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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082742
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】カバードステント
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/90 20130101AFI20240613BHJP
【FI】
A61F2/90
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196804
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000200035
【氏名又は名称】SBカワスミ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】兼政 賢一
(72)【発明者】
【氏名】村上 和範
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA44
4C267AA48
4C267AA50
4C267BB05
4C267BB12
4C267BB26
4C267BB40
4C267CC07
4C267CC08
4C267CC20
4C267CC22
4C267CC23
(57)【要約】
【課題】曲げに対する反発性を低くしつつ、軸方向への短縮を抑制できるカバードステントを提供する。
【解決手段】生体管腔2に留置されるカバードステント1は、軸方向に折り返す線材13同士を掛止めし、線材13を格子状に編組して形成される環状骨格部11と、環状骨格部11を管状に被覆する皮膜部12と、を備える。皮膜部12は、環状骨格部11の内周を被覆する第1皮膜部14と、環状骨格部11の外周を被覆する第2皮膜部15と、第1皮膜部14に第2皮膜部15を密着させて形成された複数の密着部16と、を有する。複数の密着部16は、軸方向に線材13の動きしろ18をあけて皮膜部12に配置され、掛止めされた線材13が動きしろ18を超えて離脱する動きを抑制する。
【選択図】図2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体管腔に留置されるカバードステントであって、
軸方向に折り返す線材同士を掛止めし、前記線材を格子状に編組して形成される環状骨格部と、
前記環状骨格部を管状に被覆する皮膜部と、を備え、
前記皮膜部は、
前記環状骨格部の内周を被覆する第1皮膜部と、
前記環状骨格部の外周を被覆する第2皮膜部と、
前記第1皮膜部に前記第2皮膜部を密着させて形成された複数の密着部と、を有し、
複数の前記密着部は、軸方向に前記線材の動きしろをあけて前記皮膜部に配置され、掛止めされた前記線材が前記動きしろを超えて離脱する動きを抑制する
カバードステント。
【請求項2】
前記密着部は、前記環状骨格部の前記線材がなす格子の隙間部分にそれぞれ配置される
請求項1に記載のカバードステント。
【請求項3】
前記環状骨格部の全長に対して前記カバードステントの軸方向で前記動きしろの形成されている領域の総和の比は、1/6以上1/2以下である
請求項1に記載のカバードステント。
【請求項4】
前記密着部は、前記第1皮膜部に対して前記第2皮膜部を接着して形成される
請求項1に記載のカバードステント。
【請求項5】
前記密着部は、前記第1皮膜部に対して前記第2皮膜部を溶着して形成される
請求項1に記載のカバードステント。
【請求項6】
前記第2皮膜部は、エレクトロスピニング法で形成された薄膜である
請求項5に記載のカバードステント。
【請求項7】
前記カバードステントの軸方向端部に位置する第1領域は、前記カバードステントの軸方向中央部に位置する第2領域に比べて、前記動きしろの間隔が小さい
請求項1に記載のカバードステント。
【請求項8】
前記カバードステントの軸方向端部に位置する第1領域は、前記カバードステントの軸方向中央部に位置する第2領域に比べて、前記密着部の配置数が多い
請求項1に記載のカバードステント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カバードステントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、血管、胆管、消化管などの生体管腔に生じた狭窄部又は閉塞部に留置され、病変部位を拡径して生体管腔の開存状態を維持するステントが知られている。また、ステントの一例として、線材を格子状に編組したステントの内周および/または外周をグラフトで被覆することも提案されている(例えば、特許文献1など)。
【0003】
線材を格子状に編組したステントでは、ステントが曲がるときに、掛け止めされた線材が離れることでステントに緩みを生じさせることができる。これにより、留置される生体管腔への反発を抑制しつつ、ステントは曲がった状態を維持できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-217487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の線材を格子状に編組したステントでは、掛け止めされた線材が離れることでステントが軸方向に短縮しやすい。かかる特性は、上記の骨格構造を有し、ステント両端部などで皮膜部が部分的に固定された構造のカバードステントでも同様である。
【0006】
一方、線材を格子状に編組した骨格構造を有するカバードステントにおいて、ディッピングなどの手法でステントを皮膜部と一体化した場合、皮膜部によってステントは軸方向に短縮しにくくなる。しかし、この場合には掛け止めされた線材が離れることができないため曲げに対するステントの反発力が大きくなり、ステントによる留置部位への負担が高くなりうる。
【0007】
そこで、本発明は上記の状況に鑑みてなされたものであって、曲げに対する反発性を低くしつつ、軸方向への短縮を抑制できるカバードステントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、生体管腔に留置されるカバードステントであって、軸方向に折り返す線材同士を掛止めし、線材を格子状に編組して形成される環状骨格部と、環状骨格部を管状に被覆する皮膜部と、を備える。皮膜部は、環状骨格部の内周を被覆する第1皮膜部と、環状骨格部の外周を被覆する第2皮膜部と、第1皮膜部に第2皮膜部を密着させて形成された複数の密着部と、を有する。複数の密着部は、軸方向に線材の動きしろをあけて皮膜部に配置され、掛止めされた線材が動きしろを超えて離脱する動きを抑制する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、曲げに対する反発性を低くしつつ、軸方向への短縮を抑制できるカバードステントを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態のカバードステントの構成例を示す斜視図である。
図2】本実施形態のカバードステントの側面図である。
図3】本実施形態のカバードステントが生体管腔に留置された使用状態を模式的に示す図である。
図4図2のA-A線断面図である。
図5】環状骨格部を周方向に展開して平面的に示した図である。
図6】カバードステントが短縮するときの線材の動きを模式的に示す図である。
図7】カバードステントの動きしろの調整についての説明図である。
図8】カバードステントの第1変形例を示す図である。
図9】カバードステントの第2変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、実施形態に係るカバードステントの構成例について説明する。なお、図面における各部の形状、寸法等は模式的に示したもので、実際の形状や寸法等を示すものではない。
【0012】
また、図面では、カバードステントの軸方向Axを適宜矢印で示す。また、軸方向Axに略直交する方向を径方向と定義し、軸方向Axを中心とする回転方向を周方向と定義する。また、図面においてカバードステントの一方側を符号Fで示し、カバードステントの他方側を符号Bで示す。
【0013】
図1は、本実施形態のカバードステント1の構成例を示す斜視図である。図2は、本実施形態のカバードステント1の側面図である。図3は、本実施形態のカバードステント1が生体管腔に留置された使用状態を模式的に示す図である。図4は、図2のA-A線断面図である。
【0014】
カバードステント1は、図3に示すように血管、食道、胆管、気管、尿管などの生体管腔2内の狭窄部位や閉塞部位等の病変部位3に留置され、これらの病変部位3を拡張させるために適用される。本実施形態では、例えば、胆管の病変部位3に留置されるカバードステント1について説明する。
【0015】
カバードステント1は、軸方向Axの両端部に設けられた開口が連通しており、使用状態において生体管腔2を流れる流体が通過する管状流路4を内部に形成する。本実施形態では、一例として全体形状が直管形状であるカバードステント1を示す。なお、カバードステント1の寸法などの仕様は、例えば、カバードステント1を留置する生体管腔2の太さや、カバードステント1の留置範囲の長さなどに応じて適宜設定される。
【0016】
カバードステント1は、拡張状態の形状が記憶されたいわゆる自己拡張型の構成であって、径方向内側に収縮した収縮状態から径方向外側に拡張する拡張状態へと拡縮可能である。本実施形態のカバードステント1は、図示しないカテーテルを用いて、径方向内側に収縮された状態(不図示)で生体管腔2内に導入される。カバードステント1は、生体管腔2内の病変部位3に運ばれた後にカテーテルのシースから放出され、径方向外側に拡張することで、図3に示すように生体管腔2の内壁と密着した状態で留置される。
なお、カテーテルから放出されたカバードステント1は、内側からバルーン(不図示)を拡張させて押圧することで径方向外側に拡張されてもよい。
【0017】
図1図2に示すように、カバードステント1は、全体形状が管状をなす環状骨格部11と、環状骨格部11に取り付けられた皮膜部12とを備えている。
【0018】
図5(a)、(b)は、環状骨格部11を周方向に展開して平面的に示した図である。なお、図5(a)の左右方向は軸方向Axに対応し、図5(a)の上下方向はカバードステント1の周方向に対応する。
【0019】
環状骨格部11は、金属素線からなる線材13を格子状に編組して形成されている。環状骨格部11の線材13の材料としては、例えば、Ni-Ti合金、ステンレス鋼、チタン合金などに代表される公知の金属又は金属合金等が挙げられる。また、環状骨格部11の線材13にはX線造影性を有する合金材料を用いてもよく、あるいはX線造影性を有する合金材料で形成されたマーカ片(不図示)を線材13に適宜取り付けてもよい。これらの場合、カバードステント1の位置を体外から確認できるようになる。
また、線材13の材料としてNi-Ti合金を用いる場合、環状骨格部11を拡張状態の形状に整えた後、所定の熱処理を施すことにより、拡張状態の形状を環状骨格部11に記憶させることができる。
【0020】
図5(a)、(b)に示すように、環状骨格部11を構成する線材13は、山部13aと谷部13bが交互に形成されるようにジグザグに軸方向に折り返されている。また、軸方向の一方側と他方側で隣り合う段の間では、線材13の一方側の段において他方側に突出した屈曲部(谷部13b)と、線材13の他方側の段において一方側に突出した屈曲部(山部13a)とがそれぞれ対向している。
【0021】
環状骨格部11の隣り合う段では、対向する線材13の屈曲部(山部13a、谷部13b)同士が互いに掛け止めされている。これにより、環状骨格部11では、線材13がフェンス状に編み込まれてひし形の格子が形成される。環状骨格部11において、掛止めされた線材13の屈曲部同士は拘束されていないため、互いに自由に動くことができる。
【0022】
例えば、図5(b)に示すように、環状骨格部11が外力を受けて曲がるときには、曲げの外側の部位(図5(b)の上側)では曲げによる引っ張りが生じ、曲げの内側の部位(図5(b)の下側)では曲げによる圧縮が生じる。このとき、環状骨格部11において、曲げで引っ張りが生じる部位では、掛け止めされた部位を中心として一方側の段に対する他方側の段の傾きが変化するように互いの屈曲部が動く。また、環状骨格部11において、曲げで圧縮が生じる部位では、掛け止めされていた屈曲部が分離し、曲げによる軸方向の短縮に追従する。
【0023】
以上のように、環状骨格部11は、曲げに対して柔軟に追従して変形できる。また、曲げによる圧縮が生じる部位では屈曲部の分離により環状骨格部11が緩むため、曲げの圧縮に対する環状骨格部11からの反発力は非常に低くなる。したがって、環状骨格部11は曲げに対して反発せずに、曲がった状態を維持できる。
【0024】
なお、環状骨格部11において、線材13の折り返し回数及び折り返し形状(山部の数及び山部の形状)や、線材13の断面積及び断面形状などのパラメータは、留置する生体管腔2の仕様に応じて適切な値に設定され得る。
【0025】
皮膜部12は、上述の管状流路4を形成する可撓性膜体であって、環状骨格部11を管状に被覆して隙間部分を閉塞するように環状骨格部11に取り付けられている。皮膜部12は、図4に示すように、径方向に環状骨格部11を挟んで配置された第1皮膜部14および第2皮膜部15を有している。
【0026】
第1皮膜部14は、環状骨格部11の内周を被覆する皮膜である。第1皮膜部14は、ステント内腔側での線材13の露出によるスラッジ(胆泥など)の付着および滞留を抑制する機能を担う。
【0027】
第2皮膜部15は、環状骨格部11の外周を被覆する皮膜である。第2皮膜部15は、生体管腔2内への病変部位3の浸潤による再閉塞を防ぐとともに、環状骨格部11への細胞組織の侵入(イングロース)を抑制してステントの抜去性を確保する機能を担う。
【0028】
第1皮膜部14および第2皮膜部15は、生体適合性を有する繊維で形成された布地やシートなどの薄膜などで形成される。例えば、第1皮膜部14および第2皮膜部15の材料としては、例えば、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、シリコーンゴムなどが挙げられる。なお、第1皮膜部14と第2皮膜部15の構成は、同じでもよく異なっていてもよい。
【0029】
また、第1皮膜部14および第2皮膜部15の少なくとも一方は、エレクトロスピニング法で形成されたナノファイバーの薄膜であってもよい。エレクトロスピニング法では、紡糸ノズル内の高分子溶液に高電圧を加え、帯電した高分子溶液を紡糸ノズルから引き出して紡糸する。紡糸ノズルからの流体は空気抵抗により螺旋流となり、分子鎖の絡み合いによる繊維化と静電反発力による繊維径のナノサイズ化が同時に起こることで、不織布状のナノファイバー膜が形成される。
【0030】
皮膜部12は、環状骨格部11の両端において第1皮膜部14および第2皮膜部15が環状骨格部11に対してそれぞれ固定され、第1皮膜部14および第2皮膜部15の間に体液が流入しないように構成されている。しかし、他の領域では、第1皮膜部14および第2皮膜部15は環状骨格部11に対していずれも固定されていない。
【0031】
また、皮膜部12は、環状骨格部11の線材13がなす格子の隙間部分に、第1皮膜部14に第2皮膜部15を密着させて形成された密着部16を複数有している。例えば、密着部16は、図2に示すように、皮膜部12の周面上で互いに間隔をあけて各格子の隙間部分に1つずつ配置されている。上記のように、皮膜部12の全体に密着部16を規則的に配置することで、環状骨格部11の各方向の曲げに対して後述する短縮の抑制効果のむらが生じにくくなる。なお、密着部16は、環状骨格部11の全ての格子の隙間部分に配置されていなくてもよい。
【0032】
皮膜部12の各密着部16は、第1皮膜部14に対して第2皮膜部15を接着剤で接着することで形成されてもよく、第1皮膜部14に対して第2皮膜部15を熱または溶剤により溶着することで形成されてもよい。
【0033】
また、例えば、第2皮膜部15をエレクトロスピニング法で形成した場合、エレクトロスピニング法による紡糸の際の残存溶媒によって、第1皮膜部14の外周面には第2皮膜部15が溶着される箇所が生じる。これにより、第2皮膜部15の形成と同時に、第1皮膜部14に第2皮膜部15が溶着された密着部16を設けることができる。なお、第2皮膜部15をエレクトロスピニング法で形成することで密着部16を設ける場合、第1皮膜部14はエレクトロスピニング法のナノファイバー膜に限られず、例えば、生体適合性を有する繊維の布地などを使用してもよい。
【0034】
図2図4に示すように、皮膜部12の周面において、環状骨格部11の線材13は隣り合う密着部16の間に配置される。そして、皮膜部12の隣り合う密着部16の間には、線材13の動きしろ18として、第1皮膜部14と第2皮膜部15の間で線材13が移動可能な空間が形成される。
【0035】
環状骨格部11の線材13は、動きしろ18の範囲内では軸方向または周方向に自由に動くことができる。例えば、カバードステント1が曲がる場合、一方側の段に対する他方側の段の傾きが変化するように、掛け止めされた線材13の互いの屈曲部が動きしろ18の範囲内で動くことができる。また、カバードステント1が曲がる場合や軸方向に短縮する場合、掛け止めされた線材13の屈曲部は動きしろ18の範囲内で軸方向に分離できる。
【0036】
一方、環状骨格部11の線材13の動きが動きしろ18の範囲を超えると、線材13が皮膜部12の密着部16と接触する。これにより、線材13の移動方向の力に対する密着部16からの反力が線材13に作用するので、動きしろ18の範囲を超える線材13の動きが密着部16により抑制される。
【0037】
図6は、カバードステント1が短縮するときの線材13の動きを模式的に示す図である。図中二点鎖線で示す2つの線材13F1、13B1は互いに屈曲部が掛け止めされており、動きしろ18の範囲内で自由に動くことができる。
【0038】
一方、動きしろ18の範囲を超えてカバードステント1が短縮する場合、掛け止め状態から分離する一方の線材13F2の屈曲部は、軸方向の一方側に配置された一方の密着部16Fと接触し、一方の密着部16Fからの反力を受ける。同様に、掛け止めの状態から分離する他方の線材13B2の屈曲部は、軸方向の他方側に配置された他方の密着部16Bと接触し、他方の密着部16Bからの反力を受ける。上記のように、軸方向に配置された2つの密着部16F、16Bによって、動きしろ18を超えて環状骨格部11の緩む動きが抑制される。
【0039】
また、皮膜部12での動きしろ18の配置は、カバードステント1の曲がりやすさと短縮時のしにくさのバランスを図る観点から、以下の範囲で調整することが好ましい。
【0040】
図7は、カバードステント1の動きしろ18の調整についての説明図である。
例えば、カバードステント1の全長をL1とし、カバードステント1の軸方向で動きしろ18の形成されている領域の総和をL2としたときに、L2/L1の比をpとする。ここで、p=0のときは、第1皮膜部14と第2皮膜部15が軸方向の全域で密着し、カバードステント1の軸方向に動きしろ18が全くない状態を指すものとする。また、p=1のときは、第1皮膜部14と第2皮膜部15が軸方向の全域で分離し、カバードステント1の軸方向に密着部16が全くない状態を指すものとする。
【0041】
また、カバードステント1を屈曲させたときの圧縮側の径をrとし、環状骨格部11の径をDとする。このとき、カバードステント1の屈曲時に皮膜部12が環状骨格部11の動きを妨げないようにするためには、以下の式(1)の関係が成り立つ。
p=1-r/(r+D) …(1)
【0042】
上記のpの値が大きいほど、密着部16が少なくなるので屈曲に対するカバードステント1の柔軟性は向上する。しかし、pの値が大きいほど、環状骨格部11の短縮に対して皮膜部12から受ける反力が小さくなり、環状骨格部11が短縮しやすくなる。環状骨格部11の短縮は環状骨格部11の全長の半分までに留めることが好ましく、そのためには上記のpの値を0.5(1/2)以下とすることが好ましい。pの値が0.5のときには、r=Dまでカバードステント1を屈曲させても、皮膜部12は屈曲に伴う環状骨格部11の動きを妨げない。
【0043】
一方で、線材13を掛け止めした環状骨格部11の柔軟性を生かすためには、r=5D程度のカバードステント1の曲げに対して密着部16からの反力で短縮が抑制されない方が好ましい。そのためにはpの値を1/6以上とすることが好ましい。
【0044】
以上の理由から、環状骨格部11の全長L1に対してカバードステント1の軸方向で動きしろ18の形成されている領域の総和(L2)の比(L2/L1)であるpは、1/6以上1/2以下とすることが好ましい。
【0045】
以下、本実施形態のカバードステント1の効果を述べる。
本実施形態において、生体管腔2に留置されるカバードステント1は、軸方向に折り返す線材13同士を掛止めし、線材13を格子状に編組して形成される環状骨格部11と、環状骨格部11を管状に被覆する皮膜部12と、を備える。皮膜部12は、環状骨格部11の内周を被覆する第1皮膜部14と、環状骨格部11の外周を被覆する第2皮膜部15と、第1皮膜部14に第2皮膜部15を密着させて形成された複数の密着部16と、を有する。複数の密着部16は、軸方向に線材13の動きしろ18をあけて皮膜部12に配置され、掛止めされた線材13が動きしろ18を超えて離脱する動きを抑制する。
カバードステント1の環状骨格部11において、掛け止めされた線材13の屈曲部は動きしろ18の範囲内で軸方向に分離できる。曲げによる圧縮が生じる部位では屈曲部の分離により環状骨格部11が緩むことで、動きしろ18の範囲内では曲げの圧縮に対する環状骨格部11からの反発力を低くできる。
一方、環状骨格部11の線材13の動きが動きしろ18の範囲を超えると、線材13が皮膜部12の密着部16と接触し、線材13の移動方向の力に対する密着部16からの反力が線材13に作用する。本実施形態では、軸方向に配置された複数の密着部16により、動きしろ18の範囲を超えた環状骨格部11の緩みが抑制されるので、カバードステント1の軸方向への短縮を抑制できる。
【0046】
また、本実施形態では、環状骨格部11の内周が第1皮膜部14で被覆されるため、ステント内腔側で線材13が露出せず、線材13へのスラッジの付着やスラッジの滞留を抑制できる。また、本実施形態では、環状骨格部11の外周が第2皮膜部15で被覆されるため、生体管腔2内への病変部位3の浸潤を防止できるとともに、ステントの抜去性を確保できる。
【0047】
また、密着部16は、環状骨格部11の線材13がなす格子の隙間部分にそれぞれ配置される。これにより、密着部16が皮膜部12に規則的に配置され、環状骨格部11の各方向の曲げに対する短縮の抑制効果のむらが生じにくくなる。
【0048】
また、環状骨格部11の全長L1に対してカバードステント1の軸方向で動きしろ18の形成されている領域L2の総和の比pを1/6以上1/2以下とすると、環状骨格部11の短縮を全長の半分までに留めつつ、環状骨格部11の柔軟性を十分に確保できる。
【0049】
また、密着部16は、第1皮膜部14に対して第2皮膜部15を接着または溶着することでカバードステント1に比較的容易に形成できる。
また、第2皮膜部15がエレクトロスピニング法で形成された薄膜である場合、第2皮膜部15の形成と同時に、第1皮膜部14に第2皮膜部15が溶着された密着部16を形成できる。これにより、カバードステント1の生産性を向上させることができる。
【0050】
ここで、本実施形態のカバードステント1は、例えば以下の構成であってもよい。図8は、カバードステントの第1変形例を示す図であり、図9は、カバードステントの第2変形例を示す図である。なお、以下の各変形例の説明において、上記の実施形態と共通の要素には同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0051】
図8に示す第1変形例のカバードステント1Aは、軸方向Axにおいてそれぞれ動きしろ18の大きさが異なる第1領域5および第2領域6を有している。第2領域6は、カバードステント1Aの軸方向中央に位置している。また、第1領域5は、軸方向Axに沿って第2領域6を挟み込むようにカバードステント1Aの軸方向両端側にそれぞれ位置している。
【0052】
第1変形例では、第1領域5では密着部16aの大きさが大きく、第2領域6では密着部16bの大きさが小さい。これにより、第1領域5での動きしろ18aの間隔は、第2領域6での動きしろ18bの間隔と比べて小さい(18a<18b)。そのため、カバードステント1Aの端部の第1領域5では軸方向中央の第2領域6と比べて環状骨格部11の線材13が動きにくくなり、留置時にカバードステント1Aの位置ずれを抑制しやすくなる。
【0053】
一方で、第2領域6では動きしろ18bが広いので、第1領域5と比べて環状骨格部11の線材13が動きやすくなる。そのため、第1変形例の第2領域6では、動きしろ18bの範囲を超える短縮を抑制しつつも、曲げに対する低反発性と追従性を確保できる。
【0054】
また、図9に示す第2変形例のカバードステント1Bは、軸方向Axにおいてそれぞれ密着部16の配置数が異なる第1領域5および第2領域6を有している。第2領域6は、カバードステント1Bの軸方向中央に位置している。また、第1領域5は、軸方向Axに沿って第2領域6を挟み込むようにカバードステント1Bの軸方向両端側にそれぞれ位置している。
【0055】
第2変形例において、第2領域6の密着部16は第1領域5と比べて間引かれて配置されており、第1領域5での密着部16の配置数は第2領域6よりも多い。そのため、カバードステント1Bの端部の第1領域5では軸方向中央の第2領域6と比べて密着部16で環状骨格部11の線材13が動きにくくなり、留置時にカバードステント1Bの位置ずれを抑制しやすくなる。
【0056】
一方で、第2領域6では第1領域5と比べて密着部16が少ないため環状骨格部11の線材13が動きやすくなる。そのため、第2変形例の第2領域6では、環状骨格部11の短縮を抑制しつつも、曲げに対する低反発性と追従性を確保できる。
【0057】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0058】
上記実施形態では、全体形状が直管形状であるカバードステント1の例を示したが、カバードステント1は、例えば弓状に湾曲した形状や捻れを有する形状に賦形(プリシェイプ)されていてもよい。これらの場合、屈曲したカバードステント1を直線状に近づける動きも、カバードステント1の曲げに包含される。
【0059】
上記実施形態の環状骨格部11は、端部に向かうにつれて径が広がるフレア部を有する形状であってもよい。あるいは、カバードステント1の端部には、留置時の位置ずれを抑制するために金属骨格からなるベア部が設けられていてもよい。
【0060】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0061】
なお、上記の実施形態の開示は以下の技術的思想を包含する。
(1)生体管腔に留置されるカバードステントであって、軸方向に折り返す線材同士を掛止めし、前記線材を格子状に編組して形成される環状骨格部と、前記環状骨格部を管状に被覆する皮膜部と、を備え、前記皮膜部は、前記環状骨格部の内周を被覆する第1皮膜部と、前記環状骨格部の外周を被覆する第2皮膜部と、前記第1皮膜部に前記第2皮膜部を密着させて形成された複数の密着部と、を有し、複数の前記密着部は、軸方向に前記線材の動きしろをあけて前記皮膜部に配置され、掛止めされた前記線材が前記動きしろを超えて離脱する動きを抑制するカバードステント。
(2)前記密着部は、前記環状骨格部の前記線材がなす格子の隙間部分にそれぞれ配置される上記(1)に記載のカバードステント。
(3)前記環状骨格部の全長に対して前記カバードステントの軸方向で前記動きしろの形成されている領域の総和の比は、1/6以上1/2以下である上記(1)または上記(2)に記載のカバードステント。
(4)前記密着部は、前記第1皮膜部に対して前記第2皮膜部を接着して形成される上記(1)から上記(3)のいずれか1項に記載のカバードステント。
(5)前記密着部は、前記第1皮膜部に対して前記第2皮膜部を溶着して形成される上記(1)から上記(3)のいずれか1項に記載のカバードステント。
(6)前記第2皮膜部は、エレクトロスピニング法で形成された薄膜である上記(5)に記載のカバードステント。
(7)前記カバードステントの軸方向端部に位置する第1領域は、前記カバードステントの軸方向中央部に位置する第2領域に比べて、前記動きしろの間隔が小さい上記(1)から上記(6)のいずれか1項に記載のカバードステント。
(8)前記カバードステントの軸方向端部に位置する第1領域は、前記カバードステントの軸方向中央部に位置する第2領域に比べて、前記密着部の配置数が多い上記(1)から上記(6)のいずれか1項に記載のカバードステント。
【符号の説明】
【0062】
1,1A,1B…カバードステント、2…生体管腔、3…病変部位、4…管状流路、5…第1領域、6…第2領域、11…環状骨格部、12…皮膜部、13…線材、13a…山部、13b…谷部、14…第1皮膜部、15…第2皮膜部、16,16a,16b…密着部、18,18a,18b…動きしろ

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9