(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082659
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】接着剤組成物、有機繊維、有機繊維-ゴム複合体材料、ゴム物品及びタイヤ
(51)【国際特許分類】
C09J 109/00 20060101AFI20240613BHJP
C09J 171/00 20060101ALI20240613BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20240613BHJP
D06M 15/693 20060101ALI20240613BHJP
D06M 15/41 20060101ALI20240613BHJP
D06M 13/395 20060101ALI20240613BHJP
D06M 15/03 20060101ALI20240613BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20240613BHJP
C08G 18/80 20060101ALI20240613BHJP
C08G 18/50 20060101ALI20240613BHJP
D06M 101/32 20060101ALN20240613BHJP
【FI】
C09J109/00
C09J171/00
C09J175/04
D06M15/693
D06M15/41
D06M13/395
D06M15/03
D06M15/53
C08G18/80 061
C08G18/50
D06M101:32
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196643
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(74)【代理人】
【識別番号】100228120
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 蓮太朗
(72)【発明者】
【氏名】中村 真明
【テーマコード(参考)】
4J034
4J040
4L033
【Fターム(参考)】
4J034BA03
4J034CA03
4J034CA04
4J034CA05
4J034CA13
4J034DC50
4J034DG03
4J034DG04
4J034HA01
4J034HA07
4J034HC12
4J034HC64
4J034HC67
4J034HC71
4J034HD12
4J034QB12
4J034QC05
4J034RA09
4J034RA12
4J040CA081
4J040DB051
4J040DH041
4J040EE052
4J040EF332
4J040EH012
4J040HD41
4J040JB03
4J040KA16
4J040LA01
4J040LA06
4J040MA12
4J040MB02
4J040NA16
4L033AA07
4L033AB01
4L033AC11
4L033BA69
4L033CA02
4L033CA48
4L033CA68
(57)【要約】
【課題】レゾルシンを用いることなく所望の接着性を確保することができ、使用時における作業性を損なうこともない接着剤組成物、並びに、これを用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体及びタイヤを提供することを目的とする。
【解決手段】(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、及び、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物を含み、さらに、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)ポリフェノール、及び(E)多価金属塩からなる群から選択される一種以上の化合物を含む接着剤組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、
(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物と、を含み、
さらに、
(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、
(D)ポリフェノール、及び、
(E)多価金属塩
からなる群から選択される1種以上の化合物を含むことを特徴とする、接着剤組成物。
【請求項2】
前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物が、アルキレンオキサイドからなる骨格の構造を持ち且つアミン官能基を含有する化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物が、ポリエーテルモノアミン、ポリエーテルジアミン、ポリエーテルトリアミン、多官能価ポリエーテルアミンおよびそれらの混合物からなる群から選択されるポリエーテルアミンであることを特徴とする、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物が、(C-1)芳香環を有するポリイソシアネートと活性水素基を1個以上有するブロック剤との付加生成物からなる水分散性(熱解離性ブロックド)イソシアネート化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
前記(C-1)芳香環を有するポリイソシアネートと活性水素基を1個以上有するブロック剤との付加生成物からなる水分散性(熱解離性ブロックド)イソシアネート化合物が、メチレンジフェニルジイソシアネートのブロック体であることを特徴とする、請求項4に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物が、(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項7】
前記(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物が、
(α)3個以上、5個以下の官能基を有する、数平均分子量が2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物、
(β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する、数平均分子量が5,000以下の化合物、
(γ)熱解離性ブロック剤、並びに、
(δ)少なくとも1つの活性水素基と、アニオン性、カチオン性、又は非イオン性の少なくとも1つの親水基と、を有する化合物、
を、(α)、(β)、(γ)及び(δ)の総和量に対する、それぞれの混合比率が、
(α)については、40質量%以上、85質量%以下、
(β)については、5質量%以上、35質量%以下、
(γ)については、5質量%以上、35質量%以下、及び
(δ)については、5質量%以上、35質量%以下、
になるように混合して、反応させた後の反応生成物であり、
且つ、イソシアネート基(-NCO)の分子量を42としたときの、前記反応生成物中における、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基の構成比率が、0.5質量%以上、11質量%以下であることを特徴とする、請求項6に記載の接着剤組成物。
【請求項8】
前記(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物が、下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、
Aは、有機ポリイソシアネート化合物の、活性水素基が脱離した残基、
Xは、2個以上、4個以下の水酸基を有する、数平均分子量が5,000以下のポリオール化合物の、活性水素基が脱離した残基、
Yは、熱解離性ブロック剤の、活性水素基が脱離した残基、
Zは、少なくとも1つの活性水素基と、少なくとも1つの塩を生成する基又は親水性ポリエーテル鎖と、を有する化合物の、活性水素基が脱離した残基、
nは、2以上4以下の整数、
p+mは、2以上4以下の整数(m≧0.25)
を表す]で表されることを特徴とする、請求項6に記載の接着剤組成物。
【請求項9】
前記(D)ポリフェノールが、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を有する植物由来の化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項10】
前記(D)ポリフェノールが、リグニン、タンニン、タンニン酸、フラボノイド、又は、それらの誘導体であることを特徴とする、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項11】
前記(E)多価金属塩が、2価以上の金属イオンの塩であることを特徴とする、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項12】
前記(E)多価金属塩が、媒染剤又は無機充填剤の定着剤であることを特徴とする、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項13】
レゾルシンを含まないことを特徴とする、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項14】
表面が、請求項1に記載の接着剤組成物からなる接着剤層により被覆されていることを特徴とする、有機繊維。
【請求項15】
前記有機繊維が、複数本のフィラメントを撚り合わせてなるコードであることを特徴とする、請求項14に記載の有機繊維。
【請求項16】
前記複数本のフィラメントを撚り合わせてなるコードは、上撚りと下撚りとを有し、有機繊維コードの繊維太さが、100dtex以上5000dtex以下であり、下撚数が10~50回/10cm、上撚数が10~50回/10cmであることを特徴とする、請求項15に記載の有機繊維。
【請求項17】
前記接着剤層が、乾燥質量で、前記コードの質量の0.5~6.0質量%であることを特徴とする、請求項16に記載の有機繊維。
【請求項18】
前記有機繊維が、ポリエステル樹脂からなることを特徴とする、請求項14に記載の有機繊維。
【請求項19】
有機繊維とゴムとの複合体であって、前記有機繊維の表面が、請求項1に記載の接着剤組成物により被覆されていることを特徴とする有機繊維-ゴム複合体。
【請求項20】
請求項19に記載の有機繊維-ゴム複合体を用いたことを特徴とする、ゴム物品。
【請求項21】
請求項19に記載の有機繊維-ゴム複合体を用いたことを特徴とする、タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物、有機繊維、有機繊維-ゴム複合体材料、ゴム物品及びタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ等のゴム物品を補強する目的において、ナイロン繊維やポリエステル繊維等からなるタイヤコードのような有機繊維と、タイヤ用ゴム組成物等のゴム組成物とを接着させて、有機繊維-ゴム複合体とすることが行われている。そして、前記接着には、有機繊維を接着剤組成物で被覆し、ゴム組成物に埋設して、ゴム組成物と共加硫する手法が汎用されている。
【0003】
また、前記有機繊維を前記接着剤組成物で被覆する工程においては、接着剤組成物の粘度を調整する目的で一般的に溶媒を用いるが、該工程で溶媒が揮発するために、前記溶媒としては環境負荷の少ない水を用いることが好ましい。さらに、浸漬により前記有機繊維を前記接着剤組成物で被覆する場合には、接着剤組成物を浸漬により塗布できる程度の低粘度にすることが必要である。
【0004】
一般的に、水性、すなわち、水に溶解あるいは分散できる性質を持たせた水系接着剤組成物に含まれる成分は、極性の分子構造を有する必要がある。しかし、一方で、被着体となるゴムや有機繊維基材等の高分子材料は極性が低く、ゴムや有機繊維基材等の表面の極性と接着剤組成物に含まれる成分の極性との差が大きくなると、接着し難くなる。従って、前記水系接着剤組成物をゴム物品用の接着剤組成物として用いるためには、前記水系接着剤組成物に含まれる成分については、水性であるために極性を持つ必要がある反面、このことにより被着体の極性との間に差が生じて接着性が低下しないような極性の制御が必要である。そこで、これらの背反する要請を両立できる機能を有する水系の接着剤組成物が好適に用いられている。
【0005】
ここで、前記有機繊維を前記接着剤組成物で被覆する工程に関し、タイヤコード等の有機繊維コードを接着剤組成物に浸漬する場合の工程の一例を、
図1を用いて説明する。
【0006】
有機繊維コード1は、巻出しロールから巻出され、ロールにより搬送されて、接着剤組成物2が入った浸漬用浴槽(ディッピング槽)3にて、前記接着剤組成物2中に浸漬される。接着剤組成物2で被覆された有機繊維コード4は、前記浸漬用浴槽3から引き上げられ、絞りロール5により余分な接着剤組成物2が取り除かれる。次いで、接着剤組成物2で被覆された有機繊維コード4は、ロールによりさらに搬送されて、乾燥ゾーン6で乾燥され、ホットゾーン7では張力の付与により延伸されつつ樹脂の熱硬化を受け、ノルマライズゾーン8では目的の強伸度物性になるように前記張力を精度よく調整して標準化(ノルマライジング)されながら樹脂の熱硬化を受け、ゾーン外で空冷された後に、巻取ロールに巻き取られる。このようにして、前記有機繊維は、前記接着剤組成物で被覆される。
【0007】
前記接着剤組成物としては、従来、レゾルシン、ホルムアルデヒド及びゴムラテックスを含む混合液を熟成させて得られるRFL(レゾルシン-ホルムアルデヒド-ラテックス)接着剤組成物、又は、このRFL接着剤組成物に特定の接着促進剤を混合した接着剤組成物が用いられてきた(特許文献1~4参照)。
【0008】
周知のように、ゴム業界では、水分散性のゴムラテックス成分と、水溶性であるレゾルシンとホルムアルデヒドを混合して熟成することで得られた水系のフェノール樹脂と、からなる接着剤組成物(特許文献1)が、被着体となるゴムとの接着と、有機繊維等の極性が少ない基材表面との接着と、を両立する機能を有することが見出され、世界的に広く用いられている。前記RFL接着剤組成物による接着においては、ゴムラテックス成分により被着ゴム側と共加硫で接着し、一方、有機繊維基材との接着性を有するレゾルシンとホルムアルデヒドの縮合物からなるフェノール系樹脂成分により、被着基材側と接着する。
【0009】
ここで、レゾルシンが好ましく用いられている理由は、被着体との接着性が高い樹脂種であるフェノール系縮合樹脂を提供できるとともに、水溶性を得るためにフェノール環に導入される極性官能基が、極性が比較的小さく立体障害となりにくい水酸基であって、有機繊維基材側と接着性が高い樹脂成分を提供できるためである。
【0010】
また、前記RFL接着剤組成物は、塩基性組成物の存在下で、レゾルシンと、ホルムアルデヒドと、重合の際に乳化剤としてロジン酸等を用いたゴムラテックスと、を混合して熟成して得られる。これにより、水溶したレゾルシンとホルムアルデヒドが塩基下でのレゾール型縮合反応で縮合するとともに(特許文献2を参照)、ラテックス表面のロジン酸が、レゾール型のフェノール-ホルムアルデヒド付加縮合体の末端のメチロール基と付加縮合すると推察されている(非特許文献1を参照)。
【0011】
この熟成により、ラテックスがロジン酸を介してレゾール型レゾルシン-ホルムアルデヒド縮合物と架橋して、接着が強化され、ラテックスが水性樹脂と複合してカプセル化した保護コロイドとなり、
図1に示されるような装置において接着剤組成物の処理を行う際に、ラテックスのゴム粘着性が抑制されるため、装置に対する接着剤組成物の粘着による汚れが少なくなる。
【0012】
そして、前記RFL接着剤組成物に添加する接着促進剤としては、水系接着剤組成物により、有機繊維コード材料等の極性が少ない基材表面との接着を向上させるために、水性、すなわち、水に溶解あるいは分散できる性質を有する接着促進剤が用いられてきた。
【0013】
水分散性の前記接着促進剤としては、粒子径が0.01~0.50μmであるメチレンジフェニルジイソシアネート等の(ブロックド)イソシアネート(特許文献3を参照)や、クレゾールノボラック型多官能エポキシ樹脂等の非水溶性であるフェノール系・ノボラック型樹脂の水分散粒子(特許文献4を参照)等が使用されている。
【0014】
また、水溶性の基を含む前記接着促進剤としては、レゾルシンとホルムアルデヒドとをノボラック化反応させて得られるノボラック型縮合物の水酸化ナトリウム溶液(特許文献5を参照)、クロロフェノール類とホルムアルデヒドのノボラック型縮合物のアンモニウム溶液等の塩基性物質の存在下で水に溶解するフェノール系樹脂類、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基と自己水溶性である基を有する水性ウレタン化合物(特許文献6を参照)、及び、メチロール化したホモアクリルアミド重合体(特許文献7を参照)等をレソルシン-ホルムアルデヒドーラテックスと混合して、RFL接着剤組成物に含有させることが提案されてきた。
【0015】
ところが、近年、RFL接着剤組成物において水溶性の成分として用いられてきたレゾルシンについて、環境負荷低減の観点から、使用量の削減が求められるようになってきている。
【0016】
これに対応するために、レゾルシンを含まないポリフェノール類を用いることで、水を溶媒とした系の接着剤組成物が、様々に検討されて提案されている。
例えば、ゴムラテックスとリグニン樹脂からなる接着剤組成物(特許文献8参照)や、ゴムラテックスとフラボノイドなどのポリフェノール及び芳香族ポリアルデヒドをベースとする水系接着剤組成物(特許文献9、10参照)等が、レゾルシン及びホルムアルデヒドを含まない接着剤組成物として知られている。
【0017】
また、ゴムラテックスとエポキシドと特定のアミン類からなる接着剤組成物、例えば、ゴムラテックスとエポキシドとピペラジン(特許文献11参照)、ゴムラテックスとエポキシドとピペラジンとアクリル樹脂(特許文献12参照)、あるいは、ゴムラテックスとエポキシドとアミノ末端ポリエーテルなどから選択される分子量190ダルトン以上のポリアミンを混合して(特許文献13参照)タイヤ等への用途の架橋性接着剤組成物が提案されている。
ところがこの架橋性接着剤組成物はエポキシドを混合することを特徴としており、開示された実施例ではグリセロールグリシジルエーテルあるいはポリグリセロールポリグリシジルエーテル等の多官能脂肪族系の水溶性エポキシド化合物を用いる例が開示されているが、水系で経時的にエポキシド化合物が変質し易いため、工業的に有効に利用するには不安定な面がある。
これは例えば、エポキシ基が水と反応(加水分解)してジオールに変質して反応性を失活することが知られており、またアミノ末端ポリエーテルなどのアミンはエポキシド化合物の硬化剤として既知であるが、アミン末端の官能基にある活性水素の反応性が高いために、接着剤組成物液の粘度が上昇する、あるいは、エポキシド化合物の極性官能基が反応で減じることにより水溶性が低下することで、経時的に浮遊物や沈殿などの変質物を液内に発生させることがある。
更に一般的にエポキシ樹脂を含む塗布膜は「紫外線に弱い」ことが公知であり、タイヤコードの接着剤組成物表面が日光や蛍光灯などの光下に暴露すると、エポキシ樹脂はエネルギーにより活性化し酸素下で酸化劣化するため、経時的に接着低下する傾向がある。
従い、タイヤコードなどの基材の塗布では、従来から接着剤組成物の下塗り層でエポキシド化合物を塗布しているが、「表面となる接着剤組成物」においては、エポキシド化合物を使用せず、ゴム被着体とゴム共加硫により接着できる接着剤組成物が好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】米国特許第2,128,229号明細書
【特許文献2】特開2005-263887号公報
【特許文献3】特開2006-37251号公報
【特許文献4】特開平9-12997号公報
【特許文献5】国際公開第97/013818号
【特許文献6】特開2011-241402号公報
【特許文献7】特開昭56-067379号公報
【特許文献8】国際公開第2005/080481号
【特許文献9】国際公開第2013/017421号
【特許文献10】特表2016-528337号公報
【特許文献11】国際公開第2005/080481号
【特許文献12】特開2011-069020号公報
【特許文献13】国際公開第2014/091429号
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】博多 宏一、ネットワークポリマー Vol.31,No.5,p.252(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、上述したようなレゾルシンを含まない有機繊維コード用接着剤組成物を使用すると、接着剤液のせん断歪下での機械的安定性として測定されるゴムラテックスの粘着性が高くなってしまう。その結果、例えば、
図1に示すような、前記有機繊維コード1を前記接着剤組成物2で被覆して乾燥・熱硬化させる工程において、絞りロール5や乾燥ゾーン6のロール等に対する当該接着剤組成物2の付着が多くなり、当該工程の作業性が悪くなるという新たな問題が発生した。
【0021】
また、このようなレゾルシン及びホルマリンを含まない接着剤組成物(いわゆるゴム糊と呼称する)は、前記装置に対する付着によって接着剤被覆の表面が荒れるために接着性が低下し易い。さらに、ラテックス成分とレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物との間の架橋が得られないために、そもそも、従来のRFL接着剤組成物に比べて、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性が低下するという課題も有していた。
【0022】
さらにまた、特許文献8のように、ゴムラテックスと混合したポリフェノールに、水への溶解度が低いテレフタルアルデヒド又は2,5-フランジカルボキサルデヒドなどの芳香族ジアルデヒドを混合して水系接着剤組成物を製造する場合、製造時において芳香族ジアルデヒドが水に溶解し難いので作業性の点で不十分であった。
【0023】
さらにまた、前記のようなレゾルシンを含まない接着剤組成物は、当該接着剤組成物で被覆された有機繊維コードのコード強力の低下をもたらすという課題も有していた。
【0024】
そこで本発明の目的は、レゾルシンを用いることなく所望の接着性を確保することができ、使用時における作業性を損なうこともない接着剤組成物、並びに、これを用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体及びタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者は、前記課題を解決するべく、接着剤組成物の組成について鋭意研究を重ねた。その結果、所定のゴムラテックスと、ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物と、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物等とを配合することで、レゾルシンを用いることなく所望の接着性を確保することができ、使用時における作業性を損なうこともない接着剤組成物が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0026】
[1] (A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、
(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物と、を含み、
さらに、
(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、
(D)ポリフェノール、及び、
(E)多価金属塩
からなる群から選択される1種以上の化合物を含むことを特徴とする、接着剤組成物。
上記構成により、ホルマリン及びレゾルシンを含まない場合であっても、優れた接着性及び機械的安定性の実現と、接着剤組成物が水溶液状態で長期に可使用する期間を得ることができる。
【0027】
[2] 前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物は、アルキレンオキサイドからなる骨格の構造を持ち且つアミン官能基を含有する化合物であることを特徴とする、[1]に記載の接着剤組成物。
これらのポリエーテルの骨格は、任意でその他で混合可能なモノマーを含有させる、あるいは分岐構造であっても良い。アルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド(EO)あるいはプロピレンオキサイド(PO)であってもよい。
この場合、水に溶解あるいは分散しやすくなる。
【0028】
[3] 前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物が、ポリエーテルモノアミン、ポリエーテルジアミン、ポリエーテルトリアミン、多官能価ポリエーテルアミンおよびそれらの混合物からなる群から選択されるポリエーテルアミンであることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の接着剤組成物。
この場合も、水に溶解あるいは分散しやすくなる。
【0029】
[4] 前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物が、(C-1)芳香環を有するポリイソシアネートと活性水素基を1個以上有するブロック剤との付加生成物からなる水分散性(熱解離性ブロックド)イソシアネート化合物であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
この場合、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。
【0030】
[5] 前記(C-1)芳香環を有するポリイソシアネートと活性水素基を1個以上有するブロック剤との付加生成物からなる水分散性(熱解離性ブロックド)イソシアネート化合物が、メチレンジフェニルジイソシアネートのブロック体であることを特徴とする、[4]に記載の接着剤組成物。
この場合、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。
【0031】
[6] 本発明の接着剤組成物においては、前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物が、(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物であることを特徴とする、[1]~[3]のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
この場合も、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。
【0032】
[7] 前記(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物が、
(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量が2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物、
(β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する数平均分子量が5,000以下の化合物、
(γ)熱解離性ブロック剤、及び、
(δ)少なくとも1つの活性水素基と、アニオン性、カチオン性又は非イオン性である少なくとも1つの親水基と、を有する化合物、
を、(α)、(β)、(γ)及び(δ)の総和量に対するそれぞれの混合比率が、
(α)については、40質量%以上、85質量%以下、
(β)については、5質量%以上、35質量%以下、
(γ)については、5質量%以上、35質量%以下、及び、
(δ)については、5質量%以上、35質量%以下、
になるように混合して、反応させた後の反応生成物であって、かつ、
イソシアネート基(-NCO)の分子量を42としたときの、前記反応生成物中における(熱解離性ブロックド)イソシアネート基の構成比率が、0.5質量%以上、11質量%以下であることを特徴とする、[6]に記載の接着剤組成物。
この場合、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より一層良好となる。
【0033】
[8] 前記(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物が、下記一般式(1):
【化1】
[式(1)中、
Aは、有機ポリイソシアネート化合物の、活性水素基が脱離した残基、
Xは、2個以上、4個以下の水酸基を有する、数平均分子量が5,000以下のポリオール化合物の、活性水素基が脱離した残基、
Yは、熱解離性ブロック剤の、活性水素基が脱離した残基、
Zは、少なくとも1つの活性水素基と、少なくとも1つの塩を生成する基又は親水性ポリエーテル鎖と、を有する化合物の、活性水素基が脱離した残基、
nは、2以上4以下の整数、
p+mは、2以上4以下の整数(m≧0.25)
を表す]で表されることを特徴とする、[6]に記載の接着剤組成物。
この場合も、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。
【0034】
[9] 前記(D)ポリフェノールが、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を有する植物由来の化合物であることを特徴とする、[1]~[8]のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
この場合も、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。
【0035】
[10] 前記(D)ポリフェノールが、リグニン、タンニン、タンニン酸、フラボノイド、又は、その誘導体であることを特徴とする、[1]~[9]のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
この場合も、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。
【0036】
[11] 前記(E)多価金属塩が、2価以上の金属イオンの塩であることを特徴とする、[1]~[10]のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
この場合、接着剤組成物の有機繊維への接着力をより高いものにすることができる。
【0037】
[12] 前記(E)多価金属塩が、媒染剤又は無機充填剤の定着剤であることを特徴とする、[1]~[11]のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
この場合、接着剤組成物の有機繊維への接着力をより高いものにすることができる。
【0038】
[13] レゾルシンを含まないことを特徴とする、[1]~[12]のいずれか一つに記載の接着剤組成物。
この場合、環境負荷を低減することができる。
【0039】
[14] 表面が、[1]~[13]のいずれか一つに記載の接着剤組成物からなる接着剤層により被覆されていることを特徴とする、有機繊維。
これにより、環境性や作業性を確保しつつ、耐久性に優れた有機繊維材料とすることができる。
【0040】
[15] 前記有機繊維が、複数本のフィラメントを撚り合わせてなるコードであることを特徴とする、[14]に記載の有機繊維。
この場合、タイヤやベルトコンベア等のゴム物品の補強に好適となる。
【0041】
[16] 前記複数本のフィラメントを撚り合わせてなるコードは、上撚りと下撚りとを有し、有機繊維コードの繊維太さが、100dtex以上5000dtex以下であり、下撚数が10~50回/10cm、上撚数が10~50回/10cmであることを特徴とする、[15]に記載の有機繊維。
この場合、タイヤやコンベヤベルト等のゴム物品の補強に最適となる。
【0042】
[17] 前記接着剤層が、乾燥質量で、前記コードの質量の0.5~6.0質量%であることを特徴とする、[16]に記載の有機繊維。
この場合、適切な接着性を確保することができる。
【0043】
[18] 前記有機繊維が、ポリエステル樹脂からなることを特徴とする、[14]~[17]のいずれか一つに記載の有機繊維。
この場合、接着性がさらに向上する。
【0044】
[19] 有機繊維とゴムとの複合体であって、前記有機繊維の表面が、[1]~[13]のいずれか一つに記載の接着剤組成物により被覆されていることを特徴とする、有機繊維-ゴム複合体。
かかる本発明の有機繊維-ゴム複合体(特には、有機繊維コード-ゴム複合体)は、良好な接着性を得ることができ、環境性や作業性が良好である。
【0045】
[20] [19]に記載の有機繊維-ゴム複合体を用いたことを特徴とする、ゴム物品。
かかる本発明のゴム物品は、環境性や作業性に優れる。
【0046】
[21] [19]に記載の有機繊維-ゴム複合体を用いたことを特徴とする、タイヤ。
かかる本発明のタイヤは、環境性や作業性に優れる。
【発明の効果】
【0047】
本発明によれば、レゾルシンを用いることなく所望の接着性を確保することができ、使用時における作業性を損なうこともない接着剤組成物、並びに、これを用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体及びタイヤを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【
図1】浸漬処理により、有機繊維コードを接着剤組成物で被覆する工程の一例を示した概略図である。
【
図2】本発明の有機繊維-ゴム複合体の一例を拡大して示した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、本発明の接着剤組成物、有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体及びタイヤを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0050】
本明細書にて、範囲を表す場合、特に記載がない限り、その範囲の端も、その範囲のうちに含まれるものとする。
【0051】
本明細書に記載されている化合物は、部分的に、又は全てが化石資源由来であってもよく、植物資源等の生物資源由来であってもよく、使用済タイヤ等の再生資源由来であってもよい。また、化石資源、生物資源、再生資源のいずれか2つ以上の混合物由来であってもよい。
【0052】
[接着剤組成物]
本発明の接着剤組成物は、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物と、を含み、さらに、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)ポリフェノール、及び(E)多価金属塩からなる群から選択される一種以上の化合物を含む。
【0053】
本発明の接着剤組成物によれば、前記構成としたことで、レゾルシンを用いることなく、良好な接着性、特には、有機繊維と被覆ゴム組成物との間の接着性を良好に確保することができる。本発明の接着剤組成物においては、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスが、接着性の向上に寄与する。また、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物を用いたことで、接着剤液のせん断歪下での機械的安定性として測定されるゴムラテックスの粘着性を抑制することにより、特に、有機繊維を接着剤組成物で被覆して乾燥・熱硬化させる工程において、ロール等に対する接着剤組成物の付着を抑制することができ、作業性が良好となる。
よって、本発明の接着剤組成物によれば、レゾルシンを用いることなく所望の接着性を得ることができるとともに、使用時における作業性についても良好に確保することが可能となった。また、本発明の接着剤組成物によれば、レゾルシンを用いる必要がないために、環境負荷を低減することができる。
【0054】
よって、本発明の接着剤組成物は、レゾルシンを含まないものとすることができる。また、本発明の接着剤組成物は、さらに、ホルムアルデヒドを含まないことが好ましい。
【0055】
本発明の接着剤組成物は、特に、後述する有機繊維コードに適用する際に、有用である。
【0056】
<(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス>
本発明の接着剤組成物は、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスを含む。
(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスとしては、不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスと、天然ゴムラテックスとが挙げられる。
【0057】
本発明の接着剤組成物における不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスとは、硫黄による加硫性を有する不飽和ジエンを含む合成ゴムラテックスを意味する。
【0058】
本発明の一実施形態において、接着剤組成物に含まれる前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスは、接着剤組成物による接着剤層とその被着体である被覆ゴム組成物とを接着させるための成分である。前記不飽和ジエンを有するゴムラテックスは、前記被着体である被覆ゴム組成物に含まれるゴムポリマーと相溶し、さらに、不飽和ジエン部位が共加硫することによって、ゴム共加硫接着を形成する。その結果、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスを含有する本発明の接着剤組成物によれば、例えば、有機繊維コードと被覆ゴム組成物の間を、良好に接着することができる。
【0059】
前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスとしては、限定されるものではないが、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、カルボキシル基変性スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックス、ニトリルゴムラテックス、クロロプレンゴムラテックス等の合成ゴムラテックスを挙げることができる。これらを1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0060】
前記のうちでも、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスが好ましい。ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスは、従来より接着剤組成物や、タイヤ等の物品においても汎用されてきたゴムラテックスであり、本発明の接着剤組成物においても、接着剤層と被着ゴムとの間に、良好な結合をもたらし、比較的柔軟でかつ可撓性を有するとの利点によって、前記接着剤層が分裂することなく、有機繊維コードの変形を伴うことも可能にするからである。
【0061】
また、本発明の接着剤組成物中の固形分全体に占める、前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスの含有量(固形分含有率)は、特に限定されるものではないが、25質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。また、前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスの含有量は、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましく、85質量%以下であることがさらに好ましい。前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスの含有量が、25質量%以上であると、被着ゴム組成物と接着剤組成物に含まれるゴムラテックスとのゴムポリマー同士の相容がより適度となり、有機繊維-ゴム複合体における被覆ゴムの付着状態がより優れるものとなるからである。
【0062】
一方、前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスの含有量が、95質量%以下であると、ゴム糊と比較して、前記接着剤組成物中で他成分として含まれるラテックスの粘着を抑制する被覆成分の量を、相対的に一定以上に確保することができるため、被着する繊維材料に接着剤組成物を被覆する工程において、
図1に示すような装置に対して、接着剤組成物が付着を抑制することができる。さらに被覆した接着剤組成物の表面が荒れて、被覆ゴム組成物との接着性が低下するという課題が起こり難くなることで、接着性を向上することができるものとなるからである。
【0063】
前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスは、例えば、水にロジン酸カリウム等の乳化剤を溶解させた後、これに、単量体の混合物を添加し、さらに、リン酸ナトリウム等の電解質及び過酸化物類等を重合開始剤として加えて、重合を行い、その後、所定の転化率に達した後、電荷移動剤を加え、重合を停止させ、さらに、残留する単量体を除去することによって、得ることができる。また、重合の際には、連鎖移動剤を使用することも好ましい。
【0064】
前記乳化剤としては、脂肪酸のアルカリ金属塩、ロジン酸のアルカリ金属塩、ホルムアルデヒド縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウム、高級アルコールの硫酸エステル、アルキルベンゼンスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩等のアニオン性界面活性剤、あるいは、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型、アルキルフェニルエーテル型等のノニオン性界面活性剤のうちの1種あるいは2種以上が用いられる。
【0065】
これらの乳化剤のうちでも、ロジン酸の金属塩、特には、ロジン酸のアルカリ金属塩を含むことが好ましく、これは単独、すなわち、1種類のみで用いることもでき、他の乳化剤と2種以上で組み合わせて併用することもできる。ロジン酸は、松脂等から得られる3環性ジテルペン類を主成分として、よく似た化学構造の樹脂酸の混合物である。これら樹脂酸は、3つの環構造、2つの二重結合、1つのカルボキシル基を持っており、二重結合部分は、不飽和カルボン酸あるいはレゾール型フェノール樹脂のメチロール末端と、カルボキシル基部分でエステル化するなどの反応性に富んだ官能基を持っている。
【0066】
このような乳化剤の使用量は、ラテックス重合に用いられる全単量体の100質量部に対し、通常、0.1~8質量部であり、好ましくは1~5質量部である。
【0067】
前記重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性開始剤、レドックス系開始剤、又は、過酸化ベンゾイル等の油溶性開始剤が使用できる。中でも、過硫酸カリウムを用いることが好ましい。
【0068】
前記連鎖移動剤としては、例えば、n-ヘキシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、t-ヘキシルメルカプタン等の単官能アルキルメルカプタン類;1,10-デカンジチオール、エチレングリコールジチオグリコレート等の2官能メルカプタン類;1,5,10-カンジトリチオール、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート等の3官能メルカプタン類;ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート等の4官能メルカプタン類;ジスルフィド類;四塩化炭素、四臭化炭素、臭化エチレン等のハロゲン化合物;α-メチルスチレンダイマー、ターピノーレン、α-テルピネン、ジペンテン、アリルアルコール等が使用できる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0069】
これらの連鎖移動剤のうち、好ましくはアルキルメルカプタンが挙げられ、より好ましくはn-オクチルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンが挙げられる。中でも、t-ドデシルメルカプタンを用いることが好ましい。
【0070】
このような連鎖移動剤の使用量は、ラテックス重合に用いられる全単量体の100質量部に対し、通常、0.01~5質量部であり、好ましくは0.1~3質量部である。
【0071】
なお、前記ラテックスには、前記各成分以外に、必要に応じて、ヒンダードフェノール類等の老化防止剤、シリコーン系、高級アルコール系、鉱物油系の消泡剤、反応停止剤、凍結防止剤等の汎用の添加剤を使用してもよい。
【0072】
前記ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスは、ビニルピリジン系単量体と、スチレン系単量体と、共役ジエン系ブタジエン単量体とを、三元共重合させたものであるが、これら単量体に共重合可能な他の単量体を更に含ませてもよい。
【0073】
ここで、前記ビニルピリジン系単量体は、ビニルピリジンと、該ビニルピリジン中の水素原子が置換基で置換された置換ビニルピリジンとを包含する。このようなビニルピリジン系単量体としては、2-ビニルピリジン、3-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、2-メチル-5-ビニルピリジン、5-エチル-2-ビニルピリジン等が挙げられ、これらの中でも、2-ビニルピリジンが好ましい。これらビニルピリジン系単量体は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
前記スチレン系単量体は、スチレンと、該スチレン中の水素原子が置換基で置換された置換スチレンとを包含する。前記スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジイノプロピルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、ヒドロキシメチルスチレン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。これらスチレン系単量体は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0075】
前記共役ジエン系ブタジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等の脂肪族共役ブタジエン化合物が挙げられ、これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。これら共役ジエン系ブタジエン単量体は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
前記ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスの合成には、公知の方法を利用することができ、具体的には、例えば、本発明者らの検討による特開平9-78045号公報に記載の方法を利用することができる。そして、それらの方法を利用して、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスの同一粒子内で、組成比が均一あるいは異なる共重合体等、様々な組成や粒子内構造を持たせることができる。
【0077】
前記ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスについて、同一粒子内で均一な組成の単量体混合比を有する共重合体の市販品としては、日本ゼオン(株)製のNipol 2518、日本エイアンドエル(株)製のピラテックス等が挙げられる。また、同一粒子内で異なる組成の単量体混合比を有する共重合体の市製品としては、JSR(株)製のV0658等が挙げられる。これらはいずれも、本発明の接着剤組成物の(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスとして、使用することができる。
【0078】
前記ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムラテックスでは、ビニルピリジン:スチレン:ブタジエンの単量体比は、特に限定されるものではないが、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体粒子を構成する共重合体のうちに、ビニルピリジン5~20質量%、スチレン10~40質量%、ブタジエン45~75質量%からなる単量体混合物を重合した共重合体を含むことが好ましい。ビニルピリジンが、5質量%以上であれば、ゴム成分内で加硫促進効果のあるピリジン部位が適量となり、硫黄による架橋度が増すと接着剤層全体の接着力がより向上し、20質量%以下であれば、ゴムの架橋度が過加硫になることもなく、硬い接着剤とすることができるからである。また、スチレンが、10質量%以上であれば、ラテックス粒子及び接着剤層の強度を十分なものとし、接着力がより向上し、40質量%以下であれば、接着剤層と被着ゴムとの共加硫性を適度にしながら、やはり接着力を確保することにつながるからである。さらに、ブタジエンが、45質量%以上であれば、より十分な架橋を形成することが可能となり、75質量%以下であれば、架橋を適度として、体積及びモジュラスの変化による耐久性を良好に確保することができるからである。ビニルピリジン:スチレン:ブタジエンの単量体混合物の組成比は、好適には例えば、15:15:70とすることができる。
【0079】
本発明においては、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスとして、不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックス以外に、天然ゴムラテックスを用いることができる。天然ゴムラテックスとしては、特に限定されず、例えば、フィールドラテックス、アンモニア処理ラテックス、遠心分離濃縮ラテックス、界面活性剤や酵素で処理した脱タンパク質ラテックス、及び、これらを組み合せたもの等を用いることができる。中でも、フィールドラテックスを用いることが好ましい。
【0080】
<(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物>
本発明の接着剤組成物において、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物は、そのポリエーテルからなる主鎖と結合した少なくとも1つの第1級および/又は第2級アミン官能基を含有するポリエーテルアミンであり、或いはそれら化合物の変性体である。有用なポリエーテルアミンとしては、ポリエーテル重合体の末端などにアミン基が終結されたポリエーテルアミンであり、アミン官能基の導入もポリエーテルアミン、ポリエーテルジアミン、ポリエーテルトリアミン、ポリエーテルポリアミンが挙げられる。
【0081】
前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物において、「ポリエーテルからなる骨格構造」は、エーテル結合の酸素原子が組み込まれた炭化水素鎖であることを意味している。一般的には、本発明の効果を著しく損なわない限り、ポリアルキレンオキシドあるいはポリアルキレンイミンなどの環状の単量体を開環重合して得られるポリエーテル重合体、あるいは天然由来分子などのポリエーテルを含むことができる。
例えば、前記の環状の単量体を開環重合して得られるポリエーテルとしては、エチレンオキシドを開環重合して得られるポリエチレンオキシド、プロピレンオキシドを開環重合して得られるポリプロピレンオキシド、あるいはテトラヒドロフランを開環重合して得られるポリテトラメチレングリコール等のポリエーテル系重合体が挙げられる。
【0082】
従い前記の環状のポリアルキレンオキシドを開環重合して得られるポリエーテル重合体は、重合体の分子鎖にオキシアルキレン単位-R1-O-(R1は、炭素原子数1から14の直鎖状もしくは分岐状アルキレン基である)を有しており、例えば、繰り返しのオキシアルキレン単位としては、オキシエチレン単位-CH2O-、オキシプロピレン単位-CH2CH2O-、-CH2CH(CH3)O-、-CH2CH(C2H5)O-、-CH2C(CH3)2O-、-CH2CH2CH2CH2O-等が挙げられる。このポリエーテル系重合体の繰り返しのオキシアルキレン単位は、1種類だけの繰り返し単位からなってもよいし、2種類以上の単位からになってもよい。
【0083】
前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造が、2種類以上のポリアルキレンオキシドを共重合させた繰り返し単位を有している場合は、酸素原子がある一定の間隔で配置されても良いし(単一の反復モノマー単位を有する配置)、あるいは酸素原子が異なる間隔で配置(ランダム、ブロック、交互などの分散した配置)であっても良く、また分子鎖は分岐した構造であっても良い。
【0084】
前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造が「ポリアルキレンオキシドを重合して得られるポリエーテル重合体」の場合、本発明における(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物は、水に溶解あるいは分散しやすくなる。
このためポリエーテルからなる重合体の分子鎖は、親水性を示すアルキレンオキシド単位が含まれることが好ましく、具体的には、オキシエチレン単位、オキシプロピレン単位、または、オキシエチレン単位とオキシプロピレン単位の組み合わせ、を含む構造が好ましい。このようなポリエーテルからなる分子鎖が、グリフィン法によるHLB値が8~20の範囲内であると、本発明における(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物が、水に容易に溶解しやすくなるため特に好ましくなる。
【0085】
また本発明の効果を著しく損なわない限りは、結晶性を変化させる等の目的で疎水性を示す環状アルキレンオキシドによりアルキレンオキシド単位を含ませてもよく、他の反応基を有する化合物によるグラフト変性等の変性体であっても良い。
またポリエーテル重合体のポリエーテル成分の酸素原子は他の電気陰性化学種(例えばイオウ)の原子に置き換えることも可能である。
【0086】
なお本発明において、前記の環状の単量体を開環重合して得られるポリエーテル重合体は、二量体、三量体及びオリゴマーの重合体をも重合体に含むこととするが、GPCで測定しポリスチレンの検量線で換算した重量平均分子量Mwが200~200,000であることが好ましい。重量平均分子量Mwの下限値の値はより好ましくは300、さらに好ましくは500である。重量平均分子量Mwの上限値の値はより好ましくは100,000、さらに好ましくは10,000、特に好ましくは3,000である。
【0087】
また、特に限定されないが、前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物は、特に好ましくは水溶性のポリエーテルアミンである。一般に、ポリエーテルアミンの水溶性と分子量との間に相関性が存在している。分子量はポリエーテルアミンの親水性に影響を及ぼし、エチレンオキシドモノマー単位の含有量がより高い又はプロピレンオキシドモノマー単位の含有量がより低いポリエーテルアミンは、一般に、より親水性が高くなり、従って水溶性となり易い。この水中でのポリエーテルアミンの溶解度は標準的な動的光散乱(Dynamic Light Scattering)法などで測定できるが、水溶性のポリエーテルアミンが溶解した溶液であると、水溶液を放置しても時間の経過と共にポリエーテルアミンが相分離する傾向がないために作業性を経時的に良好に保つことができるため好ましい。
【0088】
次に、本発明の前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物における、アミン官能基は、モノ-、ジ-、トリ-又はマルチ-官能性の第1級及び第2級アミンが含まれる。
【0089】
適切なアミン含有末端基としては、(i)-NHX1基(X1は、C1-4アルキル基、例えばメチル基、又は特に水素原子を表す)、及び(ii)C1-4アルキル基(-NHX1基によって置換されていても又は-NH-基によって割り込まれていてもよい)が包含される。
末端基がアミノ基を含まない場合、それは、例えば、水素原子、C1-4アルキル基、-OH基、又は-OC1-4アルキル基であり得る。
【0090】
本発明の(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物は、特に限定されないが、理想的なアミン水素当量(AHEW、下記で定義される)が30~1200であるポリエーテルアミンが挙げられる。アミン水素当量が30未満であると接着剤組成物水溶液にて含まれるアニオン性基とポリエーテルアミンのカチオン基の相互作用による液中架橋が多くなり、接着剤組成物水溶液の粘度が高くなり、タイヤコードに塗布する作業性が低下する傾向がある。また一方で、アミン水素当量が1200超過でない方が接着剤組成物の成分とポリエーテルアミンのアミン基の相互作用が得られ易い傾向があるためである。
なお本発明においてアミン水素当量(AHEW)とは、1分子当たりの活性アミン水素の数で除算されたポリエーテルアミンの分子量と定義される。AHEWは、当該分野で知られている従来の技術に従って計算され得るが、好ましくは、ISO9702に記載される手順を使用してアミン基窒素含有量を決定することによって計算される。
【0091】
本発明の(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物は、一形態では、ポリエーテルモノアミン、ポリエーテルジアミン、ポリエーテルトリアミン、多官能価ポリエーテルアミンおよびそれらの混合物からなる群から選択されるポリエーテルアミンであることが好ましい。
【0092】
本発明の(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物が、ポリエーテルモノアミンである場合は、以下の式(2)または式(3)の化合物であると好ましい。
【化2】
[Hは水素であり、Meはメチルであり、Etはエチルであり、そしてaおよびbは独立して、約1ないし約150の整数である]
【化3】
[Hは水素であり、Meはメチルであり、Etはエチルであり、R
2は独立してC1-C40アルキル基またはC1-C40アルキルフェノール基であり、そしてcは約1ないし約100の整数である]
【0093】
市販のポリエーテルモノアミンは、特に限定はされないが、Huntsman PetrochemicalLLC社製のJEFFAMINE(登録商標)M-600、M-1000、M-2005、M-2070、M-2095、M-3085、CLARIANT AG社製のGenamin(登録商標)M41/2000、などが挙げられる。
【0094】
本発明の(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物が、ポリエーテルジアミンである場合は、以下の式(4)、式(5)または式(6)の化合物であると好ましい。
【化4】
[dは約2ないし約100の整数であり、Hは水素であり、Meはメチルであり、そしてEtはエチルである]
【化5】
[Hは水素であり、Meはメチルであり、Etはエチルであり、fは約2ないし約40の整数であり、そしてeおよびgは独立して約1ないし約10の整数である]
【化6】
[hは独立して約2ないし約3の整数である]
【0095】
市販のポリエーテルジアミンは、特に限定はされないが、Huntsman Petrochemical LLC社製のJEFFAMINE(登録商標)D-230、D-400、D-2000、D-2010、D-4000、ED-600、ED-900、ED-2003、EDR-148、THR―100、THR―170、および2級ジアミンであるSD-2001、BASF SE社製のBaxxodur(登録商標)EC-130、EC-280、EC-301、EC-302、EC-303、CLARIANT AG社製のGenamin(登録商標)D01/2000、Yangzhou Chehua New Materials Co.,Ltd.社製のD-230、D-400、D-2000、ED-600、ED-900、ED-2003、Yantai Dasteck Chemicals Co.,Ltd社製のD-400、D-2000、WUXI ACRYL TECHNOLOGY CO.,LTD社製のMA-223、MA-240、MA-2200、Yantai Minsheng Chemicals Co.,Ltd社製のAMD-230、AMD-400、AMD-1000、AMD-2000、IRO COATING ADDITIVE CO.,LTD.社製のD-230、D-400、D-2000などが挙げられる。
【0096】
更に、本発明の(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物が、ポリエーテルトリアミンである場合は、以下の式(7)の化合物であると好ましい。
【化7】
[R
3は水素、メチルまたはエチルであり、Hは水素であり、Meはメチルであり、Etはエチルであり、qは0または1の整数であり、そしてi、jおよびkは独立して、約1ないし約100の整数である]
【0097】
市販のポリエーテルトリアミンは、特に限定されないが、Huntsman Petrochemical LLC社製のJEFFAMINE(登録商標)T-403、T-3000およびT-5000、BASF SE社製のBaxxodur(登録商標)EC-311、EC-5000、CLARIANT AG社製のGenamin(登録商標)T01/5000、Yangzhou Chehua New Materials Co.,Ltd.社製のT-403、T-3000Yantai Dasteck Chemicals Co.,Ltd社製のT-403、WUXI ACRYL TECHNOLOGY CO.,LTD社製のMA-340、MA-3500、Yantai Minsheng Chemicals Co.,Ltd社製のAMT-403、AMT-5000、IRO COATING ADDITIVE CO.,LTD.社製のT-403、T-3000、T-5000などが挙げられる。
【0098】
別の態様において、前記ポリエーテルアミンは多官能価ポリエーテルアミン(multifunctional polyetheramine)である。前記多官能価ポリエーテルアミンは、前記アミン基の少なくとも1個の水素をヒドロキシル基により置換された、本明細書に記載されたもののようなポリエーテルジ-もしくはトリアミンである場合がある。例えば、前記多官能価ポリエーテルアミンは式(8)
【化8】
[dは約2ないし約100の整数であり、R
4およびR
5はそれぞれ独立して、水素またはヒドロキシル基であり、但しR
4の少なくとも1個は水素であり、R
5の少なくとも1個はヒドロキシル基であることとし、Hは水素であり、Meはメチルであり、そしてEtはエチルである]
を有することができる。
【0099】
従来、レゾルシンとホルムアルデヒドを含有する接着剤組成物においては、レゾルシンとホルムアルデヒドが、水溶媒に分散するゴムラテックス粒子間でレゾール型レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物を形成することで、以下の(i)、(ii)、(iii)の3つの作用により、繊維接着剤組成物として要求される繊維表面への接着及び工程使用時の作業性が得られていた。
【0100】
(i)レゾール型レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物が被着する繊維フィラメント間の接着剤層の接着強度を改善することで、凝集破壊抗力を向上させる。
同時に、(ii)レゾール型レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物に含まれるメチロール基は、被着する樹脂にある水酸基等との相互作用で繊維表面の定着が強くなる。
さらに、(iii)接着剤組成物中のゴムラテックスの表面で、乳化剤として使用されるロジン酸塩等にレゾール型レゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物のメチロール基が付加し共縮合して、これにより形成されたフェノール系樹脂の化学的な架橋による被覆によって、ゴムラテックスの粘着性が抑制される。
【0101】
一方、本発明の接着剤組成物においては、従来のレゾルシンとホルムアルデヒドを含有する接着剤組成物とは相違する機構ではあるが、繊維接着剤組成物として要求されるこれら機能を代替する効果を得ることを目的としている。
すなわち、前記(iii)接着剤組成物中のゴムラテックスの表面に被覆したゴムラテックスの粘着性の抑制については、(A)不飽和ジエンを有する合成ゴムラテックスの表面に乳化したロジン酸塩のカルボン酸あるいは界面活性剤等によりマイナス(-)荷電を帯びており、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基のカチオン性基が静電的な引力で吸着して不飽和ジエンを有するゴムラテックスの表面を被覆して、不飽和ジエンを有するゴムラテックスと複合体となり、そしてこの被覆によって、不飽和ジエンを有するゴムラテックスの粘着性を抑制する効果を得ることができる。
【0102】
この結果、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物を含有する本発明の接着剤組成物は、接着剤液のせん断歪下での機械的安定性として測定されるゴムラテックスへの定着でラテックスの粘着性を抑制することによって、有機繊維コードを接着剤組成物で被覆して乾燥・熱硬化させる工程において、ロール等に対する該接着剤組成物の付着を抑制することが可能となり、作業性が良好なものとなる。
【0103】
なお、有機繊維コードの表面に被覆して乾燥・熱硬化させる工程において、従来のレゾルシンとホルムアルデヒドからなる接着剤組成物はメチロール基の架橋反応により接着剤組成物層の硬化が進むが、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物においては、ポリエーテルポリアミンに含まれるアミン官能基との電荷的な相互作用により付着性が改善される。
【0104】
また、これら(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物においては、分子内に含まれるアミン基によるカチオン基が過多となる添加作用においては、高分子凝集作用による増粘や、ゼータ電位の陽転による吸着の不良に留意することが必要であるが、ラテックス表面又は繊維基材表面への定着性において好ましい。
【0105】
なお、本発明のゴム-樹脂間接着剤組成物では、前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物は、水を加えた水溶液の状態で、前記(A)ラテックスに加えることができる。
【0106】
更に、本発明の接着剤組成物の(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物を含むと、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物は、その有するアミノ基(-NH2)が、乾燥後の高温熱処理によって、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物によって形成されたウレタン樹脂が有する活性化イソシアネートと、イソシアネート架橋を形成する。この結果、「(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物」と「(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物」とを含有する接着剤組成物は、有機繊維コードと被覆ゴム組成物の接着性がより良好なものとなる。
【0107】
本発明の接着剤組成物の固形分全体に占める、前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、0.1質量%以上であることが好ましく、25質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、0.2質量%以上で15質量%以下であり、さらに好ましくは、0.4質量%以上で8質量%以下である。
前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物の含有量が、0.05質量%以上であればその乳化剤としての機能により、不飽和ジエンを有するゴムラテックスの被覆により、ゴムラテックスの粘着性を低減する効果が得られるようになるが、0.2質量%以上で安定的になる。一方、前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物の含有量は、25質量%以上になると、接着剤物液中に含まれる量が多くなり過ぎる。これは、ゴムラテックスの粒子間の空隙の樹脂量が25質量%以上となると、ゴムラテックスに定着する前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物被覆が多くなり、加硫時に被着ゴム成分へ接着層表面のゴムラテックスの表出が少なくなるためである。
また、前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物の含有量が15質量%以下であると、この接着層の骨格となる樹脂成分で(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物のポリエーテル骨格部分のように熱可塑性な樹脂部分の相対的に占める比率が多くなりすぎて、接着層の耐熱性が低下するおそれがある。
なお、前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物の含有量が8質量%あれば、本発明の(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物による、ゴムラテックスへの被覆や繊維樹脂表面あるいは接着剤組成物に配合する成分間での密着性を向上する剤としての、適度な効果が得られ、かつ、その他のゴムラテックスの硫黄架橋あるいは他の架橋成分の量を確保できる。
【0108】
なお、前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物は、従来からのレゾルシンとホルムアルデヒドを縮合させた熱硬化性化合物に比べると強度や耐熱性が添加により低くなるため、特許文献11の例があるが数は少なく、本発明のように他で併用する架橋剤などの成分量を含めて組成を検討する必要がある。
【0109】
<(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)ポリフェノール、(E)多価金属塩>
本発明の接着剤組成物は、さらに、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)ポリフェノール、及び、(E)多価金属塩からなる群から選択される1種以上の化合物を含む。
【0110】
前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物は、架橋剤として機能して、例えば、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性の向上に寄与する。
【0111】
前記(D)ポリフェノールは、接着剤組成物と有機繊維表面との親和性を向上させる機能を有し、その結果として、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性を向上させることができる。
【0112】
また、前記(E)多価金属塩は、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物のカルボキシル基と、被着する有機繊維表面にある水酸基などのアニオン性基への定着を向上させる機能を有し、その(結果として、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性を向上させることができる。
【0113】
よって、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)ポリフェノール、及び、(E)多価金属塩は、いずれも接着性の向上、例えば、有機繊維と被覆ゴム組成物との接着性の向上に寄与する。
【0114】
<(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物>
本発明の接着剤組成物の一実施態様は、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、及び、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物に加えて、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物を含むこともできる。
【0115】
前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の(熱解離性ブロックド)イソシアネート基とは、熱解離性ブロックドイソシアネート基又はイソシアネート基を意味する。
具体的には、前記(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の「(熱解離性ブロックド)イソシアネート基」とは、熱解離性ブロックドイソシアネート基又はイソシアネート基を意味し、
(イ)イソシアネート基が当該イソシアネート基に対する熱解離性ブロック剤と反応して生じた熱解離性ブロックドイソシアネート基、
(ロ)イソシアネート基が当該イソシアネート基に対する熱解離性ブロック剤と未反応であるイソシアネート基、
(ハ)熱解離性ブロックドイソシアネート基から熱解離性ブロック剤が解離して生じたイソシアネート基、
(ニ)イソシアネート基、
を含む。
【0116】
前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の水性とは、水溶性又は水分散性であることを示す。また、前記水溶性とは、必ずしも完全な水溶性を意味するのではなく、部分的に水溶性であること、又は、接着剤組成物の水溶液中で相分離をしないことをも意味する。
【0117】
前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物は、(C-1)芳香環を有するポリイソシアネートと活性水素基を1個以上有するブロック剤との付加生成物からなる水分散性(熱解離性ブロックド)イソシアネート化合物(以下、単に「(C-1)成分」とも称する)であることが好ましい。この場合、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。
【0118】
ここで、前記(C-1)成分に関して、活性水素基とは、好適な条件下に置いたとき、活性水素(原子状水素(水素ラジカル)及び水素化物イオン(ヒドリド))となる水素を含む基のことを意味する。前記活性水素基の例としては、アミノ基、水酸基が挙げられる。
【0119】
前記熱解離性ブロック剤は、イソシアネート基を任意の化学反応から保護しつつ、必要に応じて熱処理をすることによりブロック剤を解離させて、イソシアネート基を復元することを可能とするブロック剤化合物であれば、特に限定されるものではない。具体的には、
図1で示される工程で、接着処理液を付着・乾燥させた後における、熱硬化を行う加熱処理の温度において、熱解離性ブロック剤で封鎖されて反応性が抑えられたイソシアネート基の架橋反応性が回復できるような熱解離温度であることが好ましい。
【0120】
ブロック剤としては、アルコール、フェノール、活性メチレン、オキシム、ラクタム、アミン等が挙げられ、特に限定されず、具体的には、ε-カプロラクタム、δ-バレロラクタム、γ-ブチロラクタム等のラクタム類;フェノール、クレゾール、エチルフェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、ジノニルフェノール、チオフェノール、クロルフェノール、アミルフェノール等のフェノール類;メチルエチルケトキシム、アセトキシム、アセトフェノンオキシム、ベンゾフェノンオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;メタノール、エタノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、シクロヘキサノール等のアルコール類;ジメチルマロネート、ジエチルマロネート等のマロン酸ジアルキルエステル類;アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、アセチルアセトン等の活性メチレン類、ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン等のメルカプタン類;アセトアニリド、酢酸アミド等のアミド類;コハク酸イミド、フタル酸イミド、マレイン酸イミド等のイミド類;重亜硫酸ソーダ等の亜硫酸塩類;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ及びブチルセロソルブ等のセロソルブ類;ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、3-メチルピラゾール、4-ベンジル-3,5-ジメチルピラゾール、4-ニトロ-3,5-ジメチルピラゾール、4-ブロモ-3,5-ジメチルピラゾール及び3-メチル-5-フェニルピラゾール等のピラゾール類;ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジシクロヘキシルアミン、ジフェニルアミン、キシリジン、N,N-ジエチルヒドロキシアミン、N,N’-ジフェニルホルムアミジン、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジン及び2-メルカプトピリジン等のアミン類:及び、1,2,4-トリアゾール等のトリアゾール類などが挙げられる。これらの2種以上の混合物等を使用してもよい。
これらのブロック剤は、加熱での熱解離による接着剤組成物の熱硬化が安定して得られ易いフェノール、ε-カプロラクタムおよびケトオキシムを好適に用いることができる。
【0121】
また、前記(C-1)成分は、具体的には、芳香族ポリイソシアネート類又は芳香脂肪族ポリイソシアネート類を含み、芳香族イソシアネート類としては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート等のフェニレンジイソシアネート類;2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)等のトリレンジイソシアネート類;2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート等のジフェニルメタンジイソシアネート類;ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI);m-又はp-イソシアナトフェニルスルホニルイソシアネート類;4,4’-ジイソシアナトビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジイソシアナトビフェニル等のジイソシアナトビフェニル類;1,5-ナフチレンジイソシアネート等のナフタレンジイソシアネート類;等が挙げられる。芳香脂肪族ポリイソシアネート類としては、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等のキシリレンジイソシアネート類;ジエチルベンゼンジイソシアネート;及び、α,α,α,α-テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI);等が挙げられる。また、前記ポリイソシアネートのカルボジイミド、ポリオール及びアロファネート等の変性物等が挙げられる。
【0122】
これらの芳香環を分子内に含むポリイソシアネートのうち、接着剤組成物のコード集束性の観点から、芳香族イソシアネートが好ましく、より好ましくは、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)あるいはポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)であり、特に好ましくは、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)類である。(C-1)成分として、メチレンジフェニルイソシアネート類のブロック体、中でも、メチレンジフェニルジイソシアネート(ジフェニルメタンジイソシアネート)のブロック体を用いることで、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。
【0123】
また、前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物は、(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物(以下、単に「(C-2)成分」とも称する)であることが、より好ましい。この場合も、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。前記(C-2)成分の詳細については、その詳細を後述する。
【0124】
水系接着剤組成物の固形分全体に占める、前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の含有量(固形分含有率)は、特に限定はされるものではないが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることがさらに好ましい。また、前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の含有量は、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることがさらに好ましく、40質量%以下であることが特に好ましい。前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の含有量が、5質量%以上であれば、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性がより良好なものになるからである。また、前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の含有量が、70質量%以下であれば、接着剤組成物に配合するゴムラテックス等の他の成分の量を、相対して一定以上確保することが可能となり、その結果、被着ゴムとの接着性がより良好となるからである。
【0125】
ここで、従来の、レゾルシンとホルムアルデヒドを含有する接着剤組成物では、これらレゾルシンとホルムアルデヒドが共縮合したフェノール系樹脂(海に例えられる)中にゴムラテックス粒子(島に例えられる)が分散した海島構造が形成され、これにより、有機繊維表面を被覆するフェノール系樹脂と有機繊維との間の良好な接着性を得ていた。
【0126】
一方、本発明の接着剤組成物の一好適実施態様においては、前記レゾルシンとホルムアルデヒドが共縮合したフェノール系樹脂に代わり、前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物が、以下の2つの機能効果(x),(y)をもって、接着促進剤として作用する。これらの結果、前記接着剤組成物においては、前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物が、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が良好という特徴に寄与する。
【0127】
(x)有機繊維と接着剤組成物による接着剤層との界面近傍の位置に、前記水性化合物が分布して、前記有機繊維と前記接着剤層との接着を促進する機能効果。
(y)接着剤組成物による接着剤層内で、前記(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する化合物によるイソシアネート基による架橋で3次元ネットワーク構造が形成され、前記接着剤層を補強する機能効果。
【0128】
本発明の接着剤組成物の一実施形態において、前記(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物の前記2つの接着促進剤としての機能効果(x),(y)の原理の一例について、以下、詳細に説明する。
【0129】
(x)の接着促進剤としての機能効果について
有機繊維として汎用されるポリエチレンテレフタレート等のポリエステルの合成樹脂素材は、扁平線状の高分子鎖からなる。そして、該高分子鎖の表面又は該高分子鎖の間隙は、該高分子鎖に含まれる芳香族等に由来するπ電子的雰囲気を有している。さらに、ポリエステルは、6,6-ナイロンに比べて、表面の水酸基が特に少ない。
そこで、従来より、ポリエステルからなる有機繊維に対して使用される接着剤組成物は、十分な接着力を得るために、前記接着剤組成物が有機繊維の高分子鎖の間隙へ分散すること、及び、前記接着剤組成物による接着剤層が前記有機繊維の高分子鎖の表面に密着すること、を目的として、芳香族性π電子を有する芳香環を側面に有する平面的な構造(有機繊維に拡散しやすい部分)の分子を、接着促進剤として含有してきた。
【0130】
(y)の接着促進剤としての機能効果について
前記(C-1)成分を含む接着剤層では、前述のとおり、接着剤組成物に含まれる(B)カチオン基及び/又はカルボキシル基を有するアクリルアミド構造を含有する化合物の水酸基と、熱処理でブロック剤が解離したイソシアネートとのイソシアネート架橋による共有結合を形成することで、接着剤組成物による接着を強化することができる。
【0131】
なお、前記(C-1)成分の粒子径は、前述の通り、0.01~0.50μmであることが好ましい。前記(C-1)成分の粒径が0.50μm以下の場合、粒径が小さいほど、該(C-1)成分が液中で沈降し難く、接着剤層での分散が不均一になりにくいためである。
一方、(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物であると、水溶性が高いため、接着剤組成物液中の成分沈降が発生し難く、静置保存を行っても成分の不均一など少ないため、経時等での接着が安定し好ましい。
【0132】
((熱解離性ブロック剤、水性ウレタン化合物))
前記(C-2)成分の熱解離性ブロック剤は、イソシアネート基を任意の化学反応から保護しつつ、必要に応じて熱処理をすることによりブロック剤を解離させて、イソシアネート基を復元することが可能であるようなブロック剤化合物であれば、特に限定されるものではない。前記熱解離性ブロック剤の具体例としては、前記(C-1)成分について前述したブロック剤と同じ化合物を用いることができ、好ましくは、フェノール、チオフェノール、クロルフェノール、クレゾール、レゾルシノール、p-sec-ブチルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-sec-アミルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール等のフェノール類;イソプロピルアルコール、tert-ブチルアルコール等の第2級又は第3級のアルコール;ジフェニルアミン、キシリジン等の芳香族第2級アミン類;フタル酸イミド類;δ-バレロラクタム等のラクタム類;ε-カプロラクタム等のカプロラクタム類;ジエチルマロネート、ジメチルマロネートなどのマロン酸ジアルキルエステル、アセチルアセトン、アセト酢酸アルキルエステル等の活性メチレン化合物;アセトキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム類;3-ヒドロキシピリジン、1,2-ピラゾール、3,5-ジメチルピラゾール、1,2,4-トリアゾール、ジイソプロピルアミン、N,N’-ジフェニルホルムアミジン等の塩基性窒素化合物及び酸性亜硫酸ソーダ等が挙げられる。
【0133】
これらのブロック剤の中でも、加熱での熱解離による接着剤組成物の熱硬化が安定して得られ易いε-カプロラクタム及びケトオキシムを好適に用いることができる。
【0134】
ここで、前記水性ウレタン化合物の水性とは、水溶性又は水分散性であることを意味する。また、前記水溶性とは、必ずしも完全な水溶性を意味するのではなく、部分的に水溶性であること、又は、接着剤組成物の水溶液中で相分離をしないことをも意味する。
【0135】
前記水性ウレタン化合物のウレタン化合物は、アミンの窒素とカルボニル基の炭素の間で形成された共有結合を有する化合物であり、下記一般式(9)で表される化合物を意味する。
【化9】
前記式(9)中、R、R’は、炭化水素基を表す。
【0136】
前記(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物の分子量は、水性を保てるものであれば特に限定されるものではなく、好ましくは数平均分子量1,500~100,000であり、特に好ましくは数平均分子量9,000以下である。
【0137】
前記(C-2)成分を合成する方法は、前述の通り、特に限定されるものではなく、特開昭63-51474号公報に記載の方法等、公知の方法とすることができる。
【0138】
前記(C-2)成分の好ましい実施態様は、(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量が2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物、(β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する数平均分子量が5,000以下の化合物、(γ)熱解離性ブロック剤、及び、(δ)少なくとも1つの活性水素基と、アニオン性、カチオン性又は非イオン性である少なくとも1つの親水基と、を有する化合物を、所定の混合比率になるように混合して、反応させた後の反応生成物であって、かつ、イソシアネート基(-NCO)の分子量を42としたときの、前記反応生成物中における(熱解離性ブロックド)イソシアネート基の構成比率が、0.5質量%以上、11質量%以下であることを特徴とする。この場合、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。このような(C-2)成分は、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基からなる部位と、親水性基を有する親水性の部位を併せ持つために、ウレタン化合物の自己水溶性が高まる利点を有するからである。
【0139】
(α)、(β)、(γ)及び(δ)の総和量に対するそれぞれの混合比率は、(α)については、40質量%以上、85質量%以下、(β)については、5質量%以上、35質量%以下、(γ)については、5質量%以上、35質量%以下、また、(δ)については、5質量%以上、35質量%以下である。
【0140】
前記(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物は、特に限定されるものではないが、芳香族ポリイソシアネート化合物及びそのオリゴマーであることが好ましく、その他の脂肪族、脂環式、複素環式のポリイソシアネート化合物及びそのオリゴマーであってもよい。このような(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物を反応させた後の反応生成物である(C-2)成分は、有機繊維の高分子鎖の間隙に、より分散しやすくなるからである。
【0141】
具体例として、脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、エチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,12-ドデカンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられ、脂環式ポリイソシアネート化合物としては、シクロブタン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,3-ジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、メチルシクロヘキサン-2,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサン-2,6-ジイソシアネート、1,3-(イソシアナトメチル)シクロヘキサン等が挙げられ、複素環式ポリイソシアネート化合物としては、1,3,5-トリス(2’-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のトリレンジイソシアネート付加物等が挙げられ、芳香族ポリイソシアネート化合物としては、m-フェニレンジイソシアネート、p-フェニレンジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、p-キシリレンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、m-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、p-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、メチントリス(4-フェニルイソシアネート)、トリス(4-イソシアナトフェニル)メタン、チオリン酸トリス(4-イソシアナトフェニルエステル)、3-イソプロペニル-α’,α’-ジメチルベンジルイソシアネート及びこれらのオリゴマー混合物、又は、これらのポリイソシアネート化合物のカルボジイミド、ポリオール及びアロファネート等の変性物等が挙げられる。
【0142】
これらの中でも、芳香族ポリイソシアネート化合物が好ましく、特に好ましくは、メチレンジフェニルポリイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート等が挙げられる。特には、数平均分子量2,000以下のポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートが好ましく、数平均分子量1,000以下のポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートが特に好ましい。このような(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物を反応させた後の反応生成物である(C-2)成分は、有機繊維の高分子鎖の間隙に、より分散しやすくなるからである。
【0143】
前記(β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する数平均分子量5,000以下の化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、下記(i)から(vii)よりなる群から選ばれる化合物等が挙げられる。
(i)2個以上4個以下の水酸基を有する数平均分子量5,000以下の多価アルコール類、
(ii)2個以上4個以下の第一級及び/又は第二級アミノ基を有する数平均分子量5,000以下の多価アミン類、
(iii)2個以上4個以下の第一級及び/又は第二級アミノ基と水酸基を有する数平均分子量5,000以下のアミノアルコール類、
(iv)2個以上4個以下の水酸基を有する数平均分子量5,000以下のポリエステルポリオール類、
(v)2個以上4個以下の水酸基を有する数平均分子量5,000以下のポリブタジエンポリオール類及びそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、
(vi)2個以上4個以下の水酸基を有する数平均分子量5,000以下のポリクロロプレンポリオール類及びそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、
(vii)2個以上4個以下の水酸基を有する数平均分子量5,000以下のポリエーテルポリオール類である、
多価アミン、多価フェノール及びアミノアルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C3以上の多価アルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C2~C4のアルキレンオキサイド共重合物、又は、C3~C4のアルキレンオキサイド重合物。
【0144】
ここで、前記(C-2)成分に関して、活性水素基とは、好適な条件下に置いたとき、活性水素(原子状水素(水素ラジカル)及び水素化物イオン(ヒドリド))となる水素を含む基を意味する。前記活性水素基の例としては、アミノ基、水酸基が挙げられる。
【0145】
前記(α)、(β)、(γ)及び(δ)を混合して反応させることにより、前記(C-2)成分を合成する方法は、特に限定されるものではないが、特開昭63-51474号公報に記載の方法等、公知の方法とすることができる。
【0146】
前記(C-2)成分の別の好ましい実施態様は、(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物、(β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する数平均分子量5,000以下の化合物、(γ)熱解離性ブロック剤、(δ)少なくとも1つの活性水素基と、アニオン性、カチオン性又は非イオン性の少なくとも1つの親水基と、を有する化合物、及び、(ε)活性水素基を含む、(α)、(β)、(γ)及び(δ)以外の化合物とを、所定の混合比率となるように混合して、反応させた後の反応生成物であって、かつ、イソシアネート基(-NCO)の分子量を42としたときの、前記反応生成物中における(熱解離性ブロックド)イソシアネート基の構成比率が、0.5質量%以上、11質量%以下であることを特徴とする。このような(C-2)成分は、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基からなる部位と、親水性基を有する親水性の部位を併せ持つために、ウレタン化合物の自己水溶性が高まる利点を有するからである。
【0147】
(α)、(β)、(γ)、(δ)及び(ε)の総和量に対するそれぞれの混合比率は、(α)については、40質量%以上、85質量%未満、(β)については、5質量%以上、35質量%以下、(γ)については、5質量%以上、35質量%以下、(δ)については、5質量%以上、35質量%以下、(ε)については、0質量%より多く、45質量%以下である。
【0148】
ここで、(α)3個以上、5個以下の官能基を有する数平均分子量2,000以下の有機ポリイソシアネート化合物、(β)2個以上、4個以下の活性水素基を有する数平均分子量5,000以下の化合物、(γ)熱解離性ブロック剤、及び、(δ)少なくとも1つの活性水素基と、アニオン性、カチオン性又は非イオン性の少なくとも1つの親水基と、を有する化合物は、混合比率以外、前述の<<(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物の好ましい実施態様>>に記載した通りである。
【0149】
前記(α)、(β)、(γ)、(δ)及び(ε)を混合して反応させることにより、前記(C-2)成分を合成する方法は、特に限定されるものではないが、特開昭63-51474公報に記載の方法等、公知の方法とすることができる。
【0150】
前記(C-2)成分のさらに別の好ましい実施態様は、下記一般式(1):
【化10】
[式(1)中、
Aは、有機ポリイソシアネート化合物の、活性水素基が脱離した残基、
Xは、2個以上、4個以下の水酸基を有する、数平均分子量が5,000以下のポリオール化合物の、活性水素基が脱離した残基、
Yは、熱解離性ブロック剤の、活性水素基が脱離した残基、
Zは、少なくとも1個の活性水素基と、少なくとも1個の塩を生成する基又は親水性ポリエーテル鎖とを、有する化合物の、活性水素基が脱離した残基、
nは、2以上4以下の整数、
p+mは、2以上4以下の整数(m≧0.25)
を表す]で表されることを特徴とする。この場合も、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性が、より良好となる。前記(C-2)成分は、(熱解離性ブロックド)イソシアネート基からなる部位と、親水性基を有する親水性の部位を併せ持つために、ウレタン化合物の自己水溶性が高まる利点を有するからである。
【0151】
ここで、一般式(1)中のAである、有機ポリイソシアネート化合物の活性水素基が脱離した残基の、有機ポリイソシアネート化合物は、芳香族環を含むことが好ましい。(C-2)成分が有機繊維の高分子鎖の間隙に、より分散しやすくなるからである。
【0152】
特に限定されるものではないが、具体的には例えば、メチレンジフェニルポリイソシアネート、ポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネート等が挙げられる。数平均分子量6,000以下のポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートが好ましく、数平均分子量4,000以下であるポリフェニレンポリメチレンポリイソシアネートが特に好ましい。
【0153】
一般式(1)中のXである、2個以上、4個以下の水酸基を有する数平均分子量が5,000以下のポリオール化合物の活性水素基が脱離した残基の、2個以上、4個以下の水酸基を有する数平均分子量が5,000以下のポリオール化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には、下記(i)から(vi)よりなる群から選ばれる化合物等が挙げられる。
(i)2個以上4個以下の水酸基を有する、数平均分子量5,000以下の多価アルコール類、
(ii)2個以上4個以下の第一級及び/又は第二級アミノ基と水酸基を有する、数平均分子量5,000以下のアミノアルコール類、
(iii)2個以上4個以下の水酸基を有する、数平均分子量5,000以下のポリエステルポリオール類、
(iv)2個以上4個以下の水酸基を有する、数平均分子量5,000以下の、ポリブタジエンポリオール類及びそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、
(v)2個以上4個以下の水酸基を有する、数平均分子量5,000以下の、ポリクロロプレンポリオール類及びそれらと他のビニルモノマーとの共重合体、
(vi)2個以上4個以下の水酸基を有する、数平均分子量5,000以下のポリエーテルポリオール類である、
多価アミン、多価フェノール及びアミノアルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C3以上の多価アルコール類のC2~C4のアルキレンオキサイド重付加物、C2~C4のアルキレンオキサイド共重合物、又は、C3~C4のアルキレンオキサイド重合物。
【0154】
前記(C-2)成分は、特に限定されるものではないが、第一工業製薬(株)製のエラストロン BN27、BN77、BN11、F2955D-1等の既成品を用いることもできる。中でも、エラストロンBN77が好ましい。
【0155】
<(D)ポリフェノール>
本発明の接着剤組成物の一実施態様は、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、及び、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物に加えて、(D)ポリフェノールを含むこともできる。
【0156】
前記(D)ポリフェノールとは、分子内に複数のフェノール性ヒドロキシ基を持つ植物由来の化合物であることが好ましい。この場合も、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性がより良好となる。(D)ポリフェノールとしては、具体的には、リグニン、タンニン、タンニン酸、フラボノイド、及び、その誘導体などが挙げられる。この場合も、接着剤組成物を有機繊維に用いた際に、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性がより良好となる。
【0157】
木材や樹皮中の成分であるリグニンやタンニン等のポリフェノールを分離し、ホルムアルデヒドと反応させ接着剤を製造する研究(例えば、特開平07-53858号公報を参照)が古くから行われているが、レゾルシンを含まない水系接着剤組成物を製造する知見は少ない。
【0158】
前記(D)ポリフェノールは、リグニンあるいはその誘導体であることが好ましい。リグニンとは、セルロースなどの多糖類と共に、植物の植物体細胞壁を構成する主要成分である。リグニンは、例えば、ヒドロキシル基、メトキシ基、カルボニル基及びカルボキシル基などの官能基を含むが、特に、フェノール性のヒドロキシ基は反応性の高いものであることから、カチオン性の基を有する物質と相互作用を持つことができる。
【0159】
リグニンは、フェニルプロパンに基づいた構造を有するポリマーであるが、リグニンの分子構造は様々であり、三次元網目構造を形成した、巨大な生体高分子であるので、その分子構造はいまだ完全には解明されていない。
【0160】
天然のリグニンは、植物細胞壁中で、セルロースなどの多糖類と共に強固に複合材料を形成しているため、化学構造の変性を伴わない天然リグニンの単離は、非常に困難とされている。様々な工業的な分離方法が、木などの材料からリグニンを抽出するために使用されている。分離後に得られるリグニンは、スルホン酸リグニン、クラフトリグニン、ソーダリグニン、水蒸気爆砕リグニン等が挙げられる。これらの工業的に扱われているリグニンで、入手性・経済性の観点から、紙パルプ製造プロセスの化学パルプ化のパルプ廃液より大規模に得られるリグニン、すなわち、リグノスルホン酸塩、あるいはクラフトリグニンが周知の材料である。
【0161】
それ以外のリグニン類の例としては、ヒドロキシメチル化、エポキシ化、脱窒素化、アシル化又はヒドロキシル化によって変性されたリグニン、ジエタノールアミン変性リグニン、酵素変性リグニン、ラッカーゼ変性リグニン、尿素変性リグニン、リグノスルホネート、アルセル法リグニン、アルカリグラニット法リグニン、ポリエチレングリコール付加リグニン、などが挙げられる。
【0162】
前記クラフトリグニンは、原料の木材としての、例えば、広葉樹、針葉樹、雑木、タケ、ケナフ、バガス等の木材チップを、水酸化ナトリウム/硫化ナトリウムなどによる蒸解液と共に蒸解釜へ投入することによる、高温高圧反応であるクラフト蒸解法と呼ばれる化学パルプ化法(高温高圧反応)由来のリグニンである。クラフト蒸解後に得られるクラフト廃液に酸及び/又は二酸化炭素を添加して、溶解しているリグニン変性物を沈殿させ、生成した沈殿物を脱水・洗浄して得られる。また、脱水・洗浄後の沈殿は、アルコールやアセトンなどの有機溶媒を添加して溶解させ、不溶物である不純物を分離させて乾燥する精製や、必要に応じて各種の官能基を導入させる変性を行うことができる。前記クラフトリグニンは、市販される製品を入手して使用することができる。中でも、Sigma-Aldrich Co.LLC社製の試薬名「Lignin,alkali,kraft」(CAS Number:8068-05-1)が好ましい。
【0163】
前記スルホン酸リグニンは、木材チップを、亜硫酸及び/又は亜硫酸塩を用いた蒸解液とともに高温高圧反応させる亜硫蒸解法による化学パルプ化法において、亜硫酸パルプから溶出する廃液等を原料として得られるリグニンスルホン酸及びその塩であり、リグニンスルホン酸カルシウム、リグニンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸カリウム、リグニンスルホン酸マグネシウム塩が特に好ましく挙げられる。中でも、リグニンスルホン酸ナトリウム等が好ましい。これらスルホン酸リグニンは市販品として入手でき、例えば、リグニンスルホン酸塩あるいは変性リグニンスルホン酸塩としては、日本製紙株式会社製品のサンエキスシリーズなどを用いることができる。
【0164】
リグニンスルホン酸塩の高付加価値品としては、例えば、高純度品はもちろんのこと、リグニンスルホン酸塩を水酸化ナトリウム又はアンモニアを使用するアルカリ性水溶液中で、酸素等の酸化剤の存在下で加熱する方法(例えば、特開2016-135834号公報などを参照)により、スルホン化度を低減させた部分脱(低)スルホン化リグニンスルホン酸塩が挙げられる。高純度のリグニンスルホン酸塩あるいは変性リグニンスルホン酸塩としては、日本製紙株式会社製品のパールレックスシリーズ、部分脱スルホンリグニンスルホン酸としては、日本製紙株式会社製品のバニレックスシリーズなどを用いることができる。中でも、スルホン化度を低減させた部分脱(低)スルホン化リグニンスルホン酸塩である、東京化成工業株式会社製、試薬名「リグニン(アルカリ)」(CAS Number:8061-51-6、固形粉体)が好ましい。
これらポリフェノールの塩類に使われるアルカリは、後述する(E)多価金属のアルカリ塩類であっても良い。
【0165】
前記タンニンとは、広範な植物、例えば、木質の木のみならず、果実、葉及び種子、例えば、ブドウ、カキ、ベリー、クローブ、豆類、薬草、茶の葉及びカカオ豆の中にも存在する一群のポリフェノール化合物である。タンニン分子は一般に、多数のヒドロキシル基、及び、しばしばカルボキシル基をも含み、様々な範囲の高分子と強い錯体及び複合体を形成する傾向がある。
【0166】
前記タンニンには、タンニン酸、プロアントシアニジン、フラボノイド、没食子酸エステル、カテキン等を含み、またそれらの塩やその変性体などの誘導体をも含む。また、前記フラボノイドは、植物の葉、幹及び樹皮中に遍在しており、一般にタンニンと呼ばれる物質であるが、加水分解型タンニン及び縮合型タンニンからなる。これらのタンニンの識別は、希塩酸で煮沸すると、縮合型タンニンは不溶性の沈殿を生じ、加水分解型に属するタンニンは加水分解して、水溶性の物質を生じる。
【0167】
前記タンニンは、加水分解型タンニン及び縮合型タンニンのいずれも水溶性で、木質部、樹皮、葉、実、莢、虫嬰などの植物材料から、熱水抽出の方法等で抽出して得ることができる。加水分解型タンニンは、例えば、チェスト、ナッツの木質部、オークの樹皮、茶の葉、五倍子や没食子の虫嬰から得られ、縮合型タンニンは、ケブラチョの木質部、ミモザの樹皮、柿やソバの実などから得ることができる。中でも、加水分解型タンニンとしての、五倍子などから得られるタンニン酸である、ナカライテスク株式会社製、試薬名「タンニン酸」(CAS Number:1401-55-4-6、固形粉体)、及び、縮合型タンニンとしての、ミモザの樹皮から得られる、川村通商株式会社製、商品名「ミモザ」(固形粉体)などが好ましい。
【0168】
水系接着剤組成物中の固形分全体に占める、前記(D)ポリフェノールの含有量(固形分含有率)は、特に限定はされるものではないが、1質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましい。また、前記(D)ポリフェノールの含有量は、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることが特に好ましい。前記(D)ポリフェノールの含有量が、0.5質量%以上であれば、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性がより良好なものになるからである。また、前記(D)ポリフェノールの含有量が、50質量%以下であれば、接着剤組成物に配合するゴムラテックス等の他の成分の量を、相対して一定以上確保することが可能となり、その結果、被着ゴムとの接着性がより良好となるからである。
【0169】
<(E)多価金属塩>
本発明の接着剤組成物の一実施態様は、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、及び、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物に加えて、(E)多価金属塩を含むこともできる。
【0170】
前記(E)多価金属塩は、接着剤組成物による接着剤層とその被着体である有機繊維とを接着させるにあたり表面への定着を促進するための成分である。前記多価金属塩は、前記被着体である有機繊維表面の水酸基等のアニオン性基にカチオンとして吸着する一方で、接着剤組成物に含まれるポリアクリルアミドと水素結合力のあるアミド部位、あるいは含まれるアニオン性基との相互作用を実現できる。この定着を促進する作用の結果、(E)多価金属塩を含む本発明の接着剤組成物によれば、例えば、有機繊維コードと被覆ゴム組成物の間を、良好に接着することができる。
【0171】
前記(E)多価金属塩としては、限定されるものではないが、上述の通り、有機繊維の表面に定着が可能である2価以上金属イオンの塩を用いることができる。例えば、繊維の染色薬品として使用される媒染剤や無機充填剤の定着剤などを好ましく用いることができる。
【0172】
前記(E)多価金属塩として、繊維の染色薬品で使用される媒染剤としては、4配位又は6配位の多価金属イオン、なかでもアルミニウムイオン、鉄イオン、クロムイオン、銅イオン、スズイオン、ニッケルイオンの無機塩で、塩化鉄、塩化スズ、ミョウバン、硫酸銅、酢酸銅、シュウ酸銅、グルコン酸銅、酢酸アルミニウム、又はこれら多価金属イオンを含む鉄漿や灰汁などの天然媒染剤を挙げることができる。なお、本発明では、銅分補給の栄養機能食品などの食品添加物であるグルコン酸銅などを用いた。
また、前記(E)多価金属塩として、無機充填剤の定着剤としては、塩化鉄(II)四水和物等を挙げることができる。
【0173】
また、前記媒染剤は、水に攪拌で溶解して0.01~5質量%程度の水溶液で用いることができる。なお、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物や、(D)ポリフェノールと混合する際には、混合した水溶液中に微細なポリイオンコンプレックスが発生して良いが、沈降が発生しない程度に媒染剤の添加量を少なくするあるいは濃度を薄くする等で適宜に調整することが好ましい。
【0174】
なお、前記接着剤組成物中の固形分全体に占める、前記(E)多価金属塩の含有量(固形分含有率)は、特に限定はされるものではないが、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることが更に好ましい。また、前記(E)多価金属塩の含有量は、3質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることが更に好ましい。前記(E)多価金属塩の含有量が、0.01質量%以上であれば、有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性がより良好なものになるからである。また、前記(E)多価金属塩の含有量が、3質量%以下であると、多価金属塩による接着剤組成物の凝集効果による増粘が抑制できるからである。
【0175】
<接着剤組成物の製造方法>
本発明の接着剤組成物を製造するにあたっては、これら(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物を混合し、さらに、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)ポリフェノール、及び、(E)多価金属塩を任意の順序で混合することができる。
【0176】
なお、前記(D)ポリフェノール、及び(E)多価金属塩を含ませる場合は、特に限定されるものではないが、好ましい添加順序としては、(E)多価金属塩、(D)ポリフェノール、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、の順である。
この理由は、前記(E)多価金属塩は、(D)ポリフェノール、(B)カチオン基及び/又はカルボキシル基を有するアクリルアミド構造を含有する化合物等のアニオン性基を有する化合物の定着剤として混合し、ポリイオンコンプレックスとすることで、被着体の有機繊維表面のアニオン性基や、ゴムラテックス表面の乳化剤のアニオン性基により定着しやすい状態になるためである。
【0177】
本発明の接着剤組成物において、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物(との混合質量比[(A):(B)](固形分換算)は、特に限定されるものではないが、100:0.1から100:25の範囲にあることが好ましく、100:0.2から100:15の範囲にあることがより好ましい。
【0178】
前記混合質量比が、100:0.1以上であれば(比の値として1000以下であれば)、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスをコアとして、その周囲に(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物のマイクロカプセルの皮膜を形成することができ、かつ、十分な強度の接着剤層を得ることもできるからである。また、前記混合質量比が、100:25以下であれば(比の値として4以上であれば)、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスをコアとして、その周囲に形成される(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物(のマイクロカプセルの皮膜が厚くなりすぎず、有機繊維の被着体である被覆ゴム組成物と接着剤組成物とを共加硫して接着させる際に、前記被着体である被覆ゴム組成物と前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスとが良好に相溶し、その結果、前記被着体である被覆ゴム組成物と前記接着剤組成物との間の接着の初期過程が好適に進行するからである。
【0179】
前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと前記(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物との混合においては、通常のコアセルベートで、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物からなる皮膜を強化できる公知の水溶性材料を併用することができる。例えば、アラビアガム、カラギーナン、CMC類、有機の塩、又は、前記(E)多価金属塩を除く無機の塩からなる電解質物質、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウムのような1価である陽イオンを有する塩、硫酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩のような陰イオンを有する塩を使用することができる。さらに、水溶解性の液体であって、その中の皮膜形成材料が水よりも少なく溶解するような液体物質、例えば、エタノール、プロパノールのようなアルコール類、又は、イソブチレン-無水マレイン酸開環共重合体塩などの水溶性高分子類を使用することもできる。
【0180】
本発明の接着剤組成物において、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)ポリフェノール、(E)多価金属塩からなる群から選ばれる化合物との混合質量比[(A):〔(C)+(D)+(E)〕](固形分換算)は、特に限定されるものではないが、100:5から100:300の範囲にあることが好ましく、100:10から100:150の範囲にあることがより好ましく、100:15から100:70の範囲にあることがさらにより好ましい。
【0181】
前記混合質量比が、100:5以上であれば(比の値として20以下であれば)、接着剤組成物中における(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスが占める比が大きくなりすぎず、前記接着剤組成物による接着剤層の耐破壊抗力を十分に保つことができ、歪下での接着性の低下を防止することができるからである。また、前記混合質量比が100:300以下であれば(比の値として1/3以上であれば)、接着剤組成物中における(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスが占める比が低くなりすぎず、有機繊維の被着体である被覆ゴム組成物と接着剤組成物とを共加硫して接着させる際に、前記被着体である被覆ゴム組成物と前記(A)ゴムラテックスとが良好に相溶し、その結果、前記被着体である被覆ゴム組成物と前記接着剤組成物との間の接着性が、十分に高いものとなるからである。
【0182】
また、前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物、(D)ポリフェノール、及び、(E)多価金属塩は、水性であることが好ましい。環境への汚染が少ない水を溶媒に使用することができるからである。
【0183】
本発明の接着剤組成物においては、本発明の主旨を損なわない程度に、その他の物質を含むことができる。なおエポキシド化合物は、基本的に水溶性が殆どないフェノールノボラック型エポキシド化合物等の水分散物であれば本発明接着剤組成物の主旨を損なわない程度で添加ができるが、水溶性である脂肪族系エポキシド化合物は水中でのエポキシ基の反応性があることから、接着剤組成物水溶液ではエポキシド基の失活による液保管での日限が短くなる、あるいは、エポキシドの架橋により液粘度が高くなるため、工業的な製造での課題があるために含まないことが好ましい。
【0184】
[有機繊維]
以上のように構成された接着剤組成物を、有機繊維、例えば、ポリエステル樹脂、芳香族ポリアミド樹脂又はアクリル樹脂等からなる有機繊維の表面に被覆させ、適度な熱処理を施すことにより、接着剤組成物からなる接着材層が樹脂基材の表面に被覆され、接着処理が施された有機繊維材料を作製することができる。
【0185】
本発明の有機繊維材料は、樹脂基材の表面が、前記接着剤組成物からなる接着材層で被覆されたものであることを特徴とする。これにより、環境性や作業性を確保しつつ、耐久性に優れた有機繊維材料とすることができる。特に好ましくは、前記樹脂基材が、ポリエステル樹脂、芳香族ポリアミド樹脂又はアクリル樹脂であり、中でも、樹脂基材がポリエステル樹脂であることが好ましい。また、前記樹脂基材は、複数のフィラメントを撚り合わせてなるコードであることが好ましい。
【0186】
樹脂基材の表面を接着剤組成物により被覆させる方法としては、接着剤組成物に有機繊維コードを浸漬する方法、接着剤組成物をハケなどで塗布する方法、接着剤組成物をスプレーする方法等があるが、必要に応じて適当な方法を選択することができる。接着剤組成物を樹脂基材の表面に被覆させる方法は、特に限定されないが、接着剤組成物を樹脂基材の表面に被覆させる際には、接着剤組成物を種々の溶剤に溶解して粘度を下げると、塗布が容易となるため、好ましい。また、かかる溶剤は、主に水からなると、環境的に好ましい。
【0187】
前記有機繊維を前記接着剤組成物により被覆する際には、前記接着剤組成物を種々の溶剤に溶解して粘度を下げると、被覆が容易になるため好ましい。前記接着剤組成物の粘度を下げるための溶剤は、主に水からなると、環境的に好ましい。
【0188】
また、前記有機繊維に含侵した接着剤組成物の溶液濃度は、特に限定されるものではないが、前記有機繊維の質量に対して、固形分換算値で、5.0質量%以上、25.0質量%以下であることが好ましく、7.5質量%以上、20.0質量%以下であることがより好ましい。
【0189】
ここで、前記接着剤組成物による接着剤層の厚さは、特に限定されるものではないが、50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上、30μm以下であることがより好ましい。
【0190】
なお、特に本発明の有機繊維-ゴム複合体をタイヤに適用する場合、接着処理による接着剤組成物の付着量が厚くなると、タイヤ転動下での接着耐久性が低下する傾向がある。この理由は、被着する繊維材料の界面の接着剤組成物は、繊維材料の剛性が高いため歪による応力を負担することにより比較的変形が小さくなるが、界面から離れるに従って歪による変形が大きくなるためである。被着ゴム材料に比べて接着剤組成物は熱硬化性縮合物を多く含むため、硬く脆いことにより繰り返し歪下での接着疲労が大きくなりやすい。以上より、接着剤組成物層の平均厚さは、50μm以下であることが好ましく、0.5μm以上、30μm以下であることがより好ましい。
【0191】
前記樹脂基材がコードである場合には、前記有機繊維において、前記接着剤層が、乾燥質量で、前記コードの質量の0.5~6.0質量%であることが好ましい。接着材層の乾燥質量をこの範囲とすることで、適切な接着性を確保することができる。
【0192】
前記接着剤組成物で被覆した有機繊維は、前述した有機繊維材料の場合と同様に、乾燥、熱処理等を行うことができる。
【0193】
接着剤組成物を有機繊維の表面に被覆させた有機繊維材料は、例えば、100℃~210℃の温度で乾燥させた後、引き続いて熱処理を行う。この熱処理は、樹脂基材のポリマーのガラス転移温度以上、好ましくは、該ポリマーの〔融解温度-70℃〕以上、〔融解温度-10℃〕以下の温度で施すことが好ましい。この理由としては、ポリマーのガラス転移温度未満では、ポリマーの分子運動性が悪く、接着剤組成物のうちの、接着を促進する成分とポリマーとが十分な相互作用を行えないため、接着剤組成物と樹脂基材の結合力が得られないためである。このような樹脂基材は、あらかじめ電子線、マイクロ波、コロナ放電、プラズマ処理等により前処理加工されたものでもよい。
【0194】
[有機繊維-ゴム複合体]
本発明の有機繊維-ゴム複合体は、有機繊維とゴムとの複合体であって、該有機繊維が、前記接着剤組成物により被覆されていることを特徴とするものである。これにより、レゾルシンを用いることなく良好な接着性を得ることができ、環境性や作業性が良好な有機繊維-ゴム複合体とすることができる。本発明の接着剤組成物は、特に、有機繊維コード等の有機繊維と被覆ゴム組成物の接着性に優れている。
【0195】
本発明の有機繊維-ゴム複合体を、
図2を参照しながら、詳細に説明する。
【0196】
図2は、本発明の有機繊維-ゴム複合体の一例の有機繊維コード-ゴム複合体を示す断面概略図である。
図2に示す有機繊維-ゴム複合体31は、有機繊維コード1の外径方向外側表面が、本発明の接着剤組成物2による接着剤層32で被覆されている。そして、前記有機繊維コード1は、前記接着剤組成物2による接着剤32を介して、さらにその外径方向外側にある被覆ゴム組成物33と接着し、本発明の有機繊維-ゴム複合体31が形成される。
【0197】
なお、本発明の接着剤組成物を用いたゴム物品の補強材の形態としては、前記有機繊維コード-ゴム複合体に加えて、短繊維、不織布等の形態とすることもできる。
【0198】
<有機繊維コード>
前記有機繊維の一例の有機繊維コードとは、タイヤ等のゴム物品の強度を補うために使用されるものである。前記有機繊維コードを補強材として使用する際には、まず、紡糸された有機繊維の原糸を撚糸することで有機繊維コードとする。そして、当該有機繊維コードを、接着剤組成物を用いて、当該有機繊維コードを被覆するゴムに埋設して加硫を行い接着させることにより有機繊維-ゴム複合体を作製し、この有機繊維-ゴム複合体を、タイヤ等のゴム物品の補強部材として使用することができる。
【0199】
前記有機繊維の材質としては、特に限定されないが、ポリエステル、6-ナイロン、6,6-ナイロン、4,6-ナイロン等の脂肪族ポリアミド繊維、人造フィブロイン繊維等のタンパク質繊維、ポリケトン繊維、ポリノナメチレンテレフタルアミド、パラフェニレンテレフタルアミドに代表される芳香族ポリアミド繊維、アクリル繊維、炭素繊維、レーヨン、リヨセル等のセルロース繊維に代表される繊維材料を挙げることができる。これらのうちでも、ポリエステル、6-ナイロン、6,6-ナイロンが好ましく、6,6-ナイロンを用いることが特に好ましい。
【0200】
前記ポリエステルの材料は、主鎖中にエステル結合を有する高分子であり、より詳しくは、主鎖中の繰り返し単位の結合様式の80%以上がエステル結合様式のものである。
前記ポリエステルの例としては、特に限定されるものではないが、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、メトキシポリエチレングリコール、及びペンタエリスリトール等であるグリコール類と、テレフタル酸、イソフタル酸、及びそれらのジメチル体等であるジカルボン酸類とのエステル化反応又はエステル交換反応によって縮合して得られるもの、が挙げられる。最も代表的なポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートである。
【0201】
前記有機繊維コードは、特に、タイヤやコンベヤベルト等のゴム物品を補強する目的において、複数の単繊維フィラメントを撚り合わせてなる有機繊維コードであることが好ましい。また、前記有機繊維コードは、上撚りの単繊維フィラメントと下撚りの単繊維フィラメントとを撚り合わせてなる有機繊維コードであることが好ましい。
前記有機繊維コードの繊維太さは、100dtex以上5000dtex以下の範囲が好ましい。また撚数(回/10cm)は、本発明のタイヤにおいては、下撚数が、10~50回/10cmであることが好ましい。本発明のタイヤにおいては、上撚数が、10~50回/10cmであることが好ましい。
【0202】
さらに、前記複数本のフィラメントを撚り合わせてなるコードは、撚構造1670dtex/2、上撚数39回/10cm、下撚数39回/10cmのポリエチレンテレフタレートのタイヤコードであり、このタイヤコードに前記接着剤組成物を付着させた、有機繊維-ゴム複合体であることが好ましい。
【0203】
本発明の有機繊維-ゴム複合体を構成する被覆ゴム組成物は、ゴム成分に、通常ゴム業界で用いられる各種配合剤を配合したものが好ましい。ここで、ゴム成分としては、特に限定はなく、例えば、天然ゴムの他、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)等の共役ジエン系合成ゴム、さらには、エチレン-プロピレン共重合体ゴム(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴム(EPDM)、ポリシロキサンゴム等が挙げられる。これらの中でも、天然ゴム及び共役ジエン系合成ゴムが好ましい。また、これらゴム成分は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0204】
本発明の有機繊維-ゴム複合体は、有機繊維コード等の有機繊維を、本発明の接着剤組成物により被覆して接着剤層を形成し、前記接着剤組成物中の(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、前記有機繊維の被着体である被覆ゴム組成物中のゴム成分とを共加硫して接着させることにより、製造することができる。
【0205】
最後に、前記接着剤組成物で被覆した有機繊維は、前記接着剤組成物中の(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、前記有機繊維の被着体である被覆ゴム組成物中のゴム成分とを共加硫して接着させる。
【0206】
なお、前記被覆ゴム組成物中のゴム成分の共加硫には、例えば、硫黄、テトラメチルチラリウムジスルフィド、ジペンタメチレンチラリウムテトラサルファイド等のチラリウムポリサルファイド化合物、4,4-ジチオモルフォリン、p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾキノンジオキシム、環式硫黄イミドなど有機加硫剤を用いることができる。中でも、硫黄を用いることが好ましい。また、前記被覆ゴム組成物中のゴム成分には、ゴム業界で通常用いられるカーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム等の充填剤、加硫促進剤、老化防止剤、軟化剤等の各種配合剤を、適宜配合することができる。
【0207】
また、本発明の接着剤組成物は、有機繊維等の合成有機繊維材料の被着体及び/又は被覆ゴム組成物の被着体に含まれる加硫剤が前記接着剤組成物へ移行し、移行してきた前記加硫剤により前記接着剤組成物が架橋される接着方法においても、接着の効果が得られることは言うまでもない。
【0208】
[ゴム物品]
本発明のゴム物品は、本発明の有機繊維-ゴム複合体を用いたものである。これにより、レゾルシンを用いることなく良好な接着性を得ることができ、環境性や作業性が良好なゴム物品とすることができる。このような本発明のゴム物品としては、タイヤの他、コンベヤベルト、ベルト、ホース、空気バネ等を挙げることができる。
【0209】
[タイヤ]
本発明のタイヤは、本発明の有機繊維-ゴム複合体を用いたものである。これにより、レゾルシンを用いることなく良好な接着性を得ることができ、環境性や作業性が良好なタイヤとすることができる。
【0210】
ここで、本発明のタイヤにおいて、前記有機繊維-ゴム複合体は、例えば、カーカス、ベルト、ベルト補強層、フリッパー等のベルト周りの補強層として用いることが可能である。
【0211】
本発明のタイヤは、適用するタイヤの種類に応じ、未加硫のゴム組成物を用いて成形後に加硫して得てもよく、又は、予備加硫工程等を経た半加硫ゴムを用いて成形後、さらに本加硫して得てもよい。なお、本発明のタイヤには、当該タイヤのいずれかの箇所に、上述の接着剤組成物で処理した有機繊維コード等が用いられるが、その他の部材は、特に限定されず、公知の部材を使用することができる。また、本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、この空気入りタイヤに充填する気体としては、通常の、又は、酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【0212】
なお、上述した、本発明の接着剤組成物、有機繊維材料及び有機繊維-ゴム複合体は、前記タイヤに加えて、コンベヤベルト、ベルト、ホース、空気バネ等のあらゆるゴム物品にも適用することができる。
【実施例0213】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は下記の実施例により、何ら限定されるものではない。
【0214】
<(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス>
各比較例及び実施例においては、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスとして、(A-1)ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックスを、特開平9-78045号公報に記載の比較例1に準拠して、以下の通り調製し、使用した。
【0215】
窒素置換した5リットル容量のオートクレーブに、脱イオン水130質量部、乳化剤としてのロジン酸カリウム4.0質量部を仕込み溶解した。これに、ビニルピリジン単量体15質量部、スチレン15質量部及びブタジエン70質量部組成の単量体混合物と、連鎖移動剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.60質量部を仕込み、乳化した。その後、50℃に昇温させ、重合開始剤としての過硫酸カリウム0.5質量部を加え、重合を開始した。単量体混合物の反応率が90%に達した後、ハイドロキノン0.1質量部を加え、重合を停止した。次に、減圧下、未反応単量体を除去し、固形分濃度41質量%のビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックスを得た。
【0216】
<(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物>
各実施例においては、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物として、以下の(B-1)~(B-7)のものを用い、脱イオン水で50倍に希釈(濃度を2wt%にする)した水溶液を製造し、該水溶液を接着剤組成物の調製に使用した。
(B-1)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物として、分子量600でアミン水素当量291のポリエーテルモノアミンである、アルドリッチ社製の商品名「O-(2-アミノプロピル)-O’-(2-メトキシエチル)ポリプロピレングリコール(別名:ジェファーミンM-600)」(CAS番号:83713-01-3、公称分子量Mw:600、公称アミン水素当量:291g/Eq、比重:0.98、無色液体)
(B-2)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物として、分子量230でアミン水素当量61のポリオキシプロピレンジアミンである、BASF SE社製の商品名「Baxxodur EC301」(CAS番号:9046-10-0、公称分子量Mw:230、公称アミン水素当量:61g/Eq、比重:0.95、無色液体)
(B-3)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物として、分子量400でアミン水素当量111のポリオキシプロピレンジアミンである、BASF SE社製の商品名「Baxxodur EC302」(CAS番号:9046-10-0、公称分子量Mw:400、公称アミン水素当量111g/Eq、比重:0.97,無色液体)
(B-4)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物として、分子量2000でアミン水素当量501のポリオキシプロピレンジアミンである、BASF SE社製の商品名「Baxxodur EC303」(CAS番号:9046-10-0、公称分子量Mw:2000、公称アミン水素当量501g/Eq、比重:1.00,無色液体)
(B-5)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物として、分子量600でアミン水素当量132のポリエーテルアミンである、アルドリッチ社製の商品名「O,O’-ビス(2-アミノプロピル)ポリエチレングリコール-block-ポリエチレングリコール-block-ポリエチレングリコール500(別名:ジェファーミンED-600)」(CAS番号:65605-36-9、公称分子量Mw:600、公称アミン水素当量132g/Eq、比重:1.056,無色液体)
(B-6)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物として、分子量440でアミン水素当量81のトリメチロールプロパンポリ(オキシプロピレン)トリアミンである、BASF SE社製の商品名「Baxxodur EC310」(CAS番号:39423-51-3、公称分子量Mw:440、公称アミン水素当量81g/Eq、比重:0.99,無色液体)
(B-7)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物として、分子量5000でアミン水素当量967のグリセリルポリ(オキシプロピレン)トリアミンンである、BASF SE社製の商品名「Baxxodur EC311」(CAS番号:64852-22-8、公称分子量Mw:5000、公称アミン水素当量967g/Eq、比重;1.00、無色液体)
【0217】
<(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物>
(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物としては、以下の(C-1)又は(C-2)をそのまま用いた。
(C-1)メチルエチルケトオキシムブロック-ジメニルメタンジイソシアネート化合物である、明成化学工業株式会社製のDM-6400」(ブロック剤熱解離温度:約130℃、固形分濃度40質量%)
(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性ウレタン化合物である、第一工業製薬株式会社製の商品名「エラストロンBN77」(ブロック剤熱解離温度:約160℃、pH:8.0、固形分濃度:31質量%)
【0218】
<(D)ポリフェノール>
(D)ポリフェノールとしては、下記に示す、(D-1)ポリフェノールがリグニンスルホン酸塩であるもの、(D-2)ポリフェノールがクラフトリグニンであるもの、(D-3)ポリフェノールが天然のポリフェノールであるものを用いた。これらは、粉末であるポリフェノールを、脱イオン水で溶解して、固形分濃度5質量%の水溶液を製造し、該水溶液を接着剤組成物の調製に使用した。
(D-1)東京化成工業株式会社製の商品名「リグニン(アルカリ)」(CAS Number:8061-51-6)、スルホン化度を低減させた部分脱スルホン化リグニンスルホン酸塩
(D-2)Sigma-Aldrich Co.LLC社製の商品名「Lignin,alkali」(CAS Number:8068-05-1)、クラフトリグニン
(D-3)川村通商株式会社製、商品名「ミモザ」(固形粉体)、天然ポリフェノール
【0219】
<(E)多価金属塩>
(E)多価金属塩としては、下記に示す、(E-1)有機繊維への媒染剤となる多価金属塩、又は、(E-2)無機充填剤の定着剤を用いて、該水性液を接着剤組成物の調製に使用した。
(E-1)東京化成工業株式会社製の商品名「グルコン酸銅(II)」(CAS Number:527-09-3、固形粉体、純度97%以上)を、脱イオン水に攪拌して固形分濃度0.5%になるように溶解して、該水溶液を接着剤組成物の調製に使用した。
(E-2)ナカライテスク株式会社製の商品名「塩化鉄(II)四水和物」(CAS Number:13478-10-9、固形粉末、純度98%以上)を、脱イオン水に攪拌して固形分濃度0.5%になるように溶解して、該水溶液を接着剤組成物の調製に使用した。
【0220】
<<ラテックス接着剤組成物(比較例1)の調製>>
前記(A)ゴムラテックスと、水とを、表2に示すように配合(Wet配合)し、固形分濃度が15.7質量%となるように量を調節して混合した後、十分に攪拌を行い、ラテックス接着剤組成物(比較例1)を得た。
【0221】
<<ラテックス-水性ウレタン接着剤組成物(比較例2~3)の調製>>
前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、前記(C-1)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物とを、表2に示すように配合(Wet配合)し、接着剤組成物の固形分濃度が15.7質量%となるように水で量を調節して混合した後、十分に攪拌を行い、ラテックス-水性ウレタン接着剤組成物(比較例2)を得た。
【0222】
また、前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、前記(C-2)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物とを、表2に示すように配合(Wet配合)し、接着剤組成物の固形分濃度が15.7質量%となるように水で量を調節して混合した後、十分に攪拌を行い、ラテックス-水性ウレタン接着剤組成物(比較例3)を得た。
【0223】
<<ラテックス-ポリフェノール接着剤組成物(比較例4~6)の調製>>
前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、前記(D)ポリフェノールとを、表2に示すように配合(Wet配合)し、接着剤組成物の固形分濃度が15.7質量%となるように水で量を調節して混合した後、十分に攪拌を行い、ラテックス-ポリフェノール接着剤組成物(比較例4~6)を得た。
【0224】
<<ラテックス-多価金属塩接着剤組成物(比較例7~8)の調製>>
前記(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックスと、前記(E)多価金属塩とを、表2に示すように配合(Wet配合)し、接着剤組成物の固形分濃度が15.7質量%となるように水で量を調節して混合した後、十分に攪拌を行い、ラテックス-ポリフェノール接着剤組成物(比較例7~8)を得た。
【0225】
<<本発明の一実施形態である接着剤組成物(実施例1~24)の調製>>
表2、3及び4に示すように配合(Wet配合)に示すように、各所定の、希釈用の水、(E)多価金属塩、(D)ポリフェノール、(B)ポリエーテルからなる骨格構造とアミン官能基を含有する化合物、(A)不飽和ジエンを有するゴムラテックス、(C)(熱解離性ブロックド)イソシアネート基を有する水性化合物を、この順番にて配合し、接着剤組成物の固形分濃度が15.7質量%となるように混合した後、十分に攪拌を行い、本発明の一実施形態である接着剤組成物(実施例1~24)を得た。
なお、実施例22の接着剤組成物は、実施例21の接着剤組成物を調製した後、接着剤組成物液を保管した時の安定性(日限)を確認するため、恒温槽を用いた庫内温度25℃の条件下で65日静置した後に、実施例22の接着剤組成物として使用した。
【0226】
<各接着剤組成物によるタイヤコードの被覆>
有機繊維コードとして、撚構造1670dtex/2、上撚数39回/10cm、下撚数39回/10cmのポリエチレンテレフタレート製のタイヤコードを用いた。
【0227】
前記タイヤコードを、各比較例及び各実施例の接着剤組成物に浸漬し、タイヤコードに含侵した接着剤組成物の付着が、前記有機繊維コードの質量に対して3.2質量%となるようにした。
次いで、乾燥ゾーンで乾燥(150℃、60秒)、ホットゾーンで張力(7.9N/本)を加えながらの樹脂の熱硬化、ノルマライズゾーンで前記張力を緩めながらの熱硬化(235℃、60秒)に順次供して、各サンプルの接着剤組成物で被覆されたタイヤコードを取得した。
【0228】
<タイヤコード-ゴム複合体の作製>
各比較例及び各実施例の接着剤組成物で被覆されたタイヤコードを、未加硫のゴム組成物に埋め込み、160℃×20分で共加硫した。なお、被覆用の未加硫のゴム組成物としては、天然ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、カーボンブラック及び加硫系薬品等を含むゴム組成物を用いた。
【0229】
<接着剤組成物の作業性評価>
各比較例及び実施例の接着剤組成物の作業性に関して、以下の評価を行った。
<<機械的安定性(凝固率)の評価>>
各接着剤組成物の機械的安定性(凝固率)を、JIS K6392-1995に示される共重合体ラテックス組成物のマロン式機械的安定度試験機(熊谷理機工業株式会社製、マロン安定度試験機No.2312-II)を用いた方法に準拠して、測定した。
【0230】
概述すると、各接着剤組成物に、前記マロン式機械的安定度試験機のローターを用いて、圧縮荷重10kg、回転数1000r/minで10分間のせん断歪を与えた後、発生した凝固物量から、以下の式にて凝固率(%)を評価し、四捨五入して小数点以下1桁までの数値として求めた。数値が小さい方が、機械的安定性に優れることを示す。
凝固率(%)=[(発生した凝固物の乾燥質量)/(供試の接着剤液の固形分質量)]×100
【0231】
<<絞りロールへの付着性の評価>>
有機繊維コードである前記ポリエチレンテレフタレートタイヤコードについて、各接着剤組成物を貯留する浸漬処理機にて、2000m連続処理をし、前記絞りロール上に各接着剤組成物が付着した量を目視し、次の5段階で評価した。
特大:特に多い。
大:多い。
中:中程度。
少:少ない。
微少:非常に少ない。
【0232】
<接着剤組成物の接着性評価>
各比較例及び実施例の接着剤組成物の接着性に関して、以下の評価を行った。
<<接着力の評価>>
各接着剤組成物を使用して得られたタイヤコード-ゴム複合体を300mm/分の速度にて引張することで、タイヤコードを前記タイヤコード-ゴム複合体から剥離し、タイヤコード1本あたりの剥離抗力を求めて、これを接着力(N/本)とした。
【0233】
<<被覆ゴムの付着状態の評価>>
前記タイヤコード-ゴム複合体から剥離させたタイヤコードについて、被覆ゴムの付着状態を目視観察し、下記表1に従い、スコア付けを行った。
【0234】
【0235】
<接着剤組成物の作業性評価及び接着性評価の結果>
各比較例及び実施例の接着剤組成物の各配合を、下記表2、3及び4に、その作業性評価及び接着性評価の結果を、下記表2、3及び4に、それぞれ示す。
【0236】
【0237】
【0238】
【0239】
表2、3及び4の結果から、各実施例については、作業性が良好であって、有機繊維と被覆ゴム組成物との間の接着性が良好である接着剤組成物が得られていることがわかる。
また実施例21と実施例22は、接着剤組成物を液調製した後の保管した時の安定性(日限)が、25℃の条件下で65日(2か月超過)と長い期間で安定して使用できることが分かる例である。
本発明によれば、レゾルシンを用いることなく所望の接着性を確保することができ、使用時における作業性を損なうこともない接着剤組成物、並びに、これを用いた有機繊維材料、ゴム物品、有機繊維-ゴム複合体及びタイヤを提供できる。従って、本発明は、タイヤ等のゴム物品を製造する産業分野において利用可能である。
持続可能な社会の実現に向けて、SDGsが提唱されている。本発明の一実施形態は「No.12_つくる責任つかう責任」及び「No.13_気候変動に具体的な対策を」などに貢献する技術となり得ると考えられる。