(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082547
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】電動機用ステータ
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20240613BHJP
H02K 3/34 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H02K15/02 A
H02K3/34 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196476
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000190611
【氏名又は名称】日東シンコー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 将吾
(72)【発明者】
【氏名】二村 圭哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 悠斗
(72)【発明者】
【氏名】上田 悟司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 修
【テーマコード(参考)】
5H604
5H615
【Fターム(参考)】
5H604AA06
5H604AA08
5H604BB01
5H604BB14
5H604CC01
5H604CC05
5H604CC15
5H604DA15
5H604DA19
5H604DB01
5H604DB26
5H604PB03
5H604PE06
5H615AA03
5H615BB01
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP08
5H615PP12
5H615QQ12
5H615RR02
5H615SS09
5H615SS18
5H615SS24
5H615TT34
5H615TT39
(57)【要約】
【課題】ワニス含浸率のばらつきに影響されずに、巻線とステータコアのリサイクルに好適な電動機用ステータを提供すること。
【解決手段】筒状のステータコア11のスロット内に、ワニス31により絶縁紙41及び巻線21が固定される電動機用ステータ10において、加熱した第1温度の場合に、絶縁紙41の基材42の少なくとも一方側に設けられる接着剤G1,G2の接着力が、ワニス31の接着力未満となる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のステータコアのスロット内に、ワニスにより絶縁紙及び巻線が固定される電動機用ステータにおいて、
加熱した第1温度の場合に、
前記絶縁紙の基材の少なくとも一方側に設けられる接着剤の接着力が、前記ワニスの接着力未満となる
電動機用ステータ。
【請求項2】
前記第1温度の場合に、
前記基材の両側に設けられる接着剤の接着力が、前記ワニスの接着力未満となる
請求項1に記載の電動機用ステータ。
【請求項3】
前記第1温度の場合に、
前記基材の巻線側に設けられる巻線側接着剤の接着力が、前記基材のステータコア側に設けられるコア側接着剤の接着力未満で、かつ、前記コア側接着剤の接着力が、ワニスの接着力未満の関係となる
請求項1に記載の電動機用ステータ。
【請求項4】
常温、又は加熱前の温度に相当する第2温度の場合に、
前記基材の両面の接着剤の接着力が、前記ワニスの接着力以下となる
請求項1から3のいずれか一項に記載の電動機用ステータ。
【請求項5】
前記絶縁紙は、前記基材と、前記基材の両側に接着される表面材とを有する多層構造であり、
前記第1温度の場合に、前記基材と前記表面材との間の接着剤の接着力が、前記ワニスの接着力未満となる
請求項1から3のいずれか一項に記載の電動機用ステータ。
【請求項6】
当該電動機用ステータは、車両用電動機に使用されるステータである
請求項1から3のいずれか一項に記載の電動機用ステータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機用ステータに関する。
【背景技術】
【0002】
ワニスをスロット内における隙間に浸透させ、絶縁紙及び巻線をステータコアに固着する電動機用ステータが開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、巻線を固定する手法として発泡絶縁紙を用いた技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4973420号公報
【特許文献2】特許第5497532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スロット内は狭い空間のためワニス含浸率のばらつきが大きく、一般的にスロットから溢れる程度に含浸している。ワニス含浸率のばらつきが大きいと、巻線の接着力(接着強度、固着強度とも称される)のばらつきが大きくなり、巻線を分離するときに時間を要する場合や、接着力が強いために分離できない場合が生じる。
また、スロット内の占有率(スロット内に含まれる巻線の割合)が大きい場合、破砕方式の解体が一般的である。破砕方式の場合、巻線の金属素材と他の素材とが混在し、低品位材としてのリサイクルとなってしまい、ステータコア(電磁鋼板)のリサイクルも困難である。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、ワニス含浸率のばらつきに影響されずに、巻線とステータコアのリサイクルに好適な電動機用ステータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
筒状のステータコアのスロット内に、ワニスにより絶縁紙及び巻線が固定される電動機用ステータにおいて、加熱した第1温度の場合に、前記絶縁紙の基材の少なくとも一方側に設けられる接着剤の接着力が、前記ワニスの接着力未満となる電動機用ステータを提供する。
【発明の効果】
【0006】
ワニス含浸率のばらつきに影響されずに、巻線とステータコアのリサイクルに好適な電動機用ステータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る電動機用ステータを示す図である。
【
図2】絶縁紙の断面構造をステータコア及び巻線と共に模式的に示す図である。
【
図5】第2実施形態における引抜工程の状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0009】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る電動機用ステータを示す図である。
この電動機用ステータ10は、回転磁界を発生させる部品であり、車両に搭載される電動機に使用されるステータである。但し、この電動機用ステータ10は、車両用に限定しなくてもよい。以下、電動機用ステータ10を「ステータ10」と表記する。
ステータ10は、筒状のステータコア11と、ステータコア11に取り付けられるコイル12とを備える。ステータコア11には、周方向に間隔を空けて内周側に突出するティース11Tが設けられる。隣接するティース11T間に形成されるスロット内に、絶縁紙41を介して巻線21が配置され、ワニス31(
図2)の含浸を行うことによって、絶縁紙41及び巻線21がステータコア11に固定される。
【0010】
図1中の符号C1は、ステータ10の軸方向を示しており、電動機の軸方向とも一致する。巻線21の端部には配電部品15が設けられる。
一般的に、コイル12は、巻線21に相当するが、本説明において、コイル12をステータコア11に組み付けた後にコイル12を分離した場合には、コイル12側に、絶縁紙41の少なくとも一部が付着する。そのため、絶縁紙41についてもコイル12側の部材として表記する場合がある。
【0011】
ステータコア11は、軸方向C1に電磁鋼板を積層して構成される。ステータコア11は、円筒の外周部分を構成するヨーク11Aと、ヨーク11Aから内周側に突出するティース11Tとを備える。
巻線21は、所定形状に束ねられ、ティース11T間に形成される各スロットに配置される。本構成の巻線21は、U字状の導体をスロットに挿入し、一方側をクローズ、他方側をオープンのセグメントとした、いわゆるSC巻線(セグメントコンダクタコイル)である。なお、巻線21はSC巻線に限定されない。
【0012】
巻線21は、鋼線、銅線又はアルミ線等の金属導体の周囲を、絶縁性を有する被膜(以下、絶縁被膜という)で覆った線材である。絶縁被膜は、例えば、エナメル被膜である。エナメル被膜の成分は、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、及びポリアミドイミド等である。
【0013】
ワニス31は、絶縁性を有する熱硬化樹脂であり、巻線21等への接着性を有し、巻線21の保護膜及び固定材として機能する。より具体的には、ワニス31をスロット内の隙間に浸透させるワニス含浸処理を行うことによって、ワニス31が巻線21等を接着すると共に固化する。これによって、コイル12の絶縁機能の強化を行うと共に、機械的強度の向上や、湿気・埃等が巻線21内部へ入り込むことを防ぎ、放熱性も向上させる。ワニス31には公知のものを広く適用可能である。
【0014】
絶縁紙41は、絶縁性を有するシート材であり、絶縁シートとも称される。絶縁紙41を、巻線21とステータコア11との間に配置することによって、巻線21とステータコア11との間の絶縁機能が強化される。
【0015】
図2は、絶縁紙41の断面構造をステータコア11及び巻線21と共に模式的に示す図である。
図2に示すように、絶縁紙41は、基材42、及び、基材42の両面に接着剤G1,G2でそれぞれ接着される表面材33,43からなる多層構造を有している。多層構造を有することで、絶縁紙41に望まれる性能を得やすくなり、つまり、絶縁性、耐熱性及び機械強度等を向上させ易くなる。例えば、基材42には、高い絶縁性及び高い耐熱性を有するポリアミドエポキシアロイ製のシート材が採用され、表面材33,43には、高い強度及び高い耐熱性を有するアラミド紙が採用される。また、多層構造を採用することによって、絶縁紙41内に、接着剤G1,G2からなる接着層を設けることができる。
【0016】
本説明において、接着剤G1,G2を区別して表記する場合、基材42よりも巻線21側に位置する接着剤G1を「巻線側接着剤G1」と表記し、基材42よりもステータコア11側に位置する接着剤G2を「コア側接着剤G2」と表記する。
図2に示すように、ステータコア11と巻線21のそれぞれの表面と、絶縁紙41の間には、ワニス31が存在する。接着剤G1,G2は、高温の場合に接着力(接着強度、固着強度とも称される)が低下する温度変化特性を有している。本構成では、接着剤G1,G2の調整(選定や成分調整等)によって、接着剤G1,G2が次の条件(1)(2)を満たしている。
【0017】
通常温度T0のときの接着力:接着剤G1,G2≦ワニス31・・・条件(1)
引抜時の温度TXのときの接着力:接着剤G1,G2<ワニス31・・・条件(2)
【0018】
通常温度T0は、常温、又は、後述する加熱工程で加熱される前の温度である。通常温度T0は、電動機用ステータ10の使用時の温度範囲内の温度でもあり、電動機使用時の温度と言うこともできる。
引抜時の温度TXは、加熱工程で加熱された後の引抜工程のときの温度である。接着剤G1,G2の接着力を、ワニス31の接着力未満まで低下させる加熱温度が温度T1(以下、「高温T1」と表記する)である。接着剤G1,G2は一旦高温T1に加熱されると通常温度T0にまで温度が下がった場合に、略元の接着力同等まで戻る、若しくは、元の接着力まで復元せず、接着力は、接着剤G1,G2<ワニス31の状態を維持する。引抜時の温度TXは、高温T1、及び、高温T1後の適宜な温度(例えば、常温等の通常温度T0)であればよい。なお、ワニス31は一旦高温T1に加熱した場合でも通常温度T0まで下ると接着力は略元の接着力まで戻る。高温T1は、本発明の「第1温度」に相当し、通常温度T0は、本発明の「第2温度」に相当する。
【0019】
ところで、この種のステータをリサイクルする場合、ステータを解体する必要があり、従来、破砕方式の解体が一般的である。
図3は、破砕方式を示す図である。
ステップSAで示す前処理は、破砕前に行う工程であり、破砕せずに取り除ける部材の除去を行う。ステップSBで示す破砕・選別は、所定の破砕機を用いて、破砕対象であるステータを破砕した後、所定の選別機を用いて、巻線の破砕片、及びステータコア(電磁鋼板)の破砕片を選別する。
【0020】
しかし、選別しても、巻線の破断片には、巻線の金属と異なる不純物の含有量が多く、低品位材としてのリサイクルとなってしまう。なお、電磁鋼板の破砕片にも、電磁鋼板と異なる素材が混入している。現時点では、電磁鋼板のリサイクルは一般的に困難である。
【0021】
破砕方式以外の方法で分離しようとした場合、従来のステータは、ワニスによる巻線の接着力のばらつきに起因して、巻線を分離するときに時間を要する場合や、接着力が強いために分離できない場合が生じる。特に、車両用電動機のステータは、温度や振動等に厳しい環境で使用されることから、構造が複雑であり、巻線等も強固に接着される。そのため、破砕方式以外の方法で分離することが困難であった。
【0022】
これに対し、本構成では、上記条件(2)に記載するように、引抜時の温度TXのときの接着力を、「接着剤G1,G2<ワニス」としているので、接着剤G1,G2の箇所を境にして、巻線21を分離し易くなり、分離に要する時間の短縮化や、分離に要する設備の簡略化が可能である。
また、上記条件(1)に記載するように、通常温度T0のときの接着力を「接着剤G1,G2≦ワニス」としているので、電動機として使用しているとき等の接着力を、ワニス31の接着力と同程度まで確保することで、十分な接着力を維持できる。
【0023】
次に、ステータ10から巻線21を分離する方法について説明する。
図4は、巻線21を分離する引抜方式を示す図である。
ステップS1の加熱工程では、ステータ10を予め定めた設定温度T2まで加熱する。設定温度T2は、接着剤G1,G2の接着力をワニス31の接着力未満まで低下させる高温T1又は高温T1以上にステータ10を加熱する温度である。なお、加熱工程は、焼成工程、加熱工程、及び熱処理工程等と言うこともできる。
引抜工程では、ステータ10に対し、ステータコア11から巻線21を軸方向C1に引き抜く荷重F1を付与する。本構成のステータ10は、引抜時の接着力が、「接着剤G1,G2<ワニス」となるので、接着剤G1,G2の箇所K1、K2(
図4参照)のいずれかの箇所を境にして、巻線21をステータコア11から分離することができる。
【0024】
図4に示す箇所K1、K2のいずれかで、巻線21を分離することができるので、巻線21側に残る部分が、絶縁紙41の一部で済む。また、加熱工程後、接着剤G1,G2が元の接着力同等に戻るまで、若しくは、接着力が、接着剤G1,G2<ワニス31の状態を維持する場合のいずれにおいても、引抜時の接着力が「接着剤G1,G2<ワニス」であるので、ワニス31の接着力が強いために巻線21を分離できない事態を回避でき、引き抜く加重F1も相対的に小さい加重で済む。
【0025】
なお、高温T1は、接着剤G1,G2の接着力が、巻線21を引き抜き可能な程度まで十分に低下する温度に設定され、加重F1は、接着剤G1,G2の箇所K1、K2のいずれかで分離するのに適切な加重に設定される。換言すると、高温T1で巻線21を引き抜き可能な接着力となるように、接着剤G1,G2が調整、或いは選定される。また、設定温度T2、高温T1,温度TX、荷重F1、及び接着剤G1,G2の接着力等の各種パラメータについては、適宜な値を設定すればよい。
【0026】
ステップS3の後工程では、巻線21の表面に熱を加え、巻線21の表面を覆う絶縁被膜を焼き切る。この場合、絶縁被膜を焼き切ることが可能な高温の熱を加えることで、絶縁被膜を短時間で除去できる。
絶縁被膜を除去することで、分離した巻線21側に残る異素材をより低減できる。したがって、分離した巻線21側の金属比率をより高めることができ、リサイクルに好適となる。
【0027】
以上説明したように、本実施形態のステータ10は、加熱した高温T1(第1温度に相当)の場合に、絶縁紙41の基材42の両側に設けられる接着剤G1,G2の接着力が、ワニス31の接着力未満となる。そのため、高温T1にした後、ステータコア11から巻線21を引き抜く荷重を作用させることで、接着剤G1,G2のいずれかの箇所を境にして巻線21を引き抜き易くなる。したがって、ワニス含浸率のばらつきに影響されずに巻線21を分離し易くなり、かつ、巻線21側に残る異素材も低減できる。その結果、高品位材として巻線21のリサイクルが可能となる。さらに、分離に要する時間の短縮化や、分離に要する設備の簡略化も可能である。また、ステータコア11から巻線21を分離できるので、ステータコア11のリサイクル、つまり、電磁鋼板のリサイクルがし易くなる。これらにより、巻線21とステータコア11のリサイクルに好適なステータ10を提供できる。
【0028】
また、常温、又は加熱前の温度に相当する通常温度T0(第2温度に相当)の場合に、基材42の両面の接着剤G1,G2の接着力が、ワニス31の接着力以下となる。そのため、電動機として使用しているとき等の接着剤G1,G2の接着力を、ワニス31と同程度まで確保することができ、十分な接着力を維持できる。
【0029】
また、絶縁紙41は、基材42と、基材42の両側に接着される表面材33,43とを有する多層構造であり、高温T1の場合に、基材42と表面材33,43との間の接着剤G1,G2の接着力が、ワニス31の接着力未満となる。そのため、高温T1にした後、接着剤G1,G2を境にして巻線21を分離し易くしながら、巻線21側に残る異素材をより低減し易くなる。したがって、分離した巻線21側の金属比率を高め易くなる。
【0030】
さらに、ステータ10は、車両用電動機に使用されるステータである場合には、温度や振動等に厳しい環境で使用されることから、構造が複雑であり、巻線等も強固に接着される構成であっても、高温T1にすることで、巻線21を容易に分離し易くなる。
また、巻線21の表面を覆う絶縁被膜を焼き切る後工程を行うので、巻線21側に残る異素材をより低減でき、分離した巻線21側の金属比率をより高めることができる。
【0031】
[第2実施形態]
第2実施形態は、条件(1)に加えて、次の条件(3)を満たしている点が、第1実施形態と異なる。
【0032】
引抜時の温度TXのときの接着力:巻線側接着剤G1<コア側接着剤G2<ワニス31・・・条件(3)
【0033】
図5は、第2実施形態における引抜工程の状態を模式的に示す図である。
第2実施形態では、ステータ10を高温T1に加熱することで、基材42の巻線側接着剤G1の接着力が、基材42のコア側接着剤G2の接着力未満で、かつ、コア側接着剤G2の接着力が、ワニス31の接着力未満の関係となる。引抜時の温度TXは、高温T1、及び、高温T1後の適宜な温度(例えば、通常温度T0と同じ温度)であればよい。そのため、
図5に示すように、引抜工程において、接着剤G1の箇所K1を境にして、巻線21をステータコア11から分離することができる。
この場合、コア側接着剤G2の箇所K2を境にして分離する場合と比べ、巻線21側に絶縁紙41の基材42が残る事態を回避できる。したがって、第2実施形態では、第1実施形態と比べて、巻線21側に残る異素材を安定して低減でき、巻線21とステータコア11のリサイクルにより好適となる。
【0034】
上記の各実施形態は、あくまでも本発明の一実施の態様であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変形、及び応用が可能である。例えば、絶縁紙41を上記の構造に限定しなくてもよい。例えば、絶縁紙41を、接着剤G1,G2のいずれかを使用する範囲で、適宜な構造に変更してもよく、絶縁紙41の材料等も適宜に変更してもよい。また、SC巻線仕様のステータ10に本発明を適用する場合を説明したが、SC巻線仕様以外のステータに本発明を適用してもよい。例えば、分布巻き仕様のステータは、ワニスを含侵し、
図2と同一の構造を有するものがあり、本発明を適用することによって、ワニス含浸率のばらつきに影響されずに巻線21を分離し易くなる。また、ステータ10は、四輪車、及び鞍乗り型車両といった車両用のステータに限定されず、航空機、船舶、及び、その他の産業用のステータとしても用いてもよい。さらに、このステータ10を、電動機及び発電機を含む回転電機用のステータとして広く用いてもよい。
【0035】
[上記実施の形態によりサポートされる構成]
上記実施の形態は、以下の構成をサポートする。
【0036】
(構成1)筒状のステータコアのスロット内に、ワニスにより絶縁紙及び巻線が固定される電動機用ステータにおいて、加熱した第1温度の場合に、前記絶縁紙の基材の少なくとも一方側に設けられる接着剤の接着力が、前記ワニスの接着力未満となる電動機用ステータ。
この構成によれば、第1温度にした後、ステータコアから巻線を引き抜く荷重を作用させることで、絶縁紙の基材の少なくとも一方側に設けられる接着剤の箇所を境にして巻線を引き抜き易くなる。したがって、ワニス含浸率のばらつきに影響されずに巻線を分離し易くなり、かつ、巻線側に残る異素材も低減できることから、巻線とステータコアのリサイクルに好適なステータを提供できる。
【0037】
(構成2)前記第1温度の場合に、前記基材の両側に設けられる接着剤の接着力が、前記ワニスの接着力未満となる構成1に記載の電動機用ステータ。
この構成によれば、基材の両側に設けられる接着剤のいずれかの箇所を境にして巻線を分離し易くなる。
【0038】
(構成3)前記第1温度の場合に、前記基材の巻線側に設けられる巻線側接着剤の接着力が、前記基材のステータコア側に設けられるコア側接着剤の接着力未満で、かつ、前記コア側接着剤の接着力が、ワニスの接着力未満の関係となる構成1又は2に記載の電動機用ステータ。
この構成によれば、第1温度にした後、基材の巻線側に設けられる接着剤の箇所を境にして巻線を分離し易くなり、巻線側に残る異素材を安定して低減し易くなる。
【0039】
(構成4)常温、又は加熱前の温度に相当する第2温度の場合に、前記基材の両面の接着剤の接着力が、前記ワニスの接着力以下となる構成1から3のいずれか一項に記載の電動機用ステータ。
この構成によれば、電動機として使用しているとき等の接着剤の接着力を、ワニスと同程度まで確保することができ、十分な接着力を維持できる。
【0040】
(構成5)前記絶縁紙は、前記基材と、前記基材の両側に接着される表面材とを有する多層構造であり、前記第1温度の場合に、前記基材と前記表面材との間の接着剤の接着力が、前記ワニスの接着力未満となる構成1から4のいずれか一項に記載の電動機用ステータ。
この構成によれば、第1温度にした後、基材両側の接着剤を境にして巻線を分離し易くしながら、巻線側に残る異素材をより低減し易くなる。
【0041】
(構成6)当該電動機用ステータは、車両用電動機に使用されるステータである構成1から5のいずれか一項に記載の電動機用ステータ。
この構成によれば、構造が複雑であり、巻線等も強固に接着される車両用電動機用のステータであっても、第1温度にすることで、容易に巻線を分離し易くなる。
【符号の説明】
【0042】
10…電動機用ステータ、11…ステータコア、11A…ヨーク、11T…ティース、12…コイル、21…巻線、31…ワニス、33,43…表面材、41…絶縁紙、42…基材、G1…巻線側接着剤、G2…コア側接着剤、T0…通常温度(加熱温度、第2温度)、TX…引抜時の温度、T1…高温(加熱温度、第1温度)、T2…設定温度、C1…軸方向。