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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082549
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】巻線分離方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/02 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
H02K15/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196480
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二村 圭哉
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 将吾
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA03
5H615BB01
5H615BB05
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP12
5H615QQ03
5H615QQ06
5H615QQ12
5H615SS03
5H615SS09
(57)【要約】
【課題】車両に採用される電動機用ステータに適用でき、かつ、巻線への通電を利用した加熱を適用でき、巻線のリサイクルに好適な巻線分離方法を提供すること。
【解決手段】ステータコア11と、ステータコア11に取り付けられるコイル12とを備え、コイル12の巻線21とステータコア11の間に絶縁紙41を有する電動機用ステータ10から、巻線21を分離する巻線分離方法であって、巻線21は、絶縁性を有する被膜で覆われ、電動機用ステータ10を加熱する加熱工程と、電動機用ステータ10の所定の溶接部及び巻線21の一部を切断する切断工程と、ステータコア11から巻線21を引き抜く引抜工程とを備え、絶縁紙41の耐熱温度は、巻線21の被覆のガラス転移点温度よりも低い。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータコアと巻線の間に絶縁紙を有する電動機用ステータから、前記巻線を分離する巻線分離方法であって、
前記巻線は、絶縁性を有する被膜で覆われ、
前記電動機用ステータを加熱する加熱工程と、前記電動機用ステータの所定の溶接部及び前記巻線の一部を切断する切断工程と、前記ステータコアから前記巻線を引き抜く引抜工程とを備え、
前記絶縁紙の耐熱温度は、前記被覆のガラス転移点温度よりも低い
巻線分離方法。
【請求項2】
前記加熱工程の加熱温度は、前記絶縁紙の耐熱温度以上、かつ、前記被覆のガラス転移点温度より低い
請求項1に記載の巻線分離方法。
【請求項3】
前記加熱工程は、前記巻線への通電により前記加熱温度まで加熱する
請求項2に記載の巻線分離方法。
【請求項4】
前記ステータコアには、周方向に間隔を空けて内周側に突出するティースが設けられ、隣接する前記ティース間に形成されるスロット内に、ワニスにより前記絶縁紙及び前記巻線が固定される
請求項1から3のいずれか一項に記載の巻線分離方法。
【請求項5】
前記切断工程では、前記引抜工程の障害となる溶接部、及び、前記巻線のうち、前記ステータコアに対して軸方向一方側に位置する曲げ部を切断し、
前記引抜工程では、前記ステータコアから前記巻線を軸方向他方側に引き抜く
請求項1から3のいずれか一項に記載の巻線分離方法。
【請求項6】
前記電動機用ステータは、車両用電動機に使用されるステータである
請求項1から3のいずれか一項に記載の巻線分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫、エアコン、及び洗濯機等に用いられる家電用の電動機用ステータに対し、ステータコアの一方の端面の付近で突出した巻線コイルの巻線渡り部分を切断し、一端が切断された巻線コイルをステータコアの他方の端面の側に軸方向に相対的に引き抜く巻線コイル分離方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4079758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
家電用の電動機用ステータと比べ、車両に採用される電動機用ステータは、温度や振動等に厳しい環境で使用されることから、構造が複雑であり、巻線等も強固に接着されることが一般的である。そのため、従来の分離方法では、車両に採用される電動機用ステータから巻線を分離することが難しかった。
【0005】
例えば、車両に採用される電動機用ステータ等には、ワニスをスロット内における隙間に浸透させ、ワニスにより絶縁紙及びコイル(巻線)を強力にステータコアに固着する構造が採用される。スロット内は狭い空間のためワニス含浸率のばらつきが大きく、一般的にスロットから溢れる程度に含浸している。ワニス含浸率のばらつきが大きいと、巻線の接着力(接着強度、固着強度とも称される)のばらつきが大きくなり、巻線を分離するときに時間を要する場合や、接着力が強いために分離できない場合が生じる。
また、車両に採用される電動機用ステータは、スロット内の占有率(スロット内に含まれる巻線の割合)が大きいことが多く、破砕方式の解体が一般的である。破砕方式の場合、巻線を構成する銅素材と鉄系の材料とが混在し、低品位材としてのリサイクルとなってしまう。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、車両に採用される電動機用ステータに適用でき、かつ、巻線への通電を利用した加熱を適用でき、巻線のリサイクルに好適な巻線分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ステータコアと巻線の間に絶縁紙を有する電動機用ステータから、前記巻線を分離する巻線分離方法であって、前記巻線は、絶縁性を有する被膜で覆われ、前記電動機用ステータを加熱する加熱工程と、前記電動機用ステータの所定の溶接部及び前記巻線の一部を切断する切断工程と、前記ステータコアから前記巻線を引き抜く引抜工程とを備え、前記絶縁紙の耐熱温度は、前記被覆のガラス転移点温度よりも低い巻線分離方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
車両に採用される電動機用ステータに適用でき、かつ、巻線への通電を利用した加熱を適用でき、巻線のリサイクルに好適な巻線分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】発明の実施形態に係る巻線分離方法が適用される電動機用ステータを示す図である。
図2】絶縁紙の断面構造をステータコア及び巻線と共に模式的に示す図である。
図3】破砕方式を示す図である。
図4】引抜方式を示す図である。
図5】引抜工程に使用する治具の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0011】
[実施形態]
図1は、本発明の実施形態に係る巻線分離方法が適用される電動機用ステータを示す図である。
この電動機用ステータ10は、回転磁界を発生させる部品であり、車両に搭載される電動機に使用されるステータである。但し、この電動機用ステータ10は、車両用に限定しなくてもよい。以下、電動機用ステータ10を「ステータ10」と表記する。
ステータ10は、筒状のステータコア11と、ステータコア11に取り付けられるコイル12とを備える。ステータコア11には、周方向に間隔を空けて内周側に突出するティース11Tが設けられる。隣接するティース11T間に形成されるスロット内に、絶縁紙41を介して巻線21が配置され、ワニス31(図2)の含浸を行うことによって、絶縁紙41及び巻線21がステータコア11に固定される。
【0012】
図1中の符号C1は、ステータ10の軸方向を示しており、電動機の軸方向とも一致する。巻線21の端部には配電部品15が設けられる。
一般的に、コイル12は、巻線21に相当するが、本説明において、コイル12をステータコア11に組み付けた後にコイル12を分離した場合には、コイル12側に、絶縁紙41の少なくとも一部が付着する。そのため、絶縁紙41についてもコイル12側の部材として表記する場合がある。
【0013】
ステータコア11は、軸方向C1に電磁鋼板を積層して構成される。ステータコア11は、円筒の外周部分を構成するヨーク11Aと、ヨーク11Aから内周側に突出するティース11Tとを備える。
巻線21は、所定形状に束ねられ、ティース11T間に形成される各スロットに配置される。本構成の巻線21は、U字状の導体をスロットに挿入し、一方側をクローズ、他方側をオープンのセグメントとした、いわゆるSC巻線(セグメントコンダクタコイル)である。なお、巻線21はSC巻線に限定されない。
【0014】
巻線21は、鋼線、銅線又はアルミ線等の金属導体の周囲を、絶縁性を有する被膜(以下、絶縁被膜という)で覆った線材である。絶縁被膜は、例えば、エナメル被膜である。エナメル被膜の成分は、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、及びポリアミドイミド等である。
【0015】
ワニス31は、絶縁性を有する熱硬化樹脂であり、巻線21等への接着性を有し、巻線21の保護膜及び固定材として機能する。より具体的には、ワニス31をスロット内の隙間に浸透させるワニス含浸処理を行うことによって、ワニス31が巻線21等を接着すると共に固化する。これによって、コイル12の絶縁機能の強化を行うと共に、機械的強度の向上や、湿気・埃等が巻線21内部へ入り込むことを防ぎ、放熱性も向上させる。ワニス31には公知のものを広く適用可能である。
【0016】
絶縁紙41は、絶縁性を有するシート材であり、絶縁シートとも称される。絶縁紙41を、巻線21とステータコア11との間に配置することによって、巻線21とステータコア11との間の絶縁機能が強化される。
【0017】
図2は、絶縁紙41の断面構造をステータコア11及び巻線21と共に模式的に示す図である。
図2に示すように、絶縁紙41は、基材42、及び、基材42の両面に接着剤G1,G2でそれぞれ接着される表面材33,43からなる多層構造を有している。多層構造を有することで、絶縁紙41に望まれる性能を得やすくなり、つまり、絶縁性、耐熱性及び機械強度等を向上させ易くなる。例えば、基材42には、高い絶縁性及び高い耐熱性を有するポリアミドエポキシアロイ製のシート材が採用され、表面材33,43には、高い強度及び高い耐熱性を有するアラミド紙が採用される。また、多層構造を採用することによって、絶縁紙41内に、接着剤G1,G2からなる接着層を設けることができる。
【0018】
本説明において、接着剤G1,G2を区別して表記する場合、基材42よりも巻線21側に位置する接着剤G1を「巻線側接着剤G1」と表記し、基材42よりもステータコア11側に位置する接着剤G2を「コア側接着剤G2」と表記する。
図2に示すように、ステータコア11と巻線21のそれぞれの表面と、絶縁紙41の間には、ワニス31が存在する。
【0019】
一般的に、従来の絶縁紙の耐熱温度は、巻線21の絶縁被覆のガラス転移点温度よりも高い。これに対し、本構成では、接着剤G1,G2の調整(選定や成分調整等)によって、絶縁紙41の耐熱温度を下げ、これによって、次の条件(A)を満たしている。
【0020】
絶縁紙41の耐熱温度<絶縁被覆のガラス転移点温度・・・条件(A)
【0021】
本構成では、予め定めた高温の温度T1(以下、「高温T1」と表記する)よりも、絶縁紙41の耐熱温度が低くなるようにしており、高温T1は、絶縁被覆のガラス転移点温度よりも低い温度である。
さらに、接着剤G1,G2は次の条件(1)(2)を満たしている。
【0022】
通常温度T0のときの接着力:接着剤G1,G2≦ワニス31・・・条件(1)
引抜時の温度TXのときの接着力:接着剤G1,G2<ワニス31・・・条件(2)
【0023】
通常温度T0は、常温、又は、後述する加熱工程で加熱される前の温度である。通常温度T0は、電動機用ステータ10の使用時の温度範囲内の温度でもあり、電動機使用時の温度と言うこともできる。
引抜時の温度TXは、加熱工程で加熱された後の引抜工程のときの温度である。高温T1は、接着剤G1,G2の接着力、ワニス31の接着力未満まで低下させる温度である。接着剤G1,G2は一旦高温T1に加熱されると通常温度T0にまで温度が下がった場合に、略元の接着力同等まで戻る、若しくは、元の接着力まで復元せず、接着力は、接着剤G1,G2<ワニス31の状態を維持する。引抜時の温度TXは、高温T1、及び、高温T1後の適宜な温度(例えば、常温等の通常温度T0)であればよい。なお、ワニス31は一旦高温T1に加熱した場合でも通常温度T0まで下ると接着力は略元の接着力まで戻る。高温T1は、本発明の「第1温度」に相当し、通常温度T0は、本発明の「第2温度」に相当する。
【0024】
つまり、本構成では、巻線21の絶縁被覆のガラス転移点温度よりも低い高温T1のときに、接着剤G1,G2の強度が、接着剤G1,G2の位置を境にして巻線21を容易に分離できる程度に低くなるようにしている。高温T1にした後、巻線21の絶縁被覆は維持されるので、巻線21を絶縁状態に維持できる。
なお、接着剤G1,G2は、一般的に、高温の場合に接着力が低下する温度変化特性を有している。本構成では、温度T1以上であれば、ステータコア11から巻線21を分離可能な程度まで各接着剤G1,G2の接着力が低下することになる。
【0025】
ところで、この種のステータをリサイクルする場合、ステータを解体する必要があり、従来、破砕方式の解体が一般的である。
図3は、破砕方式を示す図である。
ステップSAで示す前処理は、破砕前に行う工程であり、破砕せずに取り除ける部材の除去を行う。ステップSBで示す破砕・選別は、所定の破砕機を用いて、破砕対象であるステータを破砕した後、所定の選別機を用いて、巻線の破砕片、及びステータコア(電磁鋼板)の破砕片を選別する。
【0026】
しかし、選別しても、巻線の破断片には、巻線の金属と異なる不純物の含有量が多く、低品位材としてのリサイクルとなってしまう。なお、電磁鋼板の破砕片にも、電磁鋼板と異なる素材が混入している。現時点では、電磁鋼板のリサイクルは一般的に困難である。
【0027】
破砕方式以外の方法で分離しようとした場合、従来のステータは、ワニスによる巻線の接着力のばらつきに起因して、巻線を分離するときに時間を要する場合や、接着力が強いために分離できない場合が生じる。特に、車両用電動機のステータは、温度や振動等に厳しい環境で使用されることから、構造が複雑であり、巻線等も強固に接着される。そのため、破砕方式以外の方法で分離することが困難であった。
【0028】
これに対し、本構成では、上記条件(A)に記載するように、絶縁紙41の耐熱温度は、巻線21の絶縁被覆のガラス転移点温度よりも低い。そのため、絶縁紙41の耐熱温度以上であり、かつ、絶縁被覆のガラス転移点温度よりも低い所定の高温T1までステータ10を加熱することで、絶縁紙41の箇所を境にして、巻線21を分離し易くなる。
【0029】
具体的な巻線分離方法について説明する。
図4は、ステータ10から巻線21を分離する引抜方式を示す図である。
まず、ステップS1Aの加熱工程において、ステータ10を予め定めた設定温度T2まで加熱する。設定温度T2は、高温T1又は高温T1以上にステータ10を加熱する温度であり、巻線21の絶縁被覆のガラス転移点温度よりも低い温度である。
例えば、高温T1は、絶縁紙41の耐熱温度以上、かつ、巻線21の絶縁被覆のガラス転移点温度よりも低い温度の範囲で適宜な温度を設定すればよい。なお、加熱工程は、焼成工程、加熱工程、及び熱処理工程等と言うこともできる。
【0030】
この加熱工程では、外部電源からの電流を巻線21に流す通電加熱方法により、巻線21のオーム損による発熱を利用して巻線21を加熱する。そのため、工業炉などの炉を利用して加熱する方法と比べて、必要な熱エネルギーを低減し、二酸化酸素の発生を抑える効果を期待できる。また、通電加熱方法の場合、巻線21自体が発熱するので、巻線21周囲の絶縁紙41を効果的に温度上昇させることができる。
この加熱工程では、巻線21が絶縁被覆のガラス転移点温度よりも低いので、巻線21の絶縁性を維持でき、巻線21の短絡等を適切に防止できる。なお、加熱工程は、通電加熱方法に限定しなくてもよく、例えば、炉を利用した加熱でもよい。
【0031】
ここで、図4中の符号22は、巻線21を構成するU字状の導体(セグメントコンダクタコイルに相当)である。U字状の導体22は、スロット内に配置された絶縁紙41の内側に挿入され、隣のスロットに挿入されたU字状の導体22と溶接等で接続される。
各U字状の導体22は、U字の左右で同じ方向に直線状に延びる一対の腕部22Aと、一対の腕部22Aの基端側部分を曲げて互いに連結された曲げ部22Bと、一対の腕部22Aの先端側部分を隣の腕部22Aに連結した先端部22Cとを有している。曲げ部22Bは、ステータコア11に対し、軸方向一方側に位置している。
【0032】
ステップS2Aの切断工程は、ステップS3Aの引抜工程の前に行う工程であり、引抜工程での引き抜きの障害となる部分の除去を行う。この場合、導体22と他の導体22端部とを繋ぐ箇所に相当する溶接部、及び、巻線21の一部である曲げ部22Bのそれぞれを少なくとも切断する。換言すると、ステータコア11に対し、巻線21を軸方向他方側に抜くときに障害となる部分を切断する。なお、切断箇所は、引き抜きの障害となる範囲を切断できる箇所であれば、適宜な箇所を採用可能である。
【0033】
ステップS3Aの引抜工程では、ステータ10に対し、ステータコア11から巻線21を軸方向C1(軸方向他方側)に引き抜く荷重F1を付与する。
ここで、図5は、引抜工程に使用する治具90の一例を示している。
治具90は、ステータ10の巻線21を押さえるチャック91と、ステータ10の軸方向Cに移動する可動部92と、作業エリアに載置される載置台93とを有している。本構成では、チャック91は、ステータ10の周方向に沿って所定の角度間隔で設けられ、巻線21の上方等への移動を規制する。可動部92は、巻線21よりも外周であって、ステータ10の周方向に沿って所定の角度間隔で設けられる。
【0034】
図5に示すように、ステータコア11と可動部92との間には、カラー95が介挿され、各可動部92はカラー95を介してステータコア11を上方へ移動させる。
このカラー95は、環状の板形状に形成され、ステータコア11よりも剛性を有し、引抜工程で各可動部92から作用する荷重F1では変形しない。そのため、各可動部92からの押圧力を、カラー95を介してステータコア11に均等に作用させ、ステータコア11の変形を抑制しながらステータコア11を押し上げ、ステータコア11から巻線21を引き抜くことができる。
【0035】
仮に、カラー95を使用しない場合、図5に矢印αで示すように、各可動部92とステータコア11とが接触する箇所に荷重が集中し、集中した荷重でステータコア11が変形してしまう可能性が生じる。ステータコア11が変形した場合、ステータコア11を安定して押し上げることが困難になる。
【0036】
このように、複数の可動部92とステータコア11との間に、複数の可動部92からの押圧力を分散してステータコア11に伝達するカラー95を配置することで、ステータコア11を変形させずに移動させることが可能になり、ステータコア11と巻線21とを適切に分離させることが可能になる。
なお、治具90の各部の形状や構成、及びカラー95の形状等は、適宜に変更してもよい。
【0037】
本構成のステータ10は、引抜時の接着力が、「接着剤G1,G2<ワニス」となるので、接着剤G1,G2の箇所K1、K2(図2参照)のいずれかの箇所を境にして、巻線21をステータコア11から分離することができる。
【0038】
図2に示す箇所K1、K2のいずれかで、巻線21を分離することができるので、巻線21側に残る部分が、絶縁紙41の一部で済む。また、加熱工程後、接着剤G1,G2が元の接着力同等に戻るまで、若しくは、接着力が、接着剤G1,G2<ワニス31の状態を維持する場合のいずれにおいても、引抜時の接着力が「接着剤G1,G2<ワニス31」であるので、ワニス31の接着力が強いために巻線21を分離できない事態を回避でき、引き抜く加重F1も相対的に小さい加重で済む。
【0039】
なお、高温T1は、接着剤G1,G2の接着力が、巻線21を引き抜き可能な程度まで十分に低下する温度に設定され、加重F1は、接着剤G1,G2の箇所K1、K2のいずれかで分離するのに適切な加重に設定される。換言すると、高温T1で巻線21を引き抜き可能な接着力となるように、接着剤G1,G2が調整、或いは選定される。また、設定温度T2、高温T1,温度TX、荷重F1、及び接着剤G1,G2の接着力等の各種パラメータについては、適宜な値を設定すればよい。
【0040】
図4に戻り、引抜工程の後、ステップS4Aの分離工程が行われる。分離工程では、治具90から巻線21を取り外す。これにより、ステータコア11と巻線21との分離作業が完了する。
この分離作業において、本構成では、接着剤G1,G2の接着力を低下させて巻線21を軸方向C1に引き抜いている。ここで、ステータコア11のスロットは、径方向における出口側(内周側)を相対的に狭くしたボトルネック形状にすることがある。ボトルネック形状の場合、U字状の導体22を出口側(内周側)から分離し難くなる。本構成では、巻線21を軸方向C1に引き抜くので、ボトルネック形状でも、導体22を容易に分離することができる、といった利点も得られる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態の巻線分離方法は、ステータ10を加熱する加熱工程と、ステータ10の所定の溶接部及び巻線21の一部を切断する切断工程と、ステータコア11から巻線21を引き抜く引抜工程とを備えている。そして、絶縁紙41の耐熱温度は、巻線21を覆う絶縁被覆のガラス転移点温度よりも低い。
この構成によれば、加熱工程によって、絶縁被覆の絶縁性を維持しつつ絶縁紙41の耐熱温度以上にすることで、引抜工程で、絶縁紙41の箇所を基準にして巻線21を分離し易くなるし、加熱工程で、巻線21への通電を利用した加熱や、炉を利用した加熱を適用でき、加熱方法の自由度が向上する。また、絶縁紙41の箇所を基準にして巻線21を分離するので、巻線21側に付着する異素材を低減できる。これらにより、車両に採用される電動機用ステータに適用でき、かつ、巻線21への通電を利用した加熱を適用できる巻線分離方法を提供できる。例えば、高品位材として巻線21のリサイクルが可能となり、ステータコア11のリサイクル、つまり、電磁鋼板のリサイクルもし易くなる。したがって、巻線21とステータコア11のリサイクルに好適な巻線分離方法を提供できる。
【0042】
また、加熱工程の加熱温度に相当する温度T2,T1は、絶縁紙41の耐熱温度以上、かつ、絶縁被覆のガラス転移点温度より低い。この構成によれば、通電加熱方法により巻線21を加熱する場合に巻線12の短絡等を回避でき、かつ、引抜工程で、絶縁紙41の箇所で巻線21を分離し易くなる。
また、加熱工程は、巻線21への通電により加熱温度まで加熱するので、炉を使用する場合と比べて、少ないエネルギーでステータ10(特に絶縁紙41)を加熱する効果を期待でき、二酸化炭素の発生を抑え易くなる。
【0043】
また、ステータコア11には、周方向に間隔を空けて内周側に突出するティース11Tが設けられ、隣接するティース11T間に形成されるスロット内に、ワニス31により絶縁紙41及び巻線21が固定される。ワニス31により絶縁紙41、及び、巻線21が強固に固定された構成であっても、ワニス含浸率のばらつきに影響されずに巻線21を分離し易くなる。
【0044】
また、引抜工程では、ステータコア11から巻線21を軸方向C1に引き抜く。そのため、ステータコア11のスロットが径方向に沿って狭くなるボトルネック形状であっても、巻線21を容易に分離できる。
【0045】
また、切断工程では、引抜工程の障害となる溶接部、及び、巻線21のうち、ステータコア11に対して軸方向一方側に位置する曲げ部22Bを切断し、引抜工程では、ステータコア11から巻線21を軸方向他方側に引き抜く。これにより、引抜工程での巻線21の分離作業が容易になる。
【0046】
さらに、ステータ10は、車両用電動機に使用されるステータであるので、温度や振動等に厳しい環境で使用されることから、構造が複雑であり、巻線等も強固に接着される。このような構成であっても、巻線21を容易に分離することが可能である。
【0047】
上記の実施形態は、あくまでも本発明の一実施の態様であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変形、及び応用が可能である。
例えば、絶縁紙41の接着剤G1,G2の調整、或いは選定によって、絶縁紙41の耐熱温度が絶縁被覆のガラス転移点温度よりも低くなるようにする場合を説明したが、これに限定されない。例えば、絶縁紙41に発泡絶縁紙を採用し、発泡剤の調整によって、絶縁紙41の耐熱温度が絶縁被覆のガラス転移点温度よりも低くなるようにしてもよい。要するに、絶縁紙41の耐熱温度が絶縁被覆のガラス転移点温度よりも低くなる範囲で、絶縁紙41の種類、構造、及び、材料等は適宜に変更してもよい。
【0048】
また、SC巻線仕様のステータ10に本発明を適用する場合を説明したが、SC巻線仕様以外のステータに本発明を適用してもよい。例えば、分布巻き仕様のステータは、ワニスを含侵し、図2と同一の構造を有するものがあり、本発明を適用することによって、ワニス含浸率のばらつきに影響されずに巻線21を分離し易くなる。また、ステータ10は、四輪車、及び鞍乗り型車両といった車両用のステータに限定されず、航空機、船舶、及び、その他の産業用のステータでもよい。また、ステータ10は、電動機及び発電機を含む回転電機用のステータでもよい。つまり、本発明の巻線分離方法は、様々な回転電機用のステータに適用することが可能である。
【0049】
[上記実施の形態によりサポートされる構成]
上記実施の形態は、以下の構成をサポートする。
【0050】
(構成1)ステータコアと巻線の間に絶縁紙を有する電動機用ステータから、前記巻線を分離する巻線分離方法であって、前記巻線は、絶縁性を有する被膜で覆われ、前記電動機用ステータを加熱する加熱工程と、前記電動機用ステータの所定の溶接部及び前記巻線の一部を切断する切断工程と、前記ステータコアから前記巻線を引き抜く引抜工程とを備え、前記絶縁紙の耐熱温度は、前記被覆のガラス転移点温度よりも低い巻線分離方法。
この構成によれば、加熱工程によって、絶縁被覆の絶縁性を維持しつつ絶縁紙の耐熱温度以上にすることで、引抜工程で、絶縁紙の箇所を基準にして巻線を分離し易くなるし、加熱工程で、巻線への通電を利用した加熱や、炉を利用した加熱を適用でき、加熱方法の自由度が向上する。また、絶縁紙の箇所を基準にして巻線を分離するので、巻線側に付着する異素材を低減できる。したがって、車両に採用される電動機用ステータに適用でき、かつ、巻線への通電を利用した加熱を適用でき、巻線のリサイクルに好適な巻線分離方法を提供することができる。
【0051】
(構成2)前記加熱工程の加熱温度は、前記絶縁紙の耐熱温度以上、かつ、前記被覆のガラス転移点温度より低い構成1に記載の巻線分離方法。
この構成によれば、通電加熱方法により巻線を加熱する場合に巻線の短絡等を回避でき、かつ、引抜工程で、絶縁紙の箇所で巻線を分離し易くなる。
【0052】
(構成3)前記加熱工程は、前記巻線への通電により前記加熱温度まで加熱する構成2に記載の巻線分離方法。
この構成によれば、通電加熱方法を採用した場合、炉を使用する場合と比べて、少ないエネルギーでステータを加熱する効果を期待でき、二酸化炭素の発生を抑え易くなる。
【0053】
(構成4)前記ステータコアには、周方向に間隔を空けて内周側に突出するティースが設けられ、隣接する前記ティース間に形成されるスロット内に、ワニスにより前記絶縁紙及び前記巻線が固定される構成1から3のいずれか一項に記載の巻線分離方法。
この構成によれば、ワニスにより絶縁紙、及び、巻線が強固に固定された構成であっても、ワニス含浸率のばらつきに影響されずに巻線を分離し易くなる。
【0054】
(構成5)前記切断工程では、前記引抜工程の障害となる溶接部、及び、前記巻線のうち、前記ステータコアに対して軸方向一方側に位置する曲げ部を切断し、前記引抜工程では、前記ステータコアから前記巻線を軸方向他方側に引き抜く構成1から4のいずれか一項に記載の巻線分離方法。
この構成によれば、引抜工程での巻線の分離作業が容易になる。
【0055】
(構成6)前記電動機用ステータは、車両用電動機に使用されるステータである構成1から5のいずれか一項に記載の巻線分離方法。
この構成によれば、温度や振動等に厳しい環境で使用されることから、構造が複雑であり、巻線等も強固に接着されるものの、巻線を容易に分離することが可能である。
【符号の説明】
【0056】
10…電動機用ステータ、11…ステータコア、11A…ヨーク、11T…ティース、12…コイル、21…巻線、31…ワニス、33,43…表面材、41…絶縁紙、42…基材、G1…巻線側接着剤、G2…コア側接着剤、T0…通常温度(加熱温度、第2温度)、T1…引抜時の温度(加熱温度、第1温度)、T2…設定温度、C1…軸方向。
図1
図2
図3
図4
図5