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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082921
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】非水電解液二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20240613BHJP
   H01M 10/0587 20100101ALI20240613BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240613BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240613BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0587
H01M10/0566
H01M10/052
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197130
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】399107063
【氏名又は名称】プライムアースEVエナジー株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉川 和孝
(72)【発明者】
【氏名】出口 祥太郎
(72)【発明者】
【氏名】坂井 遼太郎
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ02
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ13
5H029HJ04
5H029HJ09
5H029HJ12
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050DA02
5H050FA04
5H050FA05
5H050HA04
5H050HA09
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】リチウムイオン二次電池において、絶縁保護層によるハイレート劣化を抑制すること。
【解決手段】絶縁保護層34を備えたリチウムイオン二次電池の正極板3において、正極合材層32と正極集電体31との間に存在する絶縁保護層34である潜り込み部36を設け、絶縁保護層34の潜り込み部36と正極集電体31の間において、正極板3の厚み方向に3[μm]以上、幅方向に5~100[μm]の空間35を備えた。このため、ハイレートの充放電時に空間35に貯留された非水電解液13により電解質が正極合材層32に供給されるためハイレート劣化を抑制することができる。
【選択図】図14
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、
前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に形成された正極合材層と、前記正極集電体の表面の前記正極合材層に隣接するように形成された絶縁保護層を備え、
前記正極合材層と前記正極集電体との間に存在する前記絶縁保護層である潜り込み部を設け、
前記絶縁保護層の前記潜り込み部と前記正極集電体の間において、前記正極板の厚み方向に3μm以上、幅方向に5~100μmの空間を備えた
ことを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記潜り込み部の捲回方向と直交する幅を、0.2~1.0mmとしたことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記絶縁保護層の前記空間を除く空隙率が42~55%であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に係り、詳しくはハイレート劣化を抑制する非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水電解液二次電池は、軽量で高いエネルギー密度が得られることから、車両搭載用の高出力電源や定置用の蓄電設備等としても好ましく用いられている。このような非水電解液二次電池では、正極と負極とがセパレータ等で絶縁された構成の蓄電要素が、一つの電池ケース内に円柱状または楕円柱状に積層捲回された捲回電極体を備えている。一般的にこのような電極体の正極と負極は、負極合材層の幅方向の寸法が正極合材層の幅方向の寸法よりも広くなるように設計されている。そのため、負極合材層がセパレータを介して金属が露出した正極集電体と対向することになる。この場合、通常ではセパレータがあるため短絡を生じない。しかし、負極における金属の析出や、金属微粉などの侵入によりセパレータを貫通して短絡することで発熱することがある。
【0003】
このような短絡を防止する目的で、例えば特許文献1には、以下のような発明が開示されている。すなわち、正極は正極集電箔と、絶縁材を含む絶縁保護層と、正極活物質を含む正極合材層とを備える。正極板の正極集電箔の少なくとも一方の面において、正極合材層および絶縁保護層が形成された発明が開示されている。
【0004】
このような絶縁保護層を設けることで正極集電体を構成する金属板を絶縁体で被覆し、金属Liが析出したり金属微粉のような異物が侵入したりした場合でも、セパレータを貫通して負極合材層と短絡することを有効に防止することができた。
【0005】
また、特許文献1では、絶縁保護層の被重なり部は正極合材層の重なり部によって覆われているので、絶縁保護層が正極集電箔から剥離することが抑制される構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-157471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非水電解液二次電池では、ハイレートで充放電を行った場合電解質の移動が生じる。このときセル電池内で絶縁保護層に起因して非水電解液が十分に移動できないと非水電解液の濃度にムラが生じる。そして、これを起因とする電池の劣化、いわゆる「ハイレート劣化」を生じることがある。特に、正極合材層と正極集電箔との間に絶縁保護層を備えたような特許文献1に記載された発明では、絶縁保護層がはがれにくいという効果はあるが、この部分でハイレート劣化を生じやすいという問題があった。
【0008】
本発明の非水電解液二次電池が解決しようとする課題は、絶縁保護層によるハイレート劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の非水電解液二次電池では、正極板と、負極板と、前記正極板および前記負極板を絶縁するセパレータと、非水電解液とを備え、前記正極板は、正極集電体と、前記正極集電体の少なくとも一方の表面の一部に形成された正極合材層と、前記正極集電体の表面の前記正極合材層に隣接するように形成された絶縁保護層を備え、前記正極合材層と前記正極集電体との間に存在する前記絶縁保護層である潜り込み部を設け、前記絶縁保護層の前記潜り込み部と前記正極集電体の間において、前記正極板の厚み方向に3μm以上、幅方向に5~100μmの空間を備えたことを特徴とする。
【0010】
前記潜り込み部の捲回方向と直交する幅を、0.2~1.0mmとすることができる。
前記絶縁保護層の前記空間を除く空隙率が42~55%とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の非水電解液二次電池によれば、絶縁保護層によるハイレート劣化を抑制することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態のリチウムイオン二次電池の構成の概略を示す斜視図である。
図2】本実施形態の捲回される電極体の構成を示す模式図である。
図3】リチウムイオン二次電池の電極体の積層の構成を示す模式的な部分断面図である。
図4図3において部分Aで示す部分を拡大した本実施形態の塗工工程における正極合材層と絶縁保護層の境界部Bを示す模式図である。
図5】本実施形態の正極板の製造方法を示すフローチャートである。
図6】塗工工程を示す斜視図である。
図7】塗工機の図6のC-C部分から見た断面を含む第1のノズルと第2のノズルを示す模式的な斜視図である。
図8】塗工工程(S3)開始後の正極板の状態を示す模式図である。
図9】塗工工程(S3)途中の絶縁保護ペーストと、正極合材ペーストの流れの状態を示す正極板の状態を示す模式図である。
図10】塗工工程(S3)の塗工完了後の正極板の状態を示す模式図である。
図11】塗工工程(S3)の塗工完了後の絶縁保護ペーストと正極合材ペーストの流れの状態を示す模式図である。
図12】完成した正極板を示す模式図である。
図13】接触角が大きすぎるため、脱落する絶縁保護層を示す模式図である。
図14図12の空間部分を拡大した模式図である。
図15】本実施形態の実験を示す表である。
図16】従来の正極板の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(本実施形態の概略)
本発明の非水電解液二次電池を、リチウムイオン二次電池1の一実施形態により図1~15を参照して説明する。
【0014】
<従来の問題点>
図16は、従来技術の正極板3を示す模式図である。特許文献1で述べたとおり、図16に示すように絶縁保護層34を正極合材層32の両端に隣接するように正極集電体31上に設けることで微小短絡を抑制することができた。また、正極合材層32を絶縁保護層34に重ねるように設けることで、絶縁保護層34が剥がれにくくなるという効果がある。
【0015】
しかしながら、リチウムイオン二次電池1では、ハイレートで充放電を行った場合、正極合材層32において電解質の移動が生じる。このとき、図16に示すように従来の構成では絶縁保護層34自体は絶縁性が高いため、非水電解液13が十分になければ、電解質の移動が妨げられ、電解質の濃度にムラが生じる。これを起因として電池の劣化、いわゆる「ハイレート劣化」を生じるという問題があった。
【0016】
図12は、本実施形態の正極板3を示す模式図である。このような問題を鑑み本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板3では、絶縁保護層34と正極集電体31の境界部において空間35を設ける。非水電解液13の注液後には、この空間35に非水電解液13が貯留される。
【0017】
そうすると、この空間35に貯留された非水電解液13により、ハイレートで充放電を行った場合でも、正極合材層32に対して電解質の供給がなされ、電解質の不足によるハイレート劣化を抑制することができる。
【0018】
<本実施形態の特徴>
図14は、図12の潜り込み部36の空間35を拡大して示す模式図である。本実施形態のリチウムイオン二次電池1の正極板3では、正極合材層32と正極集電体31と絶縁保護層34を備える。絶縁保護層34は、正極合材層32と正極集電体31との間に存在する潜り込み部36と、外部に露出した端部37とからなる。ここで、本実施形態における「潜り込み部36」とは、以下の部分をいう。すなわち、塗工工程(S3)における塗工時に正極合材ペースト32aよりも、先に絶縁保護ペースト34aが正極集電体31を覆い、この潜り込んだ絶縁保護ペースト34aの上に正極合材ペースト32aを重畳した部分である。
【0019】
本実施形態では、絶縁保護層34の潜り込み部36と正極集電体31の間において、正極板3の厚み方向Dに厚みD1が3[μm]以上、捲回方向と直交する幅W1が5[μm]以上、100[μm]以下の空間35を備えた。ここで本実施形態において「空間35」とは、絶縁保護層34の潜り込み部36と正極集電体31の間において、塗工時に空気を巻き込んで生じた空間である。このリチウムイオン二次電池1に非水電解液13を注液すると、この空間35に非水電解液13が貯留されるものである。十分に空間35が形成されれば、十分な量の非水電解液13を貯留することができる。一方、空間35が過大であると、絶縁保護層34が正極集電体31から剥離しやすくなる。本実施形態では、そのような観点から実験を通じてその値を最適化している。
【0020】
そして、潜り込み部36の幅W2を、0.2[mm]以上、1.0[mm]以下とした。潜り込み部36の幅W2を十分に取ることで、絶縁保護層34の正極集電体31からの剥離を効果的に抑制することができる。一方、潜り込み部36が過大であると、電池としての反応の効率が低下する。そのため、本実施形態では、実験を通じてその値の最適化を図っている。
【0021】
さらに、絶縁保護層34の空間35を除く空隙率Pが、42[%]以上、55[%]以下とした。ここで、「空隙率[%]」とは、全体における空隙の割合を示す値であり、空隙率P[%]が大きいと、非水電解液13の交換が良好となる。また、空隙率P[%]が小さいと、構造的に強固となる。本実施形態では、このような見地から、実験を通じてその最適化を図っている。
【0022】
本実施形態では、このような構成としたため以下の作用がある。前提として絶縁保護層34が正極集電体31から剥離しにくい構造となっている。その上で、ハイレートで充放電を行った場合でも、絶縁保護層34の潜り込み部36に形成された非水電解液13を貯留した空間35から正極合材層32に電解質の供給がなされる。その結果、電解質の不足による正極活物質のハイレート劣化を抑制することができる。
【0023】
(本実施形態の構成)
<リチウムイオン二次電池1の構成>
次に本実施形態のリチウムイオン二次電池1についてその構成を詳細に説明する。なお、例示するリチウムイオン二次電池1は、本発明の非水電解液二次電池の一実施形態であり、実施例として例示した構成に本発明が限定されるものではない。
【0024】
図1は、本実施形態のリチウムイオン二次電池1の外観構成の概略を示す斜視図である。図1に示すようにリチウムイオン二次電池1は、セル電池として構成される。リチウムイオン二次電池1は、上側に開口部を有する直方体形状の電池ケース11を備える。電池ケース11の内部には電極体12が収容される。電池ケース11内には注液孔から非水電解液13が充填されている。電池ケース11はアルミニウム合金等の金属で構成され、密閉された電槽が構成される。またリチウムイオン二次電池1は、電力の充放電に用いられる正極外部端子14、負極外部端子15を備えている。なお、正極外部端子14、負極外部端子15の形状は、図1に示されるものに限定されない。
【0025】
図2は、捲回される電極体12の構成を示す模式図である。電極体12は、負極板2と正極板3とそれらの間に配置されたセパレータ4とが捲回されて扁平に形成されている。負極板2は、基材となる負極集電体21上に負極合材層22が形成される。捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の一端側に負極合材層22が形成されずに負極集電体21が露出した負極接続部23が設けられている。
【0026】
正極板3は、基材となる正極集電体31上に正極合材層32が形成される。図2に示すように、正極集電体31が捲回される方向(捲回方向L)に直交する幅方向W(捲回軸方向)の他端側(負極接続部23と反対側)に正極接続部33が設けられている。正極接続部33には、正極合材層32が形成されていない。このため、正極集電体31の金属が露出したものとなっている。
【0027】
また、本実施形態では、正極合材層32の端部と隣接し、負極合材層22と対向した位置に絶縁保護層34を備える。絶縁保護層34は、露出した正極集電体31を被覆するように設けられている。
【0028】
<電極体12の構造>
図3は、リチウムイオン二次電池1の電極体12の積層の構成を示す模式的な部分断面図である。図2に示したとおり、リチウムイオン二次電池1の電極体12の基本構成は、負極板2と正極板3とセパレータ4を備える。
【0029】
負極板2は、負極基材となる負極集電体21の両面に負極合材層22を備える。負極集電体21の一端部は、金属が露出する負極接続部23となっている。
正極板3は、正極基材となる正極集電体31の両面に正極合材層32を備える。正極集電体31の他端部は、金属が露出する正極接続部33となっている。
【0030】
負極板2と、正極板3は、セパレータ4を介して重ねて積層体が構成される。この積層体が捲回軸を中心に長手方向に捲回され、扁平に整形されてなる捲回型の電極体12を構成する。
【0031】
<非水電解液13>
図1に示すように非水電解液13は、電池ケース11により構成される電槽内に充填されている。リチウムイオン二次電池1の非水電解液13は、リチウム塩を有機溶媒に溶解した組成物である。リチウム塩としては、LiClO、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSOCF等を用いることができる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン、2‐メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、又はリン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられる。非水電解液として、これらを1ないし複数種類混合して用いることができる。非水電解液13の組成はこれに限られるものではない。
【0032】
<電極体12の構成要素>
次に、電極体12を構成する構成要素である負極板2、正極板3、セパレータ4について説明する。
【0033】
<負極板2>
負極基材である負極集電体21の両面に負極合材層22が形成されて負極板2が構成されている。負極集電体21は、実施形態ではCu箔から構成されている。負極集電体21は、負極合材層22の骨材としてのベースとなるとともに、負極合材層22から電気を集電する集電部材の機能を有している。本実施形態では負極活物質は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な材料であり、黒鉛(グラファイト)等からなる粉末状の炭素材料を用いる。
【0034】
負極板2は、例えば、負極活物質と、溶媒と、結着材(バインダ)とを混練し、混練後の負極合材ペーストを負極集電体21に塗工して乾燥することで作製される。
<正極板3>
図4は、図3において部分Aで示す部分を拡大した本実施形態の塗工工程における正極合材層32と絶縁保護層34の境界部である「潜り込み部36」を示す模式図である。
【0035】
正極板3は、正極集電体31と、ここに塗工された正極合材層32と、絶縁保護層34とから構成される。
<正極集電体31>
正極基材である正極集電体31の両面に正極合材層32が形成されて正極板3が構成されている。正極集電体31は、実施形態ではAl箔から構成されている。正極集電体31は、正極合材層32の骨材としてのベースとなるとともに、正極合材層32から電気を集電する集電部材の機能を有している。
【0036】
ここでは正極集電体31を構成する正極基材は、Al箔を例示したが、例えば、導電性の良好な金属からなる導電性材料により構成される。導電性材料としては、例えば、アルミニウムを含む材料、アルミニウム合金を含む材料を用いることができる。正極集電体31の構成はこれに限られるものではない。
【0037】
<正極合材層32>
図4を参照して正極合材層32を説明する。正極合材層32は、正極合材ペースト32aを正極集電体31に塗工、乾燥して形成される。正極合材層32は、正極活物質粒子32bのほか、導電体32c、結着材32d、及び分散剤等の添加剤を含む。
【0038】
<正極合材ペースト32a>
正極合材ペースト32aは、正極活物質粒子32bのほか、導電体32c、結着材32d及び分散剤等の添加剤に、溶媒32eを添加してペースト状にしたものである。正極合材層32は、図4に示す塗工工程(S3)で、正極合材ペースト32aが正極集電体31に塗工される。その後乾燥工程(S4)で、乾燥固着される。図4に示す正極合材ペースト32aの段階では、溶媒32eが配合されている。しかし、乾燥工程(S4)後の正極合材層32では、溶媒32eは揮発して消失している。
【0039】
本実施形態の正極合材ペースト32aの粘度Vは、せん断速度0.1s-1のとき5000~50000mPa・sに設定されている。
<正極活物質粒子32bの組成>
正極活物質粒子32bの一次粒子は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含有する。リチウム遷移金属酸化物は、Li以外に、1乃至複数の所定の遷移金属元素を含む。リチウム遷移金属酸化物に含有される遷移金属元素は、Ni、Co、Mnの少なくとも一つであることが好ましい。リチウム遷移金属酸化物の好適な一例として、Ni、CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。
【0040】
正極活物質粒子32bは、遷移金属元素(すなわち、Ni、CoおよびMnの少なくとも1種)の他に、付加的に、1種又は複数種の元素を含有し得る。付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。
【0041】
好ましい一態様において、正極活物質粒子32bは、下記一般式(1)で表される組成(平均組成)を有し得る。
Li+xNiyCozMn(1-y-z)MAαMBβO…(1)
上記式(1)において、xは、0≦x≦0.2を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.6を満たす実数であり得る。zは、0.1<z<0.6を満たす実数であり得る。MAは、W、CrおよびMoから選択される少なくとも1種の金属元素であり、αは0<α≦0.01(典型的には0.0005≦α≦0.01、例えば0.001≦α≦0.01)を満たす実数である。MBは、Zr、Mg、Ca、Na、Fe、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、βは0≦β≦0.01を満たす実数であり得る。βが実質的に0(すなわち、MBを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。なお、層状構造のリチウム遷移金属酸化物を示す化学式では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示している。しかし、この数値は厳密に解釈されるべきではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容し得るものである。
【0042】
<導電体32c>
導電体32cは、正極合材層32中に導電パスを形成するための材料である。正極合材層32に適量の導電体を混合することにより、正極内部の導電性を高めて、電池の充放電効率及び出力特性を向上させることができる。本実施形態の導電体32cとしては、例えば、カーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバ(CNF)などの炭素材料を用いることができる。また、導電体32cのアスペクト比は、30以上のひも状のものを用いることも好ましい。
【0043】
<結着材32d>
結着材32dには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0044】
<絶縁保護層34の構成>
図2に示すように、正極板3は、正極集電体31上に正極合材層32が形成されるとともに、当該正極合材層32に隣接し、かつ前記正極集電体31上の負極合材層22の端部と対向する位置に絶縁保護層34が形成されている。絶縁保護層34は、絶縁体粒子34bが結着材(バインダ)32dにより分散された状態で固定されている。絶縁保護層34は、絶縁保護ペースト34aを正極集電体31の表面に、正極合材層32の端部に沿って塗工、乾燥されることで形成される。
【0045】
<絶縁保護ペースト34a>
絶縁保護ペースト34aは、結着材34cに溶媒34dを添加して液状にし、絶縁体粒子34bを分散させたペーストである。また、絶縁体粒子34bがペースト内で均等に分散させるために分散剤を添加している。
【0046】
絶縁保護層34は、図5に示す塗工工程(S3)で、絶縁保護ペースト34aが正極集電体31に塗工され、乾燥工程(S4)で乾燥固着される。図4に示す絶縁保護ペースト34aの段階では、溶媒32eが配合されている。しかし、乾燥工程(S4)後の絶縁保護層34では、溶媒32eは揮発して消失している。
【0047】
本実施形態の絶縁保護ペースト34aの粘度Vは、2000~4500[mPa・s]に設定されている。
<絶縁体粒子34b>
絶縁体粒子34bは、負極合材層22と正極集電体31との間に配置して電気的な絶縁を図るものである。絶縁体粒子34bは、高い絶縁性と、異物の進入を阻止する硬度を備えた、例えば金属酸化物を焼成したセラミックスなどが例示できる。具体的には、ベーマイトやアルミナなどの粒子が用いられる。本実施形態では、絶縁体粒子34bとしてベーマイトを用いている。
【0048】
<ベーマイト>
ベーマイトは、水酸化アルミニウム(γ-AlO(OH))鉱物であり、アルミニウム鉱石ボーキサイトの成分である。ガラス質から真珠のような光沢を示し、モース硬度3~3.5、比重3.00~3.07である。絶縁性、耐熱性、硬度が高く、工業的には、耐火性ポリマー用の安価な難燃性添加剤として使用することができる。
【0049】
ベーマイトは、AlO(OH)又はAl・HOの化学組成で示され、一般的にアルミナ3水和物を空気中で加熱処理又は水熱処理することにより製造される化学的に安定なアルミナ1水和物である。ベーマイトは、脱水温度が450~530℃と高く、製造条件を調整することにより板状ベーマイト、針状ベーマイト、六角板状ベーマイトなど種々の形状に制御できる。また、製造条件を調整することにより、アスペクト比や粒径の制御ができる。
【0050】
<結着材34c>
結着材34cには、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアクリル酸、ポリアクリレート等を用いることができる。
【0051】
<セパレータ4>
セパレータ4は、正極板3及び負極板2の間に非水電解液13を保持するためのポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂からなる多孔性樹脂シートを用いることができる。このような多孔性樹脂シートは、各種材料を単独で用いた単層構造であってもよく、各種材料を組み合わせた多層構造であってもよい。
【0052】
<正極板3の製造方法>
図5は、本実施形態の正極板3の製造方法を示すフローチャートである。図5を参照して本実施形態の正極板3の製造方法を説明する。正極板3の製造方法は、前提として、正極合材ペースト製造工程(S1)、絶縁保護ペースト製造工程(S2)を行う。そして、塗工工程(S3)、乾燥工程(S4)、正極合材層プレス工程(S5)、切断工程(S6)を行う。
【0053】
<正極合材ペースト製造工程(S1)>
まず、正極合材ペースト32aを製造する。正極合材ペースト32aの詳細は既に説明したとおりである。
【0054】
<絶縁保護ペースト製造工程(S2)>
また、絶縁保護ペースト34aを製造する。これも絶縁保護ペースト34aの詳細は既に説明したとおりである。
【0055】
<塗工工程(S3)>
次に、塗工工程(S3)について説明する。塗工工程(S3)は、正極合材ペースト製造工程(S1)で製造した正極合材ペースト32aと、絶縁保護ペースト製造工程(S2)で製造した絶縁保護ペースト34aを正極集電体31の所定位置に同時塗工する工程である。
【0056】
<塗工機5の構成>
図6は、塗工機5による塗工工程(S3)を示す斜視図である。図7は、塗工機5の図6のC-C部分から見た断面を含む第1のノズル53と第2のノズル55を示す模式的な斜視図である。図6及び図7を参照して塗工機5を説明する。
【0057】
図6に示すように、塗工機5は、基台となるステージ57を備えている。ステージ57には、長尺帯状に形成されたAl箔からなる切断前の正極集電体31を搬送するための位置決めのガイド58を備える。正極集電体31は、図示を省略した供給リールから引き出され、搬送手段により、ステージ57上で搬送される。ステージ57の正極集電体31の搬送方向上流側の端部には、搬送方向と直交する向きで、正極集電体31を跨ぐような門型のダイノズル51が設けられる。ダイノズル51は、正極合材ペースト32aを貯留する第1のダイ52を備える。第1のダイ52は、正極合材層32が形成される位置に対応した位置に設けられる空間である。第1のダイ52には、正極合材ペースト32aが図示を省略した供給手段から供給されて貯留される。また、第2のダイ54は、絶縁保護層34が形成される位置に対応した位置に設けられる空間である。第2のダイ54には、絶縁保護ペースト34aが図示を省略した供給手段から供給されて貯留される。第1のダイ52と第2のダイ54は、隣接した形で、同一直線状に並べられる。
【0058】
第1のノズル53は、第1のダイ52の下部からステージ57上の正極集電体31の正極合材層32が形成される位置まで連通するノズルである。図示しない加圧手段で第1のダイ52の内圧が高められると、第1のノズル53から正極集電体31の正極合材層32が形成される位置に正極合材ペースト32aを所定量吐出する。
【0059】
第2のノズル55は、第2のダイ54の下部からステージ57上の正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置まで連通するノズルである。図示しない加圧手段で第2のダイ54の内圧が高められると、第2のノズル55から正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置に絶縁保護ペースト34aを所定量吐出する。
【0060】
ローラ56は、塗工された正極合材ペースト32aを平坦にする。
<塗工工程(S3)の条件>
本実施形態の絶縁保護ペースト34aの粘度V[mPa・s]は、2000[mPa・s]以上、4500[mPa・s]以下に設定されている。また、正極合材ペースト32aの粘度V[mPa・s]は、せん断速度0.1[s-1]のとき5000[mPa・s]以上、50000[mPa・s]以下に設定されている。
【0061】
また、正極集電体31と絶縁保護ペースト34aの接触角[°]を40[°]以上、56[°]以下とした。
<塗工の方法>
図8は、塗工工程(S3)開始後の正極板3の状態を示す模式図である。図7に示すように、第1のノズル53と第2のノズル55は、相互に一定の間隔を有して隔離されている。そして、図8に示すように、第1のノズル53から吐出された正極合材ペースト32aと、第2のノズル55から吐出された絶縁保護ペースト34aは、吐出直後に相互に離隔した状態で塗工される。
【0062】
そして、離隔した状態で、正極合材ペースト32aは正極集電体31の正極合材層32が形成される位置で塗工される。また、離隔した状態で、絶縁保護ペースト34aは正極集電体31の絶縁保護層34が形成される位置で塗工される。
【0063】
図9は、塗工工程(S3)途中の絶縁保護ペースト34aと、正極合材ペースト32aの流れの状態を示す正極板3の状態を示す模式図である。
図9に示すように、塗工後に正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aは、相互に接近するように流動する。このとき、絶縁保護ペースト34aは、正極合材ペースト32aより流動性が高くなるように粘度Vが調整されているため、先に、潜り込み部36が形成される部分に進入する。このとき、絶縁保護ペースト34aは、正極集電体31との接触角[°]を、40[°]以上、56[°]以下に設定してあるので、正極集電体31の表面は、絶縁保護ペースト34aを撥きやすくなっている。このため、絶縁保護ペースト34aは、空気を巻き込みながら正極集電体31の潜り込み部36が形成される部分を覆っていく。
【0064】
図10は、塗工工程(S3)の塗工完了後の正極板3の状態を示す模式図である。図10に示すように、絶縁保護ペースト34aは、流動性が高いため、潜り込み部36が形成される部分の端部で、正極合材ペースト32aと接触する。このときには、空間35が形成されている。
【0065】
図11は、塗工工程(S3)の塗工完了後の絶縁保護ペースト34aと正極合材ペースト32aの流れの状態を示す模式図である。図11に示すように、絶縁保護ペースト34aが、潜り込み部36が形成される部分の端部で正極合材ペースト32aと接触した後、絶縁保護ペースト34aは進行が停止する。一方、正極合材ペースト32aの吐出量が多いので正極合材ペースト32aが絶縁保護ペースト34aが乗り越えて、絶縁保護ペースト34aを覆っていく。このとき、絶縁保護ペースト34aと正極合材ペースト32aとの接触面はそのまま移動しない。
【0066】
図12は、塗工工程(S3)が完了して完成した本実施形態の正極板3を示す模式図である。塗工が完了すると、絶縁保護層34の潜り込み部36と正極集電体31との間には、空間35が形成されている。このとき、潜り込み部36の捲回方向と直交する幅W2を、W2=0.2[mm]以上、1.0[mm]となっている。
【0067】
また、形成された空間35は、正極板3の厚み方向Dに厚みD1=3[μm]以上、幅W方向に幅W1=5[μm]以上、100[μm]以下となっている。空間35は、一体に形成されたものであっても、図12に示したように分散されて形成されたものでも、この数値範囲になっていればよい。
【0068】
<乾燥工程(S4)>
上述のとおり塗工工程(S3)後における正極合材ペースト32aと絶縁保護ペースト34aが塗工された状態で乾燥工程(S4)を行う。乾燥工程(S4)により、正極合材層32の溶媒32eは揮発し、ペースト状だった正極合材ペースト32aは固体となり正極合材層32を形成する。また、絶縁保護層34の溶媒34dも揮発し、ペースト状だった絶縁保護ペースト34aは固体となり、絶縁保護層34となる。この状態で絶縁保護層34が安定する。
【0069】
<正極合材層プレス工程(S5)>
乾燥工程(S4)が終了すると、図12に示す正極合材層32と絶縁保護層34は、既に一定の硬さとなっている。正極合材層プレス工程(S5)後の絶縁保護層34の空間35を除く空隙率Pを、42[%]以上、55[%]以下とする。
【0070】
<空隙率P[%]>
ここで空隙率P[%]とは、粒子間空隙などの空間を含む量を表す尺度である。空隙率P[%]は、一般に透水係数と比例する関係を有するため、本実施形態では、セル内の非水電解液13が正極合材層32に流通する効率を示す指標としている。
【0071】
一方、空隙率P[%]は、正極合材層32内の正極活物質粒子32b間の距離の指標ともなる。
空隙率P[%]は、例えば、多孔質試料をぬれ性のいい液体に浸漬し、空隙部を液体で飽和させる液浸法で測定する。また、試料断面の顕微鏡観察を通じ、物質面積および視認可能な空隙の面積を決定する光学法を用いてもよい。さらに、表面張力が強い水銀を微細な小孔に侵入させる外部から圧力の大きさに対する圧入量を測定することで小孔径の分布と空孔容積を求める水銀圧入法などで測定してもよい。
【0072】
<切断工程(S6)>
正極合材層プレス工程(S5)で、厚みD1、空隙率P、密度を所望の値に調整したら正極合材層32、絶縁保護層34の製造は完成したので、切断工程(S6)で、電極体12に合わせた長さに切断される。これで、正極板3の完成である。
【0073】
このようにして製造された正極板3は、図2に示すように、負極板2、セパレータ4とともに積層され、捲回されて、電極体12が形成される。
<実験例>
図14は、本実施形態の実験を示す表である。実験は、実施例1~3、比較例1~3について、以下の条件を変えて比較した。条件は、絶縁保護層34に関して、その有無、空間35の厚み方向Dの厚みD1[μm]、空間35の幅方向Wの幅W1[μm]である。また、絶縁保護ペースト34aに関しては、正極集電体31であるAl箔との接触角[°]、絶縁保護ペースト34aの粘度V[mPa・s]である。
【0074】
<実験の条件>
・実施例1の条件:
絶縁保護層34が有り、空間35の厚み方向Dの厚みD1=3[μm]、空間35の幅方向Wの幅W1=5[μm]である。接触角[°]は40[°]、絶縁保護ペースト34aの粘度V=4,500[mPa・s]である。
【0075】
・実施例2の条件:
絶縁保護層34が有り、空間35の厚み方向Dの厚みD1=5[μm]、空間35の幅方向Wの幅W1=50[μm]である。接触角は、49[°]、絶縁保護ペースト34aの粘度V=3,500[mPa・s]である。
【0076】
・実施例3の条件:
絶縁保護層34が有り、空間35の厚み方向Dの厚みD1=5[μm]、空間35の幅方向Wの幅W1=100[μm]である。接触角は、40[°]、絶縁保護ペースト34aの粘度V=2,000[mPa・s]である。
【0077】
・比較例1の条件:
絶縁保護層34自体が無い。
・比較例2の条件:
絶縁保護層34が有るが、空間35がない。接触角は、40[°]、絶縁保護ペースト34aの粘度V=1,000[mPa・s]である。
【0078】
・比較例3の条件:
絶縁保護層34が有り、空間35の厚み方向Dの厚みD1=5[μm]、空間35の幅方向Wの幅W1=200[μm]である。接触角は、65[°]、絶縁保護ペースト34aの粘度V=5,000[mPa・s]である。
【0079】
<実験の評価基準>
実験の評価基準は、「ハイレート劣化抵抗増加率[%]」と、「異物短絡有無」と、「正極合材端部のはがれ有無」により評価した。
【0080】
・「ハイレート劣化抵抗増加率[%]」は、大電流(数十アンペア以上)で一定時間の充放電を繰り返す充放電サイクル試験を実施した後の内部抵抗(CD-IR)の増加率[%]である。1.10以下が合格の基準となる。
【0081】
・「異物短絡有無」は、上記のハイレートの充放電を繰り返した後に、正極接続部33と負極合材層22の間に、金属微粉などの侵入による短絡の有無を判断し、「短絡無し」を、合格の基準とする。
【0082】
・「正極合材端部のはがれ有無」は、絶縁保護層34の脱落が無いものを、合格の基準とする。
図13は、脱落する絶縁保護層34を示す模式図である。図13に示すように、絶縁保護層34の端部37は、潜り込み部36のように、正極合材層32による重ね合わせがないため、正極集電体31との接着力が小さいと、端部37から脱落片37aが脱落する。本実施形態では、脱落の有無は、正極集電体31のAl箔と絶縁保護ペースト34aとの間の接触角に依存するものと考えられる。
【0083】
<実験の結果>
・実施例1:
「ハイレート劣化抵抗増加率」が、1.10で「合格」、異物短絡無で「合格」、正極合材の剥がれなしで「合格」であった。結果、実施例1は基準を満たすものであった。
【0084】
・実施例2:
「ハイレート劣化抵抗増加率」が、1.09で「合格」、異物短絡無で「合格」、正極合材の剥がれなしで「合格」であった。結果、実施例2は基準を満たすものであった。
【0085】
・実施例3:
「ハイレート劣化抵抗増加率」が、1.08で「合格」、異物短絡無で「合格」、正極合材の剥がれなしで「合格」であった。結果、実施例3は基準を満たすものであった。
【0086】
・比較例1:
「ハイレート劣化抵抗増加率」が、1.12で「不合格」、異物短絡有で「不合格」、正極合材の剥がれなしで「合格」であった。結果、比較例1は基準を満たさないものであった。
【0087】
・比較例2:
「ハイレート劣化抵抗増加率」が、1.10~1.13で「不合格」、異物短絡無で「合格」、正極合材の剥がれなしで「合格」であった。結果、比較例2は基準を満たさないものであった。
【0088】
・比較例3:
「ハイレート劣化抵抗増加率」が、1.08で「合格」、異物短絡無で「合格」、正極合材の剥がれ有りで「不合格」であった。結果、比較例3は基準を満たさないものであった。
【0089】
<実験のまとめ>
以上の実験から、次のような知見を得ることができた。
・ハイレート劣化抵抗増加率の抑制
ハイレート劣化抵抗増加率の抑制をするには、空間35の厚み方向Dの厚みD1[μm]が、3[μm]以上、5[μm]以下の範囲で、かつ空間35の幅方向Wの幅W1[μm]が5[μm]以上、100[μm]以下の範囲とする。
【0090】
・また、このような空間35の構成とするためには、正極集電体31のAl箔と絶縁保護ペースト34aとの接触角が40[°]以上で、かつ、絶縁保護ペースト34aの粘度Vを、2000[mPa・s]以上、4500[mPa・s]以下とする必要がある。
【0091】
・異物短絡の抑制
「異物短絡」が生じないためには、少なくとも絶縁保護層34が存在することが条件となる。
【0092】
・絶縁保護層34の端部37の剥がれの抑制
絶縁保護層34の端部37の剥がれを抑制するには、正極集電体31のAl箔と絶縁保護ペースト34aとの接触角が56[°]以下とする必要がある。
【0093】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態のリチウムイオン二次電池1によれば、絶縁保護層34による正極合材層32のハイレート劣化を抑制することができるという効果がある。
【0094】
(2)正極合材層32と正極集電体31との間に存在する絶縁保護層34である潜り込み部36を設けた。そして、絶縁保護層34の潜り込み部36と正極集電体31との間において、正極板3の厚み方向Dに厚みD1が3[μm]以上、幅方向Wに幅W1が5[μm]以上、100[μm]以下の空間35を備えた。このため、ハイレート劣化抵抗増加率の抑制をすることができるという効果がある。
【0095】
(3)潜り込み部36の幅W2を、0.2[mm]以上とした。このため、絶縁保護層34が容易に剥がれにくくなるという効果がある。
(4)潜り込み部36の幅W2を、1.0[mm]以下とした。このため、正極合材層32の反応を必要以上に妨げることが無いという効果がある。
【0096】
(5)絶縁保護層34の空間35を除く空隙率Pを42[%]以上とした。このため、空間35に非水電解液13が貯留しやすくなると共に、空間35と正極合材層32の間で非水電解液13が交流しやすくなるという効果がある。
【0097】
(6)絶縁保護層34の空間35を除く空隙率Pを55[%]以下とした。このため、絶縁保護層34の強度を確保し、異物の貫入などによる短絡を抑制することができるという効果がある。
【0098】
(7)本実施形態の絶縁保護ペースト34aの粘度V[mPa・s]は、2000[mPa・s]以上に設定されている。このため、所定の厚みの絶縁保護層34を形成することができるという効果がある。
【0099】
(8)本実施形態の絶縁保護ペースト34aの粘度V[mPa・s]は、4500[mPa・s]以下に設定されている。このため、正極合材ペースト32aより速やかに拡がり、潜り込み部36を形成することができるという効果がある。
【0100】
(9)正極合材ペースト32aの粘度V[mPa・s]は、せん断速度0.1[s-1]のとき5000[mPa・s]以上に設定されている。このため、絶縁保護ペースト34aより緩慢に拡がり、潜り込み部36を形成することができるという効果がある。
【0101】
(10)正極合材ペースト32aの粘度V[mPa・s]は、せん断速度0.1[s-1]のとき50000[mPa・s]以下に設定されている。このため、正極合材層32を形成することができる。
【0102】
(11)正極集電体31と絶縁保護ペースト34aの接触角を40[°]以上とした。このため、絶縁保護ペースト34aの塗工時に空間35を形成しやすいという効果がある。
【0103】
(12)正極集電体31と絶縁保護ペースト34aの接触角を56[°]以下とした。このため、絶縁保護層34が正極集電体31から剥がれて、脱落することを抑制することができるという効果がある。
【0104】
(変形例)
上記実施形態は、本発明の実施の一例であり、以下のように変形して実施することができる。
【0105】
○本実施形態では、正極集電体31の両面に正極合材層32及び絶縁保護層34が形成され、いずれの面でも本実施形態の発明が実施されている。しかしながら、正極集電体31のいずれか一方のみにおいて本実施形態の発明が実施されているような態様でもよい。さらに、正極集電体31の一方のみの面に正極合材層32及び絶縁保護層34が形成されており、その面において本実施形態の発明が実施されている態様でもよい。
【0106】
○本実施形態では、非水電解液二次電池の例として、車載用の板状のセル電池であるリチウムイオン二次電池1を例示したが、これに限定されず円筒形など他の形状、定置用など他の用途でも実施できる。また、電極体12も扁平の捲回型に限定されず、長方形の板状の電極を積層したものでもよい。また、正極外部端子14や負極外部端子15の形状なども限定されるものではない。
【0107】
○図面は、本実施形態の説明に用いるためのものであり、見やすくするために、数を省略したり、寸法バランスなどを誇張している場合があるため、これらに限定されるものではない。
【0108】
図5に示すフローチャートは本発明の一例であり、その工程を付加し、削除し、順序を変更し、又は入れ替えて実施することができる。例えば、正極合材ペースト製造工程(S1)と絶縁保護ペースト製造工程(S2)の順序は問わない。また乾燥工程(S4)を、正極合材層プレス工程(S5)の後で行うような処理でもよい。
【0109】
○各種の数値、範囲は一例であり、当業者により最適化されて実施することができる。
○正極合材ペースト32aや絶縁保護ペースト34aの組成や、材料の特性などは、本発明の一例であり、当業者により最適化されて実施することができる。
【0110】
○塗工工程(S3)における「同時塗工」とは、厳密に同時でなくても、本発明の課題を解決することができる限り、例えば、第1のノズル53が第2のノズル55より、搬送方向(下流側)にずれているようなものでもよい。
【0111】
○本実施形態は本発明の一実施形態であり、特許請求の範囲を逸脱しない限り、実施形態に限定されず当業者によりその構成を付加し、削除し、若しくは変更して実施できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0112】
W…幅方向(捲回軸方向)
W1…(空間)幅[μm]
W2…(潜り込み部)幅[mm]
L…捲回方向
D…厚み方向
D1…(空間)厚み[μm]
P…空隙率[%]
V…粘度[mPa・s]
1…リチウムイオン二次電池(非水電解液二次電池)
11…電池ケース
12…電極体
13…非水電解液
14…正極外部端子
15…負極外部端子
2…負極板
21…負極集電体
22…負極合材層
23…負極接続部
3…正極板
31…正極集電体
32…正極合材層
32a…正極合材ペースト
32b…正極活物質粒子
32c…導電体
32d…結着材
32e…溶媒
33…正極接続部
34…絶縁保護層
34a…絶縁保護ペースト
34b…絶縁体粒子
34c…結着材
34d…溶媒
35…空間
36…潜り込み部
37…端部
37a…脱落片
4…セパレータ
5…塗工機
51…ダイノズル
52…第1のダイ
53…第1のノズル
54…第2のダイ
55…第2のノズル
56…ローラ
57…ステージ
58…ガイド
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16