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特開2024-82862情報処理装置、情報処理方法、および情報処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082862
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法、および情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04N 1/62 20060101AFI20240613BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H04N1/62
G06T1/00 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197029
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】村林 竜司
【テーマコード(参考)】
5B057
5C079
【Fターム(参考)】
5B057CA01
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA16
5B057CB01
5B057CB08
5B057CB12
5B057CB16
5B057CC03
5B057CE17
5B057DA08
5B057DA17
5B057DB02
5B057DB06
5B057DB09
5B057DC25
5C079HB06
5C079LA02
5C079LA10
5C079LA31
5C079LB11
5C079NA06
(57)【要約】
【課題】正常色覚者にとっての色の変化を抑えつつ、色覚異常者にとっての色の混同しやすさを軽減可能とすることができる情報処理装置、情報処理方法、および情報処理プログラムを提供する。
【解決手段】判断部21は、入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断する。決定部22は、判断部21により色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別でき、変更する色の正常色覚者にとっての変化度合いが最小となるように、一方の色の変更案を決定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断する判断部と、
前記判断部により色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別できるように2色のうちの少なくともいずれかを変更した組み合わせであって、正常色覚者にとって、2色のうち変更される少なくともいずれかの色の変化度合いが最小となる組み合わせを、2色の組み合わせの変更案として決定する決定部と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記判断部は、隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを、色覚異常者が認識する2色の明度の差に基づき判断することを特徴とする請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記決定部は、正常色覚者にとっての色の変化度合いを、正常色覚者が認識する変更前の色と変更後の色との色差に基づき判断することを特徴とする請求項1または2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
コンピュータが実行する情報処理方法であって、
入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断するステップと、
色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別できるように2色のうちの少なくともいずれかを変更した組み合わせであって、正常色覚者にとって、2色のうち変更される少なくともいずれかの色の変化度合いが最小となる組み合わせを、2色の組み合わせの変更案として決定するステップと
を含むことを特徴とする情報処理方法。
【請求項5】
入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断するステップと、
色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別できるように2色のうちの少なくともいずれかを変更した組み合わせであって、正常色覚者にとって、2色のうち変更される少なくともいずれかの色の変化度合いが最小となる組み合わせを、2色の組み合わせの変更案として決定するステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする情報処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理方法、および情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ユーザが作成した文書等において、文字色と背景色等の隣り合う2色が、正常色覚者は混同しない2色であっても、色覚異常者が混同しやすい2色の組み合わせになっていることがある。
【0003】
これに対し、特許文献1には、色覚異常者が混同しやすい配色を変換して混同しやすさを軽減する技術が開示されている。この特許文献1の技術では、色覚異常者が混同しやすい配色組み合わせについて、色覚異常者の認識色空間内での色の差で表す混合度と、色変換前後の色の差で表す変更度との和により構成される評価関数が最小となるように色を変換する。これにより、色覚異常者が混同しやすい配色組み合わせについて、正常色覚者と同程度に色覚異常者にも区別できるように色が変換される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4200887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、色覚異常者のみを考慮して色の変換を行うため、正常色覚者にとっては色の変化が大きくなりすぎることがある。この結果、本来の画像のデザイン性が損なわれるおそれがある。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたもので、正常色覚者にとっての色の変化を抑えつつ、色覚異常者にとっての色の混同しやすさを軽減可能とすることができる情報処理装置、情報処理方法、および情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断する判断部と、前記判断部により色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別できるように2色のうちの少なくともいずれかを変更した組み合わせであって、正常色覚者にとって、2色のうち変更される少なくともいずれかの色の変化度合いが最小となる組み合わせを、2色の組み合わせの変更案として決定する決定部とを備えることを特徴とする情報処理装置が提供される。
【0008】
本発明の他の態様によれば、コンピュータが実行する情報処理方法であって、入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断するステップと、色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別できるように2色のうちの少なくともいずれかを変更した組み合わせであって、正常色覚者にとって、2色のうち変更される少なくともいずれかの色の変化度合いが最小となる組み合わせを、2色の組み合わせの変更案として決定するステップとを含むことを特徴とする情報処理方法が提供される。
【0009】
本発明の他の態様によれば、入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断するステップと、色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別できるように2色のうちの少なくともいずれかを変更した組み合わせであって、正常色覚者にとって、2色のうち変更される少なくともいずれかの色の変化度合いが最小となる組み合わせを、2色の組み合わせの変更案として決定するステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする情報処理プログラムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正常色覚者にとっての色の変化を抑えつつ、色覚異常者にとっての色の混同しやすさを軽減可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態に係る情報処理システムの構成を示すブロック図である。
図2】配色チェックの動作を説明するためのフローチャートである。
図3】色覚異常者の画像の見え方のシミュレーションの一例を示す図である。
図4】配色チェックにおける色の変更案を決定する手順の説明図である。
図5】変更対象の色に対する色差が最小の色が複数存在しうることを説明するための図である。
図6】アプリ画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、各図面を通じて同一もしくは同等の部位や構成要素には、同一もしくは同等の符号を付し、その説明を省略もしくは簡略化する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る情報処理システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施の形態に係る情報処理システム1は、サーバ装置(情報処理装置に相当)2と、端末装置3とを備える。サーバ装置2と端末装置3とは、インターネット等のネットワーク4を介して通信可能に接続されている。
【0014】
サーバ装置2は、端末装置3からの入力画像データの配色チェックを行う。配色チェックは、隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断し、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせにおける一方の色の変更案を決定する処理である。サーバ装置2は、CPU、ROM,RAM、ハードディスク等を備えたコンピュータにより構成される。なお、サーバ装置2は、クラウド上に設けられたクラウドサーバであってもよい。
【0015】
サーバ装置2は、制御部11と、記憶部12と、通信部13とを備える。
【0016】
制御部11は、サーバ装置2全体の動作を制御する。制御部11は、CPU等を備えて構成されている。制御部11は、判断部21と、決定部22とを備える。制御部11の各部は、CPUが記憶部12に記憶された情報処理プログラムを実行することにより構成される。
【0017】
判断部21は、入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断する。
【0018】
ここで、色覚異常には、P型色覚(1型2色覚および1型3色覚)、D型色覚(2型2色覚および2型3色覚)、T型色覚(3型2色覚および3型3色覚)等がある。色覚異常の大半は、P型色覚かD型色覚である。本実施の形態では、判断部21は、入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、P型色覚の色覚異常者およびD型色覚の色覚異常者の少なくともいずれかが2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断する。
【0019】
決定部22は、判断部21により色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別でき、変更する色の正常色覚者にとっての変化度合いが最小となるように、一方の色の変更案を決定する。
【0020】
記憶部12は、各種のプログラムを記憶している。記憶部12は、ハードディスク等により構成されている。
【0021】
通信部13は、ネットワーク4を介した端末装置3との通信処理を行う。
【0022】
端末装置3は、ユーザ操作に応じて画像データを生成し、この画像データをサーバ装置2へ送信する。端末装置3は、CPU、ROM,RAM、ハードディスク等を備えたコンピュータにより構成される。
【0023】
端末装置3は、制御部31と、記憶部32と、表示部33と、入力部34と、通信部35とを備える。
【0024】
制御部31は、端末装置3全体の動作を制御する。制御部31は、CPU等を備えて構成されている。
【0025】
記憶部32は、各種のプログラムを記憶している。記憶部32は、ハードディスク等により構成されている。
【0026】
表示部33は、後述するアプリ画面50等の各種の画面を表示する。表示部33は、液晶表示パネル等により構成されている。
【0027】
入力部34は、ユーザの入力操作を受け付ける。入力部34は、キーボード、マウス等を有する。
【0028】
通信部35は、ネットワーク4を介したサーバ装置2との通信処理を行う。
【0029】
次に、情報処理システム1のサーバ装置2における配色チェックの動作について説明する。
【0030】
図2は、配色チェックの動作を説明するためのフローチャートである。図2のフローチャートの処理は、端末装置3からサーバ装置2に入力画像データが入力されることにより開始となる。
【0031】
ここで、入力画像データは、例えば、端末装置3においてMicrosoft社製のWordによって作成された画像データや、これをPDF化したファイル等である。本実施の形態では、入力画像データは、文字、図形、および写真のオブジェクトを含む、sRGB(standard RGB)色空間の画像データである。また、入力画像データとともに、各オブジェクトの位置(座標)を示す情報がサーバ装置2に入力される。
【0032】
図2のステップS1において、判断部21は、正常色覚者の認識色空間の画像データである入力画像データを、色覚異常者の認識色空間の画像データに変換する。正常色覚者の認識色空間の画像データから色覚異常者の認識色空間の画像データへの変換は、公知の手法を用いて行うことができる。
【0033】
例えば、判断部21は、まず、入力画像データを、下記の式(1)~式(3)により、線形sRGB色空間の画像データに変換する。
【0034】
【数1】
【0035】
ここで、式(1)~式(3)におけるRdevice,Gdevice,Bdeviceは、それぞれ入力画像データにおけるR,G,Bの値である。また、式(1)~式(3)におけるRlinear,Glinear,Blinearは、それぞれ線形sRGB色空間におけるR,G,Bの値である。
【0036】
次いで、判断部21は、下記の式(4)により、線形sRGB色空間の画像データを、正常色覚者が認識するLMS色空間の画像データに変換する。
【0037】
【数2】
【0038】
次いで、判断部21は、下記の式(5)により、正常色覚者が認識するLMS色空間の画像データを、P型色覚の色覚異常者が認識するLMS色空間の画像データに変換する。また、判断部21は、下記の式(6)により、正常色覚者が認識するLMS色空間の画像データを、D型色覚の色覚異常者が認識するLMS色空間の画像データに変換する。
【0039】
【数3】
【0040】
そして、判断部21は、P型色覚の色覚異常者が認識するLMS色空間の画像データを、P型色覚の色覚異常者が認識するRGB色空間の画像データに変換する。また、判断部21は、D型色覚の色覚異常者が認識するLMS色空間の画像データを、D型色覚の色覚異常者が認識するRGB色空間の画像データに変換する。ここで、LMS色空間からRGB色空間への変換は、公知の手法を用いて行うことができる。
【0041】
次いで、ステップS2において、判断部21は、色覚異常者の認識色空間(色覚異常者が認識するRGB色空間)の画像データにおいて、隣り合う2色の組み合わせを抽出する。
【0042】
具体的には、判断部21は、各オブジェクトの位置を示す情報を用いて、色覚異常者の認識色空間の画像データにおける、互いに異なる色の重なり合う2つのオブジェクトの組み合わせを検索する。そして、判断部21は、互いに異なる色の重なり合う2つのオブジェクトの組み合わせにおける2色の組み合わせを、隣り合う2色の組み合わせとして抽出する。なお、オブジェクトが塗りつぶしと枠線のように複数の色を含む場合には、それぞれの部品をオブジェクトとみなし、それぞれの色同士が隣り合う2色の組み合わせとなる。
【0043】
ここで、判断部21は、P型色覚の色覚異常者の認識色空間の画像データ、およびD型色覚の色覚異常者の認識色空間の画像データのそれぞれについて、隣り合う2色の組み合わせの抽出を行う。それぞれの画像データにおいて、複数の組み合わせが抽出されることがある。
【0044】
次いで、ステップS3において、判断部21は、ステップS2で抽出した各組み合わせについて、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断する。
【0045】
ここで、P型色覚の色覚異常者およびD型色覚の色覚異常者の画像の見え方のシミュレーションの一例を図3に示す。図3に示すように、色覚異常者にとっては、正常色覚者にとっての見え方よりも、文字のオブジェクト41の色と背景のオブジェクト42の色との明度の差が小さいために、この2色を混同しやすいことがある。
【0046】
そこで、判断部21は、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを、色覚異常者が認識する2色の明度の差に基づき判断する。
【0047】
具体的には、判断部21は、各組み合わせについて、色覚異常者が認識する2色それぞれのRGB値をL値に変換する。RGB値からL値への変換は、公知の手法を用いて行うことができる。
【0048】
そして、判断部21は、2色の間の明度の差であるL値の差が所定の閾値以上である場合、当該2色の組み合わせは、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであると判断する。
【0049】
ここで、判断部21は、P型色覚の色覚異常者の認識色空間の画像データ、およびD型色覚の色覚異常者の認識色空間の画像データのそれぞれについて、各組み合わせが、それぞれの色覚型の色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断する。
【0050】
次いで、ステップS4において、決定部22は、判断部21により色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別でき、変更する色の正常色覚者にとっての変化度合いが最小となるように、一方の色の変更案を決定する。
【0051】
ここで、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせの2色に対応する、正常色覚者が認識する2色のL値をそれぞれ[L1_n,a1_n,b1_n],[L2_n,a2_n,b2_n]とする。このうち[L2_n,a2_n,b2_n]の色を変更対象とする。
【0052】
また、P型色覚の色覚異常者が認識する上記2色のL値をそれぞれ[L1_p,a1_p,b1_p],[L2_p,a2_p,b2_p]とする。また、D型色覚の色覚異常者が認識する上記2色のL値をそれぞれ[L1_d,a1_d,b1_d],[L2_d,a2_d,b2_d]とする。
【0053】
決定部22は、変更対象の色の変更後の正常色覚者が認識する色のL値である[L3_n,a3_n,b3_n]を、下記の式(7)に示す評価関数Jを最小化する制約付き最適化問題を解くことにより求める。
【0054】
【数4】
【0055】
ここで、min J(x)=f(x)は、評価関数Jを最小化するベクトルxを求める最適化問題を表現する式である。また、s.t.は、評価関数Jの変数に対する制約条件を表す。
【0056】
式(7)における1行目の式は、正常色覚者にとって変更前の色との色差が最小となる色を変更後の色として求めることを意味する。
【0057】
また、式(7)におけるconstは、色覚異常者が2色を区別できる明度差の閾値として予め設定されたものである。また、式(7)におけるL3_p,L3_dは、上述の[L3_n,a3_n,b3_n]の色を、それぞれP型色覚、D型色覚の色覚異常者が認識する色のL値である。
【0058】
また、式(7)における最下行の条件は、L値が、RGB色空間で表現できる色に対応するものであることを条件とすることを意味する。
【0059】
式(7)の制約付き最適化問題に複数の解が存在する場合は、判断部21は、変更対象の色との明度の差が最も小さくなる色を、変更案の色として選択する。すなわち、判断部21は、|L2_n-L3_n|が最小となる色を、変更案の色として選択する。
【0060】
式(7)の制約付き最適化問題の解法の具体例を説明する。
【0061】
まず、正常色覚者が認識するL色空間を所定間隔で量子化し、すべてのL値をリスト化する。
【0062】
次いで、上記のリストにおける正常色覚者が認識する各L値を、P型色覚の色覚異常者が認識するL値に変換し、変換後の各L値を、正常色覚者が認識する各L値と対応付けて保持する。また、上記のリストにおける正常色覚者が認識する各L値を、D型色覚の色覚異常者が認識するL値に変換し、変換後の各L値を、正常色覚者が認識する各L値と対応付けて保持する。
【0063】
ここで、正常色覚者が認識するL値からP型色覚の色覚異常者が認識するL値への変換、および正常色覚者が認識するL値からD型色覚の色覚異常者が認識するL値への変換は、公知の手法を用いて行うことができる。
【0064】
例えば、正常色覚者が認識するL値をP型色覚の色覚異常者が認識するL値に変換する場合、まず、正常色覚者が認識するL値を正常色覚者が認識するRGB値に変換する。次いで、正常色覚者が認識するRGB値を、P型色覚の色覚異常者が認識するRGB値に変換する。この変換は、上述のステップS1で説明した手法を用いて行うことができる。次いで、P型色覚の色覚異常者が認識するRGB値を、P型色覚の色覚異常者が認識するL値に変換する。RGB値とL値との間の変換は、公知の手法を用いて行うことができる。
【0065】
正常色覚者が認識するL値からD型色覚の色覚異常者が認識するL値への変換も、上述したP型色覚の色覚異常者が認識するL値への変換と同様に行うことができる。
【0066】
次いで、上述したP型色覚の色覚異常者が認識するL値のリストにおける[L1_p,a1_p,b1_p]に対して明度(L値)の差が式(7)のconst以下の各L値に対応する、正常色覚者が認識する各L値を、正常色覚者が認識するL値のリストから削除する。また、上述したD型色覚の色覚異常者が認識する各L値のうちの[L1_d,a1_d,b1_d]に対して明度(L値)の差が式(7)のconst以下の各L値に対応する、正常色覚者が認識する各L値を、正常色覚者が認識するL値のリストから削除する。
【0067】
これにより、上述した正常色覚者が認識するL値のリストに、変更対象ではない方の色のL値である[L1_n,a1_n,b1_n]に対して明度差がconstより大きい複数の色のL値が残る。すなわち、図4に示すように、正常色覚者が認識するL色空間から、変更対象ではない方の色との明度差がconstより大きい複数の色が抽出される。
【0068】
次いで、正常色覚者が認識するL値のリストに残った各L値であって、RGB色空間で表現できる色のL値である各L値のうち、a平面上における、変更対象の色のL値である[L2_n,a2_n,b2_n]からの距離が最小となるL値を選択する。
【0069】
これにより、図4に示すように、変更対象ではない方の色に対して明度差がconstより大きい色として抽出された各色から、RGB色空間で表現できる色であって、変更対象の色との色差が最小の色が抽出される。変更対象の色との色差が最小の色であることは、変更対象の色からの正常色覚者にとっての色の変化度合いが最小の色であることを意味する。
【0070】
ここで、図5に示すように、変更対象の色との色差(a平面上における距離)が最小の色が複数存在しうる。変更対象の色との色差が最小の色が複数存在する場合、すなわち式(7)の制約付き最適化問題に複数の解が存在する場合は、変更対象の色との明度差が最小の色を、変更案の色として選択する。
【0071】
決定部22は、P型色覚の色覚異常者およびD型色覚の色覚異常者の少なくともいずれかが2色を混同しやすいすべての組み合わせについて、上述のように式(7)の制約付き最適化問題を解くことで、一方の色の変更案を決定する。これにより、配色チェックが終了となる。
【0072】
配色チェックが終了すると、決定部22は、その結果を端末装置3へ送信する。これにより、端末装置3において、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせにおける一方の色の変更案を表示部33に表示してユーザに通知することが可能となる。
【0073】
色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせにおける一方の色の変更案をユーザに通知するためのアプリ画面の一例を図6に示す。
【0074】
図6に示すアプリ画面50は、例えば、原稿の配色チェック等の各種のチェックを行う原稿チェック用のアプリケーションの表示画面である。アプリ画面50には、配色チェックボタン51と、原稿表示部52と、ページ選択部53と、結果表示部54とが表示される。
【0075】
配色チェックボタン51は、原稿の配色チェックの実行を指示するためのボタンである。配色チェックボタン51が押下されると、事前にアプリケーションに読み込まれた原稿の画像データがサーバ装置2へ送信され、サーバ装置2において前述の配色チェックが行われる。
【0076】
原稿表示部52は、チェック対象の原稿の画像が表示される領域である。原稿表示部52には、ページ選択部53から選択されたページの画像が表示される。
【0077】
原稿表示部52には、配色チェックにより、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであると判断された2色の組み合わせの位置を示す表示枠55A,55B,…が、原稿にオーバーラップして表示される。また、表示枠55A,55B,…に対応して、それぞれの領域を識別するための番号が表示される。
【0078】
ページ選択部53は、チェック対象の原稿の各ページを、原稿表示部52に表示させるページの選択肢として表示する。
【0079】
結果表示部54は、配色チェックの結果を表示する領域である。具体的には、結果表示部54は、表示枠55A,55B,…の中から選択された、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせにおけるオリジナルの2色と、一方の色を変更する変更案とを表示する。図6の例では、表示枠55Aの位置の文字色と背景色との組み合わせにおける各色のオリジナルの色と文字色の変更案とを表示している。
【0080】
以上説明したように、サーバ装置2では、決定部22は、判断部21により色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別でき、変更する色の正常色覚者にとっての変化度合いが最小となるように、一方の色の変更案を決定する。これにより、正常色覚者にとっての色の変化を抑えつつ、色覚異常者にとっての色の混同しやすさを軽減可能とすることができる。
【0081】
また、サーバ装置2では、判断部21は、隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを、色覚異常者が認識する2色の明度の差に基づき判断する。これにより、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを容易に高精度で判断できる。
【0082】
また、サーバ装置2では、決定部22は、正常色覚者にとっての色の変化度合いを、正常色覚者が認識する変更前の色と変更後の色との色差(変更対象の色と変更案の色との色差)に基づき判断する。これにより、正常色覚者にとっての色相の変化を抑えた色の変更案を決定することができる。
【0083】
なお、色覚異常者が混同しやすい2色の組み合わせであって、一方の色が共通である複数の組み合わせがある場合に、共通の色を変更対象とし、色覚異常者が各組み合わせの2色を区別でき、変更する色の正常色覚者にとっての変化度合いが最小となるように、共通の色に対する共通の変更案を決定するようにしてもよい。
【0084】
また、上述した実施の形態では、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを、色覚異常者が認識する2色の明度の差に基づき判断したが、これに限らず、例えば、色覚異常者が認識する2色のa値およびb値に基づき判断してもよい。
【0085】
また、上述した実施の形態では、正常色覚者にとっての色の変化度合いを色差に基づき判断したが、これに限らず、例えば、明度差に基づき判断してもよい。
【0086】
また、上述した実施の形態では、色覚異常者が混同しやすい2色の組み合わせにおける一方の色の変更案を決定した。しかし、2色の組み合わせにおける両方の色を変更する変更案としてもよい。決定部22は、判断部21により色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別できるように2色のうちの少なくともいずれかを変更した組み合わせであって、正常色覚者にとって、2色のうち変更される少なくともいずれかの色の変化度合いが最小となる組み合わせを、2色の組み合わせの変更案として決定すればよい。ここで、組み合わせの両方の色を変更する場合、色覚異常者が2色を区別できるように2色を変更した組み合わせのうち、2色それぞれの正常色覚者にとっての変化度合いの合計が最小となる組み合わせを、2色の組み合わせの変更案として決定すればよい。
【0087】
また、上述した実施の形態では、変更案の色が、RGB色空間で表現できる色であることを条件としたが、変更案の色をRGB色空間で表現できる色とする必要がない場合には、この条件を省略してもよい。また、変更案の色が、RGB色空間以外の色空間で表現できる色であることを条件としてもよい。
【0088】
また、上述した実施の形態では、色覚異常としてP型色覚およびD型色覚を対象としたが、色覚異常の他の色覚型も考慮してもよい。
【0089】
また、上述した実施の形態では、サーバ装置2が配色チェックを行ったが、これを端末装置3が行ってもよい。
【0090】
本発明は上記実施の形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施の形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【0091】
[付記]
本出願は、以下の発明を開示する。
【0092】
(付記1)
入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断する判断部と、
前記判断部により色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別できるように2色のうちの少なくともいずれかを変更した組み合わせであって、正常色覚者にとって、2色のうち変更される少なくともいずれかの色の変化度合いが最小となる組み合わせを、2色の組み合わせの変更案として決定する決定部と
を備えることを特徴とする情報処理装置。
【0093】
(付記2)
前記判断部は、隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを、色覚異常者が認識する2色の明度の差に基づき判断することを特徴とする付記1に記載の情報処理装置。
【0094】
(付記3)
前記決定部は、正常色覚者にとっての色の変化度合いを、正常色覚者が認識する変更前の色と変更後の色との色差に基づき判断することを特徴とする付記1または2に記載の情報処理装置。
【0095】
(付記4)
コンピュータが実行する情報処理方法であって、
入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断するステップと、
色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別できるように2色のうちの少なくともいずれかを変更した組み合わせであって、正常色覚者にとって、2色のうち変更される少なくともいずれかの色の変化度合いが最小となる組み合わせを、2色の組み合わせの変更案として決定するステップと
を含むことを特徴とする情報処理方法。
【0096】
(付記5)
入力画像データにおける隣り合う2色の組み合わせが、色覚異常者が2色を混同しやすい組み合わせであるか否かを判断するステップと、
色覚異常者が2色を混同しやすいと判断された組み合わせに対し、色覚異常者が2色を区別できるように2色のうちの少なくともいずれかを変更した組み合わせであって、正常色覚者にとって、2色のうち変更される少なくともいずれかの色の変化度合いが最小となる組み合わせを、2色の組み合わせの変更案として決定するステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする情報処理プログラム。
【符号の説明】
【0097】
1 情報処理システム
2 サーバ装置
3 端末装置
4 ネットワーク
11 制御部
12 記憶部
13 通信部
21 判断部
22 決定部
31 制御部
32 記憶部
33 表示部
34 入力部
35 通信部
41,42 オブジェクト
50 アプリ画面
51 配色チェックボタン
52 原稿表示部
53 ページ選択部
54 結果表示部
図1
図2
図3
図4
図5
図6