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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082883
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】制振部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/02 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
F16F15/02 Q
F16F15/02 S
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197071
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000155366
【氏名又は名称】株式会社木村鋳造所
(74)【代理人】
【識別番号】100102048
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 光司
(74)【代理人】
【識別番号】100146503
【弁理士】
【氏名又は名称】高尾 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】菊池 直晃
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AC02
3J048AD05
3J048BD04
3J048BD06
3J048BD07
(57)【要約】
【課題】 アスファルト混合物に含まれる骨材の離脱を防ぎ制振性能を維持可能な制振部材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】振動が伝達される機械器具、輸送機器、音響機器及びこれらの部品の空間に骨材とアスファルトを混錬して作成したアスファルト混合物を充填してある制振部材である。アスファルト混合物は充填後非圧縮であり、アスファルト割合(x)と骨材の比表面積(y)との関係が下式(1)~(3)で示される範囲に含まれるアスファルト混合物を充填してある。
y≦-0.104x2+18.4x-170 ・・・(1)
y≦-15.4x+1490 ・・・(2)
y>0 ・・・(3)
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動が伝達される機械器具、輸送機器、音響機器又はこれらの部品である母材の空間に骨材とアスファルトを混錬して作成したアスファルト混合物を充填してある制振部材であって、
前記アスファルト混合物は充填後非圧縮であり、
アスファルト割合(x)と骨材の比表面積(y)との関係が下式(1)~(3)で示される範囲に含まれるアスファルト混合物を充填してある制振部材。

y≦-0.104x2+18.4x-170 ・・・(1)
y≦-15.4x+1490 ・・・(2)
y>0 ・・・(3)
【請求項2】
前記アスファルト割合(x)と前記骨材の比表面積(y)との関係がさらに下式(4)で示される範囲に含まれるアスファルト混合物を充填してある請求項1記載の制振部材。
y≧-0.128x2+21.7x-472 ・・・(4)
【請求項3】
前記母材の空間は外部に連通する開口を有しており、開口近傍の前記アスファルト混合物の表層に前記アスファルトとは異なる物質よりなる被覆層を設けてある請求項1記載の制振部材。
【請求項4】
固化した状態の前記アスファルト混合物に入り組んで前記構造体への固着を強化する突起を前記母材から前記空間に突出させてある請求項1記載の制振部材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の制振部材の製造方法であって、
前記アスファルト混合物をアスファルトが液状になるまで加熱し、前記空間に充填し、固化させることで前記空間に面する接触面に前記アスファルト混合物を固着させる制振部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1~4のいずれかに記載の制振部材の製造方法であって、
前記アスファルト混合物をアスファルトが液状になるまで加熱し、前記空間に充填し、非加圧状態で固化させることで前記空間に面する接触面に前記アスファルト混合物を固着させる制振部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振部材及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、振動が伝達される機械器具、輸送機器、音響機器又はこれらの部品である母材の空間に骨材とアスファルトを混錬して作成したアスファルト混合物を充填してある制振部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスファルト(瀝青)混合物を鋼材で構成された橋梁などの構築物の空間に充填して制振防音効果を向上させるものとして、特許文献1が知られている。
しかし、特許文献1は、橋梁などの大型構築物を意図したものであり、強度維持のために鋼材が用いられている。このような用途では強度の維持が最重要であり、その用途の範囲内での制振防音効果の向上を目指すものにすぎず、しかも、分野的に多用されるアスファルト混合物を橋梁等の表層から空間内にも充填したにすぎないものである。このような構成では、アスファルトの骨材が離脱する恐れがあり、振動が伝達される機械器具、輸送機器、音響機器及びこれらの部品に利用した場合、骨材の離脱は性能に支障をきたすおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭52-095842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記実情に鑑みて、本発明の目的は、アスファルト混合物に含まれる骨材の離脱を防ぎ制振性能を維持可能な制振部材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明にかかる制振部材の主たる特徴は、振動が伝達される機械器具、輸送機器、音響機器又はこれらの部品である母材の空間に骨材とアスファルトを混錬して作成したアスファルト混合物を充填してある構造において、前記アスファルト混合物は充填後非圧縮であり、アスファルト割合(x)と骨材の比表面積(y)との関係が下式(1)~(3)で示される範囲に含まれるアスファルト混合物を充填してあることにある。
y≦-0.104x2+18.4x-170 ・・・(1)
y≦-15.4x+1490 ・・・(2)
y>0 ・・・(3)
【0006】
上記式(1)~(3)の条件を充足すると、例えば図3の試験結果のごとく、アスファルト混合物からの骨材の離脱を防ぐことができる。
【0007】
また、上記主たる特徴に加え、前記アスファルト割合(x)と前記骨材の比表面積(y)との関係がさらに下式(4)で示される範囲に含まれるアスファルト混合物を充填してもよい。
y≧-0.128x2+21.7x-472 ・・・(4)
【0008】
上記式(4)の条件を充足すると、例えば図3の試験結果のごとく、アスファルト混合物表面へのアスファルト単体で構成される層の形成を防ぎ、対数減衰率の低下を防ぐことができる。
【0009】
上記主たる特徴において、前記母材の空間は外部に連通する開口を有しており、開口近傍の前記アスファルト混合物の表層に前記アスファルトとは異なる物質よりなる被覆層を設けてもよい。
【0010】
同被覆層により、被覆層によるアスファルト混合物の離脱防止、アスファルト混合物への油分や有機溶剤の付着に起因するアスファルトの劣化や溶解による骨材の離脱防止、アスファルト混合物表面の外観向上等の効果が見込める。
【0011】
また、上記主たる特徴において、固化した状態の前記アスファルト混合物に入り組んで前記母材への固着を強化する突起を前記構造体から前記空間に突出させてもよい。
【0012】
上記特徴のいずれかに記載の制振部材の製造方法の特徴は、前記アスファルト混合物をアスファルトが液状になるまで加熱し、前記空間に充填し、固化させることで前記空間に面する接触面に前記アスファルト混合物を固着させることにある。これにより、アスファルト混合物の母材への密着性が向上する。
【0013】
上記特徴のいずれかに記載の制振部材の製造方法の他の特徴は、前記アスファルト混合物をアスファルトが液状になるまで加熱し、前記空間に充填し、非加圧状態で固化させることで前記空間に面する接触面に前記アスファルト混合物を固着させることにある。本発明によれば、非加圧状態でアスファルト混合物を充填して固化させても、上述の密着性を得られ、アスファルト混合物及び骨材の離脱も防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
上記本発明に係る特徴によれば、アスファルト混合物に含まれる骨材の離脱を防ぎ制振性能を維持可能な制振部材及びその製造方法を提供するに至った。
【0015】
本発明の他の目的、構成及び効果については、以下の発明の実施の形態の項から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】(a)は本発明における制振部材の一例を示す斜視図、(b)は(a)の断面図、(c)は他の例の断面図である。
図2】本発明における試験片を示し、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は平面図である。
図3】本発明におけるアスファルト混合物のアスファルト比率(横軸X)並びに骨材の比表面積(縦軸Y)の関係を示すグラフである。
図4】(a)は被覆層を設けた例を示す制振部材の断面図、(b)は(a)にさらに保護層を設けた例を示す制振部材の断面図である。
図5】本発明における母材の改変例を示し、(a)は母材の改変例を示す斜視図、(b)は(a)の縦断面図である。
図6】本発明における母材の改変例を示し、(a)は母材の改変例を示す斜視図、(b)は(a)の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
本発明に使用する制振部材1は、図1(a)、(b)に示すように、金属製の母材2の空間3に制振充填物であるアスファルト混合物10を充填してなる。図1(c)の母材2は例えばフルモールド鋳造法にて製造されたものの断面図であり、母材2並びに空間3及び開口4の形状は様々である。
【0018】
フルモールド鋳造法は、非量産物や大物鋳物の製造に向いている鋳造法であり、発泡スチロールで模型を作成し、この発泡スチロールと鋳鉄溶湯を置換して鋳物をつくる方法である。鋳物の任意の場所に空間をつくることができるので、本発明を適用しやすい。また、フルモールド鋳造法は木型法と異なり、発泡模型に異材をセットして造型し鋳ぐるむことで複合材を簡単につくることができるため、本発明に列挙する様々な素材の鋳造品を組み合わせることが容易である。各材質の母材はボルトや溶接等で取り付けた複合構造体としても良い。
【0019】
(試験の方針について)
本発明では、空間に充填したアスファルト混合物から骨材が離脱せず、また、アスファルト単体の層が形成されないアスファルトと骨材の混合比、及び、骨材の比表面積に着目し、これら両者の条件による適切な範囲を求めることを目的としている。骨材の離脱は部材の機能を損なうおそれがあり、これを防ぐことが望ましい。また、減衰性能は、アスファルトと骨材とが多数の境界層を形成することで得られる一方、アスファルト単体の層が形成されると境界層が損なわれ、対数減衰率の低下を防ぐことから、同単体の層形成を阻止することが望ましい。
【0020】
(アスファルト混合物の骨材とアスファルトの関係について)
本試験では、上記境界層の多少は骨材の表面積に関与し、表面積の変更には径の異なる骨材を混ぜることで可能となることから、比表面積及びメジアン径の概念を利用する。
【0021】
ここで、比表面積とは、単位体積あたり、どれくらいの表面積を有しているかを示す尺度であり、表面積cm2/体積cm3で表される。なお、本実験での比表面積は使用する骨材が全て真球と仮定したときの計算値を使用している。
【0022】
また、メジアン径(D50)とは、骨材の粒子径による累積分布を、ある粒子径から2集団に分けたとき、大きい側と小さい側の累積分布が等量となるある粒子径をメジアン径(D50)と呼ぶ。本試験では3種類のメジアン径(D50)を有する微粉、細骨材、粗骨材の3種を用いて配合し比表面積を調整している。
【0023】
骨材には表1に記載のものを利用した。D50はメジアン径を意味する。表2の試験結果における骨材比率wt%の表記は、骨材全体を100%とし、その中における粗骨材、細骨材、微粉の重量配合を意味する。アスファルト割合(vol%)は、アスファルトのみの体積とメジアン径から産出した骨材の体積との比率である。アスファルト量は5~70vol%の間で変更し、骨材は残りのvol%で計算できる。 なお、アスファルトには、ゴムや高分子重合体で改質した改質アスファルトを使用した。
【0024】
【表1】
【0025】
【表2】
【0026】
(試験片の構造について)
図1(c)の太線で示す外形線20は、母材2及び空間3の双方の全体の外縁を示し、同図は断面であるので、事実上、外形線は外径面として観念され、面積は容積(体積)として観念される。この外形線20で示される部分の面積(容積)から母材2の面積(容積)を差し引いた値が空間3の面積(容積)となる。
【0027】
母材2は鋳鉄や鋼材の他、後述する様々な金属や非金属が利用可能である。アスファルト混合物はアスファルトと骨材を混合したものであり、後述する様々な配合がある。
【0028】
図2に示すように、上述の母材2に相当する振動減衰試験には、縦300mm×横50mm×高さ30mm、空間部は縦280mm×横30mm×高さ20mmとなる肉厚10mm箱形状の鋼材(SS400)の削り出し品を用いた。
【0029】
(試験片の製作について)
図1,2に示す試験片の空間3に熱したアスファルト混合物を流し込み、試験片1をマッフル炉に入れて200℃2h加熱した後、室温において振動減衰試験を実施した。これは部材が大型である場合に、熱したアスファルト混合物の冷却が遅くなり、冷却中に骨材が沈殿し、アスファルト単体が分離して表面に層を作る場合を再現している。上記試験片1をマッフル炉に入れる場合と入れない場合の比較実験でアスファルト単体の層の有無が異なったことから、採用したものである。
【0030】
(評価方法について)
評価は以下の3点で行った。
評価1.空間に充填したアスファルト混合物の骨材落下の可否
(評価方法)
アスファルト混合物を充填した試験片の開口部を下に向け、振動を与えて骨材の落下を確認した。
評価2.同混合物のアスファルト単体層の有無
(評価方法)
試験片に充填されたアスファルト混合物を取り出した後に切断し、断面観察を行い、アスファルト単体層の有無及び層の厚みを確認した。
評価3.試験片の対数減衰率の測定
(評価方法)
アスファルト制振材を充填した試験片を叩き、発生した試験片透過後の音をパーソナルコンピューターに取り込んだ後に解析し、対数減衰率を求めた。
【0031】
(試験条件の組み合わせと結果について)
上述の試験条件による試験結果を表1,2及び図3のグラフに示す。これらに示すAn,Bn,Cn(nは自然数)の試験条件の符号及びブロット点について、Anは上記評価1-3において良好な結果を示すものである。Bnは上記評価1の項目に問題のある試験条件であり、Cnは評価2の項目に問題のある試験条件である。
【0032】
これらの評価結果を俯瞰し、評価1を充足するためには、点An及び点Bnの境界を通る上記式(1)を充足することが必要となる。また、評価の上限を定めるため、工業的に入手しやすく混錬性のよいメジアン径0.035mmの微粉(Lシリカ)を用いた点A11,A12への漸近線である上記式(2)を充足することが望まれる。さらに、上記式(3)は物理的に決まる条件である。
【0033】
さらに、試験2の条件を充足するには、点An及び点Cnの境界を通る上記式(4)を充足することが必要となる。
【0034】
(試験片から骨材が落下する原因の分析)
試験結果図3の点Bnは骨材が落下したものであり、表1,2を参照すると次の原因が考えられる。
例えば、骨材割合が同じ場合、骨材の粒子径が小さくなり、比表面積が大きくなると、骨材の粒数が増えて表面積の総量は増大し、表面に付着させるべきアスファルト量が増える。しかし、これに対応するだけのアスファルト量がなければ、アスファルト混合物内に微小な隙間が生じる。
加えて、上記の場合、アスファルト混合物の見かけ粘度が高くなり、混錬が困難となる。その結果、混錬不足によりアスファルトが十分に付着していない微粉が生じる。
また、例えば、骨材の比表面積が同じ場合、アスファルト混合物内のアスファルト割合が減少すると、骨材間の隙間に充填されるアスファルト量が少なくなり、アスファルト混合物に空洞が生じる。
加えて、本発明ではアスファルト混合物を充填後に圧縮しないため、アスファルトと骨材の密着性が向上しにくい。
上記の結果、アスファルトと骨材の結びつきが弱くなり、振動等により骨材が落下する恐れが大きくなる。
【0035】
(試験片にアスファルト単層が発生する原因の分析)
試験結果図3の点Cnはアスファルト単層が発生したものであり、表1,2を参照すると次の原因が考えられる。
例えば、骨材割合が同じ場合、骨材の粒子径が大きくなり比表面積が小さくなると、骨材の粒数が減り、骨材の沈殿速度が増大する。
また、例えば、骨材の比表面積が同じ場合、アスファルト混合物内のアスファルト割合が増大すると、アスファルト量が過大となる。
【0036】
上記の結果、アスファルトが単層となって、アスファルト混合物の表面等に層を形成することとなる。アスファルト混合物は、アスファルトと骨材の境界が存在することで、振動減衰効果が発揮される。アスファルト単層内はこの境界が存在せず、振動減衰効果の低下が懸念されるため、そのアスファルト単層の発生を防ぐ意義がある。対数減衰率については、A25(0.011,アスファルト単層無し)、C7(0.008,アスファルト単層有り)となり、上記検討と結果は一致している。
【0037】
製造に関しては、図1(a)~(c)に示すように骨材を含むアスファルト混合物10を母材2と一体化するために、アスファルト混合物10を加熱してアスファルト分を液状にしたものを母材2の空間3流し込んで充填固着するとよい。
【0038】
また、図4(a)に示すように、開口部4から見えるアスファルト混合物10の表層に、この表層を覆い上記離脱を防止する被覆層11を設けてもよい。作動油等の油分や有機溶剤がアスファルト混合物10に付着して浸透すると、アスファルトの劣化や溶解を招き、骨材の離脱が発生するが、被覆層11を設けることにより上記不具合の発生を防止することが可能となる。また、開口部からの外観の改善のために被覆層11を設けてもよい。
【0039】
この被覆層11には、液状で後に硬化する硬化樹脂を用いればよく、熱・光・物質間の反応により硬化するエポキシ系・アクリル系・不飽和ポリエステル系の樹脂といった油分や有機溶剤と反応しにくい物質を用いることができる。また、この樹脂の中には上記の骨材のうち粒度の細かい細骨材や微粉を混合してもよい。被覆層の物質は前記アスファルトより対数減衰率の大きな物質であることが望ましい。
【0040】
被覆層11は、フィルムを用いてもよい。フィルムと被覆層11の間には接着剤を設けるか、アスファルト混合物10が熱されている状態でアスファルトとの密着の良いフィルムを張り付けてもよい。フィルムは真空引きによりアスファルト混合物10の表面に密着させることができる。
【0041】
上記被覆層11に加え、図4(b)に示すようにこの被覆層11を覆う保護層12を設けてもよい。この保護層12は、例えば、鉄板、アルミニウム板、その他の金属板、樹脂製の板やフィルムで形成してもよい。図示省略するが、ボルト、ねじなどの締結手段や、接着剤で母材2に固定するとよい。
【0042】
保護層12は、母材2の開口4を塞ぐことで、空間3内部への油分や作動油の侵入をより確実に防ぎやすくなる。この場合、保護層12で塞がれた空間3に空洞が生じないように、上記被覆層11の樹脂等を充填することで、油分等の侵入防止効果は向上する。
【0043】
最後に、本発明のさらに他の実施形態の可能性について列挙する。上記実施例と同様の部材には同一の符号を附してある。
【0044】
アスファルト混合物10の空間3からの落下防止の観点から、図5に示すように、固化した状態のアスファルト混合物に入り組んで母材への固着を強化する突起5を母材2から空間3に突出させてもよい。この突起5は、母材2の内面において、底面の場合は一部に膨大部を有する第一突起5aを設け、側壁の場合は内面に単に突出する第二突起5bを設けるとよい。いずれの場合も、突起5がアスファルト混合物10の離脱方向Dに交差する方向の部位を有していれば離脱を効果的に阻止可能である。
【0045】
図6に示すように、母材2の空間3内に空間3内面を繋ぐ連結体6を設けても良い。この連結体6は、様々な部材を用いることができるが、例えば、別途製作した鋳鋼品の棒などを溶接、嵌合、螺合等の方法で連結してもよい。空間3内を横切って母材2の部位通しを連結することで母材の強度を向上させると共に、アスファルト混合物10の離脱方向Dを横切る方向に設置することで、アスファルト混合物10の離脱を防止することができる。第一、第二連結体6a,6bはそれぞれ直交しており、これらが交差方向に配置されることで、母材2の部位の強度がより向上することとなる。
【0046】
上記実施形態ではアスファルトとして、ゴムや高分子重合体で改質した改質アスファルトを用いたが、ストレートアスファルトやブローンアスファルト等のアスファルト単体、または、アスファルト単体と改質アスファルトとの混合物を用いてもよい。
【0047】
上述の母材には、球状黒鉛鋳鉄や片状黒鉛鋳鉄、高Cr鋳鉄等の鋳鉄材や、アルミ合金やマグネシウム合金、銅合金といった卑金属材を用いてもよい。また、木材やセラミックス、ガラス等の非金属材を用いてもよい。上述する母材の製造方法は特に限定されず、鋳造のほか、製缶・機械加工等の成形加工を行い、母材を作成しても良い。
本発明に記載のアスファルト制振材を対数減衰率が高い母材に用いることで、制振性能をより向上させることができる。一方、母材として使用できる材質が限定される場合でも、制振性能を向上させることのできる利点がある。
【0048】
耐久性の観点より、上述の母材の一部が過共晶の片状黒鉛鋳鉄より成り、使用面もしくは加重部位がFC250~FC350、もしくはFCD500~FCD800、オーステナイト鋳鉄、CV鋳鉄、ベーナイト鋳鉄のいずれか1つとしてもよい。使用面・加重部位とは、機器の摺動面が主であるが、機器の表面で加重が作用し、または、表層で打撃を受けるような部位も含まれる。オーステナイト鋳鉄では、ニッケル約35%の低熱膨張鋳鉄として、制振性と低膨張性を有した構造体としても良い。
【0049】
前記充填物における骨材には、シリカ系、アルミナ系、マグネシア系、金属、金属酸化物のいずれか1つ以上を用いても良く、それらの2種以上を混合しても良い。例えば酸化鉄やショット玉など重い骨材と珪藻土や軽石もしくは中空シリカビーズを混ぜても良い。
【0050】
本発明の上記実施形態はそれぞれ組み合わせて実施することが可能であり、本発明の趣旨を逸脱しない限り、上記各実施形態は改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明にかかる制振部材は、振動や音を発生させる機器の全てに適用することができ、例えば、工作機械、建設機械、産業機械、測定機器、定盤、輸送機器、音響機器、印刷機器、医療機器又はプレス金型等の一部に用いることができる。また、例えば、切削工具やオーディオインシュレーターといった上記機器の部品や付属品にも用いることができる。
【符号の説明】
【0052】
1:制振部材、2:母材、3:空間、4:開口、5:突起、5a:第一突起、5b:第二突起、6:連結体、6a:第一連結体、6b:第二連結体、10:アスファルト混合物(制振充填物)、11:被覆層、12:保護層、20:外形線(面)、D:離脱方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6