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特開2024-82713予測装置、予測方法、予測プログラム、予測システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082713
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】予測装置、予測方法、予測プログラム、予測システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 40/40 20180101AFI20240613BHJP
【FI】
G16H40/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196747
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西 真宏
(72)【発明者】
【氏名】的場 聖明
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA22
(57)【要約】
【課題】より高い精度で心肺が停止した患者の予後を予測することができる技術を提供する。
【解決手段】予測装置10は、患者の予後に関する特徴量として、心肺が停止してから心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を取得する取得部と、訓練済みの予測モデル121を用いて少なくとも1つの特徴量に基づいて患者の予後を予測する予測部と、予測部の予測に基づく結果を出力する出力部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心肺が停止した患者の予後を予測する予測装置であって、
前記患者の予後に関する特徴量として、前記心肺が停止してから前記心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を取得する取得部と、
訓練済みの予測モデルを用いて前記少なくとも1つの特徴量に基づいて前記患者の予後を予測する予測部と、
前記予測部の予測に基づく結果を出力する出力部とを備える、予測装置。
【請求項2】
前記少なくとも1つの特徴量は、前記患者が病院に搬送される前に前記患者の心拍が再開したか否かを示す情報と、前記患者の心拍リズムが電気ショック可能なリズムであるか否かを示す情報とをさらに含む、請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つの特徴量は、前記患者の年齢を示す情報と、前記心肺の停止が目撃されたか否かを示す情報と、市民により前記患者に対して除細動が行われたか否かを示す情報と、前記心肺が停止した場所に居た人により前記心肺の蘇生が行われたか否かを示す情報とをさらに含む、請求項2に記載の予測装置。
【請求項4】
前記予測モデルは、前記少なくとも1つの特徴量と前記患者の予後が良好であるか否かを示す情報とに基づく機械学習によって生成されている、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の予測装置。
【請求項5】
前記出力部によって出力される前記結果は、前記患者の予後が良好である確率と、前記心肺の蘇生を行うか否かを示す情報と、前記患者を病院に搬送するか否かを示す情報とのうち、少なくとも1つを含む、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の予測装置。
【請求項6】
心肺が停止した患者の予後をコンピュータが予測するための予測方法であって、
前記コンピュータが実行する処理として、
前記患者の予後に関する特徴量として、前記心肺が停止してから前記心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を取得するステップと、
訓練済みの予測モデルを用いて前記少なくとも1つの特徴量に基づいて前記患者の予後を予測するステップと、
前記予測するステップの予測に基づく結果を出力するステップとを含む、予測方法。
【請求項7】
心肺が停止した患者の予後をコンピュータが予測するための予測プログラムであって、
前記コンピュータに、
前記患者の予後に関する特徴量として、前記心肺が停止してから前記心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を取得するステップと、
訓練済みの予測モデルを用いて前記少なくとも1つの特徴量に基づいて前記患者の予後を予測するステップと、
前記予測するステップの予測に基づく結果を出力するステップとを実行させる、予測プログラム。
【請求項8】
心肺が停止した患者の予後を予測する予測システムであって、
ユーザ端末と、
前記ユーザ端末と通信するように構成された予測装置とを備え、
前記予測装置は、
前記患者の予後に関する特徴量として、前記心肺が停止してから前記心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を前記ユーザ端末から取得する取得部と、
訓練済みの予測モデルを用いて前記少なくとも1つの特徴量に基づいて前記患者の予後を予測する予測部と、
前記予測部の予測に基づく結果を前記ユーザ端末に出力する出力部とを備える、予測システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、心肺が停止した患者の予後を予測する予測装置、予測方法、予測プログラム、および予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
救急医療資源が限られている中で、医療機関外で心肺が停止(以下、「院外心肺停止」とも称する。)した場合、脳神経学的予後の不良の患者に対する長時間の心肺蘇生または高度医療の継続は、救急隊および医療機関にとって大きな負担である。特に、遠隔地または新型コロナウイルス感染症(以下、「COVID-19」とも称する。)が流行拡大している地域のように、救急医療体制が逼迫している状況においては、予後不良の患者に対する治療の継続は、他の患者に対する救急隊の到着の遅れまたは医療の質の低下を招き得る。実際、COVID-19の流行時においては、患者を受け入れる病院が決まらず、患者を病院に搬送困難な症例が多く発生している。
【0003】
たとえば、非特許文献1には、院外心肺停止が発生してからの救命処置に関して、アメリカ心臓協会のガイドラインが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「Highlights of the 2020 AHA Guidelines Update for CPR and ECC」、[令和4年11月29日検索]、インターネット<URL: https://cpr.heart.org/en/resuscitation-science/cpr-and-ecc-guidelines>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アメリカにおいて、救急隊員などの医療従事者は、非特許文献1に開示されたアメリカ心臓協会のガイドラインに従って、院外心肺停止が発生した患者の心肺蘇生を行うか否か、および患者を病院に搬送するか否かを判断することができる。しかしながら、ガイドラインに従ったとしても、心肺が停止した患者の予後を予測することは難しく、予後不良の患者に対して治療が継続されることがあり得る。さらに、アメリカ心臓協会のガイドラインは、欧米の患者データに基づいて作成されており、倫理的な問題も含めて日本の診療実態に見合っていない。
【0006】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、より高い精度で心肺が停止した患者の予後を予測することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のある局面に従う予測装置は、心肺が停止した患者の予後を予測する。予測装置は、患者の予後に関する特徴量として、心肺が停止してから心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を取得する取得部と、訓練済みの予測モデルを用いて少なくとも1つの特徴量に基づいて患者の予後を予測する予測部と、予測部の予測に基づく結果を出力する出力部とを備える。
【0008】
本開示の他の局面に従う予測方法は、心肺が停止した患者の予後をコンピュータが予測するための方法である。予測方法は、コンピュータが実行する処理として、患者の予後に関する特徴量として、心肺が停止してから心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を取得するステップと、訓練済みの予測モデルを用いて少なくとも1つの特徴量に基づいて患者の予後を予測するステップと、予測するステップの予測に基づく結果を出力するステップとを含む。
【0009】
本開示の他の局面に従う予測プログラムは、心肺が停止した患者の予後をコンピュータが予測するためのプログラムである。予測プログラムは、コンピュータに、患者の予後に関する特徴量として、心肺が停止してから心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を取得するステップと、訓練済みの予測モデルを用いて少なくとも1つの特徴量に基づいて患者の予後を予測するステップと、予測するステップの予測に基づく結果を出力するステップとを実行させる。
【0010】
本開示の他の局面に従う予測システムは、心肺が停止した患者の予後を予測する。予測システムは、ユーザ端末と、ユーザ端末と通信するように構成された予測装置とを備える。予測装置は、患者の予後に関する特徴量として、心肺が停止してから心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を前記ユーザ端末から取得する取得部と、訓練済みの予測モデルを用いて少なくとも1つの特徴量に基づいて患者の予後を予測する予測部と、予測部の予測に基づく結果を前記ユーザ端末に出力する出力部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、訓練済みの予測モデルを用いて、心肺が停止してから心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量に基づいて患者の予後を予測することができるため、より高い精度で心肺が停止した患者の予後を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施例に係る予測システムの構成を示すブロック図である。
図2】本実施例に係る予測モデルの生成手法を説明するための図である。
図3】予測因子の数とAUC(Area Under the Curve)の評価結果との関係を示すグラフである。
図4】各予測因子が予測結果に与えるインパクトを説明するための図である。
図5】本実施例に係る予測モデルによる予測を説明するための図である。
図6】予測装置が実行する予測処理の手順を示すフローチャートである。
図7】ユーザ端末における画面の表示例を示す図である。
図8】本実施例に係る予測装置と比較例に係る予測装置との比較結果を示す図である。
図9】本実施例に係る予測装置と比較例1~3に係る予測装置とにおけるROC曲線の比較結果を示すグラフである。
図10】本実施例に係る予測装置と比較例1~3に係る予測装置とにおけるROC曲線の比較結果を示すグラフである。
図11】本実施例に係る予測装置と比較例1~3に係る予測装置との比較結果のまとめを示す図である。
図12】本実施例に係る予測装置と比較例4,5に係る予測装置との比較結果のまとめを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一の符号を付して、その説明は原則的に繰り返さない。
【0014】
[予測システムの構成]
図1を参照しながら、本実施例に係る予測システム100を説明する。図1は、本実施例に係る予測システム100の構成を示すブロック図である。図1に示すように、予測システム100は、予測装置10と、ユーザ端末20とを備える。予測装置10とユーザ端末20とは、インターネットなどのネットワーク500を介して通信可能に接続されている。
【0015】
予測装置10は、たとえば、クラウドシステムを構築するサーバ装置により構成される。ユーザ端末20は、たとえば、ユーザによって所持される、デスクトップ型のPC(personal computer)、ラップトップ型のPC、スマートフォン、スマートウォッチ、ウェアラブルデバイス、またはタブレットPCなど、所定の情報処理を実行する情報端末である。ユーザは、院外心肺停止した患者の救命を行う救急隊員、医師、または看護師などの医療従事者である。なお、ユーザは、患者が心肺停止した救命現場に居合わせた一般人であってもよく、実施の形態に係る予測システム100のユーザ端末20を利用するあらゆる人が対象である。ユーザ端末20は、救命現場、救急車の中、救急の指令室、ER(Emergency Room)、ICU(Intensive Care Unit)、または病棟などで用いられ得る。
【0016】
予測装置10は、院外心肺停止した患者の脳神経学的予後に関する特徴量をユーザ端末20から受信し、ユーザ端末20から受信した患者の脳神経学的予後に関する特徴量に基づいて、AI(Artificial Intelligence)によって、患者の脳神経学的予後を予測するための処理(以下、「予測処理」とも称する。)を実行する。たとえば、予測装置10は、院外心肺停止が発生してから1カ月後の患者の脳神経学的予後を予測する。予測装置10は、予測に基づく結果(以下、予測結果」とも称する。)をユーザ端末20に送信する。以下、院外心肺停止した患者の脳神経学的予後に関する特徴量を単に「特徴量」とも称する。また、脳神経学的予後を単に「予後」とも称する。
【0017】
予測装置10は、演算装置11と、記憶装置12と、通信インタフェース13とを備える。
【0018】
演算装置11は、「予測部」の一例であり、各種のプログラムに従って各種の処理を実行する演算主体(コンピュータ)である。演算装置11は、プロセッサなどのコンピュータで構成される。プロセッサは、たとえば、マイクロコントローラ、CPU、またはMPUなどで構成される。なお、プロセッサは、プログラムを実行することによって各種の処理を実行する機能を有するが、これらの機能の一部または全部を、ASIC、GPU、またはFPGAなどの専用のハードウェア回路を用いて実装してもよい。「プロセッサ」は、CPUまたはMPUのようにストアードプログラム方式で処理を実行する狭義のプロセッサに限らず、ASIC、GPU、またはFPGAなどのハードワイヤード回路を含み得る。このため、プロセッサは、コンピュータ読み取り可能なコードおよび/またはハードワイヤード回路によって予め処理が定義されている、処理回路(processing circuitry)と読み替えることもできる。なお、プロセッサは、1つのチップで構成されてもよいし、複数のチップで構成されてもよい。さらに、プロセッサおよび関連する処理回路は、ローカルエリアネットワークまたは無線ネットワークなどを介して、有線または無線で相互接続された複数のコンピュータで構成されてもよい。プロセッサおよび関連する処理回路は、入力データに基づきリモートで演算し、その演算結果を離れた位置にある他のデバイスへと出力するような、クラウドコンピュータで構成されてもよい。
【0019】
記憶装置12は、演算装置11が各種のプログラムを実行するにあたって、プログラムコードまたはワークメモリなどを格納する記憶領域を提供する。記憶装置12は、1または複数の非一時的コンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)であってもよい。記憶装置12の一例としては、DRAMおよびSRAMなどの揮発性メモリ、または、ROMおよびフラッシュメモリなどの不揮発性メモリが挙げられる。また、記憶装置12は、1または複数のコンピュータ読み取り可能な記憶媒体(computer readable storage medium)であってもよい。記憶装置12の一例としては、HDDおよびSSDなどの記憶装置が挙げられる。
【0020】
記憶装置12は、予測モデル121および予測プログラム122など、各種のプログラムおよびデータを記憶する。予測モデル121は、ユーザ端末20から取得した特徴量に基づき院外心肺停止した患者の脳神経学的予後を予測するように、機械学習によって訓練されることにより生成されている。機械学習に用いられる訓練データは、院外心肺停止した患者の予後に関する特徴量と、患者の予後が良好であるか否かを示す情報とを含む。予測プログラム122は、演算装置11が予測モデル121を用いて予測処理を実行するためのプログラムである。演算装置11は、予測プログラム122に従って、ユーザ端末20から取得した特徴量を予測モデル121に入力することで、予測モデル121から出力された予測結果を得ることができる。
【0021】
通信インタフェース13は、「取得部」および「出力部」の一例であり、ネットワーク500を介してユーザ端末20と通信するためのインタフェースである。通信インタフェース13は、ユーザ端末20によって送信された特徴量を示すデータを受信する。通信インタフェース13は、演算装置11によって得られた予測結果を示すデータをユーザ端末20に送信する。
【0022】
ユーザ端末20は、ディスプレイ21と、ユーザが所定の情報を入力するための入力部22と、通信インタフェース23とを備える。
【0023】
ディスプレイ21は、ユーザが特徴量を入力するための入力画面(後述する図7の画面210)を表示する。さらに、ディスプレイ21は、予測装置10から取得した予測結果を表示するための結果画面(後述する図7の画面210)を表示する。
【0024】
入力部22は、たとえば、ディスプレイ21に重畳的に設けられたタッチパネルにより構成される。ユーザは、ディスプレイ21に表示された入力画面のガイダンスに従い、入力部22を用いて、院外心肺停止した患者の予後に関する特徴量を入力することができる。さらに、ユーザは、ディスプレイ21に表示された結果画面を閲覧することで、院外心肺停止した患者の予後の予測結果を確認することができる。
【0025】
通信インタフェース23は、ネットワーク500を介して予測装置10と通信するためのインタフェースである。通信インタフェース23は、入力部22を用いてユーザによって入力された特徴量を示すデータを予測装置10に送信する。通信インタフェース23は、予測装置10よって送信された予測結果を示すデータを受信する。
【0026】
予測システム100は、1つのユーザ端末20に限らず、複数のユーザ端末20を備えてもよい。予測装置10は、1または複数のユーザ端末20の各々と通信するように構成されてもよい。たとえば、予測システム100においては、予測装置10がクラウドコンピューティングの態様で存在してもよい。この場合、予測装置10は、1または複数のユーザ端末20の各々から取得した特徴量に基づいて、患者の予後を予測し、予測結果を1または複数のユーザ端末20の各々に出力してもよい。
【0027】
[予測モデルの生成]
図2図4を参照しながら、予測モデル121の生成について説明する。図2は、本実施例に係る予測モデル121の生成手法を説明するための図である。図2に示すように、予測モデル121は、教師あり学習を用いて訓練されることによって生成される。予測モデル121の設計者は、まず、予測モデル121を生成するための訓練データとして、複数のサンプルデータを用意する。
【0028】
具体的には、設計者は、全国ウツタインデータをサンプルデータとして活用する。全国ウツタインデータは、総務省消防庁により全国の消防組織における院外心肺停止の症例を記録したデータである。ウツタインデータには、毎年10万症例を超える大量の情報が蓄積されており、心肺停止時の蘇生または自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillator)の使用履歴に限らず、院外心肺停止が発生してから1か月後の脳神経学的予後の機能評価が記録されている。したがって、ウツタインデータから得られるデータ量は、膨大であり、設計者は、機械学習のために十分な数のサンプルデータをウツタインデータから取得することができる。そこで、設計者は、COVID-19が流行する前の2005年~2019年に記録された1800000件の院外心肺停止の症例をサンプルデータとして採用する。
【0029】
脳神経学的予後としては、脳機能を評価するためのCPC(Cerebral Performance Category)が採用されている。脳神経学的予後として院外心肺停止が発生してから1カ月後の脳機能が良好である場合、CPCに「1」が割り当てられる。脳機能が良好な場合、たとえば、患者の意識が清明であり、患者が普通に生活することができる。脳神経学的予後として院外心肺停止が発生してから1カ月後の脳機能が中等度障害を有している場合、CPCに「2」が割り当てられる。脳機能が中等度障害を有している場合、たとえば、患者が保護された状況で短時間の仕事をすることができ、介助なしに着替えなどの日常生活を送ることができる。脳神経学的予後として院外心肺停止が発生してから1カ月後の脳機能が高度障害を有している場合、CPCに「3」が割り当てられる。脳機能が高度障害を有している場合、たとえば、患者が日常生活に介助を必要とする。脳神経学的予後として院外心肺停止が発生してから1カ月後の脳機能が昏睡状態または植物状態である場合、CPCに「4」が割り当てられる。脳機能が昏睡状態または植物状態である場合、たとえば、患者の意識レベルが低下し、認識力および周囲との会話能力も欠如する。脳神経学的予後として院外心肺停止が発生してから1カ月の間に患者が死亡した場合、CPCに「5」が割り当てられる。
【0030】
ウツタインデータは、院外心肺停止した患者の予後に関する特徴量を含む。患者の予後に関する特徴量は、「患者の心肺が停止してからCPRが開始されるまでの時間」を示す情報を含む。CPR(Cardio Pulmonary Resuscitation)とは、所謂、心臓マッサージなどの心肺蘇生法であり、病気または負傷などにより心臓が停止している患者の胸を強く圧迫したり息を吹き込んだりして心臓の動きを助ける救命方法である。つまり、「患者の心肺が停止してからCPRが開始されるまでの時間」とは、患者の心肺が停止してから心臓マッサージなどの心肺蘇生が開始されるまでの時間を意味する。
【0031】
また、患者の予後に関する特徴量は、「患者が病院に搬送される前に患者の心拍が再開したか否か」を示す情報と、「患者の心拍リズムがショック可能リズムであるか否か」を示す情報とを含む。ショック可能リズムとは、AEDなどによる電気ショックが可能な心拍リズムであり、このような心拍リズムとしては、心室細動(VF:Ventricular Fibrillation)と、心室頻拍(VT:ventricular tachycardia)とがある。心拍リズムが心室細動(VF)である状態は、心臓の筋肉が痙攣を起こす不整脈の状態であり、心臓の筋肉が無秩序なリズムとなって正常に収縮できないためにポンプ機能を失った状態になっている。心拍リズムが心室細動(VF)である状態は、血液を送り出すための心室が興奮状態であるため、血液を送り出さなくなって脈が触れなくなった状態になっている。
【0032】
さらに、患者の予後に関する特徴量は、「患者の年齢」を示す情報と、「心肺の停止の目撃者がいるか否か」を示す情報と、「市民により患者に対して除細動が行われたか否か」を示す情報と、「心肺が停止した場所に居た人により心肺の蘇生が行われたか否か」を示す情報とを含む。なお、除細動は、たとえば、AEDなどを用いて心臓を正常なリズムの状態に戻すことを含む。
【0033】
設計者は、サンプルデータに含まれる特徴量として、上述したようなウツタインデータに含まれる患者の予後に関する少なくとも1つの特徴量を採用する。また、設計者は、サンプルデータに含まれる正解データとして、脳神経学的予後が良好か否かを示す情報、より具体的には、上述したようなウツタインデータに含まれる脳神経学的予後の指標であるCPCを採用する。正解データにおいては、CPCが「1」または「2」である場合、院外心肺停止が発生してから1カ月後の脳神経学的予後が良好であると判断され、CPCが「3」、「4」、または「5」である場合、院外心肺停止が発生してから1カ月後の脳神経学的予後が良好でないと判断される。
【0034】
以下、簡単のため、上述した「患者の心肺が停止してからCPRが開始されるまでの時間」、「患者が病院に搬送される前に患者の心拍が再開したこと」、「患者の心拍リズムがショック可能リズムであること」、「患者の年齢」、「心肺の停止の目撃者がいること」、「市民により患者に対して除細動が行われたこと」、「心肺が停止した場所に居た人により心肺の蘇生が行われたこと」を、それぞれ、「CPR開始までの時間」、「搬送前心拍再開」、「ショック可能リズム」、「年齢」、「目撃者」、「市民による除細動」、「By-stander CPR」とも称する。
【0035】
予測モデル121の機械学習のアルゴリズムには、ランダムフォレスト、サポートベクターマシン、ニューラルネットワーク、ロジスティック回帰、およびxgboost(eXtreme Gradient Boosting)などの公知の学習アルゴリズムが適用され得る。
【0036】
予測モデル121の生成および評価には、たとえば、ホールドアウト法が適用され得る。設計者は、複数のサンプルデータのうち、90%のサンプルデータを訓練データとして用い、10%のサンプルデータをテストデータとして用いる。なお、訓練データおよびテストデータの各々の割合は、設計者が適宜設定すればよい。設計者は、複数の訓練データを用いて、交差検証によって予測モデル121を生成する。
【0037】
さらに、設計者は、10%のサンプルデータとは別に、COVID-19の流行中の2020年3月~2020年12月に記録された95947件の院外心肺停止の症例に係るサンプルデータも、テストデータとして用いた。COVID-19の流行中のサンプルデータは、2005年~2019年に記録されたサンプルデータと同様に、「CPR開始までの時間」、「搬送前心拍再開」、「ショック可能リズム」、「年齢」、「目撃者」、「市民による除細動」、および「By-stander CPR」など、院外心肺停止した患者の予後に関する特徴量と、当該患者の脳神経学的予後を示す情報(CPC)とを含む。
【0038】
設計者は、COVID-19が流行する前の10%のサンプルデータと、COVID-19の流行中のサンプルデータとを用いて、予測モデルを評価することで、最終的な予測モデル121を生成することができる。
【0039】
図3は、予測因子の数とAUC(Area Under the Curve)の評価結果との関係を示すグラフである。予測因子は、予測モデル121を生成するための特徴量として選択され得る候補である。設計者は、パーミューテーションインポータンス(Permutation Importance)の手法を用いて、複数種類の予測因子が予測精度の指標AUC(area under the curve)に与えるインパクトを調べることができる。パーミューテーションインポータンスとは、複数種類の予測因子の選択対象および選択数をランダムにシャッフルして複数パターンの入力データを決定し、決定した各入力データに基づき予測を行ったときに、どの程度予測精度が低下するかによって予測因子の選択対象および選択数を決定する手法である。
【0040】
AUCは、後述する図9に示されるように、横軸に偽陽性率(1-特異度)、縦軸に感度をとったグラフにおいてプロットされるROC(Receiver Operating Characteristic)曲線において、ROC曲線下の面積によって示される評価指標である。偽陽性率は、正解データとして負ラベル(たとえば、予後が良好である)が紐付けられたサンプルデータのラベルを、予測モデル121が間違えて正ラベル(たとえば、予後が良好でない)と予測した割合を示す。感度は、正解データとして正ラベル(たとえば、予後が良好でない)が紐付けられたサンプルデータのラベルを、予測モデル121が正しく正ラベル(たとえば、予後が良好でない)と予測した割合を示す。AUCは、0から1までの値をとる。予測モデル121の予測精度が高いほどAUCの値が1に近くなる。
【0041】
図3のグラフは、横軸に予測因子の数をとり、縦軸にAUCをとる。設計者は、予測因子の選択対象および選択数を変えながら、複数の予測モデルを作成し、作成した各予測モデルの予測精度(AUC)を比較する。その結果、図3に示すように、設計者は、7種類の予測因子を用いて作成された予測モデル121において、AUCが最大となることを見出すことができる。このときの予測モデル121のAUCは、四捨五入すれば0.95である。
【0042】
図4は、各予測因子が予測結果に与えるインパクトを説明するための図である。図4においては、図3のグラフを用いて設計者によって見出された7種類の予測因子が、そのインパクト(パーミューテーションインポータンス)が高い順に上から下へと示されている。図4に示すように、インパクトが最も高い予測因子は、「搬送前心拍再開」であり、以下、インパクトの高い順に、「ショック可能リズム」、「CPR開始までの時間」、「年齢」、「目撃者」、「市民による除細動」、および「By-stander CPR」が、「搬送前心拍再開」に続く。これら7種類の予測因子は、いずれも、院外心肺停止が発生した救命現場、救急車の中、救急の指令室、ER、ICU、または病棟などにおいて、ユーザ端末20のユーザが容易に取得可能である。
【0043】
図4に示すように、7種類の予測因子のうち、「搬送前心拍再開」、「ショック可能リズム」、および「CPR開始までの時間」の3種類の予測因子が全体のインパクトのうちの大部分のインパクトを占めることは、設計者によって新たに見出された事実である。また、「CPR開始までの時間」のインパクトが「年齢」、「目撃者」、「市民による除細動」、および「By-stander CPR」のいずれのインパクトよりも大きいことも、設計者によって新たに見出された事実である。さらに、「CPR開始までの時間」、「搬送前心拍再開」、「ショック可能リズム」、「年齢」、「目撃者」、「市民による除細動」、および「By-stander CPR」の7種類の特徴量を用いて予測モデル121を生成すると、AUCが最大となることも、設計者によって新たに見出された事実である。
【0044】
そこで、設計者は、図4に示す7種類の予測因子の各々を患者の予後に関する特徴量として採用し、本実施例に係る予測モデル121を作成する。
【0045】
[予測モデルによる予測]
図5および図6を参照しながら、本実施例に係る予測モデル121による予測について具体的に説明する。図5は、本実施例に係る予測モデル121による予測を説明するための図である。
【0046】
図5に示すように、予測モデル121は、院外心肺停止した患者の脳神経学的予後に関する特徴量を取得する。予測モデル121によって取得される特徴量は、図4に示す「CPR開始までの時間」、「搬送前心拍再開」、「ショック可能リズム」、「年齢」、「目撃者」、「市民による除細動」、および「By-stander CPR」の7種類の特徴量(予測因子)を含む。なお、予測精度は低下するが、予測モデル121は、「CPR開始までの時間」を含む少なくとも1つの特徴量を取得してもよい。また、予測精度は低下するが、予測モデル121は、「CPR開始までの時間」、「搬送前心拍再開」、および「ショック可能リズム」を含む少なくとも1つの特徴量を取得してもよい。最も高い予測精度を得るためには、予測モデル121は、「CPR開始までの時間」、「搬送前心拍再開」、「ショック可能リズム」、「年齢」、「目撃者」、「市民による除細動」、および「By-stander CPR」の7種類の特徴量を取得すればよい。
【0047】
予測モデル121は、取得した特徴量に基づき、患者の脳神経学的予後が良好な確率(Score)を推論する。すなわち、予測モデル121は、取得した特徴量に基づき、CPCが「1」または「2」である確率を出力する。
【0048】
予測モデル121は、脳神経学的予後が良好な確率が1%未満の場合、予後が非常に悪いと判断して、年齢または基礎疾患に応じて心肺蘇生を中断することを示す情報、および患者を病院に搬送しないことを示す情報を、予測結果として出力する。
【0049】
予測モデル121は、脳神経学的予後が良好な確率が1%以上でありかつ5%未満である場合、予後が悪いと判断して、年齢または基礎疾患に応じて心肺蘇生を中断することを示す情報、および患者を病院に搬送しないことを示す情報を、予測結果として出力する。
【0050】
予測モデル121は、脳神経学的予後が良好な確率が5%以上でありかつ25%未満である場合、予後が少し悪いと判断して、心肺蘇生を継続することを示す情報、および患者を病院に搬送することを示す情報を、予測結果として出力する。
【0051】
予測モデル121は、脳神経学的予後が良好な確率が25%以上でありかつ75%未満である場合、予後が普通であると判断して、心肺蘇生を継続することを示す情報、および患者を病院に搬送することを示す情報を、予測結果として出力する。
【0052】
予測モデル121は、脳神経学的予後が良好な確率が75%以上である場合、予後が良好であると判断して、心肺蘇生を継続することを示す情報、および患者を病院に搬送することを示す情報を、予測結果として出力する。
【0053】
図6は、予測装置10が実行する予測処理の手順を示すフローチャートである。図6に示す処理ステップ(以下、これを「S」と略す。)は、予測装置10に含まれる演算装置11が予測プログラム122を実行することによって実現される。
【0054】
図6に示すように、予測装置10は、通信インタフェース13を介して、ユーザ端末20から少なくとも1つの特徴量を取得する(S1)。少なくとも1つの特徴量は、「CPR開始までの時間」を少なくとも含む。また、最も高い予測精度を得る場合、少なくとも1つの特徴量は、図4に示す「CPR開始までの時間」、「搬送前心拍再開」、「ショック可能リズム」、「年齢」、「目撃者」、「市民による除細動」、および「By-stander CPR」の7種類の特徴量を含む。
【0055】
予測装置10は、取得した少なくとも1つの特徴量と訓練済みの予測モデル121とに基づいて、患者の脳神経学的予後を予測する(S2)。予測装置10は、通信インタフェース13によって、予測結果をユーザ端末20に出力する(S3)。その後、予測装置10は、本処理を終了する。
【0056】
[ユーザ端末における画面の表示例]
図7を参照しながら、ユーザ端末20における画面210の表示例を説明する。図7は、ユーザ端末20における画面210の表示例を示す図である。予測システム100は、ユーザ端末20のアプリケーションと連動して、院外心肺停止した患者の予後の予測結果をユーザ端末20に提供する。
【0057】
ユーザ端末20は、院外心肺停止した患者の脳神経学的予後に関する特徴量を入力するためのインタフェースを、ディスプレイ21および入力部22によってユーザに提供する。図7には、特徴量の入力を受け付ける画面210を表示するユーザ端末20のディスプレイ21が示されている。
【0058】
画面210には、特徴量として、院外心肺停止した患者の「年齢」の入力を受け付ける入力欄211と、「CPR開始までの時間」の入力を受け付ける入力欄212と、「By-stander CPR」に関する入力を受け付ける入力欄213と、「ショック可能リズム」に関する入力を受け付ける入力欄214と、「搬送前心拍再開」に関する入力を受け付ける入力欄215と、「目撃者」に関する入力を受け付ける入力欄216と、「市民による除細動」に関する入力を受け付ける入力欄217とが配置されている。
【0059】
ユーザは、入力欄211において、患者の年齢を加算する場合は「+」を選択し、患者の年齢を減算する場合は「-」を選択する。ユーザは、入力欄212において、患者の心肺が停止してからCPRが開始されるまでの時間を加算する場合は「+」を選択し、患者の心肺が停止してからCPRが開始されるまでの時間を減算する場合は「-」を選択する。ユーザは、入力欄213において、心肺が停止した場所に居た人により心肺の蘇生が行われた場合は「YES」を選択し、心肺が停止した場所に居た人により心肺の蘇生が行われなかった場合は「NO」を選択する。ユーザは、入力欄214において、患者の心拍リズムがショック可能リズムである場合は「YES」を選択し、患者の心拍リズムがショック可能リズムでない場合は「NO」を選択する。ユーザは、入力欄215において、患者が病院に搬送される前に患者の心拍が再開した場合は「YES」を選択し、患者が病院に搬送される前に患者の心拍が再開しなかった場合は「NO」を選択する。ユーザは、入力欄216において、心肺の停止の目撃者がいる場合は「YES」を選択し、心肺の停止の目撃者がいない場合は「NO」を選択する。ユーザは、入力欄217において、市民により患者に対して除細動が行われた場合は「YES」を選択し、市民により患者に対して除細動が行われなかった場合は「NO」を選択する。
【0060】
ユーザは、上述した入力欄211~217に情報(特徴量)を入力した後、予後の予測を実行するための実行ボタン220を押圧する。ユーザ端末20は、実行ボタン220の押圧を受け付けると、入力欄211~217を用いて入力された情報(特徴量)を、予測装置10に送信する。
【0061】
予測装置10の演算装置11は、ユーザによって入力された特徴量をユーザ端末20から受信すると、記憶装置12に格納された訓練済みの予測モデル121を用いて院外心肺停止した患者の予後を予測する。予測装置10は、予測モデル121による予測結果を示す情報を、ユーザ端末20に送信する。
【0062】
ユーザ端末20は、予測装置10から予測結果を受信すると、ディスプレイ21の結果欄230に予測結果を示す情報を表示する。具体的には、ユーザ端末20は、結果欄230において、院外心肺停止が発生してから1カ月後の脳神経学的予後が良好である確率を表示する。さらに、ユーザ端末20は、結果欄230において、心肺蘇生を行うか否かを示す情報と、患者を病院に搬送するか否かを示す情報とを表示する。なお、ユーザ端末20は、院外心肺停止が発生してから1カ月後の脳神経学的予後が良好である確率と、心肺蘇生を行うか否かを示す情報と、患者を病院に搬送するか否かを示す情報とのうち、少なくとも1つを表示してもよい。
【0063】
[本実施例と比較例との比較]
図8図12を参照しながら、本実施例に係る予測装置10と、比較例に係る予測装置との比較について説明する。図8は、本実施例に係る予測装置10と比較例に係る予測装置との比較結果を示す図である。
【0064】
図8に示すように、比較例として、比較例1~5の各々に係る予測装置が用いられている。まず、本実施例に係る予測装置10と、比較例1~3に係る予測装置との比較について説明する。比較例1~3に係る予測装置は、AIおよび機械学習された訓練済みの予測モデルを用いることなく、ルールベースのアルゴリズムによって、取得した特徴量に基づき、院外心肺停止した患者の脳神経学的予後を予測するように構成されている。
【0065】
図8に示すように、比較例1に係る予測装置は、予測に用いる特徴量として、「搬送前心拍再開」、「目撃者」、「By-stander CPR」、および「市民による除細動」の4種類の特徴量が用いられている。比較例2に係る予測装置は、予測に用いる特徴量として、「搬送前心拍再開」、「目撃者」、および「ショック可能リズム」の3種類の特徴量が用いられている。比較例3に係る予測装置は、予測に用いる特徴量として、「搬送前心拍再開」、「目撃者」、および「AED稼動」の3種類の特徴量が用いられている。
【0066】
図9および図10は、本実施例に係る予測装置10と比較例1~3に係る予測装置とにおけるROC曲線の比較結果を示すグラフである。図9および図10のグラフは、横軸に偽陽性率(1-特異度)をとり、縦軸に感度をとる。
【0067】
図9の比較においては、ウツタインデータに含まれるCOVID-19が流行する前の2005年~2019年に記録された1800000件の院外心肺停止の症例のサンプルデータのうち、たとえば、10%のサンプルデータをテストデータとして用いて、本実施例に係る予測装置10および比較例1~3に係る予測装置の各々の予測精度が検証されている。また、図10の比較においては、COVID-19の流行中の2020年3月~2020年12月に記録された95947件の院外心肺停止の症例に係るサンプルデータをテストデータとして用いて、本実施例に係る予測装置10および比較例1~3に係る予測装置の各々の予測精度が検証されている。
【0068】
図9に示すように、COVID-19が流行する前のサンプルデータをテストデータとして用いた場合、本実施例に係る予測装置10のAUCは0.95であるのに対して、比較例1~3に係る予測装置のAUCは0.89または0.93である。このように、本実施例に係る予測装置10のAUCは、比較例1~3に係る予測装置のAUCよりも、高い値を得ることができる。
【0069】
さらに、図10に示すように、COVID-19の流行中のサンプルデータをテストデータとして用いた場合、本実施例に係る予測装置10のAUCは0.95であるのに対して、比較例1~3に係る予測装置のAUCは0.88または0.93である。このように、COVID-19の流行中のサンプルデータをテストデータとして用いた場合でも、本実施例に係る予測装置10のAUCは、比較例1~3に係る予測装置のAUCよりも、高い値を得ることができる。
【0070】
図11は、本実施例に係る予測装置10と比較例1~3に係る予測装置との比較結果のまとめを示す図である。図11に示すように、本実施例に係る予測装置10は、予測精度(AUC)が高いのに対して、比較例1~3に係る予測装置は、予測精度(AUC)が中等度である。
【0071】
本実施例に係る予測装置10は、AIおよび機械学習された訓練済みの予測モデル121を用いているのに対して、比較例1~3に係る予測装置は、AIおよび機械学習された訓練済みの予測モデルを用いていない。
【0072】
本実施例に係る予測装置10は、COVID-19の流行中に院外心肺停止した患者の予後予測についても予測精度が高く対応可能であるのに対して、比較例1~3に係る予測装置は、COVID-19の流行中に院外心肺停止した患者の予後予測については予測精度が中等度であり対応不可能である。このため、図10に示すように、COVID-19の流行中に院外心肺停止した患者についても、本実施例に係る予測装置10は、比較例1~3に係る予測装置よりも高い精度で患者の予後を予測することができる。
【0073】
本実施例に係る予測装置10は、図7に示すように、ユーザ端末20のアプリケーションを用いて、容易にかつリアルタイムで迅速に救命現場などで院外心肺停止した患者の予後を予測することができ、しかも、COVID-19の流行中に院外心肺停止した患者についても予後予測の対象とすることができる。このため、本実施例に係る予測装置10は、比較例1~3に係る予測装置よりも、利便性および実用性が高い。
【0074】
次に、本実施例に係る予測装置10と、比較例4,5に係る予測装置との比較について説明する。比較例4,5に係る予測装置は、本実施例に係る予測装置10と同様に、AIおよび機械学習された訓練済みの予測モデルを用いて、取得した特徴量に基づき、院外心肺停止した患者の脳神経学的予後を予測するように構成されている。
【0075】
しかしながら、比較例4,5に係る予測装置が予後予測に用いる特徴量は、本実施例に係る予測装置10が予後予測に用いる特徴量と異なる。具体的には、図8に示すように、比較例4に係る予測装置は、「年齢」、「性別」、「目撃者」、および「By-stander CPR」などを含む19種類もの多くの特徴量を用いなければ、患者の予後を予測することができない。さらに、比較例4に係る予測装置は、心拍リズムがショック可能リズムである患者のみを予後予測の対象としている。
【0076】
また、比較例5に係る予測装置は、「搬送前心拍再開」、「年齢」、および「初期波形」の3種類を用いて患者の予後を予測するように構成されているが、搬送前に心拍が再開した患者のみを予後予測の対象としている。
【0077】
さらに、比較例1~3に係る予測装置と同様に、本実施例に係る予測装置10と、比較例4,5に係る予測装置とで、AUCを比較すると、本実施例に係る予測装置10のAUCは0.95であるのに対して、比較例4,5に係る予測装置のAUCは0.87または088である。このように、本実施例に係る予測装置10のAUCは、比較例4,5に係る予測装置のAUCよりも、極めて高い値を得ることができる。
【0078】
図12は、本実施例に係る予測装置10と比較例4,5に係る予測装置との比較結果のまとめを示す図である。図12に示すように、本実施例に係る予測装置10は、予測精度が高いのに対して、比較例4,5に係る予測装置は、予測精度が低い。
【0079】
本実施例に係る予測装置10および比較例4,5に係る予測装置は、いずれも、AIおよび機械学習された訓練済みの予測モデルを用いている。しかしながら、本実施例に係る予測装置10は、COVID-19の流行中に院外心肺停止した患者の予後予測についても予測精度が高く対応可能であるのに対して、比較例1~3に係る予測装置は、COVID-19の流行中に院外心肺停止した患者の予後予測については予測精度が低く対応不可能である。すなわち、比較例4,5に係る予測装置は、予測モデルの機械学習において、COVID-19の流行中のサンプルデータをテストデータとして用いないため、COVID-19の流行中に院外心肺停止した患者については、予後の予測精度が低くなる。
【0080】
本実施例に係る予測装置10は、心拍リズムがショック可能リズムである患者以外についても、予後を予測することができるのに対して、比較例4に係る予測装置は、心拍リズムがショック可能リズムである患者以外については、予後を予測することができない。また、本実施例に係る予測装置10は、搬送前に心拍が再開した患者以外についても、予後を予測することができるのに対して、比較例5に係る予測装置は、搬送前に心拍が再開した患者以外については、予後を予測することができない。
【0081】
本実施例に係る予測装置10は、院外心肺停止が発生した救命現場などにおいて、ユーザが容易に取得可能な7種類の特徴量を用いて、患者の予後を予測することができるのに対して、比較例4,5に係る予測装置は、院外心肺停止が発生した救命現場などにおいて、ユーザが容易に特徴量を取得することが困難である。たとえば、比較例4,5に係る予測装置は、特徴量として、心電図の初期波形を取得する必要がある。また、比較例4に係る予測装置は、特徴量として、19種類もの多くの特徴量を取得する必要があり、救命現場などにおいてユーザが容易に取得することは不可能である。
【0082】
本実施例に係る予測装置10は、図7に示すように、ユーザ端末20のアプリケーションを用いて、容易にかつリアルタイムで迅速に救命現場などで院外心肺停止した患者の予後を予測することができ、しかも、COVID-19の流行中に院外心肺停止した患者についても予後予測の対象とすることができる。さらに、本実施例に係る予測装置10は、比較例4,5に係る予測装置では困難な救命現場などにおいて容易に取得可能な特徴量を用いて、院外心肺停止した患者の予後を予測することができる。このため、本実施例に係る予測装置10は、比較例4,5に係る予測装置よりも、利便性および実用性が極めて高い。
【0083】
以上のように、本実施例に係る予測システム100および予測装置10によれば、院外心肺停止した患者の予後に関する特徴量と訓練済みの予測モデル121とに基づき、患者の予後を予測することができるため、より高い精度で心肺が停止した患者の予後を予測することができる。これにより、たとえば、院外心肺停止が発生した救命の現場において、ユーザは、予測装置10を用いて心肺が停止した患者の予後を容易に予測することができ、ユーザ端末20を用いて予測結果を閲覧することができる。したがって、ユーザは、患者の心肺蘇生を継続するか否か、および患者を病院に搬送するか否かについて、今後の対応を適切に判断することができる。
【0084】
さらに、本実施例に係る予測装置10は、パーミューテーションインポータンスの手法を用いた検証によって見出した、7種類の厳選された特徴量に基づき、患者の予後を予測することができるため、より高い精度で心肺が停止した患者の予後を予測することができる。特に、本実施例に係る予測装置10は、比較例1~5に係る予測装置において用いられていない特徴量として、「CPR開始までの時間」を用いることで、比較例1~5に係る予測装置では到達不可能な高い精度で心肺が停止した患者の予後を予測することができる。しかも、これら7種類の特徴量は、全て救命現場でユーザが容易に取得してユーザ端末20から入力可能であるため、本実施例に係る予測装置10は、比較例1~5に係る予測装置よりも利便性が高い。
【0085】
[態様]
(第1項)一態様に係る予測装置10は、患者の予後に関する特徴量として、心肺が停止してから心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を取得する取得部(通信インタフェース13)と、訓練済みの予測モデル121を用いて少なくとも1つの特徴量に基づいて患者の予後を予測する予測部(演算装置11)と、予測部(演算装置11)の予測に基づく結果を出力する出力部(通信インタフェース13)とを備える。
【0086】
(第2項)第1項に記載の予測装置10において、少なくとも1つの特徴量は、患者が病院に搬送される前に患者の心拍が再開したか否かを示す情報と、患者の心拍リズムが電気ショック可能なリズムであるか否かを示す情報とをさらに含む。
【0087】
(第3項)第1項または第2項に記載の予測装置10において、少なくとも1つの特徴量は、患者の年齢を示す情報と、心肺の停止が目撃されたか否かを示す情報と、市民により患者に対して除細動が行われたか否かを示す情報と、心肺が停止した場所に居た人により心肺の蘇生が行われたか否かを示す情報とをさらに含む。
【0088】
(第4項)第1項~第3項のいずれか1項に記載の予測装置10において、予測モデル121は、少なくとも1つの特徴量と患者の予後が良好であるか否かを示す情報とに基づく機械学習によって生成されている。
【0089】
(第5項)第1項~第4項のいずれか1項に記載の予測装置10において、出力部によって出力される結果は、患者の予後が良好である確率と、心肺の蘇生を行うか否かを示す情報と、患者を病院に搬送するか否かを示す情報とのうち、少なくとも1つを含む。
【0090】
(第6項)一態様に係る予測方法は、コンピュータ(演算装置11)が実行する処理として、患者の予後に関する特徴量として、心肺が停止してから心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を取得するステップ(S1)と、訓練済みの予測モデル121を用いて少なくとも1つの特徴量に基づいて患者の予後を予測するステップ(S2)と、予測するステップの予測に基づく結果を出力するステップ(S3)とを含む。
【0091】
(第7項)一態様に係る予測プログラムは、コンピュータ(演算装置11)に、患者の予後に関する特徴量として、心肺が停止してから心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量を取得するステップ(S1)と、訓練済みの予測モデル121を用いて少なくとも1つの特徴量に基づいて患者の予後を予測するステップ(S2)と、予測するステップの予測に基づく結果を出力するステップ(S3)とを実行させる。
【0092】
(第8項)一態様に係る予測システム100は、ユーザ端末20と、ユーザ端末20と通信するように構成された予測装置10とを備える。予測装置10は、患者の予後に関する特徴量として、心肺が停止してから心肺の蘇生が開始されるまでの時間を示す情報を含む少なくとも1つの特徴量をユーザ端末20から取得する取得部(通信インタフェース13)と、訓練済みの予測モデル121を用いて少なくとも1つの特徴量に基づいて患者の予後を予測する予測部(演算装置11)と、予測部(演算装置11)の予測に基づく結果をユーザ端末20に出力する出力部(通信インタフェース13)とを備える。
【0093】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0094】
10 予測装置、11 演算装置、12 記憶装置、13,23 通信インタフェース、20 ユーザ端末、21 ディスプレイ、22 入力部、100 予測システム、121 予測モデル、122 予測プログラム、210 画面、211,212,213,214,215,216,217 入力欄、220 実行ボタン、230 結果欄、500 ネットワーク。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12