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特開2024-8300蓄電池の充放電曲線を用いた経済性推定装置及び経済性推定方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008300
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】蓄電池の充放電曲線を用いた経済性推定装置及び経済性推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/378 20190101AFI20240112BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20240112BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20240112BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20240112BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20240112BHJP
   G01R 31/389 20190101ALI20240112BHJP
   G01R 31/392 20190101ALI20240112BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240112BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240112BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240112BHJP
【FI】
G01R31/378
G01R31/367
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/389
G01R31/392
H02J7/00 Y
H01M10/48 P
H01M10/44 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110054
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000208455
【氏名又は名称】大和製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】有馬 理仁
(72)【発明者】
【氏名】林 磊
(72)【発明者】
【氏名】鬼木 直樹
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216BA01
2G216BA21
2G216BA41
2G216BA51
2G216BA61
2G216BA71
2G216CB11
5G503AA01
5G503BA02
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA11
5G503CB11
5G503EA05
5G503EA08
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS03
5H030AS06
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】種々の蓄電池の充放電曲線を推定し効率劣化状態を推定して、複数の蓄電池による集合体に対して経済性最適化のための充電優先順位付けを行う。
【解決手段】経済性推定装置は、初期開放端電圧関数及び初期インピーダンス関数の近似曲線を導出し事前推定関数を設定し、充放電電圧及び充放電電流を測定する。状態推定部がカルマンフィルタを用いて、SOC値、分極電圧及び内部インピーダンスを含む状態パラメータを推定する。状態パラメータを用いて事前推定電圧と実測電圧の推定誤差を求め、算出された推定誤差と電流値に対して設定した学習率と補正幅を項とするガウス関数による補正式で事後推定値を求め、その事後推定値に基づき事前推定関数を補正し、新たな事前推定関数を設定し、充放電曲線を推定する。充放電曲線から推定される二次電池の充放電電力量に基づき、経済性指標を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
充放電曲線を用いた経済性推定装置であって、
初回の補正の対象となる開放端電圧関数およびインピーダンス関数の近似曲線を導出し、事前推定関数として設定する関数導出部と、
二次電池の充電状態を検知し、予め定めた充電上限電圧までの範囲内で充電させる充電部と、
前記二次電池に対して、負荷を電気的に接続し、前記二次電池から電力を放電させる放電部と、
前記充電部または放電部による充放電が開始されてから、一定時間の周期で、充放電電圧および充放電電流を測定する測定部と、
充電率の値と、前記二次電池の分極電圧及び内部インピーダンスとを含む状態パラメータをカルマンフィルタのアルゴリズムを用いて推定する状態推定部と、
前記事前推定関数と、前記状態パラメータと、測定部で測定された充放電電圧および充放電電流の関係式とから開放端電圧値及びインピーダンス値の推定誤差を求め、予め定めた学習率Lと補正幅σを項とするガウス関数を用いた補正式により、前記開放端電圧値と前記インピーダンス値にガウス関数を用いて補正して、事後推定値を算出し、該事後推定値に基づき前記事前推定関数を補正して新たな事前推定関数を設定し、充放電曲線を推定する推定演算処理部と、
を備え
前記充放電曲線から推定される二次電池の充放電電力量に基づき、経済性指標を推定する経済性推定装置。
【請求項2】
前記開放端電圧関数及び前記インピーダンス関数が、微分および積分可能な関数である請求項1に記載の経済性推定装置。
【請求項3】
前記カルマンフィルタでは、観測方程式に開放端電圧関数の微分を含み且つ、前記微分前の開放端電圧関数が誤差を含む請求項1に記載の経済性推定装置。
【請求項4】
前記学習率Lを0.1以下に調整し、前記学習率Lと前記補正幅σの関係が、
【数1】
となる学習率Lおよび補正幅σを採用する、請求項1に記載の経済性推定装置。
【請求項5】
前記ガウス関数を用いた補正式が
【数2】
但し、M:変形量ベクトル、l:ベクトルMの要素を指定する順番、L:学習率、E:ターゲット物理量の誤差及び、Soc:充電率、(Soc,0):ガウス関数の充電率軸における中心座標とする、請求項1乃至3の何れか1項に記載の経済性推定装置。
【請求項6】
前記開放端電圧関数およびインピーダンス関数を用いて、
【数3】
但し、CfC:各サイクルに対応する満充電容量の値、W^c,d:推定充放電エネルギーの推定値、V^oc(Soc):開放端電圧推定関数、Z^(Soc):インピーダンス推定関数、I^c,d(Soc):充放電電流とし、
サイクルあたりの充放電エネルギーを推定する請求項1に記載の経済性推定装置。
【請求項7】
前記充放電エネルギーと時間帯ごと電気料金を用いて、経済性を推定する請求項6に記載の経済性推定装置。
【請求項8】
推定された前記経済性に基づいて、変動性再生可能エネルギーの余剰電力対策に係る分散蓄電池の充電優先度を決定する、請求項7に記載の経済性推定装置。
【請求項9】
初回の補正の対象となる開放端電圧関数およびインピーダンス関数の近似曲線を導出し、事前推定関数として設定し、
二次電池の充電状態を検知して、予め定めた充電上限電圧までの範囲内で充電し、
前記二次電池に接続する負荷により、前記二次電池から電力を放電し、
充放電が開始されてから、一定時間の周期で、充放電電圧および充放電電流を測定し、
カルマンフィルタのアルゴリズムを用いて、充電率の値と、前記二次電池の分極電圧及び内部インピーダンスとを含む状態パラメータを推定し、
前記事前推定関数と、前記状態パラメータと、測定部で測定された充放電電圧および充放電電流の関係式とから開放端電圧値及びインピーダンス値の推定誤差を求め、予め定めた学習率Lと補正幅σを項とするガウス関数を用いた補正式により、前記開放端電圧値と前記インピーダンス値にガウス関数を用いて補正して、事後推定値を算出し、該事後推定値に基づき前記事前推定関数を補正して新たな事前推定関数を設定し、充放電曲線を推定し、
開放端電圧推定関数およびインピーダンス推定関数を用いて、
【数4】
但し、CfC:各サイクルに対応する満充電容量の値、W^c,d:推定充放電エネルギーの推定値、V^oc(Soc):開放端電圧推定関数、Z^(Soc):インピーダンス推定関数、I^c,d(Soc):充放電電流として、サイクルあたりの充放電エネルギーを推定し、前記充放電エネルギーと時間帯ごと電気料金を用いて、経済性を推定する、経済性推定方法。
【請求項10】
前記経済性指標は、充放電サイクル1回分において、現在の経済メリットと電池寿命末期の経済メリットの差を新品時の経済メリットと電池寿命末期の経済メリットの差で除して求めたものである、請求項1に記載の経済性推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、推定した蓄電池の充放電曲線を用いて、経済性及び効率劣化を図る経済性推定装置及び経済性推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電や風力エネルギーなどの可変再生可能エネルギーが増加している。このエネルギーの増加により、電力需要の変化に伴う余剰電力量の利用が種々提案されている。その余剰電力量を利用するものとして、充電と放電を繰り返し行うことができる蓄電池、例えば、リチウムイオン蓄電池が候補となっている。
【0003】
このリチウムイオン蓄電池は、余剰電力量を充電することで、電力需要のピークカットや、夜間電力を蓄電して昼間に使用するピークシフトを目的とした使用や、災害対策用の非常用電源として利用できる。このようなリチウムイオン蓄電池を活用し、時間帯別料金適用時の電力使用を最適化して経済メリットを得ることが検討されている。
【0004】
また、利用対象となるリチウムイオン蓄電池は、未使用品だけではなく、種々の機器の駆動源として用いられた後、再利用するものも含まれる。従って、リチウムイオン蓄電池の劣化状態を把握することが重要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-224927号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述したリチウムイオン蓄電池の複数個を1つの集合体として用いた場合には、個々のリチウムイオン蓄電池の劣化状態の把握だけではなく、充放電効率特性を考慮する必要もある。集合体として用いる種々のリチウムイオン蓄電池は、種々の形式、メーカー、再利用履歴を有し、充放電効率特性においても様々になる。当然、効率の高いリチウムイオン蓄電池を運用すると、エネルギー損失が少なく、経済的利益が高まる。すなわち、複数のリチウムイオン蓄電池を集合体として用いるには、容量劣化診断だけではなく、効率劣化診断を行う必要がある。
【0007】
この効率劣化診断は、充電に対する放電エネルギーの比として定義される充放電サイクルエネルギー効率を推定することが必要である。この充放電エネルギーは、満充電容量(FCC)、開回路電圧(OCV)、内部インピーダンス(Z)及び、充電率(SOC)で求めることができる。そのため、充放電エネルギーを求めるには、SOC値に対するOCV値及び、Z値の関数が要求される。
【0008】
OCV値の推定方法として、大きく分けて2つのグループに分けられる。第1グループは、疑似(pseudo)OCV(以下、pOCV)を用いた方法である。pOCV測定プロセスでは、一般に完全放電から満充電までの範囲で10時間率(c/10)以下の定電流でリチウムイオン蓄電池を1回充放電し、OCV値を充放電電圧の平均値として算出する。第2グループは、定電流間欠滴定法(GITT)である。GITTは、各波間の長時間緩和を伴う矩形波電流充放電の手法である。また、Z値の推定は、充放電電圧とOCV値の差を電流で除すことによって算出できる。つまり、Z値は、pOCV値あるいはGITTのプロセスとともに推定できる。
【0009】
しかしながら、pOCV値及び、GITTを適用するための条件は、非常に長い定電流期間を含んでおり、複数のリチウムイオン蓄電池を集合体とした形態とは相当に異なるため、これらを運用中のOCV値を推定する方法としては好適しない。
【0010】
そこで本発明は、蓄電池の充放電曲線を用いて、再利用を含む種々の蓄電池及び複数の蓄電池による集合体に対して経済性及び効率劣化を推定する経済性推定装置及び経済性推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に従う実施形態に係る充放電曲線を用いた経済性推定装置は、初回の補正の対象となる開放端電圧関数およびインピーダンス関数の近似曲線を導出し、事前推定関数として設定する関数導出部と、二次電池の充電状態を検知し、予め定めた充電上限電圧までの範囲内で充電させる充電部と、前記二次電池に対して、負荷を電気的に接続し、前記二次電池から電力を放電させる放電部と、前記充電部または放電部による充放電が開始されてから、一定時間の周期で、充放電電圧および充放電電流を測定する測定部と、充電率の値と、前記二次電池の分極電圧及び内部インピーダンスとを含む状態パラメータをカルマンフィルタのアルゴリズムを用いて推定する状態推定部と、前記事前推定関数と、前記状態パラメータと、測定部で測定された充放電電圧および充放電電流の関係式とから開放端電圧値及びインピーダンス値の推定誤差を求め、予め定めた学習率Lと補正幅σを項とするガウス関数を用いた補正式により、前記開放端電圧値と前記インピーダンス値にガウス関数を用いて補正して、事後推定値を算出し、該事後推定値に基づき前記事前推定関数を補正して新たな事前推定関数を設定し、充放電曲線を推定する推定演算処理部と、を備え、前記充放電曲線から推定される二次電池の充放電電力量に基づき、経済性指標を推定する。
【0012】
さらに、本発明に従う実施形態に係る、充放電曲線を用いた経済性推定方法は、初回の補正の対象となる開放端電圧関数およびインピーダンス関数の近似曲線を導出し、事前推定関数として設定し、二次電池の充電状態を検知して、予め定めた充電上限電圧までの範囲内で充電し、前記二次電池に接続する負荷により、前記二次電池から電力を放電し、充放電が開始されてから、一定時間の周期で、充放電電圧および充放電電流を測定し、カルマンフィルタのアルゴリズムを用いて、充電率の値と、前記二次電池の分極電圧及び内部インピーダンスとを含む状態パラメータを推定し、前記事前推定関数と、前記状態パラメータと、測定部で測定された充放電電圧および充放電電流の関係式とから開放端電圧値及びインピーダンス値の推定誤差を求め、予め定めた学習率Lと補正幅σを項とするガウス関数を用いた補正式により、前記開放端電圧値と前記インピーダンス値にガウス関数を用いて補正して、事後推定値を算出し、該事後推定値に基づき前記事前推定関数を補正して新たな事前推定関数を設定し、充放電曲線を推定し、前記開放端電圧関数およびインピーダンス関数を用いて、
【0013】
【数1】
但し、CfC:各サイクルに対応するFCCの値、W^c,d:推定充放電エネルギーの推定値、 V^(Soc):電圧推定値、Z^(Soc):抵抗推定値、I^c,d(Soc):充放電電流として、サイクルあたりの充放電エネルギーを推定し、前記推定充放電エネルギーと時間帯ごと電気料金を用いて、経済性を推定する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蓄電池の充放電曲線を用いて、種々の蓄電池及び、複数の蓄電池による集合体に対して適用できる経済性及び効率劣化を推定する経済性推定装置及び経済性推定方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施形態に係る蓄電池の充放電曲線及び経済性推定装置を搭載する蓄電装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、蓄電池の充放電曲線及び経済性推定装置の構成例を示すブロック図である。
図3図3は、リチウムイオン蓄電池の一例の仕様を示す図である。
図4図4は、開回路電圧OCVの補正される近似曲線を概念的に示す図である。
図5図5は、リチウムイオン蓄電池の等価回路を概念的に示す図である。
図6図6は、学習率Lと補正幅σの条件組合せと誤差指標との関係を示す図である。
図7図7は、グラフの変形速度(学習率の大きさ)が異なる大まかな3つのグループ、「速い(高速)」、「中間(中速)」及び、「遅い(低速)」に分類する。
図8A図8Aは、初期V^(Soc)の参照値のイメージにおいて、参照値を一方向に増減するプロセスによる特性を示す図である。
図8B図8Bは、初期V^(Soc)の参照値のイメージにおいて、1つのSoc を中心に参照値を回転させるプロセスによる特性を示す図である。
図9A図9Aは、変形速度が速いグループの調整係数に対応する誤差指標Imaerを示す図である。
図9B図9Bは、変形速度が中速グループの調整係数に対応する誤差指標Imaerを示す図である。
図9C図9Cは、変形速度が遅いグループの調整係数に対応する誤差指標Imaerを示す図である。
図10A図10Aは、第1調整係数を設定した場合の充放電エネルギー推定値を示す図である。
図10B図10Bは、第2調整係数を設定した場合の充放電エネルギー推定値を示す図である。
図10C図10Cは、第3調整係数を設定した場合の充放電エネルギー推定値を示す図である。
図10D図10Dは、第4調整係数を設定した場合の充放電エネルギー推定値を示す図である。
図10E図10Eは、第5調整係数を設定した場合の充放電エネルギー推定値を示す図である。
図11図11は、蓄電池の充放電曲線推定及び経済性を推定する方法について説明するためのフローチャートである。
図12図12は、ガウス関数を示す図である。
図13図13は、本実施形態の充放電曲線推定結果の平均誤差を示す図である。
図14図14は、各サイクルの差電圧から推定された経済メリットについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態に係る蓄電池の経済性推定装置及び、経済性推定方法について説明する。
図1は、本実施形態に係る蓄電池の経済性推定装置を搭載する蓄電装置の構成を示している。この蓄電装置1は、主として、パワーコンディショナ(Power conditioning system)2と、電池モジュール3と、バッテリー管理部(バッテリーマネジメントユニットBMU : Battery Management Unit)4と、エネルギー管理部(エネルギーマネジメントユニットEMU : Energy Management Unit 又はEMS : Energy Management system)5と、充放電曲線及び経済性推定装置6と、電池温度測定部7と、で構成される。尚、図示していないが、通常の蓄電装置が備えている構成部位は、本実施形態の蓄電装置も備えているものとし、詳細な説明は省略する。
【0017】
パワーコンディショナ2は、外部の電力会社等の電力系統9から供給された電力や太陽光発電システムから供給された電力又は、電池モジュール3から供給された電力を、特定負荷8を含む電気駆動機器に利用できるように変換する所謂、変換器として作用する。さらに、蓄電池を充電する充電器の機能を有していてもよい。例えば、特定負荷8が交流電力で駆動する電気機器であれば、電池モジュール3から供給された直流電力を交流電力の電力形態に変換する。また、特定負荷8の電気機器によっては、電力の電圧値を昇圧させてもよい。さらに、パワーコンディショナ2は、特定負荷8への電力供給だけではなく、電力系統9から供給された電力の消費が最大となる際に、電池モジュール3に蓄電されたエネルギーを放出させて、電力系統9から供給される電力の消費を低減させることもできる。この場合、放電後の電池モジュール3に対して、深夜等の電力需要が低下した際に、パワーコンディショナ2を通じて、満充電まで充電させることができる。
【0018】
蓄電装置1の電力供給先である特定負荷8は、電力系統9から電力の供給が停止した際(例えば、停電時)に、電力を供給すべき機器を想定しており、例えば、コンピュータ等の電子機器や通信機器等があり、電源バックアップのための電力供給が行われる。
【0019】
電池モジュール3は、直流電流電圧を出力する二次電池(蓄電池)11と、セル監視部(セルモニタユニットCMU : Cell Monitor Unit)12と、保護部13と、を備えている。電池モジュール3は、特定負荷等の電力供給量における設計に従い、その数量が適宜設定され、大容量の二次電池を形成する場合には、複数の電池モジュール3を電気的に接続して、1つの集合体、即ち、1台の電池パックとして構成することがある。また、本実施形態では、充放電曲線推定の対象となる二次電池11として、リチウムイオン蓄電池を一例として説明するが、これに限定されるものではない。リチウムイオン蓄電池と同様に、メモリ効果が小さく、且つ自己放電特性が良好な電池であれば、異なる構造の電池にも容易に適用できる。例えば、リチウムイオン蓄電池から改良されたナノワイヤーバッテリー等に適用することも可能である。
【0020】
本実施形態の二次電池11は、電池内部材料(電極材料等)やセル構造に限定されず、外装材の形態においても、円筒缶型、角形缶型及び、ラミネート型等がある。電池モジュール3を構成する二次電池11の接続形態は、単電池、直列組電池又は、並列組電池等の公知な接続形態が適用できる。
【0021】
電池温度測定部7は、各二次電池11に接するように配置された図示しない温度センサにより温度を測定する。装置内におけるリチウムイオン蓄電池の使用可能な周囲温度は、略5~40℃の範囲であるが、設置環境(寒冷地や熱帯地)に応じて、必要であれば、装置内に電池用温調機構を搭載することも可能である。この電池用温調機構は、電池温度測定部7により測定された温度に基づいて、予め設定された温度範囲の上限又は下限を超えた場合に、電池性能が低下しないように、前述した二次電池11の使用可能な範囲内(5~40℃程度)に温度調整を行うためのファンやヒータにより構成される。勿論、以後の電池改良により、二次電池11の使用可能な温度範囲が広がった場合には、それらすべての温度範囲に対応することができる。
【0022】
セル監視部12は、単電池(又は単セル)の二次電池11毎の出力電圧、電流及び、温度を継続的に計測し、測定結果をバッテリー管理部4に送信する。特に、後述する演算制御部14の制御に従い、充放電曲線推定のための充放電処理中において、規定された一定時間毎に充放電電圧を計測する。
【0023】
さらに、セル監視部12は、二次電池11から取得した出力電圧、電流及び、温度をモニタ情報としてバッテリー管理部4に送信する。バッテリー管理部4は、受信したモニタ情報に基づき、過充電、過放電及び、温度上昇等の異常発生を判断し、保護部13を制御して、二次電池11に対する充電又は出力(放電)を停止させて、過充電及び、過放電を防止する。尚、保護部13は、二次電池11の故障等による緊急な異常が発生した場合、電気的な遮断により二次電池11に対する充電又は出力(放電)を停止させる。
【0024】
さらに、保護部13は、バッテリー管理部4へ異常を通知することで、危険を回避する機能を持たせてもよい。尚、異常発生の判断は必須である。その判断機能は、電池モジュール3側のセル監視部12又は、蓄電装置1側のバッテリー管理部4のいずれかに搭載すればよいが、それぞれに搭載して二重の判断で安全性を高めてもよい。二重の判断では、判断の順番を予め決めて、例えば、セル監視部12が最初に異常発生の判断を行い、後にバッテリー管理部4が2度目の異常発生の判断行う。この時の判断処置としては、通常、2つの判断部のうち、いずれか一方が異常と判断した場合には、保護部13による保護動作を実行する。尚、設計思想にもよるが、両方が異常と判断した場合のみに、保護部13による保護動作を実行し、一方のみの場合には、警告を発生する構成も可能である。
【0025】
さらに、バッテリー管理部4は、それぞれの電池モジュール3のセル監視部12から送信されたモニタ情報を一元的に集約して、上位のエネルギー管理部5へ送信する。このエネルギー管理部5は、これらのモニタ情報に基づき、パワーコンディショナ2に対して、電池モジュール3の充電及び、放電を指示する。パワーコンディショナ2は、指示に従い、電池モジュール3の充電及び、放電を制御する。
【0026】
エネルギー管理部5は、演算制御部14と、表示部15と、サーバー16と、インターフェース部17とで構成される。
演算制御部14は、コンピュータの演算処理部等と同等の機能を有し、バッテリー管理部4又は、パワーコンディショナ2へ電池モジュール3に対する充電及び、放電の指示を行う。また、電池モジュール3毎に充電上限電圧値や放電下限電圧値が予め設定されており、バッテリー管理部4から送信されたモニタ情報に基づき、バッテリー管理部4又は、パワーコンディショナ2へ充電停止や放電停止の指示を行う。
【0027】
表示部15は、例えば、液晶表示ユニットにより構成され、演算制御部14の制御により、蓄電装置1の稼働状況や電池モジュール3(二次電池11)の残存容量等及び、警告事項を表示する。また、表示部15は、タッチパネル等を採用して、入力デバイスとして用いてもよい。
【0028】
サーバー16は、エネルギー管理部5に送信された蓄電装置1の稼働状況や電池モジュール3等に関するモニタ情報や充放電曲線に関する情報等における最新情報を随時、蓄積するように格納する。インターフェース部17は、インターネット等のネットワーク通信網18を通じて、外部に設置されたサーバー等から構成される集中管理システムに対して、通信を行う。
【0029】
次に、蓄電池の充放電曲線及び経済性推定装置6について説明する。図2は、蓄電池の充放電曲線及び経済性推定装置6の構成例を示している。
この充放電曲線及び経済性推定装置6は、充電用電源部22と、放電部23と、放電用負荷部24と、測定部25と、時間計測部26と、推定演算処理部27と、SOC算出部28と、関数導出部29と、状態推定部30とで構成される。推定された各二次電池11の充放電曲線及び、経済性指標SOEcは、サーバー16に格納される。
【0030】
充電用電源部22は、二次電池11の充電状態を検知し、二次電池11の充電上限電圧までの範囲内で、定格にあった直流電流電圧を二次電池11へ出力し、充電する。
この充電用電源部22は、二次電池11の充放電曲線及び、経済性指標SOEcを推定するための専用の電源として設けているが、通常、蓄電装置内又はパワーコンディショナ2内に設けられている電池充電用電源部を用いてもよい。本実施形態では、圧測定部25と充電用電源部22とで充電部を構成する。また以下の説明において、経済性指標SOEcを推定することと経済性推定とは、同じ意義を示すものとする。
【0031】
放電部23は、放電用負荷部24を備えて、図示しないスイッチ操作により、二次電池11と電気的に放電用負荷部24に接続して、二次電池11から所定の電力量(ここでは、定電流又は定電圧を想定する)を放電させる。この放電用負荷部24は、抵抗体又は電子負荷であってもよいが、これらの専用負荷を設けずに、負荷を模擬して電力系統に回生させてもよい。
【0032】
測定部25は、電池モジュール3(二次電池11)が出力する直流電圧及び、直流電流を測定する。その測定タイミングは、予め定めた一定の時間が経過する毎に、周期的に電池モジュール3から出力された直流電圧及び、直流電流を測定する。尚、電圧測定及び、電流測定の実施については、実際に測定しなくとも、バッテリー管理部4から送信され、エネルギー管理部5のサーバー16に格納された最新のモニタ情報に含まれる電圧値及び、電流値を流用することも可能である。
【0033】
時間計測部26は、電池モジュール3から電力が放電されている時間を計時するためのタイマーであり、測定タイミングを計測する。
SOC算出部28は、測定部25が電圧を測定するタイミングの充電率(SOC:States of Charge)を算出する。SOC値は、充電電流量Qc[Ah]をその時点での満充電容量FCC[Ah]で割った値である。本実施形態の充電率のSOC値は、後述するカルマンフィルタを利用して算出する。なお、満充電容量FCC値は、充放電差電圧法、交流インピーダンス法、放電曲線微分法、最適化フィルタなど、適宜の方法で算出できる。例えば、ニ時点における累積充電量の差と、カルマンフィルタで推定されたSOCの差の除算によって算出しても良い。
【0034】
関数導出部29は、補正の対象となる開回路電圧関数及び、インピーダンス関数の近似曲線を導出し、事前推定関数として設定する。近似曲線を求めるに当たっては、種々のカーブフィッティングの手法を適用でき、予め求めた近似曲線を格納しておき、事前推定関数として設定することができる。また、初期開回路電圧関数及び、初期事前推定関数も導出することもできる。
【0035】
推定演算処理部27は、後述する関係式を用いた演算アルゴリズムを格納し、機械学習及び、推定された二次電池11の状態パラメータに基づく充放電曲線及び経済性(経済性指標SOEc)をそれぞれ推定する演算処理部(CPU等)である。この推定演算処理部27は、二次電池の充放電曲線及び経済性推定装置6内に専用に設けなくとも、エネルギー管理部5の演算制御部14に処理機能を代用させることも可能である。
【0036】
状態推定部30は、電気化学モデルに基づくカルマンフィルタ、本実施形態では、非線形に対応する拡張カルマンフィルタを用いて、二次電池11における充電率SOC、開回路電圧OCVと内部インピーダンスZを含む状態パラメータを推定する。
【0037】
また、本実施形態は、インターネット等のネットワーク通信網18を通じて、外部機器19や他の複数の蓄電装置1を管理するシステムサーバー20等との間でネットワーク通信を用いたオンライン推定方法を適用することができる。尚、図1においては、説明が分かりやすいようにも1台の蓄電装置1を代表的に示しており、1台に限定されるものではない。
【0038】
[カルマンフィルタ]
以下に、状態推定部30のカルマンフィルタと、ガウス関数とを用いたリチウムイオン蓄電池の充放電サイクルにおける劣化診断や経済性推定に用いる充放電曲線の推定について説明する。図3は、リチウムイオン蓄電池の一例の仕様を示す図である。図4は、開回路電圧OCVの補正される近似曲線を概念的に示す図である。図5は、リチウムイオン蓄電池の等価回路を概念的に示す図である。
【0039】
本実施形態では、一例として、直列接続された8列のリチウムイオン蓄電池モジュールにおいて、充放電を行い、その時系列データを取得する。尚、劣化診断や状態推定を行う場合、一般的には、小型リチウムイオン蓄電池の単電池によるサイクル試験を採用しているが、本実施形態では、50Ahの大型単電池で構成されたリチウムイオン蓄電池モジュールを1台の電池パック(集合体)と見なして実施することも可能である。また、充放電サイクル試験中は、パワーコンディショナ2による充放電の状況を模擬するため、定電力モードを採用している。サイクル試験の雰囲気温度は、室温が望ましいが、充放電時の不可避な抵抗発熱が生じるため、モジュール温度として約20℃~30℃の範囲を設けている。
【0040】
図4に示すリチウムイオン蓄電池における開回路電圧OCVと内部インピーダンスZのグラフ変形は、高さを調整されたガウス関数の加算により行った。即ち、現在の充電率SOCの点における事前推定値(スカラー)と、カルマンフィルタによって今回推定した事後推定値(スカラー)の誤差(推定誤差)に、学習率Lを乗じたものをガウス関数の高さとして、グラフ学習の事前推定値(ベクトル)に加算する。このように変形されたグラフの関数がグラフ学習の事後推定値(ベクトル)である。
【0041】
次に、次式(2)により、誤差指Imaerを平均絶対誤差率として定義する。
【0042】
【数2】
ここで、学習率Lと補正幅σの大まかな範囲の組合せ条件は、充放電エネルギー推定の精度に影響を与えるため、これらの条件と推定誤差の指標との関係を解析した。この解析では、1回目サイクルの開始時に実際の初期Voc(Soc)をカルマンフィルタのCkの参照として採用する。この結果は、図6に示すようになる。図6は、学習率Lと大まかな補正幅σの条件組合せと誤差指標Imaerとの関係を示す図である。それぞれのドットは、学習率L全体の中の最良精度の点である。
【0043】
図6に示す結果から、推定プロセスは、学習率LがL>10-2となると、ほとんどの場合で発散し、また補正幅σを減らすと収束に近づいている。
これは大きな値の学習率Lと補正幅σが過剰なグラフ変形に対するEの入力に影響されたためである。加えて、最適な補正幅σの傾向は、学習率LがL=10-3.8とL=10-3.2で境界的に変化している。ここでは、学習率Lと補正幅σの条件組合せは、図7に示したグラフの変形速度(学習率Lの大きさ又は学習速度)が異なる大まかな3つのグループ、「速い(高速)」、「中間(中速)」及び、「遅い(低速)」に分類する。学習率Lの大きさと変形速度の関係は、学習率Lが大きければ、変形速度が速くなり、学習率Lが小さくなるほど変形速度が遅くなる。
【0044】
また、ガウス関数加算によるグラフ変形とカルマンフィルタを併せて利用するにあたり、単純に融合しようとすると、学習率Lを1に近い値に設定するが、その設定では、学習が発散して、適正な充放電エネルギー推定ができなくなる。そこで、本実施形態においては、学習率Lを「0.1以下」に調整し、併せて補正幅σを調整することで発散を防止することができる。さらに、より好ましくは学習率Lと補正幅σの関係が、ガウス関数を用いた補正式である次式(3)、
【0045】
【数3】
となる学習率Lおよび補正幅σを採用することで、高速かつ正確なプロファイル学習を実施することができる。
【0046】
次に、OCVプロファイルデータの誤差を人為的に採用し、カルマンフィルタのCの初期参照として適用した。この仮定はリユースリチウムイオン蓄電池の場合に懸念される初期開回路電圧OCVの不明瞭を意味する。リユース電池を使い始める時、現在のOCV値あるいはもしかすると単電池に使用されている電極材料が分かるかもしれないが、全体の開放端電圧推定関数V^oc(Soc)プロファイルはわからない。それゆえ、開放端電圧推定関数V^oc(Soc)は限定的なリチウムイオン蓄電池の情報から推測しなければならない。
【0047】
初期開回路電圧OCVの参照値V^oc(Soc)を実際の初期Voc(Soc)から数値的に乖離させるため、以下の2つの次式(4),(5)を使用する。
【0048】
【数4】
式(4),(5)において、Ksep,1とKsep,2は、調整係数である。式(4)は、V^oc(Soc)の値を一方向に増(Ksep,1>1) 又は、減少(Ksep,1<1)するプロセスである。一方、式(5)は、Soc=0.5を中心に回転させるプロセスである。式(4),(5)のイメージを図8A,8Bに示す。
【0049】
図8Aは、Ksep,1とKsep,2により生成された初期V^oc(Soc)の参照値のイメージにおいて、式(4)による特性を示し、同様に図8Bは、Ksep,1とKsep,2により生成された初期V^oc(Soc)の参照値のイメージにおいて、式(5)による特性を示している。
【0050】
これらの図8A,8Bにおいて、図中の中央の線Aが実際のV^oc(Soc)であり、その周囲の他の線B,C,D,Eが、Ksep,1とKsep,2によって変形され乖離させられたものである。また、これら2つの式を合体させると、次式(6)のように表現することができる。
【0051】
【数5】
次に、充放電エネルギー推定について説明する。
例えば、700サイクルの充放電エネルギー推定を、様々なKsep,1とKsep,2と、図7に示す各条件における代表的な学習率L及び、グラフの補正幅σを用いて実施した。この分析は、式(6)で生成されたOCV推定誤差Voc(Soc)の受容性に着目する。
【0052】
図9A,9B,9Cは、様々なKsep,1とKsep,2の値に対応した、充放電エネルギー推定における誤差指標Imaerを示している。図9Aは、変形速度が速いグループのKsep,1とKsep,2に対応する誤差指標Imaerを示している。図9Bは、変形速度が中間(中速)グループのKsep,1とKsep,2に対応する誤差指標Imaerを示している。図9Cは、変形速度が遅いグループのKsep,1とKsep,2に対応する誤差指標Imaerを示している。
【0053】
これらの図9A,9B,9Cと、式(6)によりKsep,1は充放電エネルギー推定誤差の平均絶対誤差率Imaerに影響を与えたが、これに対して、Ksep,2は与えた影響が少なかった。Ksep,1の1 からの乖離がさらなるImaerの増加をもたらした。Imaerは、変形速度が遅くなるほど、すなわち学習率Lが小さくなるほど増加傾向となった。
【0054】
次に、これらの観察結果に基づき、各サイクルの充放電エネルギー推定を検討する。これは、極端なKsep,1とKsep,2から生成された任意又は不確定な初期OCV値から開始する。この任意のOCV値は、式(6)を用いて生成した。加えて、図7に示した3つのグラフ変形条件の何れかを用いた。この検討では、正しい開回路電圧OCVプロファイルからスタートした推定を比較対象として加えた。この結果を図10A-10Eに示す。
【0055】
図10A図10Eは、式(6)で生成された任意の初期OCV値から開始した充放電エネルギー推定値を示している。図10Aは、第1調整係数として、Ksep,1=0.8、Ksep,2=0.2を設定した場合の充放電エネルギー推定値を示している。以下同様に、図10Bは、第2調整係数としてKsep,1=0.8且つKsep,2=1.8を設定した場合、図10Cは、第3調整係数としてKsep,1=1.2且つKsep,2=0.2を設定した場合、図10Dは、第4調整係数としてKsep,1=1.2且つKsep,2=1.8を設定した場合、図10Eは、第5調整係数としてKsep,1=Ksep,2=1を設定した場合の充放電エネルギー推定値を示している。
【0056】
図10A図10Eのそれぞれにおいて、図中の線A(充電)と線A’(放電)は、実際の各サイクル充放電エネルギーの推移を示している。図中他の線B,C,D(充電)及び、点線B’,C’,D’(放電)は、次式(7)において、W^c,dとして算出された各サイクルの推定充放電エネルギーである。具体的には、線Aは、実際の充電、点線A’は、実際の放電であり、線Bは、変形速度が速い(学習率Lが大きい)充電及び、点線B’は、変形速度が速い放電を示している。また、線Cは、変形速度が中間速度(学習率Lが中程度)の充電及び、点線C’は、変形速度が中間速度の中速放電である。さらに、線Dは、変形速度が遅い(学習率がL小さい)充電及び、点線D’は、低速放電を示している。
【0057】
【数6】
ここで、CfC:各サイクルに対応する満充電容量の値、W^c,d:推定充放電エネルギーの推定値、V^oc(Soc):開放端電圧推定関数、Z^(Soc):インピーダンス推定関数、I^c,d(Soc) :充放電電流とする。
【0058】
充放電エネルギー推定値の推移は、図10A図10Eから、容易に理解できるように、Ksep,1に影響され、Ksep,2には影響されていないことが分かる。よって、Ksep,1は、初期充放電エネルギー推定誤差の符号の決定要素となる。例えば、Ksep,1が1より小さい(Ksep,1<1)のであれば、初期充放電エネルギーの推定値は、実測値より小さな値からスタートする。これ対して、Ksep,1が1より大きければ、推定値は実測値より大きな値からスタートする。
【0059】
誤差が収束するまでのサイクル数は、図7に示されたグラフ変形速度に影響を受けている。これらの変形速度として、「速い」「中間」「遅い」の条件においては、収束に必要なサイクル数はそれぞれ約20、40、100であった。すべての条件における100サイクル以降の推定値の推移は、図10Eに示した正しい初期開回路電圧OCVから開始した場合と同様であった。
【0060】
これにより、本実施形態では、サイクル毎の充放電エネルギーを推定して、そのエネルギー効率を計算することができる。本実施形態においては、推定がリユースリチウムイオン蓄電池を想定した、任意で且つ未知な開回路電圧OCV及び、内部インピーダンスZの初期値であっても、未使用のリチウムイオン蓄電池と同様に実施できる点である。
【0061】
このような本実施形態には、以下の2つの有益な側面がある。
第1に、開回路電圧OCVのカルマンフィルタベースの微分解析の可能性を有している。従来、リチウムイオン蓄電池を低い電流で放電し、放電容量を放電電圧で微分、またはその逆の微分を行う。このようなプロセスは、低電流放電であれば分極を低減することを目的としており、その時系列データは開回路電圧OCVに近似される。この微分解析は、リチウムイオン蓄電池の内部劣化状態、例えば正極負極の運用窓の推移を診断するのに有効であることが知られている。一方、放電時間が長く、短時間処理が必要とされる実際の運用とは、異なる動作が必要であるため、実際の再利用の蓄電池に適用することは容易ではない。
【0062】
第2に、本実施形態においては、劣化を伴うリチウムイオン蓄電池の運用中に開回路電圧OCVプロファイルを連続的に推定することができるため、開回路電圧OCVのリアルタイム微分解析で実現できる。
【0063】
[経済性推定装置]
次に、図11に示すフローチャートを参照して、本実施形態の蓄電池の充放電曲線を用いた経済性推定装置について説明する。
まず、初期関数導出処理を行う(ステップ1)。具体的には、初回の補正の対象となる初期の開回路電圧関数Voc(Soc)及び初期のインピーダンス関数Z(Soc)による近似曲線を導出する。この近似曲線の導出にあたっては、既知の充放電曲線の近似方法を用いることができる。例えば、電池モジュール3について予め充放電試験を行った後、充放電1サイクルにおける充放電電圧値と電流値を計測する。充放電電圧値と電流値から近似曲線を求め、格納する。そして、充放電曲線と開回路電圧及び、インピーダンス関数の次式(8)、
【0064】
【数7】
から求めた初期の開回路電圧関数Voc(Soc)、及び、初期のインピーダンス関数Z(Soc)の近似曲線を事前推定関数として設定し、後述する状態推定部30のカルマンフィルタで使用する。
【0065】
次に、放電部23により二次電池11を放電用負荷部24に電気的に接続して放電を開始すると共に、時間計測部26において、時間の計測を開始する(ステップS2)。本実施形態では、放電から開始されるが、充電から開始するように構成してもよい。放電開始後、放電下限電圧か否かを判定する(ステップS3)。このステップS3の判定において、放電下限電圧に達している場合には(YES)、充電を開始する(ステップS8)。一方、放電下限電圧に達していない場合には(NO)、放電を継続する。この放電方式としては、定電流または定電力のいずれかを選択することができる。放電開始後、定められた後述する規定時間が経過したか否かを判断する(ステップS4)。ステップS4の判断で、規定時間が経過するまで(NO)、放電を継続し、また規定時間が経過したならば(YES)、測定部25で二次電池11の放電電圧Vmeas及び、充放電電流Iを測定し、SOC算出部28により、SOC値を算出する(ステップS5)。SOC算出部28は、前述した状態推定部30のカルマンフィルタを用いて、充電率SOCを算出する。この時、補正を繰り返し行い、事後推定近似曲線Gの精度を高める。これは、複数の充電率SOCの時に実測した(事前推定値に対して)正・負の電圧値を用いて近似曲線を補正する。
【0066】
次に、放電電圧および放電電流の測定とSOC値の算出が終了した後、機械学習処理を実施する(ステップS6)。機械学習処理においては、後述する関係式を用いて、事前推定関数と実測値を用いて事前推定値を算出する。さらに、事前推定値を推定誤差とガウス関数により補正して事後推定値とし、事後推定値に基づいて事後推定近似曲線を求める。このような機械学習処理では、得られた事後推定近似曲線を、新たな事前推定関数として設定し、補正を繰り返すことにより、近似曲線の精度を高めることができる。
【0067】
次に、繰り返された補正回数が予め定めた繰り返し回数に達したか否かを判断する(ステップS7)。この判断で、補正回数が繰り返し回数に達していない場合には(NO)、ステップS3に戻り、放電を継続する。放電を継続する場合、再度、放電下限電圧か否かが判定され(ステップS3)、放電下限電圧に達していなければ(NO)、ステップS3からステップS7の処理ルーチンを繰り返し行う。また、ステップS7の判断で、補正回数が繰り返し回数に達した場合には(YES)、開回路電圧関数及び、インピーダンス関数の近似曲線を用いて、電圧との関係式に基づいて、充放電曲線を推定する(ステップS14)。推定された充放電曲線は、エネルギー管理部5のサーバー16に一時、格納される。
【0068】
前述したステップS3で放電下限電圧に達したと判定された場合には(YES)、充電が開始される(ステップS8)。充電開始後、電圧が充電上限電圧に達したか否かが判定される(ステップS9)。ステップS9の判定で充電上限電圧に達していないと判定された場合には(NO)、所定の時間が経過したか否かを判定し(ステップS10)、一方、充電上限電圧に達したと判定された場合には(YES)、ステップS2に戻る。
【0069】
ステップS10の判定で所定の時間経過した後(YES)、測定部25で二次電池11の放電電圧Vc,d及び、充放電電流Iを測定し、SOC算出部28は、前述した状態推定部30のカルマンフィルタを用いて、充電率SOCを算出する(ステップS11)。この時、補正を繰り返し行い、事後推定近似曲線Gの精度を高める。これは、複数の充電率SOCの時に実測した(事前推定値に対して)正・負の電圧値を用いて近似曲線を補正する。さらに、ステップS11で充電電圧および充電電流の測定とSOC値を算出した後、後述する機械学習処理を行う(ステップS12)。
【0070】
続いて、次に、繰り返された補正回数が予め定めた繰り返し回数に達したか否かを判断する(ステップS13)。このステップS13の判定で、繰り返し回数に達していない場合には(NO)、ステップS9に戻り、充電を継続する。ここで、充電を継続する場合、ステップS9で充電上限電圧か否かが判定され、充電上限電圧に達せず、且つステップS13の判定で繰り返し回数に達していなければ、ステップS9からステップS12の処理ルーチンを繰り返し行う。
【0071】
ここで、前述したステップS4及び、ステップS10における充放電電圧を測定する規定時間について説明する。放電部23により、電池モジュール3を放電用負荷部24へ電気的に接続することで放電が開始される。本実施形態では、放電開始から一定の時間を経過する毎に、実測値を測定する。この一定時間は、充電率SOCが大きく変化しない程度の時間とする必要があり、数十秒(例えば、10秒から80秒)程度とする。なお、この規定時間範囲は、一例であり、装置構成や測定特性が異なった場合には、可変しうる時間であり、厳密に限定されているものではない。また、放電開始後に経過した時間が規定時間の範囲を超えても電圧計測が開始されていない場合には、放電を停止し、測定エラーとして扱う。
【0072】
前述したステップS13の判定で、繰り返し回数に達した場合には(YES)、ステップS14へ移行して、開回路電圧関数及び、インピーダンス関数の近似曲線を用いて、電圧との関係式に基づいて充放電曲線を推定する。推定された充放電曲線は、エネルギー管理部5のサーバー16に格納される。格納された充放電曲線は、要求によりサーバー16から読み出されて、表示部15への表示や充放電電力量の算出に用いることができる。尚、充放電曲線推定処理において、充放電処理又は電池温度安定化、又は充放電処理の際に行う電圧及び、電流測定は、単電池に対して実施されてもよい。また、単電池が、組電池ユニットの中に並列又は直列で複数接続された単電池であってもよい。さらに、充放電処理又は電池温度安定化の際の電圧及び、電流測定が、種々の蓄電池及び複数の蓄電池による集合体に対して実施されてもよい。
【0073】
続いて、後述する経済性推定処理を行い(ステップS15)、所定の充放電サイクルにおける満充電容量FCC、充電電力量Ec、放電電力量Ed及び、充放電サイクル1回分の経済メリットGを推定し、経済性指標SOEcを推定する。推定された経済性指標SOEcは、エネルギー管理部5のサーバー16に格納した後、一連のルーチンを終了する。格納された経済性指標SOEcは、要求によりサーバー16から読み出されて表示部15に表示することができる。
【0074】
[機械学習処理]
次に、前述したステップS6およびステップS12における本実施形態の機械学習処理について説明する。
まず、複数の充電率SOCに対する、これらの標本値プロファイルデータを次式(9)でベクトルとして示す。
【0075】
【数8】
式(9)において、Dは、代表的なベクトルであり、開回路電圧OCVと内部インピーダンスZの両方に適用される。ベクトルDの要素数は、充電率SOCの[0.01,0.02,…,1]に対応する101個とした。図4に示すグラフの変形量Mは、ターゲット物理量の誤差Eの事前推定値を用いて次式(10)のように定義した。
【0076】
【数9】
図4に示すプロファイルグラフの横軸上の充電率SOCの電圧の変形の中心座標は(Soc,0)であり、すなわち、サイクルデータからEを抽出した時刻の充電率SOCが(Soc,0)になる。式(10)において、Lは学習率であり、0<L≦1である。σは、補正幅(又は、標準偏差)、すなわちグラフ変形の大まかな補正範囲を意味する値であり、大きすぎる値(変形量)は望ましくない。lは、ベクトルDの要素を指定する順番である。すなわち、全体の変形量Mは、式(11)のように表すことができる。
【0077】
【数10】
要約すると、図4に示すプロファイルのグラフ変形は、次式(12)のように表される。
【0078】
【数11】
この式(12)において、D^は、ベクトルDの事前推定値、D^は、ベクトルDの事後推定値である。図4では、グラフ変形過程のイメージを示している。さらに、これは充放電サイクル全体の間、すなわち様々な充電率SOCにおいて、繰り返し実施された。E は後述するカルマンフィルタによって算出する。カルマンフィルタの事前推定値(スカラー)は、前回推定したカルマンフィルタの事後推定値に相当する。このカルマンフィルタの今回推定した事後推定値は、後述するグラフ変形に用いられる。
【0079】
次に、カルマンフィルタのアルゴリズムについて説明する。
本実施形態の状態推定部6は、リチウムイオン蓄電池の状態推定に対して、調整された拡張カルマンフィルタを用いている。拡張カルマンフィルタの状態方程式と観測方程式を線形離散時間システムとして定式化した。
【0080】
【数12】
式(13)におけるxは、状態空間ベクトルであり、式(14)におけるyは、観測値である。また、wは、正規分布のシステムノイズ、即ち、平均が0で分散がσwである。vは、正規分布の観測ノイズ、即ち、平均が0で分散がσvである。これらの式は、図5に示すリチウムイオン蓄電池の等価回路モデルに基づいて設定している。この等価回路モデルは、抵抗素子(R0)と、並列型の第1RC回路(R1,C1)と、並列型の第2RC回路(R2,C2)とが直列接続されて、電源(Voc)が供給されている。第1RC回路と第2RC回路とは、直列に接続されており、これによって分極電圧Vpol,1、Vpol,2が生じる。この等価回路モデルから次式(15),(16),(17)を立てることができる。
【0081】
【数13】
各式(15),(16),(17)におけるR、R、Rは、内部抵抗であり、C1、C2はキャパシタンスである。Vpol,1、Vpol,2は、RC並列回路要素毎の分極電圧である。Vc,dは充放電時の端子電圧である。Ic,dは充放電電流であるが、放電時の負の値として定義している。Voc は開回路電圧OCVの電圧値である。これらの式(15),(16),(17)は、前進オイラー法を用いて、式(18),(19)に変換することができる。
【0082】
【数14】
これらの式(18),(19)において、Δtは、時刻kとk+1の間の時間分解能である。これらの式(18),(19)に基づき、前述した状態方程式(13)及び、観測方程式(14)は、式(20),(21)に変換することができる。
【0083】
【数15】
式(20)は、線形関数で構成される。他方、式(21)は、従来のpOCV又は、GITTによって推定されるSOCパラメータの関数であるVoc(k)があるため、非線形関数となる。カルマンフィルタに非線形観測方程式を適用するため、式(21)は、次式(22)のように微分される。
【0084】
【数16】
つまり、式(13)における、Ak,Bk,Cは、次式(23)のように設定した。
【0085】
【数17】
初期条件では、R1=R2=10-4、C1=104、C2=105として設定した。充放電サイクル条件に基づき、Δtは、Δt=10とした。SocによるOcvの微分は、次のサブセクションに記載される6次多項式に回帰したOCVプロファイルに基づいて算出した。
【0086】
カルマンフィルタの2つの重要なステップは、次のように実施した。まず、次式(24),(25)を用いて、予測ステップとして、事前予測の状態空間ベクトルx^ k+1及び、誤差共分散行列Pk+1を算出した。
【0087】
【数18】
次に、次式(26),(27),(28)を用いて、フィルタリング処理として、カルマンゲインgk+1、事後推定の状態空間ベクトルx^ k+1及び、誤差共分散行列Pk+1 を算出した。
【0088】
【数19】
まず、x^0 =0及び、P0 =0を仮のベクトルあるいは行列として与えた。そして、サイクル時系列データとひとつ前のステップのパラメータに基づくAk,Bk,Cを代入し、式(24)~(28)のステップを繰り返し実施する。これらのステップから、充電率SOC,開回路電圧OCV,内部インピーダンスZの値を繰り返し推定する。同時に、開回路電圧OCV及び、内部インピーダンスZの推定プロファイルグラフをガウス関数加算によって変形する。
【0089】
次に、カルマンフィルタによる開回路電圧OCVと内部インピーダンスZの事後推定値と、プロファイルによるグラフ変形のための事前推定誤差の抽出について説明する。
前述したカルマンフィルタのプロセスから、開回路電圧OCVと内部インピーダンスZの事後推定値を次式(29),(30)を用いて算出する。内部インピーダンスZは、直流抵抗として仮定されるとともに、全体の分極電圧Vpol,1(k)+Vpol,2(k)+Ic,d(k)+Vpol,1(k) Z0(k) と充放電電流の商として定義された。
【0090】
【数20】
前述した式(10)におけるEに対応するVoc(k)及び、Z(k)の事前推定誤差は、事前推定値(V^oc(k)及び、Z^(k)と、カルマンフィルタの推定値(V^oc(k)及び、Z^(k))の差によって計算された。6次多項式への近似は開回路電圧OCV及び、内部インピーダンスZの両方に適用され、式(9)におけるベクトルDに対応する標本値がSoc に対する多項式として回帰された。従って、V^oc(k+1)及び、Z^(k+1)は多項式とx^k+1に含まれるS^oc(k+1)によって以下に示すように計算された。
【0091】
【数21】
ここで、Kocv,iとKz,iは、多項式の回帰係数である。
【0092】
事前推定誤差V oc(k+1)= V^oc(k+1) - V^oc(k+1)とZ (k+1) = Z^(k+1) - Z^(k+1)は、式(10)のE として計算・代入され、同時にS^oc(k+1)にはS^oc,0が代入される。
【0093】
次に、充放電エネルギー推定について説明する。
ベクトルDに対応する開回路電圧OCV及び、内部インピーダンスZの標本値はカルマンフィルタによる推定パラメータとプロファイルグラフ変形過程によって継続的に更新された。
【0094】
【数22】
ここで、Cfcは、各サイクルに対応する満充電容量の値である。W^c,d :推定充放電エネルギーの推定値、 V^(Soc):電圧推定値、Z^(Soc):インピーダンス推定関数、I^c,d(Soc) :充放電電流として、サイクルあたりの充放電エネルギーを推定し、前記推定充放電エネルギーと時間帯ごと電気料金を用いて、経済性を推定する。
前述したように、数多くのFCC劣化診断の報告事例が存在することを踏まえ、CfC は、実際に測定された値として設定している。充放電サイクル条件として定電力モードが採用され、すなわち電力P、I^c,d(Soc)、V^oc(Soc)及び、Z^(Soc)間の関係は、次式(34)の関係となる。
【0095】
【数23】
ここでPはIc,dと同様に、放電時に負の値として定義されることに注意が必要である。結局、I^c,d(Soc)は二次方程式(34)を以下のように解くことで計算できる。
【0096】
【数24】
この式(35)により、式(34)で既知のP、V^oc(Soc)、Z^(Soc)から計算でき、W^c,d を算出することができる。
【0097】
加えて、V^c(Soc)はカルマンフィルタのCの参照として使われるため、初期のV^oc(Soc)を人為的に設定しなければならない。市販のリチウムイオン蓄電池のV^oc(Soc)プロファイルは、典型的には3種類の電極として大まかに設定することができる。すなわち、Co/Mn/Ni正電極のタイプ、FePO正電極のタイプ、そしてTi負電極のタイプである。リチウムイオン蓄電池の製造者による活物質構成によってプロファイルは微妙に異なるが、粗く設定された初期V^oc(Soc)をカルマンフィルタ及び、プロファイルグラフ変形による継続的学習によって収束させることできる。即ち、ある程度不確定な数値を初期設定しても、カルマンフィルタ及び、プロファイルグラフ変形を用いた継続的学習によって収束させて、正解を導く半教師学習を実行していることを示唆している。一方、初期Z^(Soc)は、カルマンフィルタでのx^0 = 0 の設定により、0となる。また、Z^(Soc)もV^c(Soc)と同様に収束させることができる。
【0098】
次に、充放電エネルギーの推定誤差と推定精度の分析について説明する。
本実施形態では、学習率L、グラフの補正幅σ、そして初期とのV^oc(Soc)及び、実際の開回路電圧OCVプロファイルの差について主に議論した。分析し定量的に比較するために、i回目サイクルの実測値Wc,d,iを測定し、対応する推定誤差W c,d,iを推定値W^c,d,iから次式(36)により算出する。
【0099】
【数25】
本実施形態によれば、精度の良い充放電曲線を推定でき、さらに充放電曲線を開放端電圧値とインピーダンスの近似曲線から推定するので、電流レートが変化した場合にも対応できる充放電曲線を推定できる。推定された充放電曲線は、充放電エネルギーEの算出や、蓄電池の経済性の評価に用いるなど、種々の目的で利用できる。充放電エネルギーEの算出は、以下の式(37)を用いることができる。但し、FCC:満充電容量、V(Soc):充放電電圧、SOC:充電率とする。
【0100】
【数26】
[経済性推定]
次に、本実施形態の経済性推定の処理について説明する。
ここでは、経済性を推定するため、推定された充放電曲線を用いる。例えば、料金が高い時間帯の電気料金をThigh[円/kWh]、料金が低い時間帯の電気料金をTlow[円/kWh]とすると、1回の充放電サイクルにおける経済メリットG[円/kWh]は、次式(38)で表せる。
【0101】
【数27】
本実施形態のリチウムイオン蓄電池8直モジュールの充放電試験において、差電圧Veから充電電力量Ecおよび放電電力量Edを推定して得た経済メリットG[円/kWh]を図20に示す。ここで、線Aは、経済メリットG(推定値)、線Bは、経済メリットG(実測値)、線Cは、推定エラーである。なお、東京電力エナジーパートナーのスマートライフプラン(2017年9月16日時点)を参考に、電気料金の高値Thighを25.33円/kWh、安値Tlowを17.46円/kWhとした。
【0102】
一般的に蓄電池の経済メリットG(円/kWh)が最も高い値となるのは,蓄電池の充放電効率(Wh/Wh)が高い値となる新品の時であり,また、最も低い値となるのは劣化が進んで満充電容量FCC(Ah)および充放電効率(Wh/Wh)が低い値となる寿命末期の時である。リチウムイオン蓄電池の場合、満充電容量FCC(Ah)が新品の時の60%ないし80%に低下した時を寿命末期と定義することが通例である。ここで、新品の蓄電池の経済メリットGnewが得られる時を1、寿命末期の蓄電池の経済メリットGendしか得られない時を0として、現在の蓄電池の経済メリットGcurrの状況を示す蓄電池の経済性指標であるSOEc(State of Economy)を下記の式(39)で定義する。
【0103】
【数28】
但し、Gは式(38)で表される充放電サイクル1回分の経済メリットであり、Gcurrは現在の充放電サイクル1回分の経済メリット、Gnewは新品時の充放電サイクル1回分の経済メリット、Gendは電池寿命末期の充放電サイクル1回分の経済メリットである。
【0104】
差電圧Veは、定置用リチウムイオン蓄電池の運用中に測定できる。従って予め差電圧Veと、満充電容量FCCおよび充放電電圧Vc(SOC)、Vd(SOC)の関係を求めておけば、そこから経済性指標SOEcの値を得ることができる。
【0105】
以上のように本実施形態によれば、カルマンフィルタによるリチウムイオン蓄電池の状態推定は、推定された充電率Socを、(Soc,0)即ち、SOC軸上のグラフ変形の中心座標の決定に用いることができる。式(5)で生成された不確定なOCVプロファイルが最初に設定されたとしても、OCVプロファイルの正確な収束と、前述した図10A-10Eに示したような各サイクルの実際の充放電エネルギーへの適応的な推定とが実現できる。
【0106】
本実施形態は、リチウムイオン蓄電池の状態推定に対して、カルマンフィルタが任意に決めた不確定なOCV参照関数に対するロバスト性を有しているという特徴を有している。即ち、素性の分からないリユースリチウムイオン蓄電池に対して、1)三元系、2)リン酸鉄系、3)チタン酸系のいずれか程度の情報さえわかれば、公知な情報から、ある程度不確定であっても初期OCVリファレンスを仮設定して、カルマンフィルタのアルゴリズムとガウス関数を用いることにより、適正値に収束された充電率SOC値、分極電圧、内部インピーダンスを含む状態パラメータを推定することができ、且つ効率劣化診断の学習を収束させることができる。本実施形態においては、推定がリユースリチウムイオン蓄電池を想定した、任意で且つ未知な開回路電圧OCV及び、内部インピーダンスZの初期値であっても、未使用のリチウムイオン蓄電池と同様に実施できる。即ち、素性が不明なリユースリチウムイオン蓄電池に適用できる。
【0107】
よって、本実施形態の蓄電装置は、充放電曲線及び経済性推定装置6のカルマンフィルタを採用した状態推定部30とガウス関数加算によるグラフ変形法を用いることにより、未使用又はリユースにであっても、リチウムイオン蓄電池のSOC値、分極電圧及び、内部インピーダンスを推定することができる。よって、複数のリユースリチウムイオン蓄電池がと1つの集合体として用いたとしても、個々のリユースリチウムイオン蓄電池の特性を考慮して高効率に運用することができる。
【0108】
本実施形態によれば、精度の良い充放電曲線を推定でき、さらに充放電曲線を開放端電圧とインピーダンスの近似曲線から推定するので、電流レートが変化した場合にも対応できる充放電曲線を推定できる。推定された充放電曲線は、充放電エネルギーEの算出や、蓄電池の経済性の評価に用いるなど、種々の目的で利用できる。
【0109】
また、本実施形態の蓄電装置は、分散協調型システム、例えば、リサイクルのリチウムイオン蓄電池を含む複数のリチウムイオン蓄電池が1つの集合体として設置された定置用リチウムイオン蓄電池の経済性指標SOEcをリアルタイムに得ることができれば、協調制御している定置用リチウムイオン蓄電池(分散電池)の中からより収益性の高いものを優先的に選択して運用する、充電優先度決定を行うことができ、経済的な運用が行える。
【0110】
尚、この発明は、上記実施形態に記載されるにもの限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々に変形してもよい。更に、開示される複数の構成要件を選択し又は組合せにより上記課題を解決する種々の発明が抽出される。
【符号の説明】
【0111】
1…蓄電装置、2…パワーコンディショナ、3…電池モジュール、4…バッテリー管理部、5…エネルギー管理部、6…充放電曲線及び経済性推定装置、7…電池温度測定部、8…特定負荷、9…電力系統、11…二次電池、12…セル監視部、13…保護部、14…演算制御部、15…表示部、16…サーバー、17…インターフェース部、18…ネットワーク通信網、19…外部機器、20…システムサーバー、22…充電用電源部、23…放電部、24…放電用負荷部、25…測定部、26…時間計測部、27…推定演算処理部、28…SOC算出部、29…関数導出部、30…状態推定部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図9C
図10A
図10B
図10C
図10D
図10E
図11
図12
図13
図14