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特開2024-82865導電性組成物及び導電膜形成方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082865
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】導電性組成物及び導電膜形成方法
(51)【国際特許分類】
C08L 63/00 20060101AFI20240613BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20240613BHJP
C08L 67/00 20060101ALI20240613BHJP
C08G 59/50 20060101ALI20240613BHJP
C08G 59/06 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08K3/105
C08L67/00
C08G59/50
C08G59/06
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197035
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000197975
【氏名又は名称】石原ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113712
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 裕弘
(72)【発明者】
【氏名】梶山 森
(72)【発明者】
【氏名】三田 倫広
(72)【発明者】
【氏名】濱野 翼
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002CD00W
4J002CD05W
4J002CF00X
4J002DA076
4J002FD116
4J002FD31X
4J002FD34W
4J002GQ02
4J002HA06
4J036AD08
4J036DC02
4J036DC41
4J036FA02
4J036FB11
4J036HA12
4J036JA08
4J036JA15
4J036KA03
(57)【要約】
【課題】電磁シールド効果が高い導電膜を低コストに形成するための導電性組成物及び導電膜形成方法を提供する。
【解決手段】導電性組成物は、焼成後に導電性を発現する。導電性組成物は、銅ナノ粒子と、液体の分散媒と、分散剤と、熱硬化性の有機マトリックスとを含有する。分散剤は、銅ナノ粒子を分散媒中で分散させるものである。分散剤は、窒素原子又はリン原子を含む高分子化合物である。有機マトリックスは、液状のエポキシ樹脂及びそのエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤から成る。その硬化剤は、塩基性含窒素化合物である。この導電膜形成方法において、ギ酸雰囲気下での焼成、又は焼成前のギ酸水溶液への浸漬が行われる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成後に導電性を発現する導電性組成物であって、
銅ナノ粒子と、液体の分散媒と、前記銅ナノ粒子を前記分散媒中で分散させる分散剤と、熱硬化性の有機マトリックスとを含有し、
前記分散剤は、窒素原子又はリン原子を含む高分子化合物であり、
前記有機マトリックスは、液状のエポキシ樹脂、及びそのエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤から成り、
前記硬化剤は、塩基性含窒素化合物であることを特徴とする導電性組成物。
【請求項2】
前記分散剤は、アミンを有する分岐ポリエステル又はリン酸ポリエステルであることを特徴とする請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項3】
前記硬化剤は、アミンであることを特徴とする請求項1に記載の導電性組成物。
【請求項4】
前記硬化剤は、イミダゾール誘導体、変性アミン及びフェノール類の芳香族アミンから成る群から選ばれることを特徴とする請求項3に記載の導電性組成物。
【請求項5】
対象物の表面に導電膜を形成する導電膜形成方法であって、
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の導電性組成物から成る液膜を前記対象物の表面に形成する工程と、
前記液膜を乾燥して粒子膜を形成する工程と、
前記粒子膜をギ酸雰囲気下で焼成して導電膜を形成するとともに前記エポキシ樹脂を硬化する工程とを有することを特徴とする導電膜形成方法。
【請求項6】
対象物の表面に導電膜を形成する導電膜形成方法であって、
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の導電性組成物から成る液膜を前記対象物の表面に形成する工程と、
前記液膜を乾燥して粒子膜を形成する工程と、
前記粒子膜が形成された前記対象物をギ酸水溶液に浸漬する工程と、
前記粒子膜が形成された前記対象物を前記ギ酸水溶液から取り出して、その粒子膜上の液体を除去する工程と、
前記粒子膜を不活性雰囲気下で焼成して導電膜を形成するとともに前記エポキシ樹脂を硬化する工程とをこの順に有することを特徴とする導電膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの電磁シールドに適した導電膜を形成するための導電性組成物、及びその導電性組成物を用いた導電膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子デバイスの軽薄短小化に伴い、電子部品の実装密度が高くなっている。電子デバイスは、誤作動の原因になる不要輻射ノイズを放射することから、電子部品の高実装密度化に伴い、他の電子デバイスや電子デバイス内において不要輻射ノイズ(電磁妨害)による誤作動が生じる。このような誤動作を防ぐため、電磁シールド(電磁波シールド、EMIシールド)を用いて不要輻射ノイズが遮蔽される。
【0003】
従来から、電磁シールドとして金属缶がある。金属缶は、不要輻射ノイズの発生源である立体物を覆うように配置される。しかし、金属缶を用いることは、電子デバイスの軽量化に反する。また、金属缶には、不要輻射ノイズが漏れ出る隙間が存在する。さらに、不要輻射ノイズの発生源を金属缶で覆う箇所に集める必要があるので、電子デバイスの設計自由度が下がる。
【0004】
また、電磁シールドとして、導電性粒子を含む導電性EMI遮蔽組成物を不要輻射ノイズの発生源に塗布する方法が知られている(特許文献1参照)。この導電性EMI遮蔽組成物は、導電性微粒子が銀粒子(同文献の実施例1~9)又は銀被覆銅粒子(同文献の実施例10)である組成について実施できることが記載されている。銀は、電気抵抗率が低いので電磁シールドに適するが、高コストである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するものであり、電磁シールド効果が高い導電膜を低コストに形成するための導電性組成物及び導電膜形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の導電性組成物は、焼成後に導電性を発現する物であって、銅ナノ粒子と、液体の分散媒と、前記銅ナノ粒子を前記分散媒中で分散させる分散剤と、熱硬化性の有機マトリックスとを含有し、前記分散剤は、窒素原子又はリン原子を含む高分子化合物であり、前記有機マトリックスは、液状のエポキシ樹脂、及びそのエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤から成り、前記硬化剤は、塩基性含窒素化合物であることを特徴とする。
【0008】
この導電性組成物において、例えば、前記分散剤は、アミンを有する分岐ポリエステル又はリン酸ポリエステルである。
【0009】
この導電性組成物において、前記硬化剤は、アミンであることが好ましい。
【0010】
この導電性組成物において、例えば、前記硬化剤は、イミダゾール誘導体、変性アミン及びフェノール類の芳香族アミンから成る群から選ばれる。
【0011】
本発明の導電膜形成方法は、対象物の表面に導電膜を形成する方法であって、前記導電性組成物から成る液膜を前記対象物の表面に形成する工程と、前記液膜を乾燥して粒子膜を形成する工程と、前記粒子膜をギ酸雰囲気下で焼成して導電膜を形成するとともに前記エポキシ樹脂を硬化する工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の導電膜形成方法は、対象物の表面に導電膜を形成する方法であって、前記導電性組成物から成る液膜を前記対象物の表面に形成する工程と、前記液膜を乾燥して粒子膜を形成する工程と、前記粒子膜が形成された前記対象物をギ酸水溶液に浸漬する工程と、前記粒子膜が形成された前記対象物を前記ギ酸水溶液から取り出して、その粒子膜上の液体を除去する工程と、前記粒子膜を不活性雰囲気下で焼成して導電膜を形成するとともに前記エポキシ樹脂を硬化する工程とをこの順に有することを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の導電性組成物は、導電性の粒子として銅ナノ粒子を用いるので、銀粒子を用いるよりも低コストである。銅は導電性に優れるので、この導電性組成物を用いることによって電気抵抗率が低い導電膜を形成することができる。この導電膜は、銅ナノ粒子から形成されるので、低い温度でも焼成が十分に進行し、電気抵抗率が低くなる。さらに、ギ酸を利用して焼成されることにより、銅ナノ粒子の表面酸化皮膜がギ酸還元され、形成される導電膜の電気抵抗率が低くなる。また、分散剤は、ギ酸によって分解反応が促進され、形成される導電膜の電気抵抗率が一層低くなる。導電膜の表層部は、ギ酸によってエポキシ樹脂の影響が小さくなり、電気抵抗率が一層低くなる。導電膜の表層部の電気抵抗率が低いので、導電膜が薄くても、空気との界面における電磁波の反射によって電磁シールド効果が高い。導電膜の対象物との界面は、導電膜の表面から遠いので、ギ酸と反応し難く、エポキシ樹脂の硬化が進行し、導電膜の密着性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(a)~(d)は本発明の第1の実施形態に係る導電性組成物を用いた導電膜形成方法を時系列に示す断面構成図である。
【
図2】
図2(a)~(f)は本発明の第2の実施形態に係る導電性組成物を用いた導電膜形成方法を時系列に示す断面構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る導電性組成物について説明する。本発明の導電性組成物は、焼成に用いるものであり、焼成後に導電性を発現する。その焼成は、焼成中又は焼成前にギ酸を利用する。第1の実施形態では、焼成中にギ酸を利用する(ギ酸雰囲気下での焼成)。
【0016】
この導電性組成物は、銅ナノ粒子と、液体の分散媒と、分散剤と、熱硬化性の有機マトリックスとを含有する。分散剤は、銅ナノ粒子を分散媒中で分散させるものである。
【0017】
分散媒は、溶剤である。溶剤とは、他の物質を溶かす物であり、常温では液体であり、蒸発させることができる。
【0018】
分散剤は、窒素原子又はリン原子を含む高分子化合物である。窒素原子とリン原子は、周期表において第15族元素(窒素族元素)であり、炭素原子と電気陰性度が異なり、有機分子の骨格において反応性に富む。
【0019】
有機マトリックスは、液状のエポキシ樹脂及び硬化剤から成る。エポキシ樹脂は、熱硬化性樹脂である。硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させる。その硬化剤は、塩基性含窒素化合物である。塩基性含窒素化合物は、窒素原子を含む塩基性の化合物である。導電性組成物における硬化剤の濃度は、エポキシ樹脂の種類及び濃度、並びに硬化剤の種類に応じて設定される。本実施形態では、硬化剤は、アミンである。硬化剤がアミンである場合、エポキシ樹脂の硬化において、硬化剤の一級アミンの活性水素とエポキシ基が反応して二級アミンを生成し、この二級アミンがエポキシ基と反応して硬化し、生成した三級アミンがエポキシ基を重合する。エポキシ樹脂に対する硬化剤の配合量は、エポキシ基と活性水素が当モルのときに最適となる。
【0020】
この導電性組成物をさらに詳述する。銅ナノ粒子は、粒径がナノオーダー、すなわちメジアン径が1nm以上1000nm未満の銅微粒子である。
【0021】
分散媒は、導電性組成物を焼成して形成される導電膜に残存しないので、導電膜の性質に影響しない。このため、分散媒は、その中に銅ナノ粒子を分散でき、かつ有機マトリックスを溶解できればよく、特定の溶剤に限定されない。本実施形態では、分散媒は、例えば、シクロヘキサノンである。シクロへキサノンは、極性非プロトン性溶剤である。分散媒は、シクロへキサノン以外の極性非プロトン性溶剤、極性プロトン性溶剤、無極性溶剤であってもよい。極性非プロトン性溶剤は、例えば、酢酸ブチル、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、α-テルピネオール、N-メチル-2-ピロリジノンである。極性プロトン性溶剤は、例えば、イソプロパノール、エタノールである。無極性溶剤は、例えば、シクロへキサン、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、トルエン、ヘプタン、n-テトラデカンである。また、分散媒は、複数種類の溶剤の混合物であってもよい。
【0022】
本実施形態では、分散剤は、アミンを有する分岐ポリエステル又はリン酸ポリエステルである。アミンは、窒素原子を有する。分岐ポリエステルは、分子に分岐構造を有するポリエステルである。リン酸ポリエステルは、リン原子(窒素族元素)を有する。
【0023】
本実施形態では、硬化剤は、イミダゾール誘導体又はフェノール類の芳香族アミンである。イミダゾール誘導体とフェノール類の芳香族アミンは、アミン、すなわち塩基性含窒素化合物である。
【0024】
この導電性組成物を用いた導電膜形成方法について
図1(a)~(d)を参照して説明する。この導電膜形成方法は、対象物の表面に導電膜を形成する方法である。対象物は、本実施形態では電子デバイスである。電子デバイスの表面は、例えば、モールド樹脂である。
【0025】
先ず、
図1(a)に示すように、対象物2が作業面3に置かれる。対象物2は、電子デバイスの場合には一般的に立体物である。本実施形態では、対象物2は、略直方体の外形を有し、上面21と複数の側面22と底面23を有する。上面21は水平面であり、各側面22は略鉛直面である。電子デバイスはプリント基板等に取り付けられて使用されるので、通常、対象物2(電子デバイス)の底面23には導電膜を形成しない。なお、対象物2の外形は、直方体に限定されず、例えば円柱や半球等であってもよい。また、対象物2は、立体物に限定されず、面状の物であってもよい。
【0026】
次に、
図1(b)に示すように、前述した導電性組成物を用い、その導電性組成物から成る液膜4を対象物2の表面に形成する。導電性組成物が接着性樹脂であるエポキシ樹脂を含有するので、液膜4は、対象物2の表面に付着する。本実施形態では、スプレー塗工によって液膜4が対象物2の表面に形成される。スプレー塗工には、例えばスプレー塗工機が用いられる。スプレー塗工で液膜4を形成することにより、スプレー角度及びノズル位置の調整によって、スパッタ等の他の塗工と比べて、側面22の液膜4の膜厚を容易に制御することができる。スプレー角度及びノズル位置は、上面21と各側面22の液膜4の膜厚がほぼ同じになるように調整される。
【0027】
次に、液膜4を乾燥して、
図1(c)に示すように、粒子膜5を形成する。液膜4の乾燥により、導電性組成物中の分散媒が蒸発し、銅ナノ粒子が凝集し、凝集体である粒子膜5が形成される。粒子膜5は、主に銅ナノ粒子から成り、分散剤とエポキシ樹脂と硬化剤を含む。粒子膜5は、エポキシ樹脂を含むので、対象物2の表面に付着している。
【0028】
次に、
図1(d)に示すように、粒子膜5をギ酸雰囲気下で焼成して導電膜1を形成する。粒子膜5の焼成は、加熱による熱焼成であり、例えば、ギ酸リフロー装置を用いて行われる。焼成において、粒子膜5中の銅ナノ粒子同士が焼結して導電膜1を形成するとともに、対象物2に密着する。導電膜1は、導電性を有する。また、焼成の熱により、粒子膜5中のエポキシ樹脂と硬化剤が化学反応し、エポキシ樹脂が硬化する。エポキシ樹脂の硬化により、導電膜1の対象物2への密着性が向上する。
【0029】
このように、第1の実施形態では、導電性組成物は、焼成中にギ酸を利用する焼成に用いられ、焼成後に導電性を発現する。
【0030】
以上、本実施形態に係る導電性組成物によれば、導電性の粒子として銅ナノ粒子を用いるので、銀粒子を用いるよりも低コストである。銅は導電性に優れるので、この導電性組成物を用いることによって形成される導電膜1は、電気抵抗率が低くなり、電磁シールド効果が高くなる。導電膜1は、薄くても、空気との界面における電磁波の反射によって電磁シールド効果が高い。
【0031】
この導電性組成物用いる導電膜形成方法において、粒子膜5は銅ナノ粒子を含むので、焼成に要する温度が低く、焼成時間が短い。このため、焼成による対象物2(電子デバイス等)への影響が小さい。また、導電膜1は、銅ナノ粒子から形成されるので、低い温度でも焼成が十分に進行し、電気抵抗率が低くなり、電磁シールド効果が高くなる。
【0032】
粒子膜5中の銅ナノ粒子は、大気中に含まれる酸素によって最表面が酸化されて、表面酸化皮膜を有する。この導電膜形成方法において、粒子膜5がギ酸雰囲気下で焼成されることにより、銅ナノ粒子の表面酸化皮膜がギ酸還元され、形成される導電膜1は、電気抵抗率が低くなり、電磁シールド効果が高くなる。
【0033】
導電性組成物中の分散剤は、その導電性組成物から成る液膜が対象物2の表面に形成されるまでは、銅ナノ粒子を分散させるために必要である。しかし、導電膜1中に残留する分散剤は、電気抵抗を高くする。分散剤は、窒素原子又はリン原子を含む高分子化合物である。窒素原子及びリン原子は、炭素原子と電気陰性度が異なり、有機分子の骨格において反応性に富む。このため、ギ酸雰囲気下での焼成時、分散剤は、分解反応が促進される。分散剤が分解されるので、形成される導電膜1は、電気抵抗率が低くなり、電磁シールド効果が高くなる。導電膜1は、薄くても、空気との界面における電磁波の反射によって電磁シールド効果が高い。
【0034】
本実施形態では、分散剤は、アミンを有する分岐ポリエステル又はリン酸ポリエステルである。分散剤がアミンを有する分岐ポリエステルである場合、アミンが塩基性であるので、酸性のギ酸と反応しやすいため、ギ酸によって分解が促進される。分散剤がリン酸ポリエステルである場合、リン酸基は酸基であるので、単なる酸塩基反応ではギ酸との関係を理解できない。形成される導電膜1の電気抵抗率が低くなることは、予測困難であり、本願の発明者は、多くの実験を行って発見した。
【0035】
導電性組成物中のエポキシ樹脂は、焼成時に硬化されて導電膜1の密着性を向上する。しかし、導電膜1中の硬化したエポキシ樹脂は、絶縁物であるので、導電膜1の電気抵抗率を高くする。このため、導電性組成物における液状のエポキシ樹脂の濃度の具体的数値は、形成される導電膜1の密着性と電気抵抗率の低さが両立するように実験に基づいて設定されるべきである。
【0036】
ところが、後述する実験結果に見られるように、エポキシ樹脂は、導電膜1の密着性と電気抵抗率がよく両立する濃度よりも多少高くしても、導電膜1の電気抵抗率にほとんど悪影響が無い(実施例1と2、実施例4と5、実施例6と7等参照)。その逆に、エポキシ樹脂は、導電膜1の密着性と電気抵抗率がよく両立する濃度よりも多少低くしても、導電膜1の電気抵抗率にあまり好影響が無い(実施例1と3参照)。
【0037】
不要輻射ノイズを放射する電子デバイス(対象物2)は高周波で動作するので、不要輻射ノイズは、高周波の電磁波である。一般的に、媒体を伝搬する電磁波は、異なる媒体の界面において、媒体のインピーダンスの違いによって反射が生じる。導電膜1は、対象物2の表面に形成され、空気中に存在する。空気は、優れた絶縁体であるので、インピーダンスが非常に高い。導電膜1は、導電性を有するのでインピーダンスが非常に低い。対象物2の表層部は、導電膜1よりインピーダンスが高い。対象物2が放射する電磁波は、インピーダンスの違いによって、対象物2と導電膜1の界面で反射され、一部が導電膜1に入射し、導電膜1内で減衰し、導電膜1と空気の界面で反射され、一部が空気中に出射される。その逆方向に、外部から対象物2に放射される電磁波は、インピーダンスの違いによって、空気と導電膜1の界面で反射され、一部が導電膜1に入射し、導電膜1内で減衰し、導電膜1と対象物2の界面で反射され、一部が対象物2に入射する。これらの反射及び減衰の現象のうち、高周波の電磁波の遮蔽において、導電膜1と空気のインピーダンスの大きな違いによる反射の寄与が極めて大きい。このため、導電膜1は、表層部の導電性が高いほど、空気との界面におけるインピーダンスの違いが大きくなり、不要輻射ノイズを遮蔽する電磁シールド効果が高くなる。
【0038】
実験結果から推論すると、ギ酸雰囲気下での焼成において、粒子膜5や導電膜1の表面近くでは、酸であるギ酸は、塩基性含窒素化合物である硬化剤を分解し、エポキシ樹脂の硬化を妨げる。さらに、ギ酸は酸性が強いためにエポキシ環を開環する。つまり、焼成において、銅ナノ粒子の焼結、エポキシ樹脂の硬化、硬化剤の分解、エポキシ樹脂の開環が並行して進行する。硬化剤の分解及びエポキシ樹脂の開環により、導電膜1の表面近くでは、エポキシ樹脂の影響が小さくなり、電気抵抗率が低くなる。導電膜1の電気抵抗率は、測定用の電極を導電膜1の表面に接触して測定するので、低い電気抵抗率が測定される。導電膜1の表層部は、電気抵抗率が低いので、空気との界面における電磁波の反射によって高周波の不要輻射ノイズに対する電磁シールドの効果が高くなる。導電膜1の対象物2との界面は、導電膜1の表面から遠いので、ギ酸と反応し難く、エポキシ樹脂の硬化が進行し、導電膜1の密着性が向上する。
【0039】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る導電性組成物について説明する。第2の実施形態の導電性組成物は、第1の実施形態と同様の組成を有する。以下の説明において、第1の実施形態と同等の箇所には同じ符号を付している。第1の実施形態と同等の箇所の詳細な説明は省略する。
【0040】
この導電性組成物は、焼成に用いるものであり、焼成後に導電性を発現する。第2の実施形態では、焼成前にギ酸を利用する(焼成前にギ酸水溶液に浸漬)。
【0041】
この導電性組成物は、銅ナノ粒子と、液体の分散媒と、分散剤と、熱硬化性の有機マトリックスとを含有する。分散剤は、銅ナノ粒子を分散媒中で分散させるものである。
【0042】
分散媒は、有機溶剤である。
【0043】
分散剤は、窒素原子又はリン原子(窒素族元素)を含む高分子化合物である。
【0044】
有機マトリックスは、液状のエポキシ樹脂及び硬化剤から成る。硬化剤は、エポキシ樹脂を硬化させる。その硬化剤は、塩基性含窒素化合物である。
【0045】
分散媒は、導電性組成物を焼成して形成される導電膜に残存しないので、導電膜の性質に影響しない。このため、分散媒は、その中に銅ナノ粒子を分散でき、かつ有機マトリックスを溶解できればよく、特定の溶剤に限定されない。本実施形態では、分散媒は、例えば、シクロヘキサノンである。シクロへキサノンは、極性非プロトン性溶剤である。分散媒は、シクロへキサノン以外の極性非プロトン性溶剤、極性プロトン性溶剤、無極性溶剤であってもよい。極性非プロトン性溶剤は、例えば、酢酸ブチル、N,N-ジメチルホルムアミド、アセトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、α-テルピネオール、N-メチル-2-ピロリジノンである。極性プロトン性溶剤は、例えば、イソプロパノール、エタノールである。無極性溶剤は、例えば、シクロへキサン、ジエチルエーテル、1,4-ジオキサン、トルエン、ヘプタン、n-テトラデカンである。また、分散媒は、複数種類の溶剤の混合物であってもよい。
【0046】
本実施形態では、分散剤は、アミンを有する分岐ポリエステル又はリン酸ポリエステルである。アミンは、窒素原子を有する。リン酸ポリエステルは、リン原子(窒素族元素)を有する。
【0047】
本実施形態では、硬化剤は、イミダゾール誘導体、変性アミン、及びフェノール類の芳香族アミンから成る群から選ばれる。それらの硬化剤は、いずれもアミン、すなわち塩基性含窒素化合物である。
【0048】
この導電性組成物を用いた導電膜形成方法について
図2(a)~(f)を参照して説明する。この導電膜形成方法は、対象物の表面に導電膜を形成する方法である。対象物は、本実施形態では電子デバイスである。
【0049】
先ず、
図2(a)に示すように、対象物2が作業面3に置かれる。本実施形態では、作業面3は、作業用の板30の上面である。
【0050】
次に、
図2(b)に示すように、第2の実施形態の導電性組成物を用い、その導電性組成物から成る液膜4を対象物2の表面に形成する。導電性組成物が接着性樹脂であるエポキシ樹脂を含有するので、液膜4は、対象物2の表面に付着する。本実施形態では、スプレー塗工によって液膜4が対象物2の表面に形成される。スプレー塗工には、例えばスプレー塗工機が用いられる。スプレー塗工で液膜4を形成することにより、スプレー角度及びノズル位置の調整によって、スパッタ等の他の塗工と比べて、側面22の液膜4の膜厚を容易に制御することができる。スプレー角度及びノズル位置は、上面21と各側面22の液膜4の膜厚がほぼ同じになるように調整される。
【0051】
次に、液膜4を乾燥して、
図2(c)に示すように、粒子膜5を形成する。液膜4の乾燥により、導電性組成物中の分散媒が蒸発し、銅ナノ粒子が凝集し、凝集体である粒子膜5が形成される。粒子膜5は、主に銅ナノ粒子から成り、分散剤とエポキシ樹脂と硬化剤を含む。粒子膜5は、エポキシ樹脂を含むので、対象物2の表面に付着している。
【0052】
次に、
図2(d)に示すように、粒子膜5が形成された対象物2をギ酸水溶液6に浸漬する。ギ酸水溶液6は、粒子膜5に含まれる分散剤を溶解する。
【0053】
次に、
図2(e)に示すように、粒子膜5が形成された対象物2をギ酸水溶液6から取り出して、その粒子膜5上の液体を除去する。本実施形態では、粒子膜5上の液体を気吹き除去する。粒子膜5上の液体を除去する手段は、気吹き除去に限定されない。例えば、対象物2に遠心力等の加速度を加えて粒子膜5上の液体を除去してもよい。除去される液体は、分散剤が溶解したギ酸水溶液である。なお、粒子膜5を乾燥しても、液体中の水分が蒸発するだけであるので、液体中の分散剤が残り、液体を除去したことにはならない。
【0054】
次に、
図2(f)に示すように、粒子膜5を不活性雰囲気下で焼成して導電膜1を形成する。粒子膜5の焼成は、加熱による熱焼成である。不活性雰囲気は、例えば窒素雰囲気である。焼成において、粒子膜5中の銅ナノ粒子同士が焼結して導電膜1を形成するとともに、対象物2に密着する。導電膜1は、導電性を有する。また、焼成の熱により、粒子膜5中のエポキシ樹脂と硬化剤が化学反応し、エポキシ樹脂が硬化する。エポキシ樹脂の硬化により、導電膜1の対象物2への密着性が向上する。
【0055】
このように、第2の実施形態では、導電性組成物は、焼成前にギ酸を利用する焼成に用いられ、焼成後に導電性を発現する。
【0056】
以上、本実施形態に係る導電性組成物によれば、導電性の粒子として銅ナノ粒子を用いるので、銀粒子を用いるよりも低コストである。銅は導電性に優れるので、この導電性組成物を用いることによって形成される導電膜1は、電気抵抗率が低くなり、電磁シールド効果が高くなる。
【0057】
この導電性組成物用いる導電膜形成方法において、粒子膜5は銅ナノ粒子を含むので、焼成に要する温度が低く、焼成時間が短い。このため、焼成による対象物2(電子デバイス等)への影響が小さい。また、導電膜1は、銅ナノ粒子から形成されるので、低い温度でも焼成が十分に進行し、電気抵抗率が低くなり、電磁シールド効果が高くなる。
【0058】
粒子膜5中の銅ナノ粒子は、大気中に含まれる酸素によって最表面が酸化されて、表面酸化皮膜を有する。この導電膜形成方法において、焼成前に粒子膜5がギ酸水溶液6に浸漬されるので、銅ナノ粒子の表面酸化皮膜がギ酸還元され、形成される導電膜1は、電気抵抗率が低くなり、電磁シールド効果が高くなる。
【0059】
導電性組成物中の分散剤は、その導電性組成物から成る液膜が対象物2の表面に形成されるまでは、銅ナノ粒子を分散させるために必要である。しかし、導電膜1中に残留する分散剤は、電気抵抗を高くする。本実施形態では、分散剤は、アミンを有する分岐ポリエステル又はリン酸ポリエステルである。
【0060】
分散剤がアミンを有する分岐ポリエステルである場合、アミンが塩基性であるので、酸性のギ酸と反応しやすいため、ギ酸水溶液6に溶解しやすい。分散剤が導電性組成物から溶出するので、形成される導電膜1は、電気抵抗率が低くなり、電磁シールド効果が高くなる。導電膜1は、薄くても、空気との界面における電磁波の反射によって電磁シールド効果が高い。
【0061】
分散剤がリン酸ポリエステルである場合、リン酸基は酸基であるので、単なる酸塩基反応ではギ酸水溶液6との関係を理解できない。形成される導電膜1の電気抵抗率が低くなることは、予測困難であり、本願の発明者は、多くの実験を行って発見した。
【0062】
ギ酸が硬化剤の塩基性含窒素化合物と反応して塩ができると、リン酸は、ギ酸より酸解離定数が大きいので、ギ酸の塩からギ酸を遊離してリン酸の塩を作る。このため、分散剤が導電性組成物からギ酸水溶液6中に溶出しやすくなる可能性が考えられる。なお、この推論は、実験結果を説明するための一説であり、本願発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0063】
第2の実施形態における導電性組成物中のエポキシ樹脂については、第1の実施形態と同様に推論される。焼成前にギ酸水溶液に浸漬されることにより、粒子膜5の表面近くでは、酸であるギ酸は、塩基性含窒素化合物である硬化剤を分解する。さらに、ギ酸は酸性が強いためにエポキシ環を開環する。このため、焼成後、導電膜1の表面近くでは、エポキシ樹脂の影響が小さくなり、電気抵抗率が低くなる。導電膜1の電気抵抗率は、測定用の電極を導電膜1の表面に接触して測定するので、低い電気抵抗率が測定される。導電膜1の表層部は、電気抵抗率が低いので、空気との界面における電磁波の反射によって高周波の不要輻射ノイズに対する電磁シールドの効果が高くなる。粒子膜5の対象物2との界面は、粒子膜5の表面から遠いので、ギ酸と反応し難く、エポキシ樹脂の硬化が進行し、導電膜1の密着性が向上する。
【0064】
本発明の第1の実施形態の実施例としての導電性組成物、及び比較のための導電性組成物を作り、その導電性組成物を用いて導電膜の形成を試みた。導電性組成物は以下の方法で作った。銅ナノ粒子として、メジアン径が40~50nmの銅の球状粒子を用いた。各実験条件にしたがって、測りとった分散剤、エポキシ樹脂及び硬化剤を分散媒に溶かし、それに銅ナノ粒子を分散させた。そして、作った導電性組成物を対象物の表面にスプレー塗工した。そして、導電性組成物の液膜を乾燥し、粒子膜を形成した。そして、粒子膜をギ酸雰囲気下で焼成した。そして、形成した導電膜の対象物への密着性と、体積抵抗率を評価した。
【0065】
密着性の評価は、ASTM規格D2259にしたがって行った。その規格では、導電膜1に縦6本×横6本の切り込みを入れて、2mm×2mmサイズの25マスを作り、テープ剥離試験を行い、剥離した領域の割合で「0B」から「5B」までの6段階の等級付けを行う。
【実施例0066】
分散媒は、シクロヘキサノンとした(実施例1~23、比較例1~3において同じ)。銅ナノ粒子の濃度は、導電性組成物全体に対して(以下、質量%において同様)37.4質量%とした。分散剤は、アミンを有する分岐ポリエステル(BYK社製、商品名「DISPERBYK(登録商標)-2155」)であり、その濃度は1.5質量%とした。エポキシ樹脂は、常温で液状のエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名「YX7105」)であり、その濃度は2.8質量%とした。硬化剤は、フェノール類の芳香族アミンであるトリスジメチルアミノメチルフェノール(三菱ケミカル株式会社製、商品名「jERキュア(登録商標)3010」)であり、その濃度は3.63質量%とした。焼成温度は150℃とした(実施例1~39、比較例1~3において同じ)。
【0067】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率(体積抵抗率)は、2.0×10―4Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0068】
銅ナノ粒子の濃度は、実施例1とほぼ同じ35.9質量%とした。分散剤は、実施例1と同じ物であり、その濃度は実施例1とほぼ同じ1.4質量%とした。エポキシ樹脂は、実施例1と同じ物であり、その濃度は実施例1より高い4.5質量%とした。硬化剤は、実施例1と同じ物であり、その濃度は5.79質量%とした。
【0069】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、1.1×10―4Ω・cmであった。
【0070】
すなわち、実施例2では、エポキシ樹脂の濃度を実施例1の1.6倍に増やしたが、形成された導電膜の電気抵抗率は増えなかった。これは、一見意外な結果であるが、前述したように、ギ酸の作用によって導電膜の表層部はエポキシ樹脂の影響を受け難いためと推定される。なお、電気抵抗率が若干減少したのは、ばらつきの範囲と思われる。
【実施例0071】
銅ナノ粒子の濃度は、実施例1とほぼ同じ39.1質量%とした。分散剤は、実施例1と同じ物であり、その濃度は実施例1とほぼ同じ1.6質量%とした。エポキシ樹脂は、実施例1と同じ物であり、その濃度は実施例1より低い1.0質量%とした。硬化剤は、実施例1と同じ物であり、その濃度は1.26質量%とした。
【0072】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは、ASTM規格D2259の等級3Bであった。等級3Bは、剥離したマスが5%から15%の範囲内である。実際に導電膜を電磁シールドとして使用する場合、導電膜に細かな切り込みを入れないので、この程度の密着性があれば使用可能性が高い。導電膜の電気抵抗率は、1.7×10―4Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0073】
すなわち、実施例3では、エポキシ樹脂の濃度を実施例1より顕著に減らしたことによって、導電膜の密着性が劣る結果となった。また、実施例3では、エポキシ樹脂の濃度を実施例1の0.36倍に減らしたが、形成された導電膜の電気抵抗率は、0.85倍にしか低くならなかった。導電膜の電気抵抗率の測定は、剥離試験とは独立に行ったので、マスの一部剥離によって電気抵抗率が増えたのではない。前述したように、ギ酸の作用によって導電膜の表層部はエポキシ樹脂の影響を受け難いためと推定される。
【0074】
(比較例1)
比較例として、エポキシ樹脂の濃度を実施例3よりさらに低くし、導電性組成物に実質的にエポキシ樹脂が含まれているといえないような低濃度の実験を行った。銅ナノ粒子の濃度は、実施例3とほぼ同じ39.5質量%とした。分散剤は、実施例1~3と同じ物であり、その濃度は実施例3と同じ1.6質量%とした。エポキシ樹脂は、実施例1~3と同じ物であり、その濃度は実施例3よりさらに低い0.5質量%とした。硬化剤は、実施例1~3と同じ物であり、その濃度は0.64質量%とした。
【0075】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは、ASTM規格D2259の等級0Bであった。等級0Bは、剥離したマスが65%超である。
【0076】
すなわち、導電性組成物に実質的にエポキシ樹脂が含まれているといえないような低濃度では、導電膜の密着性が得られないことが確認された。なお、比較例1の結果から、エポキシ樹脂の濃度を完全に0にしても、導電膜の密着性が得られない。絶縁物であるエポキシ樹脂の濃度の具体的な値は、エポキシ樹脂による導電膜の対象物との密着性と、低い電気抵抗率による電磁シールド効果が両立するように設定されることが望ましい(設計的事項)。
【実施例0077】
銅ナノ粒子の濃度は、実施例1とほぼ同じ38.4質量%とした。分散剤は、実施例1と同じ物であり、その濃度は実施例1と同じ1.5質量%とした。エポキシ樹脂は、実施例1と同じ物であり、その濃度は実施例1とほぼ同じ2.9質量%とした。硬化剤は、イミダゾール誘導体(三菱ケミカル株式会社製、商品名「jERキュア(登録商標)P200H50」)であり、その濃度は0.99質量%とした。
【0078】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、1.5×10―3Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0079】
すなわち、硬化剤をイミダゾール誘導体にかえても、電子デバイスの電磁シールドに適した導電膜が形成された。
【実施例0080】
銅ナノ粒子の濃度は、実施例4とほぼ同じ37.5質量%とした。分散剤は、実施例4と同じ物であり、その濃度は実施例4と同じ1.5質量%とした。エポキシ樹脂は、実施例4と同じ物であり、その濃度は実施例4より高い4.7質量%とした。硬化剤は、実施例4と同じ物であり、その濃度は1.61質量%とした。
【0081】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、5.8×10―4Ω・cmであった。
【0082】
すなわち、実施例5では、エポキシ樹脂の濃度を実施例4の1.6倍に増やしたが、形成された導電膜の電気抵抗率は増えなかった。つまり、実施例4に対する実施例5の傾向は、実施例1に対する実施例2の傾向と同様であった。これは、ギ酸の作用によって導電膜の表層部はエポキシ樹脂の影響を受け難いためと推定される。なお、電気抵抗率が減少したのは、ばらつきの範囲と思われるが、反応物の濃度が高いほど反応速度が大きくなることも一因であると思われる。
【実施例0083】
銅ナノ粒子の濃度は、実施例1、4とほぼ同じ37.9質量%とした。分散剤は、実施例1、4と同じ物であり、その濃度は実施例1、4と同じ1.5質量%とした。エポキシ樹脂は、常温で液状のエポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名「828」)であり、その濃度は実施例1と同じ2.8質量%とした。硬化剤は、実施例4と同じ物であり、その濃度は2.48質量%とした。
【0084】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、3.7×10―3Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0085】
すなわち、異なるエポキシ樹脂を用いても、電子デバイスの電磁シールドに適した導電膜が形成された。
【実施例0086】
銅ナノ粒子の濃度は、実施例6とほぼ同じ36.6質量%とした。分散剤は、実施例6と同じ物であり、その濃度は実施例6と同じ1.5質量%とした。エポキシ樹脂は、実施例6と同じ物であり、その濃度は実施例6より高い4.6質量%とした。硬化剤は、実施例6と同じ物であり、その濃度は3.99質量%とした。
【0087】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、2.7×10―3Ω・cmであった。
【0088】
すなわち、実施例7では、エポキシ樹脂の濃度を実施例6の1.6倍に増やしたが、形成された導電膜の電気抵抗率は増えなかった。つまり、実施例6に対する実施例7の傾向は、実施例1に対する実施例2の傾向と同様であった。これは、ギ酸の作用によって導電膜の表層部はエポキシ樹脂の影響を受け難いためと推定される。なお、電気抵抗率が若干減少したのは、ばらつきの範囲と思われる。
【実施例0089】
銅ナノ粒子の濃度は、実施例1、6とほぼ同じ37.8質量%とした。分散剤は、実施例1、6と同じ物であり、その濃度は実施例1、6と同じ1.5質量%とした。エポキシ樹脂は、常温で液状のフェノールノボラック型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社製、商品名「152」)であり、その濃度は実施例1、6と同じ2.8質量%とした。硬化剤は、実施例6と同じ物であり、その濃度は2.67質量%とした。
【0090】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、5.5×10―3Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0091】
すなわち、型(タイプ)が異なるエポキシ樹脂を用いても、電子デバイスの電磁シールドに適した導電膜が形成された。
【実施例0092】
銅ナノ粒子の濃度は、実施例8とほぼ同じ36.5質量%とした。分散剤は、実施例8と同じ物であり、その濃度は実施例8と同じ1.5質量%とした。エポキシ樹脂は、実施例8と同じ物であり、その濃度は実施例8より高い4.6質量%とした。硬化剤は、実施例8と同じ物であり、その濃度は4.30質量%とした。
【0093】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、6.2×10―3Ω・cmであった。
【0094】
すなわち、実施例9では、エポキシ樹脂の濃度を実施例8の1.6倍に増やしたが、形成された導電膜の電気抵抗率は1.1倍にしか増えなかった。これは、ギ酸の作用によって導電膜の表層部はエポキシ樹脂の影響を受け難いためと推定される。
【0095】
(比較例2)
比較例として、エポキシ樹脂を用いず、代わりにフェノール樹脂を用いた。フェノール樹脂に硬化剤は不要である。銅ナノ粒子の濃度は、実施例1とほぼ同じ40質量%とした。分散剤は、実施例1と同じ物であり、その濃度は実施例1とほぼ同じ1.6質量%とした。熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用い、その濃度は実施例1とほぼ同じ3質量%とした。
【0096】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは、ASTM規格D2259の等級0Bであった。等級0Bは、剥離したマスが65%超である。
【0097】
すなわち、導電性組成物に実質的にエポキシ樹脂が含まれず、代わりにフェノール樹脂を含む場合、導電膜の密着性が得られなかった。
【0098】
本発明の第2の実施形態の実施例としての導電性組成物、及び比較のための導電性組成物を作り、その導電性組成物を用いて導電膜の形成を試みた。導電性組成物は、第1の実施形態と同じ方法で作った。対象物は、第1の実施形態と同様の物を用いた。そして、作った導電性組成物を対象物の表面にスプレー塗工した。そして、導電性組成物の液膜をホットプレートにて80℃で1分間乾燥し、粒子膜を形成した。そして、粒子膜が形成された対象物を3質量%のギ酸水溶液に浸漬した。そして、粒子膜が形成された対象物をギ酸水溶液から取り出して、粒子膜上の液体をブロアーで気吹き除去した。そして、粒子膜を窒素雰囲気下で焼成した。そして、形成した導電膜の対象物への密着性と、体積抵抗率を評価した。
【実施例0099】
銅ナノ粒子の濃度は、実施例1とほぼ同じ38質量%とした(以下、実施例18以外の実施例及び比較例3においても同じ)。分散剤は、リン酸ポリエステル(BYK社製、商品名「DISPERBYK(登録商標)-111」)であり、その濃度は2質量%とした(以下、実施例11~15において同じ分散剤、2質量%)。エポキシ樹脂は、実施例1と同じ物であり、その濃度は実施例1とほぼ同じ3質量%とした。硬化剤は、イミダゾール誘導体(株式会社ADEKA製、商品名「アデカハードナー(登録商標)EH-2021」)であり、その濃度は1質量%とした。
【0100】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、25μΩ・cm(25×10―6Ω・cm)であり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0101】
すなわち、焼成前に粒子膜をギ酸水溶液に浸漬することにより、電気抵抗率が低い導電膜が形成された。その電気抵抗率は、ギ酸雰囲気下で焼成を行う実施例1~9(第1の実施形態)よりも低かった。
【実施例0102】
エポキシ樹脂は、実施例10と同じ物、同じ濃度とした。硬化剤は、変性アミン(株式会社T&K TOKA製、商品名「フジキュアー(登録商標)7001」)であり、その濃度は1質量%とした。
【0103】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、20μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0104】
すなわち、硬化剤として変性アミンを用いても、電子デバイスの電磁シールドに適した導電膜が形成された。
【実施例0105】
エポキシ樹脂は、実施例10と同じ物、同じ濃度とした。硬化剤は、実施例10と異なり、実施例4~9と同じイミダゾール誘導体であり、その濃度は1質量%とした。
【0106】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、51μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0107】
すなわち、硬化剤として異なるイミダゾール誘導体を用いても、電子デバイスの電磁シールドに適した導電膜が形成された。
【実施例0108】
エポキシ樹脂は、実施例10~12と異なり、実施例6、7と同じ物であり、その濃度は3質量%とした。硬化剤は、実施例10と同じイミダゾール誘導体であり、その濃度は3質量%とした。
【0109】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、94μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0110】
すなわち、異なるエポキシ樹脂を用いても、電子デバイスの電磁シールドに適した導電膜が形成された。
【実施例0111】
エポキシ樹脂は、実施例13と同じ物であり、その濃度は実施例13と同じ3質量%とした。硬化剤は、実施例11と同じ変性アミンであり、その濃度は2質量%とした。
【0112】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、36μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0113】
エポキシ樹脂は、実施例13、14と同じ物であり、その濃度は実施例13、14と同じ3質量%とした。硬化剤は、実施例12と同じイミダゾール誘導体であり、その濃度は2質量%とした。
【0114】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、222μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0115】
分散剤は、実施例1~9と同じ分岐ポリエステルであり、その濃度は2質量%とした(以下、実施例18以外の実施例及び比較例3において同じ分散媒、2質量%)。エポキシ樹脂は、実施例13~15と同じ物であり、その濃度は実施例13~15と同じ3質量%とした。硬化剤は、実施例14と同じ変性アミンであり、その濃度は2質量%とした。
【0116】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、107μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0117】
すなわち、分散剤として分岐ポリエステルを用いても、電子デバイスの電磁シールドに適した導電膜が形成された。
【実施例0118】
エポキシ樹脂は、実施例10~12と同じ物であり、その濃度は実施例10~12と同じ3質量%とした(実施例17~22及び比較例3において同じエポキシ樹脂、3質量%)。硬化剤は、実施例10と同じイミダゾール誘導体であり、その濃度は実施例10と同じ1質量%とした。
【0119】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、60μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0120】
銅ナノ粒子の濃度は、実施例16、17とほぼ同じ37質量%とした。分散剤は、実施例16、17と同じ分岐ポリエステルであり、その濃度は1質量%とした。硬化剤は、実施例1~3と同じトリスジメチルアミノメチルフェノールであり、その濃度は4質量%とした。
【0121】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、30μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0122】
すなわち、第2の実施形態において硬化剤としてトリスジメチルアミノメチルフェノールを用いても、電子デバイスの電磁シールドに適した導電膜が形成された。
【実施例0123】
硬化剤は、変性アミン(株式会社T&K TOKA製、商品名「フジキュアー(登録商標)FXR-1030」)であり、その濃度は1質量%とした。
【0124】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、72μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0125】
硬化剤は、変性アミン(株式会社T&K TOKA製、商品名「フジキュアー(登録商標)7000」)であり、その濃度は1質量%とした。
【0126】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、65μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0127】
硬化剤は、実施例16と同じ変性アミンであり、その濃度は実施例16と同じ1質量%とした。
【0128】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、88μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0129】
硬化剤は、変性アミン(三菱ケミカル株式会社製、商品名「jERキュア(登録商標)ST12」)であり、その濃度は2質量%とした。
【0130】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、110μΩ・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0131】
(比較例3)
比較例として、硬化剤にアミンを用いず、代わりにチオールを用いた。チオールは、硫黄原子を有する有機化合物である。硬化剤は、チオールである3-メルカプトプロピオネート(三菱ケミカル株式会社製、商品名「jERキュア(登録商標)QX40」)であり、その濃度は1質量%とした。
【0132】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無かった(ASTM規格D2259の等級5B)。しかし、導電膜の電気抵抗率は、高過ぎて測定不能であった。
【0133】
硬化剤がアミンでなかったため、粒子膜中の硬化剤がギ酸と反応せず、硬化したエポキシ樹脂が導電膜の全体に残留し、導電膜の表層部の電気抵抗率が低くならなかったと推定される。
【実施例0134】
前述した第1の実施形態の実施例1~9では、分散剤は、窒素原子(第2周期の窒素族元素)を有する高分子化合物とした。第1の実施形態の実施例として、分散剤にリン原子(第3周期の窒素族元素)を有する高分子化合物を用いて同様の実験を行った。
【0135】
分散剤は、実施例10と同じリン酸ポリエステルとし、その濃度は1.5質量%とした。それ以外の実験条件(分散媒、銅ナノ粒子の濃度、エポキシ樹脂とその濃度、硬化剤とその濃度、焼成温度等)は、実施例1と同じとした。
【0136】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは無く、優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。導電膜の電気抵抗率は、2.0×10―4Ω・cmであり、実施例1と同様の低い値であった。
【実施例0137】
第1の実施形態の実施例1~9、23では、分散媒は、シクロヘキサノン(極性非プロトン性溶剤)とした。分散媒は、その中に銅ナノ粒子を分散でき、かつ有機マトリックスを溶解できればよい。そこで、第1の実施形態の実施例として、分散媒をかえて同様の実験を行った。
【0138】
分散媒は、シクロへキサンとした。シクロヘキサンは、無極性溶剤である。それ以外の実験条件(銅ナノ粒子の濃度、分散剤とその濃度、エポキシ樹脂とその濃度、硬化剤とその濃度、焼成温度等)は、実施例1と同じとした。
【0139】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.0×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0140】
分散媒は、酢酸ブチルとした。酢酸ブチルは、極性非プロトン性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0141】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.2×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0142】
分散媒は、ジエチルエーテルとした。ジエチルエーテルは、無極性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0143】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.0×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0144】
分散媒は、1,4-ジオキサンとした。1,4-ジオキサンは、無極性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0145】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.5×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0146】
分散媒は、トルエンとした。トルエンは、無極性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0147】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.3×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0148】
分散媒は、ヘプタンとした。ヘプタンは、無極性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0149】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.2×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0150】
分散媒は、n-テトラデカンとした。n-テトラデカンは、無極性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0151】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、4.0×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0152】
分散媒は、N,N-ジメチルホルムアミドとした。N,N-ジメチルホルムアミドは、極性非プロトン性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0153】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.8×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0154】
分散媒は、アセトンとした。アセトンは、極性非プロトン性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0155】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.1×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0156】
分散媒は、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMA)とした。プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートは、極性非プロトン性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0157】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.7×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0158】
分散媒は、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PM)とした。プロピレングリコールモノメチルエーテルは、極性非プロトン性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0159】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.2×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0160】
分散媒は、テトラヒドロフラン(THF)とした。テトラヒドロフランは、極性非プロトン性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0161】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.9×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0162】
分散媒は、α-テルピネオールとした。α-テルピネオールは、極性非プロトン性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0163】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.5×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0164】
分散媒は、N-メチル-2-ピロリジノン(NMP)とした。N-メチル-2-ピロリジノンは、極性非プロトン性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0165】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.7×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0166】
分散媒は、イソプロパノール(2-プロパノール)とした。イソプロパノールは、極性プロトン性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0167】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.3×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【実施例0168】
分散媒は、エタノールとした。エタノールは、極性プロトン性溶剤である。それ以外の実験条件は、実施例1と同じとした。
【0169】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、3.5×10―5Ω・cmであり、電子デバイスの電磁シールドに適した低い値であった。
【0170】
分散媒をかえた実施例24~39において、分散媒として、無極性溶剤、極性非プロトン性溶剤、極性溶剤のいずれも用いることができた。形成された導電膜は、いずれも優れた密着性を示した(ASTM規格D2259の等級5B)。それらの導電膜の電気抵抗率(体積抵抗率)は、3.0×10―5Ω・cmから4.0×10―5Ω・cmの範囲内であり、大差無かった。分散媒の液膜を乾燥して粒子膜を形成する乾燥工程と、その粒子膜を焼成して導電膜を形成する焼成工程において分散媒が蒸発するからである。なお、本発明の第1の実施形態だけでなく、第2の実施形態も同様の乾燥工程と焼成工程を有する。
【0171】
実施例1~39では、焼成温度は、150℃とした。焼成温度の影響を調べるために、第1の実施形態の実施例として、焼成温度をかえて同様の実験を行った。
【実施例0172】
焼成温度は、実施例1の150℃よりも高い200℃とした。それ以外の実験条件(分散媒、銅ナノ粒子の濃度、分散剤とその濃度、エポキシ樹脂とその濃度、硬化剤とその濃度等)は、実施例1と同じとした。
【0173】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、実施例1よりも低い2.0×10―5Ω・cmであった。
【実施例0174】
焼成温度は、実施例40よりもさらに高い250℃とした。それ以外の実験条件(分散媒、銅ナノ粒子の濃度、分散剤とその濃度、エポキシ樹脂とその濃度、硬化剤とその濃度等)は、実施例40と同じとした。
【0175】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜の密着性は、実施例1と同じ等級5Bであった。導電膜の電気抵抗率は、実施例40よりもさらに低い1.2×10―5Ω・cmであった。
【0176】
実施例1(焼成温度150℃、電気抵抗率2.0×10―4Ω・cm)、実施例40(焼成温度200℃、電気抵抗率2.0×10―5Ω・cm)、実施例41(焼成温度250℃、電気抵抗率1.2×10―5Ω・cm)を比較すると、焼成温度が高いほど形成された導電膜の電気抵抗率が低かった。ただし、高い焼成温度は、対象物(電子デバイス)への熱影響が懸念される。焼成温度は、導電膜を形成する対象物の耐熱性を考慮して設定することが望ましい。
【0177】
(比較例4)
焼成工程における加熱温度を実施例1の焼成温度150℃よりも低い100℃とした。100℃は、水の沸点と同じである。それ以外の実験条件(分散媒、銅ナノ粒子の濃度、分散剤とその濃度、エポキシ樹脂とその濃度、硬化剤とその濃度等)は、実施例1と同じとした。
【0178】
焼成後、導電膜が形成された。導電膜のテープ剥離試験で剥離したマスは、ASTM規格D2259の等級0Bであった。等級0Bは、剥離したマスが65%超である。導電膜の電気抵抗率は、実施例1よりも約1桁高い2.5×10―3Ω・cmであった。すなわち、加熱温度を焼成温度とは言い難いほど低くした場合、導電膜が形成されても、導電膜の密着性が得られず、導電膜の電気抵抗率が高かった。
【0179】
なお、本発明は、上記の実施形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、導電膜形成方法において、対象物2を作業面3に置かずに、対象物2の底部やリード線等を工具等で保持してもよい。また、対象物2は、電子デバイスに限定されない。また、対象物2の底面に導電膜1を形成してもよい。
【符号の説明】
【0180】
1 導電膜
4 液膜
5 粒子膜
6 導電膜
【手続補正書】
【提出日】2023-11-24
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項1
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項1】
焼成後に導電性を発現する導電性組成物であって、
銅ナノ粒子と、液体の分散媒と、前記銅ナノ粒子を前記分散媒中で分散させる分散剤と、熱硬化性の有機マトリックスとを含有し、
前記分散剤は、窒素原子又はリン原子を含む高分子化合物であり、
前記有機マトリックスは、液状のエポキシ樹脂、及びそのエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤から成り、
前記硬化剤は、塩基性含窒素化合物であり、
前記銅ナノ粒子の濃度は、該導電性組成物全体に対して35.9質量%以上であり、
前記エポキシ樹脂の濃度は、該導電性組成物全体に対して1.0質量%以上かつ4.7質量%以下であることを特徴とする導電性組成物。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項5
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項5】
焼成後に導電性を発現する導電性組成物を用いて対象物の表面に導電膜を形成する導電膜形成方法であって、
前記導電性組成物は、銅ナノ粒子と、液体の分散媒と、前記銅ナノ粒子を前記分散媒中で分散させる分散剤と、熱硬化性の有機マトリックスとを含有し、
前記分散剤は、窒素原子又はリン原子を含む高分子化合物であり、
前記有機マトリックスは、液状のエポキシ樹脂、及びそのエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤から成り、
前記硬化剤は、塩基性含窒素化合物であり、
該方法は、前記導電性組成物から成る液膜を前記対象物の表面に形成する工程と、
前記液膜を乾燥して粒子膜を形成する工程と、
前記粒子膜をギ酸雰囲気下で焼成して導電膜を形成するとともに前記エポキシ樹脂を硬化する工程とを有することを特徴とする導電膜形成方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項6
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項6】
焼成後に導電性を発現する導電性組成物を用いて対象物の表面に導電膜を形成する導電膜形成方法であって、
前記導電性組成物は、銅ナノ粒子と、液体の分散媒と、前記銅ナノ粒子を前記分散媒中で分散させる分散剤と、熱硬化性の有機マトリックスとを含有し、
前記分散剤は、窒素原子又はリン原子を含む高分子化合物であり、
前記有機マトリックスは、液状のエポキシ樹脂、及びそのエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤から成り、
前記硬化剤は、塩基性含窒素化合物であり、
該方法は、前記導電性組成物から成る液膜を前記対象物の表面に形成する工程と、
前記液膜を乾燥して粒子膜を形成する工程と、
前記粒子膜が形成された前記対象物をギ酸水溶液に浸漬する工程と、
前記粒子膜が形成された前記対象物を前記ギ酸水溶液から取り出して、その粒子膜上の液体を除去する工程と、
前記粒子膜を不活性雰囲気下で焼成して導電膜を形成するとともに前記エポキシ樹脂を硬化する工程とをこの順に有することを特徴とする導電膜形成方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-03-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼成後に導電性を発現する導電性組成物を用いて対象物の表面に導電膜を形成する導電膜形成方法であって、
前記導電性組成物は、銅ナノ粒子と、液体の分散媒と、前記銅ナノ粒子を前記分散媒中で分散させる分散剤と、熱硬化性の有機マトリックスとを含有し、
前記分散剤は、窒素原子又はリン原子を含む高分子化合物であり、
前記有機マトリックスは、液状のエポキシ樹脂、及びそのエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤から成り、
前記硬化剤は、塩基性含窒素化合物であり、
該方法は、前記導電性組成物から成る液膜を前記対象物の表面に形成する工程と、
前記液膜を乾燥して粒子膜を形成する工程と、
前記粒子膜をギ酸雰囲気下で焼成して導電膜を形成するとともに前記エポキシ樹脂を硬化する工程とを有することを特徴とする導電膜形成方法。
【請求項2】
焼成後に導電性を発現する導電性組成物を用いて対象物の表面に導電膜を形成する導電膜形成方法であって、
前記導電性組成物は、銅ナノ粒子と、液体の分散媒と、前記銅ナノ粒子を前記分散媒中で分散させる分散剤と、熱硬化性の有機マトリックスとを含有し、
前記分散剤は、窒素原子又はリン原子を含む高分子化合物であり、
前記有機マトリックスは、液状のエポキシ樹脂、及びそのエポキシ樹脂を硬化させる硬化剤から成り、
前記硬化剤は、塩基性含窒素化合物であり、
該方法は、前記導電性組成物から成る液膜を前記対象物の表面に形成する工程と、
前記液膜を乾燥して粒子膜を形成する工程と、
前記粒子膜が形成された前記対象物をギ酸水溶液に浸漬する工程と、
前記粒子膜が形成された前記対象物を前記ギ酸水溶液から取り出して、その粒子膜上の液体を除去する工程と、
前記粒子膜を不活性雰囲気下で焼成して導電膜を形成するとともに前記エポキシ樹脂を硬化する工程とをこの順に有することを特徴とする導電膜形成方法。
【請求項3】
前記銅ナノ粒子の濃度は、前記導電性組成物全体に対して35.9質量%以上かつ39.1質量%以下であり、
前記エポキシ樹脂の濃度は、前記導電性組成物全体に対して1.0質量%以上かつ4.7質量%以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電膜形成方法。
【請求項4】
前記分散剤は、アミンを有する分岐ポリエステル又はリン酸ポリエステルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電膜形成方法。
【請求項5】
前記硬化剤は、アミンであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の導電膜形成方法。
【請求項6】
前記硬化剤は、イミダゾール誘導体、変性アミン及びフェノール類の芳香族アミンから成る群から選ばれることを特徴とする請求項5に記載の導電膜形成方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0115
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0115】
分散剤は、実施例1~9と同じ分岐ポリエステルであり、その濃度は2質量%とした(以下、実施例18以外の実施例及び比較例3において同じ分散剤、2質量%)。エポキシ樹脂は、実施例13~15と同じ物であり、その濃度は実施例13~15と同じ3質量%とした。硬化剤は、実施例14と同じ変性アミンであり、その濃度は2質量%とした。
2