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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082848
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】金属容器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B65D 21/032 20060101AFI20240613BHJP
   B65D 1/26 20060101ALI20240613BHJP
   B65D 21/02 20060101ALI20240613BHJP
   B21D 22/28 20060101ALI20240613BHJP
   B21D 51/26 20060101ALI20240613BHJP
   B21D 22/30 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B65D21/032
B65D1/26 110
B65D21/02 410
B21D22/28 A
B21D51/26 K
B21D51/26 L
B21D51/26 M
B21D22/30 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197006
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】弁理士法人エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 健
(72)【発明者】
【氏名】田中 章太
(72)【発明者】
【氏名】篠島 信宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 江利華
(72)【発明者】
【氏名】高木 翔平
【テーマコード(参考)】
3E006
3E033
4E137
【Fターム(参考)】
3E006AA01
3E006BA08
3E006CA05
3E006DA04
3E006DB03
3E006FA02
3E033AA08
3E033BA07
3E033DC03
3E033EA06
3E033FA10
3E033GA02
4E137AA01
4E137AA30
4E137BA01
4E137BA02
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA24
4E137CA26
4E137EA01
4E137GA02
4E137GA16
4E137GB17
(57)【要約】
【課題】印刷処理を施し易い面を十分な大きさで有する側壁部を形成しつつ、積み重ね状態で輸送を行う際のブロッキング現象を回避できる形状の金属容器、及び、そのような金属容器を効果的に形成可能な金属容器の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の金属容器は、開口部と側壁部と底部とを有し、上端内径よりも下端外径が小さい金属容器であって、板状金属材に対する絞り処理により形成されトリミング加工された有底カップの形状を有し、有底カップの開口部よりも底部側に縮径絞りが施されたことでテーパ状の輪郭を有する側壁部が形成されており、側壁部には、周方向に膨出する膨出部が形成されていると共に、膨出部よりも下側に縮径絞りが複数回施されたことによってテーパ面が連続してなる連続テーパ面が形成されている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部と側壁部と底部とを有し、上端内径よりも下端外径が小さい金属容器であって、
板状金属材に対する絞り処理により形成されトリミング加工された有底カップの形状を有し、
前記有底カップの前記開口部よりも前記底部側に縮径絞りが施されたことでテーパ状の輪郭を有する前記側壁部が形成されており、
前記側壁部には、周方向に膨出する膨出部が形成されていると共に、前記膨出部よりも下側に縮径絞りが複数回施されたことによってテーパ面が連続してなる連続テーパ面が形成されていることを特徴とする金属容器。
【請求項2】
開口部と側壁部と底部とを有し、上端内径よりも下端外径が小さい金属容器の製造方法であって、
板状金属材に対する絞り処理により有底カップを形成する工程と、
前記有底カップをトリミング加工する工程と、
前記有底カップの前記開口部よりも前記底部側に縮径絞りを施し、テーパ状の輪郭を有する前記側壁部を形成する工程と、を有し、
前記側壁部を形成する工程では、周方向に膨出する膨出部を形成すると共に、前記膨出部よりも下側に縮径絞りを複数回施すことによってテーパ面が連続してなる連続テーパ面を形成することを特徴とする金属容器の製造方法。
【請求項3】
金属容器における接地部から上端までの垂直高さHを100%とすると、前記連続テーパ面は、前記垂直高さHに対し、少なくとも20~30%の垂直高さH1を有することを特徴とする請求項2に記載の金属容器の製造方法。
【請求項4】
前記開口部にカール又はフランジを有する前記開口部を形成する工程を有することを特徴とする請求項2に記載の金属容器の製造方法。
【請求項5】
金属容器における上端内径と下端外径との比が1.2:1~2:1であることを特徴とする請求項2に記載の金属容器の製造方法。
【請求項6】
前記テーパ面及び前記連続テーパ面は、湾曲面を有するアウターツールを用いた縮径絞りにより形成され、前記連続テーパ面を形成する前記アウターツールの前記湾曲面は、前記テーパ面を形成する前記アウターツールの前記湾曲面よりも曲率半径が大きいことを特徴とする請求項2に記載の金属容器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属容器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムやステンレス等を主な材料とする金属容器は、内容物を収容する収容空間と、収容空間に内容物を出し入れする開口部とを有しており、その形態としては、開口部を蓋体で密封する缶や、開口部を開放させた状態のカップ等が含まれる。
【0003】
従来、このような金属容器として、テーパ状の金属容器(以下、「テーパ容器」ともいう。)が知られている。この金属容器は、上部の開口部と側壁部と底部とを有し、開口部の内径(上端内径)よりも底部の外径(下端外径)が小さくなるように、上部の開口部から底部に向かうに従って側壁部の内径が徐々に小さくなるテーパ状の形状を有している。
【0004】
このようなテーパ容器は、例えば、ストック材料を用意し、抜き及び絞り処理によりカップを形成し、所定の高さ及び壁厚を有するカップにするために、カップに再絞り処理を施し、その後、所定の高さにカップを切り取り、カップの先端部に丸め成形を施した後、カップを絞ることで、複数の垂直壁区間を形成し、その後、複数の垂直壁区間の各々に対してダイを用いて拡径することで、テーパ状の輪郭を有する側壁部を形成する、という製造方法で製造される(下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-142566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、テーパ容器も他の容器と同様に、その側壁部に文字や画像を印刷することへの要求が高まっている。そのため、テーパ容器の側壁部においては、表示用スペースとなる印刷処理を施し易い比較的滑らかな面が十分な大きさで形成されていることが望まれる。
【0007】
一方で、従来の製造方法で製造されたテーパ容器は、一つの容器の底部を他の容器の開口部から内側に挿入して多段に積み重ねた状態で輸送することが行われている。しかしながら、従来のテーパ状の側壁部を有する金属容器を積み重ねた状態で輸送する際には、輸送時の振動や衝撃によって相対的に上側の容器が下側の容器に入り込み、その積み重ね状態から分離する際に容易に引き離しができなくなる現象(所謂、ブロッキング現象)が生じ易いといった問題がある。そのため、テーパ容器においては、輸送後に引き離しを容易に行えるような形状であることも望まれる。
【0008】
上述の従来の製造方法では、テーパ状の輪郭を有する側壁部を形成する際の工程が煩雑であると共に、多様性のある形状に対応し難いといった問題がある。そのため、上述のような要求を満たす形状のテーパ容器を容易に製造することが難しい。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、上述のような問題点を解決することを課題の一例とする。すなわち、本発明の課題の一例は、印刷処理を施し易い面を十分な大きさで有する側壁部を形成しつつ、積み重ね状態で輸送を行う際のブロッキング現象を回避できる形状の金属容器、及び、そのような金属容器を効果的に形成可能な金属容器の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の金属容器は、開口部と側壁部と底部とを有し、上端内径よりも下端外径が小さい金属容器であって、板状金属材に対する絞り処理により形成されトリミング加工された有底カップの形状を有し、前記有底カップの前記開口部よりも前記底部側に縮径絞りが施されたことでテーパ状の輪郭を有する前記側壁部が形成されており、前記側壁部には、周方向に膨出する膨出部が形成されていると共に、前記膨出部よりも下側に縮径絞りが複数回施されたことによってテーパ面が連続してなる連続テーパ面が形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の金属容器の製造方法は、開口部と側壁部と底部とを有し、上端内径よりも下端外径が小さい金属容器の製造方法であって、板状金属材に対する絞り処理により有底カップを形成する工程と、前記有底カップをトリミング加工する工程と、前記有底カップの前記開口部よりも前記底部側に縮径絞りを施し、テーパ状の輪郭を有する前記側壁部を形成する工程と、を有し、前記側壁部を形成する工程では、周方向に膨出する膨出部を形成すると共に、前記膨出部よりも下側に縮径絞りを複数回施すことによってテーパ面が連続してなる連続テーパ面を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、印刷処理を施し易い面を十分な大きさで有する側壁部を形成しつつ、積み重ね状態で輸送を行う際のブロッキング現象を回避できる形状の金属容器、及び、そのような金属容器を効果的に形成可能な金属容器の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態における金属容器の一形態を示す外観図である。
図2】本発明の実施形態における金属容器の製造方法の工程を示す説明図である。
図3】側壁部形成工程の説明図である(工程の処理手順を(a)→(b)→(c)の順に示す)。
図4】側壁部形成工程の説明図である((b1)~(b6)が第1~第6段階を示す)。
図5】金属容器を積み重ね状態にした説明図である。
図6】他の例の金属容器を積み重ね状態にした説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態(本実施形態)について、図面を参照しながら説明する。以下の説明で、異なる図における同一符号は同一機能の部位を示しており、各図における重複説明は適宜省略する。
【0015】
本発明の実施形態は、図1に示す金属容器1を製造するものである。図1に示す金属容器1は、開口部1Aと側壁部1Bと底部1Cを有し、従来使い捨てされている紙コップやプラスチックコップに代替え可能なカップ状の容器である。図1の例では、開口部1Aに、外側に向けて湾曲するカール10を設けて、開口部1Aを開放状態で使用する例を示しているが、これに限定されず、開口部1Aに、蓋体の外周縁部がまき締められる湾曲状のフランジを設けて、缶容器として使用するものであってもよい。なお、本明細書等における「上」と「下」は、開口部1Aを上にして底部1Cを下にした状態を前提にしている。そのため、「上下方向」とは、開口部1Aから底部1Cを接地した接地部に向かう垂直方向である。
【0016】
図1に示す金属容器1は、開口部1Aの内径(上端内径)よりも底部1Cの外径(下端外径)が小さくなるように、全体的にテーパ状の輪郭を有する側壁部1Bを有している。これにより、複数の金属容器1は、上側の金属容器1の底部1Cを下側の金属容器1の開口部1A内に入れた積み重ね状態が可能であり、金属容器1の未使用時には、複数の金属容器1を積み重ね状態にして輸送することが可能な形状になっている。
【0017】
金属容器1において、開口部1Aの内径(上端内径)と、底部1Cの外径(下端外径)との比は、金属容器1の用途に応じて適宜設定してよく、特に限定されないが、例えば1.2:1~2:1とすることができる。例えば、上端内径が80mmのときに下端外径は50mmであってよい。
【0018】
図1に示す金属容器1を製造する工程(製造方法)について、図2のフローチャートを参照しながら説明する。先ず、コイル状に巻かれた板材を切断する等して板状金属材を準備し(S0:板状金属材準備工程)、板状金属材を打ち抜き、絞り及び/又はしごき加工を施すことで、カップ状の中間部材(以下、有底カップ)を形成する(S1:カッピング工程)。
【0019】
次に、形成された有底カップに対して、必要に応じて、再度絞り及び/又はしごき加工や底部の成形加工(S1’工程)を施した後、所定外径、所定高さ、所定板厚の有底カップに対して、先端部をトリミング加工する(S2:トリミング加工工程)。トリミング加工は、再絞り及び/又はしごき加工などによって不揃いになった有底カップの先端高さを中心軸周りに均等にカットするものであり、トリミング加工後の有底カップの先端高さは一定になる。
【0020】
次に、トリミング加工された有底カップの先端部に、先端縮径絞りを施す(S3:先端縮径絞り工程)。先端部に対する縮径絞り処理は、所謂ネッキング加工であり、有底カップの先端開口を縮径して、先端に向けて漸次縮径するネッキング部nを形成すると共に、その後のカール又はフランジ加工の加工予定部を形成する。
【0021】
先端縮径絞り工程S3の後に、有底カップの先端部(前述したカール又はフランジ成形の予定部)に、カール又はフランジを有する開口部を形成する(S4:開口部形成工程)。このように先端部にカール又はフランジを形成することで、先端開口の剛性を高めることができ、次工程での側壁部1Bの形成における真円度悪化を抑制することができる。
【0022】
開口部形成工程S4後の側壁部1Bの形成(S5:側壁部形成工程)では、先端縮径絞りを施した箇所よりも底部1C側に漸次縮径絞りを施し、全体的にテーパ状の輪郭を有する側壁部1Bを形成する。つまり、先端縮径絞りがなされたネッキング部nの底部1C側にテーパ面t(傾斜壁部)と垂直面s(垂直壁部)とが交互に形成されることで、全体的にテーパ状の輪郭を有する側壁部1Bが形成される。
【0023】
側壁部1Bにおける上下方向の中央付近には、テーパ面tが連続してなる連続テーパ面tmが形成される。この連続テーパ面tmは、側壁部1Bにおいて最長のテーパ面(最長傾斜壁部)である。図1に示すように、金属容器1における接地部Dから上端Eまでの垂直高さHを100%とすると、連続テーパ面tmは、垂直高さHに対し、少なくとも20~30%の垂直高さH1を有する。金属容器1は、このような垂直高さH1を有する連続テーパ面tmが周方向の全体に亘って形成されている。このような連続テーパ面tmは、表示用スペースとなるのに十分な大きさを有すると共に、印刷処理を施し易い比較的滑らかな面となっている。
【0024】
ここで、側壁部形成工程S5の一例を詳細に説明する。先ず、図3(a)に示すように、先端縮径絞りの後、カール10(又は図6のフランジ20)を有する開口部1Aを形成した有底カップCpに対して、内部にインナーツール100を配置し、有底カップCpの底部1C側にアウターツール200を配置し、有底カップCpの底部1Cに対して押さえツール300を当接させる。
【0025】
インナーツール100は、有底カップCpの内径より小径の円柱状ツールである。アウターツール200は、インナーツール100の外周面との間で有底カップCpの側壁を挟んで絞り成形を行う絞り成形面201を内面に有すると共に、有底カップCpの側壁を傾斜状に成形する傾斜成形面202を内面に有する。アウターツール200の傾斜成形面202は、インナーツール100の中心軸100Pに対して外広がりに傾斜した湾曲面(r面)を有する。
【0026】
側壁部形成工程S5における第1段階では、図3(a)に示す状態から、図3(b)に示すように、固定したインナーツール100に対して、アウターツール200を底部1Cから開口部1Aに向けて図示矢印方向に移動させることで、有底カップCpの側壁に縮径絞り処理を施し、更に、先端縮径絞りがなされたネッキング部nの底部1C側にアウターツール200の傾斜成形面202を当接してテーパ面tを形成する。その後、図3(c)に示すように、アウターツール200を底部1C側に戻すと、有底カップCpの先端側には、カール10の底部1C側に、ネッキング部nとテーパ面tによる膨出部11が形成される。なお、膨出部11の形成方法としては、例えば、ツール(図示せず)を有底カップCpの内面に接触させて周方向に押し広げる方法や、縮径絞りにより有底カップCpの側壁に段差部を形成する方法等により、膨出部11を形成することができる。
【0027】
側壁部形成工程S5における次の段階を図4にて説明する。前述した説明におけるツール半径Tr1のインナーツール100を用いた第1段階の縮径絞り処理に対し、ツール半径Tr2(Tr1>Tr2)のインナーツール100を用いて有底カップCpの側壁に対し、第2段階の縮径絞り処理を行う。この際のアウターツール200の絞り成形面201と傾斜成形面202の内径は、インナーツール100のツール径に応じて設定される。
【0028】
第1段階の縮径絞り処理(図4(b1)参照)では、アウターツール200の移動ストロークSt1が、膨出部11のテーパ面tを形成するために必要なストローク長である。これに対し、第2段階の縮径絞り処理(図4(b2)参照)では、アウターツール200の移動ストロークSt2を第1段階の移動ストロークSt1よりも短くして、膨出部11におけるテーパ面tの底部1C側に垂直面sとそれに続くテーパ面tとを形成する。
【0029】
続く第3段階の縮径絞り処理(図4(b3)参照)では、前述した説明におけるツール半径Tr2のインナーツール100を用いた第2段階の縮径絞り処理に対し、ツール半径Tr3(Tr2>Tr3)のインナーツール100を用いる。また、第3段階の縮径絞り処理では、アウターツール200の移動ストロークSt3を第2段階の移動ストロークSt2よりも短くして、第2段階の縮径絞り処理で形成されたテーパ面tの底部1C側に垂直面sとそれに続くテーパ面tとを形成する。
【0030】
これら第1~第3段階の縮径絞り処理では、傾斜成形面202を構成する湾曲面(r面)の曲率半径rがr1のアウターツール200を用いており、このアウターツール200における曲率半径r1の傾斜成形面202を有底カップCpの側壁に当接してこの側壁を傾斜状に成形することによって、テーパ面tを形成する。
【0031】
これに対し、続く第4~第6段階の縮径絞り処理(図4(b4)~(b6)参照)では、傾斜成形面202を構成する湾曲面の曲率半径rが、曲率半径r1よりも大きい曲率半径r2であるアウターツール200を用いて有底カップCpの側壁に対して縮径絞り処理を施す。
【0032】
第4段階の縮径絞り処理(図4(b4)参照)では、ツール半径Tr3のインナーツール100を用いた第3段階の縮径絞り処理に対し、ツール半径Tr4(Tr3>Tr4)のインナーツール100を用いて有底カップCpの側壁に対して縮径絞りを施す。この第4段階の縮径絞り処理では、アウターツール200の移動ストロークSt4を第3段階の移動ストロークSt3よりも短くして、第3段階の縮径絞り処理で形成されたテーパ面tの底部1C側に、垂直面sとそれに続けて連続テーパ面tmにおける第1部分のテーパ面tm1とを形成する。このテーパ面tm1は、アウターツール200における曲率半径r2の傾斜成形面202を有底カップCpの側壁に当接してこの側壁を傾斜状に成形することによって形成される。
【0033】
第5段階の縮径絞り処理(図4(b5)参照)では、ツール半径Tr4のインナーツール100を用いた第4段階の縮径絞り処理に対し、ツール半径Tr5(Tr4>Tr5)のインナーツール100を用いて有底カップCpの側壁に対して縮径絞りを施す。この第5段階の縮径絞り処理では、アウターツール200の移動ストロークSt5を第4段階の移動ストロークSt4よりも短くしつつ、この移動ストロークSt4に近づけることで、第4段階の縮径絞り処理で形成された連続テーパ面tmの第1部分のテーパ面tm1の底部1C側に、連続テーパ面tmの第2部分のテーパ面tm2を形成する。移動ストロークSt5を移動ストロークSt4に近づけたことで、テーパ面tm1とテーパ面tm2とは、垂直面sを挟まない連続したテーパ面となっている。このテーパ面tm2も、アウターツール200における曲率半径r2の傾斜成形面202を有底カップCpの側壁に当接してこの側壁を傾斜状に成形することによって形成される。
【0034】
第6段階の縮径絞り処理(図4(b6)参照)では、ツール半径Tr5のインナーツール100を用いた第5段階の縮径絞り処理に対し、ツール半径Tr6(Tr5>Tr6)のインナーツール100を用いて有底カップCpの側壁に対して縮径絞りを施す。この第6段階の縮径絞り処理では、アウターツール200の移動ストロークSt6を第5段階の移動ストロークSt5よりも短くしつつ、この移動ストロークSt5に近づけることで、第5段階の縮径絞り処理で形成された連続テーパ面tmの第2部分のテーパ面tm2の底部1C側に、連続テーパ面tmの第3部分のテーパ面tm3を形成する。移動ストロークSt6を移動ストロークSt5に近づけたことで、テーパ面tm2とテーパ面tm3とは、垂直面sを挟まない連続したテーパ面となっている。このテーパ面tm3も、アウターツール200における曲率半径r2の傾斜成形面202を有底カップCpの側壁に当接してこの側壁を傾斜状に成形することによって形成される。
【0035】
このように、第4~第6段階の縮径絞り処理では、アウターツール200における曲率半径r2の傾斜成形面202を有底カップCpの側壁に当接してこの側壁を傾斜状に成形するといった処理を続けて3回行うことによって、垂直面sを挟まずにテーパ面tm1~tm3が連続してなる連続テーパ面tmを形成する。
【0036】
前述したように、第4~第6段階の縮径絞り処理(図4(b4)~(b6)参照)では、傾斜成形面202(湾曲面)の曲率半径rが、曲率半径r1よりも大きい曲率半径r2であるアウターツール200を用いる。そのため、曲率半径r2の傾斜成形面202によって形成されたテーパ面tm1~tm3は、何れも、開口部1Aから底部1Cに向かう傾斜方向の長さが、曲率半径r1の傾斜成形面202(湾曲面)によって形成されたテーパ面tよりも長くなっている。このようなテーパ面tm1~tm3が連続してなる連続テーパ面tmは、開口部1Aから底部1Cに向かう傾斜方向の長さが最長のテーパ面(最長傾斜壁部)となっている。
【0037】
このように、本実施形態における縮径絞り処理では、連続テーパ面tmを形成する際に、比較的大きい曲率半径r2の傾斜成形面202(湾曲面)を有するアウターツール200を用いることで、十分な大きさの連続テーパ面tmを、第4~第6段階の3回といった少ない縮径絞りの工程数で形成することができる。そして、このような連続テーパ面tmは、表示用スペースとなるのに十分な大きさを有すると共に、印刷処理を施し易い比較的滑らかな面となっている。
【0038】
仮に、連続テーパ面tmは、テーパ面tの形成時と同様に曲率半径r1の傾斜成形面202(湾曲面)を有するアウターツール200を用いて形成することも可能である。しかしながら、この場合、十分な大きさの連続テーパ面tmを形成するのに必要な縮径絞りの工程数が非常に多くなり、製造コストも増大する。
【0039】
曲率半径r1は、曲率半径r2よりも小さい値であれば特に限定されないが、例えば5~20mmとすることができる。曲率半径r2は、20~100mmであることが好ましく、例えばr2=60mm(これをr2=60rとも記す)とすることができる。曲率半径r1が所定範囲の値よりも小さいと所定のテーパ角を形成し難く、逆に、曲率半径r1が所定範囲の値よりも大きいと側壁にシワが発生し易くなる。
【0040】
ここで、アウターツール200のピッチPtについて説明する。図4(b1)に示す膨出部11のテーパ面tを成形する際の傾斜成形面202(湾曲面)における移動方向(中心軸100Pに平行な方向)の中心点をp11とする。また、図4(b2)に示す膨出部11に繋がる垂直面sの底部1C側にテーパ面tを成形する際の傾斜成形面202(湾曲面)における移動方向(中心軸100Pに平行な方向)の中心点をp12とする。そして、この中心点p11と中心点p12とからそれぞれインナーツール100の中心軸100Pに対して垂線を延ばしたとき、この2つの垂線間の距離をピッチpt1とする。
【0041】
また、図4(b4)に示す膨出部11の連続テーパ面tmの第1部分のテーパ面tm1を成形する際の傾斜成形面202(湾曲面)における移動方向(中心軸100Pに平行な方向)の中心点をp21とする。また、図4(b5)に示す連続テーパ面のtmの第2部分のテーパ面tm2を形成する際の傾斜成形面202(湾曲面)における移動方向(中心軸100Pに平行な方向)の中心点をp22とする。そして、この中心点p21と中心点p22とからそれぞれインナーツール100の中心軸100Pに対して垂線を延ばしたとき、この2つの垂線間の距離をピッチpt2とする。
【0042】
この場合、ピッチpt1とピッチpt2との大小関係は、pt2<pt1であってよい。ピッチpt1は、特に限定されないが、例えば5~15mmとすることができる。ピッチpt2は、3~10mmであることが好ましい。例えば、pt1=10mmとし、pt2=8mmとすることができる。ピッチpt1、pt2が小さいと、所望の形状を賦形し易くなるが、成形工数が多くなり成形装置が大がかりになる。一方で、ピッチpt1、pt2が大きいと、成形工数が少なくなり成形装置をコンパクトにできるが、賦形可能な形状を制限することになる。
【0043】
第6段階の縮径絞り処理に続く第7段階以降の縮径絞り処理(図示せず)では、再び曲率半径r1の傾斜成形面202(湾曲面)を有するアウターツール200を用いて有底カップCpの側壁に対して縮径絞りを施す。この第7段階以降の縮径絞り処理(図示せず)では、インナーツール100のツール半径を前段階のツール半径よりも小さくすると共に、アウターツール200の移動ストロークを前段階の移動ストロークよりも短くして、第2、第3段階の縮径絞り処理と同様の処理を繰り返す。これにより、第6段階の縮径絞り処理で形成された連続テーパ面tmにおける第3部分のテーパ面tm3の底部1C側に垂直面sとテーパ面tとが交互に形成される。
【0044】
このような縮径絞り処理により、図1に示すような側壁部1Bが形成される。この側壁部1Bは、膨出部11の下にテーパ面tと垂直面sとが繰り返し交互に形成されると共に、上下方向の中央付近に連続テーパ面tmが形成されて、全体的にテーパ状の輪郭を有したものとなっている。
【0045】
第2段階以降の縮径絞り処理工程において、カール10の内面は、インナーツール100の外面に接触するように配置する(図4(b2)参照)。これは、カール10(口部)が楕円になることを抑制するためであり、これによっても金属容器1における積み重ね時のブロッキング発生を抑制することができる。
【0046】
図1に示した金属容器1は、カール10を有する開口部1Aの下側に膨出部11を設けることで、積み重ね状態では、図5に示すように、上側の金属容器1(top)の側壁部1Bの外面における外面接触箇所F1に対して、下側の金属容器1(bottom)の開口部1Aの内面における内面接触箇所F2が接触して積み重ねられ、一つの金属容器1においては、外面接触箇所F1と内面接触箇所F2の間に前述した膨出部11が形成されている。
【0047】
膨出部11は、図5に示すように、一つの金属容器1において、外面接触箇所F1と内面接触箇所F2を結ぶ垂線Lpと膨出部11の外面との最大幅を掛かり幅fとする。また、外面接触箇所F1に向かうテーパ面tの垂線Lpに対する角度を傾斜角度αとする。
【0048】
前述したブロッキング現象を回避するためには、掛かり幅fは、0.3mm以上にすることが好ましく、更には0.8mm以上にすることが好ましい。掛かり幅fがこれより小さいと、膨出部11に対して開口部1Aが食い込みやすくなり、積み重ね状態での輸送時に振動や衝撃を受けると食い込みが大きくなって前述したブロッキング現象が生じ易くなる。
【0049】
掛かり幅fの上限を決める要素として、掛かり幅fを含む膨出部11の外径R11がある。膨出部11の外径R11は、カール10(開口部1A)の外径R10より小さくすることが好ましい。膨出部11の外径R11がカール10の外径R10より大きくなると、金属容器1を横に並べて収納する際に、カール10から膨出部11が横に突出する状態になることで、その突出分だけ収納スペースを大きくとることになり、収納効率が低下する。
【0050】
また、ブロッキング現象を回避するには、傾斜角度αを10°~50°の範囲にすることが好ましい。傾斜角度αが小さくなると、前述した掛かり幅fを小さくした場合と同じ状況になり、また、積み重ね状態から引き離す際の摩擦抵抗が大きくなるので、ブロッキング現象が生じ易くなる。なお、掛かり幅fと傾斜角度αは、互いに関係のある調整因子であり、両者の条件を組み合わせることでブロッキング現象に対する回避策がより効果的になる。
【0051】
また、金属容器1の積み重ね状態では、図5に示すように、上側の金属容器1(top)における開口部1Aの上端と下側の金属容器1(bottom)における開口部1Aの上端との距離が積み重ね高さhsになる。この積み重ね高さhsは、積み重ね状態での高さ方向の収納スペースに影響する。積み重ね高さhsをより小さくすることで、金属容器1を積み重ねた状態での高さ方向の収納効率が高くなる。
【0052】
図1に示す金属容器1の側壁部1Bは、前述したように、膨出部11を含めて垂直面sとテーパ面tが交互に形成されており、これによって、側壁部1Bの全体がテーパ状の輪郭になっている。そして、側壁部1Bの上下方向の中央付近には、テーパ面tの長さが最も長い連続テーパ面tm(最長傾斜壁部)が形成されている。
【0053】
このように側壁部1Bに垂直面sとテーパ面tを交互に形成することで、金属容器1を飲料用のカップとして使用する場合に、垂直面sとテーパ面tによって形成される段差が人手で把持する際の滑り止めとして機能する。また、側壁部1B中央付近の連続テーパ面tmは、そこに画像等の表示を印刷する印刷工程を含めることで、効果的に表示スペースとして利用することができる。
【0054】
金属容器1を構成する基材の材料は、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、スチールなどを用いることができるが、アルミニウム又はアルミニウム合金又はスチールを採用することで、軽量で、光沢による外観性を有し、内容物(例えば、冷水)の温度を手で感じ易くなる、飲料用容器に適した金属容器1を得ることができる。また、金属容器1の材料としては、板状金属材がアルミニウム又はアルミニウム合金又はスチールの基材両面にPETフィルムなどの樹脂フィルムを単層又は多層コーティングしたものを用いることができる。
【0055】
このような樹脂コーティングされた基材を用いた場合、図2に示した、カール又はフランジを形成する開口部形成工程S4の前工程として、カール又はフランジの加工予定箇所に局所加熱を施す工程を設けることが好ましい。局所加熱は、例えば、高周波加熱を用いて、200℃±30℃の目安温度でネッキング部nより先端側の加工予定箇所を局所的に加熱する。このような局所加熱を行うことで、基材とコーティングされた樹脂の密着力を高め、カールやフランジの加工時に樹脂フィルムが基材から剥離するのを抑止することができ、良好な仕上がりを得ることができる。
【0056】
なお、金属容器1における開口部1Aに、図6に示すようなフランジ20を形成する場合、フランジ20は、蓋体の外縁部を巻き締めるための部位になる。蓋体を巻き締めることで、金属容器1は、内容物を密封する缶体になる。ここで巻き締められる蓋体は、金属製の蓋体であり、例えば、プルタブ式又はステイオンタブ式のパーシャルオープンエンド(POE)の缶蓋、フルオープンエンド(FOE)の缶蓋等を挙げることができるが、他の形態の蓋体であってもよい。また、フランジ20に替えて、他の形態の開口部1Aとし、それに対して、ネジ蓋等の他の形態の蓋体を取り付け取り外し自在に装着するようにしてもよい。
【0057】
また、前述したように、板状金属材として、樹脂コーティングされた基材を用いた場合には、側壁部形成工程S5において、潤滑剤(クーラント)が不要になる。これにより、一連の工程の間又は後に、洗浄工程を設けない製造方法を実現することができる。これによって、洗浄・乾燥工程を省いた生産性の高い製造を行うことができると共に、潤滑剤の廃棄等を無くすことで環境面でも有利な製造を行うことができる。
【0058】
また、アウターツール200の傾斜成形面202は、前述のような湾曲面である場合に限定されず、他の形状であってもよく、例えば、インナーツール100の中心軸100Pに対して外広がりに傾斜した円錐面(図示せず)であってもよい。傾斜成形面202がこのような円錐面である場合、連続テーパ面tmを形成するための第4~第6縮径絞り処理で用いるアウターツール200は、テーパ面tを形成するための第1~第3縮径絞り処理で用いるアウターツール200よりも、傾斜成形面202(円錐面)の傾斜方向の長さが、より長いことが好ましい。これにより、前述のように、十分な大きさの連続テーパ面tmを少ない縮径絞り処理の工程数で形成することができる。
【0059】
以上のとおり、本実施形態に係る金属容器1の製造方法では、底部1C側からの縮径絞りで側壁部1Bを形成することで、多様性のある形状に対応することが可能である。この金属容器1の製造方法は、側壁部1Bの形成において、周方向に膨出する膨出部11を形成すると共に、膨出部11よりも下側に縮径絞りを複数回施すことによってテーパ面tが連続してなる連続テーパ面tmを形成する。このように、金属容器1の製造方法によれば、印刷処理を施し易い面を十分な大きさで有する側壁部1Bを形成しつつ、積み重ね状態で輸送を行う際のブロッキング現象を回避できる形状の容器を効果的に形成可能な金属容器1を製造することができる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施の形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。また、前述した例は、その目的及び構成等に特に矛盾や問題がない限り、互いの技術を流用して組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0061】
1:金属容器、1A:開口部、1B:側壁部、1C:底部、10:カール、11:膨出部、20:フランジ、100:インナーツール、100P:中心軸、200:アウターツール、201:絞り成形面、202:傾斜成形面、300:押さえツール、t:テーパ面、tm:連続テーパ面、s:垂直面、n:ネッキング部、S0:板状金属材準備工程、S1:カッピング工程、S2:トリミング加工工程、S3:先端縮径絞り工程、S4:開口部形成工程、S5:側壁部形成工程、St1~St6:移動ストローク、Tr1~Tr6:ツール半径、Cp:有底カップ、F1:外面接触箇所、F2:内面接触箇所、r,r1,r2:曲率半径、R10:開口部1Aの外径、R11:膨出部11の外径
図1
図2
図3
図4
図5
図6