(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082987
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 63/672 20060101AFI20240613BHJP
C08L 67/02 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C08G63/672
C08L67/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197246
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000228073
【氏名又は名称】日本エステル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】須藤 嘉祐
(72)【発明者】
【氏名】大山田 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】和田 啓暉
【テーマコード(参考)】
4J002
4J029
【Fターム(参考)】
4J002BB032
4J002BB122
4J002BB152
4J002BB162
4J002CF091
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4J029JF321
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、結晶性に優れ、かつ柔軟性を有し、バインダー繊維、成形品に加工することが容易であり、各種の接着用途にも好適に使用することができるポリエステル樹脂組成物を提供しようとするものである。
【解決手段】本発明のポリエステル樹脂組成物は、全ジカルボン酸成分中、テレフタル酸を50モル%以上、全グリコール成分中、1,4-ブタンジオールを20モル%以上含有し、全成分中、数平均分子量500~3000のポリテトラメチレングリコールを5~50質量%共重合したポリエステル樹脂と、結晶核剤を0.01~3質量%含有するポリエステル樹脂組成物であって、降温結晶化温度(Tc)から算出する結晶化ピークΔHが4J/g以上であり、引張弾性率が1000MPa以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全ジカルボン酸成分中、テレフタル酸を50モル%以上、全グリコール成分中、1,4-ブタンジオールを20モル%以上含有し、全成分中、数平均分子量500~3000のポリテトラメチレングリコールを5~50質量%共重合したポリエステル樹脂と、結晶核剤を0.01~3質量%含有するポリエステル樹脂組成物であって、降温結晶化温度(Tc)から算出する結晶化ピークΔHが4J/g以上であり、JIS K 6251 1号に従って作製したダンベル片を用い、ASTM D638に従って引張速度5mm/分の条件で測定された引張弾性率が1000MPa以下である、ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物を含む、成形体。
【請求項3】
請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物を含む、フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、柔軟性、弾性回復性、強度、耐衝撃性等の優れた機械特性を有しているのに加えて、熱可塑性を有しており成形加工が容易に可能であることから、自動車部品、電気部品、成形品、フィルム及び繊維などに幅広く用いられている。
【0003】
バインダー繊維や接着剤等に用いられるポリエステル樹脂においては、低融点化が要望されている。このような用途には、一般に共重合ポリエステルが用いられており、例えば、特許文献1には、130℃付近の低融点域の結晶融点を示し、寸法安定性に優れたバインダー繊維に用いられる共重合ポリエステルが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-248218号公報
【特許文献2】特許第5169437号
【0005】
しかしながら、特許文献1の共重合ポリエステルは柔軟性や弾性に欠けるため、バインダー繊維や接着剤として用いた場合、接着点での強力が低く、接着強力に劣る場合があった。
【0006】
また、特許文献2に記載されたポリエステルは、機械物性に優れる反面、繊維に用いた場合、払い出し後のブロッキングや、紡糸後に密接する繊維同士が膠着する問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決するものであって、低融点にも関わらず結晶性に優れ、かつ柔軟性や弾性にも優れ、バインダー繊維、成形品に加工することが容易であり、各種の接着用途にも好適に使用することができるポリエステル樹脂組成物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記の課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)全ジカルボン酸成分中、テレフタル酸を50モル%以上、全グリコール成分中、1,4-ブタンジオールを20モル%以上含有し、全成分中、数平均分子量500~3000のポリテトラメチレングリコールを5~50質量%共重合したポリエステル樹脂と、結晶核剤を0.01~3質量%含有するポリエステル樹脂組成物であって、降温結晶化温度(Tc)から算出する結晶化ピークΔHが4J/g以上であり、JIS K 6251 1号に従って作製したダンベル片を用い、ASTM D638に従って引張速度5mm/分の条件で測定された引張弾性率が1000MPa以下である、ポリエステル樹脂組成物。
(2)(1)のポリエステル樹脂組成物を含む、成形体。
(3)(1)のポリエステル樹脂組成物を含む、フィルム。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、低融点にも関わらず結晶性に優れ、かつ柔軟性や弾性にも優れているため、成形材料として成形性に優れるものである。本発明のポリエステル樹脂組成物をバインダー繊維や接着剤として用いた場合、接着点での強力が高くなり、各種の接着用途に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステルのハードセグメントとポリアルキレングリコールのソフトセグメントから構成されるポリエステル樹脂を含有するものである。
【0011】
ハードセグメントは、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸を含有するものであり、グリコール成分として1,4-ブタンジオールを含有するものである。
【0012】
ポリエステル樹脂を構成するジカルボン酸成分としては、テレフタル酸(TPA)の含有割合が50モル%以上であり、中でも70モル%以上であることが好ましい。TPAが50モル%未満であると、ポリマーの結晶性が低下し、操業性に劣る。TPAの含有割合は、結晶性にいっそう優れることから、75~100モル%であることが好ましい。
【0013】
なお、TPA以外の共重合成分としては、その効果を損なわない範囲であれば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、1,3-シクロブタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、ダイマー酸などに例示される飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などに例示される不飽和脂肪族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体、フタル酸、イソフタル酸、5-(アルカリ金属)スルホイソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4、4’-ビフェニルジカルボン酸、などに例示される芳香族ジカルボン酸またはこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。
ジカルボン酸以外の多価カルボン酸として、ブタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、トリメシン酸、3,4,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、およびこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
【0014】
ヒドロキシカルボン酸としては、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、ヒドロキシ酢酸、3-ヒドロキシ酪酸、p-ヒドロキシ安息香酸、またはこれらのエステル形成性誘導体などが挙げられる。
多価カルボン酸もしくはヒドロキシカルボン酸のエステル形成性誘導体としては、これらのアルキルエステル、酸クロライド、酸無水物などが挙げられる。
【0015】
ポリエステル樹脂を構成するグリコール成分としては、1,4-ブタンジオール(以下、BDとする)の含有割合が20モル%以上であり、中でも30モル%以上であることが好ましい。BDの含有割合が20モル%未満であると、ポリマーの結晶性が低下し操業性に劣る。BDの含有割合の上限値は、99モル%であることが好ましい。
【0016】
なお、ジオール成分には、BD以外の他の共重合成分として、その特性を損なわない範囲で、エチレングリコール(以下、EGとする)、1,6-ヘキサンジオール(以下、HDとする)、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどに例示される脂肪族グリコール、ヒドロキノン、4,4’-ジヒドロキシビスフェノール、1,4-ビス(β-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ビスフェノールA、2,5-ナフタレンジオール、これらのグリコールにエチレンオキシドが付加したグリコールなどに例示される芳香族グリコールを用いることができる。
【0017】
グリコール以外の多価アルコールとして、トリメチロールメタン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、グリセロール、ヘキサントリオールなどが挙げられる。
環状エステルとしては、ε-カプロラクトン、β-プロピオラクトン、β-メチル-β-プロピオラクトン、δ-バレロラクトン、グリコリド、ラクチドなどが挙げられる。
【0018】
ソフトセグメントのポリテトラメチレングリコール(以下PTMG)の平均分子量が 500~3000であり、1000~2000が好ましい。平均分子量が500未満であると、十分な弾性特性が得られず、引張弾性率が高いものとなる。一方、3000を超えるものではハードセグメントを形成するポリエステルとの相溶性が悪くなり、均一な重合体が得られず、弾性特性も低下する。なお、引張弾性率の測定方法は、実施例において後述する。
【0019】
PTMGの含有割合は、ポリエステル樹脂中5~50質量%であり、中でも10~45質量%が好ましく、さらには20~40質量%であることがより好ましい。PTMGの含有割合が5質量%未満であると、十分な接着性や弾性特性が得られず、引張弾性率が本発明の範囲を超えて高いものとなる。一方、50質量%を超えると、一部ハードセグメントと共重合しきれずに分離し、ポリマーの溶融粘度が低くなり、ポリマー払い出し工程やその後の加工工程の操業性に劣るものとなる。
【0020】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、弾性や柔軟性に優れるため、JIS K 6251 1号に従って作製したダンベル片を用い、ASTM D638に従って引張速度5mm/分の条件で測定されたヤング率が1000MPa以下であり、600MPa以下であることが好ましく、500MPa以下であることがより好ましい。
【0021】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含有してもよい。ヒンダードフェノール系酸価防止剤を0.1~2.0質量%含有することが好ましく、中でも0.2~1.0質量%含有することが好ましい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の含有量が0.1質量%未満では、ポリエステル樹脂組成物の熱安定性が向上せず、長期経過すると、極限粘度の低下や成形後の色調悪化が起こりやすくなる。一方、含有量が2.0質量%を超えると、重縮合反応速度の低下やポリエステル樹脂組成物の色調、透明性が悪化しやすくなる。
【0022】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、4,4’-ブチリデンビス-(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕、3,9-ビス{2-〔3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕-1,1’-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が用いられるが、熱安定性の向上効果とコストの点で、テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンが好ましい。
【0023】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、リン系酸化防止剤を0.05~1.0質量%含有することが好ましく、中でも0.07~0.7質量%含有することがより好ましい。前記したヒンダードフェノール系酸化防止剤とともにリン系酸化防止剤を用いると、樹脂組成物の熱安定性をより向上させることができ好ましい。リン系酸化防止剤の含有量が樹脂組成物の0.05質量%未満であると、熱安定性の向上効果に乏しくなることがある。一方、含有量が1.0質量%を超えると、重縮合反応速度の低下やポリエステル樹脂組成物の着色の原因となりやすいので好ましくない。
【0024】
リン系酸化防止剤の例としては、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリラウリルトリチオホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスルトール-ジホスファイト、ビス(3-メチル-1,5-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジホスファイト、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ペンタエリスリトール-ジフェニルホスファイトなどのホスファイト系抗酸化剤とジエチル〔〔3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル〕メチル〕ホスフォネート、ビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)カルシウムなどのホスホン酸エステル系酸化防止剤が挙げられる。
本発明のポリエステル樹脂組成物において、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤とは、併用してもよい。
【0025】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、上記のような組成であることにより、良好な結晶性を有するものであるが、結晶核剤を含有することによって降温時の結晶化速度をいっそう向上させることができ、結晶性に顕著に優れる。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、結晶核剤を0.01~3.0質量%含有するものであり、中でも0.1~1.0質量%含有することが好ましい。ポリエステル樹脂組成物中の結晶核剤の含有量が0.01質量%未満であると、降温時の結晶化速度を向上させることができず、ポリエステル樹脂組成物のTcから算出するΔHが低くなる。一方、3.0質量%を超えると、結晶核剤の含有量が多くなりすぎ、重合性や加工性が悪化し、樹脂の製造および繊維にする際には、紡糸、延伸工程の操業性が悪化する。なおΔHの算出方法については後述する。
【0027】
結晶核剤としては、例えば、無機系微粒子やポリオレフィン樹脂からなる有機化合物、硫酸塩等を使用することができ、中でもポリオレフィン樹脂からなる有機化合物が好ましい。無機系微粒子としては、中でもタルクなどの珪素酸化物を主成分としたものが好ましく、平均粒径3.0μm以下もしくは比表面積15m2/g以上の無機系微粒子を用いることが好ましい。
【0028】
また、ポリオレフィン樹脂からなる有機化合物としては、反応系内で溶融するため、形状については特に限定するものではなく、例えば粒径2mm程度のチップ状のものや、粒径数μmのワックス状のものが挙げられる。
【0029】
ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、ポリメチルペンテン、ポリメチルブテンなどのオレフィン単独重合体、プロピレン・エチレンランダム共重合体などを挙げることができ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ-1-ブテン、プロピレン・エチレンランダム共重合体が特に好ましい。なお、ポリオレフィンが炭素原子数3以上のオレフィンから得られるポリオレフィンである場合には、アイソタクチック重合体であってもよく、シンジオタチック重合体であってもよい。また、ポリオレフィンは、どのような製造方法、触媒で得られたものであってもよい、たとえば、従来のチーグラー・ナッタ型触媒により得られたポリオレフィンだけでなく、メタロセン触媒により得られたポリオレフィンも好適に使用できる。このようなポリオレフィンは、単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0030】
硫酸塩としては、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウムなどを挙げることができ、中でも結晶核剤としての効果の点から、硫酸ナトリウムや硫酸マグネシウムが好ましい。
【0031】
本発明のポリエステル樹脂組成物のTcから算出するΔHは、4J/g以上であり、10J/g以上であることが好ましく、10J/g以上がより好ましく、20J/g以上がさらに好ましい。ΔHが4J/g未満であると、結晶性が低く、チップ化工程後の非結晶部が多くなり、熱安定性も悪くなるため、操業性や生産性が低下する。また、繊維化する際には延伸や熱処理工程における熱処理温度を高くすると、繊維の融解や膠着が生じる。
【0032】
また、本発明のポリエステル樹脂組成物は、極限粘度が0.5以上であることが好ましい。極限粘度が0.5未満のものでは、各種の物理的、機械的、化学的特性が劣るとともに、繊維とする際には紡糸性が損なわれるため好ましくない。一方、極限粘度が高すぎても溶融粘度が高くなるため、押出が困難になる。また繊維化する際には、溶融粘度を下げるべく紡糸温度を上げると、ポリエステルの熱分解が顕著になり紡糸が困難になることから、実用上1.5以下であることが好ましい。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂組成物中には、目的を損なわない範囲内で、コバルト化合物、蛍光増白剤、染料のような色調改良剤、二酸化チタンのような滑剤、艶消し剤、可塑剤、顔料、制電剤、難燃剤、易染化剤などの各種添加剤を、1種類または2種類以上添加してもよい。
【0034】
次に、本発明のポリエステル樹脂組成物の製造方法について、一例を用いて説明する。本発明におけるポリエステル樹脂組成物は、ジカルボン酸成分とジオール成分とポリアルキレングリコールとをエステル化反応またはエステル交換反応させ、重縮合反応を行うことにより製造することができる。
具体的には、重縮合反応は通常0.01~10hPa程度の減圧下、220~280℃の温度で所定の極限粘度のものが得られるまで行う。また、重縮合反応は、触媒存在下で行われるが、触媒としては従来一般に用いられているアンチモン、ゲルマニウム、スズ、チタン、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、ナトリウム、マンガンおよびコバルト等の金属化合物のほか、スルホサリチル酸、o-スルホ安息香酸無水物等の有機スルホン酸化合物を用いることができる。
【0035】
結晶核剤や、酸化防止剤等の任意の各種添加剤は、粉体またはジオールスラリー等の形態で、ポリエステルを製造する際の任意の段階で添加すればよい。例えば、エステル化またはエステル交換反応時に添加してもよいし、重縮合反応の段階で添加してもよい。
そして、重縮合反応においてポリエステルが所定の極限粘度に到達したら、ストランド状に払い出して、冷却、カットすることによりチップ化することができる。
【0036】
本発明のポリエステル樹脂組成物は様々な用途に適用可能であり、例えば繊維、成形体、フィルム、接着剤、樹脂溶液等に好適に用いることができる。
【0037】
成形体の場合は、例えば本発明のポリエステル樹脂組成物を含む原料を用いてプレス成形、押出成形、圧空成形、ブロー成形等の各種の成形方法を適用することにより製造することができる。これにより、容器をはじめ、各種の部品を提供することができる。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂組成物を含む繊維は、常法の溶融紡糸法により製造することができ、こうした紡糸法としては、例えば、紡糸、延伸を2ステップで行う方法、または1ステップで行う方法が挙げられる。さらに、本発明の繊維に対して捲縮を付与したり、熱セットを施したり、カット工程によるステープル(短繊維)としたりすることができる。繊維としては、異型断面糸、中空断面糸、複合繊維等であってもよいし、原着糸であってもよい。また、例えば、混繊、混紡、等の公知の糸加工手段を採用し、加工糸としてもよい。
【0039】
本発明の繊維としては、本発明のポリエステル樹脂組成物を一部に用いたものであってもよく、例えばバインダー繊維とする際、本発明のポリエステル樹脂組成物のみを用いた全融型のバインダー繊維のほか、本発明のポリエステル樹脂組成物を鞘部にのみ用いた芯鞘型のバインダー繊維であってもよい。また、サイドバイサイドで2成分を貼り合わせた複合繊維の一方にのみ、本発明のポリエステル樹脂組成物を用いたものであってもよい。なお、このような複合繊維とする際の他方の成分については、必要とされる繊維の特性や用途に応じて、適宜選択すればよい。
【0040】
本発明の繊維をバインダー繊維として用い、不織布とすることができる。不織布としては、乾式不織布であってもよいし、湿式不織布であってもよい。
【実施例0041】
次に、実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
実施例中の各種の特性値等の測定、評価方法は次の通りである。
【0042】
(a)極限粘度〔η〕
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒として、試料濃度0.5質量%、温度20℃の条件下で常法に基づき測定した。
【0043】
(b)融点、降温結晶化温度、ΔH
ポリエステル樹脂組成物の融点と降温結晶化温度、さらにDSCより求めた降温結晶化温度から算出するΔHは、パーキンエルマー社製示差走査型熱量計(Diamond DSC)を用いて、窒素気流中、温度範囲-50℃~280℃、昇温(降温)速度20℃/分、試料量8.5mgで測定した。
ΔHは、DSC曲線における降温結晶化を示すピークとベースラインの熱量差(mJ)を試料量(mg)で割った値とした。
【0044】
(c)ポリマー組成
得られたポリエステル樹脂組成物を重水素化トリフルオロ酢酸と重水素化クロロホルムとの容量比1/11の混合溶媒に溶解させ、日本電子社製ECZ―400R型NMR装置にて1H-NMRを測定し、得られたチャートの各共重合成分のプロトンのピークの積分強度から求めた。
【0045】
(d)引張弾性率
得られたポリエステル樹脂組成物を、JIS K 6251 1号に従って、住友重機械工業製SE180-EV成形機を使用し成形板を作成し、株式会社アマダワシノ製PUX45KRC打抜き機にてダンベル片を作成した。得られたダンベル片からASTM D638に従って、島津製作所製AG-2000A引張試験機を使用し、引張速度5mm/分で引張弾性率を測定した。
【0046】
(e)溶融粘度
島津製作所製フロテスターCFT500Aを使用し、乾燥したポリマーを用い、溶融時間3分、溶融温度 260℃で荷重を種々変えて測定し、シェアーレート1000sec-1の値を溶融粘度とした。
【0047】
(f)操業性
〔チップ化〕
ポリエステル樹脂組成物をAUTOMATIK社製USG-600型カッターでチップ化する際、フィードローラーまたはカッターブレードへのポリエステルの巻き付きやストランド間の融着により2つ以上のチップが融着したものの発生等により、カッターの運転を中断した場合を×、融着等の問題が生じ、時折中断するもののチップ化できた場合を△、融着等の問題は生じながらも、カッターの運転を中断することなくチップ化できた場合を○、融着による問題が生じることなくチップ化できた場合を◎とした。
【0048】
〔チップのブロッキング〕
チップの貯蔵・運搬および乾燥工程で、崩れないブロック状の塊や壁面への融着物が生じた場合を×、ブロック状の塊や壁面への付着物があり、ハンマー等で直接衝撃を加えるなどある程度の力により解消される場合を△、ブロック状の塊や壁面への付着物があるものの、手で触れたり、ハンマー等により壁面へ衝撃を加えることによりそれらが解消される程度である場合を○、ブロック状の塊や壁面への融着が全く発生しなかった場合を◎とした。
【0049】
実施例1
エステル化反応缶に、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を41kg、イソフタル酸(IPA)を10kg、1,4-ブタンジオール(BD)を11kg、平均分子量1000のポリテトラメチレングリコール(PTMG)を5kg、結晶核剤としてポリエチレン樹脂(PE)からなるチップを60g供給し、温度230℃、常圧の条件で反応し透明化させたエステル化反応物を得た。この反応物を重縮合反応缶に移送し、滑剤として二酸化チタンを0.4質量%含有するEG液1.0kg、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを4質量%含有するBD液0.8kgを重縮合反応缶に投入し、温度240℃にて反応器内の圧力を徐々に減じ、70分後に1.2hPa以下にした。この条件下で撹拌しながら重縮合反応を約8時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0050】
実施例2~4
樹脂組成物の組成が、表1に示すものとなるように種々変更した以外は、実施例1と同様にして重縮合反応を行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【表1】
なお表1中、PTMGの種類は以下のものを示す。
PTMG100;分子量100のポリテトラメチレングリコール
PTMG650;分子量650のポリテトラメチレングリコール
PTMG1000;分子量1000のポリテトラメチレングリコール
PTMG2000;分子量2000のポリテトラメチレングリコール
PTMG4000;分子量4000のポリテトラメチレングリコール
【0051】
実施例5
重縮合反応缶に、テレフタル酸(TPA)とエチレングリコール(EG)のスラリー(TPA/EGモル比=1/1.6)を温度250℃、圧力50hPaの条件で反応させ生成したエステル化反応率95%のエチレンテレフタレートオリゴマー(数平均重合度:5)を53.2kg、BDを12kg、平均分子量1000のPTMGを6kg、結晶核剤としてポリエチレン樹脂からなるチップを60g供給した。次いで、滑剤として二酸化チタンを0.4質量%含有するEG液1.0kg、重縮合触媒としてテトラブチルチタネートを4質量%含有するBD液0.9kgを重縮合反応缶に投入し、温度240℃にて反応器内の圧力を徐々に減じ、70分後に1.2hPa以下にした。この条件下で撹拌しながら重縮合反応を約8時間行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0052】
実施例6~8
樹脂組成物中の組成が、表1に示すものとなるように種々変更した以外は、実施例5と同様にして重縮合反応を行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0053】
実施例9~10
樹脂組成物中の結晶核剤(ポリエチレン樹脂からなるチップ)の含有量を表1に示すように種々変更した以外は、実施例4と同様にして重縮合反応を行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0054】
実施例11~12
樹脂組成物中のPTMGの平均分子量を表1に示すように種々変更した以外は、実施例4と同様にして重縮合反応を行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0055】
比較例1~2
樹脂組成物中の組成が、表1に示すものとなるように種々変更した以外は、実施例1と同様にして重縮合反応を行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0056】
比較例3
樹脂組成物中の結晶核剤(ポリエチレン樹脂からなるチップ)の含有量を表1に示すように種々変更した以外は、実施例4と同様にして重縮合反応を行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0057】
比較例4~5
樹脂組成物中のPTMGの平均分子量を表1に示すように種々変更した以外は、実施例4と同様にして重縮合反応を行い、常法によりストランド状に払出し、チップ化した。
【0058】
表1から明らかなように、実施例1~12のポリエステル樹脂組成物は、融点が低く、柔軟性や弾性、結晶性に優れており、操業性も良好であった。
比較例1のポリエステル樹脂組成物は、PTMGの含有量が低かったため、引張弾性率が高く、柔軟性、弾性に乏しいものであった。
比較例2のポリエステル樹脂組成物は、PTMGの含有量が高かったため、相溶性が悪く、ΔHが低くなり、十分な結晶性が得られず、操業性に劣るものであった。
比較例3のポリエステル樹脂組成物は、結晶核剤を含有していなかったため、ΔHが低くなり、操業性に劣るものであった。
比較例4のポリエステル樹脂組成物は、含有されるPTMGの平均分子量が低かったため、引張弾性率が高く、柔軟性、弾性に乏しいものであった。
比較例5のポリエステル樹脂組成物は、含有されるPTMGの平均分子量が高かったため、相溶性が悪く、ΔHが低くなり、十分な結晶性が得られず、操業性に劣るものであった。