(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082759
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】スパークプラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/32 20060101AFI20240613BHJP
H01T 13/39 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H01T13/32
H01T13/39
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196846
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】伴 謙治
(72)【発明者】
【氏名】三原 浩太
(72)【発明者】
【氏名】城谷 亮寛
【テーマコード(参考)】
5G059
【Fターム(参考)】
5G059AA04
5G059CC02
5G059DD03
5G059DD04
5G059DD11
5G059EE03
5G059EE04
5G059EE11
5G059EE19
5G059FF02
5G059FF06
5G059GG01
5G059GG03
(57)【要約】
【課題】溶融部の耐剥離性と耐火花消耗性とを向上できるスパークプラグを提供する。
【解決手段】スパークプラグは、母材と母材が溶融した溶融部とを備え、溶融部は貴金属を含有すると共に曲面または平面からなる放電面を母材の表面に形成する第1電極と、放電面に対向する第2電極と、を備える。放電面の重心を含む表面に垂直な断面において、放電面と表面との境界を示す2点を結ぶ線分を底辺とし、2点と溶融部の最頂点とをそれぞれ結ぶ線分を2つの斜辺とする三角形の内側の、斜辺の少なくとも一方と溶融部との間に母材の一部が存在する。最頂点から三角形の底辺へ下した垂線の長さAを底辺の長さBで除した値は0.2以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材と前記母材が溶融した溶融部とを備え、前記溶融部は、貴金属を含有すると共に曲面または平面からなる放電面を前記母材の表面に形成する第1電極と、
前記放電面に対向する第2電極と、を備えるスパークプラグであって、
前記放電面の重心を含む前記表面に垂直な断面において、前記放電面と前記表面との境界を示す2点を結ぶ線分を底辺とし、前記2点と前記溶融部の最頂点とをそれぞれ結ぶ線分を2つの斜辺とする三角形の内側の、前記斜辺の少なくとも一方と前記溶融部との間に前記母材の一部が存在し、
前記最頂点から前記底辺へ下した垂線の長さAを前記底辺の長さBで除した値は0.2以上であるスパークプラグ。
【請求項2】
前記第1電極は接地電極であり、前記第2電極は中心電極であり、前記断面は前記接地電極が延びる長手方向に平行な断面である請求項1記載のスパークプラグ。
【請求項3】
前記値は0.2以上0.43以下である請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項4】
前記値は0.2以上0.33以下である請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項5】
前記第1電極は、前記溶融部に占める貴金属の割合よりも貴金属の割合が大きい貴金属部をさらに備え、
前記貴金属部は前記溶融部に接している請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【請求項6】
前記放電面の重心を含む前記表面に垂直な断面において、前記母材のうち前記溶融部の界面と前記斜辺とに囲まれた部分の面積は、前記溶融部のうち前記界面と前記斜辺とに囲まれた部分の面積より大きい請求項1又は2に記載のスパークプラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスパークプラグに関する。
【背景技術】
【0002】
貴金属を含む部材と母材とが溶けた溶融部が、電極の放電面に含まれるスパークプラグに係る先行技術は特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
先行技術は溶融部の耐剥離性と耐火花消耗性とを確保できるが、改善の余地がある。
【0005】
本発明はこの要求に応えるためになされたものであり、溶融部の耐剥離性と耐火花消耗性とを向上できるスパークプラグの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明のスパークプラグは、母材と母材が溶融した溶融部とを備え、溶融部は貴金属を含有すると共に曲面または平面からなる放電面を母材の表面に形成する第1電極と、放電面に対向する第2電極と、を備える。放電面の重心を含む母材の表面に垂直な断面において、放電面と母材の表面との境界を示す2点を結ぶ線分を底辺とし、2点と溶融部の最頂点とをそれぞれ結ぶ線分を2つの斜辺とする三角形の内側の、斜辺の少なくとも一方と溶融部との間に母材の一部が存在する。最頂点から三角形の底辺へ下した垂線の長さAを底辺の長さBで除した値は0.2以上である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、放電面の重心を含む母材の表面に垂直な断面において、放電面と母材の表面との境界を示す2点を結ぶ線分を底辺とし、2点と溶融部の最頂点とをそれぞれ結ぶ線分を斜辺とする三角形の、最頂点から底辺へ下した垂線の長さAを底辺の長さBで除した値は0.2以上であるため、母材に溶融部を接合する界面の長さを確保し、溶融部の耐剥離性を向上できる。さらに斜辺の少なくとも一方と溶融部との間の三角形の内側に母材の一部が存在するため、溶融部の大きさを制限して溶融部に占める貴金属の割合を確保できる。よって溶融部の耐火花消耗性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施の形態におけるスパークプラグの片側断面図である。
【
図3】第2実施の形態におけるスパークプラグの接地電極の断面図である。
【
図4】第3実施の形態におけるスパークプラグの接地電極の断面図である。
【
図5】第4実施の形態におけるスパークプラグの接地電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は第1実施の形態におけるスパークプラグ10の軸線Xを境にした片側断面図である。
図1では、紙面下側をスパークプラグ10の先端側、紙面上側をスパークプラグ10の後端側という(
図2から
図5においても同じ)。
図1に示すようにスパークプラグ10は、火花放電が起こる第1電極と第2電極とを備えている。本実施形態では接地電極20を第1電極、中心電極13を第2電極とする。
【0010】
絶縁体11は、機械的特性や高温下の絶縁性に優れるアルミナ等のセラミック製の略円筒状の部材である。絶縁体11は軸線Xに沿って軸孔12が設けられている。
【0011】
中心電極13は、絶縁体11の軸孔12の中に配置された棒状の部材である。中心電極13は、銅を主成分とする芯材が有底円筒状の母材14に覆われている。芯材を省略することは可能である。母材14の材料は例えばNi基合金であるが、これに限られるものではない。母材14の先端にチップ15が接合されている。チップ15は絶縁体11の先端から先端側に突出している。チップ15は、例えばPt,Rh,Ir,Ru等の貴金属のうちの1種または2種以上を含む。チップ15を省略することは可能である。
【0012】
中心電極13は、軸孔12の中で端子金具16と電気的に接続されている。端子金具16は、高圧ケーブル又は点火コイル(いずれも図示せず)が接続される棒状の部材であり、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成されている。端子金具16は、先端側が軸孔12に挿入された状態で、絶縁体11の後端側で固定されている。
【0013】
絶縁体11の外周に主体金具17が固定されている。主体金具17は、導電性を有する金属材料(例えば低炭素鋼等)によって形成された略円筒状の部材である。主体金具17は、径方向の外側へ鍔状に張り出す座部18と、座部18よりも先端側の外周面に設けられたねじ部19と、を備えている。主体金具17は、エンジン(シリンダヘッド)のプラグホール内に設けられたねじ穴(図示せず)にねじ部19を締結して固定される。
【0014】
主体金具17に接地電極20が接続されている。接地電極20は導電性を有する金属材料によって形成された湾曲した棒状の部材である。接地電極20は、主体金具17に接合された母材21と、母材21が溶融した溶融部24と、を備えている。溶融部24と中心電極13との間に火花ギャップが設けられている。
【0015】
母材21の材料は例えばNi基合金であるが、これに限られるものではない。銅を主成分とする芯材を母材21の中に埋め込むことは当然可能である。溶融部24はPt,Rh,Ir,Ru等の貴金属のうちの1種または2種以上を含む化学組成を有する。溶融部24は耐火花消耗性を確保するため貴金属を20wt%以上含む化学組成を有しているのが好ましい。溶融部24に占める貴金属の割合は、例えばエネルギー分散型X線分光器を搭載した走査電子顕微鏡(SEM-EDS)による分析で求められる。
【0016】
図2は接地電極20の断面図であって、接地電極20が延びる長手方向に平行に接地電極20を切断した断面図である。
図2では接地電極20のうち溶融部24の付近が図示され、それ以外の部分の図示が省略されている(
図3から
図5においても同じ)。母材21は、後端側を向く第1面22と、第1面22につながる第2面23と、を含む。第2面23は第1面22に垂直な面である。第1面22及び第2面23は母材21の表面の一部である。
【0017】
溶融部24は第1面22に現れている。溶融部24は、第1面22に対して隆起した球冠状の部分を有している。溶融部24と第1面22とが交わる溶融部24の境界25,26の形はほぼ円形である。境界25,26の内側の面は、溶融部24の放電面27である。放電面27は、角のない滑らかな湾曲面である。
【0018】
放電面27の重心28は、第1面22と平行な平面の上に放電面27を投影してできる平面図形の、周知の手段で算出した幾何中心である。
図2は放電面27の重心28を含む第1面22に垂直な断面図であるため、溶融部24の境界25,26は2点が現出している。
【0019】
接地電極20は、例えば以下のような方法によって作られる。貴金属を含む円板状の部材を母材21の第1面22に置いた後、部材を母材21に押し付けながら部材と母材21との間に電流を流す抵抗溶接によって母材21に部材を固定する。次に、第1面22に対面した加工ヘッドから部材に向けてレーザビームを照射するレーザ溶接によって、母材21のうち部材の近傍と部材とを溶融する。これにより貴金属を含む溶融部24が母材21に設けられた接地電極20が得られる。本実施形態では、貴金属を含む部材は溶融部24に全て溶けているため、溶融部24における貴金属の分布は一様である。
【0020】
部材の形や母材21のうち部材に接する部分の形、レーザビームの向きやレーザビームを照射する範囲、レーザビームの空間的強度分布やビーム強度の設定などにより、溶融部24の形や深さが設定される。部材に含まれる貴金属の量、部材の大きさや母材21の溶融量などにより、溶融部24に占める貴金属の割合が設定される。
【0021】
溶融部24は、溶融部24の最頂点29と境界25との間を結ぶ界面30と、最頂点29と境界26との間を結ぶ界面31と、を含む。最頂点29は第1面22に対する溶融部24の最も深いところであり、最頂点29と第1面22との間の距離(最頂点29から境界25,26を結ぶ線分に下ろした垂線の長さ)は、溶融部24のうち最頂点29以外の点と第1面22との間の距離よりも長い。最頂点29は、界面30と界面31とがつながる角に位置する。
【0022】
図2において放電面27の境界25,26を示す2点を結ぶ線分を底辺32とし、2点と最頂点29とを結ぶ線分をそれぞれ斜辺33,34とする三角形35を接地電極20に設けた場合に、溶融部24は、三角形35の内側の、斜辺33と界面30との間、及び、斜辺34と界面31との間の少なくとも一方に母材21の一部が存在するように作られている。最頂点29から底辺32へ下した垂線の長さAを底辺32の長さBで除した値A/Bは0.2以上0.43以下である。
【0023】
A/B≧0.2であるため、母材21に溶融部24を接合する界面30,31の長さを確保し、溶融部24の耐剥離性を向上できる。また三角形35の内側に界面30,31の少なくとも一部が存在するため、溶融部24の大きさを制限できる。溶融部24に占める貴金属の割合を確保できるため、溶融部24の耐火花消耗性を向上できる。さらにA/B≦0.43であるため、溶融部24の大きさがより制限され、溶融部24の耐火花消耗性をさらに向上できる。
【0024】
本実施形態では、界面30のうち境界25の付近と最頂点29の付近は斜辺33に重なり、界面30の中央部は斜辺33から離れて三角形35の内側に位置し、界面31のうち境界26の付近と最頂点29の付近は斜辺34に重なり、界面31の中央部は斜辺34から離れて三角形35の内側に位置する。すなわち界面30,31は、三角形35の斜辺33,34の上または三角形35の内側に位置する。溶融部24の大きさをさらに制限できるため、耐火花消耗性をさらに向上できる。
【0025】
界面30,31は、三角形35の斜辺33,34の上または三角形35の内側に在るため、溶融部24のうち界面30と斜辺33とに囲まれた部分の面積はゼロであり、溶融部24のうち界面31と斜辺34とに囲まれた部分の面積もゼロである。三角形35の内側の、斜辺33と界面30との間に母材21の一部が存在し、斜辺34と界面31との間に母材21の一部が存在するため、界面30,31を長くできると共に溶融部24の大きさをさらに制限できる。従って溶融部24の耐剥離性と耐火花消耗性とをさらに向上できる。
【0026】
母材21のうち界面30と斜辺33とに囲まれた部分の面積と、母材21のうち界面31と斜辺34とに囲まれた部分の面積と、を合わせた面積は、溶融部24のうち界面30と斜辺33とに囲まれた部分の面積と、溶融部24のうち界面31と斜辺34とに囲まれた部分の面積と、を合わせた面積(本実施形態ではゼロ)より大きい。溶融部24の大きさをさらに制限できるため、溶融部24の耐火花消耗性の向上に有利である。
【0027】
図3を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施形態では、貴金属を含む部材が、レーザ溶接のときに溶融部24に全て溶けた場合について説明した。これに対し第2実施形態では、貴金属を含む部材の一部が、レーザ溶接のときに溶け残る場合について説明する。第2実施形態では、第1実施形態において説明した部分と同一の部分は、同じ符号を付して以下の説明を省略する。
【0028】
図3は第2実施の形態におけるスパークプラグの接地電極40の断面図である。接地電極40は、第1実施形態における接地電極20に代えて、スパークプラグ10に配置される。接地電極40は、母材21と、母材21が溶融した溶融部41と、溶融部41に占める貴金属の割合よりも貴金属の割合が大きい貴金属部42と、を含む。貴金属部42は、溶融部41を作るレーザ溶接のときに溶け残った、貴金属を含む部材の一部である。貴金属部42は溶融部41に接している。貴金属部42の面積は、溶融部41の面積よりも小さい。本実施形態では貴金属部42のうち溶融部41に接していない表面は、接地電極40の表面に現れている。
【0029】
溶融部41は母材21の第1面22に現れている。溶融部41は、第1面22に対して隆起した球冠状の部分を有している。溶融部41と第1面22とが交わる溶融部41の境界43,44の形はほぼ円形である。境界43,44の内側の面は、溶融部41の放電面45である。放電面45は、角のない滑らかな湾曲面である。放電面45は円環状の面であり、放電面45の内側の外形線は貴金属部42の表面に接し、放電面45の外側の外形線は第1面22に接している。
図3は放電面45の重心46を含む第1面22に垂直な断面図であるため、溶融部41の境界43,44は2点が現出している。重心46は、放電面45の外側の外形線を平面図形としたときの幾何中心である。
【0030】
溶融部41は、溶融部41の最頂点47と境界43との間を結ぶ界面48と、最頂点47と境界44との間を結ぶ界面49と、を含む。最頂点47は、界面48と界面49とをつなぐ曲線上に位置する。溶融部41は、境界43,44を示す2点を結ぶ線分を底辺32とし、2点と最頂点47とを結ぶ線分をそれぞれ斜辺33,34とする三角形35の内側の、斜辺34と界面49との間に母材21の一部が存在する。界面48は境界43と最頂点47とを除き三角形35の外に在る。最頂点47から底辺32へ下した垂線の長さAを底辺32の長さBで除した値A/Bは0.2以上0.43以下である。
【0031】
A/B≧0.2であるため、母材21に溶融部41を接合する界面48,49の長さを確保し、溶融部41の耐剥離性を向上できる。また三角形35の内側に界面49の一部が存在するため、溶融部41の大きさを制限できる。溶融部41に占める貴金属の割合を確保できるため、溶融部41の耐火花消耗性を向上できる。さらにA/B≦0.43であるため、溶融部41の大きさがより制限され、溶融部41の耐火花消耗性をさらに向上できる。
【0032】
レーザ溶接のときに材料が溶け残った貴金属部42が存在するため、材料が全て溶けてしまって貴金属部42が存在しない場合に比べ、貴金属部42の分だけ溶融部41に占める貴金属の割合が小さくなる。しかし貴金属部42の面積は、溶融部41の面積よりも小さいため、溶融部41に占める貴金属の割合をある程度大きくできる。従って溶融部41の耐火花消耗性が低下しないようにできる。
【0033】
溶融部41に接する貴金属部42が存在し、貴金属部42は溶融部41に占める貴金属の割合よりも貴金属の割合が大きいため、貴金属部42によって耐火花消耗性を向上できる。溶融部41の界面48,49と貴金属部42とが離れているため、貴金属部42によって溶融部41と母材21との接合面積が小さくならないようにできる。貴金属部42によって溶融部41の耐剥離性が低下しないようにできる。
【0034】
図4を参照して第3実施の形態について説明する。第1実施形態および第2実施形態では、断面図において溶融部24,41が一方向に突き出ている場合について説明した。これに対し第3実施形態では、断面図において溶融部51が二方向に突き出ている場合について説明する。第3実施形態では、第1実施形態において説明した部分と同一の部分は、同じ符号を付して以下の説明を省略する。
【0035】
図4は第3実施の形態におけるスパークプラグの接地電極50の断面図である。接地電極50は、第1実施形態における接地電極20に代えて、スパークプラグ10に配置される。接地電極50は、母材21と、母材21が溶融した溶融部51と、を含む。溶融部51は母材21の第1面22に現れている。溶融部51は、第1面22に対して隆起した球冠状の部分を有している。溶融部51と第1面22とが交わる溶融部51の境界52,53の形はほぼ円形である。境界52,53の内側の面は放電面54である。放電面54は角のない滑らかな湾曲面である。
図4は放電面54の重心55を含む第1面22に垂直な断面図であるため、溶融部51の境界52,53は2点が現出している。
【0036】
溶融部51は、溶融部51の最頂点56と境界52との間を結ぶ界面57と、最頂点56と境界53との間を結ぶ界面59と、を含む。界面57は、第1面22から離れる方向へ突き出る頂点58を含む。最頂点56は、界面57と界面59とがつながる角に位置する。
【0037】
溶融部51は、境界52,53を示す2点を結ぶ線分を底辺32とし、2点と最頂点56とを結ぶ線分をそれぞれ斜辺33,34とする三角形35の内側の、斜辺33と界面57との間に母材21の一部が存在し、斜辺34と界面59との間に母材21の一部が存在する。界面59は斜辺34の上または三角形35の内側に在る。最頂点56から底辺32へ下した垂線の長さAを底辺32の長さBで除した値A/Bは0.2以上0.43以下である。
【0038】
A/B≧0.2であるため、母材21に溶融部51を接合する界面57,59の長さを確保し、溶融部51の耐剥離性を向上できる。また三角形35の内側に界面57,59の一部が存在するため、溶融部51の大きさを制限できる。溶融部51に占める貴金属の割合を確保できるため、溶融部51の耐火花消耗性を向上できる。さらにA/B≦0.43であるため、溶融部51の大きさがより制限され、溶融部51の耐火花消耗性をさらに向上できる。
【0039】
界面57は頂点58を含むため、頂点58の分だけ界面57を長くできる。界面57によって溶融部51の耐剥離性をさらに向上できる。
【0040】
図5を参照して第4実施の形態について説明する。第1実施形態から第3実施形態では母材21の第1面22に溶融部24,41,51が現れる場合について説明した。これに対し第4実施形態では、母材21の第1面22及び第2面23に溶融部61が現れる場合について説明する。第4実施形態では、第1実施形態において説明した部分と同一の部分は、同じ符号を付して以下の説明を省略する。
【0041】
図5は第4実施の形態におけるスパークプラグの接地電極60の断面図である。接地電極60は、第1実施形態における接地電極20に代えて、スパークプラグ10に配置される。接地電極60は、母材21と、母材21が溶融した溶融部61と、を含む。溶融部61は母材21の第1面22及び第2面23に現れている。
【0042】
溶融部61の放電面64は第1面22と第2面23に滑らかにつながった曲面である。放電面64の形は、第1面22と同じ方向を向く部分がほぼ矩形であり、第2面23と同じ方向を向く部分もほぼ矩形である。放電面64のうち第1面22と同じ方向を向く部分は、第1面22に対してほぼ同一の高さの平面状であり、放電面64のうち第2面23と同じ方向を向く部分は、第2面23に対してほぼ同一の高さの平面状である。放電面64は、第1面22と同じ方向を向く部分と、第2面23と同じ方向を向く部分と、が交わる角に丸みが付されており、両者は角のない滑らかな曲面でつながっている。
【0043】
放電面64の重心65は、第1面22と平行な平面の上に放電面64を投影してできる平面図形の、周知の手段で算出した幾何中心である。
図5は放電面64の重心65を含む第1面22に垂直な断面図であるため、溶融部61の境界62,63は2点が現出している。境界62は放電面64と第1面22との間の境界であり、境界63は放電面64と第2面23との間の境界である。
【0044】
接地電極60は、例えば以下のような方法によって作られる。第1面22と第2面23とが交わる角に凹みを設けた母材21を準備し、貴金属を含む矩形板状の部材を凹みの中に置いた後、部材を母材21に押し付けながら部材と母材21との間に電流を流す抵抗溶接によって母材21に部材を固定する。次に、加工ヘッドから部材に向けてレーザビームを照射するレーザ溶接によって、母材21のうち部材の近傍と部材とを溶融する。これにより貴金属を含む溶融部61が母材21に設けられた接地電極60が得られる。本実施形態では、貴金属を含む部材は溶融部61に全て溶けているため、溶融部61における貴金属の分布は一様である。
【0045】
溶融部61は、溶融部61の最頂点66と境界62との間を結ぶ界面67と、最頂点66と境界63との間を結ぶ界面68と、を含む。最頂点66は、界面67と界面68とがつながる角に位置する。溶融部61は、境界62,63を示す2点を結ぶ線分を底辺32とし、2点と最頂点66とを結ぶ線分をそれぞれ斜辺33,34とする三角形35の内側の、斜辺33と界面67との間に母材21の一部が存在し、斜辺34と界面68との間に母材21の一部が存在する。界面67は斜辺33に交わり、界面68は斜辺34に交わる。最頂点66から底辺32へ下した垂線の長さAを底辺32の長さBで除した値A/Bは0.2以上0.43以下である。
【0046】
A/B≧0.2であるため、母材21に溶融部61を接合する界面67,68の長さを確保し、溶融部61の耐剥離性を向上できる。また三角形35の内側に界面67,68の一部が存在するため、溶融部61の大きさを制限できる。溶融部61に占める貴金属の割合を確保できるため、溶融部61の耐火花消耗性を向上できる。さらにA/B≦0.43であるため、溶融部61の大きさがより制限され、溶融部61の耐火花消耗性をさらに向上できる。
【0047】
三角形35の内側の、斜辺33と界面67との間に母材21の一部が存在し、斜辺34と界面68との間に母材21の一部が存在するため、界面67,68を長くできると共に溶融部61の大きさをさらに制限できる。従って溶融部61の耐剥離性と耐火花消耗性とをさらに向上できる。
【0048】
母材21のうち界面67と斜辺33とに囲まれた部分の面積と、母材21のうち界面68と斜辺34とに囲まれた部分の面積と、を合わせた面積は、溶融部61のうち界面67と斜辺33とに囲まれた部分の面積と、溶融部61のうち界面68と斜辺34とに囲まれた部分の面積と、を合わせた面積より大きい。界面67,68によって溶融部61の大きさをさらに制限できるため、溶融部61の耐火花消耗性の向上に有利である。
【実施例0049】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0050】
(サンプルの作製)
試験者は、接地電極の母材の第1面に配置した円板に、レーザビームを異なる条件で照射して円板を全て溶かし、円板と母材とが溶けてなる溶融部を含む接地電極をもつスパークプラグのサンプルNo.1-7を作製した。サンプルは、おねじの呼び径が12mmの主体金具に接続された接地電極と、主体金具に絶縁保持された中心電極と、の間に火花ギャップが設けられていた。サンプルの接地電極の母材の幅は2.7mm、母材の厚さは1.3mm、母材の材料はNi基合金であり、円板の材料はPtを50wt%以上含む合金であった。試験者は、耐剥離性および耐火花消耗性に溶融部の長さA,Bが与える影響を調べる試験を行った。サンプルは、溶融部の長さA,B以外の各部の寸法および材料は同一であった。
【0051】
(剥離試験)
剥離試験は、テストベンチに設置した排気量1600ccの過給機付き直列4気筒のガソリン直噴エンジンにサンプルを取り付け、エンジンを回転数3500rpmで2分間運転した後、2分間停止する過程を300時間経過するまで繰り返した。
【0052】
試験後、サンプルの接地電極が延びる長手方向に平行な切断図であって溶融部の放電面の重心を含む第1面に垂直な切断面を顕微鏡で観察して、長さA、長さB、溶融部の界面の全長C、溶融部の界面の端から界面に沿って進展したクラックの長さDを測定した。クラックは酸化していたため、接合されている界面と界面が破壊したクラックとを判別できた。A/B、D/Cを算出し、界面の全長に占めるクラックの割合(D/C)が0%のサンプルはE(耐剥離性が優れる)、クラックの割合が25%未満のサンプルはG(良い)、クラックの割合が25%以上のサンプルはF(劣る)と判定した。結果は表1に記した。
【0053】
サンプルNo.1-7の切断面を観察した結果、全てのサンプルは、放電面の境界を示す2点を結ぶ線分を底辺とし、2点と溶融部の最頂点とをそれぞれ結ぶ線分を斜辺とする三角形の内側の、片方の斜辺と界面との間に母材の一部が存在し、もう片方の斜辺と界面との間に母材の一部が存在していた。また、全てのサンプルは、母材のうち界面と斜辺とに囲まれた部分の面積が、溶融部のうち界面と斜辺とに囲まれた部分の面積より大きかった。
【0054】
(火花消耗試験)
火花消耗試験の前に、サンプルの溶融部の放電面と中心電極との間の距離(火花ギャップの大きさ)を投影機で測定した。火花消耗試験は、テストベンチに設置した排気量1600ccの過給機付き直列4気筒のガソリン直噴エンジンに、火花ギャップの大きさを予め測定したサンプルを取り付け、エンジンを6000rpm、WOT(吸気絞り弁全開)の条件で500時間運転した。
【0055】
試験後のサンプルの火花ギャップの大きさを投影機で測定した。試験後の火花ギャップの大きさから試験前の火花ギャップの大きさを減じた値が0.05mm未満のサンプルはE(耐火花消耗性が優れる)、値が0.05mm以上0.1mm以下のサンプルはG(良い)、値が0.1mmを超えたサンプルはF(劣る)と判定した。結果は表1に記した。
【0056】
【0057】
表1によれば、A/B≧0.20のとき(サンプルNo.2-7)は耐剥離性の判定がE又はGであった。サンプルNo.1はA/Bが0.18であり、溶融部が作る三角形の底辺の長さBに比べて最頂点から底辺に下した垂線の長さAが著しく短いため、溶融部の界面の全長が短くなり、溶融部の接合強度が低下し、溶融部が剥がれ易くなったと推定できる。
【0058】
A/B≦0.43のとき(サンプルNo.1-6)は耐火花消耗性の判定がE又はGであった。サンプルNo.7はA/Bが0.55であり、溶融部が作る三角形の底辺の長さBに比べて最頂点から底辺に下した垂線の長さAが著しく長いため、溶融部の体積が大きくなり、溶融部に占める貴金属の割合が低下し、溶融部が火花消耗し易くなったと推定できる。
【0059】
0.20≦A/B≦0.43のとき(サンプルNo.2-6)は耐剥離性と耐火花消耗性の判定がE又はGであり、耐剥離性と耐火花消耗性とを両立できることが明らかになった。0.20≦A/B≦0.33のとき(サンプルNo.2,3)は耐剥離性と耐火花消耗性の判定がEであり、耐剥離性と耐火花消耗性とが優れることが明らかになった。
【0060】
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。
【0061】
実施形態では接地電極20,40,50,60を第1電極とし、中心電極13を第2電極として、接地電極20,40,50,60の母材21に溶融部24,41,51,61を設ける場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。中心電極13を第1電極とし、接地電極20を第2電極として、中心電極13の母材14に溶融部を設けることは当然可能である。
【0062】
第1実施形態から第3実施形態では、溶融部24,41,51が母材21の第1面22から隆起する球冠状の部分を含み、放電面27,45,54が湾曲面である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。溶融部の放電面を、母材21の第1面22に対してほぼ同一の高さの平面状にすることは当然可能である。このような放電面は、例えば母材21の第1面22に凹みを設け、貴金属を含む部材を凹みの中に置いた後、部材にレーザビームを照射して形成できる。
【0063】
第4実施形態では、溶融部61の放電面64のうち母材21の第1面22と同じ方向を向く部分は、第1面22に対してほぼ同一の高さの平面状であり、放電面64のうち第2面23と同じ方向を向く部分は、第2面23に対してほぼ同一の高さの平面状である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。放電面64のうち母材21の第1面22と同じ方向を向く部分を、第1面22に対して隆起した湾曲面にしたり、放電面64のうち第2面23と同じ方向を向く部分を、第2面23に対して隆起した湾曲面にしたりすることは当然可能である。
【0064】
第1実施形態から第3実施形態では溶融部24,41,51の境界が円形状であり、第4実施形態では溶融部61の境界が矩形状である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。溶融部の境界の形は適宜設定できる。例えば第1実施形態から第3実施形態における溶融部の境界を矩形状にしたり、第4実施形態における溶融部の境界を円形状にしたりすることは当然可能である。
【0065】
実施形態では説明を省略したが、溶融部24,41,51,61の放電面27,45,54,64の中に凹凸があっても良い。すなわち放電面は、面の中に凹凸があるものが含まれる。放電面の形状は、溶融金属が凝固して溶融部ができるときの溶融金属の表面張力などの影響を受けて丸みを帯びるため、放電面の凹凸は角のない滑らかな曲面といえるためである。
【0066】
第2実施形態では貴金属部42の一部が接地電極40の表面に現れている場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。貴金属部42は溶融部41の中に埋まっていても良い。貴金属部42は溶融部41に占める貴金属の割合よりも貴金属の割合が大きいため、溶融部41の中に貴金属部42が埋まっている場合も、溶融部41が消耗しても貴金属部42によって耐火花消耗性を向上できる。
【0067】
第2実施形態において説明した貴金属部42を、第1実施形態、第3実施形態および第4実施形態における溶融部24,51,61の中に設けることは当然可能である。また溶融部24,41,51,61の中に複数の貴金属部42を設けることは当然可能である。
【0068】
第2実施形態では、母材21のうち界面49と斜辺34とに囲まれた部分の面積は、溶融部41のうち界面48と斜辺33とに囲まれた部分の面積と、溶融部41のうち界面49と斜辺34とに囲まれた部分の面積と、を合わせた面積より小さいが、これに限られるものではない。母材21のうち界面49と斜辺34とに囲まれた部分の面積が、溶融部41のうち界面48と斜辺33とに囲まれた部分の面積と、溶融部41のうち界面49と斜辺34とに囲まれた部分の面積と、を合わせた面積より大きくなるように、レーザ溶接の条件を設定して、界面49の形を変えることは当然可能である。そのようにすれば界面48,49によって溶融部41の大きさを制限できることになるため、溶融部41の耐火花消耗性の向上に有利である。
【0069】
実施形態では接地電極20,40,50,60の母材21の第1面22が中心電極13の先端側に位置し、第1面22に設けられた溶融部24,41,51,61と中心電極13との間に火花ギャップが設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。接地電極20,40,50,60の母材21の第2面23を中心電極13の先端側に配置し、第2面23に設けられた溶融部と中心電極13との間に火花ギャップを設けることは当然可能である。また接地電極20,40,50,60の母材21の第2面23を中心電極13の側方に配置し、第2面23に設けられた溶融部と中心電極13との間に火花ギャップを設けることは当然可能である。この場合に接地電極を複数設けることは当然可能である。
【0070】
実施形態では接地電極20,40,50,60が湾曲した棒状の部材である場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。中心電極13の先端の位置あたりまで主体金具17のねじ部19を軸方向に延長し、直線状の接地電極をねじ部19の先端に接続し、中心電極13と接地電極との間に火花ギャップを設定することは当然可能である。