(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082512
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】スクイズフィルムダンパ付軸受装置、及び遠心圧縮機
(51)【国際特許分類】
F16C 17/03 20060101AFI20240613BHJP
F04D 29/056 20060101ALI20240613BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20240613BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
F16C17/03
F04D29/056 A
F16F15/023 Z
F16F15/04 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196411
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】319007240
【氏名又は名称】株式会社日立インダストリアルプロダクツ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 智彬
(72)【発明者】
【氏名】高橋 直彦
(72)【発明者】
【氏名】西田 航平
(72)【発明者】
【氏名】小野 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】辺見 真
【テーマコード(参考)】
3H130
3J011
3J048
【Fターム(参考)】
3H130AA12
3H130AB12
3H130AB27
3H130AB42
3H130AC30
3H130BA13E
3H130DA02Z
3H130DB01X
3H130DB15X
3H130EA02E
3H130EB02E
3H130EC09E
3J011AA11
3J011AA20
3J011BA15
3J011BA17
3J011BA18
3J011KA02
3J011LA06
3J011MA06
3J048AA02
3J048BC04
3J048BE03
3J048EA09
(57)【要約】
【課題】高い振動安定性を得ることができるスクイズフィルムダンパ付軸受装置と、この軸受装置を備える遠心圧縮機を提供する。
【解決手段】本発明によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置1は、回転軸2を支持する軸受面を構成する複数のパッド3と、パッド3を収容する軸受ハウジング4と、軸受ハウジング4の径方向外側に位置するハウジング5と、軸受ハウジング4とハウジング5との隙間11に周方向に並んで配置された複数のスクイズフィルムダンパ部7とを備える。スクイズフィルムダンパ部7は、径方向の力に反発する複数の弾性体6を備える。複数の弾性体6は、全体の剛性が鉛直方向と水平方向とで互いに異なる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を支持する軸受面を構成する複数のパッドと、
前記パッドを収容する軸受ハウジングと、
前記軸受ハウジングの径方向外側に位置するハウジングと、
前記軸受ハウジングと前記ハウジングとの隙間に周方向に並んで配置された複数のスクイズフィルムダンパ部と、
を備え、
前記スクイズフィルムダンパ部は、径方向の力に反発する複数の弾性体を備え、
複数の前記弾性体は、全体の剛性が鉛直方向と水平方向とで互いに異なる、
ことを特徴とする、スクイズフィルムダンパ付軸受装置。
【請求項2】
前記弾性体は、前記スクイズフィルムダンパ部の周方向の両端に位置する、
請求項1に記載の、スクイズフィルムダンパ付軸受装置。
【請求項3】
複数の前記弾性体は、全体の剛性が鉛直方向の方が水平方向よりも大きい、
請求項1に記載の、スクイズフィルムダンパ付軸受装置。
【請求項4】
複数の前記弾性体のうち少なくとも1つは、周方向の位置が、周方向で隣り合う2枚の前記パッドの間の位置である、
請求項1に記載の、スクイズフィルムダンパ付軸受装置。
【請求項5】
複数の前記弾性体のうち少なくとも1つは、周方向の位置が、1枚の前記パッドの周方向の位置と同じである、
請求項1に記載の、スクイズフィルムダンパ付軸受装置。
【請求項6】
前記パッドが前記回転軸を支持しているときに、前記パッドの1枚は、前記回転軸の自重方向の真下に位置する、
請求項5に記載の、スクイズフィルムダンパ付軸受装置。
【請求項7】
前記弾性体は、板バネである、
請求項1に記載の、スクイズフィルムダンパ付軸受装置。
【請求項8】
回転軸と、
前記回転軸を支持するスクイズフィルムダンパ付軸受装置と、
を備え、
前記スクイズフィルムダンパ付軸受装置は、請求項1から7のいずれか1項に記載のスクイズフィルムダンパ付軸受装置である、
ことを特徴とする遠心圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクイズフィルムダンパを備えて回転軸を支持する軸受装置と、軸受装置を備える遠心圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
スクイズフィルムダンパ付軸受装置は、回転軸を支持する主軸受の外周面にスクイズフィルムダンパを備え、振動安定性に優れた軸受装置であり、遠心圧縮機などの回転機械に用いられる。従来のスクイズフィルムダンパ付軸受装置の例は、特許文献1に記載されている。特許文献1に記載された減衰軸受は、回転軸を支持するための主軸受と、主軸受をハウジングに弾性支持するために主軸受とハウジングとの間に設置された円筒状のかご形バネ部材と、主軸受の外周面に形成された流体膜ダンパを有し、主軸受がティルティングパッド軸受である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された減衰軸受は、主軸受であるティルティングパッド軸受を主軸受とハウジングとの間に設置された円筒状のかご形バネ部材で弾性支持し、このかご形バネ部材の弾性率が周方向に一様である。このようなスクイズフィルムダンパ付軸受装置は、高い減衰性能を持つ。
【0005】
スクイズフィルムダンパ付軸受装置が用いられた回転機械は、高周速条件の下で使用されることが多く、大きな流体力を持つ流体が流れる。大きな流体力は、回転機械の回転軸を振動させて、回転軸に不安定振動を発生させることがある。このため、スクイズフィルムダンパ付軸受装置には、スクイズフィルムダンパによる振動の減衰に加えて流体力に起因する不安定振動の抑制ができ、回転軸の振動安定性が高いことが望まれている。従来のスクイズフィルムダンパ付軸受装置には、必ずしも十分に高い振動安定性が得られているわけではないという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、高い振動安定性を得ることができるスクイズフィルムダンパ付軸受装置と、この軸受装置を備える遠心圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置は、回転軸を支持する軸受面を構成する複数のパッドと、前記パッドを収容する軸受ハウジングと、前記軸受ハウジングの径方向外側に位置するハウジングと、前記軸受ハウジングと前記ハウジングとの隙間に周方向に並んで配置された複数のスクイズフィルムダンパ部とを備える。前記スクイズフィルムダンパ部は、径方向の力に反発する複数の弾性体を備える。複数の前記弾性体は、全体の剛性が鉛直方向と水平方向とで互いに異なる。
【0008】
本発明による遠心圧縮機は、回転軸と、前記回転軸を支持するスクイズフィルムダンパ付軸受装置とを備え、前記スクイズフィルムダンパ付軸受装置は、本発明によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によると、高い振動安定性を得ることができるスクイズフィルムダンパ付軸受装置と、この軸受装置を備える遠心圧縮機を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施例1によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置の、軸方向に垂直な面での断面図である。
【
図2】実施例1によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置が回転軸の振動を減衰させる構成のモデルを示す図である。
【
図3】本発明の実施例3によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置の、軸方向に垂直な面での断面図である。
【
図4】実施例4において、スクイズフィルムダンパ付軸受装置1を備える遠心圧縮機12の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置は、スクイズフィルムダンパ部が弾性体を備え、スクイズフィルムダンパと弾性体の作用により振動を効果的に減衰させることができる。本発明による遠心圧縮機は、本発明によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置を備え、軸受装置の高い振動安定性により、流体力に起因する不安定振動を抑制可能である。
【0012】
以下、本発明の実施例によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置と遠心圧縮機を、図面を用いて説明する。以下では、軸受装置において、支持する回転軸の延伸方向を軸方向、回転軸の回転方向を周方向、回転軸の半径方向を径方向と呼び、鉛直方向をX方向、水平方向をY方向と呼ぶ。なお、本明細書で用いる図面において、同一のまたは対応する構成要素には同一の符号を付け、これらの構成要素については繰り返しの説明を省略する場合がある。
【実施例0013】
本発明の実施例1によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置を、
図1と
図2を参照して説明する。
【0014】
図1は、本実施例によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置1の、軸方向に垂直な面での断面図である。軸受装置1への潤滑油は、図示していないが、ポンプによって給油タンクから配管を通って軸受装置1へ送られ、主軸受8とスクイズフィルムダンパ部7に分配されて供給される。
【0015】
スクイズフィルムダンパ付軸受装置1は、主軸受8と、ハウジング5と、複数のスクイズフィルムダンパ部7を備える。
【0016】
主軸受8は、ティルティングパッドジャーナル軸受であり、回転軸2を支持する。主軸受8は、回転軸2を支持する軸受面を構成する複数のパッド3と、パッド3を傾動可能に支持するピボット9と、パッド3とピボット9を収容する軸受ハウジング4を備える。
【0017】
複数のパッド3は、周方向に並んで配置されており、回転軸2を支持しているときには回転軸2の周りに位置する。本実施例では、主軸受8のパッド3の配置は、Load between pad(以後「LBP」と称する)形式であり、支持している回転軸2の自重方向(
図1中の白抜き矢印で示す方向)の真下の位置が2枚のパッド3の間に位置する。なお、
図1では、パッド3の数が4枚である例を示しているが、パッド3の数は4枚でなくてもよい。
【0018】
主軸受8に供給された潤滑油は、パッド3と回転軸2との隙間に流入し、主軸受油膜を形成する。
【0019】
ハウジング5は、軸受ハウジング4の径方向外側に位置する。
【0020】
複数のスクイズフィルムダンパ部7は、軸受ハウジング4とハウジング5との隙間11に形成されており、周方向に並んで配置されていて、周方向の両端に弾性体6を備える。具体的には、複数のスクイズフィルムダンパ部7は、軸受ハウジング4とハウジング5との径方向の隙間11(周方向の全体にわたる隙間11)が複数の弾性体6で区切られて形成されている。複数の弾性体6は、周方向の全体にわたる隙間11を、周方向に複数に分割している。すなわち、それぞれのスクイズフィルムダンパ部7は、軸受ハウジング4とハウジング5との径方向の隙間11(周方向に分割された隙間11)と、この隙間11の周方向の両端に位置する複数の弾性体6とで構成されている。軸受装置1への潤滑油は、隙間11に供給され、スクイズフィルムを形成する。
【0021】
スクイズフィルムダンパ部7は、回転軸2の振動を、スクイズフィルムダンパ(流体膜ダンパ)の作用により減衰するとともに、後述するように、弾性体6の作用により効果的に抑制する。このため、本実施例によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置1は、高い振動安定性を得ることができる。
【0022】
弾性体6は、軸受ハウジング4とハウジング5との径方向の隙間11に設けられており、軸受ハウジング4とハウジング5に固定されている。弾性体6は、軸受ハウジング4に設けられた、径方向内側に凹む凹部に設置されていてもよく、ハウジング5に設けられた、径方向外側に凹む凹部に設置されていてもよい。すなわち、弾性体6は、これらの凹部の両方または一方に設置することができる。
【0023】
複数の弾性体6は、周方向において任意の位置に設置することができる。但し、複数の弾性体6は、周方向に等間隔に位置するのが好ましい。すなわち、複数のスクイズフィルムダンパ部7は、周方向の長さが互いに等しいのが好ましい。
【0024】
本実施例では、主軸受8のパッド3の配置がLBP形式であり、複数の弾性体6のうち少なくとも1つは、周方向の位置が、周方向で隣り合う2枚のパッド3の間の位置である。
【0025】
なお、スクイズフィルムダンパ付軸受装置1は、
図1に示す例では4つのスクイズフィルムダンパ部7(7a、7b、7c、7d)と4つの弾性体6(6a、6b、6c、6d)を備えているが、任意の数のスクイズフィルムダンパ部7と弾性体6を備えることができる。
図1に示す例では、軸受ハウジング4とハウジング5との径方向の隙間11(周方向の全体にわたる隙間11)は、弾性体6a-6dにより周方向に4つに分割されており、4つのスクイズフィルムダンパ部7a-7dを構成する。例えば、スクイズフィルムダンパ部7aは、弾性体6aと、弾性体6bと、周方向で弾性体6aと弾性体6bとの間に位置する隙間11とを備える。
【0026】
弾性体6は、径方向の力に反発するように構成された弾性体であり、径方向に弾性力を与える。弾性体6は、径方向の力に反発する力で、回転軸2の振動を減衰させる。弾性体6は、例えば板バネなど、任意の弾性体で構成することができる。弾性体6のばね定数、位置、及び数は、任意に定めることができ、変更も可能である。
【0027】
本実施例では、弾性体6は、全ての弾性体6の作る剛性がX方向(鉛直方向)とY方向(水平方向)とで互いに異なるように設定されている。すなわち、複数の弾性体6の全体の剛性がX方向とY方向とで互いに異なるように、それぞれの弾性体6が設定されている。例えば、それぞれの弾性体6は、複数の弾性体6の全体で、X方向のばね定数とY方向のばね定数の値の差が大きくなるように設定されている。それぞれの弾性体6は、任意のばね定数を持つことができるが、複数の弾性体6は、全体として、X方向とY方向とでばね定数の異方性が大きいように構成されている。
【0028】
本実施例によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置1の効果を説明する。
【0029】
図2は、本実施例によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置1が回転軸2の振動を減衰させる構成のモデルを示す図である。
図2には、回転軸2と、スクイズフィルムダンパ付軸受装置1の主軸受油膜10のモデルと、弾性体6のモデルと、スクイズフィルムダンパ部7のモデルが示されている。
図2において、主軸受油膜10と弾性体6とスクイズフィルムダンパ部7のモデルは、X方向の振動についてのモデルと、Y方向の振動についてのモデルとに分けられている。なお、主軸受油膜10は、パッド3(
図1)と回転軸2との隙間に形成されている。
【0030】
主軸受油膜10のX方向のばね定数をKbxとし、Y方向のばね定数をKbyとする。弾性体6のX方向のばね定数をKexとし、Y方向のばね定数をKeyとする。
【0031】
回転軸2の運動方程式は、式(1)で表される。
【0032】
【0033】
回転軸2の振動安定性を評価する式は、式(2)で表される。
【0034】
【0035】
式(1)と式(2)において、Mは回転軸2の質量を、(X,Y)は回転軸2の変位を表す。また、KXは、主軸受油膜10のX方向のばね定数Kbxと弾性体6のX方向のばね定数Kexを組み合わせたばね定数であり、KYは、主軸受油膜10のY方向のばね定数Kbyと弾性体6のY方向のばね定数Keyを組み合わせたばね定数である。Kは、主軸受油膜10と弾性体6とスクイズフィルムダンパ部7で構成される系の合計のばね定数である。なお、式(1)において、XとYの上にあるドットは、時間微分を表す記号である。すなわち、式(1)の左辺第1項は、回転軸2の加速度についての項である。
【0036】
式(2)は、回転軸2の振動が安定するための条件を表す式であり、公知の式である。式(2)において、右辺の値が左辺の値よりも大きいほど、回転軸2の振動が安定する。
【0037】
式(2)より、KXとKYとの差が大きい、すなわちX方向とY方向とでばね定数の異方性が大きいほど、振動安定性が増すことがわかる。
【0038】
本実施例では、上述したように、複数の弾性体6は、X方向のばね定数とY方向のばね定数の値の差が大きい(すなわち、ばね定数の異方性が大きい)ように設定されている。このため、本実施例によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置1は、ばね定数の異方性が大きく、回転軸2の振動をより効果的に抑制することができ、高い振動安定性を得ることができる。
本発明の実施例2によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置1を説明する。本実施例によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置1は、実施例1によるスクイズフィルムダンパ付軸受装置1と同様の構成を備えるが、全ての弾性体6の作るX方向(鉛直方向)の剛性(ばね定数)が、Y方向(水平方向)の剛性よりも大きい。すなわち、複数の弾性体6の全体の剛性(ばね定数)がX方向の方がY方向よりも大きくなるように、それぞれの弾性体6が設定されている。
本実施例による軸受装置1の効果を説明する。一般的に、主軸受8の主軸受油膜10のばね定数は、X方向すなわち回転軸2の自重方向の方がY方向よりも大きい。本実施例では、弾性体6の作るX方向のばね定数がY方向のばね定数よりも大きいので、主軸受油膜10のばね定数と弾性体6のばね定数を組み合わせたばね定数は、X方向の方がY方向よりも相当に大きい。すなわち、本実施例による軸受装置1では、ばね定数の異方性が大きく、回転軸2の振動を効果的に抑制することができ、高い振動安定性を得ることができる。