(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082703
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】突発事象検知システム、および、突発事象検知方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/01 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
G08G1/01 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196730
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大場 義和
(72)【発明者】
【氏名】下川 裕亮
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB05
5H181BB20
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC14
5H181DD02
5H181DD03
5H181EE11
5H181EE13
5H181FF04
5H181FF13
5H181FF25
5H181FF27
5H181FF33
5H181MC15
5H181MC27
(57)【要約】
【課題】新たなセンサなどを設置しなくても従来技術の問題点を回避し、道路における突発事象の発生を検知する。
【解決手段】実施形態の突発事象検知システムは、道路を走行する車両に関するセンサデータを取得するセンサデータ取得部と、前記センサデータを用いて、交通工学理論に基づく所定アルゴリズムに基づいて、前記道路において突発事象が発生していない場合の理論的な交通状況を推定する理論的交通状況推定部と、前記センサデータを用いて、現在の実際の交通状況を算出する現在交通状況把握部と、前記理論的な交通状況と、前記現在の実際の交通状況と、を比較し、所定閾値以上の差異がある場合に前記道路において突発事象が起きていると判定する突発事象判定部と、を備える。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路を走行する車両に関するセンサデータを取得するセンサデータ取得部と、
前記センサデータを用いて、交通工学理論に基づく所定アルゴリズムに基づいて、前記道路において突発事象が発生していない場合の理論的な交通状況を推定する理論的交通状況推定部と、
前記センサデータを用いて、現在の実際の交通状況を算出する現在交通状況把握部と、
前記理論的な交通状況と、前記現在の実際の交通状況と、を比較し、所定閾値以上の差異がある場合に前記道路において突発事象が起きていると判定する突発事象判定部と、
を備える突発事象検知システム。
【請求項2】
前記センサデータは、
前記道路の路側に設置されている車両感知器が出力する車両感知器データと、
前記道路を走行しているプローブカーが出力するプローブ情報と、
を含む請求項1に記載の突発事象検知システム。
【請求項3】
前記理論的交通状況推定部は、前記道路の形状を含む仕様の情報を用いて作成された前記道路の交通状況特性データと、過去の前記車両感知器データと、過去の前記プローブ情報と、を用いて、前記所定アルゴリズムに基づいて、前記理論的な交通状況を推定し、
前記現在交通状況把握部は、現在の前記車両感知器データと、現在の前記プローブ情報と、を用いて、前記現在の実際の交通状況を算出する、
請求項2に記載の突発事象検知システム。
【請求項4】
前記理論的交通状況推定部は、交通状況に関する過去の統計データを用いて、対象日の交通状況と類似している過去の交通状況を、前記理論的な交通状況として出力する、
請求項1に記載の突発事象検知システム。
【請求項5】
前記突発事象判定部は、前記理論的な交通状況と、前記現在の実際の交通状況と、を比較する際に、これらの差異と複数の突発事象を関連付けたルールをベースに、前記所定閾値以上の差異がある場合に前記道路において突発事象が起きていると判定する、
請求項3または請求項4に記載の突発事象検知システム。
【請求項6】
前記突発事象判定部は、前記理論的な交通状況と、前記現在の実際の交通状況と、を比較する際に、これらの差異と複数の突発事象の関係の機械学習により作成された学習モデルに基づいて、前記所定閾値以上の差異がある場合に前記道路において突発事象が起きていると判定する、
請求項3または請求項4に記載の突発事象検知システム。
【請求項7】
前記理論的交通状況推定部は、前記理論的な交通状況として、理論的な累積交通量を推定し、
前記現在交通状況把握部は、前記現在の実際の交通状況として、現在の実際の累積交通量を算出し、
前記突発事象判定部は、前記理論的な累積交通量と、前記現在の実際の累積交通量と、を比較し、所定の累積交通量閾値以上の差異がある場合に前記道路において突発事象が起きていると判定する、
請求項1に記載の突発事象検知システム。
【請求項8】
前記センサデータと前記交通状況特性データに差異がある場合で、その差異が更新判定用閾値以上になったとき、前記交通状況特性データの更新が必要と判定する更新判定部と、
前記更新判定部によって前記交通状況特性データの更新が必要と判定された場合に、その旨を通知する通知部と、
をさらに備える請求項3に記載の突発事象検知システム。
【請求項9】
前記センサデータと前記交通状況特性データに差異がある場合で、その差異が更新判定用閾値以上になったとき、前記交通状況特性データを更新する更新処理部を、
さらに備える請求項3に記載の突発事象検知システム。
【請求項10】
前記センサデータ取得部は、前記道路の撮影データを取得し、
前記突発事象検知システムは、前記撮影データに基づいて前記道路において突発事象が起きているか否かを判定する第2突発事象判定部を、さらに備え、
前記突発事象判定部は、前記理論的な交通状況と、前記現在の実際の交通状況と、前記第2突発事象判定部による判定結果と、に基づいて、前記道路において突発事象が起きているか否かを判定する、
請求項3に記載の突発事象検知システム。
【請求項11】
センサデータ取得部で、道路を走行する車両に関するセンサデータを取得するセンサデータ取得ステップと、
理論的交通状況推定部で、前記センサデータを用いて、交通工学理論に基づく所定アルゴリズムに基づいて、前記道路において突発事象が発生していない場合の理論的な交通状況を推定する理論的交通状況推定ステップと、
現在交通状況把握部で、前記センサデータを用いて、現在の実際の交通状況を算出する交通状況算出ステップと、
突発事象判定部で、前記理論的な交通状況と、前記現在の実際の交通状況と、を比較し、所定閾値以上の差異がある場合に前記道路において突発事象が起きていると判定する突発事象判定ステップと、
を含む突発事象検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、突発事象検知システム、および、突発事象検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、道路(高速道路など)において、事故、故障車、落下物などの交通の流れを阻害するような突発事象に関しては、いち早く検知して対応し、交通の流れへの悪影響をできるだけ小さくすることが望まれる。
【0003】
従来技術としては、例えば、路側に設置されている車両感知器(例えばトラフィックカウンタなど)の計測値をもとに突発事象を検知する手法(車両感知器を用いた手法)がある。ほかに、路側に設置されているCCTV(Closed Circuit Television System)カメラの映像をもとに画像処理技術を応用することで突発事象を検知する手法(路側カメラを用いた手法)がある。
【0004】
ほかに、近年では、プローブカーの情報を利用した高速道路に関する様々な機能の検討が進められており、突発事象検知の手法(プローブ情報を用いた手法)も検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-11596号公報
【特許文献2】特開2007-257421号公報
【特許文献3】特許第4970818号公報
【特許文献4】特許第6805071号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】賓美營、倉内文孝、飯田恭敬、「車両検知器データを用いた都市高速道路における突発事象のオンライン検知に関する研究」、[online]、2001年10月、第21回交通工学研究発表会論文報告集/交通工学研究会編、[2022年11月15日検索]、インターネット、<URL:https://cir.nii.ac.jp/crid/1520853834657513088>
【非特許文献2】長井武彦、倉田亮一、鴨頭大輔、「新東名高速道路突発事象検知・交通情報データ計測装置」、東芝社会インフラシステム社、東芝レビューVol.67、No.12、[online]、2012年、[2022年11月15日検索]、インターネット、<URL:https://www.global.toshiba/content/dam/toshiba/migration/corp/techReviewAssets/tech/review/2012/12/67_12pdf/a05.pdf>
【非特許文献3】松平正樹、藤田幸愛、「ETC2.0プローブデータによる交通異常検知」、[online]、2020年、第34回人工知能学会年次大会、[2022年11月15日検索]、インターネット、<URL:https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2020/0/JSAI2020_2O6GS1304/_pdf/-char/ja>
【非特許文献4】中川浩、後藤誠、松下健介、土井元治、「プローブと車両感知器データの融合による交通状態推定と情報提供」、2017年、交通工学研究会季刊誌「交通工学」、交通工学研究会発行、Vol.52、No.4
【非特許文献5】「~プローブ情報を活用し道路管制センターで把握する異常事象検知の迅速化~」、[online]、2021年5月27日、NEXCO中日本、[2022年11月15日検索]、インターネット、<URL:https://www.c-nexco.co.jp/corporate/pressroom/news_release/5118.html>
【非特許文献6】「NEXCO東日本が目指す「新たなモビリティサービス」について ~自動運転社会の実現を加速させる次世代高速道路の目指す姿(構想)~」、[online]、2021年4月28日、NEXCO東日本、[2022年11月15日検索]、インターネット、<URL:https://www.e-nexco.co.jp/pressroom/head_office/2021/0428/00009743.html>、<URL:https://www.e-nexco.co.jp/pressroom/cms_assets/pressroom/2021/04/28c/01.pdf>
【非特許文献7】「高速道路交通管制技術ハンドブック」、高速道路交通管制技術ハンドブック編集委員会、電気書院、2005年、p.48~53
【非特許文献8】「道路交通技術必携」、(社)交通工学研究会、(財)建設物価調査会、2004年、p.33~45
【非特許文献9】桑原雅夫、「交通流理論」、交通工学研究会発行、2020年、p.8、p.92
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述の従来技術では、以下のような問題がある。まず、車両感知器を用いた手法では、車両感知器の設置間隔が道路によって異なり、車両感知器の設置間隔が大きい(例えば10km間隔やIC(Interchange)間に1か所など)と、車両感知器から遠い場所で発生した突発事象の検知は困難となる。
【0008】
また、路側カメラを用いた手法では、例えば、大雨や大雪の時のように、鮮明な映像を取得できないときは、突発事象の検知が困難になることがある。
【0009】
また、プローブ情報を用いた手法では、現状ではプローブカーの普及率が低いことや、プローブ情報の個体差などによって突発事象の検知精度が低下することがありえる。なお、プローブ情報の個体差に関しては、例えば、得られたプローブ情報が、特異的に急な加減速を行うプローブカーによる情報であることが考えられる。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、新たなセンサなどを設置しなくてもこれらの問題点を回避し、道路における突発事象の発生を検知することができる突発事象検知システム、および、突発事象検知方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態の突発事象検知システムは、道路を走行する車両に関するセンサデータを取得するセンサデータ取得部と、前記センサデータを用いて、交通工学理論に基づく所定アルゴリズムに基づいて、前記道路において突発事象が発生していない場合の理論的な交通状況を推定する理論的交通状況推定部と、前記センサデータを用いて、現在の実際の交通状況を算出する現在交通状況把握部と、前記理論的な交通状況と、前記現在の実際の交通状況と、を比較し、所定閾値以上の差異がある場合に前記道路において突発事象が起きていると判定する突発事象判定部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1実施形態の全体構成を示す図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態の突発事象検知システムの機能構成図である。
【
図3】
図3は、第1実施形態における通過時刻情報と累積交通量の関係を示す図である。
【
図4】
図4は、第1実施形態において2つの基準累積交通量を用いて擬似累積交通量を算出する場合についての説明図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態の突発事象検知システムによる第1の交通状況算出処理を示すフローチャートである。
【
図6】
図6は、第1実施形態において1つの基準累積交通量を用いて擬似累積交通量を算出する場合についての説明図である。
【
図7】
図7は、第1実施形態の突発事象検知システムによる第2の交通状況算出処理を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、第1実施形態における交通状況特性の例を示すグラフである。
【
図9】
図9は、第1実施形態における理論的な交通状況の推定の例の説明図である。
【
図10】
図10は、第1実施形態における実際の交通状況の算出の例の説明図である。
【
図11】
図11は、第1実施形態における理論的な交通状況の推定結果と実際の交通状況の算出結果に差異が発生する例の説明図である。
【
図12】
図12は、第1実施形態の突発事象検知システムによる全体処理を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、第2実施形態の突発事象検知システムの機能構成図である。
【
図14】
図14は、第3実施形態の突発事象検知システムの機能構成図である。
【
図15】
図15は、第4実施形態の突発事象検知システムの機能構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の突発事象検知システム、および、突発事象検知方法の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の全体構成を示す図である。
車両感知器2は、例えば、管理対象の道路(以下、単に「道路」と称する。)における所定の基準地点を通過した車両の台数の情報である通過台数情報等を出力する感知器である。なお、車両感知器2は、車線が複数ある場合、車線毎に設置されていてもよい。
【0015】
車両感知器2は、例えば、路面下に設置されるループコイルや、路面を上方から監視するカメラや、路側に設置される超音波センサの少なくともいずれか、またはいくつかの組み合わせによって構成される。
【0016】
道路交通管制システム3は、道路交通を安全、円滑にして交通管理を一元的に行うために設置されるシステムで、コンピュータシステムで構成される。道路交通管制システム3は、車両感知器2から受信した通過台数情報等から、通過車両の台数、速度、交通密度等の交通情報を管理し、通行規制等の制御を行ったり、情報板や路側通信、ラジオ放送などを通じてドライバへ交通情報を提供したりするシステムである。
【0017】
プローブカー4は、交通状況に関連するプローブ情報の送信機能を有する車両である。プローブ情報は、例えば、GPS(Global Positioning System)により特定された車両の位置や、その位置の通過時刻や、速度等の各情報を含む。プローブ情報の送信方法の具体例としては、ETC(Electronic Toll Collection System)2.0を利用してプローブ路側装置5との間で路車間通信により行う方法や、車両メーカが独自に構築しているプローブ収集のためのシステムが通信キャリアを使って情報収集・管理をする方法がある。
【0018】
プローブ路側装置5は、通行する車両と路車間通信を行うために、路側に設けられた装置であり、プローブカー4から受信したプローブ情報をプローブ情報サーバ6(中継装置)に送信する。プローブ情報サーバ6は、プローブ路側装置5から受信したプローブ情報を記憶する。
突発事象検知システム1は、道路交通管制システム3からの交通情報や、プローブ情報サーバ6からのプローブ情報に基づいて、道路上で発生している突発事象(例えば、交通事故、落下物他)を検知するシステムである。
【0019】
図2は、第1実施形態の突発事象検知システム1の機能構成図である。
突発事象検知システム1は、1つ以上のコンピュータ装置によって構成され、記憶部11と、出力部13と、入力部12と、通信部14と、突発事象検知処理部15と、を備える。
【0020】
記憶部11は、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの記憶装置であり、各種情報を記憶する。記憶部11は、例えば、道路DB(Data Base)111、交通状況特性データ112、車両感知器データ113、プローブ情報114を記憶する。
【0021】
道路DB111は、道路の長さや車線数等の形状を含む仕様の情報を含むデータである。
【0022】
交通状況特性データ112は、道路DB111の情報などを用いて作成された道路の交通状況の特性(例えば、交通量-密度特性)に関するデータである。
【0023】
車両感知器データ113は、車両感知器2から取得したデータである。
【0024】
プローブ情報114は、プローブ情報サーバ6から取得したプローブ情報である。
【0025】
入力部12は、突発事象検知システム1に対するユーザの操作を受け付ける入力部である。入力部12は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力装置である。
【0026】
出力部13は、各種情報を出力する出力部である。出力部13は、例えば、液晶表示装置(LCD(Liquid Crystal Display))、有機EL(Electro-Luminescence)表示装置等の表示装置や、スピーカなどの音声出力装置により実現される。
【0027】
通信部14は、外部装置(道路交通管制システム3、プローブ情報サーバ6など)と通信するための通信インタフェースである。
【0028】
突発事象検知処理部15は、突発事象検知システム1の全体の動作を制御し、突発事象検知システム1が有する各種の機能を実現する処理部である。突発事象検知処理部15は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、を備える。CPUは、突発事象検知システム1の動作を統括的に制御する。ROMは、各種プログラムやデータを記憶する記憶媒体である。RAMは、各種プログラムを一時的に記憶したり、各種データを書き換えたりするための記憶媒体である。CPUは、RAMをワークエリア(作業領域)としてROM、記憶部11等に格納されたプログラムを実行する。
【0029】
突発事象検知処理部15は、機能部として、センサデータ取得部151と、理論的交通状況推定部152と、現在交通状況把握部153(現在交通状況把握部)と、突発事象判定部154と、を備える。なお、本実施形態では、便宜上、「把握」、「算出」という2つの用語を用いているが、いずれも、実際には、データを用いて行う「演算」である。
【0030】
センサデータ取得部151は、外部装置(道路交通管制システム3、プローブ情報サーバ6など)から各種情報を取得する取得部である。センサデータ取得部151は、例えば、道路を走行する車両に関するセンサデータとして、道路交通管制システム3から車両感知器データを取得し、プローブ情報サーバ6からプローブ情報を取得する。
【0031】
理論的交通状況推定部152は、センサデータを用いて、交通工学理論に基づく所定アルゴリズムに基づいて、道路において突発事象が発生していない場合の理論的な交通状況(例えば、累積交通量)を推定する推定部である。
【0032】
理論的交通状況推定部152は、例えば、交通状況特性データ112と、過去の車両感知器データ113と、過去のプローブ情報114と、を用いて、交通工学理論に基づく所定アルゴリズムに基づいて、理論的な交通状況を推定する推定部である。
【0033】
現在交通状況把握部153は、センサデータを用いて、現在の実際の交通状況(例えば、累積交通量)を算出する算出部である。現在交通状況把握部153は、例えば、現在の車両感知器データ113と、現在のプローブ情報114と、を用いて、現在の実際の交通状況を算出する。現在の車両感知器データ113と現在のプローブ情報114の整合をとることで、より現状の交通状況を表している交通状況を算出することができる。
これについて、
図3~
図7を参照して詳述する。
【0034】
図3は、第1実施形態における通過時刻情報と累積交通量の関係を示す図である。以下では、道路において、車両の進入、退出、追い越しがないことを前提とする。なお、現実には車両の進入、退出、追い越しがある道路であっても、それらの頻度や程度が小さければ、同様に考えることができる。また、基準位置を設定する際に、例えば、車両の進入、退出がない(あるいは少なくなる)ように、周辺に出入口料金所やジャンクション等がない地点を選択してもよい。
【0035】
図3において、小さい矩形は車両を示す。
図3(a)に示すように、時刻TAxにおいて、プローブカーAは地点xを通過している。時刻TBxにおいて、プローブカーBは地点xを通過している。時刻TCxにおいて、プローブカーCは地点xを通過している。
【0036】
時刻TAyにおいて、プローブカーAは地点yを通過している。時刻TByにおいて、プローブカーBは地点yを通過している。時刻TAzにおいて、プローブカーAは地点zを通過している。
【0037】
時刻TCyにおいて、プローブカーCは地点yを通過している。時刻TBzにおいて、プローブカーBは地点zを通過している。時刻TCzにおいて、プローブカーCは地点zを通過している。
図3(a)からわかるように、例えば、プローブカーAの地点x~地点y間の走行所要時間は「時刻TAy-時刻TAx」となる。
【0038】
図3(b)は、この
図3(a)で示す各車両の挙動について、縦軸に累積交通量をとり、横軸に時刻をとったグラフである。
そして、
図3(b)からわかるように、プローブカーAのラインにおいて、地点xの累積交通量との交点から地点yの累積交通量の交点までの間の時間が地点x~地点y間のプローブカーAの走行所要時間となる。この関係を利用し、現在交通状況把握部153は、基準累積交通量と、通過時刻情報と、に基づいて、道路における基準地点以外の所定の地点を通過した車両の台数の累積値である擬似累積交通量を算出する。
【0039】
以下では、基準地点として2つの基準地点が設定されている場合について説明する。
図4は、第1実施形態において2つの基準累積交通量を用いて擬似累積交通量を算出する場合について説明するための図である。なお、プローブカー4から取得する通過時刻情報については、最低で1台分の情報があればよい。
【0040】
まず、現在交通状況把握部153は、2つの基準地点それぞれに関する通過台数情報に基づいて、2つの基準地点それぞれを通過した車両の台数の累積値である第1の基準累積交通量S1、第2の基準累積交通量S2を把握する。
【0041】
次に、現在交通状況把握部153は、第1の基準累積交通量S1と、第2の基準累積交通量S2と、通過時刻情報と、に基づいて、道路における2つの基準地点の間の所定の地点を通過した車両の台数の累積値である擬似累積交通量E1、E2を算出する。なお、
図4において、T1は算出における単位時間を表し、Q1は単位時間あたりの算出交通量を表す。
【0042】
具体的には、現在交通状況把握部153は、第1の基準累積交通量S1と、第2の基準累積交通量S2と、の間を、プローブカーAが各地点を通過した時刻で按分(A:B:C)することで、擬似累積交通量E1、E2を算出する(
図4の領域R1参照)。なお、現在交通状況把握部153は、例えば、基準累積交通量の変化の状況から渋滞の発生が読み取れる場合(例えば急に交通流率に相当する累積交通量の傾きが低減する場合等)、渋滞の伝播速度を考慮して擬似累積交通量E1、E2を算出するようにしてもよい。そうすれば、さらに精度を向上させることができる。
【0043】
そして、現在交通状況把握部153は、第1の基準累積交通量S1と、第2の基準累積交通量S2と、擬似累積交通量E1、E2と、に基づいて、道路の交通状況を算出する(詳細は後述)。
【0044】
図5は、第1実施形態の突発事象検知システム1による第1の交通状況算出処理を示すフローチャートである。
まず、ステップS101において、現在交通状況把握部153は、道路交通管制システム3から通過台数情報を取得し、プローブ情報サーバ6からプローブ情報(通過時刻情報)を取得する。
【0045】
次に、ステップS102において、現在交通状況把握部153は、2つの基準地点について、通過台数情報を累積し、第1の基準累積交通量S1、第2の基準累積交通量S2を把握する。
【0046】
次に、ステップS103において、現在交通状況把握部153は、第1の基準累積交通量S1と、第2の基準累積交通量S2と、通過時刻情報と、に基づいて、道路における2つの基準地点の間の地点について、擬似累積交通量E1、E2を算出する。
【0047】
次に、ステップS104において、現在交通状況把握部153は、第1の基準累積交通量S1と、第2の基準累積交通量S2とを把握し、更に擬似累積交通量E1、E2と、に基づいて、道路の交通状況(累積交通量)を算出する。
【0048】
このように、道路に設置されている車両感知器2の数が少なくても(つまり、車両感知器2の設置間隔が大きくても)、道路の交通状況(例えば、交通量[台/h]、車両平均速度[km/h]、車両密度[台/km]等)を高精度で算出することができる。例えば、2つの基準地点があって2つの基準累積交通量を算出できる場合は、プローブカー4から取得した通過時刻情報が1台分のときであっても、高精度に交通状況を算出することができる。
【0049】
次に、
図6は、第1実施形態において1つの基準累積交通量を用いて擬似累積交通量を算出する場合についての説明図である。
図4、
図5では、プローブカー4から取得する通過時刻情報について最低で1台分の情報があればよいものとしたが、
図6、
図7では、プローブカー4から取得する通過時刻情報について最低で2台分の情報があればよいものとする。
【0050】
まず、現在交通状況把握部153は、1つの基準地点に関する通過台数情報に基づいて、その基準地点を通過した車両の台数の累積値である基準累積交通量S11を把握する。
【0051】
次に、現在交通状況把握部153は、基準累積交通量S11と、複数の通過時刻情報と、に基づいて、道路における基準地点以外の所定の地点を通過した車両の台数の累積値である擬似累積交通量E11、E12を算出する。
【0052】
具体的には、例えば、現在交通状況把握部153は、擬似累積交通量を算出する際に、基準地点以外の所定の地点について、通過時刻情報によって得られている車両ごとの離散的な通過時刻を直線的に結ぶ(直線近似する)ことで連続的な擬似累積交通量を算出することができる(
図6の領域R11参照)。そうすれば、処理がシンプルになるとともに、擬似累積交通量は単調増加しなければならないという条件を確実にクリアできる。
【0053】
そして、現在交通状況把握部153は、基準累積交通量S11と、擬似累積交通量E11、E12と、に基づいて、道路の交通状況(累積交通量)を算出する。
【0054】
図7は、第1実施形態の突発事象検知システム1による第2の交通状況算出処理を示すフローチャートである。
まず、ステップS111において、現在交通状況把握部153は、道路交通管制システム3から通過台数情報を取得し、プローブ情報サーバ6からプローブ情報(通過時刻情報)を取得する。
【0055】
次に、ステップS112において、現在交通状況把握部153は、1つの基準地点について、通過台数情報を累積し、基準累積交通量S11を把握する。
【0056】
次に、ステップS113において、現在交通状況把握部153は、基準累積交通量S11と、複数の通過時刻情報と、に基づいて、道路における基準地点以外の地点について、擬似累積交通量E11、E12を算出する。
【0057】
次に、ステップS114において、現在交通状況把握部153は、基準累積交通量S11と、擬似累積交通量E11、E12と、に基づいて、道路の交通状況を算出する。
【0058】
このようにして、複数のプローブカー4から取得する複数の通過時刻情報があれば、基準地点が1つであっても、道路の交通状況(例えば、交通量[台/h]、車両平均速度[km/h]、車両密度[台/km]等)を高精度で算出することができる。
【0059】
図2に戻って、突発事象判定部154は、理論的な交通状況(累積交通量)と、現在の実際の交通状況(累積交通量)と、を比較し、所定閾値(所定の累積交通量閾値)以上の差異がある場合に道路において突発事象が起きていると判定する。以下、理論的交通状況推定部152、現在交通状況把握部153、突発事象判定部154の処理について、
図8~
図11を参照して詳述する。
【0060】
図8は、第1実施形態における交通状況特性の例を示すグラフ(FD(Fundamental Diagram:交通基本図))である。ここでは、交通状況特性の例として、交通量-密度特性(以下、「FD特性」とも称する。)について説明する。
【0061】
図8のグラフは、道路のある地点の交通流の特性を表現する三角形近似モデルである。縦軸は交通量Q(交通流率)であり、横軸は密度Kである。その地点に設置されている車両感知器2の測定結果をもとに、このような特性を算出できる。
【0062】
理論的交通状況推定部152は、交通工学の理論的な考え方をもとに、例えば、このようなFD特性を利用し、自由流の速度、交通容量等を用いて、道路において突発事象が発生していない場合の理論的な交通状況を推定する。
【0063】
道路において、車両感知器2が設置されている場合、その地点の交通量、平均速度、時間占有率等が測定可能であり、交通量と速度と密度の関係式(交通量=平均速度×密度)から密度を算出できる。
このようにして得られた交通量と密度をプロットし、非渋滞側、渋滞側で直線近似を行い、交通状況特性として交通量-密度特性(FD特性)を求める。そして、これをもとに、自由流の速度Vfと、交通容量Qmax、飽和密度kjを求めて利用する(
図8)。ここで、飽和密度kjは、密度に対する交通量をプロットした時に、最大となる密度の部分である。
このようにして事前に求めた交通状況特性は、交通状況特性データ112(
図2)に保存される。
【0064】
この交通状況特性は、道路の地点により異なる場合があり(例えば車線数が異なる場合等)、複数の交通状況特性を保存しておく必要がある。処理の状況により、どの交通状況特性を利用すればよいかに関しては、理論的交通状況推定部152によって、道路DB111を参照して、処理対象の路線位置や、車線数が異なるかどうか等を認識し、交通状況特性データ112から必要な交通状況特性を抽出して利用する。
【0065】
この交通状況特性を利用することで、自由流(非渋滞時)における速度がどれくらいであるか、交通容量から、渋滞のボトルネック(開始地点)がどれくらいの交通量を需要可能か(どれくらいの交通量を超えると渋滞となるか)等の交通状況特性を認識し、車両の走行軌跡を推定することが可能である。
【0066】
例えば、渋滞していない場合は、車両は自由流速度で走行すると考えられ、ボトルネック地点がわかっていれば、そこから交通容量を超える場合に渋滞が発生することがわかり、渋滞の伝搬も交通状況特性(交通量-密度特性)を利用することで演算可能である。このように、車両の走行軌跡を推定した結果を用いて、ある地点の累積交通量を求めることで、理論的な累積交通量を求めることが可能である。
【0067】
ここで、
図9は、第1実施形態における理論的な交通状況の推定の例の説明図である。
図9の例は、自由流の場合で、渋滞が発生していないので、それぞれの車両は自由流速度で走行し、交通需要に大きく変化がないときは、累積交通量の傾きにも変化は見られない。しかしながら、この理論的な交通状況の推定の結果は、交通状況特性をベースとした理論的な結果であり、突発事象が発生していないことを前提としている。よって、これと実際の交通状況を比較することで、突発事象が発生しているかどうかの判定が可能と考えられる。
【0068】
また、理論的交通状況推定部152に関しては、上述の手段の代わりに、過去の計測値データが大多数存在する場合は、過去のデータを用いて、推定当日の日にちや曜日等から類似した過去の累積交通量データを類似パターン検索し、抽出して利用する方法もある。この方法を利用する場合、利用する過去の計測値データにおいては、事故等の突発事象が発生しているデータは除外したものを利用する必要がある。これらのデータを除外しても、更に多くのデータ(例えば過去数年分のデータ等)があれば、類似パターン検索で交通状況を推定することも利用可能と考えられる。
【0069】
この場合、理論的交通状況推定部152は、交通状況に関する過去の統計データを用いて、対象日の交通状況と類似している過去の交通状況を、理論的な交通状況として出力する。こうすることで、過去の多数のデータが必要となるものの、過去のデータを利用するのみでよいため、日時、曜日や道路位置等の道路仕様を利用する程度で済み、交通状況特性の利用は不要となる。
【0070】
図10は、第1実施形態における現在交通状況把握部153による実際の交通状況の算出の例の説明図である。ここでは、自由流の場合で、途中で事故等の突発事象が発生した場合の交通状況(累積交通量)について説明する。
通常(突発事象無し)であれば渋滞していないので、交通需要に大きな変化がない場合は、累積交通量にも傾きの大きな変化はない。しかし、途中で事故等の突発事象が発生すると、車線が閉鎖されるなどによって、交通容量が低下(通過できる交通量の最大値が低下)するため、累積交通量の傾きにも変化が現れる(つまり、傾きが小さくなる)(領域R21)。また、それが上流に伝搬(渋滞の延伸)していく(領域R22)。
【0071】
図11は、第1実施形態における理論的な交通状況の推定結果と実際の交通状況の算出結果に差異が発生する例の説明図である。
自由流の場合、理論的には実線のような累積交通量になるが、事故等の突発事象が発生した場合、破線のような傾きに変化のある累積交通量になる(領域R3)。
【0072】
判定の仕方としては、例えば、判定タイミングを起点として、対象路線の長さ等を考慮し、交通状況が影響すると考えられる時間幅(例えば判定タイミングから1時間前までなど)に関して理論的な交通状況の推定結果と実際の交通状況の算出結果(いずれも累積交通量の値)を抽出し、得られた累積交通量の差分(同じ地点の同じ時刻での差分)を演算して差異を確認すればよい。差異が突発事象発生時に発生する差異のレベルかどうかは、過去に突発事象が発生したケースのデータを用いて、どれくらいの差異であるかを確認し、閾値として利用する方法が考えられる。
なお、これらの時間帯幅、閾値等はパラメータとして指定してもよい。このような手順で、突発事象の判定が可能となる。
【0073】
また、突発事象の判定をルールベースで実施することもできる。この場合のルールは、事前に作成し実装するものとなり、例えば、IF(条件)THEN(判定結果)文によるルール実装が考えられる。ルールに関しては、過去の突発事象発生状況から、例えば、対象となる路線または地点と、差異情報を条件として、“事故による突発事象”か、“落下物による突発事象”か、等を判定結果とするようなルールを作成すればよい。このようなルールを事前に作成することで、複数種類の突発事象を識別して判定できる。
【0074】
この場合、突発事象判定部154は、理論的な交通状況と、現在の実際の交通状況と、を比較する際に、これらの差異と複数の突発事象を関連付けたルールをベースに、所定閾値以上の差異がある場合に道路において突発事象が起きていると判定する。
【0075】
さらに、突発事象の判定を機械学習によって作成した学習モデルを用いて実施することもできる。この場合、過去の差異データを機械学習モデルの入力とし、突発事象かどうか、また突発事象の種類を教師データとして学習することで、突発事象判定が可能な学習モデルを作成できると考えられる。機械学習としては、例えば、ディープラーニング等が利用可能である。このような学習モデルを応用することで、人手での事前のルール作成等が不要となり、実装負荷の低減が期待できる。
【0076】
この場合、突発事象判定部154は、理論的な交通状況と、現在の実際の交通状況と、を比較する際に、これらの差異と複数の突発事象の関係の機械学習により作成された学習モデルに基づいて、道路において突発事象が起きていると判定する。
【0077】
図12は、第1実施形態の突発事象検知システム1による全体処理を示すフローチャートである。
【0078】
まず、ステップS1において、ユーザは、入力部12を用いて、対象となる道路の路線長や車線数、センサ(車両感知器2等)設置位置等の道路仕様を設定する。設定された情報は、道路DB111に保存される。また、道路DB111の情報などを用いて道路の交通状況の特性に関するデータが作成され、交通状況特性データ112に保存される。
【0079】
次に、所定のループ時間毎に、ステップS2~S8の処理を行い、突発事象検知処理を実施する。
【0080】
ステップS3において、センサデータ取得部151は、道路を走行する車両に関するセンサデータとして、道路交通管制システム3から車両感知器データを取得して車両感知器データ113に保存し、プローブ情報サーバ6からプローブ情報を取得してプローブ情報114に保存する。
【0081】
次に、ステップS4において、理論的交通状況推定部152は、交通状況特性データ112と、過去の車両感知器データ113と、過去のプローブ情報114と、を用いて、交通工学理論に基づく所定アルゴリズムに基づいて、理論的な交通状況を推定する。
【0082】
次に、ステップS5において、現在交通状況把握部153は、現在の車両感知器データ113と、現在のプローブ情報114と、を用いて、現在の実際の交通状況を算出する。
【0083】
次に、ステップS6において、突発事象判定部154は、理論的な交通状況(累積交通量)と、現在の実際の交通状況(累積交通量)と、を比較し、所定閾値(所定の累積交通量閾値)以上の差異がある場合に道路において突発事象が起きていると判定する。
【0084】
次に、ステップS7において、突発事象判定部154は、ステップS6における判定結果を出力する。
【0085】
このように、第1実施形態の突発事象検知システム1によれば、新たなセンサなどを設置しなくても従来技術の問題点を回避し、道路における突発事象の発生を検知することができる。具体的には、以下の通りである。
【0086】
道路の交通状況を管理する場合に、路側カメラを利用せずに、車両感知器2から得られるマクロな情報(単位時間あたりの交通量や平均速度等)と、プローブカー4から得られるミクロな情報(個別車両1台1台の位置、速度推移等)を融合、利用する。これにより、路側カメラを用いた手法の問題は発生しない。また、車両感知器を用いた手法の問題と、プローブ情報を用いた手法の問題の両方を解決することができる。
【0087】
また、過去の交通状況を表すデータが豊富にある場合に、統計的な交通状況の推定を行って、理論的な交通状況として用いることで、交通状況特性を利用することなく、より簡易的に交通状況推定を行うことができる。
【0088】
また、ルールベースの突発事象判定を利用することにより、ルールの作成さえ完了すれば、実装上、シンプルな構成のアルゴリズムとすることが可能である。
【0089】
また、機械学習による学習モデルを応用した突発事象判定を利用することにより、過去の情報をもとに自動で学習モデルを作成して突発事象を判定するロジックを生成することができる。これにより、事前のロジック検討の負荷が軽減し、実装の事前対応が比較的容易な手法とすることが可能である。
【0090】
また、単位時間あたりの交通量を累積した累積交通量をベースに考えることで、ロジックが明確になり、事後の判定結果分析においても分析しやすい手法となる。
【0091】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。本実施形態は、センサデータと交通状況特性データの差異が更新判定用閾値以上になったときに、交通状況特性データを手動で更新する構成を追加した実施形態である。第1実施形態と同様の事項については、説明を適宜省略する。
【0092】
図13は、第2実施形態の突発事象検知システム1の機能構成図である。
図2と比較して、突発事象検知処理部15に、更新判定部155と、通知部156と、が追加されている。
【0093】
更新判定部155は、交通状況特性データの更新の要否を判定する判定部である。更新判定部155は、センサデータと交通状況特性データに差異がある場合で、その差異が更新判定用閾値以上になったときに、交通状況特性データの更新が必要と判定する。例えば、更新判定部155は、車両感知器データ113と、交通状況特性データ112と、に基づいて、交通状況特性の更新の要否を判定する。交通状況特性としては、例えば、交通量-密度特性等があげられ、この場合、自由流の速度や交通容量(単位時間あたりの最大の通過交通量)等の交通状況特性を取得する。
【0094】
これらの交通状況特性は、経年変化による道路交通自体の変化(道路の劣化によるドライバのその道路の回避や、商業施設の新設や廃止にともなう通行車両数の変化など)や、道路の構造の変化(車線の拡張や、路線の拡張等)により変化する可能性がある。このような場合は、交通状況特性を最新の状況に更新しないと、その影響が理論的な交通状況の推定結果に出てしまう。したがって、交通状況特性データを更新する必要がある。
【0095】
更新判定部155による判定の具体的な方法としては、例えば、最新の計測値データ(蓄積されたデータ)を用いて交通状況特性を作成し、利用している交通状況特性と比較して、あるレベル以上の差異がある場合は更新が要であると判定する方法が考えられる。例えば、最新の計測データ(例えば1年分の蓄積されたデータ)を用いて交通量-密度特性を作成し、交通量の最大値と、利用している交通状況特性の交通容量を比較し、n%より大きな誤差(例えば±10%以上等)が発生する場合は、更新が要であると判定する等が考えられる。
【0096】
通知部156は、更新判定部155によって交通状況特性データの更新が必要と判定された場合に、その旨を通知する通知部である。通知の方法としては、例えば、オペレータの画面等に更新要である旨を表示させたり、メールやログで更新要である旨をオペレータに連絡したりすればよい。また、複数の交通状況特性を有する場合は、更新が必要な箇所に関する情報も併せて通知する。これを受けて、ユーザは交通情報特性を更新すればよい。
【0097】
このように、第2実施形態によれば、第1実施形態の効果に加え、経年変化や道路形態の変化(車線増加や路線拡張等)で交通状況特性に変化が発生した場合でも、交通状況特性更新要の通知が行われるため、この通知がある場合に交通状況特性を最新の特性とすることで対応可能である。
【0098】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。本実施形態は、センサデータと交通状況特性データの差異が更新判定用閾値以上になったときに交通状況特性データを自動で更新する実施形態である。第1実施形態、および、第2実施形態の少なくともいずれかと同様の事項については、説明を適宜省略する。
【0099】
図14は、第3実施形態の突発事象検知システム1の機能構成図である。
図2と比較して、突発事象検知処理部15に、更新処理部157が追加されている。
【0100】
更新処理部157は、交通状況特性データの更新を行う処理部である。更新処理部157は、センサデータと交通状況特性データに差異がある場合で、その差異が更新判定用閾値以上になったとき、交通状況特性データを自動的に更新する。
【0101】
例えば、更新処理部157は、更新判定部155と同様の方法で交通状況特性の更新要否を判定し、要の場合に、最新の計測値データ(蓄積されたデータ)から得られた交通状況特性に自動で更新する。なお、更新した場合に、更新した旨をメールやログでオペレータやシステム管理者等に連絡する機能を有してもよい。
【0102】
第3実施形態によれば、交通状況特性を必要に応じて自動的に更新することができるので、ユーザの手間を低減したり、更新し忘れを防止したりすることができる。
【0103】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について説明する。本実施形態は、道路画像データに基づいて道路において突発事象が起きているか否かを判定する第2突発事象判定部を追加した実施形態である。第1実施形態~第3実施形態の少なくともいずれかと同様の事項については、説明を適宜省略する。
【0104】
図15は、第実施形態の突発事象検知システム1の機能構成図である。
図2と比較して、突発事象検知処理部15に第2突発事象判定部158が追加され、記憶部11に道路画像データ115が追加されている。
【0105】
センサデータ取得部151は、道路の路側に設置されているカメラによる道路の撮影データを取得し、道路画像データ115に保存する取得部である。
また、第2突発事象判定部158は、道路画像データ115に基づいて道路において突発事象が起きているか否かを判定する判定部である。
【0106】
そして、突発事象判定部154は、理論的交通状況推定部152により推定された理論的な交通状況と、現在交通状況把握部153により算出された現在の実際の交通状況と、第2突発事象判定部158による判定結果と、に基づいて、道路において突発事象が起きているか否かを判定する。
【0107】
例えば、突発事象判定部154は、まず、第1実施形態と同様に、理論的交通状況推定部152により推定された理論的な交通状況と、現在交通状況把握部153により算出された現在の実際の交通状況と、に基づいて1次的な突発事象発生の判定を行う。
次に、突発事象判定部154は、1次的な判定結果と、第2突発事象判定部158による判定結果と、を比較し、最終的な突発事象判定を行う。
【0108】
例えば、天気情報が利用可能な場合、晴れ等の道路画像が明確に利用可能な状況の場合は、第2突発事象判定部158による判定結果を優先して、突発事象判定部154による判定結果として出力することが考えられる。
また、天気情報が台風や雪などの場合は、画像処理による突発事象判定が困難な状況であると考えられるため、1次的な突発事象発生の判定結果を優先して、突発事象判定部154による判定結果として出力することが考えられる。
【0109】
このように、第4実施形態によれば、第1実施形態の効果に加え、画像処理を応用した突発事象の判定が可能な場合に、これを考慮した突発事象判定を行う。これにより、画像処理を応用した突発事象の判定が有効な場合(例えば、天気が晴れなどの場合)には、これも考慮したより高精度な突発事象判定が可能となる。
【0110】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態はあくまで例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0111】
例えば、交通状況特性は、交通量-密度特性に限定されず、密度-速度特性などの他の交通状況特性を用いてもよい。
【0112】
また、交通状況は、累積交通量に限定されず、車両平均速度などの他の交通状況を用いてもよい。
【0113】
また、第4実施形態において、道路画像の取得元は、路側カメラに限定されず、別システム(例えば交通管制システムや施設管制システム等)であってもよい。
また、第4実施形態では、第1実施形態に画像処理を応用した突発事象判定を追加した場合を説明したが、これに限定されず、さらに1つ以上の別の突発事象判定機能を有し、多数決等で突発事象判定を行うことも考えられる。
【符号の説明】
【0114】
1…突発事象検知システム、2…車両感知器、3…道路交通管制システム、4…プローブカー、5…プローブ路側装置、6…プローブ情報サーバ、11…記憶部、12…入力部、13…出力部、14…通信部、15…突発事象検知処理部、111…道路DB、112…交通状況特性データ、113…車両感知器データ、114…プローブ情報、115…道路画像データ、151…センサデータ取得部、152…理論的交通状況推定部、153…現在交通状況把握部、154…突発事象判定部、155…更新判定部、156…通知部、157…更新処理部、158…第2突発事象判定部