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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082796
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】繰り出し補助治具および繰り出し方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 57/26 20060101AFI20240613BHJP
   B21C 47/18 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B65H57/26
B21C47/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196901
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】福増 秀彰
(72)【発明者】
【氏名】中本 将之
(72)【発明者】
【氏名】北澤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】坊山 央
【テーマコード(参考)】
3F110
4E026
【Fターム(参考)】
3F110AA00
3F110BA02
3F110CA03
3F110DA07
3F110DB01
3F110DB12
4E026AA10
4E026CB10
4E026FA20
(57)【要約】
【課題】ETS方式でレベルワウンドコイルからアルミニウム合金管を上方に繰り出す際に、アルミニウム合金管の折れ曲がりを生じさせることなく、且つ、傷が発生することなくアルミニウム合金管を安定的に繰り出すことができる繰り出し補助治具および繰り出し方法の提供。
【解決手段】中空部を有する中空円筒体であり、少なくとも下面の内側および外側にR部を有する繰り出し補助治具、並びに、この繰り出し補助治具を用いた繰り出し方法を採用する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部を有する中空円筒体であり、
少なくとも下面の内側および外側にR部を有することを特徴とする繰り出し補助治具。
【請求項2】
動摩擦係数が0.3以下であり、比重が1.5以下である樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の繰り出し補助治具。
【請求項3】
内径が、アルミニウム合金管の外径の1.5倍以上であり、且つ、レベルワウンドコイルの内径の0.5倍以下であり、
外径が、前記レベルワウンドコイルの内径の0.60~0.95倍であることを特徴とする請求項1または2に記載の繰り出し補助治具。
【請求項4】
質量が3~40kgであることを特徴とする請求項1または2に記載の繰り出し補助治具。
【請求項5】
質量が3~40kgであることを特徴とする請求項3に記載の繰り出し補助治具。
【請求項6】
中空部を有する中空円筒体であり、少なくとも下面の内側および外側にR部を有する繰り出し補助治具を用いて、レベルワウンドコイルからETS(Eye To the Sky)方式によりアルミニウム合金管を繰り出す方法であって、
前記レベルワウンドコイルの内周部に前記繰り出し補助治具を配置し、
前記レベルワウンドコイルから前記アルミニウム合金管を前記繰り出し補助治具の前記中空部に挿通し、前記アルミニウム合金管を鉛直上方向に繰り出すことを特徴とする繰り出し方法。
【請求項7】
前記繰り出し補助治具の軸心と、前記レベルワウンドコイルの軸心とが一致するように、且つ、
前記繰り出し補助治具の前記下面の最下点と、前記レベルワウンドコイルの1/2高さ位置とが一致するように、前記繰り出し補助治具を固定することを特徴とする請求項6に記載の繰り出し方法。
【請求項8】
前記繰り出し補助治具の軸心と、前記レベルワウンドコイルの軸心とが一致するように前記繰り出し補助治具を配置し、
前記レベルワウンドコイルから繰り出される前記アルミニウム合金管の繰り出し高さに応じて、前記繰り出し補助治具を上下移動させることを特徴とする請求項6に記載の繰り出し方法。
【請求項9】
前記レベルワウンドコイルから繰り出される前記アルミニウム合金管の繰り出し位置に応じて、前記繰り出し補助治具を自由移動させることを特徴とする請求項6に記載の繰り出し方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繰り出し補助治具および繰り出し方法に関する。より具体的には、本発明は、レベルワウンドコイルからのアルミニウム合金管の繰り出し補助治具およびレベルワウンドコイルからのアルミニウム合金管の繰り出し方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エアコンや給湯器用などのフィンチューブタイプの熱交換器では、アルミニウムフィン材に伝熱管を挿入して、この伝熱管に冷媒を通すことで熱交換を行っている。伝熱管には従来銅管が使用されてきたが、軽量化、低コスト化及びリサイクル性改善への要求から、アルミニウム合金管が導入されている。
【0003】
アルミニウム合金管は、製造工程において、コイル状に巻き取られてレベルワウンドコイル(LWC:Level Wound Coil)の状態で保管され、搬送される。このレベルワウンドコイルは、パレット上に緩衝材を敷いて、緩衝材上にコイルの中心軸(コイル軸)を垂直にして載置される。
【0004】
例えば、特許文献1には、銅又は銅合金管を整列巻きして1層目コイルを形成し、その後、この1層目コイルの上に2層目コイルを前記1層目コイルの外面の管間の凹部に嵌め込んで整列巻きし、以後同様にして、2層目コイルの上に3層目コイル、3層目コイルの上に4層目コイルを整列巻きした複数層のコイルからなる、銅又は銅合金管からなるレベルワウンドコイルが開示されている。
【0005】
レベルワウンドコイルは、いわゆるETS(Eye To the Sky)方式で繰り出される。ETS方式でアルミニウム合金管を繰り出す際には、レベルワウンドコイルの内周側から鉛直上方向へアルミニウム合金管を繰り出す。鉛直上方向へ繰り出されたアルミニウム合金管は、所定長さまで繰り出された後、切断される。図11は、レベルワウンドコイルの内周側から鉛直上方向へアルミニウム合金管を繰り出すときの繰り出し順を示す図である。図11に示す方法では、1列目の一番上のアルミニウム合金管30aから繰り出され、1列目が繰り出された後は2列目の一番下のアルミニウム合金管30bが繰り出される。しかしながら、2列目の一番下のアルミニウム合金管30bを繰り出す際に、その上にあるアルミニウム合金管の重みにより、アルミニウム合金管30bが繰り出せない場合やアルミニウム合金管30bが折れ曲がる場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-2012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、ETS方式でレベルワウンドコイルからアルミニウム合金管を上方に繰り出す際に、アルミニウム合金管の折れ曲がりを生じさせることなく、且つ、傷が発生することなくアルミニウム合金管を安定的に繰り出すことができる繰り出し補助治具および繰り出し方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る繰り出し補助治具は、
中空部を有する中空円筒体であり、
少なくとも下面の内側および外側にR部を有する。
(2)上記(1)に記載の繰り出し補助治具は、動摩擦係数が0.3以下であり、比重が1.5以下である樹脂からなっていてもよい。
(3)上記(1)または(2)に記載の繰り出し補助治具は、
内径が、アルミニウム合金管の外径の1.5倍以上であり、且つ、レベルワウンドコイルの内径の0.5倍以下であり、
外径が、前記レベルワウンドコイルの内径の0.60~0.95倍であってもよい。
(4)上記(1)~(3)のいずれか1項に記載の繰り出し補助治具は、質量が3~40kgであってもよい。
(5)本発明に係る繰り出し方法は、
中空部を有する中空円筒体であり、少なくとも下面の内側および外側にR部を有する繰り出し補助治具を用いて、レベルワウンドコイルからETS(Eye To the Sky)方式によりアルミニウム合金管を繰り出す方法であって、
前記レベルワウンドコイルの内周部に前記繰り出し補助治具を配置し、
前記レベルワウンドコイルから前記アルミニウム合金管を前記繰り出し補助治具の前記中空部に挿通し、前記アルミニウム合金管を鉛直上方向に繰り出す。
(6)上記(5)に記載の繰り出し方法は、
前記繰り出し補助治具の軸心と、前記レベルワウンドコイルの軸心とが一致するように、且つ、
前記繰り出し補助治具の前記下面の最下点と、前記レベルワウンドコイルの1/2高さ位置とが一致するように、前記繰り出し補助治具を固定してもよい。
(7)上記(5)に記載の繰り出し方法は、
前記繰り出し補助治具の軸心と、前記レベルワウンドコイルの軸心とが一致するように前記繰り出し補助治具を配置し、
前記レベルワウンドコイルから繰り出される前記アルミニウム合金管の繰り出し高さに応じて、前記繰り出し補助治具を上下移動させてもよい。
(8)上記(5)に記載の繰り出し方法は、
前記レベルワウンドコイルから繰り出される前記アルミニウム合金管の繰り出し位置に応じて、前記繰り出し補助治具を自由移動させてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、ETS方式でレベルワウンドコイルからアルミニウム合金管を上方に繰り出す際に、アルミニウム合金管の折れ曲がりを生じさせることなく、且つ、傷が発生することなくアルミニウム合金管を安定的に繰り出すことができる繰り出し補助治具および繰り出し方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に係る繰り出し補助治具の一例の断面図。
図2】繰り出し補助治具の一例の断面図。
図3】本発明に係る繰り出し補助治具の別の例の斜視図。
図4】本発明に係る繰り出し方法の一例を説明するための図。
図5】繰り出し補助治具を固定した場合における繰り出し方法を説明するための図。
図6】繰り出し補助治具を上下移動させた場合における繰り出し方法を説明するための図。
図7】繰り出し補助治具を自由移動させた場合における繰り出し方法を説明するための図。
図8】内面螺旋溝付管の一例を示す図。
図9】同内面螺旋溝付管の縦断面図。
図10】同内面螺旋溝付管の側面図。
図11】レベルワウンドコイルの内周部から鉛直上方向へアルミニウム合金管を繰り出すときの繰り出し順を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態の一例に係る繰り出し補助治具および繰り出し方法ついて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴を分かりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合がある。
【0012】
本実施形態に係る繰り出し補助治具は、中空部を有する中空円筒体であり、少なくとも下面の内側および外側にR部を有する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る繰り出し補助治具の一例の断面図である。図1に示す繰り出し補助治具10は、中空部4を有する中空円筒体であり、下面1の内側にR部11を有し、且つ、下面1の外側にR部12を有する。なお、内側とは中空部4側のことであり、外側とは中空部4側とは逆の、外周側のことである。
図1に示す例では、内側のR部11と外側のR部12とは連接しており、下面1がR部11とR部12とからなる。図1に示す例では、内側のR部11および外側のR部12のRは100mmである。また、上面2の内側および外側にもR部13、R部14を有しており、これらR部13、R部14のRは30mmである。上面2にはねじ孔3が形成されており、このねじ孔3により、管の繰り出し補助治具10を固定させたり、移動させたりする不図示の装置などと連結される。
【0014】
内側のR部11および外側のR部12のRは上記の値に限定されない。内側のR部11および外側のR部12のRはそれぞれ、繰り出されるアルミニウム合金管の外径の5倍以上とすることが好ましく、10倍以上とすることがより好ましい。内側のR部11および外側のR部12のRを繰り出されるアルミニウム合金管の外径の5倍以上とすることで、繰り出し時にアルミニウム合金管が曲がりやすくなることを抑制でき、アルミニウム合金管に折れが生じたり、次工程でアルミニウム合金管の曲がりを真直に矯正する際に形状がばらつきやすくなることを抑制できる。内側のR部11および外側のR部12のRをそれぞれ200mm以下とすることで、レベルワウンドコイルの内径に対してRが大きくなりすぎることを抑制でき、中空部4の側面が内側のR部11の接線となるように、且つ、繰り出し補助治具10の外周部が外側のR部12の接線となるように配置することができる。中空部4の側面が内側のR部11の接線となるように、且つ、繰り出し補助治具10の外周部が外側のR部12の接線となるように配置することで、アルミニウム合金管を繰り出す際に、図2(a)や図2(b)の矢印で示す位置においてアルミニウム合金管に曲がりや傷が生じてしまうことを抑制できる。
【0015】
本実施形態に係る繰り出し補助治具10は、下面1の内側にR部11を有するため、レベルワウンドコイルからETS方式でアルミニウム合金管を繰り出す際、繰り出されるアルミニウム合金管が略水平方向から鉛直上方向に方向を変えるときに、アルミニウム合金管と繰り出し補助治具10との間の摩擦による傷の発生を抑制することができ、更にアルミニウム合金管が折れ曲がることを抑制することができる。また、下面1の外側にR部12を有するため、レベルワウンドコイルの上段からアルミニウム合金管を繰り出すときに、アルミニウム合金管と管の繰り出し補助治具10との間の摩擦による傷の発生を抑制することができ、更にアルミニウム合金管が折れ曲がることを抑制することができる。
【0016】
繰り出し補助治具10が、下面1にR部11、R部12を有さない場合には、アルミニウム合金管と繰り出し補助治具10との間に局所的に摩擦が生じることで、アルミニウム合金管の外面に傷が発生してしまう。また、アルミニウム合金管と繰り出し補助治具10との接触面が例えば直角であるような場合には、アルミニウム合金管が折れ曲がるおそれがある。
繰り出し補助治具10を用いずにアルミニウム合金管を繰り出す場合、レベルワウンドコイルの下段のアルミニウム合金管を繰り出す際には、鉛直上方向にアルミニウム合金管を引き上げることになる。レベルワウンドコイルの下段のアルミニウム合金管には上に積み上げられたアルミニウム合金管の重みがかかっているため、アルミニウム合金管を鉛直上方向に繰り出すためには、その重みによって管に作用する摩擦力に打ち勝って管を水平方向に引き出せるだけの力を水平方向に働かせる必要がある。水平方向に働く力がその重みによって管に作用する摩擦力よりも小さい場合には、アルミニウム合金管が繰り出されなかった部分を支点として上向きに折れ曲がってしまう。本実施形態に係る繰り出し補助治具10を用いてアルミニウム合金管を繰り出すことで、レベルワウンドコイルの下段のアルミニウム合金管に働く水平方向の力を大きくすることができ、アルミニウム合金管が折れ曲がることを抑制できる。
【0017】
また、本実施形態に係る繰り出し補助治具10は、動摩擦係数が0.3以下であり、比重が1.5以下である樹脂からなることが好ましい。
繰り出し補助治具10を構成する樹脂の動摩擦係数を0.3以下とすることで、レベルワウンドコイルから繰り出されるアルミニウム合金管と繰り出し補助治具10との間の摩擦によって生じる、アルミニウム合金管の外面の傷の発生をより抑制することができる。
また、繰り出し補助治具10を構成する樹脂の比重を1.5以下とすることで、繰り出し補助治具10の質量を小さくすることができる。その結果、レベルワウンドコイルから繰り出されるアルミニウム合金管と繰り出し補助治具10との間の接触によって生じる、アルミニウム合金管の外面の傷の発生をより抑制することができる。
動摩擦係数が0.3以下であり、比重が1.5以下である樹脂の例としては、例えばメラミン(動摩擦係数0.06、比重1.5)、ユリア(動摩擦係数0.13、比重1.5)、ポリエチレン(動摩擦係数0.13、比重0.9)、ポリアセタール(動摩擦係数0.18、比重1.4)、ポリ塩化ビニル(動摩擦係数0.25、比重1.5)などが挙げられる。これらの中でも、動摩擦係数が0.2以下となる樹脂が、アルミニウ合金管の外面の傷の発生をより抑制できる点から好ましい。
【0018】
また、本実施形態に係る繰り出し補助治具10は、内径dが、アルミニウム合金管の外径の1.5倍以上であり、且つ、レベルワウンドコイルの内径の0.5倍以下であり、外径Dが、レベルワウンドコイルの内径の0.60~0.95倍であることが好ましい。
繰り出し補助治具10の内径dをアルミニウム合金管の外径の1.5倍以上とすることで、レベルワウンドコイルから繰り出されるアルミニウム合金管の巻き癖により、アルミニウム合金管と繰り出し補助治具10との間の摩擦が局所的に強くなることを抑制することができる。その結果、アルミニウム合金管の外面の傷の発生をより抑制することができる。
また、繰り出し補助治具10の内径dをレベルワウンドコイルの内径の0.5倍以下とすることで、繰り出し補助治具10の質量を大きくすることができ、レベルワウンドコイルの最下段から繰り出されるアルミニウム合金管の折れ曲がりを防止するために必要な水平方向の力をアルミニウム合金管に付与できなくなることを抑制することができる。その結果、アルミニウム合金管の折れ曲がりの発生をより抑制することができる。
【0019】
本実施形態に係る繰り出し補助治具10の外径Dをレベルワウンドコイルの内径の0.60倍以上とすることで、繰り出し補助治具10の質量を大きくすることができ、レベルワウンドコイルの最下段から繰り出されるアルミニウム合金管の折れ曲がりを防止するために必要な水平方向の力をアルミニウム合金管に付与できなくなることを抑制することができる。その結果、アルミニウム合金管の折れ曲がりの発生をより抑制することができる。
また、繰り出し補助治具10の外径Dをレベルワウンドコイルの内径の0.95倍以下とすることで、繰り出し補助治具10の質量を小さくすることができ、レベルワウンドコイルから繰り出されるアルミニウム合金管と繰り出し補助治具10との間の摩擦が強くなることによって生じる、アルミニウム合金管の外面の傷の発生をより抑制することができる。
【0020】
なお、本実施形態では、アルミニウム合金管の外径は4~12mmとしてもよい。また、レベルワウンドコイルの内径は300~700mmとしてもよく、高さは350mm以上としてもよく、また700mm以下としてもよい。レベルワウンドコイルの高さが350mm以上であると、レベルワウンドコイルの下段のアルミニウム合金管にかかる重さが大きくなることから、レベルワウンドコイルの下段のアルミニウム合金管を繰り出す際にアルミニウム合金管の折れ曲がりを抑制できるという効果を好適に得ることができる。
【0021】
本実施形態に係る繰り出し補助治具10は、質量が3~40kgであることが好ましい。繰り出し補助治具10の質量を3kg以上とすることで、レベルワウンドコイルの最下段から繰り出されるアルミニウム合金管の折れ曲がりを防止するために必要な水平方向の力をアルミニウム合金管に付与できなくなることを抑制することができる。その結果、アルミニウム合金管の折れ曲がりの発生を抑制することができる。また、繰り出し補助治具10の質量を40kg以下とすることで、アルミニウム合金管と繰り出し補助治具10との間の接触が強くなることによって生じる、アルミニウム合金管の外面の傷の発生を抑制することができる。
【0022】
なお、図1に示す例では、下面1の内側のR部11と外側のR部12とが連接しており、下面1は内側のR部11と外側のR部12とからなっているが、内側のR部11と外側のR部12とは連接していなくてもよい。すなわち、下面1は、内側のR部11と、上面2と平行な平坦面と、外側のR部12とからなっていてもよい。この場合には、下面1における平坦面は、内側のR部11および外側のR部12の接線と一致することが好ましい。
また、内側のR部11と外側のR部12とのRが異なっていてもよい。
また、繰り出し補助治具10の上面2には、図1のように内側および外側にR部を設けることが好ましい。上面2の内側および外側にR部を設けることで、上面2とアルミニウム合金管とが接触した場合における傷の発生を抑制することができる。上面2の内側および外側のR部のRは10mm以上とすることが好ましい。また、上面2は図1のように平坦部を有さなくてもよく、上面2は下面1のように、内側のR部と外側のR部とのみからなっていてもよい。
また、繰り出し補助治具10は図3に示すような円環体であってもよい。
【0023】
次に、上述した繰り出し補助治具10を用いてアルミニウム合金管を繰り出す方法について説明する。以下に説明する繰り出し方法では、上述した繰り出し補助治具10のいずれの態様のものを用いてもよい。
本実施形態に係る繰り出し方法は、中空部を有する中空円筒体であり、少なくとも下面の内側および外側にR部を有する上述の繰り出し補助治具を用いて、レベルワウンドコイルからETS(Eye To the Sky)方式によりアルミニウム合金管を繰り出す方法であって、レベルワウンドコイルの内周部に繰り出し補助治具を配置し、レベルワウンドコイルからアルミニウム合金管を繰り出し補助治具の中空部に挿通し、アルミニウム合金管を鉛直上方向に繰り出す。
【0024】
本実施形態に係る繰り出し方法では、図4に示すように、レベルワウンドコイル20の内周部21に繰り出し補助治具10を配置する。次に、レベルワウンドコイル20から繰り出したアルミニウム合金管30を、繰り出し補助治具10の中空部4に挿通し、鉛直上方向に繰り出す。このとき、アルミニウム合金管30は、繰り出し補助治具10の内側のR部11に当接しながら鉛直上方向に繰り出される。そのため、アルミニウム合金管30と繰り出し補助治具10との間の摩擦による傷の発生を抑制することができ、更にアルミニウム合金管が折れ曲がることを抑制することができる。
また、レベルワウンドコイル20の上段からアルミニウム合金管30を繰り出す場合には、繰り出されるアルミニウム合金管30より繰り出し補助治具10の下面1が下に位置する。この場合、アルミニウム合金管30は、繰り出し補助治具10の下面1の外側のR部12にも当接する。そのため、アルミニウム合金管30と繰り出し補助治具10との間の摩擦による傷の発生を抑制することができ、更にアルミニウム合金管30が折れ曲がることを抑制することができる。
【0025】
更に、本実施形態に係る繰り出し方法では、繰り出し補助治具の軸心と、レベルワウンドコイルの軸心とが一致するように、且つ、繰り出し補助治具の下面の最下点と、レベルワウンドコイルの1/2高さ位置とが一致するように、繰り出し補助治具を固定することが好ましい。
【0026】
図5は、繰り出し補助治具10を固定した場合における繰り出し方法を説明するための図である。図5に示す例では、繰り出し補助治具10が、レベルワウンドコイル20の内周部21に配置され、且つ、繰り出し補助治具10の軸心とレベルワウンドコイル20の軸心とが一致するように配置され、且つ、繰り出し補助治具10の下面1の最下点aとレベルワウンドコイルの1/2高さ位置とが一致するように配置されている。
【0027】
図5に示すように、アルミニウム合金管30をレベルワウンドコイル20の上段の内側および外側から繰り出す場合であっても、下段の内側および外側から繰り出す場合であっても、アルミニウム合金管30は繰り出し補助治具10の下面のR部11、R部12に当接しながら繰り出される。そのため、アルミニウム合金管30と繰り出し補助治具10との間の摩擦による傷の発生をより抑制することができる。
【0028】
この場合においては、繰り出し補助治具10は、ねじ孔3を介して不図示のフレームなどと固定することが考えられる。
【0029】
更に、本実施形態に係る繰り出し方法では、繰り出し補助治具の軸心と、レベルワウンドコイルの軸心とが一致するように繰り出し補助治具を配置し、レベルワウンドコイルから繰り出されるアルミニウム合金管の繰り出し高さに応じて繰り出し補助治具を上下移動させることが好ましい。
【0030】
図6は、繰り出し補助治具10を上下移動させた場合における繰り出し方法を説明するための図である。図6に示す例では、繰り出し補助治具10がレベルワウンドコイル20の内周部21に配置され、且つ、繰り出し補助治具10の軸心とレベルワウンドコイル20の軸心とが一致するように配置され、且つ、上下移動可能に配置されている。なお、繰り出し補助治具10は、上面が略水平に保たれたまま上下移動可能に配置されている。
【0031】
レベルワウンドコイル20の上段からアルミニウム合金管30を繰り出す場合には、図6に示すように、繰り出し補助治具10aを鉛直上方向に移動させる。また、レベルワウンドコイル20の下段からアルミニウム合金管30を繰り出す場合には、図6に示すように、繰り出し補助治具10bを鉛直下方向に移動させる。このように繰り出し補助治具10を上下移動させることで、繰り出し角度を小さい値に維持することができる。これにより、繰り出し角度が大きくなりすぎてアルミニウム合金管30が折れ曲がることをより一層抑制することができる。
【0032】
繰り出し補助治具10の上下移動は、繰り出し補助治具10の質量と繰り出し張力との関係に基づいて繰り出し角度を低い値で一定に保つことができるよう調整することが考えられる。調整のために、繰り出し補助冶具のねじ孔3を用いて図示略のバネを介して図示略の上部フレームに吊り下げてもよい。また、繰り出し補助治具10は、ガイドレールなどで上下移動可能に配置することが考えられる。
【0033】
更に、本実施形態に係る繰り出し方法では、レベルワウンドコイルから繰り出されるアルミニウム合金管の繰り出し位置に応じて、繰り出し補助治具を自由移動させることが好ましい。
【0034】
図7は、繰り出し補助治具10を自由移動させた場合における繰り出し方法を説明するための図である。図7に示す例では、繰り出し補助治具10がレベルワウンドコイル20の内周部21に配置され、且つ、自由移動可能に配置されている。なお、繰り出し補助治具10は、上面が水平に保たれることなく、上下左右移動可能であったり、傾いたりできるように配置されている。
【0035】
図7には例として、レベルワウンドコイル20の内周部21側且つ上段からアルミニウム合金管30を繰り出す場合の繰り出し補助治具10c、レベルワウンドコイル20の外周側且つ上段からアルミニウム合金管30を繰り出す場合の繰り出し補助治具10d、レベルワウンドコイル20の内周部21側且つ下段からアルミニウム合金管30を繰り出す場合の繰り出し補助治具10e、レベルワウンドコイル20の外周側且つ下段からアルミニウム合金管30を繰り出す場合の繰り出し補助治具10fを図示している。図7に示すように、アルミニウム合金管30の繰り出し位置に応じて繰り出し補助治具10を自由移動させることで、繰り出し角度を低い値で一定に保つことができ、アルミニウム合金管30と繰り出し補助治具10との間の摩擦を略一定とすることができる。その結果、アルミニウム合金管30と繰り出し補助治具10との間の摩擦による傷の発生をより抑制することができ、更にアルミニウム合金管30が折れ曲がることをより一層抑制することができる。
【0036】
なお、レベルワウンドコイル20から繰り出されるアルミニウム合金管30は特に限定されないが、例えば、内面に連続した螺旋溝を設けた内面螺旋溝付管であってもよい。以下、内面螺旋溝付管の一例について説明する。
図8は内面螺旋溝付管100の横断面を示し、図9は縦断面を示し、図10は側面を示す。内面螺旋溝付管100はアルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。内面螺旋溝付管100をアルミニウム合金から形成する場合は、適用するアルミニウム合金に特に制限はなく、JISで規定される1050、1100、1200等の純アルミニウム系、あるいは、これらにMnを添加した3003に代表される3000系のアルミニウム合金等を適用でき、JIS規定以外のアルミニウム合金も広く適用できるのは勿論である。また、前記JIS規定合金以外にJISに規定されている5000系~7000系のアルミニウム合金のいずれかを用いて内面螺旋溝付管100を構成しても良い。
【0037】
内面螺旋溝付管100は、横断面の概形が円形の管本体100Aの内面に螺旋状のフィン103および螺旋溝104を形成してなる。内面螺旋溝付管100の外周面100aの直径は、例えば、4~12mmである。内面螺旋溝付管100の内周面100bには、管本体100Aの長さ方向(図8の紙面垂直方向:図9の左右方向)に沿って所定のピッチで螺旋状に形成された複数のフィン103が設けられている。これら複数のフィン103の間には、フィン103の先端と比較して内径が大きく形成された螺旋溝104が形成されている。
【0038】
フィン103は、例えば管本体100Aの周回りに30~60個設けられている。フィン103の高さ(すなわち半径方向の寸法)は、例えば0.1~0.3mmである。また、内面螺旋溝付管100の底肉厚d’(すなわち、螺旋溝104の底部に対応する内面螺旋溝付管100の管壁厚さ)は、例えば0.2~0.8mmである。フィン103の頂角(フィン103の両側面同士のなす角)は、例えば10~30°である。螺旋状に形成されたフィン103(あるいは螺旋溝104)のリード角θ1(捻り角)は、例えば8°~45°である。図9の縦断面においてリード角θ1は内面螺旋溝付管100の内部中央側に直線状に描かれているフィン103(あるいは螺旋溝104)の延在方向を延長した線aと内面螺旋溝付管100の長さ方向に平行な線bとの交わる角度として表記できる。
【0039】
また、図8に示す内面螺旋溝付管100において管壁が若干肉厚となっている偏肉部100dと管壁が若干肉薄となっている偏肉部100eが形成されていてもよい。一例として、図8に示す内面螺旋溝付管100の横断面において、左上部側が若干肉厚となる偏肉部100dとされ、右下部側が若干肉薄となる偏肉部100eとされている。内面螺旋溝付管100において偏肉部100dは内面螺旋溝付管100の長手方向に沿ってフィン103が描く螺旋形状と同等のリード角を維持したまま所定のピッチで螺旋状に形成されている。また、内面螺旋溝付管100において偏肉部100eも内面螺旋溝付管100の長手方向に沿ってフィン103が描く螺旋形状と同等のリード角を維持したまま所定のピッチで螺旋状に形成されている。従って、偏肉部100dと偏肉部100eは内面螺旋溝付管100の横断面において円周方向に対向する位置関係を保持したまま内面螺旋溝付管100の長さ方向に沿ってそれぞれ螺旋状に形成されている。
【0040】
内面螺旋溝付管100に対し螺旋状に形成されている偏肉部100d、100eのそれぞれのリード角θ2は8~45゜の範囲であるが、上述のフィン103のリード角と同等に形成されている。内面螺旋溝付管100は、直線状に形成したフィンと直線溝を備える素管に対し捻り加工と引抜き加工とを同時に施す捻り引抜き加工を2回以上施すことにより形成されている。したがって、偏肉部100d、100eのリード角θ2と螺旋状のフィン103のリード角θ1は一致する。
【0041】
内面螺旋溝付管100に形成されている偏肉部100d、100eは素管に形成されていた偏肉部を捻り加工と引抜き加工とを同時に施す捻り引抜き加工によって内面螺旋溝付管100の長さ方向に沿って螺旋状に捻ることで形成されている。素管はアルミニウム合金から押出加工で形成されるが、押出ダイスのコアとプレートとの芯ズレにより押出加工の段階で多少の偏肉は必然的に有しているものである。内面螺旋溝付管100では、円周方向の底肉厚の最大値と最小値の差(偏差)が0.12mm以下であることが好ましい。
【0042】
これらの偏肉部100d、100eは押出加工により素管を製造する際に生成されていた偏肉部を素管から内面螺旋溝付管100に加工する際に螺旋状に捻るとともに空引きによる引抜き加工により偏肉量を減少させることで形成されたものである。捻り加工と引抜き加工とを同時に施す捻り引抜き加工による塑性加工によれば、偏肉部を有する素管に対し肉の薄い部分には他の部分から材料が集められて肉薄を部分的に解消するように塑性加工が進行し、逆に肉の厚い部分は部分的に肉を薄くするように塑性加工が進行する。偏肉の矯正は空引きによる引抜の縮径率によるため、その値がトータル20%未満では効果が小さく、20%以上の引抜リダクションとする。従って、上記の引抜と捻りとを同時に行なう複合加工で素管の偏肉の程度は解消される方向に向かうが、それを完全に解消することは困難であり、偏肉を低減するとともにそれ自体を螺旋状化することで拡管時の反りを抑制可能な内面螺旋溝付管100とすることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 …下面
2 …上面
3 …ねじ孔
4 …中空部
10、10a~f …繰り出し補助治具
11、12、13、14 …R部
20 …レベルワウンドコイル
21 …内周部
30、30a、30b …アルミニウム合金管
100 …内面螺旋溝付管
100A …管本体
100a …外周面
100b …内周面
100d、100e …偏肉部
103 …フィン
104 …螺旋溝
d …内径
D …外径
a …最下点
d’ …底肉厚(管壁厚さ)
図1
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