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  • 特開-害虫誘引剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082563
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】害虫誘引剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 43/16 20060101AFI20240613BHJP
   A01P 19/00 20060101ALI20240613BHJP
   A01N 51/00 20060101ALI20240613BHJP
   A01M 1/02 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
A01N43/16 A
A01P19/00
A01N51/00
A01M1/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196499
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】久田 祐士
(72)【発明者】
【氏名】阿南 鋭三郎
【テーマコード(参考)】
2B121
4H011
【Fターム(参考)】
2B121AA13
2B121AA14
2B121AA17
2B121CA02
2B121CA15
2B121CA51
2B121CC02
2B121CC12
2B121CC15
2B121CC16
2B121CC29
2B121EA01
2B121FA02
2B121FA10
4H011AC07
4H011BA08
4H011BB08
4H011BB11
4H011BC19
(57)【要約】
【課題】捕獲容器に詰め替える際の変形が抑制された害虫誘引剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、誘引成分を含有する誘引液と、吸水性ポリマーとを含有する害虫誘引剤であって、前記誘引液がグリコール系化合物及び糖の少なくとも一方を10質量%以上含み、前記害虫誘引剤はスパウト付きパウチに充填されている、害虫誘引剤に関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘引成分を含有する誘引液と、吸水性ポリマーとを含有する害虫誘引剤であって、
前記誘引液がグリコール系化合物及び糖の少なくとも一方を10質量%以上含み、
前記害虫誘引剤はスパウト付きパウチに充填されている、害虫誘引剤。
【請求項2】
前記誘引液がプロピレングリコール及びマルトースの少なくとも一方を含む、請求項1に記載の害虫誘引剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハエ、コバエ等の害虫を容器内に誘引して捕獲及び/又は防除するための害虫捕獲器に用いられる害虫誘引剤の詰め替え剤として好適な害虫誘引剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ハエ、コバエ等の害虫を容器内に誘引して捕獲及び/又は防除するために害虫捕獲器が用いられている。
【0003】
害虫を容器内に誘引するために、害虫捕獲器の容器(以下、捕獲容器ともいう。)内には害虫誘引剤が備えられる。かかる害虫誘引剤として、誘引液を吸液させたゲル状の害虫誘引剤が知られている。例えば、特許文献1には、開口部を有する容器と、前記容器に層状に収容され、害虫誘引剤を含有した多数のゲル粒とを備えた害虫捕獲器であって、前記層状のゲル粒の間に、害虫が進入可能な空隙を設けることを特徴とする、害虫捕獲器が記載されている。
【0004】
特許文献1に記載の害虫捕獲器では、ゲル粒の間に害虫が進入可能な空隙を有するため、ハエ、コバエ等の隙間を好む害虫が当該空隙に侵入しやすい。そして、害虫は容器深部へ進入するほど後退が困難となり、羽や体表面などがゲル粒表面と接触することで身動きがとれなくなり、容易に捕獲することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/062613号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のような害虫誘引剤は、予め捕獲容器内に充填され、害虫捕獲器の形態で市販されている。一方で、環境配慮、例えばプラスチック削減の観点からは、捕獲容器は再利用し、害虫誘引剤を複数回捕獲容器に詰め替えできることが望ましい。また、手で触れることなく害虫誘引剤の詰め替えが可能であることが望ましい。
【0007】
しかしながら、ゲル粒状の害虫誘引剤をパウチ等の容器に充填して詰め替え剤とした場合、内容物が液体ではなく固形物であることから、捕獲容器への詰め替え時には害虫誘引剤を手で押し出す必要がある。このとき、害虫誘引剤の強度が十分でないと、押し出し時に害虫誘引剤が崩れたり、潰れたりして、変形してしまうおそれがある。害虫誘引剤が変形してしまうと、詰め替え後に害虫が進入可能な空隙が適切に設けられず、捕獲性能が損なわれるおそれがある。
【0008】
そこで本発明は、上記課題に鑑み、捕獲容器に詰め替える際の変形が抑制された害虫誘引剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、吸水性ポリマーに吸水させる誘引液に特定の成分を所定量以上配合することで、詰め替えの際に手で押し出す圧力がかかっても、害虫誘引剤の変形を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の1~2に関する。
1.誘引成分を含有する誘引液と、吸水性ポリマーとを含有する害虫誘引剤であって、
前記誘引液がグリコール系化合物及び糖の少なくとも一方を10質量%以上含み、
前記害虫誘引剤はスパウト付きパウチに充填されている、害虫誘引剤。
2.前記誘引液がプロピレングリコール及びマルトースの少なくとも一方を含む、前記1に記載の害虫誘引剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、捕獲容器に詰め替える際の変形が抑制された害虫誘引剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、スパウト付きパウチの一例を示す図であり、(a)はセンタースパウトパウチの一例を示す正面図であり、(b)はコーナースパウトパウチの一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について説明するが、以下の説明における例示によって本発明は限定されない。
本発明の害虫誘引剤は、誘引成分を含有する誘引液と、吸水性ポリマーとを含有する害虫誘引剤であって、前記誘引液がグリコール系化合物及び糖の少なくとも一方を10質量%以上含む。また、本発明の害虫誘引剤は、スパウト付きパウチに充填されている。
【0014】
(スパウト付きパウチ)
本発明の害虫誘引剤は、スパウト付きパウチに充填されている。害虫誘引剤をスパウト付きパウチに充填することで、当該スパウト付きパウチに充填された害虫誘引剤を複数回捕獲容器に詰め替えることができる。
【0015】
図1は、スパウト付きパウチの一例を示す図である。図1の(a)はセンタースパウトパウチの一例を示す正面図であり、図1の(b)はコーナースパウトパウチの一例を示す正面図である。スパウト付きパウチ100、200は、例えば、パウチ本体5と、パウチ本体5に取り付けられたスパウト2とを有する。
【0016】
図1の(a)に例示されるスパウト付きパウチ100は、正面視でパウチ本体5の上方の幅方向略中央にスパウト2が配置されたセンタースパウトパウチの一例である。図1の(b)に例示されるスパウト付きパウチ200は、正面視でパウチ本体5の上方の角部にスパウト2が配置されたコーナースパウトパウチの一例である。このほか、スパウト付きパウチは、パウチ本体が自立可能な形状となっているスタンディングパウチ等であってもよく、スパウトの配置やパウチ本体の形状等は特に限定されない。
【0017】
パウチ本体5は、可撓性を有する材料、例えば樹脂フィルム等が袋状に成形されたものである。例えば、図1におけるパウチ本体5は、その周縁部が熱溶着等の方法で接着されることで袋状に成形されている。パウチ本体は、その他の公知の方法で袋状に成形されていてもよい。害虫誘引剤は当該パウチ本体5の袋状部分の内部に充填される。このようなパウチ容器を詰め替え剤の容器に用いることで、本体容器の再利用が可能なためプラスチック使用量を比較的少なくでき、環境配慮の観点で好ましい。また、可撓性のあるパウチ容器に害虫誘引剤を充填することで、害虫誘引剤を手で押し出して取り出しやすくなる。
【0018】
スパウト2は、例えば樹脂等からなり、害虫誘引剤を捕獲容器に詰め替える際の害虫誘引剤の注出口としてパウチ本体5に取り付けられ、パウチ本体5の内部から外部へ連通する所定形状の流路を形成している。流路の形状は特に限定されないが、例えば円筒状又はこれに準ずる形状であってもよい。スパウト2は、例えば図1に示すように、上記注出口としての口部21と、口部21の下部に連設された、パウチ本体5に熱融着等の方法で接着された固着部23とを有してもよい。固着部23により、スパウト2をパウチ本体5に固定することができる。害虫誘引剤を、スパウトを介して捕獲容器に詰め替えることで、注出口が安定した形状を維持しているため捕獲容器への詰め替えを行いやすく、手などを汚しにくいため好ましい。また、図1に例示するスパウト2は、口部21にキャップ3(例えば、スクリューキャップ)を備え、口部21を複数回開閉することが可能なものである。このように、スパウト2として、キャップの着脱等により複数回開閉可能なもの(再封性を有するもの)を使用すれば、複数回の詰め替えが可能な量の害虫誘引剤をスパウト付きパウチに充填しておき、捕獲容器への詰め替えを複数回行うことが可能となるため、環境配慮や利便性の観点でより好ましい。
【0019】
すなわち、本発明は、吸水性ポリマーに誘引液を吸液させた害虫誘引剤をスパウト付きパウチに充填することは従来行われていなかったのに対し、上記のように、スパウト付きパウチに害虫誘引剤を充填して用いることで、捕獲容器への詰め替えに好適であることを見出したものである。
【0020】
スパウト付きパウチのスパウトの口径(口部の口径)は、害虫誘引剤の形状(ゲル粒の大きさ等)に応じて適宜調整すればよいが、ゲル粒の押し出しやすさの観点から、用いるゲル粒の大きさに対して1.3倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましい。例えば、ゲル粒の大きさが10mmの場合、13mm以上が好ましく、15mm以上がより好ましく、一方で、50mm以下が好ましく、40mm以下がより好ましく、30mm以下がさらに好ましい。なお、スパウトの口径とは、口内径の長さをいう。
【0021】
(害虫誘引剤)
害虫誘引剤は、誘引成分を含有する誘引液と、吸水性ポリマーとを含有する。害虫誘引剤は、より具体的には、吸水性ポリマーに誘引液を吸液させて得られるものであり、換言すれば、吸水性ポリマーに誘引液を保持させたものである。
【0022】
(誘引液)
誘引液は、誘引成分を含有することで害虫を誘引する。また、誘引液は、グリコール系化合物及び糖の少なくとも一方を10質量%以上含む。
本発明者らは上述の通り、スパウト付きパウチに害虫誘引剤を充填して用いることで、捕獲容器への詰め替えに好適であることを見出した。そして、本発明者らは、害虫誘引剤における誘引液がグリコール系化合物及び糖の少なくとも一方を所定量以上含むことで、このようなスパウト付きパウチを用いた際に、害虫誘引剤をパウチから押し出す等のために圧力がかかっても、害虫誘引剤の変形を抑制できることを見出した。その理由は定かではないが、誘引液がグリコール系化合物及び糖の少なくとも一方をある程度の量以上含むことで吸水性ポリマーへの水分の含浸量が適切に制御されるため、得られる害虫誘引剤の強度が向上すると考えられる。また、グリコール系化合物及び糖は、害虫誘引剤の誘引性を阻害しないため、これらの少なくとも一方を用いることで、害虫誘引剤の好適な誘引性と優れた強度とを両立できる。
【0023】
グリコール系化合物及び糖のうち、当該成分自体が誘引性にも寄与するという観点からは、糖が好ましい。一方で、グリコール系化合物は、害虫誘引剤における誘引液の揮散性を調整し得る成分であるため、誘引液の揮散性を調整したい場合にはグリコール系化合物を用いることも好ましい。誘引液は、グリコール系化合物及び糖の両方を含有してもよい。
【0024】
グリコール系化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールなどのアルカンジオール類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のアルカンジオール類をモノマーとしたポリエーテル類等が挙げられ、誘引性に対する影響が少ないという観点から、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコールが好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
糖としては、グルコース、フルクトース等の単糖類や、スクロース、マルトース等の二糖類等が挙げられ、これらの糖類をそのまま配合してもよく、これらの成分が主成分となるマルトースシラップ、水飴等の糖化製品を用いてもよい。製造上他成分と混合する場合が多いため、液体であるマルトース(液糖)や水飴などの糖化製品が特に好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
誘引液は、グリコール系化合物及び糖の少なくとも一方を10質量%以上含む。誘引液は、上記効果を好適に得る観点から、グリコール系化合物及び糖の少なくとも一方を12質量%以上含むことが好ましく、15質量%以上含むことがより好ましい。一方で、誘引剤を配合する必要があるため、誘引液はグリコール系化合物及び糖の少なくとも一方を50質量%以下含むことが好ましく、40質量%以下含むことがより好ましく、30質量%以下含むことがさらに好ましい。なお、誘引液がグリコール系化合物及び糖の両方を含む場合は、上記含有量は、グリコール系化合物及び糖の合計の好ましい含有量を意味する。
【0027】
誘引液は、誘引成分を含有する。誘引成分としては、例えば紹興酒、ビール、ワイン、エタノール等のアルコール類、アセトイン、黒酢、赤酢、食酢、各種果実エキス、野菜や果物の発酵物、味噌、酵母、蜂蜜、乳酸エステル類、酢酸エステル類および植物性または動物性食餌剤などが挙げられる。誘引性の観点から、誘引成分は、紹興酒、黒酢、食酢が好ましい。これらは一種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0028】
誘引効果を好適に得る観点から、誘引液における誘引成分の含有量は5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。
【0029】
誘引性に影響を及ぼさない範囲で、誘引液に各種殺虫成分を添加して殺虫効果を付与してもよい。殺虫成分としては、例えば除虫菊エキス、天然ピレトリン、プラレトリン、イミプロトリン、フタルスリン、アレスリン、トランスフルトリン、レスメトリン、フェノトリン、シフェノトリン、ペルメトリン、サイパーメスリン、エトフェンプロックス、シフルスリン、デルタメスリン、ビフェントリン、フェンバレレート、フェンプロパスリン、エムペンスリン、シラフルオフェン、メトフルトリン、プロフルトリン等のピレスロイド系化合物、フェニトロチオン、ダイアジノン、マラソン、ピリダフェンチオン、プロチオホス、ホキシム、クロルピリホス、ジクロルボス等の有機リン系化合物、カルバリル、プロポクスル、メソミル、チオジカルブ等のカーバメート系化合物、メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物、フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物、アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物、ジノテフラン、イミダクロプリド等のネオニコチノイド系化合物、メトプレン、ハイドロプレン、ピリプロキシフェン等の昆虫成長制御化合物等、およびオレンジ油、ハッカ油、ベンジルアルコール等の殺虫性精油等を殺虫成分として用いることができる。前記殺虫成分のなかでも、誘引液の溶剤として水が好適であることから、水溶性殺虫剤であるジノテフランが好ましい。水溶性殺虫成分であるジノテフランであれば、界面活性剤や有機溶媒を用いなくてもよいので忌避等の問題が発生せず好ましい。
【0030】
誘引液における殺虫成分の含有量は0.01~5質量%であることが好ましい。具体例としては、ジノテフランを用いる場合には0.05~1質量%であることが好ましい。
【0031】
この他に、飛翔性害虫の行動を阻害し(羽等を濡らして動けなくする)、捕獲して死に至らしめるために、誘引液に例えばポリブテン、天然ゴム、グアーガム、キサンタンガム、澱粉、糖類等の粘性成分を併用して薬剤の表面に高い粘性を付与するようにしてもよい。これにより、さらに捕獲性を高めることができる。
【0032】
誘引液には溶剤として水を用いることが好ましい。誘引液における水の含有量は30~90質量%が好ましく、40~80質量%がより好ましい。なお、ここでの、誘引液における水の含有量とは、得られた誘引液全体における水の含有量を意味し、配合した「水」の量を必ずしも意味しない。例えば、誘引成分として水を含む原料(紹興酒等)を配合した場合、この配合量も上記水の含有量に影響する。
【0033】
また、誘引液には、更に誘引性に支障を来たさない限りにおいてその他の成分を適宜配合することができる。
その他の成分としては、例えば誤食防止剤、防腐剤、pH調整剤、安定化剤、色素、香料等の各種補助成分が挙げられる。例えば、安息香酸デナトニウム、トウガラシエキス等の誤食防止剤、塩化セチルピリジニウム等の四級アンモニウム塩、ソルビン酸カリウム、パラベン等の防腐剤、クエン酸、リン酸これらの塩等のpH調整剤、BHT、BHA等の安定化剤、赤色、青色、黄色、緑色、黒色、茶色等を示す各種色素、メロン、バニラ、ストロベリー、マンゴー、リンゴ、ナシ、バナナ、ドリアン等の香調の香料、等が挙げられる。
また、保水剤としてトリメチルグリシンを配合すると、ゲルの水分揮散を抑えることができ、ゲルの保水性を長期に保つことができ、誘引、捕獲効果を維持できるため好ましい。トリメチルグリシンを含有する場合の含有量は0.1~10質量%であることが好ましい。
【0034】
(吸水性ポリマー)
吸水性ポリマーとしては、親水性、親油性ポリマーの何れであってもよい。例えば、澱粉-アクリロニトリルグラフト重合体の加水分解物、澱粉-アクリル酸ソーダグラフト重合体の架橋物、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリル酸ソーダの架橋物、イソブチレン-マレイン酸共重合体の架橋物及びその塩、ポリビニルアルコールアクリル酸ソーダグラフト重合体の架橋物、ポリ酢酸ビニル-エチレン系不飽和カルボン酸共重合体の架橋物の塩、長鎖アルキルアクリレート架橋重合体、ポリソルボルネン、アルキルスチレン-ジビニルベンゼン共重合体、メタクリレート系架橋重合体、変性アルキレンオキサイド等が挙げられる。
好ましくは、アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物、ポリアクリル酸共重合体が挙げられ、アクアコークTWB(住友精化社製)、ASCO HISOBEAD(AEKYUNG SPECIALTY CHEMICALS CO.LTD)等が例示される。
【0035】
(害虫誘引剤の形状)
害虫誘引剤は、吸水性ポリマーに誘引液を吸液させたゲル状のものであり、その形状は、典型的には複数のゲル粒からなる粒状である。これにより、害虫誘引剤を捕獲容器に入れた際にゲル粒同士の間に害虫が進入可能な空隙が適切に形成されるため、害虫誘引剤そのものに害虫捕獲性能を付与できる。
ゲル粒の個別の形状として、具体的には球状、棒状、立方体状、直方体状等の定形状や、これらに準じた形状、または多角形状、破片状等の不定形状が挙げられる。ゲル粒同士の間に好適に空隙を形成する観点、生産適正の観点からは、立方体状、直方体状が好ましい。害虫誘引剤を構成する複数のゲル粒は、均一の形状であっても、異なるサイズのゲル粒が混在していてもよい。
【0036】
また、ゲル粒のサイズは、ハエ、コバエ等の害虫では5~25mm、さらには8~15mmであることが好ましい。ゲル粒のサイズを前記範囲とすることで、害虫が容器深部に進入しやすくかつ脱出し難くすることが可能となり、効果的に捕獲及び/又は防除することができる。なお、ゲル粒のサイズとは、例えば球状であれば直径を指し、棒状や直方体(立方体)形状であれば長手方向の長さを指す。また、ゲル粒のサイズは、前記範囲の中であれば種々のものを併用してよい。例えば、大きいものから小さいものへとサイズに勾配をつけて捕獲容器中に積層してもよい。
【0037】
(害虫誘引剤の物性)
害虫誘引剤を構成するゲル粒は、所定条件で3Nの圧力をかけた際に元の形状を保っていることが好ましい。3Nの圧力は、使用者が軽く押す力に相当するため、3Nの圧力をかけた際に形状が変化しなければ、スパウト付きパウチから押し出す際にも変形が抑制されるといえる。害虫誘引剤を構成するゲル粒3個以上に対しこの評価を行い、そのうち個数基準で75%以上のゲル粒において元の形状を保っていることが好ましく、全てのゲル粒で元の形状を保っていることがより好ましい。
なお、圧力をかける際の条件は以下の通りである。また、「3Nの圧力をかけた際に元の形状を保っている」とは、下記条件で圧力をかけた後にゲル粒に欠落がなく、目視で確認して大きな変形が見られないことをいう。
(試験方法)
株式会社島津製作所製オートグラフ(AGS-X)で圧縮試験を行いゲル粒の形状を確認する。圧縮試験はφ70mmの金属製の円盤型治具を用い、100mm/minで実施し、3Nの圧力がかかった時点で圧縮を停止し形状を確認する。
試験条件の設定は株式会社島津製作所製オートグラフ用ソフトウェア(TRAPEZIUM X)を用いる。
【0038】
(害虫誘引剤の製造方法)
本発明の害虫誘引剤の製造方法は特に限定されないが、例えば、誘引成分を含有し、さらにグリコール系化合物及び糖の少なくとも一方を10質量%以上含む誘引液を調製し、当該誘引液を吸水性ポリマーに吸液させることを含む。誘引液の吸水性ポリマーへの吸液方法は特に限定されないが、例えば、誘引液に吸水性ポリマーを浸漬する方法が挙げられる。
【0039】
吸水性ポリマーと誘引液との比率は、質量比で、3/97~50/50が好ましく、4/96~20/80がより好ましく、5/95~10/90がさらに好ましい。
【0040】
得られた害虫誘引剤をスパウト付きパウチに充填して本発明の害虫誘引剤を得る。害虫誘引剤のスパウト付きパウチへの充填は公知の方法によればよいが、害虫誘引剤の変形を抑制できる方法を選択することが好ましい。
【0041】
(害虫捕獲器)
本発明の害虫誘引剤は、スパウト付きパウチから捕獲容器に詰め替えられて、捕獲容器中に害虫誘引剤を備える害虫捕獲器の形態で使用される。捕獲容器は少なくとも一部が開口した容器であれば特に限定されないが、例えば、害虫捕獲器に用いる捕獲容器として専用に設計されたものを用いてもよい。捕獲容器に詰め替えられた害虫誘引剤のゲル粒同士の間には、害虫が進入可能な空隙が形成されることが好ましい。これにより、空隙に進入した害虫の後退を妨げ、害虫誘引剤自体に害虫捕獲性能を付与できる。本発明によれば、スパウト付きパウチから捕獲容器に詰め替える際に害虫誘引剤の変形が抑制されているので、詰め替え後にもゲル粒同士の間に適切に空隙を形成でき、害虫誘引剤の害虫捕獲性能を損なわない。
【0042】
ゲル粒同士の間の空隙は、害虫の大きさに応じて適宜調整できるが、ハエ、コバエ等を対象とする場合は2~5mmが好ましい。アリ、ダンゴムシ、ワラジムシ、ゴキブリ等を対象とする場合は5~10mmが好ましい。空隙を調整するには、例えば、ゲル粒のサイズ(例えば大きさや長さ)や容器内におけるゲルの収容状態を調整する方法が挙げられる。
【0043】
捕獲容器内におけるゲル粒数は例えば15~600/100cmが好ましく、より好ましくは50~200/100cmであることが好ましい。前記範囲とすることで、適度な空隙がゲル粒間に形成されてより効果的に害虫を捕獲及び/又は防除することができる。さらに、容器内におけるゲル粒間の距離は例えば10mm以下、より好ましくは5mm以下であることが好ましい。前記範囲であれば、害虫が進入可能な空隙を設けることが可能となる。
【0044】
さらに、容器内におけるゲル粒の充填深さは、1.5cm以上が好ましく、2.5cm以上であることがより好ましい。浅すぎると害虫誘引剤の濃度勾配が生じにくく、また害虫が再脱出しやすくなる可能性がある。
【0045】
本発明の害虫誘引剤は、屋内、屋外における種々の害虫を効果的に捕獲する害虫捕獲器に好適に用いられる。特に、本発明の害虫誘引剤は、キイロショウジョウバエ、カスリショウジョウバエ、クロショウジョウバエ、オオショウジョウバエ、ノミバエ、オナジショウジョウバエ、イエバエ、キンバエ、クロバエ等の飛翔性害虫に対して有効である。この他にも、カ、ハチ等の飛翔性害虫、およびワラジムシ、ダンゴムシ、ゴキブリ、アリ等のほふく害虫に対しても有効である。
【実施例0046】
以下、本発明を実施例に基づき詳細に説明する。
【0047】
(試験例1:害虫誘引剤の形状変化確認試験)
表1に示す配合割合となるように各成分を混合し、処方1~処方5の誘引液(原液)を作成した。得られた誘引液を表2に示す配合割合となるように吸水性ポリマー(アクアコークTWB(住友精化社製))に吸液させ、実施例1、2及び比較例1~3の害虫誘引剤を得た。なお、各例の害虫誘引剤は、1辺が約9mmの略立方体状である複数のゲル粒からなる粒状であった。また表1における「マルトース(液糖)」中のマルトース配合量は75質量%であった。そのため、例えば処方1における「マルトース(液糖)」に由来して配合される実質的な糖の含有量は、15質量%である。なお、紹興酒及び米黒酢は糖を含有するものであるが、その含有量は比較的少なく、処方3における誘引液における糖の含有量は10質量%未満である。
【0048】
各例の害虫誘引剤を構成するゲル粒に対し、以下の条件で圧縮試験を行い、試験前後の形状変化について以下の基準で評価した。結果を表3に示す。
(試験方法)
株式会社島津製作所製オートグラフ(AGS-X)で圧縮試験を行いゲル粒の形状を確認した。圧縮試験はφ70mmの金属製の円盤型治具を用い平らな面に置いたゲルに対し、100mm/minで実施し、3Nの圧力がかかった時点で圧縮を停止し形状を確認した。
試験条件の設定は株式会社島津製作所製オートグラフ用ソフトウェア(TRAPEZIUM X)を用いた。各例の害虫誘引剤につき、1回の試行で1つのゲル粒に対し試験した。
(評価基準)
○:試験後にゲル粒が元の形状を保っていた。
×:試験後にゲル粒の全てまたは一部が欠落し小さな断片となった、あるいは、つぶれて大きく変形した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
表1~3によれば、誘引液がグリコール系化合物及び糖の少なくとも一方を10質量%以上含む実施例1及び実施例2の害虫誘引剤は、比較例1~3の害虫誘引剤に比べ、圧縮試験後の変形が抑制される結果となった。この結果から、実施例1及び実施例2の害虫誘引剤をスパウト付きパウチに充填し、スパウト付きパウチから捕獲容器への詰め替えを行った場合にも害虫誘引剤の変形が抑制され、害虫誘引剤自体の害虫捕獲性能を損なわずに詰め替えできると考えられる。
【符号の説明】
【0053】
100、200 スパウト付きパウチ
2 スパウト
21 口部
23 固着部
3 キャップ
5 パウチ本体
図1