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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082920
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】電極体及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20240613BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240613BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M4/13
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197129
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】中薗 貴志
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA07
5H050CB07
5H050DA02
5H050FA02
5H050FA15
5H050HA04
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】高い剥離強度を確保する。
【解決手段】二次電池1の電極体10を構成する電極シート35は、集電体31となる基材36と、この基材36上に形成された電極活物質72を含む合材層50と、この合材層50に隣接して基材36上に形成された絶縁物質を含む絶縁層60と、を備える。また、合材層50と絶縁層60との境界領域αにおいては、基材36の表面36sを覆う絶縁層60xの上方に合材層50xが重複して延在する。そして、その合材層50xに対する絶縁層60の境界表面Sには、電極活物質72の粒子径Rよりも凹凸幅Wの大きい複数の凹凸70が並んで設けられる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体となる基材と、
前記基材上に形成された電極活物質を含む合材層と、
前記合材層に隣接して前記基材上に形成された絶縁物質を含む絶縁層と、を備え、
前記合材層と前記絶縁層との境界領域においては、
前記基材の表面を覆う前記絶縁層の上方に前記合材層が重複して延在するとともに、
前記合材層に対する前記絶縁層の境界表面には、前記電極活物質の粒子径よりも凹凸幅の大きい複数の凹凸が並んで設けられている電極体。
【請求項2】
前記凹凸幅が前記粒子径の5倍以上、30倍以下である請求項1に記載の電極体。
【請求項3】
前記凹凸幅が20μm以上、120μm以下である請求項1に記載の電極体。
【請求項4】
前記境界表面に占める前記凹凸の割合が20%以上である
請求項1に記載の電極体。
【請求項5】
前記凹凸の底部における前記絶縁層の厚みが前記絶縁物質の粒子径よりも大きい
請求項1に記載の電極体。
【請求項6】
前記絶縁層の上方に重複した前記合材層の先端部から200μm以内に前記凹凸を有している請求項1に記載の電極体。
【請求項7】
前記合材層は、正極活物質層である請求項1に記載の電極体。
【請求項8】
請求項1~請求項7の何れか一項に記載の電極体を備えた二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極体及び二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、二次電池の電極体には、集電体となる基材と、この基材上に形成された電極活物質を含む合材層と、を備えたものがある。更に、このような電極体においては、その基材の端部に設定された未塗工部が電極端子との接続部となる。そして、例えば、特許文献1等に示すように、電極体には、この未塗工部となる位置において、その合材層に隣接して基材上に形成された絶縁物質を含む絶縁層を備えたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-76196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような構成を有する電極体においては、基材上に形成された合材層の縁部となる部分に剥離が生じやすい傾向がある。このため、その合材層の縁部となる位置、つまりは絶縁層との境界領域について、その高い剥離強度を確保することが重要な課題となっている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する電極体及び二次電池の各態様を記載する。
態様1は、集電体となる基材と、前記基材上に形成された電極活物質を含む合材層と、前記合材層に隣接して前記基材上に形成された絶縁物質を含む絶縁層と、を備え、前記合材層と前記絶縁層との境界領域においては、前記基材の表面を覆う前記絶縁層の上方に前記合材層が重複して延在するとともに、前記合材層に対する前記絶縁層の境界表面には、前記電極活物質の粒子径よりも凹凸幅の大きい複数の凹凸が並んで設けられている電極体である。
【0006】
即ち、結着材の含有比率を高めやすい絶縁層が基材の表面を覆うことにより、合材層と絶縁層との境界領域において、その絶縁層を基材に対して強く結着させることができる。更に、合材層に対する絶縁層の境界表面に微細な凹凸を設けることで、これらの接触面積を拡大することができる。そして、これにより、絶縁層に対する合材層の結着力を高めることで、その境界領域における高い剥離強度を確保することができる。
【0007】
特に、境界表面における凹凸幅を電極活物質の粒子径よりも大きな値に設定することで、その凹部形状内に合材層中の電極活物質が入り込みやすくなる。即ち、合材層中の結着材は、その電極活物質に付着した状態で存在する。従って、上記構成によれば、効果的に、その絶縁層と合材層との実質的な接触面積を拡大することができる。そして、これにより、その絶縁層に対して合材層を強く結着させることで、より一層、高い剥離強度を確保することができる。
【0008】
態様2は、前記凹凸幅が前記粒子径の5倍以上、30倍以下である態様1に記載の電極体である。
態様3は、前記凹凸幅が20μm以上、120μm以下である態様1又は態様2に記載の電極体である。
【0009】
態様4は、前記境界表面に占める前記凹凸の割合が20%以上である態様1~態様3の何れか一つに記載の電極体である。
上記各構成によれば、境界領域における高い剥離強度を確保することができる。
【0010】
態様5は、前記凹凸の底部における前記絶縁層の厚みが前記絶縁物質の粒子径よりも大きい態様1~態様4の何れか一つに記載の電極体である。
上記構成によれば、絶縁層の厚みが薄くなる凹凸の底部にも、その絶縁物質が存在可能となる。そして、これにより、その合材層に対する境界表面に凹凸を有した絶縁層を、正しく、その絶縁層として機能させることができる。
【0011】
態様6は、前記絶縁層の上方に重複した前記合材層の先端部から200μm以内に前記凹凸を有している態様1~態様5の何れか一つに記載の電極体である。
即ち、境界領域においては、塗工された合材ペーストが流動することで、その合材層の厚みが薄くなりやすい。そして、これにより生ずる結着材の偏在によって、その合材層が剥がれやすくなる。しかしながら、上記構成によれば、このような薄肉化が生じやすい範囲において、その合材層に対する絶縁層の境界表面に凹凸が形成されることになる。そして、これにより、効果的に、その境界領域における合材層の剥離強度を高めることができる。
【0012】
態様7は、前記合材層は、正極活物質層である態様1~態様6の何れか一つに記載の電極体である。
上記構成によれば、品質の高い正極用の電極体を形成することができる。
【0013】
態様8は、態様1~態様7の何れか一つに記載の電極体を備えた二次電池である。
上記構成によれば、品質の高い二次電池を形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い剥離強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】二次電池の斜視図である。
図2】電極体の分解図である。
図3】二次電池の側面図である。
図4】基材上に形成された合材層及び絶縁層の断面図である。
図5】境界領域における合材層及び絶縁層の積層構造を示す拡大断面図である。
図6】凹凸幅が狭い場合の境界表面を示す比較例の模式図である。
図7】凹凸幅と剥離強度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、二次電池及びその電極体に関する一実施形態を図面に従って説明する。
(二次電池)
図1に示すように、二次電池1は、正極3、負極4、及びセパレータ5を一体化した電極体10と、この電極体10を収容するケース20と、を備えている。そして、本実施形態の二次電池1は、そのケース20内の電極体10に、図示しない非水性の電解液を含浸させたリチウムイオン二次電池としての構成を有している。
【0017】
詳述すると、本実施形態の二次電池1において、正極3、負極4、及びセパレータ5は、シート状の外形を有して積層される。そして、これら正極3、負極4、及びセパレータ5の積層体を捲回することにより、正極3と負極4との間にセパレータ5を挟み込む状態で、その径方向に正負の電極とセパレータ5とが交互に並ぶ電極体10が形成されている。
【0018】
また、本実施形態のケース20は、扁平略四角箱状のケース本体21と、このケース本体21の開口端21xを閉塞する蓋部材22と、を備えている。そして、本実施形態の電極体10は、このケース20の箱形状に対応する扁平した外形を有するものとなっている。
【0019】
(電極シート及び電極体)
さらに詳述すると、図2に示すように、本実施形態の二次電池1において、正極3及び負極4は、それぞれ、シート状の外形を有した集電体31と、この集電体31上に積層された電極活物質層32と、を備えた電極シート35としての構成を有する。
【0020】
具体的には、正極3用の電極シート35Pについては、その正極集電体31Pを構成するアルミニウム等を素材とした基材36P上に、正極活物質となるリチウム遷移金属酸化物を含んだ合材ペースト37Pが塗工される。また、負極4用の電極シート35Nについては、その負極集電体31Nを構成する銅等を素材とした基材36N上に、負極活物質となる炭素系材料を含んだ合材ペースト37Nが塗工される。更に、これらの合材ペースト37P,37Nには、それぞれ、結着材が含まれている。そして、本実施形態の二次電池1においては、これらの合材ペースト37P,37Nが乾燥することで、その正負の電極シート35P,35Nに対して、それぞれ、その対応する正極活物質層32P及び負極活物質層32Nが形成される構成となっている。
【0021】
更に、本実施形態の二次電池1において、これら正負の電極シート35P,35Nは、それぞれ、帯状に整形される。そして、本実施形態の電極体10は、セパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nが、その帯形状の幅方向(図2中、左右方向)に延びる捲回軸L周りに捲回される構成になっている。
【0022】
尚、図2中においては、その正極3を構成する電極シート35Pを内側に捲き込むかたちで、セパレータ5及び各電極シート35が捲回されている。但し、この図は、電極体10の構造を示す一例であり、その負極4を構成する電極シート35Nを内側に捲き込むかたちで、これらのセパレータ5及び各電極シート35が捲回される場合もある。そして、これにより、その電極体10の最外殻に配置される電極シート35が、正極3を構成する電極シート35Pであるか、又は負極4を構成する電極シート35Nであるかが決定される。
【0023】
また、図1図3に示すように、ケース20の蓋部材22には、ケース20の外側に突出する正極端子38P及び負極端子38Nが設けられている。更に、各電極シート35には、それぞれ、その集電体31上に電極活物質層32が形成されていない未塗工部39が形成されている。そして、本実施形態の二次電池1は、これらの未塗工部39を利用して、その正極3を構成する電極シート35Pと正極端子38Pとが電気的に接続され、及び、その負極4を構成する電極シート35Nと負極端子38Nとが電気的に接続される構成となっている。
【0024】
具体的には、本実施形態の電極体10は、その捲回軸Lが長尺略矩形板状をなす蓋部材22の長手方向(図1中、左右方向)に沿う状態で、ケース20内に収容される。更に、この状態で、その正極3を構成する電極シート35Pの未塗工部39Pと正極端子38Pとが接続部材40Pを介して接続される。そして、同じく、その負極4を構成する電極シート35Nの未塗工部39Nと負極端子38Nとが接続部材40Nを介して接続される構成となっている。
【0025】
更に、このケース20内には、電解液41が注入される。即ち、リチウムイオン二次電池としての構成を有する二次電池1の電解液41には、有機溶媒中に支持塩となるリチウム塩を溶解させたものが用いられる。そして、本実施形態の二次電池1は、これにより、そのケース20内に封缶された電極体10に対して電解液41が含浸される構成になっている。
【0026】
(合材層及び絶縁層)
図4に示すように、本実施形態の二次電池1において、電極体10を構成する電極シート35の電極活物質層32は、上記のように、集電体31となる基材36上に電極活物質を含んだ合材ペースト37を塗工してなる合材層50としての構成を有している。
【0027】
詳述すると、図4中に示す電極シート35は、正極集電体31Pとなる基材36P上に形成された正極活物質層32Pを有する正極3用の電極シート35Pである。また、この電極シート35は、その合材層50に隣接して、基材36上に設けられた絶縁層60を備えている。即ち、この絶縁層60は、帯状の箔形状をなす電極シート35の幅方向端部に設定された未塗工部39を部分的に覆う位置に形成されている。そして、本実施形態の二次電池1においては、その絶縁層60もまた、基材36上に絶縁物質を含んだ絶縁ペースト61を塗工することにより形成されている。
【0028】
尚、本実施形態の二次電池1においては、基材36に対して、その合材ペースト37及び絶縁ペースト61が同時に塗工される。そして、これらの合材ペースト37及び絶縁ペースト61が乾燥することで、その基材36上に、互いに隣接した合材層50及び絶縁層60が形成される構成となっている。
【0029】
(境界領域及び境界表面の凹凸)
また、図4及び図5に示すように、本実施形態の電極シート35は、これらの合材層50及び絶縁層60が互いに隣接する境界領域αにおいて、その絶縁層60xが基材36の表面36sを覆う構成となっている。更に、この境界領域αにおいて、合材層50xは、その絶縁層60xの上方に重複して延在する。そして、本実施形態の電極シート35は、これにより、その絶縁層60xの上面60xsが、この絶縁層60xの上方に積層された合材層50xに対する境界表面Sを形成する構成となっている。
【0030】
更に、本実施形態の電極シート35において、合材層50xに対する境界表面Sを形成する絶縁層60xの上面60xsには、合材層50xに含まれた電極活物質72の粒子径Rよりも大きな凹凸幅Wを有する複数の凹凸70が並んで設けられている(W>R)。そして、本実施形態の電極シート35は、これにより、合材層50xに接触する絶縁層60xの表面積、つまりは、これらの接触面積を拡張することで、その絶縁層60x上に積層された合材層50xの剥離強度を高める。つまりは、その境界領域αに配置された絶縁層60xが剥がれ難い構造を有するものとなっている。
【0031】
尚、「剥離強度」は、「剥離耐性強度」や「結着強度」等に言い換えることができる。また、上記のような合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sにおける凹凸幅Wについては、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。具体的には、合材層50と絶縁層60との境界領域αについて、その断面画像を撮影する。つまり、図4及び図5の構図は、このとき撮影される境界領域αの断面画像に準じたものとなっている。そして、この断面画像を解析することにより、その隣り合う2つの凹部形状73,73間の距離、詳しくは、これら各凹部形状73,73の底部73b,73b間の距離を、その凹凸幅Wとして測定することができる。
【0032】
即ち、合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sにおける凹凸70の「並び方」は、基本的にランダムである。このため、本実施形態の電極シート35においては、上記のように測定される「凹凸幅W」が、その凹凸70の大きさを表す指標に用いられている。
【0033】
さらに詳述すると、本実施形態の電極シート35において、その合材層50に含まれる電極活物質72の粒子径Rは、例えば、3μm以上、5μm以下の範囲に設定される。尚、この値は、その電極シート35が正極3側の電極シート35Pである場合、つまりは、その合材層50に正極活物質72Pが含まれている場合の値である。また、その境界表面Sにおける凹凸幅Wは、例えば、40μm以上、80μm以下の範囲に設定される。そして、この凹凸幅Wの設定範囲は、電極活物質72の粒子径Rとの比較で表した場合、その粒子径Rの10倍以上、20倍以下に相当する範囲となっている。
【0034】
即ち、絶縁層60x上に積層された合材層50xの剥離強度は、その合材層50xと絶縁層60xとの接触面積が大きいほど高くなる。そして、この接触面積は、その境界表面Sに対して微細な凹凸70を形成することにより拡張することができる。
【0035】
しかしながら、図6に示すように、境界表面Sにおける凹凸幅Wが狭すぎる場合には、その凹部形状73内に電極活物質72が入り込み難くなる。即ち、絶縁層60xに対する合材層50xの結着力は、この合材層50xに含まれた図示しない結着材によるものである。更に、合材層50xにおいて、その結着材は、電極活物質72に付着した状態で存在する(図示略)。このため、上記のように合材層50x中の電極活物質72が凹凸70の凹部形状73に入り込めない場合、絶縁層60xと合材層50xとの実質的な接触面積が、その境界表面Sが平坦である場合の接触面積よりも狭くなる。そして、これにより、その絶縁層60xに対する合材層50xの結着力が低下する。その結果、その剥離強度の向上効果が得られない可能性が生ずる。
【0036】
具体的には、図7に示すように、合材層50に含まれる電極活物質72の粒子径Rが本実施形態の電極シート35と同等である場合、概ね、境界表面Sにおける凹凸幅Wが10μm以上、150μm以下の範囲において、その剥離強度の向上効果が得られる。更に、その凹凸幅Wの下限については、20μm以上とすることが好ましく、40μm以上とすることが、より好ましい。そして、その凹凸幅Wの上限については、120μm以下とすることが好ましく、80μm以下とすることが、より好ましい。
【0037】
尚、図7には、その合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sが「平坦面」である場合を「100」として、その境界表面Sにおける凹凸幅Wに応じた「剥離強度」の値が示されている。また、電極活物質72の粒子径Rとの比較で表した場合、その凹凸幅Wが「10μm以上」「20μm以上」「40μm以上」の各範囲は、それぞれ、概ね「2.5倍以上」「5倍以上」「10倍以上」に相当する。更に、その凹凸幅Wが「150μm以下」「120μm以下」「80μm以下」の各範囲は、それぞれ、概ね「37.5倍以下」「30倍以下」「20倍以下」に相当する。そして、本実施形態の電極シート35においては、この図7に示す試験結果に基づいて、上記のように、その凹凸幅Wの設定範囲が規定されている。
【0038】
さらに詳述すると、合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sに占める凹凸70の割合については、概ね20%以上の範囲において、その剥離強度の向上効果が得られる。更に、この凹凸70の割合については、その値がより大きいほど、より顕著な剥離強度の向上効果が得られるものと推定される。しかしながら、この凹凸70の割合については、例えば、70%以上等とした場合、安定した品質の確保が難しくなる。このため、境界表面Sに占める凹凸70の割合については、30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上であるとよい。そして、本実施形態の電極シート35は、このような好ましい割合の凹凸70を有して、その合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sが形成される構成となっている。
【0039】
また、凹凸70の底部、つまりは凹部形状73の底部73bにおける絶縁層60xの厚みD、この絶縁層60xに含まれる図示しない絶縁物質の粒子径rよりも大きな値に設定される(図5参照、D>r)。即ち、絶縁物質が存在しない部分ができることで、その絶縁性能が低下することになる。この点を踏まえ、本実施形態の電極シート35においては、その凹部形状73の底部73bにおける絶縁層60xの厚みDが、例えば2μm以上に設定されている。尚、絶縁物質となるベーマイトの粒子径は、概ね1μm以上、3μm以下であり、上記凹凸70の底部における絶縁層60xの厚みDには、この粒子径rを考慮した値が設定される。そして、本実施形態の電極シート35は、これにより、その合材層50xに対する境界表面Sに凹凸70を有した絶縁層60xが、正しく、その絶縁層60として機能する構成となっている。
【0040】
更に、絶縁層60xの厚み方向における凹部形状73の底部73bと凸部形状74の頂部74aとの差を凹凸70の高さHとする。そして、本実施形態の電極シート35においては、この凹凸70の高さHが、その電極活物質72の粒子径Rとの比較で、概ね3倍以上となっている。
【0041】
また、本実施形態の電極シート35において、境界領域αの絶縁層60xは、この絶縁層60xの上方に重複して形成された合材層50xの先端部50xaから概ね200μm以内に、その境界表面Sに形成された凹凸70を有している。
【0042】
即ち、境界領域αにおいては、合材ペースト37の流動により、その形成される合材層50xの厚みが薄くなりやすい。更に、このような薄肉化した部位においては、合材ペースト37の乾燥が早く進むことで、その形成された合材層50xに含まれる結着材の分布にムラが生じやすい。そして、これにより、その合材層50xの剥離強度が低下するおそれがある。
【0043】
本実施形態の電極シート35においては、このような剥離強度が低下しやすい薄肉化範囲βが、その合材層50xの先端部50xaから200μm以内に形成されやすくなっている。つまり、本実施形態の電極シート35は、このような薄肉化範囲βに、その合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sに形成された凹凸70を有している。そして、これにより、効果的に、その合材層50の剥離強度を高めることのできる構成となっている。
【0044】
(製造工程)
本実施形態の二次電池1において、電極体10を構成する電極シート35として、その正極3用の電極シート35Pを製造する際、絶縁ペースト61については、その粘度が、例えば、1000mPa・s以上、5000mPa・s以下に設定される。尚、粘度測定時の基準温度は、25℃である。また、このとき、その絶縁ペースト61の固形分率は、例えば、10%以上、40%以下に設定される。更に、正極3用の合材ペースト37Pについては、その粘度が、例えば、100mPa・s以上、20000mPa・s以下に設定される。そして、このとき、その合材ペースト37Pの固形分率は、例えば、60%以上、70%以下に設定される。
【0045】
また、上記のように、合材層50及び絶縁層60の形成は、基材36に対して、その合材ペースト37及び絶縁ペースト61を同時に塗工することにより行われる。更に、このとき、合材ペースト37Pの吐出量については、例えば、500g/min以上、2000g/min以下に設定される。そして、その絶縁ペースト61の吐出量については、例えば、10g/min以上、100g/min以下に設定される。
【0046】
更に、これら合材ペースト37及び絶縁ペースト61の塗工時、絶縁ペースト61の粘度は、合材ペースト37の粘度よりも低く設定される。即ち、絶縁ペースト61の流動性を高く設定することにより、基材36上に塗工された絶縁ペースト61が、その基材36上を流れ広がりやすくなる。そして、本実施形態の電極シート35においては、これにより、その基材36の表面36sを覆う絶縁層60xの上方に合材層50xが重複して延在する態様で、これら合材層50及び絶縁層60の境界領域αが形成される。
【0047】
また、本実施形態の電極シート35においては、電極活物質72の粒子径Rや絶縁物質の粒子径rを含め、上記に列挙した各材料の仕様や、例えば、温度等の製造条件に応じて、その合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sに凹凸70が形成される。そして、本実施形態の電極シート35は、これらの各パラメータを適宜調整することで、その絶縁層60xの境界表面Sに形成する凹凸70の最適化を図る構成となっている。
【0048】
(作用)
合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sに複数の凹凸70を並んで設けることにより、その合材層50xと絶縁層60xとの接触面積が拡大する。更に、この接触面積の拡大によって、その絶縁層60xに対する合材層50xの結着力が高くなる。そして、これにより、合材層50と絶縁層60との境界領域αにおいて、その絶縁層60xの上方に重複して延在する合材層50xが剥がれ難くなる。
【0049】
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)二次電池1の電極体10を構成する電極シート35は、集電体31となる基材36と、この基材36上に形成された電極活物質72を含む合材層50と、この合材層50に隣接して基材36上に形成された絶縁物質を含む絶縁層60と、を備える。また、合材層50と絶縁層60との境界領域αにおいては、基材36の表面36sを覆う絶縁層60xの上方に合材層50xが重複して延在する。そして、その合材層50xに対する絶縁層60の境界表面Sには、電極活物質72の粒子径Rよりも凹凸幅Wの大きい複数の凹凸70が並んで設けられる。
【0050】
即ち、結着材の含有比率を高めやすい絶縁層60xが基材36の表面36sを覆うことにより、合材層50と絶縁層60との境界領域αにおいて、その絶縁層60xを基材36に対して強く結着させることができる。更に、合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sに微細な凹凸70を設けることで、これらの接触面積を拡大することができる。そして、これにより、絶縁層60xに対する合材層50xの結着力を高めることで、その境界領域αにおける高い剥離強度を確保することができる。
【0051】
特に、境界表面Sにおける凹凸幅Wを電極活物質72の粒子径Rよりも大きな値に設定することで、その凹部形状73内に合材層50x中の電極活物質72が入り込みやすくなる。即ち、合材層50x中の結着材は、その電極活物質72に付着した状態で存在する。従って、上記構成によれば、効果的に、その絶縁層60xと合材層50xとの実質的な接触面積を拡大することができる。そして、これにより、その絶縁層60xに対して合材層50xを強く結着させることで、より一層、高い剥離強度を確保することができる。
【0052】
(2)具体的には、例えば、境界表面Sにおける凹凸幅Wは、例えば、10μm以上、150μm以下の範囲に設定することが好ましく、20μm以上、120μm以下の範囲に設定することが、より好ましい。そして、その凹凸幅Wを、40μm以上、80μm以下の範囲に設定することで、より顕著な剥離強度の向上効果を得ることができる。
【0053】
(3)また、電極活物質72の粒子径Rとの比較で表した場合、凹凸幅Wの設定範囲は、例えば、粒子径Rの2.5倍以上、40倍以下に相当する範囲に設定することが好ましく、粒子径Rの5倍以上、40倍以下に相当する範囲に設定することが、より好ましい。そして、粒子径Rの10倍以上、20倍以下に相当する範囲に凹凸幅Wを設定することで、より顕著な剥離強度の向上効果を得ることができる。
【0054】
(4)境界表面Sに占める凹凸70の割合は、20%以上であることが好ましく、30%以上であることが、より好ましい。更に、境界表面Sに占める凹凸70の割合は、50%以上であることが、より一層好ましい。そして、これにより、その合材層50xと絶縁層60xとの接触面積を拡大することで、高い剥離強度を確保することができる。
【0055】
(5)凹凸70の底部となる凹部形状73の底部73bにおける絶縁層60xの厚みDが、その絶縁層60xに含まれる絶縁物質の粒子径rよりも大きい(D>r)。
上記構成によれば、絶縁層60xの厚みDが薄くなる凹凸70の底部にも、その絶縁物質が存在可能となる。そして、これにより、その合材層50xに対する境界表面Sに凹凸70を有した絶縁層60xを、正しく、その絶縁層60として機能させることができる。
【0056】
(6)電極シート35は、絶縁層60xの上方に重複した合材層50xの先端部50xaから200μm以内に、その合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sに形成された凹凸70を有する。
【0057】
即ち、境界領域αにおいては、塗工された合材ペースト37が流動することで、その合材層50xの厚みが薄くなりやすい。そして、これにより生ずる結着材の偏在によって、その合材層50xが剥がれやすくなる。しかしながら、上記構成によれば、このような薄肉化範囲βにおいて、その合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sに凹凸70が形成されることになる。そして、これにより、効果的に、その境界領域αにおける合材層50の剥離強度を高めることができる。
【0058】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0059】
・凹凸幅Wの設定範囲は、任意に変更してもよい。上限を変更してもよい。下限を変更してもよい。更に、その上限及び下限を変更してもよい。そして、凹凸70の底部における絶縁層60xの厚みDや凹凸70の高さHについてもまた、任意に変更してもよい。
【0060】
・更に、合材層50xに対する絶縁層60xの境界表面Sが、平坦な部分を含むものであってもよい。即ち、必ずしも、その境界表面Sの全域に、凹凸70を有していなくともよい。そして、その境界表面Sに占める凹凸70の割合についてもまた、任意に変更してもよい。
【0061】
・上記実施形態では、基材36に対して合材ペースト37及び絶縁ペースト61を同時に塗工することとしたが、その塗工タイミングがずれていてもよい。更に、合材層50及び絶縁層60の形成に関する各種の設定もまた、任意に調整してもよい。
【0062】
即ち、基材36の表面36sを覆う絶縁層60xの上方に合材層50xが重複して延在する態様で、合材層50と絶縁層60との境界領域αが形成される。そして、その合材層50xに対する絶縁層60の境界表面Sに対し、電極活物質72の粒子径Rよりも凹凸幅Wの大きい複数の凹凸70が並んで設けられた状態にすることが可能であればよい。つまりは、同一の制御条件での再現性が確保可能であれば、合材層50及び絶縁層60を形成する工程の詳細については、任意に変更してもよい。
【0063】
・上記実施形態では、正極集電体31Pとなる基材36P上に形成された正極活物質層32Pを有する正極3用の電極シート35Pを例示して、その基材36に形成される合材層50及び絶縁層60の境界領域αについて、その好適な積層構造を説明した。しかし、これに限らず、負極集電体31Nとなる基材36N上に形成された負極活物質層32Nを有する負極4用の電極シート35Nに適用してもよい。
【0064】
・合材ペースト37及び絶縁ペースト61の組成については、電極活物質、絶縁物質、結着材を含め、適宜、変更してもよい。
・更に、上記実施形態では、セパレータ5を挟んで積層された正負の電極シート35P,35Nが捲回されることにより、その電極体10が形成されることとした。しかし、これに限らず、複数の極板群を有した積層型の電極体10に適用してもよい。また、その電極体10が適用される二次電池1は、必ずしもリチウムイオン二次電池でなくともよく、その他の非水電解質二次電池に適用してもよい。そして、非水電解質二次電池以外の二次電池に適用してもよい。
【0065】
・外部端子の形状については、例えば、図1中に示す形状に限らず任意に変更してもよい。そして、二次電池1の外形となるケース20の形状についてもまた、必ずしも扁平四角箱状に限らず、例えば円筒形状等、任意に変更してもよい。
【0066】
次に、上記実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)前記凹凸幅が10μm以上であることを特徴とする。
(ロ)前記凹凸幅が40μm以上であることを特徴とする。
【0067】
(ハ)前記凹凸幅が150μm以下であることを特徴とする。
(ニ)前記凹凸幅が80μm以下であることを特徴とする。
上記各構成によれば、境界領域における高い剥離強度を確保することができる。
【符号の説明】
【0068】
1…二次電池
10…電極体
31…集電体
35…電極シート
36…基材
36s…表面
50,50x…合材層
60,60x…絶縁層
70…凹凸
72…電極活物質
R…粒子径
α…境界領域
S…境界表面
W…凹凸幅
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7