(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082835
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】振動制御装置
(51)【国際特許分類】
F16F 7/10 20060101AFI20240613BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240613BHJP
F16F 15/06 20060101ALI20240613BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
F16F7/10
F16F15/02 C
F16F15/06 A
E04H9/02 341C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196972
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100120592
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 崇裕
(74)【代理人】
【識別番号】100184712
【弁理士】
【氏名又は名称】扇原 梢伸
(74)【代理人】
【識別番号】100192223
【弁理士】
【氏名又は名称】加久田 典子
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 郁斗
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康人
(72)【発明者】
【氏名】大庭 正俊
(72)【発明者】
【氏名】中村 佳也
(72)【発明者】
【氏名】大塚 友理
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB03
2E139AC19
2E139BA12
2E139BA32
2E139BB02
2E139BB26
2E139BB49
2E139BD26
3J048AA02
3J048AD06
3J048BF14
3J048DA01
3J048EA38
3J066AA26
3J066DA02
3J066DB04
(57)【要約】
【課題】製造コストを抑えることができる技術を提供する。
【解決手段】床部11が振動すると、バネ80を介して、支持体50も振動する。支持体50が上方に移動すると、バネ80が縮み、第2柱部材43が上方に押され、第1柱部材41が振動伝達部材45の左端部を下方に押したような形になる。これにより、歯列部49が上昇し、ギア30を回転させ、錘20が右回転する。一方、支持体50が下方に移動すると、バネ80が伸び、第2柱部材43が下方に引っ張られ、第1柱部材41は位置がそのままで、第2柱部材43が下方に下がるので振動伝達部材45の左端部が持ち上がる。これにより、歯列部49が下降し、ギア30を回転させ、錘20が左回転する。錘20を回転させて回転慣性質量を発生させるため、小さな錘20でも大きな回転慣性質量を発生させることができ、振動制御装置10の製造コストを抑えながら、小型化や軽量化を図ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
床部と前記床部の下方にある支持体との間に配置され、かつ、回転可能な状態で配置された錘と、
前記錘に取り付けられ、前記錘を回転させる回転可能なギアと、
テコの原理を利用して前記床部及び前記支持体のうち少なくとも一方の変位を前記ギアに伝達し、前記ギアを回転させて前記錘を回転させることにより、前記錘に回転慣性質量を発生させるテコユニットと、
を備える振動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の振動制御装置において、
前記テコユニットは、前記床部の振動に同調して前記錘を回転させることを特徴とする振動制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の振動制御装置において、
前記テコユニットは、
前記床部から前記支持体に向かって延びて配置された第1柱部材と、
前記第1柱部材に配置された第1軸部材と、
前記支持体から前記床部に向かって延びて配置された第2柱部材と、
前記第2柱部材に配置された第2軸部材と、
前記第1軸部材及び前記第2軸部材に接続され、前記第1軸部材をテコの力点とし、前記第2軸部材をテコの支点とし、前記第1軸部材とは反対側の端部をテコの作用点として傾斜可能な振動伝達部材と、
を備えることを特徴とする振動制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の振動制御装置において、
前記振動伝達部材は、
直線状の第1部材と、
前記第1部材の端部に配置された円弧状の第2部材と、
前記第2部材の外周に形成され、前記ギアと噛み合う歯列部と、
を備えることを特徴とする振動制御装置。
【請求項5】
請求項3に記載の振動制御装置において、
前記振動伝達部材は、前記第1軸部材が嵌合する第1嵌合孔、及び、前記第2軸部材が嵌合する第2嵌合孔を備え、
前記第1嵌合孔及び前記第2嵌合孔のうち少なくとも一方は、嵌合している軸部材が嵌合孔の内部で移動可能な長孔であることを特徴とする振動制御装置。
【請求項6】
請求項3に記載の振動制御装置において、
前記振動伝達部材は、前記力点から前記支点までの長さが、前記支点から前記作用点までの長さよりも短いことを特徴とする振動制御装置。
【請求項7】
請求項1に記載の振動制御装置において、
前記床部及び前記支持体のうち少なくとも一方は、前記錘とは別の錘を備えており、
前記床部と前記支持体との間には、弾性部材が配置されていることを特徴とする振動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、慣性接続要素を容易に設計することが可能な制振装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の制振装置では、円形に配置された糸を予め捩じった状態で張力をかけ、糸を緊張している機構は、橋梁や建築物が変位した際に緊張を解かれることで糸の捩じれが解かれ回転する力を発生させている。そして、この回転力をボールねじのネジ軸に回転させるように伝えることで、ボールねじの回転量を増幅させている。
【0005】
細かくネジ山が切ってあるボールねじを使用すると、振動制御対象の変位が微小でネジ軸が少ししか動かない場合でも、ナット部分が高速で回転可能なことで大きな回転慣性質量を発生させることができる。
【0006】
しかし、従来の慣性質量を利用した振動制御装置には、コストの高いボールねじが使用されているため、振動制御装置の値段が高くなるという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、製造コストを抑えることができる振動制御装置の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するため以下の解決手段を採用する。なお、以下の解決手段及び括弧書中の文言はあくまで例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。また、本発明は、以下の解決手段に示す各発明特定事項を少なくとも1つ含む発明とすることができる。さらに、以下の解決手段に示す各発明特定事項には、発明特定事項を限定する要素を追加して下位概念化することができ、発明特定事項を限定する要素を削除して上位概念化することもできる。
【0009】
解決手段1:本解決手段の振動制御装置は、床部と前記床部の下方にある支持体との間に配置され、かつ、回転可能な状態で配置された錘と、前記錘に取り付けられ、前記錘を回転させる回転可能なギアと、テコの原理を利用して前記床部及び前記支持体のうち少なくとも一方の変位を前記ギアに伝達し、前記ギアを回転させて前記錘を回転させることにより、前記錘に回転慣性質量を発生させるテコユニットと、を備える振動制御装置である。
【0010】
本解決手段の振動制御装置は、以下の構成を備えている。
(1)床部と床部の下方にある(床部から所定間隔離れて配置された)支持体との間に配置され、かつ、回転可能な状態で配置された錘を備えている。錘は、床部側から延びて配置された部材に取り付けられていてもよく、支持体側から延びて配置された部材に取り付けられていてよい。
【0011】
(2)錘に取り付けられ、錘を回転させる回転可能なギアを備えている。ギアは、錘とは別の部材であってもよく、錘の一部にギアが形成されていてもよい。
【0012】
(3)テコの原理を利用して床部及び支持体のうち少なくとも一方の変位をギアに伝達し、ギアを回転させて錘を回転させることにより、錘に回転慣性質量を発生させるテコユニットを備えている。ギアに伝達する変位は、床部の変位だけであってもよく、支持体の変位だけであってもよく、床部及び支持体の変位であってもよい。
【0013】
本解決手段によれば、テコの原理を利用したテコユニットを用いて錘に回転慣性質量を発生させるため、ボールねじを不要とすることで振動制御装置の製造コストを抑える(安くする)ことができる。
また、本解決手段によれば、錘を回転させて回転慣性質量を発生させるため、小さな錘でも大きな回転慣性質量を発生させることができ、振動制御装置の小型化や軽量化を図ることができる。
【0014】
解決手段2:本解決手段の振動制御装置は、上述したいずれかの解決手段において、前記テコユニットは、前記床部の振動に同調して前記錘を回転させることを特徴とする振動制御装置である。
【0015】
本解決手段では、テコユニットは、床部の振動(床振動)に同調して(同期して、応じて、床部の振動に基づいて振動する支持体に同調して)錘を回転させる。
【0016】
本解決手段によれば、テコユニットは、床部の振動に同調して錘を回転させるため、床部の動きに応じて錘の回転方向が切り替わり、より大きな慣性力を働かせることができる。また、テコユニットは、床部の振動に同調して錘を回転させるため、床部が振動すれば、自動的に錘が回転するようになり、床部の振動を利用して効率良く錘を回転させることができる。
【0017】
解決手段3:本解決手段の振動制御装置は、上述したいずれかの解決手段において、前記テコユニットは、前記床部から前記支持体に向かって延びて配置された第1柱部材と、前記第1柱部材に配置された第1軸部材と、前記支持体から前記床部に向かって延びて配置された第2柱部材と、前記第2柱部材に配置された第2軸部材と、前記第1軸部材及び前記第2軸部材に接続され、前記第1軸部材をテコの力点とし、前記第2軸部材をテコの支点とし、前記第1軸部材とは反対側の端部をテコの作用点として傾斜可能な振動伝達部材と、を備えることを特徴とする振動制御装置である。
【0018】
本解決手段のテコユニットは、以下の構成を備えている。
(1)床部から支持体に向かって延びて配置された第1柱部材を備えている。
(2)第1柱部材に配置された第1軸部材を備えている。
(3)支持体から床部に向かって延びて配置された第2柱部材を備えている。
(4)第2柱部材に配置された第2軸部材を備えている。
(5)第1軸部材及び第2軸部材に接続され、第1軸部材をテコの力点(テコの動作に影響を及ぼす第1の点)とし、第2軸部材をテコの支点(テコの動作に影響を及ぼす第2の点)とし、第1軸部材とは反対側の端部をテコの作用点(テコの動作に影響を及ぼす第3の点)として傾斜可能(移動可能)な振動伝達部材を備えている。
【0019】
本解決手段によれば、テコユニットは、柱部材と、軸部材と、振動伝達部材と、によって構成されているため、少ない部品点数で錘を回転させることができ、振動制御装置の製造コストを抑えることができる。
【0020】
解決手段4:本解決手段の振動制御装置は、上述したいずれかの解決手段において、前記振動伝達部材は、直線状の第1部材と、前記第1部材の端部に配置された円弧状の第2部材と、前記第2部材の外周に形成され、前記ギアと噛み合う歯列部と、を備えることを特徴とする振動制御装置である。
【0021】
本解決手段の振動伝達部材は、以下の構成を備えている。
(1)直線状の第1部材(水平方向に延びた部材)を備えている。
(2)第1部材の端部(ギアに近い方の端部)に配置された円弧状の第2部材を備えている。
(3)第2部材の外周に形成され、ギアと噛み合う歯列部を備えている。
【0022】
本解決手段によれば、第1部材、第2部材、及び、歯列部といった簡単な構成で振動伝達部材を構成することができ、結果として、振動制御装置の製造コストを抑えることができる。
【0023】
解決手段5:本解決手段の振動制御装置は、上述したいずれかの解決手段において、前記振動伝達部材は、前記第1軸部材が嵌合する第1嵌合孔、及び、前記第2軸部材が嵌合する第2嵌合孔を備え、前記第1嵌合孔及び前記第2嵌合孔のうち少なくとも一方は、嵌合している軸部材が嵌合孔の内部で移動可能な長孔であることを特徴とする振動制御装置である。
【0024】
本解決手段では、以下の特徴が追加される。
(1)振動伝達部材は、第1軸部材が嵌合する第1嵌合孔、及び、第2軸部材が嵌合する第2嵌合孔を備えている。
(2)第1嵌合孔及び第2嵌合孔のうち少なくとも一方(片方又は両方)は、嵌合している軸部材が嵌合孔の内部で移動可能な長孔である。
【0025】
本解決手段によれば、第1嵌合孔及び第2嵌合孔のうち少なくとも一方が長孔となっているため、長孔によって振動伝達部材を円滑に可動させることができる。
【0026】
解決手段6:本解決手段の振動制御装置は、上述したいずれかの解決手段において、前記振動伝達部材は、前記力点から前記支点までの長さが、前記支点から前記作用点までの長さよりも短いことを特徴とする振動制御装置である。
【0027】
本解決手段では、振動伝達部材は、力点から支点までの長さ(L1)が、支点から作用点までの長さ(L2)よりも短くなっている(L1<L2)。
【0028】
本解決手段によれば、振動伝達部材は、力点から支点までの長さ(L1)が、支点から作用点までの長さ(L2)よりも短くなっているため(L1<L2)、力点の変位が小さくても作用点を大きく動かし、ギア30を回転させることができる。
【0029】
解決手段6:本解決手段の振動制御装置は、上述したいずれかの解決手段において、前記床部及び前記支持体のうち少なくとも一方は、前記錘とは別の錘を備えており、前記床部と前記支持体との間には、弾性部材が配置されていることを特徴とする振動制御装置である。
【0030】
本解決手段では、以下の特徴が追加される。
(1)床部及び支持体のうち少なくとも一方(片方又は両方)は、上述した錘とは別の錘を備えている。
(2)床部と支持体との間には、弾性部材が配置されている。
【0031】
本解決手段によれば、回転する錘によって回転慣性質量を発生させることができるので、別の錘の重さを軽くすることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、製造コストを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】実施形態の振動制御装置10を示す図である。
【
図3】バネ80が伸びる場合の様子を示す図である。
【
図5】比較例の振動制御装置10Aを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施形態の振動制御装置10を示す図である。
振動制御装置10は、振動を抑制する装置(TMD:Tuned Mass Damper)である。振動制御装置10は、錘20と、ギア30と、テコユニット40と、支持体50と、取付用プレート60と、ダンパー70と、バネ80と、を備えている。
【0035】
錘20は、建物等の床部11と床部11の下方にある支持体50との間に配置され、かつ、回転可能な状態で配置された部材である。錘20は、円盤形状の部材である。錘20は、上下振動を回転運動(回転慣性質量)に変換する機能を有する。
【0036】
ギア30は、錘20の前面に取り付けられ、錘20を回転させる回転可能な部材である。錘20とギア30とは一体化されており、ギア30が回転すると、錘20も回転する。
【0037】
テコユニット40は、テコの原理を利用して支持体50の変位をギア30に伝達し、ギア30を回転させて錘20を回転させることにより、錘20に回転慣性質量を発生させる装置である。回転慣性質量が発生すると、錘20が非回転時の重さよりも重くなるため、その分、支持体50の重さを軽くしたり、支持体の50の大きさを小さくしたりすることができる。
【0038】
テコユニット40は、床部11の振動(床振動)に同調して錘20を回転させる。本実施形態の振動制御装置10は、床振動に同調して制振機構(支持体50に接続されている部材)が動き、制振機構の変位と床振動の変位の差だけギア30を動かす。
【0039】
テコユニット40は、第1柱部材41と、第1軸部材42と、第2柱部材43と、第2軸部材44と、振動伝達部材45と、第3柱部材46と、を備えている。
第1柱部材41は、床部11から支持体50に向かって延びて配置された柱状の部材である。第1柱部材41の上端部は、取付用プレート60に取り付けられ、第1柱部材41の下端部は、第2柱部材43の上端部よりも少しだけ下方に位置している。
第1軸部材42は、第1柱部材に配置された円柱形状の部材である。
【0040】
第2柱部材43は、支持体50から床部11に向かって延びて配置された柱状の部材である。第2柱部材43の下端部は、支持体50に取り付けられ、第2柱部材43の上端部は、第1柱部材41の下端部よりも少しだけ上方に位置している。
第2軸部材44は、第2柱部材43に配置された円柱形状の部材である。
【0041】
振動伝達部材45は、第1軸部材42及び第2軸部材44に接続され、第1軸部材42をテコの力点F1とし、第2軸部材44をテコの支点F2とし、第1軸部材42とは反対側の端部をテコの作用点F3として傾斜可能な部材である。振動伝達部材45は、第2軸部材44を回転中心として回転可能である。
【0042】
第3柱部材46は、床部11から支持体50に向かって延びて配置された柱状の部材である。第3柱部材46は、錘20及びギア30を回転可能に支持している。第3柱部材46の上端部は、取付用プレート60に取り付けられ、第3柱部材46の下端部は、バネ80の中央付近に位置している。錘20は、第3柱部材46によって、床部11と垂直に設置されている。
【0043】
第3柱部材46を支持体50側に設けると、支持体50が上下に振動することにより、錘20も上下に振動してしまう。このため、本実施形態では、振動伝達部材45の移動(テコの移動)を効率良く慣性力に利用するために、第3柱部材46を床部11側に固定している。
【0044】
第1柱部材41、第2柱部材43、及び、第3柱部材46の長さの関係は、「第1柱部材41」>「第3柱部材46」>「第2柱部材43」となっている。このため、振動伝達部材45は、初期状態において、右端部が右上に上がった傾斜した状態で配置することができる。これにより、振動の開始時に支持体50が下方に移動した場合、振動伝達部材45の右端部の自重により振動伝達部材45が動き出しやすいようになっている。
【0045】
振動伝達部材45は、第1部材47と、第2部材48と、歯列部49と、を備えている。第1部材47は、直線状の部材である。第1部材47は、初期状態において、左端部が左下に下がり、右端部が右上に上がった状態で配置されている。第2部材48は、第1部材47の右端部に配置された円弧状の部材である。歯列部49は、第2部材48の外周に形成され、ギア30と噛み合う部材である。歯列部49は、初期状態において、中央部分がギア30と噛み合っているが、中央部分からずれた位置でギア30と噛み合っていてもよい。
【0046】
また、振動伝達部材45は、第1軸部材42が嵌合する第1嵌合孔42a、及び、第2軸部材44が嵌合する第2嵌合孔44aを備えている。
第1嵌合孔42aは、嵌合している第1軸部材42が第1嵌合孔42aの内部で移動可能な長孔となっている。具体的に、第1嵌合孔42aは、第1軸部材42の左端部の左下側から右上側に向かって延びた横長の孔となっている。一方、第2嵌合孔44aは、第2軸部材44の円柱形状に沿った円形の孔となっている。
【0047】
振動伝達部材45は、力点F1から支点F2までの長さ(L1)が、支点F2から作用点F3までの長さ(L2)よりも短くなっている(L1<L2)。
【0048】
支持体50は、錘20とは別の錘を備えている。すなわち、支持体50は、支持体50自体が錘となっている。支持体50は、第2柱部材43、ダンパー70及びバネ80を支える土台として機能しつつ、錘としても機能する。
【0049】
取付用プレート60は、振動制御装置10を床部11に取り付けるための板状の部材であり、床部11と接合されている。取付用プレート60には、第1柱部材41、第3柱部材46、ダンパー70及びバネ80が取り付けられている。なお、取付用プレート60は、床部11に含まれる部材として捉えることもできる。
【0050】
ダンパー70は、減衰機構を備える装置であり、振動制御装置10の振動を抑制することにより、振動制御装置10がいつまでも振動することを防ぐ。
バネ80は、床部11(取付用プレート60)と支持体50との間に配置された弾性部材であり、支持体50を上下に振動させることができる。
【0051】
次に、振動制御装置10の動作について説明する。
第2柱部材43は、支持体50に固定されている。このため、支持体50が上下に振動すると、第2柱部材43は、上方に押されたり下方に引っ張られたりする。第1柱部材41は、取付用プレート60を介して床部11と剛接合しており、振動伝達部材45の左端部は、第1柱部材41によって上下方向に移動する。このため、第2柱部材43が上方に押されると、第1柱部材41が振動伝達部材45の左端部を下方に押したような形になる(
図2参照)。
【0052】
一方、第2柱部材43が下方に引っ張られると、第1柱部材41が振動伝達部材45の左端部を上方に引っ張るような形になる。そして、支持体50が上下に振動することで、振動伝達部材45が動き、錘20の回転が都度逆転することで回転慣性が働き、みかけの質量が付加される(錘20の質量が小さくとも床部11の振動の減衰が可能である)(
図3参照)。
【0053】
図2は、バネ80が縮む場合の様子を示す図である。
図2(A)は、初期状態を示しており、
図2(B)は、初期状態からバネ80が縮んだ状態を示している。
図2(A)に示す初期状態から何かしらの要因で床部11が振動すると、バネ80を介して、支持体50も振動する。
そして、
図2(B)に示すように、支持体50が上方に移動すると、バネ80が縮み、第2柱部材43が上方に押され(上方に移動し)、第1柱部材41が振動伝達部材45の左端部を下方に押したような形になる。これにより、歯列部49が上昇し、ギア30を回転させ、錘20が右回転する。支持体50の動きが下降から上昇に切り替わる際には、錘20は左回転から右回転に移行するため、慣性力が働く。
【0054】
図3は、バネ80が伸びる場合の様子を示す図である。
図3(A)は、初期状態を示しており、
図3(B)は、初期状態からバネ80が伸びた状態を示している。
図3(A)に示す初期状態から何かしらの要因で床部11が振動すると、バネ80を介して、支持体50も振動する。
そして、
図3(B)に示すように、支持体50が下方に移動すると、バネ80が伸び、第2柱部材43が下方に引っ張られ(下方に移動し)、第1柱部材41は位置がそのままで、第2柱部材43が下方に下がるので振動伝達部材45の左端部が持ち上がる。これにより、歯列部49が下降し、ギア30を回転させ、錘20が左回転する。支持体50の動きが上昇から下降に切り替わる際には、錘20は右回転から左回転に移行するため、慣性力が働く。
【0055】
図4は、振動制御装置10の使用例を示す図である。なお、理解を容易にするために、振動制御装置10は、実際の大きさとは異なる大きさで表示している。
振動制御装置10は、1階F1、2階F2、3階F3を有する3階建ての建物100の2階F2の天井に吊るされている。
そして、この状態で、3階F3で人等が移動することにより、(1)床振動が発生したものとする。この場合、(2)振動制御装置10が床振動に対して同調して振動する。その際、支持体50と第2柱部材43との上下運動が連動して錘20を動かす(回転させる)ことができる。すなわち、振動により生じる床振動の変位と振動制御装置10の変位との差分と相関する変位でギアを動かし、錘20を動かす(回転させる)ことができる。
【0056】
図5は、比較例の振動制御装置10Aを示す図である。
比較例の振動制御装置10Aは、錘50Aと、床部11Aに接合された取付用プレート60Aと、錘50A及び取付用プレート60Aの間に設置されたダンパー70Aと、錘50A及び取付用プレート60Aとの間に設置されたバネ80Aと、を備えている。
【0057】
比較例の振動制御装置10Aでは、床部11Aの振動を抑制するために、ダンパー70Aと、大きな質量(重い重さ)の錘50Aが必要である。例えば、床部11Aに対しては、床部11Aの重量に対して約2~3%の重量の錘50Aが必要となる。
一方、本実施形態の振動制御装置10では、回転する錘20によって回転慣性質量を発生させることができるので、錘となる支持体50を比較例の錘50Aよりも小さな質量(軽い重さ、比較例の錘50Aの重量未満の重量)とすることができる。なお、錘20の重さと、支持体50の重さの合計の重さ(錘の合計の重さ)は、比較例の錘50Aよりも軽くすることができる。また、錘20の重さと、支持体50の重さと、ギア30の重さと、テコユニット40の重さの合計の重さ(比較例から増えた部材の合計の重さ)は、比較例の錘50Aよりも軽くすることができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)本実施形態によれば、テコの原理を利用したテコユニット40を用いて錘20に回転慣性質量を発生させるため、ボールねじを不要とすることで振動制御装置10の製造コストを抑えることができる。また、本実施形態によれば、錘20を回転させて回転慣性質量を発生させるため、小さな錘20でも大きな回転慣性質量を発生させることができ、振動制御装置10の小型化や軽量化を図ることができる。さらに、回転慣性質量の効果により、重量が小さい錘20でも大きな重量を持つ振動制御装置10のような効果を発揮させることができる。
【0059】
(2)本実施形態によれば、テコユニット40は、床部11の振動に同調して錘20を回転させるため、床部11の動きに応じて錘20の回転方向が切り替わり、より大きな慣性力を働かせることができる。また、テコユニット40は、床部11の振動に同調して錘を回転させるため、床部11が振動すれば、自動的に錘20が回転するようになり、床部11の振動を利用して効率良く錘を回転させることができる。
【0060】
(3)本実施形態によれば、テコユニット40は、柱部材(第1柱部材41、第2柱部材43及び第3柱部材46)と、軸部材(第1軸部材42及び第2軸部材44)と、振動伝達部材45とによって構成されているため、少ない部品点数で錘20を回転させることができ、振動制御装置10の製造コストを抑えることができる。
【0061】
(4)本実施形態によれば、第1部材47、第2部材48、及び、歯列部49といった簡単な構成で振動伝達部材45を構成することができ、結果として、振動制御装置10の製造コストを抑えることができる。
【0062】
(5)本実施形態によれば、第1嵌合孔42aが長孔となっているため、長孔によって振動伝達部材45を円滑に可動させることができる。
【0063】
(6)本実施形態によれば、振動伝達部材45は、力点F1から支点F2までの長さ(L1)が、支点F2から作用点F3までの長さ(L2)よりも短くなっているため(L1<L2)、力点の変位が小さくても作用点を大きく動かし、ギア30を回転させることができる。
【0064】
(7)本実施形態によれば、回転する錘20によって回転慣性質量を発生させることができるので、支持体50の重さ(別の錘の重さ)を軽くすることができる。
【0065】
〔変形形態〕
本発明は、上述した実施形態に制約されることなく、種々に変形して実施することができる。
(1)錘20は、円盤形状の例で説明したが、球形状であってもよい。また、錘20は、多角形形状であってもよい。
(2)長孔の形状は、横長の長方形の例で説明したが、縦長の長方形や湾曲した形状、楕円形状であってもよい。また、長孔は、第1嵌合孔42aだけに適用する例で説明したが、第2嵌合孔44aだけに適用してもよく、第1嵌合孔42a及び第2嵌合孔44aに適用してもよい。例えば、嵌合孔の径が軸部材の径よりも十分に大きい場合(マージンを大きく確保している場合)には、長孔は形成しなくてもよい。また、長孔は、第1柱部材41や第2柱部材43に形成してもよい。
【0066】
(3)振動伝達部材45は、力点F1から支点F2までの長さが、支点F2から作用点F3までの長さよりも短い例(L1<L2)で説明したが、力点F1から支点F2までの長さが、支点F2から作用点F3までの長さよりも長くてもよく(L1>L2)、力点F1から支点F2までの長さと、支点F2から作用点F3までの長さとが同じであってもよい(L1=L2)。
(4)振動伝達部材45は、初期状態で水平になっていてもよい。
(5)床部11の上方に、錘20とは別の錘を配置してもよい。
【0067】
(6)取付用プレート60は、配置しなくてもよい。
(7)テコユニット40は、床部11の変位をギア30に伝達するユニットであってもよく、支持体50の変位をギア30に伝達するユニットであってもよく、床部11及び支持体50の変位をギア30に伝達するユニットであってもよい。
(8)上述した実施形態や図面で示した各部材の形状はあくまで例示である。上述した実施形態において、支持体50の左右方向の変位や、床部11の上下方向の変位、床部11の左右方向の変位を考慮して、各部材の寸法や各孔(長孔等)の寸法を決定することができる。
【0068】
(9)振動伝達部材45は、伸縮自在な(長さが変化する)部材であってもよい。例えば、振動伝達部材45の中央付近にバネを備えた伸縮機構を配置し、バネの力によって歯列部49をギア30の方向に付勢するようにする。これにより、支持体50が複雑に振動しても、歯列部49がギア30から外れないようにしたり、振動伝達部材45を円滑に傾斜させたりすることができる。
(10)各柱部材の少なくとも1つに(例えば、各柱部材が取り付けられている部分に)、各柱部材が左右方向に移動可能な移動機構を取り付けてもよい。
【0069】
(11)テコユニット40は、床部11の振動に同調して錘20を回転させる例で説明したが、支持体50の振動に同調して錘20を回転させてもよく、床部11や支持体50の振動に同調しないで(例えば、完全に同調しないで、完全に同調しないが一部だけ同調して)錘20を回転させてもよい。床部11や支持体50の振動に同調しないで錘20を回転させる場合は、例えば、振動開始時にテコの原理を利用して錘20を回転させ、その後、床部11の振動とは関係なく錘20が自然に停止するまで回転を継続させる。この場合であっても、停止している錘20が回転することになるため、慣性力を働かせることができる。
【符号の説明】
【0070】
10 振動制御装置
11 床部
20 錘
30 ギア
40 テコユニット
41 第1柱部材
42 第1軸部材
42a 第1嵌合孔
43 第2柱部材
44 第2軸部材
44a 第2嵌合孔
45 振動伝達部材
46 第3柱部材
47 第1部材
48 第2部材
49 歯列部
50 支持体
60 取付用プレート
70 ダンパー
80 バネ
F1 力点
F2 支点
F3 作用点
100 建物