(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082745
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】洋上風車一括施工船及び洋上風車の施工方法
(51)【国際特許分類】
B63B 77/10 20200101AFI20240613BHJP
F03D 13/25 20160101ALI20240613BHJP
F03D 13/40 20160101ALI20240613BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20240613BHJP
【FI】
B63B77/10
F03D13/25
F03D13/40
B63B35/00 T
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196808
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】591043477
【氏名又は名称】寄神建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085291
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 実
(74)【代理人】
【識別番号】100117798
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 慎一
(74)【代理人】
【識別番号】100166899
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥巣 慶太
(74)【代理人】
【識別番号】100221006
【弁理士】
【氏名又は名称】金澤 一磨
(72)【発明者】
【氏名】寄神 正文
(72)【発明者】
【氏名】好田 勝之
(72)【発明者】
【氏名】石田 雅博
(72)【発明者】
【氏名】東 君幸
(72)【発明者】
【氏名】西原 直
【テーマコード(参考)】
3H178
【Fターム(参考)】
3H178AA03
3H178AA25
3H178AA43
3H178BB73
3H178BB77
3H178DD67X
3H178DD70X
(57)【要約】
【課題】現地作業時間を可能な限り短縮して、洋上風車の組立が実施可能なように、陸上にて一括組立、現地へ曳航し、据え付ける。
【解決手段】洋上風車一括施工船1は、海底に立設され且つ洋上に突出部F1を有する基礎Fに対して載置可能であるベースU1(拡幅部)を備えた洋上風車Uを設置するのに用いられるもので、台船2と、台船2上に一部が船体外に突出するジブ3が設けられている。ジブ3の上部に上側キャッチ部4が、ジブ3の下部には上側キャッチ部4に対応して設けられ洋上風車Uの下部を、ベースU1を介して支持するホーク部を有する下側キャッチ部5がそれぞれ設けられている。洋上風車Uの運搬時には、前記船体外において、上部キャッチ部4は洋上風車Uの上部を保持する一方、下側キャッチ部5は、ベースU1の下側に前記ホーク部を挿入した状態で洋上風車Uの下部を保持するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
設置場所の海底に立設されかつ洋上に突出する突出部を有する基礎に対して、洋上風車を設置する、洋上風車一括施工船であって、
台船と、
前記台船の船体上に設けられ一部が前記船体外に突出するジブと、
前記ジブの上部に設けられ前記洋上風車の上部を保持可能である上側キャッチ部と、
前記ジブの下部に前記上側キャッチ部に対応して設けられ前記洋上風車の下部を、前記ベースを介して支持するホーク部を有する下側キャッチ部と、
を備え、
前記洋上風車は、タワー、ナセル、ローター等を組立てた完成形で、前記基礎の突出部に対して、載置可能であるベースが下部外周に突出して設けられたものであり、
前記洋上風車の運搬時には、前記船体外において、前記上側キャッチ部は前記洋上風車の上部を保持する一方、前記下側キャッチ部は、前記ベースの下側に前記ホーク部を挿入することにより、前記洋上風車全体重量を前記下側キャッチ部にて支持し、前記洋上風車の下部を保持するものである、ことを特徴とする、洋上風車一括施工船。
【請求項2】
前記上側キャッチ部は、
前記ジブの突出部分に取り付けられ左右方向に延びる取り付け基部と、
前記取り付け基部に基端部が水平回転可能に取り付けられる左右のアーム部材と、
前記各アーム部材上に設けられ前記アーム部材上を左右方向に移動可能である左右の下側部材と、
前記下側部材上に設けられ前記下側部材上を前後方向に移動可能である左右の上側部材とを備え、
前記洋上風車の運搬時には、前記左右の上側部材で前記洋上風車の上部を挟んで前記洋上風車の上部を保持する、
請求項1記載の洋上風車一括施工船。
【請求項3】
前記取り付け基部は、前記左右のアーム部材の間に設けられ前記洋上風車の保持状態で前記洋上風車の外周面に接触するローラが回転可能に設けられている、
請求項2記載の洋上風車一括施工船。
【請求項4】
前記左右の上側部材は、前記洋上風車の外周面の形状に対応する形状の内周面を有する凸部を有し、前記内周面に前記洋上風車の保持状態で前記洋上風車の外周面に接触する複数のローラまたはタイヤが回転可能に設けられている、
請求項2記載の洋上風車一括施工船。
【請求項5】
前記左右の上側部材の凸部の先端部には、前記洋上風車の保持状態で前記左右の上側部材を結合する結合手段が設けられている、
請求項2記載の洋上風車一括施工船。
【請求項6】
前記下側キャッチ部は、
前記ジブに対し昇降可能に設けられ左右方向に延びる支持本体部と、
前記支持本体部の左右端部付近に後端部が連結され前方に延びる左右の支持部材と、
各前記左右の支持部材の上側に設けられ左右方向に移動可能である左右の下側部材と、
各前記左右の下側部材の上側に設けられ前後方向に移動可能である左右の上側部材と、
を備え、
前記ホーク部は、前記左右の支持部材、前記左右の下側部材および前記左右の上側部材を含み、
前記洋上風車の運搬時には、前記左右の上側部材で前記洋上風車の下部を挟んで前記洋上風車の下部を保持する、
請求項1記載の洋上風車一括施工船。
【請求項7】
前記左右の上側部材は、前記洋上風車の外周面の形状に対応する形状の内周面を有する凸部を有し、前記内周面に、前記洋上風車の保持状態で、前記洋上風車の外周面に回転可能に接触する複数のローラまたはタイヤが駆動手段によって回転可能に設けられている、
請求項6記載の洋上風車一括施工船。
【請求項8】
各前記左右の上側部材は、前記洋上風車の外周面の形状に対応する形状の内周面を有する凸部を有し、前記内周面に前記洋上風車の保持状態で前記洋上風車の外周面に接触する複数のローラが回転可能に設けられている、
請求項6記載の洋上風車一括施工船。
【請求項9】
前記下側キャッチ手段は、前記左右の下側部材および前記左右の上側部材との間に、鉛直方向の衝撃を緩和するショックアブソーバを備える、
請求項6記載の洋上風車一括施工船。
【請求項10】
さらに、前記ジブに昇降可能である主巻き滑車部が設けられ、
前記主巻き滑車部と前記下側キャッチ部の支持本体部との間に、鉛直方向の衝撃を緩和するショックアブソーバが設けられている、
請求項6記載の洋上風車一括施工船。
【請求項11】
前記台船は、船体の喫水線を上下方向において調整可能であるセミサブ船である、
請求項1記載の洋上風車一括施工船。
【請求項12】
設置場所の海底に立設されかつ洋上に突出する突出部を有する基礎に対して、洋上風車を設置する、洋上風車の設置方法であって、
前記洋上風車は、タワー、ナセル、ローター等を組立てた完成形で、前記基礎の突出部に対して、載置可能であるベースが下部外周に突出して設けられたものであり、
ジブの船体外に突出する位置に上下対応して上下側キャッチ手段が設けられ前記上下側キャッチ手段によって前記洋上風車の上下部を保持可能である台船を用いるものであり、
前記下側キャッチ手段は、前記洋上風車のベースの下側に挿入されるホーク部を有するものであり、
予め組み立てられた前記洋上風車のベース下に前記下側キャッチ手段の前記支持部分を挿入して前記洋上風車の下部を保持する一方、前記洋上風車の上部を前記上側キャッチ手段で保持する工程と、
前記洋上風車の上下部を保持する状態で前記台船を曳航して前記設置場所まで移動させる工程と、
前記設置場所において、前記洋上風車のベースを、前記基礎の突出部上に載置して、前記突出部に前記ベースを固定する工程と、
前記固定を行った後、前記上下側キャッチ手段による保持を解除し前記台船を前記洋上風車から離す工程と、
を備えることを特徴とする洋上風車の設置方法。
【請求項13】
前記上下側キャッチ手段は、左右の部材を有し、前記左右の部材を用いて前記洋上風車の上下部を両側から挟んで保持するものである、
請求項12記載の洋上風車の設置方法。
【請求項14】
前記洋上風車は、運搬前は海岸上に設置されている支持台上に前記ベースが載るように置かれているものであり、
前記下側キャッチ部は、前記支持台上のベースの下側に前記ホーク部を挿入することにより、前記洋上風車全体重量を下側から支持するものである、
請求項12記載の洋上風車の設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上風車一括施工船及び洋上風車の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洋上風力発電に用いられる洋上風車の設置は、従来、SEP船(自己昇降式作業台船:昇降用脚(ジャッキアップ脚)をもち、プラットホームとして台船を海面上に上昇させてクレーン、杭打ち等の作業を行うもの)を用いて行われていた。SEP船を用いた風車の架設は、SEP船に風車材料を積載して設置海域まで移動し、SEP船のジャッキアップ脚を海底に立脚し、SEP船のプラットホーム上で風車を組み立てて設置するという作業を行うこととなる。このため、風車の組み立てを含めた施工期間中、SEP船を海洋に常駐させる必要があり、施工コストの高騰を招く一因となっていた。
【0003】
また、風車の設置海域は、有効な風が求められ、波高、波周期、風速の厳しい気象・海象条件の外洋であるため、可能な限り短期間で風車組立を実施することが求められる。また、着床式の洋上風車の建設は、海底にジャッキ脚を立てて、海面より台船を離脱させることにて海象状態の影響を受けずに台船を安定させることができるSEP船を用いて建設することが多い。この場合、施工方法は、タワー、ナセル等の風車部材を台船上に積載して、現地まで回航し、SEP船上の甲板クレーンで順次吊上げ、ボルト接続による組み立てを実施する。高価なSEP船を利用しても、建設日数は数日必要なことより建設施工費用は高くなる。
【0004】
このような課題に鑑み、SEP船を用いない洋上風車の設置技術が提案されている(特許文献1参照)。この技術は、ジャッキアップ脚を海底に降ろすことで洋上にて足場を固定することのできるジャッキアップ船を用いるもので、船体には、風車を支持する支持構造体が備えられ、陸上で組み上げられた風車を積載し、風車を設置する基礎が設けられている設置場所まで搬送し、設置場所で、ジャッキアップ脚で足場を固定し、船体に備えられたハンドリング装置にて、風車を形成する各部材を順次基礎に備え付けるものである。
【0005】
この技術によれば、風車の組み付け作業を陸上にて行い、船舶の使用自体は、風車を設置場所まで搬送することと、設置作業の期間のみとなるが、ジャッキアップ脚を有する特殊船の採用が必要となる。
【0006】
そこで、ジャッキアップ船などの特殊船を用いることなく風車の設置を可能とする洋上風車の設置方法が提案されている(例えば,特許文献2参照)。この方法は、海底に立設され、且つ洋上に突出部を有する基礎に対して載置可能であるベースを備えた風車を架設する洋上風車の設置方法であって、予め組み立てられた前記風車を台船に乗せた状態で曳航して架設場所まで移動させる工程と、前記風車を構成する前記ベースを架設場所に設置された前記基礎の上部に配置した後、前記海底にアンカーを下ろして前記台船の揺動や移動を制御する工程と、前記台船の喫水調整を行うことで、前記基礎の前記突出部に前記ベースを仮固定する工程と、前記仮固定を行った後、前記台船を前記ベースの下部から引き抜く工程と、前記台船を前記ベースの下部から引き抜いた後、前記基礎に対する前記風車の固定を行う工程と、を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-76738号公報
【特許文献2】特開2017-44141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載のものでは、ホーク付き台船により完成風車を一括で積み込むものであるが、完成風車の上部はフリーな状態で積み込まれるため、完成風車の支持が不安定であり、また、台船の喫水調整は、バラスト水の増減により行うので、製品の揚程が確保されない場合がある。
【0009】
また、SEP船による施工は、欧州等の海外では一般的であり、風車を一体物として、港内の陸上で組立、大型起重機船により一括吊上げ、現地まで吊り運搬を実施して、基礎上に設置することも行われている。しかし、起重機船により、完成風車の吊り運搬、据付けを実施するには、従来型のAフレーム構造のジブでは、海象条件に問題があり、施工可能な条件からは作業稼働率の低下が懸念され、改善の余地がある。
そこで、発明者らは、設置場所の海底に立設されかつ洋上に突出する突出部を有する基礎に対して、タワー、ナセル、ローター等を組立てた完成形の洋上風車を設置する場合に、完成形の洋上風車が、予め、下部外周に突出して拡幅部としてのベース(通常、構造上不要である)を備えるようにすれば、前記ベースの下側に、洋上風車を支持する支持部に備えられるホーク部を挿入することにより、前記洋上風車全体重量を前記支持部(ホーク部)にて支持して運搬することができ、洋上風車全体を風車頂部で吊り下げる必要がなく、簡単な吊上げで設置作業ができることに着想し、本発明をなした。
【0010】
本発明は、現地作業を可能な限り短縮して、洋上風車の組立が実施可能なように、陸上にて一括組立、現地へ曳航し、据え付ける洋上風車一括施工船及び洋上風車の施工方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、設置場所の海底に立設されかつ洋上に突出する突出部を有する基礎に対して、洋上風車を設置する、洋上風車一括施工船であって、台船と、前記台船の船体上に設けられ一部が前記船体外に突出するジブと、前記ジブの上部に設けられ前記洋上風車の上部を保持可能である上側キャッチ部と、前記ジブの下部に前記上側キャッチ部に対応して設けられ前記洋上風車の下部を、前記ベースを介して支持するホーク部を有する下側キャッチ部と、を備え、前記洋上風車は、タワー、ナセル、ローター等を組立てた完成形で、前記基礎の突出部に対して、載置可能であるベースが下部外周に突出して設けられたものであり、前記洋上風車の運搬時には、前記船体外において、前記上側キャッチ部は前記洋上風車の上部を保持する一方、前記下側キャッチ部は、前記ベースの下側に前記ホーク部を挿入することにより、前記洋上風車全体重量を前記下側キャッチ部にて支持し、前記洋上風車の下部を保持するものである、ことを特徴とする。
【0012】
このようにすれば、陸上にて一括組立し、現地へ曳航し、現地で据え付けることができるので、現地作業時間を大幅に短縮することでき、SEP船を利用することなく洋上風車の設置が実施可能になる。また、上側及び下側キャッチ部で洋上風車の上下部をつかみ、運搬中洋上風車を固縛して転倒を防止することができる。特に、現地での、吊ピース等のピン離脱作業は船体の動揺により困難であるが、下側キャッチ部のホーク部をベースの下側に挿入し支持(差し込み保持)することで風車全体重量を支えることができるので、風車頂部で洋上風車全体を吊り上げる必要がなくなり、吊上げが簡単になる。よって、吊上げる作業で必要な吊ピース等のピン離脱作業などがなくなるので、現地での設置作業時間も短縮可能となり、簡単な吊上げで安全に設置作業ができる。それに加えて、現在、洋上風車の大型化が進んでいるが、上側及び下側キャッチ部で洋上風車の上下部を保持し、運搬中洋上風車を固縛し、下側キャッチ部にて支える構造としているので、今後の大型化にも対応が容易である。
【0013】
この場合、前記上側キャッチ部は、前記ジブの突出部分に取り付けられ左右方向に延びる取り付け基部と、前記取り付け基部に基端部が水平回転可能に取り付けられる左右のアーム部材と、前記各アーム部材上に設けられ前記アーム部材上を左右方向に移動可能である下側部材と、前記下側部材上に設けられ前記下側部材上を前後方向に移動可能である上側部材とを備え、前記洋上風車の運搬時には、前記左右の上側部材で前記洋上風車の上部を挟んで前記洋上風車の上部を保持する、構造とすることが望ましい。このようにすれば、左右方向及び前後方向の位置調整が容易であり、洋上風車の保持を確実に行うことができる。
【0014】
前記取り付け基部は、前記左右のアーム部材の間に設けられ前記洋上風車の保持状態で前記洋上風車の外周面に接触するローラが回転可能に設けられている、構造とすることができる。
【0015】
前記左右の上側部材は、前記洋上風車の外周面の形状に対応する形状の内周面を有する凸部を有し、前記内周面に前記洋上風車の保持状態で前記洋上風車の外周面に接触する複数のローラまたはタイヤが回転可能に設けられる構造とすることができる。このようにすれば、周方向の位置調整ができる。
【0016】
前記左右の上側部材の凸部の先端部には、前記洋上風車の保持状態で前記左右の上側部材を結合可能である結合手段が設けられている、構造とすることができる。このようにすれば、保持が確実となる。
【0017】
また、前記下側キャッチ部は、前記ジブに対し昇降可能に設けられ左右方向に延びる支持本体部と、前記支持本体部の左右端部付近に後端部が連結され前方に延びる左右の支持部材と、各前記左右の支持部材の上側に設けられ左右方向に移動可能である左右の下側部材と、各前記左右の下側部材の上側に設けられ前後方向に移動可能である左右の上側部材と、を備え、前記ホーク部は、前記左右の支持部材、前記左右の下側部材および前記左右の上側部材を含み、前記洋上風車の運搬時には、前記左右の上側部材で前記洋上風車の下部を挟んで前記洋上風車の下部を保持する、構造とすることが望ましい。このようにすれば、基礎への設置時に、前後方向及び左右方向の位置補正を行うことができる。
【0018】
この場合、前記左右の上側部材は、前記洋上風車の外周面の形状に対応する形状の内周面を有する凸部を有し、前記内周面に、前記洋上風車の保持状態で、前記洋上風車の外周面に接触する複数のローラまたはタイヤが駆動手段によって回転可能に設けられている、構造とすることが望ましい。このようにすれば、基礎と洋上風車のベースとの間の周方向の位置調整を無理なく行うことができる。
【0019】
前記下側キャッチ手段は、前記左右の下側部材および前記左右の上側部材との間に、鉛直方向の衝撃を緩和するショックアブソーバを備える構造、また、前記ジブに対し昇降可能である主巻き滑車部が設けられ、前記下側キャッチ部は、前記支持本体部と前記主巻き滑車部との間に、鉛直方向の衝撃を緩和するショックアブソーバが設けられる構造とすれば、設置の際に、基礎上に洋上風車(ベース)がソフトランデイングされるようにできる。また、海象状態の影響を極力減少させることが可能になる。
【0020】
これらの場合、前記台船は、船体の喫水線を上下方向において調整可能であるセミサブ船とすることができる。このようにすれば、下側キャッチ部の上下方向の位置調整ができるのに加えて、さらに、セミサブ船は船体動揺量の低減を図ることが可能な船体形状であるので、設置場所でセミサブ船体の喫水を深くすることにより、海象状態の影響を極力減少させることが可能になる。
【0021】
また、本発明は、設置場所の海底に立設されかつ洋上に突出する突出部を有する基礎に対して、洋上風車を設置する、洋上風車の設置方法であって、前記洋上風車は、タワー、ナセル、ローター等を組立てた完成形で、前記基礎の突出部に対して、載置可能であるベースが下部外周に突出して設けられたものであり、ジブの船体外に突出する位置に上下対応して上下側キャッチ手段が設けられ前記上下側キャッチ手段によって前記洋上風車の上下部を保持可能である台船を用いるものであり、前記下側キャッチ手段は、前記洋上風車のベースの下側に挿入される支持部分を有するものであり、予め組み立てられた前記洋上風車のベース下に前記下側キャッチ手段の前記支持部分を挿入して前記洋上風車の下部を保持する一方、前記洋上風車の上部を前記上側キャッチ手段で保持する工程と、前記洋上風車の上下部を保持する状態で前記台船を曳航して前記設置場所まで移動させる工程と、前記設置場所において、前記洋上風車のベースを、前記基礎の突出部上に載置して、前記突出部に前記ベースを固定する工程と、前記固定を行った後、前記上下側キャッチ手段による保持を解除し前記台船を前記洋上風車から離す工程と、を備えることを特徴とする。このようにすれば、陸上にて洋上風車を予め一括組立した後、現地へ運搬し、現地で据え付ければよいので、現地作業時間が大幅に短縮される。下側キャッチ部のホーク部をベースの下側に挿入し支持(差し込み保持)することで簡単に風車全体重量を支えることが可能で、吊上げる作業で必要な吊ピース等のピン離脱作業などがなくなる。また、現地での設置作業時間も短縮可能となり、安全に作業ができる。また、洋上風車全体を風車頂部で吊り下げることなく、上側及び下側キャッチ部で洋上風車の上下部を保持するようにしているので、今後の洋上風車の大型化が進んでも対応可能である。
【0022】
この場合、前記上下側キャッチ手段は、左右の部材を有し、前記左右の部材を用いて前記洋上風車の上下部を両側から挟んで保持するようにしたり、また、前記洋上風車は、運搬前は海岸上に設置されている支持台上に前記ベースが載るように置かれているものであり、前記下側キャッチ部は、前記支持台上のベースの下側に前記ホーク部を挿入することにより、前記洋上風車全体重量を下側から支持したりするようにすれば、洋上風車の上下部の保持が容易である。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、陸上にて洋上風車を一括組立てから、設置場所に運搬し、現地で据え付けることができるので、現地作業時間を大幅に短縮することでき、SEP船を利用することなく、洋上風車の設置が可能になる。また、上側及び下側キャッチ部で洋上風車の上下部を保持するので、運搬中洋上風車を固縛して転倒を防止することができる。よって、洋上風車を吊上げて運搬する場合のように、吊り下げ運搬によるジブ強度や全体の剛性などを考慮する必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明にかかる洋上風車一括施工船の全体図である。
【
図2】前記洋上風車一括施工船が備える上側キャッチ部を示し、洋上風車を固定した状態を示す正面図である。
【
図3】洋上風車を固定した状態を示す同平面図である。
【
図5】前記洋上風車一括施工船が備える下側キャッチ部を示し、洋上風車を固定した状態を示す正面図である。
【
図6】洋上風車を固定した状態を示す同平面図である。
【
図7】洋上風車を固定した状態を示す同正面図である。
【
図12】さらに別の実施の形態を示し、浜出し状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施の形態を、図面に沿って説明する。
【0026】
図1は本発明にかかる洋上風車一括施工船の全体図である。
【0027】
図1に示すように、本発明にかかる洋上風車一括施工船1は、洋上風車U(タワー、ナセル、ローター等を組立てた完成形の洋上風車、
図8参照)を設置するのに用いられるものである。ただし、この洋上風車Uは、設置場所の海底に立設されかつ洋上に突出部F1を有する基礎F(
図10参照)に対して載置可能である矩形板状のベースU1(拡幅部)が下部外周全体に亘って突出して設けられている。このようなベースU1は、構造上不要であるが、矩形板状のベースU1を備えるようにすることで、ベースU1の下側に、後述する下側キャッチ部5のホーク部を挿入することで、洋上風車U全体重量を下側キャッチ部5にて支持することができるようになるためである。
【0028】
洋上風車一括施工船1は、台船2(運搬船)の船体上に、一部が船体外に突出するジブ3が設けられている。ジブ3の上部に上側キャッチ部4が、ジブ3の下部には上側キャッチ部4に対応して下側キャッチ部5がそれぞれ設けられている。下側キャッチ部5は、吊りロープ6にて昇降可能に設けられている。
【0029】
そして、洋上風車Uの運搬時には、前記船体外において、上部キャッチ部4は洋上風車Uの上部を保持する一方、下側キャッチ部5は、洋上風車Uが備えるベースU1の下側にホーク部(後述のアーム部材12L,12R、下側部材14L,14R、上側部材15L,15Rを含む)を挿入した状態で、洋上風車Uの下部を保持(支持)する。よって、洋上風車Uの下部は、ベースU1を介して支持されることになる。
【0030】
上側キャッチ部4は、
図2~
図4に示すように、ジブ3の突出部分に取り付けられ左右方向に延びる取り付け基部11と、取り付け基部11に基端部が鉛直軸回りに水平回転可能に支持される左右のアーム部材12L,12Rとを備える。左右のアーム部材12L,12Rは、長手方向(前後方向)の中央部付近がキャッチ開閉シリンダ13L,13Rを介して取り付け基部11(左右のアーム部材12L,12Rが支持される部分より外側)に連結されている。左右のアーム部材12L,12Rは、キャッチ開閉シリンダ13L,13Rが伸縮することで、水平回転して開閉される。そして、左右のアーム部材12L,12Rが閉じた状態で、後述する左右の上側部材15L,15Rにて洋上風車Uの上部をつかんで、倒れないように保持する状態となる。
【0031】
各アーム部材12L,12R上には、アーム部材12L,12R上を左右方向(台船2の幅方向)に移動可能である下側部材14L,14Rが設けられ、下側部材14L,14R上には前後方向(台船2の長手方向)に移動可能である上側部材15L,15Rが設けられている。つまり、アーム部材12L,12Rと下側部材14L,14Rとの間に左右方向位置調整ジャッキ16R,16Lが、下側部材14L,14Rと上側部材15L,15Rとの間に前後方向位置調整ジャッキ17R,17Lがそれぞれ設けられている。
【0032】
また、取り付け基部11は、左右のアーム部材12L,12Rの間に、前後方向位置調整ジャッキ18を介して、ローラ19が回転可能に設けられている。洋上風車Uの保持状態で、ローラ19が洋上風車の外周面に回転可能に接触する。
【0033】
左右の上側部材15L,15Rは、洋上風車の外周面の形状に対応する形状の内周面を有する凸部15La,15Raを有し、凸部15La,15Raの内周面に、洋上風車Uの保持状態で、洋上風車Uの外周面に接触する複数のローラ20(またはタイヤ)が水平軸回りに回転可能に設けられている。
【0034】
左右の上側部材15L,15Rの凸部15La,15Raの先端部には、洋上風車Uの保持状態で結合される結合部7L,7Rがそれぞれ形成され、洋上風車Uを保持する際には、それらが分離可能に結合されるようになっている。また、凸部15La(または15Ra)の先端部(結合部7L,7R)の上側にはキャッチ固定ジャッキ21が設けられ、洋上風車Uの保持状態(つまり、2つの結合部7L,7Rが結合された状態)で、キャッチ固定ジャッキ21の固定ピンが2つの結合部7L,7Rを貫通し、保持状態が維持されるようになっている。このように、左右の上側部材15L,15Rの凸部15La,15Raの先端部には、洋上風車Uの保持状態で結合部7L,7Rを結合する結合手段22が形成されている。よって、洋上風車Uの運搬時には、左右の上側部材15L,15Rで洋上風車Uの上部を挟んで確実に保持することができる。
【0035】
下側キャッチ部5は、
図5~
図7に示すように、ジブ3に対し昇降可能に設けられ左右方向に延びる支持本体部31と、支持本体部31の左右端部付近に後端部が連結され前方に平行に延びる左右支持部材32L,32Rとを備える。各左右支持部材32L,32Rの上側に左右方向に移動可能である左右の下側部材33L,33Rが、各左右の下側部材33L,33Rの上側に前後方向に移動可能である左右の上側部材34L,34Rがそれぞれ設けられている。そして、洋上風車Uの保持状態で、左右の上側部材34L,34Rで、洋上風車Uを左右両側から挟むようになっている。洋上風車Uの運搬時には、左右の上側部材34L,34Rで洋上風車Uの下部を挟んで保持する。なお、支持本体部31は、上部に吊りロープ6に連携された主巻き滑車部9を有し、吊りロープ6を用いてジブ3のガイド機構10に案内されて、昇降するようになっている。
【0036】
つまり、左右の支持部材32L,32Rと下側部材33L,33Rとの間に左右方向位置調整ジャッキ35R,35Lが、下側部材33L,33Rと上側部材34L,34Rとの間に前後方向位置調整ジャッキ36L,36Rがそれぞれ設けられている。
【0037】
左右の上側部材34L,34Rは、洋上風車Uの外周面の形状に対応する形状の内周面を有する凸部34La,34Raを有し、前記内周面に、洋上風車Uの保持状態で、洋上風車Uの外周面に接触する複数のローラ37(またはタイヤ)がモータ38(駆動手段)によって鉛直軸回りに回転可能に設けられている。
よって、洋上風車U全体重量を保持した下側キャッチ部5(支持本体部31)は 吊りロープ6を巻き上げたり戻したりすることで、ガイド機構10に案内されて、昇降するが,その際、支持本体部31のローラ37によって、洋上風車Uの下部の振れが抑制され、同様に、取り付け基部11のローラ19,20によって、洋上風車Uの上部の振れが抑制され、洋上風車Uを振れさせることなく、昇降させることができる。
【0038】
各左右の下側部材33L,33Rと左右の上側部材34L,34Rとの間に、鉛直方向の衝撃を緩和するショックアブソーバ39(例えば油圧シリンダーシステム)が設けられ、設置の際に、基礎F上へのソフトランデイングさせることができるようになっている。
【0039】
以上説明したように、ジブ3の船体外に突出する位置に上下対応して上下側キャッチ部4,5が設けられ上下側キャッチ部4,5によって洋上風車Uの上下部を保持可能である台船2を用い、下側キャッチ部5は、洋上風車UのベースU1の下側に挿入されるホーク部を有するものとすることで、設置場所の海底に立設されかつ洋上に突出する突出部F1を有する基礎Fに対して載置可能であるベースU1を備えた洋上風車Uを設置することができる。
【0040】
つまり、洋上風車の設置方法としては、(i)(予め組み立てられ海岸上の支持台8上に設置されている)洋上風車UのベースU1下に下側キャッチ部5(下側キャッチ手段)の支持部分(たとえば、ホーク部)を挿入して洋上風車Uの下部を保持する一方、洋上風車Uの上部を上側キャッチ部4(上側キャッチ手段)で保持する工程(
図8参照)と、(ii)洋上風車Uの上下部を保持する状態で台船2を曳航して前記設置場所まで移動させる工程(
図9参照)と、(iii)前記設置場所において、洋上風車UのベースU1を、基礎Fの突出部F1上に載置し、突出部F1にベースU1を固定する工程(
図10参照)と、(iv)前記固定を行った後、上下側キャッチ部4,5による保持を解除し台船2を洋上風車Uから離す工程と、を備えるようにすればよい。このようにすれば、陸上にて洋上風車Uを予め一括組立てた後、設置場所へ運搬して、現地で据え付ければよいので、現地作業時間を大幅に短縮することできる。
【0041】
この場合、台船としては、前述したような洋上風車一括施工船を用いる必要は必ずしもないが、洋上風車Uの上下部を保持する上下側キャッチ手段は、前述した上下側キャッチ部4,5に限らず、左右の部材を有し、洋上風車Uの上下部の保持が容易となるように、前記左右の部材を用いて洋上風車Uの上下部を両側から挟んで保持するものであればよい。
【0042】
以上のとおり、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、種々の追加、変更または削除が可能である。
【0043】
(i)前記実施の形態では、下側キャッチ部5のホーク部が下側に挿入されるベースU1(拡幅部)を矩形板状としているが、矩形板状には特に制限されず、例えば円板状であってもよく、洋上風車Uの外周より突出しており、下側キャッチ部5のホーク部を下側に挿入し、洋上風車の全体重量を下側から支持できる大きさ・強度を有するものであればよい。また、全周に亘って連続的に設けられたものである必要はなく、間欠的にあるいは部分的に設けられたものであったり、そのようなものを結合したりしたものでもよい。また、設置後に洋上風車Uの外周より取り外すようにすることも可能である。、
【0044】
(ii)前記実施の形態では、各左右の下側部材33L,33Rと左右の上側部材34L,34Rとの間に、海象状態の影響を極力減少させるためや設置時に基礎F上へのソフトランデイングさせるためにショックアブソーバ39を設けているが、ショックアブソーバ39に代えて、
図11に示すように、吊りロープ41によって主巻き滑車部42をジブに昇降可能に設け、下側キャッチ部5Aの支持本体部31と主巻き滑車部42との間に、ショックアブソーバ43を設けるようにすることも可能である。
【0045】
(iii)
図12~
図14に示すように、台船2Aは、船体2a喫水線を上下方向において調整可能であるセミサブ船とすることも可能である。この場合、浜出しの際には、
図12に示すように、洋上風車Uを取り出しやすくするために喫水線Lが高くなるように、船体2aを浮かし、運搬の際には、
図13に示すように、その状態を維持し、据付けの際には、
図14に示すように、海象状態の影響を極力低減させて洋上風車Uを設置しやすくするために、喫水線Lが低くなるように船体2aを沈めることになる。
【符号の説明】
【0046】
F 基礎
F1 突出部
U 洋上風車
U1 ベースU1
1 洋上風車一括施工船
2,2A 台船
3 ジブ
4 上側キャッチ部
5,5A 下側キャッチ部
6 吊りロープ
7L,7R 結合部
8 支持台
9 主巻き滑車部
10 ガイド機構
11 取り付け基部
12L,12R アーム部材
12La,12Ra 凸部
13L,13R キャッチ開閉シリンダ
14L,14R 下側部材
15L,15R 上側部材
16L,16R 左右方向位置調整ジャッキ
17L,17R 前後方向位置調整ジャッキ
18 前後方向位置調整ジャッキ
19 ローラ
20 ローラ
21 キャッチ固定ジャッキ
22 結合手段
31 支持本体部
32L,32R 支持部材
33L,33R 下側部材
34L,34R 上側部材
34La,34Ra 凸部
35L,35R 左右方向位置調整ジャッキ
36L,36R 前後方向位置調整ジャッキ
37 ローラ
38 モータ(駆動手段)
39 ショックアブソーバ
41 吊りロープ
42 主巻き滑車部
43 ショックアブソーバ