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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082990
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】ヒートポンプ式蒸気生成装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/10 20060101AFI20240613BHJP
   F25B 1/00 20060101ALI20240613BHJP
   F25B 30/02 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
F25B1/10 S
F25B1/00 399Y
F25B30/02 Z
F25B1/00 321A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197253
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 時空
(72)【発明者】
【氏名】安嶋 賢哲
(72)【発明者】
【氏名】藤本 裕地
(57)【要約】
【課題】2段圧縮2段膨張サイクルの低段内部熱交換器の熱交換性能を高くして装置の小型化を図ることができるヒートポンプ式蒸気生成装置を提供する。
【解決手段】熱源水を用いて低圧冷媒を蒸発させる蒸発器6と、低段圧縮機1と、高段圧縮機2と、高圧冷媒を凝縮させ被加熱水を加熱して蒸発させる凝縮器3と、高段膨張弁4と、高段膨張弁4から導入された中間圧冷媒を気液分離する気液分離器7と、気液分離器7の気相側出口から導入された中間圧冷媒を低段圧縮機1の吐出口と高段圧縮機2の吸入口との間に導入する中間配管L10と、気液分離器7の液相側出口から導入された中間圧冷媒を過冷却する低段内部熱交換器8と、低段内部熱交換器8から導入された中間圧冷媒を減圧膨張して低圧にし、蒸発器6に導入する低段膨張機構5と、を備え、熱源水は、低段内部熱交換器8を経由して蒸発器6に導入される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱源水を用いて低圧冷媒を蒸発させる蒸発器と、
低圧冷媒を中間圧に圧縮する低段圧縮機と、
中間圧冷媒を高圧に圧縮する高段圧縮機と、
高圧冷媒を凝縮させ被加熱水を加熱して蒸発させる凝縮器と、
前記凝縮器によって凝縮された高圧冷媒を減圧膨張して前記中間圧にする高段膨張機構と、
前記高段膨張機構から導入された中間圧冷媒を気液分離する気液分離器と、
前記気液分離器の気相側出口から導入された中間圧冷媒を前記低段圧縮機の吐出口と前記高段圧縮機の吸入口との間に導入する中間配管と、
前記気液分離器の液相側出口から導入された中間圧冷媒を過冷却する低段内部熱交換器と、
前記低段内部熱交換器から導入された中間圧冷媒を減圧膨張して低圧にし、前記蒸発器に導入する低段膨張機構と、
を備え、
前記熱源水は、前記低段内部熱交換器を経由して前記蒸発器に導入されることを特徴とするヒートポンプ式蒸気生成装置。
【請求項2】
前記低段内部熱交換器を経由して前記熱源水を前記蒸発器に導入する第1経路と、
前記低段内部熱交換器をバイパスして前記熱源水を前記蒸発器に導入する第2経路と、
前記第1経路に設けられた第1開閉弁と、
前記第2経路に設けられた第2開閉弁と、
前記第1開閉弁および前記第2開閉弁を制御する制御部と、
を有し、
前記制御部は、起動制御開始時に前記第1開閉弁を閉制御するとともに前記第2開閉弁を開制御し、所定の内部熱交換開始条件が成立した場合、前記第1開閉弁を開制御するとともに前記第2開閉弁を閉制御することを特徴とする請求項1に記載のヒートポンプ式蒸気生成装置。
【請求項3】
前記内部熱交換開始条件は、起動時から閾値時間が経過する条件であることを特徴とする請求項2に記載のヒートポンプ式蒸気生成装置。
【請求項4】
前記内部熱交換開始条件は、前記低段内部熱交換器の温度が閾値温度以上という条件であることを特徴とする請求項2に記載のヒートポンプ式蒸気生成装置。
【請求項5】
前記内部熱交換開始条件は、前記低段内部熱交換器に導入される冷媒の温度が閾値温度以上という条件であることを特徴とする請求項2に記載のヒートポンプ式蒸気生成装置。
【請求項6】
前記内部熱交換開始条件は、前記低段圧縮機の吸入口の冷媒過熱度が閾値過熱度以上という条件であることを特徴とする請求項2に記載のヒートポンプ式蒸気生成装置。
【請求項7】
前記内部熱交換開始条件は、前記気液分離器の液相側出口温度から前記低段内部熱交換器の熱源水出口温度を引いた温度差分が閾値以上という条件であることを特徴とする請求項2に記載のヒートポンプ式蒸気生成装置。
【請求項8】
前記制御部は、停止指令を受信した場合、前記第1開閉弁および前記第2開閉弁を閉制御した状態で前記低段圧縮機および前記高段圧縮機を運転するポンプダウン運転を実施することを特徴とする請求項2に記載のヒートポンプ式蒸気生成装置。
【請求項9】
前記第1開閉弁および前記第2開閉弁は、運転停止中に閉であることを特徴とする請求項2に記載のヒートポンプ式蒸気生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2段圧縮2段膨張サイクルの低段内部熱交換器の熱交換性能を高くして装置の小型化を図ることができるヒートポンプ式蒸気生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒートポンプ式蒸気生成装置は、ヒートポンプ部と蒸気生成部とを備えている。ヒートポンプ部では圧縮機、凝縮器、膨張弁及び蒸発器を環状に接続した冷媒循環回路を形成し、蒸発器において外部熱源によって冷媒を蒸発させ、凝縮器において冷媒を凝縮させる。蒸気生成部では凝縮器に供給された被加熱水を冷媒によって加熱して蒸気を生成する。ここで、圧縮機および膨張弁をそれぞれ高段および低段の2段構成にした2段圧縮2段膨張サイクルを採用したヒートポンプ部における気液分離器の下流(低段側)に内部熱交換器を設けて熱効率を向上させるものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-46081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載されたヒートポンプ式蒸気生成装置の内部熱交換器は、気液分離器を出た液冷媒と蒸発器下流のガス冷媒とを熱交換させることにより過冷却度を増加させて熱効率の向上を図っているが、この内部熱交換器は、液冷媒とガス冷媒との熱交換となるため、熱交換性能が低く、装置が大型化し、コストも高くなる。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、2段圧縮2段膨張サイクルの低段内部熱交換器の熱交換性能を高くして装置の小型化を図ることができるヒートポンプ式蒸気生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかるヒートポンプ式蒸気生成装置は、熱源水を用いて低圧冷媒を蒸発させる蒸発器と、低圧冷媒を中間圧に圧縮する低段圧縮機と、中間圧冷媒を高圧に圧縮する高段圧縮機と、高圧冷媒を凝縮させ被加熱水を加熱して蒸発させる凝縮器と、前記凝縮器によって凝縮された高圧冷媒を減圧膨張して前記中間圧にする高段膨張機構と、前記高段膨張機構から導入された中間圧冷媒を気液分離する気液分離器と、前記気液分離器の気相側出口から導入された中間圧冷媒を前記低段圧縮機の吐出口と前記高段圧縮機の吸入口との間に導入する中間配管と、前記気液分離器の液相側出口から導入された中間圧冷媒を過冷却する低段内部熱交換器と、前記低段内部熱交換器から導入された中間圧冷媒を減圧膨張して低圧にし、前記蒸発器に導入する低段膨張機構と、を備え、前記熱源水は、前記低段内部熱交換器を経由して前記蒸発器に導入されることを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、上記の発明において、前記低段内部熱交換器を経由して前記熱源水を前記蒸発器に導入する第1経路と、前記低段内部熱交換器をバイパスして前記熱源水を前記蒸発器に導入する第2経路と、前記第1経路に設けられた第1開閉弁と、前記第2経路に設けられた第2開閉弁と、前記第1開閉弁および前記第2開閉弁を制御する制御部と、を有し、前記制御部は、起動制御開始時に前記第1開閉弁を閉制御するとともに前記第2開閉弁を開制御し、所定の内部熱交換開始条件が成立した場合、前記第1開閉弁を開制御するとともに前記第2開閉弁を閉制御することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、上記の発明において、前記内部熱交換開始条件は、起動時から閾値時間が経過する条件であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記の発明において、前記内部熱交換開始条件は、前記低段内部熱交換器の温度が閾値温度以上という条件であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記の発明において、前記内部熱交換開始条件は、前記低段内部熱交換器に導入される冷媒の温度が閾値温度以上という条件であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記の発明において、前記内部熱交換開始条件は、前記低段圧縮機の吸入口の冷媒過熱度が閾値過熱度以上という条件であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記の発明において、前記内部熱交換開始条件は、前記気液分離器の液相側出口温度から前記低段内部熱交換器の熱源水出口温度を引いた温度差分が閾値以上という条件であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記の発明において、前記制御部は、停止指令を受信した場合、前記第1開閉弁および前記第2開閉弁を閉制御した状態で前記低段圧縮機および前記高段圧縮機を運転するポンプダウン運転を実施することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の発明において、前記第1開閉弁および前記第2開閉弁は、運転停止中に閉であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、2段圧縮2段膨張サイクルの低段内部熱交換器が液冷媒と熱源水(液)との熱交換を行うようにしているため、熱交換性能が高く、装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、実施形態にかかるヒートポンプ式蒸気生成装置の回路図である。
図2図2は、ヒートポンプ部のp-h線図である。
図3図3は、第1の起動制御手順のフローチャートである。
図4図4は、第2の起動制御手順のフローチャートである。
図5図5は、第3の起動制御手順のフローチャートである。
図6図6は、第4の起動制御手順のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明にかかるヒートポンプ式蒸気生成装置の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の実施形態であるヒートポンプ式蒸気生成装置10の回路図である。図1に示すように、ヒートポンプ式蒸気生成装置10は、水を蒸発させて水蒸気を生成し、外部へと送り出す蒸気生成部12と、温水供給部14によって供給される排温水などの熱源水から熱を回収し、この熱を蒸気生成部12における蒸気生成のための熱源として供給するヒートポンプ部16と、システムの制御を行う制御部18とを備える。
【0019】
制御部18は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の処理装置にプログラムを実行させること、すなわち、ソフトウェアにより実現してもよいし、IC(Integrated Circuit)等のハードウェアにより実現してもよいし、ソフトウェア及びハードウェアを併用して実現してもよい。
【0020】
ヒートポンプ部16は冷媒が循環する回路であり、冷媒の循環する順に、蒸発器6と、低段圧縮機1と、高段圧縮機2と、凝縮器3と、高段膨張弁4と、気液分離器7と、低段膨張弁5とを有する。ヒートポンプ部16にはさらに低段内部熱交換器8が設けられている。低段内部熱交換器8の高温側流路は気液分離器7の液相側出口と低段膨張弁5の入口との間に介在して中圧冷媒が流れ、低段内部熱交換器8の低温側流路には熱源水が流れる。
【0021】
熱源水は、配管L1,L2を介して低段内部熱交換器8に導入され、中圧冷媒を過冷却する。過冷却された中圧冷媒は低段膨張弁5に導入される。低段内部熱交換器8を経由した熱源水は熱交換されて高温となり、配管L3を介して蒸発器6に導入され、低段膨張弁5によって減圧膨張された低圧冷媒を加熱して膨張させる。ここで、配管L1,L2,L3は第1経路である。第1経路上の分岐点PT1と合流点PT2との間には、低段内部熱交換器8をバイパスする配管L5が設けられる。配管L5は、第2経路である。分岐点PT1の下流の配管L2には第1開閉弁V1が設けられ、配管L5には第2開閉弁V2が設けられる。蒸発器6の高温側流路を経由した熱源水は、配管L4を介して排出される。
【0022】
第1開閉弁V1および第2開閉弁V2はそれぞれ電磁弁であって制御部18によって個別に開閉制御が行われる。起動時には第1開閉弁V1が閉、第2開閉弁V2が開となり、低段内部熱交換器8をバイパスして熱源水が蒸発器6に供給され、定常運転時には第1開閉弁V1が開、第2開閉弁V2が閉となり、低段内部熱交換器8を経由して熱源水が蒸発器6に供給されるが、さらに詳細な開閉制御については後述する。図1においては第1開閉弁V1および第2開閉弁V2と制御部18との間の信号線を破線で示し、それ以外の信号線は省略している。なお、図1のヒートポンプ部16は基本的な構成を示しており、回路中にさらに別の要素が設けられていてもよい。
【0023】
ヒートポンプ部16はさらに、気液分離器7の気相側出口から導出された中間圧冷媒RM1を低段圧縮機1と高段圧縮機2との接続配管に合流させる中間配管L10を有する。ヒートポンプ部16は2段圧縮2段膨張サイクルを形成し、気液分離器7および中間配管L10を境として図1における下半分が低段回路であり、上半分が高段回路である。
【0024】
蒸発器6は、温水供給部14の熱源水から吸熱して冷媒を蒸発させて低圧気相冷媒にする。なお、上記のように熱源水は、配管L1を介して、例えば他のシステムからの排温水が供給される。
【0025】
低段圧縮機1は低圧気相冷媒を圧縮して中圧気相冷媒にする。高段圧縮機2は中圧気相冷媒を圧縮して高圧気相冷媒にする。低段圧縮機1と高段圧縮機2は一体となった2段圧縮型としてもよく、例えば1軸型スクロール圧縮機が適用可能である。低段圧縮機1および高段圧縮機2は制御部18の作用下に図示しないインバータを介して回転数制御が行われる。凝縮器3は高圧気相冷媒を凝縮させて高圧液相冷媒とするとともに蒸気生成部12の被加熱水を加熱する。蒸気生成部12では、水道管や水タンクからの水を給水ポンプによって凝縮器3まで導入し、該凝縮器3で得られた蒸気は外部に供給し利用される。
【0026】
高段膨張弁4は高圧液相冷媒を減圧膨張させて中圧冷媒とする。気液分離器7は中圧冷媒を気液分離する。低段内部熱交換器8は、気液分離器7の液相側出口から導入された中圧冷媒を高温側流路に流すとともに、第1経路を介して熱源水を低温側流路に流して熱交換を行う。中圧冷媒が過冷却される一方、低圧冷媒が過熱されてヒートポンプ式蒸気生成装置10の熱効率が向上する。低段膨張弁5は、低段内部熱交換器8から導入された冷媒を減圧膨張させて低圧冷媒とし、蒸発器6に導入する。
【0027】
また、ヒートポンプ部16は、低段圧縮機1の吸入口側における圧力を計測する圧力計21と、温度を計測する温度計22とを有する。ヒートポンプ部16はさらに、温度計31~33を有する。温度計31は低段内部熱交換器8における高温側流路の入口側温度を計測するものである。温度計32は低段内部熱交換器8の本体温度を計測するものである。温度計33は低段内部熱交換器8における低温側流路の出口側温度(熱源水出口温度)を計測するものである。これらの各温度計および圧力計は検出信号を制御部18に供給する。これらの各温度計および圧力計は他の検出手段で代用してもよい。
【0028】
図2は、ヒートポンプ式蒸気生成装置10におけるヒートポンプ部16の定常運転時のP-H線図である。定常運転時では上記の第1開閉弁V1が開、第2開閉弁V2が閉とする。高段圧縮機2で冷媒循環量GHの高圧冷媒RHを生成して凝縮器3に導入するのは点P2から点P3に相当する。高圧冷媒RHが凝縮器3によって放熱凝縮されて冷却されるのは点P3から点P4に相当する。高圧冷媒RHが高段膨張弁4で減圧膨張されて中間圧冷媒RMとなるのは点P4から点P5に相当する。気液分離器7に導入された中間圧冷媒RMのうち気相で冷媒循環量GMの中間圧冷媒RM1は、中間配管L10を介して高段圧縮機2に導入される。これは点P5から点P2に相当する。
【0029】
低段内部熱交換器8が、中間圧冷媒RMのうちの液相で冷媒循環量GLの中間圧冷媒RM2を過冷却するのは点P6とP7の変化分に相当する。低段内部熱交換器34により過冷却された中間圧冷媒RM2は中間圧冷媒RM3となる。中間圧冷媒RM3が低段膨張弁5により減圧膨張されて低圧冷媒RL1となるのは点P7から点P8に相当する。蒸発器6が、外部からの熱源水によって低圧冷媒RL1を加熱して蒸発させた低圧冷媒RL2を生成するのは点P8から右方向に延在する等圧線に相当し、点P1よりもやや左の箇所(点P6と点P7との幅だけ左の箇所)まで達し、さらに、低圧冷媒RL1が蒸発器6で過熱されて低圧冷媒RL2となって低段圧縮機1に導入される。低圧冷媒RL2が低段圧縮機1に導入されるのは点P1に相当する。低段圧縮機1に導入された低圧冷媒RL2を中間圧まで圧縮するのは点P1から点P2に相当する。高段圧縮機2が、低段圧縮機1で圧縮された冷媒循環量GLの中間圧冷媒と中間配管L10を介して導入される冷媒循環量GMの中間圧冷媒RM1とを圧縮して、冷媒循環量GHの高圧冷媒RHを導出するのは点P2から点P3に相当する。
【0030】
ヒートポンプ式蒸気生成装置10では、低段内部熱交換器8による中間圧冷媒RM2の過冷却により、中間圧冷媒RM2から熱を吸収した熱源水が加熱され、この加熱された熱源水を用いた蒸発器6が低圧冷媒RL1を加熱して、より高温の低圧冷媒RL2となるため、低段圧縮機1に吸入される冷媒の状態を「低」の等温線LT1上から「高」の等温線LT2上に遷移することができる。つまり、低圧冷媒RL2は点P8´から点P1に遷移してより高温の低圧冷媒となり、低段内部熱交換器8を用いない場合より高圧力条件下においても一定の過熱度を確保することができる。この結果、低圧冷媒RL2の圧縮比を低減し、低段圧縮機1の圧縮駆動力を低減することができる。
【0031】
本実施の形態では、低段内部熱交換器8が、気液分離器7の出口冷媒である中間圧冷媒RM2と、蒸発器6の入口側の熱源水とを熱交換させて中間圧冷媒RM2を過冷却し、蒸発器6が低段内部熱交換器8により過熱された熱源水を用いて低圧冷媒RL1を過熱するようにしている。低段内部熱交換器8は、液(中間圧冷媒RM2)と液(熱源水)との熱交換であるため、特許文献1に記載された液(中間圧冷媒)とガス(低圧冷媒)との熱交換に比べて熱交換性能が向上し、低段内部熱交換器8を小型化することが可能となるともに低コスト化が可能になる。
【0032】
また、後述するように、低段内部熱交換器8を用いる場合における起動時の液バック現象を防止するため、起動時などに低段内部熱交換器8をバイパスさせる制御を行うが、このバイパスに用いる第2開閉弁V2は、特許文献1と異なり、通常の水配管用の弁が使用可能であるため、安価となる。
【0033】
なお、低段内部熱交換器8は、気液分離器7から導出される中間圧冷媒RM2を熱源水により過冷却し、加熱された熱源水を蒸発器6の過熱に用いている。この結果、蒸発器6における低圧冷媒RL1と低圧冷媒RL2との比エンタルピ差Δhが大きくなる。比エンタルピ差Δhが大きくなることで、低段側を流通する冷媒循環量GLを低減することができる。このため、低段圧縮機1の圧縮機動力をさらに低減することができる。
【0034】
ところで、ヒートポンプ式蒸気生成装置10の起動時にはヒートポンプ部16の冷媒温度は低くなっていることがあり、低段内部熱交換器8の高温側流路に流れる中間圧冷媒RM2も比較的低温になっていることがあり得る。また低段内部熱交換器8自体も低温になっていることがある。そのため、低段内部熱交換器8の低温側流路に熱源水を流すと、熱源水が加熱されるのではなく、むしろ冷却されてしまい、状態によっては蒸発器6による過熱が十分ではなく、液バック現象が発生することが考えられる。
【0035】
このため、ヒートポンプ式蒸気生成装置10では、低段内部熱交換器8への熱源水供給をバイパスする第2経路である配管L5と、第1開閉弁V1及び第2開閉弁V2とが設けられる。そして、熱源水が低段内部熱交換器8を経由する第1経路の第1開閉弁V1と、熱源水が低段内部熱交換器8をバイパスする第2経路の第2開閉弁V2とを開閉制御して第1経路と第2経路との切替を行う。したがって、低段内部熱交換器8の高温側流路を流れる中間圧冷媒RM2が比較的低温になっていると想定される場合、熱源水は低段内部熱交換器8をバイパスし、低圧冷媒RL2の液化および低段圧縮機1における液圧縮を防止することができる。
【0036】
次に、制御部18によるヒートポンプ式蒸気生成装置10の起動制御手順について図3図6を参照しながら説明する。以下の各起動制御手順では、基本的に制御部18が起動制御開始時に第1開閉弁V1を閉制御するとともに第2開閉弁V2を開制御し、所定の内部熱交換開始条件が成立した場合、第1開閉弁V1を開制御するとともに第2開閉弁V2を閉制御する。そして各起動制御手順によって内部熱交換開始条件が異なっている。
【0037】
図3は、第1の起動制御手順のフローチャートである。まず、起動スイッチオンまたはその他の起動トリガによりヒートポンプ式蒸気生成装置10の運転が開始されると、まずステップS1において、第1開閉弁V1を閉として第1経路を閉鎖するとともに、第2開閉弁V2を開として第2経路を連通させる。
【0038】
ステップS2において、低段圧縮機1および高段圧縮機2を起動し冷媒をヒートポンプ部16内で循環させる。このとき、低段内部熱交換器8および中間圧冷媒RM2は比較的低温になっていることがあり得るが、ステップS1の処理により第1経路は閉鎖されており、蒸発器6で蒸発した低圧冷媒RL2は低段圧縮機1に吸入される。つまり、低段内部熱交換器8の低温側流路はバイパスされるため、低圧冷媒RL1が蒸発器6の過熱不足で液化されることがなく、低段圧縮機1における液圧縮を防止することができる。低段圧縮機1および高段圧縮機2が起動されると、運転にともなってヒートポンプ部16内を循環する冷媒は次第に温度が上昇し、低段内部熱交換器8の温度も上昇する。
【0039】
ステップS3において内部熱交換開始条件の成立判断をする。この場合、低段圧縮機1
および高段圧縮機2の起動から所定の閾値時間が経過したか否かを判断する。起動からの経過時間が閾値時間未満である間は待機し(ステップS3:No)、閾値時間以上であればステップS4へ移る(ステップS3:Yes)。この閾値時間はヒートポンプ部16の運転にともなって中間圧冷媒RM2および低段内部熱交換器8が十分に上昇して、蒸発器6おける熱源水との熱交換が適切になされるようになる時間として設定されている。この閾値時間は気温などによって補正してもよい。
【0040】
ステップS4において、第1開閉弁V1を開として第1経路を連通させ、その後ステップS5において、第2開閉弁V2を閉として第2経路を閉鎖する。これにより、低段内部熱交換器8の低温側流路に熱源水が流れ込み、高温側流路の中間圧冷媒RM2との間で適切な熱交換が行われ、中間圧冷媒RM2が過冷却されるとともに、熱源水が加熱される。
【0041】
これにより第1の起動制御手順は終了し定常運転となる。この第1の起動制御手順では、起動からの経過時間に基づいて第1開閉弁V1および第2開閉弁V2の開閉制御を行っていることから、各部の温度および圧力の判断が不要で簡易な手順となっている。
【0042】
図4は、第2の起動制御手順のフローチャートである。図4におけるステップS11,S12,S14,S15は上記のステップS1,S2,S4,S5と同じであり、内部熱交換開始条件の成立判断処理のステップS13だけが上記のステップS3と異なる。
【0043】
ステップS13においては、温度計32により計測された低段内部熱交換器8の温度が所定の閾値温度以上であるか否かを判断する。低段内部熱交換器8の温度が閾値温度未満である間は待機し(ステップS13:No)、閾値温度以上であればステップS14へ移る(ステップS13:Yes)。この閾値温度は、低段内部熱交換器8において中間圧冷媒RM2と熱源水との熱交換が適切になされるようになる温度として設定されている。
【0044】
この第2の起動制御手順のステップS13では、低段内部熱交換器8の温度に基づいて第1開閉弁V1および第2開閉弁V2の開閉制御を行うことから、低段内部熱交換器8が熱交換を行うのに適切な温度となったことを直接的に検知することができ、時間的に過不足ないタイミングでステップS14に移行することができる。なお、この第2の起動制御手順では、温度計32により計測される低段内部熱交換器8の温度に代えて、温度計31により計測される中間圧冷媒RM2の温度に基づいてステップS13の判断処理を行ってもよいし、温度計22により計測される低圧冷媒RL2の温度に基づいてステップS13の判断処理を行ってもよい。
【0045】
図5は、第3の起動制御手順のフローチャートである。図5におけるステップS21,S22,S24,S25は上記のステップS1,S2,S4,S5と同じであり、内部熱交換開始条件の成立判断処理のステップS23だけが上記のステップS3と異なる。
【0046】
ステップS23においては、圧力計21により計測された圧力と、温度計22により計測された温度とから、低段圧縮機1の吸入口における低圧冷媒RL2の過熱度を求め、該過熱度が所定の閾値過熱度以上であるか否かを判断する。過熱度が閾値過熱度未満である間は待機し(ステップS23:No)、閾値過熱度以上であればステップS24へ移る(ステップS23:Yes)。この閾値過熱度は、低圧冷媒RL1が所定温度にまで上昇していると想定される値に設定されている。
【0047】
この第3の起動制御手順のステップS23では、低段圧縮機1の吸入口の過熱度が適度に大きくなっていることから、低圧冷媒RL1の温度についてもある程度上昇していることが想定され、蒸発器6による冷媒の液化が防止できる。また、圧力計21および温度計22は、ヒートポンプ部16全体の熱出力を算出するなどの用途にも兼用して用いることができ、合理的である。
【0048】
図6は、第4の起動制御手順のフローチャートである。図6におけるステップS31,S32,S34,S35は上記のステップS1,S2,S4,S5と同じであり、内部熱交換開始条件の成立判断処理のステップS33だけが上記のステップS3と異なる。
【0049】
ステップS33においては、気液分離器30の液相側出口温度(換言すれば、中間圧冷媒RM2の温度または低段内部熱交換器8の高温側流路の入口温度)と低段内部熱交換器8の熱源水出口温度(換言すれば、低段内部熱交換器8の熱源水の温度または低段内部熱交換器8の低温側流路の出口温度)とを比較する。気液分離器7の液相側出口温度は温度計31により計測され、低段内部熱交換器8の熱源水出口温度は温度計33により計測される。そして、気液分離器7の液相側出口温度が低段内部熱交換器8の熱源水出口温度以上であるか否かを判断する。前者温度が後者温度未満である間は待機し(ステップS33:No)、前者温度が後者温度以上であればステップS34へ移る(ステップS33:Yes)。なお、気液分離器7の液相側出口温度から低段内部熱交換器8の熱源水出口温度を引いた温度差分を監視し、この温度差分が閾値温度差以上であるかを監視してもよい。上述の制御は閾値温度差をゼロと設定した場合の挙動と等しい。
【0050】
この第4の起動制御手順のステップS33では、気液分離器7の液相側出口温度が低段内部熱交換器8の熱源水出口温度以上であることが確認されることから、低段内部熱交換器8において高温側流路の方が低温側流路よりも高温であることが担保され、蒸発器6で低圧冷媒RL2が液化されることを防止できる。
【0051】
なお、上記のステップS3,S13,S23,S33の内部熱交換開始条件の成立判断処理において、条件によっては、中間圧冷媒RM2および低段内部熱交換器8がやや低温であっても、低圧冷媒RL2が液化しなければ次のステップS4,S14,S24,S34に移るように各閾値を設定してもよい。
【0052】
ステップS3,S13,S23,S33の条件判断の成立後、次のステップS4,S14,S24,S34に移るまでに余裕をみて多少の待ち時間を設けてもよい。ステップS3,S13,S23,S33の判断処理はこのうち2以上をAND条件またはOR条件で組み合わせてもよい。
【0053】
また、通常運転中に何らかの理由により中間圧冷媒RM2や低段内部熱交換器34の温度が下がりまたは低段圧縮機22の吸入口の過熱度が低下した場合などには、一旦第1開閉弁V1を閉、第2開閉弁V2を開とした状態で運転を続行し、その後に上記の起動制御手順を再実行してもよい。制御部18は、停止指令を受信してヒートポンプ式蒸気生成装置10の運転を停止させる時には、低段圧縮機1および高段圧縮機2を停止させた後に第1開閉弁V1および第2開閉弁V2の両方を閉にしておくとよい。第1開閉弁V1および第2開閉弁V2を運転停止中に閉としておくには、例えば制御部18の制御によらずそれぞれノーマルクローズ型としておけばよい。
【0054】
また、運転を停止させる時に第1開閉弁V1および第2開閉弁V2の両方を閉にした状態で低段圧縮機1および高段圧縮機2を運転させるポンプダウン運転を実施した後に低段圧縮機1および高段圧縮機2を停止してもよい。これにより、停止前に蒸発器6側の冷媒が排出され、再起動時の液圧縮を防止することができる。
【0055】
また、第1開閉弁V1は低段内部熱交換器8に流入する熱源水を制御できればよく、第1経路内であれば低段内部熱交換器8の下流側に設けてもよい。
【0056】
本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で自由に変更できることは勿論である。
【符号の説明】
【0057】
1 低段圧縮機
2 高段圧縮機
3 凝縮器
4 高段膨張弁(高段膨張機構)
5 低段膨張弁(低段膨張機構)
6 蒸発器
7 気液分離器
8 低段内部熱交換器
10 ヒートポンプ式蒸気生成装置
12 蒸気生成部
14 温水供給部
16 ヒートポンプ部
18 制御部
21 圧力計
22,31~33 温度計
L1~L5 配管
L10 中間配管
PT1 分岐点
PT2 合流点
RH 高圧冷媒
RL1,RL2 低圧冷媒
RM,RM1,RM2,RM3 中間圧冷媒
V1 第1開閉弁
V2 第2開閉弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6