(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082783
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】遠心ブレーキ
(51)【国際特許分類】
E06B 9/322 20060101AFI20240613BHJP
F16D 59/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
E06B9/322
F16D59/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196883
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】株式会社オリジン
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池川 汐里
【テーマコード(参考)】
2E043
3J058
【Fターム(参考)】
2E043AA01
2E043AA04
2E043BB15
2E043BC02
2E043BE15
2E043DA01
3J058AA03
3J058AA07
3J058AA13
3J058AA17
3J058AA30
3J058AA37
3J058AB29
3J058BA01
3J058CB01
3J058CC06
3J058EA15
3J058FA50
(57)【要約】
【課題】制動力を無段階で調整可能な、新規の遠心ブレーキを提供すること。
【解決手段】回転軸o1と交差する調整軸o2の周りを回動可能な一対の調整部材26a及び26bを、夫々の内面が調整軸o2方向に間隔をおいて相互に対向するよう連結せしめ、連結せしめられた一対の調整部材26a及び26bの内面にウェイト18の外面が当接して摺動する筒状の摺動内周面32を規定すると共に、一対の調整部材26a及び26bの各々の内面に摩擦係数の異なる複数の領域(主調整片38x、38y、38z)を調整軸o2の周りに周方向に隣接して区画する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、前記ハウジングの内側で回転する回転体とを備え、
前記回転体は回転軸に対して偏心した位置で前記回転軸と平行に延びる支持軸を有し、前記支持軸にはウェイトが旋回可能に軸支されており、
前記回転体が回転すると、前記ウェイトが旋回して前記ウェイトの外面が前記ハウジングの内面に当接して摺動する遠心ブレーキにおいて、
前記ハウジングは、前記回転軸と交差する調整軸の周りを回動可能な一対の調整部材を含み、前記一対の調整部材の各々の内面は前記調整軸方向に間隔をおいて相互に対向して配置され、前記一対の調整部材の内面には前記ウェイトの外面が当接して摺動自在な筒状の摺動内周面が規定されており、
前記一対の調整部材の各々の内面には摩擦係数の異なる複数の領域が前記調整軸の周りに周方向に隣接して区画されている、ことを特徴とする遠心ブレーキ。
【請求項2】
前記一対の調整部材の各々は複数の板状調整片を組み合わせて構成され、前記複数の板状調整片は夫々摩擦係数の異なる材質で形成される、請求項1に記載の遠心ブレーキ。
【請求項3】
前記摺動内周面の横断面形状は円弧形状であり縦断面形状は円形である、請求項1又は2に記載の遠心ブレーキ。
【請求項4】
前記調整軸は前記回転軸に対して直交する、請求項1又は2に記載の遠心ブレーキ。
【請求項5】
前記ハウジングは更に、前記一対の調整部材の各々が各別に固定されて相互に結合せしめられる一対の可動ハウジング片と、前記回転体を回転自在に挾持すると共に相互に結合せしめられた前記一対の可動ハウジング片を回動自在に挾持する一対の固定ハウジング片とを含む、請求項1又は2に記載の遠心ブレーキ。
【請求項6】
前記一対の固定ハウジング片と前記一対の可動ハウジング片の一方との間にはゴムワッシャが配置されている、請求項5に記載の遠心ブレーキ。
【請求項7】
前記一対の可動ハウジング片の一方には操作部が設けられていると共に、前記一対の固定ハウジングのいずれか一方又は両方には前記可動ハウジング片の回動範囲を制限する制限片が設けられている、請求項5に記載の遠心ブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心ブレーキ、殊に所要操作によって制動力の大きさを無段階で調整可能な遠心ブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
室内の窓際には日射を避ける等の目的からブラインドが配設されることがある。ブラインドは水平方向に延びるスラットを有する。スラットは上下方向に多数配置され、多数のスラットは夫々昇降コード(操作コードと称されることもある)によって上下方向に接続される。ブラインドは更に、最上端に位置するスラットよりも上方に配置される巻き取り機構と、最下端に位置するスラットよりも下方に配置されるボトムレール(ボトムパイプ或いはウェイトバーと称されることもある)とを備え、昇降コードの一端が巻き取り機構に他端がボトムレールに夫々接続される。かようなブラインドにあっては、巻き取り機構を操作して昇降コードを巻き取ることでボトムレールは上昇し、巻き取り機構が備える適宜のロック機構を作動させることでボトムレールは上昇した任意の位置で保持される。そして、上記ロック機構の作動を解除すればボトムレールは降下する。ここで、上記ロック機構の作動を解除するとボトムレールは自由落下してしまうことから、その降下速度を低減させるべく巻き取り機構には適宜のブレーキ機構が組み込まれることがある。このようなブレーキ機構としては周知の遠心ブレーキが採用されることが多い。
【0003】
下記特許文献1には、遠心ブレーキの一例として、断面円形の内周面を有する筒状のハウジングと、前記ハウジングの内側で回転する回転体とを具備し、前記回転体の回転軸は前記ハウジングの前記内周面の中心軸と同一であり、前記回転体は前記回転軸に対して偏心した位置で前記回転軸と平行に延びる支持軸を有し、前記支持軸にはウェイトが旋回可能に軸支されており、前記回転体が回転すると、前記ウェイトが旋回して前記ウェイトの外面が前記ハウジングの内面に当接して摺動する遠心ブレーキが開示されている。上記遠心力によってウェイトの外周面はハウジングの内周面に押し付けられ、ウェイトの外周面とハウジングの内周面との間で生じる垂直抗力は増大せしめられるため、摩擦に起因した制動力も増大せしめられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、特許文献1に開示された遠心ブレーキにあっては制動力の大きさを調整することができず、従って、この遠心ブレーキが上述したブラインドのブレーキ機構として用いられた場合には、使用者の好みによってスラットの落下速度を調整することができない。また、スラットの重さによって制動力を変える場合には、予め制動力の異なる複数種類の遠心ブレーキを準備しておく必要があり、遠心ブレーキの在庫管理が煩雑である。
【0006】
ところで、本発明者は本願に先立って出願した特願2020-187961の明細書及び図面において、複数個のウェイトを軸方向に直列に配置し、回転体にはこれと一体となって回転すると共に回転体に対して軸方向に進退可能な調整部材を組み合わせ、回転体に対する調整部材の軸方向位置を調整することで調整部材がハウジングの内周面とウェイトの外周面との間に選択的に進入可能な遠心ブレーキを提案した(以下「先行遠心ブレーキ」という)。この遠心ブレーキによれば、回転体に対する調整部材の軸方向位置を調整することで、回転体が回転した際に、(ウェイトの)外周面が調整部材の内周面に当接してハウジングの内周面に当接することが阻止されるウェイトの数を変化させることができ、これにより回転体にかかる制動力の大きさを段階的に調整することが可能となる。
【0007】
而して、上記先行遠心ブレーキも充分に満足し得るものではなく、先行遠心ブレーキにあっては制動力が段階的に調整されるため、制動力の微調整が不可能であるという、更なる課題が存在することが判明した。
【0008】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、制動力を無段階で調整可能な、新規且つ改良された遠心ブレーキを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、鋭意検討の結果、回転軸と交差する調整軸の周りを回動可能な一対の調整部材を、夫々の内面が調整軸方向に間隔をおいて相互に対向するよう連結せしめ、連結せしめられた一対の調整部材の内面にウェイトの外面が当接して摺動する筒状の摺動内周面を規定すると共に、一対の調整部材の各々の内面に摩擦係数の異なる複数の領域を調整軸の周りに周方向に隣接して区画することで、上記主たる技術的課題を達成できることを見出した。
【0010】
即ち、本発明によれば、上記主たる技術的課題を達成する遠心ブレーキとして、ハウジングと、前記ハウジングの内側で回転する回転体とを備え、
前記回転体は回転軸に対して偏心した位置で前記回転軸と平行に延びる支持軸を有し、前記支持軸にはウェイトが旋回可能に軸支されており、
前記回転体が回転すると、前記ウェイトが旋回して前記ウェイトの外面が前記ハウジングの内面に当接して摺動する遠心ブレーキにおいて、
前記ハウジングは、前記回転軸と交差する調整軸の周りを回動可能な一対の調整部材を含み、前記一対の調整部材の各々の内面は前記調整軸方向に間隔をおいて相互に対向して配置され、前記一対の調整部材の内面には前記ウェイトの外面が当接して摺動自在な筒状の摺動内周面が規定されており、
前記一対の調整部材の各々の内面には摩擦係数の異なる複数の領域が前記調整軸の周りに周方向に隣接して区画されている、ことを特徴とする遠心ブレーキが提供される。
【0011】
好ましくは、前記一対の調整部材の各々は複数の板状調整片を組み合わせて構成され、前記複数の板状調整片は夫々摩擦係数の異なる材質で形成される。前記摺動内周面の横断面形状は円弧形状であり縦断面形状は円形であるのが好適である。前記調整軸は前記回転軸に対して直交するのがよい。好適には、前記ハウジングは更に、前記一対の調整部材の各々が各別に固定されて相互に結合せしめられる一対の可動ハウジング片と、前記回転体を回転自在に挾持すると共に相互に結合せしめられた前記一対の可動ハウジング片を回動自在に挾持する一対の固定ハウジング片とを含む。この場合には、前記一対の固定ハウジング片と前記一対の可動ハウジング片の一方との間にはゴムワッシャが配置されているのがよい。更に、前記一対の可動ハウジング片の一方には操作部が設けられていると共に、前記一対の固定ハウジングのいずれか一方又は両方には前記可動ハウジング片の回動範囲を制限する制限片が設けられているのが好都合である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の遠心ブレーキにあっては、ウェイトの外面が当接して摺動する筒状の摺動内周面が、回転軸と交差する調整軸の周りを回動可能な一対の調整部材の内面に規定されており、一対の調整部材の各々の内面には摩擦係数の異なる複数の領域が調整軸の周りに周方向に隣接して区画されている。それ故に、一対の調整部材が調整軸の周りに回動せしめられることで、ウェイトの外面が当接する一対の調整部材の内面の領域が変更され、ウェイトが調整部材から受ける摩擦抵抗の大きさを調整することができる。そして、上記領域は調整軸の周りに周方向に隣接して複数区画されていることから、ウェイトの外面が調整部材の内面における複数の上記領域に跨って当接すれば、ウェイトが調整部材から受ける摩擦抵抗の大きさを無段階で調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従って構成された遠心ブレーキの全体構成を示す図。
【
図2】
図1に示す遠心ブレーキを構成部品毎に分解して示す斜視図。
【
図3】
図1に示す遠心ブレーキの回転体を単体で示す図。
【
図5】
図1に示す遠心ブレーキが有する一対のハウジング片の一方を単体で示す図。
【
図6】
図1に示す遠心ブレーキが有する一対のハウジング片の他方を単体で示す図。
【
図7】
図1に示す遠心ブレーキが有する固定ハウジング片を単体で示す図。
【
図8】
図1において回転体が回転したときのA-A線断面図。
【
図9-1】
図1に示す遠心ブレーキにおいて、調整部材が調整軸の周りに回動せしめられた状態を示す図。
【
図9-2】
図1に示す遠心ブレーキにおいて、調整部材が調整軸の周りに回動せしめられた状態を示す図。
【
図9-3】
図1に示す遠心ブレーキにおいて、調整部材が調整軸の周りに回動せしめられた状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に従って構成された遠心ブレーキの好適実施形態を図示している添付図面を参照して、更に詳細に説明する。
【0015】
図1及び
図2を参照して説明すると、全体を番号2で示す遠心ブレーキは、ハウジング4とハウジング4の内側で回転する回転体6とを備えている。回転体6の回転軸をo1で示す。
【0016】
便宜上、ハウジング4に先立って回転体6から、
図1及び
図2と共に
図3を参照して説明する。回転体6は適宜の合成樹脂により形成され、回転軸o1に沿った軸方向(本段落及び次段落においては、特段の断りが無い限り「軸方向」とは回転軸o1に沿った軸方向のこと、「周方向」とは回転軸o1を基準とした周方向のことを夫々言う)に直線状に延びる断面円形の回転主軸8を備えている。回転主軸8の軸方向両端には円板形状のフランジ10が配設されており、一方のフランジ10には、軸方向において回転主軸8とは反対側に直線状に延びる接続部12が付設されている。接続部12の断面形状は円形の外周面の一部を直線状に切り欠いた形状であって、回転体6は接続部12を介してブラインドの巻き取り機構の如き図示しない外部機器に接続される。回転主軸8の軸方向中間部には軸方向に間隔をおいて円形の支持板14が一対設けられている。一対の支持板14の各々は外周縁部において回転軸o1と平行に延びる支持軸16によって接続されている。つまり、回転体6は回転軸o1に対して偏心した位置で回転軸o1と平行に延びる支持軸16を有する。支持軸16は一対の支持板14によって両持ち支持されているため、支持軸16の強度は高い。図示の実施形態においては、支持軸16は周方向に180度の角度間隔をおいて2つ設けられており、支持軸16の断面は所要形状をなしている。
【0017】
図1及び
図2を参照して説明を続けると、上記した支持軸16には金属製のウェイト18が旋回可能に軸支される。図示の実施形態においては、支持軸16は2つ設けられており、2つの支持軸16の各々にウェイト18は軸支されている。ウェイト18は円弧形状であって軸方向に所要幅を有する。ウェイト18の外周面の周方向片側端部には軸方向に直線状に貫通する軸受溝20が形成されており、軸受溝20が回転体6の支持軸16に嵌め合わされることで、ウェイト18は回転体6に装着される。支持軸16及び軸受溝20の断面形状並びにウェイト18を回転体6に装着する方法については、本発明者が本願に先立って特許出願して既に特許された特許第7052122号公報を参照されたい。ウェイト18の外周面の周方向中間部には軸方向に直線状に貫通する装着溝22が形成されている。装着溝22には合成樹脂製の摩擦シュー24が交換自在に装着される。
【0018】
引き続き
図1及び
図2を参照してハウジング4について説明すると、ハウジング4は一対の調整部材26a及び26bを含んでいる。図示の実施形態においては、ハウジング4は一対の可動ハウジング片28a及び28b並びに一対の固定ハウジング片30a及び30bも含んでいる。一対の調整部材26a及び26b、一対の可動ハウジング片28a及び28b、並びに一対の固定ハウジング片30a及び30bはいずれも適宜の合成樹脂により形成される。一対の調整部材26a及び26bの材質については後に更に言及する。一対の調整部材26a及び26bの各々は回転軸o1と交差する調整軸o2の周りを回動可能であって、夫々の内面が調整軸o2方向に間隔をおいて相互に対向して配置せしめられる。図示の実施形態においては、調整軸o2は回転軸o1と直交しており、一対の調整部材26a及び26bの各々は同一の半球形状である。そして、一対の調整部材26a及び26bが組み合わされると球形の内部空間が画成され、かかる内部空間にウェイト18は配置される。これにより、組み合わされた一対の調整部材26a及び26bの内面には、後述するとおりウェイト18が旋回した際にウェイト18の外面が当接して摺動する摺動内周面32が規定される(
図9-1も参照されたい)。図示の実施形態においては、一対の調整部材26a及び26bの各々は同一の半球形状であることから、摺動内周面32の横断面形状(
図9-1(b)において横方向に切断した際の断面形状)は円弧形状であり縦断面形状(
図9-1(b)において縦方向に切断した際の断面形状)は円形である。一対の調整部材26a及び26bの各々の環状端縁には円弧形状の切欠き36が調整軸o2の周りに180度の角度間隔をおいて2つずつ形成されている。
【0019】
そして、一対の調整部材26a及び26bの各々の内面には摩擦係数の異なる複数の領域が調整軸o2の周りに周方向に隣接して区画される。図示の実施形態においては、一対の調整部材26a及び26bの各々は複数の板状調整片を組み合わせて構成され、複数の板状調整片を夫々摩擦係数の異なる材質で形成することで上記領域が区画されている。調整片は主調整片38及び補助調整片40(後述するとおり図中では材質ごとに番号の後にx乃至zが付されているが全ての材質を総括して説明する場合には上記x乃至zを省略する)を含んでいる。
図2と共に
図4を参照して説明すると、主調整片38及び補助調整片40の内面及び外面はいずれも正面視において、つまり調整軸o2に沿った軸方向(本段落乃至段落0022においては、特段の断りが無い限り「軸方向」とは調整軸o2に沿った軸方向のこと、「周方向」とは調整軸o2を基準とした周方向のことを夫々言う)に見て二等辺三角形であって、縦断面及び横断面形状は共に円弧形状である。従って、主調整片38及び補助調整片40を周方向に隣接して配置すれば半球形状となる。補助調整片40は主調整片38よりも幾分幅広であると共に縦断面長さが幾分短い。かような主調整片38及び補助調整片40は夫々、内面を正視した場合、周方向に隣接して配置された3つの主調整片38が周方向に180度の角度間隔をおいて一対配置されると共に、3つずつの主調整片38の周方向両側に補助調整片40が2つずつ周方向に隣接して配置され、補助調整片40が配置された周方向部位に切欠き36が画成される。主調整片38及び補助調整片40の外面には夫々軸方向に突出する断面円形の保持突起42が間隔をおいて2つずつ設けられており、保持突起42を介して主調整片38及び補助調整片40は調整部材26a又は26bの一部として可動ハウジング片28a又は28bに支持される。図示の実施形態においては、上記調整片(つまり主調整片38及び補助調整片40)は摩擦係数の異なる3種類の材質x乃至zで形成され、図中では材質ごとに付番にx乃至zを付す。材質xは例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)であってこれにより形成された調整片は比較的小程度の摩擦係数を有する。材質yは例えばポリアセタール(POM)であってこれにより形成された調整片は比較的中程度の摩擦係数を有する。材質zは例えば熱可塑性のエステル系エラストマー材料であってこれにより形成された調整片は比較的大程度の摩擦係数を有する。
図4に明確に示すとおり、調整部材26a及び26bの内面を正視した場合、主調整片38x乃至38zは夫々直径方向の両側に位置するように配置され(従って周方向に180度の角度間隔をおいて一対配置された3つずつの主調整片38x乃至38zの周方向の配列は周方向の一方に見た場合同じである)、補助調整片40は周方向に隣接する主調整片38と同じ材質のものが配置される(補助調整片40x及び40z)。
【0020】
図1及び
図2と共に
図5を参照して説明すると、可動ハウジング片28aの内面は半球形状であって、その曲率は調整部材26a(及び26b)の外面の曲率と対応する。可動ハウジング片28aの内面には調整部材26aの保持突起42が挿通せしめられる有底の保持穴44が保持突起42に対応して複数形成されており、可動ハウジング片28aは調整部材26aを外面(背面)から保持する。可動ハウジング片28aは外面が球の一部である底部46と底部46の周縁から軸方向に延出する周壁47とに区画される。底部46の外面は可動ハウジング片28aの内面と平行である。周壁47は全体的に円筒形状であるが、軸方向の自由端部には周方向に延在する円弧形状の切欠き50が周方向に180度の角度間隔をおいて2つ形成されている。かかる切り欠き50の周方向長さは調整部材26aに形成された切欠き36の周方向長さに対応する。そして、周壁47において切欠き50が形成されていない周方向領域は係止部48をなす。従って、係止部48も周方向に180度の角度間隔をおいて2つ存在する。係止部48の周方向両側端には夫々、周壁47の外周面から径方向外方に突出して軸方向に直線状に延びる断面矩形の周方向係止リブ52が設けられている。周方向係止リブ52は、軸方向に見て切欠き50の軸方向開放側縁50aから軸方向閉塞側縁50bを超えて周壁47の軸方向中間部まで延びている。係止部48の外周面の周方向両端部には周方向に直線状に延在する軸方向係止凹部54も形成されている。
【0021】
図1及び
図2と共に
図6を参照して説明すると、可動ハウジング片28bは軸方向に対して垂直に配置される平板状の操作部56と、操作部56の片側面の中央部から軸方向に延出する円筒形状の主部58とを含んでいる。操作部56の外周面には凹凸60が周方向に繰り返し複数形成されている。かような凹凸60は径方向外方への突出量が他の凸部よりも大きい突出凸部62を含んでいる。突出凸部62は直径方向の両側で夫々周方向に隣接して一対ずつ、従って全部で4つ形成されている。主部58の内面は半球形状であって、その曲率は調整部材26b(及び26a)の外面の曲率と対応する。主部58の内面には調整部材26bの保持突起42が挿通せしめられる有底の保持穴64が保持突起42に対応して複数形成されており、可動ハウジング片28bは調整部材26bを外面(背面)から保持する。主部58の軸方向自由端部には周方向に延在する円弧形状の切欠き66が180度の角度間隔をおいて2つ形成されている。かかる切欠き66の周方向長さは調整部材26bに形成された切欠き36及び可動ハウジング片28aに形成された切欠き50の周方向長さに対応する。2つの切欠き66の間に残留せしめられた2つの円弧状部位の外周面の周方向中間部には夫々、主部58の軸方向自由端を超えて軸方向に直線状に延びる板状の被係止片68が付設されている。被係止片68の延出端部の内周面の周方向両側端部には夫々周方向に直線状に延在する軸方向係止突条70が形成されている。また、被係止片68の基端部には操作部56と軸方向において対向する円弧形状の肩面71が形成されている。
【0022】
図1及び
図2と共に
図7を参照して説明すると、一対の固定ハウジング片30a及び30bの各々は同一形状であり、共に軸方向に対して垂直に配置される矩形形状の端板72と端板72から軸方向に直線状に延びる断面半円形状の側壁74とから構成され、側壁74において軸方向に延びる端面は隣接する端板72の端面と同一平面上に位置する。側壁74の内側に規定される端板72の軸方向底面は球形状の一部であって、その曲率は可動ハウジング片28aの底部46の外面の曲率と対応する。側壁74は端板72に接続されて外径が比較的大きい基端部76と基端部76よりも外径の小さい主部78とに区画される。基端部76の内面には内径を局所的に増大せしめて形成される円弧形状の溝80が周方向に連続して形成されている。溝80の断面は矩形である。側壁74の主部78の周方向中央部分には径方向(つまり回転軸o1に沿った軸方向)に貫通する円形の連通穴82が形成されており、主部78の外周面には連通穴82の周縁に沿って径方向外方に突出するC字形状の支持壁84が形成されている。支持壁84の内周縁は連通穴82の周縁よりも幾分内側に位置し、支持壁84の外周面はその周方向中央部分にて局所的に基端部76に接続されている。主部78の外周面には更に、基端部76から軸方向に延びる一対の付加部85も形成されている。一対の付加部85の各々の周方向内側面は支持壁84の外周面に接続されており、一対の付加部85の各々の周方向内側端部には軸方向に直線状に延びる制限片86が付設されている。制限片86は主部78の軸方向自由端を超えて軸方向に延びている。かような制限片86は連通穴82の周方向両側に夫々形成されている。つまり制限片86は一対形成されている。主部78の内周面には連通穴82を跨いで周方向に延在して主部78の軸方向底面側を向く円弧形状の肩面88が形成されている。端板72及び側壁74の外面には夫々係合爪90及び係合枠92が形成されており、一対の固定ハウジング片30a及び30bの各々の側壁74の内面を軸方向と直交する方向(つまり回転軸o1に沿った軸方向)に相互に対向せしめて夫々に形成されている係合爪90及び係合枠92を相互に係合させることで、一対の固定ハウジング片30a及び30bは結合される。一対の固定ハウジング片30a及び30bが結合されると、結合された一対の固定ハウジング片30a及び30bの内側には断面円形の収容空間が画成される。かかる収容空間の底面は球形状の一部であってその曲率は可動ハウジング片28aの底部46の外面の曲率と同一である。また、溝80は周方向に連続して円環形状となる。
【0023】
上述したハウジング4と回転体6とは以下のようにして組み合わされる。主に
図2を参照して説明すると、先ず、回転体6に装着されたウェイト18の両側、回転軸o1と交差(図示の実施形態においては直交)する調整軸o2上の両側に一対の可動ハウジング片28a及び28bの各々を配置する。一対の可動ハウジング片28a及び28bの各々は、可動ハウジング片28aが保持する調整部材26aの内面と可動ハウジング片28bが保持する調整部材26bの内面とが調整軸o2上で相互に対向した状態で配置される。
【0024】
次いで、可動ハウジング片28aの切欠き50及び調整部材26aの切欠き36並びに可動ハウジング片28bの切欠き66及び調整部材26bの切欠き36を回転体6の回転主軸8に整合せしめて一対の可動ハウジング片28a及び28bの各々を調整軸o2上で相互に接近せしめ、ウェイト18を一対の調整部材26a及び26bの内面で包含する。かようにして一対の可動ハウジング片28a及び28bが組み合わされると、
図9-1乃至
図9-3に示すとおり、上記切欠き36、50及び66によって回転体6の回転主軸8が通過する円弧形状の窓94が一対画成される。また、一対の可動ハウジング片28a及び28bを上記のとおりに相互に接近せしめると、可動ハウジング片28aに形成された周方向に隣接する2つの周方向係止リブ52の間に可動ハウジング片28bの被係止片68が進入して、被係止片68の内面に形成された軸方向係止突条70が周壁47の係止部48の外面に乗り上げた後に軸方向係止凹部54に嵌め合わされる。これにより、可動ハウジング片28aに対する可動ハウジング片28bの周方向及び軸方向の移動が規制され、一対の可動ハウジング片28a及び28bが結合せしめられる。
【0025】
その後に、一対の固定ハウジング片30a及び30bの各々が、回転体6を包含した状態で結合せしめられた一対の可動ハウジング片28a及び28bを回転軸o1の両側から接近せしめられる。そうすると、回転体6の接続部12が固定ハウジング片30bの連通穴82に連通せしめられ、2つのフランジ10が一対の固定ハウジング片30a及び30bの各々に形成された支持壁84によって回転軸o1の軸方向両側から相互に接近する方向に支持される。かくして、回転体6は一対の固定ハウジング片30a及び30bによって回転軸o1の周りを回転自在に支持される。また、可動ハウジング片28aの底部46の外面が一対の固定ハウジング片30a及び30bの各々の端板72において側壁74の内側に規定される軸方向底面と対向し、一対の可動ハウジング片28a及び28bは一対の固定ハウジング片30a及び30bによって調整軸o2の周りを回動自在に支持される。図示の実施形態においては、一対の固定ハウジング片30a及び30bと可動ハウジング片28aとの間にはゴムワッシャ96が配設される。ゴムワッシャ96は円環形状であって溝80に配置される。可動ハウジング片28bの被係止片68の肩面71は一対の固定ハウジング片30a及び30bの肩面88によって係合せしめられ、これにより一対の可動ハウジング片28a及び28bが一対の固定ハウジング片30a及び30bに対して調整軸o2の周りを回動自在でありながらも一対の固定ハウジング片30a及び30bに対して調整軸o2方向に移動してこれから脱落することが防止される。
【0026】
遠心ブレーキ2において回転体6が回転すると、
図1のA-A断面図と
図8とを比較参照することによって理解されるとおり、回転体6の支持軸16に軸支されたウェイト18が旋回してウェイト18の外面、図示の実施形態においては摩擦シュー24がハウジング4の内面(摺動内周面32)に当接して摺動する。かかる摺動によって回転体6に制動力が作用する。
【0027】
図1に示す状態にあっては、可動ハウジング片28bの操作部56に形成された一対の突出凸部62のうちの時計方向側(
図1の上段右図において。以下同じ。)に位置する一方が固定ハウジング片30a及び30bの夫々の側壁74に形成された一対の制限片86のうちの反時計方向側に位置する一方に当接しており、可動ハウジング片28b及びこれと一体の可動ハウジング片28aが一対の固定ハウジング片30a及び30bに対して調整軸o2の周りを時計方向に回動することが阻止されている。
図9-1は
図1に示す状態と同じ状態であり、
図9-1(a)には
図1の上段右図と同じ図が、
図9-1(b)には
図1のB-B断面図において回転体6を二点鎖線で示すと共にウェイト18を省略し摺動内周面32を薄墨で示した図が、
図9-1(c)には固定ハウジング片30bを省略して示す斜視図が夫々示されている(後に言及する
図9-2及び
図9-3の図中(a)乃至(c)も同様である)。
図9-1(c)に示されるとおり、回転体6の回転主軸8は窓94の周方向片側端部に位置する。なお、回転主軸8は一対の可動ハウジング片28a及び28bとは接触していない。
図9-1に示す状態で回転体6が回転すると、ウェイト18の外面が一対の調整部材26a及び26bの内面に対して摺動する摺動内周面32は、
図9-1(b)を参照することによって理解されるとおり、摩擦係数の比較的小さい主調整片38xの内面が支配的であることから、ウェイト18の外面が摺動内周面32から受ける摩擦力換言すれば抵抗の大きさは小さい。
【0028】
図9-1に示す状態から、可動ハウジング片28bの操作部56が反時計方向に幾分回動せしめられた状態が
図9-2に示されている。この状態にあっては、
図9-2(c)に示されるとおり、回転体6の回転主軸8は窓94の周方向中央部に位置する。そして、
図9-2に示す状態で回転体6が回転すると、摺動内周面32は、
図9-2(b)を参照することによって理解されるとおり、摩擦係数が比較的中程度である主調整片38yの内面が支配的であることから、ウェイト18の外面が摺動内周面32から受ける摩擦力換言すれば抵抗の大きさは中程度となる。
【0029】
図9-2に示す状態から、可動ハウジング片28bの操作部56が反時計方向に更に回動せしめられた状態が
図9-3に示されている。
図9-3に示す状態にあっては、可動ハウジング片28bの操作部56に形成された一対の突出凸部62のうちの反時計方向側に位置する他方が固定ハウジング片30a及び30bの夫々の側壁74に形成された一対の制限片86のうちの時計方向側に位置する他方に当接しており、可動ハウジング片28b及びこれと一体の可動ハウジング片28aが一対の固定ハウジング片30a及び30bに対して調整軸o2の周りを更に反時計方向に回動することが阻止されている。このとき、
図9-3(c)に示されるとおり、回転体6の回転主軸8は窓94の周方向他側端部に位置し、回転主軸8は一対の可動ハウジング片28a及び28bとは接触していない。そして、
図9-3に示す状態で回転体6が回転すると、摺動内周面32は、
図9-3(b)を参照することによって理解されるとおり、摩擦係数の比較的大きい主調整片38zの内面が支配的であることから、ウェイト18の外面が摺動内周面32から受ける摩擦力換言すれば抵抗の大きさは大きい。
【0030】
従って、本発明の遠心ブレーキにあっては、ウェイト18の外面が当接して摺動する筒状の摺動内周面32が、回転軸o1と交差する調整軸o2の周りを回動可能な一対の調整部材26a及び26bの内面に規定されており、一対の調整部材26a及び26bの各々の内面には摩擦係数の異なる複数の領域が調整軸o2の周りに周方向に隣接して区画されている。それ故に、一対の調整部材26a及び26bが調整軸o2の周りに回動せしめられることで、ウェイト18の外面が当接する一対の調整部材26a及び26bの内面の領域が変更され、ウェイト18が調整部材26a及び26bから受ける摩擦抵抗の大きさを調整することができる。そして、上記領域は調整軸o2の周りに周方向に隣接して複数区画されていることから、ウェイト18の外面が調整部材26a及び26bの内面における複数の上記領域に跨って当接すれば、ウェイト18が調整部材26a及び26bから受ける摩擦抵抗の大きさを無段階で調整することができる。また、図示の実施形態においては、一対の固定ハウジング片30a及び30bと可動ハウジング片28aとの間にはゴムワッシャ96が配置されているため、一対の固定ハウジング片30a及び30bに対して一対の可動ハウジング片28a及び28bにはある程度の保持力が作用し、ウェイト18の外面が摺動内周面32に沿って摺動した際に意図せず一対の調整部材26a及び26bが調整軸o2の周りを回動してしまうことが可及的に防止される。
【0031】
以上、本発明に従って構成された遠心ブレーキについて添付した図面を参照して詳述したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲内において適宜の修正や変更が可能である。例えば、図示の実施形態においては、一対の調整部材26a及び26bの各々は複数の板状調整片(主調整片38及び補助調整片40)を組み合わせて構成され、この複数の板状調整片は夫々摩擦係数の異なる材質で形成されていたが、一対の調整部材の各々を単一の板状調整片で構成して内面を研磨する又は単一の板状調整片の内面に摩擦係数の異なる材質の塗料を塗布する等して摩擦係数の異なる複数の領域を区画してもよい。一対の調整部材の各々が単一の調整片で構成されてこれのみで相互に連結可能である場合には、一対の可動ハウジング片を省略することもできる。また、連通穴82が調整軸o2方向に開放されていれば、一対の固定ハウジング片を組み合わせることに替えて、一対の固定ハウジング片を組み合わせた形態の単一の固定ハウジングを用いることもできる。また、図示の実施形態においては、一対の調整部材26a及び26bの各々は半球形状であったが、これは半長球形状(ラグビーボールを長手方向中央にて短手方向に切断した形状)であってもよい。一対の調整部材26a及び26bの各々が上記半長球形状の場合には、摺動内周面の横断面形状は弧状、縦断面形状は楕円形状となる。更に、支持軸及びこれによって軸支されるウェイトの数及び配置は適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0032】
2:遠心ブレーキ
4:ハウジング
6:回転体
16:支持軸
18:ウェイト
26a及び26b:調整部材
32:摺動内周面
38x、38y、38z:主調整片(領域)
o1:回転軸
o2:調整軸