(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082860
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】車両用シート装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/10 20060101AFI20240613BHJP
B60N 2/02 20060101ALI20240613BHJP
B60N 2/06 20060101ALI20240613BHJP
B60N 2/16 20060101ALI20240613BHJP
B60N 2/22 20060101ALI20240613BHJP
B60N 3/06 20060101ALI20240613BHJP
A47C 7/50 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B60N2/10
B60N2/02
B60N2/06
B60N2/16
B60N2/22
B60N3/06
A47C7/50 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197025
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000220066
【氏名又は名称】テイ・エス テック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【弁理士】
【氏名又は名称】田下 明人
(74)【代理人】
【識別番号】100143454
【弁理士】
【氏名又は名称】立石 克彦
(72)【発明者】
【氏名】石原 慶隆
(72)【発明者】
【氏名】浅野 良啓
(72)【発明者】
【氏名】後藤 慎士郎
(72)【発明者】
【氏名】宗 迪
(72)【発明者】
【氏名】滝川 宜秀
【テーマコード(参考)】
3B087
3B088
【Fターム(参考)】
3B087AA02
3B087BA02
3B087BA12
3B087BA16
3B087BB02
3B087BB17
3B087BB25
3B087BD03
3B088JA02
(57)【要約】
【課題】シート姿勢変更操作を行う乗員に対して、シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作が制限されるシート姿勢変更制限状態であって故障等が生じていない状態であることを容易に認識させ得る構成を提供する。
【解決手段】
リンク機構30は、シートクッション11の床面Bからの高さを調整可能な高さ調整機構として機能するとともに、床面Bに対するシートクッション11の傾倒角度となる第1傾倒角度β1を調整可能な第1傾倒角度調整機構として機能する。操作部2に対して第1傾倒角度β1を変化させるための操作がなされた場合には、運転中であることからシート姿勢変更制限状態と判定されることで、リンク機構30を動作させる動作速度が所定の制限速度となり、第1傾倒角度β1が比較的ゆっくり変化する。
【選択図】
図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の床面に対して前後方向にスライド可能に設置されるシートクッションと、
前記シートクッションの後方側に対して傾倒可能に組み付けられるシートバックと、
前記床面に対する前記シートクッションの傾倒角度となる第1傾倒角度を調整可能な第1傾倒角度調整機構と、
前記シートクッションに対する前記シートバックの傾倒角度となる第2傾倒角度を調整可能な第2傾倒角度調整機構と、
前記シートクッション及び前記シートバックによるシート姿勢を変更する際に操作される操作部と、
前記操作部に対する操作に応じて、前記第1傾倒角度調整機構及び前記第2傾倒角度調整機構を制御する制御部と、
を備える車両用シート装置であって、
前記シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作を制限するシート姿勢変更制限状態であるか否かについて判定する判定部を備え、
前記制御部は、前記操作部により前記シート姿勢を前記所定の姿勢に変更するための操作がなされた場合に、前記判定部により前記シート姿勢変更制限状態であると判定されると、前記第1傾倒角度調整機構を動作させる動作速度を、前記判定部により前記シート姿勢変更制限状態であると判定されない場合よりも遅い所定の制限速度となるように制御することを特徴とする車両用シート装置。
【請求項2】
前記判定部は、当該車両用シート装置が搭載される車両の車速が所定の閾値以上となる場合に、前記シート姿勢変更制限状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項3】
前記シートクッションの前方側に対して傾倒可能に組み付けられるオットマンと、
前記シートクッションに対する前記オットマンの傾倒角度となる第3傾倒角度を調整可能な第3傾倒角度調整機構と、を備え、
前記制御部は、前記第1傾倒角度調整機構及び前記第2傾倒角度調整機構に加えて、前記第3傾倒角度調整機構を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項4】
前記床面に対して前記シートクッションを前記前後方向にスライド可能に支持するシートスライド機構を備え、
前記制御部は、前記操作部により前記シート姿勢を前記所定の姿勢に変更するための操作がなされた場合に、前記シートスライド機構により前記シートクッションが所定のスライド位置よりも前側に位置していると、前記第1傾倒角度調整機構を動作させる動作速度を、前記判定部による判定結果に関わらず、前記所定の制限速度となるように制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用シート装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記車両が所定の自動運転モードであることを示す所定の自動運転信号を受け付けると、前記車速にかかわらず前記シート姿勢変更制限状態であると判定しないことを特徴とする請求項1に記載の車両用シート装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートの姿勢を調整可能な車両用シート装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用シートの姿勢を調整可能な車両用シート装置として、例えば、下記特許文献1に開示される車両用シートリフタ及び車両用クラッチユニットが知られている。車両用シートリフタは、車両用クラッチユニットのピニオンギヤに噛合するセクターギヤとリンク機構とを備え、ピニオンギヤの回転に応じてセクターギヤが回転することでリンク機構の各リンク部材が傾動するように構成されており、各リンク部材の傾動に応じて車両用シートの高さが調整される。車両用クラッチユニットは、ピニオンギヤが形成される出力軸部材に加えて、操作レバーや入力側クラッチ及び出力側クラッチなどの各種の機構部材を備えるように構成されている。入力側クラッチは、操作レバーの回転に伴って入力側内輪部材、入力側外輪部材及び入力側伝達部材が回転することにより、操作レバーの回転を出力側クラッチに伝達し、操作レバーを中立位置から駆動する駆動動作時には、操作レバーの回転を出力側クラッチに入力し、かつ、操作レバーを駆動した後に中立位置へ復帰する復帰動作時には、出力軸部材の回転位置を保持したまま操作レバーを中立位置に復帰させるように構成されている。出力側クラッチは、車両用シート側から出力軸部材に入力された力による出力軸部材の回転を規制しつつ、入力側クラッチにより操作レバーの回転が伝達されると出力軸部材の回転を許容するように構成されている。
【0003】
このように構成されることで、車両用シートの高さを高く(低く)する方向に操作レバーを回転させると、その回転方向に回転するピニオンギヤの回転に応じてセクターギヤが回転してリンク機構の各リンク部材が車両用シートの高さを高く(低く)するように傾動する。このような高さ調整後に、操作レバーに入力していた力を開放すると、操作レバーが中立位置に戻り、この状態では、車両用クラッチユニットによって出力軸部材の回転が規制されるため、車両用シートに上下方向の力が加わっても車両用シートの上下方向への移動が阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば、サービスエリア内での休憩中や電気自動車の充電中などに長時間乗車する場合、乗員は、着座している車両用シートの姿勢をリラックス可能な姿勢(以下、リラックスシート姿勢ともいう)状態に変更する場合がある。このため、運転用のシート姿勢の状態とリラックスシート姿勢の状態とを切り替え制御可能に記憶しておくことで、乗員による操作に応じてシート姿勢を容易に変更することができる。
【0006】
リラックスシート姿勢への変更操作は、停車中に限らず、自動運転中でもなされる場合があり、その運転状況等によっては自動運転中であっても、乗員による変更操作に応じたシート姿勢変更が許可される場合もある。その一方で、停車中であっても、乗員による変更操作に応じたシート姿勢変更が許可されない場合もある。
【0007】
しかしながら、シート姿勢変更が許可されていない状態を認識していない乗員がシート姿勢変更操作を行った場合、その操作に応じたシート姿勢が変更されないために、その乗員は、シート姿勢制御に関して故障等が生じていると誤認してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、シート姿勢変更操作を行う乗員に対して、シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作が制限されるシート姿勢変更制限状態であって故障等が生じていない状態であることを容易に認識させ得る構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載の請求項1の発明は、
車両の床面(B)に対して前後方向にスライド可能に設置されるシートクッション(11)と、
前記シートクッションの後方側に対して傾倒可能に組み付けられるシートバック(12)と、
前記床面に対する前記シートクッションの傾倒角度となる第1傾倒角度(β1)を調整可能な第1傾倒角度調整機構(30)と、
前記シートクッションに対する前記シートバックの傾倒角度となる第2傾倒角度(β2)を調整可能な第2傾倒角度調整機構(14)と、
前記シートクッション及び前記シートバックによるシート姿勢を変更する際に操作される操作部(2)と、
前記操作部に対する操作に応じて、前記第1傾倒角度調整機構及び前記第2傾倒角度調整機構を制御する制御部(3)と、
を備える車両用シート装置(1)であって、
前記シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作を制限するシート姿勢変更制限状態であるか否かについて判定する判定部(3)を備え、
前記制御部は、前記操作部により前記シート姿勢を前記所定の姿勢に変更するための操作がなされた場合に、前記判定部により前記シート姿勢変更制限状態であると判定されると、前記第1傾倒角度調整機構を動作させる動作速度を、前記判定部により前記シート姿勢変更制限状態であると判定されない場合よりも遅い所定の制限速度となるように制御することを特徴とする。
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明では、シートクッション及びシートバックによるシート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作を制限するシート姿勢変更制限状態であるか否かについて判定部により判定される。そして、操作部によりシート姿勢を所定の姿勢に変更するための操作がなされた場合に、判定部によりシート姿勢変更制限状態であると判定されると、床面に対するシートクッションの傾倒角度となる第1傾倒角度を調整可能な第1傾倒角度調整機構を動作させる動作速度が、判定部によりシート姿勢変更制限状態であると判定されない場合よりも遅い所定の制限速度となるように制御部により制御される。
【0011】
例えば、シートクッションの前方側が高くなるように第1傾倒角度が変化することで、運転者(乗員)の足がブレーキペダルやアクセルペダルから離れるようにシート姿勢が変化するために、運転に支障を生じさせる可能性がある。その一方で、第2傾倒角度が多少変化しても運転者の足とブレーキペダル等との距離は変化しないために運転に支障を生じさせることもない。
【0012】
このため、シート姿勢を所定の姿勢に変更するためのシート姿勢変更操作がなされた場合には、運転中等であることからシート姿勢変更制限状態と判定されると、第1傾倒角度調整機構を動作させる動作速度が上記所定の制限速度となることで、第1傾倒角度が比較的ゆっくり変化する。これにより、運転者がシート姿勢変更操作に応じてシート姿勢が変化していることを認識できるだけでなく、シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作が制限されるシート姿勢変更制限状態であることも認識でき、さらに、操作してもシート姿勢が変化しないために故障等が生じていると誤認することもない。そして、第1傾倒角度が比較的ゆっくり変化するため、運転中に誤って操作したとしても運転者が直ちにその誤操作に気づくこともできる。したがって、シート姿勢変更操作を行う運転者等の乗員に対して、シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作が制限されるシート姿勢変更制限状態であって故障等が生じていない状態であることを容易に認識させることができる。
【0013】
請求項2の発明のように、判定部は、当該車両用シート装置が搭載される車両の車速が所定の閾値以上となる場合に、シート姿勢変更制限状態であると判定してもよい。
【0014】
請求項3の発明では、シートクッションの前方側に設けられる前方側軸を基準にシートクッションに対して傾倒可能に組み付けられるオットマンと、シートクッションに対するオットマンの傾倒角度となる第3傾倒角度を調整可能な第3傾倒角度調整機構と、が設けられる。そして、制御部は、第1傾倒角度調整機構及び第2傾倒角度調整機構に加えて、第3傾倒角度調整機構を制御する。
【0015】
このように、シートクッション及びシートバックとオットマンとによるシート姿勢を変更するための姿勢変更操作を運転者等が行う場合であっても、シート姿勢変更制限状態と判定される場合には、その運転者等に対して、シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作が制限されるシート姿勢変更制限状態であって故障等が生じていない状態であることを容易に認識させることができる。
【0016】
請求項4の発明では、操作部によりシート姿勢を上記所定の姿勢に変更するための操作がなされた場合に、シートスライド機構によりシートクッションが所定のスライド位置よりも前側に位置していると、第1傾倒角度調整機構を動作させる動作速度が、判定部による判定結果に関わらず、上記所定の制限速度となるように制御部により制御される。
【0017】
例えば、シートクッションが最も前側の位置までスライドしているためにシートクッションがハンドルに近づいていると、シートクッションの前方側が高くなるように第1傾倒角度が変化する場合、シート姿勢変更制限状態と判定されない停車中等であっても、運転者(乗員)の足がハンドルに接触してしまう可能性がある。
【0018】
このため、上記シート姿勢変更操作がなされた場合に、シートクッションが所定のスライド位置よりも前側に位置していると、第1傾倒角度調整機構を動作させる動作速度が、判定部による判定結果に関わらず、上記所定の制限速度となることで、第1傾倒角度が比較的ゆっくり変化する。これにより、シートクッションの前方側を高くするシート姿勢変更操作を行った運転者は、シートクッションが所定のスライド位置よりも前側に位置しているためにハンドルとの隙間が小さくなるようにシートクッションが傾倒する場合でも、足がハンドルに接触する前に、ハンドルとの隙間が小さくなっているシート姿勢変更状態を容易に認識することができる。
【0019】
請求項5の発明では、判定部は、車両が所定の自動運転モードであることを示す所定の自動運転信号を受け付けると、車速にかかわらずシート姿勢変更制限状態であると判定しない。これにより、乗員が運転操作を行わない高いレベルの自動運転モード(例えば、自動運転レベル3以上)では、第1傾倒角度調整機構を動作させる動作速度が不要に上記所定の制限速度となってしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第1実施形態に係る車両用シート装置を示す斜視図である。
【
図4】車両用シート装置の主な電気的構成を概略的に示すブロック図である。
【
図5】第1傾倒角度、第2傾倒角度及び第3傾倒角度を説明するための説明図である。
【
図6】
図1のオットマンの近傍を拡大して示す拡大斜視図である。
【
図7】オットマンの格納状態を説明する説明図である。
【
図8】オットマンの展開状態を説明する説明図である。
【
図9】第1傾倒角度を大きくした状態でのリンク機構の近傍を拡大して示す拡大側面図である。
【
図10】第1実施形態に係るラウンドユニットの正面図である。
【
図11】
図10に示すX1-X1線相当の切断面による断面図である。
【
図12】
図5の状態から第1傾倒角度を大きくするようにリンク機構が動作した状態を説明する説明図である。
【
図13】
図5の状態から第2傾倒角度を大きくするようにリクライニング機構が動作した状態を説明する説明図である。
【
図14】
図5の状態から第3傾倒角度を大きくするようにオットマン機構が動作した状態を説明する説明図である。
【
図15】リラックスシート姿勢状態を説明する説明図である。
【
図16】シート姿勢変更可能状態とシート姿勢変更制限状態とでの各傾倒角度を変更する際の動作速度を比較するための説明図である。
【
図17】第1実施形態の第1変形例に係る車両用シート装置の要部を概略的に示す説明図である。
【
図18】第1実施形態の第2変形例に係る車両用シート装置の要部を概略的に示す説明図である。
【
図19】第2実施形態に係る車両用シート装置の要部を示す側面である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1実施形態]
以下、本発明に係る車両用シート装置を具現化した第1実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る車両用シート装置1は、車両用シート10を、車両の床面Bに対して前後方向に相対移動(スライド)可能であって、床面Bに対する高さなどの車両用シート10の姿勢(シート姿勢)を乗員の操作に応じて自動で変更可能な電動式のパワーシート装置である。この車両用シート装置1は、
図1~
図4に示すように、主に、車両用シート10と、車両用シート10を床面Bに対してスライド可能に支持するシートスライド機構20と、シートスライド機構20に対して床面Bからの高さを調整可能に車両用シート10を支持するリンク機構(ハイト機構)30と、車両用シート10のシート姿勢等を変更する際に操作される操作部2と、操作部2に対する操作に応じた制御を行う制御部3と、を備えている。
【0022】
車両用シート10は、床面Bに対してスライド可能に設置されるシートクッション11と、シートクッション11の後方側に対して傾倒可能に組み付けられるシートバック12と、シートクッション11の前方側に対して傾倒可能に組み付けられるオットマン13と、を備えている。また、車両用シート10は、シートクッション11に対するシートバック12の傾倒角度となる第2傾倒角度β2(
図5参照)を調整可能なリクライニング機構14と、シートクッション11に対するオットマン13の傾倒角度となる第3傾倒角度β3(
図5参照)を調整可能なオットマン機構15と、を備えている。なお、
図1等では、便宜上、シートクッション11について、シートクッション11のフレーム部分を構成する左右一対のサイドブラケット11a,11b等を図示して、外皮部分等を除いている。同様に、シートバック12及びオットマン13についてフレーム部分等を図示して、外皮部分等を除いている。また、
図3等では、便宜上、
図1及び
図2に対して、フレームの形状等を簡素化して図示している。また、リクライニング機構14は、「第2傾倒角度調整機構」の一例に相当し、オットマン機構15は、「第3傾倒角度調整機構」の一例に相当し得る。
【0023】
リクライニング機構14は、電動式のリクライニングを実現するための公知の機構であって、制御部3により駆動制御されるモータ14aの回転力を利用して、シートクッション11に対するシートバック12の傾倒角度(第2傾倒角度β2)を調整するように機能する。本実施形態では、リクライニング機構14は、第2傾倒角度β2が90°以上170°以下の範囲内にて変化するように構成されているが、これに限らず、さらに広い範囲又は狭い範囲にて変化するように構成されてもよい。
【0024】
オットマン機構15は、
図6~
図8に示すように、オットマン13をシートクッション11の下方に格納する格納状態(
図7参照)とオットマン13を前方に展開する展開状態(
図8参照)とに切り替え可能に可動させるための公知の機構である。オットマン機構15は、制御部3により駆動制御されるモータ15aの回転力を利用して、シートクッション11に対するオットマン13の傾倒角度、より具体的には、オットマン13の骨格を構成するオットマンフレーム13aの傾倒角度(第3傾倒角度β3)を調整するように機能する。
【0025】
オットマン機構15は、オットマンフレーム13aを支持する支持部15bと、サイドブラケット11a,11bに対して固定される固定部15cと、モータ15aによって回転されるスクリュー15dと、スクリュー15dの回転に応じて固定部15cを基準に支持部15bを移動させるオットマンリンク部15eと、を備えている。このような構成により、例えば、
図7に示すようにオットマン13が格納状態にある場合に、スクリュー15dが前方展開方向に回転してオットマンリンク部15eが支持部15bを傾けるようにして前方に押し出すことで、
図8に示すようにオットマン13が前方に展開する状態になる。なお、
図7では、回転するスクリュー15dの移動方向を矢印Fにて図示している。また、本実施形態では、オットマン機構15は、第3傾倒角度β3が90°以上150°以下の範囲内にて変化するように構成されているが、これに限らず、さらに広い範囲又は狭い範囲にて変化するように構成されてもよい。
【0026】
シートスライド機構20は、前後フット21等を介して床面Bに固定されるロアレール22と、ロアレール22に対してその長手方向にスライド可能に組み付けられるアッパーレール23と、ロック部材とを左右一対備えるとともに、ロック部材のロック状態について切り替え操作するための操作レバー(図示略)を備えている。なお、
図1等では、便宜上、前後フット21の後側部位の図示を省略している。
【0027】
両アッパーレール23のそれぞれ上面には、その長手方向に沿うように、ライザー25a,25bが固定されている。ライザー25a,25bは、リンク機構30を介して車両用シート10とシートスライド機構20とを連結するベース部材(シートブラケット)として機能する。
【0028】
ロック部材は、ロアレール22とアッパーレール23とにより囲まれた空間内に配置されており、ロック状態ではロアレール22及びアッパーレール23の相対移動不能にロック(固定)するように機能する。
【0029】
このため、操作レバーの操作に応じてロック部材がロック解除状態になることで、ロアレール22及びアッパーレール23が相対移動可能な状態となり、車両用シート10が床面Bに対して前後方向に調整可能な状態となる。そして、車両用シート10が所望の位置までスライドされた後に操作レバーの操作に応じてロック部材がロック状態になることで、ロアレール22及びアッパーレール23が相対移動不能となり、車両用シート10の床面Bに対する前後方向位置が固定された状態となる。
【0030】
図9に示すリンク機構30は、シートクッション11の床面Bからの高さ、特に前方側の高さを大きく調整可能な高さ調整機構として機能するとともに、床面Bに対するシートクッション11の傾倒角度となる第1傾倒角度β1(
図5参照)を調整可能な第1傾倒角度調整機構として機能する。このリンク機構30は、6つのリンク31~36と、2つのラウンドユニット40a,40bと、連結シャフト41と、制御部3により駆動制御されることで連結シャフト41を回転させるモータ30aとを備えている。なお、本実施形態では、各傾倒角度β1~β3は、対応する各主要フレームの所定の平面部分を基準に設定されており、
図5では、第1傾倒角度β1が4°、第2傾倒角度β2が110°、第3傾倒角度β3が98°となるシート姿勢状態を図示している。また、
図9では、第1傾倒角度β1を所定の基本状態時(
図3及び
図5参照)よりも大きくした状態を拡大して図示している。
【0031】
リンク31及びリンク32は、連結角度α(
図9参照)を変化可能に連結されて、シートクッション11の前方側にて、リンク31がシートクッション11側に設けられるとともにリンク32が床面B側に設けられ、その連結角度αが変化することで、シートクッション11の前方側の高さを変えるように機能する。具体的には、リンク31の一側端部(
図9での左下側端部)とリンク32の一側端部(
図9での左上側端部)とが相対傾動可能に連結され、リンク31の他側端部(
図9での左上側端部)がサイドブラケット11aの前側に対して傾動可能に連結され、リンク32の他側端部(
図9での右下側端部)がライザー25aに組み付けられるラウンドユニット40aに対して組み付けられるようにして固定される。
【0032】
リンク33及びリンク34は、リンク31及びリンク32と同様に、その連結角度を変化可能に連結されて、シートクッション11の前方側にて、リンク33がシートクッション11側に設けられるとともにリンク34が床面B側に設けられ、その連結角度が変化することで、シートクッション11の前方側の高さを変えるように機能する。具体的には、リンク33の一側端部とリンク34の一側端部とが相対傾動可能に連結され、リンク33の他側端部がサイドブラケット11bの前側に対して傾動可能に連結され、リンク34の他側端部がライザー25bに組み付けられるラウンドユニット40bに対して組み付けられるようにして固定される。なお、リンク31及びリンク33は、「第1リンク」の一例に相当し、リンク32及びリンク34は、「第2リンク」の一例に相当し得る。
【0033】
リンク35は、一側端部がサイドブラケット11aの後側に対して傾動可能に連結され、他側端部がライザー25aの後側に対して傾動可能に連結されている。リンク36は、一側端部がサイドブラケット11bの後側に対して傾動可能に連結され、他側端部がライザー25bの後側に対して傾動可能に連結されている。
【0034】
ラウンドユニット40a及びラウンドユニット40bは、同じ機能構造であるため、ラウンドユニット40aを例に説明する。
ラウンドユニット40aは、制御部3により制御されるモータ30aの駆動に伴ってシャフト42を介して入力される回転力に応じて、リンク31とリンク32との連結角度αを変化させることで、ライザー25aに対するサイドブラケット11aの高さ(特に、前方側の高さ)を変えるように機能する。
【0035】
ラウンドユニット40aは、リンク32の他側端部とライザー25aとに取り付けられる2つのプレートを備えており、これら2つのプレートの相対回転を制御することで、リンク31とリンク32との連結角度αを変化させる。このため、本実施形態に係るラウンドユニット40a,40bとして、例えば、シートクッションに対するシートバックの傾倒角度を制御するために車両用シート装置のリクライニング機構に一般的に採用されるラウンドユニットを採用することができる。
【0036】
具体的には、本実施形態に係るラウンドユニット40aは、
図10及び
図11に示すように、上述したシャフト42と、相対回転可能な2つのプレートとして機能する外歯歯車51及び内歯歯車52と、ロック用部材として機能するU字ブッシュ53、一対のくさび状カム54、スプリング55と、プレートカバー56及びシャフトカバー57等とを備えるように構成されている。なお、シャフト42は、「入力軸」の一例に相当し、外歯歯車51及び内歯歯車52は、「入力軸」の回転に応じて相対回転する「第1回転体及び第2回転体」の一例に相当し得る。
【0037】
外歯歯車51には、外周面に外歯51aが形成され、中央に略円筒状のボス部51bが形成されている。
【0038】
内歯歯車52は、内周面に内歯52aが形成される円筒部と、中央に略円筒状のボス部52bが形成される側板部とを備えるように構成されている。内歯52aは、外歯51aに対して偏心して噛合するため、当該外歯51aよりも歯数が多くなるように形成されている。内歯歯車52のボス部52bの内方には樹脂ベアリング52cが嵌め込まれており、この樹脂ベアリング52cによって形成されるボス部52bの内周面と外歯歯車51のボス部51bの外周面との間にU字ブッシュ53や一対のくさび状カム54が配置されている。なお、外歯歯車51のボス部51bの外周面は、「2つのプレートの一方の第1周面」の一例に相当し、内歯歯車52のボス部52bの内周面は、「2つのプレートの他方の第2周面」の一例に相当し得る。
【0039】
シャフト42は、内面にセレーションが形成される本体部42aにて外歯歯車51のボス部51bの内周面に対して同軸的に嵌合するように形成されている。シャフト42には、本体部42aが嵌合したボス部51bの外周面の一部を覆うようにU字部42bが設けられている。このU字部42bは、回転方向の両端面にて、内歯歯車52のボス部52bの内周側に組み込まれたU字ブッシュ53の回転方向の両端面に当接し、床面Bからの車両用シート10の高さ(以下、単に、シート高さともいう)を高くするための回転方向(以下、第1回転方向ともいう)に回転する際に一方のくさび状カム54を押し回し、シート高さを低くするための回転方向(以下、第2回転方向ともいう)に回転する際に他方のくさび状カム54を押し回すように形成されている。
【0040】
くさび状カム54は、先端側ほど径方向の厚さが薄くなるようにくさび状に形成されている。くさび状カム54は、先端側の端面にてU字部42bの回転方向の端面に対向するようにして外歯歯車51のボス部51bの外周面とU字ブッシュ53との間に介在し、スプリング55によって基端側から付勢されることでボス部51bの外周面とU字ブッシュ53との双方に押圧されるように配置されている。
【0041】
一対のくさび状カム54が上述のようにそれぞれ押圧されることで、外歯歯車51に対して内歯歯車52が偏心し、外歯51aの一部が内歯52aに噛合する。このような偏心状態で後述するようにして外歯歯車51が内歯歯車52に対して相対回転することで、外歯51aと内歯52aとの噛合位置が変化するようにして外歯歯車51が内歯歯車52の歯車軸を中心に公転する。また、スプリング55によって一対のくさび状カム54が互いに離反するようにしてボス部51bの外周面とU字ブッシュ53との双方にそれぞれ押圧された状態では、一対のくさび状カム54が所定の介在位置に介在して外歯歯車51と内歯歯車52との相対回転が規制される。
【0042】
プレートカバー56は、内歯歯車52に対する外歯歯車51の軸方向のズレを抑制するように内歯歯車52に組み付けられる。シャフトカバー57は、内歯歯車52に対するシャフト42の軸方向のズレを抑制するように内歯歯車52に組み付けられる。
【0043】
このように構成されるラウンドユニット40aは、
図10に示すように、外歯歯車51にてその側面に形成される複数の突出部51cを利用してリンク32の他側端部に溶接固定され、内歯歯車52にてその側面に形成される複数の突出部52dを利用してライザー25aの前側に溶接固定される。なお、
図10では、便宜上、リンク32とライザー25aとを破線にて簡略的に図示している。
【0044】
ラウンドユニット40bは、外歯歯車51の側面に形成される複数の突出部51cを利用してリンク34の他側端部に溶接固定され、内歯歯車52の側面に形成される複数の突出部52dを利用してライザー25bの前側に溶接固定される。ラウンドユニット40bのシャフト42とラウンドユニット40aのシャフト42とは、連結シャフト41(
図6参照)を介して連結されており、モータ30aの駆動に応じて連結シャフト41が回転することで、同期して回転するように構成されている。このため、ラウンドユニット40bは、モータ30aの駆動に伴ってシャフト42を介して入力される回転力に応じて、リンク33とリンク34との連結角度を変化させることで、ライザー25bに対するサイドブラケット11bの高さ(特に、前方側の高さ)を変えるように機能する。
【0045】
このように構成されるリンク機構30は、操作部2に対する操作が行われないために両シャフト42が回転しない場合には、一対のくさび状カム54によって外歯歯車51と内歯歯車52との相対回転が規制されることで、リンク31とリンク32との連結角度αやリンク33とリンク34との連結角度が変化しない状態(以下、リンク連結角度維持状態ともいう)になる。このリンク連結角度維持状態では、シート高さ及び第1傾倒角度β1が維持される。
【0046】
操作部2に対してシート高さを高くするための操作がなされることで、モータ30aが駆動して両シャフト42が上記第1回転方向に回転する場合には、U字部42bによって2つのくさび状カム54のうち回転方向とは逆方向となる一方のくさび状カム54がスプリング55の付勢力に抗して押し回されることで、一方のくさび状カム54での上記押圧状態が解除され、第1回転方向に関してリンク31とリンク32との連結角度αやリンク33とリンク34との連結角度が変化可能な状態(以下、リンク連結角度可変状態ともいう)になる。これにより、内歯歯車52に対して相対回転になった外歯歯車51がシャフト42とともに第1回転方向に回転することで、連結角度αが大きくなるようにリンク31及びリンク32が傾動するとともにリンク33及びリンク34が傾動する。これにより、シート高さが高くなり、第1傾倒角度β1が大きくなる。リンク機構30は、前側に連結される2つのリンク(リンク31及びリンク32やリンク33及びリンク34)が配置され、後側に1つのリンク(リンク35やリンク36)が配置される構成であるため、シートクッション11の前方側の方がシートクッション11の後方側よりも高さ調整範囲が大きくなる。すなわち、第1傾倒角度β1が大きくなるようにして、シートクッション11の前方側がより高くなる。
【0047】
一方、操作部2に対してシート高さを低くするための操作がなされることで、モータ30aが駆動して両シャフト42が上記第2回転方向に回転する場合には、U字部42bによって2つのくさび状カム54のうち回転方向とは逆方向となる他方のくさび状カム54がスプリング55の付勢力に抗して押し回されることで、他方のくさび状カム54での上記押圧状態が解除され、第2回転方向に関してリンク連結角度可変状態になる。これにより、内歯歯車52に対して相対回転になった外歯歯車51がシャフト42とともに第2回転方向に回転することで、連結角度αが小さくなるようにリンク31及びリンク32が傾動するとともにリンク33及びリンク34が傾動する。これにより、シート高さが低くなり、第1傾倒角度β1が小さくなる。本実施形態では、リンク機構30は、第1傾倒角度β1が-4°以上42°以下の範囲内にて変化するように構成されているが、これに限らず、さらに広い範囲又は狭い範囲にて変化するように構成されてもよい。
【0048】
このように、リンク31とリンク32との連結角度αやリンク33とリンク34との連結角度が変化しないリンク連結角度維持状態と、リンク31とリンク32との連結角度αやリンク33とリンク34との連結角度が変化可能なリンク連結角度可変状態とを、両シャフト42に作用する外力の有無に応じて切り替えることができる。
【0049】
特に、ラウンドユニット40a,40bは、シャフト42の回転に応じて内歯歯車52及び外歯歯車51が相対回転する構成であるため、内歯歯車52と外歯歯車51との相対回転角度を容易に大きくすることができる。このため、ラウンドユニット40a(40b)に関して、外歯歯車51が連結されるリンク32(34)を内歯歯車52が連結されるライザー25a(床面側)に対して大きく傾動できるので、このリンク32(34)と当該リンク32(34)に対して連結角度αを変化可能に連結されるリンク31(33)との連結角度αの可変範囲を、セクターギヤ等を利用して相対傾動可能に連結される2つのリンクの連結角度の可変範囲(例えば、最大値が7°)よりも大きくすることができる。
【0050】
操作部2は、シートクッション11、シートバック12及びオットマン13による車両用シート10のシート姿勢を変更する際に操作されるもので、車両用シート10に着座した乗員が操作可能な車両用シート10の側面などに配置されている。この操作部2は、モータ30aを駆動制御して第1傾倒角度β1(床面Bに対するシートクッション11の傾倒角度)を変更する際に操作されるスイッチやモータ14aを駆動制御して第2傾倒角度β2(シートクッション11に対するシートバック12の傾倒角度)を変更する際に操作されるスイッチ、モータ15aを駆動制御して第3傾倒角度β3(シートクッション11に対するオットマン13の傾倒角度)を変更する際に操作されるスイッチ、現時点でのシート姿勢を登録するためのスイッチ等を備えている。
【0051】
制御部3は、操作部2に対する操作に応じて各モータ14a,モータ15a,モータ30a等を駆動制御することで、リンク機構30とリクライニング機構14及びオットマン機構15を制御して、車両用シート10のシート姿勢を変更するためのシート姿勢変更処理を行う。制御部3は、マイコンを主体として構成されるものであり、CPU、メモリ、システムバス、入出力インタフェース等を有し、メモリには、シート姿勢変更処理を実施するためのプログラムや登録操作されたシート姿勢に関する情報(登録されたシート姿勢に変更するための各傾倒角度β1~β3の情報などを含めた登録シート姿勢情報)等が記憶されている。これにより、操作部2に対する操作に応じて、シート姿勢を容易に変更しつつ、そのシート姿勢変更時の床面Bに対するシートクッション11の傾倒角度(第1傾倒角度β1)を大きく調整することができる。
【0052】
このように構成される車両用シート装置1では、シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作が制限されるシート姿勢変更制限状態でない場合には、例えば、
図5に示すシート姿勢にて、操作部2に対して第1傾倒角度β1を大きくするための操作を行うことで、制御部3にてなされるシート姿勢変更処理により駆動制御されたモータ30aによって第1傾倒角度β1を大きくするようにリンク機構30が動作する。これにより、
図12に示すように、シートクッション11の前方側の高さが高くなるように、車両用シート10のシート姿勢が変更される。なお、
図12では、第1傾倒角度β1が24°となる状態を図示している。また、
図12及び後述する
図13~
図15では、便宜上、オットマン機構15について、オットマンリンク部15eの一部の図示を省略している。
【0053】
また、例えば、
図5に示すシート姿勢にて、操作部2に対して第2傾倒角度β2を大きくするための操作を行うことで、制御部3にてなされるシート姿勢変更処理により駆動制御されたモータ14aによって第2傾倒角度β2を大きくするようにリクライニング機構14が動作する。これにより、
図13に示すように、シートクッション11に対してシートバック12が後方に大きく傾動するように、車両用シート10のシート姿勢が変更される。なお、
図13では、第2傾倒角度β2が170°となる状態を実線にて図示し、
図5相当の第2傾倒角度β2が110°となる状態を二点鎖線にて図示している。
【0054】
また、例えば、
図5に示すシート姿勢にて、操作部2に対して第3傾倒角度β3を大きくするための操作を行うことで、制御部3にてなされるシート姿勢変更処理により駆動制御されたモータ15aによって第3傾倒角度β3を大きくするようにオットマン機構15が動作する。これにより、
図14に示すように、オットマン13が前方に展開するように、車両用シート10のシート姿勢が変更される。なお、
図14では、第3傾倒角度β3が142°となる状態を実線にて図示し、
図5相当の第3傾倒角度β3が98°となる状態を二点鎖線にて図示している。
【0055】
そして、乗員が着座している車両用シート10の姿勢を予め登録したシート姿勢に変更する場合には、操作部2に対してその登録したシート姿勢に変更するための操作を行う。これにより、制御部3にてなされるシート姿勢変更処理により、上記登録シート姿勢情報に応じた傾倒角度となるようにリンク機構30、リクライニング機構14、オットマン機構15が動作することで、車両用シート10の姿勢が上述したシート姿勢に変更される。
【0056】
また、乗員が着座している車両用シート10の姿勢をリラックス可能なリラックスシート姿勢状態に変更する場合には、例えば、
図15に示すように、第1傾倒角度β1を24°、第2傾倒角度β2を110°、第3傾倒角度β3を142°にするように、リンク機構30、リクライニング機構14、オットマン機構15を動作させる。
【0057】
図15のシート姿勢状態、特に、第1傾倒角度β1を24°近くまで大きくした車両用シート10に着座する場合、その乗員の血流変化量(酸素化ヘモグロビン濃度「Oxy-Hb」と脱酸素化ヘモグロビン濃度「DeOxy-Hb」との関係)を最大化でき、乗員をよりリラックスした状態にすることができる。なお、リラックスシート姿勢状態として、
図15に示す各傾倒角度が採用されることに限らず、例えば、第1傾倒角度β1として17°以上42°以下の傾倒角度が採用されてもよいし、第2傾倒角度β2として90°以上150°以下の傾倒角度が採用されてもよいし、第3傾倒角度β3として134°以上150°以下の傾倒角度が採用されてもよい。このリラックスシート姿勢状態に変更するための各傾倒角度β1~β3等の登録シート姿勢情報が制御部3のメモリに登録されている場合には、簡単な操作で、所定の基本状態等からリラックスシート姿勢状態に変更することができる。
【0058】
特に、本実施形態では、
図16に示すように、シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作が制限されるシート姿勢変更制限状態時には、制御部3にてなされるシート姿勢変更処理において、第1傾倒角度β1を調整可能なリンク機構30を動作させる動作速度が、シート姿勢変更制限状態でない場合(シート姿勢変更可能状態である場合)の通常速度よりも遅い所定の制限速度となるように制御される。本実施形態では、上記所定の制限速度は、例えば、シート姿勢変更制限状態でない場合での通常速度に対して、1/2となるように設定される。また、上記所定の姿勢は、現在のシート姿勢から第1傾倒角度β1を変化させるような姿勢であって、第2傾倒角度β2及び第3傾倒角度β3の変化の有無にかかわらず、第1傾倒角度β1を大きくするように変化させるような姿勢だけでなく、第1傾倒角度β1を小さくするように変化させるような姿勢も含めるものとする。なお、本実施形態におけるシート姿勢変更処理では、
図16に示すように、第2傾倒角度β2を調整可能なリクライニング機構14を動作させる動作速度や第3傾倒角度β3を調整可能なオットマン機構15を動作させる動作速度は、シート姿勢変更制限状態であっても、シート姿勢変更制限状態でない場合(シート姿勢変更可能状態である場合)での動作速度(通常速度)と変わらないように制御される。
【0059】
本実施形態では、運転中である場合(車両の車速が所定の閾値以上となる場合)に、当該車両用シート装置1が搭載される車両の全体制御を司るECUからシート姿勢変更制限指示を受けることで、制御部3は、シート姿勢変更制限状態と判定する。なお、制御部3は、シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作を制限するシート姿勢変更制限状態であるか否かについて判定する「判定部」の一例に相当し得る。
【0060】
このため、運転中に、乗員である運転者が操作部2に対して第1傾倒角度β1を大きく変化させるための操作(シート姿勢を上記所定の姿勢に変更するための操作)がなされた場合に、この操作に応じて制御部3にてなされるシート姿勢変更処理により、シート姿勢変更制限指示であると判定されるために、第1傾倒角度β1を変化させるリンク機構30の動作速度が上記所定の制限速度となる。これにより、シートクッション11の前方側がゆっくり持ち上がるようにシート姿勢が変化する。
【0061】
このように、シート姿勢変更制限状態時に、第1傾倒角度β1を変化させるリンク機構30の動作速度を上記所定の制限速度とする理由について、以下に説明する。
例えば、シートクッション11の前方側が高くなるように第1傾倒角度β1が変化することで、運転者(乗員)の足がブレーキペダルやアクセルペダルから離れるようにシート姿勢が変化するために、運転に支障を生じさせる可能性がある。また、シートクッション11の前方側が低くなるように第1傾倒角度β1が変化した場合でも、運転者(乗員)の足とブレーキペダル及びアクセルペダルとの距離感が変わるようにシート姿勢が変化するために、運転に支障を生じさせる可能性がある。その一方で、第2傾倒角度β2が多少変化しても運転者の足とブレーキペダル等との距離は変化しないために運転に支障を生じさせることもない。同様に、格納状態から第3傾倒角度β3が多少変化しても運転者の足とブレーキペダル等との距離は変化しないために運転に支障を生じさせることもない。
【0062】
このため、本実施形態に係る車両用シート装置1では、第1傾倒角度β1を変化させるための操作(シート姿勢を所定の姿勢に変更するためのシート姿勢変更操作)がなされた場合には、運転中であることからシート姿勢変更制限状態と判定されることで、リンク機構30を動作させる動作速度が上記所定の制限速度となり、第1傾倒角度β1が比較的ゆっくり変化する。
【0063】
これにより、運転者がシート姿勢変更操作に応じてシート姿勢が変化していることを認識できるだけでなく、シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作が制限されるシート姿勢変更制限状態であることも認識でき、さらに、操作してもシート姿勢が変化しないために故障等が生じていると誤認することもない。そして、第1傾倒角度β1が比較的ゆっくり変化するため、運転中に誤って操作したとしても運転者が直ちにその誤操作に気づくこともできる。したがって、シート姿勢変更操作を行う運転者等の乗員に対して、シート姿勢を所定の姿勢に変更するための動作が制限されるシート姿勢変更制限状態であって故障等が生じていない状態であることを容易に認識させることができる。
【0064】
なお、制御部3にてなされるシート姿勢変更処理では、車両の車速が所定の閾値以上となることで上記ECUからシート姿勢変更制限指示を受けてシート姿勢変更制限状態と判定されることに限らず、車速以外の条件を満たすことで上記ECUからシート姿勢変更制限指示を受けてシート姿勢変更制限状態と判定されてもよい。
【0065】
また、制御部3にてなされるシート姿勢変更処理では、車両が所定の自動運転モード(例えば、自動運転レベル3以上)であることを示す所定の自動運転信号を上記ECU又は外部装置等から受け付けると、車速やECUからの指示にかかわらずシート姿勢変更制限状態であると判定しないように処理してもよい。これにより、乗員が運転操作を行わない高いレベルの自動運転モード(例えば、自動運転レベル3以上)では、リンク機構30を動作させる動作速度が不要に上記所定の制限速度となってしまうことを抑制することができる。
【0066】
なお、本第1実施形態の第1変形例として、
図17にて概略的に示すように、シートクッション11側に設けられるリンク31の一側端部と、床面B側に設けられるリンク32の一側端部とが、ラウンドユニット40aによって連結角度αを変化可能に連結され、リンク31の他側端部がサイドブラケット11aの前側に対して傾動可能に連結され、リンク32の他側端部がライザー25aの前側に対して傾動可能に連結されてもよい。この場合、シートクッション11側に設けられるリンク33の一側端部と、床面B側に設けられるリンク34の一側端部とが、ラウンドユニット40bによって連結角度を変化可能に連結され、リンク33の他側端部がサイドブラケット11bの前側に対して傾動可能に連結され、リンク34の他側端部がライザー25bの前側に対して傾動可能に連結される。
【0067】
このように構成される第1実施形態の第1変形例に係る車両用シート装置であっても、リンク31とリンク32との間に介在するラウンドユニット40aやリンク33とリンク34との間に介在するラウンドユニット40bによって、リンク31とリンク32との連結角度αの可変範囲やリンク33とリンク34との連結角度の可変範囲を大きくできるので、シートクッション11の前方側の床面Bからの高さをより高くすることで床面Bに対するシートクッション11の第1傾倒角度β1を大きく調整可能な車両用シート装置1を実現することができる。
【0068】
また、本第1実施形態の第2変形例として、
図18にて概略的に示すように、ラウンドユニット40aがリンク31の他側端部とサイドブラケット11aの前側との双方に連結され、リンク31の一側端部とリンク32の一側端部とが連結角度αを変化可能に連結され、リンク32の他側端部がライザー25aの前側に対して傾動可能に連結されてもよい。この場合、ラウンドユニット40bがリンク33の他側端部とサイドブラケット11bの前側との双方に連結され、リンク33の一側端部とリンク34の一側端部とが連結角度を変化可能に連結され、リンク34の他側端部がライザー25bの前側に対して傾動可能に連結される。
【0069】
このように構成される第1実施形態の第2変形例に係る車両用シート装置であっても、リンク31とサイドブラケット11aとの間に介在するラウンドユニット40aやリンク33とサイドブラケット11bとの間に介在するラウンドユニット40bによって、リンク31とリンク32との連結角度αの可変範囲やリンク33とリンク34との連結角度の可変範囲を大きくできるので、シートクッション11の前方側の床面Bからの高さをより高くすることで床面Bに対するシートクッション11の第1傾倒角度β1を大きく調整可能な車両用シート装置1を実現することができる。
【0070】
また、本第1実施形態に係るラウンドユニット40aは、外歯歯車51がリンク32に連結されて内歯歯車52が床面B側となるライザー25aの前側に連結されることに限らず、内歯歯車52がリンク32に連結されて外歯歯車51が床面B側となるライザー25aの前側に連結されてもよい。同様に、ラウンドユニット40bは、外歯歯車51がリンク34に連結されて内歯歯車52が床面B側となるライザー25bの前側に連結されることに限らず、内歯歯車52がリンク34に連結されて外歯歯車51が床面B側となるライザー25bの前側に連結されてもよい。第1実施形態の第1変形例に係るラウンドユニット40a,40bや第1実施形態の第2変形例に係るラウンドユニット40a,40bについても同様である。
【0071】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る車両用シート装置について、図面を参照して説明する。
本第2実施形態では、シートクッション11のスライド位置に応じてリンク機構30を動作させる動作速度を変更する点が、上記第1実施形態及び各変形例と主に異なる。したがって、第1実施形態及び各変形例と実質的に同一の構成部分には、同一符号を付し、その説明を省略する。
【0072】
本実施形態において制御部3にてなされるシート姿勢変更処理では、操作部2によりシート姿勢を上記所定の姿勢に変更するための操作がなされた場合に、シートスライド機構20によりシートクッション11が所定のスライド位置よりも前側に位置していると、リンク機構30を動作させる動作速度が、シート姿勢変更制限指示を受けているか否かに関わらず(判定部による判定結果に関わらず)、上記所定の制限速度となるように制御される。本実施形態では、上記所定のスライド位置は、シートクッション11が最も前側までスライドしている位置から所定距離(例えば、スライド可能な範囲の1/3)だけ後方側となる位置までの範囲に設定されているが、これに限らず、例えば、最も前側までスライドしている位置のみに設定されてもよいし、上記所定距離が乗員等によって任意に設定されてもよい。
【0073】
このため、車両用シート装置1は、シートクッション11が上記所定のスライド位置よりも前側に位置しているか否かを検知するためのセンサ等の検知手段を備え、その検知手段による検知結果が制御部3に出力されるように構成されている。なお、シートスライド機構20によりシートクッション11が上記所定のスライド位置よりも後側に位置していると、リンク機構30を動作させる動作速度は、シート姿勢変更制限指示を受けている場合には上記所定の制限速度となるように制御され、シート姿勢変更制限指示を受けていない場合には通常速度となるように制御される。
【0074】
例えば、
図19に示すように、シートクッション11が最も前側の位置までスライドしているためにシートクッション11がハンドルHに近づいていると、シートクッション11の前方側が高くなるように第1傾倒角度β1が変化する場合、シート姿勢変更制限状態と判定されない停車中等であっても、運転者(乗員)の足がハンドルHに接触してしまう可能性がある。なお、
図19では、便宜上、シートクッション11、シートバック12及びオットマン13の表面を二点鎖線にて図示している。
【0075】
このため、上記シート姿勢変更操作がなされた場合に、シートクッション11が上記所定のスライド位置よりも前側に位置していると、リンク機構30を動作させる動作速度が、シート姿勢変更制限指示を受けているか否かに関わらず、上記所定の制限速度となることで、第1傾倒角度β1が比較的ゆっくり変化する。これにより、シートクッション11の前方側を高くするシート姿勢変更操作を行った運転者は、シートクッション11が上記所定のスライド位置よりも前側に位置しているためにハンドルHとの隙間が小さくなるようにシートクッション11が傾倒する場合でも、足がハンドルHに接触する前に、ハンドルHとの隙間が小さくなっているシート姿勢変更状態を容易に認識することができる。
【0076】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記各実施形態等に限定されるものではなく、例えば、以下のように具体化してもよい。
(1)上記各実施形態及び変形例等では、上述のように構成されるラウンドユニット40a,40bに代えて、例えば、基本構成が同じである特開2021-146833号公報に開示されるラウンドユニットや特開2021-83659号公報に開示されるラウンドユニットなど、2つのプレートを偏心させることで一部の外歯と内歯とを噛合させ、シャフトが回動しない場合に2つのプレートの相対回動を規制し、シャフトの回動によってカムを押し回すことで2つのプレートを相対回動可能な状態に制御するラウンドユニットを採用してもよい。
【0077】
(2)本発明は、オットマン13及びオットマン機構15を備えない車両用シート装置に適用されてもよい。
【0078】
(3)上記所定の制限速度は、シート姿勢変更制限状態でない場合での通常速度に対して、1/2となるように設定されることに限らず、通常速度の1/2よりも遅くなる速度、例えば、通常速度の1/3となるように設定されてもよい。また、上記所定の制限速度は、通常速度よりも遅い速度であれば、例えば、通常速度の1/2よりも速い速度に設定されてもよい。
【0079】
(4)制御部3にてなされるシート姿勢変更処理では、第2傾倒角度β2を調整可能なリクライニング機構14を動作させる動作速度は、シート姿勢変更制限状態である場合に、第1傾倒角度β1を調整するリンク機構30の動作速度と同様に、調整シート姿勢変更制限状態でない場合での動作速度(通常速度)よりも遅くなるように制御されてもよい。同様に、第3傾倒角度β3を調整可能なオットマン機構15を動作させる動作速度は、シート姿勢変更制限状態である場合に、第1傾倒角度β1を調整するリンク機構30の動作速度と同様に、調整シート姿勢変更制限状態でない場合での動作速度(通常速度)よりも遅くなるように制御されてもよい。
【符号の説明】
【0080】
1…車両用シート装置
2…操作部
3…制御部(判定部)
10…車両用シート
11…シートクッション
12…シートバック
13…オットマン
14…リクライニング機構(第2傾倒角度調整機構)
15…オットマン機構(第3傾倒角度調整機構)
20…シートスライド機構
25a,25b…ライザー
30…リンク機構(第1傾倒角度調整機構)
31,33…リンク(第1リンク)
32,34…リンク(第2リンク)
40a,40b…ラウンドユニット
B…床面
α…連結角度
β1…第1傾倒角度
β2…第2傾倒角度
β3…第3傾倒角度