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  • 特開-亜鉛電池用負極及びその製造方法 図1
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  • 特開-亜鉛電池用負極及びその製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082970
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】亜鉛電池用負極及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/24 20060101AFI20240613BHJP
   H01M 4/26 20060101ALI20240613BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20240613BHJP
   H01M 4/12 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
H01M4/24 H
H01M4/26 H
H01M4/06 T
H01M4/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197211
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡真
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 知志
(72)【発明者】
【氏名】山口 同通
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 武
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 賢大
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA09
5H050BA11
5H050CA02
5H050CA03
5H050CA04
5H050CB13
5H050DA03
5H050HA04
5H050HA05
(57)【要約】
【課題】 自己放電が抑制された亜鉛電池用負極及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 亜鉛電池用負極は、板状の負極芯体と、負極芯体の少なくとも一方の主面に形成される負極合剤層とを有する。負極合剤層は、負極合剤を含む。負極合剤は、亜鉛及び亜鉛合金のうちの少なくとも一方からなる亜鉛粒子を含む。負極合剤層の厚み(Tと称す)に対する、亜鉛粒子の粒径分布D90の値(D90と称す)の比「D90/T」は、1.9以下である。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛電池用負極であって、
板状の負極芯体と、
前記負極芯体の少なくとも一方の主面に形成される負極合剤層と、
を有し、
前記負極合剤層は、負極合剤を含み、
前記負極合剤は、亜鉛及び亜鉛合金のうちの少なくとも一方からなる亜鉛粒子を含み、
前記負極芯体の少なくとも一方の主面の表面1mm2において、前記負極芯体の厚み方向における基準に対する長さの変化が50μmを超える変形領域が2.4個以下である、ことを特徴とする亜鉛電池用負極。
【請求項2】
前記負極芯体の少なくとも一方の主面の表面における算術平均高さは、7.4μm以下である、請求項1記載の亜鉛電池用負極。
【請求項3】
前記負極芯体の表面上に形成された前記負極合剤層は、前記厚み方向に厚み(Tと称す)を有し、前記厚みTに対する、前記亜鉛粒子の粒径分布D90の値(D90と称す)の比、すなわち「D90/T」は、1.9以下である、請求項1または2記載の亜鉛電池用負極。
【請求項4】
亜鉛電池用負極を製造する方法であって、
板状の負極芯体の少なくとも一方の主面に、亜鉛及び亜鉛合金のうちの少なくとも一方からなる亜鉛粒子を含む負極合剤を用いて負極合剤層を形成する工程を含み、
前記負極合剤に含まれる前記亜鉛粒子の粒径分布D90の値(D90と称す)は、前記負極芯体の厚み方向に前記工程によって形成される前記負極合剤層の厚み(Tと称す)に対する比、すなわち「D90/T」は、1.9以下であり、
前記負極芯体の少なくとも一方の主面の表面において、前記負極芯体の厚み方向における長さの基準に対する変化が50μmを超える変形領域が1mm2あたり2.4個以下である、ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛電池用負極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛電池は、負極活物質に亜鉛、亜鉛合金又は亜鉛含有化合物を用いる電池であり、電池の普及とともに古くから研究開発されてきた電池の一種である。亜鉛等を負極に含む電池は、一次電池や二次電池(蓄電池)として、例えば、正極活物質に空気中の酸素を用いる空気亜鉛電池、正極活物質にニッケル含有化合物を用いるニッケル亜鉛電池、正極活物質にマンガン含有化合物を用いるマンガン亜鉛電池や亜鉛イオン電池、正極活物質に銀含有化合物を用いる銀亜鉛電池がある。亜鉛電池に対し研究が行われている。特に、空気亜鉛一次電池、マンガン亜鉛一次電池、銀亜鉛一次電池は、実用化され、広く世界で使用されている。
【0003】
また、近年は、各種のポータブル機器やハイブリッド電気自動車等の各種機器に電池が使用されるようになり、電池の用途は拡大している。このような用途の拡大にともない、多くの産業において電池の開発や改良に対する需要が増加している。電池に対し、主に性能の改善や、二次電池としての改良、さらには新たな電池の開発が望まれている。このような状況において、亜鉛電池に対してもより高性能化が望まれている。亜鉛電池に改善が要請される性能の一つとして、自己放電の抑制が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3972417号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
亜鉛電池では、負極合剤層に含まれる金属亜鉛が負極芯体と局部電池反応を起こして自己分解するので、自己放電が進むことが問題になっている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、自己放電が抑制された亜鉛電池用負極及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明による亜鉛電池用負極は、板状の負極芯体と、前記負極芯体の少なくとも一方の主面に形成される負極合剤層と、を有し、前記負極合剤層は、負極合剤を含み、前記負極合剤は、亜鉛及び亜鉛合金のうちの少なくとも一方からなる亜鉛粒子を含み、前記負極芯体の少なくとも一方の主面の表面1mm2において、前記負極芯体の厚み方向における基準に対する長さの変化が50μmを超える変形領域が2.4個以下である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本開示による亜鉛電池用負極を用いて製造された亜鉛電池の自己放電が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】亜鉛電池の概念図
図2】亜鉛電池用負極板の製造を示すフローチャート
図3】負極板の断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づき本開示に係る実施形態について説明する。以下の説明は本開示の内容の具体例を示すものであり、開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更及び修正が可能である。
【0011】
図1に示すように、一実施形態に係る電池1は、FAサイズのニッケル亜鉛電池であり、正極板2及び負極板3がセパレータ4を介して巻回された筒状の電極群5を、酸化亜鉛を飽和溶解させたアルカリ電解液と共に有底円筒形の外装缶6に収容する。外装缶6の開口は、絶縁性のガスケット7を介して導電性の封口体8によって閉塞される。封口体8の外面には、正極端子9が設けられ、正極集電体10を介して正極板2が正極端子9に電気的に接続される。電極群5の最外周面は、負極板3によって囲まれる。最外周面は、外装缶6の内周面に接触し、さらに、電極群5の底部側に位置する負極板3は、負極集電体11を介して外装缶6の底部に接触して、外装缶6は、負極端子12に電気的に接続可能となる。
【0012】
正極板2は、多孔質構造を有する帯状且つ導電性の正極芯体と、正極芯体の空孔内に保持される正極合剤とを含む。正極芯体は、例えばニッケルメッキが施された網状、スポンジ状又は繊維状の金属板や発泡ニッケルから形成される。
【0013】
正極合剤は、正極活物質粒子及び増粘剤を含む。正極活物質粒子は、水酸化ニッケル粉末、水酸化コバルト粉末、酸化イットリウム粉末、酸化亜鉛粉末、酸化ニオブ粉末からなる。これらの正極活物質粒子、増粘剤及び水を混合して、正極活物質スラリーを作製する。正極活物質スラリーを正極集電板に充填し、乾燥後圧延して所定のサイズに裁断する。
【0014】
負極板3は、帯状をなす導電性の負極芯体13と、負極芯体13の両面にそれぞれ形成された負極合剤層14とを含む。負極芯体13は、表面に錫がメッキされた金属板からなる。金属板は、金属多孔質である発泡銅、銅パンチングメタルシート、銅エキスパンドメタルのうちの1つからなる。本実施の形態では、負極芯体13は、厚み方向に貫通孔が規則的に形成された銅パンチングメタルシートからなる。
【0015】
負極合剤層14は、負極合剤を含む。負極合剤は、負極活物質としての酸化亜鉛及び金属亜鉛、酸化ビスマス粉末、酸化インジウム、シュウ酸カリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、スチレンブタジエンゴムを含む。負極合剤における各材料の組成比を表1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
負極板3の作製方法を図2に示す。表1に示す材料を水に混合して負極活物質スラリーを作製する(ステップS1)。負極活物質スラリーを作製するために、酸化亜鉛及び金属亜鉛は金属粒子Pとして粒状に加工されている。スラリーを負極芯体13に均一に塗布して乾燥させた後(ステップS2)、圧延ロールで圧延して負極活物質の密度を高め(ステップS3)、所定のサイズに裁断する(ステップS4)。圧延により、負極合剤は、負極芯体13の貫通孔内に充填されるとともに、負極芯体13の両面には、それぞれ負極芯体13の厚さ方向において厚みを有し且つ負極芯体13の面の面内方向に延在する負極合剤層14が形成される。負極合剤層14の厚みは、負極芯体13の厚み方向において(T)とする。
【0018】
酸化亜鉛及び金属亜鉛の粒径(D90)は、負極合剤層14の厚みTを基準にした(D90/T)が、1.9以下になるように形成される。本実施の形態において、D90は、「母集団の亜鉛粒子の体積累積分布において90%がこの粒子径より下にある直径」で定義される。図3に、負極合剤層14の厚みTと粒径D90との関係を示す模式図を示す。本実施形態において、負極芯体13の厚みTに対する粒径D90の比を(D90/T)と称す。
【0019】
金属亜鉛からなる金属粒子としてD90が136μmの亜鉛粉体を用いて(D90/T)が1.9となるように作製した亜鉛電池を実施例1とした。
【0020】
比較例1として、金属亜鉛からなる金属粒子としてD90が198μmの亜鉛粉体を用いて(D90/T)が2.8となる亜鉛電池を作製した。
【0021】
すなわち、実施例1では、負極合剤層14を構成する亜鉛粒子のD90が、負極合剤層14の厚みに対して比較的大きい。一方、比較例1では、負極合剤層を構成する亜鉛粒子のD90が、負極合剤層の厚みに対して比較的小さい。
【0022】
実施例1及び比較例1の亜鉛電池に対し、それぞれ、負極物質スラリーを塗布する前の負極芯体13と、圧延した後の負極板3との厚みをマイクロゲージを使用して測定した。実施例1及び比較例1ともに、負極芯体13は60μm、負極板3は200μmであった。負極合剤層14は、負極芯体13の両面に形成されているので、一方の面に形成された負極合剤層14の厚みTは、70μmである。
【0023】
また、実施例1及び比較例1の亜鉛電池に組み込まれた負極板3と同一の負極板を30重量%のKOH水溶液に8時間浸漬し、負極芯体13から負極合剤層14を除去した。負極合剤層14が除去された負極芯体の表面を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察し、負極芯体の算術平均高さSaと、深さ50μm以上の変形領域の1mm当たりの個数Nとを測定した。算術平均高さSaは、表面の平均面からの高低差の平均値であり、国際標準化機構(ISO)による三次元表面性状に関する国際規格ISO25178で規定されたパラメータである。
【0024】
本実施の形態において、算術平均高さSaを算出するために用いられる基準面は、負極合剤層14が形成される帯状の負極芯体13の厚み方向に対向する幅広面のうちの一方の面において、全ての貫通孔を除いた表面である。すなわち、算術平均高さSaの基準面は、負極合剤層と界面をなす負極芯体の一方の面の表面に相当する部分である。
【0025】
さらに、本実施の形態において、負極芯体13の「変形領域」とは、負極活物質スラリーを塗布する前の負極芯体13の平坦な表面を基準として、電池1として製造された後に負極合剤層14を除去して現れる負極芯体13の一面である表面の凹凸、すなわち負極芯体13の厚みが変化している領域を意味する。特に、本発明では、変形領域において厚み方向に生じた長さ(深さ)の変化が50μm以上である部分及びその周辺領域を含む変形領域を意味する。そして、当該部分及びその周辺領域を一単位として、変形領域の個数を数える。深さ50μm以上である部分及びその周辺領域からなる変形領域は、「変形領域」の一例である。
【0026】
負極合剤層を除去した後の負極芯体の表面の形状について説明する。負極芯体の算術平均高さSaと、深さ50μm以上の変形領域の1mm当たりの個数Nとを表1に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2に示すように、負極芯体の算術平均高さSaは、実施例1では、Saは7.4μmと、比較例1の9.9μmよりも小さい。また、深さ50μm以上の変形領域の1mm当たりの個数Nは、実施例1では、1.9個であり、比較例1の2.8個より少ない。したがって、負極芯体の負極合剤層と接する境界面については、実施例1のほうが、比較例1に比較して平坦であり、負極合剤に含まれる金属粒子径D90の影響が少ない。
【0029】
さらに、上記2つの亜鉛電池の自己放電特性を評価した。自己放電特性を評価する自己放電実験は、容量確認段階と自己放電段階とに分かれる。
【0030】
容量確認段階は、最初に、亜鉛電池に対して、上限電流0.5C、上限電圧1.9V、下限電流0.1Cを条件とする定電流定電圧(CCCV)充電を行い、亜鉛電池を満充電する。充電終了後に、電池を15分休止させてから、下限電圧1.3Vまでの0.5Cの定電流(CC)放電を行い、放電容量Cを計測する。
【0031】
自己放電段階は、上記容量確認段階の後、亜鉛電池に対し、再度、同一条件、すなわち、上限電流0.5C、上限電圧1.9V、下限電流0.1Cを条件とするCCCV充電を行い、その後、環境温度35℃で所定時間放置する。
【0032】
表2に示す所定時間の放置後、電池を室温環境下に移動させて下限電圧1.3Vまで0.5CのCC放電を行い、その後の放電容量C’を計測する。
【0033】
計測された放電容量C、C’から以下のように残存率Rを算出し、充電終了からの放置時間と共に表1に示す。
R = C/ C’
【0034】
【表3】
【0035】
表3に示すように、実施例1の亜鉛電池の残存率Rは、1週間経過で88%、2週間経過で79.6%、1ヶ月経過で71.3%、2ヶ月経過で51.8%と減少していく。これに対し、比較例1の亜鉛電池の残存率は、1週間経過で85.8%、2週間経過で77.3%、1ヶ月経過で67.4%、2ヶ月経過で47.0%と減少していく。残存率Rは、いずれの経過期間であっても実施例1の電池のほうが、比較例1の電池よりも高いことが分かる。すなわち、実施例1の電池は、比較例1の電池に比較して自己放電が抑制されていることが分かる。
【0036】
一般に、亜鉛電池では、負極合剤層に含まれる亜鉛粒子の粒子径を小さくしていくと、負極合剤層における亜鉛粒体全体の表面積の割合が増加する。亜鉛粒子の表面積の増加は、従前から確認されているように電池の自己放電につながり、容量の残存率を低下させることになる。
【0037】
上記に鑑み、本実施の形態の亜鉛電池では、負極合剤層に含まれる亜鉛粒子の粒子径D90の負極合剤層の厚みTに対する割合を小さくしていくと、すなわち、D90/Tの値を1.9より小さくすると、亜鉛粒子の粒子径D90が小さくなって負極合剤層の厚みTに対する亜鉛粒体全体の表面積の割合の増加につながる。しかしながら、粒子径D90を小さくしすぎると、従前から確認されているように電池の自己放電が増え、容量の残存率を低下させることになる。
【0038】
一方、D90/Tの値を1.9より増やすと、負極合剤層の厚みTに対する亜鉛粒子の粒子径D90が大きくなる。粒子径D90が大きいと、負極板製造時の圧延加工により金属粒子が負極芯体に食い込んで負極芯体表面の錫メッキを損傷させる場合がある。錫メッキは、亜鉛電池の自己放電抑制の効果を高めるために行われているので、錫メッキの損傷は、自己放電を増やすことにつながる。
【0039】
従って、負極合剤層の厚みに対する亜鉛金属粒子D90の値、すなわち(D90/T)を負極芯体表面の錫メッキに損傷を与えないことが明らかである1.9以下にすることが好ましい。この構成により、亜鉛電池の電池容量の残存率が改善され、自己放電が抑制される。
【0040】
また、上記の負極芯体表面の損傷は、本開示では、負極芯体13の一面である表面に生じた凹凸、すなわち変形領域として観察される。したがって、単位面積当たりの変形領域の個数は、負極芯体表面の錫メッキの損傷の程度を示すことになる。製造後の電池1から電極群5を取り出し、負極板3にて負極合剤層14を除去した負極芯体13の表面に存在する変形領域の個数を計測することにより、電池1の自己放電の程度を予測することもできる。
【符号の説明】
【0041】
3 負極板
13 負極芯体
14 負極合剤層
図1
図2
図3