(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082515
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】パルス管冷凍機、およびパルス管冷凍機のクールダウン方法
(51)【国際特許分類】
F25B 9/00 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
F25B9/00 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196414
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】中野 恭介
(72)【発明者】
【氏名】松村 陽介
(57)【要約】
【課題】パルス管冷凍機のコールドヘッドからの放熱を促進する。
【解決手段】パルス管冷凍機100は、第1段パルス管110aと、第1段パルス管110aの高温端に熱的に結合された放熱体150とを備えるコールドヘッド102と、周囲温度から極低温へのパルス管冷凍機100のクールダウン中に放熱体150を強制冷却する強制冷却装置200と、を備える。強制冷却装置200は、クールダウン後に放熱体150の強制冷却を停止してもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス管と、前記パルス管の高温端に熱的に結合された放熱体とを備えるコールドヘッドと、
周囲温度から極低温へのパルス管冷凍機のクールダウン中に前記放熱体を強制冷却する強制冷却装置と、を備えることを特徴とするパルス管冷凍機。
【請求項2】
前記強制冷却装置は、前記クールダウン後に前記放熱体の強制冷却を停止することを特徴とする請求項1に記載のパルス管冷凍機。
【請求項3】
前記強制冷却装置は、
前記パルス管冷凍機の状態を検出するセンサと、
前記放熱体を冷却する空冷式または液冷式の冷却器と、
前記センサの出力に基づいて前記パルス管冷凍機が前記クールダウン中であるか否かを決定し、前記クールダウン中に前記冷却器を作動させるように構成されたコントローラと、を備えることを特徴とする請求項1に記載のパルス管冷凍機。
【請求項4】
前記センサは、前記コールドヘッドに設けられた温度センサを備え、
前記コントローラは、前記温度センサによって測定された前記コールドヘッドの測定温度を温度しきい値と比較し、前記コールドヘッドの測定温度が前記温度しきい値を超えるとき前記冷却器を作動させるように構成されていることを特徴とする請求項3に記載のパルス管冷凍機。
【請求項5】
前記強制冷却装置は、前記コールドヘッドから分離配置された冷却ファンを備えることを特徴とする請求項1に記載のパルス管冷凍機。
【請求項6】
前記パルス管の軸方向全長の多くとも1/4が前記放熱体の内部に延在していることを特徴とする請求項1に記載のパルス管冷凍機。
【請求項7】
前記放熱体は、前記パルス管の軸方向に延在する放熱フィンを備え、
前記強制冷却装置は、前記放熱フィンの上方または斜め上方に配置された冷却ファンを備えることを特徴とする請求項1に記載のパルス管冷凍機。
【請求項8】
前記コールドヘッドから分離配置され、前記パルス管の高温端に配管接続されたバルブユニットをさらに備えることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載のパルス管冷凍機。
【請求項9】
パルス管冷凍機のクールダウン方法であって、前記パルス管冷凍機は、パルス管と、前記パルス管の高温端に熱的に結合された放熱体とを備えるコールドヘッドを備えており、前記方法は、
周囲温度から極低温へと前記パルス管冷凍機のクールダウンを行うことと、
前記パルス管冷凍機の前記クールダウン中に前記放熱体を強制冷却することと、を備えることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス管冷凍機、およびパルス管冷凍機のクールダウン方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、希釈冷凍機と呼ばれる、液体のヘリウム3(3He)が液体のヘリウム4(4He)に溶解し希釈されるとき熱が吸収される現象を利用した極低温冷凍機が知られている。希釈冷凍機は、0.1K以下の極低温冷却を提供することができる。希釈冷凍機には、予冷のために、ギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機などの小型の機械式冷凍機を搭載するタイプのものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば量子コンピュータの超伝導素子の冷却といった先進的な用途では、mK(ミリケルビン)オーダーの極低温冷却を実現する希釈冷凍機が使用されることがある。このような超極低温の冷却では、GM冷凍機の運転に起因する振動加速度でさえも発熱源となりうる。そこで、GM冷凍機に代えて、低振動で動作可能なパルス管冷凍機を希釈冷凍機の予冷冷凍機として採用することが提案されている。
【0005】
一般に、希釈冷凍機の始動に際して、予冷冷凍機は、周囲温度(例えば300K程度の常温)から目的の極低温(例えば4K程度の液体ヘリウム温度)まで冷却される。こうした初期冷却はクールダウンとも呼ばれる。希釈冷凍機は比較的大型の装置であるため、予冷冷凍機で冷却される低温部の熱容量が大きくなりがちであり、望ましくは、比較的大きな冷凍能力(例えば、4.2Kで1Wを超える冷凍能力)をもつ予冷冷凍機が採用される。そのため、クールダウン中には、予冷冷凍機の冷凍能力に相応する比較的大きな熱量が、予冷冷凍機の冷凍サイクルにおける断熱圧縮過程から発生する。この熱は、予冷冷凍機のコールドヘッド高温端から外部に放熱されることになる。既存設計の希釈冷凍機では、GM冷凍機のコールドヘッド高温端が外気にさらされ、必要な放熱が自然対流冷却によって得られている。
【0006】
しかしながら、本発明者は、パルス管冷凍機を予冷冷凍機として希釈冷凍機に搭載する場合、クールダウン中の放熱が不足しうることを認識した。放熱不足によりパルス管冷凍機のコールドヘッド高温端がかなり高温(例えば環境温度を数十℃上回る)に加熱され、それに起因して予冷冷凍機のクールダウンに要する時間が長くなることが懸念される。予冷冷凍機のクールダウンは、希釈冷凍機によって所望の被冷却物を極低温冷却するための準備作業の一部にすぎないから、その所要時間はなるべく短いことが望まれる。
【0007】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、パルス管冷凍機のコールドヘッドからの放熱を促進することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によると、パルス管冷凍機は、パルス管と、パルス管の高温端に熱的に結合された放熱体とを備えるコールドヘッドと、周囲温度から極低温へのパルス管冷凍機のクールダウン中に放熱体を強制冷却する強制冷却装置と、を備える。
【0009】
本発明のある態様によると、パルス管冷凍機のクールダウン方法が提供される。パルス管冷凍機は、パルス管と、パルス管の高温端に熱的に結合された放熱体とを備えるコールドヘッドを備える。方法は、周囲温度から極低温へとパルス管冷凍機のクールダウンを行うことと、パルス管冷凍機のクールダウン中に放熱体を強制冷却することと、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、パルス管冷凍機のコールドヘッドからの放熱を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態に係る極低温装置を概略的に示す図である。
【
図2】実施の形態に係るパルス管冷凍機を概略的に示す図である。
【
図3】実施の形態に係るパルス管冷凍機のコールドヘッドの高温端の他の一例を概略的に示す図である。
【
図4】実施の形態に係るパルス管冷凍機の強制冷却装置の他の一例を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0013】
図1は、実施の形態に係る極低温装置10を概略的に示す図である。極低温装置10は、希釈冷凍機として構成され、その予冷のためにパルス管冷凍機100を備える。詳細は後述するが、パルス管冷凍機100は、コールドヘッド102と強制冷却装置200を備える。コールドヘッド102の高温端には放熱体150が設けられており、強制冷却装置200は、周囲温度から極低温へのパルス管冷凍機100のクールダウン中に放熱体150を強制冷却するように構成される。
【0014】
極低温装置10は、
図1に示されるように、真空容器12と、第1熱シールド14および第2熱シールド16と、希釈冷凍機として動作するヘリウム循環回路20とを備える。
【0015】
真空容器12は、希釈冷凍機に適する極低温真空環境を提供する断熱真空容器であり、クライオスタットとも呼ばれる。真空容器12は、希釈冷凍機の筐体となる。通例、真空容器12は、円筒状の形状を有しており、概ね平坦な円形状の天板および底板と、これらを接続する円筒状の側壁とを備える。パルス管冷凍機100は、真空容器12の例えば天板に設置される。真空容器12は、周囲圧力(たとえば大気圧)に耐えるように、例えばステンレス鋼などの金属材料またはその他の適する高強度材料で形成される。
【0016】
第1熱シールド14および第2熱シールド16は、外部環境および真空容器12からの輻射熱からヘリウム循環回路20の低温部を熱的に保護するために、真空容器12内でヘリウム循環回路20の低温部を囲むように配置される。熱シールドは、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成される。第1熱シールド14は、例えば100K未満(例えば30K~60K程度)の第1冷却温度に冷却され、第2熱シールド16は、第1熱シールド14の内側に配置され、第1冷却温度よりも低い第2冷却温度、例えば3K~10K程度に冷却される。冷却のために、第1熱シールド14は、パルス管冷凍機100の第1冷却ステージ114aに熱的に結合され、第2熱シールド16は、パルス管冷凍機100の第2冷却ステージ114bに熱的に結合されてもよい。
【0017】
ヘリウム循環回路20は、3Heガスを循環させるポンプ21を備える。ポンプ21は、例えば真空ポンプであり、真空容器12の外、つまり周囲環境に配置される。ポンプ21によって送り出された周囲温度(例えば室温)の3Heガスは、トラップ22を通ってヘリウム循環回路20の往路側流路20aに送り込まれる。
【0018】
往路側流路20aには、予冷熱交換器23、3Heコンデンサー24、主インピーダンス25が設けられている。予冷熱交換器23は、パルス管冷凍機100の第2冷却ステージ114bに熱的に結合されており、3Heガスを上述の第2冷却温度に冷却する。往路側流路20aは、分留室27からポンプ21に向かって延び復路側流路20bの一部となる戻り配管26内に予冷熱交換器23の下流で進入しており、3Heコンデンサー24および主インピーダンス25はこの戻り配管26内に配置されている。予冷熱交換器23で冷却された3Heガスは、3Heコンデンサー24および主インピーダンス25で凝縮、液化される。
【0019】
往路側流路20aにはさらに、第1熱交換器28、副インピーダンス29、第2熱交換器30が設けられ、その先で往路側流路20aは混合室31に接続されている。第1熱交換器28は、分留室27内に設けられ、副インピーダンス29および第2熱交換器30は、分留室27の外に設けられている。第2熱交換器30は、分留室27と混合室31との間に設けられ、混合室31に入る流路と混合室31から出る流路との間で熱交換するように構成されている。
【0020】
3Heコンデンサー24および主インピーダンス25で液化された液体3Heは、第1熱交換器28に送られる。分留室27は、3Heと4Heの飽和蒸気圧の差を利用して3He-4Heの混合溶液中から3Heを選択的に取り出すものであり、例えば0.5~0.7K程度の温度に保持されている。第1熱交換器7に送られた液体3Heは、分溜室6内の液体との熱交換により、分留室27の冷却温度へと冷却される。液体3Heは、副インピーダンス29を経て第2熱交換器30でさらに冷却され(例えば100mK程度)、混合室31に送られる。
【0021】
混合室31の液体ヘリウムは、100%3Heの濃厚相と、3Heが4Heに溶け込んだ4He-6.4%3Heの稀薄相とに二相分離しており、密度の差により上相が濃厚相(3He液)、下相が稀薄相(4He-6.4%3He液)となっている。濃厚相に入った3Heが稀薄相に溶け込む際に熱吸収がおこり、数十mKまたはそれ以下の低温が発生する。所望の被冷却物は、この混合室31に配置される。このようにして、希釈冷凍機は、mK(ミリケルビン)オーダーの極低温冷却を提供することができる。
【0022】
図2は、実施の形態に係るパルス管冷凍機100を概略的に示す図である。
図1および
図2を参照すると、この実施の形態では、パルス管冷凍機100は、GM方式の4バルブ型の二段パルス管冷凍機であり、二段式のコールドヘッド102と、バルブユニット104と、圧縮機106とを備える。また、パルス管冷凍機100は、バルブユニット104がコールドヘッド102から分離して配置されたバルブユニット分離型として構成されている。
【0023】
コールドヘッド102は、第1段パルス管110a、第1段蓄冷器112a、第1冷却ステージ114a、第2段パルス管110b、第2段蓄冷器112b、第2冷却ステージ114b、トップフランジ116、放熱体150を備える。
【0024】
図1に示されるように、コールドヘッド102は、トップフランジ116が真空容器12に取り付けられることによって、真空容器12に設置されている。多くの場合、コールドヘッド102は、パルス管(110a、110b)の管軸方向を鉛直方向に一致させるようにして真空容器12の天板または上部に取り外し可能に設置され、パルス管、蓄冷器(112a、112b)、および冷却ステージ(114a、114b)が真空容器12のなかに配置される。なお、コールドヘッド102は、他の姿勢、配置で真空容器12に設置されてもよい。
【0025】
第1段パルス管110aおよび第1段蓄冷器112aは、トップフランジ116を第1冷却ステージ114aに接続し、第2段パルス管110bおよび第2段蓄冷器112bは、トップフランジ116を第2冷却ステージ114bに接続する。第2段蓄冷器112bは、第1段蓄冷器112aに直列に接続されている。2つの蓄冷器、第1段パルス管110a、第2段パルス管110bは、互いに平行に配置されている。
【0026】
図2に示されるように、第1段蓄冷器112aの低温端は第1段パルス管110aの低温端と連通し、第2段蓄冷器112bの低温端は第2段パルス管110bの低温端と連通している。第1冷却ステージ114aは第1段パルス管110aおよび第1段蓄冷器112aの低温端に設けられ、第2冷却ステージ114bは、第2段パルス管110bおよび第2段蓄冷器112bの低温端に設けられている。第1冷却ステージ114aおよび第2冷却ステージ114bは、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成されている。
【0027】
放熱体150は、第1段パルス管110aおよび第2段パルス管110bの高温端に熱的に結合されている。放熱体150は、冷却ステージとは反対側でトップフランジ116に固定されている。放熱体150は、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金で形成されている。あるいは、放熱体150は、例えば銅などの金属材料またはその他の高い熱伝導率をもつ材料で形成されてもよい。
【0028】
図示される例では、第1段パルス管110aおよび第2段パルス管110bの高温端の端面が放熱体150の底面に接触するか、または、これらパルス管の高温端のみが放熱体150にわずかに入り込んでいる。しかしながら、パルス管のより大きな部分が放熱体150内に配置されてもよい。
【0029】
例えば、第1段パルス管110aの軸方向全長の多くとも1/4が放熱体150の内部に延在していてもよい。これにより、第1段パルス管110aの軸方向長さのうち高温側の1/4またはそれ未満の部分が放熱体150内に配置され、残りの3/4またはそれを超える部分が真空容器12内に配置される。放熱体150内に配置された第1段パルス管110aの高温部は、放熱体150を通じて外気と積極的に熱交換することが可能となり、これはコールドヘッド高温端の冷却に有利に働きうる。
【0030】
必要とされる場合には、第1段パルス管110aとともに、または第1段パルス管110aに代えて、第2段パルス管110bの軸方向全長の多くとも1/4が放熱体150の内部に延在していてもよい。
【0031】
放熱体150は、真空容器12の外に配置され、周囲環境に露出されており、外気に触れることができる。よって、放熱体150は、自然対流によって冷却されることができる。また、放熱体150は、後述の強制冷却装置200によっても冷却されることができる。放熱体150には、後述のように、表面積(熱交換面積)を増すために、放熱フィンが形成されていてもよい。
【0032】
バルブユニット104は、主圧力切替弁(V1,V2)、第1段副圧力切替弁(V3,V4)、および第2段副圧力切替弁(V5,V6)を備える。典型的には、バルブユニット104は、主圧力切替弁、第1段副圧力切替弁、および第2段副圧力切替弁を組み込んだロータリーバルブの形式で構成される。よって、バルブユニット104は、このロータリーバルブとロータリーバルブを回転させるバルブモータとを備える。
【0033】
主圧力切替弁(V1,V2)は、蓄冷器連通路118により第1段蓄冷器112aの高温端に接続され、第1段副圧力切替弁(V3,V4)は、第1段パルス管連通路120aにより第1段パルス管110aの高温端に接続され、第2段副圧力切替弁(V5,V6)は、第2段パルス管連通路120bにより第2段パルス管110bの高温端に接続される。主圧力切替弁(V1,V2)は、第1段蓄冷器112aおよび第2段蓄冷器112bを圧縮機106の吐出口と吸入口に交互に接続するように動作し、第1段副圧力切替弁(V3,V4)は、第1段パルス管110aを圧縮機106の吐出口と吸入口に交互に接続するように動作し、第2段副圧力切替弁(V5,V6)は、第2段パルス管110bを圧縮機106の吐出口と吸入口に交互に接続するように動作する。
【0034】
第1段パルス管連通路120aには例えばオリフィスなどの第1段流量調整要素122aが設けられ、第2段パルス管連通路120bには第2段流量調整要素122bが設けられていてもよい。
【0035】
また、パルス管冷凍機100には、第1段バッファオリフィス128aを介して第1段バッファ容積126aを第1段パルス管110aの高温端に接続する第1段バッファライン124aと、第2段バッファオリフィス128bを介して第2段バッファ容積126bを第2段パルス管110bの高温端に接続する第2段バッファライン124bが設けられていてもよい。第1段バッファライン124aは、第1段パルス管110aと第1段流量調整要素122aとの間で第1段パルス管連通路120aに接続され、第2段バッファライン124bは、第2段パルス管110bと第2段流量調整要素122bとの間で第2段パルス管連通路120bに接続されていてもよい。なお
図1では便宜上、バッファラインの図示は省略されている。
【0036】
バルブユニット104は、コールドヘッド102から分離して配置されているため、第1段蓄冷器112a、第1段パルス管110a、および第2段パルス管110bの高温端に配管接続されている。配管は、例えばフレキシブルホースなどの可撓性をもつ配管であってもよいし、剛性の配管であってもよい。
【0037】
放熱体150には、これらの配管、すなわち、蓄冷器連通路118、第1段パルス管連通路120a、および第2段パルス管連通路120bが接続される例えばセルフシーリング・カップリングなどの着脱自在な流体継手130が設けられている。こうした流体継手130は、
図1および
図3に示されるように、放熱体150の例えば上面に設けられていてもよい。なお、放熱体150の温度上昇による流体継手130への影響を防止または軽減するために、流体継手130と放熱体150との間に断熱材が挟み込まれていてもよい。断熱材は、例えばエンジニアプラスチック製のプレートであってもよい。
【0038】
GM方式の4バルブ型のパルス管冷凍機それ自体はよく知られているから、パルス管冷凍機100の各構成要素の更なる詳細な説明は省略する。
【0039】
このような構成により、パルス管冷凍機100は、作動ガスの圧力振動に対しパルス管内のガス要素(ガスピストンとも呼ばれる)の変位振動の位相を適切に遅らせることによって、パルス管の低温端にPV仕事を発生し、冷却ステージを目標の冷却温度に冷却することができる。第1冷却ステージ114aは、例えば100K未満(たとえば30K~60K程度)の第1冷却温度に冷却され、第2冷却ステージ114bは、第1冷却温度よりも低い第2冷却温度、例えば3K~10K程度に冷却されうる。
【0040】
ところで、希釈冷凍機の始動に際して、パルス管冷凍機100は、周囲温度(例えば300K程度の常温)から目的の極低温(すなわち、上述の第1および第2冷却温度)まで急速に冷却される。このようなクールダウンの完了後に、パルス管冷凍機100は、到達した冷却温度を維持する通常の冷却運転に移行する。
【0041】
クールダウン中には、パルス管冷凍機100の冷凍能力に相応する比較的大きな熱量が、パルス管冷凍機100の冷凍サイクルにおける断熱圧縮過程から発生する。とくに、希釈冷凍機は比較的大型の装置であるため、第1熱シールド14、第2熱シールド16、およびヘリウム循環回路20など、低温部の熱容量が大きくなりがちであり、これらの冷却のためにクールダウン中に発生する熱量も大きくなる。この熱は、パルス管冷凍機100のコールドヘッド高温端、つまり放熱体150から外部に放熱されることになる。
【0042】
本書の冒頭で述べたように、本発明者は、パルス管冷凍機100を予冷冷凍機として希釈冷凍機に搭載する場合、クールダウン中におけるコールドヘッド102からの放熱が不足し、放熱体150がかなり高温(例えば60℃~90℃を超える)に加熱されうることを認識した。
【0043】
既存設計の希釈冷凍機では、GM冷凍機が予冷冷凍機として用いられている。GM冷凍機では通例、コールドヘッドの高温端にロータリーバルブなどの圧力切替機構が組み込まれている。コールドヘッドの圧力切替機構は作動ガスの供給専用の配管と回収専用の配管とで圧縮機に接続されている。そのためコールドヘッド高温端で加熱された作動ガスが回収配管を通じてコールドヘッドから圧縮機へと一方向に流れる。この作動ガス流れとともに比較的多くの熱をコールドヘッドから圧縮機へと運び去ることができる。コールドヘッド高温端の自然対流冷却に加えて、GM冷凍機では、こうした作動ガス回収流れが放熱に有効に働いている。
【0044】
ところが、パルス管冷凍機100では、バルブユニット104がコールドヘッド102から分離されている。分離されたバルブユニット104は上述のようにコールドヘッド102と配管で接続される。両者を接続する蓄冷器連通路118、第1段パルス管連通路120a、および第2段パルス管連通路120bはいずれも、作動ガスの双方向流路となっている。すなわち、これらの流路では、圧縮機106からコールドヘッド102への作動ガス流入と、逆にコールドヘッド102から圧縮機106への作動ガス流出とが交互に生じ、作動ガスが往復して流れる。作動ガス流れが一方向ではないために、流出する作動ガスによって放熱体150から運び去られる熱量は比較的小さくなりうる。
【0045】
その結果、クールダウン中に発生する熱量が自然対流冷却による放熱量を凌駕する場合には、パルス管冷凍機100のコールドヘッド高温端に大きな温度上昇が生じうる。これに起因してパルス管冷凍機100のクールダウン時間が長くなることが懸念される。パルス管冷凍機100のクールダウンは、希釈冷凍機によって所望の被冷却物を極低温冷却するための準備作業の一部にすぎないから、その所要時間はなるべく短いことが望まれる。
【0046】
そこで、この実施の形態では、パルス管冷凍機100は、強制冷却装置200を備える。強制冷却装置200は、周囲温度から極低温へのパルス管冷凍機100のクールダウン中に放熱体150を強制冷却するように構成される。
【0047】
一例として、強制冷却装置200は、冷却のための空気流れ151を放熱体150に提供するように構成される空冷式の冷却器、例えば冷却ファン202を備える。冷却ファン202は、放熱体150に風を吹き付けるように(または放熱体150の周りの空気を吸い込むように)放熱体150に近接または隣接して配置される。
【0048】
したがって、実施の形態によると、冷却ファン202を利用した放熱体150の強制冷却によって、パルス管冷凍機100のコールドヘッド102の高温端からの放熱を促進できる。これにより、コールドヘッド102の高温端の過剰な温度上昇およびそれによるクールダウン時間の増加を抑制することができる。
【0049】
冷却ファン202は、コールドヘッド102から分離配置されていてもよい。つまり、冷却ファン202は、コールドヘッド102上に搭載されるのではなく、コールドヘッド102から離れて配置されてもよい。このようにすれば、冷却ファン202の動作中に冷却ファン202が発生させうる振動がコールドヘッド102を通じて希釈冷凍機の低温部に伝達するのを避けられる。この場合、冷却ファン202は、希釈冷凍機を床面に支持する支持フレームなどの支持構造に支持されてもよい。あるいは、冷却ファン202は、希釈冷凍機の支持構造とは別に設けられた、冷却ファン202を放熱体150の近くに配置するための専用の支持構造に支持されてもよい。
【0050】
図3は、実施の形態に係るパルス管冷凍機100のコールドヘッド102の高温端の他の一例を概略的に示す図である。
図3に示されるように、冷却ファン202は、コールドヘッド102に搭載されてもよい。冷却ファン202は、コールドヘッド102のトップフランジ116上に設置されたブラケット160に取り付けられ、放熱体150に隣接して配置されている。冷却ファン202の作動により、冷却のための空気流れを放熱体150に提供することができる。
【0051】
放熱体150は、空気流れとの熱交換面積を増加するために、放熱フィン152を備える。放熱フィン152は、パルス管の軸方向に延在する。よって、図示されるように、放熱フィン152は、トップフランジ116に接触している放熱体150の底板から上方に向けて突出している。冷却ファン202は、放熱フィン152の斜め上方に配置されている。従って、冷却ファン202は、放熱フィン152間のスリットに向けて空気流を吹き込む(またはスリットから空気流を吸い出す)ことができ、これにより、放熱フィン152と空気流の熱交換を促進し、放熱体150を効果的に冷却することができる。同様の観点から、冷却ファン202は、放熱フィン152の上方に配置されてもよい。
【0052】
図示される例では、一つの冷却ファン202が、放熱体150の片側に設置されている。これに代えて、放熱体150の周りに複数の冷却ファン202が設置されてもよい。例えば、一組の冷却ファン202が放熱体150の両側に配置されてもよい。あるいは、4つの冷却ファン202が放熱体150の周りに90度間隔で配置されてもよい。
【0053】
また、強制冷却装置200は、クールダウン後に放熱体150の強制冷却を停止するように構成されてもよい。このようにすれば、パルス管冷凍機100のクールダウンを完了した後の通常冷却運転(つまり、希釈冷凍機による所望の対象物の冷却中)において、強制冷却装置200は作動せず、強制冷却装置200から希釈冷凍機の低温部への振動伝達も発生し得ない。したがって、振動による希釈冷凍機の冷凍性能への悪影響を抑止できる。
【0054】
再び
図1を参照すると、強制冷却装置200は、パルス管冷凍機100の状態を検出するセンサ、例えば温度センサ204と、センサの出力に基づいてパルス管冷凍機100がクールダウン中であるか否かを決定し、クールダウン中に冷却器(例えば冷却ファン202)を作動させるように構成されるコントローラ206とを備えてもよい。
【0055】
コントローラ206は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0056】
温度センサ204は、コールドヘッド102に、具体的には例えば放熱体150に設けられている。コントローラ206は、温度センサ204によって測定されたコールドヘッド102の測定温度(この場合、放熱体150の測定温度)を温度しきい値と比較し、コールドヘッド102の測定温度が温度しきい値を超えるとき冷却器を作動させるように構成されていてもよい。温度しきい値は、パルス管冷凍機100のクールダウン中に想定される放熱体150の温度に基づいて設定されてもよく、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
【0057】
この場合、温度センサ204は、測定温度を示す測定温度データをコントローラ206に送信するように、コントローラ206に通信可能に接続されている。コントローラ206は、温度センサ204から測定温度データを受信し、測定温度を温度しきい値と比較する。コントローラ206は、測定温度が温度しきい値を超える場合に冷却ファン202を作動させる。すなわち、コントローラ206は、冷却ファン202をオフからオンに切り替えることにより、冷却ファン202を起動する。一方、コントローラ206は、測定温度が温度しきい値を超えない場合には、冷却ファン202を起動しない(冷却ファン202をオフのままとする)。
【0058】
このように、コントローラ206は、放熱体150が周囲温度に比べて加熱されている状態(具体的には、放熱体150の測定温度が温度しきい値よりも高いとき)をパルス管冷凍機100のクールダウン中とみなし、強制冷却装置200を作動させ放熱体150を強制冷却する。一方、コントローラ206は、放熱体150が周囲温度程度に冷却されている状態(具体的には、放熱体150の測定温度が温度しきい値よりも低いとき)をパルス管冷凍機100のクールダウンの終了とみなし、強制冷却装置200の動作を停止する。クールダウンの終了後は、上述のように、パルス管冷凍機100は、通常冷却運転に移行する。このようにして、パルス管冷凍機100の通常冷却運転では、強制冷却装置200は停止され、その動作による振動発生を避けられる。
【0059】
なお、温度センサ204は、放熱体150に設置することに代えて、第1冷却ステージ114aまたは第2冷却ステージ114bに設置されてもよい。また、温度センサ204は、第1熱シールド14または第2熱シールド16に設置されてもよい。このようにしても、コントローラ206は、温度センサ204の出力に基づいてパルス管冷凍機100がクールダウン中であるか否かを決定することが可能である。また、温度センサ204は、極低温装置10(希釈冷凍機)の図示しない冷却ステージまたは被冷却物に設置されてもよい。
【0060】
また、温度センサ204に代えて、パルス管冷凍機100の状態を検出するセンサは、コールドヘッド102の作動ガス圧力を測定する圧力センサ、または圧縮機106の消費電力を測定するセンサであってもよい。作動ガス圧力または消費電力も、クールダウン中に通常冷却運転に比べて増加するものと想定される。したがって、コントローラ206は、これらセンサの出力に基づいてパルス管冷凍機100がクールダウン中であるか否かを決定することが可能である。
【0061】
図4は、実施の形態に係るパルス管冷凍機100の強制冷却装置200の他の一例を概略的に示す図である。強制冷却装置200は、液冷式の冷却器を備えてもよく、冷却液(例えば冷却水)を流すための内部流路154が放熱体150に形成されていてもよい。このようにしても、冷却ファン202の場合と同様に、放熱体150を強制冷却することができる。
【0062】
例えば、図示されない冷却液源から放熱体150の内部流路154に冷却液156が供給される。内部流路154において冷却液156は放熱体150との熱交換により放熱体150を冷却する。内部流路154から排出される冷却液(矢印158で模式的に表す)は、冷却液源に戻され再び冷却されて放熱体150に供給されてもよい。
【0063】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0064】
上述の実施の形態では、パルス管冷凍機100が4バルブ型である場合を例に挙げて説明したが、パルス管冷凍機100は、例えばダブルインレット型など他の形式を有してもよい。また、パルス管冷凍機100は、GM方式には限られず、スターリング型のパルス管冷凍機であってもよい。パルス管冷凍機100は、二段式には限られず、単段式、または三段そのほかの多段式のパルス管冷凍機であってもよい。
【0065】
また、上述の実施の形態では、パルス管冷凍機100が希釈冷凍機に適用される場合を例として説明しているが、パルス管冷凍機100は、他の形式の極低温冷凍機に予冷冷凍機として搭載されるなど、他の用途に適用されてもよい。
【0066】
実施の形態にもとづき、具体的な語句を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用の一側面を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0067】
100 パルス管冷凍機、 102 コールドヘッド、 104 バルブユニット、 110a 第1段パルス管、 110b 第2段パルス管、 150 放熱体、 152 放熱フィン、 200 強制冷却装置、 202 冷却ファン、 204 温度センサ、 206 コントローラ。