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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082838
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】ボイラー管のリコート方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 4/02 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
C23C4/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022196987
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】390001801
【氏名又は名称】大阪富士工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522480768
【氏名又は名称】京 将司
(74)【代理人】
【識別番号】100141852
【弁理士】
【氏名又は名称】吉本 力
(72)【発明者】
【氏名】辰巳 佳宏
(72)【発明者】
【氏名】林 良彦
(72)【発明者】
【氏名】京 将司
(72)【発明者】
【氏名】本村 孔作
【テーマコード(参考)】
4K031
【Fターム(参考)】
4K031AA01
4K031AB02
4K031BA04
(57)【要約】
【課題】ボイラー管に対する溶射皮膜のリコートを短時間、かつ、低コストで実現できるボイラー管のリコート方法を提供する。
【解決手段】ボイラー管のリコート方法は、除去工程及び溶射工程を含む。除去工程では、レーザービームLを照射することで、ボイラー管10の溶射皮膜12表面上における腐食生成物14を除去し、溶射皮膜12表面を露出させる。溶射工程では、露出させた溶射皮膜12表面上に、溶射材20を溶射する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザービームを照射することで、ボイラー管の溶射皮膜表面上における腐食生成物を除去し、前記溶射皮膜表面を露出させる除去工程と、
露出させた前記溶射皮膜表面上に、溶射材を溶射する溶射工程とを含む、ボイラー管のリコート方法。
【請求項2】
前記除去工程では、前記レーザービームを前記ボイラー管に対して一定の速度で相対的に移動させる、請求項1に記載のボイラー管のリコート方法。
【請求項3】
前記除去工程において、前記レーザービームによる入熱量は、63J/cm以下である、請求項1に記載のボイラー管のリコート方法。
【請求項4】
前記除去工程では、露出させる前記溶射皮膜表面の算術平均粗さを8.5μm以下とする、請求項3に記載のボイラー管のリコート方法。
【請求項5】
前記除去工程では、露出させる前記溶射皮膜表面の算術平均粗さを5.5μm以上、かつ、8.5μm以下とする、請求項4に記載のボイラー管のリコート方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラー管のリコート方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、下記特許文献1では、プラズマフレームを発生させることで、溶射材を母材に溶射する溶射装置が開示されており、このような溶射装置は、母材の表面上に溶射皮膜を形成するために用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006-002242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既に溶射皮膜が被覆されているボイラー管をメンテナンスする場合、具体的には、ボイラー管に対して溶射皮膜をリコート(再被覆)する場合、溶射皮膜表面上の腐食生成物を除去するために、ブラスト処理が実施される。
【0005】
ボイラー管に対してブラスト処理を実施する場合、腐食生成物と共に溶射皮膜もボイラー管から除去される。そのため、このようなリコート方法では、腐食生成物を溶射皮膜と共にボイラー管から剥がし、その後に、そのボイラー管の表面上に溶射皮膜を再形成することになる。
【0006】
つまり、従来のリコート方法では、ブラスト処理による腐食生成物及び溶射皮膜の除去、並びに、溶射皮膜の再形成という一連の作業に長期間を要することに加え、大量のブラスト材等が必要となる。そのため、従来のリコート方法でボイラー管をメンテナンスする場合、ボイラー管を用いた発電設備等において、1~2ヶ月という長期間にわたって設備を停止させなければならなかった。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、ボイラー管に対する溶射皮膜のリコートを短時間、かつ、低コストで実現できるボイラー管のリコート方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係るボイラー管のリコート方法は、除去工程及び溶射工程を含む。前記除去工程では、レーザービームを照射することで、ボイラー管の溶射皮膜表面上における腐食生成物を除去し、前記溶射皮膜表面を露出させる。前記溶射工程では、露出させた前記溶射皮膜表面上に、溶射材を溶射する。
【0009】
このような方法によれば、ボイラー管の表面上に予め被覆されている溶射皮膜(1層目)をボイラー管から剥がすことなく、溶射皮膜の表面上から腐食生成物を除去し、その溶射皮膜の表面上に溶射皮膜(2層目)をリコートすることができる。すなわち、この方法によれば、ボイラー管に対する溶射皮膜のリコートを短時間で行うことができる。
【0010】
また、このような方法によれば、溶射皮膜をボイラーから剥がすためのブラスト材等が不要となる。つまり、この方法によれば、ボイラー管に対する溶射皮膜のリコートを低コストで行うことができる。
【0011】
(2)前記除去工程では、前記レーザービームを前記ボイラー管に対して一定の速度で相対的に移動させてもよい。
【0012】
このような方法によれば、レーザービームの照射時間が腐食生成物のどの部分においても均一となり、結果的に、腐食生成物の除去漏れを防止することができる。
【0013】
(3)前記除去工程において、前記レーザービームによる入熱量は、63J/cm以下であってもよい。
【0014】
このような方法によれば、レーザービームによる入熱過多を防止することにより、除去工程により露出させた溶射皮膜の表面上における金属光沢部の発生を抑制しつつ、露出させた溶射皮膜(1層目)の表面と、その溶射皮膜の表面上にリコートされる溶射皮膜(2層目)との密着力の低下を抑制することができる。
【0015】
(4)前記除去工程では、露出させる前記溶射皮膜表面の算術平均粗さを8.5μm以下としてもよい。
【0016】
このような方法によれば、除去工程により露出させた溶射皮膜の表面上における金属光沢部の発生をさらに抑制し、露出させた溶射皮膜(1層目)の表面と、その溶射皮膜の表面上にリコートされる溶射皮膜(2層目)との間で、高い密着力を得ることができる。
【0017】
(5)前記除去工程では、露出させる前記溶射皮膜表面の算術平均粗さを5.5μm以上、かつ、8.5μm以下としてもよい。
【0018】
このような構成によれば、除去工程により露出させた溶射皮膜(1層目)の表面と、その溶射皮膜の表面上にリコートされる溶射皮膜(2層目)との間の密着力をさらに高めることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ボイラー管に対する溶射皮膜のリコートを短時間、かつ、低コストで実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の除去工程を説明するための概略図である。
図2】本実施形態の除去工程を説明するための概略図である。
図3】本実施形態の溶射工程を説明するための概略図である。
図4】本実施例における照射条件及び各種測定結果を示す図である。
図5A】本実施例における溶射皮膜の表面を示す図である。
図5B】本実施例における溶射皮膜の表面を示す図である。
図5C】本実施例における溶射皮膜の表面を示す図である。
図5D】本実施例における溶射皮膜の表面を示す図である。
図5E】本実施例における溶射皮膜の表面を示す図である。
図5F】本実施例における溶射皮膜の表面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
1.ボイラー管のリコート方法
図1及び図2は、本実施形態の除去工程を説明するための概略図である。図3は、本実施形態の溶射工程を説明するための概略図である。本実施形態では、ボイラー管10を溶射皮膜12でリコートする場合、除去工程、溶射工程の順に各工程を実施する。以下、ボイラー管10のリコート方法について、図1図3を参照して説明する。
【0022】
先ず、除去工程について、図1及び図2を参照して説明する。なお、図1は、ボイラー管10の断面を示す概略断面図である。また、図2は、レーザー照射装置16側からボイラー管10を見た図である。
【0023】
除去工程では、レーザービームLを照射することで、ボイラー管10の溶射皮膜12の表面上における腐食生成物14を除去し、溶射皮膜12の表面を露出させる。
【0024】
除去工程を実施する場合、メンテナンスの対象となるボイラー管10が予め用意される。ただし、このボイラー管10の表面上には、溶射皮膜12が予め被覆されており、その溶射皮膜12の表面上には、使用に伴い腐食生成物14が形成されている。なお、腐食生成物14は、溶射皮膜12が時間の経過とともに腐食することで生成される物質であり、主に酸化鉄を含む。除去工程では、ボイラー管10の表面上に予め被覆されている溶射皮膜12を残したまま、腐食生成物14のみが溶射皮膜12の表面から除去される。
【0025】
また、除去工程を実施する場合、レーザー照射装置16が用意される。レーザー照射装置16は、高出力のレーザービームLを照射する装置である。レーザー照射装置16は、たとえば、出力が1000W程度であるレーザービームLを照射する。図2に示すように、レーザービームLは、ボイラー管10の表面上の腐食生成物14に対して、移動方向(掃引方向)に沿って相対的に移動される。このとき、レーザービームLは、移動方向に対して交差する方向(幅方向)に光軸Sが高速で走査されることにより形成される。つまり、レーザービームLは、幅方向に沿った所定のビーム幅で、移動方向に沿って相対的に移動される。
【0026】
レーザービームLのビーム幅については、適宜調整可能である。また、レーザービームLの周波数(パルス周波数)、つまり、光軸Sが幅方向(たとえば、移動方向に対して直交方向)に1秒間で往復する回数も適宜調整可能である。なお、レーザービームLのビーム幅及び周波数については、固定されていてもよい。
【0027】
このようなレーザー照射装置16によれば、レーザービームLが照射された部分の腐食生成物14を除去することができる。したがって、ボイラー管10の表面全体から腐食生成物14を除去しようとする場合には、レーザービームLを移動方向に沿って相対移動させた後、レーザービームLを幅方向に相対移動させ、レーザービームLが照射されていない部分に対して、再びレーザービームLを移動方向に沿って相対移動させるという動作を繰り返す必要がある。このとき、図2に二点鎖線で示すように、レーザービームLが照射された部分が幅方向において一部重なるように、レーザービームLのビーム幅よりも若干短い移動距離で、レーザービームLが幅方向に相対移動される。
【0028】
このように、除去工程では、レーザー照射装置16でレーザービームLを照射しつつ、レーザー照射装置16をボイラー管10に対して相対的に移動させる。つまり、除去工程では、レーザービームLをボイラー管10に対して相対的に移動させることにより、ボイラー管10の表面上の腐食生成物14を除去することができる。
【0029】
また、除去工程では、レーザー照射装置16をボイラー管10に対して相対的に移動させるとき、図1に示すように、レーザー照射装置16とボイラー管10との距離が一定に保たれる。つまり、除去工程では、ボイラー管10の表面に対して平行方向に沿って、レーザー照射装置16が相対移動される。レーザー照射装置16とボイラー管10との距離が一定に保たれるのであれば、レーザー照射装置16及びボイラー管10の一方を固定し、他方を移動させてもよいし、レーザー照射装置16及びボイラー管10の両方を移動させてもよい。
【0030】
また、ボイラー管10に対してレーザー照射装置16を移動方向(掃引方向)に沿って相対的に移動させる際の速度、つまり、レーザービームLの掃引速度については、一定であることが好ましい。これによれば、レーザービームLの照射時間が腐食生成物14のどの部分においても均一となり、結果的に、腐食生成物14の除去漏れを防止することができる。
【0031】
なお、図1及び図2に示す例では、レーザービームLが腐食生成物14に対して斜めに照射されているが、垂直に照射されてもよい。
【0032】
次に、溶射工程について、図3を参照して説明する。図3は、本実施形態の溶射工程を説明するための概略図である。
【0033】
溶射工程は、除去工程で露出させた溶射皮膜12の表面上に、溶射材20を溶射する工程である。そのため、溶射工程では、除去工程で腐食生成物14が除去されたボイラー管10に加え、溶射材を溶射するための溶射装置18が用意される。
【0034】
図3に示す溶射装置18は、高速フレーム溶射式に対応し、たとえばサーメット及び金属を含む粉末材料からなる溶射材20を供給しながら溶射を行うための装置である。溶射装置18には、圧縮空気及び燃焼ガスとともに溶射材20が供給される。燃焼ガスは、たとえばプロパンガス又は水素ガス等の可燃性ガスを含む。
【0035】
溶射装置18には、ノズル22及びエアーキャップ24が含まれる。ノズル22は、中心軸線に沿って溶射材20を供給しながら、その溶射材20の周囲に圧縮空気及び燃焼ガスを高速で供給する。ノズル24から噴射される燃焼ガスによって燃焼フレームが形成され、この燃焼フレームにより溶射材20が溶融される。
【0036】
エアーキャップ24は、ノズル22の先端部の周囲を取り囲むように設けられており、ノズル22とエアーキャップ24の間から圧縮空気が供給される。溶融された溶射材20は、エアーキャップ24の先端から、腐食生成物14が除去された溶射皮膜12の表面に向けて噴射される。音速を超える速度で燃焼ガスを供給することにより衝撃波を発生させ、溶融された溶射材20を高速で溶射皮膜12の表面に衝突させることにより、緻密な溶射皮膜をリコートすることができる。
【0037】
溶射装置18の溶射方式は、高速フレーム溶射式に限定されない。そのため、溶射装置18は、たとえば、水プラズマ溶射、ガスプラズマ溶射又はアーク溶射等に対応してもよい。なお、溶射工程では、溶射装置18をボイラー管10に対して相対的に移動させることにより、腐食生成物14が除去された溶射皮膜12(1層目)の表面上に対して、連続的に溶射皮膜(2層目)がリコートされる。ボイラー管10の表面上に予め被覆されている溶射皮膜12(1層目)についても、同様の溶射工程によりボイラー管10の表面上に形成されてもよい。
【0038】
このようなボイラー管のリコート方法によれば、ボイラー管10の表面上に予め被覆されている溶射皮膜12(1層目)をボイラー管10から剥がすことなく、溶射皮膜12の表面上から腐食生成物14を除去し、その溶射皮膜12の表面上に溶射皮膜(2層目)をリコートすることができる。すなわち、この方法によれば、ボイラー管10に対して溶射皮膜を短時間でリコートすることができる。
【0039】
また、このような、ボイラー管のリコート方法によれば、溶射皮膜12をボイラー管10から剥がすためのブラスト材等が不要となる。つまり、この方法によれば、ボイラー管10に対して溶射皮膜12を低コストでリコートすることができる。
【0040】
2.実施例
以下では、上記のような除去工程及び溶射工程を実施した場合の実施例について説明する。この実施例では、特に、除去工程においてレーザービームLを照射する際の条件である照射条件、並びに、その照射条件に伴うレーザービームLによる入熱量及び露出させる溶射皮膜12の表面粗さについて検討した。
【0041】
本実施例では、母材である金属板に対して、溶射材としての金属の一例であるニッケルクロム含有炭化クロム粉末(CrC-25NiCr)を予め溶射することで溶射皮膜を形成し、さらに、その母材に腐食処理を施すことで、ボイラー管10、溶射皮膜12及び腐食生成物14を再現した試験片(No.1~No.6)を作製した。図4は、本実施例における照射条件及び各種測定結果を示す図である。図5A図5Fは、本実施例における溶射皮膜12の表面を示す図である。
【0042】
図4に示すように、照射条件は、ビーム幅(mm)、周波数(KHz)、掃引速度(mm/sec)及び出力(W)の項目の組み合わせから成る。
【0043】
ビーム幅は、上述したように、レーザービームLの幅であり、周波数(パルス周波数)は、レーザービームLを形成する光軸Sが幅方向に1秒間で光出力のオン・オフを繰り返す回数である。また、掃引速度は、上述したように、ボイラー管10に対してレーザー照射装置16を移動方向(掃引方向)に沿って相対的に移動させる際の速度である。出力は、レーザービームLの平均出力を意味する。
【0044】
入熱量(J/mm)は、レーザービームLから与えられる単位面積当たりの熱量である。入熱量(J/mm)は、レーザービームLの平均出力(J/sec)をビーム幅(mm)で除算し、その結果を掃引速度(mm/sec)でさらに除算することで算出される。なお、本実施例では、入熱量の単位をJ/cmとするため、入熱量(J/mm)に100を乗算している。
【0045】
表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)により表される。ここでの表面粗さは、除去工程が実施された後であり、かつ、溶射工程が実施される前の溶射皮膜12(除去工程により露出させた溶射皮膜12)の表面の粗さである。
【0046】
金属光沢部は、除去工程が実施された後であり、かつ、溶射工程が実施される前の溶射皮膜12(除去工程により露出させた溶射皮膜12)の表面に生じる部分的な光沢であり、顕微鏡を用いて外観観察を行った。その結果を図5A図5Fに示している。
【0047】
密着力は、ボイラー管10の表面上に予め被覆されている溶射皮膜12(1層目)と、腐食生成物14が除去された溶射皮膜12(1層目)の表面上にリコートした溶射皮膜(2層目)との密着力を意味する。そのため、密着力は、溶射工程を実施した後に測定したものであり、引張試験により測定を行った。
【0048】
なお、表面粗さ、金属光沢部及び密着力については、溶射皮膜12の一部の箇所に対する測定結果である。
【0049】
試験片No.1については、ビーム幅を20mm、周波数を24KHz、掃引速度を20mm/sec、出力を1000Wとし、入熱量を250J/cmとして除去工程を行った。このように照射条件を設定して除去工程を行った結果、その除去工程により露出させた溶射皮膜12の表面粗さとしての算術平均粗さ(Ra)は、14.25μmとなり、金属光沢部は、図5Aに示すように、露出させた溶射皮膜12の表面上に多く現れている。また、密着力については、24.1MPaである。
【0050】
試験片No.2については、ビーム幅を20mm、周波数を24KHz、掃引速度を40mm/sec、出力を1000Wとし、入熱量を125J/cmとして除去工程を行った。このように照射条件を設定して除去工程を行った結果、その除去工程により露出させた溶射皮膜12の表面粗さとしての算術平均粗さ(Ra)は、10.4μmとなり、金属光沢部は、図5Bに示すように、露出させた溶射皮膜12の表面上に多く現れている。また、密着力については、22.7MPaである。
【0051】
試験片No.3については、ビーム幅を20mm、周波数を40KHz、掃引速度を20mm/sec、出力を1000Wとし、入熱量を250J/cmとして除去工程を行った。このように照射条件を設定して除去工程を行った結果、その除去工程により露出させた溶射皮膜12の表面粗さとしての算術平均粗さ(Ra)は、11.15μmとなり、金属光沢部は、図5Cに示すように、露出させた溶射皮膜12の表面上に現れていない。また、密着力については、8.7MPaである。
【0052】
試験片No.4については、ビーム幅を80mm、周波数を24KHz、掃引速度を20mm/sec、出力を1000Wとし、入熱量を63J/cmとして除去工程を行った。このように照射条件を設定して除去工程を行った結果、その除去工程により露出させた溶射皮膜12の表面粗さとしての算術平均粗さ(Ra)は、8.5μmとなり、金属光沢部は、図5Dに示すように、露出させた溶射皮膜12の表面上に現れていない。また、密着力については、52.8MPaである。
【0053】
試験片No.5については、ビーム幅を80mm、周波数を24KHz、掃引速度を40mm/sec、出力を1000Wとし、入熱量を31J/cmとして除去工程を行った。このように照射条件を設定して除去工程を行った結果、その除去工程により露出させた溶射皮膜12の表面粗さとしての算術平均粗さ(Ra)は、5.47μmとなり、金属光沢部は、図5Eに示すように、露出させた溶射皮膜12の表面上に現れていない。また、密着力については、34.2MPaである。
【0054】
試験片No.6については、ビーム幅を80mm、周波数を40KHz、掃引速度を20mm/sec、出力を1000Wとし、入熱量を63J/cmとして除去工程を行った。このように照射条件を設定して除去工程を行った結果、その除去工程により露出させた溶射皮膜12の表面粗さとしての算術平均粗さ(Ra)は、9.49μmとされ、金属光沢部は、図5Fに示すように、露出させた溶射皮膜12の表面上に少し現れている。また、密着力については、19.7MPaである。
【0055】
なお、金属光沢部は、レーザービームLでの入熱過多によりボイラー管10の金属成分が溶射皮膜12に溶け出し、その結果、溶射皮膜12の表面上に丸みを帯びた平滑面からなる凹凸が形成されることで生じる。
【0056】
入熱量が250J/cmである試験片No.1と、入熱量が125J/cmである試験片No.2とでは、密着力が低すぎることはないが、金属光沢部が多く表れている。入熱量が250J/cmである試験片No.3では、金属光沢部は現れていないが、密着力が低すぎる。したがって、入熱量は、試験片No.4~No.6のように63J/cm以下であることが好ましい。
【0057】
試験片No.4~No.6では、入熱量が63J/cm以下であるが、表面粗さが8.5μmである試験片No.4、及び、表面粗さが5.47μmである試験片No.5と比較して、表面粗さが9.49μmである試験片No.6では金属光沢部が少し現れている。したがって、表面粗さは、8.5μm以下であることが好ましい。
【0058】
また、試料片No.4と試料片No.5を比較すると、試料片No.4の密着力が非常に高く、より好ましい。したがって、表面粗さは、5.5μm以上、かつ、8.5μm以下であることがより好ましい。
【0059】
なお、試験片No.1と試験片No.3を比較し、さらに、試験片No.4と試験片No.6を比較すると、入熱量が同じ場合、周波数と金属光沢部の量は比例する傾向があると言える。つまり、周波数についても、低い方が好ましく、たとえば24KHz以下であることが好ましい。
【符号の説明】
【0060】
10 ボイラー管
12 溶射皮膜
14 腐食生成物
16 レーザー照射装置
18 溶射装置
20 溶射材
22 ノズル
24 燃焼フレーム
L レーザービーム
S 光軸
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図5F