(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082728
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】職場環境の改善支援装置、方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/10 20120101AFI20240613BHJP
【FI】
G06Q50/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196781
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高倉 啓
(72)【発明者】
【氏名】中村 誠一
(72)【発明者】
【氏名】平川 和樹
(72)【発明者】
【氏名】笹岡 稜太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 奈々重
(72)【発明者】
【氏名】松江 清高
(72)【発明者】
【氏名】元木 秀俊
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC12
5L050CC12
(57)【要約】
【課題】CO
2排出量の削減と従業員の快適度の向上とを両立させる施策の立案を支援し、事業所や工場における職場環境を改善する技術を提供する。
【解決手段】従業員情報15を保持する第1保持部11と、従業員の行動制約ルール16を組織の各々固有に設定する第1設定部21と、複数のエリア26,27をレイアウトした構内モデル20を保持する第2保持部12と、複数のエリア26,27の相互を結ぶ移動経路28の選択優先度を決定させる経路パラメータ17を設定する第2設定部22と、移動経路28を行動制約ルール16に従って移動する従業員の集合体挙動をシミュレーションするシミュレータ18と、このシミュレーションに基づいて従業員の快適指数35及びCO
2排出量37及び電力使用量36の少なくとも一方を推定する推定部31,32と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織に所属する従業員を識別した従業員情報を保持する第1保持部と、
所属する前記従業員の行動を制約する行動制約ルールを前記組織の各々固有に設定する第1設定部と、
構内において複数のエリアをレイアウトした構内モデルを保持する第2保持部と、
複数の前記エリアの相互を結ぶよう前記構内モデルにレイアウトされた移動経路の選択優先度を決定させる経路パラメータを設定する第2設定部と、
前記選択優先度に基づいて選択された前記移動経路を前記行動制約ルールに従って移動する複数の前記従業員の集合体挙動をシミュレーションするシミュレータと、
前記シミュレーションに基づいて前記従業員の快適指数を推定する第1推定部と、
前記シミュレーションに基づいて前記構内モデルにおけるCO2排出量及び電力使用量の少なくとも一方を推定する第2推定部と、を備える職場環境の改善支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の職場環境の改善支援装置において、
前記エリアは、構内において特定の前記組織に専有される専有エリア及び不特定の前記組織に共有される共有エリアに分類される職場環境の改善支援装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の職場環境の改善支援装置において、
前記CO2排出量又は前記電力使用量と推定された前記快適指数とに基づいて、前記従業員情報、前記行動制約ルール、前記構内モデル及び前記経路パラメータのうち少なくとも一つを更新する更新部を備える職場環境の改善支援装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の職場環境の改善支援装置において、
前記行動制約ルールは、前記エリアとこれらの入退出時間、利用時間及び利用頻度の少なくとも一つとを規定したものであり、
前記経路パラメータは、対応する前記移動経路の非混雑性、安全性及び安心性の少なくとも一つで定義され、
前記快適指数は、少なくとも前記従業員が利用した前記移動経路の合計時間に基づいて推定されたものである、職場環境の改善支援装置。
【請求項5】
請求項4に記載の職場環境の改善支援装置において、
前記経路パラメータは、前記従業員情報に付随する属性情報を用いてさらに定義される職場環境の改善支援装置。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の職場環境の改善支援装置において、
前記CO2排出量は、前記構内モデルにおけるエネルギー消費量を再生可能エネルギー及び枯渇性エネルギーに分類したうえで、前記枯渇性エネルギーの消費量から変換されたものである職場環境の改善支援装置。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の職場環境の改善支援装置において、
前記集合体挙動は、気象条件及び前記移動経路における車両の通行条件の少なくとも一方にも基づいて前記シミュレーションされる職場環境の改善支援装置。
【請求項8】
請求項3に記載の職場環境の改善支援装置において、
複数の中から選定された前記従業員の前記構内における位置情報を時間情報と共に前記従業員情報に紐付けて収集する第1収集部と、
前記エリア及び前記移動経路の予め設定された前記位置情報に滞留する前記従業員の混雑情報を前記時間情報と共に収集する第2収集部と、を備え、
前記更新部は、前記従業員情報に紐付く前記時間情報、前記位置情報及び前記混雑情報に基づいて前記経路パラメータを更新する職場環境の改善支援装置。
【請求項9】
組織に所属する従業員を識別した従業員情報を保持するステップと、
所属する前記従業員の行動を制約する行動制約ルールを前記組織の各々固有に設定するステップと、
構内において複数のエリアをレイアウトした構内モデルを保持するステップと、
複数の前記エリアの相互を結ぶよう前記構内モデルにレイアウトされた移動経路の選択優先度を決定させる経路パラメータを設定するステップと、
前記選択優先度に基づいて選択された前記移動経路を前記行動制約ルールに従って移動する複数の前記従業員の集合体挙動をシミュレーションするステップと、
前記シミュレーションに基づいて前記従業員の快適指数を推定するステップと、
前記シミュレーションに基づいて前記構内モデルにおけるCO2排出量及び電力使用量の少なくとも一方を推定するステップと、を含む職場環境の改善支援方法。
【請求項10】
コンピュータに、
組織に所属する従業員を識別した従業員情報を保持するステップ、
所属する前記従業員の行動を制約する行動制約ルールを前記組織の各々固有に設定するステップ、
構内において複数のエリアをレイアウトした構内モデルを保持するステップ、
複数の前記エリアの相互を結ぶよう前記構内モデルにレイアウトされた移動経路の選択優先度を決定させる経路パラメータを設定するステップ、
前記選択優先度に基づいて選択された前記移動経路を前記行動制約ルールに従って移動する複数の前記従業員の集合体挙動をシミュレーションするステップ、
前記シミュレーションに基づいて前記従業員の快適指数を推定するステップ、
前記シミュレーションに基づいて前記構内モデルにおけるCO2排出量及び電力使用量の少なくとも一方を推定するステップ、を実行させる職場環境の改善支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、事業所や工場における職場環境の改善を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CO2排出量の削減が求められている。このため、CO2排出量を抑制するための設備の導入及び運用方法の見直し、並びに消費電力を抑制するための施策の実施が要請されている。その一方で、工場などでは人手不足が問題となっている。このため、生産性の向上や働き手の確保を目的に、従業員のエンゲージメントを向上させるため、従業員の快適度を向上させる施策が求められている。
【0003】
ところで先行技術として、購買データなどを利用し、インセンティブをユーザに対し付与することで、節電行動を促す方法が開示されている。また先行技術として、混雑を回避するために、ユーザに対し情報を提示して、人流を制御方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6146939号
【特許文献2】特許第6587974号
【特許文献3】特許第6178226号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、節電行動を促している先行技術においては、ユーザに対しインセンティブの付与を行っているが、ユーザの快適度を向上させるという視点が欠けている。また人流を制御して混雑を回避する先行技術においては、交通施設における従業員誘導に必要な情報を提示するのに留まり、電力使用量やCO2排出量の削減といった工場や事業所に特有の課題や条件を踏まえていない。また、先行技術においてユーザの快適度を向上させる要素は、人流制御による混雑回避としている。しかし、事業所や工場における従業員の快適度は、むしろ、移動のし易さ、構内の交通流、職場の設備の充実度、空調、従業員ごとの勤務形態等の要素等が影響する。
【0006】
さらに、事業所や工場においては、従業員の快適度を向上させる施策の立案、効果の評価が困難である課題があった。また電力使用量やCO2排出量の削減と従業員の快適度とを両立させる施策の立案も困難である課題があった。さらに従業員の快適度と電力使用量削減(CO2削減)するための設備を投資する場合の、投資対効果の評価が困難である課題もあった。
【0007】
本発明の実施形態はこのような事情を考慮してなされたもので、CO2排出量の削減と従業員の快適度の向上とを両立させる施策の立案を支援し、事業所や工場における職場環境を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る職場環境の改善支援装置において、組織に所属する従業員を識別した従業員情報を保持する第1保持部と、所属する前記従業員の行動を制約する行動制約ルールを前記組織の各々固有に設定する第1設定部と、構内において複数のエリアをレイアウトした構内モデルを保持する第2保持部と、複数の前記エリアの相互を結ぶよう前記構内モデルにレイアウトされた移動経路の選択優先度を決定させる経路パラメータを設定する第2設定部と、前記選択優先度に基づいて選択された前記移動経路を前記行動制約ルールに従って移動する複数の前記従業員の集合体挙動をシミュレーションするシミュレータと、前記シミュレーションに基づいて前記従業員の快適指数を推定する第1推定部と、前記シミュレーションに基づいて前記構内モデルにおけるCO2排出量及び電力使用量の少なくとも一方を推定する第2推定部と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明の実施形態により、CO2排出量の削減と従業員の快適度の向上とを両立させる施策の立案を支援し、事業所や工場における職場環境を改善する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る職場環境の改善支援装置を示すブロック図。
【
図2】建屋の区画及び移動経路がレイアウトされた構内モデルの概略図。
【
図3】第2実施形態に係る職場環境の改善支援装置を示すブロック図。
【
図4】第3実施形態に係る職場環境の改善支援装置の追加機能を説明するブロック図。
【
図5】実施形態に係る職場環境の改善支援方法の工程及び職場環境の改善支援プログラムのアルゴリズムを説明するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る職場環境の改善支援装置10A(10)を示すブロック図である。このように、職場環境の改善支援装置10A(10)は、組織に所属する従業員を識別した従業員情報15を保持する第1保持部11と、所属する従業員の行動を制約する行動制約ルール16を組織の各々固有に設定する第1設定部21と、構内(
図2)において複数のエリア26,27をレイアウトした構内モデル20を保持する第2保持部12と、複数のエリア26,27の相互を結ぶよう構内モデル20にレイアウトされた移動経路28(28
1,28
2,28
3,28
α,28
β,28
γ)の選択優先度を決定させる経路パラメータ17を設定する第2設定部22と、を備えている。
【0012】
さらに、職場環境の改善支援装置10A(10)は、この選択優先度に基づき選択された移動経路28を行動制約ルール16に従って移動する複数の従業員の集合体挙動をシミュレーションするシミュレータ18と、このシミュレーションに基づいて従業員の快適指数35を推定する第1推定部31と、このシミュレーションに基づいて構内モデル20におけるCO2排出量37及び電力使用量36の少なくとも一方を推定する第2推定部32と、を備えている。
【0013】
なお、実施形態におけるエリアは、特定の組織に専有される専有エリア26及び不特定の組織に共有される共有エリア27(27a,27b,27c)に分類し、両者を行き来する集合体挙動をシミュレーションする運用を例示している。しかし、そのような運用に限定されることはなく、構内が専有エリア26及び共有エリア27のいずれか一方のみでレイアウトされている場合や、両方がレイアウトされている場合であってもいずれか一方のエリア(専有エリア26又は共有エリア27)を行き来する集合体挙動をシミュレーションする場合もある。
【0014】
ここで、従業員情報15とは、経営目的を達成するために体系的に編成された組織に所属する従業員に関する情報で、構内で一般的に行っている勤怠管理や従業員管理のシステムから情報収集できるものである。従業員情報15は、具体的に、従業員の各々を識別するIDデータ、各々の従業員が所属する組織を識別するIDデータ、職務の分掌範囲や責任権原を定めた職制を識別するIDデータ、通勤手段を識別するIDデータ(マイカー通勤か、公共交通機関か)等を含む。構内には複数の組織の各々が活動拠点とする専有エリア26及び共有エリア27が有り、これら組織の各々には複数の従業員が所属され職制についている。
【0015】
行動制約ルール16とは、組織の各々固有に設定されているもので、特定の組織に所属する従業員の行動を一律に制約するものである。ただし、組織毎に全員を一律に制約するとは限らず、従業員の職制や事情に応じて一律に制約できる。行動制約ルール16としては、各々の組織に関連付けされる専有エリア26及び共有エリア27、並びにこれらに対する従業員の入退出時間、利用時間及び利用頻度等が挙げられる。
【0016】
図2は建屋の区画25及び移動経路28がレイアウトされた構内モデル20の概略図である。これら建屋は、複数の階層からなる建築物を想定しており、それぞれの階層又は各階層の一画に専有エリア26又は共有エリア27が設定される。移動経路28は、区画25の異なる建屋の間の移動だけでなく、図示されていないが、同じ建屋の階層又はその一画を相互に移動する従業員の動線も表す。このため建屋には、上下の階層に移動するため設けられた階段やエレベータ等の昇降手段にも移動経路28が設定されている。構内モデル20は、一~三次元の任意の次元を選択でき、例えば二次元平面のメッシュ状のマップや、三次元のCAD等が利用可能である。
【0017】
ここで、専有エリア26とは、特定の組織に所属する従業員が活動するエリアで、通常業務を行う居室や作業場等が挙げられる。また共有エリア27とは、不特定の組織の従業員が活動するエリアで、会議室、喫煙室、休憩スペース、食堂27a、売店27b、パーキングエリア45、グランド46等が挙げられる。また共有エリア27としては、構内モデル20の内部に設けられたものに限定されず、従業員の出退勤や外出の際に利用するステーション27c等といった構内モデル20の外部に設けられたもの含まれる。このように構内モデル20の外部に共有エリア27を設定する場合は、その際に通過する入退出ゲート47(47a,47b)に設定を置き換えて後述のシミュレーションが実行される。
【0018】
また物理的に同じエリアが、分類上、所定の従業員にとっては専有エリア26であるが、別の従業員にとっては共有エリア27となる場合もあり得る。また物理的に同じエリアに、複数の組織の専有エリア26が割り当てられることもあり得る。
【0019】
複数の専有エリア26と共有エリア27(27a,27c)が設定されると、これらの相互間を結ぶ1つまたは2つ以上の移動経路28(281,282,283,28α,28β,28γ)が設定される。そして、移動経路28の各々には、従業員の選択優先度を決定させる経路パラメータ17が定義されている。
【0020】
これは、移動経路28として複数の候補が存在する場合、両者の距離だけではなく、他の従業員との非混雑性、通行車両に対する安全性、通行の安心性(道が広い、直射日光や風雨を遮れる、整備されている等)等の因子で重み付けした経路パラメータ17で決まる選択優先度に基づきいずれかが選択される。経路パラメータ17は、従業員情報15に付随する属性情報(職制、性別、年齢、障害の有無等)を用いたり、利用する移動手段(徒歩、自転車、巡回バス)の区別によったりして、さらに定義づけされる場合もある。
【0021】
シミュレータ18は、この選択優先度に基づき選択された移動経路28を行動制約ルール16に従って移動する複数の従業員の集合体挙動をシミュレーションする。シミュレータ18は、具体的にマルチエージェントシミュレーションを行うシステムを例示しているが、人の行動のシミュレーションを行うその他の手法を採用することもできる。
【0022】
シミュレータ18では、構内モデル20における複数の従業員の集合体の挙動が、行動制約ルール16及び経路パラメータ17で設定されたシナリオに則って、シミュレーションされる。具体的に構内モデル20における一日の始まりは、構内で活動する従業員が、通勤手段でステーション27cやパーキング45に到着し、任意の移動経路28を通って、決められた専有エリア26に、決められた出勤時間に到着する。
【0023】
一日の終わりである退勤時は、上述した出勤時とは逆のシミュレーションとなる。なお、出退勤時のルートとして、入退出ゲート47(47a,47b)のいずれを通るかによって大きく2通りある。通退勤時に、移動経路28が混雑し、専有エリア26への到達時間が短時間で済めば快適指数35を向上させ、長時間になれば快適指数35を低下させる一因となる。このため、二つの入退出ゲート47(47a,47b)に人流が分割されてシミュレーションされるのが、行動制約ルール16及び経路パラメータ17の理想的な設定となる。
【0024】
そして、専有エリア26に到着した後は、シナリオ設定された通りの入退出時間、利用時間又は利用頻度で共有エリア27を任意の移動経路28を通って行き来する。具体的に業務時間において区画25の異なる建屋を行き来する場合は、利用する移動経路28を通行する車両等が多ければ、危険性が高まり快適指数35を低下させる一因となる。また、休憩スペース(図示略)を利用する場合も、利用者で混雑していればリラックスできず快適指数35を低下させる一因となる。
【0025】
そして、構内モデル20のランチタイムにおいて、食堂27aで済ませるか、売店27bで購入するか、弁当を持参するか、さらに専有エリア26の建屋内で食事するか又はグランド46等の屋外で食事するかは、行動制約ルール16及び経路パラメータ17で設定されたシナリオに従う集合体の挙動としてシミュレーションされる。このとき、目的の共有エリア27(食堂27aや売店27b)や移動経路28が混雑していれば、快適指数35を低下させる一因となる。一方、そのような混雑を緩和できれば、食事時間を短縮させて、ランチタイムにグランド46で軽い息抜き等ができ快適指数35の向上につながる。
【0026】
このような専有エリア26と共有エリア27の移動時間や、共有エリア27の混雑レベルは、行動制約ルール16及び経路パラメータ17の設定変更で調整が可能である。このようなシナリオ設定を変更しシミュレーションすることにより、従業員の快適指数35の変遷を調査できる。
【0027】
第1推定部31は、構内で活動する全ての従業員の集合体の挙動をシミュレーションし、従業員のそれぞれについて快適指数35を推定する。さらには、従業員の各々について推定された快適指数35を所属する組織毎に統計的に処理する。職場に対し従業員が感じる快適さに関し、次のような評価項目が含まれる。すなわち、1)利用する移動経路の合計時間、2)コミュニケーションの活発度、3)休憩(息抜き)の充実度、4)体感指標PMV(Predicted Mean Vote)等である。上記した評価項目は、シミュレーション結果及びその他の調査結果も踏まえて、定量的に評価される。
【0028】
第2推定部32は、集合体挙動のシミュレーション結果に基づいて構内モデル20における電力使用量36を推定する。さらにこの電力使用量36に基づいてCO2排出量37を推定する。専有エリア26と共有エリア27における電力使用量36(主に空調エネルギー、その他にOA機器や照明等)は、滞在している従業員の人数及びその滞在時間と相関関係を持つことが判っている。このため、従業員の集合体挙動のシミュレーション結果から電力使用量36(エネルギー消費量)を推定することができ、さらにCO2排出量37が推定される。
【0029】
なおエネルギー消費量36やCO2排出量37は、集合体挙動のシミュレーション結果のみに基づいて推定されるとは限らない。データの統計分析を行った数理モデルや、機械学習モデルによる時系列や温度等の条件に対する予測モデルを構築する等、過去データにも基づいて推定される場合もある。
【0030】
表示部38は、従業員の集合体の挙動のシミュレーション結果から推定された快適指数35及びCO2排出量37(もしくは電力使用量36)を表示する。この快適指数35及びCO2排出量37は、行動制約ルール16及び経路パラメータ17の設定に依存するものである。これより、快適指数35をより大きくCO2排出量37をより小さく両者がバランスのとれた状態となるよう、快適指数35及びCO2排出量37をさらに改善するきっかけが作られる。
【0031】
さらに、表示部38は、快適指数35及びCO2排出量37の両者がバランスのとれるように、人がいないエリアのOA機器、空調、電灯のOFFを改善策として指示したり、より快適的に過ごせるエリアを提示したりすることもできる。
【0032】
(第2実施形態)
次に
図3を参照して本発明における第2実施形態について説明する。
図3は第2実施形態に係る職場環境の改善支援装置10B(10)を示すブロック図である。第2実施形態の職場環境の改善支援装置10Bは、上述した第1実施形態の構成に更新部41と、変換部42とを追加し、さらにシミュレータ18が気象条件34及び車両の通行条件33を考慮してシミュレーションするようにした。なお、
図3において
図1と共通の構成又は機能を有する部分は、同一符号で示し、重複する説明を省略する。
【0033】
構内モデル20は、建屋の区画25の空地に仮想的な移動経路28を設定することができる。また従業員情報15も、仮想的に従業員の職制を変更したり勤務形態の扱いを変更したりすることができる。そして行動制約ルール16も、専有エリア26及び共有エリア27の入退出時間、利用時間及び利用頻度等といった行動制約を仮想的に変更することができる。さらに経路パラメータ17も、対応する移動経路28を仮想的に整備する等して重み付けを変化させ従業員による選択優先度を変更することができる。
【0034】
更新部41は、従業員情報15、行動制約ルール16、構内モデル20及び経路パラメータ17のうち少なくとも一つを更新することができる。これにより、構内における従業員の快適指数35及びCO2排出量37もシミュレーションすることができ、両者がバランスのとれた最適状態となるような改善策の立案を支援できる。
【0035】
規模の大きな事業所や工場では、構内を自動車や自転車が通行している。このような自動車や自転車の通行量は、時期や時間帯や移動経路28によっても変動が大きく、従業員の快適指数35への影響が大きい。また気象条件が、移動経路28の選択優先度に与える影響も大きく、快適指数35の変動要因である。例えば、気象条件が悪いときは、風雨をしのげるよう整備された移動経路28の選択優先度が高くなるといった具合である。
【0036】
また規模の大きな事業所や工場では、構内に太陽光パネル等、再生可能エネルギーによる発電設備を備えている場合がある。このような再生可能エネルギーによる発電量は気象条件に大きく依存し、気象条件が好い場合は枯渇性エネルギーが消費されずCO2排出量37が少なくなる。
【0037】
そこで変換部42は、構内モデル20におけるエネルギー消費量36を再生可能エネルギー及び枯渇性エネルギーに分類したうえで、枯渇性エネルギーの消費量から変換されたCO2排出量37を求める。また構内で消費されるエネルギーの種類がガス、石油、電気等のように複数であったり、またその導入源が電力会社からの購入や自家発電等のように複数であったりする。そのような場合も変換部42は、消費したエネルギーの種類や導入源に応じて、各々の消費量からCO2排出量37を求める。
【0038】
第2実施形態のシミュレータ18では、車両の通行条件33や気象条件34を考慮することで、シミュレーションされる快適指数35及びCO2排出量37の確度が向上せることができる。このような確度向上のため、シミュレータ18が考慮すべき情報としてその他には、設備の稼働率、その稼働スケジュール等が挙げられる。
【0039】
(第3実施形態)
次に
図4を参照して本発明における第3実施形態について説明する。
図4は第3実施形態に係る職場環境の改善支援装置の追加機能を説明するブロック図である。第3実施形態は、上述した第1実施形態及び第2実施形態の構成に第1収集部51と、第2収集部52と、第3収集部53と、更新部41と、をさらに追加した構成をとる。
【0040】
第1収集部51は、複数の中から選定された従業員の構内(
図2)における位置情報56を時間情報55と共に従業員情報15に紐付けて収集するものである。第2収集部52は、共有エリア27及び移動経路28の予め設定された位置情報56に滞留する従業員の混雑情報57を時間情報55と共に収集するものである。第3収集部53は、気象条件34とCO
2排出量37を時間情報55と共に収集するものである。更新部41は、従業員情報15に紐付く時間情報55、位置情報56、混雑情報57、気象条件34及びCO
2排出量37に基づいて更新した経路パラメータ17aを出力する。
【0041】
全ての従業員の中から一定割合の協力者を募り、就業中にバイタルセンサ及び位置計測センサの端末を装着してもらう。バイタルセンサからは、装着している従業員の、脈拍、呼吸、血圧、体温、歩数等のバイタル情報の実時間データが収集される。また位置計測センサからは、装着している従業員の、構内における位置情報56の時系列の実時間データが移動履歴として収集される。これら位置情報56やバイタル情報は、従業員が装着している端末から伝送手段50を介して第1収集部51に収集される。
【0042】
また一方において、共有エリア27や移動経路28の任意の箇所に定点カメラ等が配置されている。これら定点カメラ等から送信される映像情報を解析することで、対応する共有エリア27や移動経路28の混雑情報57の実時間データが第2収集部52に収集される。なお、混雑情報57は、専有エリア26及び共有エリア27に設置された、認証ゲートやLiDAR(Laser Imaging Detection and Ranging:レーザー画像検出)から得ることもできる。
【0043】
そして、共有エリア27や移動経路28の任意の箇所に、気温、湿度、気圧、風向、風力、雲量、雨量等の気象条件34の検出センサが配置されている。この検出センサからは、対応する共有エリア27又は移動経路28における気象条件34の実時間データが、伝送手段50を介して第3収集部53に収集される。
【0044】
導出部48では、このようにして収集された実時間データから高確度の快適指数35aを導出する。そして更新部41は、シミュレータ18で推定された快適指数35と実時間データから導出された快適指数35aとに基づいて経路パラメータ17aを更新する。
【0045】
図5のフローチャートに基づいて実施形態に係る職場環境の改善支援方法の工程及び職場環境の改善支援プログラムのアルゴリズムを説明する(適宜、
図1参照)。まず、従業員情報15を保持する(S11)。そして組織に各々固有の行動制約ルール16を設定する(S12)。
【0046】
次に、構内モデル20に専有エリア26及び共有エリア27(27a,27b,27c)をレイアウトし保持する(S13)。そして、経路パラメータ17を設定し移動経路28(281,282,283,28α,28β,28γ)の選択優先度を決定する(S14)。
【0047】
次に、複数の従業員の集合体挙動について、選択優先度に基づき選択された移動経路28を行動制約ルール16に従ってシミュレーションする(S15)。そして、このシミュレーション結果に基づいて従業員の快適指数35を推定する(S16)。さらに、このシミュレーション結果に基づいてCO2排出量37(又はエネルギー消費量36)を推定する(S17)。
【0048】
次に、快適指数35及びCO2排出量37が共に目標レベルに達しているか否かについて判断する(S18)。そして目標レベルに未達である場合(S18 Yes)、行動制約ルール16及び経路パラメータ17の少なくとも一方の設定を更新し(S19)、(S15)から(S17)のフローを繰り返す。このようにして、目標レベルに到達したところで(S18 No)、職場環境の改善にインセンティブやナッジが働く具体的な施策を立案し実施する(S20 END)。
【0049】
以上述べた少なくともひとつの実施形態の職場環境の改善支援装置によれば、従業員の行動制約ルールと移動経路のパラメータとを可変的に設定し、その集合体挙動をシミュレーションすることで、CO2排出量の削減と従業員の快適度の向上とを両立させる施策の立案を支援することが可能となる。
【0050】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0051】
以上説明した職場環境の改善支援装置は、専用のチップ、FPGA(Field Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などのプロセッサを高集積化させた制御装置と、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶装置と、HDD(Hard Disk Drive)やSSD(Solid State Drive)などの外部記憶装置と、ディスプレイなどの表示装置と、マウスやキーボードなどの入力装置と、通信I/Fとを、備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成で実現できる。このため職場環境の改善支援装置の構成要素は、コンピュータのプロセッサで実現することも可能であり、職場環境の改善支援プログラムにより動作させることが可能である
【0052】
また職場環境の改善支援プログラムは、ROM等に予め組み込んで提供される。もしくは、このプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されて提供するようにしてもよい。
【0053】
また、本実施形態に係る職場環境の改善支援プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせて提供するようにしてもよい。また、職場環境の改善支援装置は、構成要素の各機能を独立して発揮する別々のモジュールを、ネットワーク又は専用線で相互に接続し、組み合わせて構成することもできる。
【符号の説明】
【0054】
10(10A,10B)…改善支援装置、11…第1保持部、12…第2保持部、15…従業員情報、16…行動制約ルール、17(17a)…経路パラメータ、18…シミュレータ、20…構内モデル、21…第1設定部、22…第2設定部、25…区画、26…専有エリア、27…共有エリア、27a(27)…食堂(共有エリア)、27b(27)…売店(共有エリア)、27c(27)…ステーション(共有エリア)、28…移動経路、31…第1推定部、32…第2推定部、33…通行条件、34…気象条件、35(35a)…快適指数、36…エネルギー消費量(電力使用量)、37…排出量、38…表示部、41…更新部、42…変換部、45…パーキングエリア、46…グランド、47…入退出ゲート、48…導出部、50…伝送手段、51…第1収集部、52…第2収集部、53…第3収集部、55…時間情報、56…位置情報、57…混雑情報。