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特開2024-82996位置判定装置、位置判定システム、無線通信モジュール、コンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024082996
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】位置判定装置、位置判定システム、無線通信モジュール、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 5/02 20100101AFI20240613BHJP
   G01S 5/14 20060101ALI20240613BHJP
   G01S 13/82 20060101ALI20240613BHJP
   G01S 13/76 20060101ALI20240613BHJP
   H04W 52/02 20090101ALI20240613BHJP
   H04W 4/40 20180101ALI20240613BHJP
   H04W 64/00 20090101ALI20240613BHJP
【FI】
G01S5/02 Z
G01S5/02 A
G01S5/14
G01S13/82
G01S13/76
H04W52/02
H04W4/40
H04W64/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197267
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【弁理士】
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】角谷 祐次
(72)【発明者】
【氏名】森藤 進吾
(72)【発明者】
【氏名】才木 崇史
(72)【発明者】
【氏名】中野 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 慶
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 恒平
(72)【発明者】
【氏名】岡部 信康
(72)【発明者】
【氏名】中倉 洋平
【テーマコード(参考)】
5J062
5J070
5K067
【Fターム(参考)】
5J062BB05
5J062CC11
5J062FF01
5J062HH00
5J070AC01
5J070AC02
5J070AE09
5J070AF03
5J070AH31
5J070AH34
5J070BC05
5J070BD10
5K067AA43
5K067EE02
5K067EE10
5K067JJ51
(57)【要約】
【課題】待機中の消費電力を低減可能な位置判定装置、位置判定システム、無線通信モジュール、コンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】位置判定装置としてのDK-ECUは、メインコントローラ11とBLEモジュール12とを含む。車両が駐車されたことに基づいてメインコントローラ11は節電モード(電源オフ/スリープ)になる。一方、BLEモジュール12は駐車中も携帯デバイス9と通信接続可能な状態を維持する。BLEモジュール12は携帯デバイス9と通信接続すると、CS測距処理を定期実行する。CS測距処理は、携帯デバイス9とそれぞれ異なる周波数の連続波信号を順に送受信することで取得される周波数ごとの受信位相データをもとに距離を算出する処理である。BLEモジュール12はCS測距処理で算出された第1距離が所定値未満である場合に、メインコントローラ11を起動させる。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に対する携帯デバイスの位置を判定する位置判定装置であって、
前記携帯デバイスとBluetooth(登録商標)に準拠した無線通信を実施する第1通信部(12)と、
前記携帯デバイスの位置判定にかかる処理を実施するコンピュータ(11)と、を備え、
前記コンピュータは通常モードと節電モードとを、状態として備え、
前記第1通信部は前記コンピュータが前記節電モードである間も前記携帯デバイスと通信可能な状態を維持するように設定されており、
前記第1通信部は、前記携帯デバイスから送信された無線信号の受信位相、飛行時間、又は到着時間にかかるデータを用いて前記第1通信部から前記携帯デバイスまでの距離である第1距離を算出する第1測距処理を実行し、
前記第1通信部は、前記第1測距処理の結果として得られた前記第1距離と所定値とを比較し、当該比較結果に基づいて、前記コンピュータを前記節電モードから前記通常モードに移行させる位置判定装置。
【請求項2】
前記車両に配置された、前記携帯デバイスと無線通信可能な第2通信部(2)と接続されて使用される請求項1に記載の位置判定装置であって、
前記コンピュータは、
前記節電モードから前記通常モードに復帰したことに基づいて前記第2通信部を起動させることと、
前記第2通信部に、前記携帯デバイスから送信された無線信号の受信位相、飛行時間、又は到着時間にかかるデータを用いて前記第2通信部から前記携帯デバイスまでの距離である第2距離を算出するための第2測距処理を実施させることと、
前記第2測距処理の結果に基づいて定まる前記第2距離に基づいて前記携帯デバイスの位置を判定することと、を実施する位置判定装置。
【請求項3】
前記第2通信部は、超広帯域(UWB)通信を実施する通信モジュールであって、
前記第2測距処理は、前記携帯デバイスとUWB通信で使用されるインパルス信号を送受信することで前記無線信号の飛行時間を計測することと、計測された前記飛行時間をもとに前記第2距離を算出することと、を含む処理であって、
前記第2通信部は、前記コンピュータの指示に基づき、前記第2測距処理を実施する、請求項2に記載の位置判定装置。
【請求項4】
前記コンピュータは、
前記通常モードに移行後も前記第1通信部に前記第1測距処理を実施させ、
前記第1距離と前記第2距離とに基づいて前記携帯デバイスの位置を判定する、請求項2又は3に記載の位置判定装置。
【請求項5】
複数の前記第2通信部と接続されて使用される、請求項2に記載の位置判定装置であって、
前記コンピュータは、
複数の前記第2通信部のそれぞれから前記第2距離を取得することと、
前記第2通信部ごとの前記第2距離をもとに前記携帯デバイスの位置を判定することと、
判定された前記携帯デバイスの位置に応じて複数の前記第2通信部のうちの一部の動作を停止させることと、を実施する位置判定装置。
【請求項6】
複数の前記第2通信部は、前記車両の右側に配置されている右側通信部(2B)と、左側に配置されている左側通信部(2C)と、を含み、
前記コンピュータは、
前記携帯デバイスの位置が前記車両の右側と判定している場合には前記左側通信部の動作を停止させるとともに、
前記携帯デバイスの位置が前記車両の左側と判定している場合には前記右側通信部の動作を停止させる、請求項5に記載の位置判定装置。
【請求項7】
前記第1通信部は、
前記携帯デバイスからの信号を第1間隔で周期的に受信するとともに、その受信した信号の受信強度を取得し、
前記受信強度の観測値が所定の強度閾値以上である場合に前記第1測距処理を実行する、請求項1に記載の位置判定装置。
【請求項8】
前記第1通信部は、前記受信強度の観測値と所定の閾値とを比較し、当該比較結果に基づき、第2間隔で前記第1測距処理を周期的に実行するものであって、
前記第2間隔は、前記第1間隔よりも長く設定されている、請求項7に記載の位置判定装置。
【請求項9】
前記第1通信部は、
前記コンピュータが前記節電モードであって且つ前記携帯デバイスとの通信接続を確立していない場合、前記携帯デバイスと通信接続するための信号の送信又はスキャンを間欠的に実行し、
前記携帯デバイスとの通信接続を確立したことに基づいて定期的なデータ信号の受信又は送信を開始する、請求項7に記載の位置判定装置。
【請求項10】
前記第1通信部は、
前記受信強度の観測値をメモリに保存し、
一定時間以内における前記受信強度のばらつき度合いが所定値未満であることを条件として、前記第1測距処理を実施する、請求項7に記載の位置判定装置。
【請求項11】
前記コンピュータは、前記第2通信部を起動させたことに基づいて、前記第1通信部による前記第1測距処理を停止させる、請求項2に記載の位置判定装置。
【請求項12】
携帯デバイスとBluetooth(登録商標)に準拠した無線通信を実施する第1通信部(12)と、
前記携帯デバイスの位置判定にかかる処理を実施するコンピュータ(11)と、を備える位置判定システムであって、
前記コンピュータは通常モードと節電モードとを状態として有し、
前記第1通信部は、前記コンピュータが前記節電モードである場合に、前記携帯デバイスから送信された無線信号の受信位相、飛行時間、又は到着時間を用いて前記第1通信部から前記携帯デバイスまでの距離である第1距離を算出する第1測距処理を実行し、
前記第1通信部は、前記第1測距処理の結果として得られた前記第1距離と所定値とを比較し、当該比較結果に基づいて、前記コンピュータを節電モードから通常モードに復帰させる位置判定システム。
【請求項13】
両のそれぞれ異なる位置に配置された、前記携帯デバイスと無線通信可能な複数の第2通信部(2)をさらに含む、請求項12に記載の位置判定システムであって、
前記コンピュータは、
前記節電モードから前記通常モードに復帰したことに基づいて前記第2通信部を起動させることと、
前記第2通信部に向けて、前記携帯デバイスから送信された無線信号の受信位相、飛行時間、又は到着時間にかかるデータを用いて、前記第2通信部から前記携帯デバイスまでの距離である第2距離を算出するための第2測距処理を実施するように指示することと、を実行し、
前記第2通信部は、
前記コンピュータからの指示に基づき、前記第2測距処理を実施することと、
前記第2測距処理の結果に基づいて定まる前記第2距離に基づいて、前記携帯デバイスが存在する位置を示す位置関連データを生成することと、
生成した前記位置関連データを前記コンピュータに送信することと、を実行し、
前記コンピュータは、複数の前記第2通信部から受信する前記位置関連データを統合することによって前記携帯デバイスの位置を判定する、位置判定システム。
【請求項14】
携帯デバイスとBluetooth(登録商標)に準拠した無線通信を実施する無線通信モジュールであって、
前記携帯デバイスと通信するためのアンテナ(121)と、
前記アンテナで受信した信号をもとに、前記携帯デバイスから送信された無線信号の受信位相、飛行時間、又は到着時間にかかるデータを取得する通信コントローラ(123)と、を備え、
前記通信コントローラは、
車両に搭載されたバッテリからの電力に基づいて、前記車両が駐車されている間も前記携帯デバイスと通信可能な状態を維持することと、
前記車両が駐車されている場合には、前記無線信号の前記受信位相、前記飛行時間、又は前記到着時間にかかるデータを用いて自分自身から前記携帯デバイスまでの距離である第1距離を算出する第1測距処理を実行することと、
前記第1測距処理の結果として得られた前記第1距離と所定値とを比較し、当該比較結果に基づいて、前記車両に搭載されている所定の対象装置を節電モードから通常モードに移行させるための信号を出力することと、を実施する無線通信モジュール。
【請求項15】
Bluetooth(登録商標)に準拠した無線通信を実施するためのBluetooth通信部(93)と、超広帯域(UWB)通信を実施するためのUWB通信部(94)とを備える携帯デバイス(9)が備えるプロセッサ(901)に、
事前に紐付けられている車両から発せられた信号を受信することに基づいて前記車両とBluetoothによる通信接続を確立することと、
前記車両からBluetooth通信による測距処理である第1測距処理の開始リクエストを受信したことに基づいて前記測距処理のための信号を返送することと、
前記測距処理のための信号を返送した後に、それぞれ異なる周波数の連続波信号を順に送信することと、
前記車両からUWB通信による測距処理である第2測距処理の開始リクエストを受信した場合には、前記UWB通信部を起動させることと、
前記車両から測距のためのUWB信号を受信した場合には、所定パターンのUWB信号を返送することと、を実行させるための命令を含むコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、携帯デバイスと無線通信することで車両に対する携帯デバイスの位置を判定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、1台の親機と複数台の子機を含む車載システムにおいて、親機が携帯デバイスから発せられた信号の受信強度を基に携帯デバイスが車両周辺に存在することを検知し、子機を起動させる構成が開示されている。ここでの親機及び子機は、携帯端末と無線通信を実施する通信機である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-171401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示の構成によれば、親機としての通信モジュールが携帯デバイスを検知するまでは、子機に相当する通信モジュールは起動されず、停止状態が維持される。そのため、待機中(例えば駐車中)の消費電力を抑制する効果が期待できる。本開示の開発者らは、上記の構成をもとに、子機に限らず、携帯デバイスからの信号の受信強度が所定値以上となったことに基づいて所定の装置である対象装置を節電モードから通常モードに復帰(つまり起動)させる構成についても検討を進めた。
【0005】
しかしながら、開発者らは、親機としてBluetooth(登録商標) Low Energy(以降、BLEとも記載)に準拠した通信を行う通信モジュールを採用した構成の作動を検証したところ、次の問題を発見した。すなわち、上記の構成では、携帯デバイスが車両から10m以上離れている場合であっても、親機が携帯デバイスを検知し、対象装置を起動させてしまうといった問題を発見した。この理由は、BLEで使用される電波は1GHz以上の周波数であるため、直進性が強く、また、マルチパス等によって受信強度にばらつきが生じやすいためと考えられる。
【0006】
このように携帯デバイスからの信号の受信強度が所定値以上となったことを条件として対象装置を起動させる構成では、実際には車両の近くに存在しないにも関わらず、不必要に対象装置を起動させてしまうおそれがある。また、対象装置の不必要な起動は、待機中の消費電力の増大につながる。なお、対象装置は、コンピュータや通信モジュール、回路モジュールなど、多様な装置/モジュールであって良い。
【0007】
本開示は、上記の検討又は着眼点に基づいて成されたものであり、その目的の1つは、待機中の消費電力を低減可能な位置判定装置、位置判定システム、無線通信モジュール、コンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示される位置判定装置は、車両に対する携帯デバイスの位置を判定する位置判定装置であって、携帯デバイスとBluetooth(登録商標)に準拠した無線通信を実施する第1通信部(12)と、携帯デバイスの位置判定にかかる処理を実施するコンピュータ(11)と、を備え、コンピュータは通常モードと節電モードとを、状態として備え、第1通信部はコンピュータが節電モードである間も携帯デバイスと通信可能な状態を維持するように設定されており、第1通信部は、携帯デバイスから送信された無線信号の受信位相、飛行時間、又は到着時間にかかるデータを用いて第1通信部から携帯デバイスまでの距離である第1距離を算出する第1測距処理を実行し、第1通信部は、第1測距処理の結果として得られた第1距離と所定値とを比較し、当該比較結果に基づいて、コンピュータを節電モードから通常モードに移行させる。
【0009】
上記構成では、コンピュータを通常モードに復帰させる条件として、携帯デバイスから送信された無線信号の受信位相又は到着時間といった、信号の伝搬時間に対応するパラメータに基づいて定まる第1距離が所定値未満となったことが採用されている。このような第1距離は、受信強度に比べて、通信環境による測距誤差が小さくなる。よって、上記構成によれば、車両から携帯デバイスが離れている場合など、コンピュータを起動させる必要がない場合に、コンピュータを起動させてしまうおそれを低減できる。それに伴い、待機中の消費電力も低減可能となる。
【0010】
本開示に含まれる位置判定システムは、携帯デバイスとBluetooth(登録商標)に準拠した無線通信を実施する第1通信部(12)と、携帯デバイスの位置判定にかかる処理を実施するコンピュータ(11)と、を備える位置判定システムであって、コンピュータは通常モードと節電モードとを状態として有し、第1通信部は、コンピュータが節電モードである場合に、携帯デバイスから送信された無線信号の受信位相、飛行時間、又は到着時間を用いて第1通信部から携帯デバイスまでの距離である第1距離を算出する第1測距処理を実行し、第1通信部は、第1測距処理の結果として得られた第1距離と所定値とを比較し、当該比較結果に基づいて、コンピュータを節電モードから通常モードに復帰させる。
【0011】
上記の位置判定システムもまた、上述した位置判定装置と同様の構成を有する。よって、上記システムによっても待機中の消費電力も低減可能となる。
【0012】
本開示に含まれる無線通信モジュールは、携帯デバイスとBluetooth(登録商標)に準拠した無線通信を実施する無線通信モジュールであって、携帯デバイスと通信するためのアンテナ(121)と、アンテナで受信した信号をもとに、携帯デバイスから送信された無線信号の受信位相、飛行時間、又は到着時間にかかるデータを取得する通信コントローラ(123)と、を備え、通信コントローラは、車両に搭載されたバッテリからの電力に基づいて、車両が駐車されている間も携帯デバイスと通信可能な状態を維持することと、車両が駐車されている場合には、無線信号の受信位相、飛行時間、又は到着時間にかかるデータを用いて自分自身から携帯デバイスまでの距離である第1距離を算出する第1測距処理を実行することと、第1測距処理の結果として得られた第1距離と所定値とを比較し、当該比較結果に基づいて、車両に搭載されている所定の対象装置を節電モードから通常モードに移行させるための信号を出力することと、を実施する。
【0013】
上記無線通信モジュールによっても、位置判定装置と同様の理由により、待機中の消費電力も低減可能となる。
【0014】
本開示に含まれるコンピュータプログラムは、Bluetooth(登録商標)に準拠した無線通信を実施するためのBluetooth通信部(93)と、超広帯域(UWB)通信を実施するためのUWB通信部(94)とを備える携帯デバイス(9)が備えるプロセッサ(901)に、事前に紐付けられている車両から発せられた信号を受信することに基づいて車両とBluetoothによる通信接続を確立することと、車両からBluetooth通信による測距処理である第1測距処理の開始リクエストを受信したことに基づいて測距処理のための信号を返送することと、測距処理のための信号を返送した後に、それぞれ異なる周波数の連続波信号を順に送信することと、車両からUWB通信による測距処理である第2測距処理の開始リクエストを受信した場合には、UWB通信部を起動させることと、車両から測距のためのUWB信号を受信した場合には、所定パターンのUWB信号を返送することと、を実行させるための命令を含む。
【0015】
上記コンピュータプログラムは、通常のデバイスを、位置判定装置/位置判定システムに応答する携帯デバイスとして機能させるためのコンピュータプログラムである。また、上記コンピュータプログラムに依れば、携帯デバイスにおいても、車両からの第2測距処理の開始リクエストを受信していない場合にはUWB通信部の動作を停止可能となるため、待機中の消費電力を低減可能となる。
【0016】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】車両用電子キーシステムの全体像を示す図である。
図2】携帯デバイスの構成を示すブロック図である。
図3】DK-ECUの構成を示すブロック図である。
図4】BLEモジュールの構成を示すブロック図である。
図5】CS測距処理の流れを概略的に示す図である。
図6】メインコントローラの機能ブロック図である。
図7】メインコントローラが節電モードである場合のDK-ECUの作動を説明するためのフローチャートである。
図8】メインコントローラが通常モードである場合のDK-ECUの作動を説明するためのフローチャートである。
図9】車両へのユーザ接近に反応するDK-ECUの作動を説明するためのフローチャートである。
図10】メインコントローラ起動後のDK-ECUの他の作動例を示すフローチャートである。
図11】デバイス位置の判定結果に応じて次回の位置判定に使用するUWBモジュールを取捨選択する場合のメインコントローラの作動を示すフローチャートである。
図12】デバイス位置に応じた不要アンカーの一例を説明するための図である。
図13】メインコントローラが節電モードである状況におけるBLEコントローラの他の作動例を示すフローチャートである。
図14】メインコントローラが節電モードである状況におけるBLEコントローラの他の作動例を示すフローチャートである。
図15】メインコントローラが節電モードである状況におけるBLEコントローラの他の作動例を示すフローチャートである。
図16】第1待ち状態における車載システムと携帯デバイスの作動を説明するための図である。
図17】第2待ち状態における車載システムと携帯デバイスの作動を説明するための図である。
図18】第3待ち状態における車載システムと携帯デバイスの作動を説明するための図である。
図19】位置判定状態における車載システムと携帯デバイスの作動を説明するための図である。
図20】車載システムの他の構成例を示すブロック図である。
図21】車載システムの他の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示が適用された車両用電子キーシステムの実施形態について、図を用いて説明する。本開示は以下の実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれる。さらには、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。種々の補足や変形例などは、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略することがある。また、構成の一部のみに言及している場合、他の部分については他の箇所に記載の説明を適用することができる。
【0019】
<全体構成について>
本実施形態の車両用電子キーシステムは、図1に示すように、車載システムVSと携帯デバイス9を備える。車載システムVSは、デジタルキーECU(以降、DK-ECUと記載する)1を含む。ECUは、Electronic Control Unitの略であって、電子制御装置を意味する。DKはデジタルキー(Digital Key)の略である。
【0020】
DK-ECU1は、車両Hvのユーザによって携帯される携帯デバイス9と、Bluetooth(登録商標) Low Energyに準拠した無線通信(以降、BLE通信)を実施可能に構成されている。以下ではDK-ECU1が、携帯デバイス9とのデータ通信におけるマスターとして振る舞い、携帯デバイス9がスレイブとして振る舞うように設定されている場合について説明する。マスターとの記載は、セントラル又はスキャナと読み替え可能である。スレイブとの記載は、ペリフェラル又はアドバタイザと読み替え可能である。
【0021】
DK-ECU1は、携帯デバイス9からのアドバタイズ信号を受信することで、携帯デバイス9との通信接続を確立する。アドバタイズ信号は、自分自身の存在を他のデバイスに通知(すなわちアドバタイズ)するためのBLE信号である。BLE信号は、BLEに準拠した無線信号である。BLE信号には、送信元或いは宛先を示すコードが含まれうる。送信元や宛先は、デバイスIDなどで表現されうる。もちろん他の態様として、車両用電子キーシステムは、携帯デバイス9がDK-ECU1との通信におけるマスターとして動作し、DK-ECU1がスレイブとして振る舞うように設定されていても良い。各装置の役割は入れ替え可能である。また、DK-ECU1及び携帯デバイス9のそれぞれが備える機能及び構成も、役割の入れ替えに伴って適宜変更可能である。
【0022】
本開示ではBLE規格に準拠した無線信号をBLE信号と記載する。また、BLE信号のうち、アドバタイズチャネルの信号をアドバタイズ信号と記載するとともに、データチャネルの信号をデータ信号とも記載することがある。40個のチャネルのうち、チャネル番号が37~39のチャネルがアドバタイズチャネルに相当する。また、チャネル番号が0~36のチャネルがデータチャネルに相当する。アドバタイズチャネルおよびデータチャネルの定義及び具体的な周波数の値は、BLE規格に応じて定まる。また、BLE規格の変更に応じて、本開示の構成は変更後の規格に準拠するように適宜変更して実施されて良い。
【0023】
また、車載システムVSと携帯デバイス9は、UWB-IR(Ultra Wide Band - Impulse Radio)方式の無線通信であるUWB通信を実施可能に構成されている。すなわち、車載システムVSと携帯デバイス9は、UWB通信で使用されるインパルス状の電波(以降、インパルス信号)を送受信可能に構成されている。UWB通信で用いられるインパルス信号とは、パルス幅が極短時間(例えば2ns)であって、かつ、500MHz(厳密には499.2MHz)以上の帯域幅(つまり超広帯域幅)を有する信号である。
【0024】
なお、UWB通信では、IEEE802.15.4zで規定されているように、複数のチャネルが利用されうる。例えば車載システムVSは、UWB通信の第5チャネルを用いて携帯デバイス9と通信する。もちろん、車載システムVSは、第3チャネルや第9チャネルなど、その他のチャネルを用いて携帯デバイス9と通信可能に構成されていても良い。第3チャネルは、中心周波数が4492MHzのチャネルであり、第5チャネルは中心周波数が6489.6MHzのチャネルである。第9チャネルは中心周波数が7987.2MHzのチャネルである。なお、IEEE(登録商標)は、Institute of Electrical and Electronics Engineersの略であって、米国電気電子学会を意味する。各チャネルは中心周波数から±250MHzの周波数帯に相当する。UWB通信では、3.1GHz~4.8GHz、6.0GHz~10.6GHzなどの周波数が使用されうる。
【0025】
UWB通信の変調方式としては、オンオフ変調(OOK:On Off Keying)方式やパルス位置変調(PPM:Pulse Position Modulation)方式、パルス幅変調(PWM:Pulse Width Modulation)など、多様なものを採用可能である。なお、オンオフ変調方式はインパルス信号の存在/欠如によって情報(例えば0と1)を表現する方式である。パルス位置変調方式はパルスの発生位置で変調を行う方式である。パルス幅変調方式はパルス幅によって情報を表現する方式である。ここでは一例として車載システムVSと携帯デバイス9とのUWB通信はOOK方式によって実施される。UWB通信によるデータ送信は、複数のインパルス信号を用いて実現される。以降ではUWB通信でやり取りされるデータ信号をUWB信号と称する。UWB信号は、複数のインパルスを含むため、パルス系列信号と呼ぶこともできる。
【0026】
<携帯デバイス9について>
携帯デバイス9は、BLE通信機能を備えた、携帯可能かつ汎用的な情報処理端末である。携帯デバイス9としては、例えば、スマートフォンや、ウェアラブルデバイス等など、多様な通信端末を採用することができる。ウェアラブルデバイスは、ユーザの身体に装着されて使用されるデバイスであって、リストバンド型、腕時計型、指輪型、メガネ型、イヤホン型など、多様な形状のものを採用可能である。携帯デバイス9は、ユーザデバイスやキーデバイスなどと呼ぶこともできる。
【0027】
なお、携帯デバイス9は、車両Hvの電子キーとしての専用デバイスであるスマートキーであってもよい。スマートキーは、車両Hvの購入時に、車両Hvとともにオーナに譲渡されるデバイスである。スマートキーは車両Hvの付属物の1つと解することができる。スマートキーは、扁平な直方体型や、扁平な楕円体型(いわゆるフォブタイプ)、カード型など、多様な形状を採用可能である。スマートキーは、車両用携帯機、キーフォブ、キーカード、アクセスキーなどと呼ばれうる。
【0028】
携帯デバイス9は、図2に示すようにデバイス制御部90、ディスプレイ91、タッチパネル92、BLEモジュール93、及びUWBモジュール94を備える。
【0029】
デバイス制御部90は、携帯デバイス9全体の動作を制御するモジュールである。デバイス制御部90は、例えばデバイスプロセッサ901、メモリ902、ストレージ903、入出力回路904等を備えた、コンピュータとして構成されている。デバイスプロセッサ901は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。メモリ902は、RAM(Random Access Memory)などの揮発性の記憶媒体である。ストレージ903は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。
【0030】
ストレージ903には、デバイスIDと、DK-ECU1との無線認証処理で使用される鍵コードが保存されていても良い。鍵コードは暗号キーなどとも呼ばれうる。ストレージ903には、携帯デバイス9を車両の鍵として機能させるためのアプリケーションソフトウェアであるデジタルキーアプリがインストールされていてもよい。デジタルキーアプリは、DK-ECU1とのセキュアな通信、及び、DK-ECU1からの問い合わせ/要求への応答を実施するためのアプリである。本開示ではアプリケーションソフトウェアを単にアプリと記載することがある。
【0031】
ディスプレイ91は、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイである。ディスプレイ91はデバイス制御部90からの入力信号に応じた画像を表示する。タッチパネル92は、静電容量式のタッチパネルであって、ディスプレイ91に積層されている。タッチパネル92は携帯デバイス9が備える入力装置である。タッチパネル92及びディスプレイ91は、ユーザがデジタルキーアプリにログインするためのパスワードを携帯デバイス9に入力したり、携帯デバイス9とDK-ECU1とをペアリングしたりするためのインターフェースに相当する。
【0032】
BLEモジュール93は、BLE通信を実施するための通信モジュールである。BLEモジュール93は、受信した信号の受信強度を計測する機能部である受信強度検出部を備える。受信強度の測定値そのものは、RSSI(Received Signal Strength Indicator/Indication)とも呼ばれうる。BLEモジュール93は、受信データの他、計測した受信強度を示すデータを送信元情報とともにデバイス制御部90に送信する。
【0033】
また、BLEモジュール93は、データ通信のための変調信号の他に、後述するCS(Channel Sounding)測距用の信号として、所定波形の連続波(CW:Continuous Wave)信号を送受信可能に構成されている。CW信号は正弦波であってもよいし3角波であっても良い。BLEモジュール93は、車載システムVSが備えるBLEモジュール12と同様の構成とすることができる。BLEモジュール93には、BLEモジュール12の説明の一部又は全部を援用することができる。BLEモジュール93がBluetooth通信部に相当する。
【0034】
UWBモジュール94は、UWB通信を実施するための通信モジュールである。UWBモジュール94は、受信データをデバイス制御部90に出力する。また、UWBモジュール94は、デバイス制御部90からの指示に基づき送信データに対応するUWB信号を送信する。UWBモジュール94は、デバイス制御部90からの指示に基づき、測距用のUWB信号として、単発のインパルス信号を送信してもよい。UWBモジュール94の動作はデバイス制御部90によって制御される。UWBモジュール94がUWB通信部に相当する。
【0035】
デバイス制御部90は、アドバタイズ信号を所定の送信間隔でBLEモジュール93に送信させる。また、BLEモジュール93がDK-ECU1からの接続要求を受信したことに基づいて、DK-ECU1との通信接続処理を実施する。デバイス制御部90は、車両Hvから送信されてきたBLE信号を受信した場合には、受信信号に応じた応答信号を返送する。デバイス制御部90は、DK-ECU1との通信接続が確立したことに基づいて、無線通信による認証処理(以降、無線認証処理)を実施してもよい。無線認証処理は例えばチャレンジ-レスポンス方式によって実施されうる。デバイス制御部90は、DK-ECU1からチャレンジコードを受信した場合には、鍵コードを用いてレスポンスコードを生成し、DK-ECU1に返送してもよい。
【0036】
デバイス制御部90は、DK-ECU1からの要求に基づき、測距用の通信を実行する。例えば携帯デバイス9は、DK-ECU1からの要求に基づき、指定されたチャネルのCW信号をBLEモジュール93に送信させる。携帯デバイス9とDK-ECU1(実態的にはDK-ECU1)とのインタラクションについては別途後述する。
【0037】
また、携帯デバイス9は、車載システムVSから送信されてきたUWB信号を受信した場合には、受信信号に応じた応答信号を返送する。例えば、携帯デバイス9は、探索信号としてのUWB信号を受信すると、応答信号として、自分自身のデバイスIDを含むコードを変調したUWB信号を車載システムVSに返送する。探索信号は、車載システムVSが携帯デバイス9を探索するための信号であって、携帯デバイス9に対して応答信号の返送を要求する信号の一種である。携帯デバイス9及び車載システムVSが送信するUWB信号には送信元或いは宛先を示すコードが含まれうる。
【0038】
デバイス制御部90は、BLEモジュール93に関しては、DK-ECU1と通信接続していない場合であっても、待機状態を維持する。待機状態は、所定のアドバタイズインターバルで定期的にアドバタイズ信号を送信する状態である。待機状態は、アドバタイズ信号を送信中の状態であるアドバタイズ状態と、アドバタイズ信号を送信していないスタンバイ状態を繰り返す状態に相当する。
【0039】
一方、デバイス制御部90は、DK-ECU1とBLEリンクが確立していない場合には、UWBモジュール94を停止させる。デバイス制御部90は、DK-ECU1とBLEリンクが確立したことに基づいてUWBモジュール94を起動させる。当該構成により、待機中の消費電力が低減される。
【0040】
デバイス制御部90は、DK-ECU1とのBLE通信接続後、DK-ECU1からUWB測距開始リクエストをBLEで受信したことを条件としてUWBモジュール94を起動するよう構成されていても良い。UWB測距開始リクエストは、UWB測距処理を開始することを要求するBLE信号である。UWBモジュール94はBLEモジュール93に比べて消費電力が大きい場合が多い。そのため、UWBモジュール94が起動している時間を低減することにより、より一層の節電効果が期待できる。
【0041】
<車載システムについて>
車載システムVSは、図3に示すように、DK-ECU1、複数のUWBモジュール2、ボディECU3、アクションセンサ4、及び、アクチュエータ5を備える。DK-ECU1は、複数のUWBモジュール2のそれぞれと個別にケーブルで接続されている。また、DK-ECU1はボディECU3とも専用の通信ケーブル又は車両内ネットワークを介して相互通信可能に接続されている。車両内ネットワークは、車両Hv内に構築されている通信ネットワークである。車両内ネットワークの規格としては、Controller Area Network(CAN:登録商標)や、Ethernet(登録商標)、FlexRay(登録商標)など、多様な規格を採用可能である。ボディECU3は、アクションセンサ4及びアクチュエータ5と接続されている。もちろん、ここに開示する装置同士の接続形態は一例であって適宜変更可能である。
【0042】
DK-ECU1は、UWBモジュール2との協働により、デバイス位置を判定するECUである。本開示でのデバイス位置とは、車両Hvに対する携帯デバイス9の相対位置を意味する。例えばDK-ECU1は、複数のUWBモジュール2と携帯デバイス9との通信状況に基づいて携帯デバイス9が車内に存在するか否かを判定する。DK-ECU1が位置判定装置に相当する。携帯デバイス9は、ユーザに対応するものであるため、デバイス位置を判定することは、ユーザの位置を判定することに相当する。
【0043】
DK-ECU1は、車内の例えばインストゥルメントパネル内に配置されている。DK-ECU1は、オーバーヘッドコンソールや、右又は左のCピラー、運転席の座席下などに取り付けられていてもよい。Cピラーは、車両Hvが備えるピラーのうち、前から3番目のピラーを指す。
【0044】
DK-ECU1は、図3に示すようにメインコントローラ11、BLEモジュール12、入出力回路13、及び電源回路14を備える。メインコントローラ11は、デバイス位置の判定にかかる種々の処理を実行するコンピュータである。メインコントローラ11は、メインプロセッサ111、メモリ112、及びストレージ113を備える。メインプロセッサ111は、例えばCPUである。メインプロセッサ111はECUプロセッサなどと呼ぶことができる。メモリ112は揮発性の記憶媒体、例えばRAMである。
【0045】
ストレージ113は、フラッシュメモリ等の不揮発性の記憶媒体を含む構成である。ストレージ113には、メインプロセッサ111によって実行されるデバイス位置判定プログラムが格納されている。メインプロセッサ111がデバイス位置判定プログラムを実行することは、当該デバイス位置判定プログラムに対応する位置判定方法が実行されることに相当する。また、ストレージ113には、携帯デバイス9のデバイスIDが登録されている。その他、ストレージ113には、各UWBモジュール2の車両Hvにおける搭載位置を示すデータが格納されている。
【0046】
メインコントローラ11は、電源状態換言すれば動作モード(換言すれば状態)として、通常モードと節電モードとを備える。通常モードは、メインコントローラ11に電力が供給されてあって、位置判定等の各種処理を実行可能な状態を指す。節電モードは、例えばメインコントローラ11への電力供給が完全に遮断された、いわゆる電源オフの状態である。
【0047】
なお、節電モードは、スリープモードや休止モードであってもよい。スリープモードは、RAM等の揮発性メモリに作業中のデータ、換言すればプログラムの実行状態を保存した状態でメインプロセッサ111への電源の供給を止めた状態を指す。休止状態は、フラッシュメモリなどの書き込み可能な不揮発性メモリにプログラムの実行状態を保存した状態でメインプロセッサ111やメモリ112への電源の供給を止めた状態を指す。節電モードは、1つの局面において動作を停止した状態であるため、停止モードと言い換えられてもよい。
【0048】
また、節電モードは、例えば10秒、1分、又は10分に1回などの頻度で間欠的に起動し、ボディECU3や外部サーバと通信する動作モードであっても良い。さらに、節電モードは、通常モード時に比べて機能が制限された状態、換言すれば、一部の機能のみを実行可能な動作モードであってもよい。例えば節電モードは、位置判定機能は停止する一方、バックアップ手段による認証機能は維持する状態であってもよい。バックアップ手段とは、例えばトランスポンダ通信や、NFC(Near Field Communication)などを指す。メインコントローラ11がコンピュータに相当する。メインコントローラ11の詳細については別途後述する。
【0049】
BLEモジュール12は、BLE通信を実施するための通信モジュールである。BLEモジュール12は、携帯デバイス9が備えるBLEモジュール93と同様に、データ通信のための変調信号の他に、CS測距用の信号として、チャネルごとのCW信号を送受信可能に構成されている。BLEモジュール12には、走行用電源がオフに設定されている間も、車載バッテリの電力が供給される。BLEモジュール12は、車載バッテリから供給される電力を用いて、車両Hvが駐車されている間も常にあるいは間欠的に待ち受け状態となる。
【0050】
BLEモジュール12は、メインコントローラ11が節電モードである間も、定期的にスキャンを行い、携帯デバイス9との接続を試行する。また、BLEモジュール12は、携帯デバイス9と通信接続したことに基づいて後述するCS測距処理を実行する。このようにメインコントローラ11が節電モードである間も携帯デバイス9からの信号を受信可能な状態を維持するBLEモジュールを本開示ではゲートウェイモジュールと称する。ゲートウェイモジュールは、携帯デバイス9との通信状況に基づいてメインコントローラ11を起動させる役割を担うBLEモジュールと解することもできる。ここでの通信状況とは、主としてCS測距結果として得られるデバイス距離や、受信強度などを指す。デバイス距離とは、BLEモジュール12又はUWBモジュール2といった、車両Hvに搭載された通信モジュールから携帯デバイス9までの距離である。またゲートウェイモジュールは、携帯デバイス9と通信接続するBLEモジュールと解することもできる。BLEモジュール12の詳細は別途後述する。BLEモジュール12が無線通信モジュール及び第1通信部に相当する。
【0051】
入出力回路13は、DK-ECU1がボディECU3などの他装置と通信するための回路モジュールである。入出力回路13は、アナログ回路素子やIC、車両内ネットワークの通信規格に準拠したPHYチップなどを含みうる。入出力回路は、CANやイーサネット(登録商標)、UARTなどのインターフェースにおいて、論理信号を実際の電気的な信号に変換するチップセットなどを含んでいても良い。
【0052】
電源回路14は、メインコントローラ11、BLEモジュール12、及び入出力回路13のそれぞれに電力を供給する回路モジュールである。電源回路14は、電源ケーブルから入力される電圧(例えばバッテリ電圧)を、メインコントローラ11、BLEモジュール12、及び入出力回路13のそれぞれの動作に適した電圧に変換し、各部に出力する。
【0053】
電源回路14は、BLEモジュール12から所定の起動信号が入力されたことに基づいて、DK-ECU1の電源をオフ状態からオン状態に切り替える機能を備えていても良い。DK-ECU1の電源がオフの状態は、電源回路14及びBLEモジュール12以外の構成への電力供給を停止した状態に相当する。DK-ECU1の電源がオンの状態はメインコントローラ11が通常モードで動作している状態に相当する。メインコントローラ11は、走行用電源がオンからオフに設定されたことに基づいて電源回路14と協働して節電モードに移行する。
【0054】
UWBモジュール2は、UWB通信を実施するための通信モジュールである。UWBモジュール2も、携帯デバイス9が備えるUWBモジュール94と同様に、UWB信号を送受信可能に構成されている。UWBモジュール2は、携帯デバイス9の位置判定に利用される通信機であって、アンカーあるいは基準局などとも称される。UWBモジュール2が第2通信部に相当する。
【0055】
UWBモジュール2は、UWB通信用のアンテナや、送受信回路、UWBコントローラなどを備える。送受信回路は、変調及び復調にかかる信号処理を行う回路である。UWBコントローラは、UWBモジュール2の動作を制御するとともに、次に説明するUWB測距データを生成するマイクロコンピュータである。
【0056】
UWBモジュール2は、DK-ECU1からの指示に基づき、UWB測距処理を実施する。UWB測距処理は、UWBモジュール2から携帯デバイス9までの電波の伝搬時間(換言すれば飛行時間)に基づいてデバイス距離を計測する処理である。UWB測距処理は、携帯デバイス9に向けて所定パターンのUWB信号を送信する工程と、携帯デバイス9からの応答信号としてのUWB信号を受信する工程とを含む。UWB測距処理においてUWBモジュール2と携帯デバイス9との間でやり取りされるUWB信号は単発のインパルス信号であってもよいし、複数のインパルス信号が所定パターンで配置されたパルス系列信号であってもよい。UWB測距処理が第2測距処理に相当する。
【0057】
UWBコントローラは、UWB信号を送信してから携帯デバイス9からの応答信号を受信するまでの経過時間であるラウンドトリップ時間(RTT:Round Trip Time)を計測し、当該RTTをもとにデバイス距離を算出する。RTTは、UWB信号の往復飛行時間に相当する。RTTは、UWBモジュール2から携帯デバイス9までの距離に応じた値を取る。本実施形態のUWBコントローラは、RTTから所定の補正値を減算した値の半分値に、電波の伝搬時間を乗じることでデバイス距離を算出する。ここでの補正値は、携帯デバイス9での応答処理時間及びUWBモジュール2内での遅延時間などを相殺するためのパラメータである。補正値の具体的な値は適宜設計されうる。補正値は0であってもよい。
【0058】
本開示では、UWB測距処理にて算出されるデバイス距離を第2距離と称する。第2距離は、UWB測距値と呼ぶこともできる。第2距離を示すデータがUWB測距データである。UWB測距処理にて携帯デバイス9からの応答が得られなかった場合、UWBモジュール2は、第2距離として、測定不能であったことを示す値あるいは十分に大きい所定値を採用する。UWBモジュール2は、生成したUWB測距データをDK-ECU1に送信する。なお、飛行時間は距離に対応するため、上記RTTを算出することは実質的にUWBモジュール2から携帯デバイス9までの距離を算出することに対応する。よって、RTTを算出してDK‐ECU1に提供する処理もまた、UWB測距処理(第2測距処理)の概念に含まれる。RTTを距離に変換する処理はメインコントローラ11が実施しても良い。
【0059】
なお、UWBモジュール2は、第2距離と自分自身の設置位置に基づいて、携帯デバイス9が存在しうる位置/エリアを示す位置関連データを生成しても良い。UWBモジュール2は、UWB測距データに代えて/それとともに、位置関連データをDK-ECU1に送信しても良い。
【0060】
車載システムVSは、UWBモジュール2として、車内アンカー2A、右側アンカー2B、左側アンカー2C、及び後方アンカー2Dを備える。車内アンカー2Aは、車室内に配置されたUWBモジュール2である。車内アンカー2Aは、例えばインストゥルメントパネルや、フロントガラスの上端部、車内天井部の中央部などに配置されている。車内アンカー2Aは、DK-ECU1の筐体内部に収容されていても良い。右側アンカー2B、左側アンカー2C、及び後方アンカー2Dは何れも、車両Hvの外面部に配置されたUWBモジュール2である。右側アンカー2Bは、右前座席用の外側ドアハンドルに内蔵されている。右前座席は、前部座席のうち、センターコンソールよりも右側に位置する座席である。ハンドルがインストゥルメントパネルの右側に設けられている場合、右前座席は運転席に相当する。なお、右側アンカー2Bは、右Bピラーや、右サイドミラー、右サイドシルに配置されていても良い。右側アンカー2Bは右側室外機と呼ぶことができる。右側アンカー2Bが右側通信部に相当する。
【0061】
左側アンカー2Cは、左側前部座席用の外側ドアハンドルに内蔵されている。左側アンカー2Cは、左Bピラーや、左サイドミラー、左サイドシルに配置されていても良い。左側アンカー2Cは左側室外機と呼ぶことができる。左側アンカー2Cが左側通信部に相当する。後方アンカー2Dは、リアバンパあるいはトランクドア付近に配置されている。後方アンカー2Dは、後方室外機と呼ぶことができる。右側アンカー2B、左側アンカー2C、及び後方アンカー2Dは室外機あるいは外側アンカーと呼ぶことができる。各UWBモジュール2の構成や性能は実質的に同一であってよい。
【0062】
各UWBモジュール2は、DK-ECU1の指示にしたがって動作する。各UWBモジュール2は、DK-ECU1からの指示に基づいて起動し、UWB測距処理を実施する。UWBモジュール2が通信可能な状態は、活性状態(アクティブ状態)、又はウェイク状態などと言い換える事ができる。UWB測距処理を実行したUWBモジュール2は、自発的に又はDK-ECU1からの指示に基づき動作を停止する。動作が停止した状態とは、電源オフ状態であってもよいし、一部の機能のみアクティブな状態であってもよい。動作が停止した状態は、スリープ状態、無効状態などと言い換え可能である。なお、各UWBモジュール2は、自発的に所定間隔でUWB測距処理を試行するように構成されていても良い。DK-ECU1及びUWBモジュール2を含む構成が位置判定システムに相当する。
【0063】
ボディECU3は、アクションセンサ4からの入力信号に基づいて、車両Hvに対するユーザの操作(アクション)を検出し、当該検出されたユーザの操作に応じて、アクチュエータ5を動作させるECUである。ここでのアクションセンサ4とは、車両Hvに対するユーザのアクションを検出するためのセンサである。アクションは、操作又は指示と言いかえることもできる。車両Hvに対するアクションとしては、施錠操作や開錠操作、着席、スタートスイッチの押下、ブレーキペダルの踏み込みなどが挙げられる。アクションセンサ4には、例えば外側ドアハンドルに設けられたドアセンサや、スタートスイッチ、ブレーキペダルセンサ、着座センサなどが含まれる。開錠操作とは、車両Hvを開錠するためのユーザ操作である。施錠操作とは、車両Hvを施錠するための操作である。DK-ECU1は、ドアセンサへのタッチ操作を開錠操作/施錠操作として検出しうる。
【0064】
なお、ドアセンサは、車両Hvのドアを開錠及び施錠するためのユーザ操作を検出するためのセンサである。ドアセンサは、タッチセンサであってもよいし、プッシュ式のスイッチであってもよい。スタートスイッチはユーザが走行用電源をオン/オフを切り替えるためのプッシュスイッチである。スタートスイッチはパワースイッチとも呼ばれうる。
【0065】
アクチュエータ5は、例えばロックモータや、ヘッドライト、ウェルカムランプなどである。ロックモータは、ドアのロック/アンロックを切り替えるモータである。ウェルカムランプは、ドア付近の路面等を照らす車載照明設備である。ウェルカムランプは、サイドミラーやサイドシル、ドアパネルの下端部などに配置される。
【0066】
ボディECU3は、例えば開錠操作など、携帯デバイス9の位置判定する必要がある所定の判定イベントを検出した場合には、DK-ECU1に向けてイベント発生通知信号を送信する。DK-ECU1は、ボディECU3からイベント発生通知信号が入力されたことに基づいて節電モードから通常モードに復帰(つまり起動)し、デバイス位置の判定にかかる制御及び処理を実行してもよい。なお、判定イベントの検出機能はDK-ECU1が備えていても良い。
【0067】
上述したボディECU3やUWBモジュール2の他、DK-ECU1には、多様な車載デバイスが直接的に又は間接的に接続されうる。例えばDK-ECU1は、電源ECUやセルラーモジュール、NFCモジュールなどと、車両内ネットワークを介して/専用ケーブルを用いて相互通信可能に接続されている。電源ECUは、車両Hvに搭載された走行用電源のオン/オフを制御するECUである。なお、走行用電源は、車両Hvが走行するための電源であって、車両Hvがエンジン車である場合にはイグニッション電源を指す。車両Hvが電動車である場合、走行用電源とはシステムメインリレーを指す。
【0068】
セルラーモジュールは、4Gや5Gといったセルラー通信を実施する通信モジュールである。NFCモジュールは、近接場通信(Near Field Communication)を実施するための通信モジュールである。NFCは、通信可能距離が数cmから10cm程度となる通信を指す。車両Hvには複数のNFCモジュールが搭載されていても良い。NFCモジュールは、携帯デバイス9とDK-ECU1とをペアリングするためのツールとして使用されても良い。ここでのペアリングには、デバイス間で交換した鍵を保存する、いわゆるボンディングも含まれる。
【0069】
<BLEモジュールの構成及び機能>
ここではBLEモジュール12の構成及び機能について説明する。BLEモジュール12は、図3及び図4に示すようにアンテナ121、RFコア122、及び、BLEコントローラ123を備える。
【0070】
アンテナ121は、BLE通信に用いられる周波数帯、すなわち2.4GHz帯の電波を送受信するためのアンテナエレメントである。2.4GHz帯とは、BLE通信に使用される複数のチャネル(0~39Ch)を包含する周波数帯と解することができる。アンテナ121はRFコア122と電気的に接続されている。チャネルは周波数と言い換える事もできる。BLEに割り当てられている複数のチャネルのうち、実際の通信に使用されるチャネル(換言すれば使用周波数/使用チャネル)は、周波数ホッピングにより、あるいは、BLEコントローラからの指示により、経時的に移り変わる。
【0071】
RFコア122は、無線信号の送受信にかかる信号処理を行う回路モジュールである。RFコア122は変調回路や復調回路、周波数変換回路、増幅回路、ローカル発振器などを含みうる。また、RFコア122は、アンテナ121に向けて信号を出力したり、アンテナ121からの信号を受信したりするための入出力端子を備える。RFコア122は、BLEコントローラと相互通信可能に接続されている。RFコア122は、アンテナ121で受信した信号を復調し、BLEコントローラ123に提供する。また、RFコア122は、BLEコントローラ123から入力された送信データを変調し、アンテナ121から電波として放射させる。RFコア122はICチップ(つまり送受信IC)として実現されていても良い。BLEコントローラ123が通信コントローラに相当する。
【0072】
RFコア122は、データ通信用の変調信号の他、CS測距用の機能として、チャネルごとのCW信号を送受信可能に構成されている。また、RFコア122は、受信強度検出部E1及び受信位相検出部E2を備える。受信強度検出部E1は、受信した信号の受信強度を計測する機能部である。受信強度検出部E1は、検出した受信強度を示すデータをBLEコントローラ123に出力する。
【0073】
受信位相検出部E2は、CW信号を受信した際に、ローカル発振器の出力信号に対する受信信号の位相角である受信位相を検出する回路である。ローカル発振器の出力信号に対する受信信号の位相角が受信位相に相当する。すなわち、受信位相は、例えば受信信号のI(In-Phase)成分に対するQ(Quadrature-Phase)成分の比を入力値とするアークタンジェントの出力値と解することができる。I成分の大きさは、受信信号の同相成分の強度に相当する。Q成分の大きさは、受信信号の直交成分の強度に相当する。I成分は、受信信号にローカル発振器が出力する搬送波を乗じることで得られる。Q成分は、ローカル発振器の出力信号の位相を90°ずらした位相シフト信号を、受信信号に乗じることで得られる。位相シフト信号は、位相を90°シフトさせる回路である移相シフト回路にローカル発振器の出力信号を通すことで得ることができる。
【0074】
なお、ローカル発振器は、搬送周波数の正弦波又は余弦波を生成する回路であって、例えば電圧制御発振器(VCO:Voltage-Controlled Oscillator)などを用いて実現されている。受信位相は、ベースバンドまで周波数を落としたIQ信号に基づいて特定されても良い。検出された受信位相情報は、デバイス距離の算出に使用される。
【0075】
RFコア122は、CW信号の受信位相の検出値を、使用周波数を示す情報(例えばチャネル番号)と対応付けてBLEコントローラ123に提供する。RFコア122は、使用周波数が切り替わるたびに、測距処理の一環として、CW信号の送信及び受信位相の検出を行う。つまり、BLEコントローラ123には、周波数ごとの受信位相を示すデータが提供される。
【0076】
BLEコントローラ123は、RFコア122を制御するマイクロコンピュータである。BLEコントローラ123は、プロセッサ124、メモリ125、ストレージ126及び入出力回路127を含む。図4中の「I/O」は、Input/Output用の回路、つまり入出力回路を表している。BLEコントローラ123は、DK-ECU1とのデータの受け渡しを制御する役割を担う。具体的には、BLEコントローラ123は、RFコア122から入力された受信データを順次又はDK-ECU1からの要求に基づいてDK-ECU1に提供する。また、BLEコントローラ123は、DK-ECU1から入力された送信用のデータをRFコア122に出力する。
【0077】
BLEコントローラ123は、CS測距部F1、受信強度取得部F2、起動部F3、及び報告処理部F4を備える。CS測距部F1、受信強度取得部F2、起動部F3、及び報告処理部F4はそれぞれ、ソフトウェアモジュールであってもよいしハードウェアモジュールであってもよい。以下のCS測距部F1、受信強度取得部F2、起動部F3、及び報告処理部F4との記載は、適宜BLEモジュール12或いはBLEコントローラ123に置き換えることができる。
【0078】
CS測距部F1は、CS測距を実行する機能部である。ここでのCS測距とは、携帯デバイス9までの無線信号の伝播経路の長さを示すパラメータである距離関連値をもとに、デバイス距離を示す距離データを生成する処理を指す。CS測距は、距離関連値を取得するために、携帯デバイス9と双方向または単方向通信を実施する工程を含む。CS測距は、High Accuracy Distance Measurement(HADM)、或いは位相差測距と呼ぶこともできる。本開示では、CS測距のための通信を含む一連の処理を、CS測距処理とも記載することがある。CS測距処理が第1測距処理に相当する。
【0079】
距離関連値は、無線信号の伝搬時間、換言すれば飛行時間に応じた値を取るパラメータであれば良い。例えば携帯デバイス9から送信されてきた信号の受信位相が距離関連値に相当する。距離関連値は、携帯デバイス9が送信した無線信号の到着時間であってもよい。無線信号の到着時間は、RTTを代替的に採用可能である。これらの距離関連値は、受信強度とは異なるパラメータである。
本実施形態のCS測距部F1は、CS測距処理として、周波数ごとの受信位相を取得し、当該受信位相をもとにデバイス距離を算出する。受信位相は、携帯デバイス9が送信したCW信号と、BLEモジュール12が受信したCW信号の位相差である。受信位相は、送受信位相差、単周波位相差、或いは1次位相差と呼ぶことができる。
【0080】
CS測距部F1は、例えば1ウェイ方式で周波数ごとの受信位相を取得する。1ウェイ方式は、携帯デバイス9から送信される周波数ごとのCW信号の初期位相が一定であることを前提として、携帯デバイス9から送信されたCW信号の受信位相をそのまま周波数間位相差の算出材料として採用する方式である。周波数間位相差の算出材料として使用する受信位相(換言すれば単周波位相差)は、その他、パッシブ2ウェイ方式やアクティブ2ウェイ方式などによっても取得可能である。パッシブ2ウェイ方式やアクティブ2ウェイ方式に関しては別途補足として後述する。
【0081】
図5は、CS測距処理の一例を示すフローチャートであって、ステップS101~S111を含む。CS測距処理は、測距の実施条件等を調整するための準備フェイズと、実際にCW信号を送受信することで受信位相を収集する収集フェイズと、収集された周波数ごとの受信位相に基づいて距離を算出する演算フェイズとを含む。本開示では、CW信号の送受信など、距離関連値を取得するための無線通信を測距通信とも称する。
【0082】
ステップS101は、BLEモジュール12が携帯デバイス9に向けてCS測距開始リクエストを送信するステップである。CS測距開始リクエストは、CS測距を開始することを要求するBLE信号である。CS測距開始リクエストは、データチャネルを用いて送信されうる。携帯デバイス9は、CS測距開始リクエストを受信したことに基づいてBLEモジュール12に向けて肯定的な応答信号(いわゆるAck)を返送する(S102)。
【0083】
BLEコントローラ123は、携帯デバイス9からCS測距の開始リクエストに対するAckを受信したことに基づいて、測距設定通知信号を送信する(S103)。測距設定通知信号は、CS測距のための通信の実施にかかる諸元を示すBLE信号である。測距通信の実施にかかる諸元には、初期位相の設定値、ホッピング間隔、チャネル遷移量、初期周波数などを指す。初期位相の設定値は、基本的には0に設定される。ホッピング間隔は、周波数を切り替える時間、換言すれば、1つの周波数を維持する時間を表す。ホッピング間隔は、データ通信に使用されるコネクションインターバル(Connection Interval)と同じであってもよい。チャネル遷移量は、チャネル切り替え時におけるチャネルの変化量を示すパラメータである。チャネル遷移量は、データ通信時のホップインクリメント(hopIncrement)と同じ値であってもよい。換言すれば、CS測距におけるチャネル遷移量は、ホップインクリメントで決定されても良い。初期周波数は、一連の測距通信において最初に送信するCW信号の周波数である。初期周波数はランダムに決定可能である。周波数の情報は例えばチャネル番号で表現されうる。
【0084】
携帯デバイス9は、測距設定通知信号を受信したことに基づいて、BLEモジュール12に向けてAckを返送する(S104)。BLEモジュール12は、携帯デバイス9からのAckを受信したことに基づいて初期周波数の信号を受信可能な状態に遷移する(S105)。無線信号を受信可能な状態は、受信状態、スキャン状態と言い換えることもできる。
【0085】
携帯デバイス9は、Ackを返送してから所定時間経過したタイミングで、初期周波数でのCW信号の送信を開始する(S106)。CW信号の送信は例えば開始から一定時間経過したタイミングで停止されうる。CW信号を送信し続ける時間であるCW送信時間は、ホッピング間隔よりも短く設定されていればよい。なお、携帯デバイス9は、測距設定通知信号を受信後に、さらにBLEモジュール12からCW送信リクエストを受信したことに基づいて、CW信号の送信を開始しても良い。CW送信リクエストはCW信号の送信を要求するBLE信号である。
【0086】
BLEモジュール12は、携帯デバイス9からのCW信号を受信すると、受信位相を検出し、当該受信位相データを周波数情報(例えばチャネル番号)とともにメモリ125に保存する(S107)。BLEモジュール12及び携帯デバイス9は、ステップS103にて事前に合意しているホッピング間隔で自動的に使用周波数を切り替える(S108)。変更後の周波数は、変更前の周波数と事前合意しているチャネル遷移量とから一意に定まりうる。例えば変更後の使用チャネルは、変更前のチャネル番号にホップインクリメントの設定値を加算した番号のチャネルとなりうる。
【0087】
携帯デバイス9は、使用チャネルを切り替えると、新たな使用チャネルのCW信号を送信する(S109)。BLEモジュール12もまた、使用チャネルを切り替えると、新たな使用チャネルの信号を受信可能な状態に遷移する。そしてBLEモジュール12は、切り替え後の周波数における受信位相を観測する(S110)。
【0088】
BLEモジュール12及び携帯デバイス9は、データ通信に使用可能な全チャネル(0~36Ch)での受信位相を収集するまで、ステップS108~S110を繰り返す。なお、BLEモジュール12及び携帯デバイス9は、予め決められている必要数分のチャネルごとの受信位相を収集できたタイミングで、繰り返し処理を終了しても良い。ここでの必要数は、データチャネルの数と同じであってもよいし、それよりも小さくともよい。必要数が37に設定されている構成が、全チャネル分の受信位相を収集する構成に相当する。受信位相を集めるチャネルの数が多いほど後述する測距精度は高まりうる。一方で、測距通信に要する時間や消費電力が増大しうる。必要数は、3や4、5、8、10、16などであってもよい。必要数は2から37までの任意の値に設定されうる。もちろん、データチャネルの数が37以上であれば、必要数は37以上の値を取りうる。
【0089】
BLEモジュール12は、必要数の周波数ごとの受信位相を収集できたタイミングで測距終了通知信号を携帯デバイス9に向けて送信する(S111)。測距終了通知信号は、測距通信を終了することを通知するためのデータ信号である。携帯デバイス9は測距終了通知信号を受信したことに基づいて、通常のデータ通信モードに移行する。通常のデータ通信モードは、音声データなど所定のデータを送受信可能な状態に相当する。測距終了通知信号の送受信は任意の要素であって、省略されても良い。携帯デバイス9は、測距終了通知信号を受信したことに基づいてBLEモジュール12にAckを返しても良い。
【0090】
また、CS測距部F1は、周波数ごとの受信位相の収集が完了すると、ステップS111として位相変化係数(α)を算出する。位相変化係数は、周波数の変化に応じて受信位相が変化する度合いを示すパラメータである。位相変化係数は、位相変化度、位相シフト量、或いは、位相‐周波数間の相関係数と呼ぶこともできる。
【0091】
位相変化係数は、例えば任意の2つの周波数である第1周波数と第2周波数のそれぞれで観測された受信位相をもとに算出される。仮に第1周波数と第2周波数の差である差分周波数をΔf、第1周波数及び第2周波数のそれぞれで観測されている受信位相の差である周波数間位相差をΔφ、位相変化係数をαとすると、α=Δφ/Δfの関係を有する。なお、周波数間位相差(Δφ)は、異なる2つの周波数で観測される受信位相の差である。周波数間位相差は、2周波位相差あるいは2次位相差と呼ぶことができる。周波数間位相差は、使用周波数の変化による位相角の変位量に対応する。
【0092】
本実施形態のCS測距部F1は、周波数ごとの受信位相に基づいて周波数と受信位相の関係を示す回帰直線を算出し、当該回帰直線の傾きを位相変化係数として採用する。回帰直線の傾きが、周波数の変位量に対する受信位相の変化量を示すためである。回帰直線及びその傾きは、例えば最小二乗法など、多様な方法で算出可能である。仮に回帰直線をy=a・x+bで表す場合、xの係数aが回帰直線の傾きに相当する。つまりCS測距部F1は、係数(a)を位相変化係数(α)として算出しうる。当該構成によれば、複数の周波数の組み合わせごとの周波数間位相差及び差分周波数に基づいた、位相変化係数が算出可能となる。なお、上記式における「x」は周波数に対応する変数であり、「y」は受信位相に対応する変数である。回帰直線は、近似直線と言い換える事もできる。
【0093】
CS測距部F1は、観測された全ての受信位相データをもとに第1の回帰直線を仮算出し、当該仮算出した第1の回帰直線からの距離が所定値以上となる値(いわゆる外れ値)を除外した上で、第2の回帰直線を再算出してもよい。その場合、CS測距部F1は第2の回帰直線の傾きを位相変化係数として採用してもよい。このように距離算出に使用する位相変化係数は、外れ値を除外したデータを母集団とする回帰直線をもとに決定されても良い。当該構成によれば、周波数間位相差の精度、ひいては、測距精度が向上しうる。
【0094】
なお、CS測距部F1は、受信位相を観測できている周波数の組み合わせ毎に、周波数間位相差(Δφ)、差分周波数(Δf)、及び、位相変化係数を算出してもよい。CS測距部F1は、周波数の組み合わせごとの位相差変化係数の平均値又は中央値を、距離算出に使用するための位相差変化係数として採用しても良い。
【0095】
ステップS112は、CS測距部F1が、複数の周波数における受信位相情報をもとに生成された位相差変化係数を用いて、デバイス距離(D)を算出するステップである。デバイス距離をDとすると、差分周波数Δf、周波数間位相差(Δφ)の間には、D∝C・Δφ/(2π・Δf)=C・α/2πの関係がある。上記式中のパラメータ「C」は電波の伝搬速度(3×10^8m/sec)を示す。CS測距部F1は当該関係式をもとに、デバイス距離を算出する。
例えばCS測距部F1は、式1:D=k・C・α/2πを用いてデバイス距離を算出する。式1を構成するパラメータkは、設計値であって1.0や0.5に設定される。kの値は、送受信位相差を片道分の位相変化係数として算出しているか、往復分の位相変化係数として算出しているかによって決定されうる。CS測距部F1は、算出したデバイス距離データをメモリ125に保存する。本開示ではBLEモジュール12がCS測距処理にて算出した通信距離を第1距離と称する。第1距離はCS測距値と呼ぶこともできる。
【0096】
他の態様として、CS測距部F1は、周波数の組み合わせごとのΔf、Δφを用いてデバイス距離の仮値(d)を算出し、それらの平均値又は中央値を、使用アンテナにおけるデバイス距離として採用してもよい。或る周波数の組み合わせにおけるデバイス距離の仮値(d)は、d=k・C・Δφ/(2π・Δf)等を用いて算出されうる。
【0097】
なお、図5に示す一連の処理のうち、BLEモジュール12が実行するステップは、CS測距部F1とRFコア122との協働により実行される。以上では一例としてBLEモジュール12が、CS測距にかかる実施条件を決定して通知するが、これに限らない。BLEモジュール12ではなく携帯デバイス9が測距通信の実施にかかる諸元を決定し、測距設定通知信号を送信しても良い。また、各ステップの実行主体は入れ替え可能である。上記シーケンスは、携帯デバイス9が主体(換言すればマスター)となって実施されても良い。
【0098】
受信強度取得部F2は、RFコア122から、周波数ごとの携帯デバイス9からの信号の受信強度を示すデータを取得する構成である。BLEモジュール12は、携帯デバイス9と通信接続している間、携帯デバイス9と定期的に疎通確認のためのデータ信号を送受信する。受信強度取得部F2は、当該疎通確認のためのデータ信号を受信した際の受信強度データを取得する。なお、疎通確認のための通信は、コネクションインターバルで実施されうる。疎通確認の通信は、チャネルホッピングが行われるごとに実施されても良い。コネクションインターバルが第1間隔に相当する。
【0099】
なお、受信強度の検出に使用する信号は、疎通確認のためのデータ信号に限定されない。通常のデータ信号であってもよいし、アドバタイズ信号であってもよい。以降における受信強度とは、特段の注釈が無い限り、携帯デバイス9から送信された信号の受信強度を指すものとする。
【0100】
起動部F3は、CS測距処理にて算出された第1距離が所定値(以降、起動距離とも記載)未満であることに基づいて、メインコントローラ11を起動させるソフトウェア/ハードウェアモジュールである。例えば起動部F3は、第1距離が起動距離未満である状態が所定時間または所定回数継続したことに基づいて、メインコントローラ11に向けて起動信号を送信する。起動信号は、メインコントローラ11を起動させるための信号である。
【0101】
ここでの起動は、節電モードから通常モードに切り替えることを指す。起動は、復帰、有効化、活性化、ウェイクアップなどと言い換え可能である。メインコントローラ11の起動は、電源回路14との協働によって実現されても良い。例えば、起動部F3は、電源回路14に向けてメインコントローラ11を起動させるための制御信号を出力し、電源回路14が当該制御信号を受けてメインコントローラ11を起動させても良い。なお、通常モードから節電モードに移行することは、スリープ、シャットダウンなどと言いかえることができる。節電モードである状態は、スリープ状態と呼ぶこともできる。
【0102】
起動距離は、例えば2.5mや、3.0m、5.0m、6.0mなどに設定されうる。起動距離を小さい値に設定するほど、メインコントローラ11を起動させる頻度を低減可能となり、消費電力を抑制可能となる。一方、起動距離を小さい値に設定するほど、ユーザの接近に対してシステムが起動するタイミングが遅くなるため、ユーザが走ってきた場合などにおいてシステム起動が間に合わず、ユーザの利便性を損なうおそれが高まりうる。
【0103】
報告処理部F4は、受信強度取得部F2が取得した受信強度を示す受信強度データ、及び、CS測距部F1が算出した第1距離を示す第1距離データをメインコントローラ11に送信する。各種データの送信は、メインコントローラ11が通常モードで稼働している間、定期的に実施されてよい。報告処理部F4は、メインコントローラ11からの要求に基づき各種データを送信しても良い。
【0104】
なお、BLEモジュール12は、メインコントローラ11が節電モードであり、かつ、携帯デバイス9と通信接続している間は、CS測距処理を定期的に実施する。一方、メインコントローラ11が通常モードに復帰した後は、BLEモジュール12は、定期的なCS測距処理の実行を停止する。もちろん、BLEモジュール12は、メインコントローラ11が通常モードに復帰した後も定期的なCS測距処理を継続しても良い。BLEモジュール12は、メインコントローラ11が通常モードである間は、判定イベントが発生した場合にのみCS測距処理を実行するように構成されていても良い。
【0105】
<メインコントローラの機能>
メインコントローラ11は、機能ブロックとして、図6に示すように通信系制御部G1と位置判定部G2を備える。各機能ブロックは、通常モードである場合に有効化される。通信系制御部G1は、BLEモジュール12及びUWBモジュール2のそれぞれの動作を制御するソフトウェア/ハードウェアモジュールである。例えば通信系制御部G1は、判定イベントの発生、換言すれば所定のユーザアクションを検出した場合に、BLEモジュール12にCS測距処理を実施させる。判定イベントの発生は、前述の通り、ボディECU3が検知しても良いし、各種センサやECUから入力される信号に基づいてメインコントローラ11が検知してもよい。
【0106】
また、通信系制御部G1は、複数のUWBモジュール2のそれぞれに順番にUWB測距を実施させる処理である巡回計測処理を実施する。通信系制御部G1は、例えば通常モードで動作中、定期的に巡回計測処理を実行する。通信系制御部G1は、直近所定時間以内に観測されているデバイス距離の値や、車両Hvの状態に応じて、巡回計測処理の実行間隔である巡回計測間隔を動的に変更しても良い。通信系制御部G1は、判定イベントの発生が検出されたことに基づいて、巡回計測処理を実施してもよい。
【0107】
位置判定部G2は、巡回計測処理の結果として得られるUWBモジュール2ごとの第2距離に基づいて、デバイス位置を判定する。デバイス位置は、車両Hvに対する携帯デバイス9の位置である。デバイス位置は、例えば車内、近傍エリア、中間エリア、遠方エリアといった、車両Hvに事前に設定されている複数のエリア/ゾーンで表現されうる。車内は、車室内である。車内には、トランク内を含めることができる。車内は、車室内とトランク内とに区分されていても良い。
【0108】
近傍エリアは、車外において車両Hvからの距離が所定の近傍判定値未満となる領域を指す。近傍判定値は、車外のうちの近傍エリアを規定するパラメータである。近傍判定値は例えば1.0mや、1.5m、2mなどに設定されている。近傍エリアは、自動的な車両Hvの開錠/施錠を実施可能なエリアと解することができる。近傍エリアは、パッシブエントリエリアと言い換えられても良い。
【0109】
遠方エリアは、車両Hvからの距離が所定の遠方判定値以上となる領域を指す。遠方判定値は、車両Hv周辺に携帯デバイス9は存在しないと判定するためのパラメータである。遠方判定値は例えば5.0mや6.0m、10m、12mなどに設定されている。中間エリアは、遠方エリアと近傍エリアの中間的なエリアを指す。中間エリアは、当該エリアへの携帯デバイス9の進入を受けて、車外照明の点灯など、所定のウェルカム制御を実行する、いわゆるウェルカムエリアであってもよい。中間エリアは、携帯デバイス9との無線通信による認証や、デバイス位置の追跡、位置判定周期の短縮など、携帯デバイス9が車外遠方に存在する場合には実行しない所定制御を実行/開始するエリアであってもよい。中間エリアは、スタンバイエリアや周辺エリアなどと呼ぶこともできる。その他、中間エリアは、車両Hvを遠隔操作で駐車/出庫させる機能をユーザが利用可能なエリアであってもよい。
【0110】
上述した近傍エリア、中間エリア、及び遠方エリアは、車外エリアを細分化したものである。位置判定部G2は、単に携帯デバイス9が車内に存在するか否かを判定するものであってもよい。また、位置判定部G2は、車両Hvから携帯デバイス9までの距離だけなく、デバイス存在方向を判定してもよい。デバイス存在方向とは、車両Hv/車内アンカーからみて携帯デバイス9が存在している方向である。デバイス存在方向は、右、左、後方、前方などで表現されうる。近傍エリアはそれぞれ、右エリア、左エリア、及びリアエリアに区分されていても良い。右エリアは、車外のうち、右ドアハンドル又は右Bピラーから近傍判定値未満となる範囲を指す。左エリア及びリアエリアも、車両Hvの特定部位を基準として定義されうる。中間エリアもまた近傍エリアと同様に、前後左右に細分化されていても良い。
【0111】
本実施形態の位置判定部G2は、上述したように携帯デバイス9が存在するエリアである滞在エリアを判定する。他の態様として、位置判定部G2は、滞在エリアの判定の代わりに/それとともに、デバイス位置座標を算出しても良い。デバイス位置座標は、車両Hvの所定位置を基準とする2次元/3次元座標系における携帯デバイス9が存在する位置座標を指す。デバイス位置座標の算出は、GPSや位置推定の技術分野における3点測位あるいは多点測位と同様の手法により実施可能である。
【0112】
メインコントローラ11は、デバイス位置の判定結果を示すデータであるデバイス位置データを、ボディECU3等、所定のECUに送信する。メインコントローラ11は、通常モードである間、定期的にデバイス位置データを生成しても良い。またメインコントローラ11は、判定イベントの発生に呼応して巡回計測処理を実施し、デバイス位置データを生成しても良い。
【0113】
<DK-ECUの作動例>
BLEモジュール12は、メインコントローラ11が節電モードである間、図7に示すように、起動判定処理を定期的に実施する(S11)。起動判定処理は、メインコントローラ11の起動条件が充足しているか否かを判定するための処理である。起動条件は、第1距離が起動距離未満であることを含む。故に、起動判定処理は、CS測距処理を含む。起動条件は、BLEモジュール12で観測される携帯デバイス9からの受信強度が所定の強度閾値以上とであることを含んでも良い。その場合、起動判定処理は、携帯デバイス9からのアドバタイズ信号又はデータ信号の受信強度を計測する工程を含みうる。起動条件は、携帯デバイス9との通信状態に関する多様な項目を含みうる。通信状態に関する項目とは、受信強度、デバイス距離、一定時間以内における受信強度のばらつき度合い、通信接続の可否、及びSN比などである。起動判定処理は、起動条件を構成する項目毎の値/データを収集するための工程を含むよう、適宜設計されうる。
【0114】
BLEモジュール12は、起動条件が充足している場合(S12 YES)、メインコントローラ11に向けて起動信号を送信することで通常モードに復帰させる(S13)。起動判定処理にて収集した携帯デバイス9との通信状態に関する種々のデータが起動条件を充足していない場合には(S12 NO)、BLEモジュール12は、所定の待機時間経過後に起動判定処理を再実行する。なお、起動判定処理は、携帯デバイス9からのアドバタイズ/データ信号を受信するたびに実施されても良い。起動判定処理は、通信接続やデータ通信などの処理と並列的に実施されても良い。
【0115】
また、メインコントローラ11は、通常モードである間、図8に示すように、停止判定処理を定期的に実施する(S21)。なお、停止判定処理は、走行用電源をオフにするユーザ操作やドアの施錠操作などをトリガに実施されても良い。
【0116】
停止判定処理は、メインコントローラ11の停止条件が充足しているか否かを判定するための処理である。停止条件は、走行用電源がオフの状態で車両Hvが施錠されたことを含む。停止条件は、巡回計測処理で収集した複数の第2距離のうち最も小さい値が所定の停止距離以上となったことを含んでも良い。停止距離は10mや15mなどに設定されうる。また停止条件は、受信強度が所定の停止強度未満である状態が所定時間継続したことを含んでいてもよい。停止条件もまた、携帯デバイス9との通信状態に関する多様な項目を含みうる。停止判定処理は、起動条件を構成する項目毎の値/データを収集するためのシーケンスを含むよう、適宜設計されうる。
【0117】
メインコントローラ11は、停止条件が充足している場合(S22 YES)、所定の停止準備処理を実施した後に、節電モードに移行する(S23)。停止準備処理は、例えば現在の車両状態をストレージ113に保存することや、BLEモジュール12に向けてこれから節電モードに移ることを通知することなどを含みうる。メインコントローラ11は、停止判定処理にて収集した携帯デバイス9との通信状態に関する種々のデータが停止条件を充足していない場合には(S22 NO)、所定の待機時間経過後に停止判定処理を実施する。
【0118】
図9は、駐車されている車両Hvにユーザが接近するシーンにおけるDK-ECU1のより具体的な作動例を示すフローチャートである。図9に示すフローチャートは、メインコントローラ11が節電モードから通常モードに復帰し、位置判定処理を行うまでの流れを示している。便宜上、メインコントローラ11の起動及び位置判定にかかる一連の処理を、ユーザ接近反応処理と称する。図9に示すようにユーザ接近反応処理は、ステップS201~S210を含みうる。ステップS201を実施する時点においてメインコントローラ11は節電モードである。また、携帯デバイス9は車両Hvから十分に離れており、携帯デバイス9とBLEモジュール12は未接続である。
【0119】
ステップS201は、携帯デバイス9と通信接続したか否かをBLEコントローラ123が判定するステップである。携帯デバイス9と通信接続した場合(S201 YES)、BLEコントローラ123はCS測距の定期的な実行を開始する(S202)。CS測距の定期的な実行は、例えば携帯デバイス9との通信接続が切断されるか、又は、メインコントローラ11を起動するまで継続されうる。
【0120】
ステップS203は、CS測距により得られたデバイス距離(すなわち第1距離)が、起動距離未満であるか否かを判定するステップである。ステップS203は、CS測距が実行されるたびに実施される。図9中の「D1」は、第1距離を示している。「ThD1」は、起動距離を示している。起動距離との比較、換言すればメインコントローラ11を起動させるか否かの判定に使用する第1距離は、最新の算出値であってよい。
【0121】
第1距離が起動距離未満である場合(S203 YES)、起動部F3としてのBLEコントローラ123は、メインコントローラ11を起動させる(S204)。BLEコントローラ123は、メインコントローラ11を起動させたことに基づいて、定期的なCS測距処理の実行を停止する(S205)。ステップS201~S203が、前述の起動判定処理に相当する。
【0122】
なお、メインコントローラ11を起動させるか否かの判定に使用する第1距離は、直近所定時間以内において観測された第1距離の平均値又は中央値、つまり移動平均値/移動中央値であってもよい。第1距離の移動平均/中央値が起動閾値以上であることに基づいてメインコントローラ11を起動させる構成によれば、不必要にメインコントローラ11を起動させるおそれをより一層低減できる。
【0123】
メインコントローラ11は、起動すると、各UWBモジュール2を通信可能な状態に移行させる(S206)。そして、メインコントローラ11は巡回計測処理の定期的な実行を開始する(S207)。当該巡回計測処理の定期的な実行は、例えば車両Hvの走行用電源がオンになるか、或いは、携帯デバイス9との通信接続が終了するまで継続されうる。
【0124】
なお、巡回計測処理の実行に先立って、メインコントローラ11は、携帯デバイス9に向けてUWB測距開始リクエストをBLEで送信してもよい。これにより、携帯デバイス9は、UWBモジュール94を起動して、車両HvからのUWB信号に応答可能となる。UWB測距開始リクエストの送信は、任意の要素であって省略されても良い。例えば携帯デバイス9が常にUWBモジュール94を起動させている構成においては、UWB測距開始リクエストの送信は省略可能である。携帯デバイス9の構成に合わせて種々の測距処理の事前準備処理の内容は変更可能である。
【0125】
ステップS208は、メインコントローラ11が、巡回計測処理の結果として、複数のUWBモジュール2のそれぞれから第2距離データを収集するステップである。第2距離データの収集が完了するとメインコントローラ11はステップS209を実行する。
【0126】
ステップS209は、メインコントローラ11が複数のUWBモジュール2で観測された第2距離に基づいてデバイス位置を判定するステップである。デバイス位置の判定アルゴリズムとしては多様なアルゴリズムを採用可能である。例えばメインコントローラ11は、車内アンカー2Aで観測されている第2距離が所定の室内判定値未満である場合にはデバイス位置は車内と判定する。室内判定値は例えば1mなどに設定されうる。また、車内アンカー2Aで観測された第2距離が所定値以上である場合にはデバイス位置は車外と判定してもよい。
【0127】
メインコントローラ11は、携帯デバイス9が車外に存在すると判定している状態において、近傍判定値未満の第2距離を観測している室外機が存在する場合には、デバイス位置は近傍エリアと判定してもよい。第2距離が近傍判定値未満である室外機がなく、かつ、遠方判定値未満の第2距離を観測している室外機が存在する場合にはデバイス位置は中間エリアと判定してもよい。メインコントローラ11は、遠方判定値未満の第2距離を観測している室外機が存在しない場合には、デバイス位置は遠方エリアと判定しても良い。最も小さい第2距離を観測しているUWBモジュール2が左側アンカー2Cである場合には、携帯デバイス9は車両左側に存在すると判定しても良い。
【0128】
前述の通り、メインコントローラ11は複数のUWBモジュール2での第2距離を組み合わせることにより、デバイス位置座標を算出しても良い。UWBモジュール2が位置関連データをDK-ECU1に報告する構成においては、メインコントローラ11は、各UWBモジュール2から報告される位置関連データを組み合わせることで、デバイス位置を判定しても良い。また、BLEモジュール12及びUWBモジュール2で観測される携帯デバイス9からの信号の受信強度を用いてデバイス位置を判定しても良い。例えば車内アンカー2Aでの受信強度が、室外機で観測されている受信強度の最大値よりも所定値以上大きい場合であって、車内アンカー2Aで観測されている第2距離が所定値(例えば2m)以内である場合にデバイス位置は車内と判定してもよい。
【0129】
メインコントローラ11は、デバイス位置の判定が完了すると、当該判定結果を示すデバイス位置データをボディECU3に送信する。ボディECU3は、DK-ECU1から提供されるデバイス位置データに基づいて、車両Hvのアンロック/ロック、電源オンなど、所定の制御を実行しうる。
【0130】
なお、以上ではメインコントローラ11が起動した後は、BLEモジュール12による定期的なCS測距の実行を停止する制御パターンについて述べたが、DK-ECU1の作動はこれに限定されない。DK-ECU1は、メインコントローラ11起動後も定期的なCS測距の実行を継続しても良い。図10は当該制御パターンにおけるDK-ECU1の作動を説明するためのフローチャートであって、図9のステップS204に続くシーケンスを示している。図10に示すステップS301は、メインコントローラ11起動後の処理であって、メインコントローラ11が各UWBモジュール2を起動させるステップである。ステップS302は、メインコントローラ11は巡回計測処理の定期的な実行を開始するステップである。
【0131】
ステップS303はBLEモジュール12が、UWBモジュール2によるUWB測距が実施されていないタイミングでCS測距を実行するステップである。BLEモジュール12は、メインコントローラ11からUWBモジュール2によるUWB測距が実施されていないタイミングを取得可能である。なお、メインコントローラ11起動後においては、BLEモジュール12はメインコントローラ11からの指示に基づきCS測距処理を実行するように構成されていても良い。ステップS303は所定間隔で実行されうる。
【0132】
ステップS304は、メインコントローラ11が複数のUWBモジュール2から第2距離を取得するとともに、BLEモジュール12から第1距離を取得するステップである。ステップS305は、位置判定部G2としてのメインコントローラ11が、第1距離データ及び複数の第2距離データに基づいてデバイス位置を判定するステップである。ステップS306は、ステップS210と同様にメインコントローラ11がデバイス位置の判定結果をボディECU3に送信するステップである。
【0133】
上記のようにデバイス位置の判定に、第2距離だけでなく第1距離を併用する構成によれば、位置判定精度を高める効果が期待できる。
【0134】
<巡回計測処理に使用するUWBモジュールの補足>
以上では全てのUWBモジュール2を用いて巡回計測処理を行う構成について述べたが、必ずしも全てのUWBモジュール2を使用する必要はない。例えばメインコントローラ11は、前回のデバイス位置判定結果をもとに複数のUWBモジュール2を不要アンカーと有用アンカーとに区分し、不要アンカーは巡回計測処理に使用しないように構成されていても良い。不要アンカーは、巡回計測処理においてUWB測距処理を実施させないUWBモジュール2、換言すれば、動作させないUWBモジュール2である。不要アンカーは無効アンカーと言い換え可能である。有用アンカーは、巡回計測処理においてUWB測距処理を実施させるUWBモジュール2である。不要アンカー以外のUWBモジュール2が有用アンカーに相当する。有用アンカーは、有効アンカーと言い換え可能である。
【0135】
図11は当該技術思想に対応するメインコントローラ11の作動例を示すフローチャートであって、ステップS401~S403を含む。図11に示すフローチャートは例えば前回の巡回計測処理等においてデバイス位置の判定処理が完了したことを受けて実行されうる。
【0136】
ステップS401は、メインコントローラ11が前回のデバイス位置の判定結果を参照するステップである。ステップS402は、メインコントローラ11がステップS401で読み込んだデバイス位置情報に基づいて各UWBモジュール2を不要アンカー又は有用アンカーに区分するステップである。
【0137】
例えばメインコントローラ11は、図12に示すように携帯デバイス9が車両Hvの左エリアに存在すると判定している場合には、右側アンカー2Bを不要アンカーに設定する。また、メインコントローラ11は携帯デバイス9が車両Hvの右側に存在すると判定している場合には、左側アンカー2Cを不要アンカーに設定する。このようにメインコントローラ11は、デバイス存在方向とは逆側に位置する外側アンカーを不要アンカーに設定してよい。
【0138】
なお、メインコントローラ11は、携帯デバイス9が車外に存在すると判定している場合には、ドア/窓が開けられるまでは、車内アンカーとしての車内アンカー2Aを不要アンカーに設定しても良い。また、メインコントローラ11は、携帯デバイス9が車内に存在すると判定している場合には、ドア/窓が開けられるまでは、外側アンカーとしての右側アンカー2B、左側アンカー2C、及び後方アンカー2Dを不要アンカーに設定しても良い。
【0139】
デバイス位置/デバイス存在方向と不要アンカーとの対応関係を示すデータは、データテーブル又はプログラム等の態様にて事前にストレージ113に保存されていればよい。メインコントローラ11は事前登録されたデータ/プログラムに基づき、デバイス位置/デバイス存在方向に応じて不要アンカーの設定を動的に変更しうる。
【0140】
上記メインコントローラ11は、1つの局面においてデバイス位置に応じて定まる不要ゾーンに設けられているUWBモジュール2を停止させるコンピュータと解することができる。デバイス存在方向とは逆側の車両外面部が不要ゾーンに相当する。携帯デバイス9が車内に存在している場合には、車両外面部が不要ゾーンに相当しうる。携帯デバイス9が車外に存在している場合には、車内が不要ゾーンに相当しうる。
【0141】
メインコントローラ11は、不要アンカーに設定したUWBモジュール2が存在する場合には、当該UWBモジュール2の動作を停止させる(S403)。不要アンカーの設定は、巡回探索処理ごとに更新されても良い。また、不要アンカーの設定は、巡回探索処理を所定回数(例えば3回)実施するごとにリセットされても良い。不要アンカーの設定を所定回数ごとにリセットする構成によれば、一部のUWBモジュール2を無効化し続けることによってデバイス位置を誤判定してしまうおそれを低減できる。
【0142】
<起動判定処理>
BLEコントローラ123は、図13に示すように、携帯デバイス9と通信接続した後に、受信強度が所定値以上となった場合に、定期的なCS測距の実行を開始するように構成されていてもよい。換言すれば、BLEコントローラ123は、携帯デバイス9と通信接続済みであって、かつ、受信強度が所定値以上であることを条件としてCS測距処理を実施するように構成されていても良い。
【0143】
図13は当該技術的思想に対応する制御例を示すフローチャートであって、ステップS501~S506を含む。図13に示すフローチャートは、図9のステップS201~S204の代替処理として実施されうる。つまり、ステップS501は、メインコントローラ11が節電モードである間、定期的に実行されうる。
【0144】
なお、図13に示すステップS501は、携帯デバイス9と通信接続したか否かをBLEコントローラ123が判定するステップである。通信接続した場合には(S501 YES)、携帯デバイス9との定期的なデータ通信及び受信強度の計測を開始する(S502)。携帯デバイス9との定期的なデータ通信は、通信接続が維持されている間、継続されうる。なお、携帯デバイス9との通信接続が終了した場合、再度ステップS501からやり直す。他の態様として定期通信は、アドバタイズ信号の送受信であっても良い。
【0145】
ステップS503は、定期的なデータ通信として携帯デバイス9から送信されてきたデータ信号の受信強度が、所定の強度閾値であるか否かを判定するステップである。ステップS503は、定期通信が実行されるたびに実施される。図13中の「RSSI」は、携帯デバイス9からの信号の受信強度の観測値を示している。「ThRSSI」は、強度閾値を示している。強度閾値は、デバイス距離が所定値(例えば10m)である状況において観測される受信強度に応じた値に設定されている。理想環境は、携帯デバイス9とBLEモジュール12との間に障害物が存在しない状況を指す。上記強度閾値は試験またはシミュレーションにて設定されうる。
【0146】
ステップS503における強度閾値との比較、換言すればCS測距を実行するか否かの判断に使用する受信強度は、最新の観測値であってよい。また、CS測距を実行するか否かの判断に使用する受信強度は、直近所定時間以内において観測された受信強度の平均値又は中央値、つまり移動平均値/移動中央値であってもよい。当該構成によれば、不必要にCS測距処理を実行するおそれを低減できる。
【0147】
受信強度が強度閾値以上である場合(S503 YES)、BLEコントローラ123はCS測距の定期的な実行を開始する(S504)。ステップS505は、CS測距処理により得られた最新の第1距離が起動距離未満であるか否かを判定するステップである。ステップS505の判定は、CS測距処理が実行されるたびに実施される。
【0148】
第1距離が起動距離未満である場合(S505 YES)、BLEコントローラ123は、メインコントローラ11を起動させる(S506)。その後の処理は、図9のステップS205~S210又は図10のステップS301~S306と同様であってもよい。ステップS501~S505もまた、前述の起動判定処理の一例に相当する。
【0149】
上記の構成によれば、受信強度が小さい状況、つまり、まだ携帯デバイス9と車両Hvとの距離が離れている可能性が高いシーンにおいてCS測距処理を実施するおそれを低減できる。当然、CS測距処理の実行頻度の低減は、消費電力の低減につながる。上記構成によれば、より一層消費電力を低減可能となりうる。なお強度閾値は、1つの側面においてCS測距を開始するためのパラメータと解することもできる。
【0150】
さらに、BLEコントローラ123は、図14に示すように、携帯デバイス9と通信接続済みであって、かつ、受信強度のばらつきが所定値未満であることを条件としてCS測距処理を実施するように構成されていても良い。図14中の「δ」は、受信強度のばらつき度合いを示している。図14中の「Thδ」は、受信強度のばらつき度合いに対する閾値を表している。受信強度のばらつき度合いは、統計学における分散で表現されうる。もちろん、受信強度のばらつき度合いは、標準偏差、又は、最大値と最小値の差で表現されても良い。
【0151】
なお、図14に示すステップS601~S602、ステップS604~S606は、前述のステップS501~~S502、ステップS504~S506と同様であるため、詳細な説明は省略する。ステップS603は、直近所定時間以内に観測されている受信強度のばらつき度合いが、所定の閾値未満であるか否かを判定するステップである。BLEコントローラ123は、受信強度のばらつき度合いが所定の閾値未満である場合に(S603 YES)、定期的なCS測距処理の実行を開始する。換言すれば、BLEコントローラ123は、受信強度のばらつき度合いが閾値以上である場合には、CS測距処理の定期実行は開始しないように構成されても良い。
【0152】
一般的に、携帯デバイス9と車両Hvとの間に、例えば壁などの電波を遮断する物体が有る場合には、壁などがない場合に比べて、受信強度のばらつき度合いが大きくなる。逆説的に、受信信号のばらつき度合いが大きいということは、携帯デバイス9が家やオフィスなどの建物内に存在する可能性を示唆する。当然、車両Hvの鍵としての携帯デバイス9が建物内に存在する場合には、車両Hvはユーザによって使用される可能性も低い。よってCS測距処理自体を実行する必要性も低い。図14に示す制御フローが適用された構成によれば、携帯デバイス9が建物内に存在するシーンにおいて、CS測距処理を実行するおそれを低減できる。それに伴い、待機中の消費電力をより一層低減可能となる。ここでの待機中とは、車両Hvが駐車されている状態に相当する。また、不要なCS測距処理の実行頻度を低減することにより、メインコントローラ11やUWBモジュール2が不必要に起動するおそれも低減できる。
【0153】
もちろん、図13及び図14を用いて説明した技術的思想は組み合わせて実施可能である。例えばBLEコントローラ123は、携帯デバイス9と通信接続済みであり、受信強度が所定値以上であり、かつ、受信強度のばらつきが所定値未満であることを条件としてCS測距処理を実施するように構成されていても良い。当該構成によればより一層、システムの誤作動や消費電力を低減できる。
【0154】
また、以上ではBLEモジュール12が携帯デバイス9と通信接続することを前提とした作動例について述べたが、BLEモジュール12と携帯デバイス9との通信接続は必須ではない。図15に示すようにBLEモジュール12は、例えばアドバタイズ信号など、携帯デバイス9から定期送信されるBLE信号の受信強度を逐次検出し、当該受信強度が強度閾値以上となったことに基づいてCS測距処理を実行しても良い。図15に示すステップS701~S704は前述のステップS503~S506に相当する。図15に示すフローチャートは、メインコントローラ11が通常モードから節電モードとなったことに基づいて開始されうる。なお、ステップS701は、メインコントローラ11が節電モードである間、所定間隔で実行される。第1間隔はアドバタイズインターバルであってもよい。
【0155】
<携帯デバイスと車載システムのインタラクション>
ここでは車載システムVSの状態ごとの、携帯デバイス9と車載システムVSのインタラクションについて説明する。受信強度が所定値以上であることを条件にBLEモジュール12がCS測距処理を開始する場合、車載システムVSは、デバイス位置に応じたステータスとして、第1待ち状態、第2待ち状態、第3待ち状態、及び位置判定状態を取りうる。
【0156】
第1待ち状態は、携帯デバイス9と通信接続していない状態である。第1待ち状態は、携帯デバイス9がBLEモジュール12の通信範囲外に存在する状況、換言すれば、車両Hvから十分遠くに携帯デバイス9が存在する状況に対応する。第1待ち状態は、接続待ち状態と言い換え可能である。
【0157】
第1待ち状態においては、図16に示すように携帯デバイス9が所定のアドバタイズインターバルにランダム時間(いわゆるアドバタイズディレイ)を加えた間隔で、アドバタイズ信号を送信する。また、BLEモジュール12は所定のスキャンインターバルで受信待受状態となって、携帯デバイス9からの信号を探索する。受信待受状態を維持する時間の長さに相当するスキャンウィンドウの大きさは適宜設計されれば良い。
【0158】
スキャンインターバル及びアドバタイズインターバルの長さも多様な値に設定可能である。種々のインターバルの値は、車両Hvへのユーザの接近に対して速やかに接続可能な値に設定されることが好ましい。アドバタイズインターバルは例えば37.5ミリ秒や50ミリ秒など、80ミリ秒、100ミリ秒など、20ミリ秒から400ミリ秒までの値に設定されうる。もちろん、アドバタイズインターバルは、BLE規格に準拠する範囲において、400ミリ秒を超える値に設定されても良い。アドバタイズインターバルは、スキャンインターバルよりも短く設定されていてもよい。
【0159】
第2待ち状態は、携帯デバイス9とBLEモジュール12とが通信接続済みの状態であって、且つ、受信強度が強度閾値未満である状態である。第2待ち状態は、強度判定状態と言い換え可能である。第2待ち状態では、BLEモジュール12はCS測距通信を実施しない。第2待ち状態では、図17に示すように携帯デバイス9とBLEモジュール12は、所定のコネクションインターバルで定期的にデータ通信を実施する。通信内容は、疎通確認等、多様なものであってよい。コネクションインターバルは、30ミリ秒や40ミリ秒など、7.5ミリ秒から200ミリ秒までの値に設定されうる。コネクションインターバルもまた、BLE規格に準拠する範囲において、200ミリ秒を超える値に設定されても良い。
【0160】
第3待ち状態は、携帯デバイス9とBLEモジュール12とが通信接続済みの状態であって、且つ、受信強度が強度閾値未満であり、デバイス距離が起動距離以上である状態に相当する。第3待ち状態では、携帯デバイス9とBLEモジュール12は、所定のコネクションインターバルで定期的にデータ通信を実施するとともに、CS測距のための通信も定期的に実施する。第3待ち状態は、距離判定状態と言い換え可能である。
【0161】
BLEモジュール12がCS測距通信を実行する間隔であるCS測距間隔は、例えばコネクションインターバルの2倍や3倍などに設定されうる。CS測距間隔は、図18に示すようにコネクションインターバルよりも長く設定されていることが好ましい。CS測距間隔を定期的なデータ通信の実行間隔よりも長くすることで、より一層、消費電力を抑制する効果が期待できる。CS測距間隔が第2間隔に相当する。なお、図18中の「CS-Ranging Interval」がCS測距間隔を示している。1回のCS測距通信において複数の周波数でのCW信号の送受信が行われうる。1回のCS測距通信は、1つの周波数でのCW信号を送受信するものであってもよい。CS測距通信1回分の時間は、CW信号(トーン)の長さによって調整可能である。
【0162】
第1、第2、第3待ち状態では、メインコントローラ11及びUWBモジュール2はスリープ状態を維持する。なお、図9を用いて説明したようにメインコントローラ11等の起動判定に受信強度情報を使用しない構成においては第2待ち状態は省略され、第1待ち状態(接続待ち状態)から第3待ち状態(距離判定状態)へと遷移しうる。
【0163】
位置判定状態は、メインコントローラ11が巡回計測処理を定期的に実施する状態である。位置判定状態は、車両Hv(実際にはBLEモジュール12)から起動距離以内に携帯デバイス9が存在する状態に対応する。位置判定状態では、メインコントローラ11及びUWBモジュール2が起動している。位置判定状態では、車載システムVSは、携帯デバイス9と、BLEでのデータ通信とUWBでの測距通信をそれぞれ定期的に実施する。位置判定状態は、システム稼働状態と言い換え可能である。
【0164】
メインコントローラ11がUWBモジュール2にUWB測距通信を実行させる間隔であるUWB測距間隔は、例えばコネクションインターバルの3倍や4倍などに設定されうる。UWB測距間隔は、図19に示すようにコネクションインターバルよりも長く設定されていることが好ましい。UWB測距間隔を長くすることで、より一層、消費電力を抑制する効果が期待できる。なお、図19中の「UWB-Ranging Interval」がUWB測距間隔を示している。1回のUWB測距通信は、複数のUWBモジュール2でのUWB測距通信を含みうる。換言すれば、図19に示す1つのUWB測距通信は、巡回計測処理に相当する通信であってよい。UWB測距間隔は、巡回計測間隔と言い換えることもできる。UWB測距間隔は、例えば180ミリ秒や、280ミリ秒など、150ミリ秒から400ミリ秒までの値に設定されうる。UWB測距間隔はCS測距間隔よりも長くとも良い。また、UWB測距間隔は、CS測距間隔と同じかそれよりも短くとも良い。
【0165】
<実施形態のまとめ>
BLEで使用される2.4GHz帯の信号は、反射物や人体の影響を受けやすい。よって、距離が一定であっても、ユーザによる携帯デバイス9の持ち方や、周辺環境で受信強度がばらつきやすい。本開示の開発者らは、比較構成として、第1距離を使用せずに、受信強度が所定値以上となった場合に、メインコントローラ11等を起動させる構成について検討した。比較構成における受信強度に対する閾値は、理想環境でのデバイス距離が5.5mである状況において観測される受信強度に応じた値に設定されている。なお、メインコントローラ11等との記載は、例えばメインコントローラ11とUWBモジュール2を意味する。
【0166】
上記比較構成においてシステムの動作試験を行ったところ、ユーザが携帯デバイス9を手に持っている状態においては、デバイス距離が10mである場合にもメインコントローラ11等が起動することがあった。また、ユーザが携帯デバイス9をバックポケットに入れている状態においては、デバイス距離が2.4mとなるまでメインコントローラ11等が起動しないこともあった。このように比較構成ではメインコントローラ11等が起動するエリアにばらつきがある。携帯デバイス9が車両から離れている場合にもメインコントローラ11が起動すると、暗電流の増加につながる。また、携帯デバイス9が車両Hv近傍に接近してから初めてメインコントローラ11が起動する構成では、ユーザの利便性を損ないうる。
【0167】
そのような比較構成に対し、上記構成では、受信強度ではなく、携帯デバイス9からの信号の伝搬時間に基づいて定まる第1距離に基づいて、メインコントローラ11を起動するか否かが決定される。信号の伝搬時間に応じて定まる第1距離は、受信強度に比べて、通信環境による測距誤差が小さい。換言すれば、車両Hvから携帯デバイス9までの距離測定のばらつきは低減される。このような本実施形態の構成によれば、携帯デバイス9が実際には車両Hvの近くに存在しないにも関わらず、不必要にメインコントローラ11を起動させてしまうおそれを低減できる。ひいては、待機中の消費電流を低減可能となる。また、本実施形態の構成によれば、メインコントローラ11等が起動するエリアのばらつきを低減可能であるため、システム作動も安定化できる。ひいてはシステムの誤作動又はシステムの作動遅れによってユーザを戸惑わせてしまうおそれも低減できる。
【0168】
また、上記構成においては、メインコントローラ11起動後にUWBモジュール2も起動する。換言すれば、メインコントローラ11が節電モードである間はUWBモジュール2も動作を停止している。UWBモジュール2もまた、第1距離が起動距離未満となるまでは動作が停止した状態を維持しうる。よって、UWBモジュール2の起動頻度を低減できるため、消費電力がより一層低減されうる。上記構成は、BLEモジュール12で観測される第1距離が所定値未満となったことに基づいてUWBモジュール2を通信可能な状態に移行させる構成と解することもできる。
【0169】
なお、以上では、BLEモジュール12は間接的にUWBモジュール2を起動させる構成について述べたが、これに限らない。BLEモジュール12は、CS測距結果が起動距離未満となったことに基づいてUWBモジュール2に向けて起動信号を送信してもよい。メインコントローラ11とUWBモジュール2の起動順序は逆転していてもよい。例えばBLEモジュール12はCS測距結果が起動距離未満となったことに基づいて一部又は全てのUWBモジュール2を起動させてもよい。そして、少なくとも1つのUWBモジュール2での測距結果が所定値未満であることに基づいて、UWBモジュール2またはBLEモジュール12がメインコントローラ11を起動させてもよい。
【0170】
なお、メインコントローラ11は、起動後、ボディECU3と協働してウェルカムライトの点灯や空調装置の作動といったウェルカム制御を実行しても良い。当該構成は、BLEモジュール12がCS測距にて計測した第1距離が起動距離未満となったことに基づいて、メインコントローラ11がウェルカム制御を実行するシステムに相当する。前述の通り、CS測距によって定まる第1距離は受信強度よりも精度良くデバイス距離を表す。そのため、第1距離が所定値未満となったことに基づいてウェルカム制御を実行する構成によれば、受信強度が所定値以上となったことに基づいてウェルカム制御を実行する構成よりも、不必要にウェル制御を実行するおそれを低減できる。メインコントローラ11、及び、UWBモジュールなど、多様な装置が対象装置となりうる。対象装置はボディECU3などであってもよい。
【0171】
<システム構成の変形例(1)>
上述した実施形態では、BLEモジュール12がDK-ECU1の筐体内部に配置されている構成について述べたが、これに限らない。図20に示すようにBLEモジュール12は、DK-ECU1の筐体外部に配置されていても良い。筐体外に配置されたBLEモジュール12は、CS測距結果が起動距離未満となったことに基づいてDK-ECU1を起動するように作動する。図20ではボディECU3等の図示は省略している。
【0172】
<システム構成の変形例(2)>
車載システムVSは、BLEモジュールとして、ゲートウェイモジュール12αに加えて、測距モジュール12βを備えていても良い。ゲートウェイモジュール12αは、前述の通り、メインコントローラ11が節電モードである間も携帯デバイス9と通信を行い、CS測距結果に基づいてメインコントローラ11を起こす役割を担うBLEモジュールである。ゲートウェイモジュール12αは、これまで述べてきたBLEモジュール12に相当する構成である。図21中の「BLE-GW」は、BLE通信を行う車載モジュールのうち、ゲートウェイモジュール12αとして機能するモジュールであることを表す。「GW」はゲートウェイ(Gateway)の略である。「ゲートウェイモジュール」との表現は、「代表モジュール」あるいは「BLE-GWモジュール」などに置き換え可能である。図21ではボディECU3等の図示は省略している。
【0173】
測距モジュール12βは、アンカーとして機能するBLEモジュールである。測距モジュール12βは、メインコントローラ11からの指示に基づきCS測距処理を行う。図21中の「BLE-CS」は、車載BLEモジュールのうち、CS測距のためのモジュールであることを表す。「測距モジュール」との表現は、「BLE-CSモジュール」あるいは「BLEアンカー」、「CSアンカー」などに置き換え可能である。測距モジュール12βは、例えば測距専用のBLEモジュールであってよい。測距モジュール12βは、測距と受信強度計測のみに使用されるBLEモジュールであってもよい。さらに、測距モジュール12βは、測距を主たる役割としつつも、一時的に携帯デバイス9とデータ通信を行ってもよい。
【0174】
測距モジュール12βは、メインコントローラ11が節電モードである間は、動作を停止する。他の態様として、測距モジュール12βは、メインコントローラ11が節電モードである間も、間欠的に起動し、CS測距処理を実施するように構成されていても良い。例えば、測距モジュール12βは、ゲートウェイモジュール12αがCS測距処理を行うタイミングで起動し、携帯デバイス9から送信されたCW信号を傍聴(スニファリング/スニッフィング)し、周波数ごとの受信位相を検出しても良い。
【0175】
スニファリング/スニッフィングは、ゲートウェイモジュール12α以外のBLEモジュールが、ゲートウェイモジュール12αから提供されるチャネル情報を用いて携帯デバイス9-ゲートウェイモジュール12α間の通信を傍聴する技術である。チャネル情報は、ゲートウェイモジュール12αと携帯デバイス9とのデータ通信に使用するチャネルを示す情報(以降、チャネル情報)である。チャネル情報は、具体的なチャネル番号であっても良いし、使用チャネルの遷移規則を示すパラメータ(いわゆるホップインクリメント)であってもよい。チャネル情報は、現在の使用チャネル番号と、ホップインクリメントを含むことが好ましい。チャネル情報は、メインコントローラ11経由で各測距モジュール12βに展開されても良い。また、チャネル情報は、ゲートウェイモジュール12αから直接的に、換言すればメインコントローラ11を介さずに、各測距モジュール12βに展開されても良い。なお、ゲートウェイモジュール12α以外のBLEモジュールとは、測距モジュール12βを指す。
【0176】
BLEでは通信接続後は周波数ホッピングが行われるため、通常は、通信接続しているゲートウェイモジュール12αしか、携帯デバイス9からのデータ信号を捕捉できない。これに対し、スニファリング技術によれば、チャネル情報を各測距モジュール12βに展開されるため、測距モジュール12βもまた、携帯デバイス9からのデータ信号を捕捉可能となる。測距モジュール12βは、チャネル情報を参照することにより、BLEで使用可能な多数のチャネルのうち、何れのチャネルを受信すれば、携帯デバイス9からの信号を受信できるのかを認識可能となるためである。また、その結果、測距モジュール12βは、通信接続せずとも携帯デバイス9からの信号の受信強度や受信位相、受信時間等を検出可能となる。よって、スニファリング技術の適用した構成によれば、複数のBLEモジュールが並列的にCS測距処理を実施可能となるといった利点を有する。
【0177】
本開示では、DK-ECU1の筐体内部に配置されたBLEモジュールを内蔵モジュールと称するとともに、筐体外部に設けられているBLEモジュールを外部モジュールとも称する。図21では、内蔵モジュールがゲートウェイモジュール12αとして機能する場合を例示しているがこれに限らない。前述の通り、ゲートウェイモジュール12αは外部モジュールであってもよい。
【0178】
図21ではDK-ECU1に、測距モジュール12βとしての複数の外部モジュールが接続している構成を示している。複数の測距モジュール12βは、車両Hvの右側面部、左側面部、後端部、及び前端部の一部又は全部に分散配置されうる。車両側面部におけるBLEモジュールの配置箇所としてはBピラーやCピラー、サイドミラー、ドアハンドル、サイドシル、ルーフ縁部などを採用可能である。車両後端部におけるBLEモジュールの配置箇所としては、リアバンパ内部やナンバープレート付近、リアガラスの上端/下端、トランクドアハンドルなどを採用可能である。車両前端部におけるBLEモジュールの配置箇所としては、フロントバンパ内部やフロントグリル、フロントガラスの上端/下端などを採用可能である。もちろん車載システムVSが備える測距モジュール12βは1つだけであっても良い。
【0179】
車載システムVSが複数の測距モジュール12βを備える場合、位置判定部G2は複数の測距モジュール12βでのCS測距結果を用いてデバイス位置を判定しても良い。つまり、複数のUWBモジュール2は省略されても良い。第2通信部は測距モジュール12βであってもよい。また、位置判定部G2は、複数の測距モジュール12βでのCS測距結果と、複数のUWBモジュールでのUWB測距結果を用いてデバイス位置を判定しても良い。
【0180】
さらに、位置判定部G2は、複数の測距モジュール12βでのCS測距結果を用いて概略的なデバイス位置又はデバイス存在方向を特定し、当該特定結果に基づいて、不要アンカーを設定しても良い。当該構成によればメインコントローラ11起動後に動作するUWBモジュール2の数を抑制可能となる。
【0181】
<単周波位相差の取得方法の補足>
BLEモジュール12は、アクティブ2ウェイ方式又はパッシブ2ウェイ方式によって周波数ごとの単周波位相差を取得し、それらを用いて周波数間位相差を算出しても良い。ここではアクティブ2ウェイ方式及びパッシブ2ウェイ方式の概要について説明する。
【0182】
アクティブ2ウェイ方式は、イニシエータとリフレクタとがCW信号を互いに送受信し合うことで各々が送信信号と受信信号との位相差を検出し、これら2つの位相差を用いて単周波位相差を特定する方式である。アクティブ2ウェイ方式は、イニシエータ及びリフレクタがCW信号を互いに送受信する工程と、リフレクタが観測した受信位相(θr)をイニシエータにむけて送信する工程を含む。
【0183】
イニシエータとは、通信を開始する側のデバイス、換言すれば、応答を要求する側のデバイスである。また、リフレクタとは、応答を返送する側のデバイスである。上記の実施形態においてはBLEモジュール12がイニシエータに相当し、携帯デバイス9がリフレクタに相当する。
【0184】
イニシエータの初期位相をδi、リフレクタの初期位相をδr、イニシエータ-リフレクタ間の片道分の距離に応じた本来観測されるべき単周波位相差をφ、対象周波数をfとすると、θr=φ+δi-δr、θi=φ-δi+δrの関係を有する。当該関係式に基づけば、θiとθrの平均値は、イニシエータ及びリフレクタのそれぞれの初期位相成分が相殺された、単周波位相差(φ)となる。アクティブ2ウェイ方式はイニシエータでの受信位相とリフレクタでの受信位相の平均値を単周波位相差として算出する方式に相当する。なお、ここでは片道分の伝搬による位相差を想定しているため、θiとθrの平均値を単周波位相差としている。他の態様として、単周波位相差として往復分の伝搬による位相差を想定する場合、単周波位相差は、θi+θrで求めることができる。
【0185】
パッシブ2ウェイ方式もまた、イニシエータとリフレクタとがCW信号を互いに送受信し合う方式である。アクティブ2ウェイ方式との相違点としては、リフレクタはイニシエータから送信されてきたCW信号の受信位相を、送信信号の初期位相に反映して送信する点にある。例えばリフレクタにおける受信位相がθrである場合には、z(t)=A・exp{-i(ωt+θr+2πn)}で表現されるCW信号を送信する。Aは振幅を表す。ωは対象周波数(f)に対応する角周波数であって、ω=2πfの関係を有する。nは自然数であって、リフレクタがCW信号を受信してからCW信号を送信するまでのインターバルに対応する。当該方式によれば、イニシエータが観測する受信位相には、リフレクタの初期位相成分は含まれない。イニシエータで観測される受信位相は、壁などの反射物で反射されて返ってきたCW信号を受信した場合と同じ値となる。その結果、イニシエータは、リフレクタから受信位相を取得することなく、単周波位相差を算出可能となる。パッシブ2ウェイ方式によれば、アクティブ2ウェイ方式に比べて、リフレクタが受信位相メッセージを送信する必要がないといった利点を有する。上記のように単周波位相差ひいては周波数間位相差は多様な方式にて実行可能である。
【0186】
<CS測距の変形例>
BLEコントローラ123は、周波数間位相差の代わりに/それと合わせて、RTTを用いて第1距離を算出しても良い。BLEコントローラ123が計測するRTTは、応答を要求する所定のBLE信号を送信してから携帯デバイス9からの応答信号を受信するまでの時間である。RTTもまた距離関連値に相当する。RTTを計測するための信号を送受信することもまたCS測距通信の一例に相当する。位相変化係数又はRTTを算出することは実質的にデバイス距離を算出することに相当する。よって、携帯デバイス9から受信した信号の位相、飛行時間、又は到着時間に基づいて位相変化係数又はRTTといったデバイス距離を示すデータを生成する処理も、第1測距処理の概念に含まれる。距離を算出することには、距離を間接的に示すデータを生成することも含まれる。
【0187】
<本開示の適用対象>
上記の実施形態は、道路上を走行する多様な車両に適用可能である。すなわち、本開示は、四輪自動車のほか、二輪自動車、三輪自動車等、道路上を走行可能な多様な車両に搭載可能である。原動機付き自転車も二輪自動車に含めることができる。
【0188】
車載システムVSは、マルチポイント技術によって、複数の車載BLEモジュールが携帯デバイス9の親機(マスター)として動作するように構成されていても良い。また、複数の車載BLEモジュールが携帯デバイス9の子機(スレイブ)として動作するように構成されていても良い。
【0189】
BLEモジュール12と携帯デバイス9との通信方式は、BLEに限定されず、Bluetooth Classicなどであってもよい。Bluetoothに準拠した無線通信には、BLE通信とBluetooth Classicに準拠した通信の両方が含まれる。
【0190】
メインコントローラ11起動後の測距通信に使用する通信規格はBLEやUWBに限定されず、Wi-Fi(登録商標)、EnOcean(登録商標)、Zigbee(登録商標)などであってもよい。換言すれば第2通信部は、Wi-Fi等に準拠する通信モジュールであっても良い。
【0191】
<付言(1)>
本開示には以下の技術的思想も含まれる。
[技術的思想1]
車両に対する携帯デバイスの位置を判定する位置判定装置であって、
前記携帯デバイスとBluetooth(登録商標)に準拠した無線通信を実施する第1通信部(12)と、
前記携帯デバイスの位置判定にかかる処理を実施するコンピュータ(11)と、を備え、
前記コンピュータは通常モードと節電モードとを、状態として備え、
前記第1通信部は前記コンピュータが前記節電モードである間も前記携帯デバイスと通信可能な状態を維持するように設定されており、
前記第1通信部は、前記携帯デバイスから送信された無線信号の受信位相、飛行時間、又は到着時間にかかるデータを用いて前記第1通信部から前記携帯デバイスまでの距離である第1距離を算出する第1測距処理を実行し、
前記第1通信部は、前記第1測距処理の結果として得られた前記第1距離と所定値とを比較し、当該比較結果に基づいて、前記コンピュータを前記節電モードから前記通常モードに移行させる位置判定装置。
[技術的思想2]
前記車両に配置された、前記携帯デバイスと無線通信可能な第2通信部(2)と接続されて使用される技術的思想1に記載の位置判定装置であって、
前記コンピュータは、
前記節電モードから前記通常モードに復帰したことに基づいて前記第2通信部を起動させることと、
前記第2通信部に、前記携帯デバイスから送信された無線信号の受信位相、飛行時間、又は到着時間にかかるデータを用いて前記第2通信部から前記携帯デバイスまでの距離である第2距離を算出するための第2測距処理を実施させることと、
前記第2測距処理の結果に基づいて定まる前記第2距離に基づいて前記携帯デバイスの位置を判定することと、を実施する位置判定装置。
[技術的思想3]
前記第2通信部は、超広帯域(UWB)通信を実施する通信モジュールであって、
前記第2測距処理は、前記携帯デバイスとUWB通信で使用されるインパルス信号を送受信することで前記無線信号の飛行時間を計測することと、計測された前記飛行時間をもとに前記第2距離を算出することと、を含む処理であって、
前記第2通信部は、前記コンピュータの指示に基づき、前記第2測距処理を実施する、技術的思想2に記載の位置判定装置。
[技術的思想4]
前記コンピュータは、
前記通常モードに移行後も前記第1通信部に前記第1測距処理を実施させ、
前記第1距離と前記第2距離とに基づいて前記携帯デバイスの位置を判定する、技術的思想2又は3に記載の位置判定装置。
[技術的思想5]
複数の前記第2通信部と接続されて使用される、技術的思想2から4の何れか1つに記載の位置判定装置であって、
前記コンピュータは、
複数の前記第2通信部のそれぞれから前記第2距離を取得することと、
前記第2通信部ごとの前記第2距離をもとに前記携帯デバイスの位置を判定することと、
判定された前記携帯デバイスの位置に応じて複数の前記第2通信部のうちの一部の動作を停止させることと、を実施する位置判定装置。
[技術的思想6]
複数の前記第2通信部は、前記車両の右側に配置されている右側通信部(2B)と、左側に配置されている左側通信部(2C)と、を含み、
前記コンピュータは、
前記携帯デバイスの位置が前記車両の右側と判定している場合には前記左側通信部の動作を停止させるとともに、
前記携帯デバイスの位置が前記車両の左側と判定している場合には前記右側通信部の動作を停止させる、技術的思想5に記載の位置判定装置。
[技術的思想7]
前記第1通信部は、
前記携帯デバイスからの信号を第1間隔で周期的に受信するとともに、その受信した信号の受信強度を取得し、
前記受信強度の観測値が所定の強度閾値以上である場合に前記第1測距処理を実行する、技術的思想1から6の何れか1つに記載の位置判定装置。
[技術的思想8]
前記第1通信部は、前記受信強度の観測値と所定の閾値とを比較し、当該比較結果に基づき、第2間隔で前記第1測距処理を周期的に実行するものであって、
前記第2間隔は、前記第1間隔よりも長く設定されている、技術的思想7に記載の位置判定装置。
[技術的思想9]
前記第1通信部は、
前記コンピュータが前記節電モードであって且つ前記携帯デバイスとの通信接続を確立していない場合、前記携帯デバイスと通信接続するための信号の送信又はスキャンを間欠的に実行し、
前記携帯デバイスとの通信接続を確立したことに基づいて定期的なデータ信号の受信又は送信を開始する、技術的思想7又は8に記載の位置判定装置。
[技術的思想10]
前記第1通信部は、
前記受信強度の観測値をメモリに保存し、
一定時間以内における前記受信強度のばらつき度合いが所定値未満であることを条件として、前記第1測距処理を実施する、技術的思想7から9の何れか1つに記載の位置判定装置。
[技術的思想11]
前記コンピュータは、前記第2通信部を起動させたことに基づいて、前記第1通信部による前記第1測距処理を停止させる、技術的思想2から10の何れか1つに記載の位置判定装置。
<付言(2)>
本開示に示す種々のフローチャートは何れも一例であって、フローチャートを構成するステップの数や、処理の実行順は適宜変更可能である。本開示における無線信号/BLE信号/データ/メッセージ/パケット/フレーム/パッケージ/データセット/情報などの記載は互いに読み替えられてよい。
【0192】
本開示に記載の装置、システム、並びにそれらの手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路を用いて実現されてもよい。本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。例えばBLEコントローラ123が備える機能の一部又は全部はハードウェアとして実現されても良い。或る機能をハードウェアとして実現する態様には、1つ又は複数のICなどを用いて実現する態様が含まれる。プロセッサ(演算コア)は、CPUの他、MPU、GPU、DFP(Data Flow Processor)などであってよい。BLEコントローラ123が備える機能の一部又は全部は、システムオンチップ(SoC:System-on-Chip)、IC(Integrated Circuit)、及びFPGA(Field-Programmable Gate Array)の何れかを用いて実現されていてもよい。ICの概念には、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)も含まれる。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に記憶されていればよい。プログラムの記録媒体としては、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、フラッシュメモリ等を採用可能である。本開示にはコンピュータをBLEコントローラ123又はメインコントローラ11として機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体等の形態も本開示の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0193】
1 DK-ECU、2 UWBモジュール(第2通信部)、2B 右側アンカー(右側通信部)、2C 左側アンカー(左側通信部)、9 携帯デバイス、11 メインコントローラ(コンピュータ)、12 BLEモジュール(第1通信部)、93 BLEモジュール(Bluetooth通信部)、94 UWBモジュール(UWB通信部)、121 アンテナ、123 BLEコントローラ(通信コントローラ)、901 デバイスプロセッサ(プロセッサ)、903 ストレージ
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