(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008301
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】異常検知装置、異常検知方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20240112BHJP
【FI】
H02P29/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110055
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】三浦 幸也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 啓二
(72)【発明者】
【氏名】箕輪 祐貴
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501BB08
5H501BB09
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501LL22
5H501LL39
5H501LL53
5H501MM09
(57)【要約】
【課題】回転機の固定子コイルが溶断する前に、早期に異常を検知する。
【解決手段】回転機の固定子コイルの異常を検知する異常検知装置であって、異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値の差である差電流を算出する差電流算出部と、算出した差電流と、固定子コイルの素線の断線を検知するための異常検知条件とに基づいて、素線断線の有無を判定する判定部と、判定部による素線断線の有無の判定結果を出力する出力部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機の固定子コイルの異常を検知する異常検知装置であって、
異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値の差である差電流を算出する差電流算出部と、
算出した前記差電流と、固定子コイルの素線の断線を検知するための異常検知条件とに基づいて、素線断線の有無を判定する判定部と、
前記判定部による素線断線の有無の判定結果を出力する出力部と、
を備える、異常検知装置。
【請求項2】
前記異常検知条件として、算出した前記差電流が予め設定された閾値を超えた場合に素線が断線したと判定する条件が設定されており、
前記判定部は、
前記差電流が前記閾値を超えたか否かを判定し、
前記閾値を超えた差電流を求めた二相のうち少なくともいずれかにおいて素線が断線したと判定する、請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記異常検知条件として、算出した前記差電流が、差電流の予測値に基づく差電流が取り得る値の予測正常範囲から外れた場合に素線が断線したと判定する条件が設定されており、
プロセスデータを説明変数とし、差電流を目的変数とする機械学習モデルを用いて、リアルタイムで取得されるプロセスデータから前記差電流の予測値を取得する差電流予測部を備え、
前記判定部は、
前記差電流算出部により算出した前記差電流が、前記差電流予測部により取得された前記差電流の予測値に基づき設定された前記予測正常範囲から外れたか否かを判定し、
前記予測正常範囲から外れた差電流を求めた二相のうち少なくともいずれかにおいて素線が断線したと判定する、請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記異常検知条件を満たす差電流が2つあるとき、いずれの差電流にも含まれる相において素線が断線したと判定する、請求項2または3に記載の異常検知装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記異常検知条件を満たす差電流を求めた二相のうち、電流値の変化率の大きい相において素線が断線したと判定する、請求項2または3に記載の異常検知装置。
【請求項6】
回転機の固定子コイルの異常を検知する異常検知方法であって、
異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値の差である差電流を算出する差電流算出ステップと、
算出した前記差電流と、固定子コイルの素線の断線を検知するための異常検知条件とに基づいて、素線断線の有無を判定する判定ステップと、
素線断線の有無の判定結果を出力する出力ステップと、
を含む、異常検知方法。
【請求項7】
コンピュータを、
回転機の固定子コイルの異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値の差である差電流を算出する差電流算出部と、
算出した前記差電流と、固定子コイルの素線の断線を検知するための異常検知条件とに基づいて、素線断線の有無を判定する判定部と、
前記判定部による素線断線の有無の判定結果を出力する出力部と、
を備える、異常検知装置として機能させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転機の固定子コイルの異常を検知する異常検知装置、異常検知方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
多相回転機(以下、単に「回転機」ともいう。)において、固定子コイルが溶断すると、地絡もしくは短絡の大規模な回転機の損壊につながる。このため、回転機の異常を早期に検知することは重要である。
【0003】
例えば特許文献1には、プラント機器を制御するプラント制御装置に関し、回転機の運転状況を示すパラメータの状態量と、回転機における監視対象部位の変位量とを検出し、検出されたパラメータの状態量に対応する監視対象部位の正常時の変位量と検出された監視対象部位の変位量を比較して、その監視対象部位の異常を検知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、固定子コイルの溶断は、固定子コイルを構成する素線の断線が拡大することにより生じる。固定子コイルの素線が断線すると、断線した素線の電気抵抗が増加して健全な素線に電流が移り、健全な素線で断線した素線の電流を分担する。このため、固定子コイル電流値にはほとんど変化が現れず、素線の断線が生じた固定子コイルの周辺で局所的な加熱が生じるのみである。その後、素線の断線が他の素線に拡大すると、コイル導体面積が減少して残った健全な素線の電流密度が上昇し、ジュール熱で自己溶断し、最終的に固定子コイルが断線する。
【0006】
このような固定子コイルが断線に至るまでの過程を踏まえると、固定子コイルの素線の断線が拡大する前に、素線の断線を検知できることが望ましい。しかし、素線が断線しても、固定子コイル電流値はほとんど変化せず、固定子コイルの周辺の温度上昇も局所的であることから、各相の固定子コイル電流値や固定子コイルに設置された埋め込み温度計で温度を測定しても、素線の断線を検知することは難しい。上記特許文献1にも、回転機の固定子コイルの素線の断線を検知する具体的な手法は何ら開示されていない。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、回転機の固定子コイルが溶断する前に、早期に異常を検知することが可能な、異常検知装置、異常検知方法及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、回転機の固定子コイルの異常を検知する異常検知装置であって、異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値の差である差電流を算出する差電流算出部と、算出した差電流と、固定子コイルの素線の断線を検知するための異常検知条件とに基づいて、素線断線の有無を判定する判定部と、判定部による素線断線の有無の判定結果を出力する出力部と、を備える、異常検知装置が提供される。
【0009】
異常検知条件として、算出した差電流が予め設定された閾値を超えた場合に素線が断線したと判定する条件が設定されてもよい。このとき、判定部は、差電流が閾値を超えたか否かを判定し、閾値を超えた差電流を求めた二相のうち少なくともいずれかにおいて素線が断線する。
【0010】
あるいは、異常検知条件として、算出した差電流が、差電流の予測値に基づく差電流が取り得る値の予測正常範囲から外れた場合に素線が断線したと判定する条件が設定されてもよい。このとき、異常検知装置は、プロセスデータを説明変数とし、差電流を目的変数とする機械学習モデルを用いて、リアルタイムで取得されるプロセスデータから差電流の予測値を取得する差電流予測部をさらに備え、判定部は、差電流算出部により算出した差電流が、差電流予測部により取得された差電流の予測値に基づき設定された予測正常範囲から外れたか否かを判定し、予測正常範囲から外れた差電流を求めた二相のうち少なくともいずれかにおいて素線が断線したと判定する。
【0011】
判定部は、異常検知条件を満たす差電流が2つあるとき、いずれの差電流にも含まれる相において素線が断線したと判定してもよい。
【0012】
判定部は、異常検知条件を満たす差電流を求めた二相のうち、電流値の変化率の大きい相において素線が断線したと判定してもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、回転機の固定子コイルの異常を検知する異常検知方法であって、異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値の差である差電流を算出する差電流算出ステップと、算出した差電流と、固定子コイルの素線の断線を検知するための異常検知条件とに基づいて、素線断線の有無を判定する判定ステップと、素線断線の有無の判定結果を出力する出力ステップと、を含む、異常検知方法が提供される。
【0014】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、コンピュータを、回転機の固定子コイルの異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値の差である差電流を算出する差電流算出部と、算出した差電流と、固定子コイルの素線の断線を検知するための異常検知条件とに基づいて、素線断線の有無を判定する判定部と、判定部による素線断線の有無の判定結果を出力する出力部と、を備える、異常検知装置として機能させるためのコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、素線に断線が発生した相と健全な相とでは相電流に差が生じるため、異なる二相の差電流に基づき、回転機の固定子コイルが溶断する前に、早期に異常を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】三相交流回転機の固定子コイルの結線図であり、二重星形結線を示している。
【
図2】本発明の一実施形態に係る、手法1に基づき素線断線を検知するための異常検知装置を示すブロック図である。
【
図3】手法1に基づく固定子コイルの異常検知方法を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の一実施形態に係る、手法2に基づき素線断線を検知するための異常検知装置を示すブロック図である。
【
図5】手法2に基づく固定子コイルの異常検知方法を示すフローチャートである。
【
図6】素線の断線発生相を特定する処理を示す説明図である。
【
図7】異常検知装置として機能する情報処理装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図8】実施例Aとして、閾値と算出した差電流との比較により素線断線の有無を判定した場合の一異常検知例を示すグラフである。
【
図9】実施例Bとして、差電流の予測値に基づき素線断線の有無を判定した場合の一異常検知例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
[1.回転機の構成]
まず、
図1に基づいて、本発明の一実施形態に係る異常検知装置により監視する回転機の一構成例について説明する。
図1は、三相交流回転機10の固定子コイル13の結線図であり、二重星形結線を示している。
【0019】
三相交流回転機10は、三相交流が流れる回転機であって、例えば電動機や発電機である。三相交流回転機10は、固定子、回転子にそれぞれ独立したコイルを有し、例えば三相交流回転機10が電動機の場合、各コイルの電磁誘導作用によってトルクを発生し回転する。また、例えば三相交流回転機10が発電機の場合、タービンの駆動によって回転子が回転し、電磁誘導作用によって固定子コイルが誘起される。三相交流回転機10は、三相交流回路にコイルを結線して構成される。コイルの結線方法には、星形結線(Y結線、スター結線)とデルタ結線(Δ結線)とがある。
【0020】
星形結線は、R相(11R)、S相(11S)、T相(11T)の3つの相の一端を1箇所で結合した結線である。
図1に示す星形結線では、各相11R、11S、11Tがそれぞれ二重となっており、固定子コイル13が並列に接続されている。したがって、R相(11R)の相電流I
Rは、並列する固定子コイル13を相電流I
R1及び相電流I
R2に分離して流れ、S相(11S)の相電流I
Sは、並列する固定子コイル13を相電流I
S1及び相電流I
S2に分離して流れ、T相(11T)の相電流I
Tは、並列する固定子コイル13を相電流I
T1及び相電流I
T2に分離して流れる。なお、
図1に示すV
RS、V
ST、V
TRは線間電圧である。
【0021】
図1右上には、固定子コイル13の断面を模式的に示している。固定子コイル13は、固定子鉄心(図示せず。)に素線15を巻回して構成されている。
【0022】
星形結線の各相11R、11S、11Tの近傍には、それぞれ、埋め込み温度計17R、17S、17Tが設置されている。埋め込み温度計17R、17S、17Tは、回転機10に予め埋め込まれた抵抗温度計素子、熱電対素子等であり、電気的に埋め込まれた箇所の温度を測定する。
【0023】
[2.固定子コイルの異常検知]
図1に示したような回転機10において、固定子コイル13が溶断すると、地絡もしくは短絡の大規模な回転機10の損壊につながる。固定子コイル13の溶断は、固定子コイル13を構成する素線15の断線が拡大することにより生じる。
【0024】
固定子コイル13の素線15が断線すると、断線した素線15の電気抵抗が増加するため、健全な素線15で断線した素線15の電流を分担する。このため、固定子コイル電流値(すなわち、相電流IR、IS、IT)にはほとんど変化が現れず、素線15の断線が生じた固定子コイル13の周辺で局所的な加熱が生じるのみである。その後、素線15の断線が他の素線15にも拡大すると、コイル導体面積が減少して残った健全な素線15の電流密度が上昇する。このとき発生するジュール熱で素線15が自己溶断し、最終的に固定子コイル13が断線する。固定子コイル13の断線まで異常が進展すると、断線した固定子コイル13から健全な固定子コイル13に電流が移り、各相の相電流IR、IS、ITが平衡ではなくなる。
【0025】
固定子コイル13の断線の発生は、温度上昇及び相電流の不平衡性を生じさせることから、埋め込み温度計17R、17S、17Tの測定値あるいは各相の相電流IR、IS、ITのアンバランスを監視することにより、検知することができる。しかし、固定子コイル13の断線まで異常が進展した状態では、隣接する固定子コイル13間の電流の不平衡性に起因する熱伸び差によって固定子コイル13の絶縁体が損傷し、地絡もしくは短絡といった回転機10の大規模な損壊につながる。このため、固定子コイル13の素線15の断線が拡大する前に、素線15の断線を検知できることが望ましい。
【0026】
固定子コイル13の素線15の断線が拡大する前は、固定子コイル電流値(すなわち、相電流IR、IS、IT)は発電や負荷の変化に対してほとんど変化せず、固定子コイル13の周辺の温度上昇も局所的である。このため、各相の相電流IR、IS、ITや埋め込み温度計17R、17S、17Tで温度を測定しても、素線15の断線を検知することは難しい。
【0027】
本実施形態に係る固定子コイル13の異常検知の手法は、このような課題に鑑みてなされたものであり、固定子コイル13の溶断に至る前の少数の素線15の断線状態で、固定子コイル13内部の異常を検知する。具体的には、異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値(相電流)の差である差電流を算出し、算出した差電流と、固定子コイル13の素線15の断線を検知するための異常検知条件とに基づいて、異常検知条件を満たすか否かによって素線断線の有無を判定し、素線断線の有無の判定結果を出力する。素線断線の有無を判定する異常検知条件としては、例えば、算出した差電流が予め設定された閾値を超えた場合に素線が断線したと判定する条件、算出した差電流が、差電流の予測値に基づく差電流が取り得る値の範囲(以下、「予測正常範囲」ともいう。)から外れた場合に素線が断線したと判定する条件、等を設定し得る。
【0028】
固定子コイル13の素線15に断線が発生していないときには、各相の相電流IR、IS、ITはほぼ同一であり、異なる二相の差電流ΔIRS(=IR-IS)、ΔIST(=IS-IT)、ΔITR(=IT-IR)はゼロとなる。一方、固定子コイル13の素線15に断線が発生すると、回路抵抗に微小な変化が生じ、各相電流IR、IS、ITに微小な変化が生じる。このため、素線15に断線が発生した相と健全な相とでは相電流IR、IS、ITに差が生じ、差電流ΔIRS、ΔIST、ΔITRがゼロでなくなる。その結果、素線15に断線が発生した相と健全な相との差電流はゼロではなくなる。本実施形態に係る固定子コイル13の異常検知の手法では、素線15に断線が発生した相と健全な相とでは相電流IR、IS、ITに差が生じることに着目し、異なる二相の差電流に基づき、素線15の断線の発生を検知し、固定子コイル13の断線による回転機10の大規模な損壊を未然に防止する。
【0029】
以下、本実施形態に係る固定子コイル13の異常検知装置100及び異常検知方法について、詳細に説明する。以下では、固定子コイル13の異常検知の手法として、算出した差電流が予め設定された閾値を超えた場合に素線が断線したと判定する異常検知条件に基づき、素線断線の有無を判定する場合(手法1)と、算出した差電流が差電流の予測値に基づく差電流が取り得る値の予測正常範囲から外れた場合に素線が断線したと判定する異常検知条件に基づき、素線断線の有無を判定する場合(手法2)とについて説明する。
【0030】
[2-1.手法1(閾値に基づく素線断線の検知)]
まず、
図2及び
図3に基づいて、予め設定された閾値と算出した差電流との比較により素線断線の有無を判定する場合について説明する。
図2は、手法1に基づき素線断線を検知するための異常検知装置100を示すブロック図である。
図3は、手法1に基づく固定子コイル13の異常検知方法を示すフローチャートである。
【0031】
(1)異常検知装置の構成
図2に示すように、回転機10には、回転機10の異常を検知する装置として、監視装置40と、異常検知装置100とが設けられている。
【0032】
監視装置40は、回転機10の相電流、温度等を取得して回転機10の状態を監視する装置である。例えば、監視装置40には、電流検出器20により測定された回転機10の各相の相電流IR、IS、ITが変換器30によってアナログデータからデジタルデータに変換された値が入力される。監視装置40は、入力された回転機10の相電流IR、IS、ITの変化を監視する。
【0033】
異常検知装置100は、回転機10の固定子コイル13の素線断線を検知する装置である。異常検知装置100は、
図2に示すように監視装置40とデータ送受信可能に接続されており、監視装置40から受信したデータに基づき、回転機10の固定子コイル13の素線15に生じた断線を検知する。なお、
図2では、異常検知装置100は、監視装置40とは別の装置として構成されているが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、1つの装置により監視装置40及び異常検知装置100の機能が実行されるように構成してもよい。
【0034】
異常検知装置100は、
図2に示すように、差電流算出部110と、判定部120と、出力部130とを備える。
【0035】
差電流算出部110は、異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値の差である差電流を算出する。差電流算出部110は、監視装置40から回転機10の相電流IR、IS、ITを取得し、異なる二相の差電流ΔIRS(=IR-IS)、ΔIST(=IS-IT)、ΔITR(=IT-IR)を算出する。差電流算出部110は、算出した差電流ΔIRS、ΔIST、ΔITRを、判定部120へ出力する。
【0036】
判定部120は、差電流算出部110が算出した差電流と、固定子コイル13の素線15の断線を検知するための異常検知条件とに基づいて、素線断線の有無を判定する。手法1の判定部120は、予め設定された閾値を用いて、差電流が閾値を超えたか否かを判定し、閾値を超えた差電流を求めた二相のうち少なくともいずれかにおいて素線15が断線したと判定する。異常検知条件に設定される閾値は、例えば、実験等により素線15に断線が生じたときの差電流の値に基づき設定してもよい。判定部120は、素線断線の有無の判定結果を出力部130へ出力する。
【0037】
出力部130は、判定部120による素線断線の有無の判定結果を出力装置50へ出力する。出力部130は、素線断線の有無の判定結果として、例えば、回転機10の各相について、素線15に断線が生じている可能性があるか否かを出力する。また、出力部130は、素線断線の有無の判定結果として、差電流算出部110が算出した差電流ΔIRS、ΔIST、ΔITRの時系列データと閾値との関係を示すグラフを出力してもよい。さらには、出力部130は、素線15に断線が生じている可能性がある場合に、ランプを点灯させたり、アラームを出力させたりしてもよい。
【0038】
出力装置50は、出力部130から入力されたデータを出力する装置であり、例えばディスプレイやプリンター、ランプ等の表示装置、スピーカ等の音声出力装置である。出力部130が出力した素線断線の有無の判定結果が出力装置50に出力されることにより、回転機10を監視する監視者に、回転機10に異常が発生したか否かが通知される。
【0039】
(2)異常検知方法
次に、
図3に基づいて、
図2に示す異常検知装置100による固定子コイルの異常検知方法を説明する。
【0040】
まず、差電流算出部110は、異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値の差である差電流を算出する(S100)。差電流算出部110は、監視装置40から回転機10の相電流IR、IS、ITを取得し、異なる二相の差電流ΔIRS(=IR-IS)、ΔIST(=IS-IT)、ΔITR(=IT-IR)を算出する。差電流算出部110は、算出した差電流ΔIRS、ΔIST、ΔITRを、判定部120へ出力する。
【0041】
次いで、判定部120は、差電流算出部110が算出した差電流が、予め設定された閾値を超えたか否かを判定する(S110)。判定部120は、差電流が閾値を超えているとき(S110:YES)、当該差電流を求めた二相のうち少なくともいずれかにおいて素線15が断線したと判定する(S120)。一方、判定部120は、差電流が閾値以下のとき(S110:NO)、当該差電流を求めた二相には素線15の断線はないと判定する(S130)。
【0042】
ステップS110~S130の処理は、ステップS100にて算出した3つの差電流ΔIRS、ΔIST、ΔITRについて実施される。未判定の差電流がある場合には(S140:NO)、判定部120は、未判定の差電流についてステップS110~S130の処理を実行する。判定部120がすべての差電流についてステップS110~S130の処理を実行すると(S140:YES)、出力部130は、判定部120による素線断線の有無の判定結果を出力装置50へ出力する(S150)。出力部130が出力した素線断線の有無の判定結果が出力装置50に出力されることにより、回転機10を監視する監視者に、回転機10に異常が発生したか否かが通知される。
【0043】
このように、異なる二相の差電流を閾値と比較することにより、回転機10のいずれかの相の素線15が断線していることを検知することができる。素線15の断線を検知することにより、固定子コイル13の断線による回転機10の大規模な損壊を未然に防止する。
【0044】
[2-2.手法2(差電流の予測値に基づく素線断線の検知)]
次に、
図4及び
図5に基づいて、算出した差電流が差電流の予測値の範囲内にあるか否かにより素線断線の有無を判定する場合について説明する。
図4は、手法2に基づき素線断線を検知するための異常検知装置100を示すブロック図である。
図5は、手法2に基づく固定子コイル13の異常検知方法を示すフローチャートである。なお、以下の説明において、手法1と同様の構成、機能については詳細な説明を省略する。
【0045】
(1)異常検知装置の構成
図4に示すように、回転機10には、
図2と同様、回転機10の異常を検知する装置として、監視装置40と、異常検知装置100とが設けられている。電流検出器20、変換器30、監視装置40の構成及びその機能は、手法1と同様である。
【0046】
異常検知装置100は、回転機10の固定子コイル13の素線断線を検知する装置である。異常検知装置100は、
図4に示すように監視装置40とデータ送受信可能に接続されており、監視装置40から受信したデータに基づき、回転機10の固定子コイル13の素線15に生じた断線を検知する。なお、
図4においても、異常検知装置100は、監視装置40とは別の装置として構成されているが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、1つの装置により監視装置40及び異常検知装置100の機能が実行されるように構成してもよい。
【0047】
異常検知装置100は、
図4に示すように、差電流算出部110と、判定部120と、出力部130と、機械学習モデル生成部140と、差電流予測部150とを備える。
【0048】
差電流算出部110は、異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値の差である差電流を算出する。差電流算出部110の機能は手法1と同様であり、算出した差電流ΔIRS、ΔIST、ΔITRを、判定部120へ出力する。
【0049】
判定部120は、差電流算出部110が算出した差電流と、固定子コイル13の素線15の断線を検知するための異常検知条件とに基づいて、素線断線の有無を判定する。手法2の判定部120は、差電流の予測値に基づく差電流が取り得る値の範囲(すなわち、予測正常範囲)から外れた場合に素線が断線したと判定する条件に基づき、差電流が当該予測正常範囲を外れたか否かを判定する。手法2では、差電流算出部110が算出する実際の差電流が、正常(素線15が断線していない状態)であれば取るであろう差電流の予測値から所定値以上外れると、素線15が断線したことにより二相の相電流の平衡が崩れていると考えられることに基づき、素線断線の有無を判定する。
【0050】
なお、予測正常範囲は、例えば、差電流の予測値の2σもしくは3σの範囲としてもよい。また、差電流の予測値は、後述する差電流予測部150により算出された値を用いてもよい。
【0051】
判定部120は、差電流算出部110により算出した差電流が、差電流の予測値に基づき設定された予測正常範囲から外れたか否かを判定する。そして、判定部120は、差電流が予測正常範囲から外れているとき、当該差電流を求めた二相のうち少なくともいずれかにおいて素線15が断線したと判定する。判定部120は、素線断線の有無の判定結果を出力部130へ出力する。
【0052】
出力部130は、判定部120による素線断線の有無の判定結果を出力装置50へ出力する。出力部130及び出力装置50の機能は手法1と同様であり、出力部130が出力した素線断線の有無の判定結果が出力装置50に出力されることにより、回転機10を監視する監視者に、回転機10に異常が発生したか否かが通知される。
【0053】
機械学習モデル生成部140は、プロセスデータを説明変数とし、差電流を目的変数とする機械学習モデルを生成する。機械学習モデル生成部140は、プロセスデータを記憶するプロセスデータデータベース(DB)5から、機械学習モデルを構築するための説明変数として、所定期間のプロセスデータを取得する。プロセスデータは、例えば、回転機10の出力電力値、固定子コイル13の温度、外気温、相電流等である。また、機械学習モデル生成部140は、プロセスデータに含まれる相電流の値から、目的変数となる差電流を算出する。そして、機械学習モデル生成部140は、プロセスデータを説明変数とし、差電流を目的変数とする機械学習モデルを学習する。機械学習手法は特に限定されないが、例えば、ニューラルネットワークによる回帰分析等を用いてもよい。機械学習モデル生成部140は、生成した機械学習モデルを、差電流予測部150に出力する。
【0054】
差電流予測部150は、プロセスデータを説明変数とし、差電流を目的変数とする機械学習モデルを用いて、リアルタイムで取得されるプロセスデータから差電流の予測値を取得する。すなわち、差電流予測部150は、電流検出器20により測定された回転機10の各相の相電流から差電流算出部110で算出される差電流に対応する差電流の予測値を取得する。かかる差電流の予測値は、回転機10が正常であれば取るであろう値である。差電流予測部150は、電流検出器20により各相の相電流を測定したときのプロセスデータを取得して、機械学習モデル生成部140により生成された機械学習モデルに入力し、出力として差電流の予測値を得る。差電流予測部150は、取得した差電流の予測値を、判定部120に出力する。
【0055】
以上、手法2を実行するための異常検知装置100の構成を説明した。なお、
図4では、異常検知装置100は機械学習モデル生成部140を備えているが、本発明はかかる例に限定されず、機械学習モデル生成部140の機能は、異常検知装置100とは別の装置で実行させてもよい。この場合、異常検知装置100は、別の装置で生成された機械学習モデルを取得して、差電流予測部150を機能させればよい。
【0056】
(2)異常検知方法
次に、
図5に基づいて、
図4に示す異常検知装置100による固定子コイルの異常検知方法を説明する。
【0057】
まず、機械学習モデル生成部140は、差電流の予測値を求めるための機械学習モデルを予め取得する(S210)。機械学習モデル生成部140は、プロセスデータを説明変数とし、差電流を目的変数とする機械学習モデルを生成する。機械学習モデル生成部140は、生成した機械学習モデルを、差電流予測部150に出力する。
【0058】
回転機10の固定子コイル13の異常検知を開始すると、差電流算出部110は、異なる二相の組み合わせそれぞれについて、各相の電流値の差である差電流を算出する(S210)。ステップS210の処理は、
図3のステップS100と同様に行えばよい。差電流算出部110は、算出した差電流ΔI
RS、ΔI
ST、ΔI
TRを、判定部120へ出力する。
【0059】
また、差電流の予測値に基づき予測正常範囲が設定される(S220)。予測正常範囲の設定では、まず、差電流予測部150が、機械学習モデルを用いて、リアルタイムで取得されるプロセスデータから差電流の予測値を取得する。具体的には、差電流予測部150は、電流検出器20により各相の相電流を測定したときのプロセスデータを取得して、機械学習モデル生成部140により生成された機械学習モデルに入力し、出力として差電流の予測値を得る。続いて、差電流予測部150は、取得した差電流の予測値を、判定部120に出力する。そして、判定部120は、差電流の予測値からの所定の範囲(例えば、差電流の予測値の2σもしくは3σの範囲)を、予測正常範囲として設定する。
【0060】
次いで、判定部120は、差電流算出部110が算出した差電流が予測正常範囲から外れているか否かを判定する(S230)。判定部120は、差電流が予測正常範囲から外れているとき(S230:YES)、当該予測正常範囲から外れた差電流を求めた二相のうち少なくともいずれかにおいて素線15が断線したと判定する(S240)。一方、判定部120は、差電流が予測正常範囲から外れていないとき(S230:NO)、当該予測正常範囲から外れた差電流を求めた二相には素線15の断線はないと判定する(S250)。
【0061】
ステップS220~S250の処理は、ステップS210にて算出した3つの差電流ΔI
RS、ΔI
ST、ΔI
TRについて実施される。未判定の差電流がある場合には(S260:NO)、判定部120は、未判定の差電流についてステップS230~S250の処理を実行する。判定部120がすべての差電流についてステップS230~S250の処理を実行すると(S260:YES)、出力部130は、判定部120による素線断線の有無の判定結果を出力装置50へ出力する(S270)。出力部130が出力した素線断線の有無の判定結果が出力装置50に出力されることにより、回転機10を監視する監視者に、回転機10に異常が発生したか否かが通知される。ステップS230~S270の処理は、
図3のステップS110~S150と同様に行えばよい。
【0062】
このように、異なる二相の差電流を差電流の予測値に基づき設定された予測正常範囲と比較することにより、回転機10のいずれかの相の素線15が断線していることを検知することができる。素線15の断線を検知することにより、固定子コイル13の断線による回転機10の大規模な損壊を未然に防止する。
【0063】
[3.素線断線が生じた相の判定]
上述の手法1、2では、異常検知条件を満した差電流を求めた二相のうちいずれかの相に固定子コイル13の素線15の断線が生じたことを検知できる。さらに、判定部120により、以下の処理を行うことで、異常検知条件を満した差電流を求めた二相のうち、どちらの相に固定子コイル13の素線15の断線が生じたかを特定し得る。素線15が断線した相を特定することで、回転機10の早期復旧が可能となる。
【0064】
(素線の断線発生相の特定方法1)
判定部120は、異常検知条件を満した差電流が2つあるとき、いずれの差電流にも含まれる相において素線15が断線したと判定してもよい。
図6に、素線15の断線発生相を特定する処理を示す。
【0065】
例えば、手法1において、差電流ΔI
RS、ΔI
ST、ΔI
TRを閾値と比較したとき、ΔI
RS及びΔI
STが閾値を超えていたとする。このとき、
図6に示す回路において、ΔI
RSの閾値判定及びΔI
STの閾値判定から「1」、ΔI
TRの閾値判定から「0」が出力される。そして、各差電流の閾値判定結果がともに「1」となった相が、素線15の断線発生相と特定する。本例では、判定部120は、S相の素線が断線したと特定する。
【0066】
また、手法2の場合においても同様に、素線断線が生じた相を特定し得る。この場合、
図6に示した差電流と閾値との比較(すなわち「ΔI
RS>閾値」、「ΔI
ST>閾値」、「ΔI
TR>閾値」)は、差電流と予測正常範囲との比較(すなわち「ΔI
RSが予測正常範囲から外れたか?」、「ΔI
STが予測正常範囲から外れたか?」、「ΔI
TRが予測正常範囲から外れたか?」)となる。例えば、差電流ΔI
RS、ΔI
ST、ΔI
TRを予測正常範囲と比較したとき、ΔI
RS及びΔI
STが予測正常範囲から外れていたとする。このとき、ΔI
RSの予測正常範囲との比較結果及びΔI
STの予測正常範囲との比較結果から「1」、ΔI
TRの予測正常範囲との比較判定から「0」が出力される。そして、各差電流の予測正常範囲との比較結果がともに「1」となった相が、素線15の断線発生相と特定する。本例では、判定部120は、S相の素線が断線したと特定する。
【0067】
(素線の断線発生相の特定方法2)
また、判定部120は、異常検知条件を満した差電流を求めた二相のうち、電流値(相電流)の変化率の大きい相において素線が断線したと判定してもよい。健全な相の相電流は一定の値を取ると考えられる。そこで、判定部120は、異常検知条件を満した差電流を求めた二相のうち、電流値(相電流)の変化率の大きい相を、素線15の断線発生相と特定することができる。
【0068】
以上、本実施形態に係る固定子コイルの異常検知装置とそれによる異常検知方法について説明した。本実施形態によれば、素線に断線が発生した相と健全な相とでは相電流に差が生じることに基づき、異なる二相の組み合わせそれぞれについて各相の電流値(相電流)の差である差電流を算出し、算出した差電流と固定子コイルの素線の断線を検知するための異常検知条件とに基づいて素線断線の有無を判定し、素線断線の有無の判定結果を出力する。このように、異なる二相の差電流に基づき、素線の断線の発生を検知することで、固定子コイルの断線による回転機の大規模な損壊を未然に防止することができる。
【0069】
[4.ハードウェア構成]
図7に基づいて、本実施形態に係る異常検知装置100のハードウェア構成について説明する。
図7は、本実施形態に係る異常検知装置100として機能する情報処理装置900のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【0070】
情報処理装置900は、CPU(Central Processing Unit)901等の1または複数のハードウェアプロセッサ、RAM(Random Access Memory)905、ROM(Read Only Memory)903等の1または複数のメモリを具備し、メモリに格納される1または複数のプログラムが1または複数のハードウェアプロセッサにより実行されることで各種の演算を実行する。また、情報処理装置900は、バス907と、入力I/F909と、出力I/F911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを含む。
【0071】
例えば、CPU901は、演算処理装置及び制御装置として機能する。CPU901は、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、またはリムーバブル記録媒体925に記録された各種プログラムに従って、情報処理装置900内の動作全般またはその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムあるいは演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラム、あるいは、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バス、PCI Express(登録商標)などの外部バスに接続されている。
【0072】
なお、演算処理装置及び制御装置は、CPU901以外に、PLC(Programmable Logic Controller)によって実現してもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェアによって実現してもよい。
【0073】
入力I/F909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバー等の、ユーザが操作する操作手段である入力装置921からの入力を受け付けるインタフェースである。入力I/F909は、例えば、ユーザが入力装置921を用いて入力した情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路等として構成されている。入力装置921は、例えば、赤外線あるいはその他の電波を利用したリモートコントロール装置、あるいは、情報処理装置900の操作に対応したPDA等の外部機器927であってもよい。情報処理装置900のユーザは、入力装置921を操作し、情報処理装置900に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0074】
出力I/F911は、入力された情報を、ユーザに対して視覚的または聴覚的に通知可能な出力装置923へ出力するインタフェースである。出力装置923は、例えば、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置およびランプ等の表示装置であってもよい。あるいは、出力装置923は、スピーカ及びヘッドホン等の音声出力装置や、プリンター、移動通信端末、ファクシミリ等であってもよい。出力I/F911は、出力装置923に対して、例えば、情報処理装置900により実行された各種処理にて得られた処理結果を出力するよう指示する。具体的には、出力I/F911は、表示装置に対して情報処理装置900による処理結果を、テキストまたはイメージで表示するよう指示する。また、出力I/F911は、音声出力装置に対し、再生指示を受けた音声データ等のオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力するよう指示する。
【0075】
ストレージ装置913は、情報処理装置900の記憶部の1つであり、データ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶デバイス、SSD(Solid State Drive)等の半導体記憶デバイス、光記憶デバイスまたは光磁気記憶デバイス等により構成される。ストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラム、プログラムの実行により生成された各種データ、及び、外部から取得した各種データ等を格納する。
【0076】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、情報処理装置900に内蔵あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されているリムーバブル記録媒体925に記録されている情報を読み出し、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されているリムーバブル記録媒体925に情報を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体925は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスクまたは半導体メモリ等である。具体的には、リムーバブル記録媒体925は、CDメディア、DVDメディア、Blu-ray(登録商標)メディア、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体925は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)または電子機器等であってもよい。
【0077】
接続ポート917は、機器を情報処理装置900に直接接続するためのポートである。接続ポート917は、例えば、USB(Universal Serial Bus)ポート、eSATA(external Serial Advanced Technology Attachment)、SAS(Serial Attached SCSI(Small Computer System Interface))ポート等である。情報処理装置900は、接続ポート917に接続された外部機器927から、直接各種データを取得したり外部機器927に各種データを提供したりすることができる。例えば接続ポート917を介して、アラーム情報を通知するための回転灯等のアラーム通知装置を接続してもよい。また、外部機器927として、NAS(Network Attached Storage)を接続し、記憶装置として用いてもよい。
【0078】
通信装置919は、例えば、通信網929に接続するための通信デバイス等で構成された通信インタフェースである。通信装置919は、例えば、有線または無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)またはWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、または、各種通信用のモデム等であってもよい。通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。例えば、通信装置919を介して、情報処理装置900を操作するためのコンピュータを接続することもできる。また、通信装置919に接続される通信網929は、有線または無線によって接続されたネットワーク等により構成されている。例えば、通信網929は、インターネット、家庭内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信または衛星通信等である。
【0079】
以上、情報処理装置900のハードウェア構成の一例を示した。上述の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されてもよく、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されてもよい。情報処理装置900のハードウェア構成は、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて適宜変更可能である。
【実施例0080】
[実施例A(手法1に基づく異常検知)]
図8に、手法1による、予め設定された閾値と算出した差電流との比較により素線断線の有無を判定した場合の一異常検知例を示す。
図8上側のグラフは、
図1に示した星形結線において、埋め込み温度計17R、17S、17Tにより測定されたR相、S相、T相の温度を示している。
図8下側のグラフは、異常検知装置の差電流算出部により算出された差電流ΔI
RS、ΔI
ST、ΔI
TRを示している。異常検知条件の閾値は、0.4[A]及び-0.4[A]とし、差電流が0.4[A]を超えたとき、または、差電流が-0.4[A]を下回ったとき、素線の断線が発生したと判定するものとした。
【0081】
図8に示すように、3日目のP時点において、差電流ΔI
RSが-0.4[A]を下回ったため、異常検知装置は、R相またはS相に素線の断線が発生したと検知した。その後、4日目のQ時点で、R相の温度が著しく上昇し、R相の固定子コイルが断線した。かかる結果より、本実施形態に係る異常検知方法を用いることで、固定子コイルが断線する前に、素線の断線を特定することができることがわかる。
【0082】
[実施例B(手法2に基づく異常検知)]
図9に、手法2による、差電流の予測値に基づき素線断線の有無を判定した場合の一異常検知例を示す。実施例Bは、実施例Aと同一データを用いて、異常検知を行った。
図9には、差電流ΔI
RS(実測値)と、差電流ΔI
RSの予測値から設定した予測正常範囲とを示している。予測正常範囲は、機械学習モデルによる予測値から設定された値である。
図9に示すように、3日目のP時点において、差電流ΔI
RSが予測正常範囲から外れたため、異常検知装置は、R相またはS相に素線の断線が発生したと検知した。P時点は、
図8のP時点と略同一であった。かかる結果より、本実施形態に係る異常検知方法を用いることで、固定子コイルが断線する前に、素線の断線を特定することができることがわかる。
【0083】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0084】
例えば、上記実施形態では、異なる二相の差電流に基づき、素線の断線の発生を検知したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、差電流の代わりに、等価アドミタンスを用いてもよい。等価アドミタンスΔYRS、ΔYST、ΔYTRは、は、各相の電流差を系統電圧によって除した値であり、下記のように表される。等価アドミタンスΔYRS、ΔYST、ΔYTRは、二相ともに素線の断線が生じていない場合には、差電流と同様、ゼロとなる。したがって、差電流の代わりに、等価アドミタンスを用いても、上述の異常検知方法と同様に、素線の断線の発生を検知することができる。
【0085】
ΔYRS=IR/VR-IS/VS≒ΔIRS/ΔVRS
ΔYST=IS/VS-IT/VT≒ΔIST/ΔVST
ΔYTR=IT/VT-IR/VR≒ΔITR/ΔVTR
なお、ΔVRS=(VRS-Vave)/Vave
ΔVST=(VST-Vave)/Vave
ΔVTR=(VTR-Vave)/Vave
(Vave:3相平均電圧実行値)
【0086】
等価アドミタンスを用いた場合、系統電圧変動による外乱が抑制されるため、検知精度の向上が期待される。
【0087】
また、例えば上記実施形態では、二重星形結線の固定子コイルを有する三相交流回転機の場合について説明したが本発明はかかる例に限定されない。例えば星形結線またはデルタ結線の固定子コイルを有する三相交流回転機についても、同様に、固定子コイルの素線の断線を検知することができる。