(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082973
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】細菌叢を利用した薬剤耐性菌の定着リスクの検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/68 20180101AFI20240613BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20240613BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240613BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20240613BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240613BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20240613BHJP
【FI】
C12Q1/68
C12Q1/06 ZNA
C12Q1/6851 Z
C12Q1/689 Z
C12N15/11 Z
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197217
(22)【出願日】2022-12-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人日本医療研究開発機構 令和2年度新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「薬剤耐性菌対策に資する診断法・治療法等の開発研究」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】305060567
【氏名又は名称】国立大学法人富山大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森永 芳智
(72)【発明者】
【氏名】川筋 仁史
(72)【発明者】
【氏名】山本 善裕
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA13
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ08
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
(57)【要約】
【課題】細菌叢を利用して、薬剤耐性菌の定着リスクを検出すること。
【解決手段】被検体における薬剤耐性菌の定着リスクを検出する方法は、被検体から採取した糞便試料から、薬剤耐性菌の定着性と相関又は逆相関の関係がある1又は複数の細菌の核酸を定量すること、及び前記定量する工程で得られた核酸の量又はその増減から、薬剤耐性菌の定着リスクを判定することを含む方法。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物である被検体における薬剤耐性菌の定着リスクを検出する方法であって、
被検体から採取した糞便試料から、薬剤耐性菌の定着性と相関又は逆相関の関係にある1又は複数の細菌の核酸を定量すること、及び
前記定量する工程で得られた核酸の量又はその増減から、薬剤耐性菌の定着リスクを判定すること
を含む方法。
【請求項2】
前記薬剤耐性菌の定着性と相関又は逆相関の関係にある1又は複数の細菌が、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の細菌である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記薬剤耐性菌の定着性と相関又は逆相関の関係にある1又は複数の細菌が、腸内細菌科の細菌である請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記細菌の核酸の定量は、前記細菌のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを用いた核酸増幅法により行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)、2)、及び3)のポリヌクレオチドの等モル量混合物と、下記4)及び5)のポリヌクレオチドの等モル量混合物とからなるプライマーセットである、請求項4に記載の方法。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号1の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号1の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号2の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号2の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
3)配列番号3の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号3の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
4)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号4の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号4の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
5)配列番号5の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号5の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
【請求項6】
前記オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)及び2)からなるプライマーセットである、請求項4に記載の方法。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
2)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
【請求項7】
前記判定することは、薬剤投与前の被検者の糞便試料中の核酸の量に比べて、薬剤投与期間中の被検者の糞便試料中の核酸の量が少ない場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが上昇したと判定することを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記判定することは、薬剤投与期間中の被検者の糞便試料中の核酸の量に比べて、薬剤投与終了後の被検者の糞便試料中の核酸の量が多い場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが低下したと判定することを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項9】
前記判定することは、健常者の糞便試料中の核酸の平均量に比べて、被検者の糞便試料中の核酸の量が少ない場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが高いと判定することを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項10】
前記オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)及び2)からなるプライマーセットである、請求項4に記載の方法。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号6の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号6の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号7の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号7の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
【請求項11】
前記オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)及び2)からなるプライマーセットである、請求項4に記載の方法。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド
【請求項12】
前記判定することは、薬剤投与前の被検者の糞便試料中の核酸の量に比べて、薬剤投与期間中の被検者の糞便試料中の核酸の量が少ない場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが上昇したと判定することを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
前記判定することは、健常者の糞便試料中の核酸の平均量に比べて、被検者の糞便試料中の核酸の量が多い場合に、被検体において薬剤耐性菌が定着している可能性が高いと判定することを含む、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項14】
下記の1)、2)、及び3)のポリヌクレオチドの等モル量混合物と、下記4)及び5)のポリヌクレオチドの等モル量混合物とからなるプライマーセット。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号1の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号1の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号2の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号2の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
3)配列番号3の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号3の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
4)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号4の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号4の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
5)配列番号5の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号5の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
【請求項15】
下記の1)及び2)からなるプライマーセット。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
2)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
【請求項16】
下記の1)及び2)からなるプライマーセット。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号6の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号6の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号7の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号7の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
【請求項17】
下記の1)及び2)からなるプライマーセット。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド
【請求項18】
動物である被検体における薬剤耐性菌の定着リスクを検出するための請求項14~17のいずれか一項に記載のプライマーセットの使用。
【請求項19】
請求項14~17のいずれか一項に記載のプライマーセットを備えた、動物である被検体における薬剤耐性菌の定着リスクの検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤耐性菌の定着リスクを検出する方法に関し、より詳細には、薬剤耐性菌が定着しやすい腸内細菌叢の特徴を利用した、薬剤耐性菌を保菌するリスクを評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
感染症を起こす細菌の中で、薬剤耐性化の進行が世界的な問題となっている。特に、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌やカルバペネマーゼ産生菌など、腸内環境に生息する細菌での急激な薬剤耐性の増加や、多様な耐性機序の存在が問題となっているが、現時点で有効な対策はない。その背景の一つとして、腸内環境が薬剤耐性菌を抱え込みやすくなっていることが考えられる。より具体的には、抗菌薬の使用などでもたらされる腸内細菌叢の乱れである“dysbiosis”が起きた場合に、薬剤耐性菌の定着や薬剤耐性遺伝子の菌種を超えた伝播を一層容易にしている可能性がある。
【0003】
薬剤耐性菌の定着しやすさはdysbiosisだけに依存しているのではなく、細菌叢を構成する細菌群によっても影響されることが分かっている。発明者らは以前に、マウス薬剤耐性菌腸管定着モデルを用いて、16S rRNAメタゲノム解析で得られる細菌叢を比較し、薬剤耐性菌の定着しやすさと相関・逆相関の関係にある細菌群を線形判別分析(Linear Discriminant Analysis, LDA)で特定した。その結果、薬剤耐性菌の定着に抵抗的な細菌群として、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、バクテロイデス科(Bacteroidaceae)など、薬剤耐性菌の定着に許容的な細菌群として、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)などが特徴的に認められることを明らかにした(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本化学療法学会雑誌 68巻3号 Page 432(2020年5月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
薬剤耐性菌の定着に至る前段階には、薬剤耐性菌が定着しやすいリスク状態が存在する。高リスク状態時に薬剤耐性菌が腸内環境へ実際に侵入することで薬剤耐性菌の定着に至るが、現在の医療では、薬剤耐性菌が定着した人への対応策はあるが、リスク状態にある人を見つけて対応するという策がなく、耐性菌保菌前のリスク評価法自体が欠如している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、細菌叢の特徴を利用して薬剤耐性菌の定着リスクを検出することを課題とする。
【0007】
本発明は、以下に記載の実施形態を包含する。
項1.
動物である被検体における薬剤耐性菌の定着リスクを検出する方法であって、
被検体から採取した糞便試料から、薬剤耐性菌の定着性と相関又は逆相関の関係にある1又は複数の細菌の核酸を定量すること、及び
前記定量する工程で得られた核酸の量又はその増減から、薬剤耐性菌の定着リスクを判定すること
を含む方法。
項2.
前記薬剤耐性菌の定着性と相関又は逆相関の関係にある1又は複数の細菌が、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の細菌である項1に記載の方法。
項3.
前記薬剤耐性菌の定着性と逆相関の関係にある1又は複数の細菌が、腸内細菌科の細菌である項1に記載の方法。
項4.
前記細菌の核酸の定量は、前記細菌のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを用いた核酸増幅法により行われる、項1に記載の方法。
項5.
前記オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)、2)、及び3)のポリヌクレオチドの等モル量混合物と、下記4)及び5)のポリヌクレオチドの等モル量混合物とからなるプライマーセットである、項4に記載の方法。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号1の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号1の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号2の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号2の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
3)配列番号3の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号3の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
4)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号4の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号4の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
5)配列番号5の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号5の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
項6.
前記オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)及び2)からなるプライマーセットである、項4に記載の方法。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
2)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
項7.
前記判定することは、薬剤投与前の被検者の糞便試料中の核酸の量に比べて、薬剤投与期間中の被検者の糞便試料中の核酸の量が少ない場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが上昇したと判定することを含む、項5又は6に記載の方法。
項8.
前記判定することは、薬剤投与期間中の被検者の糞便試料中の核酸の量に比べて、薬剤投与終了後の被検者の糞便試料中の核酸の量が多い場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが低下したと判定することを含む、項5又は6に記載の方法。
項9.
前記判定することは、健常者の糞便試料中の核酸の平均量に比べて、被検者の糞便試料中の核酸の量が少ない場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが高いと判定することを含む、項5又は6に記載の方法。
項10.
前記オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)及び2)からなるプライマーセットである、項4に記載の方法。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号6の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号6の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号7の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号7の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
項11.
前記オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)及び2)からなるプライマーセットである、項4に記載の方法。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド
項12.
前記判定することは、薬剤投与前の被検者の糞便試料中の核酸の量に比べて、薬剤投与期間中の被検者の糞便試料中の核酸の量が少ない場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが上昇したと判定することを含む、項10又は11に記載の方法。
項13.
前記判定することは、健常者の糞便試料中の核酸の平均量に比べて、被検者の糞便試料中の核酸の量が多い場合に、被検体において薬剤耐性菌が定着している可能性が高いと判定することを含む、項10又は11に記載の方法。
項14.
下記の1)、2)、及び3)のポリヌクレオチドの等モル量混合物と、下記4)及び5)のポリヌクレオチドの等モル量混合物とからなるプライマーセット。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号1の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号1の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号2の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号2の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
3)配列番号3の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号3の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
4)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号4の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号4の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
5)配列番号5の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号5の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
項15.
下記の1)及び2)からなるプライマーセット。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
2)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
項16.
下記の1)及び2)からなるプライマーセット。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号6の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号6の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号7の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号7の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
項17.
下記の1)及び2)からなるプライマーセット。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド
項18.
動物である被検体における薬剤耐性菌の定着リスクを検出するための項14~17のいずれか一項に記載のプライマーセットの使用。
項19.
項14~17のいずれか一項に記載のプライマーセットを備えた、動物である被検体における薬剤耐性菌の定着リスクの検出用キット。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、薬剤耐性菌が検出された後の対策だけでなく、保菌リスクを有する対象を評価することができる。
【0009】
このため、薬剤耐性菌の温床とも言われる腸内環境へ、保菌前から対策を行うことにもつながり、耐性菌全体の問題を減少させられる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】LRB検出系のPCRに使用されるフォワードプライマー及びリバースプライマーの設計。
【
図2】ETB検出系のPCRに使用されるフォワードプライマー及びリバースプライマーの設計。
【
図3】抗菌薬なしの対照群(control群)、アンピシリン投与群(ABPC群)、メトロニタゾール投与群(MNZ群)の各々に薬剤耐性菌量(ESBL産生大腸菌)を接種した後の糞便中の薬剤耐性菌量とLRB菌量の経時的変化を示すグラフ。
【
図4】抗菌薬なしの対照群(control群)、アンピシリン投与群(ABPC群)、メトロニタゾール投与群(MNZ群)の各々に薬剤耐性菌量(ESBL産生大腸菌)を接種した後の薬剤耐性菌量とETB菌量の経時的変化を示すグラフ。
【
図5】(A)-(E) LRB検出系における5名の患者の抗菌薬投与によるC
T値の変化を示すグラフ。
図5(A)、(C)、及び(D)の細菌名は、抗菌薬投与後に各患者においてこれらの薬剤耐性菌の発育が確認されたことを示す。
【
図6】(A)-(D) LRB検出系における4名の患者の抗菌薬投与期間中及び抗菌薬終了後のC
T値の変化を示すグラフ。
【
図7】LRB検出系を用いた薬剤耐性菌の定着リスクの評価。(A)各群のC
T値。(B) C
T値22で、各群の対象を分けた場合の円グラフ。
【
図8】(A)-(D) ETB検出系における4名の患者の抗菌薬投与期間中及び抗菌薬終了後のC
T値の変化を示すグラフ。
【
図9】(A) 健常者、ESBL産生菌保菌者、及びESBL産生菌非保菌者の各群のLRB検出系におけるC
T値のグラフ。(B)健常者、ESBL産生菌保菌者、及びESBL産生菌非保菌者の各群のETB検出系におけるC
T値のグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、単数形は、本明細書で別途明示がある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、単数と複数を含むものとする。
【0012】
本明細書において、「含む」及び「からなる」は、「のみからなる(consist of)」も包含する概念である。
【0013】
本明細書において、「特異的」とは、あるヌクレオチド配列が所定の標的配列にハイブリダイズし、実質的に非標的配列にハイブリダイズせず、標的配列を増幅したときに非標的配列を増幅しないことを意味する。
【0014】
非特許文献1の研究において、本発明者らは、ヒト腸内細菌叢における、薬剤耐性菌定着に関連する細菌群を調査したが、それらを利用して薬剤耐性菌の定着リスクを検出する方法は開発していなかった。
【0015】
本発明者らは、マウス薬剤耐性菌腸管定着モデルの細菌叢メタゲノム解析結果から特定した薬剤耐性菌の定着性と相関又は逆相関の関係にある細菌群のうち、抵抗的指標となりうる細菌群と許容的指標となりうる細菌群とを、塩基配列情報を参考としながら抽出した。さらに、それぞれの細菌群を検出する定量PCR検出系(リアルタイムPCR法)を構築した。それらを組み合わせることで薬剤耐性菌の定着リスクを検出又はスクリーニングする方法を確立した。そして、薬剤耐性菌の定着リスクを検出又はスクリーニングする新規な方法を、MARS法(microbiota-based AMR [antimicrobial resistance] risk screening法)と命名した。
【0016】
本発明者らはさらに、ヒト臨床検体での検証を通じて、本開示の薬剤耐性菌の定着リスクの検出方法が、実際の医療現場においても薬剤耐性菌の定着リスクや保菌の有無の評価に適用できることを見出した。
【0017】
本発明の第一の態様によれば、動物である被検体における薬剤耐性菌の定着リスクを検出する方法であって、
被検体から採取した糞便試料から、薬剤耐性菌の定着性と相関又は逆相関の関係がある1又は複数の細菌の核酸を定量すること、及び
前記定量する工程で得られた核酸の量又はその増減から、薬剤耐性菌の定着リスクを判定すること
を含む方法が提供される。
【0018】
動物である被検体は、ヒトであっても非ヒト動物であってもよい。非ヒト動物としては、鳥類や非ヒト哺乳類が挙げられるがこれらに限定されない。非ヒト動物の例としては、ウシ、ブタ、ウマ、羊、ヤギなどの家畜、ニワトリ、鴨、ダチョウなどの家禽、イヌ、ネコ、ウサギなどのペット動物、マウス、モルモット、ラットなどの齧歯類等が挙げられるがこれらに限定されない。動物は好ましくは鳥類及び哺乳類であり、より好ましくはヒトである。
【0019】
薬剤耐性菌の定着性と逆相関の関係にある1又は複数の細菌としては、薬剤耐性菌の定着に抵抗的な細菌群として、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、バクテロイデス科(Bacteroidaceae)などが挙げられる。
【0020】
「薬剤耐性菌の定着性と逆相関の関係にある」とは、健常者と薬剤耐性菌の定着リスクが高い患者の便中の細菌量を比較した場合に、健常者においてこれらの抵抗的な細菌群の菌量が相対的に高く、薬剤耐性菌の定着リスクが高い患者においてこれらの抵抗的な細菌群の菌量が相対的に低いことを指す。
【0021】
薬剤耐性菌の定着性と相関の関係にある1又は複数の細菌としては、薬剤耐性菌の定着に許容的な細菌群として、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)が挙げられる。
【0022】
「薬剤耐性菌の定着性と相関の関係にある」とは、健常者と薬剤耐性菌が定着している患者の便中の細菌量を比較した場合に、健常者においてこれらの許容的な細菌群の菌量が相対的に低く、薬剤耐性菌が定着している患者においてこれらの許容的な細菌群の菌量が相対的に高いことを指す。
【0023】
細菌の核酸の定量は、当該核酸を特異的に検出可能なプライマーを用いて、当該核酸のヌクレオチド配列を増幅することにより行うことができ、このような技術は周知である。例えば、細菌の核酸の定量は、当該細菌の特定のヌクレオチド配列と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを用いた核酸増幅法により、当該細菌のヌクレオチド配列を増幅することにより行うことができる。
【0024】
核酸増幅法としては、PCR(Polymerase chain reaction)法、LAMP(Loop-mediated isothermal amplification)法、TRC(Transcription-reversetranscription concerted reaction)法などが挙げられ、これらはいずれも周知である。
【0025】
細菌の配列と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCRは、検出感度が高く、また、PCR装置が医療機関や介護施設に広く普及しており、本発明の態様の検査方法を実施可能な施設が多い点で好ましい。
【0026】
前記細菌の核酸の量は、蛍光シグナルが閾値を超えるのに必要なPCRサイクルの数であるCT値で示されてもよいし、細菌の核酸の量は、定量PCRで増幅された核酸すなわちPCR生成物の量であってもよい。
【0027】
PCRの初期サイクルにおけるほぼ変動がない蛍光シグナルをベースラインシグナルとしたときに、ベースラインシグナルに対して統計学的に有意な増加が観察されるレベルが閾値と定義される。CT値は蛍光シグナルがこの閾値を超えるのに必要なPCRサイクルの数である。CT値は、試料中の標的核酸の量に反比例する。すなわち、CT値が低くなることは、試料中の標的核酸の量が増大することを指す。
【0028】
いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)、2)、及び3)のポリヌクレオチドの等モル量混合物と、下記4)及び5)のポリヌクレオチドの等モル量混合物とからなるプライマーセットである。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号1の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号1の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号2の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号2の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
3)配列番号3の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号3の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
4)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号4の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号4の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、前記薬剤耐性菌の定着性とは逆相関の関係にある、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
5)配列番号5の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号5の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
GCGTTAAGTATTCCACCTGGGG(配列番号1)
ACAATAAGTATCCCACCTGGGG(配列番号2)
GCAATAAGTATACCACCTGGGG(配列番号3)
GGTAAGGTTCCTCGCGTATC (配列番号4)
GGTAAGGTTCTTCGCGTTGC (配列番号5)
1)、2)、及び3)のポリヌクレオチドの等モル量混合物は、ラクノスピラ科、ルミノコッカス科、及びバクテロイデス科のみを検出するためのフォワードプライマーのセットである。4)及び5)のポリヌクレオチドの等モル量混合物は、フォワードプライマーのセットと組み合わせて使用される、ラクノスピラ科、ルミノコッカス科、及びバクテロイデス科のみを検出するためのリバースプライマーのセットである。これらのポリオリゴヌクレオチドは公知の核酸合成法により合成することできる。
【0029】
フォワードプライマーリバースプライマーからなるプライマーセットを用いたPCRにより、薬剤耐性菌の定着に抵抗的な細菌群であるラクノスピラ科、ルミノコッカス科、及びバクテロイデス科の細菌を特異的かつ定量的に検出することができる。
【0030】
1)~5)の各ポリヌクレオチドの長さは特に限定されないが、好ましくは15~50塩基からなるポリヌクレオチドであり、より好ましくは15~30塩基からなるポリヌクレオチドであり、より好ましくは18~25塩基からなるポリヌクレオチドである。
【0031】
上記配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドは、好ましくは配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの連続する少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドである。また、配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドは、好ましくは配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの少なくとも18塩基を含むポリヌクレオチドであり、より好ましくは配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの連続する少なくとも18塩基を含むポリヌクレオチドである。
【0032】
いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)及び2)のプライマーセットである。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
2)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
1)の3種のポリヌクレオチドの等モル量混合物は、ラクノスピラ科、ルミノコッカス科、及びバクテロイデス科のみを検出するためのフォワードプライマーのセットである。2)の2種のポリヌクレオチドの等モル量混合物は、1)のフォワードプライマーのセットと組み合わせて使用される、ラクノスピラ科、ルミノコッカス科、及びバクテロイデス科のみを検出するためのリバースプライマーのセットである。
【0033】
上記1)及び2)のプライマーセットを用いたPCRにより、薬剤耐性菌の定着に抵抗的な細菌群であるラクノスピラ科、ルミノコッカス科、及びバクテロイデス科の細菌を特異的かつ定量的に検出することができる。
【0034】
上記配列番号1~5に関連するプライマーセットを用いて薬剤耐性菌の定着リスクを判定する工程は、種々の実施形態で行い得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、判定することは、薬剤投与前の被検者の糞便試料中の核酸の量に比べて、薬剤投与期間中の被検者の糞便試料中の核酸の量が少ない場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが上昇したと判定することを含む。
【0036】
いくつかの実施形態では、判定することは、薬剤投与期間中の被検者の糞便試料中の核酸の量に比べて、薬剤投与終了後の被検者の糞便試料中の核酸の量が多い場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが低下したと判定することを含む。
【0037】
いくつかの実施形態では、判定することは、健常者の糞便試料中の核酸の平均量に比べて、被検者の糞便試料中の核酸の量が少ない場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが高いと判定することを含む。
【0038】
いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)及び2)からなるプライマーセットである。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号6の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号6の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号7の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号7の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
GGGGGATAACTACTGGAAACGG (配列番号6)
GATCGTCGCCTAGGTGAGC (配列番号7)
1)のポリヌクレオチドは、腸内細菌科のみを検出するためのフォワードプライマーである。2)のポリヌクレオチドは、1)のフォワードプライマーと組み合わせて使用される、腸内細菌科のみを検出するためのリバースプライマーである。これらのポリオリゴヌクレオチドは公知の核酸合成法により合成することできる。
【0039】
上記1)及び2)のプライマーセットを用いたPCRにより、薬剤耐性菌の定着に許容的な細菌群で腸内細菌科の細菌を特異的かつ定量的に検出することができる。
【0040】
1)及び2)の各ポリヌクレオチドの長さは特に限定されないが、好ましくは15~50塩基からなるポリヌクレオチドであり、より好ましくは15~30塩基からなるポリヌクレオチドであり、より好ましくは18~25塩基からなるポリヌクレオチドである。
【0041】
上記配列番号6及び7のそれぞれの配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドは、好ましくは配列番号6及び7のそれぞれの配列のうちの連続する少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドである。また、配列番号6及び7のそれぞれの配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドは、好ましくは配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの少なくとも18塩基を含むポリヌクレオチドであり、より好ましくは配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの連続する少なくとも18塩基を含むポリヌクレオチドである。
【0042】
いくつかの実施形態において、オリゴヌクレオチドプライマーは、下記の1)及び2)のプライマーセットである。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド
1)のポリヌクレオチドは、腸内細菌科のみを検出するためのフォワードプライマーである。2)のポリヌクレオチドは、1)のフォワードプライマーと組み合わせて使用される、腸内細菌科のみを検出するためのリバースプライマーである。
【0043】
上記1)及び2)のプライマーセットを用いたPCRにより、薬剤耐性菌の定着に許容的な細菌群で腸内細菌科の細菌を特異的かつ定量的に検出することができる。
【0044】
上記配列番号6及び7に関連するプライマーセットを用いて薬剤耐性菌の定着リスクを判定する工程は、種々の実施形態で行い得る。
【0045】
いくつかの実施形態では、判定することは、薬剤投与前の被検者の糞便試料中の核酸の量に比べて、薬剤投与期間中の被検者の糞便試料中の核酸の量が少ない場合に、被検体における薬剤耐性菌の定着リスクが上昇したと判定することを含む。
【0046】
いくつかの実施形態では、判定することは、健常者の糞便試料中の核酸の平均量に比べて、被検者の糞便試料中の核酸の量が高い場合に、被検体において薬剤耐性菌が定着している可能性が高いと判定することを含む。
【0047】
本発明の第一態様の薬剤耐性菌の定着リスクを検出する方法は、公知の核酸増幅方法を利用しており、COVID-19パンデミックで一般化したPCR機器を利用できるため、医療機関でも広く受け入れやすい手法である。また、薬剤耐性菌が問題となっている介護施設等での耐性菌定着リスク調査が可能となり、医療を取り巻く薬剤耐性菌の拡散の実態や課題の拾い上げにつながるとともに、未だデータに不足する医療機関と介護施設における薬剤耐性菌の動向の状況などを知ることができ、薬剤耐性菌拡散背景の新知見となることが期待される。
【0048】
本発明の第二の態様によれば、下記の1)、2)、及び3)のポリヌクレオチドの等モル量混合物と、下記4)及び5)のポリヌクレオチドの等モル量混合物とからなるプライマーセットが提供される。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号1の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号1の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号2の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号2の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
3)配列番号3の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号3の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
4)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号4の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号4の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、前記薬剤耐性菌の定着性とは逆相関の関係にある、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
5)配列番号5の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号5の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、ラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、及びバクテロイデス科(Bacteroidaceae)の核酸を増幅するポリヌクレオチド
1)~5)の各ポリヌクレオチドの長さは特に限定されないが、好ましくは15~50塩基からなるポリヌクレオチドであり、より好ましくは15~30塩基からなるポリヌクレオチドであり、より好ましくは18~25塩基からなるポリヌクレオチドである。
【0049】
上記配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドは、好ましくは配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの連続する少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドである。また、配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドは、好ましくは配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの少なくとも18塩基を含むポリヌクレオチドであり、より好ましくは配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの連続する少なくとも18塩基を含むポリヌクレオチドである。
【0050】
いくつかの実施形態では、下記の1)及び2)のプライマーセットが提供される。
1)配列番号1の配列を含むポリヌクレオチド、配列番号2の配列を含むポリヌクレオチド、及び配列番号3の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
2)配列番号4の配列を含むポリヌクレオチド及び配列番号5の配列を含むポリヌクレオチドの等モル量混合物
本発明の第三の態様によれば、下記の1)及び2)からなるプライマーセットが提供される。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号6の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号6の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド、
配列番号7の配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド、又は
配列番号7の配列を含むポリヌクレオチドに対し、1又は2つの塩基が欠失、置換、又は付加されているポリヌクレオチドであって、腸内細菌科の核酸を増幅するポリヌクレオチド
1)及び2)の各ポリヌクレオチドの長さは特に限定されないが、好ましくは15~50塩基からなるポリヌクレオチドであり、より好ましくは15~30塩基からなるポリヌクレオチドであり、より好ましくは18~25塩基からなるポリヌクレオチドである。
【0051】
上記配列番号6及び7のそれぞれの配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドは、好ましくは配列番号6及び7のそれぞれの配列のうちの連続する少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドである。また、配列番号6及び7のそれぞれの配列のうちの少なくとも15塩基を含むポリヌクレオチドは、好ましくは配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの少なくとも18塩基を含むポリヌクレオチドであり、より好ましくは配列番号1~5のそれぞれの配列のうちの連続する少なくとも18塩基を含むポリヌクレオチドである。
【0052】
いくつかの実施形態では、下記の1)及び2)のプライマーセットが提供される。
1)配列番号6の配列を含むポリヌクレオチド
2)配列番号7の配列を含むポリヌクレオチド
上記第二及び第三の態様のプライマーセットは、動物である被検体における薬剤耐性菌の定着リスクを検出するために使用することができる。
【0053】
本発明の第四の態様によれば、上記第二又は第三の態様のプライマーセットを備えた哺乳動物被検体における薬剤耐性菌の定着リスクの検出用キットが提供される。
【0054】
上記キットは、上記第一の態様の方法に従って哺乳動物被検体から採取した糞便試料から、薬剤耐性菌の定着性と相関又は逆相関の関係にある1又は複数の細菌の核酸を定量するための指示書をさらに含んでもよい。
【0055】
上記キットは、第二又は第三の態様のプライマーセットを収容する第1の容器をさらに備えてもよい。
【0056】
また、上記キットは、dNTP(デオキシアデノシン三リン酸(dATP)、デオキシシチジン三リン酸(dCTP)、デオキシグアノシン三リン酸(dGTP)、及びデオキシチミジン三リン酸(dTTP))を収容する第2の容器を備えてもよい。
【0057】
さらに、上記キットは、DNAポリメラーゼ、MgCl2、緩衝液等を備えてよく、これらの化合物は、第1の容器又は第2の容器に収容されてもよいし、第1の容器及び第2の容器とは異なる容器に一緒に又は別々に収容されてもよい。
【0058】
本明細書中に引用されているすべての特許出願および文献の開示は、それらの全体が参照により本明細書に組み込まれるものとする。
【0059】
以下の実施例は、例示のみを意図したものであり、何ら本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。特に断らない限り、試薬は、市販されているか、又は当技術分野で慣用の手法、公知文献の手順に従って入手又は調製する。
【実施例0060】
1. 使用標準菌株
本発明に関連し、使用した40種の標準菌株を以下に示す。
Lacrimispora indolis(ATCC 25771)、Ruminococcus gauvreauii(JCM 14987T)、Ruminococcus gnavus(ATCC 29149)、Ruminiclostridium cellobioparum(ATCC 15832)、Pseudoflavonifractor capillosus(JCM 32126T)、Alistipes indistinctus(JCM 16068T)、Bacteroides fragilis(ATCC 25285)、Phocaeicola vulgatus(ATCC 8482)、Bacteroides acidifaciens(JCM 10556T)、Bacteroides uniformis(ATCC 8492)、Bacteroides dorei(JCM 13471T)、Bacteroides finegoldii(JCM 13345T)、Bacteroides intestinalis(JCM 13265T)、Bacteroides thetaiotaomicron(ATCC 29148)、Parabacteroides johnsonii(JCM 13406T)、Parabacteroides merdae(ATCC 43184)、Clostridium butyricum(ATCC 19398)、Clostridium sporogenes(ATCC 3584)、Clostridium ramosum(ATCC 25582)、Clostridium intestinale(ATCC 49213)、Clostridium innocuum(ATCC 14501)、Clostridium spiroforme(ATCC 29900)、Eggerthella lenta(ATCC 25559)、Finegoldia magna(ATCC 14904)、Lactobacillus casei(ATCC 393)、Lactobacillus acidophilus(ATCC 4356)、Lactobacillus gasseri(ATCC 33323)、Ligilactobacillus animalis(ATCC 35046)、Corynebacterium striatum(ATCC 6940)、Corynebacterium ulcerans(ATCC 51799)、Corynebacterium pseudodiphtheriticum(ATCC 10700)、Staphylococcus lugdunensis(ATCC 49576)、Staphylococcus saprophyticus(ATCC 15305)、Escherichia coli(ATCC 35218)、Klebsiella pneumoniae(ATCC 13883)、Klebsiella oxytoca(ATCC 700324)、Klebsiella variicola(ATCC 31488)、Proteus vulgaris(ATCC 6380)、Enterobacter cloacae(NCTC 13406)、 Haemophilus influenzae(ATCC 43335)。
【0061】
2. 菌株および便からの核酸抽出方法
菌株からの核酸抽出においては、培地に発育した単一集落(コロニー)を白金耳で少量採取し、0.05 mol/LのNaOH 50 μLに懸濁したのち、95℃で10分間熱処理を行い、1 mol/LのTris-HCl(pH 7.0)11 μLを加え、滅菌水で10倍希釈したものをテンプレートDNAとして使用した。また、便からの核酸抽出においては、Quick-DNA Fecal/Soil Microbe Miniprep Kit(ZYMO Research)およびQIAamp Power Fecal Pro DNA kit(QIAGEN)を用い、各製品添付の取扱説明書に従って実施した。
【0062】
3.プライマーセットの設計
マウス耐性菌腸管定着モデルの細菌叢メタゲノム解析結果から特定した薬剤耐性菌の定着性と相関・逆相関の関係にある細菌群のうち、GenBank(NCBI)に公開されている塩基配列情報を参考としながら、抵抗的指標となりうる細菌群としてラクノスピラ科(Lachnospiraceae)、ルミノコッカス科(Ruminococcaceae)、バクテロイデス科(Bacteroidaceae)、許容的指標となりうる細菌群として腸内細菌科(Enterobacteriaceae)を選択した。これら細菌群のみに共通する塩基配列を探索し、抵抗的指標となりうる細菌群(Lachnospiraceae/ Ruminococcaceae/ Bacteroidaceae、以下 LRB)をユニバーサルに検出するプライマー候補として、候補1領域(16S rRNA遺伝子領域)、フォワードプライマー 10種類、リバースプライマー 6種類を検討した。また、同様に許容的指標となりうる細菌群として腸内細菌科(Enterobacteriaceae、以下ETB)をユニバーサルに検出するプライマー候補として、候補3領域(いずれも16S rRNA遺伝子領域)、フォワードプライマー 4種類、リバースプライマー 3種類を検討した。
【0063】
4. LRB検出系(リアルタイムPCR法)の確立
各種標準菌株より抽出した核酸試料を用いた検討により、LRBを特異的に検出するプライマーとして、Bacteroides finegoldii NCBI Reference Sequence:AAB222699の912-933に相当する部位を標的とするLRB-F1、LRB-F2、LRB-F3の当量混合からなるフォワードプライマーと、同1030-1011に相当する部位を標的とするLRB-R1とLRB-R2の当量混合からなるリバースプライマーを設計した(表1、
図1)。LRB-F1、LRB-F2、LRB-F3の当量混合からなるフォワードプライマーと、同1030-1011に相当する部位を標的とするLRB-R1とLRB-R2の当量混合からなるリバースプライマーを用いて増幅したポリヌクレオチドのサイズは119bpとなる。
【0064】
【0065】
なお、この検出系は、使用するリアルタイムPCR装置、試薬および反応容器等によって最適な条件は異なり、当該リアルタイムPCR反応が適切に行われる限り限定されない。具体的な実施例を以下に示す。
【0066】
リアルタイムPCR装置は、LightCycler(登録商標) 96 System(Roche)を使用し、反応試薬には、THUNDERBIRD(登録商標) SYBR(登録商標) qPCR Mix(TOYOBO)を用いた。PCR反応液の組成は、1×THUNDERBIRD(登録商標) SYBR(登録商標) qPCR Mix(TOYOBO)10 μL、フォワードプライマー 等モル量Mix(LRB-F1 + LRB-F2 + LRB-F3)計10.0 pmol、リバースプライマー 等モル量Mix(LRB-R1 + LRB-R2)計10.0 pmolを混合し、テンプレートDNAを1.0 μL加え、滅菌精製水で全量20 μLとした。反応条件は検討の結果、以下の3ステップPCRとした。
初期変性 95℃ 60秒
変性 95℃ 15秒
アニーリング 62℃ 5秒
伸長 72℃ 30秒
変性から伸長までを45サイクル
【0067】
標準菌株40種について、上記LRB検出系を用いてリアルタイムPCR反応を行った結果、LRBに含まれるLacrimispora indolis、Ruminococcus gauvreauii、Ruminococcus gnavus、Ruminiclostridium cellobioparum、Pseudoflavonifractor capillosus、Alistipes indistinctus、Bacteroides fragilis、Phocaeicola vulgatus、Bacteroides acidifaciens、Bacteroides uniformis、Bacteroides dorei、Bacteroides finegoldii、Bacteroides intestinalis、Bacteroides thetaiotaomicron、Parabacteroides johnsonii、Parabacteroides merdae、Clostridium butyricum、Clostridium sporogenesの18種の菌種のみで核酸の増幅が認められ、他の細菌種では増幅が認められなかった(表2)。上記のように、LRBを網羅的に検出するために設計したプライマーセットは、LRBのみ特異的に検出することができ、他の菌種との交差性は認められなかった。
【0068】
【0069】
5. ETB検出系(リアルタイムPCR法)の確立
各種標準菌株より抽出した核酸試料を用いて腸内細菌科細菌(ETB)を特異性に検出するプライマーとして、Escherichia coli NCBI Reference Sequence:AM980865の169-191に相当する部位を標的とするETB-F1からなるフォワードプライマーと、同322-304の部位を標的とするETB-R1からなるリバースプライマーを設計した(表3、
図2)。ETB-F1からなるフォワードプライマーと、同322-304の部位を標的とするETB-R1からなるリバースプライマーを用いて増幅したポリヌクレオチドのサイズは144bpとなる。
【0070】
【0071】
なお、この検出系は、LRB検出系と同様に、使用するリアルタイムPCR装置、試薬および反応容器等によって最適な条件は異なり、当該リアルタイムPCR反応が適切に行われる限り限定されない。具体的な実施例を以下に示す。
【0072】
リアルタイムPCR装置は、LightCycler(登録商標) 96 System(Roche)を使用し、反応試薬には、THUNDERBIRD(登録商標) Next SYBR(登録商標) qPCR Mix(TOYOBO)を用いた。PCR反応液の組成は、1×THUNDERBIRD(登録商標) Next SYBR(登録商標) qPCR Mix(TOYOBO) 10 μL、フォワードプライマー(ETB-F1) 10.0 pmol、リバースプライマー(ETB-R1) 10.0 pmolを混合し、テンプレートDNAを1.0 μL加え、滅菌精製水で全量20 μLとした。反応条件は検討の結果、以下の2ステップPCRとした。
初期変性 95℃ 30秒
変性 95℃ 5秒
伸長 72℃ 30秒
変性から伸長までを45サイクル
【0073】
標準菌株40種について、上記ETB検出系を用いてリアルタイムPCR反応を行った結果、Escherichia coli、Klebsiella pneumoniae、Klebsiella oxytoca、Klebsiella variicola、Enterobacter cloacae、Proteus vulgarisの6種の菌種のみで核酸の増幅が認められ、他の細菌種では増幅が認められなかった(表4)。また、入院患者の便検体より分離同定された臨床分離株においても検証し、Escherichia coli 10株、Klebsiella aerogenes 2株、Klebsiella oxytoca 2株、Citrobacter freundii 1株、Raoultella ornithinolytica 1株で核酸の増幅が認められ、Acinetobacter species 1株、Aeromonas veronii1株では増幅が認められなかった(表5)。上記のように、ETBを網羅的に検出するために設計したプライマーセットは、標準菌株および臨床分離株を用いたいずれの検証においてもETBのみ特異的に検出することができ、他の菌種との交差性は認められなかった。
【0074】
【0075】
【0076】
6. マウス耐性菌腸管定着モデルでの検証
C57BL/6Jマウス(6~8週齢、雌)に、抗菌薬なし(control群、n=4)、アンピシリン1.0 g/L(ABPC群、n=4)、メトロニタゾール1.0 g/L(MNZ群、n=4)を3日間自由飲水させ、ABPC群及びMNZ群で腸内細菌叢を撹乱させた。ESBL産生大腸菌(CTX-M-9、ST131、セフォペラゾン耐性)を経口接種し、セフォペラゾン(32 μg/mL)含有マッコンキー培地に糞便を塗布し、発育する集落を薬剤耐性菌量として経時的に測定した。また、菌接種直前および接種後3日目、8日目の糞便から核酸を抽出し、上記4.及び5.で確立したLRB検出系、ETB検出系を用いてLRB菌量、ETB菌量をそれぞれ評価した。
【0077】
便中薬剤耐性菌量(平均±SEM)(
図3、棒グラフ)は、全群接種後1日目がピークであり、control群3.9±0.2、ABPC群 8.7±0.4、MNZ群6.5±0.4 Log
10CFU/便1 gあたりであった。control群、MNZ群は接種後3日目から薬剤耐性菌が発育しなかった。一方で、ABPC群では接種後5日目から8日目にかけて便中薬剤耐性菌量の減少が認められるも、接種後12日目においても薬剤耐性菌の発育が認められた。
【0078】
LRB検出系での評価において、菌接種直前のcontrol群のC
T値(平均±SEM)は18.2±0.6、ABPC群は39.3±1.9、MNZ群は29.1±2.4であり、LRB菌量は薬剤耐性菌の腸管定着が最も長かったABPC群で最も少なく、次いでMNZ群であった(
図3、散布図)。さらに、ABPC群、MNZ群いずれにおいても、接種後3日目以降の便中薬剤耐性菌量の減少に伴い、LRB菌量もcontrol群と同程度まで経時的に回復することが確認された。以上より、LRB検出系によって薬剤耐性菌の定着リスクおよびその増減を定量評価可能であることが明らかとなった。
【0079】
ETB検出系での評価では、菌接種直前のcontrol群のC
T値(平均±SEM)は29.8±0.9、ABPC群は42.9±1.3、MNZ群は17.0±0.3であった(
図4、散布図)。ABPC群では、ABPC投与によってマウス腸内の腸内細菌科細菌が減少してしまうことで、菌接種直前のETB菌量が各群で最も少なかったが、接種後3日目には、経口接種させたESBL産生大腸菌の腸管定着を反映し、最もETB菌量が多い結果であった。MNZ群においては、腸内細菌科細菌に対してMNZは抗菌作用を示さないため、菌接種直前ではETB菌量がcontrol群よりも多かったが、ABPC群、MNZ群いずれにおいても、便中薬剤耐性菌量の減少に伴い、ETB菌量もcontrol群と同程度に落ち着く結果であった。以上より、ETB菌量の減少は、定着リスクの増加を示し、ETB菌量の増加は薬剤耐性菌定着を反映することが示唆された。
【0080】
7. ヒト臨床検体での検証
次に、実際のヒト試料を用いた検出系の動作確認と医療現場での利用可能性の検証のため、定着リスクが高いと考えられる入院患者58名の下痢性検体(臨床残検体)80検体と、定着リスクが低いと考えられる健常者20名の便検体20検体を用いて、確立したLRB検出系およびETB検出系が薬剤耐性菌定着リスクの評価に有用かどうかを検証した。また、入院患者52名の下痢性検体57検体は、便検体処理時にESBLスクリーニング培地であるCHROMagarTMESBL(関東化学株式会社)に塗布しており、菌集落の発育を認めたESBL産生菌保菌者と発育が認められなかった非保菌者とに分けて保菌の有無を評価可能か検証した。
【0081】
まず、LRB検出系を用いて抗菌薬投与による薬剤耐性菌定着リスク増加を評価可能かに関して、便検体が複数回採取され、経時的評価が可能であった入院患者12名の下痢性便検体34検体を用いて評価した。入院患者12名のうちの5名の患者の経時的なLRB菌量の変化を示すグラフの例を
図5(A)-(E)に示すとおり、LRB検出系は、抗菌薬投与によるLRB菌量の減少を評価しうることが示された。
【0082】
次に、抗菌薬終了後にLRB菌量が回復するかについても検証し、具体例を
図6(A)-(D)に示すとおり、LRB検出系は、抗菌薬投与終了後にC
T値が低下しており、LRB菌量の回復も評価可能であった。
図6(C)の症例Hでは、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)が便からも検出されていたが、LRB菌量の増加に伴いCPEは検出されなくなった。一方、
図6(D)の症例Iのように、抗菌薬投与終了後もLRB菌量の回復が認めらないパターンでは、臨床像においても腸炎が再燃するという経過を示した。以上より、実際のヒト試料を用いた場合でも、LRB検出系は、抗菌薬の投与および終了に伴う薬剤耐性菌定着リスクの増減を評価可能であることを確認した。
【0083】
次に、入院患者を、便検体提出時に抗菌薬が投与されていた患者(のべ37名46検体)と抗菌薬が投与されていなかった患者(のべ28名34検体)に分け、リスクが少ないと考えられる健常者(20名20検体)を合わせてLRB検出系で評価した(
図7(A)、(B))。なお、一部の患者は、抗菌薬が投与されていた時期の便検体と、抗菌薬投与されていた時期の便検体が採取され、のべ人数2名とカウントしているため、ここでの合計患者数が入院患者58名を超えている。その結果、各群においてLRB菌量に有意な差が確認され、健常者で最もLRB菌量が多く、抗菌薬投与中の入院患者で最も少ない結果であった(
図7(A))。
図7(B)において、抗菌薬投与中の入院患者では、C
T値>22の患者とC
T値≦22の患者の割合がそれぞれ85%と15%、抗菌薬が投与されていない入院患者ではそれぞれ71%と29%、健常者ではそれぞれ10%と90%であった。耐性菌定着リスクの高リスク群、低リスク群を分ける境界として、あくまで具体例の一つあるが、C
T値22で仕分けた場合に、定着リスクが少ないと考えられる健常者と定着リスクが高いと考えられる入院患者を比較的明確に識別可能であると示唆された。
【0084】
次に、ETB検出系を用いて、同様に、抗菌薬投与による薬剤耐性菌定着リスクの増加を評価可能かに関して、便検体が複数回採取され、経時的評価が可能であった入院患者12名、下痢性便検体34検体を用いて評価した。4名の患者の経時的なETB菌量の変化を示すグラフの例を
図8(A)-(D)に示すとおり、抗菌薬投与によってETB菌量の減少が確認され、ETB菌量の減少は、薬剤耐性菌が定着しやすい環境を示し、薬剤耐性菌定着リスクが高い状態であると示唆された。
【0085】
LRB検出系とETB検出系を用いて、ESBL産生菌保菌者(のべ15名16検体)と非保菌者(のべ38名41検体)(上述の入院患者52名、下痢性検体57検体に同じ、ただし1名の患者で2回便検体を採取し、1回はESBL産生菌が検出され、もう1回はESBL産生菌が検出されなかったため、のべ人数2名とカウント)、健常者(20名20検体)とに分け、実際に薬剤耐性菌保菌の有無を評価できるか検証したところ(
図9(A),(B))、LRB菌量は、健常者で最も多く、薬剤耐性菌定着リスクが高いと考えられる入院患者のESBL産生菌保菌者、非保菌者でいずれも低い結果であった(
図9(A))。一方、ETB菌量は、ESBL産生菌保菌者で最も多く、健常者と非保菌者とでは変わらない結果であった(
図9(B))。このように、薬剤耐性菌“定着リスク”の評価には、LRB検出系が、ESBL産生菌が”定着しているか”の評価には、ETB検出系が有用であることが明らかとなった。