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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082595
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】相互作用解析方法
(51)【国際特許分類】
   G16C 10/00 20190101AFI20240613BHJP
【FI】
G16C10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196553
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】図師 知文
(57)【要約】
【課題】 シリカと低分子の材料との間の相互作用を解析することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 シリカと、分子量が10000以下の低分子の材料との相互作用を解析するための方法である。この方法は、シリカ分子をモデリングしたシリカ分子モデルの表面に、低分子をモデリングした低分子モデルを配置した第1モデルの第1構造を入力する第1工程と、第1構造を対象とする分子動力学計算に基づく構造緩和を計算して、第1構造の時系列の構造変化を含むトラジェクトリを取得する第2工程と、トラジェクトリに基づいて、第1構造の少なくとも一部が互いに異なる複数の第2構造を抽出する第3工程と、複数の第2構造に基づいて、シリカ分子モデルと低分子モデルとの相互作用エネルギーをそれぞれ計算する第4工程と、相互作用エネルギーのヒストグラム25を作成する第5工程とを含む。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカと、分子量が10000以下の低分子の材料との相互作用を解析するための方法であって、
シリカ分子をモデリングしたシリカ分子モデルの表面に、前記低分子をモデリングした低分子モデルを配置した第1モデルの第1構造を、コンピュータに入力する第1工程と、
前記コンピュータが、前記第1構造を対象とする分子動力学計算に基づく構造緩和を計算して、前記第1構造の時系列の構造変化を含むトラジェクトリを取得する第2工程と、
前記コンピュータが、前記トラジェクトリに基づいて、前記第1構造の少なくとも一部が互いに異なる複数の第2構造を抽出する第3工程と、
前記コンピュータが、前記複数の第2構造に基づいて、前記シリカ分子モデルと前記低分子モデルとの相互作用エネルギーをそれぞれ計算する第4工程と、
前記コンピュータが、前記相互作用エネルギーのヒストグラムを作成する第5工程とを含む、
相互作用解析方法。
【請求項2】
前記第4工程に先立ち、前記コンピュータが、前記複数の第2構造の最適化構造を計算する第6工程をさらに含み、
前記第4工程は、前記複数の第2構造の最適化構造に基づいて、前記相互作用エネルギーをそれぞれ計算する、請求項1に記載の相互作用解析方法。
【請求項3】
前記第6工程は、前記複数の第2構造を対象とする分子力学計算をそれぞれ実施する、請求項2に記載の相互作用解析方法。
【請求項4】
前記第1工程は、前記シリカ分子モデルの表面に、前記低分子モデルをランダムに配置する工程を含む、請求項1又は2に記載の相互作用解析方法。
【請求項5】
前記第2工程は、280~330Kの温度条件の下、前記構造緩和を計算する、請求項1又は2に記載の相互作用解析方法。
【請求項6】
前記シリカ分子モデル及び前記低分子モデルは、全原子モデルである、請求項1又は2に記載の相互作用解析方法。
【請求項7】
前記材料は、シランカップリング剤、加硫促進剤、及び老化防止材の少なくとも1つを含む、請求項1又は2に記載の相互作用解析方法。
【請求項8】
前記ヒストグラムに基づいて、複数種類の前記材料の中から、少なくとも1つの材料を選択する第7工程と、
選択された前記材料と、前記シリカとが配合されたゴム材料を製造する第8工程とを含む、請求項7に記載の相互作用解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相互作用解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム材料間などの相互作用エネルギーは、ゴム製品の機能や性能を決める因子のひとつと考えられている。このような相互作用エネルギーは、種々提案された方法で解析されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-084371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の方法では、高分子と有機分子との間の相互作用エネルギーを解析することができるものの、シリカと低分子の材料との相互作用エネルギーの解析については、さらなる改善の余地があった。
【0005】
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、シリカ分子と低分子との最安定構造に基づいた従来の解析手法ではなく、シリカ分子及び低分子が実際に取りうるコンフォメーションを考慮して解析することが重要であることを知見した。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、シリカと低分子の材料との間の相互作用を解析することが可能な方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、シリカと、分子量が10000以下の低分子の材料との相互作用を解析するための方法であって、シリカ分子をモデリングしたシリカ分子モデルの表面に、前記低分子をモデリングした低分子モデルを配置した第1モデルの第1構造を、コンピュータに入力する第1工程と、前記コンピュータが、前記第1構造を対象とする分子動力学計算に基づく構造緩和を計算して、前記第1構造の時系列の構造変化を含むトラジェクトリを取得する第2工程と、前記コンピュータが、前記トラジェクトリに基づいて、前記第1構造の少なくとも一部が互いに異なる複数の第2構造を抽出する第3工程と、前記コンピュータが、前記複数の第2構造に基づいて、前記シリカ分子モデルと前記低分子モデルとの相互作用エネルギーをそれぞれ計算する第4工程と、前記コンピュータが、前記相互作用エネルギーのヒストグラムを作成する第5工程とを含む、相互作用解析方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の相互作用解析方法は、上記の工程を採用することにより、シリカと低分子の材料との間の相互作用を解析することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の相互作用解析方法を実行するためのコンピュータを示す斜視図である。
図2】本実施形態の相互作用解析方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図3】シリカ分子モデルと、低分子モデルとが配置されたセル(第1モデル)を示す概念図である。
図4】本実施形態の第1工程の処理手順を示すフローチャートである。
図5】シリカ分子モデル及び低分子モデルの概念図である。
図6】(a)及び(b)は、第1構造が時系列に変化している状態を示す図である。
図7】本実施形態の相互作用エネルギーのヒストグラムである。
図8】本発明の他の実施形態の相互作用解析方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図9】本発明のさらに他の実施形態の相互作用解析方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
図10】本発明の他の実施形態の第1モデルを示す概念図である。
図11】本発明の他の実施形態の相互作用エネルギーのヒストグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0011】
[相互作用解析方法(第1実施形態)]
本実施形態の相互作用解析方法(以下、単に「解析方法」ということがある。)は、シリカと、低分子の材料との相互作用が解析される。本実施形態の解析方法には、コンピュータが用いられる。
【0012】
[コンピュータ]
図1は、本実施形態の相互作用解析方法を実行するためのコンピュータ1を示す斜視図である。本実施形態のコンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態の解析方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
【0013】
[低分子]
低分子は、分子量が10000以下の分子である。したがって、低分子には、ポリマー(分子量が10000よりも大きい分子)が含まれない。低分子の材料は、シリカと相互作用が生じるものであれば、特に限定されない。本実施形態において、低分子の材料には、シランカップリング剤、加硫促進剤及び老化防止材の少なくとも1つが含まれる。
【0014】
シランカップリング剤の一例には、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドなどが挙げられる。加硫促進剤の一例には、DPG等が挙げられる。老化防止材の一例には、6PPD(N-(1,3-ジメチルブチル)-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン)等が挙げられる。なお、低分子の材料は、これらの態様に限定されるわけではなく、例えば、現時点で実在しない新規の構造を有する低分子の材料であってもよい。本実施形態では、低分子の材料として、加硫促進剤(DPG(1,3-ジフェニルグアニジン))である場合が例示されるが、特に限定されない。
【0015】
[相互作用解析方法]
次に、本実施形態の解析方法が説明される。図2は、本実施形態の相互作用解析方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。図3は、シリカ分子モデル2と、低分子モデル3とが配置されたセル4(第1モデル15)を示す概念図である。
【0016】
[第1モデルの第1構造を入力(第1工程)]
本実施形態の解析方法では、先ず、シリカ分子モデル2の表面に、低分子モデル3を配置した第1モデル15の第1構造21が、コンピュータ1に入力される(第1工程S1)。図4は、第1工程S1の処理手順を示すフローチャートである。
【0017】
[シリカ分子モデルを入力]
本実施形態の第1工程S1では、先ず、シリカ分子をモデリングしたシリカ分子モデル2が入力される(工程S11)。図5は、シリカ分子モデル2及び低分子モデル3の概念図である。図5では、シリカ分子モデル2の一部分と、1つの低分子モデル3とが代表して示されており、シリカ分子モデル2が色付けされている。
【0018】
図3及び図5に示されるように、本実施形態のシリカ分子モデル2は、全原子モデルとして構成されているが、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、粗視化モデルであってもよい。
【0019】
図5に示されるように、本実施形態のシリカ分子モデル2は、複数の粒子モデル5と、粒子モデル5、5間を結合するボンドモデル6とを含んで構成されている。
【0020】
本実施形態の粒子モデル5には、シリカに含まれるケイ素原子及び酸素原子がそれぞれモデリングされたものである。このため、粒子モデル5には、ケイ素粒子モデル5si及び酸素粒子モデル5oが含まれる。本実施形態のシリカ分子モデル2は、シリカに含まれるシラノール基をモデリングしたシラノール基モデル7を有している。このシラノール基モデル7は、酸素粒子モデル5oと、水素原子をモデリングした水素粒子モデル5hとを含んで構成されている。
【0021】
本実施形態の粒子モデル5(本例では、ケイ素粒子モデル5si、酸素粒子モデル5o及び水素粒子モデル5h)は、質量、直径、電荷、又は、初期座標などのパラメータが定義される。これにより、粒子モデル5は、後述の分子動力学計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。
【0022】
ボンドモデル6は、粒子モデル5、5間を拘束するためのものである。ボンドモデル6を介して隣り合う粒子モデル5、5間には、相互作用(斥力及び引力を含む)を生じさせるポテンシャル(図示省略)が定義される。これらのポテンシャルは、例えば、結合ポテンシャル、結合角ポテンシャル、及び、結合二面角ポテンシャルを含んでいる。このようなポテンシャルは、例えば、特許文献(特開2018-032077号公報)の記載に基づいて適宜定義することができる。これにより、シリカ分子モデル2が定義される。シリカ分子モデル2は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0023】
[低分子モデルを入力]
次に、本実施形態の第1工程S1では、低分子をモデリングした低分子モデル3が入力される(工程S12)。図5に示されるように、本実施形態の低分子モデル3は、シリカ分子モデル2と同様に、全原子モデルとして構成されているが、粗視化モデルで構成されてもよい。
【0024】
本実施形態の低分子モデル3は、複数の粒子モデル9と、粒子モデル9、9間を結合するボンドモデル10とを含んで構成されている。
【0025】
本実施形態の粒子モデル9は、低分子(本例では、加硫促進剤(DPG))に含まれる炭素原子、水素原子及び窒素原子がそれぞれモデリングされたものである。このため、粒子モデル9には、炭素粒子モデル9c、水素粒子モデル9h、及び、窒素粒子モデル9nが含まれる。粒子モデル9及びボンドモデル10(相互作用)は、シリカ分子モデル2の粒子モデル5及びボンドモデル6と同様の手順で設定される。低分子モデル3は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0026】
[セルを入力]
次に、本実施形態の第1工程S1では、仮想空間であるセル4(図3に示す)が入力される(工程S13)。本実施形態のセル4は、後述の分子動力学計算の計算対象空間として定義される。
【0027】
図3に示されるように、本実施形態のセル4は、少なくとも互いに向き合う一対の面11、11(本実施形態では、互いに向き合う三対の面11、11)を有している。このようなセル4は、例えば、直方体又は立方体(本実施形態では、直方体)として定義される。
【0028】
本実施形態のセル4の各面11、11には、周期境界条件が定義されている。これにより、後述の分子動力学計算において、例えば、一方側の面11aから出て行った低分子モデル3(図4に示す)の一部が、他方側の面11bから入ってくるように計算することができる。
【0029】
セル4の大きさは、例えば、セル4の内部に配置されるシリカ分子モデル2及び低分子モデル3の合計個数等に応じて、適宜設定されうる。セル4は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0030】
[シリカ分子モデル及び低分子モデルの配置]
次に、本実施形態の第1工程S1では、セル4の内部に、シリカ分子モデル2及び低分子モデル3が配置される(工程S14)。
【0031】
本実施形態の工程S14では、先ず、図3に示されるように、セル4の内部において、セル4を構成する少なくとも1つの面11に沿って、シリカ分子モデル2が配置される。これにより、セル4の内部には、シリカの表面を含む一部分をモデリングしたシリカ分子モデル2が設定される。図5に示されるように、シリカ分子モデル2の表面12側(本例では、z軸方向において、シリカ分子モデル2が配置された面11に対して反対側)には、シラノール基モデル7(水素粒子モデル5h及び酸素粒子モデル5o)が配置されていてもよい。
【0032】
次に、本実施形態の工程S14では、図5に示されるように、セル4の内部において、シリカ分子モデル2の表面12に、少なくとも1つ(本例では、1つ)の低分子モデル3がランダムに配置される。本実施形態では、シリカ分子モデル2の表面12から離間させた位置に、低分子モデル3が配置されている。これにより、後述の分子動力学計算において、シリカ分子モデル2と低分子モデル3との間に大きなポテンシャルが計算されるのが抑制され、計算落ちが生じるのを防ぐことが可能となる。
【0033】
シリカ分子モデル2及び低分子モデル3の配置は、コンピュータ1(図1に示す)によって行われてもよいし、オペレータによって実施されてもよい。シリカ分子モデル2及び低分子モデル3が配置されたセル4は、コンピュータ1に記憶される。
【0034】
[ポテンシャルの定義]
次に、本実施形態の第1工程S1では、図5に示されるように、ボンドモデル6、10を介さずに隣り合う粒子モデル5、9間に、ポテンシャルP1が定義される(工程S15)。本実施形態のポテンシャルP1は、シリカ分子モデル2の隣接する粒子モデル5、5間、低分子モデル3の隣接する粒子モデル9、9間、及び、隣接するシリカ分子モデル2の粒子モデル5と低分子モデル3の粒子モデル9と間に定義される。
【0035】
本実施形態のポテンシャルP1には、LJポテンシャルが採用される。このようなポテンシャルP1により、ボンドモデル6、10を介さずに隣り合う粒子モデル間(粒子モデル5、5間、粒子モデル9、9間、及び、粒子モデル5、9間)に、引力及び斥力が定義されうる。LJポテンシャルは、例えば、特許文献(特開2020-086773号公報)の記載に基づいて適宜定義されうる。ポテンシャルP1は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0036】
本実施形態の第1工程S1では、図4に示した工程S11~工程S15が実施されることにより、図3及び図5に示されるように、シリカ分子モデル2の表面12に、低分子モデル3を配置した第1モデル15の第1構造(初期構造)21が設定される。第1構造21は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0037】
[第1構造のトラジェクトリを取得(第2工程)]
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、第1構造21の時系列の構造変化を含むトラジェクトリを取得する(第2工程S2)。本実施形態の第2工程S2では、第1構造21を対象とする分子動力学計算に基づく構造緩和を計算して、第1構造21の時系列の構造変化を含むトラジェクトリ(時系列データ)が取得される。
【0038】
分子動力学計算では、例えば、図3に示したセル4について所定の時間、シリカ分子モデル2及び低分子モデル3が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻での粒子モデル5、9(図5に示す)の動きが、分子動力学計算の単位時間ステップ毎に追跡される。このような構造緩和の計算には、例えば、(株)JSOL社製のソフトマテリアル総合シミュレーター(J-OCTA)に含まれるCOGNACが用いられる。
【0039】
本実施形態の分子動力学計算では、セル4において、圧力(例えば、1atm)が一定に保たれる。これにより、実際のシリカ分子及び低分子の分子運動に近似させて、シリカ分子モデル2及び低分子モデル3の初期配置が緩和され、第1構造21(シリカ分子モデル2及び低分子モデル3)の構造変化が、時系列で(単位時間ステップ毎に)計算されうる。
【0040】
図6(a)及び(b)は、第1構造21(図3及び図5に示す)が時系列に変化している状態を示す図である。図6で(a)及び(b)では、シリカ分子モデル2の構造(各粒子モデル5の相対位置)、及び、低分子モデル3の構造(各粒子モデル9の相対位置)が徐々に変化している状態が示されている。これらの構造により、例えば、シリカと低分子の材料とを含むゴム材料の製造プロセス等において、シリカ分子及び低分子が実際に取りうるコンフォメーション(すなわち、分子中の単結合の回転によって変化する各原子の空間的配列)が表現されうる。
【0041】
本実施形態の第2工程S2では、分子動力学計算の単位時間ステップ毎に、シリカ分子モデル2の粒子モデル5の座標値、及び、低分子モデル3の粒子モデル9の座標値がそれぞれ取得される。これにより、図3及び図5に示した第1構造21(シリカ分子モデル2及び低分子モデル3)について、時系列の構造変化を含むトラジェクトリ(座標トラジェクトリ)が取得される。トラジェクトリは、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0042】
[複数の第2構造を抽出(第3工程)]
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、トラジェクトリに基づいて、第1構造21の少なくとも一部が互いに異なる複数の第2構造を抽出する(第3工程S3)。複数の第2構造は、適宜抽出されうる。本実施形態では、次の手順に基づいて、複数の第2構造が抽出される。
【0043】
本実施形態では、先ず、第2工程S2で取得されたトラジェクトリに基づいて、分子動力学計算の単位時間ステップごとに、シリカ分子モデル2の粒子モデル5の座標値、及び、低分子モデル3の粒子モデル9の座標値がそれぞれ特定される。次に、図6(a)、(b)に示されるように、特定された座標値に基づいて、シリカ分子モデル2の粒子モデル5、及び、低分子モデル3の粒子モデル9が、セル4に配置される。このような粒子モデル5、9のセル4への配置は、単位時間ステップごとに行われる。これにより、図3及び図5に示した第1構造21(分子動力学計算前の構造)の少なくとも一部が互いに異なる複数の第2構造22(第1モデル15)が抽出(定義)される。
【0044】
図6(a)、(b)に示されるように、複数の第2構造22は、第1構造21(図3及び図5に示す)の時系列の構造変化を含むトラジェクトリに基づいて定義されている。この、複数の第2構造22は、第1構造21の少なくとも一部(すなわち、各粒子モデル5の相対位置、及び、各粒子モデル9の相対位置)が互いに異なっている。これにより、複数の第2構造22は、例えば、シリカと低分子の材料とを含むゴム材料の製造プロセス等において、シリカ分子及び低分子が実際に取りうるコンフォメーションが再現(モデリング)されうる。
【0045】
複数の第2構造22は、分子動力学計算の開始から終了までのうち、全ての単位時間ステップで取得された粒子モデル5、9の座標値からそれぞれ抽出されてもよいし、特定の単位時間ステップで取得された粒子モデル5、9の座標値から抽出されてもよい。本実施形態では、分子動力学計算の開始から複数の単位時間ステップ(本例では、50~150ステップ分)で取得された粒子モデル5、9の座標値に基づいて、複数の第2構造22(本例では、50~150個の第2構造22)が抽出(モデリング)される。抽出された複数の第2構造22は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0046】
[複数の第2構造に基づく相互作用エネルギーを計算(第4工程)]
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、図6(a)、(b)に示した複数の第2構造22に基づいて、シリカ分子モデル2と低分子モデル3との相互作用エネルギーをそれぞれ計算する(第4工程S4)。相互作用エネルギーは、適宜計算されうる。本実施形態では、フラグメント分子軌道法(FMO法)に基づいて、複数の第2構造22ごとに、シリカ分子モデル2と低分子モデル3との相互作用エネルギーが計算される。この相互作用エネルギーは、第2構造22の系全体のエネルギーから、シリカ分子モデル2のエネルギーと低分子モデル3のエネルギーとの和を差し引いた値として定義される。
【0047】
フラグメント分子軌道法(FMO法)とは、分子系を小さなフラグメントに分割して、相互作用エネルギーを計算することが可能な量子化学的手法である。なお、フラグメント分子軌道法の詳細は、例えば、文献(中野達也ら著、「フラグメント分子軌道法入門- ABNIT-MPによるタンパク質の非経験的量子化学計算 -」、アドバンスソフト(株)、2004年7月10日)に記載のとおりである。
【0048】
本実施形態の第4工程S4では、先ず、複数の第2構造22(図6(a)、(b)に示す)について、それらの第2構造22に含まれるシリカ分子モデル2及び低分子モデル3が、フラグメントに分割される。次に、隣接するフラグメント間の相互作用エネルギー(例えば、静電、分極、交換、及び、電荷移動エネルギーなど)が計算(FMO計算)される。
【0049】
次に、本実施形態の第4工程S4では、低分子モデル3のフラグメントからシリカ分子モデル2のフラグメントに作用する相互作用エネルギーの和が計算される。複数の第2構造22で再現された(モデリングされた)シリカ分子及び低分子のコンフォメーションに基づいて、シリカ分子と低分子との相互作用エネルギーが計算されうる。
【0050】
本実施形態の複数の第2構造22では、セル4の内部に、1つの低分子モデル3がそれぞれ配置されている。このような複数の第2構造22を対象に、フラグメント分子軌道法に基づく相互作用エネルギーが計算されることで、シリカと低分子の材料との相互作用エネルギーが、精度良く計算されうる。
【0051】
フラグメント分子軌道法に基づく相互作用の計算には、例えば、量子化学計算用のソフトウェア(例えば、GAMESS又はABINIT-MP等)や、分子モデリングソフトウェア(例えば、Facio)などが用いられる。複数の第2構造22の相互作用エネルギーは、コンピュータ1(図1に示す)にそれぞれ記憶される。
【0052】
[相互作用エネルギーのヒストグラムを作成(第5工程)]
次に、本実施形態の解析方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、相互作用エネルギーのヒストグラムを作成する(第5工程S5)。ヒストグラムは、適宜作成されうる。本実施形態では、複数の第2構造22ごとに計算された相互作用エネルギーを用いて、ヒストグラムが作成される。
【0053】
図7は、本実施形態の相互作用エネルギーのヒストグラム25である。図7において、横軸は、相互作用エネルギーを所定の範囲で区分された階級を示している。一方、縦軸は、階級に属する度数を示している。本実施形態では、相互作用エネルギーの階級ごとに、複数の第2構造22の相互作用エネルギーが振り分けられることで、相互作用エネルギーのヒストグラム25が作成されうる。このようなヒストグラム25の作成には、例えば、市販の数値解析ソフトウェア(例えば、The MathWorks 社製の「MATLAB」など)が用いられる。
【0054】
図7に示されるように、ヒストグラム25において、シリカ分子と低分子との相互作用エネルギーが広い範囲に分布している。これは、シリカ分子及び低分子が実際に取りうる様々なコンフォメーションによって変動した相互作用エネルギーを示している。一方、従来の解析手法では、実際には生じにくい最安定構造に基づいて、1つの相互作用エネルギーが計算されるため、上記のような分布を取得できない。なお、最安定構造とは、エネルギー的に最も安定な構造であり、与えられた初期構造を構造最適化計算することで取得されうる。
【0055】
このように、本実施形態の解析方法では、シリカ分子及び低分子が実際に取りうる様々なコンフォメーションを考慮して、相互作用エネルギーのヒストグラム25を作成することができる。このようなヒストグラム25により、シリカ分子と低分子との間の相互作用エネルギーが過小評価(すなわち、最安定構造の相互作用エネルギーのみで評価)されるのが抑制され、シリカと低分子の材料との間の相互作用を解析することが可能となる。
【0056】
本実施形態の解析方法では、第2工程S2において、280~330Kの温度条件の下、構造緩和が計算されるのが好ましい。280K以上に設定されることで、有限温度でのシリカ分子モデル2及び低分子モデル3の揺らぎが計算され、第1モデル15が最安定構造に収束するのが抑制される。その結果、シリカ分子及び低分子が実際に取りうる有限温度でのコンフォメーションに基づいて、シリカ分子と低分子との相互作用エネルギーの計算が可能となる。一方、330K以下に設定されることで、シリカ分子モデル2及び低分子モデル3の揺らぎが激しくなるのが抑制され、上記コンフォメーションに基づく相互作用エネルギーの計算が可能となる。このような観点より、温度条件は、好ましくは290K以上であり、また、好ましくは320K以下である。
【0057】
また、互いに異なる複数の第2構造22(図6(a)、(b)に示す)を確実に抽出するために、第1工程S1において、構造が互いに異なる第1構造21(図3及び図5に示す)が複数作成されてもよい。これらの第1構造21は、シリカ分子モデル2の表面12に、低分子モデル3がランダムに配置されることで容易に作成されうる。そして、第2工程S2において、これらの第1構造21からトラジェクトリがそれぞれ取得され、第3工程S3において、これらのトラジェクトリに基づいて、複数の第2構造22がそれぞれ抽出されうる。これにより、複数の第1構造21から、互いに異なるトラジェクトリが確実に取得され、シリカ分子及び低分子が実際に取りうるコンフォメーションに基づく相互作用エネルギーのヒストグラムの作成が可能となる。
【0058】
[相互作用を評価]
次に、本実施形態の解析方法では、シリカと低分子の材料との相互作用が、良好か否かが判断される(工程S9)。相互作用が良好か否かの判断は、適宜実施される。例えば、図7に示したヒストグラム25から特定可能される相互作用エネルギーの平均値、最大値及び最小値等の少なくとも1つが、予め定められた基準を満足する場合に、相互作用が良好と判断されうる。
【0059】
工程S9において、シリカと低分子の材料との相互作用が良好であると判断された場合(工程S9で「Yes」)、シリカと低分子の材料とが配合されたゴム材料が製造される(工程S10)。一方、工程S9において、シリカと低分子の材料との相互作用が良好でないと判断された場合(工程S9で「No」)、低分子の材料が変更されて(工程S20)、第1工程S1~工程S9が再度実施される。このように、本実施形態の解析方法では、相互作用が良好となるまで、低分子の材料が変更されるため、高性能なゴム材料の製造が可能となる。
【0060】
[相互作用解析方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態では、複数の第2構造22を抽出する第3工程S3が実施された後に、複数の第2構造22の相互作用エネルギーを計算する第4工程S4が実施されたが、このような態様に限定されない。図8は、本発明の他の実施形態の相互作用解析方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【0061】
[複数の第2構造の最適化構造を計算(第6工程)]
この実施形態の解析方法では、第4工程S4に先立ち、コンピュータ1(図1に示す)が、複数の第2構造22(図6(a)、(b)に示す)の最適化構造を計算する(第6工程S6)。最適化構造とは、第2工程S2での分子動力学計算に基づく構造緩和によって計算された不自然な形状から、より現実的な自然な形状へと変化した構造である。したがって、最適化構造は、上述の最安定構造とは異なる。
【0062】
最適化構造は、適宜計算されうる。本実施形態では、複数の第2構造22を対象とする分子力学(Molecular Mechanics:MM)計算がそれぞれ実施される。分子力学計算では、ポテンシャルP1に基づいて、シリカ分子モデル2及び低分子モデル3の分子構造が最適化される。これにより、構造緩和によって計算された不自然な形状から、より現実的な自然な形状へと変化させることができ、複数の第2構造22の最適化構造が計算されうる。これらの最適化構造は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0063】
[複数の第2構造の相互作用エネルギーを計算(第4工程)]
この実施形態の解析方法では、複数の第2構造の最適化構造に基づいて、シリカ分子モデル2と低分子モデル3との相互作用エネルギーがそれぞれ計算される(第4工程S4)。上述したように、複数の第2構造の最適化構造は、構造緩和によって計算された不自然な形状から、より現実的な自然な形状へと変化させたものである。このような最適化構造に基づいて、相互作用エネルギーが計算されることで、シリカと低分子の材料との間の相互作用が、より精度良く解析されうる。
【0064】
[相互作用解析方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態では、1種類の低分子の材料(本例では、加硫促進剤(DPG))に基づいて、第1モデル15の第1構造21から複数の第2構造22が抽出され、それらの相互作用エネルギーがそれぞれ計算されたが、このような態様に限定されない。例えば、複数種類の低分子の材料に基づいて、これらの第1モデル15の第1構造21から複数の第2構造がそれぞれ抽出されて、それらの相互作用エネルギーがそれぞれ計算されてもよい。図9は、本発明のさらに他の実施形態の相互作用解析方法の処理手順を説明するためのフローチャートである。
【0065】
[第1モデルの第1構造を入力(第1工程)]
この実施形態の解析方法では、先ず、第1モデル15の第1構造21が複数入力される(第1工程S1)。図10は、本発明の他の実施形態の第1モデル15Bを示す概念図である。
【0066】
この実施形態の第1工程S1では、これまでの実施形態と同様に、加硫促進剤(DPG)を低分子の材料として、第1モデル15Aの第1構造21A(図3に示す)が入力される。さらに、この実施形態では、老化防止材(6PPD)を低分子の材料として、図10に示されるように、第1モデル15Bの第1構造21Bが入力される。これらの第1構造21は、これまでの実施形態の第1工程S1と同様の手順に基づいて、コンピュータ1(図1に示す)に入力される
【0067】
[第1構造のトラジェクトリを取得(第2工程)]
次に、この実施形態の解析方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、複数の第1構造21A、21Bについて、時系列の構造変化を含むトラジェクトリをそれぞれ取得する(第2工程S2)。これらのトラジェクトリは、これまでの実施形態の第2工程S2と同様の手順に基づいて取得され、コンピュータ1に記憶される。
【0068】
[複数の第2構造を抽出(第3工程)]
次に、この実施形態の解析方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、複数の第1構造21A、21Bの各トラジェクトリに基づいて、第1構造21の少なくとも一部が互いに異なる複数の第2構造22(図6(a)、(b)に示す)を抽出する(第3工程S3)。複数の第2構造22は、これまでの実施形態と同様の手順で抽出され、コンピュータ1に記憶される。
【0069】
[複数の第2構造の相互作用エネルギーを計算(第4工程)]
次に、この実施形態の解析方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、複数の第2構造22に基づいて、シリカ分子モデル2と低分子モデル3との相互作用エネルギーをそれぞれ計算する(第4工程S4)。これらの相互作用エネルギーは、複数種類の低分子の材料(加硫促進剤(DPG)及び老化防止材(6PPD))ごとに、これまでの実施形態と同様の手順で計算され、コンピュータ1に記憶される。
【0070】
[相互作用エネルギーのヒストグラムを作成(第5工程)]
次に、この実施形態の解析方法では、コンピュータ1(図1に示す)が、相互作用エネルギーのヒストグラムを作成する(第5工程S5)。ヒストグラムは、これまでの実施形態と同様の手順に基づいて、複数種類の低分子の材料(加硫促進剤(DPG)及び老化防止材(6PPD))ごとに作成される。
【0071】
図11は、本発明の他の実施形態の相互作用エネルギーのヒストグラム25である。図11のヒストグラム25では、老化防止材(6PPD)及び加硫促進剤(DPG)が、相互作用エネルギーが広い範囲で分布している。したがって、この実施形態の解析方法では、これまでの実施形態と同様に、シリカ分子及び低分子が実際に取りうる様々なコンフォメーションを考慮して、相互作用エネルギーのヒストグラム25が作成することができる。
【0072】
図11のヒストグラム25において、加硫促進剤(DPG)が、老化防止材(6PPD)に比べて、相互作用エネルギーが小さくなっている。これは、加硫促進剤(DPG)が、老化防止材(6PPD)に比べて、シリカとの間に作用する引力が大きい(シリカと反応しやすい)ことを示している。ヒストグラム25は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0073】
[1つの低分子の材料を選択(第7工程)]
次に、この実施形態の解析方法では、ヒストグラム25に基づいて、複数種類の低分子の材料の中から、少なくとも1つの材料が選択される(第7工程S7)。低分子の材料の選択は、コンピュータ1(図1に示す)が行ってもよいし、オペレータによって行われてもよい。
【0074】
材料の選択は、適宜実施される。この実施形態では、複数種類の低分子の材料のうち、相互作用エネルギーの平均値、最大値及び最小値等の少なくとも1つが、予め定められた基準を満足する材料が選択される。選択された低分子の材料は、コンピュータ1(図1に示す)に記憶される。
【0075】
[ゴム材料を製造(第8工程)]
次に、この実施形態の解析方法では、選択された低分子の材料と、シリカとが配合されたゴム材料を製造する(第8工程S8)。選択された低分子の材料は、シリカとの相互作用が、予め定められた基準を満足している。このような低分子の材料が、シリカとともに配合されることで、高性能なゴム材料の製造が可能となる。
【0076】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例0077】
図2に示した処理手順に基づいて、シリカと、低分子の材料との相互作用が解析された(実施例)。実施例では、低分子の材料として、加硫促進剤(DPG)と、老化防止材(6PPD)とが用いられた。
【0078】
実施例では、シリカ分子モデルの表面に、低分子モデルを配置した第1モデルの第1構造を入力する第1工程が実施された。第1工程では、低分子の材料(DPG及び6PPD)ごとに、第1構造が20個作成された。次に、実施例では、これらの第1構造を対象とする分子動力学計算に基づく構造緩和を計算して、第1構造の時系列の構造変化を含むトラジェクトリを取得する第2工程とが実施された。第2工程では、300Kの温度条件の下で、構造緩和が計算された。
【0079】
次に、実施例では、各第1構造のトラジェクトリに基づいて、第1構造の少なくとも一部が互いに異なる複数の第2構造を抽出する第3工程が実施された。第3工程では、第1工程で作成された20個の第1構造ごとに、第2構造が5個ずつ作成された。したがって、低分子の材料(DPG及び6PPD)ごとに、100個の第2構造がそれぞれ抽出された。
【0080】
次に、実施例では、第4工程に先立ち、複数の第2構造の最適化構造を計算する第6工程が実施された。第6工程では、複数の第2構造を対象とする分子力学計算がそれぞれ実施された。
【0081】
次に、複数の第2構造に基づいて、シリカ分子モデルと低分子モデルとの相互作用エネルギーをそれぞれ計算する第4工程と、相互作用エネルギーのヒストグラムを作成する第5工程とが実施された。第4工程では、低分子の材料(DPG及び6PPD)ごとに、100個の第2構造の最適構造の相互作用エネルギーがそれぞれ計算された。そして、第5工程では、低分子の材料(DPG及び6PPD)ごとに、100個の第2構造の相互作用エネルギーから、ヒストグラムがそれぞれ作成された。図11は、相互作用エネルギーのヒストグラムである。
【0082】
テストの結果、各低分子の材料(DPG及び6PPD)について、シリカ分子と低分子との相互作用エネルギーが広い範囲に分布している。これは、シリカ分子及び低分子が実際に取りうる様々なコンフォメーションによって変動した相互作用エネルギーを示している。このようなヒストグラムにより、シリカ分子と低分子との間の相互作用エネルギーが過小評価(すなわち、最安定構造の相互作用エネルギーのみで評価)されるのが抑制され、シリカと低分子の材料との間の相互作用を解析することができた。
【0083】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0084】
[本発明1]
シリカと、分子量が10000以下の低分子の材料との相互作用を解析するための方法であって、
シリカ分子をモデリングしたシリカ分子モデルの表面に、前記低分子をモデリングした低分子モデルを配置した第1モデルの第1構造を、コンピュータに入力する第1工程と、
前記コンピュータが、前記第1構造を対象とする分子動力学計算に基づく構造緩和を計算して、前記第1構造の時系列の構造変化を含むトラジェクトリを取得する第2工程と、
前記コンピュータが、前記トラジェクトリに基づいて、前記第1構造の少なくとも一部が互いに異なる複数の第2構造を抽出する第3工程と、
前記コンピュータが、前記複数の第2構造に基づいて、前記シリカ分子モデルと前記低分子モデルとの相互作用エネルギーをそれぞれ計算する第4工程と、
前記コンピュータが、前記相互作用エネルギーのヒストグラムを作成する第5工程とを含む、
相互作用解析方法。
[本発明2]
前記第4工程に先立ち、前記コンピュータが、前記複数の第2構造の最適化構造を計算する第6工程をさらに含み、
前記第4工程は、前記複数の第2構造の最適化構造に基づいて、前記相互作用エネルギーをそれぞれ計算する、本発明1に記載の相互作用解析方法。
[本発明3]
前記第6工程は、前記複数の第2構造を対象とする分子力学計算をそれぞれ実施する、本発明2に記載の相互作用解析方法。
[本発明4]
前記第1工程は、前記シリカ分子モデルの表面に、前記低分子モデルをランダムに配置する工程を含む、本発明1ないし3のいずれかに記載の相互作用解析方法。
[本発明5]
前記第2工程は、280~330Kの温度条件の下、前記構造緩和を計算する、本発明1ないし4のいずれかに記載の相互作用解析方法。
[本発明6]
前記シリカ分子モデル及び前記低分子モデルは、全原子モデルである、本発明1ないし5のいずれかに記載の相互作用解析方法。
[本発明7]
前記材料は、シランカップリング剤、加硫促進剤、及び老化防止材の少なくとも1つを含む、本発明1ないし6のいずれかに記載の相互作用解析方法。
[本発明8]
前記ヒストグラムに基づいて、複数種類の前記材料の中から、少なくとも1つの材料を選択する第7工程と、
選択された前記材料と、前記シリカとが配合されたゴム材料を製造する第8工程とを含む、本発明7に記載の相互作用解析方法。
【符号の説明】
【0085】
25 ヒストグラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11