(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082681
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】服薬判定装置、及び判定プログラム
(51)【国際特許分類】
G16H 20/10 20180101AFI20240613BHJP
A61B 5/374 20210101ALI20240613BHJP
A61B 5/377 20210101ALI20240613BHJP
G16H 50/20 20180101ALI20240613BHJP
【FI】
G16H20/10
A61B5/374
A61B5/377
G16H50/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196696
(22)【出願日】2022-12-08
(71)【出願人】
【識別番号】393030626
【氏名又は名称】株式会社新日本科学
(71)【出願人】
【識別番号】520300507
【氏名又は名称】株式会社イー・ライフ
(74)【代理人】
【識別番号】100127384
【弁理士】
【氏名又は名称】坊野 康博
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】満倉 靖恵
(72)【発明者】
【氏名】沼田 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】林田 健一郎
【テーマコード(参考)】
4C127
5L099
【Fターム(参考)】
4C127AA03
4C127DD00
4C127GG11
4C127GG15
4C127KK03
4C127KK05
5L099AA04
5L099AA25
(57)【要約】
【課題】薬剤の服薬状態に関する判定を、より客観的に行う。
【解決手段】服薬判定装置20は、特徴量抽出部212と、基準データ生成部213と、判定部214と、を備える。特徴量抽出部212は、生体から測定した脳波の周波数成分から特徴量を抽出する。基準データ生成部213は、特徴量抽出部212が基準となる群に含まれる複数の生体から抽出した特徴量に基づいて、基準データを生成する。判定部214は、特徴量抽出部212が判定対象となる対象生体から抽出した特徴量と、基準データとに基づいて、対象生体が罹患している疾病に対応する薬剤についての、対象生体の服薬状態に関する判定を行う。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体から測定した脳波の周波数成分から特徴量を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段が基準となる群に含まれる複数の生体から抽出した特徴量に基づいて、基準データを生成する生成手段と、
前記抽出手段が判定対象となる対象生体から抽出した特徴量と、前記基準データとに基づいて、前記対象生体が罹患している疾病に対応する薬剤についての、前記対象生体の服薬状態に関する判定を行う判定手段と、
を備えることを特徴とする服薬判定装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記服薬状態に関する判定として、前記対象生体が前記薬剤を服薬したことによって前記対象生体に及ぼされている影響の程度について判定を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の服薬判定装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記服薬状態に関する判定として、前記対象生体が前記薬剤を服薬しているか否かの判定を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の服薬判定装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記服薬状態に関する判定として、前記対象生体が服薬している一つ以上の薬剤の種類及びその服薬量、の何れかまたは双方について判定を行う、
ことを特徴とする請求項1乃至3何れか1項に記載の服薬判定装置。
【請求項5】
前記抽出手段は、前記脳波の複数の周波数それぞれの周波数成分から特徴量を抽出し、
前記判定手段は、前記対象生体が服薬していると想定される薬剤の種類に基づいて、前記抽出手段によって抽出された特徴量のうち、何れの周波数に対応する特徴量を、他の周波数に対応する特徴量よりも判定基準として優先して前記判定を行うか選択すると共に、該選択に応じて前記判定を行う、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の服薬判定装置。
【請求項6】
前記抽出手段は、複数の脳の領域それぞれに対応する複数の脳波の周波数成分から特徴量を抽出し、
前記判定手段は、前記複数の脳波の周波数成分から抽出した特徴量の非対称性に基づいて、前記判定を行う、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の服薬判定装置。
【請求項7】
前記対象生体が罹患している疾病に対応する薬剤は、前記対象生体が罹患している精神疾患に対応して投与される薬剤である、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の服薬判定装置。
【請求項8】
生体から測定した脳波の周波数成分から特徴量を抽出する抽出機能と、
前記抽出機能が基準となる群に含まれる複数の生体から抽出した特徴量に基づいて、基準データを生成する生成機能と、
前記抽出機能が判定対象となる対象生体から抽出した特徴量と、前記基準データとに基づいて、前記対象生体が罹患している疾病に対応する薬剤についての、前記対象生体の服薬状態に関する判定を行う判定機能と、
をコンピュータに実現させることを特徴とする服薬判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、服薬判定装置、及び服薬判定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
人間に代表される生体が疾病に罹患した場合、その疾病に対応して、種々の薬剤が投与される。また、薬剤の投与後は、医師等の医療従事者によって経過の観察が行われる。例えば、医療従事者は、患者の申告した服薬の状況や患者の様子に基づいて、患者が適切なタイミングに適正量を服薬しているか否か、薬剤が患者にどの程度影響を及ぼしているか、等について判定をする。
このような服薬状態の判定に関する技術の一例が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示の技術では、複数の患者の診療記録等の情報に基づいて、薬剤を投与した場合に想定される効果(すなわち、薬剤が患者にどの程度影響を及ぼすか)を期待値として算出する。そして、この期待値に基づいて投薬計画を作成し、この投薬計画を医療従事者に対して提示することで支援を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、薬剤が患者にどの程度影響を及ぼすかについては、患者によって個人差がある。そのため、予め正確に効果を想定することは困難である。また、医療従事者が判定を行う場合、少なからず医療従事者による主観が含まれてしまう。さらに、患者が申告した服薬の状況について患者の回答は必ずしも正確ではない。例えば、罹患している疾患の種類(例えば、精神疾患)等によっては、患者の回答が信憑性に欠ける場合も想定される。
そこで、医療従事者を支援するために、より客観的な指標に基づいて判定を行うことが望まれる。
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものである。そして、本発明の課題は、薬剤の服薬状態に関する判定を、より客観的に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一実施形態に係る服薬判定装置は、
生体から測定した脳波の周波数成分から特徴量を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段が基準となる群に含まれる複数の生体から抽出した特徴量に基づいて、基準データを生成する生成手段と、
前記抽出手段が判定対象となる対象生体から抽出した特徴量と、前記基準データとに基づいて、前記対象生体が罹患している疾病に対応する薬剤についての、前記対象生体の服薬状態に関する判定を行う判定手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、薬剤の服薬状態に関する判定を、より客観的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態に係る服薬判定システムSの全体構成の一例を示す模式図である。
【
図2】測定装置10の構成の一例を示すブロック図である。
【
図3】服薬判定装置20の構成の一例を示すブロック図である。
【
図4】脳波データ記憶部251が記憶する、脳波データデータベースの一例を示す図である。
【
図5】基準データ記憶部252が記憶する、基準データデータベースの一例を示す図である。
【
図6】異なる種別の基準データそれぞれにおける特徴量の代表値をプロットしたグラフである。
【
図7】異なる種別の基準データそれぞれにおける特徴量の代表値をプロットしたグラフである。
【
図8】異なる種別の基準データそれぞれにおける特徴量の代表値をプロットしたグラフである。
【
図9】測定装置10と服薬判定装置20が実行する測定処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図10】服薬判定装置20が実行する基準データ生成処理の流れを説明するフローチャートである。
【
図11】服薬判定装置20が実行する判定処理の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態の一例について説明する。
【0010】
[システム構成]
図1は、本実施形態に係る服薬判定システムSの全体構成を示す模式図である。
図1に示すように、服薬判定システムSは、測定装置10と、服薬判定装置20とを含む。また、
図1には、服薬判定システムSが行う処理の処理対象となる被験者も図示する。
【0011】
測定装置10と服薬判定装置20は、相互に通信可能に接続される。この通信は、有線或いは無線の何れであってもよいし、通信方式についても限定されない。また、この通信は、装置間で直接行われてもよいし、インターネット等のネットワークを介して行われてもよい。
【0012】
服薬判定システムSは、薬剤の服薬状態に関する判定を、より客観的に行うシステムである。
本発明の発明者は、薬剤の服薬状態に関する判定に関して試験研究を重ねた結果、薬剤の服薬状態と脳波との間に相関性があることを見出した。そこで、本発明の発明者は、脳波に基づいて、薬剤の服薬状態について判定することが可能であると着想し、本発明を成すに至ったものである。
この本発明の一例である本実施形態では、被験者が、精神疾患の1つであるうつ病に罹患した人間であることを想定する。ただし、これは、説明のための一例に過ぎず、本発明の適用範囲を限定するものではない。例えば、被験者が罹患している疾病は、うつ病のような精神疾患には限られず、投与される薬剤が脳波に相関を示す他の疾病であってもよい。また、被験者は、人間には限られず、他の哺乳類(例えば、猿)等の生体であってもよい。
【0013】
測定装置10は、被験者の頭部での電位の変動(すなわち、被験者の脳波)を測定する装置である。測定装置10は、被験者の頭部に装着可能なヘッドバンド型の脳波計により実現される。
測定装置10は、被験者の頭部に装着された場合に、被験者の脳波を測定するための複数の電極(すなわち、基準電極及び探査電極)のそれぞれが、電気的に被験者の所定の部位に接触する構造となっている。そして、測定装置10は、これらの電極で被験者の脳波を測定すると共に、測定した脳波に対応する脳波データを生成する。また、測定装置10は、生成した脳波データを、服薬判定装置20に対して送信する。
【0014】
服薬判定装置20は、測定装置10が生成した脳波データに基づいて、被験者における薬剤の服薬状態について判定をする装置である。服薬判定装置20は、例えば、パーソナルコンピュータやサーバ装置といった情報処理装置一般により実現される。
服薬判定装置20は、判定を行うために、被験者から測定した脳波データの周波数成分から特徴量を抽出する機能を有する。
また、服薬判定装置20は、基準となる群に含まれる複数の被験者から抽出した特徴量に基づいて、基準データを生成する。
そして、服薬判定装置20は、判定対象となる対象被験者から抽出した特徴量と、基準データとに基づいて、対象被験者が罹患している疾病に対応する薬剤についての、対象被験者の服薬状態に関する判定を行う。
【0015】
このように、服薬判定装置20は、事前に予測した値や、医療従事者の主観や、被験者である患者の回答といった曖昧さが含まれ得る情報を用いることなく、被験者から得た脳波という客観的な情報に基づいて、判定対象となる被験者の服薬状態に関する判定を行う。
従って服薬判定装置20によれば、薬剤の服薬状態に関する判定を、より客観的に行うことができる。
【0016】
[測定装置の構成]
次に、測定装置10の構成について、
図2を参照して説明をする。
図2は、測定装置10の構成の一例を示すブロック図である。
図2に示すように、測定装置10は、プロセッサ11と、ROM(Read Only Memory)12と、RAM(Random Access Memory)13と、通信部14と、記憶部15と、入力部16と、測定部17と、を備えている。これら各部は、信号線により接続されており、相互に信号を送受する。
【0017】
プロセッサ11は、CPU(Central Processing Unit)に代表される演算装置であり、ROM12に記録されているプログラム、又は、記憶部15からRAM13にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。
RAM13には、プロセッサ11が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0018】
通信部14は、プロセッサ11が、他の装置(例えば、服薬判定装置20)との間で通信を行うための通信制御を行う。
記憶部15は、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の半導体メモリで構成され、各種データを記憶する。
入力部16は、各種ボタン等で構成され、ユーザ(例えば、被験者や医療従事者)からの指示操作の入力を受け付ける。
【0019】
測定部17は、被験者の頭部の電位の変動を、被験者の脳波として測定する。本実施形態では、測定方法の一例として、測定部17が、基準電極導出法によって脳波を測定することを想定する。この場合、測定装置10の備える一対の電極の一端を、電位がゼロに近い位置(例えば、被験者の耳朶)に接触させて基準電極とする。また、他端を、被験者の頭部の所定の脳の領域(例えば、国際10-20法で定めるFp1)に対応する位置に接触させて探査電極とする。そして、測定部17は、基準電極と探査電極の電位差の変動を被験者の脳波として、所定のサンプリング周波数(例えば、512[Hz])で経時的に測定する。なお、
図1では、一対の基準電極と探査電極を図示しているが、探査電極をさらに複数設けることで、複数の脳の領域(例えば、国際10-20法で定めるFp1とFp2)それぞれに対応する脳波を測定することも可能である。
【0020】
また、上述したように測定装置10はヘッドバンド型の形状であり、被験者の頭部に電極ネットを覆いかぶせるような一般的な形状の脳波計と比較して、被験者に与える圧迫感やこれに伴う緊張感が少ない。そのため、測定装置10は、被験者の緊張等に起因するノイズの発生を抑制して、精度よく測定をすることができる。
【0021】
測定装置10は、これら各部が協働することで、「測定処理」を行なう。ここで、測定装置10が行う測定処理は、被験者の脳波を測定すると共に、測定した脳波から脳波データを生成する一連の処理である。
測定処理が実行される場合、
図2に示すように、プロセッサ11において、測定制御部111と、前処理部112と、脳波データ送信部113と、が機能する。
以下で特に言及しない場合も含め、これら機能ブロック間では、処理を実現するために必要なデータを、適切なタイミングで適宜送受信する。
【0022】
測定制御部111は、入力部16が受け付けたユーザ(例えば、被験者や医療従事者)からの指示操作に基づいて、測定部17による被験者の脳波の測定を制御する。例えば、測定制御部111は、指示操作に基づいて、測定の開始や終了のタイミングを制御したり、サンプリング周期等の設定をしたりする。そして、測定制御部111は、測定により得られた被験者の脳波を、前処理部112に対して出力する。
【0023】
前処理部112は、測定制御部111から入力された脳波に対してノイズ除去等の前処理を行うことで、脳波データを生成する。この場合、前処理部112は、まず図示を省略したバンドパスフィルタを用いて、所定の周波数帯(例えば、1~35[Hz])の脳波のみを透過する。
次に、前処理部112は、透過された脳波に対して、所定の時間単位(例えば、直近の1秒)毎に、中央絶対偏差に基づいた閾値を設定する。そして、前処理部112は、閾値を超えた外れ値を、混合ノイズとみなして除去する。
前処理部112は、このように、所定の周波数帯の脳波のみの透過と、混合ノイズの除去とを前処理として行うことで、脳波データを生成する。そして、前処理部112は、生成した脳波データを脳波データ送信部113に対して出力する。
【0024】
脳波データ送信部113は、前処理部112から入力された脳波データを、服薬判定装置20に対して送信する。この送信は、前処理部112による脳波データの生成の都度リアルタイムに行われてもよいし、生成された脳波データを記憶部15に記憶しておき、測定終了後に記憶部15に記憶されている脳波データをまとめて一度に送信するようにしてもよい。
【0025】
[服薬判定装置の構成]
次に、服薬判定装置20の構成について、
図3を参照して説明をする。
図3は、服薬判定装置20の構成の一例を示すブロック図である。
図3に示すように、服薬判定装置20は、プロセッサ21と、ROM22と、RAM23と、通信部24と、記憶部25と、入力部26と、出力部27と、ドライブ28と、を備えている。これら各部は、信号線により接続されており、相互に信号を送受する。
【0026】
プロセッサ21は、ROM22に記録されているプログラム、又は、記憶部25からRAM23にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。
RAM23には、プロセッサ21が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0027】
通信部24は、プロセッサ21が、他の装置(例えば、測定装置10)との間で通信を行うための通信制御を行う。
記憶部25は、SSD(Solid State Drive)や、HDD(Hard Disk Drive)等の半導体メモリや磁気ディスクで構成され、各種データを記憶する。
【0028】
入力部26は、各種ボタンやタッチパネル等の入力装置、或いはマウスやキーボード等の外部入力装置で構成され、ユーザの指示操作に応じて各種情報を入力する。
出力部27は、ディスプレイやスピーカ等で構成され、画像や音声を出力する。
ドライブ28には、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、或いは半導体メモリ等よりなる、リムーバブルメディア(図示を省略する。)が適宜装着される。ドライブ28よってリムーバブルメディアから読み出されたプログラムは、必要に応じて記憶部25にインストールされる。
【0029】
服薬判定装置20では、これら各部が協働することにより、「測定処理」、「基準データ生成処理」、及び「判定処理」を行なう。
ここで、服薬判定装置20が行う測定処理は、測定装置10から取得した脳波データを、被験者の属性と共に脳波データ記憶部251に格納する一連の処理である。
また、基準データ生成処理は、脳波データ記憶部251に格納された脳波データに基づいて、薬剤の服薬状態について判定を行うための判定基準となる基準データを生成する一連の処理である。
さらに、判定処理は、判定の対象とする被験者の脳波データと、基準データとに基づいて、薬剤の服薬状態について判定を行う一連の処理である。
すなわち、本実施形態において、服薬判定装置20は、測定された脳波データに基づいて、まず基準データを生成し、その生成した基準データを利用することにより、薬剤の服薬状態についての判定を実現する。
【0030】
これら各処理が実行される場合、
図3に示すように、プロセッサ21において、脳波データ取得部211と、特徴量抽出部212と、基準データ生成部213と、判定部214と、判定結果出力部215と、が機能する。
また、記憶部25の一領域には、脳波データ記憶部251と、基準データ記憶部252と、が設けられる。
以下で特に言及しない場合も含め、これら機能ブロック間では、処理を実現するために必要なデータを、適切なタイミングで適宜送受信する。
【0031】
脳波データ取得部211は、測定装置10から送信された脳波データを、受信することにより取得する。また、脳波データ取得部211は、ユーザ(例えば、医療従事者)からの操作指示に基づいて、脳波データの測定対象となった被験者の属性も取得する。
そして、また、脳波データ取得部211は、脳波データと共に、その被験者の属性も脳波データ記憶部251に記憶させる。
この場合、脳波データ記憶部251は、例えば、
図4に示すようなデータベースの形式で、脳波データ及び被験者の属性を被験者毎に紐づけて記憶する。
図4は、脳波データ記憶部251が記憶する、脳波データデータベースの一例を示す図である。
【0032】
前提として、本実施形態では、被験者は、2つの群に分けられる。まず1つ目の群は、基準データを生成するために、脳波データを提供する被験者の群である。以下では、この群に含まれる被験者を「基準被験者」と称する。基準被験者には、精神疾患に罹患している被験者と、精神疾患に罹患していない被験者(すなわち、健常者)との双方が含まれる。また、基準被験者の属性とは、その基準被験者が疾病に罹患しているか否か、罹患している場合に何れの種類の薬剤が投与されているか、及び投与された薬剤を基準被験者が適切に服薬している状態か否か、といった情報である。
【0033】
一方で、2つ目の群は、薬剤の服薬状態についての判定の対象となる被験者の群である。以下では、この群に含まれる被験者を「対象被験者」と称する。対象被験者は、精神疾患に罹患しており、薬剤の投与を受けている被験者である。対象被験者の属性については、対象被験者が何れの種類の薬剤が投与されているかといった情報が含まれるが、投与された薬剤を対象被験者が適切に服薬しているか否かといった情報は含まれていなくてもよい。
【0034】
なお、本実施形態では、被験者が罹患している疾病として精神疾患であるうつ病を想定している。そのため、これに対応して投与される薬剤は、例えば、Antidepressants(図中及び以下の説明において適宜「AD」と称する。)、Antipsychotics(図中及び以下の説明において適宜「AP」」と称する。)、及びBenzodiazepines(図中及び以下の説明において適宜「BZD」」と称する。)等が想定される。なお、
図4において「***」は脳波データが格納されていることを示す。
【0035】
特徴量抽出部212は、脳波データ記憶部251に記憶されている脳波データの特徴を示す特徴量を抽出する。ここで、脳波の振幅の大きさには個人差があるので、この個人差を吸収することが望ましい。そこで、特徴量抽出部212は、脳波データに対して、正規分布を示す振幅値で正規化を実行することで個人差を吸収する。これにより、脳波データは、例えば、振幅値が平均で0、分散で1となる。
【0036】
次に特徴量抽出部212は、振幅値が正規化された脳波データに対して、フーリエ変換(例えば、ハミング窓を適用した高速フーリエ変換(FFT:Fast Fourier Ttransform))を実行して、平均化を行う、これにより、特徴量抽出部212は、脳波データにおける複数の周波数成分として、複数の周波数(例えば、1~35[Hz])それぞれのパワーの値を示すパワースペクトルを算出する。そして、特徴量抽出部212は、この算出したパワースペクトルを脳波データの特徴を示す特徴量とする。
特徴量抽出部212は、このようにして脳波データから特徴量を抽出し、抽出した特徴量を出力する。この場合に、出力先は、基準被験者の特徴量については基準データ生成部213であり、対象被験者の特徴データについては判定部214である。
【0037】
基準データ生成部213は、判定部214による判定の基準となる基準データを生成する。この場合、基準データ生成部213は、属性が共通する複数の基準被験者の特徴量の代表値を算出し、その属性に対応する基準データとする。ここで、代表値とは、例えば、属性が共通する複数の基準被験者の特徴量の、平均値、中央値、及び最頻値の何れかである。そして、基準データ生成部213は、この代表値を属性の種別毎に基準データ記憶部252に記憶させる。
この場合、基準データ記憶部252は、例えば、
図5に示すようなデータベースの形式で、代表値を、基準データの属性に対応する基準データの種別毎に紐づけて記憶する。
図5は、基準データ記憶部252が記憶する、基準データデータベースの一例を示す図である。
【0038】
図5に示すように、例えば、基準データ種別は、「健常者」、「罹患、服薬せず」、「罹患、BZD服薬」、・・・、「罹患、AP服薬中」というような種別に分けられる。この場合、基準データ種別「健常」については、属性が健常者である基準被験者の特徴量の代表値(ここでは、パワースペクトルの値の代表値)が、周波数毎に格納される。同様に、「罹患、服薬せず」については、属性が罹患であり且つ投与された薬剤を適切に服薬していない基準被験者の特徴量の代表値が格納される。また、同様に、「罹患、BZD服薬中」については、属性が罹患であり且つ投与されたBZDを適切に服薬している基準被験者の特徴量の代表値が格納され、「罹患、AP服薬中」については、属性が罹患であり且つ投与されたAPを適切に服薬している基準被験者の特徴量の代表値が格納される。なお、
図5において「***」は代表値が格納されていることを示す。
基準データ生成部213は、特徴量抽出部212から基準被験者の特徴量を入力されると、代表値を再度算出することで、この基準データデータベースの代表値を適宜更新する。
【0039】
判定部214は、特徴量抽出部212が抽出した判定対象となる対象被験者から抽出した特徴量と、基準データ生成部213が作成及び更新した種別ごとの基準データ基準データとに基づいて、対象被験者が罹患している疾病に対応する薬剤についての、対象被験者の服薬状態に関する判定を行う。
この判定部214による判定について、説明するために、基準データの種別によって、特徴量の代表値が相違することについての具体例を示す。
図6~
図8は、異なる種別の基準データそれぞれにおける特徴量の代表値をプロットしたグラフである。なお、
図6~
図8に示す代表値は、実際に被験者の脳波を測定した実証実験の結果に基づくものである。
【0040】
図6(a)には、「罹患、AD服薬中」という種別の基準データの、各周波数における代表値を白抜きの棒グラフで示す。一方で、「罹患、服薬せず」という種別の基準データの、各周波数における代表値を黒塗り棒グラフで示す。なお、この代表値は、基準データ種別が「健常」の代表値を1とした場合の、相対値に変換されている。図示するように、これら2つの種別「罹患、AD服薬」及び「罹患、服薬せず」の、それぞれの代表値(すなわち、健常者を1とした場合の相対的なパワースペクトルの値)は、多くの周波数で相違していることが分かる。また、これら2つの種別それぞれを母集団として、2標本t検定によって比較を行った。この場合、2つの母集団の代表値に差はなかったという帰無仮説が使用される。これにより、有意差(p<0.05)が認められた周波数については、図中において星印を記載する。このように、特定の周波数、及び特定の連続する周波数(すなわち、周波数帯)に特に有意差があることが確認された。
【0041】
同様に、
図6(b)には、「罹患、AP服薬中」という種別の基準データの、各周波数における代表値を白抜きの棒グラフで示す。一方で、「罹患、服薬せず」という種別の基準データの、各周波数における代表値を黒塗り棒グラフで示す。また、これも同様に、
図7(c)には、「罹患、BZD服薬中」という種別の基準データの、各周波数における代表値を白抜きの棒グラフで示す。一方で、「罹患、服薬せず」という種別の基準データの、各周波数における代表値を黒塗り棒グラフで示す。
【0042】
これら、
図6(b)及び
図7(c)からも、基準被験者が、薬剤を服薬している場合と、薬剤を服薬していない場合とで、有意差が存在することが確認された。
【0043】
図8は、国際10-20法で定めるFp1をL(Left)側、Fp2をR(Right)側とした場合の、それぞれの領域における脳波に対応する基準データの代表値の非対称性指数を、周波数毎に示すグラフである。脳の領域それぞれにおいて脳波の非対称性があるが、この非対称性を指標として示すグラフとなる。
【0044】
図8(A)には、「健常」という種別の基準データの非対称性指数をグラフの白三角で示す。一方で、「罹患、AP服薬中」という種別の基準データの非対称性指数をグラフのひし形で示す。図示するように、これら2つの種別「健常」及び「罹患、AP服薬中」の、それぞれの非対称性指数は、は、多くの周波数で相違していることが分かる。また、これら2つの種別それぞれを母集団として、2標本t検定によって比較を行った。この場合、2つの母集団の非対称性指数に差はなかったという帰無仮説が使用される。これにより、有意差(p<0.05)が認められた周波数については、図中において星印を記載する。このように、特定の周波数、及び特定の連続する周波数(すなわち、周波数帯)に特に有意差があることが確認された。
【0045】
同様に、
図8(B)には、「健常」という種別の基準データの非対称性指数をグラフの白三角で示す。一方で、「罹患、AP服薬中」という種別の基準データの非対称性指数をグラフの白丸で示す。また、これも同様に、
図8(C)には、「健常」という種別の基準データの非対称性指数をグラフの白三角で示す。一方で、「罹患、BZD服薬中」という種別の基準データの非対称性指数をグラフの黒丸で示す。
【0046】
これら、
図8(B)及び
図8(C)からも、基準被験者が、薬剤を服薬している場合と、薬剤を服薬していない場合とで、有意差が存在することが確認された。
このように、予め行われた実証実験から、各種別の基準データは、それぞれ異なる代表値となっており、有意差が存在することが明らかである。
【0047】
そこで、判定部214は、特徴量抽出部212が抽出した判定対象となる対象被験者から抽出した特徴量の値と、各種別の基準データの代表値の値とを比較し、この比較結果に基づいて、判定を行う。
【0048】
この場合、判定部214は、例えば、対象被験者から抽出した特徴量の値と、比較対象とした基準データの特徴量(ここでは、代表値)の値とが近似しているか(或いは、近似していないか)といった基準や、近似している度合いが(或いは、近似していない度合い)がどの程度かに基づいて、判定を行うことができる。この近似度合いについては、例えば、各周波数それぞれで値を比較して差分を算出する。そして、算出した各周波数の差分の値を全ての周波数について合算し、この合算後の値が小さいほど近似度合いが高い(或いは、合算後の値が大きいほど近似度合いが低い)というように求めることができる。
【0049】
或いは、判定部214は、例えば、各周波数単位で閾値を設定しておき、閾値を上回るほど差分が大きい周波数の数が少ないほど近似度合いが高い(或いは、閾値を上回るほど差分が大きい周波数の数が多いほど近似度合いが低い)といった方法で求めることもできる。また、これ以外にも、既存のパターンマッチング等の手法を用いて近似度合いを求めるようにしてもよい。さらに、
図6や
図7に示したように相対値に変換してから近似度合いを求めるようにしてもよい。或いは、
図8に示したように脳の複数の領域に対応する複数の脳波から抽出した特徴量を用いて、非対称性指数を算出した上で、近似度合いを求めるようにしてもよい。
【0050】
さらに、判定部214は、所定の周波数に対応する特徴量を、他の周波数に対応する特徴量よりも判定基準として優先して、近似度合いを求めるようにしてもよい。例えば、
図6~8に示したように、所定の周波数には特に有意差が認められる。そこで、対象被験者が服薬していると想定される薬剤の種類等に基づいて、有意差が認められる周波数に対応する特徴量を、他の周波数に対応する特徴量よりも判定基準として優先して、近似度合いを求めるようにしてもよい。この場合に、優先してとは、優先する周波数の特徴量の差分に対して重み付けをしてから、全体の近似度合いを求めることや、優先する周波数の特徴量の差分のみに基づいて、全体の近似度合いを求めることである。
【0051】
このようにして、判定部214は、対象被験者から抽出した特徴量の値と、比較対象とした基準データの特徴量(ここでは、代表値)の値の近似度合いを求めることができる。そこで、判定部214は、例えば、以下のように比較対象とする基準データを決定して、対象被験者の服薬状態に関する判定を行う。
【0052】
(1)種別が「健常者」の基準データと比較を行う。
この場合、健常者の脳波との近似度合いが分かるので、その薬剤を服薬することにより改善し、どの程度健常者に近い脳波となっているかを判定することができる。すなわち、服薬したことによって対象被験者に及ぼされている影響の程度について判定を行うことができる。また、例えば、或る対象被験者に投与する薬剤の種類や服薬量を変更する都度、脳波を測定して判定を行うことで、その対象被験者にとって、どの薬剤が一番影響を及ぼすか判定することができる。すなわち、その対象被験者にとって、どの種類の薬剤をどれぐらいの量投与することが、一番効果があるのかを判定することができる。
【0053】
(2)種別が「罹患、服薬せず」の基準データと比較を行う。
この場合、罹患をしているが服薬をしていない被験者の脳波との近似度合いが分かるので、その薬剤を服薬することにより改善し、どの程度服薬をしていない被験者から遠い脳波となっているかを判定することができる。すなわち、服薬したことによって対象被験者に及ぼされている影響の程度について判定を行うことができる。また、或る対象被験者に投与する薬剤の種類や服薬量を変更する都度、脳波を測定して判定を行うことで、上述の(1)と同様の判定をすることもできる。さらに、基準データとの近似度合いが近い場合には、そもそも対象被験者が薬剤を適切に服薬していないということも判定できる。適切に服薬していないとは、例えば、服薬することを忘れていたり、服薬するタイミングが適切でなかったり、服薬量が不足していたりするということである。
【0054】
(3)種別が「罹患」であり、「対象被験者と同じ薬剤を服薬中」の基準データと比較を行う。
この場合、同じ薬剤を服薬している基準被験者との脳波との近似度合いが分かるので、その薬剤を服薬することにより改善し、どの程度基準被験者から遠い脳波となっているかを判定することができる。すなわち、同じ薬剤を服用している被験者と相対的に比べて、どの程度対象被験者に及ぼされている影響の程度について判定を行うことができる。つまり、その薬剤が対象被験者にとって通常よりも有効であるか否かを判定することができる。さらに、基準データとの近似度合いが遠い場合には、そもそも対象被験者が薬剤を適切に服薬していないということも判定できる。
【0055】
判定部214は、このような基準で、比較対象方法となる基準データの種別を選択し、この基準データとの近似度合いに基づいて判定を行うことで、様々な観点から、対象被験者の服薬状態に関する判定を行うことができる。また、補足情報として、近似度合いを、この判定結果の確からしさを示す尤度とすることもできる。
【0056】
判定結果出力部215は、判定部214による対象被験者の服薬状態に関する判定の判定結果を、ユーザ(例えば、対象被験者や医療従事者)に対して出力する。この出力は、例えば、出力部27に含まれるディスプレイへの表示や、出力部27に含まれるスピーカからの音声出力や、通信部24を介した印刷装置からの紙媒体への印刷や、通信部24を介した他の装置(図示を省略する。)への送信であってよい。
【0057】
これにより、服薬判定装置20は、脳波という客観的な指標に基づいて、薬剤の服薬状態に関する判定を、より客観的に行うことができる。そして、その客観的な判定結果を医療従事者等に対して提示することで、医療従事者等を支援することができる。
【0058】
[測定処理]
次に、
図9を参照して、測定装置10と服薬判定装置20が実行する測定処理の流れについて説明する。
図9は、測定装置10と服薬判定装置20が実行する測定処理の流れを説明するフローチャートである。測定処理は、ユーザ(例えば、対象被験者や医療従事者)からの、測定開始の指示操作に伴い実行される。
【0059】
まず、測定装置10側での測定処理について説明する。
ステップS11において、測定制御部111は、測定部17による被験者の脳波の測定を制御することにより、測定部17による脳波の測定を開始する。そして、測定制御部111は、測定部17による測定により得られた被験者の脳波を前処理部112に対して出力する。
【0060】
ステップS12において、前処理部112は、測定制御部111から入力された脳波に対して前処理を行うことによって、脳波データを生成する。そして、前処理部112は、生成した脳波データを脳波データ送信部113に対して出力する。
【0061】
ステップS13において、脳波データ送信部113は、前処理部112から入力された脳波データを、服薬判定装置20に対して送信する。なお、図中では、前処理部112による脳波データの生成の都度リアルタイムに送信を行うことを想定しているが、生成された脳波データを記憶部15に記憶しておき、測定終了後に記憶部15に記憶されている脳波データをまとめて一度に送信するようにしてもよい点については上述した通りである。
【0062】
ステップS14において、測定制御部111は、測定部17による脳波の測定を終了するか否かを判定する。例えば、測定制御部111は、測定の開始から所定時間が経過した場合や、ユーザからの測定終了指示操作があった場合に、脳波の測定を終了すると判定する。脳波の測定を終了する場合は、ステップS14においてYesと判定され、ステップS15に進む。一方で、脳波の測定を終了しない場合は、ステップS14においてNoと判定され、処理はステップS11から再度繰り返される。
【0063】
ステップS15において、測定制御部111は、測定が終了した旨を服薬判定装置20に対して送信する。これにより、測定装置10側での測定処理は終了する。
【0064】
次に、服薬判定装置20側での測定処理について説明する。
ステップS21において、脳波データ取得部211は、測定装置10から送信された脳波データを、受信することにより取得する。
ステップS22において、脳波データ取得部211は、取得した脳波データを、脳波データ記憶部251が記憶する脳波データデータベースに格納する。
【0065】
ステップS23において、脳波データ取得部211は、測定が終了した旨を測定装置10から受信したか否かを判定する。定が終了した旨を測定装置10から受信した場合は、ステップS23においてYesと判定され、処理はステップS24に進む。一方で、測定が終了した旨を測定装置10から受信していない場合は、ステップS23においてNoと判定され、処理はステップS21から再度繰り返される。
【0066】
ステップS24において、脳波データ取得部211は、ユーザからの操作指示に基づいて、脳波データの測定対象となった被験者の属性を取得する。
【0067】
ステップS25において、脳波データ取得部211は、取得した被験者の属性を、脳波データ記憶部251が記憶する脳波データデータベースに格納する。これにより、服薬判定装置20側での測定処理は終了する。
【0068】
以上説明した測定処理により、測定装置10と服薬判定装置20は、基準被験者から脳波を測定すると共に、測定した脳波に基づいて生成した脳波データを脳波データ記憶部251に記憶させることで、脳波データデータベースを構築及び更新することができる。また、判定対象とする対象被験者の、脳波データを取得することもできる。
【0069】
[基準データ生成処理]
次に、
図10を参照して、服薬判定装置20が実行する基準データ生成処理の流れについて説明する。
図10は、服薬判定装置20が実行する基準データ生成処理の流れを説明するフローチャートである。基準データ生成処理は、ユーザからの、基準データ生成開始の指示操作に伴い実行される。なお、処理の前提として、測定処理により生成された基準被験者の脳波データは、脳波データ取得部211により受信され、脳波データ記憶部251に記憶されているものとする。
【0070】
ステップS31において、特徴量抽出部212は、脳波データ記憶部251の脳波データデータベースに記憶されている基準被験者の脳波データから脳波データの特徴を示す特徴量を抽出する。
【0071】
ステップS32において、基準データ生成部213は、特徴量抽出部212によって抽出された特徴量に基づいて、判定部214による判定の基準となる基準データを生成する。
【0072】
ステップS33において、基準データ生成部213は、生成した基準データを、基準データ記憶部252が記憶する基準データデータベースに格納する。
【0073】
ステップS34において、基準データ生成部213は、脳波データ記憶部251の脳波データデータベースに記憶されている基準被験者の脳波データに、未処理のものが残っているか否かを判定する。未処理のものが残っている場合は、ステップS34においてYesと判定され、この未処理の脳波データを対象として、処理はステップS31から再度繰り返される。一方で、未処理のものが残っていない場合は、ステップS34においてNoと判定され、本処理は終了する。
【0074】
以上説明した基準データ生成処理により、服薬判定装置20は、判定部214による判定の基準となる基準データを生成することができる。
【0075】
[判定処理]
次に、
図11を参照して、服薬判定装置20が実行する判定処理の流れについて説明する。
図11は、服薬判定装置20が実行する判定処理の流れを説明するフローチャートである。判定処理は、ユーザからの判定開始の指示操作に伴い実行される。なお、処理の前提として、測定処理により生成された対象被験者の脳波データは、脳波データ取得部211により受信され、脳波データ記憶部251の記憶する脳波データデータベースに格納されているものとする。また、基準データ生成処理により構築された基準データのデータベースは、基準データ記憶部252の記憶する基準データデータベースに格納されているものとする。
【0076】
ステップS31において、特徴量抽出部212は、脳波データ記憶部251に記憶されている対象被験者の脳波データから特徴量を抽出する。
【0077】
ステップS32において、判定部214は、特徴量抽出部212によって抽出された特徴量と、基準データ記憶部252の記憶する基準データとに基づいて、対象被験者が罹患している疾病に対応する薬剤についての、対象被験者の服薬状態に関する判定を行う。
【0078】
ステップS33において、判定結果出力部215は、判定部214による判定結果を出力する。
【0079】
以上説明した判定処理により、服薬判定装置20は、事前に予測した値や、医療従事者の主観や、生体である患者の回答といった曖昧さが含まれ得る情報を用いることなく、被験者から得た脳波という客観的な情報に基づいて、判定対象となる被験者の服薬状態に関する判定を行う。
従って服薬判定装置20によれば、薬剤の服薬状態に関する判定を、より客観的に行うことができる。
【0080】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、この実施形態は例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、その他の様々な実施形態を取ることが可能である共に、省略及び置換等種々の変形を行うことができる。この場合に、これら実施形態及びその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲及び要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
一例として、以上説明した本発明の実施形態を、以下の変形例のようにして変形してもよい。
【0081】
<第1の変形例>
上述した実施形態において、判定部214は、特徴量抽出部212が抽出した判定対象となる対象被験者から抽出した特徴量の値と、各種別の基準データの代表値の値とを比較し、この比較結果である近似度合いに基づいて、判定を行っていた。これに限らず、例えば、機械学習の手法を用いて判定を行うようにしてもよい。
この場合、基準被験者から取得した脳波データの特徴量と、その基準被験者の属性とをデータセットとして用いて学習モデルを構築する。例えば、機械学習を繰り返すことで、脳波データの特徴量を入力とした場合に、その基準被験者の属性を出力とする学習モデルを構築する。この場合、機械学習の手法は、既存の教師あり学習の手法を適宜用いることができる。
そして、判定部214は、このようにして構築した学習モデルに対して、対象被験者の脳波データの特徴量を入力する。そして、判定部214は、その出力を判定結果とする。このようにしても、属性により脳波データの特徴量が異なるという特性を利用して、薬剤の服薬状態に関する判定を、より客観的に行うことができる。
【0082】
<第2の変形例>
上述した実施形態では、測定装置10と、服薬判定装置20とが別体の装置として実現されていたが、測定装置10と、服薬判定装置20とが一体の装置として実現されてもよい。或いは、例えば、複数の装置(例えば、クラウドサーバ)による分散処理により、測定装置10や、服薬判定装置20の機能を実現してもよい。
他にも、例えば、前処理部112による処理を服薬判定装置20の機能として実現してもよい。この場合、測定装置10は脳波を測定し、その測定値をそのまま服薬判定装置20に送信する。そして、服薬判定装置20において実現する前処理部112が脳波データデータを生成するようにすればよい。
すなわち、服薬判定システムSを実現する機能構成は、上述の実施形態による実現方法に限定されない。
【0083】
<第3の変形例>
上述の実施形態において、判定部214は、服薬状態に関する判定として、対象被験者が薬剤を服薬したことによって対象被験者に及ぼされている影響の程度について判定を行っていた。例えば、その薬剤が判定対象となる生体の罹患している疾病に効果を示しているのか、その効果はどの程度であるのかといったことについて判定を行っていた。あるいは、判定部214は、服薬状態に関する判定として、対象被験者が薬剤を服薬しているか否かの判定を行っていた。
【0084】
これに限らず、判定部214は、服薬状態に関する判定として、他の観点での判定を行うようにしてもよい。例えば、判定部214は、服薬状態に関する判定として、対象被験者が服薬している一つ以上の薬剤の種類及びその服薬量、の何れかまたは双方について判定を行うようにしてもよい。この場合、例えば、判定部214は、様々な薬剤について、それを服薬している基準被験者の脳波データを収集する。また、判定部214は、この収集した脳波データの特徴量から、様々な薬剤のそれぞれについて基準データを生成する。そして、判定部214は、何らかの薬剤を服薬している対象被験者の脳波データの特徴量と、もっとも近似する基準データを同定する。また、判定部214は、対象被験者が、この特定した基準データに対応する薬剤を服薬していると判定する。
【0085】
この場合、薬剤は一つの種類であってもよいし、複数の種類であってもよい。すなわち、判定部214は、複数の薬剤を同時に服薬している基準被験者の脳波データの特徴量から、この複数の薬剤を同時に服用した場合の基準データを生成する。例えば、薬剤Aと薬剤Bを同時に服用した場合の基準データ、薬剤Aと薬剤Cを同時に服用した場合の基準データというように複数の基準データを生成する。そして、判定部214は、対象被験者の脳波データの特徴量と、もっとも近似する基準データに対応する複数の薬剤を、対象被験者が服薬していると同定する。これにより、どの薬剤と、どの薬剤とを同時に服薬しているという判定を行うことができる。
【0086】
同様の考えで、基準被験者が服薬している薬剤の量に応じて、複数の基準データを生成しておくことで、対象被験者が服薬している薬剤の量を同定するようなこともできる。また、これらの手法を組み合わせることで、どの薬剤をどの程度の量だけ服薬しているかということを同定するようなこともできる。
すなわち、服薬している薬剤の種類や量という属性によっても脳波データの特徴量が異なるという特性を利用して、様々な観点から、薬剤の服薬状態に関する判定を行うことができる。
【0087】
[構成例]
以上のように、本実施形態に係る服薬判定装置20は、特徴量抽出部212と、基準データ生成部213と、判定部214と、を備える。
特徴量抽出部212は、生体から測定した脳波の周波数成分から特徴量を抽出する。
基準データ生成部213は、特徴量抽出部212が基準となる群に含まれる複数の生体から抽出した特徴量に基づいて、基準データを生成する。
判定部214は、特徴量抽出部212が判定対象となる対象生体から抽出した特徴量と、基準データとに基づいて、対象生体が罹患している疾病に対応する薬剤についての、対象生体の服薬状態に関する判定を行う。
このように、服薬判定装置20は、事前に予測した値や、医療従事者の主観や、生体である患者の回答といった曖昧さが含まれ得る情報を用いることなく、生体から得た脳波という客観的な情報に基づいて、判定対象となる生体の服薬状態に関する判定を行う。
従って服薬判定装置20によれば、薬剤の服薬状態に関する判定を、より客観的に行うことができる。
【0088】
判定部214は、服薬状態に関する判定として、対象生体が薬剤を服薬したことによって対象生体に及ぼされている影響の程度について判定を行う。
これにより、その薬剤が判定対象となる生体の罹患している疾病に効果を示しているのか、その効果はどの程度であるのかといったことについて判定をすることができる。
【0089】
判定部214は、服薬状態に関する判定として、対象生体が薬剤を服薬しているか否かの判定を行う。
これにより、判定対象となる生体が薬剤を適切に服薬しているのか否かを判定できる。これにより、例えば、判定対象となる生体である患者が服薬を忘れていることを認識することができる。
【0090】
判定部214は、服薬状態に関する判定として、対象生体が服薬している一つ以上の薬剤の種類及びその服薬量、の何れかまたは双方について判定を行う。
これにより、対象生体が服薬している薬剤の種類等が不明な場合であっても、これを特定することができる。
【0091】
特徴量抽出部212は、脳波の複数の周波数それぞれの周波数成分から特徴量を抽出する。
判定部214は、対象生体が服薬していると想定される薬剤の種類に基づいて、特徴量抽出部212によって抽出された特徴量のうち、何れの周波数に対応する特徴量を、他の周波数に対応する特徴量よりも判定基準として優先して判定を行うか選択すると共に、該選択に応じて判定を行う。
これにより、例えば、より有意差の出やすい周波数の周波数成分を優先して判定を行うことで、判定の精度をより高めることができる。
【0092】
特徴量抽出部212は、複数の脳の領域それぞれに対応する複数の脳波の周波数成分から特徴量を抽出する。
判定部214は、複数の脳波の周波数成分から抽出した特徴量の非対称性に基づいて、判定を行う。
これにより、判定対象となる生体が、複数の脳の領域それぞれの脳波に異なる影響を及ぼすような疾病に罹患している場合に、判定の精度をより高めることができる。
【0093】
対象生体が罹患している疾病に対応する薬剤は、対象生体が罹患している精神疾患に対応して投与される薬剤である、
これにより、判定対象となる生体が、脳波との相関を示すような精神疾患に罹患している場合に、判定の精度をより高めることができる。
【0094】
[ハードウェアやソフトウェアによる機能の実現]
上述した実施形態による一連の処理を実行させる機能は、ハードウェアにより実現することもできるし、ソフトウェアにより実現することもできるし、これらの組み合わせにより実現することもできる。換言すると、上述した一連の処理を実行する機能が、服薬判定システムSの何れかにおいて実現されていれば足り、この機能をどのような態様で実現するのかについては、特に限定されない。
【0095】
例えば、上述した一連の処理を実行する機能を、演算処理を実行するプロセッサによって実現する場合、この演算処理を実行するプロセッサは、シングルプロセッサ、マルチプロセッサ及びマルチコアプロセッサ等の各種処理装置単体によって構成されるものの他、これら各種処理装置と、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)又はFPGA(Field-Programmable Gate Array)等の処理回路とが組み合わせられたものを含む。
【0096】
また、例えば、上述した一連の処理を実行する機能を、ソフトウェアにより実現する場合、そのソフトウェアを構成するプログラムは、ネットワーク又は記録媒体を介してコンピュータにインストールされる。この場合、コンピュータは、専用のハードウェアが組み込まれているコンピュータであってもよいし、プログラムをインストールすることで所定の機能を実行することが可能な汎用のコンピュータ(例えば、汎用のパーソナルコンピュータ等の電子機器一般)であってもよい。また、プログラムを記述するステップは、その順序に沿って時系列的に行われる処理のみを含んでいてもよいが、並列的或いは個別に実行される処理を含んでいてもよい。また、プログラムを記述するステップは、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、任意の順番に実行されてよい。
【0097】
このようなプログラムを記録した記録媒体は、コンピュータ本体とは別に配布されることによりユーザに提供されてもよく、コンピュータ本体に予め組み込まれた状態でユーザに提供されてもよい。この場合、コンピュータ本体とは別に配布される記憶媒体は、磁気ディスク(フロッピディスクを含む)、光ディスク、又は光磁気ディスク等により構成される。光ディスクは、例えば、CD-ROM(Compact Disc-Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc)、或いはBlu-ray(登録商標) Disc(ブルーレイディスク)等により構成される。光磁気ディスクは、例えば、MD(Mini Disc)等により構成される。これら記憶媒体は、例えば、
図3のドライブ28に装着されて、コンピュータ本体に組み込まれる。また、コンピュータ本体に予め組み込まれた状態でユーザに提供される記録媒体は、例えば、プログラムが記録されている
図2のROM12、
図3のROM22、
図2の記憶部15、或いは
図3の記憶部25に含まれるSSDやHDD等により構成される。
【符号の説明】
【0098】
10 測定装置、20 服薬判定装置、11,21 プロセッサ、12,22 ROM、13,23 RAM、14,24 通信部、15,25 記憶部、16,26 入力部、17 測定部、27 出力部、28 ドライブ、111 測定制御部、112 前処理部、113 脳波データ送信部、211 脳波データ取得部、212 特徴量抽出部、213 基準データ生成部、214 判定部、215 判定結果出力部、251 脳波データ記憶部、252 基準データ記憶部、S 服薬判定システム