(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082598
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】樹脂組成物および該樹脂組成物からなる樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20240613BHJP
C08K 7/04 20060101ALI20240613BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K7/04
C08L27/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196556
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】ENEOS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100152423
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 一真
(72)【発明者】
【氏名】増山 聡
(72)【発明者】
【氏名】村上 博亮
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002BD152
4J002CF161
4J002DA038
4J002DG047
4J002DJ006
4J002DJ047
4J002DJ057
4J002FA017
4J002FA066
4J002FD016
4J002FD017
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】耐凹み性および耐反り性のバランスに優れる樹脂成形品が得られる樹脂組成物を提供。
【解決手段】本発明による樹脂組成物は、液晶ポリマー樹脂および充填剤を含む樹脂組成物であって、
前記液晶ポリマー樹脂の含有量が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、80質量%以上であり、
前記充填剤が、少なくとも、ウィスカーを含有し、
前記ウィスカーの含有量が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、1質量%以上15質量%以下であり、
前記樹脂組成物が板状充填剤を含む場合、前記板状充填剤の含有量が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、5質量%以下であることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶ポリマー樹脂および充填剤を含む樹脂組成物であって、
前記液晶ポリマー樹脂の含有量が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、80質量%以上であり、
前記充填剤が、少なくとも、ウィスカーを含有し、
前記ウィスカーの含有量が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、1質量%以上15質量%以下であり、
前記樹脂組成物が板状充填剤を含む場合、前記板状充填剤の含有量が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、5質量%以下である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記液晶ポリマー樹脂の含有量が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、85質量%以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ウィスカーが、ケイ酸カルシウム、チタン酸カリウム、および炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記板状充填剤が、タルク、マイカ、およびガラスフレークから選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記樹脂組成物が、フッ素樹脂をさらに含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含む、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
前記充填剤が、粒子状充填剤をさらに含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
前記粒子状充填剤が、硫酸バリウム、酸化チタン、ピロリン酸カルシウム、ガラスビーズ、およびシリカからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
前記粒子状充填剤が、硫酸バリウムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
前記粒子状充填材が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して7.5質量%未満である、請求項7に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
前記充填剤が、粒子状充填剤をさらに含む、請求項5に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
前記ウィスカーが、ケイ酸カルシウム、チタン酸カリウム、および炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含む、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項14】
前記粒子状充填剤が、硫酸バリウムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項11に記載の樹脂組成物。
【請求項15】
前記液晶性ポリマー樹脂が、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項16】
前記p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位の組成比が、液晶ポリマー樹脂全体の構成単位に対して、50モル%以上である、請求項13に記載の樹脂組成物。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか一項に記載の液晶ポリマー樹脂を含む、樹脂成形品。
【請求項18】
請求項17に記載の樹脂成形品を備えてなる、カメラモジュール部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物および該樹脂組成物からなる樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリマー樹脂は、耐熱性や薄肉成形性などに優れていることから、液晶ポリエステル樹脂を使用して製造した樹脂成形品(例えば、射出成形品)は、各種部品に用いられている。各種部品としては、例えば、カメラモジュール用部品、コネクター、およびソケット等が挙げられる。
【0003】
近年では、スマートフォン用のカメラモジュール部品にはオートフォーカス機能や光学手振れ補正機能が搭載されている。それらの機能を実現するための部品駆動機構として、ボールベアリングを用いた方法が存在する。この方式では、ボールベアリングと樹脂成形品が点接触する機構のため、接触部で樹脂成形品が凹みやすいという課題があり、耐凹み性が要求されている。そこで、特許文献1では、ボールベアリング摺動摩耗性を低減し、かつ、耐衝撃性を維持するために、(A)液晶性樹脂、(B)粒状充填剤、及び(C)ウィスカーを含有し、前記(B)粒状充填剤のメディアン径は、0.3~5.0μmであり、前記(B)粒状充填剤の含有量は、7.5~22.5質量%であり、前記(C)ウィスカーの含有量は、2.5~17.5質量%であり、前記(B)粒状充填剤と前記(C)ウィスカーとの合計の含有量は、12.5~32.5質量%である耐ボールベアリング摺動摩耗部材用液晶性樹脂組成物が提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、変形が少なく、靱性に優れるコネクター用の樹脂組成物として、特定の構成単位を有する全芳香族ポリエステルアミドおよびウィスカーを含有し、全芳香族ポリエステルアミドの含有量が樹脂組成物の全量に対して55~80質量%であり、ウィスカーの含有量が樹脂組成物の全量に対して20~45質量%である樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開2022/4553号公報
【特許文献2】特開2021-167408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
また、カメラモジュール用部品等の各種部品には、製造工程において加熱処理に曝される場合を想定し、部品を構成する樹脂成形品には加熱処理による反りを低減する必要があった。しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物は粒状充填剤の含有量が高く、当該樹脂組成物を用いた樹脂成形品は、耐凹み性が不十分であり、さらに耐凹み性および耐反り性のバランスに改善の余地があった。また、特許文献2に記載の樹脂組成物はウィスカーの含有量が高く、当該樹脂組成物を用いた樹脂成形品は、耐凹み性が不十分であり、さらに耐凹み性および耐反り性のバランスに改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、樹脂組成物中の液晶ポリマー樹脂の含有量を上げることで耐凹み性は改善されたが、依然として耐凹み性および耐反り性のバランスに改善の余地があった。そこで、本発明者らは、液晶ポリマー樹脂の配合量が高い樹脂組成物にフィラーとして特定量のウィスカーを配合し、樹脂組成物中の板状充填剤の配合量を特定量以下に制限することで、上記課題が解決できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
[1] 液晶ポリマー樹脂および充填剤を含む樹脂組成物であって、
前記液晶ポリマー樹脂の含有量が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、80質量%以上であり、
前記充填剤が、少なくとも、ウィスカーを含有し、
前記ウィスカーの含有量が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、1質量%以上15質量%以下であり、
前記樹脂組成物が板状充填剤を含む場合、前記板状充填剤の含有量が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、5質量%以下である、樹脂組成物。
[2] 前記液晶ポリマー樹脂の含有量が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、85質量%以上である、[1]に記載の樹脂組成物。
[3] 前記ウィスカーが、ケイ酸カルシウム、チタン酸カリウム、および炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]または[2]に記載の樹脂組成物。
[4] 前記板状充填剤が、タルク、マイカ、およびガラスフレークから選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[5] 前記樹脂組成物が、フッ素樹脂をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[6] 前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含む、[5]に記載の樹脂組成物。
[7] 前記充填剤が、粒子状充填剤をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[8] 前記粒子状充填剤が、硫酸バリウム、酸化チタン、ピロリン酸カルシウム、ガラスビーズ、およびシリカからなる群から選択される少なくとも1種である、[7]に記載の樹脂組成物。
[9] 前記粒子状充填剤が、硫酸バリウムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種である、[7]に記載の樹脂組成物。
[10] 前記粒子状充填材が、前記樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して7.5質量%未満である、[7]~[9]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[11] 前記充填剤が、粒子状充填剤をさらに含む、[5]に記載の樹脂組成物。
[12] 前記ウィスカーが、ケイ酸カルシウム、チタン酸カリウム、および炭酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種である、[11]に記載の樹脂組成物。
[13] 前記フッ素樹脂が、ポリテトラフルオロエチレン樹脂を含む、[11]または[12]に記載の樹脂組成物。
[14] 前記粒子状充填剤が、硫酸バリウムおよび酸化チタンからなる群から選択される少なくとも1種である、[11]~[13]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[15] 前記液晶性ポリマー樹脂が、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位を含む、[1]~[14]のいずれかに記載の樹脂組成物。
[16] 前記p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位の組成比が、液晶ポリマー樹脂全体の構成単位に対して、50モル%以上である、[15]に記載の樹脂組成物。
[17] [1]~[16]のいずれかに記載の液晶ポリマー樹脂を含む、樹脂成形品。
[18] [17]に記載の樹脂成形品を備えてなる、カメラモジュール部品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐凹み性および耐反り性のバランスに優れる樹脂成形品が得られる樹脂組成物を提供することができる。また、このような樹脂組成物からなる樹脂成形品および該樹脂成形品を備えたカメラモジュール部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例の凹み深さの測定方法およびそれに用いたボビン試験片の概念図である。
【
図2】実施例の反り量の測定に用いたベース形状試験片の斜視図および平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[樹脂組成物]
本発明による樹脂組成物は、液晶ポリマー樹脂および特定の充填剤を含むものである。このような樹脂組成物を用いることで、耐凹み性および耐反り性のバランスに優れる樹脂成形品を得ることができる。以下、樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0012】
(液晶ポリマー樹脂)
樹脂組成物に配合する液晶ポリマー樹脂は、少なくとも、ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I)を含むことが好ましく、ジオール化合物に由来する構成単位(II)、およびジカルボン酸に由来する構成単位(III)をさらに含んでもよい。樹脂組成物には、液晶ポリマー樹脂が1種のみ含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。以下、液晶ポリマー樹脂に含まれる各構成単位について説明する。
【0013】
(ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位(I))
液晶ポリマー樹脂を構成する単位(I)は、下記式(I)で表される芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構成単位である。なお、構成単位(I)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0014】
【化1】
上記式中Ar
1は、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基、ビフェニル基、およびナフチル基が好ましく、ナフチル基がより好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基、ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0015】
上記式(I)で表される構成単位を与えるモノマーとしては、p-ヒドロキシ安息香酸(HBA)、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらの中でも、p-ヒドロキシ安息香酸(HBA)およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物を用いることが好ましい。
【0016】
液晶ポリマー樹脂全体の構成単位に対する構成単位(I)の組成比(モル%)は、下限値が好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは55モル%以上であり、さらに好ましくは60モル%以上であり、上限値が好ましくは100モル%以下であり、より好ましくは95モル%以下であり、さらに好ましくは90モル%以下であり、さらにより好ましくは85モル%以下である。構成単位(I)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。特に、液晶ポリマー樹脂中のp-ヒドロキシ安息香酸に由来する構成単位の組成比(モル%)が、好ましくは50%以上であり、より好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは60%以上である。
【0017】
(ジオール化合物に由来する構成単位(II))
液晶ポリマー樹脂を構成する単位(II)は、下記式(II)で表される芳香族ジオール化合物に由来する構成単位である。なお、構成単位(II)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0018】
【化2】
上記式中Ar
2は、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基およびビフェニル基がより好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基、ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0019】
構成単位(II)を与えるモノマーとしては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP)、ハイドロキノン(HQ)、メチルハイドロキノン(MeHQ)、4,4’-イソプロピリデンジフェノール(BisPA)、レゾルシノール、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらの中でも、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP)、ハイドロキノン(HQ)およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物を用いることが好ましい。
【0020】
液晶ポリマー樹脂全体の構成単位に対する構成単位(II)の組成比(モル%)は、下限値が好ましくは0モル%以上であり、より好ましくは2.5モル%以上であり、さらに好ましくは5モル%以上であり、さらにより好ましくは7.5モル%以上であり、上限値が、好ましくは25モル%以下であり、より好ましくは22.5モル%以下であり、さらに好ましくは20モル%以下である。構成単位(II)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。
【0021】
(芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位(III))
液晶ポリマー樹脂を構成する単位(III)は、下記式(III)で表される芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位である。なお、構成単位(III)は、1種のみが含まれてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0022】
【化3】
上記式中Ar
3は、所望により置換基を有するフェニル基、ビフェニル基、4,4’-イソプロピリデンジフェニル基、ナフチル基、アントリル基およびフェナントリル基からなる群より選択される。これらの中でもフェニル基およびビフェニル基がより好ましい。置換基としては、水素、アルキル基、アルコキシ基ならびにフッ素等が挙げられる。アルキル基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。また、直鎖状のアルキル基であっても、分岐鎖状のアルキル基であってもよい。アルコキシ基が有する炭素数は、1~10であることが好ましく、1~5であることがより好ましい。
【0023】
構成単位(III)を与えるモノマーとしては、テレフタル酸(TPA)、イソフタル酸(IPA)、2,6-ナフタレンジカルボン酸(NADA)、およびそれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸(TPA)、イソフタル酸(IPA)、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物を用いることが好ましい。
【0024】
液晶ポリマー樹脂全体の構成単位に対する構成単位(III)の組成比(モル%)は、下限値が好ましくは0モル%以上であり、より好ましくは2.5モル%以上であり、さらに好ましくは5モル%以上であり、さらにより好ましくは7.5モル%以上であり、上限値が、好ましくは25モル%以下であり、より好ましくは22.5モル%以下であり、さらに好ましくは20モル%以下である。構成単位(II)が2種以上含まれる場合、それらの合計モル比が上記組成比の範囲内であればよい。なお、構成単位(II)の組成比と構成単位(III)の組成比は実質的に当量((構成単位(II)≒構成単位(III))となる。
【0025】
(構成単位(IV))
液晶ポリマー樹脂は、上記構成単位(I)~(III)以外に下記の構成単位(IV)をさらに含んでもよい。
【化4】
が挙げられる。
【0026】
構成単位(IV)を与えるモノマーとしては、アセトアミノフェン(AAP、p-アミノフェノール、4’-アセトキシアセトアニリド、およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【0027】
(構成単位(V))
液晶ポリマー樹脂は、上記構成単位(I)~(III)以外に下記の構成単位(V)をさらに含んでもよい。
【化5】
が挙げられる。
【0028】
構成単位(V)を与えるモノマーとしては、1,4-シクロへキサンジカルボン酸(CHDA)およびこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物等が挙げられる。
【0029】
液晶ポリマー樹脂全体の構成単位に対する構成単位(IV)および(V)の組成比(モル%)は、構成単位(I)~(III)の組成比に応じて、適宜設定することができる。例えば、構成単位(I)の組成比を設定した上で、モノマー仕込みにおけるカルボキシル基と、ヒドロキシ基および/またはアミン基とのモノマー比(モル比)がおおよそ1:1の範囲になるように、構成単位(II)、(III)、(IV)および(V)の組成比を適宜設定すればよい。なお、構成単位(II)および(IV)の合計組成比と構成単位(III)および(V)の合計組成比は実質的に当量((構成単位(II)+(IV)≒構成単位(III)+(V))となる。
【0030】
液晶ポリマー樹脂の液晶性は、メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)等を用い、液晶ポリマー樹脂を顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させた後、光学異方性の有無を観察することにより確認することができる。
【0031】
樹脂組成物中の液晶ポリマー樹脂の含有量は、樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して80質量%以上であり、下限値が好ましくは82質量%以上であり、より好ましくは85質量%以上であり、また、上限値が好ましくは99質量%以下であり、より好ましくは97質量%以下であり、さらに好ましくは95質量%以下である。液晶ポリマー樹脂の含有量が上記数値範囲内であれば、耐凹み性および耐反り性のバランスに優れる樹脂成形品が得られる。
【0032】
(液晶ポリマー樹脂の製造方法)
液晶ポリマー樹脂は、構成単位(I)を与えるモノマーと、必要に応じて、構成単位(II)~(V)を与えるモノマーを、従来公知の方法で重合することにより製造することができる。一実施態様において、液晶ポリマー樹脂は、溶融重合のみによって製造することができる。また、液晶ポリマー樹脂は、溶融重合を行ってポリマーを得る工程と、前記ポリマーを固相重合を行って液晶ポリマー樹脂を得る工程とを含む方法(2段階重合)によって製造することができる。
【0033】
溶融重合は、液晶ポリマー樹脂樹脂が効率よく得られる観点から、全モノマーが有する全水酸基に対し、1.03~1.15モル当量の無水酢酸を存在させて酢酸還流下において行うことが好ましい。
【0034】
溶融重合の反応温度は、融点~(融点+70)℃の温度範囲であることが好ましく、(融点+20)℃~(融点+50)℃の温度範囲であることがより好ましい。
【0035】
溶融重合は、触媒の存在下かつ無溶媒下において行うことが好ましい。触媒としては、ポリマーの重合用触媒として従来公知のものを使用することができる。触媒としては、例えば、酢酸カリウム、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、テトラブチルチタネート、三酸化アンチモン等の金属塩触媒、N-メチルイミダゾール等の窒素含有複素環化合物等、有機化合物触媒等が挙げられる。触媒の使用量は、特に限定されるものではないが、モノマーの合計モル数×(10~100)mg/モルであることが好ましい。
【0036】
固相重合を行う際には、溶融重合により得られたポリマーを冷却固化後に粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にしてもよい。また、溶融重合により得られたポリマーストランドをペレタイズし、ペレット状にしてもよい。固相重合の反応温度は、融点以下であることが好ましく、(融点-30)℃~(融点-10)℃であることが好ましい。固相重合は、撹拌しながら行ってもよく、また撹拌することなく静置した状態で行ってもよい。
【0037】
重合反応装置は特に限定されるものではないが、一般の高粘度流体の反応に用いられる反応装置が好ましく使用される。これらの反応装置の例としては、例えば、錨型、多段型、螺旋帯型、螺旋軸型等、あるいはこれらを変形した各種形状の撹拌翼をもつ撹拌装置を有する撹拌槽型重合反応装置、又は、ニーダー、ロールミル、バンバリーミキサー等の、一般に樹脂の混練に使用される混合装置等が挙げられる。
【0038】
(充填剤)
樹脂組成物に配合する充填剤として少なくともウィスカーを用いる。ウィスカーとしては、例えば、ケイ酸カルシウム(ウォラストナイト)、チタン酸カリウム、炭酸カルシウム、および酸化亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、ケイ酸カルシウムを用いることが好ましい。ウィスカーは、1種類のみを用いても良いし、2種類以上を用いてもよい。
【0039】
樹脂組成物中のウィスカーの含有量は、樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して1質量%以上15質量%以下であり、下限値が好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、また、上限値が好ましくは12質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下である。ウィスカーの含有量が上記数値範囲内であれば、耐凹み性および耐反り性のバランスに優れる樹脂成形品が得られる。
【0040】
樹脂組成物に配合する充填剤として粒子状充填剤をさらに用いてもよい。粒子状充填剤としては、例えば、硫酸バリウム、酸化チタン、ピロリン酸カルシウム、ガラスビーズ、およびシリカが挙げられる。これらの中でも、耐凹み性と反りの抑制の観点において、硫酸バリウムまたは酸化チタンを用いることが好ましく、硫酸バリウムを用いることが最も好ましい。特に、硫酸バリウムおよび酸化チタンは溶融粘度を低減することも可能であり、射出成形を容易に実施できる。粒子状充填剤は、1種類のみを用いても良いし、2種類以上を用いてもよい。
【0041】
樹脂組成物中の粒子状充填剤の含有量は、耐凹み性および耐反り性を両立する観点から、樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して1質量%以上15質量%以下であり、下限値が好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは3質量%以上であり、また、上限値が好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7.5質量%未満であり、さらに好ましくは7.0質量%以下である。粒子状充填剤の含有量が上記数値範囲内であれば、耐凹み性および耐反り性のバランスに優れる樹脂成形品が得られる。
【0042】
樹脂組成物に配合する充填剤として板状充填剤を用いてもよいが、耐凹み性および耐反り性を両立する観点から、板状充填剤の含有量を低減することが好ましい。板状充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、およびガラスフレークが挙げられる。樹脂組成物が板状充填剤を含む場合、板状充填剤の含有量は5質量%以下であり、好ましくは3質量%以下であり、より好ましくは1質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である。板状充填剤の含有量が上記数値範囲内であれば、耐凹み性および耐反り性への悪影響を抑制することができる。
【0043】
樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記の充填剤(ウィスカー、粒子状充填剤、板状充填剤)以外の他の充填剤をさらに含んでもよい。他の充填剤としては、例えば、カーボンブラック、カーボンファイバー、グラファイト、クレー、およびセリサイト、カーボンナノチューブ、硫化モリブデン、硫化タングステン、および窒化ホウ素等が挙げられる。他の充填剤は、1種類のみを用いても良いし、2種類以上を用いてもよい。但し、上記で列挙した他の充填剤は、形状によって板状充填剤や粒子状充填剤に分類される場合もあり得る。
【0044】
樹脂組成物中の他の充填剤の含有量は、樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、好ましくは15質量%以下であり、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。なお、上記で列挙した他の充填剤が形状によって板状充填剤や粒子状充填剤に分類される場合、それらの含有量は上記板状充填剤や粒子状充填剤の含有量に含まれる。
【0045】
(フッ素樹脂)
樹脂組成物は、上記の液晶ポリマー樹脂以外にも、フッ素樹脂をさらに含んでもよい。本発明おいてフッ素樹脂とは、フッ素を含むオレフィンを重合して得られる合成樹脂をいい、完全フッ素化樹脂、部分フッ素化樹脂、およびフッ素化物の共重合体のすべてを言う。本発明において、これらのフッ素樹脂は、粉末として使用されることが好ましい。また、粉末状のフッ素樹脂の平均粒径は、好ましくは0.5~70μmである。なお、平均粒子径は、体積平均粒子径を表し、レーザー回折法により測定することができる。
【0046】
フッ素樹脂の具体例としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフロロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂(FEP)、ポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体樹脂(ETFE)、エチレン-クロロトリフルオロエチレン共重合体樹脂(ECTFE)、ポリフッ化ビニル樹脂(PVF)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル-ヘキサフルオロプロピレン共重合体樹脂(EPE)等が挙げられる。これらの中でもポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)を用いることが好ましい。フッ素樹脂(B)は、1種類のみを用いても良いし、2種類以上を用いてもよい。
【0047】
樹脂組成物中のフッ素樹脂の含有量は、樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、好ましくは0.1質量%以上5質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上3質量%以下である。
【0048】
(他の樹脂)
樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記の液晶ポリマー樹脂およびフッ素樹脂以外の他の樹脂をさらに含んでいてもよい。例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアリレート、ポリシクロへキシレンジメチレンテレフタレート、およびポリブチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリ塩化ビニル等のビニル樹脂、ポリアクリレート、ポリメタアクリレートおよびポリメチルメタアクリレート等の(メタ)アクリル樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミドおよびポリエーテルイミド等のイミド樹脂、ポリスチレン、高衝撃ポリスチレン、AS樹脂およびABS樹脂等のポリスチレン樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化樹脂、セルロース樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリカーボネート樹脂等が挙げられる。これらの他の樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0049】
樹脂組成物中の他の樹脂の含有量は、樹脂組成物中の樹脂成分および充填剤の総量に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。
【0050】
(他の添加剤)
樹脂組成物は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、その他の添加剤、例えば、着色剤、分散剤、可塑剤、酸化防止剤、硬化剤、難燃剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、界面活性剤、離型剤、滑剤等を含んでもよい。
【0051】
(樹脂成形品)
本発明による樹脂成形品は上記の樹脂組成物からなるものである。樹脂成形品は、耐凹み性および耐反り性のバランスに優れるものである。さらに、樹脂成形品は、耐衝撃性や曲げ強度等の機械特性に優れるものであることが好ましい。
【0052】
樹脂成形品の形状は用途に応じ適宜変更されるものであり、特に限定されず、例えば、板状、箱状、筒状、シート状、フィルム状、繊維状、粉体状等とすることができる。
【0053】
(樹脂成形品の製造方法)
本発明においては、液晶ポリマー樹脂およびウィスカーや所望によりフッ素樹脂や粒状充填剤等を含む樹脂組成物を、従来公知の方法で成形して得ることができる。なお、樹脂組成物は、液晶ポリマー樹脂およびウィスカー等をバンバリーミキサー、ニーダー、一軸または二軸押出機等を用いて、溶融混練することにより得ることができる。
【0054】
樹脂成形品の成形方法としては、特に限定されず、例えば、プレス成形、発泡成形、射出成形、押出成形、打ち抜き成形等が挙げられる。上記のようにして製造される成形品は、用途に応じて、様々な形状に加工することができる。
【0055】
(電気電子部品)
本発明による電気電子部品は、上記の樹脂成形品を備えてなる。電気電子部品としては、例えば、カメラモジュール用部品、コネクター、ソケット、回路基板、フレキシブルプリント基板、積層用回路基板、衝突防止用レーダーなどのミリ波および準ミリ波レーダー、RFIDタグ、コンデンサー、インバーター部品、絶縁フィルム、ケーブルの被覆材、リチウムイオン電池等の二次電池の絶縁材、スピーカー振動板等が挙げられる。これらの中でも、カメラモジュール用部品が好ましい。
【実施例0056】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0057】
<液晶ポリマー樹脂の製造>
(合成例1)
撹拌翼を有する重合容器に、原料モノマーとしてp-ヒドロキシ安息香酸(HBA)60モル%、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(BP)20モル%、テレフタル酸(TPA)15モル%、イソフタル酸(IPA)5モル%を加え、触媒として酢酸カリウムおよび酢酸マグネシウムを仕込み、重合容器の減圧-窒素注入を2回行って窒素置換を行った後、無水酢酸(水酸基に対して1.05モル当量)を更に添加し、150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。
【0058】
アセチル化終了後、酢酸留出状態にした重合容器を0.5℃/分で昇温して、槽内の溶融体温度が305℃になったところでポリマーを抜き出し、冷却固化した。得られたポリマーを粉砕し目開き2.0mmの篩を通過する大きさに粉砕した。次に、粉砕したポリマーを、オーブンで温度を室温から11時間かけて295℃まで昇温して固相重合を行った。
【0059】
その後、ポリマーを室温で自然放熱し、液晶ポリマー樹脂1を得た。メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)を用い、液晶ポリマー樹脂1を顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させ、光学異方性の有無から液晶性を示すことを確認した。
【0060】
(合成例2)
トルクメーター付き撹拌翼を有する重合容器に、原料モノマーとしてHBA73モル%および6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(HNA)27モル%を加え、触媒として酢酸カリウムおよび酢酸マグネシウムを仕込み、重合容器の減圧-窒素注入を2回行って窒素置換を行った後、無水酢酸(水酸基に対して1.03モル当量)を更に添加し、150℃まで昇温し、還流状態で30分間アセチル化反応を行った。
【0061】
アセチル化終了後、酢酸留出状態にした重合容器を0.5℃/分で昇温して、槽内の溶融体温度が320℃になったところから80分かけて10mmHgまで減圧した。撹拌トルクが所定の値を示した後、窒素を導入して減圧状態から常圧を経て加圧状態にして、重合容器の下部から液晶ポリマー樹脂2を排出して得た。メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)を用い、液晶ポリマー樹脂2を顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させ、光学異方性の有無から液晶性を示すことを確認した。
【0062】
(合成例3)
撹拌翼を有する重合容器に、原料モノマーとしてHBA62モル%、HNA10モル%、BP6モル%、ハイドロキノン(HQ)8モル%、およびTPA14モル%、を加え、触媒として酢酸カリウムおよび酢酸マグネシウムを仕込み、重合容器の減圧-窒素注入を3回行って窒素置換を行った後、無水酢酸(水酸基に対して1.08モル当量)を更に添加し、150℃まで昇温し、還流状態で2時間アセチル化反応を行った。
【0063】
アセチル化終了後、酢酸留出状態にした重合容器を0.5℃/分で昇温して、槽内の溶融体温度が310℃になったところでポリマーを抜き出し、冷却固化した。得られたポリマーを粉砕し目開き1.0mmの篩を通過する大きさに粉砕した。次に、粉砕したポリマーを、オーブンで温度を室温から12時間かけて290℃まで昇温し後、290℃で温度を1時間保持して固相重合を行った。
【0064】
その後、ポリマーを室温で自然放熱し、液晶ポリマー樹脂3を得た。メトラー製の顕微鏡用ホットステージ(商品名:FP82HT)を備えたオリンパス(株)製の偏光顕微鏡(商品名:BH-2)を用い、液晶ポリマー樹脂3を顕微鏡加熱ステージ上にて加熱溶融させ、光学異方性の有無から液晶性を示すことを確認した。
【0065】
上記で得られた液晶ポリマー樹脂1~3の構成単位(モノマー組成)を表1に示した。
【表1】
【0066】
<充填剤の準備>
以下の充填剤を準備した。
・ウィスカー:ウォラストナイト(ケイ酸カルシウム)、関西マテック株式会社製、商品名KGP-H45
・粒子状充填剤:硫酸バリウム、堺化学工業株式会社製、商品名BARIACE B-55
・板状充填剤1:タルク、日本タルク株式会社製、商品名MS-KY
・板状充填剤2:マイカ、ヤマグチマイカ株式会社製、商品名AB-25S
【0067】
<樹脂組成物の製造>
(実施例1)
上記で得られた液晶ポリマー樹脂1を87質量部、上記のウォラストナイトを5質量部、上記の硫酸バリウムを5質量部、およびカーボンブラック(CB、キャボット株式会社製、商品名REGAL99)を3質量混合し、2軸混練機を用いて380℃の温度で混練し、樹脂組成物を得た。
【0068】
(実施例2)
液晶ポリマー樹脂1の配合量を86質量部に変更し、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE、株式会社喜多村製、商品名 KTL-620)を1質量部添加した以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0069】
(実施例3)
ウォラストナイトの配合量を10質量部に変更し、硫酸バリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0070】
(実施例4)
液晶ポリマー樹脂1の代わりに液晶ポリマー樹脂2を86質量部添加し、混練温度を適宜調節した以外は実施例2と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0071】
(実施例5)
液晶ポリマー樹脂1の代わりに液晶ポリマー樹脂3を86質量部添加し、混練温度を適宜調節した以外は実施例2と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0072】
(比較例1)
液晶ポリマー樹脂1の配合量を97質量部に変更し、ウォラストナイトおよび硫酸バリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0073】
(比較例2)
液晶ポリマー樹脂1の配合量を77質量部に変更し、ウォラストナイトの配合量を20質量部に変更し、硫酸バリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0074】
(比較例3)
液晶ポリマー樹脂1の配合量を67質量部に変更し、ウォラストナイトの配合量を30質量部に変更し、硫酸バリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0075】
(比較例4)
液晶ポリマー樹脂1の配合量を92質量部に変更し、タルクを5質量部添加し、ウォラストナイトおよび硫酸バリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0076】
(比較例5)
液晶ポリマー樹脂1の配合量を87質量部に変更し、タルクを10質量部添加し、ウォラストナイトおよび硫酸バリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0077】
(比較例6)
液晶ポリマー樹脂1の配合量を92質量部に変更し、マイカを5質量部添加し、ウォラストナイトおよび硫酸バリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0078】
(比較例7)
液晶ポリマー樹脂1の配合量を87質量部に変更し、マイカを10質量部添加し、ウォラストナイトおよび硫酸バリウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を得た。
【0079】
<性能評価>
上記で得られた樹脂組成物の組成を表2に示した。以下、上記で得られた樹脂組成物について性能評価を行った。
【0080】
(凹み深さの測定)
上記で得られた樹脂組成物を、射出成形機((株)ソディック製、CD10EH2)を用いて、シリンダー最高温度を樹脂に応じて制御し(樹脂1:360℃、樹脂2:330℃、樹脂3:330℃)、金型温度80℃で射出成形してボビン試験片(
図1の試験片のサイズ)を作製した。
図1に示すようにボビン試験片の下部にセラミックボール(直径0.65mm)を設置し、上部(荷重高さ5mm)から荷重(25g)を加える操作を100回繰り返した後、ボビン試験片の凹み深さ(μm)を測定した。測定結果を表2に示した。凹み深さの数値が低い程、耐凹み性に優れることを示す。特に、凹み深さが14.0μm以下であれば、耐凹み性に優れていると言える。
【0081】
(加熱後反り量の測定)
上記で得られた樹脂組成物を、射出成形機((株)ソディック製、CD10EH2)を用いて、シリンダー最高温度を樹脂に応じて制御し(樹脂1:360℃、樹脂2:330℃、樹脂3:330℃)、金型温度100℃で射出成形してベース形状試験片(縦8mm、横8mm、高さ1.3mm)を作製した。その後、ベース形状試験片に120℃、1時間の加熱処理を施した。加熱処理後のベース形状試験片について、
図2に示すように8領域(番号1~8)の中の最大高さと最小高さを測定し、その差を反り量(μm)とした。測定結果を表2に示した。加熱後反り量の数値が低い程、加熱処理時の耐反り性に優れることを示す。特に、加熱後反り量が140μm以下であれば、耐反り性に優れていると言える。
【0082】
(溶融粘度の測定)
上記で得られた樹脂組成物の、せん断速度100S-1におけるの溶融粘度(Pa・s)を、インテスコ株式会社製キャピラリーレオメーター(Model2010)を用いて測定した。キャピラリーとして直径1.00mm、長さ40mm、流入角90°のものを用い、4℃/分の昇温速度で等速加熱をしながら見掛け粘度測定を行った。なお、液晶ポリマー樹脂1を用いた樹脂組成物では360℃、液晶ポリマー樹脂2を用いた樹脂組成物では310℃、液晶ポリマー樹脂3を用いた樹脂組成物では350℃での見かけ粘度を代表値として表2に示した。
【0083】