(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082514
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】偏心揺動型減速装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
F16H1/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196413
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】井上 絢介
(72)【発明者】
【氏名】石川 哲三
【テーマコード(参考)】
3J027
【Fターム(参考)】
3J027FA17
3J027FA36
3J027FA37
3J027FA38
3J027GC03
3J027GC25
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE01
3J027GE27
(57)【要約】
【課題】本発明の目的の一つは、偏心揺動型減速装置または偏心揺動型減速装置が設けられた機械全体として部材同士の連結強度を効率的に確保することが可能な偏心揺動型減速装置を提供することにある。
【解決手段】ある態様の偏心揺動型減速装置100は、外歯歯車13、14、15と、外歯歯車13、14、15の両側部に配置される第1キャリヤ35、第2キャリヤ36を有する偏心揺動型減速装置において、第1キャリヤ35と第2キャリヤ36とを連結するキャリヤ連結部材71と、キャリヤ連結部材71とは別に本減速装置に取り付けられ、少なくとも2つの部材を連結する第2連結部材72と、を有する。キャリヤ連結部材71は、第2連結部材72よりも引張強度が大きい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外歯歯車と、前記外歯歯車の両側部に配置される第1キャリヤ、第2キャリヤを有する偏心揺動型減速装置において、
前記第1キャリヤと前記第2キャリヤとを連結するキャリヤ連結部材と、
前記キャリヤ連結部材とは別に本減速装置に取り付けられ、少なくとも2つの部材を連結する第2連結部材と、を有し、
前記キャリヤ連結部材は、前記第2連結部材よりも引張強度が大きい、偏心揺動型減速装置。
【請求項2】
前記第2連結部材は、本偏心揺動型減速装置の外部に露出する、請求項1に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項3】
前記キャリヤ連結部材は、本偏心揺動型減速装置の内部のうち、外部との空気の流通が抑制された空間に配置されるである、請求項1または請求項2に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項4】
前記キャリヤ連結部材は、前記第2キャリヤ側に露出しており、
前記第2キャリヤの側部に配置され、モータに取り付けられるモータアダプタ、を有し、
前記モータアダプタの少なくとも一部が前記外部との空気の流通が抑制された空間を画定する請求項3に記載の偏心揺動型減速装置。
【請求項5】
前記第2連結部材は、前記モータアダプタに取り付けられ、本偏心揺動型減速装置の外部に露出する、請求項4に記載の偏心揺動型減速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型減速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
互いに連結される2つの部材を備える偏心揺動型歯車装置が知られている。例えば、特許文献1には、互いに連結される第1部材および第2部材を有する偏心揺動型歯車装置が記載されている。この装置は、第1連結穴が設けられた第1部材と、第2連結穴が設けられた第2部材と、第1連結穴及び第2連結穴に挿通されるボルトと、第1連結穴と第2連結穴に跨るように挿嵌され、ボルトの螺子部の基端側の部分と螺合する第2螺子穴を有する位置決め部材とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は、偏心揺動型減速装置について、次の新たな認識を得た。相互に連結されるキャリヤを有する偏心揺動型減速装置に関し、種々の部材の連結強度を確保することが求められる。しかし、特許文献1は、種々の部材の連結強度に関して十分に開示しているとはいえない。ここで、例えば偏心揺動型減速装置の全ての部材同士の連結強度を向上させようとすると、コストや大きさの面などでデメリットが生じうる。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、本発明の目的の一つは、偏心揺動型減速装置のキャリヤの連結強度を確保することで、偏心揺動型減速装置または偏心揺動型減速装置が設けられた機械全体として部材同士の連結強度を効率的に確保することが可能な偏心揺動型減速装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の、偏心揺動型減速装置は、外歯歯車と、外歯歯車の両側部に配置される第1キャリヤ、第2キャリヤを有する偏心揺動型減速装置において、第1キャリヤと第2キャリヤとを連結するキャリヤ連結部材と、キャリヤ連結部材とは別に本減速装置に取り付けられ、少なくとも2つの部材を連結する第2連結部材と、を有する。キャリヤ連結部材は、第2連結部材よりも引張強度が大きい。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、偏心揺動型減速装置または偏心揺動型減速装置が設けられた機械全体として部材同士の連結強度を効率的に確保することが可能な偏心揺動型減速装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る偏心揺動型減速装置の一例を示す断面図である。
【
図2】第2連結部材の素材の化学成分を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0011】
また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0012】
[実施形態]
図1、
図2を参照して、実施形態に係る偏心揺動型減速装置100の全体構成を説明する。
図1は、偏心揺動型減速装置100を示す側断面図である。以下、偏心揺動型減速装置100を減速装置100と表記することがある。実施形態の減速装置100は、モータ10のモータ軸11が連結されるクランク軸20を備える。以下、クランク軸20の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、軸方向でクランク軸20のモータ軸11が連結される側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。つまり、クランク軸20は、軸方向で入力側から反入力側に延びる。また、中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。
【0013】
減速装置100は、モータ軸11からクランク軸20に入力された回転を減速して被駆動部材60に出力する。モータ10としては、減速装置100に回転を出力可能なものであれば制限はなく、様々な原理に基づくモータを用いうる。本実施形態のモータ10は、ブラシレスDCモータ(ACサーボモータと称されることもある)である。
図1の例では、モータ10のモータ軸11は、キーを使用して回転を伝達する。
【0014】
減速装置100としては、入力回転を減速して出力可能なものであれば制限はなく、様々な減速装置を用いることができる。実施形態の減速装置100は、内歯歯車と噛み合う外歯歯車を揺動させることで、内歯歯車および外歯歯車の一方の自転を生じさせ、その生じた自転成分を出力部材から被駆動部材60に出力する。実施形態の減速装置100は、クランク軸20の中心軸線Laが内歯歯車の中心軸線と同軸線上に設けられるセンタークランクタイプである。
【0015】
減速装置100は、クランク軸20と、外歯歯車13、14、15と、内歯歯車41と、キャリヤ35、36と、内ピン48と、偏心軸受16、17、18と、主軸受37、38と、クランク軸軸受39、40と、ケーシング51と、モータアダプタ52とを主に含む。キャリヤ35、36は、第1キャリヤ35と、第1キャリヤ35の入力側に配置される第2キャリヤ36を含む。主軸受37、38は、第1主軸受37と、第1主軸受37の入力側に配置される第2主軸受38を含む。
【0016】
ケーシング51は、減速装置100の外殻を構成する筒状を有する。ケーシング51の内周面に内歯歯車41が設けられる。モータアダプタ52は、第2キャリヤ36に側部に配置され、モータ10に取り付けられる。実施形態では、モータアダプタ52は、ケーシング51の入力側に連結される。
【0017】
モータアダプタ52は、ケーシング51に連結される筒状の筒状部521と、筒状部521の入力側を覆う中空円板状の円板部522とを有する。筒状部521は、第2キャリヤ36と第2主軸受38を、隙間を介して環囲する。筒状部521と円板部522は一体的に形成される。円板部522の中心には、モータ10の反入力側の筒部がインロー嵌合するための円形凹部523と、オイルシールS2を配置するための貫通孔であるシール配置部524とが設けられる。
【0018】
第1キャリヤ35は、外歯歯車13、14、15の反入力側の側部に配置され、第2キャリヤ36は、外歯歯車13、14、15の入力側の側部に配置される。減速装置100は、第1キャリヤ35と、第2キャリヤ36とを連結するキャリヤ連結部材71と、キャリヤ連結部材71とは別に減速装置100に取り付けられる第2連結部材72と、を有する。キャリヤ連結部材71の構成に限定はないが、この例ではボルトB1である。第2連結部材72の構成に限定はないが、この例ではボルトB2、B3である。ボルトB2は、ケーシング51とモータアダプタ52とを連結する。ボルトB3は、被駆動部材60と第1キャリヤ35とを連結する。モータアダプタ52の少なくとも一部が外部との空気の流通が抑制された空間を画定し、キャリヤ連結部材71は、第2キャリヤ36側において当該空間に露出している。
【0019】
クランク軸20は、モータ軸11から入力される回転動力によって回転中心線La周りに回転させられる。クランク軸20は、モータ軸11が挿入される挿入孔21を有する。クランク軸20とモータ軸11は、例えばキー連結される。これらは、他の種々の連結方式によって連結されてもよい。クランク軸20の外周には、外歯歯車13、14、15を揺動させるための複数の偏心部23、24、25が設けられる。偏心部23、24、25の軸芯は、クランク軸20の回転中心線Laに対して偏心している。本実施形態では3個の偏心部23、24、25が設けられ、隣り合う偏心部23、24、25の偏心位相は120°ずれている。クランク軸20は、入力軸と称されることがある。
【0020】
クランク軸20の反入力側は、クランク軸軸受39を介して第1キャリヤ35に支持される。クランク軸20の入力側は、第2クランク軸軸受40を介して第2キャリヤ36に支持される。つまり、クランク軸20は、第1キャリヤ35および第2キャリヤ36に対して回転自在に支持されている。
【0021】
クランク軸軸受39、40は、キャリヤ35、36とクランク軸20の間に配置される。クランク軸軸受39、40のは、公知の種々の軸受機構を採用できる。この例では、クランク軸軸受39、40は、玉軸受である。
【0022】
外歯歯車13、14、15は、複数の偏心部23、24、25のそれぞれに対応して個別に設けられる。外歯歯車13、14、15は、偏心軸受16、17、18を介して偏心部23、24、25の外周に揺動可能に組み込まれている。この例の偏心軸受16、17、18は、ころ軸受である。外歯歯車13、14、15は、それぞれ揺動しながら内歯歯車41に内接噛合する。外歯歯車13、14、15の外周には波形の歯が形成されており、この歯が内歯歯車41と接触しつつ移動することで、中心軸を法線とする面内で外歯歯車13、14、15が揺動できるようになっている。
【0023】
内歯歯車41は、外歯歯車13、14、15と噛み合う。本実施形態の内歯歯車41は、ケーシング51の内周側に一体的に設けられた内歯歯車本体42と、内歯歯車本体42の内周面に周方向に所定の間隔で形成されたピン溝に配置された複数の外ピン43を有する。外ピン43は、内歯歯車本体42のピン溝に回転自在に支持される円柱状のピン部材である。外ピン43は、内歯歯車41の内歯を構成している。内歯歯車41の外ピン43の数(内歯の数)は、外歯歯車13、14、15の外歯数よりもわずかだけ(この例では1だけ)多い。
【0024】
外歯歯車13、14、15には、その軸心からオフセットされた位置に複数の内ピン孔45、46、47が形成される。内ピン孔45、46、47には内ピン48が貫通する。内ピン48の外周には、円筒状のスリーブ49が配置されている。スリーブ49は、内ピン孔45、46、47との摺動を円滑にするための摺動促進体として機能する。スリーブ49の外径は、内ピン孔45、46、47の内径よりも偏心量の2倍相当分小さくなっている。スリーブ49と内ピン48の間には外歯歯車13、14、15の揺動成分を吸収するための遊びとなる隙間が設けられるとともに、内ピン48は、スリーブ49を介して内ピン孔45、46、47の一部と常に接触している。内ピン48は、外歯歯車13、14、15の自転成分と同期してクランク軸20の軸心周りを公転し、キャリヤ35、36をクランク軸20の軸心周りに回転させる。内ピン48は、キャリヤ35、36と外歯歯車13、14、15との間の動力の伝達に寄与する。
【0025】
キャリヤ35、36は、中空リング形状を有する。第1キャリヤ35は、第1主軸受37を介してケーシング51に回転自在に支持される。第2キャリヤ36は、第2主軸受38を介してケーシング51に回転自在に支持される。第1キャリヤ35は、第1クランク軸軸受39を介してクランク軸20の反入力側を回転自在に支持する。第2キャリヤ36は、第2クランク軸軸受40を介してクランク軸20の入力側を回転自在に支持する。
【0026】
主軸受37、38は、ケーシング51とキャリヤ35、36の間に配置される。主軸受37、38は、公知の種々の軸受機構を採用可能であり、この例の主軸受37、38は、アンギュラ玉軸受である。主軸受37、38の内側の転動面はキャリヤ35、36に形成されている。
【0027】
内ピン48は、第1キャリヤ35と一体的に形成され、第1キャリヤ35の入力側から第2キャリヤ36に向かって軸方向に延在する。ボルトB1が、第2キャリヤ36に設けられた貫通孔362を通じて内ピン48の端部に設けられたタップ孔482にねじ込まれることにより、キャリヤ35、36が互いに連結される。ボルトB1の頭部B12は、貫通孔362の大径部364に収容される。
【0028】
キャリヤ35、36とケーシング51の一方は、被駆動部材60に回転動力を出力する出力部材になり、他方は、減速装置100を支持するための取付部材(不図示)に固定される被固定部材になる。この例では、第1キャリヤ35は、被駆動部材60に回転動力を出力する出力部材として機能し、ケーシング51、モータアダプタ52は、取付部材に固定される被固定部材として機能する。
【0029】
第1キャリヤ35とケーシング51の間にはオイルシールS1が配置される。モータアダプタ52とクランク軸20の間にはオイルシールS2が配置される。オイルシールS2は、モータアダプタ52の円板部522のシール配置部524に嵌合した状態で固定される。オイルシールS1、S2は減速装置100の内部への異物侵入を抑制する。
【0030】
減速装置100の動作を説明する。モータ軸11からクランク軸20に回転動力が伝達されると、クランク軸20の偏心部23、24、25がクランク軸20を通る回転中心線周りに回転し、その偏心部23、24、25により外歯歯車13、14、15が揺動する。このとき、外歯歯車13、14、15は、自らの軸芯がクランク軸20の回転中心線周りを回転するように揺動する。外歯歯車13、14、15が揺動すると、外歯歯車13、14、15と内歯歯車41の外ピン43の噛合位置が順次ずれる。この結果、クランク軸20が一回転する毎に、外歯歯車13、14、15の歯数と内歯歯車41の外ピン43の数との差に相当する分、外歯歯車13、14、15および内歯歯車41の一方の自転が発生する。実施形態では、外歯歯車13、14、15が自転し、第1キャリヤ35から減速回転が出力される。第1キャリヤ35が回転することによって、第1キャリヤ35に連結された被駆動部材60が回転駆動される。
【0031】
次に、
図1、
図2を参照して、本開示の特徴的な構成を説明する。発明者は、次の新たな認識を得た。適用範囲を拡大する観点から、減速装置100の小型化・軽量化が望まれる。減速装置100の小型化・軽量化のために、重要な箇所は、特にキャリヤ35、36の連結部分にあることを見出した。外歯歯車13、14、15の両側部にあるキャリヤ35、36を連結する場合、その外歯歯車13、14、15の存在により、その連結に使用できるスペースは限られている。そのため、キャリヤの連結強度を確保しようとするためにキャリヤ35、36を連結するキャリヤ連結部材71であるボルトB1の使用数を減らし、または小径化する余地が少ない。これらに対応するためにキャリヤ35、36の連結強度を確保し、各ボルトB1にかかる荷重の増加に対応するために、高強度ボルトを採用することが考えられる。しかし、高強度ボルトは遅れ破壊等のリスクがあり、一定の強度範囲での使用に制限される。
【0032】
そこで、実施形態では、第1キャリヤ35と第2キャリヤ36とを連結するキャリヤ連結部材71(ボルトB1)は、キャリヤ連結部材71とは別の第2連結部材72(例えば、ボルトB2、B3)よりも引張強度が大きく設定される。ここで、第2連結部材72は、減速装置100内部の連結部材に限定されず、ケーシング51とモータアダプタ52とを連結するボルトB2や被駆動部材60と第1キャリヤ35とを連結するボルトB3等のように、相手機械側の取付ボルトも含む。ボルトの引張強度は、JISに規定される強度区分(以下、単に「強度区分」という)の呼び引張強さ(N/平方ミリメートル=MPa)に従い、呼び引張強さが大きいものをボルトの引張強度が大きいという。
【0033】
一例として、キャリヤ連結部材71(ボルトB1)には、強度区分14.9[呼び引張強さ1400MPa]のボルトを採用し、第2連結部材72(ボルトB2、B3)には、強度区分12.9[呼び引張強さ1200MPa]のボルトを採用している。
【0034】
従来、鋼材の引張強度が高い場合、鋼材中に水素が存在する状態で引張荷重が作用した時に、塑性変形を伴わずに突然破壊する「遅れ破壊」が生じやすくなる問題がある。そこで、キャリヤ連結部材71(ボルトB1)では、試行錯誤の結果、以下の(1)~(3)の手段で遅れ破壊特性の改善を図っている。このように、鋼材の引張強度を高くした場合には、種々の特性の改善のための改善を行うことが可能である。しかし、通常使用されるボルトB2やB3よりも遅れ破壊特性やコストなど少なからず引張強度以外の部分でデメリットが生じうる。よって、上述のようにスペースの限られるキャリヤ連結部材71には、より高強度なボルトを用いる一方で、第2連結部材72においては、キャリヤ連結部材よりも引張強度の小さい素材のボルトを用いている。
(1)不純物元素の低減
不純物P、Sを極力へらすとともに、P、Sの粒界偏析を促すMnを減らすことにより粒界強化を図る。
(2)結晶粒の微細化
Ti、Nb、Vなどの添加により結晶粒を微細化し、粒界強化を図るとともに鋼材の靭延性を向上させる。
(3)微細炭窒化物の析出
析出硬化型の元素Mo、V、Tiなどを添加し、高温焼き戻し処理をおこなうことにより、微細な炭窒化物を析出させる。それらの化合物が拡散性水素をトラップし、有害な水素を低減する。
【0035】
図2は、第2連結部材72の素材(ステンレス鋼)の化学成分を示す表であり、これらの素材の残余の主成分は鉄である。キャリヤ連結部材71は、この第2連結部材72と比べてCの成分が多い。また、キャリヤ連結部材71は、第2連結部材72と比べて、P、S、Mnを低く抑えている。また、キャリヤ連結部材71は、他の素材に比べても不純物P、S、Mnが低く抑えられている。また、キャリヤ連結部材71の素材は、第2連結部材72と比べて、添加成分Moの添加率が高く、添加成分Ti、Nb、Vがさらに添加されている。なお、例えば、第2連結部材72にも添加成分Ti、Nb、Vの少なくともいずれかが添加されており、キャリヤ連結部材71は、その添加成分が第2連結部材72における添加率よりも多くてもよい。
【0036】
実施形態では、第2連結部材72は、減速装置100の外部に露出するボルトである。この場合、第2連結部材72を覆う部材を省けるので、モータアダプタ52および被駆動部材60を減速装置100の外側に容易に取り付けることができる。また、外部に露出するので、容易にメンテナンス可能であり、容易に交換できる。また、キャリヤ連結部材よりも引張強度の低い材料を使っており、遅れ破壊が発生しにくい。
【0037】
実施形態では、キャリヤ連結部材71は、減速装置100の外部に露出しないボルトである。この場合、環境要因に起因する脆性低下を抑制できる。脆性低下が少ない分、負担荷重を増やせるので、キャリヤ連結部材71の使用数を減らすことが可能になる。実施形態では、キャリヤ連結部材71は、減速装置100のうちモータアダプタ52を除いた減速部90の入力側の端面と、モータアダプタ52の円板部522との間であって、モータアダプタ52の筒状部521に環囲される空間78に配置される。空間78は、オイルシールS2によってシールされ、外部との空気の流通が抑制された空間(以下、「閉空間」という)である。脆性低下が抑制されるので、メンテナンスや交換頻度を減らせる。
【0038】
前述したように、実施形態の減速装置100は、第2キャリヤ36の側部に配置され、モータ10に取り付けられるモータアダプタ52を有しており、第2連結部材72は、モータアダプタ52に取り付けられる。この場合、モータアダプタ52と減速部90とが連結された状態で提供されるので、保管時にボルトが劣化しにくい。
【0039】
以上、実施形態をもとに本発明を説明した。これらの実施形態は例示であり、いろいろな変形および変更が本発明の特許請求の範囲内で可能なこと、またそうした変形例および変更も本発明の特許請求の範囲にあることは当業者に理解されるところである。従って、本明細書での記述および図面は限定的ではなく例証的に扱われるべきものである。
【0040】
(変形例)
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0041】
実施形態の説明では、偏心揺動型減速装置がいわゆるセンタークランクタイプの偏心揺動型減速装置である例を示したが、本発明はこれに限定されず、各種の減速機構を採用できる。例えば、減速装置は、内歯歯車の軸心からオフセットした位置に複数のクランク軸が配置されるいわゆる振り分けタイプの偏心揺動型減速装置であってもよい。
【0042】
実施形態の説明では、クランク軸20の挿入孔21にモータ軸11が挿入される例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、クランク軸の挿入孔には、モータ軸のモータピニオンと噛み合う歯車の軸が挿入されてもよい。
【0043】
実施形態の説明では、クランク軸20が、キーを使用してモータ軸11に連結される例を示したが、本発明はこれに限定されない。
【0044】
実施形態の説明では、外歯歯車13、14、15の歯車数が3である例を示したが、本発明はこれに限定されない。歯車数は、2以下または4以上であってもよい。
【0045】
これらの各変形例は、実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0046】
上述した各実施形態と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0047】
13、14、15 外歯歯車、 35 第1キャリヤ、 36 第2キャリヤ、 41 内歯歯車、 51 ケーシング、 52 モータアダプタ、 60 被駆動部材、 71 キャリヤ連結部材、 72 第2連結部材、 78 空間、 100 偏心揺動型減速装置。