合形式は、回分式及び連続式のいずれであってもよい。なお、芳香族ビニル-共役ジエン共重合体は市販のものを使用することも可能である。
【0017】
水素添加の方法は、特に限定されず、公知の方法、公知の条件で水素添加すればよい。通常は、20~150℃、0.1~10MPaの水素加圧下、水添触媒の存在下で実施される。なお、水素添加率は、水添触媒の量、水添反応時の水素圧力、反応時間等を変えることにより、任意に選定することができる。水添触媒として、通常は、元素周期表4~11族金属のいずれかを含む化合物を用いることができる。例えば、Ti、V、Co、Ni、Zr、Ru、Rh、Pd、Hf、Re、Pt原子を含む化合物を水添触媒として用いることができる。より具体的な水添触媒としては、Ti、Zr、Hf、Co、Ni、Pd、Pt、Ru、Rh、Re等のメタロセン系化合物;Pd、Ni、Pt、Rh、Ru等の金属をカーボン、シリカ、アルミナ、ケイソウ土等の担体に担持させた担持型不均一系触媒;Ni、Co等の金属元素の有機塩又はアセチルアセトン塩と有機アルミニウム等の還元剤とを組み合わせた均一系チーグラー型触媒;Ru、Rh等の有機金属化合物又は錯体;水素を吸蔵させたフラーレンやカーボンナノチューブ等を挙げることができる。
【0018】
水添共重合体の水素添加率(芳香族ビニル-共役ジエン共重合体の共役ジエン部に対して水素添加された割合)は80モル%以上であり、好ましくは90モル%以上である。
【0019】
水添共重合体の重量平均分子量は、30万以上であれば特に限定されないが、30万~200万であることが好ましく、30万~100万であることがより好ましく、30万~60万であることがさらに好ましい。
【0020】
水添共重合体は、末端に官能基を有するものであってもよく、このような官能基としては、例えば、アミノ基、炭素-窒素二重結合を有する基、窒素含有複素環基、ホスフィノ基、チオール基、ヒドロカルビルオキシシリル基、下記式(1)で表される基などが挙げられる。炭素-窒素二重結合を有する基としては、「-N=CR1R2」(ただし、R1は水素原子又はヒドロカルビル基であり、R2はヒドロカルビル基であり、ヒドロカルビル基は、炭素数1~20の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であることが好ましい。)などが挙げられる。窒素含有複素環基は、窒素含有複素環が有する水素原子を1個取り除いた基であり、例えば1-イミダゾリル基、4,5-ジヒドロ-1-イミダゾリル基、1-ピペリジノ基、1-ピペラジニル基、ピリジル基、モルホリノ基などが挙げられる。なお、これらの官能基は、重合体の片末端のみに導入されていてもよいし、両末端に導入されていてもよい。これらの官能基を有することにより、補強性充填剤との相互作用が得られやすい。
【0021】
【化1】
式(1)中、R
1は水素原子又はヒドロカルビル基であり、好ましくは、水素原子又は炭素数1~20のヒドロカルビル基である。R
2はヒドロカルビル基であり、好ましくは、炭素数1~20のヒドロカルビル基である。rはR
2の数を表し、0~2の整数である。R
3はヒドロカルビレン基であり、好ましくは、炭素数1~20のヒドロカルビレン基である。Xは窒素、リン及び硫黄からなる群より選ばれる1種以上の原子を有し、かつR
3と結合する原子が窒素、リン又は硫黄である官能基であり、このような官能基としては、例えば、アミノ基、ビス(トリメチルシリル)アミノ基、チオール基、ホスフィノ基、炭素-窒素二重結合を有する基、窒素含有複素環基、ヒドロカルビルオキシシリル基などが挙げられ、アミノ基、ホスフィノ基及びチオール基は、3置換のヒドロカルビルシリル基等で保護されたものを含む。Xがアミノ基の場合、1級アミノ基、1級アミノ基の2つの水素原子が2つの保護基(例えば、ヒドロカルビルシリル基)によって置換されてなる窒素含有基、2級アミノ基、2級アミノ基の1つの水素原子が1つの保護基(例えば、ヒドロカルビルシリル基)によって置換されてなる窒素含有基、又は3級アミノ基等であってもよい。式中、複数存在するR
1及びR
2は、各々同じであっても異なっていてもよい。「P」は、重合体鎖3に結合する結合手であることを示す。
【0022】
ゴム成分100質量部中の上記水添共重合体の含有量は、15~45質量部であり、20~40質量部であることが好ましい。水添共重合体の含有量が上記範囲内である場合、発熱性を維持しつつ、優れた硬度が得られやすい。
【0023】
ゴム成分100質量部中の上記天然ゴムの含有量は、50~85質量部であり、60~80質量部であることが好ましい。天然ゴムの含有量が上記範囲内である場合、優れた破断強度と引裂強さが得られやすい。そのメカニズムは定かではないが、引裂強さに優れる天然ゴムが連続相として形成されるためと推測される。
【0024】
上記ゴム成分には、上記水添共重合体及び天然ゴム以外のジエン系ゴムが含まれていても良く、例えば、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレン-イソプレン共重合体ゴム、ブタジエン-イソプレン共重合体ゴム、スチレン-イソプレン-ブタジエン共重合体ゴムなどが挙げられ、これらの中でもブタジエンゴムであることが好ましい。これらジエン系ゴムは、いずれか1種単独で、又は2種以上ブレンドして用いることができる。ブタジエンゴムを含有する場合、その含有量は5~35質量部であることが好ましく、水添共重合体の含有量は15~45質量部であることが好ましく、天然ゴムの含有量は50~75質量部であることが好ましい。
【0025】
本実施形態に係るゴム組成物には、補強性充填剤として、カーボンブラック及びシリカを含有する。カーボンブラックとシリカとを併用することで、フィラーの分散性が改善され、亀裂成長を止めるフィラーネットワークが均一に形成されることにより、優れた破断強度、及び引裂強さが得られやすい。
【0026】
上記カーボンブラックとしては、特に限定されず、公知の種々の品種を用いることができる。カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、20~65質量部であり、20~50質量部であることが好ましい。
【0027】
シリカとしても、特に限定されないが、湿式沈降法シリカや湿式ゲル法シリカなどの湿式シリカが好ましく用いられる。シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、5~50質量部であり、10~40質量部であることが好ましい。
【0028】
補強性充填剤の含有量は、特に限定されず、例えばゴム成分100質量部に対して、25~120質量部であることが好ましく、40~100質量部であることがより好ましく、40~80質量部であることがさらに好ましい。
【0029】
本実施形態に係るゴム組成物には、スルフィドシラン、メルカプトシランなどのシランカップリング剤をさらに含有してもよい。シランカップリング剤を含有する場合、その含有量はシリカ含有量に対して2~20質量%であることが好ましい。
【0030】
本実施形態に係るゴム組成物には、上記した各成分に加え、通常のゴム工業で使用されているプロセスオイル、酸化亜鉛、ステアリン酸、軟化剤、可塑剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤などの配合薬品類を通常の範囲内で適宜配合することができる。
【0031】
上記加硫剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄成分が挙げられ、特に限定するものではないが、その含有量はゴム成分100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。また、加硫促進剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して0.1~7質量部であることが好ましく、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0032】
本実施形態に係るゴム組成物は、通常用いられるバンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混合機を用いて、常法に従い混練して作製することができる。すなわち、第一混合段階で、ゴム成分に対し、加硫剤及び加硫促進剤を除く他の添加剤を添加混合し、次いで、得られた混合物に、最終混合段階で加硫剤及び加硫促進剤を添加混合してゴム組成物を調製することができる。
【0033】
このようにして得られるゴム組成物は、接地面側のキャップトレッドとタイヤ径方向内側のベーストレッドとの2層からなるトレッドにおいて、ベーストレッド用のゴム組成物として好ましく用いられる。例えば、上記ゴム組成物をベーストレッドに対応した所定の断面形状に押出成形したり、あるいはまた、上記ゴム組成物からなるリボン状のゴムストリップをドラム上で螺旋状に巻回してベーストレッドに対応した断面形状に形成したりすることで、未加硫のベーストレッドゴム部材が得られる。かかるベーストレッドゴム部材は、インナーライナー、カーカス、ベルト、ビードコア、ビードフィラー及びサイドウォールなどのタイヤを構成する他のタイヤ部材とともに、常法に従って、タイヤ形状に組み立てられてグリーンタイヤ(未加硫タイヤ)が得られる。そして、得られたグリーンタイヤを、常法に従い、例えば140~180℃で加硫成型することにより、上記ベーストレッドゴム部材からなるベーストレッドを備えた空気入りタイヤが得られる。
【0034】
本実施形態に係る空気入りタイヤの種類としては、特に限定されず、乗用車用タイヤ、トラックやバスなどに用いられる重荷重用タイヤなどの各種のタイヤが挙げられる。
【実施例0035】
以下、本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
〈水添共重合体の合成例〉
窒素置換された耐熱反応容器に、シクロヘキサンを2.5L、テトラヒドロフランを50g、n-ブチルリチウムを0.12g、スチレンを100g、1,3-ブタジエンを400g入れ、反応温度50℃で重合を行った。重合が完了した後にN,N-ビス(トリメチルシリル)アミノプロピルメチルジエトキシシランを1.7g加えて、1時間反応させた後、水素ガスを0.4MPa-ゲージの圧力で供給し、20分間撹拌し反応させた。次いで、溶液温度を90℃として水素ガスを反応容器に供給し、チタノセンジクロリド、ジエチルアルミニウムクロライド、n-ブチルリチウムを加えた。容器内の水素圧力を0.7MPaに保ち、目的の水素添加率となるまで反応させ、反応後に常圧に戻し、重合体溶液を得た。得られた溶液中へメタノールを添加することで、凝析、及び脱溶媒乾燥を行い、末端に下記式(2)で表される構造を有する水添共重合体を得た。なお、式(2)において「P」は重合体鎖に結合する結合手であることを示す。
【化2】
【0037】
得られた水添共重合体の重量平均分子量は、測定装置として(株)島津製作所製「LC-10A」を用い、カラムとしてPolymer Laboratories社製「PLgel-MIXED-C」を、検出器として示差屈折率検出器(RI)を用い、溶媒としてTHFを用い、測定温度を40℃、流量を1.0mL/min、濃度を1.0g/L、注入量を40μLとして測定し、標準ポリスチレンによるポリスチレン換算で35万であった。結合スチレン量は20質量%であり、ブタジエン部の水素添加率は90モル%であった。なお、結合スチレン量はH1-NMRを用いて、スチレン単位に基づくプロトンと、ブタジエン単位(水素添加部を含む)に基づくプロトンとのスペクトル強度比から求めた。
【0038】
〈実施例及び比較例〉
バンバリーミキサーを使用し、下記表1に示す配合(質量部)に従い、まず、第一混合段階(ノンプロ練り工程)で、加硫促進剤及び硫黄を除く成分を添加混合し(排出温度=160℃)、次いで、得られた混合物に、最終混合段階(プロ練り工程)で、加硫促進剤及び硫黄を添加混合して(排出温度=90℃)、ゴム組成物を調製した。
【0039】
表1中の各成分の詳細は以下の通りである。
・NR:RSS#3
・BR1:ランクセス社製「Buna CB22」
・BR2:宇部興産(株)製「UBEPOL-VCR617」、ビニル・シスブタジエンゴム
・BR3:日本ゼオン(株)製「BR1250」、スズ変性ポリブタジエンゴム
・水添共重合体:上記合成例に従い作製した水添共重合体、重量平均分子量=35万、水素添加率=90モル%
・SBR:ENEOS(株)製「SBR1502」
・カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シーストSO」、窒素吸着比表面積=42m2/g
・シリカ:エボニック社製「Ultrasil VN3」
・シランカップリング剤:エボニック社製「Si69」、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
・酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製「酸化亜鉛2種」
・ステアリン酸:花王(株)製「ルナックS-20」
・ワックス:日本精蝋(株)製「OZOACE0355」
・老化防止剤:住友化学(株)製「アンチゲン6C」
・加硫促進剤1:住友化学(株)製「ソクシノールCZ」
・加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製「ノクセラ-D」
・硫黄:鶴見化学工業(株)製「粉末硫黄」
【0040】
得られた各ゴム組成物について、硬度、発熱性、破壊強度、及び引裂強さを評価した。評価方法は次の通りである。
【0041】
・硬度:厚さ20mmの試験片を作製し、160℃で30分間加硫してサンプルとした。JIS K6253に準拠してタイプAデュロメータを用いて、23℃での硬さを測定し比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、操縦安定性に優れることを意味する。
【0042】
・発熱性:160℃で30分間加硫した試験片について、東洋精機(株)製の粘弾性試験機を使用し、周波数10Hz、静歪10%、動歪1%、温度60℃で損失係数tanδを測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が小さいほど発熱性に優れることを意味する。なお、指数が105以下であれば発熱性を維持できたと評価した。
【0043】
・破壊強度:ダンベル状3号形の試験片を作製し、160℃で30分間加硫してサンプルとした。JIS K6251に準拠した引張試験により破断時の引張強さを測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、引張強さが高く、補強性に優れることを意味する。
【0044】
・引裂強さ:クレセント形の試験片を作製し、160℃で30分間加硫してサンプルとした。JIS K6252に準拠して引裂強さを測定し、比較例1の値を100とした指数で示した。指数が大きいほど、引裂強さが高いことを意味する。
【0045】
【0046】
結果は、表1に示す通りであり、実施例1~6は比較例1と比較し、発熱性を維持しつつ、優れた硬度、破断強度、及び引裂強さが得られた。
【0047】
比較例2は、比較例1に対してシリカを配合し、補強性充填剤の含有量を増量した例であり、比較例1と比較し、発熱性が劣っていた。
【0048】
比較例3は、比較例1からブタジエンゴムをビニル・シスブタジエンゴムに変更した例であり、比較例1と比較し、発熱性と破断強度が劣っていた。
【0049】
比較例4は、比較例3からビニル・シスブタジエンゴムの一部を変性ブタジエンゴムに変更した例であり、比較例1と比較し、硬度が劣っていた。
【0050】
比較例5は、比較例2からブタジエンゴムをスチレンブタジエンゴム(非水添)に変更した例であり、比較例1と比較し、発熱性と引裂強さが劣っていた。
【0051】
比較例6は、比較例2からゴム成分の配合を変更し、天然ゴムの含有量が所定範囲外の例であり、比較例1と比較して、引裂強さが劣っていた。
【0052】
比較例7は、比較例2からゴム成分の配合を変更し、水添共重合体の含有量が所定範囲外の例であり、比較例1と比較して、引裂強さが劣っていた。