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特開2024-82532異常検知装置、異常検知システム、異常検知方法及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082532
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】異常検知装置、異常検知システム、異常検知方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240613BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
G05B23/02 R
G05B19/18 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196446
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂元 佑気
【テーマコード(参考)】
3C223
3C269
【Fターム(参考)】
3C223AA12
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB02
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF22
3C223GG01
3C269AB09
3C269BB12
3C269MN29
3C269MN36
3C269MN44
(57)【要約】
【課題】対象装置の異常検知を精度よく行うことができる技術を提供する。
【解決手段】対象装置の異常を検知する異常検知装置であって、前記対象装置の動作における前記第1指標値及び前記第2指標値に係る学習用データに基づき予測モデルを生成するモデル生成部と、前記第1指標値、前記第2指標値、及び前記予測モデルに基づいて、前記対象装置の異常を検知する異常検知部と、を備えており、前記予測モデルは、前記第1指標及び前記第2指標を軸とするN次元空間において複数の図形を連結した形状として表現でき、前記異常検知部は、前記N次元空間における、少なくとも前記第1指標値及び前記第2指標値に基づいて定まる実測点と前記予測モデルを構成する2以上の線分との最短距離を算出し、算出された各最短距離のうち最小の値に基づいて前記対象装置の異常を検知する異常検知装置。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象装置の異常を検知する異常検知装置であって、
前記対象装置の動作における第1指標に関する第1指標値及び前記対象装置の動作における第2指標に関する第2指標値に係る学習用データに基づき予測モデルを生成するモデル生成部と、
前記第1指標値、前記第2指標値、及び前記予測モデルに基づいて、前記対象装置の異常を検知する異常検知部と、
を備えており、
前記予測モデルは、前記第1指標及び前記第2指標をそれぞれ軸とする二次元以上の空間において、複数の図形を連結した形状として表現でき、
前記異常検知部は、
前記空間における、少なくとも前記第1指標値及び前記第2指標値に基づいて定まる実測点と前記予測モデルを構成する少なくとも2以上の図形との最短距離をそれぞれ算出し、算出された各最短距離のうち最小の値を評価値として、該評価値に基づいて前記対象装置の異常を検知する、
ことを特徴とする異常検知装置。
【請求項2】
前記図形は線分であって、
前記異常検知部は、前記実測点が前記線分のそれぞれに対して前記線分の両端よりも内側に位置するか外側に位置するかを判定し、判定の結果に応じて異なる算出方法により前記各線分との最短距離を算出する、
ことを特徴とする、請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記異常検知手段は、前記実測点が前記の両端よりも内側に位置すると判定した場合には、前記実測点と前記との間を結ぶ垂線の長さを前記最短距離として算出し、前記実測点が前記の両端よりも外側に位置すると判定した場合には、前記実測点と前記の前記実測点と近い方に位置する端点との距離を前記最短距離として算出する、
ことを特徴とする、請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記異常検知手段は、下記式1が成り立つ場合に前記実測点が前記線分の両端よりも内側に位置すると判定し、式1が成り立たない場合に前記実測点が前記線分の両端よりも外側に位置すると判定する、
ことを特徴とする、請求項3に記載の異常検知装置。
【数1】

なお、
xは第1指標値であり前記空間における前記実測点の第1指標の軸上の座標を示し、
yは第2指標値であり前記空間における前記実測点の第2指標の軸上の座標を示し、
cは前記空間における前記線分の一方の端点の第1指標の軸上の座標を示し、
dは前記空間における前記線分の一方の端点の第2指標の軸上の座標を示し、
eは前記空間における前記線分の他方の端点の第1指標の軸上の座標を示し、
fは前記空間における前記線分の他方の端点の第2指標の軸上の座標を示す。
【請求項5】
前記異常検知部は、前記実測点が前記線分の両端よりも内側に位置すると判定した場合には下記式2により前記最短距離を算出し、前記実測点が前記線分の両端よりも外側に位置すると判定した場合には下記式3により前記最短距離を算出する、
ことを特徴とする、請求項2から4のいずれか一項に記載の異常検知装置。
【数2】

【数3】

なお、
xは第1指標値であり前記空間における前記実測点の第1指標の軸上の座標を示し、
yは第2指標値であり前記空間における前記実測点の第2指標の軸上の座標を示し、
cは前記空間における前記線分の一方の端点の第1指標の軸上の座標を示し、
dは前記空間における前記線分の一方の端点の第2指標の軸上の座標を示し、
eは前記空間における前記線分の他方の端点の第1指標の軸上の座標を示し、
fは前記空間における前記線分の他方の端点の第2指標の軸上の座標を示す。
【請求項6】
対象装置の異常を検知するための異常検知システムであって、
前記対象装置の動作における第1指標に関する前記第1指標値及び前記対象装置の動作における第2指標に関する前記第2指標値に係る学習用データに基づき予測モデルを生成するモデル生成部と、
前記第1指標値、前記第2指標値、及び前記予測モデルに基づいて、前記対象装置の異常を検知する異常検知部と、
を備えており、
前記予測モデルは、前記第1指標及び前記第2指標をそれぞれ軸とする二次元以上の空間において、複数の図形を連結した形状として表現でき、
前記異常検知部は、
前記空間における、少なくとも前記第1指標値及び前記第2指標値に基づいて定まる実測点と前記予測モデルを構成する少なくとも2以上の図形との最短距離をそれぞれ算出し、算出された各最短距離のうち最小の値を評価値として、該評価値に基づいて前記対象装置の異常を検知する、
ことを特徴とする異常検知システム。
【請求項7】
対象装置の異常を検知するための異常検知方法であって、
前記対象装置の動作における第1指標に関する前記第1指標値及び前記対象装置の動作における第2指標に関する前記第2指標値に係る学習用データに基づき予測モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記第1指標値、前記第2指標値、及び前記予測モデルに基づいて、前記対象装置の異常を検知する異常検知ステップと、
を備えており、
前記予測モデルは、前記第1指標及び前記第2指標をそれぞれ軸とする二次元以上の空間において、複数の図形を連結した形状として表現でき、
前記異常検知ステップでは、
前記空間における、少なくとも前記第1指標値及び前記第2指標値に基づいて定まる実測点と前記予測モデルを構成する少なくとも2以上の図形との最短距離をそれぞれ算出し、算出された各最短距離のうち最小の値を評価値として、該評価値に基づいて前記対象装置の異常を検知する、
ことを特徴とする異常検知方法。
【請求項8】
コンピュータを、少なくとも請求項6に記載の異常検知システムにおける前記異常検知部として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常検知装置、異常検知システム、異常検知方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレス機などの対象装置の異常を検知する技術として、予め設定された回帰予測モデルとの乖離に基づいて、対象装置の異常を検知することが公知となっている(特許文献1)。具体的には、対象装置の動作における第1指標に関する第1指標値と第2指標に関する第2指標値とを取得し、前記第1指標及び前記第2指標を軸とする二次元平面に示される前記第1指標値及び前記第2指標値により示される点と、前記二次元平面において折れ線グラフとして表現される回帰予測モデルとの距離に関する指標(Δh)を所定の算出方法により求め、当該指標が所定の閾値を超えた場合に異常を検知することが、特許文献1において提案されている。
【0003】
このような技術であれば、例えばプレスシステムにおけるプレス機のように、サーボモータを動力源とするような対象装置において、プレス機の加工動作による装置の実測値が標準偏差内であるか否かで異常が発生しているかを判定するような従来手法に比べて、加工動作途中のプレス荷重又はモータ速度の予測曲線が急峻な部分を含んでいた場合であっても適切に異常判定を行い、異常の誤検出を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-18753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の技術であっても、回帰予測モデルとしての折れ線グラフを構成する各線分の接続点の近傍に前記第1指標値及び前記第2指標値により示される点(以下では、実測点ともいう)がある場合には、接続点の両側にある各線分の傾きの差が大きいほど、実測点と回帰予測モデルとの実際の距離と、算出されるΔhとの誤差が大きくなってしまう、という課題があった。また、特許文献1に開示の技術では、回帰予測モデルが増加関数と減少関数を含むモデルではΔhを求めることができないという課題もあった。
【0006】
本発明の一態様は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、対象装置の異常検知を精度よく行うことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る異常検知装置は、次の構成を採用する。即ち、
対象装置の異常を検知する異常検知装置であって、
前記対象装置の動作における第1指標に関する第1指標値及び前記対象装置の動作における第2指標に関する第2指標値に係る学習用データに基づき予測モデルを生成するモデル生成部と、
前記第1指標値、前記第2指標値、及び前記予測モデルに基づいて、前記対象装置の異常を検知する異常検知部と、
を備えており、
前記予測モデルは、前記第1指標及び前記第2指標をそれぞれ軸とする二次元以上の空
間において、複数の図形を連結した形状として表現でき、
前記異常検知部は、
前記空間における、少なくとも前記第1指標値及び前記第2指標値に基づいて定まる実測点と前記予測モデルを構成する少なくとも2以上の図形との最短距離をそれぞれ算出し、算出された各最短距離のうち最小の値を評価値として、該評価値に基づいて前記対象装置の異常を検知する、
ことを特徴とする異常検知装置、である。
【0008】
上記のような構成によれば、予測モデルを示す折れ線グラフの形状に関わらず、適切に異常検知を行うことができる。
【0009】
また、前記図形は線分であって、前記異常検知部は、前記実測点が前記線分のそれぞれに対して前記線分の両端よりも内側に位置するか外側に位置するかを判定し、判定の結果に応じて異なる算出方法により前記各線分との最短距離を算出するものであってもよい。ここで、前記「線分」は前記予測モデルを構成する線分であって前記二次元以上の空間における前記第1指標の軸及び前記第2指標の軸で定まる空間に平行な線分とすることができる。即ち、第1指標をX軸、第2指標をY軸、第3指標をZ軸とする三次元空間を例にすると、XY平面上の線分とすることができる。また、「線分の両端よりも内側に位置する」とは、前記実測点の座標を示す前記第1指標値と前記第2指標値のうち一方の指標(ここでは、仮に第1指標とする)に係る指標値が、前記線分の一方の端点の座標を示す第1指標の値以上、かつ、前記線分の他方の端点の座標を示す第1指標の値以下、であることをいう。また、「線分の両端より外側に位置する」とは、実測点の第1指標値が、前記線分の両端の座標に係る第1指標の値のうち小さい方の値よりも小さく、大きい方の値よりも大きい、ことをいう。このような構成によれば前記の最短距離を適切に算出することができる。
【0010】
また、前記異常検知手段は、前記実測点が前記線分の両端よりも内側に位置すると判定した場合には、前記実測点と前記線分との間を結ぶ垂線の長さを前記最短距離として算出し、前記実測点が前記線分の両端よりも外側に位置すると判定した場合には、前記実測点と前記線分の前記実測点と近い方に位置する端点との距離を前記最短距離として算出するのであってもよい。
【0011】
この際に、前記異常検知手段は、下記式1が成り立つ場合に前記実測点が前記線分の両端よりも内側に位置すると判定し、式1が成り立たない場合に前記実測点が前記線分の両端よりも外側に位置すると判定するようにしてもよい。
【数1】
【0012】
また、前記異常検知部は、前記実測点が前記線分の両端よりも内側に位置すると判定した場合には下記式2により前記最短距離を算出し、前記実測点が前記線分の両端よりも外側に位置すると判定した場合には下記式3により前記最短距離を算出するようにしてもよい。
【数2】

【数3】
【0013】
なお、上記各式において、xは第1指標値であり前記空間における前記実測点の第1指標の軸上の座標を示し、yは第2指標値であり前記空間における前記実測点の第2指標の軸上の座標を示し、cは前記空間における前記線分の一方の端点の第1指標の軸上の座標を示し、dは前記空間における前記線分の一方の端点の第2指標の軸上の座標を示し、eは前記空間における前記線分の他方の端点の第1指標の軸上の座標を示し、fは前記空間における前記線分の他方の端点の第2指標の軸上の座標を示す。
【0014】
また、本発明は次のような異常検知システムとして捉えることもできる。即ち、
対象装置の異常を検知するための異常検知システムであって、
前記対象装置の動作における第1指標に関する第1指標値及び前記対象装置の動作における第2指標に関する第2指標値に係る学習用データに基づき予測モデルを生成するモデル生成部と、
前記第1指標値、前記第2指標値、及び前記予測モデルに基づいて、前記対象装置の異常を検知する異常検知部と、
を備えており、
前記予測モデルは、前記第1指標及び前記第2指標をそれぞれ軸とする二次元以上の空間において、複数の図形を連結した形状として表現でき、
前記異常検知部は、
前記空間における、少なくとも前記第1指標値及び前記第2指標値に基づいて定まる実測点と前記予測モデルを構成する少なくとも2以上の図形との最短距離を算出し、算出された各最短距離のうち最小の値を評価値として、該評価値に基づいて前記対象装置の異常を検知する、
ことを特徴とする異常検知システム、である。
【0015】
また、本発明は、コンピュータを少なくとも上記の異常検知システムにおける前記異常検知部として機能させるためのプログラム、そのようなプログラムを非一時的に記録したコンピュータ読取可能な記録媒体、としても捉えることもできる。
【0016】
また、本発明は、次のような異常検知方法としても捉えることができる。即ち、
対象装置の異常を検知するための異常検知方法であって、
前記対象装置の動作における第1指標に関する第1指標値及び前記対象装置の動作における第2指標に関する第2指標値に係る学習用データに基づき予測モデルを生成するモデル生成ステップと、
前記第1指標値、前記第2指標値、及び前記予測モデルに基づいて、前記対象装置の異常を検知する異常検知ステップと、
を備えており、
前記予測モデルは、前記第1指標及び前記第2指標をそれぞれ軸とする二次元以上の空間において、複数の図形を連結した形状として表現でき、
前記異常検知ステップでは、
前記二次元平面における、少なくとも前記第1指標値及び前記第2指標値に基づいて定まる実測点と前記予測モデルを構成する少なくとも2以上の図形との最短距離を算出し、算出された各最短距離のうち最小の値を評価値として、該評価値に基づいて前記対象装置の異常を検知する、
ことを特徴とする異常検知方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、対象装置の異常検知を精度よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、実施形態1に係る異常検知装置及び対象装置を模式的に示すブロック図である。
図2図2Aは、第1指標値及び第2指標値の実測値を示すグラフである。図2Bは、第1指標値及び第2指標値の実測値のスケールを正規化した状態を示すグラフである。図2Cは、実施形態1の予測モデルを示すグラフである。
図3図3Aは、従来技術における課題を説明するための第1の説明図である。図3Bは、従来技術における課題を説明するための第2の説明図である。
図4図4は、異常検知部の異常検知の手法を説明する説明図としてのグラフである。
図5図5Aは、実測点と予測モデルにおける線分との位置関係について説明する第1の説明図である。図5Bは、実測点と予測モデルにおける線分との位置関係について説明する第2の説明図である。
図6図6は、実施形態1の異常検知装置による予測モデル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図7図7は、実施形態1の異常検知装置による異常検知処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図8図8は、実施形態1の異常検知装置による評価値算出に係る処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図9図9は、実施形態2に係る異常検知システム2を模式的に示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<適用例>
(適用例の構成)
以下、本発明の実施形態の一例について説明する。本発明は、例えば図1に示すような異常検知装置10として適用することができる。図1は、本適用例に係る異常検知装置10及び対象装置を模式的に示したブロック図である。
【0020】
図1に示すように、異常検知装置10は、例えば製造現場において用いられ、対象装置9の異常を検知する装置である。異常検知装置10は、例えば、PLC(Programmable Logic Controller)によって構成することができる。この場合には、異常検知装置10は、対象装置9の動作を制御するものであってもよい。異常検知装置10は、フィールドネットワーク、ローカルネットワーク等のネットワークを介して対象装置9と接続されている。なお、異常検知装置10と接続される対象装置9は複数であっても構わない。
【0021】
対象装置9は、例えば、サーボモータを動力源として駆動するプレス機器などとすることができる。対象装置9の一例であるプレス機器は、サーボモータを回転運動し、サーボモータの回転運動をアクチュエータにより直線運動に変換して、圧入ワークを被圧入ワーク内にプレスツールを介して圧入する。
【0022】
異常検知装置10は、対象装置9の動作に係るデータを収集し、学習し、監視する機能を有している。異常検知装置10は、対象装置9から、例えば、サーボモータに係る情報(例えばトルク、速度、及び位置等)、ロードセルによって測定されるプレスツールに掛かる負荷の情報、及び変位センサによって検知されたセンサ値を取得する。
【0023】
異常検知装置10は、対象装置9の動作に係るデータに基づく、第1指標に関する第1指標値(例えば対象装置9の動作の段階に係る値)及び第2指標に関する第2指標値(例えば対象装置9の動作の負荷に係る値)を取得して、これらの2つの指標値を参照して、対象装置9に異常が生じているか否かを判定することによって、対象装置9の異常を検知
する。
【0024】
具体的には、異常検知装置10は、学習用データに基づいて第1指標値及び第2指標値に係る予測モデルを予め生成する。なお、当該予測モデルは、前記第1指標及び前記第2指標を軸とする二次元平面において、傾きを有する複数の線分を連結した形状、即ち、いわゆる折れ線グラフとして表現される。
【0025】
そして、前記の二次元平面において、リアルタイムで取得する第1指標値及び第2指標値により示される点(以下、実測点という)と折れ線グラフとして示される予測モデルの各線分との最短距離を算出し、算出された前記各線分との最短距離のうち最小の値を評価値として、該評価値に基づいて対象装置9に異常が生じているか否かを判定する。
【0026】
以上のような本適用例に係る異常検知装置10によれば、実測点と予測モデルの各線分との最短距離のうち最も小さい値を評価値として異常検知を行うことで、予測モデルを示す折れ線グラフの形状に関わらず、適切に異常検知を行うことができる。
【0027】
<実施形態1>
続けて図1乃至図8に基づいて、上記適用例に係る実施形態の一例についてさらに詳しく説明する。
【0028】
(異常検知装置の構成)
図1に示すように、異常検知装置10は、制御部11、通信部12、記憶部13を備えている。
【0029】
制御部11は、異常検知装置10全体の制御を司る演算装置である。制御部11は、例えば1つ以上のプロセッサ(例えばCPUなど)を含んで構成され、1つ以上のメモリ(例えばRAMやROMなど)に記憶されているプログラムを実行することで、後述するような所定の目的を果たす機能部を実現することができる
【0030】
通信部12は、対象装置9との間でネットワークを介して通信を行い、データの送受信を実行する。通信部12は、例えば、通信IC(Integrated Circuits)などの集積回路を用いて実現される。通信部12は、有線通信、又は無線通信により対象装置9との間で通信を行う。
【0031】
記憶部13は、制御部11によって用いられる各種データ、及び、制御部11によって実行される各種ソフトウェアを記憶している。また、記憶部13は、制御部11によって、対象装置9から取得した各種データ、制御部11によって生成された学習済みモデル(予測モデル)、対象装置9の異常検知のための基準値、などを記憶している。
【0032】
(制御部11の構成について)
制御部11は、取得部101、基準生成部102、正規化部103、及び異常検知部104の各機能部を有している。
【0033】
取得部101は、通信部12を介して、対象装置9の動作における第1指標に関する第1指標値と、第2指標に関する第2指標値と、を取得する。上述のように、対象装置9の動作における第1指標の値及び第2指標の値は、サーボモータに係る情報(例えばトルク、速度、及び位置等)、ロードセルによって測定されるプレスツールに掛かる負荷の情報、及び変位センサによって検知されたセンサ値などとすることができる。
【0034】
基準生成部102は、取得部101によって対象装置9から取得された、第1指標値及
び第2指標値を収集して、収集した第1指標値及び第2指標値に基づいて、機械学習によって、例えば回帰分析の手法により予測モデルを生成する。即ち、本実施形態における基準生成部102が、本発明に係るモデル生成部に相当する。回帰分析の手法として、例えば多変量適応的回帰スプライン(MARS:Multivariate Adaptive Regression Splines)を採用することができる。
【0035】
予測モデルは、第1指標と第2指標とを軸とする二次元平面における折れ線グラフとして示すことができ、対象装置9が正常な状態における第1指標値及び第2指標値の関係を表す。
【0036】
本実施形態においては、第1指標に関する第1指標値は、対象装置9の動作の段階に係る値であり、対象装置9がサーボプレス機器である場合には、第1指標値は、例えば一連のプレス動作における進行度合いを示す値である。具体的には、例えば、一連のプレス動作の開始から終了まで何割工程が進行しているかを示す値(例えばサーボモータの位置又はプレスツールの位置)、又は一連のプレス動作の開始からの経過時間などとすることができる。また、第2指標に関する第2指標値は、対象装置9の負荷(ロードセルの負荷)に係る値である。即ち、この場合において、予測モデルは時系列予測モデルであるといえる。
【0037】
なお、第1指標値及び第2指標値は、一連のプレス動作における進行度合いを示す値と、対象装置9の負荷に係る値と、に限られるものではなく、サーボモータの位置、トルク、速度、対象装置9に関する測定値等の値を適宜に選択して用いることができる。
【0038】
正規化部103は、第1指標と、第2指標とを軸とする二次元平面における、第1指標のスケールと第2指標のスケールとをそれぞれ正規化する。具体的には、基準生成部102による第1指標値及び第2指標値との機械学習の結果に基づいて、第1指標のスケールと、第2指標のスケールとを正規化する。正規化は、第1指標のスケールと第2指標のスケールとを一致させるために行われる。当該正規化されたスケールによる二次元平面に対して、予測モデルを示す折れ線グラフが設定されてもよい。
【0039】
図2Aは、サーボプレス機器である対象装置9から収集された、複数回分のプレス動作における第1指標値、及び第2指標値を示すグラフであり、第1指標(位置)を横軸とし、第2指標(負荷)を縦軸としている。そして、図2Bは正規化部103によって正規化された、第1指標値、及び第2指標値を示すグラフである。また、図2Cは、収集データを用いて、正規化部103によって正規化されたスケールに対して基準生成部102によって生成された予測モデルを示したグラフである。
【0040】
図2Cに示すように、予測モデルは折れ線グラフとして表現され、正規化部103によって正規化された第1指標に関する第1指標値である対象装置9の動作の段階に係る値(例えば位置)を横軸に、正規化部103によって正規化された第2指標に関する第2指標値である負荷に係る値を縦軸に示している。
【0041】
予測モデルは、例えば、以下の(式4)によって示される回帰予測モデルf(x)である。なお、yidealは予測モデル上の第2指標値を示し、xnormは正規化された第1指標値を示す。
【0042】
【数4】
【0043】
正規化部103は、取得部101により取得された、第1指標値の実測値xactと第2指標値の実測値yactとを、下記の式5、式6を用いて正規化した、xnormとynormとを求める。
【0044】
【数5】
【0045】
【数6】
【0046】
ここで、xmin、yminは、それぞれ記憶部13に記憶されている第1指標値、及び第2指標値の実測値xact、yactの最小値としてもよいし、予測モデルの折れ線グラフ上に示される第1指標値、及び第2指標値の最小値としてもよい。また、xmax、ymaxも同様に、それぞれ記憶部13に記憶されている第1指標値、及び第2指標値の実測値xact、yactの最大値としてもよいし、予測モデルにおける第1指標値、及び第2指標値の最大値としてもよい。
【0047】
異常検知部104は、正規化部103によって求められたxnorm、ynorm、及び基準生成部102によって生成された予測モデルに基づいて、対象装置9の異常を検知する。具体的には、異常検知部104は、図2Cに示す二次元平面におけるxnorm、ynormによって定まる点、即ち第1指標値及び第2指標値の実測値を正規化された二次元平面上で示す点(以下では、実測点ともいう)と、二次元平面上で折れ線として示される予測モデルの各線分との最短距離をそれぞれ算出する。そして、算出された各線分との最短距離のうち最小の値を、対象装置9の異常を検知するための評価値ΔHとし、これに基づいて異常の有無を判定することで、対象装置9の異常を検知する。
【0048】
なお、評価値ΔHを用いて対象装置9の異常有無の判定を行う具体的な手法として、例えば、評価値ΔHが所定の基準を満たさない場合に対象装置9に異常があると判定するようにしてもよい。
【0049】
なお、特許文献1として挙げた文献に開示の従来の技術では、正規化した第1指標値xnorm、第2指標値ynormの、それぞれの理想値xideal、yidealからの偏差であるΔxと、Δyとを求め、Δx、Δyを用いて第1指標値、第2指標値により示される点の、予測モデルからの距離Δhを算出したうえで、距離Δhが所定の閾値の範囲内に収まるか否かによって異常判定を行っていた。しかしながら、このような手法では、図3Aに示すように予測モデルとしての折れ線グラフを構成する各線分の接続点(折れ線グラフの変曲点)の近傍に実測点がある場合には、接続点の両側にある各線分の傾きの差が大きいほど、実測点と予測モデルとの実際の距離と、算出されるΔhとの誤差が大きくなってしまう。また、図3Bに示すように予測モデルが増加関数と減少関数を含むモデルでは、Δx、Δyが定まらないため、Δhを求めることができなかった。
【0050】
この点、本実施形態に係る異常検知部104が行う手法であれば、予測モデルの全ての線分に対して各実測点からの最短距離を求めたうえで、それらのうちの最小値を評価値としているため、上記のような従来技術の課題を克服することができる。
【0051】
以下では、異常検知部104による評価値ΔH算出の具体的な手法について、図4図5A及び図5Bに基づいてさらに詳しく説明する。図4は、異常検知部104の異常検知の手法を説明するための説明図としての仮想的な折れ線グラフである。グラフには、対象
装置9に係る第1指標をX軸に、第2指標をY軸に取った二次元平面上に示された予測モデル、及びある一時点における実測点(x,y)が示されている。また、図4に示すように、予測モデルは4つの線分からなる折れ線であり、各線分を定義する端点として(a,b)、(c,d)、(e,f)、(g,h)、(i,j)、が示されている。なお、図4において、x、a、c、e、g、iは二次元平面上のX軸座標(第1指標値)を示し、y、b、d、f、h、jは二次元平面上のy軸座標(第2指標値)を示している。
【0052】
なお、図4に示すような二次元平面上における予測モデルの各線分と実測点との位置関係として、図5A及び図5Bに示す2通りの位置関係が考えられる。即ち、図5Aに示すように実測点が線分の両端よりも(X軸上の)外側にある場合と、図5Bに示すように実測点が線分の両端よりも(X軸上の)内側にある場合である。図4の例でいえば、実測点(x,y)は端点(c,d)及び(e,f)で定義される線分の内側に位置しており、それ以外の線分に対しては外側に位置していることになる。
【0053】
異常検知部104は、予測モデルを構成する各線分のベクトル成分を求める。具体的には、例えば、図4における左から2番目の線分であれば((e-c),(f-d))として求めることができる。
【0054】
また、異常検知部104は、実測点と各線分との位置関係が、線分の両端よりも内側にあるのか外側にあるのかを判定する。具体的には、図4の左から2つ目の線分を例にした場合、実測点が線分の内側にある場合には、ベクトルの内積から式1に示す条件を満たすことになるため、式1の条件を満たす場合には実測点は線分の両端の内側に位置し、そうでない場合には線分の両端の外側に位置する、ということになる。
【数7】
【0055】
そして、異常検知部104は、実測点が線分の両端の内側に位置しているか否かに応じて異なる計算方法により、実測点と各線分との最短距離を算出する。具体的には、図4の左から2つ目の線分を例にした場合、実測点が線分の両端の内側に位置している場合には、下記の式2の計算式により最短距離を算出する。また、実測点が線分の両端の外側に位置している場合には、下記の式3の計算式により最短距離を算出する。
【数8】

【数9】
【0056】
異常検知部104は、このようにして実測点と各線分との最短距離を算出したうえで、該最短距離の中から最も値が小さいものを、評価値ΔHとして決定し、評価値ΔHと所定の判定基準とに基づいて、対象装置9の異常を検知する。
【0057】
具体的には、例えば、対象装置9が正常に稼働している際の特徴量(例えば、ΔHの最大値、最小値)を用いて機械学習を行い、異常検知用のモデルを生成し、当該モデルを用いて、対象装置9監視時の実測データ(例えば実測点毎のΔH)のAIスコアを算出するようにしてもよい。そして、算出されたAIスコアが異常検知用の閾値を逸脱すると、対象装置9に異常があると判定する。ここで、異常検知用の閾値は特徴量の分布などに基づき、68-95-99.7則などの統計的指標を基に設定することができる。このような
手法で異常の有無を判定することで、特徴量が多次元になった場合であっても「AIスコア」という一つの値で閾値設定することができる。
【0058】
(異常検知装置の処理の流れ)
次に、図6乃至図8に基づいて、異常検知装置10における処理の流れの一例を説明する。図6は、異常検知装置10による予測モデル生成処理の流れの一例を示すフローチャートである。図7は、異常検知装置10による異常検知処理の流れの一例を示すフローチャートである。図8は、異常検知装置10による評価値算出に係る処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0059】
図6に示すように、予測モデル生成処理において、異常検知装置10の制御部11は、まず、取得部101の機能により、第1指標に関する第1指標値及び第2指標に関する第2指標値を通信部12を介して正常稼働時の対象装置9から取得する(S101)。
【0060】
制御部11は、取得部101の機能により取得した第1指標に関する第1指標値及び第2指標に関する第2指標値を記憶部13に記憶する(S102)。
【0061】
制御部11は、対象装置9による一連の加工動作が終了したか否かを判定する(S103)。ここで、対象装置9による一連の加工動作が終了したと判定すると、ステップS104に進む。一方、ステップS103で対象装置9による一連の加工動作が終了していないと判定すると、ステップS101に戻り、以後の処理を繰り返す。
【0062】
ステップS104では、制御部11は基準生成部102の機能により、記憶部13に記憶された対象装置9による一連の加工動作に係る第1指標値及び第2指標値について、機械学習を行い、予測モデルを生成する(S104)。そして、制御部11は、生成した予測モデルを記憶部13に記憶して(S105)、予測モデル生成に係る一連の処理を終了する。また、制御部11は、評価値に関する正常範囲を予め設定し、記憶部13に記憶させるようにしてもよい。正常範囲は、ユーザによって入力されてもよい。
【0063】
なお、ステップS104において、制御部11は、基準生成部102による機械学習の結果を参照して、正規化部103の機能により、第1指標と、第2指標とのスケールを正規化するようにしてもよい。即ち、基準生成部102は、正規化部103によって正規化されたスケールと、機械学習の結果とに基づいて、対象装置9による一連(動作開始から動作完了までの1ストローク)の加工動作に関する予測モデル(正規化された予測モデル)を生成する。
【0064】
異常検知装置10は、ステップS105にて記憶された予測モデルを参照して、異常検知部104の機能により、対象装置9による加工動作を監視し、対象装置9による加工動作に異常が生じた際に、それを検知する。
【0065】
図7に基づいて、異常検知装置10による異常検知処理の流れの一例について説明する。図7に示すように、異常検知装置10は先ず、記憶部13に記憶されている予測モデルを読み出す(S201)。対象装置9の動作中、異常検知装置10の制御部11は、取得部101の機能により、通信部12を介して、対象装置9から、第1指標に関する第1指標値及び第2指標に関する第2指標値を取得する(S202)。次に、制御部11は、正規化部103の機能により、取得部101によって取得した第1指標値及び第2指標値のそれぞれを、上述した式5、式6を用いて正規化する(S203)。
【0066】
次に制御部11は、ステップS203で正規化された第1指標値及び第2指標値によって定義される実測点の評価値を算出する(S204)。図8は、ステップS204の処理
に係るサブルーティンを示すフローチャートである。
【0067】
図8に示すように、制御部11はステップS204のサブルーティンにおいて、予測モデルの各線分のベクトル成分を求め(S301)、実測点と各線分との位置関係を計算する(S302)。具体的には上述の条件式(式7)により実測点が線分の両端の内側にあるのか外側にあるのかを決定する。
【0068】
続けて、制御部11は、ステップS302で決定した位置関係に応じて、実測点と各線分との最短距離を算出する(S303)。具体的には上述のように、実測点が線分の両端の内側にある場合には式8により、線分の両端の外側にある場合には式9により、最短距離を算出する。そして、算出した最短距離の中から、最も値が小さいものをその実測点の評価値ΔHとして決定し(S304)、サブルーティンを終了する。
【0069】
説明を図7のフローチャートに戻すと、ステップS204で実測点の評価値ΔHが算出されると、制御部11は、対象装置9による一連の加工動作が終了したか否かを判定する(S205)。ここで、対象装置9による一連の加工動作が終了したと判定すると、ステップS206に進む。一方、ステップS205で対象装置9による一連の加工動作が終了していないと判定すると、ステップS202に戻り、以後の処理を繰り返す。これにより、制御部11は、対象装置9の一連の動作中(例えば、所定時間間隔毎)に、通信部12を介して対象装置9から、第1指標値及び第2指標値の取得を継続して行う。
【0070】
ステップS206では、制御部11は、異常検知部104の機能により、評価値ΔHを所定の判定基準と照合することにより対象装置9に異常があるか否かを判定し(S207)、一連の処理を終了する。異常検知部104は、例えば、評価値ΔHの平均、分散又は標準偏差が、所定の閾値よりも大きければ、対象装置9の一連の動作全体において異常が生じていると判定してもよい。なお、制御部11は、ステップS207で異常があると判定した(即ち異常が検知された)場合には、異常がある旨を何らかの出力手段により出力するようにしてもよい。
【0071】
以上のような本実施形態の異常検知装置10によれば、対象装置9の加工動作開始から加工動作終了までを監視し、異常予兆を早期に検知することができる。また、対象装置9の動作過程でセンサ値が急峻に変化する場面においても、異常が生じているか否かを適切に判定することができる。また、対象装置9の動作の段階に係る値と、対象装置9の動作の負荷に係る値とを、用いて異常判定を行うことで、対象装置9の動作の各段階において適切に異常判定を行うことができる。また、実測点と予測モデルの各線分との最短距離のうち、最も小さい値を評価値として異常検知を行うことで、予測モデルを示す折れ線グラフの形状に関わらず、精度よく異常検知を行うことができる。
【0072】
(変形例1)
なお、上記の異常検知処理の流れの説明では、対象装置9の一連の動作が終了した段階で、対象装置9に異常があるか否かの判定を行う例について説明を行ったが、異常検知部104による異常検知処理はこれに限定されない。例えば、評価値ΔHそのものに対して、異常検知のための閾値(上限又は下限又は上下限)を設定しておき、算出される評価値ΔHが当該閾値を逸脱した場合には直ちに異常として検知することも可能である。このような方法を行った場合には、対象装置9における一連の加工動作の終了を待つことなく、速やかに異常検知を行うことができる。
【0073】
(変形例2)
また、評価値ΔHは単に予測モデルと実測点との距離を示す値(絶対値)としておいてもよいが、これに限られるわけではなく、評価値ΔHが正負の符号を持つようにしておい
てもよい。具体的には、例えば、異常検知部104は、第2指標値(負荷)が予測モデルに対して大きい側である場合には、評価値ΔHに正の符号を付し、第2指標値が予測モデルに対して小さい側である場合には、評価値ΔHに負の符号を付すようにしておいてもよい。そのうえで、異常検知部104は、正負の符号が付された評価値ΔHが、予め設定された上下限閾値(正常範囲)内であるか否かに基づいて、対象装置9に異常が生じているか否かを判定するようにしてもよい。
【0074】
なお、対象装置9の種類によっては、第2指標値(負荷)が、予測モデルに対して大きい側である場合には、第2指標値が予測モデルに対して小さい側である場合よりも、異常の可能性が高いことも考えられ得る。このため、異常検知部104は、評価値ΔHに付された正負の符号に応じて、対象装置9に異常が生じているか否かを判断するために用いる評価値ΔHの閾値を異ならせてもよい。即ち、評価値ΔHに関する正常範囲の境界を示す正の符号側の閾値と負の符号側の閾値の絶対値は異なっていてもよい。このような構成により、対象装置9の構成や特徴量を算出するための各指標値の内容等に応じて、適切な評価値ΔHの閾値を設定するが可能になる。
【0075】
(変形例3)
また、上記のステップS303の処理において、異常検知部104は、実測点が線分の両端より外側に位置すると判断した場合には、それらの各線分に対して式3を用いた計算を行うのではなく、他の手法によりこれらに対する「最短距離」を求めるようにしてもよい。具体的には、例えば、実測点が線分の両端よりも外側にあると判断した場合には、式1の条件を満たす線分(即ち、実測点が線分の両端よりも内側となる線分)の端点までの距離を、その他の線分に対する「最短距離」として扱うようにしてもよい。
【0076】
図4を参照してより具体的に説明すると、実測点(x,y)が(c,d)(e,f)で定義される線分(左から2番目の線分)の内側にある場合に、(e,f)(g,h)で定義される線分(左から3番目の線分)、及び(g,h)(i,j)で定義される線分(左から4番目の線分)については、(x,y)から(e,f)までの距離を「最短距離」とする。また、(a,b)(c,d)で定義される線分(左から1番目の線分)に対しては、(x,y)から(c,d)までの距離を「最短距離」とする。このような構成によれば、制御部11が最短距離を算出するための演算に係る各種負荷を低減させることができる。
【0077】
<実施形態2>
次に図9に基づいて、本発明に係る他の実施形態について説明する。図9は、本実施形態に係る異常検知システム2を模式的に示したブロック図である。図9に示すように、異常検知システム2は、対象装置9、異常検知装置21、基準生成装置22、データサーバ23を有しており、これらの各構成はネットワークを介して通信可能に接続されている。なお、本実施形態における対象装置9は、実施形態1と同様の構成であるため、説明は省略する。
【0078】
異常検知装置21は、例えばPLCによって構成することができ、一台以上の対象装置9をリアルタイムで監視するとともにこれらの制御を行う。異常検知装置21は、制御部210及び図示しないが通信部を含む各種入出力部を備えている。制御部210は、CPU等のプロセッサを含んで構成され、異常検知装置21を統括的に制御することによって、取得部211、正規化部212、異常検知部213の各機能部を実現する。ここで、取得部211、正規化部212、異常検知部213の機能部はそれぞれ、実施形態1の異常検知装置10に係る取得部101、正規化部103、異常検知部104と同様の機能を備えている。このため、各機能部についての改めての説明は省略する。
【0079】
基準生成装置22は、例えばCPU等のプロセッサ、記憶手段、キーボードやマウス等の入力手段、液晶ディスプレイ等の出力手段(いずれも図示せず)、を備える汎用のコンピュータとすることができ、機能部として基準生成部221を有している。なお、基準生成装置22は、単一のコンピュータで構成されてもよいし、互いに連携する複数台のコンピュータによって構成されてもよい。基準生成部221は実施形態1の異常検知装置10に係る基準生成部102と同様の機能を備えている。このため、基準生成部221についての説明は省略する。
【0080】
データサーバ23は、例えばサーバ専用の情報処理端末や、NAS(Network Attachment Storage)などによって構成することができ、対象装置9、異常検知装置21、基準生成装置22から送信された情報を受信して記憶するとともに、これらから要求を受けて記憶された情報を各装置に送信する。具体的には、データサーバ23は、例えば異常検知装置21、基準生成装置22によって用いられる各種データ、及び、これらの装置によって実行される各種ソフトウェアを記憶する。また、データサーバ23は、異常検知装置21が対象装置9から取得した各種データ、基準生成装置22によって生成された学習済みモデル(予測モデル)、対象装置9の異常検知のための基準値、などを記憶する。
【0081】
即ち、本実施形態に係る異常検知システム2は、実施形態1における異常検知装置10が有していた機能部を部分的に別体の装置として実現したものである。具体的には、予測モデルの生成を異常検知装置21とは別体の基準生成装置22で行い、異常検知装置21はデータサーバ23に記憶されている予測モデルを読み出して、異常検知処理を実行する。このような構成によれば、対象装置9の具体的構成や設置場所、ユーザの事業環境などの諸々の状況に応じて、異常検知装置10の一部の機能をクラウド化したクラウドシステムとして、対象装置9の異常検知を行うことも可能になる。
【0082】
<その他>
上記各例は、本発明を例示的に説明するものに過ぎず、本発明は上記の具体的な形態には限定されない。本発明はその技術的思想の範囲内で種々の変形及び組み合わせが可能である。例えば、上記の説明では、対象装置9がサーボモータを動力源として駆動するプレス機器である場合を例に挙げた。しかしながら、対象装置9はプレス機器に限らず、サーボモータを動力源として駆動する他の装置であってもよい。また、異常検知装置10による異常検知処理は、サーボモータに限らず、ステッピングモータや、その他の単なるモータを動力源として駆動する装置にも適用可能である。さらに、異常検知装置10による異常検知処理は、モータに限らず、油圧、空気圧等の一般的なアクチュエータを動力源として駆動する装置にも適用可能である。
【0083】
具体的には、例えばロボットハンドを用いて作業を行う対象装置において、作業段階(経過時間)を第1指標とし、ロボットハンドの位置を第2指標として、対象装置の異常を検知するようにしてもよい。また、その他にも例えばX-Yステージ上で撮像手段(及びX線源)を移動させて検査対象のX線画像を取得するようなX線撮像装置において、撮像手段のX-Yステージ上のX座標(第1指標値)とY座標(第2指標値)の関係に基づいて、X線撮像装置の異常を検知するようにしてもよい。
【0084】
また、上記各例では、実測点が予測モデルの各線分の両端よりも内側にあるのか否かを、式1を用いて判定していたが、これ以外の方法によって判定を行うのであってもよい。具体的には例えば、予測モデルにおける線分を延長した直線の式に対する実測点からの垂線の交点の座標と、線分の両端の座標から構成されるベクトルの大きさと線分のベクトルの割合をtとした時、0≦t≦1であれば、実測点は線分の両端よりも内側に位置すると判定し、それ以外は外側に位置すると判定するようにしてもよい。
【0085】
また、上記各例では、予測モデルを構成する全ての線分に対して、実測点からの最短距離を求める例を示したが、必ずしもこのようにする必要はない。例えば、図4に示す例で説明すると、実測点の座標が0.3<x<0.8であるような場合には、左から2番目の線分との最短距離、及び左から3番目の線分との最短距離のみを求めるようにしてもよい。
【0086】
また、上記各例では第1指標と第2指標及び、第1指標と第2指標をそれぞれ軸とする二次元平面上で表現される予測モデルを用いる例を説明したが、本発明はこれに限られず、少なくとも第1指標及び第2指標を軸として含むN次元空間(N≧2)で表現される予測モデルを用いて、異常検知を行うことも可能である。
【0087】
また、上記の異常検知装置10、異常検知装置21及び基準生成装置22の一部又は全ての機能部は、ASIC(Aapplication Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)のようなハードウェア回路によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
【0088】
<付記1>
対象装置(9)の異常を検知する異常検知装置(10)であって、
前記対象装置の動作における第1指標に関する第1指標値及び前記対象装置の動作における第2指標に関する第2指標値に係る学習用データに基づき予測モデルを生成するモデル生成部(102)と、
前記第1指標値、前記第2指標値、及び前記予測モデルに基づいて、前記対象装置の異常を検知する異常検知部(104)と、
を備えており、
前記予測モデルは、前記第1指標及び前記第2指標をそれぞれ軸とする二次元以上の空間において、複数の図形を連結した形状として表現でき、
前記異常検知部は、
前記空間における、少なくとも前記第1指標値及び前記第2指標値に基づいて定まる実測点と前記予測モデルを構成する少なくとも2以上の図形との最短距離を算出し、算出された各最短距離のうち最小の値を評価値として、該評価値に基づいて前記対象装置の異常を検知する、
ことを特徴とする異常検知装置。
【0089】
<付記2>
対象装置(9)の異常を検知するための異常検知システム(2)であって、
前記対象装置の動作における第1指標に関する第1指標値及び前記対象装置の動作における第2指標に関する第2指標値に係る学習用データに基づき予測モデルを生成するモデル生成部(221)と、
前記第1指標値、前記第2指標値、及び前記予測モデルに基づいて、前記対象装置の異常を検知する異常検知部(213)と、
を備えており、
前記予測モデルは、前記第1指標及び前記第2指標をそれぞれ軸とする二次元以上の空間において、複数の図形を連結した形状として表現でき、
前記異常検知部は、
前記空間における、少なくとも前記第1指標値及び前記第2指標値に基づいて定まる実測点と前記予測モデルを構成する少なくとも2以上の図形との最短距離を算出し、算出された各最短距離のうち最小の値を評価値として、該評価値に基づいて前記対象装置の異常を検知する、
ことを特徴とする異常検知システム。
【0090】
<付記3>
対象装置の異常を検知するための異常検知方法であって、
前記対象装置の動作における第1指標に関する第1指標値及び前記対象装置の動作における第2指標に関する第2指標値に係る学習用データに基づき予測モデルを生成するモデル生成ステップ(S104)と、
前記第1指標値、前記第2指標値、及び前記予測モデルに基づいて、前記対象装置の異常を検知する異常検知ステップ(S206)と、
を備えており、
前記予測モデルは、前記第1指標及び前記第2指標をそれぞれ軸とする二次元以上の空間において、複数の図形を連結した形状として表現でき、
前記異常検知ステップでは、
前記空間における、少なくとも前記第1指標値及び前記第2指標値に基づいて定まる実測点と前記予測モデルを構成する少なくとも2以上の図形との最短距離を算出し、算出された各最短距離のうち最小の値を評価値として、該評価値に基づいて前記対象装置の異常を検知する、
ことを特徴とする異常検知方法。
【符号の説明】
【0091】
2・・・異常検知システム
9・・・対象装置
10、21・・・異常検知装置
11、210・・・制御部
101、211・・・取得部
102、221・・・基準生成部
103、212・・・正規化部
104、213・・・異常検知部
12・・・通信部
13・・・記憶部
22・・・基準生成装置
23・・・データサーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9