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特開2024-82631金属含浸セラミックス焼成体の製造方法
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  • 特開-金属含浸セラミックス焼成体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082631
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】金属含浸セラミックス焼成体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/88 20060101AFI20240613BHJP
   C04B 35/577 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C04B41/88 U
C04B35/577
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196607
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000237868
【氏名又は名称】エヌジーケイ・アドレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】後藤 空
(72)【発明者】
【氏名】久野 修平
(72)【発明者】
【氏名】松葉 浩臣
(57)【要約】
【課題】製造コストの削減に寄与することのできる金属含浸セラミックス焼成体の製造方法を提供する。
【解決手段】セラミックス成形体に粉粒体状の金属を接触させる工程1と、前記セラミックス成形体に前記粉粒体状の金属を接触させた状態で、当該金属の融点以上に加熱することで、当該金属を前記セラミックス成形体内に含浸しながら焼成して金属含浸セラミックス焼成体を得る工程2と、を含む金属含浸セラミックス焼成体の製造方法。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス成形体に粉粒体状の金属を接触させる工程1と、
前記セラミックス成形体に前記粉粒体状の金属を接触させた状態で、当該金属の融点以上に加熱することで、当該金属を前記セラミックス成形体内に含浸しながら焼成して金属含浸セラミックス焼成体を得る工程2と、
を含む金属含浸セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項2】
前記セラミックス成形体は、外周壁と、外周壁の内周側に配設され、一方の端面から他方の端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造部を備える請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記粉粒体状の金属は、レーザー回折法で粒度分布を測定したときの体積基準によるメジアン径(D50)が100μm以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属含浸セラミックス焼成体の気孔率は30%以下である請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記セラミックス成形体は一方の端面から他方の端面まで延びる中空部を有し、工程1は、前記セラミックス成形体の前記中空部内に前記粉粒体状の金属を配置することを含む請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
工程2は、前記中空部の延びる方向が鉛直方向に平行となるように、載置面を有する治具の当該載置面上に前記セラミックス成形体が置かれた状態で実施される請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
工程1は、前記セラミックス成形体の前記セル内に前記粉粒体状の金属を配置することを含む請求項2に記載の製造方法。
【請求項8】
工程2は、前記セルの延びる方向が鉛直方向に平行となるように、載置面を有する治具の当該載置面上に前記セラミックス成形体が置かれた状態で実施される請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記セラミックス成形体が炭化珪素を含有し、前記粉粒体状の金属が金属珪素を含有する請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記金属含浸セラミックス焼成体が熱交換器である請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属含浸セラミックス焼成体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス成形体に溶融金属を含浸させながら焼成することで金属含浸セラミックス焼成体を製造する方法が知られている。金属含浸セラミックス焼成体の例としては、シリコン含浸型の炭化珪素が挙げられる。シリコン含浸型の炭化珪素は、高熱伝導率、低熱膨張、高強度、耐熱性、耐酸化性を持つ材料として知られており、従来、熱交換器、ヒートシンク、半導体装置向け部材、耐火物、排ガス浄化用フィルター等の用途に用いられている。
【0003】
特許文献1(国際公開第2011/145387号)には、SiCを含む被含浸体とSiを含む含浸金属供給体とを用い、該被含浸体及び該含浸金属供給体のうち少なくとも一方にAlを含み、常圧の不活性ガス雰囲気、1200℃以上1600℃以下の温度範囲で前記含浸金属供給体からのSiを含む溶融金属を前記被含浸体へ含浸処理する含浸工程、を含むことを特徴とする、Si-SiC系複合材料の製造方法が記載されている。特許文献1には、具体的な含浸処理の方法として、成形体である被含浸体の上にプレス成形された含浸金属供給体を載置して加熱処理を行い、含浸金属供給体を溶融して被含浸体に含浸させることが記載されている。
【0004】
特許文献2(国際公開第2021/171670号)には、Si含浸SiC複合材料を主成分とするハニカム成形体を製造する方法が記載されており、金属Siを含む塊とハニカム成形体とが接触するように配置して焼成する方法が図示されている。
【0005】
特許文献3(特開2017-218342号公報)には、成形体を得る成形工程と、前記成形体に含まれる有機バインダーを除去して脱脂体を得る脱脂工程と、前記脱脂体の周壁及び区画壁の内部に金属珪素を含浸させる含浸工程とを有するハニカム構造体の製造方法が記載されている。特許文献3には、含浸工程においては、前記脱脂体に対して金属珪素の塊を接触させた状態で加熱することが好ましいことが記載されている。
【0006】
特許文献4(特開2019-156683号公報)には、特許文献3に記載の製造方法の欠点が以下のように述べられている。特許文献3に記載の製造方法では、溶融した金属珪素の自重に基づいて脱脂体内に含浸されることから、脱脂体の気孔容積を超えた量の金属珪素が含浸されて、余剰の金属珪素がハニカム構造体の外周から垂れ下がったり、ハニカム構造体内のセル内に膨出したりすることがある。そのため、当該製造方法は、安定した形状の精度を確保することが難しい。
【0007】
このような欠点を克服すべく、特許文献4では、固体状の金属珪素を収容する容器の内部に多孔質の支持具を介してハニカム多孔体を配置した状態で、上記容器内を金属珪素の融点以上の温度に加熱することにより、溶融した金属珪素を、多孔質の上記支持具を通じて上記ハニカム多孔体に含浸させる含浸工程を含むハニカム構造体の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2011/145387号
【特許文献2】国際公開第2021/171670号
【特許文献3】特開2017-218342号公報
【特許文献4】特開2019-156683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~3に記載されているように、従来の金属含浸セラミックス焼成体の製造方法においては、被含浸セラミックス成形体と含浸金属供給成形体を接触させた状態、典型的には被含浸セラミックス成形体の上に含浸金属供給成形体を載置した状態で加熱処理することで含浸工程を行っていた。
【0010】
しかしながら、このような含浸工程では含浸金属供給成形体を用意する必要がある。このため、焼成体の大きさや材質に応じて含浸量を調整するためには含浸金属供給成形体の大きさを変更したり、不要部を削り取ったりする必要があり、製造コストを押し上げる要因となっていた。また、被含浸セラミックス成形体の上に含浸金属供給成形体を載置すると高さが大きくなる。このため、上下に複数段並べた棚板を有する窯道具に多数の被含浸セラミックス成形体を積載して大量生産する際の積載効率の低下を招いていた。
【0011】
一方、特許文献4には、次のような利点が記載されている。含浸工程では、ハニカム多孔体の毛細管現象による吸い上げ力に基づいて金属珪素が含浸される。そのため、ハニカム多孔体の気孔容積を超えた量の金属珪素が含浸され難く、余剰の金属珪素が外周から垂れ下がったり、ハニカム構造体内のセル内に膨出してセルが設計値よりも狭くなったりすることが抑制される。その結果、ハニカム構造体の形状安定性が向上する。
【0012】
しかしながら、特許文献4に記載の含浸工程では、多孔質の支持具の上にハニカム多孔体(脱脂体)を載せて溶融金属を吸い上げる都合上、多孔質の支持具に含浸された分の金属珪素が無駄となる。また、特許文献4には、容器内に収容される金属珪素の量は、例えば、ハニカム多孔体(脱脂体)の気孔容積と支持具の気孔容積の和に相当する量(例えば、上記和の1.00~1.05倍の体積に相当する量)とするといった記載もあるが、重力によって多孔質の支持具に溶融金属が集まりやすく、ハニカム多孔体は想定よりも緻密化できない。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、一側面において、製造コストの削減に寄与することのできる金属含浸セラミックス焼成体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、セラミックス成形体に粉粒体状の金属を接触させた状態で含浸工程を実施することが有利であることを見出した。本発明は当該知見に基づき創作されたものであり、以下に例示される。
[態様1]
セラミックス成形体に粉粒体状の金属を接触させる工程1と、
前記セラミックス成形体に前記粉粒体状の金属を接触させた状態で、当該金属の融点以上に加熱することで、当該金属を前記セラミックス成形体内に含浸しながら焼成して金属含浸セラミックス焼成体を得る工程2と、
を含む金属含浸セラミックス焼成体の製造方法。
[態様2]
前記セラミックス成形体は、外周壁と、外周壁の内周側に配設され、一方の端面から他方の端面まで流路を形成する複数のセルを区画形成する隔壁とを有するハニカム構造部を備える態様1に記載の製造方法。
[態様3]
前記粉粒体状の金属は、レーザー回折法で粒度分布を測定したときの体積基準によるメジアン径(D50)が100μm以上である態様1又は2に記載の製造方法。
[態様4]
前記金属含浸セラミックス焼成体の気孔率は30%以下である態様1~3の何れか一つに記載の製造方法。
[態様5]
前記セラミックス成形体は一方の端面から他方の端面まで延びる中空部を有し、工程1は、前記セラミックス成形体の前記中空部内に前記粉粒体状の金属を配置することを含む態様1~4の何れか一つに記載の製造方法。
[態様6]
工程2は、前記中空部の延びる方向が鉛直方向に平行となるように、載置面を有する治具の当該載置面上に前記セラミックス成形体が置かれた状態で実施される態様5に記載の製造方法。
[態様7]
工程1は、前記セラミックス成形体の前記セル内に前記粉粒体状の金属を配置することを含む態様2又は態様2に従属する態様3~6の何れか一つに記載の製造方法。
[態様8]
工程2は、前記セルの延びる方向が鉛直方向に平行となるように、載置面を有する治具の当該載置面上に前記セラミックス成形体が置かれた状態で実施される態様7に記載の製造方法。
[態様9]
前記セラミックス成形体が炭化珪素を含有し、前記粉粒体状の金属が金属珪素を含有する態様1~8の何れか一つに記載の製造方法。
[態様10]
前記金属含浸セラミックス焼成体が熱交換器である態様1~9の何れか一つに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態に係る金属含浸セラミックス焼成体の製造方法によれば、含浸金属供給体として粉粒体状の金属が使用される。このため、含浸金属供給体を成形する作業が省略できるだけでなく、含浸に必要な量を簡単に調整できる。また、粉粒体状の金属は被含浸セラミックス成形体の上に載置する必要もないので、焼成のために多数のセラミックス成形体に粉粒体状の金属を接触させた状態で窯道具に積載したときに要する高さを小さくでき、積載効率も向上する。
【0016】
本発明の一実施形態に係る金属含浸セラミックス焼成体の製造方法によれば、セラミックス成形体に粉粒体状の金属を接触させた状態で含浸が行われる。このため、特許文献4に記載のような仲介となる多孔質の支持具が不要であり、支持具に金属が含浸されてしまうことによる金属の無駄が発生することもない。
【0017】
よって、本発明の一実施形態に係る金属含浸セラミックス焼成体の製造方法は、金属含浸セラミックス焼成体の製造コストの削減に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】セラミックス成形体の一例に係る模式的な斜視図を示す。
図2】セラミックス成形体の別例に係る模式的な斜視図及びその部分拡大図を示す。
図3】治具の載置面上にセラミックス成形体が置かれた状態を示す模式的な側面断面図及びその部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0020】
本発明の一実施形態に係る金属含浸セラミックス焼成体の製造方法は、
セラミックス成形体に粉粒体状の金属を接触させる工程1と、
前記セラミックス成形体に前記粉粒体状の金属を接触させた状態で、当該金属の融点以上に加熱することで、当該金属を前記セラミックス成形体内に含浸しながら焼成して金属含浸セラミックス焼成体を得る工程2と、
を含む。
【0021】
(工程1)
工程1は、セラミックス成形体に粉粒体状の金属を接触させることを含む。図1にはセラミックス成形体100の一例に係る模式的な斜視図が示されている。図2にはセラミックス成形体100の別例に係る模式的な斜視図が示されている。セラミックス成形体100の形状には特段の制約はないが、一実施形態において、セラミックス成形体100は、外周壁112と、外周壁112の内周側に配設され、一方の端面114から他方の端面116まで流体の流路を形成する複数のセル115を区画形成する隔壁113とを有するハニカム構造部110を備える。セラミックス成形体100の外形は典型的には柱状である。
【0022】
セラミックス成形体100の端面形状に制限はないが、例えば円形状、楕円形状、レーストラック形状及び長円形状等のラウンド形状、三角形状及び四角形状等の多角形状、並びに、その他の異形形状とすることができる。図1に示すセラミックス成形体100は、端面形状が円形状であり、全体として円柱状である。
【0023】
また、図2に示すように、セラミックス成形体100は、一方の端面114から他方の端面116まで延びる中空部117を有してもよい。中空部117はハニカム構造部110のセル115の延びる方向の中心軸と同軸状に形成することが好ましい。この場合、セラミックス成形体100は、外周壁112と、内周壁119と、外周壁112及び内周壁119の間に配設され、一方の端面114から他方の端面116まで流体の流路を形成する複数のセル115を区画形成する隔壁113とを有するハニカム構造部110を備える。
【0024】
セラミックス成形体100の高さ(一方の端面から他方の端面までの長さ)は特に制限はなく、用途や要求性能に応じて適宜設定すればよい。セラミックス成形体100の高さと各端面の最大径(セラミックス成形体の各端面の重心を通る径のうち、最大長さを指す)の関係についても特に制限はない。従って、セラミックス成形体100の高さが各端面の最大径よりも長くてもよいし、セラミックス成形体100の高さが各端面の最大径よりも短くてもよい。
【0025】
セル115の延びる方向に垂直な断面におけるセルの形状に制限はないが、四角形、六角形、八角形、又はこれらの組み合わせであることが好ましい。これ等のなかでも、四角形及び六角形が好ましい。セル形状をこのようにすることにより、セル115に流体を流したときの圧力損失が小さくなる。図1に示すセラミックス成形体100のハニカム構造部110において、セルの流路に直交する断面におけるセルの形状は正方形が大半を占める。
【0026】
セル115の延びる方向に垂直な断面において、複数のセル115を放射状に配列してもよい。このような構成とすることで、セル115を流通する流体の熱をハニカム構造体の外部に効率よく伝達することができるので、金属含浸セラミックス焼成体を熱交換器として利用する際に有利である。図2に示すセラミックス成形体100のハニカム構造部110においては、複数のセル115が放射状に配列されている。セル115の延びる方向に垂直な断面において、図2に示すセラミックス成形体100の複数のセル115はそれぞれ、ハニカム構造部110の中心側から外周側に向かって伸びる一対の隔壁面113aと、当該一対の隔壁面113aを連結する中心側及び外周側の隔壁面113bと、によって区画形成される。より詳細には、図2に示すセラミックス成形体100の複数のセル115はそれぞれが、ハニカム構造部110の中心側から外周側に向かって伸びる一対の直線状隔壁面113aと、同心の一対の弧状隔壁面113bとによって区画形成されている。
【0027】
セル115は一方の端面114から他方の端面116まで貫通していてもよい。また、セル115は、一方の端面114が目封止されており他方の端面116が開口を有する第1セルと、一方の端面114が開口を有し他方の端面116が目封止されている第2セルとが隔壁113を挟んで交互に隣接配置されていてもよい。
【0028】
セラミックス成形体100の材質は、多孔質セラミックスであれば特に制限はないが、金属含浸セラミックス焼成体を熱交換器、フィルター又は触媒担体として利用する場合は、炭化珪素、炭化タンタル、炭化タングステン等の炭化物、窒化珪素、窒化ホウ素等の窒化物から選択される一種以上を含有することが好ましく、炭化珪素を含有することがより好ましい。セラミックス成形体100は、セラミックス成分を一種のみ含有してもよいし、二種以上組み合わせて含有してもよい。セラミックス成形体100は、セラミックス成分中、炭化珪素を50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、90質量%以上含有することが更により好ましい。
【0029】
ハニカム構造部110を備えるセラミックス成形体100の作製方法について説明する。ハニカム構造部110を備えるセラミックス成形体100の作製は、公知のハニカム構造体の製造方法に準じて行うことができる。例えば、まず、炭化珪素粉末に、バインダ、界面活性剤、造孔材、水等を添加して成形原料を作製する。必要に応じて成形原料に金属珪素粉末を添加してもよい。
【0030】
次に、得られた成形原料を混練して坏土を形成した後、坏土を押出成形してハニカム構造部を有する未乾燥セラミックス成形体を作製する。押出成形に際しては、所望の全体形状、セル形状、隔壁厚み、セル密度等を有する口金を用いることができる。
【0031】
次いで、得られた未乾燥セラミックス成形体を乾燥することで、ハニカム構造部110を備えるセラミックス成形体が得られる。乾燥工程においては、例えば、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等の従来公知の乾燥方法を用いることができる。目封止部が必要な場合は、乾燥したセラミックス成形体の両底面の所定位置に目封止部を形成した上で目封止部を乾燥することで形成可能である。
【0032】
工程1では、このようにして得られたセラミックス成形体に粉粒体状の金属を接触させる。工程2でセラミックス成形体中に含浸させるためである。工程1の対象となるセラミックス成形体は、脱脂前のものでもよいし、脱脂後のものでもよいし、脱脂後に更に焼成した後のものでもよい。しかしながら、生産効率やエネルギー費等の観点から、工程1は脱脂前のセラミックス成形体に対して実施することが好ましい。
【0033】
本明細書において、“粉粒体”とは粉体、粒体、又は両者の混合物を指し、レーザー回折法で粒度分布を測定したときの体積基準によるメジアン径(D50)が5000μm以下である粒子の集合体を指す。粉粒体状の金属のメジアン径の下限は、100μm以上であることが好ましく、200μm以上であることがより好ましく、800μm以上であることが更により好ましい。このように粉粒体状の金属のメジアン径を大きくすることで、含浸時に粉粒体状の金属に由来する付着物がセラミックス成形体の表面に強固にこびり付くのを抑制しやすくなる。また、粉粒体状の金属のメジアン径の上限は、3000μm以下であることが好ましく、2000μm以下であることがより好ましく、1000μm以下であることが更により好ましい。従って、粉粒体状の金属のメジアン径は、例えば100~3000μmであることが好ましく、200~2000μmであることがより好ましく、800~1000μmであることが更により好ましい。
【0034】
粉粒体状の金属の種類には特段の制約はないが、金属珪素、モリブデン、タングステン、ベリリウム、クロム、鉄、アルミニウム、ニッケル、マンガン、銀、銅、バナジウム、コバルト、タンタル、ニオブ、チタン、及びマグネシウムなどから選択される一種以上を含有することが好ましく、金属珪素を含有することがより好ましい。粉粒体状の金属は、金属を一種のみ含有してもよいし、二種以上組み合わせて含有してもよい。粉粒体状の金属は、単体金属を含有してもよいし、合金を含有してもよい。また、計量時の流動性を高めたり、載置時に粉粒体を構成する粒子同士の過剰な接触を防ぎ、より除去性を高めるために、粉粒体状の金属の30質量%以下程度の助剤を含んでいてもよい。助剤としては、例えば炭素数が20個以下の糖類、あるいは炭素などが望ましい。特に、セラミックス成形体が炭化珪素を含有するときは、粉粒体状の金属が金属珪素を含有することが好ましい。粉粒体状の金属は、粉粒体状の金属中、金属珪素を50質量%以上含有することが好ましく、70質量%以上含有することがより好ましく、90質量%以上含有することが更により好ましく、99質量%以上含有してもよい。
【0035】
工程1で用意する粉粒体状の金属の全量がセラミックス成形体に接触している必要はなく、一部のみが接触していればよい。工程2において粉粒体状の金属が溶融すると、毛細管現象によりセラミックス成形体の内部に順次染み込んでいくからである。粉粒体状の金属の量は、焼成時のセラミックス成形体の内部の気孔容積を考慮して適宜設定すればよいが、気孔容積の50%以上とすることが好ましく、70%以上とすることがより好ましく、90%以上とすることが更により好ましい。上限は120%以下、好ましくは110%以下、さらに好ましくは105%以下とすれば、含浸後の付着物の生成を抑えられ、ひいては含浸量が過剰となる事態そのものを回避することができる。
【0036】
セラミックス成形体100に粉粒体状の金属を接触させる場所には特段の制約はない。例えば、セラミックス成形体100がハニカム構造部110を有する場合、外周壁112、一方の端面114、他方の端面116、セル115から選択される一箇所以上に粉粒体状の金属を接触させることができる。セラミックス成形体100のセル115内に粉粒体状の金属を配置する方法としては、セル115の開口よりも粒度の小さい粉末を使用して、漏斗のような器具を使用してセル115内に粉粒体状の金属を流し込む方法等が挙げられる。また、セラミックス成形体100が、ハニカム構造部110を有するか否かに関わらず、一方の端面から他方の端面まで延びる中空部117を有する場合には、中空部117に面する内周壁119に粉粒体状の金属を接触させてもよい。
【0037】
セラミックス成形体100に粉粒体状の金属を接触させる操作の前又は後に、セラミックス成形体100を、載置面を有する治具内に置くことが好ましい。セラミックス成形体100がハニカム構造部110を有する場合、粉粒体状の金属を接触させる操作の前に、セル115の延びる方向が鉛直方向に平行となるように、セラミックス成形体100を、載置面を有する治具内に置いておくことが好ましい。また、セラミックス成形体100が、ハニカム構造部110を有するか否かに関わらず、一方の端面から他方の端面まで延びる中空部117を有する場合には、粉粒体状の金属を接触させる操作の前に、中空部117の延びる方向が鉛直方向に平行となるように、セラミックス成形体100を、載置面を有する治具内に置いておくことが好ましい。この状態で、中空部117に粉粒体状の金属を配置すると、粉粒体状の金属が治具外にこぼれたり飛散したりすることを防止しやすいので、セラミックス成形体100を効率的に含浸処理することができる。
【0038】
上記の治具は、粉粒体状の金属が治具外にこぼれたり、セラミックス成形体100が治具から滑り落ちたりしないように、載置面を取り囲むようにして立設された壁面を有することが好ましい。載置面からの壁面の高さH1は適宜設定すればよく、特段の制限はないが、窯道具へのセラミックス成形体100の積載効率を向上させ、また、焼成時に炉内のガス流を阻害しないことが望ましい点に鑑みれば、載置面に置かれた状態におけるセラミックス成形体100の高さ(載置面に対して最も高い所にあるセラミックス成形体100の部位を指す。)をH2とすると、H1/H2≦1.0であることが好ましく、H1/H2≦0.9であることがより好ましく、H1/H2≦0.8であることが更により好ましく、H1/H2≦0.5であることが更により好ましい。一方で、粉粒体状の金属が治具外にこぼれたり、セラミックス成形体100が治具から滑り落ちたりするのを防止するという観点からは、0.05≦H1/H2であることが好ましく、0.1≦H1/H2であることがより好ましく、0.2≦H1/H2であることが更により好ましい。従って、例えば、0.05≦H1/H2≦1.0であることが好ましく、0.1≦H1/H2≦0.9であることがより好ましく、0.2≦H1/H2≦0.8であることが更により好ましい。
【0039】
上記の治具は、耐熱性に優れていることが好ましい。従って、治具の材質としては、例えば、カーボン(グラファイト等)、炭化珪素、窒化ホウ素、炭化タンタル、アルミナ、及び白金から選択される一種又は二種以上を合計で80質量%以上含有することが好ましく、90質量%以上含有することがより好ましく、95質量%以上含有することが更により好ましい。
【0040】
また、治具の載置面は、載置面を構成する物質、セラミックス成形体を構成する物質、及び粉粒体状の金属の何れとも不活性な物質、例えば窒化ホウ素及び/又は炭化タンタルを含有するコーティング層で被覆されていることが好ましい。同様に、治具の内側の壁面も、載置面を構成する物質、セラミックス成形体を構成する物質、及び粉粒体状の金属の何れとも不活性な物質、例えば窒化ホウ素及び/又は炭化タンタルを含有するコーティング層で被覆されていることが好ましい。
【0041】
図3には、中空部117及びハニカム構造部110を有するセラミックス成形体100が、セル115及び中空部117の延びる方向が鉛直方向に平行となるように、載置面210及び壁面220を有する治具200の載置面210上に置かれた状態を示す模式的な側面断面図及びその部分拡大図が示されている。中空部117内には粉粒体状の金属300が配置されている。粉粒体状の金属300はセラミックス成形体100の内周壁119に接触している。
【0042】
図3の部分拡大図には、粉粒体状の金属300とセラミックス成形体100の内周壁119との接触点が模式的に描写されている。粉粒体状の金属300の粒径が大きい方が接触点同士の距離が大きくなり、粉粒体状の金属300とセラミックス成形体100の内周壁119の間に隙間が生じやすいことが理解できる。そのため、粉粒体状の金属300の粒径を大きくすることで、粉粒体状の金属300とセラミックス成形体100の内周壁119の間の密着性を低くすることができることが理解できるであろう。そして、焼成時にはバインダ等の有機物の分解ガスが粉粒体状の金属300と反応することで表面に殻を作り、この殻は金属の溶融後も形状をある程度維持することが分かっている。よって、後で述べる工程2を実施することで、過剰な粉粒体状の金属300が内周壁119の表面に付着したり、金属珪素と炉内ガス等の反応物が生成し、内周壁119の表面に付着したりした場合でも、粉粒体状の金属300を除去し易くなる。粉粒体状の金属300の具体的な粒度に関しては上述した通りである。
【0043】
(工程2)
工程2は、セラミックス成形体100に粉粒体状の金属300を接触させた状態で、金属300の融点以上に加熱することで、金属300をセラミックス成形体100内に含浸しながら焼成して金属含浸セラミックス焼成体を得ることを含む。セラミックス成形体100が脱脂前のものである場合は、脱脂と焼成を連続的に実施することで効率的に金属含浸セラミックス焼成体を製造可能である。使用する焼成炉は、特に限定されないが、電気炉、ガス炉等を用いることができる。
【0044】
工程2は、セラミックス成形体100を、載置面を有する治具内に置いた状態で実施することが好ましい。溶解した粉粒体状の金属が含浸に使用されずに流出してしまうのを防止するためである。例えば、セラミックス成形体100が一方の端面から他方の端面まで延びる中空部117を有する場合には、中空部117の延びる方向が鉛直方向に平行となるように、載置面を有する治具の載置面上にセラミックス成形体100が置かれた状態で工程2を実施することが好ましい。また、セラミックス成形体100がハニカム構造部110を有する場合、セル115の延びる方向が鉛直方向に平行となるように、載置面を有する治具の当該載置面上にセラミックス成形体100が置かれた状態で工程2を実施することが好ましい。
【0045】
脱脂は、例えば、セラミックス成形体に含まれる成形助剤の種類及び添加量、一窯当たりの詰め量に応じた雰囲気及び温度、時間で適宜設定すればよいが、成形助剤の分解温度以上であることが必要である。焼成は、例えば、セラミックス成形体に含まれるセラミックスの種類に応じた雰囲気及び温度、時間で適宜設定すればよいが、粉粒体状の金属の融点以上であることが必要である。含浸用の金属の融点をM℃とし、工程2の加熱時における最高温度をT1℃とすると、例えば、M≦T1≦M+300とすることが好ましく、M+20≦T1≦M+200とすることがより好ましく、M+40≦T1≦M+150とすることが更により好ましい。ただし、この範囲にあってもセラミックス成形体を構成するセラミックスの焼結温度未満となるべきである。例えば、セラミックス成形体が炭化珪素を含有し、含浸用の金属として金属珪素を使用するときは、最高温度T1を1420~1720℃とすることが好ましく、1440~1620℃とすることがより好ましく、1460~1570℃とすることが更により好ましい。融点以上に加熱された粉粒体状の金属は融解し、毛細管現象によってセラミックス成形体中の気孔に次々に入り込むことで含浸処理が行われる。加熱後、金属含浸セラミックス焼成体を室温まで冷却する。
【0046】
金属含浸セラミックス焼成体の気孔率は含浸量が多くなるほど低下する。金属含浸セラミックス焼成体の気孔率は、強度、熱伝導率の確保のため、30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更により好ましい。金属含浸セラミックス焼成体の気孔率は0%でもよい。気孔率は、JIS R1634:1998に規定する開気孔率の測定方法(アルキメデス法)により測定するが、気孔率が10%を超えるときは、JIS R1655:2003に準拠した水銀圧入法によって測定される。
【0047】
金属含浸セラミックス焼成体がハニカム構造部を有する場合、セルの延びる方向に垂直な断面におけるセル密度(単位面積当たりのセルの数)は、特に限定されないが、好ましくは4~320セル/cm2である。セル密度を4セル/cm2以上とすることにより、隔壁113の強度、ひいては金属含浸セラミックス焼成体自体の強度及び有効GSA(幾何学的表面積)を十分に確保することができる。また、セル密度を320セル/cm2以下とすることにより、セル内に流体が流れる際の圧力損失の増大を抑制することができる。セル密度は、金属含浸セラミックス焼成体のハニカム構造部が有するセル数を中空部、外周壁及び内周壁を除く一方の端面の面積で除することで算出される。
【0048】
隔壁113の厚みは、特に限定されないが、例えば金属含浸セラミックス焼成体を熱交換器として使用する場合、好ましくは0.1~1.0mm、より好ましくは0.2~0.6mmである。隔壁113の厚みを0.1mm以上とすることにより、金属含浸セラミックス焼成体の機械的強度を十分なものとすることができる。また、隔壁113の厚さを1.0mm以下とすることにより、開口面積の低下によってセル115に流体を流した時の圧力損失が大きくなったり、流体との接触面積の低下によって熱回収効率が低下したりするなどの問題を抑制することができる。
【0049】
外周壁112及び内周壁119の厚みは、特に限定されないが、隔壁113の厚みよりも大きいことが好ましい。このような構成とすることにより、流体間の温度差による熱応力などによって破壊(例えば、ひび、割れなど)が起こり易い外周壁112及び内周壁119の強度を高めることができる。外周壁112及び内周壁119の厚みは、特に限定されず、用途などに応じて適宜調整すればよい。例えば、外周壁112及び内周壁119の厚みは、金属含浸セラミックス焼成体を一般的な熱交換用途に用いる場合は、好ましくは0.3mm~10mm、より好ましくは0.5mm~5mm、更に好ましくは1mm~3mmである。また、金属含浸セラミックス焼成体を蓄熱用途に用いる場合は、外周壁112の厚みを10mm以上として外周壁112の熱容量を増大させてもよい。
【実施例0050】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0051】
(1.円柱状の坏土の作製)
炭化珪素(SiC)粉末にバインダ、造孔材等の成形助剤を添加すると共に、水を添加して成形原料とした。そして、成形原料を真空土練機により混練し、円柱状の坏土を作製した。
【0052】
(2.セラミックス成形体の作製)
得られた円柱状の坏土を所定の口金構造を有する押出成形機を用いて成形し、セルの延びる方向に垂直な断面における各セル形状が図2に示すように、各セルが中心側から外周側に向かって伸びる一対の直線状隔壁面と、同心の一対の弧状隔壁面とによって区画形成されるハニカム構造部を有する中空円柱状の未乾燥セラミックス成形体を得た。この未乾燥セラミックス成形体を熱風乾燥機を用いて120℃で12時間以上乾燥し、両端面を所定量切断した。これにより、高さ25mm×内径66mm×外径86mmの中空円柱状の乾燥したセラミックス成形体を下記の試験に必要な数だけ作製した。
【0053】
(3.含浸焼成)
上記で作製した中空円柱状の乾燥したセラミックス成形体をそれぞれ、中空部及びセルの延びる方向が鉛直方向に平行となるように、カーボン製の治具の載置面に同心円状に置いた。この治具は、平面視形状が円形状であり、載置面を取り囲むようにして立設された壁面を有していた。載置面からの壁面の高さをH1とし、載置面に置かれた状態におけるセラミックス成形体の高さをH2とすると、H1/H2=0.5であった。また、載置面及び治具の内側の壁面は窒化ホウ素を含有するコーティング層で被覆されていた。
【0054】
次いで、治具に置かれた中空円柱状のセラミックス成形体の中空部に、試験番号に応じて異なるメジアン径(D50)を有する金属珪素粉末を配置した。金属珪素粉末のメジアン径(D50)はHORIBA社製のレーザー回折粒度分布測定器(型式LA960)で測定した。何れの試験番号においても配置した金属珪素粉末の質量は、セラミックス成形体の質量を100質量部としたときに50質量部とした。表1に各試験番号に係る金属珪素粉末のメジアン径(D50)を示す。
【0055】
次いで、治具に置かれた状態の中空円柱状のセラミックス成形体を焼成炉に装入し、窒素雰囲気下で600℃×24hrの加熱条件で脱脂した。脱脂後は冷却することなくそのまま温度を上昇させてアルゴン雰囲気下で1500℃×2hrの加熱条件で含浸焼成した。焼成後は、Si含浸炭化珪素焼成体を室温まで冷却し、焼成炉から取り出した。
【0056】
得られた各試験例に係るSi含浸炭化珪素焼成体は以下の仕様を有する。
全体形状:高さ25mm×内径66mm×外径86mmの中空円柱状
外周壁厚み:2mm
内周壁厚み:2mm
セル密度:56セル/cm2
隔壁の厚み:0.3mm
気孔率:5%
【0057】
(4.付着物の除去)
得られた各試験例に係るSi含浸炭化珪素焼成体の内周壁の表面には、中空部に配置した金属珪素粉末に由来する付着物が見られた。金属製のヘラで約0.1Nの力で18cm2程度の面積に広がる付着物を十数回擦ることでどの程度付着物が除去できるか調査した。付着物の除去性は以下の基準で評価した。結果を表1に示す。
易:付着物の除去率が95面積%以上
可:付着物の除去率が50面積%以上95面積%未満
難:付着物の除去率が50面積%未満
【0058】
【表1】
【0059】
何れの試験においても、含浸金属供給体を成形する作業が省略できるだけでなく、含浸に必要な量を簡単に調整できた。また、金属珪素粉末はセラミックス成形体の上に載置する必要もないので、窯道具への積載効率が向上することも理解できる。更に、表1の結果から、金属珪素粉末の粒度が100μm以上になると付着物の除去性が有意に向上し、200μm以上になると付着物の除去性が顕著に向上することが理解できる。
【符号の説明】
【0060】
100 :セラミックス成形体
110 :ハニカム構造部
112 :外周壁
113 :隔壁
113a :隔壁面
113b :隔壁面
114 :端面
115 :セル
116 :端面
117 :中空部
119 :内周壁
200 :治具
210 :載置面
220 :壁面
300 :金属
図1
図2
図3