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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082741
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】試験装置および試験方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/34 20200101AFI20240613BHJP
【FI】
G01R31/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196802
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000227180
【氏名又は名称】日置電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(74)【代理人】
【識別番号】100176371
【弁理士】
【氏名又は名称】笹田 健
(72)【発明者】
【氏名】飯島 匡史
(72)【発明者】
【氏名】木村 英明
【テーマコード(参考)】
2G116
【Fターム(参考)】
2G116BA00
2G116BB01
2G116BC05
2G116BD06
2G116BD07
2G116BD13
(57)【要約】
【課題】試験時に巻線に印加される電圧のばらつきを抑える。
【解決手段】試験装置1において、指示受付部3が所定の指示を受け付けた場合に、電圧生成回路2が、所定の指示A1に対応付けられた電圧指令値Eeを補正係数Cによって補正した値Etに応じた電圧を生成して出力するとともに、補正係数算出部5が、電圧測定部4によって測定された電圧と電圧指令値Eeとのずれが小さくなるように、補正係数Cを更新し、試験対象の巻線の測定が実行されるとき、電圧生成回路2が測定に対応付けられた電圧指令値Emを補正係数Cによって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、解析結果生成部6が電圧測定部4によって測定された電圧に基づいて解析結果83を生成することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験対象の巻線の一方の端子が接続される第1外部端子と、前記試験対象の巻線の他方の端子が接続される第2外部端子と、
指示を受け付ける指示受付部と、
補正係数を算出する補正係数算出部と、
電圧指令値と前記補正係数とに基づいて電圧を生成し、前記第1外部端子と前記第2外部端子との間に出力する電圧生成回路と、
前記第1外部端子と前記第2外部端子との間の電圧を測定する電圧測定部と、
前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて、前記試験対象の巻線の電気的特性に係る解析を行い、解析結果を生成する解析結果生成部と、を有し、
前記指示受付部が所定の指示を受け付けた場合に、前記電圧生成回路が、前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値に基づいて電圧を生成して出力するとともに、前記補正係数算出部が、前記電圧測定部によって測定された電圧と前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値とのずれが小さくなるように、前記補正係数を算出し、
前記解析が実行される場合に、前記電圧生成回路が、前記解析に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、前記解析結果生成部が、前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて前記解析結果を生成する
試験装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試験装置において、
前記指示受付部が前記所定の指示を受け付けた場合に、前記電圧生成回路が、前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を有するパルスを指定された回数だけ出力するとともに、前記補正係数算出部が、前記パルスの出力毎に、前記補正係数を更新する
試験装置。
【請求項3】
請求項1に記載の試験装置において、
前記補正係数算出部は、前記電圧測定部によって測定された電圧と前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値との比に基づいて、前記補正係数を算出する
試験装置。
【請求項4】
請求項1に記載の試験装置において、
前記所定の指示は、コアを有する巻線における前記コアの磁化のばらつきを抑制するための電圧である消磁パルスの出力の指示であって、
前記補正係数の算出後に、前記指示受付部が前記解析の実行の指示を受け付けた場合に、前記電圧生成回路が、前記解析に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、前記解析結果生成部が、前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて前記解析結果を生成する、
試験装置。
【請求項5】
請求項1に記載の試験装置において、
前記所定の指示は、前記解析の実行の指示であって、
前記補正係数の算出後に、前記電圧生成回路が、前記測定に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、前記解析結果生成部が、前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて前記解析結果を生成する、
試験装置。
【請求項6】
請求項1に記載の試験装置において、
前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値は、前記測定に対応付けられた前記電圧指令値と一致している
試験装置。
【請求項7】
試験対象の巻線の一方の端子が接続される第1外部端子と、前記試験対象の巻線の他方の端子が接続される第2外部端子と、指示を受け付ける指示受付部と、補正係数を算出する補正係数算出部と、設定されている電圧指令値と前記補正係数とに基づいて電圧を生成し、前記第1外部端子と前記第2外部端子との間に出力する電圧生成回路と、前記第1外部端子と前記第2外部端子との間の電圧を測定する電圧測定部と、前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて、前記試験対象の巻線の電気的特性に係る解析を行い、解析結果を生成する解析結果生成部と、を備えた試験装置を用いた試験方法であって、
前記指示受付部が所定の指示を受け付ける第1ステップと、
前記第1ステップの後に、前記電圧生成回路が、前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力する第2ステップと、
前記電圧測定部が、前記第2ステップにおいて前記電圧生成回路が電圧を出力したときの前記第1外部端子と前記第2外部端子との間の電圧を測定する第3ステップと、
前記補正係数算出部が、前記第3ステップにおいて測定された電圧と前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値とのずれが小さくなるように、前記補正係数を算出する第4ステップと、
前記解析が実行される場合に、前記電圧生成回路が、前記解析に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力する第5ステップと、
前記電圧測定部が、前記第5ステップにおいて前記電圧生成回路が電圧を出力したときの前記第1外部端子と前記第2外部端子との間の電圧を測定する第6ステップと、
前記解析結果生成部が、前記第6ステップにおいて測定された電圧に基づいて、前記解析結果を生成する第7ステップと、を含む
試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試験装置および試験方法に関し、例えば、電動機および発電機などの回転機や変圧器等の、コイルにより構成される部品および製品の巻線の特性を測定するための試験装置および試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動機および発電機などの回転機の巻線の特性を測定するための試験装置として、試験対象の巻線にインパルス電圧を印加したときの電圧の変化に基づいて、巻線の電気的特性を測定するインパルス巻線試験装置が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5405518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に代表される従来のインパルス巻線試験装置は、インパルス巻線試験装置の内部に設けられた電圧生成回路によってインパルス電圧を生成し、巻線に印加する。このとき、電圧生成回路によって生成されるインパルス電圧と、巻線に実際に印加される電圧との間に差が生じる場合が多い。
【0005】
例えば、ユーザがインパルス巻線試験装置を操作してインパルス電圧を1000Vに設定し、電圧生成回路から1000Vのインパルス電圧が出力されたとき、試験対象の巻線に印加される電圧が、例えば、950V~980Vのように、設定した電圧(1000V)に対して低下し、また、ばらつく場合がある。この現象は、寄生容量、出力インピーダンス、過渡応答による電圧の低下および巻線自体の特性または巻線が有するコアの特性の製造上のばらつきに起因すると考えられる。また、コアを有する巻線は、ヒステリシスを有する磁気特性を有しているため、巻線に印加された電圧または電流の履歴により、コアの磁化の状態が変化する。そのため、コアを有する巻線の場合、コアの磁化の状態も印加電圧のばらつきの一因となると考えられる。このうち、電圧の低下は良品の測定により、試験対象の巻線に印加する電圧を低下する分だけ上昇させておくことにより補正し、コアの磁化のばらつきは後述する消磁パルスにより抑制することができる。
【0006】
しかしながら、製造上のばらつきに起因する印加電圧のばらつきは抑制することが難しい。そして、インパルス電圧の設定値が一定であるにも関わらず、試験対象の巻線に印加される電圧が巻線毎にばらつくことは、実質的な測定条件が一定にならないため、ユーザによる巻線の品質管理の観点において、好ましくない。
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、巻線の試験時に、巻線に印加される電圧のばらつきを抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の代表的な実施の形態に係る試験装置は、試験対象の巻線の一方の端子が接続される第1外部端子と、前記試験対象の巻線の他方の端子が接続される第2外部端子と、指示を受け付ける指示受付部と、補正係数を算出する補正係数算出部と、電圧指令値と前記補正係数とに基づいて電圧を生成し、前記第1外部端子と前記第2外部端子との間に出力する電圧生成回路と、前記第1外部端子と前記第2外部端子との間の電圧を測定する電圧測定部と、前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて、前記試験対象の巻線の電気的特性に係る解析を実行し、解析結果を生成する解析結果生成部と、を有し、前記指示受付部が所定の指示を受け付けた場合に、前記電圧生成回路が、前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、前記補正係数算出部が、前記電圧測定部によって測定された電圧と前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値とのずれが小さくなるように、前記補正係数を更新し、前記解析が実行される場合に、前記電圧生成回路が、前記解析に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、前記解析結果生成部が前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて、前記解析結果を生成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る試験装置によれば、巻線の試験時に、巻線に印加される電圧のばらつきを抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態に係る試験装置の構成を示す図である。
図2】電圧生成回路の構成の一例を示す図である。
図3】電圧生成回路から消磁パルスおよび測定パルスを出力したときのタイミングチャートである。
図4】消磁モードにおける試験装置による処理の流れを示すフローチャートである。
図5】試験モードにおける試験装置による処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
1.実施の形態の概要
先ず、本願において開示される発明の代表的な実施の形態について概要を説明する。なお、以下の説明では、一例として、発明の構成要素に対応する図面上の参照符号を、括弧を付して記載している。
【0012】
〔1〕本発明の代表的な実施の形態に係る試験装置(1)は、試験対象の巻線(11)の一方の端子が接続される第1外部端子(T1)と、前記試験対象の巻線の他方の端子が接続される第2外部端子(T2)と、指示を受け付ける指示受付部(3)と、補正係数を算出する補正係数算出部(5)と、電圧指令値と前記補正係数とに基づいて電圧を生成し、前記第1外部端子と前記第2外部端子との間に出力する電圧生成回路(2)と、前記第1外部端子と前記第2外部端子との間の電圧を測定する電圧測定部(4)と、前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて、前記試験対象の巻線の電気的特性に係る解析を実行し、解析結果を生成する解析結果生成部(6)と、を有し、前記指示受付部が所定の指示(A1)を受け付けた場合に、前記電圧生成回路が、前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、前記補正係数算出部が、前記電圧測定部によって測定された電圧と前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値とのずれが小さくなるように、前記補正係数を算出し、前記解析が実行される場合に、前記電圧生成回路が、前記解析に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、前記解析結果生成部が前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて、前記解析結果を生成することを特徴とする。
【0013】
〔2〕上記〔1〕に記載の試験装置において、前記指示受付部が前記所定の指示を受け付けた場合に、前記電圧生成回路が、前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧(Et)を有するパルスを、指定された出力回数だけ出力するとともに、前記補正係数算出部が、前記パルスの出力毎に前記補正係数を更新してもよい。
【0014】
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の試験装置において、前記補正係数算出部は、前記電圧測定部によって測定された電圧(V)と前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値(Ee)との比に基づいて、前記補正係数を更新してもよい。
【0015】
〔4〕上記〔1〕乃至〔3〕の何れかに記載の試験装置において、前記所定の指示は、コアを有する巻線における前記コアの磁化のばらつきを抑制するための電圧である消磁パルスの出力の指示(A1)であって、前記補正係数の算出後に前記指示受付部が前記解析の実行の指示(A2)を受け付けた場合に、前記電圧生成回路が、前記解析に対応付けられた前記電圧指令値(Em)を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、前記解析結果生成部が、前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて前記解析結果を生成してもよい。
【0016】
〔5〕上記〔1〕乃至〔3〕の何れかに記載の試験装置において、前記所定の指示は、前記解析の実行の指示(A2)であって、前記補正係数の算出後に、前記電圧生成回路が、前記解析に対応付けられた前記電圧指令値(Em)を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、前記解析結果生成部が、前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて前記解析結果を生成してもよい。
【0017】
〔6〕上記〔1〕乃至〔4〕の何れかに記載の試験装置において、前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値(Ee)は、前記測定に対応付けられた前記電圧指令値(Em)と一致していてもよい。
【0018】
〔7〕本発明の代表的な実施の形態に係る方法は、試験対象の巻線の一方の端子が接続される第1外部端子と、前記試験対象の巻線の他方の端子が接続される第2外部端子と、指示を受け付ける指示受付部と、補正係数を算出する補正係数算出部と、設定されている電圧指令値と前記補正係数とに基づいて電圧を生成し、前記第1外部端子と前記第2外部端子との間に出力する電圧生成回路と、前記第1外部端子と前記第2外部端子との間の電圧を測定する電圧測定部と、前記電圧測定部によって測定された電圧に基づいて、前記試験対象の巻線の電気的特性に係る解析を実行し、解析結果を生成する解析結果生成部と、を備えた試験装置を用いた試験方法である。本方法は、前記指示受付部が所定の指示を受け付ける第1ステップ(S1,S2)と、前記第1ステップの後に、前記電圧生成回路が、前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力する第2ステップ(S3~S6)と、前記電圧測定部が、前記第2ステップにおいて前記電圧生成回路が電圧を出力したときの前記第1外部端子と前記第2外部端子との間の電圧を測定する第3ステップ(S7)と、前記補正係数算出部が、前記第3ステップにおいて測定された電圧と前記所定の指示に対応付けられた前記電圧指令値とのずれが小さくなるように、前記補正係数を算出する第4ステップ(S8)と、前記解析が実行される場合に、前記電圧生成回路が、前記解析に対応付けられた前記電圧指令値を前記補正係数によって補正した値に応じた電圧を生成して出力する第5ステップ(S13~S16)と、前記電圧測定部が、前記第5ステップにおいて前記電圧生成回路が電圧を出力したときの前記第1外部端子と前記第2外部端子との間の電圧を測定する第6ステップ(S17)と、前記解析結果生成部が、前記第6ステップにおいて測定された電圧に基づいて前記解析結果を生成する第7ステップ(S19)と、を含むことを特徴とする。
【0019】
2.実施の形態の具体例
以下、本発明の実施の形態の具体例について図を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0020】
図1は、実施の形態に係る試験装置1の構成を示す図である。
図1に示す試験装置1は、電動機および発電機等の回転機や変圧器等の電気機器を構成する巻線(コイル)の電気的特性を解析する装置である。例えば、試験装置1は、試験対象の巻線に電圧(インパルス電圧)を印加したときの電圧の変化に基づいて、試験対象の巻線に関するパラメータである等価インダクタ、等価キャパシタ、および等価抵抗の少なくとも一つの値を算出するインパルス巻線試験装置である。
【0021】
試験装置1は、巻線の電気的特性を解析する機能に加え、コアを有する巻線におけるコアの磁化のばらつきを抑制するための電圧(以下、「消磁パルス」とも称する。)を出力する機能を有している。また、試験装置1は、巻線の試験時に巻線に印加する電圧のばらつきを抑える機能を更に有している。
【0022】
試験装置1は、上述した機能を実現するための機能部として、例えば、図1に示すように、外部端子T1,T2、電圧生成回路2、指示受付部3、電圧測定部4、補正係数算出部5、解析結果生成部6、出力部7、および記憶部8を有している。
【0023】
外部端子T1,T2は、試験対象物(DUT)としての巻線11を接続するための端子である。例えば、外部端子T1には、巻線11の一方の端子が接続され、外部端子T2には、巻線11の他方の端子が接続される。
【0024】
電圧生成回路2は、外部端子T1,T2間に接続された試験対象の巻線11に対して所望の電圧を印加するための回路である。以下、巻線11の試験時に電圧生成回路2から出力されるインパルス電圧を「測定パルス」と称し、上述したように試験対象の巻線11のコアの磁化のばらつきを抑制するための、電圧生成回路2から出力されるインパルス電圧を「消磁パルス」と称する。
【0025】
電圧生成回路2は、後述する電圧指令値Eと補正係数Cに基づいて電圧を生成し、外部端子T1と外部端子T2との間に出力する。なお、電圧生成回路2による電圧の生成方法の詳細については、後述する。
【0026】
指示受付部3は、試験装置1に対する指示を受け付ける機能部である。指示受付部3は、例えば、ユーザによる試験装置1への操作を受け付ける操作ボタンやタッチパネル等の入力インターフェース装置と、CPUによるプログラム処理とによって実現されている。
【0027】
指示受付部3は、例えば、外部の機器と有線または無線により通信を行うための通信回路を有していてもよい。例えば、指示受付部3は、試験装置1と有線または無線のネットワークによって接続された情報処理装置(例えば、PCやタブレット端末等)から送信された信号を通信回路によって受信し、受信した信号に応じた処理の実行を他の機能部に対して指示してもよい。
【0028】
指示受付部3は、例えば、第1指示A1と第2指示A2を受け付ける。第1指示A1および第2指示A2は、上述した操作ボタンやタッチパネル等に対するユーザの操作、または通信回路によって受信した信号等によって入力される。
【0029】
第1指示A1は、例えば、消磁パルスの出力の指示である。第1指示A1は、例えば、消磁パルスの出力条件に関する情報(以下、「消磁パルス情報」)84と対応付けられている。消磁パルス情報84は、例えば、消磁パルスの大きさ(振幅)を指定する電圧指令値Eeと、消磁パルスを出力する回数を指定する指定出力回数Neと、を含む。なお、消磁パルス情報84は、第1指示A1に含まれていてもよい。
【0030】
第2指示A2は、例えば、試験対象の巻線11の電気的な特性に係る解析の実行を示す指示である。第2指示A2は、試験条件としての測定パルスに関する情報(以下、「測定パルス情報」とも称する。)87に対応付けられている。測定パルス情報87は、例えば、測定パルスの大きさ(振幅)を指定する電圧指令値Emと、試験時に測定パルスを出力する回数を指定する指定出力回数Nmと、を含む。測定パルス情報87は、第2指示A2に含まれていてもよい。
【0031】
指示受付部3は、測定パルス情報87(電圧指令値Emおよび指定出力回数Nm)を受け付けた場合に、測定パルス情報87を記憶部8に記憶する。また、指示受付部3は、消磁パルス情報84(電圧指令値Eeおよび指定出力回数Ne)を受け付けた場合に、消磁パルス情報84を記憶部8に記憶する。
【0032】
なお、測定パルス情報87は、第2指示A2に含まれていなくてもよい。例えば、測定パルス情報87は、測定パルスを出力する前に試験装置1(記憶部8)に設定されていればよく、第2指示A2が入力される前にユーザが指示受付部3に入力してもよいし、予め記憶部8に記憶されていてもよい。消磁パルス情報84も同様に、消磁パルスを出力する前に試験装置1に設定されていればよく、第1指示A1が入力される前にユーザが指示受付部3に入力してもよいし、予め記憶部8に記憶されていてもよい。
【0033】
なお、指示受付部3は、上述した消磁パルス情報84および測定パルス情報87の他に、測定条件として、後述するサンプリング周波数の情報等が入力された場合には、それらを記憶部8に記憶してもよい。
【0034】
電圧測定部4は、外部端子T1と外部端子T2との間の電圧(端子間電圧)Vを測定する機能部である。電圧測定部4は、電圧Vの測定値(電圧測定値)81を記憶部8に記憶する。
【0035】
具体的に、電圧測定部4は、電圧Vを所定のサンプリング周期でサンプリングすることにより、電圧Vの測定値を取得する。電圧測定部4は、例えば、外部端子T1と外部端子T2との間の電圧Vを分圧する抵抗分圧回路と、抵抗分圧回路によって分圧された電圧を所定のサンプリング周期でデジタル信号に変換するA/D変換回路と、を含んで構成されている。電圧測定部4は、例えば、電圧Vを所定のサンプリング周期でサンプリングすることにより、電圧Vの測定値(サンプリングデータ)の時系列データを取得し、電圧測定値81として記憶部8に記憶する。なお、サンプリング周期は、例えば、ユーザが指示受付部3を操作することによって設定してもよいし、外部装置から指示受付部3を介して設定してもよい。
【0036】
補正係数算出部5は、補正係数Cを算出する機能部である。
補正係数Cは、外部端子T1,T2間から出力される電圧が所望の値になるように、電圧指令値を補正するためのパラメータである。
【0037】
補正係数Cは、補正係数情報82として記憶部8に記憶されている。例えば、予め、補正係数の初期値(補正係数C0)が補正係数情報82として記憶されている。補正係数算出部5は、補正係数Cを算出する度に、補正係数情報82内の補正係数Cを更新する。なお、補正係数C0(初期値)は、ユーザが指示受付部3を操作することによって設定してもよいし、外部機器が指示受付部3を介して設定してもよい。本実施の形態では、一例として、補正係数C0が予め記憶部8に記憶されているものとし、補正係数C0=1.000とする。なお、補正係数算出部5による補正係数Cの算出(更新)方法については、後述する。
【0038】
解析結果生成部6は、電圧測定部4によって測定された電圧Vに基づいて、試験対象の巻線11の電気的特性に係る解析結果を生成する機能部である。解析結果生成部6は、試験対象の巻線11の電気的特性の解析として、外部端子T1,T2に間に接続された巻線11に電圧(インパルス電圧)を印加したときの外部端子T1,T2間の電圧Vの過渡応答特性に基づいて、公知の解析手法にしたがって、例えば、巻線11に関するパラメータである等価インダクタ、等価キャパシタ、および等価抵抗の少なくとも一つの値を算出する。
【0039】
出力部7は、試験条件を設定するための情報や解析結果の情報等を出力する機能部である。出力部7は、例えば、液晶ディスプレイ等の表示装置によって実現されている。表示装置は、試験条件を設定するための情報や解析結果の情報等を画面上に表示してもよい。また、表示装置は、電圧測定部4によって測定された電圧の過渡応答特性をグラフとして画面に表示してもよい。
【0040】
なお、出力部7は、例えば、上記表示装置に加えて(または、代えて)、外部の情報処理装置と有線または無線によって解析結果等のデータを送信する通信回路や、試験装置1に接続された記憶装置(メモリカード等)に解析結果等のデータを書き込む回路等を含んでいてもよい。
【0041】
記憶部8は、試験装置1がインパルス巻線試験装置として機能するためのプログラムや各種パラメータ、試験対象の巻線11の解析結果等を記憶するための機能部である。記憶部8には、例えば、上述した電圧測定値81、補正係数情報82、解析結果83、消磁パルス情報84、および測定パルス情報87等が記憶される。
【0042】
上述した補正係数算出部5、解析結果生成部6、および記憶部8は、例えば、プログラム処理装置によって実現されている。具体的には、CPU等のプロセッサと、RAM、ROM等の各種記憶装置と、カウンタ(タイマ)、A/D変換回路、D/A変換回路、クロック発生回路、および入出力インターフェース回路等の周辺回路とがバスや専用線を介して互いに接続された構成を有するプログラム処理装置(例えばマイクロコントローラ)において、プロセッサがメモリに記憶されているプログラムに従って各種演算処理を実行し、その処理結果に基づいて上記周辺回路を制御することによって、補正係数算出部5、解析結果生成部6、および記憶部8が実現されている。
【0043】
なお、試験装置1を構成する機能部の一部を、試験装置1と通信可能な外部の情報処理装置(例えば、PC、タブレット端末のような携帯端末、サーバ等)において実現してもよい。例えば、出力部7が、電圧測定値81等を外部の情報処理装置に送信することにより、当該情報処理装置によって解析結果生成部6を実現してもよい。
【0044】
ここで、電圧生成回路2の構成について説明する。
【0045】
図2は、電圧生成回路2の構成の一例を示す図である。
図2に示すように、電圧生成回路2は、例えば、スイッチSW、インパルス電圧印加用キャパシタCs、電流制限抵抗Rs、整流素子D、および出力制御部20を有している。
【0046】
インパルス電圧印加用キャパシタCsは、インパルス電圧を発生させるための電荷を充電するキャパシタである。インパルス電圧印加用キャパシタCsの一端は、外部端子T2に接続されている。
【0047】
スイッチSWは、インパルス電圧の出力の可否を切り替えるための素子である。スイッチSWは、例えば、パワートランジスタやサイリスタ等の半導体素子によって実現されている。スイッチSWは、インパルス電圧印加用キャパシタCsの他端と外部端子T1との間に接続されている。
【0048】
電流制限抵抗Rsは、インパルス電圧印加用キャパシタCsを放電したときに、外部端子T1から試験対象の巻線11に流れる電流を制限するための素子である。電流制限抵抗Rsは、インパルス電圧印加用キャパシタCsの他端と外部端子T1との間にスイッチSWと直列に接続されている。
【0049】
整流素子Dは、インパルス電圧印加用キャパシタCs側から外部端子T1側への電流を通過させ、外部端子T1側からインパルス電圧印加用キャパシタCs側への電流を遮断する素子である。整流素子Dは、例えば、ダイオードである。なお、以下の説明において、整流素子Dを「逆流防止ダイオードD」とも表記する。
【0050】
逆流防止ダイオードDは、インパルス電圧印加用キャパシタCsの他端と外部端子T1との間にスイッチSWおよび電流制限抵抗Rsと直列に接続されている。例えば、逆流防止ダイオードDのアノード電極が電流制限抵抗Rsの一端に接続され、逆流防止ダイオードDのカソード電極が外部端子T1に接続されている。
【0051】
出力制御部20は、指示受付部3からの指示に応じて、インパルス電圧印加用キャパシタCsの充電および放電を制御する機能部である。出力制御部20は、例えば、上述したプログラム処理装置(マイクロコントローラ)によって実現されている。
【0052】
出力制御部20は、指示受付部3からの指示に応じて、消磁パルス情報84および測定パルス情報87に基づいてインパルス電圧印加用キャパシタCsの充電電圧およびスイッチSWを制御することにより、外部端子T1,T2間に電圧Vを発生させる。例えば、出力制御部20は、スイッチSWを開いた状態において、直流電源(不図示)によってインパルス電圧印加用キャパシタCsを所望の電圧になるまで充電し、その後、スイッチSWを閉じることにより、外部端子T1,T2間に電圧Vを発生させる。
【0053】
このとき、上述したように、試験対象である巻線11の特性等のばらつきにより、外部端子T1,T2から巻線11に印加される電圧Vがばらつく場合がある。すなわち、電圧指令値を“Em”とし、インパルス電圧印加用キャパシタCsの電圧が“Em”となるようにインパルス電圧印加用キャパシタCsを充電し、スイッチSWによってインパルス電圧印加用キャパシタCsを放電したとき、外部端子T1,T2から巻線11に印加される電圧Vは、“Em”と異なることがある(V≠Em)。さらに、特性等のばらつきによって試験対象の巻線11毎に電圧Vが異なる値になる場合がある。
【0054】
そこで、出力制御部20は、外部端子T1,T2から巻線11に印加される電圧Vが所望の値となるように算出された補正係数Cを用いて電圧指令値Emを補正し、インパルス電圧印加用キャパシタCsの電圧が電圧指令値Emを補正係数Cによって補正した値になるように、インパルス電圧印加用キャパシタCsを充電する。そして、出力制御部20は、スイッチSWによってインパルス電圧印加用キャパシタCsを放電させることにより、所望の値の電圧Vを巻線11に印加する。
【0055】
次に、試験装置1による補正係数Cの算出方法について、説明する。
【0056】
上述したように、補正係数Cは、外部端子T1,T2間から出力される電圧が所望の値になるように電圧指令値を補正するためのパラメータである。補正係数Cは、補正係数算出部5によって算出され、更新される。
【0057】
指示受付部3が所定の指示を受け付けた場合に、電圧生成回路2が、所定の指示に対応付けられた電圧指令値を補正係数Cによって補正した値に応じた電圧(設定電圧)Etを生成して出力する。補正係数算出部5は、電圧測定部4によって測定された電圧Vと所定の指示に対応付けられた電圧指令値とのずれが小さくなるように、補正係数Cを更新する。
【0058】
ここで、所定の指示は、例えば、上述した第1指示A1(消磁パルスの出力の指令)または第2指示A2(巻線11の電気的特性に係る解析の実行の指令)である。本実施の形態では、一例として、所定の指示が第1指示A1であるとして説明する。
【0059】
具体的に、指示受付部3が第1指示を受け付けた場合に、電圧生成回路2が、第1指示A1に対応付けられた電圧指令値、すなわち消磁パルス情報84に含まれる電圧指令値Eeに基づいて電圧を生成して出力する。次に、補正係数算出部5が、電圧測定部4によって測定された電圧と第1指示A1に対応付けられた電圧指令値Eeとのずれが小さくなるように、補正係数Cを算出する。
【0060】
このとき、補正係数算出部5は、電圧測定部4によって測定された電圧Vと所定の指示に対応付けられた電圧指令値(Ee)との比に基づいて、補正係数Cを算出してもよい。例えば、更新前の補正係数をCn-1、更新後の補正係数をCnとしたとき、補正係数算出部5は、下記式(1)に基づいて、補正係数Cnを算出(更新)してもよい。
【0061】
【数1】
【0062】
また、補正係数算出部5は、パルスの出力毎に、補正係数Cを更新してもよい。具体的には、指示受付部3が所定の指示を受け付けた場合に、電圧生成回路2が、所定の指示に対応付けられた電圧指令値を補正係数によって補正した値に応じた電圧を有するパルスを、指定された回数だけ出力するとともに、補正係数算出部5が、パルスの出力毎に補正係数Cを更新してもよい。
例えば、指示受付部3が第1指示A1を受け付けた場合に、電圧生成回路2は、消磁パルスの電圧指令値Eeを補正係数Cによって補正した値に応じた電圧(Et=Ee×C)を有する消磁パルスを、指定された回数(指定出力回数)Neだけ出力する。補正係数算出部5は、消磁パルスが出力される毎に測定された電圧V、電圧指令値Ee、および直前の補正係数Cn-1とに基づいて、補正係数Cnを更新してもよい。
以下、補正係数Cの算出手順について説明する。
【0063】
図3は、電圧生成回路2から消磁パルスおよび測定パルスを出力したときのタイミングチャートである。
【0064】
図3には、図3の上部側から順に、電圧生成回路2から出力される消磁パルスおよび測定パルスの印加タイミング及び大きさ、外部端子T1,T2間の電圧、補正係数、試験装置1の動作モードの時間的な変化が示されている。
【0065】
試験装置1は、動作モードとして、例えば、試験装置1への指示の入力を待つ“待機モード(待機状態)”と、“消磁モード”と、“試験モード”と、を有している。試験装置1は、消磁モードにおいて消磁パルスを出力して試験対象の巻線11の磁化のばらつきを抑制するとともに補正係数Cの算出(更新)を行い、試験モードにおいて、測定パルスを出力して試験対象の巻線11の電気的特性を解析する。
【0066】
図4は、消磁モードにおける試験装置1による処理の流れを示すフローチャートである。
【0067】
例えば、図3の時刻t0において試験装置1に電源が投入されたとき、試験装置1は、“待機モード”となる。待機モードにおいて、試験装置1は、指示受付部3が第1指示A1を受け付けたか否かを判定する(ステップS1)。指示受付部3が第1指示A1を受け付けていない場合(ステップS1:NO)、試験装置1は待機モードを維持する。
【0068】
例えば、図3の時刻t1において、指示受付部3が第1指示A1を受け付けた場合(ステップS1:YES)、試験装置1は、消磁モードになる(ステップS2)。
【0069】
消磁モードにおいて、試験装置1は、消磁パルスの条件を設定する(ステップS3)。具体的には、電圧生成回路2の出力制御部20が、記憶部8に記憶されている消磁パルス情報84としての消磁パルスの電圧指令値Eeおよび指定出力回数Neと、補正係数情報82に含まれる補正係数Cとを読み出す。ここでは、電圧指令値Ee=1000V、指定出力回数Ne=2、補正係数C=C0(初期値)=1.000であったとする。
【0070】
次に、出力制御部20が、電圧指令値Eeと補正係数Cとに基づいて、次に出力すべき消磁パルスの設定電圧Etを決定する(ステップS4)。例えば、出力制御部20は、電圧指令値Eeに補正係数C0を乗算した値(=Ee×C0=1000V)を消磁パルスの設定電圧Etとする。
【0071】
次に、出力制御部20は、インパルス電圧印加用キャパシタCsの電圧が設定電圧Et(=1000V)となるように、図示されていない直流電源によってインパルス電圧印加用キャパシタCsを充電する(ステップS5)。
【0072】
次に、試験装置1が1回目の消磁パルスを出力する(ステップS6)。具体的には、図3の時刻t2において、出力制御部20がスイッチSWをオンする。これにより、インパルス電圧印加用キャパシタCsに充電されていた電荷が電流制限抵抗Rsおよび逆流防止ダイオードDを通って放電され、外部端子T1,T2間に電圧(振幅)Vの消磁パルスが発生する。ステップS6において消磁パルスが出力されるとき、電圧測定部4が外部端子T1,T2間の電圧Vの測定を開始する(ステップS7)。
【0073】
次に、補正係数算出部5が補正係数Cを算出する(ステップ8)。具体的には、図3に示すように、補正係数算出部5が、電圧測定部4によって測定された外部端子T1,T2間の電圧Vの最大値を取得し、ステップS4において決定した設定電圧Etと、ステップS7において測定された電圧Vの最大値Vmaxと、直前の補正係数Cとに基づいて、新たな補正係数Cを算出する。例えば、Vmax=920Vであり、直前の補正係数をC0(初期値)とし、補正後の補正係数をC1とした場合、補正係数算出部5は、下記式(2)に基づいて補正係数C1を算出し、補正係数C1を補正係数情報82として記憶部8に記憶する。これにより、記憶部8の補正係数情報82が更新される。
【0074】
【数2】
【0075】
次に、試験装置1は、消磁パルスの出力回数が指定出力回数Neに到達したか否かを判定する(ステップS9)。消磁パルスの出力回数が指定出力回数Neに到達していない場合(ステップS9:NO)、試験装置1は、ステップS4~S9を再度実行する。
【0076】
上述の例の場合、指定出力回数Ne=2に対して消磁パルスを1回しか出力していないため、試験装置1はステップS4に戻り、出力制御部20が、先ず、次に出力すべき消磁パルスの設定電圧Etを決定する(ステップS4)。例えば、出力制御部20は、電圧指令値Eeに更新された補正係数C1を乗算した値(=Ee×C=1000×1.087=1087V)を2回目に出力すべき消磁パルスの設定電圧Etとする。
【0077】
次に、出力制御部20は、インパルス電圧印加用キャパシタCsの電圧が設定電圧Et(=1087V)となるように、図示されていない直流電源によってインパルス電圧印加用キャパシタCsを充電する(ステップS5)。
【0078】
次に、試験装置1が2回目の消磁パルス(=1087V)を出力する(ステップS6)。具体的には、図3の時刻t3において、出力制御部20がスイッチSWをオンする。これにより、インパルス電圧印加用キャパシタCsに充電されていた電荷が電流制限抵抗Rsおよび逆流防止ダイオードDを通って放電され、外部端子T1,T2間に電圧(振幅)Vの消磁パルスが発生する。ステップS6において2回目の消磁パルスが出力されるとき、電圧測定部4が外部端子T1,T2間の電圧Vの測定を開始する(ステップS7)。
【0079】
次に、補正係数算出部5が補正係数を算出(更新)する(ステップ8)。具体的には、図3に示すように、補正係数算出部5が、電圧測定部4によって測定された外部端子T1,T2間の電圧Vの最大値を取得し、ステップS4において決定した設定電圧Etと、ステップS7において測定された電圧Vの最大値Vmaxと、直前の補正係数Cとに基づいて、補正係数Cを更新する。例えば、時刻t3以降に測定された電圧Vの最大値Vmaxが1007Vであり、直前の補正係数をC1(=1.087)とし、補正後の補正係数をC2とした場合、補正係数算出部5は、下記式(3)に基づいて補正係数C2を算出し、補正係数C2を補正係数情報82として記憶部8に記憶する。これにより、記憶部8の補正係数情報が更新される。
【0080】
【数3】
次に、試験装置1は、消磁パルスの出力回数が指定出力回数Neに到達したか否かを判定する(ステップS9)。上述の例の場合、消磁パルスの出力回数(=2)が指定出力回数Ne(=2)に到達しているため(ステップS9:YES)、試験装置1は、補正係数Cを更新する処理を終了する(ステップS10)。その後、試験装置1は、例えば、消磁モードから待機モードに切り替わる。
【0081】
以上の処理により、試験対象の巻線11に所望の電圧を印加するための補正係数Cを算出することができる。なお、上述の例では、消磁パルスの指定出力回数Ne(補正係数の更新回数)を“2”とする場合を例示したが、これに限られず、指定出力回数Neは1以上であればよい。
【0082】
次に、試験モードにおける試験装置1による処理について説明する。
試験対象の巻線11の電気的特性に係る解析が実行される場合に、電圧生成回路2が、試験対象の巻線11の電気的特性に係る解析に対応付けられた電圧指令値を補正係数Cによって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、解析結果生成部6が、電圧測定部4によって測定された電圧に基づいて解析結果83を生成する。
【0083】
ここで、試験対象の巻線11の電気的特性に係る解析に対応付けられた電圧指令値とは、例えば、測定パルス情報87の電圧指令値Emである。
【0084】
例えば、補正係数の算出後に指示受付部3が試験対象の巻線11の電気的特性に係る解析の実行を指示する第2指示A2を受け付けた場合に、電圧生成回路2が、第2指示A2に対応付けられた電圧指令値Emを補正係数Cによって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、解析結果生成部6が、電圧測定部4によって測定された電圧に基づいて解析結果83を生成する。
【0085】
図5は、試験モードにおける試験装置1による処理の流れを示すフローチャートである。
【0086】
以下の説明において、試験モードにおける処理を実行する前に、上述した補正係数Cの更新処理(図4)が実行され、補正係数情報82として補正係数C2(=1.079)が記憶部8に記憶されているものとする。
【0087】
例えば、試験装置1は、待機モードにおいて、指示受付部3が第2指示A2を受け付けたか否かを判定する(ステップS11)。指示受付部3が第2指示A2を受け付けていない場合(ステップS11:NO)、試験装置1は待機モードを維持する。
【0088】
例えば、図3の時刻t4において、指示受付部3が第2指示A2を受け付けた場合(ステップS11:YES)、試験装置1は、試験モードになる(ステップS12)。
【0089】
試験モードにおいて、試験装置1は、測定パルスの条件を設定する(ステップS3)。具体的には、出力制御部20が、記憶部8に記憶されている測定パルス情報87としての電圧指令値Emおよび指定出力回数Nmと、補正係数情報82に含まれる補正係数C2とを読み出す。ここでは、電圧指令値Em=1000V、指定出力回数Ne=1、補正係数C2=1.079であったとする。
【0090】
次に、出力制御部20が、電圧指令値Emと補正係数C2とに基づいて、次に出力すべき測定パルスの設定電圧Etを決定する(ステップS14)。例えば、出力制御部20は、電圧指令値Emに補正係数C2を乗算した値(=Em×C2=1079V)をインパルス電圧印加用キャパシタCsに設定すべき設定電圧Etとする。
【0091】
次に、出力制御部20が、インパルス電圧印加用キャパシタCsの電圧が設定電圧Et(=1079V)となるように、図示されていない直流電源によってインパルス電圧印加用キャパシタCsを充電する(ステップS15)。
【0092】
次に、試験装置1が測定パルス(=1079V)を出力する(ステップS16)。具体的には、図3の時刻t5において、出力制御部20がスイッチSWをオンする。これにより、インパルス電圧印加用キャパシタCsに充電されていた電荷が電流制限抵抗Rsおよび逆流防止ダイオードDを通って放電され、外部端子T1,T2間に電圧(振幅)Vの測定パルスが発生する。ステップS16において測定パルスが出力されるとき、電圧測定部4が外部端子T1,T2間の電圧Vの測定を開始し、電圧Vの測定結果を電圧測定値81として記憶部8に記憶する(ステップS17)。このとき、補正係数C2によってインパルス電圧印加用キャパシタCsの設定電圧Etが調整されているので(Et=1079V)、電圧Vの最大値は、約1000Vになる。
【0093】
次に、試験装置1は、測定パルスの出力回数が指定出力回数Nmに到達したか否かを判定する(ステップS18)。測定パルスの出力回数が指定出力回数Nmに到達していない場合(ステップS18:NO)、試験装置1は、ステップS14~S18を再度実行する。
【0094】
上述の例の場合、測定パルスの出力回数(=1)が指定出力回数Nm(=1)に到達しているため(ステップS18:YES)、試験装置1は、試験対象の巻線11の電気的特性の解析処理を実行する(ステップS19)。具体的には、解析結果生成部6が、上述した手法により、ステップS17において測定した電圧測定値81を用いて、巻線11の各種パラメータを算出し、解析結果83として記憶部8に記憶するとともに、出力部7が、例えば、巻線11の解析結果83に係る情報を表示装置の画面に表示する。その後、試験装置1は、例えば、試験モードから待機モードに切り替わる。
【0095】
以上、実施の形態に係る試験装置1において、指示受付部3が所定の指示(例えば、第1指示A1)を受け付けた場合に、電圧生成回路2が、所定の指示に対応付けられた電圧指令値(例えば、電圧指令値Ee)を補正係数Cによって補正した値に応じた電圧(設定電圧Et=Ee×C)を生成して出力し、補正係数算出部5が、電圧測定部4によって測定された電圧Vと所定の指示に対応付けられた電圧指令値(Ee)とのずれが小さくなるように、補正係数Cを更新する。また、巻線11の電気的特性に係る解析が実行されるとき、電圧生成回路2が、巻線11の電気的特性に係る解析に対応付けられた電圧指令値(例えば、電圧指令値Em)を補正係数Cによって補正した値に応じた電圧(設定電圧Et=Em×C)を生成して出力し、解析結果生成部6が、そのときの電圧測定部4によって測定された電圧Vに基づいて、解析結果83を生成する。
【0096】
これによれば、試験対象の巻線11に印加する電圧が所望の大きさになるように補正係数Cが調整され、調整された補正係数Cに基づいて試験対象の巻線11に印加すべき測定パルスの電圧が決定することができるので、試験対象の巻線11に印加される電圧が、試験対象の巻線11の特性等に起因してばらつくことを抑制することが可能となる。
【0097】
また、試験装置1において、指示受付部3が所定の指示を受け付けた場合に、電圧生成回路2が、所定の指示に対応付けられた電圧指令値を補正係数によって補正した値に応じた電圧を有するパルスを指定された回数だけ出力するとともに、補正係数算出部5がパルスの出力毎に補正係数を更新してもよい。
【0098】
これによれば、試験を行う前に試験対象の巻線11に印加するパルス(例えば、消磁パルス)の出力回数を増やすほど、補正係数Cの更新回数が増えるので、補正係数Cの精度を向上させることができ、試験対象の巻線11に印加される電圧のばらつきをより抑えることが可能となる。また、試験対象の巻線11に印加する電圧に必要とされる精度に応じて消磁パルスの出力回数を指定すればよいので、ユーザの種々のニーズに対応可能な使い勝手のよい試験装置1を実現することができる。
【0099】
また、所定の指示を消磁パルスの出力の指示である第1指示A1としてもよい。これによれば、補正係数Cを更新するための操作ボタン等やコマンド等を新たに設ける必要がない。また、試験装置1を操作して消磁パルスの出力を指示するだけで、巻線11の磁化状態のばらつきの抑制と補正係数Cの更新が行われるので、補正係数Cの更新を行うことによる解析時間の増加を抑えることが可能となる。
【0100】
また、試験装置1において、指示受付部3が、試験対象の巻線11の電気的特性に係る解析の実行の指示である第2指示A2を受け付けた場合に、電圧生成回路2が、第2指示A2に対応付けられた電圧指令値Emを補正係数Cによって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、解析結果生成部6が、電圧測定部4によって測定された電圧に基づいて解析結果83を生成してもよい。
これによれば、補正係数の算出処理と巻線の解析処理とがそれぞれ独立した第1指示A1と第2指示A2に応じて実行されるので、ユーザは、所望のタイミングにおいて、補正係数の更新と巻線の解析と区別して試験装置1に実行させることができる。
【0101】
また、試験装置1において、補正係数算出部5は、電圧測定部4によって測定された電圧Vと所定の指示に対応付けられた電圧指令値(Ee)との比に基づいて補正係数Cを更新してもよい。例えば、補正係数算出部5は、上記式(1)に基づいて、補正係数Cnを更新してもよい。
【0102】
これによれば、より簡易な計算によって補正係数を更新することができるので、電圧の補正機能を試験装置1に組み込むことによる、試験装置1(プログラム処理装置)による演算負荷の増大を抑えることが可能となる。
【0103】
また、試験装置1において、所定の指示A1に対応付けられた電圧指令値は、試験対象の巻線11の電気的特性に係る解析に対応付けられた電圧指令値に一致していることが好ましい。例えば、消磁パルスの電圧指令値Eeを測定パルスの電圧指令値Emに一致させることが好ましい(Ee=Em)。これによれば、解析時に巻線11に印加すべき電圧に合わせて補正係数が調整されるので、測定パルスの電圧の精度を更に向上させることができる。
【0104】
≪実施の形態の拡張≫
以上、本願発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
【0105】
例えば、上記実施の形態では、補正係数の算出処理の開始トリガとなる所定の指示が第1指示A1(消磁パルスの出力指示)である場合を例示したが、これに限られない。例えば、消磁パルスの出力指示とは異なる指示(例えば、補正係数の算出指示)であってもよい。この場合、試験装置1に上記指示のための操作ボタン等のユーザインタフェースやコマンドを新たに設ければよい。
【0106】
また、上記実施の形態では、補正係数の算出処理の開始トリガとなる所定の指示が第1指示A1であること、すなわち第1指示A1が試験装置1に入力されたとき、試験装置1が補正係数の算出(更新)を実行する場合を例示したが、これに限られない。例えば、第2指示A2が試験装置1に入力された場合に、試験装置1は、第2指示A2の入力に応じて補正係数Cの算出処理と巻線11の解析処理を連続して実行してもよい。
【0107】
具体的には、所定の指示を、第2指示A2(試験対象の巻線11の電気的特性に係る解析の実行の指示)とする。より具体的には、指示受付部3が第2指示A2を受け付けた場合に、電圧生成回路2が、第2指示A2に対応付けられた電圧指令値Emに基づく電圧を生成して出力するとともに、補正係数算出部5が、電圧測定部4によって測定された電圧と第2指示A2に対応付けられた電圧指令値Emとのずれが小さくなるように、補正係数Cを算出する。そして、補正係数Cの算出後に、電圧生成回路2が電圧指令値Emを補正係数Cによって補正した値に応じた電圧を生成して出力するとともに、解析結果生成部6が、電圧測定部4によって測定された電圧に基づいて解析結果83を生成する。
【0108】
これによれば、ユーザが巻線11の電気的特性に係る解析の実行の指示(第2指示A2)を入力するだけで、補正係数Cの算出と補正係数Cを用いた巻線11の電気的特性に係る解析が連続して行われるので、ユーザは、事前に消磁パルスの出力指示(第1指示A1)を入力する必要はない。
【0109】
この場合に、電圧生成回路2は、消磁パルス情報84として測定パルス情報87を用いてもよい。例えば、電圧生成回路2は、消磁パルスの電圧指令値Eeを測定パルス情報87の電圧指令値Emと同じ値に設定して、消磁パルスを出力してもよい。また、電圧生成回路2は、消磁パルスの指定出力回数Neも測定パルスの指定出力回数Nmと同じ値に設定して、消磁パルスを出力してもよい。あるいは、消磁パルス情報84は、予め記憶部8に設定されていてもよい。これによれば、ユーザは、測定パルス情報87を設定するだけで足り、消磁パルス情報84を設定する必要はない。
【0110】
また、上記実施の形態では、試験装置1が、複数の消磁パルスを出力した場合に、消磁パルスが出力される毎に補正係数Cの更新を行う場合を例示したが、これに限られない。すなわち、補正係数算出部5は、複数の消磁パルスのうち少なくとも一つの消磁パルスを巻線11に印加したときの電圧Vの測定値に基づいて、上述した手法により、補正係数Cを算出すればよい。
【0111】
例えば、補正係数算出部5は、最初に出力した消磁パルスを巻線11に印加したときの電圧Vの測定値と補正係数Cn-1とに基づいて、補正係数Cnを算出してもよいし、最後に出力した消磁パルスを巻線11に印加したときの電圧Vの測定値と補正係数Cn-1とに基づいて、補正係数Cnを算出してもよい。あるいは、消磁パルスをNe回出力する場合に、補正係数算出部5は、最初にn(<Ne)回出力された消磁パルスのそれぞれに基づいて補正係数Cを算出してもよいし、最後にn回出力された消磁パルスのそれぞれに基づいて補正係数Cを算出してもよい。すなわち、消磁パルスの出力回数(指定出力回数Ne)と補正係数の更新回数は一致していなくてもよい。
【0112】
また、上記実施の形態において、一例として、試験時に巻線11に印加する電圧を1000Vにするために、1回目の消磁パルスの電圧指令値Eeを1000Vとする場合を例示したが、これに限られない。例えば、予め、良品の巻線11に1000Vを印加するために必要な電圧指令値を測定しておき、その電圧指令値を1回目の消磁パルスの電圧指令値としてもよい。例えば、巻線11に1000Vを印加するための電圧指令値が1090Vであった場合には、1回目の消磁パルスの電圧指令値Eeを“1090V”としてもよい。あるいは、補正係数の初期値C0を“1.090(=1090V÷1000V)”として、1回目の消磁パルスを出力してもよい。
【0113】
また、上記実施の形態では、補正係数の算出のために巻線11に印加するパルスとして消磁パルスを用いる場合を例示したが、パルスの種類はこれに限定されない。例えば、試験対象の巻線11の電気的特性に係る解析時に印加する測定パルスと同じパルスを補正係数の算出のために巻線11に印加してもよい。このとき、補正係数の算出のためのパルスの出力回数は、測定パルスの出力回数(指定出力回数Nm)と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0114】
また、更新により算出された補正係数Cが所定の範囲を超えた場合には、補正係数算出部5が、補正係数Cをその所定の範囲の上限値または下限値に制限してもよいし、出力部7が、異常状態(エラー)を示す情報を出力した上で、電圧生成回路2が消磁パルスまたは測定パルスの出力を停止してもよい。これによれば、試験対象の巻線自体に異常(短絡故障や開放故障等)があった場合に、補正係数Cが異常な値に設定されて、外部端子T1,T2から不適切な電圧が出力されることを防止することができる。
【0115】
また、上述のフローチャートは、動作を説明するための一例を示すものであって、これに限定されない。すなわち、フローチャートの各図に示したステップは具体例であって、このフローに限定されるものではない。例えば、一部の処理の順番が変更されてもよいし、各処理間に他の処理が挿入されてもよいし、一部の処理が並列に行われてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1…試験装置、2…電圧生成回路、3…指示受付部、4…電圧測定部、5…補正係数算出部、6…解析結果生成部、7…出力部、8…記憶部、81…電圧測定値、82…補正係数情報、83…解析結果、84…消磁パルス情報、87…測定パルス情報、A1…第1指示、A2…第2指示、Cs…インパルス電圧印加用キャパシタ、Rs…電流制限抵抗、D…整流素子(逆流防止ダイオード)、T1…外部端子(第1外部端子)、T2…外部端子(第2外部端子)。
図1
図2
図3
図4
図5