(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082522
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】構造物の振動抑制装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/023 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
F16F15/023 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196431
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 良二
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
(72)【発明者】
【氏名】田中 久也
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AA06
3J048AB01
3J048AC05
3J048BE04
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】構造物において上下方向の振動が発生する際に、上方及び下方に対する振動抑制効果をほぼ同じにすることができ、それにより、上下方向の振動を良好に抑制することができる構造物の振動抑制装置を提供する。
【解決手段】構造物の振動を抑制するための構造物の振動抑制装置であって、上方に開口する箱状に形成された外壁体4と、板状に形成され、外壁体4に上方から挿入された内壁体5と、外壁体5の内部に充填された粘性体6と、を備え、構造物の振動に伴い、内壁体5が下方に移動する場合において、内壁体5に作用し、粘性体6のせん断抵抗による力を粘性力Fvとするとともに、粘性体6を圧縮する力を圧縮力Fcとしたときに、圧縮力Fcが粘性力Fvに対して所定割合以下になるように、内壁体5の下端面における幅W及び厚さt、並びに内壁体5の下端と外壁体4の内部底面との距離hが設定されている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物において、互いに上下方向に所定間隔を隔てた状態で配置された上側構造材と下側構造材の間に設けられ、前記構造物の振動を抑制するための構造物の振動抑制装置であって、
上方に開口する箱状に形成され、下端部が前記下側構造材に連結された外壁体と、
板状に形成され、上端部が前記上側構造材に連結されるとともに、前記外壁体に上方から挿入され、前記外壁体の内面との間に所定距離を存した状態に配置された内壁体と、
前記外壁体の内部に充填され、当該外壁体の内面と前記内壁体との間に存する粘性体と、
を備え、
前記構造物の振動に伴い、前記内壁体が下方に移動する場合において、前記内壁体に作用し、前記粘性体のせん断抵抗による力を粘性力とするとともに、前記粘性体を圧縮する力を圧縮力としたときに、前記圧縮力が前記粘性力に対して所定割合以下になるように、前記内壁体の下端面における幅及び厚さ、並びに前記内壁体の下端と前記外壁体の内部底面との距離が設定されていることを特徴とする構造物の振動抑制装置。
【請求項2】
前記構造物の振動に伴い、前記内壁体が下方に移動する場合において、前記内壁体の正面において作用するせん断抵抗力を第1せん断抵抗力とするとともに、前記内壁体の側面において作用するせん断抵抗力を第2せん断抵抗力としたときに、前記第2せん断抵抗力が前記第1せん断抵抗力に対して所定割合以下になるように、前記内壁体の左右両側の一端と、これに対向しかつ前記外壁体の内部の側面との距離が設定されていることを特徴とする請求項1に記載の構造物の振動抑制装置。
【請求項3】
前記圧縮力をFcとしたときに、当該圧縮力Fcは、下式によって設定されることを特徴とする請求項1に記載の構造物の振動抑制装置。
Fc=(W・t)・{K・(δ/h)-C}
W:内壁体の幅
t:内壁体の厚さ
K:粘性体の体積弾性率
σ:内壁体の最大上下振幅
h:内壁体の下端と外壁体の内部底面との距離
C:粘性体の圧縮前の初期定数
【請求項4】
前記外壁体の上端の開口を覆うように設けられたカバーを、さらに備え、
前記内壁体は、
上下方向にわたり、所定幅を有する本体部と、
この本体部の上端部に設けられ、前記カバーが取り付けられたカバー取付部と、
を有していることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置。
【請求項5】
前記カバー取付部は、前記本体部の前記所定幅よりも幅寸法が大きく形成されており、
前記カバー取付部の下端と前記粘性体の上面との間の距離が、所定距離よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項4に記載の構造物の振動抑制装置。
【請求項6】
前記内壁体は、
板状に形成され、前記構造物の振動に伴い、前記上側構造材と一体に上下方向に移動するメイン内壁体と、
板状に形成され、前記メイン内壁体と厚さ方向に重なった状態で、下部が前記粘性体に浸るように配置されたサブ内壁体と、
を有し、
前記サブ内壁体の上端部を支持するサブ内壁体支持機構を、さらに備えており、
前記サブ内壁体支持機構は、前記メイン内壁体が下方に移動するときに、前記サブ内壁体を不動に保持し、前記メイン内壁体が上方に移動するときに、上方への移動を許容するように構成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置。
【請求項7】
前記内壁体が定常位置に位置する状態において、当該内壁体には、前記粘性体の液面の直ぐ上側に、前後方向に貫通し、当該内壁体が下方に移動する際に、当該内壁体のせん断面積の増加を抑制するための開口部が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置。
【請求項8】
前記内壁体の下端部に、側面形状が下方に向かってテーパ状に形成されたテーパ部が設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコンサートホールやスポーツ施設など、多数の観客を収容可能な大型施設などの構造物に適用され、観客がいわゆる縦ノリをすることで発生する上下方向の振動を抑制するための構造物の振動抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の振動抑制装置として、オイルダンパや粘性壁などによる減衰ダンパを用い、その減衰ダンパを大型施設の床下に設置することにより、上下方向の振動を防止する建築構造物(振動防止架構)が、例えば特許文献1に記載されている。この建築構造物は、床面を支持し、ロングスパンでかつ梁成の小さい梁材と、その梁材の両端部をそれぞれ単純支持する支持材と、梁材の長さ方向の中央部においてその梁材と下階床面との間に設置された減衰ダンパと、梁材の下側に適宜吊り下げられた錘体とを備えている。
【0003】
上記の梁材として、20~60mのロングスパンのH型鋼などを用いることにより、比較的小さい固有振動数を有する床が構成される。また、上記の減衰ダンパは、梁材の下方への撓みに対する抗力を発揮させるとともに、振動を吸収するために設けられている。さらに、上記の錘体は、梁材の固有振動数を目標値に合わせるとともに、床面の応答加速度を小さくするために設けられている。
【0004】
また、粘性体を建築物の減衰に利用する粘性壁として、例えば特許文献2に記載された制震壁が知られている。この制震壁は、上階の梁である上梁と、下階の梁である下梁との間になどに設置されるものであり、下梁に固定されかつ上方に開放された箱状の容器と、上梁に固定されて垂下するとともに容器に上方から挿入された抵抗板と、容器内に充填された粘性体とを備えている。上梁と下梁が相対的に変位する場合、抵抗板が容器内で移動すると、その抵抗板には、移動の際の速度に応じて、粘性体によるせん断抵抗が作用し、抵抗板の移動が抑制されることで、上梁と下梁の相対変位が抑制される。このような制震壁を上記の減衰ダンパに適用することにより、前述した建築構造物における梁材の上下方向の振動に対し、それを吸収しながら、抑制することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-90180号公報
【特許文献2】特開平11-71935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した制震壁は主に、上梁と下梁の水平方向における相対変位を抑制するものであるため、上下方向の振動を抑制する場合には、以下のような問題が生じる。
【0007】
すなわち、上下方向の振動が制震壁に作用する場合、抵抗板が下方に移動するときには、その抵抗板は、容器内の底面との間の粘性体を圧縮するように動作する一方、抵抗板が上方に移動するときには、その抵抗板は、容器から外方に引っ張られるように動作する。この場合、抵抗板による粘性体の圧縮時には、抵抗板が粘性体から受ける反力が大きくなり、その結果、圧縮時における上下方向の変位に対する抵抗力が、引張時のそれに比べて大きくなってしまう。
【0008】
また、抵抗板による上記の圧縮時には、粘性体に対する抵抗板のせん断面積が増加するように変化する一方、抵抗板による上記の引張時には、上記せん断面積が減少するように変化する。このため、抵抗板による上記の圧縮時と引張時とでは、制震壁による減衰力に差異が生じてしまう。このように、制震壁において、抵抗板の互いに反対方向である上方及び下方への移動の際に、減衰力に差異が生じると、制震壁が適用された構造物における振動を適切に抑制できなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、構造物において上下方向の振動が発生する際に、上方及び下方に対する振動抑制効果をほぼ同じにすることができ、それにより、上下方向の振動を良好に抑制することができる構造物の振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物において、互いに上下方向に所定間隔を隔てた状態で配置された上側構造材と下側構造材の間に設けられ、構造物の振動を抑制するための構造物の振動抑制装置であって、上方に開口する箱状に形成され、下端部が下側構造材に連結された外壁体と、板状に形成され、上端部が上側構造材に連結されるとともに、外壁体に上方から挿入され、外壁体の内面との間に所定距離を存した状態に配置された内壁体と、外壁体の内部に充填され、外壁体の内面と内壁体との間に存する粘性体と、を備え、構造物の振動に伴い、内壁体が下方に移動する場合において、内壁体に作用し、粘性体のせん断抵抗による力を粘性力とするとともに、粘性体を圧縮する力を圧縮力としたときに、圧縮力が粘性力に対して所定割合以下になるように、内壁体の下端面における幅及び厚さ、並びに内壁体の下端と外壁体の内部底面との距離が設定されていることを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、構造物の振動に伴い、内壁体が下方に移動する場合において、上記圧縮力が上記粘性力に対して所定割合以下になるように、内壁体の下端面における幅及び厚さ、並びに内壁体の下端と外壁体の内部底面との距離が設定されている。この場合、圧縮力が粘性力に対して、比較的小さくなるよう、内壁体の上記の幅及び厚さ、並びに上記距離を設定することにより、内壁体が下方に移動することで圧縮する粘性体から受ける反力を、抑制することができる。その結果、内壁体が下方に移動することによる圧縮時と、内壁体が上方に移動することによる引張時とにおける振動抑制装置の減衰力の差異を小さくすることができる。しがたって、本発明によれば、構造物において上下方向の振動が発生する際に、上方及び下方に対する振動抑制効果をほぼ同じにすることができ、それにより、上下方向の振動を良好に抑制することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構造物の振動抑制装置において、構造物の振動に伴い、内壁体が下方に移動する場合において、内壁体の正面において作用するせん断抵抗力を第1せん断抵抗力とするとともに、内壁体の側面において作用するせん断抵抗力を第2せん断抵抗力としたときに、第2せん断抵抗力が第1せん断抵抗力に対して所定割合以下になるように、内壁体の左右両側の一端と、これに対向しかつ外壁体の内部の側面との距離が設定されていることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、内壁体が下方に移動する場合において、内壁体の側面において作用する第2せん断抵抗力が、内壁体の正面において作用する第1せん断抵抗力に対して、所定割合以下になるように、内壁体の左右両側の一端と、これに対向しかつ外壁体の内部の側面との距離が設定されている。この場合、第2せん断抵抗力が第1せん断抵抗力に対して、比較的小さくなるよう、内壁体の左右両側の一端と、対向する外壁体の内部側面との距離を設定することにより、内壁体が下方に移動する圧縮時において、内壁体の全体に作用する粘性体のせん断抵抗力を抑制することができる。その結果、前述した請求項1と同様の作用効果、すなわち、内壁体が下方に移動することによる圧縮時と、内壁体が上方に移動することによる引張時とにおける振動抑制装置の減衰力の差異を小さくすることができる。
【0014】
請求項3に係る発明は、請求項1に記載の構造物の振動抑制装置において、圧縮力をFcとしたときに、圧縮力Fcは、下式によって設定されることを特徴とする請求項1に記載の構造物の振動抑制装置。
Fc=(W・t)・{K・(δ/h)-C}
W:内壁体の幅
t:内壁体の厚さ
K:粘性体の体積弾性率
σ:内壁体の最大上下振幅
h:内壁体の下端と外壁体の内部底面との距離
C:粘性体の圧縮前の初期定数
【0015】
この構成によれば、上式により、内壁体が下方に移動する場合に粘性体を圧縮する圧縮力Fcが設定される。上式から明らかなように、圧縮力は、内壁体の幅W及び厚さtに比例する一方、内壁体の下端と外壁体の内部底面との距離hに反比例する。したがって、圧縮力Fcを小さくする場合には、上記の幅W及び厚さtを小さくしたり、上記の距離hを大きくしたりすることで、容易に実現することができる。
【0016】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置において、外壁体の上端の開口を覆うように設けられたカバーを、さらに備え、内壁体は、上下方向にわたり、所定幅を有する本体部と、この本体部の上端部に設けられ、カバーが取り付けられたカバー取付部と、を有していることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、内壁体が上記の本体部とその上端部のカバー取付部とを有しており、そのカバー取付部に取り付けられたカバーにより、外壁体の上端の開口が覆われている。これにより、構造物に設置された振動抑制装置において、外壁体の内部に、外部から砂埃などの異物や雨水などの液体が入り込んだり、それに起因して粘性体が劣化したりするのを防止し、粘性体を長期間にわたり良好に保つことができる。また、上記カバーは、内壁体のカバー取付部に取り付けられているので、内壁体が上下方向に移動する際に、内壁体と一体に上下方向に移動することが可能である。
【0018】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の構造物の振動抑制装置において、カバー取付部は、本体部の所定幅よりも幅寸法が大きく形成されており、カバー取付部の下端と粘性体の上面との間の距離が、所定距離よりも大きく設定されていることを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、内壁体において、カバー取付部が、本体部の所定幅よりも幅寸法が大きく形成されているので、取付面積が比較的大きいカバー取付部にカバーを取り付けることにより、そのカバーを内壁体にしっかりと取り付けることができる。また、カバー取付部の下端と粘性体の上面との間の距離が、所定距離(例えば、上下方向に変位する内壁体において想定される最大の変位距離)よりも大きく設定されることにより、カバー取付部が粘性体の上面に当接するのを防止することができる。
【0020】
請求項6に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置において、内壁体は、板状に形成され、構造物の振動に伴い、上側構造材と一体に上下方向に移動するメイン内壁体と、板状に形成され、メイン内壁体と厚さ方向に重なった状態で、下部が粘性体に浸るように配置されたサブ内壁体と、を有し、サブ内壁体の上端部を支持するサブ内壁体支持機構を、さらに備えており、サブ内壁体支持機構は、メイン内壁体が下方に移動するときに、サブ内壁体を不動に保持し、メイン内壁体が上方に移動するときに、上方への移動を許容するように構成されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、内壁体が上記のメイン内壁体とサブ内壁体を有しており、内壁体が下方に移動するとき、すなわちメイン内壁体が下方に移動するときには、サブ内壁体支持機構により、サブ内壁体が不動に保持される。これにより、内壁体が下方に移動する場合には、メイン内壁体に作用する抵抗力が、振動抑制装置の減衰力として得られる。一方、内壁体が上方に移動する場合には、メイン内壁体に加えて、下部が粘性体に浸かるように配置されていたサブ内壁体も、上方に移動する。つまり、メイン内壁体のみが上方に移動するときの抵抗力に加えて、サブ内壁体が上方に移動するときの抵抗力が、振動抑制装置の減衰力として得られる。その結果として、本来、内壁体が上方に移動する際に低下する抵抗力を、サブ内壁体によって補うことができ、それにより、内壁体が下方に移動するときと、内壁体が上方に移動するときにおける振動抑制装置の減衰力の差異を小さくすることができる。
【0022】
請求項7に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置において、内壁体が定常位置に位置する状態において、内壁体には、粘性体の液面の直ぐ上側に、前後方向に貫通し、内壁体が下方に移動する際に、内壁体のせん断面積の増加を抑制するための開口部が設けられていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、内壁体の所定位置には、上記の開口部が設けられているので、内壁体が下方に移動する際に、内壁体のせん断面積の増加が抑制される。これにより、内壁体が下方に移動する際のせん断抵抗力の増加を抑制することができる。一方、内壁体が上方に移動する際には、粘性体に接する内壁体の面積が次第に減少し、それに伴い、内壁体に作用するせん断抵抗力が減少する。上述したように、内壁体に上記の開口部が設けられることにより、その開口部がない場合に比べて、内壁体が下方に移動する際のせん断抵抗力の増加が抑制でき、その結果、内壁体が下方に移動するときと、内壁体が上方に移動するときにおける振動抑制装置の減衰力の差異を小さくすることができる。
【0024】
請求項8に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の構造物の振動抑制装置において、内壁体の下端部に、側面形状が下方に向かってテーパ状に形成されたテーパ部が設けられていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、内壁体の下端部に上記のテーパ部が設けられているので、内壁体が上下方向に移動する際のせん断抵抗力を確保しながら、内壁体が粘性体を圧縮する圧縮力を、大幅に小さくすることができる。これにより、振動抑制装置において、所望の減衰力を確保しながら、内壁体が粘性体を圧縮することによる影響を大幅に小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態による振動抑制装置としての制震壁を、これを適用した建物の一部の構造材とともに概略的に示す図である。
【
図2】(a)は
図1の制震壁の正面図、(b)は(a)のA-A線に沿う縦断面図である。
【
図3】制震壁による履歴特性を模式的に示す図である。
【
図4】制震壁をモデル化して示す図であり、(a)は圧縮力が作用しない場合のモデル図であり、(b)は圧縮力が作用する場合のモデル図である。
【
図5】(a)及び(b)は、
図2(a)及び(b)にそれぞれ対応し、制震壁の正面図及び縦断面図である。
【
図6】外壁体内の粘性体のうち、内壁体の内壁と外壁体の底板との間の粘性体を立体的に示す図である。
【
図7】(a)~(d)は、入力振幅が互いにそれぞれ異なる履歴ループを示している。
【
図8】実験No.1~5について、横軸を体積変化率ΔV/V、縦軸を単位面積当たりの圧縮力Fc/Acとしたときの実験結果をそれぞれプロットするとともに、これらの実験結果に基づく回帰直線を示している。
【
図9】内壁の変位に対する粘性力、復元力及び圧縮力の計算上の推移、並びにこれらの総和である全抵抗力を示しており、(a)は圧縮力の影響を受ける場合、(b)は圧縮力の影響をほとんど受けない場合を示している。
【
図10】(a)及び(b)はそれぞれ、
図5(a)及び(b)と同様の制震壁の正面図及び縦断面図である。
【
図14】第3変形例の制震壁の動作を説明するための図である。
【
図16】第4変形例の制震壁の動作(圧縮時)を説明するための図であり、(a)は圧縮前の状態、(b)は圧縮時の状態を示す。
【
図17】第4変形例の制震壁の動作(引張時)を説明するための図であり、(a)は引張前の状態、(b)は引張時の状態を示す。
【
図18】制震壁における内壁体の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態による振動抑制装置としての制震壁を、これを適用した建物の一部の構造材とともに概略的に示している。
【0028】
上記の建物は、例えばコンサートホールなど、多数の観客を収容可能な大型施設であり、観客席の床下を構成する床下構造に制震壁1が設置される。具体的には、上記の床下構造は、互いに上下方向に所定間隔を隔てた状態で配置された上側構造材2及び下側構造材3を備えており、これらの上側構造材2と下側構造材3の間に、制震壁1が設置されている。なお、上記の上側構造材2及び下側構造材3は、例えばH形鋼などで構成され、水平にかつ平行に延びるように配置され、上側構造材2の上側に、床材が配置される。
【0029】
図2は、制震壁1を示しており、(a)は正面図、(b)は(a)のA-A線に沿う断面図である。両図に示すように、この制震壁1は、上方に開口する箱状に形成され、矩形状の正面形状を有する外壁体4と、板状に形成され、外壁体4に上方から挿入されるとともに、外壁体4の内面との間に所定距離を隔てた状態に配置された内壁体5と、外壁体4の内部に充填され、外壁体4の内面と内壁体との間に存する粘性体6とを備えている。なお、粘性体6については、図示の便宜上、グレースケールで示している。
【0030】
外壁体4は、いずれも鋼板で構成されかつ所定の形状及びサイズに形成された底板11、前板12、後板13、左右の側板14、14により、これらが互いに溶接されることなどによって、上方に開口する箱状に形成されている。なお、前板12及び後板13の外面にはそれぞれ、それらの上下方向の中央付近に、左右の側板14、14間に延びる補強用のリブ15、15が設けられている。
【0031】
内壁体5は、いずれも鋼板で構成され、正面形状が縦長矩形状に形成された内壁17と、この内壁17の上端部に一体に設けられ、水平に所定長さ延びる天板18とを備えている。また、内壁17の前面及び後面の所定位置には、前後方向に所定長さ突出するスペーサ19、19が設けられている。
【0032】
粘性体6は、粘度が比較的高い所定材料(例えばポリイソブチレンやシリコーンオイル)の流体から成り、外壁体4内の所定高さまで充填されている。
【0033】
以上のように構成された制震壁1は、
図1に示すように、外壁体4の底板11が下側構造材3に、内壁体5の天板18が上側構造材2に、図示しない複数のボルトなどによって固定される。
【0034】
ここで、制震壁1による抵抗力(減衰力)について説明する。この制震壁1による全抵抗力Fは、下式で表される。
F=Fv+Fk+Fc
Fv:粘性体6のせん断抵抗による粘性力
Fk:粘性体6の内部剛性による復元力
Fc:圧縮時において粘性体6に体積変化を生じさせる圧縮力
なお、以下の説明では適宜、上記のFv、Fk及びFcをそれぞれ、「粘性力Fv」、「復元力Fk」及び「圧縮力Fc」というものとする。
【0035】
また、上記の粘性力Fv、復元力Fk及び圧縮力Fcはそれぞれ、下式で表される。
Fv=η(Vs,t)・Vs・As
η(Vs,t):粘性体6の見掛け粘度
Vs:内壁体5のせん断歪み速度
As:内壁体5のせん断面積
t:内壁体5の内壁17の厚さ
Fk=Ki・δ
Ki:粘性体6の内部剛性
δ:内壁体5の上下方向の変位量
Fc=Kc・δ
Kc:粘性体6の圧縮剛性
【0036】
また、
図3は、制震壁1による履歴特性を模式的に示しており、
図4は、制震壁1をモデル化して示している。より具体的には、
図3に示す履歴特性は、時計回りにループするものであり、
図4(a)は、制震壁1において圧縮力が作用しない場合のモデル図、
図4(b)は、圧縮力が作用する場合のモデル図である。
【0037】
図4(a)のモデル図で示すように、制震壁1において圧縮力が作用しない場合、制震壁1では、粘性力及び復元力のみが作用し、
図3において実線で示す履歴特性、具体的には、原点を中心とする点対称でかつほぼ楕円形の履歴特性が得られる。
【0038】
一方、
図4(b)のモデル図で示すように、制震壁1において、粘性力及び復元力に加えて、圧縮力が作用する場合、上下方向の変位量が負の領域(
図3の左半部の領域)、及び荷重Fが負の領域(
図3の下半部の領域)では、
図3において実線で示す履歴特性が得られる一方、上下方向の変位量及び荷重Fが正の領域では、
図3において二点鎖線で示す履歴特性が得られる。
【0039】
上記のように、制震壁1において、粘性力及び復元力に加えて圧縮力が作用する場合、すなわち、制震壁1において内壁体5が下方に移動することで、その内壁体5に、粘性体6を圧縮することによる反力としての圧縮力が作用する場合、その圧縮力の分、荷重Fが大きくなる。
【0040】
上述したように、制震壁1において内壁体5が下方に移動する場合には、内壁体5に圧縮力が作用するものの、内壁体5が上方に移動する場合には、内壁体5に圧縮力が作用しない。このため、制震壁1に上下方向の振動が作用する際に、内壁体5が下方に移動する場合と上方に移動する場合とで、制震壁1による全抵抗力Fが異なることにより、制震壁1による適切な振動抑制効果が得られないことがある。
【0041】
そこで、本実施形態では、上記圧縮力の影響をほとんど受けないよう、制震壁1が構成されている。すなわち、制震壁1による全抵抗力Fに含まれる粘性力Fv及び圧縮力Fcにおいて、圧縮力Fcが粘性力Fvよりも大幅に低減するよう、制震壁1が構成されている。具体的には、制震壁1における圧縮力Fcが粘性力Fvに対して所定割合(例えば10%)以下になるよう、
図5に示すように、内壁体5における内壁17の厚さt及び幅W、並びに内壁17の下端と外壁体4の内部底面との距離hが設定されている。下式は、圧縮力Fcが粘性力Fvに対して10%以下であることを表している。
Fc≦0.1・Fv
【0042】
一般に、圧力による粘性体6の抵抗力である圧縮力Fcは、下式で表される。
Fc=Ac・(P+ΔP)
Ac:内壁17の底面の面積
P:初期圧力(ただし、圧力が作用する前では値0である)
ΔP:圧力の変化分
【0043】
また、上記の圧力の変化分ΔPは、下式で表される。
ΔP=K・(ΔV/V)
K:粘性体6の体積弾性率
V:内壁体5の下方移動時に圧縮される粘性体6の体積
ΔV:内壁体5の下方移動時に圧縮される粘性体6の体積の変化分
【0044】
ここで、下記の条件下で、制震壁1に上下方向の振動を作用させたときの実験及びその実験結果について説明する。
図6は、外壁体4内の粘性体6のうち、内壁体5の内壁17と外壁体4の底板11との間の粘性体(以下、適宜「被圧縮粘性体6P」という)を、グレースケールで立体的に示すとともに、内壁17が白抜き矢印で示すように下方に移動することによって圧縮された状態を一点鎖線で示している。また、同図には、圧縮前の被圧縮粘性体6Pにおける高さh、幅W、厚さt、体積V、圧縮面積Ac、及び入力振幅δの値をそれぞれ示している。さらに、上記の粘性体6として、材質:ポリイソブチレン、粘度:10000ポアズ、温度:20℃のものを使用し、制震壁1に対し、振動数:2Hz、入力振幅δ:0.5~4mmの上下方向の振動を付加した。
【0045】
図7は、入力振幅δが互いに異なる履歴ループを示しており、同図(a)、(b)、(c)及び(d)はそれぞれ、入力振幅δが0.5、1.0、2.0、及び4.0mmのときの履歴ループである。同図(a)~(d)に示すように、各入力振幅δの履歴ループは、全体として、外形が右上がりに若干傾斜した楕円状になっている。また、同図(a)及び(b)に示すように、入力振幅δが0.5及び1.0mmのときには、履歴ループの外形が、原点を中心とするほぼ点対称であり、内壁体5が下方に移動するときの圧縮時と、内壁体5が上方に移動するときの引張時のときの荷重の差異はほとんどないことがわかる。一方、同図(c)及び(d)に示すように、入力振幅δが2.0及び4.0mmのときには、履歴ループの外形において、右上部分が盛り上がった形状になっており、内壁体5による圧縮時の荷重が引張時のときよりも大きくなることがわかる。
【0046】
下記表1は、振動数が2Hz、入力振幅δが0.5、1.0、2.0、3.0及び4.0mmで、被圧縮粘性体6Pが圧縮されたときに、押し退けられた体積(体積変化)ΔV、及び圧縮前の被圧縮粘性体6Pの体積V(73800mm
3)に対する体積変化率ΔV/Vを示している。なお、以下の説明では、表1において入力振幅δを0.5、1.0、2.0、3.0及び4.0mmで行った実験をそれぞれ、実験No.1、2、3、4及び5というものとする。
【表1】
【0047】
表1に示すように、入力振幅δが0.5~4.0mmにおける被圧縮粘性体6Pの体積変化率ΔV/Vは、0.83~6.67%である。前述した
図7に示すように、履歴ループの外形に、内壁体5による圧縮時と引張時で荷重の差異が現れるのは、入力振幅δが2mm以上のときである。このことから、表1に示すように、実験No.3以上、すなわち被圧縮粘性体6Pの体積変化率ΔV/Vが約3%を超えるときに、圧縮による被圧縮粘性体6Pの抵抗力が大きくなることがわかる。
【0048】
下記表2は、表1の実験No.1~5に対応する実験結果を示している。
【表2】
【0049】
図8は、上述した表1及び2に基づき、実験No.1~5について、横軸を体積変化率ΔV/V、縦軸を単位面積当たりの圧縮力Fc/Acとし、それぞれの実験結果をプロットするとともに、これらの実験結果に基づく回帰直線を示している。
【0050】
上記の回帰直線は、下式で表される。
Fc/Ac=8501・(ΔV/V)-101
【0051】
また、上式より、圧縮力Fcは、下式で表される。
Fc=Ac・{8501・(ΔV/V)-101}
上式において、「8501」の値(単位:kN/m2)は、粘性体6の体積弾性率に相当し、また、「101」の値は、粘性体6の圧縮前の初期定数である。そして、上式において、ΔV=δ・W・t、及びV=t・W・hを代入するとともに、8501をK、101をCとすると、粘性体6の圧縮力Fcは、下式で表される。
Fc=(W・t)・{K・(δ/h)-C}
【0052】
なお、圧縮力Fcを表す上式において、K=8501は、粘性体6の材質がポリイソブチレン、粘度が1万ポアズ、温度が20℃、振動数が2Hzのときの一例を示すものである。したがって、上式のKについては、粘性体6の材質、粘度、温度及び振動数に応じて、適切な値が用いられる。
【0053】
以上により、制震壁1において、内壁体5の内壁17が被圧縮粘性体6Pを圧縮する際に、内壁体5が粘性体6による圧縮力Fcの影響をほとんど受けないよう、すなわち、圧縮力Fcが、粘性力Fvに対して所定割合以下で、小さくなるように、内壁17の厚さt及び幅W、並びに内壁17の下端と外壁体4の内部底面との距離hを決定するのが良いことがわかる。
【0054】
ここで、上述した圧縮力Fcを表す式を用い、制震壁1における上記距離hの算出の一例について、前述した
図5及び
図9を参照して説明する。
図5に示す制震壁1の各寸法と、粘性体6の特性は、以下のとおりであり、また、入力振幅σ、K及びCを、以下のように設定した。
内壁17の幅W:205mm、厚さt:6mm、
粘性体6の粘度:1万ポアズ、温度20℃
入力振幅σ:10mm
K:8501、C:101
【0055】
上記の条件下において、内壁17の下端と外壁体4の内部底面との距離hを、60mmとすると、上式により、圧縮力Fcは1.62kNとなる。
【0056】
図9(a)は、上記条件の制震壁1において、内壁17の変位に対する粘性力Fv、復元力Fk及び圧縮力Fcの計算上の推移、並びにこれらの総和である全抵抗力Fを示している。
【0057】
一方、
図9(b)は、圧縮力Fcが、粘性力Fvに対して所定割合(例えば、最大振幅において10%)以下になるように、上記距離hが設定されたときの制震壁1において、同図(a)と同様、内壁17の変位に対する粘性力Fv、復元力Fk及び圧縮力Fcの計算上の推移、並びに全抵抗力Fを示している。具体的には、
図9(b)の制震壁1では、圧縮力Fcが0.22kNになるように、上記距離hが300mmに設定されている。
【0058】
図9の(a)と(b)とを比較すると、粘性力Fv及び復元力Fkはいずれも同じであるものの、最大変位である10mmにおいて、(a)の圧縮力Fcに対し、(b)の圧縮力Fcが非常に小さくなっている。その結果、内壁17が下方に移動することによる粘性体6の圧縮の際に、(a)の全抵抗力Fは、圧縮力Fcが大きい分、大きくなるのに対し、(b)の全抵抗力Fは、圧縮力Fcが小さい分、上昇が抑制されることがわかる。
【0059】
以上のように、制震壁1における上記距離h等を設定することにより、内壁体5が下方に移動することで圧縮する粘性体6から受ける反力を、抑制することができる。その結果、内壁体5が下方に移動することによる圧縮時と、内壁体5が上方に移動することによる引張時とにおける制震壁1の減衰力の差異を小さくすることができる。したがって、本実施形態の制震壁1によれば、建物において上下方向の振動が発生する際に、上方及び下方に対する振動抑制効果をほぼ同じすることができ、それにより、上下方向の振動を良好に抑制することができる。
【0060】
以上においては、内壁体5における内壁17の下端と外壁体4の内部底面との距離h等の算出手法について説明したが、内壁体5が下方に移動する圧縮時に、圧縮された粘性体6が側方に膨張する場合であっても、内壁体5がその影響を受けないよう、内壁17と外壁体4の左右の側壁14、14との距離を、十分に確保することが好ましい。
【0061】
また、制震壁1において、内壁体5が下方に移動する圧縮時に、内壁17の正面において作用する第1せん断抵抗力F1と、内壁17の左右の側面において作用する第2せん断抵抗力F2に応じて、内壁17の左右両側の一端と、これに対向しかつ外壁体4の内部の側面との距離(
図10(a)のJ)を設定してもよい。
【0062】
ここで、
図10を参照しながら、距離Jの算出手法について、簡単に説明する。一般に、内壁17に作用するせん断抵抗力は、せん断面積に比例するとともに、対向する面との隙間に反比例する。そのため、内壁17の正面のせん断抵抗力F1、及び側面のせん断抵抗力F2は、内壁17の幅をW、粘性体6に浸かっている内壁17の高さをB、内壁17と前板12又は後板13との隙間をy、内壁17の厚さをt、内壁17の側面とこれに対向する外壁体4の内部側面との距離をJとすると、以下のように表される。
F1∝W・B/y
F2∝B・t/J
【0063】
そして、第2せん断抵抗力F2が第1せん断抵抗力F1に対して所定割合(例えば10%)以下になるよう、上記距離Jが設定される。下式は、第2せん断抵抗力F2が第1せん断抵抗力F1に対して10%以下であることを表している。
F2≦0.1・F1
【0064】
上記のF1及びF2を表す式、並びに両者の関係式から、上記距離Jは以下のように表される。
J≧t・y/(0.1・W)
【0065】
したがって、上式から、内壁17の厚さt及び幅W、並びに隙間yにより、距離Jの最小値を、容易に算出することができる。
【0066】
以上のようにして、制震壁1における上記距離Jを算出し、設定することにより、内壁体5が下方に移動する圧縮時において、内壁17の全体に作用する粘性体6のせん断抵抗力を抑制することができる。その結果、内壁体5が下方に移動することによる圧縮時と、内壁体5が上方に移動することによる引張時とにおける制震壁1の減衰力の差異を小さくすることができる。
【0067】
次に、
図11~
図18を参照して、制震壁1の変形例について説明する。なお、以下の説明では、前述した制震壁1や、他の変形例の構成部分と同じものについては、同一の符号を付し、その詳細な説明を省略するものとする。また、
図11~
図18の各図において、(a)は正面図、(b)は縦断面図を示している。
【0068】
図11は、第1変形例の制震壁1Aを示している。同図に示す制震壁1Aは、前述した制震壁1に対して主に、外壁体4の上部に液溜まり部21が設けられる点、及び外壁体4の上方に開口する開口部4aを覆うカバー22が設けられる点が異なっている。液溜まり部21は、前板12の上部が前方(
図11(b)の左方)に突出するように形成される一方、後板13の上部が後方(
図11(b)の右方)に突出するように形成されることで、外壁体4の上部における前後方向の寸法が拡幅されるように形成されている。
【0069】
一方、カバー22は、ステンレスなどの金属板が所定形状に形成された前カバー22A及び後カバー22Bで構成されており、これらが内壁体5の内壁17に固定されている。具体的には、前カバー22Aは、その上端部が内壁17の前面の上端部に位置するとともに、下半部が液溜まり部21の前方に位置するよう、側面形状が所定形状に形成されている。一方、後カバー22Bは、その上端部が内壁17の後面の上端部に位置するとともに、下半部が液溜まり部21の後方に位置するよう、側面形状が所定形状に形成されている。そして、これらの前カバー22A及び後カバー22Bは、それらの上端部同士が内壁17の上端部を前後から挟んだ状態で、複数のボルト23及びナット24によって、内壁17に固定されている。
【0070】
上記のカバー22が内壁17に固定された制震壁1Aでは、カバー22は内壁体5と一体に移動する。このように、制震壁1Aにおいてカバー22が設けられることにより、外壁体4の内部に、外部から砂埃などの異物や雨水などの液体が入り込んだり、それに起因して粘性体6が劣化したりするのを防止し、粘性体6を長期間にわたり良好に保つことができる。
【0071】
図12は、第2変形例の制震壁1Bを示している。同図に示す制震壁1Bは、前述した第1変形例の制震壁1Aに対して、内壁体5における内壁17の正面形状がT字状に形成されている点が異なっている。具体的には、内壁17の上部17b(カバー取付部)は、制震壁1Aの内壁17と同様の横幅寸法を有する一方、その内壁上部17bから下方に所定長さ垂下する内壁本体部17a(本体部)は、横幅寸法が内壁上部17bのそれよりも小さく形成されている。
【0072】
また、この制震壁1Bの内壁17では、粘性体6の液面(上面)と内壁上部17bの下端との距離Lが、制震壁1Bにおいて想定される内壁体5の上下方向の変位量よりも大きい長さに設定されている。これにより、制震壁1Bにおいて、内壁体5が下方に移動した際に、内壁上部17bが粘性体6の液面に当接するのを防止することができ、内壁上部17bが粘性体6を圧縮することによる影響を受けることはない。
【0073】
図13は、第3変形例の制震壁1Cを示している。同図に示す制震壁1Cは、前述した制震壁1に対して、内壁体5の構造が異なっており、内壁体5が下方に移動するとき(圧縮時)の減衰力と、内壁体5が上方に移動するとき(引張時)の減衰力との差異を低減するように構成されている。この制震壁1Cでは、天板18の下側に、ボックス状の内壁支持部31(サブ内壁体支持機構)が設けられている。この内壁支持部31は、内部が所定高さ寸法を有しており、また、底板31aに、上下方向に貫通するスリット31b及び複数のガイド孔31cが形成されている。上記のスリット31bは、左右方向に延びるとともに所定の幅を有しており、上記の各ガイド孔31cは、所定の径を有している。
【0074】
上記の内壁支持部31には、上下方向に所定長さを有する内壁32(メイン内壁体)が上端部において底板31aに固定されるとともに、内壁32よりも上下方向の長さが短い所定長さを有する補助内壁33(サブ内壁体)が上端部において上下方向に移動自在に支持されている。より具体的には、内壁32は、前述した制震壁1の内壁17とほぼ同様に構成され、外壁体4内に上方から挿入されるとともに、下半部以上が粘性体6に浸かるように設定されている。一方、補助内壁33は、内壁支持部31内の上端部に、補助内壁33と一体のガイドプレート33aが設けられている。このガイドプレート33aは、内壁支持部31のスリット31bよりも大きく形成されるとともに、上下方向に延びかつ各ガイド孔31cにそれぞれ遊挿された複数のガイドピン34が固定されている。
【0075】
図14は、制震壁1Cにおける動作を示している。なお、同図に示す一点鎖線は、内壁体5の動作前の位置(以下、適宜「定常位置」という)を示しており、上側の一点鎖線が内壁体5の天板18の上端位置、下側の一点鎖線が内壁体5の内壁32の下端位置を示している。また、同図の二点鎖線は、定常位置における内壁体5の補助内壁33の下端位置を示している。
【0076】
図14(a)に示すように、内壁体5が下方に移動する圧縮時には、内壁支持部31及び内壁32が一体に下方に移動する一方、補助内壁33はそのまま、定常位置に留まる。これにより、制震壁1Cにおいて、圧縮時には、内壁32のせん断面積に応じたせん断抵抗力が減衰力として発揮される。
【0077】
一方、
図14(b)に示すように、内壁体5が上方に移動する引張時には、内壁支持部31及び内壁32が一体に上方に移動し、加えて、内壁支持部31の底板31aと、補助内壁33のガイドプレート33aとの上下方向の隙間がなくなり、底板31aがガイドプレート33aに下方から当接すると、補助内壁33も、内壁支持部31及び内壁32と一体に上方に移動する。これにより、制震壁1Cにおいて、引張時には、内壁32のせん断面積と補助内壁33のせん断面積に応じたせん断抵抗力が減衰力として発揮される。以上により、制震壁1Cでは、本来、内壁体5が上方に移動する際に低下するせん断抵抗力を、補助内壁33によって補うことができる。それにより、内壁体5が下方に移動する圧縮時と、内壁体5が上方に移動する引張時における制震壁1Cの減衰力の差異を小さくすることができる。
【0078】
なお、図示は省略するが、制震壁1Cにおいて、内壁支持部31内に、補助内壁33のガイドプレート33aを下方に付勢する付勢部材(例えばコイルばね)を設けてもよい。このような付勢部材を設けることにより、補助内壁33を、初期の設定位置に迅速に戻すことができる。
【0079】
図15は、第4変形例の制震壁1Dを示している。同図に示す制震壁1Dは、前述した制震壁1に対して、内壁36が前後方向に貫通する開口部36aを有する点が異なっている。この制震壁1Dは、前述した制震壁1の内壁17とほぼ同様の内壁36を有しており、この内壁36には、正面形状が横長矩形状で前後方向に貫通する開口部36aが形成されている。また、制震壁1Dでは、内壁体5が定常位置に位置するときに、開口部36aが、粘性体6の液面の直ぐ上側に位置している。
【0080】
図16及び
図17はそれぞれ、制震壁1Dにおける内壁体5の圧縮時及び引張時の動作を示している。
図16(a)は、内壁体5が定常位置に位置する状態を示す一方、
図16(b)は、内壁体5が下方に移動した圧縮時の状態を示している。なお、以下の説明では、開口部36aの有無による相違を説明するために、上記開口部36aを有する内壁36を適宜、「開口部あり内壁36」といい、開口部36aが形成されていない内壁を、適宜、「開口部なし内壁」というものとする。また、定常位置の内壁体5において、内壁36のうち、粘性体6に浸かっているせん断面積をAとし、開口部なし内壁を有する内壁体5の圧縮時及び引張時に増減するせん断面積をΔAとするものとする。
【0081】
図16(a)に示す定常位置の状態から、開口部なし内壁を有する内壁体5が下方に移動した圧縮時では、せん断面積がA+ΔAとなる(
図16(b)の二点鎖線参照)。これに対し、
図16(b)に示すように、開口部あり内壁36を有する内壁体5が下方に移動した圧縮時では、増加するせん断面積(ΔA)と、開口部36aによる増加抑制分の面積とが相殺される。その結果、開口部あり内壁36を有する内壁体5の圧縮時では、最大変位における内壁36のせん断面積がほぼA(=A+ΔA-ΔA)に維持される。
【0082】
一方、
図17(a)に示す定常位置の状態から、開口部なし内壁を有する内壁体5が上方に移動した引張時では、せん断面積がA-ΔAとなる。これは、
図17(b)に示すように、開口部あり内壁36も同様である。つまり、開口部36aの有無に関わらず、内壁体5が上方に移動した引張時では、最大変位における内壁36のせん断面積がA-ΔAとなる。
【0083】
以上のことから、制震壁1Dでは、開口部36aが内壁36に形成されていることにより、内壁36における最大変位時のせん断面積の比が、A/(A-ΔA)となる。これは、開口部なし内壁における最大変位時のせん断面積比[(A+ΔA)/(A-ΔA)]よりも小さくなる。したがって、制震壁1Dでは、内壁36に開口部36aを設けることにより、内壁体5が下方に移動する圧縮時の減衰力と、内壁体5が上方に上方に移動する引張時の減衰力との差異を小さくすることができる。
【0084】
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。
図18は、制震壁1における内壁体5の変形例を示している。同図に示すように、この内壁体5では、内壁17の下端部に、側面形状が下方に向かってテーパ状に形成されたテーパ部17cを有している。これにより、内壁17の底面の面積が非常に小さくなり、その結果、内壁体5が下方に移動する圧縮時に、内壁体5が粘性体6から受ける反力を大幅に低減することができる。
【0085】
また、実施形態で示した制震壁1、1A~1Dの細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 制震壁(振動抑制装置)
1A 第1変形例の制震壁
1B 第2変形例の制震壁
1C 第3変形例の制震壁
1D 第4変形例の制震壁
2 上側構造材
3 下側構造材
4 外壁体
4a 外壁体の開口部
5 内壁体
6 粘性体
6P 被圧縮粘性体
11 外壁体の底板
12 外壁体の前板
13 外壁体の後板
14 外壁体の左右の側板
17 内壁
17a 内壁本体部
17b 内壁の上部
17c 内壁の下端部(テーパ部)
18 内壁体の天板
21 液溜まり部
22 カバー
22A 前カバー
22B 後カバー
31 内壁支持部(サブ内壁体支持機構)
31a 底板
31b スリット
31c ガイド孔
32 第4変形例の制震壁の内壁(メイン内壁体)
33 補助内壁(サブ内壁体)
33a 補助内壁のガイドプレート
34 ガイドピン
36 第4変形例の制震壁の内壁
36a 開口部
Fv 粘性力
Fk 復元力
Fc 圧縮力
t 内壁の厚さ、被圧縮粘性体の厚さ
W 内壁の幅、被圧縮粘性体の幅
h 内壁の下端と外壁体の内部底面との距離
V 被圧縮粘性体の体積
Ac 内壁の底面積、圧縮面積
δ 入力振幅
L 粘性体の液面と内壁上部の下端との距離