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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082901
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】制動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20240613BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20240613BHJP
   B60T 13/68 20060101ALI20240613BHJP
   B60T 13/13 20060101ALI20240613BHJP
   B60T 13/128 20060101ALI20240613BHJP
   B60T 11/18 20060101ALI20240613BHJP
   B60T 11/16 20060101ALI20240613BHJP
   B60T 8/40 20060101ALI20240613BHJP
   B60L 7/12 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B60T8/17 C
B60T13/138 A
B60T13/68
B60T13/13
B60T13/128
B60T11/18
B60T11/16 C
B60T8/40 C
B60T8/17 B
B60L7/12 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197101
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】服部 文周
(72)【発明者】
【氏名】余語 和俊
(72)【発明者】
【氏名】児玉 博之
【テーマコード(参考)】
3D047
3D048
3D246
5H125
【Fターム(参考)】
3D047BB31
3D047CC17
3D047FF15
3D048BB51
3D048CC54
3D048HH18
3D048HH26
3D048HH31
3D048HH53
3D048HH66
3D048HH68
3D048RR06
3D246BA02
3D246DA01
3D246EA05
3D246GA13
3D246GB37
3D246GB39
3D246HA02A
3D246HA42A
3D246JA12
3D246LA05A
3D246LA33B
3D246LA57B
3D246LA63B
3D246LA73B
5H125AA01
5H125AB01
5H125AC12
5H125CB02
5H125CB05
5H125EE51
(57)【要約】
【課題】第1車輪及び第2車輪に発生させる摩擦制動力を調整する際の制御対象を少なくすること。
【解決手段】制動装置20は、電気モータ513の駆動に応じた液圧のブレーキ液を出力ポート516から吐出させる電動シリンダ51と、サーボ室Rsの液圧の増大に伴うマスタピストン43の移動によりマスタ室Rmからブレーキ液が流出する一方、サーボ室Rsの液圧の減少に伴うマスタピストン43の移動によりマスタ室Rmにブレーキ液が流入するように構成されたマスタシリンダ31と、マスタ室Rmと前輪用のホイールシリンダ11とを接続する第1流路331と、出力ポート516と後輪用のホイールシリンダ11とを接続する第6流路58と、第6流路58とサーボ室Rsとを接続する第5流路55と、第5流路55に設けられ、第6流路58の液圧である第1液圧とサーボ室Rsの液圧である第2液圧との差圧を調整する差圧調整弁551と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ホイールシリンダ及び第2ホイールシリンダと、前記第1ホイールシリンダの液圧に応じた摩擦制動力を発生する第1車輪と、前記第2ホイールシリンダの液圧に応じた摩擦制動力を発生する第2車輪と、を備える車両に適用される制動装置であって、
動力源として電気モータと、前記電気モータの駆動に応じた液圧のブレーキ液を吐出する出力ポートと、を有する電動シリンダと、
サーボ室及びマスタ室を区画するマスタピストンを有し、前記サーボ室の液圧の増大に伴う前記マスタピストンの移動により前記マスタ室からブレーキ液が流出する一方、前記サーボ室の液圧の減少に伴う前記マスタピストンの移動により前記マスタ室にブレーキ液が流入するように構成されたマスタシリンダと、
前記マスタ室と前記第1ホイールシリンダとを接続する第1液路と、
前記出力ポートと前記第2ホイールシリンダとを接続する第2液路と、
前記第2液路と前記サーボ室とを接続する第3液路と、
前記第3液路に設けられ、前記第2液路の液圧である第1液圧と前記サーボ室の液圧である第2液圧との差圧を調整する差圧調整弁と、を備える
制動装置。
【請求項2】
前記差圧調整弁に対して並列に設けられるチェック弁を備え、
前記チェック弁は、前記サーボ室から前記第2液路に向かうブレーキ液の流れを許容し、前記第2液路から前記サーボ室に向かうブレーキ液の流れを規制する
請求項1に記載の制動装置。
【請求項3】
前記電動シリンダ及び前記差圧調整弁を制御する制御装置を備え、
前記制御装置は、前記電動シリンダを制御することによって、前記第1液圧を調整し、前記差圧調整弁を制御することによって、前記第2液圧を前記第1液圧以下に調整する
請求項1又は請求項2に記載の制動装置。
【請求項4】
前記第1車輪は前輪であり、前記第1ホイールシリンダは前輪用のホイールシリンダであり、前記第2車輪は後輪であり、前記第2ホイールシリンダは後輪用のホイールシリンダであり、
前記制御装置は、前記第1液圧を調整することによって前記後輪で発生する摩擦制動力を調整し、前記第2液圧を調整することによって前記前輪で発生する摩擦制動力を調整する
請求項3に記載の制動装置。
【請求項5】
前記車両は、前記前輪に回生制動力を発生させる回生制動装置を備え、
前記制御装置は、前記前輪に回生制動力が発生している場合、前記第2液圧を前記第1液圧以下に調整する
請求項4に記載の制動装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記車両に対する摩擦制動力の目標値である目標摩擦制動力が増大される状況下において、
前記第2液圧が前記第1液圧未満である状態を維持しつつ、前記第1液圧を増大させる
請求項3に記載の制動装置。
【請求項7】
前記制御装置は、
前記第1液圧と前記第2液圧との差圧が所定差圧以下である状況下で摩擦制動力を増大させる場合に、前記第1液圧及び前記第2液圧のうち前記第1液圧のみを増大させ、
前記差圧が前記所定差圧よりも大きい状況下で摩擦制動力を増大させる場合に、前記第1液圧及び前記第2液圧をともに増大させる
請求項5に記載の制動装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記車両に対する摩擦制動力の目標値である目標摩擦制動力が減少される状況下において、
前記第1液圧が前記第2液圧よりも大きい場合には、前記第1液圧及び前記第2液圧のうちの前記第1液圧のみを減少させ、
前記第1液圧が前記第2液圧以下である場合には、前記第1液圧及び前記第2液圧をともに減少させる
請求項3に記載の制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、前輪用のホイールシリンダ及び後輪用のホイールシリンダに供給するブレーキ液の液圧を調整することにより、前輪及び後輪に異なる大きさの摩擦制動力を発生させる制動装置が知られている。例えば、特許文献1に記載の制動装置は、前輪用のホイールシリンダにブレーキ液を供給するマスタユニットと、後輪用のホイールシリンダとマスタユニットとにブレーキ液を供給する調圧ユニットと、を備える。
【0003】
マスタユニットは、サーボ室及びマスタ室を区画するマスタピストンを有する。マスタユニットにおいて、サーボ室にブレーキ液が供給されると、マスタピストンがマスタ室の容積を減少させる方向に移動する。その結果、マスタ室から前輪用のホイールシリンダにブレーキ液が供給される。
【0004】
調圧ユニットは、ブレーキ液を吐出する電動ポンプと、電動ポンプから吐出されたブレーキ液を第1液圧に調整する第1電磁弁と、電動ポンプから吐出されたブレーキ液を第2液圧に調整する第2電磁弁と、を有する。調圧ユニットは、第1液圧に調整されたブレーキ液を後輪用のホイールシリンダに供給するとともに、第2液圧に調整されたブレーキ液をサーボ室に供給する。調圧ユニットは、第2液圧を第1液圧未満とすることにより、前輪に発生する摩擦制動力を後輪に発生する摩擦制動力よりも小さくする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-137202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような制動装置は、前輪及び後輪に摩擦制動力を発生させる場合に、電動ポンプと第1電磁弁及び第2電磁弁とを制御する必要がある。言い換えれば、上記のような制動装置は、前輪及び後輪に摩擦制動力を発生させる場合に、多くの制御対象を制御する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決する制動装置は、第1ホイールシリンダ及び第2ホイールシリンダと、前記第1ホイールシリンダの液圧に応じた摩擦制動力を発生する第1車輪と、前記第2ホイールシリンダの液圧に応じた摩擦制動力を発生する第2車輪と、を備える車両に適用される制動装置であって、動力源として電気モータと、前記電気モータの駆動に応じた液圧のブレーキ液を吐出する出力ポートと、を有する電動シリンダと、サーボ室及びマスタ室を区画するマスタピストンを有し、前記サーボ室の液圧の増大に伴う前記マスタピストンの移動により前記マスタ室からブレーキ液が流出する一方、前記サーボ室の液圧の減少に伴う前記マスタピストンの移動により前記マスタ室にブレーキ液が流入するように構成されたマスタシリンダと、前記マスタ室と前記第1ホイールシリンダとを接続する第1液路と、前記出力ポートと前記第2ホイールシリンダとを接続する第2液路と、前記第2液路と前記サーボ室とを接続する第3液路と、前記第3液路に設けられ、前記第2液路の液圧である第1液圧と前記サーボ室の液圧である第2液圧との差圧を調整する差圧調整弁と、を備える。
【0008】
制動装置は、第1車輪及び第2車輪に対して摩擦制動力を発生させる場合には、電動シリンダと差圧調整弁とを制御する。詳しくは、制動装置は、電動シリンダによって第1液圧に調整したブレーキ液を、第2液路を介して第2ホイールシリンダに供給する。また、制動装置は、差圧調整弁によって第2液圧に調整したブレーキ液を、第3液路を介してマスタシリンダのサーボ室に供給する。この場合、第1ホイールシリンダには、マスタシリンダのマスタ室から、サーボ室の液圧に応じたブレーキ液が第1液路を介して供給される。こうして、制動装置は、電動シリンダと差圧調整弁とを制御することにより、大きさの異なる摩擦制動力を第1車輪及び第2車輪に発生できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、制動装置を備える車両の概略図である。
図2図2は、制御装置が実施する処理の流れを説明するフローチャートである。
図3図3(a)~(c)は、車両に制動要求があるときの要求制動力、回生制動力及びホイールシリンダ圧の推移を示すタイミングチャートである。
図4図4は、前輪制動力及び後輪制動力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、制動装置の一実施形態を図面に従って説明する。
図1は、複数の車輪FL,FR,RL,RRと、複数の摩擦制動機構10と、制動装置20と、回生制動装置60と、を図示している。複数の車輪FL,FR,RL,RRは、2つの前輪FL,FRと、2つの後輪RL,RRと、を含んでいる。本実施形態では、2つの前輪FL,FRが「第1車輪」に対応し、2つの後輪RL,RRが「第2車輪」に対応する。
【0011】
<摩擦制動機構の構成>
1つの車輪に対して1つの摩擦制動機構10が設けられている。複数の摩擦制動機構10は、ブレーキ液が供給されるホイールシリンダ11と、1つの車輪と一体に回転する回転板12と、回転板12に押し付けられる摩擦材13と、をそれぞれ有している。摩擦制動機構10は、ホイールシリンダ11内の液圧が大きいほど、摩擦材13を回転板12に強く押し付けることができるように構成されている。摩擦制動機構10は、ホイールシリンダ11内の液圧に応じた摩擦制動力を発生させる。
【0012】
車両は、複数のホイールシリンダ11を有している。本実施形態では、複数のホイールシリンダ11のうち、前輪FL,FR用のホイールシリンダ11が「第1ホイールシリンダ」に対応し、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11が「第2ホイールシリンダ」に対応する。
【0013】
<制動装置の構成>
制動装置20は、複数の摩擦制動機構10のホイールシリンダ11にブレーキ液を供給することによって車両に発生する摩擦制動力を調整する。制動装置20は、制動操作部材21と、液圧発生装置22と、制動アクチュエータ23と、リザーバタンク24と、を備えている。
【0014】
制動操作部材21は、車両の運転者によって操作が可能である。制動操作部材21の一例は、ブレーキペダルである。リザーバタンク24はブレーキ液を貯留している。リザーバタンク24内は大気に開放されている。
【0015】
液圧発生装置22は、制動操作部材21の操作量に応じて液圧を発生させることができるように構成されている。液圧発生装置22は、マスタ装置30と、摩擦制動部50と、を備えている。マスタ装置30は、制動アクチュエータ23にブレーキ液を供給することができる。摩擦制動部50は、マスタ装置30と制動アクチュエータ23との双方にブレーキ液を供給することができる。
【0016】
<マスタ装置>
マスタ装置30は、マスタシリンダ31と、ストロークシミュレータ32と、マスタシリンダ31に繋がる複数の流路331,332,333と、ブレーキ液の流れを制御する複数の制御弁341,342と、を備えている。ストロークシミュレータ32は、制動操作部材21の操作量に応じた反力を発生させることができる。
【0017】
マスタシリンダ31は、メインシリンダ41とカバーシリンダ42とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43と入力ピストン44とを備えている。マスタシリンダ31は、マスタピストン43を付勢するマスタスプリング45と、入力ピストン44を付勢する入力スプリング46と、を備えている。マスタピストン43及び入力ピストン44は、メインシリンダ41及びカバーシリンダ42に対して相対移動することができる。
【0018】
マスタシリンダ31のメインシリンダ41は、板状の底壁411と、底壁411から底壁411の軸線に沿って延びる第1周壁412と、を有している。さらにメインシリンダ41は、第1周壁412の後端から第1周壁412の軸線に沿って延びる第2周壁413と、第2周壁413の後端から第2周壁413の軸線に向かって延びる第1環状壁414と、を有している。第1周壁412及び第2周壁413の各々は筒状をなしている。第1環状壁414には、後述するマスタピストン43の後端部が挿し込まれている孔が形成されている。第1周壁412の内径は第2周壁413の内径よりも小さくなっている。
【0019】
メインシリンダ41内には、底壁411及び第1周壁412とマスタピストン43とによってマスタ室Rmが区画されている。以降では、マスタシリンダ31において、図1における左方、すなわちマスタ室Rmの容積を小さくするマスタピストン43の移動方向を「前方」という一方、前方の反対方向を「後方」という。後方は、マスタ室Rmの容積を大きくする方向でもある。
【0020】
メインシリンダ41内には、第2周壁413とマスタピストン43とによって第1液室R1が区画されているとともに、第2周壁413及び第1環状壁414とマスタピストン43とによってサーボ室Rsが区画されている。マスタ室Rmは、マスタシリンダ31の前端寄りの位置に形成されている。第1液室R1は、マスタ室Rmよりも後方に形成されている。サーボ室Rsは、第1液室R1よりも後方に形成されている。メインシリンダ41の内部において、マスタ室Rm、第1液室R1及びサーボ室Rsは、互いに接続していない。また、マスタ室Rmの断面積とサーボ室Rsの断面積とは等しくなっている。ここで、サーボ室Rsの断面積とは、マスタピストン43が収容された状態でのサーボ室Rsの断面積である。
【0021】
マスタシリンダ31のカバーシリンダ42は、筒状をなす第3周壁421と、第3周壁421の後端から第3周壁421の軸線に向かって延びる第2環状壁422と、を有している。第3周壁421は、メインシリンダ41の第2周壁413と軸線が一致するように、第1環状壁414に取り付けられている。第2環状壁422には、後述する入力ピストン44の後端部が挿し込まれている孔が設けられている。
【0022】
カバーシリンダ42内には、第3周壁421と第2環状壁422とメインシリンダ41の第1環状壁414とによって第2液室R2が区画されている。マスタシリンダ31において、第2液室R2はサーボ室Rsよりも後方に形成されている。
【0023】
マスタピストン43は、メインシリンダ41の第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、マスタピストン43が軸方向に移動する場合には、マスタピストン43が第1周壁412の内周面、第2周壁413の内周面及び第1環状壁414の内周面と摺動する。マスタピストン43の後端部は、第1環状壁414よりも後方に突出して、第2液室R2内に位置している。マスタピストン43の後端部の面積(第2液室R2の液圧により軸方向に力を受ける面積)と第1液室R1の断面積とは等しくなっている。ここで、第1液室R1の断面積とは、マスタピストン43が収容された状態での第1液室R1の断面積である。
【0024】
入力ピストン44は、カバーシリンダ42の第2環状壁422の内周面に面接触する状態で、マスタシリンダ31に収容されている。このため、入力ピストン44が軸方向に移動する場合には、入力ピストン44が第2環状壁422の内周面と摺動する。入力ピストン44の後端部は、第2環状壁422よりも後方に突出している。入力ピストン44の先端部の面積はマスタピストン43の後端部の面積と等しくなっている。そして、入力ピストン44の後端部に制動操作部材21が連結されている。このため、入力ピストン44は、制動操作部材21の操作量に応じて、マスタピストン43に接近する方向に移動する。また、第2液室R2において、入力ピストン44とマスタピストン43との間には隙間が形成されている。
【0025】
マスタスプリング45は、メインシリンダ41のマスタ室Rmに配置されている。マスタスプリング45は、マスタピストン43を後方に付勢する。このため、マスタスプリング45は、マスタピストン43が前方に移動すると、弾性的に圧縮される。
【0026】
入力スプリング46は、カバーシリンダ42の第2液室R2に配置されている。入力スプリング46は、入力ピストン44を後方に付勢する。このため、入力スプリング46は、入力ピストン44が前方に移動すると、弾性的に圧縮される。
【0027】
マスタシリンダ31において、マスタ室Rmはリザーバタンク24と接続されている。詳しくは、マスタ室Rmの後端寄りの部分がメインシリンダ41の第1周壁412に形成されるポートを介してリザーバタンク24と接続されている。このため、マスタピストン43が図1に示す初期位置から前方に移動する場合には、マスタ室Rmとリザーバタンク24とが接続しなくなる。その結果、マスタピストン43の前方への移動に伴い、マスタ室Rmの液圧が増大する。例えばサーボ室Rsの液圧が高くなると、サーボ室Rsの液圧によってマスタピストン43が前方に移動する。これにより、マスタ室Rmの液圧が増大する。
【0028】
第1流路331は、マスタ室Rmと制動アクチュエータ23とを接続している。詳しくは、第1流路331は、マスタ室Rmと前輪FL,FR用のホイールシリンダ11とを接続している。この点で、第1流路331は「第1液路」に対応している。第2流路332は、第1液室R1と第2液室R2とを接続している。第3流路333は、リザーバタンク24と第2流路332とを接続している。
【0029】
第1制御弁341は、常閉型の電磁弁である。第2制御弁342は、常開型の電磁弁である。第1制御弁341は、第2流路332における第3流路333との接続点と第2液室R2との間に配置されている。第2制御弁342は、第3流路333に設けられている。制動装置20の制御装置80が稼動している場合には、第1制御弁341は開弁され、第2制御弁342は閉弁される。
【0030】
ストロークシミュレータ32は、第2流路332における第1液室R1と第1制御弁341との間に配置されている。例えば、ストロークシミュレータ32は、内部にスプリングによって背面から付勢されたピストン(図示せず)を有している。この場合、ストロークシミュレータ32は、第2流路332からブレーキ液が流入されることで内部のピストンがスプリングの付勢に抗して変位すると、ピストンの変位に応じてブレーキ液に圧力を発生させる。具体的には、第1制御弁341が開弁し且つ第2制御弁342が閉弁した状態で、制動操作部材21の操作によって入力ピストン44が前方に移動すると、入力ピストン44が第2液室R2に進入する体積分だけ第2液室R2の容積が減少する。よって、第2液室R2から第2流路332に流出したブレーキ液がストロークシミュレータ32に流入する。この結果、ストロークシミュレータ32によって、第2流路332で繋がった第2液室R2と第1液室R1とに同じ圧力が発生する。第2液室R2内に突出したマスタピストン43の後端部の面積と第1液室R1の断面積は等しいので、第2液室R2と第1液室R1とに同じ圧力が発生している状態では、この圧力によってマスタピストン43が軸方向に動かされることはない。
【0031】
<摩擦制動部>
摩擦制動部50は電動シリンダ51を備えている。摩擦制動部50は、電動シリンダ51が作動することによって、複数のホイールシリンダ11内の液圧を調整することができる。
【0032】
摩擦制動部50は、第4流路54と、第5流路55と、第6流路58と、を備えている。第4流路54は、電動シリンダ51とリザーバタンク24とを接続している。第5流路55は、マスタシリンダ31のサーボ室Rsと第6流路58とを接続している。第6流路58は、制動アクチュエータ23と電動シリンダ51とを接続している。詳しくは、第6流路58は、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11と電動シリンダ51とを接続している。こうした点で、第6流路58は「第2液路」に対応し、第5流路55は「第3液路」に対応している。
【0033】
電動シリンダ51は、第4流路54と第6流路58との間に設けられている。第4流路54は、電動シリンダ51の入力ポート515に接続されている。第6流路58は、電動シリンダ51の出力ポート516に接続されている。そして、第5流路55には、差圧調整弁551とチェック弁552とが設けられている。差圧調整弁551は、第5流路55における差圧調整弁551よりもサーボ室Rs側の部分と、第5流路55における差圧調整弁551よりも電動シリンダ51側の部分との差圧を調整する電磁弁である。すなわち、差圧調整弁551は、サーボ室Rsへのブレーキ液の供給量を調整できる。
【0034】
以降では、第5流路55における差圧調整弁551よりも電動シリンダ51側の部分の液圧を「第1液圧」といい、第5流路55における差圧調整弁551よりもサーボ室Rs側の部分の液圧を「第2液圧」という。第1液圧は、第6流路58の液圧であり、第2液圧はサーボ室Rsの液圧でもある。
【0035】
チェック弁552は、第5流路55において、差圧調整弁551に対して並列に設けられている。チェック弁552は、サーボ室Rsから第6流路58に向かうブレーキ液の流れを許容し、第6流路58からサーボ室Rsに向かうブレーキ液の流れを規制する。詳しくは、チェック弁552は、第2液圧が第1液圧よりも大きい場合に、第6流路58に向けてブレーキ液が流れることを許容する。一方、チェック弁552は、第2液圧が第1液圧よりも小さい場合には、サーボ室Rsに向けてブレーキ液が流れることを規制する。
【0036】
<電動シリンダの構成>
電動シリンダ51は、シリンダ511と、ピストン512と、電気モータ513と、変換機構514と、を備えている。ピストン512は、シリンダ511内に摺動可能な状態で設けられている。電気モータ513は、電動シリンダ51の動力源である。変換機構514は、電気モータ513の出力軸の回転運動をピストン512の直線運動に変換する。
【0037】
シリンダ511の内部には、シリンダ511の周壁とピストン512とによって、ブレーキ液が導入される液圧室Reが区画されている。シリンダ511の内部でのピストン512の位置は、電気モータ513の駆動によって変更できる。以降では、液圧室Reの容積を小さくするピストン512の移動方向を「前進方向Za」といい、前進方向Zaの反対方向を「後退方向Zb」という。後退方向Zbは、液圧室Reの容積を大きくするピストン512の移動方向でもある。
【0038】
シリンダ511の周壁には、液圧室Reと外部とを接続するポートとして、入力ポート515及び出力ポート516が形成されている。ピストン512には貫通孔517が形成されている。車両に対する制動要求がない場合におけるピストン512の位置を待機位置としたとき、貫通孔517は、待機位置又は待機位置よりも後退方向Zbにピストン512が位置する場合には、入力ポート515と液圧室Reとを連通させる。これによって、ピストン512が待機位置に位置する場合には、シリンダ511の液圧室Reは、入力ポート515及び貫通孔517を介して第4流路54と連通する。すなわち、シリンダ511の液圧室Reは、入力ポート515と貫通孔517とを介して、リザーバタンク24に連通する。入力ポート515は、ピストン512が待機位置に位置する際には開放されており、ピストン512が待機位置から前進方向Zaに移動するとピストン512によって閉塞されるように構成されている。このように入力ポート515がピストン512に閉塞されてもピストン512が前進方向Zaに移動すると、液圧室Reの液圧が増大する。
【0039】
シリンダ511の出力ポート516は、第6流路58を介して制動アクチュエータ23及び第5流路55に接続されている。出力ポート516は、ピストン512の位置によらず、常時開放されている。そのため、入力ポート515がピストン512に閉塞されている場合、ピストン512が前進方向Zaに移動すると、液圧室Reのブレーキ液が出力ポート516からシリンダ511外に吐出される。
【0040】
なお、制動装置20が備える電動シリンダ51は、ピストン512を後退方向Zbに付勢するスプリングを備えていない。電動シリンダ51は、ピストン512を後退方向Zbに付勢するスプリングを備えていてもよい。
【0041】
摩擦制動部50は、解放流路56と、解放流路56に配置されている解放弁57と、を備えている。解放流路56は、電動シリンダ51を迂回するようにリザーバタンク24とホイールシリンダ11とを接続する流路である。解放流路56の第1端部が第4流路54に接続されている一方、解放流路56の第2端部が第6流路58に接続されている。具体的には、解放流路56は、第4流路54におけるリザーバタンク24と入力ポート515との間と、第6流路58における出力ポート516と制動アクチュエータ23との間と、を接続している。
【0042】
解放弁57は常閉型の電磁弁である。そのため、解放弁57を開弁する制御が行われていない場合、解放流路56は閉塞されている。
<制動アクチュエータ>
制動アクチュエータ23は、複数のホイールシリンダ11の液圧を個別に調整することができるように構成されている。制動アクチュエータ23は、前輪側調圧ユニット231と、後輪側調圧ユニット232と、を備える。前輪側調圧ユニット231は、前輪FL,FR用のホイールシリンダ11の液圧を調整することによって、前輪FL,FRで摩擦制動力を発生させる。後輪側調圧ユニット232は、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11の液圧を調整することによって、後輪RL,RRで摩擦制動力を発生させる。以降では、前輪FL,FR用のホイールシリンダ11の液圧を前輪ホイールシリンダ圧ともいい、後輪RL,RR用のホイールシリンダ11の液圧を後輪ホイールシリンダ圧ともいう。
【0043】
<制動装置の検出系>
図1及び図2に示すように、制動装置20の検出系は複数のセンサを有している。センサの検出信号は、制動装置20の制御装置80に入力される。複数のセンサは、複数の液圧センサ351,352,353と、ストロークセンサSE1と、を含んでいる。
【0044】
マスタ液圧センサ351は、マスタ室Rm内の液圧を検出する。例えば、マスタ液圧センサ351は第1流路331に設けられている。入力液圧センサ352は、第2液室R2内の液圧を検出する。例えば、入力液圧センサ352は、第2流路332における第1制御弁341と第2液室R2との間の位置に接続されている。制御圧センサ353は、電動シリンダ51から吐出されたブレーキ液の液圧を検出する圧力センサである。例えば、制御圧センサ353は、電動シリンダ51における出力ポート516の近くに設けられている。一例として図1には、解放流路56における解放弁57と出力ポート516との間に制御圧センサ353が接続されている構成を示している。ストロークセンサSE1は、制動操作部材21の操作量を検出する。
【0045】
<制動装置の制御装置>
制動装置20は制御装置80を備えている。例えば、制御装置80は、CPUとメモリとを有する電子制御装置である。メモリは、CPUによって実行される制御プログラムを記憶している。制御装置80は、CPUが当該制御プログラムを実行することにより、液圧発生装置22及び制動アクチュエータ23を作動させる。すなわち、制御装置80は、液圧発生装置22の各種の電磁弁341,342,551,57及び電気モータ513と、制動アクチュエータ23の前輪側調圧ユニット231及び後輪側調圧ユニット232と、を制御する。また、制御装置80は、回生制動装置60と各種の情報について通信を行う。
【0046】
制御装置80は、CPUが制御プログラムを実行することにより、要求制動力導出部81と、摩擦制動力導出部82と、摩擦制御部83と、として機能する。要求制動力導出部81、摩擦制動力導出部82及び摩擦制御部83は、液圧発生装置22を作動させるための機能部である。
【0047】
要求制動力導出部81は、車両に対して要求される制動力である要求制動力を導出する。すなわち、制動操作部材21が操作されている場合、要求制動力導出部81は、制動操作部材21の操作量に応じた値を要求制動力として導出する。例えば、要求制動力導出部81は、要求制動力を操作量が多いほど大きくする。また、要求制動力導出部81は、制動操作が行われていない状況下で車両に減速が要求されたときにも要求制動力を導出する。そして、要求制動力導出部81は、回生制動装置60に要求制動力を送信する。要求制動力導出部81は、回生制動装置60から、回生制動装置60が実際に前輪FL,FRに発生させる実回生制動力を受信する。ここで受信する実回生制動力は、回生制動装置60が前輪FL,FRに発生させた回生制動力である。
【0048】
摩擦制動力導出部82は、要求制動力と実回生制動力とに基づいて、車両に対する摩擦制動力の目標値である目標摩擦制動力を導出する。目標摩擦制動力は、前輪FL,FRに発生させる摩擦制動力の目標値と、後輪RL,RRに発生させる摩擦制動力の目標値と、の合計値である。具体的には、実回生制動力が要求制動力以上である場合、摩擦制動力を発生させる必要がないため、摩擦制動力導出部82は目標摩擦制動力を「0」とする。一方、実回生制動力が要求制動力未満である場合、摩擦制動力を発生させる必要があるため、摩擦制動力導出部82は、「0」よりも大きい値を目標摩擦制動力として導出する。例えば、摩擦制動力導出部82は、実回生制動力が要求制動力未満である場合、要求制動力と実回生制動力との差分が大きいほど大きい値を目標摩擦制動力として導出する。
【0049】
摩擦制御部83は、目標摩擦制動力を基に、電動シリンダ51及び差圧調整弁551を制御する。すなわち、摩擦制御部83は、目標摩擦制動力に応じた指令値を基に、電動シリンダ51で発生させる目標第1液圧を演算する。続いて、摩擦制御部83は、電動シリンダ51の電気モータ513を駆動させる。この際、摩擦制御部83は、目標摩擦制動力が大きいほど上記待機位置からの前進方向Zaへのピストン512の移動量が多くなるように、電気モータ513を駆動させる。
【0050】
また、摩擦制御部83は、目標第1液圧が「0」である場合に、第1液圧と第2液圧との差圧の指令値である差圧指令値として「0」を設定する。一方、摩擦制御部83は、目標第1液圧が「0」よりも大きい場合に、「0」または「0」よりも大きい値を差圧指令値として設定する。例えば、摩擦制御部83は、目標第1液圧が「0」よりも大きい場合に、所定差圧を差圧指令値として設定する。なお、所定差圧は、予め設定された固定値であってもよいし、可変値であってもよい。所定差圧を可変値とする場合、車両の走行する路面のμ値などをパラメータとして所定差圧を可変させてもよい。
【0051】
摩擦制御部83は、設定した差圧指令値に応じた電磁力が差圧調整弁551で発生するように、差圧調整弁551のソレノイドへの通電量を調整する。こうした差圧調整弁551の作動によって第2液圧が変化すると、サーボ室Rsの液圧が変化する。このため、マスタシリンダ31では、サーボ室Rsの液圧の変化に応じてマスタピストン43が移動する。その結果、前輪FL,FR用のホイールシリンダ11に接続されているマスタ室Rmの液圧が変化する。ここで、マスタ室Rmの液圧はサーボ室Rsの液圧、すなわち、第2液圧と等しい。こうして、摩擦制御部83は、第2液圧に応じて、前輪FL,FRに摩擦制動力を発生させる。
【0052】
<回生制動装置>
回生制動装置60は、前輪FL,FR用のモータジェネレータ61と、モータジェネレータ61を制御する回生制御部62と、を備えている。モータジェネレータ61を電動機として機能させることにより、モータジェネレータ61から前輪FL,FRに駆動力が伝達される。一方、モータジェネレータ61を発電機として機能させることにより、モータジェネレータ61の発電量に応じた回生制動力が前輪FL,FRに発生する。
【0053】
回生制御部62は、モータジェネレータ61を制御する。回生制御部62は、現時点でモータジェネレータ61が前輪FL,FRに発生できる回生制動力の最大値である最大回生制動力を導出する。例えば、回生制御部62は、前輪FL,FRの回転速度、モータジェネレータ61に電力を供給する車載バッテリの蓄電量及び温度などを基に、最大回生制動力を導出する。そして、回生制御部62は、制動装置20の制御装置80から要求制動力に関する情報を受信すると、要求制動力と最大回生制動力とを比較する。回生制御部62は、要求制動力が最大回生制動力以下であるときには、回生制動力が要求制動力と等しくなるようにモータジェネレータ61の発電量を制御する。一方、回生制御部62は、要求制動力が最大回生制動力よりも大きいときには、回生制動力が最大回生制動力と等しくなるようにモータジェネレータ61の発電量を制御する。回生制御部62は、実際に前輪FL,FRに発生する実回生制動力に関する情報を制御装置80に送信する。
【0054】
<制動処理>
図2を参照し、車両の制動時に制御装置80が実施する処理の流れについて説明する。
図2に示すように、制御装置80は、ストロークセンサSE1の検出信号などに基づいて、制動要求中であるか否かを判定する(S11)。他の制御装置から車両の減速が要求されている場合、制御装置80は、制動操作部材21が操作されていなくても制動要求中であると判定する。制動要求中でない場合(S11:NO)、制御装置80は、本処理を終了する。一方、制動要求中である場合(S11:YES)、制御装置80は、要求制動力を導出する(S12)。例えば、制動操作部材21が操作されている場合、制御装置80は、ストロークセンサSE1の検出信号などに基づいて要求制動力を導出する。また、他の制御装置から車両の減速が要求されている場合、制御装置80は、減速度の要求値に応じた値を要求制動力として導出する。
【0055】
そして、制御装置80は、要求制動力を回生制御部62に送信し(S13)、回生制御部62から実回生制動力を受信する(S14)。
ステップS13で制御装置80が送信した要求制動力を回生制御部62が受信すると、回生制御部62は、最大回生制動力と要求制動力とを比較することにより、前輪FL,FRに発生できる実回生制動力を導出する。そして、回生制御部62は、実回生制動力が前輪FL,FRに発生するようにモータジェネレータ61を制御する。さらに、回生制御部62は、実回生制動力を制御装置80に送信する。このように回生制御部62が送信した実回生制動力は、ステップS14にて制御装置80によって受信される。
【0056】
続いて、制御装置80は、実回生制動力と要求制動力とが等しいか否かを判定する(S15)。実回生制動力と要求制動力とが等しい場合(S15:YES)、つまり、回生制動力のみで要求制動力を賄える場合、目標摩擦制動力を「0」とする(S16)。その後、制御装置80は、後述するステップS18に処理を移行する。一方、実回生制動力と要求制動力とが等しくない場合(S15:NO)、つまり、回生制動力のみで要求制動力を賄えない場合、要求制動力と実回生制動力との差分に基づいて、目標摩擦制動力を導出する(S17)。
【0057】
制御装置80は、ステップS16,S17で設定された目標摩擦制動力に基づき、目標第1液圧及び目標第2液圧を導出し、摩擦制動部50の作動を制御する(S18)。つまり、制御装置80は、電動シリンダ51及び差圧調整弁551を制御することにより、第1液圧及び第2液圧を調整する。その後、制御装置80は、本処理を終了する。
【0058】
<作用及び効果>
図3(a)~(c)及び図4を参照し、要求制動力の変化に対する回生制動力並びに前輪ホイールシリンダ圧及び後輪ホイールシリンダ圧の推移について説明する。前輪ホイールシリンダ圧は第2液圧と相関し、後輪ホイールシリンダ圧は第1液圧と相関する。このため、図3において、前輪ホイールシリンダ圧の推移は第2液圧の推移と対応し、後輪ホイールシリンダ圧の推移は第1液圧の推移と対応している。また、図3に示す複数のタイミングと図4に複数の示すタイミングはそれぞれ対応している。
【0059】
図3に示すように、第1のタイミングt11において、制動要求があると要求制動力が増大し始める。要求制動力が小さい場合、詳しくは、要求制動力が最大回生制動力以下の場合には、回生制動力のみで要求制動力を賄うことができる。このため、第1のタイミングt11から次の第2のタイミングt12までの期間では、回生制動力が要求制動力と同様に増大し、前輪摩擦制動力及び後輪摩擦制動力は「0」に維持される。回生制動力は前輪FL,FRのみに発生する制動力である。このため、図4に示すように、第1のタイミングt11から第2のタイミングt12までの期間では、前輪制動力及び後輪制動力のうち、前輪制動力のみが増大する。
【0060】
第2のタイミングt12になると、要求制動力の増大に伴い、要求制動力が最大回生制動力と等しくなる。図3に示す例では、第2のタイミングt12以降でも要求制動力が増大する。このため、第2のタイミングt12以降の期間では、回生制動力のみで要求制動力を賄うことができなくなる。その結果、第2のタイミングt12以降の期間では、要求制動力の増大に伴い、摩擦制動力を増大させるために後輪ホイールシリンダ圧が増大する。
【0061】
具体的には、要求制動力と実回生制動力との差分に基づいて、目標摩擦制動力が導出される。すると、目標摩擦制動力に基づいて、電動シリンダ51及び差圧調整弁551が制御される。電動シリンダ51では、電気モータ513の駆動によってピストン512が前進方向Zaに移動する。すると、電動シリンダ51の出力ポート516からブレーキ液が吐出されるため、第1液圧が増大する。その結果、後輪ホイールシリンダ圧が増大することにより、後輪摩擦制動力が増大する。
【0062】
摩擦制動部50では、差圧調整弁551に対する差圧指令値として上記所定差圧が設定された状態で、電動シリンダ51から吐出されるブレーキ液の液圧が増大する。そのため、第1液圧と第2液圧との差圧の大きさが所定差圧以下である場合、差圧調整弁551は、電動シリンダ51の出力ポート516から吐出されたブレーキ液がマスタシリンダ31内のサーボ室Rsに供給されることを規制する。つまり、第2液圧が増大しない。この場合、マスタシリンダ31内のマスタ室Rmの液圧が増大しないため、前輪ホイールシリンダ11圧が増大しない。その結果、前輪摩擦制動力が増大しない。上記所定差圧は、例えば、回生制動力分の制動力を前輪FL,FRの摩擦制動力として発生させるための前輪ホイールシリンダ圧に応じて設定される。
【0063】
このように、第1液圧と第2液圧との差圧の大きさが所定差圧以下である場合では、第2液圧及び第1液圧のうち、第1液圧のみが増大する。その結果、図4に示すように、第2のタイミングt12以降では、前輪制動力が保持された状態で後輪制動力が増大する。
【0064】
図3に示す例では、第2のタイミングt12以降でも目標摩擦制動力が増大する。そして、第3のタイミングt13になると、第1液圧と第2液圧との差圧の大きさが所定差圧に達する。すると、第1液圧と第2液圧との差圧の大きさを所定差圧で保持するために、電動シリンダ51の出力ポート516から吐出されたブレーキ液の一部が、差圧調整弁551を介してサーボ室Rsに供給される。これにより、第2液圧もまた増大する。第3のタイミングt13以降では、電動シリンダ51においてピストン512が前進方向Zaに移動すると、第1液圧と第2液圧との差圧を保持した状態で第1液圧及び第2液圧がともに増大する。
【0065】
第2液圧、すなわち、サーボ室Rsの液圧が増大すると、マスタシリンダ31内では、サーボ室Rsの液圧の増大に応じたマスタピストン43の駆動によって、マスタ室Rmの液圧が増大する。すると、マスタ室Rmから前輪FL,FR用のホイールシリンダ11にブレーキ液が供給されるため、前輪ホイールシリンダ11圧が増大する。その結果、前輪摩擦制動力が増大する。
【0066】
図3に示す例では、その後の第4のタイミングt14まで目標摩擦制動力が増大する。そのため、第3のタイミングt13から第4のタイミングt14までの間では、後輪ホイールシリンダ圧と前輪ホイールシリンダ圧との間の圧力差が保持された状態で、後輪ホイールシリンダ圧と前輪ホイールシリンダ圧がともに増大する。これにより、後輪摩擦制動力と前輪摩擦制動力との間での制動力差を保持しつつ、後輪摩擦制動力及び前輪摩擦制動力がともに増大する。
【0067】
こうして、制動装置20は、電動シリンダ51及び差圧調整弁551を制御することにより、前輪摩擦制動力及び後輪摩擦制動力の大きさを調整できる。また、液圧の発生源として、電動シリンダ51の代わりに電動ポンプを採用する場合には、電動ポンプとしてギアポンプなどの高価なポンプを使用したり、液圧の調整に複数の電磁弁を使用したりする必要が生じる。つまり、制動装置20は、電動ポンプよりも安価な電動シリンダ51を用いるとともに液圧の調整に必要な電磁弁が1つである点で、システムを安価に構築しやすい。
【0068】
第4のタイミングt14から次の第5のタイミングt15までの期間では、要求制動力が一定となる。このため、最大回生制動力が一定であれば、前輪摩擦制動力及び後輪摩擦制動力も一定となる。摩擦制動部50では、電動シリンダ51のピストン512の位置が保持される。
【0069】
第5のタイミングt15になると、要求制動力が減少し始める。このため、回生制動力を維持した状態で目標摩擦制動力が減少する。すると、摩擦制動部50では、差圧調整弁551に対する差圧指令値は保持されたままで、電動シリンダ51のピストン512が後退方向Zbに移動する。こうした電動シリンダ51の作動によって第1液圧が減少する。ここで、第1液圧が第2液圧よりも大きい場合には、チェック弁552を介して、サーボ室Rsから第6流路58に向かってブレーキ液が流れない。このため、第1液圧及び第2液圧のうち第1液圧のみが減少する。よって、第5のタイミングt15から次の第6のタイミングt16までの期間では、前輪ホイールシリンダ圧が減少することなく、後輪ホイールシリンダ圧が減少する。言い換えれば、後輪制動力のみが減少する。
【0070】
第6のタイミングt16になると、前輪ホイールシリンダ圧及び後輪ホイールシリンダ圧が等しくなる。このため、第6のタイミングt16以降の期間では、電動シリンダ51のピストン512の後退方向Zbへの移動に応じて第1液圧が減少すると、第2液圧が第1液圧よりも僅かに高くなる。このため、チェック弁552を介して、サーボ室Rsから第6流路58に向かってブレーキ液が流れることにより、第1液圧の減少に応じて第2液圧もまた減少する。その結果、第6のタイミングt16以降の期間では、前輪ホイールシリンダ圧及び後輪ホイールシリンダ圧がともに減少する。その結果、前輪摩擦制動力及び後輪摩擦制動力がともに減少する。
【0071】
第7のタイミングt17になると、前輪ホイールシリンダ圧及び後輪ホイールシリンダ圧がともに「0」になる。このため、第7のタイミングt17以降の期間は、回生制動力のみで要求制動力が賄われる。つまり、第7のタイミングt17以降の期間では、回生制動力は要求制動力と同様に減少する。
【0072】
第8のタイミングt18になると、要求制動力が「0」になる。このため、回生制動力も「0」になる。
図3に示す例において、車両に制動力が発生している期間を制動期間とし、車両に回生制動力が発生している期間を回生制動期間とし、車両に摩擦制動力が発生している期間を摩擦制動期間とする。この場合、制動期間及び回生制動期間は、ともに第1のタイミングt11から第8のタイミングt18までの期間である。つまり、制動期間及び回生制動期間は等しい期間である。これに対し、摩擦制動期間は、第2のタイミングt12から第7のタイミングt17までの期間である。つまり、摩擦制動期間は、制動期間よりも短い期間である。
【0073】
摩擦制動期間は、後輪摩擦制動力のみが増大される第1増大期間と、第1増大期間に続いて、前輪摩擦制動力及び後輪摩擦制動力がともに増大される第2増大期間と、を有する。また、摩擦制動期間は、後輪摩擦制動力のみが減少される第1減少期間と、第1減少期間に続いて、前輪摩擦制動力及び後輪摩擦制動力がともに減少される第2減少期間と、を有する。
【0074】
第1増大期間は、摩擦制動期間の開始タイミングを含む期間であり、第1液圧のみが増大される期間である。一方、第2増大期間は、第1液圧及び第2液圧がともに増大される期間である。第2増大期間は、要求制動力の大きさによっては長さが「0」になることもある。例えば、要求制動力を回生制動力及び後輪摩擦制動力で賄える場合、第2増大期間の長さは「0」になる。
【0075】
第1減少期間は、第1液圧及び第2液圧の差圧が解消されるまで第1液圧のみが減少される期間である。前輪摩擦制動力が「0」の場合、言い換えれば、第1液圧が大気圧の場合には、第1液圧が大気圧となるまで減少される。この場合には、次の第2減少期間の長さは「0」になる。第2減少期間は、第1液圧及び第2液圧がともに減少される期間である。
【0076】
図3に示す例では、第1増大期間は第2のタイミングt12から第3のタイミングt13までの期間であり、第2増大期間は第3のタイミングt13から第4のタイミングt14までの期間である。また、第1減少期間は第5のタイミングt15から第6のタイミングt16までの期間であり、第2減少期間は第6のタイミングt16から第7のタイミングt17までの期間である。
【0077】
本実施形態は、以下の効果をさらに得ることができる。
(1)チェック弁552を備えない比較例を考える。この比較例は、摩擦制動力の減少に伴い電動シリンダ51のピストン512を後退方向Zbに駆動するときに、第2液圧が第1液圧よりも大きくなり得る。このため、第2液圧を減少させるために差圧調整弁551に対する差圧指令値を小さくすることになるが、差圧調整弁551の構造と第1液圧及び第2液圧の液圧差によっては、差圧調整弁551の開弁に遅れが生じるおそれがある。この点、本実施形態の制動装置20において、第2液圧が第1液圧よりも大きくなる場合には、チェック弁552を介して、サーボ室Rsから第6流路58に向かってブレーキ液が流れる。よって、制動装置20は、摩擦制動力の減少時において、第2液圧の減少に遅延が生じることを回避できる。
【0078】
(2)制動装置20は、要求制動力が大きくなるときに、第2液圧を第1液圧よりも小さくなるように調整できるが、第2液圧を第1液圧よりも大きくなるように調整することはできない。言い換えれば、制動装置20は、前輪ホイールシリンダ圧を後輪ホイールシリンダ圧よりも小さくできるが、前輪ホイールシリンダ圧を後輪ホイールシリンダ圧よりも大きくできない。ただし、車両は、前輪FL,FRに回生制動力を発生できる回生制動装置60を備える。このため、制動装置20は、前輪制動力を後輪制動力よりも大きくすることができる。
【0079】
<変更例>
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0080】
・回生制動力及び摩擦制動力の配分比率は適宜に変更可能である。例えば、制動要求がある場合に、回生制動力のみを増大させるのではなく、回生制動力及び摩擦制動力の双方を増大させてもよい。
【0081】
・摩擦制動部50は、チェック弁552を備えなくてもよい。この場合、制御装置80は、摩擦制動力を減少させる際に、第2液圧が第1液圧よりも過度に大きくなる状態を回避するために、差圧調整弁551に対する差圧指令値を変更することが好ましい。
【0082】
・上記実施形態において、第1流路331は前輪FL,FR用のホイールシリンダ11に接続されるとともに、第6流路58は後輪RL,RR用のホイールシリンダ11に接続されている。変更例において、第1流路331は後輪RL,RR用のホイールシリンダ11に接続されるとともに、第6流路58は前輪FL,FR用のホイールシリンダ11に接続されていてもよい。この場合、制御装置80は、前輪ホイールシリンダ圧が後輪ホイールシリンダ圧よりも大きくなるようにホイールシリンダ圧を調整できる。したがって、制御装置80は、前輪摩擦制動力が後輪摩擦制動力よりも大きくなるように摩擦制動力を調整できる。
【0083】
・車両は、後輪RL,RRに回生制動力を発生させる後輪RL,RR用の回生制動装置60を備えてもよい。
・車両は、回生制動装置60を備えなくてもよい。この場合であっても、制動装置20は、電動シリンダ51及び差圧調整弁551を制御することにより、前輪摩擦制動力及び後輪摩擦制動力を調整できる。
【0084】
・制御装置80は、CPUとROMとを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。すなわち、制御装置80は、以下(a)から(c)の何れかの構成であればよい。
【0085】
(a)制御装置80は、コンピュータプログラムに従って各種処理を実行する一つ以上のプロセッサを備えている。プロセッサは、CPU並びに、RAM及びROMなどのメモリを含んでいる。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコード又は指令を格納している。メモリ、すなわちコンピュータ可読媒体は、汎用又は専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含んでいる。
【0086】
(b)制御装置80は、各種処理を実行する一つ以上の専用のハードウェア回路を備えている。専用のハードウェア回路としては、例えば、特定用途向け集積回路、すなわちASIC又はFPGAを挙げることができる。なお、ASICは、「Application Specific Integrated Circuit」の略記であり、FPGAは、「Field Programmable Gate Array」の略記である。
【0087】
(c)制御装置80は、各種処理の一部をコンピュータプログラムに従って実行するプロセッサと、各種処理のうちの残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備えている。
【符号の説明】
【0088】
FL,FR…前輪(第1車輪)
RL,RL…車輪(第2車輪)
Rm…マスタ室
Rs…サーボ室
10…摩擦制動機構
11…ホイールシリンダ(第1ホイールシリンダ、第2ホイールシリンダ)
20…制動装置
21…制動操作部材
22…液圧発生装置
23…制動アクチュエータ
30…マスタ装置
31…マスタシリンダ
331…第1流路(第1液路)
43…マスタピストン
50…摩擦制動部
51…電動シリンダ
511…シリンダ
512…ピストン
513…電気モータ
515…入力ポート
516…出力ポート
55…第5流路(第3液路)
551…差圧調整弁
552…チェック弁
58…第6流路(第2液路)
60…回生制動装置
80…制御装置
図1
図2
図3
図4