(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082917
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20240613BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240613BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20240613BHJP
C08K 9/10 20060101ALI20240613BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20240613BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20240613BHJP
C08F 20/26 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/04
C08K3/013
C08K9/10
C08F220/10
B60C1/00 A
C08F20/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197124
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000188951
【氏名又は名称】松本油脂製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】進藤 涼平
(72)【発明者】
【氏名】古田 隼斗
【テーマコード(参考)】
3D131
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
3D131AA02
3D131BB11
3D131BC07
3D131BC12
3D131BC18
4J002AC011
4J002AC031
4J002AC061
4J002AC071
4J002AC081
4J002BB181
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4J002DE136
4J002DE146
4J002DE236
4J002DG056
4J002DJ016
4J002DJ036
4J002DJ046
4J002FB282
4J002FD016
4J100AJ02R
4J100AL08P
4J100AL62S
4J100AM02Q
4J100BA02P
4J100CA06
4J100EA06
4J100FA03
4J100FA21
4J100FA28
4J100FA29
4J100JA29
(57)【要約】
【課題】熱膨張性マイクロカプセルを配合したタイヤ用ゴム組成物において、環境負荷を抑制しながら、氷上性能を向上すること可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供する。
【解決手段】ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤を30質量部~100質量部、熱膨張性マイクロカプセルを0.1質量部~30質量部配合し、熱膨張性マイクロカプセルとしてJIS K6950:2000に準拠して測定される5日間の生分解度(De1)が0%超であるものを用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤が30質量部~100質量部、熱膨張性マイクロカプセルが0.1質量部~30質量部配合され、前記熱膨張性マイクロカプセルのJIS K6950:2000に準拠して測定される5日間の生分解度(De1)が0%超であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記熱膨張性マイクロカプセルが熱可塑性樹脂からなる外殻を有し、前記熱可塑性樹脂が単量体(A)を含む重合性成分の重合体であり、前記単量体(A)が重合性炭素-炭素二重結合を1個有し、かつエステル結合および/またはエーテル結合を有し、酸素原子を5個以上有する化合物であることを特徴とする請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記単量体(A)がエーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体であることを特徴とする請求項2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が130℃以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
前記熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径が10μm~60μmであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
前記ジエン系ゴムが天然ゴムおよびポリブタジエンゴムを含み、前記ジエン系ゴム100質量%中に占める前記ポリブタジエンゴムの割合が30質量%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1~3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いたことを特徴とするスタッドレスタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として冬用タイヤのトレッド部に使用されることを意図したタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
凍結路面を走行することが想定される冬用タイヤ(例えばスタッドレスタイヤ等)のトレッド部に使用されるゴム組成物は、優れた氷上性能を発揮することが求められる。そのため、例えば熱膨張性マイクロカプセルを配合し、これによりゴム表面に微細な凹凸を形成することによって氷の表面に発生する水膜を除去し、氷上摩擦を向上させることが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
前述の熱膨張性マイクロカプセルは、一般的に、熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成からなり、加硫時にゴム組成物中の熱膨張性マイクロカプセルが加熱されると、殻材に内包された熱膨張性物質が膨張して殻材の粒径を大きくし、熱可塑性樹脂(殻材)に被覆された気泡が形成される。このような熱膨張性マイクロカプセル(特に殻材)は、走行中にタイヤから脱落する虞があり、脱落した熱膨張性マイクロカプセルは自然界に残留するため、環境への影響が懸念される。従って、氷上性能を向上するために熱膨張性マイクロカプセルを用いるにあたって、環境負荷を軽減するための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱膨張性マイクロカプセルを配合したタイヤ用ゴム組成物において、環境負荷を抑制しながら、氷上性能を向上することを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤が30質量部~100質量部、熱膨張性マイクロカプセルが0.1質量部~30質量部配合され、前記熱膨張性マイクロカプセルのJIS K6950:2000に準拠して測定される5日間の生分解度(De1)が0%超であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の配合からなり、カーボンブラックおよび/または白色充填剤と熱膨張性マイクロカプセルとが所定の量ずつ配合されているため、優れた氷上性能を確保することができる。一方で、熱膨張性マイクロカプセルとして、上述の生分解性を有するものを用いているので、熱膨張性マイクロカプセルがタイヤから脱落したとしても、脱落した熱膨張性マイクロカプセルは自然界に存在する微生物等の働きにより分解されるため環境負荷を軽減することができる。
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、熱膨張性マイクロカプセルが熱可塑性樹脂からなる外殻を有し、熱可塑性樹脂が単量体(A)を含む重合性成分の重合体であり、単量体(A)が重合性炭素-炭素二重結合を1個有し、かつエステル結合および/またはエーテル結合を有し、酸素原子を5個以上有する化合物であることが好ましい。特に、単量体(A)がエーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体であることが好ましい。これにより熱膨張性マイクロカプセルの生分解性を高め、環境負荷を軽減するには有利になる。
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が130℃以上であることが好ましい。これによりタイヤ製造時に熱膨張性マイクロカプセルを適度に膨張させることができ、氷上性能を向上するには有利になる。
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径が10μm~60μmであることが好ましい。これによりタイヤに使用した際に適度な気泡を形成することができ、ゴム表面に微細な凹凸を形成して氷上性能を向上するには有利になる。
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、ジエン系ゴムが天然ゴムおよびポリブタジエンゴムを含み、ジエン系ゴム100質量%中に占めるポリブタジエンゴムの割合が30質量%以上であることが好ましい。このような配合にすることでゴム物性(特に低温特性)が良好になり、氷上性能を向上するには有利になる。
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、スタッドレスタイヤのトレッド部に使用することができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いたスタッドレスタイヤは、優れた氷上性能を発揮することができる。また、走行中に熱膨張性マイクロカプセルの殻材が脱落したとしても、熱膨張性マイクロカプセルの殻材は上記のように生分解性を有するため環境への影響を回避することができる。尚、本発明のタイヤ用ゴム組成物を適用するタイヤは空気入りタイヤ、特にスタッドレスタイヤであることが好ましいが、非空気式タイヤであってもよい。空気入りタイヤの場合は、その内部に空気、窒素等の不活性ガスまたはその他の気体を充填することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるゴムを使用することができる。これらジエン系ゴムは、単独または任意のブレンドとして使用することができる。なかでも、天然ゴムおよびブタジエンゴムを好ましく用いることができ、これら天然ゴムおよびブタジエンゴムの2種類を併用した場合にはゴムの低温特性と強度を両立することができる。天然ゴムおよびブタジエンゴムを用いる場合、ジエン系ゴム100質量%中に、天然ゴムを好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%~70質量%配合し、ブタジエンゴムを好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%~55質量%配合するとよい。天然ゴムおよびブタジエンゴムのそれぞれの配合量が30質量%未満であると、これら2種類を併用する効果を十分に得ることができない。
【0014】
本発明のゴム組成物では、カーボンブラックおよび/または白色充填剤が必ず配合される。カーボンブラックおよび/または白色充填剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して30質量部~100質量部、好ましくは35質量部~90質量部である。このようにカーボンブラックや白色充填剤を適度に配合することで、ゴム組成物のしなやかさを確保して氷上性能を良好にすることができる。カーボンブラックおよび/または白色充填剤の配合量が30質量部未満であると、ゴム組成物の機械的特性を十分に確保できず、基本的なタイヤ性能(例えば、硬度や耐摩耗性)が低下する虞がある。カーボンブラックおよび/または白色充填剤の配合量が100質量部を超えると、ゴム組成物のしなやかさが低下して良好な氷上性能を確保することが難しくなる。尚、カーボンブラックおよび白色充填剤を併用する場合、上述の配合量はこれら2種の合計量である。
【0015】
カーボンブラックとしては、例えばSAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、HMF、SRF等のファーネスカーボンブラックが挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAは、特に制限されるものではないが、好ましくは40m2/g~200m2/g、より好ましくは50m2/g~150m2/gであるとよい。カーボンブラックの窒素吸着比表面積を40m2/g以上にすることにより、ゴム組成物の機械的特性および耐摩耗性を確保することができる。またカーボンブラックの窒素吸着比表面積を200m2/g以下にすることにより、氷上性能を良好にすることができる。本明細書において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2SAは、JIS K6217‐2に準拠して測定するものとする。
【0016】
白色充填剤として、例えばシリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、クレー、アルミナ、水酸化アルミニウム、酸化チタン、硫酸カルシウムを挙げることができる。これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。なかでもシリカが好ましく氷上性能をより優れたものにすることができる。
【0017】
シリカとしては、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等が挙げられ、これらを単独または2種以上を組合わせて使用してもよい。シリカのCTAB吸着比表面積は、特に制限されるものではないが、好ましくは80m2/g~260m2/g、より好ましくは140m2/g~200m2/gであるとよい。シリカのCTAB吸着比表面積を80m2/g以上にすることにより、ゴム組成物の耐摩耗性を確保することができる。またシリカのCTAB吸着比表面積を200m2/g以下にすることにより、ウェット性能および低転がり抵抗性を良好にすることができる。本明細書において、シリカのCTAB比表面積は、ISO 5794により測定された値とする。
【0018】
本発明においては、シリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましい。シランカップリング剤を配合することにより、ジエン系ゴムに対するシリカの分散性を向上し、耐摩耗性および氷上性能のバランスをより高くすることができる。シランカップリング剤の種類は、シリカ配合のゴム組成物に使用可能なものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ビス-(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3-トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等の硫黄含有シランカップリング剤を例示することができる。シランカップリング剤の配合量は、シリカの質量に対し、好ましくは3質量%~15質量%にすると良く、より好ましくは5質量%~10質量%にすると良い。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の3質量%未満であるとシリカの分散を十分に改良することができない虞がある。シランカップリング剤の配合量がシリカ配合量の15質量%を超えるとシランカップリング剤同士が縮合し、ゴム組成物における所望の硬度や強度を得ることができない。
【0019】
本発明のゴム組成物では、熱膨張性マイクロカプセルが必ず配合される。熱膨張性マイクロカプセルを配合することにより、タイヤのトレッド部を構成したときの氷上性能を向上することができる。即ち、熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成からなるため、熱膨張性マイクロカプセルを混合したゴム組成物からなるトレッド部を有する未加硫タイヤを成形し、その加硫時にゴム組成物中の熱膨張性マイクロカプセルが加熱されると、殻材に内包された熱膨張性物質が膨張して殻材の粒径を大きくし、トレッドゴム中に多数の樹脂被覆気泡が形成される。このようにトレッドゴム中に多数の樹脂被覆気泡が形成されることにより、トレッドが氷上路面に踏み込むとき路面上の水膜を吸収除去し、氷上路面から離れると遠心力で水を離脱させて再び路面に踏込むことを繰り返して、水膜を除去しトレッドの氷上路面に対する氷上摩擦力を向上可能にする。また、ミクロなエッジ効果が得られるため、氷上摩擦力を向上させることができる。
【0020】
本発明で使用される熱膨張性マイクロカプセルは、JIS K6950:2000に準拠して測定される5日間の生分解度(De1)が0%超、好ましくは1%~70%、より好ましくは3~50%という特性を有する。この生分解度は熱膨張マイクロカプセルを構成する殻材の性能を示しており、これにより、熱膨張性マイクロカプセルの膨張したもの(以下、膨張物という)がタイヤから脱落したとしても、脱落した膨張物は自然界に存在する微生物等の働きにより分解されるため環境負荷を軽減することができる。尚、JIS K6950:2000に準拠して測定される5日間の生分解度(De1)とは後述の実施例に記載の方法によるものである。
【0021】
熱膨張性マイクロカプセルの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1質量部~30質量部、好ましくは0.5質量部~15質量部、より好ましくは1質量部~10質量部である。熱膨張性マイクロカプセルの配合量が0.1質量部未満であると氷上性能を改善する効果が得られない。熱膨張性マイクロカプセルの配合量が30質量部を超えるとゴム中の樹脂被覆気泡が多くなり耐摩耗性が低下する。
【0022】
熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径は、好ましくは10μm~60μm、より好ましくは10μm~50μmであるとよい。熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径が10μm以上であると、熱膨張性マイクロカプセルが安定して膨張する傾向がある。熱膨張マイクロカプセルの体積平均粒子径が60μm以下であると熱膨張性マイクロカプセルの脱落が抑制され、耐摩耗性が良好に維持される傾向がある。尚、本発明において、熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径は後述の実施例に記載の方法により測定されたものである。
【0023】
前述の熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径は膨張前の寸法であるが、加硫後のタイヤにおける熱膨張性マイクロカプセルが膨張した膨張物の平均粒子径(以下、「加硫後の粒子径」という)は、好ましくは10μm~150μm、より好ましくは20μm~100μmであるとよい。加硫後の粒子径は、100~5000倍で撮像した顕微鏡観察画像から、少なくとも100個の熱膨張性マイクロカプセルの粒子径を測定した平均値である。尚、熱膨張性マイクロカプセルの画像が円形でないとき、その投影面積から求められる円相当径を粒子径とする。
【0024】
熱膨張性マイクロカプセルは、膨張開始温度が好ましくは130℃以上、より好ましくは140℃~200℃であるとよい。このような性能であることで、熱膨張性マイクロカプセルはタイヤ加硫時に適度に膨張することになり、タイヤに使用した際に氷上性能を向上するには有利になる。熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が130℃以上であると、膨張時に熱膨張物質が殻材より抜け出すことが抑制され、氷上性能良化効果が向上する傾向がある。尚、本発明において、熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度は、後述の実施例に記載の方法により測定されたものである。
【0025】
前述のように、熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成された殻材(外殻)の中に、熱膨張性物質を内包した構成からなる。このとき、外殻を構成する熱可塑性樹脂は、少なくとも一部が単量体(A)を含む重合性成分の重合体であるとよく、この単量体(A)が重合性炭素-炭素二重結合を1個有し、かつエステル結合および/またはエーテル結合を有し、酸素原子を5個以上有する化合物であることが好ましい。これにより熱膨張性マイクロカプセルの生分解性を高め、環境負荷を軽減するには有利になる。
【0026】
単量体(A)が有する酸素原子数は好ましくは5個以上であり、より好ましくは5~30個であり、さらに好ましくは6~20個であるとよい。単量体(A)が有する酸素原子数が上記範囲内であると、熱膨張性マイクロカプセルの生分解性が向上する傾向がある。また、単量体(A)が有するエステル結合およびエーテル結合の合計数は好ましくは2~30個、より好ましくは2~20個であるとよい。単量体(A)が有するエステル結合およびエーテル結合の合計数が上記範囲内であると、熱膨張性マイクロカプセルの生分解性と膨張性が向上する傾向がある。単量体(A)がエステル結合またはエーテル結合を有する場合、それぞれの結合の数は、上記エステル結合およびエーテル結合の合計数の数値範囲であるとよい。
【0027】
単量体(A)としては、例えばメトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のアルコキシポリオキシアルキレンモノ(メタ)アクリレート;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を例示することができる。尚、本発明において、(メタ)アクリレートはアクリレートまたはメタクリレートを意味するものとする。
【0028】
中でも、単量体(A)は好ましくはエーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体であると好ましく、より好ましくはポリオキシアルキレン構造等のポリエーテル構造を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体であるとよい。単量体(A)がこのような構造を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体であることで、熱膨張性マイクロカプセルの生分解性と膨張性をより両立することができる。尚、本発明において、アクリル酸またはメタクリル酸を合わせて(メタ)アクリル酸ということもあり、(メタ)アクリルは、アクリルまたメタクリルを意味するものとする。
【0029】
重合性成分に配合される単量体(A)の量は、重合性成分100重量部に対して、好ましくは3~100重量部、より好ましくは5~70重量部であるとよい。単量体(A)の配合量が3重量部以上であると生分解性と膨張性を両立できる傾向がある。
【0030】
重合性成分は単量体(A)以外の炭素-炭素二重結合を1個有する化合物(以下、その他単量体)や、炭素-炭素二重結合を2個以上有する化合物(以下、架橋性単量体)を配合してもよい。架橋性単量体を配合することで、得られる熱可塑性樹脂は橋掛構造を有するようになり、膨張時に熱膨張物質が殻材より抜け出すことが抑制され、膨張性が向上する傾向がある。
【0031】
その他単量体としては、例えばアクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル等のニトリル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、シトラコン酸等の単量体(A)以外のカルボキシル基含有単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の単量体(A)以外の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;塩化ビニリデン;スチレン、α-メチルスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体;(メタ)アクリルアミド、置換(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド系単量体等を例示することができる。
【0032】
重合性成分は、その他単量体として、ニトリル系単量体が配合されると、外殻を形成する熱可塑性樹脂の剛性が向上する点で好ましい。重合性成分に配合されるニトリル系単量体の量は、重合性成分100重量部に対して、90重量部以下、より好ましくは10~85重量部、さらに好ましくは25~80重量部であるとよい。
【0033】
重合性成分は、その他単量体として、カルボキシル基含有単量体が配合されると、得られる熱可塑性樹脂の耐熱性が向上し、タイヤ用ゴム組成物作成時に熱膨張性マイクロカプセルの膨張が抑制され、潰れや変形が抑制される傾向がある。重合性成分に配合されるカルボキシル基含有単量体の量は、重合性成分100重量部に対して、好ましくは90重量%以下、より好ましくは10~85重量%、さらに好ましくは25~80重量%である。
【0034】
重合性成分は上述のとおり、架橋性単量体を含んでいてもよい。架橋性単量体としては、例えばジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン、メタクリル酸アリル、トリアクリルホルマール、トリアリルイソシアネート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、PEG#200ジ(メタ)アクリレート、PEG#400ジ(メタ)アクリレート、PEG#600ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスルトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスルトールヘキサ(メタ)アクリレート等を例示することができる。
【0035】
重合性成分に架橋性単量体が配合される場合、その量は重合性成分100重量部に対して、好ましくは5.0重量部以下、より好ましくは0.02~2.0重量部、さらに好ましくは0.05~1.5重量部である。架橋剤の含有量が5.0重量部以下であると、熱膨張性マイクロカプセルの膨張性能が向上する傾向がある。
【0036】
熱膨張性マイクロカプセルの殻材中に内包される熱膨張性物質は特に限定されないが、熱によって気化または膨張する特性をもち、例えば、イソアルカン、ノルマルアルカン等の炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種を例示することができる。イソアルカンとしては、イソブタン、イソペンタン、2‐メチルペンタン、2‐メチルヘキサン、2,2,4‐トリメチルペンタン等を挙げることができ、ノルマルアルカンとしては、n‐ブタン、n‐プロパン、n‐ヘキサン、n‐ヘプタン、n‐オクタン等を挙げることができる。これらの炭化水素は、それぞれ単独で使用しても複数を組み合わせて使用してもよい。熱膨張性物質の好ましい形態としては、常温で液体の炭化水素に、常温で気体の炭化水素を溶解させたものがよい。このような炭化水素の混合物を使用することにより、未加硫タイヤの加硫成形温度領域(150~190℃)において、低温領域から高温領域にかけて十分な膨張力を得ることができる。
【0037】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の配合で構成され、上述の物性を有するので、優れた氷上性能を発揮することができる。そのため、本発明のタイヤ用ゴム組成物はスタッドレスタイヤのトレッド部を構成するのに好適である。本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤは、氷上性能を従来レベル以上に向上することができる。一方で、走行中にタイヤから熱膨張性マイクロカプセルの膨張した膨張物が脱落したとしても、上述のとおり生分解性を有するので、脱落した膨張物は自然界に存在する微生物等の働きにより分解されるため、環境負荷を軽減することができる。
【0038】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0039】
表1に示す配合からなる8種類のタイヤ用ゴム組成物(従来例1、比較例1~2、実施例1~5)を、それぞれ熱膨張性マイクロカプセル、加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、温度150℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、熱膨張性マイクロカプセル、加硫促進剤および硫黄を加え2分間混合してタイヤ用ゴム組成物を調製した。
【0040】
得られたタイヤ用ゴム組成物について、下記に示す方法により、氷上性能の評価を行った。
【0041】
氷上性能
得られたタイヤ用ゴム組成物を、所定形状の金型(内寸:長さ150mm、幅150mm、厚さ2mm)を用いて170℃、10分間加硫し、加硫ゴム試験片を作成した。その加硫ゴム試験片を偏平円柱状の台ゴムに貼り付け、氷上摩擦試験機を用いて、測定温度-1.5℃、荷重98N、路面速度20km/hの条件で氷上摩擦係数を測定した。得られた結果は、標準例1の値を100とする指数として、表1の「氷上性能」の欄に示した。この指数が大きいほど氷上摩擦力が大きく氷上性能に優れることを意味する。
【0042】
【0043】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、RSS#3
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol BR1220
・CB:カーボンブラック、東海カーボン社製 シーストKHA
・シリカ:ローディア社製 Zeosil 1165MP
・シランカップリング剤:ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、エボニックデグッサ社製 Si69
・オイル:昭和シェル石油株式会社製 エキストラクト4号S
・熱膨張性マイクロカプセル:下記製造方法により得られた熱膨張性マイクロカプセル(後述の方法で測定した生分解度(De1)が8%、膨張開始温度が145~155℃、最大膨張温度が160~180℃、体積平均粒子径が30~40μm)
・硫黄:鶴見化学工業株式会社製 金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製 ノクセラーCZ-G
【0044】
熱膨張性マイクロカプセルの製造方法
イオン交換水500部に、塩化ナトリウム126部を溶解させ、ポリビニルピロリドン1.0部、カルボキシメチル化ポリイミン・Na塩0.05部およびコロイダルシリカ(有効濃度20%)65部を添加し、pHを3.0に調整し水性分散媒を調製した。一方、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(エチレングリコールの平均構成単位数:4)40部、アクリロニトリル60部、メタクリロニトリル10部、メタクリル酸80部、エチレングリコールジメタクリレート3部、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート(純度70%)2部、2-メチルブタン(イソペンタン)40部を混合し油性混合物とした。これら水性分散媒と油性混合物とを混合し、得られた混合液をホモミキサー(プラミクス社製、TKホモミキサー)により回転数10000rpmで1分間分散して、水系懸濁液を調製した。得られた水系懸濁液を容量1.5リットルの加圧反応器に移して窒素置換をしてから反応初期圧0.35MPaにし、80rpmで攪拌しつつ重合温度60℃で20時間重合反応した。重合後、生成物を濾過、乾燥し、熱膨張性マイクロカプセルを得た。
【0045】
熱膨張性マイクロカプセルの生分解度(De1)
熱膨張性マイクロカプセルのJIS K6950:2000に準拠して測定される5日間の生分解度(De1)は具体的には以下の手順で行った。
(溶液A)
無水りん酸二水素カリウム8.5g、無水りん酸水素二カリウム21.75g、りん酸水素二ナトリウム二水和物33.4gおよび塩化アンモニウム0.5を水に溶解させ、全量1000mLの溶液Aを調製した。
(溶液B)
硫酸マグネシウム七水和物22.5gを水に溶解させ、全量1000mLの溶液Bを調製した。
(溶液C)
塩化カルシウム二水和物36.4gを水に溶解させ、全量1000mLの溶液Cを調製した。
(溶液D)
塩化鉄(III)六水和物0.25gを水に溶解させ、全量1000mLの溶液Dを調製した。なお、溶液Dについては、沈殿を防ぐために、使用直前に新しく溶液を調製するか、又は濃塩酸を1滴添加する若しくはエチレンジアミン四酢酸0.4g/L水溶液を1滴添加することを行った。
次に、500mLの水に溶液Aを10mL、溶液B~Dをそれぞれ1mLずつ加え,さらに水を加えて全量を1000mLにした。それを無機塩培地とした。300mLの培養瓶に無機塩培地200mLを入れ、次に熱膨張性マイクロカプセル30mgと下水処理用の活性汚泥45mg添加した後、さらに無機塩培地100mL添加し、測定試料を調製した。調製した測定試料を25℃で5日間静置して、静置後の酸素消費量(BOD1)を測定した。これとは別に、300mLの培養瓶に無機塩培地200mLを入れ、次に下水処理用の活性汚泥45mg添加した後、さらに無機塩培地100mL添加し、ブランク試料をそれぞれ調製した。調製したブランクを上記と同様の条件にて5日間静置し、酸素消費量(BOD0)を測定した。熱膨張性マイクロカプセルを酸化するのに必要な理論上の最大酸素量ThOD1、前述のBOD1、BOD0から、以下の式より生分解度(De1)を算出した。なお、De1が0%である場合、熱膨張性マイクロカプセルは生分解性を示さないことを意味する。
生分解度(De1)(%)=100×(BOD1-BOD0)/ThOD1
【0046】
熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度および最大膨張温度
測定装置として、DMA(DMA Q800型、TA instruments社製)を使用した。熱膨張性マイクロカプセル0.5mgを直径6.0mm、深さ4.8mmのアルミカップに入れ、熱膨張性マイクロカプセル層の上部にアルミ蓋(直径5.6mm、厚み0.1mm)をのせて試料を準備した。その試料に上から加圧子により0.01Nの力を加えた状態で試料高さを測定した。加圧子により0.01Nの力を加えた状態で20℃から300℃まで10℃/minの昇温速度で加熱し、加圧子の垂直方向における変位量を測定した。正方向への変位開始温度を膨張開始温度とし、最大変位量を示した温度を最大膨張温度とした。
【0047】
熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径
測定装置として、日機装株式会社製のマイクロトラック粒度分布計(型式9320-HRA)を使用し、体積基準測定によるD50値を体積平均粒子径とした。
【0048】
表1から明らかなように、実施例1~8は、標準例1に対して、氷上性能を向上した。また、熱膨張性マイクロカプセルとして生分解性を有するものを用いているので、環境負荷を低く抑えることができる。
【0049】
一方、比較例1は、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が少なすぎるため、氷上性能を向上する効果が得られなかった。比較例2は、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が多すぎるため破断強度が低下した。
【0050】
本開示は、以下の発明を包含する。
発明[1] ジエン系ゴム100質量部に対して、カーボンブラックおよび/または白色充填剤が30質量部~100質量部、熱膨張性マイクロカプセルが0.1質量部~30質量部配合され、前記熱膨張性マイクロカプセルのJIS K6950:2000に準拠して測定される5日間の生分解度(De1)が0%超であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
発明[2] 前記熱膨張性マイクロカプセルが熱可塑性樹脂からなる外殻を有し、前記熱可塑性樹脂が単量体(A)を含む重合性成分の重合体であり、前記単量体(A)が重合性炭素-炭素二重結合を1個有し、かつエステル結合および/またはエーテル結合を有し、酸素原子を5個以上有する化合物であることを特徴とする発明[1]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[3] 前記単量体(A)がエーテル結合を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体であることを特徴とする発明[2]に記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[4] 前記熱膨張性マイクロカプセルの膨張開始温度が130℃以上であることを特徴とする発明[1]~[3]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[5] 前記熱膨張性マイクロカプセルの体積平均粒子径が10μm~60μmであることを特徴とする発明[1]~[4]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[6] 前記ジエン系ゴムが天然ゴムおよびポリブタジエンゴムを含み、前記ジエン系ゴム100質量%中に占める前記ポリブタジエンゴムの割合が30質量%以上であることを特徴とする発明[1]~[5]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
発明[7] 発明[1]~[6]のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いたことを特徴とするスタッドレスタイヤ。