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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083013
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/08 20100101AFI20240613BHJP
   H01L 33/12 20100101ALI20240613BHJP
   H01L 33/04 20100101ALI20240613BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20240613BHJP
【FI】
H01L33/08
H01L33/12
H01L33/04
H01L33/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197285
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 浩司
【テーマコード(参考)】
5F241
【Fターム(参考)】
5F241AA03
5F241CA05
5F241CA12
5F241CA40
5F241CA48
5F241CA57
5F241CA65
5F241CB11
5F241CB27
5F241CB28
(57)【要約】
【課題】赤色発光の第1活性層と第1活性層よりも発光波長の短い第2活性層を有した発光素子において、第1活性層の発光効率を向上させた発光素子を提供する。
【解決手段】発光素子は、フェイスアップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子であり、赤色の発光波長である第1活性層14と、第1活性層14上に設けられ、ノンドープのInGaNからなるノンドープ層15Aと、n型のInGaNからなるn型層15Bを順に積層させた第1中間層15と、第1中間層15上に設けられ、前記第1活性層14よりも発光波長が短い第2活性層16と、を有する。第1中間層15は、第1活性層14から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるようにIn組成が設定され、第1活性層14における発光材料は、EuドープGaNであり、第2活性層16における発光材料は、InGaNである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェイスアップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子であって、
基板と、
前記基板上に設けられ、n型のIII族窒化物半導体からなるn層と、
前記n層上に設けられ、発光材料をEuドープのIII族窒化物半導体とし、赤色発光する第1活性層と、
前記第1活性層上に設けられ、ノンドープのInを含むIII族窒化物半導体からなる第1ノンドープ層と、n型のInを含むIII族窒化物半導体からなる第1n型層を順に積層させた第1中間層と、
前記第1中間層上に設けられ、発光材料をInを含むIII族窒化物半導体とし、前記第1活性層よりも短い波長で発光する第2活性層と、
を有し、
前記第1中間層は、前記第1活性層から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるようにIn組成が設定されている、発光素子。
【請求項2】
前記第1中間層の厚さは150nm以下であり、前記第1ノンドープ層および前記第1n型層の厚さは10nm以上である、請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記第2活性層上に設けられ、ノンドープのInを含むIII族窒化物半導体からなる第2ノンドープ層と、n型のInを含むIII族窒化物半導体からなる第2n型層を順に積層させた第2中間層と、
前記第2中間層上に設けられ、発光材料をInを含むIII族窒化物半導体とし、前記第1活性層よりも短い波長であって前記第2活性層とは異なる波長で発光する第3活性層と、
をさらに有し、
前記第2活性層および前記第3活性層のうち一方は青色発光、他方は緑色発光であり、
前記第1中間層および前記第2中間層は、前記第1活性層および前記第2活性層から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるようにIn組成が設定され、
前記第2活性層および前記第3活性層のうち緑色発光の方は、量子井戸構造であって発光しないように井戸層の厚さが調整されている歪緩和層と、量子井戸構造であって発光する発光層と、を順に積層させた構造であり、
前記歪緩和層の前記井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長が、前記発光層の発光波長よりも短くなるように設定されている、請求項1に記載の発光素子。
【請求項4】
フェイスアップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子であって、
基板と、
前記基板上に設けられ、n型のIII族窒化物半導体からなるn層と、
前記n層上に設けられ、発光材料をEuドープのIII族窒化物半導体とし、赤色発光する第1活性層と、
前記第1活性層上に設けられ、Inを含むIII族窒化物半導体からなり、前記第1活性層側から順に、p型の第1p層と、p型の第1p+層と、n型の第1n+層と、n型の第1n層が積層された構造である第1中間層と、
前記第1中間層上に設けられ、発光材料をInを含むIII族窒化物半導体とし、前記第1活性層よりも短い波長で発光する第2活性層と、
を有し、
前記第1p+層のp型不純物濃度は前記第1p層のp型不純物濃度よりも高く、前記第1n+層のn型不純物濃度は前記第1n層のn型不純物濃度よりも高く、前記第1p+層と前記第1n+層はトンネル接合構造を形成しており、
前記第1中間層は、前記第1活性層から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるようにIn組成が設定されている、発光素子。
【請求項5】
前記第1p+層および前記第1n+層のIn組成は、前記第1p層および前記第1n層のIn組成よりも高い、請求項4に記載の発光素子。
【請求項6】
前記第1p+層のIn組成は、前記第1n+層のIn組成よりも高い、請求項4に記載の発光素子。
【請求項7】
前記第2活性層上に設けられ、前記第2活性層側から順に、p型の第2p層と、p型の第2p+層と、n型の第2n+層と、n型の第2n層が積層された構造である第2中間層と、
前記第2中間層上に設けられ、発光材料をInを含むIII族窒化物半導体とし、前記第1活性層よりも短い波長であって前記第2活性層とは異なる波長で発光する第3活性層と、
をさらに有し、
前記第2p+層のp型不純物濃度は前記第2p層のp型不純物濃度よりも高く、前記第2n+層のn型不純物濃度は前記第2n層のn型不純物濃度よりも高く、前記第2p+層と前記第2n+層はトンネル接合構造を形成しており、
前記第1中間層および前記第2中間層は、前記第1活性層および前記第2活性層から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるようにIn組成が設定され、
前記第2活性層および前記第3活性層のうち一方は青色発光、他方は緑色発光であり、
前記第2活性層および前記第3活性層のうち緑色発光の方は、量子井戸構造であって発光しないように井戸層の厚さが調整されている歪緩和層と、量子井戸構造であって発光する発光層と、を順に積層させた構造であり、
前記歪緩和層の前記井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長が、前記発光層の発光波長よりも短くなるように設定されている、請求項4に記載の発光素子。
【請求項8】
前記歪緩和層の前記井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長が、前記第2活性層および前記第3活性層のうち青色発光の方の発光波長と等しくなるように設定されている、請求項3または請求項7に記載の発光素子。
【請求項9】
前記発光層の発光波長と前記歪緩和層の前記井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長との差が、40nm以上100nm以下の範囲となるように設定されている、請求項3または請求項7に記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイの高精細化が求められており、1ピクセルを1~100μmオーダーの微細なLEDとするマイクロLEDディスプレイが注目されている。フルカラーとする方式は各種知られているが、たとえば青、緑、赤の各色を発光する3つの活性層を同一基板上に順に積層する方式が知られている。
【0003】
InGaN系材料で赤色発光を実現する場合、In組成(III族窒化物半導体のIII族金属全体に占めるInのモル比)を40%以上とする必要があり、高品質な結晶を作製することが難しい。そこで特許文献1のように、赤色発光にEuドープGaNを用いることが検討されている。この赤色発光は、Eu3+イオンの4f殻内での遷移によるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-175482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、青、緑、赤の各色を発光する3つの活性層を同一基板上に順に積層する方式において、赤色発光をEuドープGaNとする場合の素子構成について十分に検討されていなかった。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、赤色発光の第1活性層と第1活性層よりも発光波長の短い第2活性層を有した発光素子において、第1活性層の発光効率を向上させた発光素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、
フェイスアップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子であって、
基板と、
前記基板上に設けられ、n型のIII族窒化物半導体からなるn層と、
前記n層上に設けられ、発光材料をEuドープのIII族窒化物半導体とし、赤色発光する第1活性層と、
前記第1活性層上に設けられ、ノンドープのInを含むIII族窒化物半導体からなる第1ノンドープ層と、n型のInを含むIII族窒化物半導体からなる第1n型層を順に積層させた第1中間層と、
前記第1中間層上に設けられ、発光材料をInを含むIII族窒化物半導体とし、前記第1活性層よりも短い波長で発光する第2活性層と、
を有し、
前記第1中間層は、前記第1活性層から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるようにIn組成が設定されている、発光素子にある。
【0008】
本発明の他の態様は、
フェイスアップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子であって、
基板と、
前記基板上に設けられ、n型のIII族窒化物半導体からなるn層と、
前記n層上に設けられ、発光材料をEuドープのIII族窒化物半導体とし、赤色発光する第1活性層と、
前記第1活性層上に設けられ、Inを含むIII族窒化物半導体からなり、前記第1活性層側から順に、p型の第1p層と、p型の第1p+層と、n型の第1n+層と、n型の第1n層が積層された構造である第1中間層と、
前記第1中間層上に設けられ、発光材料をInを含むIII族窒化物半導体とし、前記第1活性層よりも短い波長で発光する第2活性層と、
を有し、
前記第1p+層のp型不純物濃度は前記第1p層のp型不純物濃度よりも高く、前記第1n+層のn型不純物濃度は前記第1n層のn型不純物濃度よりも高く、前記第1p+層と前記第1n+層はトンネル接合構造を形成しており、
前記第1中間層は、前記第1活性層から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるようにIn組成が設定されている、発光素子にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の上記態様によれば、赤色発光の第1活性層と第1活性層よりも発光波長の短い第2活性層を有した発光素子において、第1活性層の発光効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1における発光素子の構成を示した図であって基板主面に垂直な断面図。
図2】実施形態1における発光素子の等価回路を示した図。
図3】実施形態1における発光素子の製造工程を示した図。
図4】実施形態1における発光素子の製造工程を示した図。
図5】実施形態1における発光素子の製造工程を示した図。
図6】実施形態1における発光素子の製造工程を示した図。
図7】実施形態1の変形形態における発光素子の構成を示した図であって基板主面に垂直な断面図。
図8】実施形態1の変形形態における発光素子の構成を示した図であって基板主面に垂直な断面図。
図9】実施形態2における発光素子の構成を示した図であって基板主面に垂直な断面図。
図10】実施形態2における発光素子の等価回路を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
発光素子は、フェイスアップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子であって、基板と、基板上に設けられ、n型のIII族窒化物半導体からなるn層と、n層上に設けられ、発光材料をEuドープのIII族窒化物半導体とし、赤色発光する第1活性層と、第1活性層上に設けられ、ノンドープのInを含むIII族窒化物半導体からなる第1ノンドープ層と、n型のInを含むIII族窒化物半導体からなる第1n型層を順に積層させた第1中間層と、第1中間層上に設けられ、発光材料をInを含むIII族窒化物半導体とし、第1活性層よりも短い波長で発光する第2活性層と、を有する。第1中間層は、第1活性層から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるようにIn組成が設定されている。
【0012】
第1中間層の厚さは150nm以下であり、第1ノンドープ層および第1n型層の厚さは10nm以上であってもよい。
【0013】
第2活性層上に設けられ、ノンドープのInを含むIII族窒化物半導体からなる第2ノンドープ層と、n型のInを含むIII族窒化物半導体からなる第2n型層を順に積層させた第2中間層と、第2中間層上に設けられ、発光材料をInを含むIII族窒化物半導体とし、第1活性層よりも短い波長であって第2活性層とは異なる波長で発光する第3活性層と、をさらに有していてもよい。第2活性層および第3活性層のうち一方は青色発光、他方は緑色発光であり、第1中間層および第2中間層は、第1活性層および第2活性層から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるようにIn組成が設定されていてもよい。第2活性層および第3活性層のうち緑色発光の方は、量子井戸構造であって発光しないように井戸層の厚さが調整されている歪緩和層と、量子井戸構造であって発光する発光層と、を順に積層させた構造であり、歪緩和層の井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長が、発光層の発光波長よりも短くなるように設定されていてもよい。
【0014】
他の発光素子は、フェイスアップ型のIII族窒化物半導体からなる発光素子であって、基板と、基板上に設けられ、n型のIII族窒化物半導体からなるn層と、n層上に設けられ、発光材料をEuドープのIII族窒化物半導体とし、赤色発光する第1活性層と、第1活性層上に設けられ、Inを含むIII族窒化物半導体からなり、第1活性層側から順に、p型の第1p層と、p型の第1p+層と、n型の第1n+層と、n型の第1n層が積層された構造である第1中間層と、第1中間層上に設けられ、発光材料をInを含むIII族窒化物半導体とし、第1活性層よりも短い波長で発光する第2活性層と、を有する。第1p+層のp型不純物濃度は第1p層のp型不純物濃度よりも高く、第1n+層のn型不純物濃度は第1n層のn型不純物濃度よりも高く、第1p+層と第1n+層はトンネル接合構造を形成している。第1中間層は、第1活性層から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるようにIn組成が設定されている。
【0015】
第1p+層および第1n+層のIn組成は、第1p層および第1n層のIn組成よりも高くてもよい。また、第1p+層のIn組成は、第1n+層のIn組成よりも高くてもよい。
【0016】
第2活性層上に設けられ、第2活性層側から順に、p型の第2p層と、p型の第2p+層と、n型の第2n+層と、n型の第2n層が積層された構造である第2中間層と、第2中間層上に設けられ、発光材料をInを含むIII族窒化物半導体とし、第1活性層よりも短い波長であって第2活性層とは異なる波長で発光する第3活性層と、をさらに有し。第2p+層のp型不純物濃度は第2p層のp型不純物濃度よりも高く、第2n+層のn型不純物濃度は第2n層のn型不純物濃度よりも高く、第2p+層と第2n+層はトンネル接合構造を形成していてもよい。第1中間層および第2中間層は、第1活性層および第2活性層から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるようにIn組成が設定されていてもよい。第2活性層および第3活性層のうち一方は青色発光、他方は緑色発光であり、第2活性層および第3活性層のうち緑色発光の方は、量子井戸構造であって発光しないように井戸層の厚さが調整されている歪緩和層と、量子井戸構造であって発光する発光層と、を順に積層させた構造であり、歪緩和層の井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長が、発光層の発光波長よりも短くなるように設定されていてもよい。
【0017】
歪緩和層の井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長が、第2活性層および第3活性層のうち青色発光の方の発光波長と等しくなるように設定されていてもよい。また、発光層の発光波長と歪緩和層の井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長との差が、40nm以上100nm以下の範囲となるように設定されていてもよい。
【0018】
(実施形態1)
図1は、実施形態1における発光素子の構成を示した図であり、基板主面に垂直な断面図である。実施形態1における発光素子は青、緑、赤のそれぞれを発光可能である。また、実施形態1における発光素子は、基板の上面側(電極側)から光を取り出すフェイスアップ型である。上面側の電極は、一般的に発光波長に対して透明な材料を用いる。たとえばITO、IZOなどである。なお、実施形態1は1ピクセルが1チップの構造であるが、モノリシック型であってもよい。つまり、実施形態1における発光素子の素子構造が同一基板上にマトリクス状に配列されたマイクロLEDディスプレイ素子としてもよい。
【0019】
1.発光素子の構成
実施形態1における発光素子は、図1に示すように、基板10と、n層11と、第1活性層14と、第1中間層15と、第2活性層16と、第2中間層17と、第3活性層18と、保護層19と、再成長層20A~20Cと、電子ブロック層21A~21Cと、p層22A~22Cと、n電極23と、p電極24A~24Cと、を有している。
【0020】
基板10は、III族窒化物半導体を成長させる成長基板である。たとえば、サファイア、Si、GaNなどである。
【0021】
n層11は、低温バッファ層や高温バッファ層(図示しない)を介して基板10上に設けられたn型の半導体である。ただし、バッファ層は必要に応じて設ければよく、基板がGaNである場合などにはバッファ層を設けなくともよい。n層11は、たとえばn-GaN、n-AlGaNなどである。Si濃度は、たとえば1×1018~100×1018cm-3である。
【0022】
第1活性層14は、n層11上に設けられたSQWまたはMQW構造の発光層である。発光波長は赤色であり、波長は620~623nmである。第1活性層14はAlGaNからなる障壁層とEuドープGaNからなる井戸層を交互に1~20ペア積層させた構造である。EuドープGaNのEuイオンにより赤色発光する。
【0023】
井戸層のEuドープ量は、1×1017~1×1021cm-3とするのがよい。この範囲であれば、効率的に赤色発光させることができる。
【0024】
このように、実施形態1では、第1活性層14の赤色発光材料として高In組成のInGaNではなく、EuドープGaNを用いている。そのため、赤色の発光効率を向上させることができる。詳細には次の通りである。
【0025】
一般にIn組成の高いInGaNは結晶品質を向上させることが難しいが、実施形態1ではEuドープGaNでありInを含まないので結晶品質を向上させることができ、発光効率を向上させることができる。さらに、Euはサーファクタントとしても機能し、結晶平坦性の向上も期待できる。
【0026】
また、InGaNはInの蒸発を防ぐため低温で成長させる必要があり、結晶品質が低下してしまうが、EuドープGaNはInを含まないので成長温度を高くして結晶品質を向上させ、発光効率を向上させることができる。
【0027】
また、InGaNの場合はヘテロ接合になり、歪の解放のために結晶欠陥が生じやすくなっているが、EuドープGaNではホモ接合、あるいは格子定数差を小さくすることができるので、結晶欠陥を低減することができ、発光効率を向上させることができる。
【0028】
また、InGaNの場合は歪によって量子閉じ込めシュタルク効果(QCSE)が生じ、遷移確率が低下してしまうが、EuドープGaNではQCSEがないため遷移確率の低下がなく、高い発光効率を実現できる。以上が赤色発光材料としてEuドープGaNを用いる利点である。
【0029】
なお、実施形態1では第1活性層14の井戸層としてEuドープGaNを用いているが、これに限らず、EuドープのIII族窒化物半導体であればよい。たとえば、EuドープInGaNやEuドープAlGaNとすることもできる。ただし、結晶品質の点や、素子構造の歪抑制などの点から実施形態1のようにEuドープGaNとすることが好ましい。
【0030】
第1活性層14の井戸層にEu以外の不純物をドープしてもよい。たとえば、Si、O、Mgなどをドープしてもよい。発光効率を向上させることができる。
【0031】
井戸層と障壁層の間に、井戸層中のEuが障壁層に拡散することを防止するための緩衝層を設けてもよい。緩衝層は、たとえばノンドープGaNである。
【0032】
また、第1活性層14は量子井戸構造に限らず、EuドープGaN単層であってもよい。厚いEuドープGaNの単層とすれば、EuドープGaNの体積が増加し、注入されたキャリアが結合する割合が高まる。また、ノンドープGaNとEuドープGaNとを交互に繰り返し積層した構造としてもよい。交互積層にすることで、Euドープによる積層方向の結晶品質の変化を抑制し、均一な発光層を形成できる。
【0033】
また、従来はn層11と第1活性層14の間に下地層を設けて第1活性層14の結晶歪を緩和していたが、実施形態1では第1活性層がEuドープGaNであり、n層11との格子定数の違いがないか十分に差が小さいため、下地層は設ける必要がなく、n層11上に直接第1活性層を設けることができる。そのため、素子構造の簡略化、低コスト化を図ることができる。
【0034】
また、n層11と第1活性層14の間に、静電耐圧向上のためのESD層を設けてもよい。ESD層は、たとえばノンドープまたは低濃度にSiがドープされたGaN、InGaN、またはAlGaNである。
【0035】
第1中間層15は、第1活性層14上に設けられた半導体層であり、第1活性層14と第2活性層16の間に位置している。第1中間層15は、第1活性層14からの発光と第2活性層16からの発光とを個別に制御可能とするために設ける層である。また、後述の第2溝31を形成する際に第1活性層14をエッチングダメージから保護する役割も有する。
【0036】
第1中間層15は、第1活性層14側から順にノンドープ層15A、n型層15Bを積層させた構造である。このような2層の構造とすることでpn接合間距離の調整を図り、各活性層を均一に制御可能としている。詳しくは後述する。
【0037】
ノンドープ層15A、n型層15Bは不純物を除いて同一材料からなる。第1中間層15の材料は、Inを含むIII族窒化物半導体であり、たとえばInGaNとするのがよい。Inによるサーファクタント効果によって第1中間層15表面の荒れを抑制し、表面平坦性を向上させることができる。また、格子歪みを緩和させることができる。
【0038】
第1中間層15のIn組成は、第1活性層14から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるように設定されていればよい。より好ましくは、第1活性層14、第2活性層16、および第3活性層18から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるように設定する。好ましいIn組成は、10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である。In組成が10%よりも大きいと、第1中間層15の表面が荒れる原因となる。Inは0%よりも大きければ任意であり、ドープレベル(混晶を形成しないレベル)でもよい。たとえばIn濃度が1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下のGaNである。
【0039】
ノンドープ層15Aはノンドープであり、n型層15BはSiドープである。n型層15BのSi濃度は、1×1017~1×1020cm-3とすることが好ましい。n型層15BはSiを変調ドープしてもよく、n型層15Bの一部領域にノンドープの領域があってもよい。
【0040】
第1中間層15の厚さは、20~150nmとすることが好ましい。150nmよりも厚いと、第1中間層15の表面が荒れる原因となり得る。また、20nmよりも薄いと、後述の第2溝31を形成する際に第2溝31の深さを第1中間層15内とする制御が難しくなる可能性がある。より好ましくは30~100nm、さらに好ましくは50~80nmである。
【0041】
また、ノンドープ層15Aの厚さは、10nm以上とすることが好ましい。エッチング深さの制御性および第1活性層14へのエッチングダメージを回避するためである。また、n型層15Bの厚さは、10nm以上とすることが好ましい。各活性層の発光特性を独立に制御するためである。
【0042】
第2活性層16は、第1中間層15上に設けられたSQWまたはMQW構造の発光層である。発光波長は青色であり、430~480nmである。第1活性層14はAlGaNからなる障壁層とInGaNからなる井戸層を交互に1~7ペア積層させた構造である。InGaNのバンド端発光により青色発光する。より好ましくは1~5ペア、さらに好ましくは1~3ペアである。
【0043】
第2中間層17は、第2活性層16上に設けられた半導体層であり、第2活性層16と第3活性層18の間に位置している。第2中間層17は、第1中間層15と同様の理由により設けられたものであり、第2活性層16からの発光と第3活性層18からの発光とを個別に制御可能とするために設ける層である。また、後述の第3溝32を形成する際に第2活性層16をエッチングダメージから保護する役割も有する。
【0044】
第2中間層17は、第2活性層16側から順にノンドープ層17A、n型層17Bを積層させた構造である。このような2層の構造とするのは第1中間層15と同様の理由であり、詳しくは後述する。ノンドープ層17A、n型層17Bは、ノンドープ層15A、n型層15Bと同様の材料、構造である。第2中間層17のIn組成は、第1活性層14および第2活性層16から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるように設定されていればよい。より好ましくは、第1活性層14、第2活性層16および第3活性層18から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるように設定する。ノンドープ層17Aとn型層17Bは不純物を除いて同一材料である。第1中間層15と第2中間層17を同一材料としてもよい。
【0045】
ノンドープ層17Aはノンドープ、n型層17BはSiドープである。第2中間層17は第1中間層15よりも薄くし、第2中間層17のIn組成も第1中間層15のIn組成より大きくすることが好ましい。緑色発光の第3活性層18は、青色発光の第2活性層16よりも熱ダメージを受けやすく、界面での歪みの影響が大きくなるためである。
【0046】
第3活性層18は、第2中間層17上に設けられた層であり、歪緩和層18AとSQWまたはMQWの量子井戸構造層(発光層)18Bを順に積層させた構造である。
【0047】
歪緩和層18Aは、障壁層と井戸層を順に積層させたSQW構造であり、発光しないように井戸層の厚さを薄く調整した量子井戸構造である。たとえば井戸層の厚さを1nm以下とすることで発光しないようにすることができる。障壁層はAlGaN、井戸層はInGaNである。歪緩和層18Aの井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長は、量子井戸構造層18Bの発光波長よりも短ければよく、たとえば量子井戸構造層18Bの発光波長が500~560nmであれば400~460nmである。好ましくは量子井戸構造層18Bの発光波長よりも40~100nm短くする。
【0048】
歪緩和層18Aの井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長は、第2活性層16の発光波長と等しくしてもよい。
【0049】
歪緩和層18Aの井戸層におけるバンド端エネルギーの制御は、井戸層の厚さで制御することができる。すなわち、歪緩和層18Aの井戸層の厚さを十分に薄くすることで井戸内のサブバンドのエネルギーが上昇しバンド端エネルギーが大きくなる。これにより、量子井戸構造層18Bの発光波長よりも短くしてもよい。さらに、歪緩和層18Aの井戸層の膜厚を薄くすると、サブバンドがさらに上昇し、障壁層とのエネルギー差が小さくなる。すなわち、障壁層のバンド端エネルギーに近くなる。その結果、歪緩和層18Aの井戸層におけるキャリアの閉じ込めがされ難くなり、発光しにくくなることから、量子井戸構造層18Bの障壁層の一部として機能するとともに、歪緩和の効果も同時に得られる。
【0050】
このように、量子井戸構造層18Bの井戸層よりもキャリア閉じ込めの悪い井戸層を持つ歪緩和層18Aを形成することで、発光しない歪緩和層18Aを形成することができる。
【0051】
要するに、歪緩和層18A全体の実効的な格子定数が、第2中間層17の格子定数と量子井戸構造層18Bの格子定数の間となるように歪緩和層18Aの材料や層構成が設定され、かつ、歪緩和層18Aが発光しないように井戸層の厚さが設定されていればよい。
【0052】
歪緩和層18Aは障壁層と井戸層を2ペア以上積層させたMQW構造としてもよいが、第3活性層18が厚くなるのでSQW構造とすることが好ましい。また、歪緩和層18Aを複数設け、段階的に歪を緩和させてもよい。
【0053】
以上のように歪緩和層18Aを設けることで、その上に積層される量子井戸構造層18Bの歪を緩和させることができ、量子井戸構造層18Bの井戸層の結晶品質を向上させることができる。
【0054】
量子井戸構造層18Bは、歪緩和層18A上に設けられたSQWまたはMQW構造の発光層である。発光波長は緑色であり、510~570nmである。量子井戸構造層18BはGaNからなる障壁層とInGaNからなる井戸層を交互に1~7ペア積層させた構造である。InGaNのバンド端発光により緑色発光する。より好ましくは1~5ペア、さらに好ましくは1~3ペアである。また、第2活性層16のペア数と等しいか少ないことが好ましく、少ないことがより好ましい。
【0055】
第3活性層18の厚さに対する第2活性層16の厚さの比が30%以下となるように設定することが好ましい。より効果的に量子井戸構造層18Bの歪を緩和させることができるとともに、pn接合間距離が各p電極24A~24C下で一定となり、各p電極24A~24C下でのデバイス特性を均一にできる。
【0056】
保護層19は、第3活性層18上に設けられた半導体層である。保護層19は、活性層を保護するとともに、電子ブロック層としても機能する層である。保護層19は、第3活性層18の井戸層よりもバンドギャップの広い材料であればよく、AlGaN、GaN、InGaNなどである。保護層19の厚さは、2.5~50nmが好ましく、より好ましくは5~25nmである。保護層19に不純物をドープしてもよく、Mgをドープしてもよい。その場合、Mg濃度は1×1018~1000×1018cm-3とするのがよい。
【0057】
保護層19の一部領域はエッチングされて溝が設けられ、保護層19から第2中間層17のノンドープ層17Aに達する第3溝32、第1中間層15のノンドープ層15Aに達する第2溝31、n層11に達する第1溝30が設けられている。
【0058】
このように、第3溝32をノンドープ層17Aに達する深さとし、p電極24B下において第2中間層17のn型層17Bを除去することで第2活性層16上にn型層が位置しないようにし、第2活性層16が発光するようにしている。また、第2溝31を、第1中間層15のノンドープ層15Aに達する深さとしているのも同様の理由であり、p電極24C下において第1中間層15のn型層15Bを除去することで第1活性層14上にn型層が位置しないようにし、第1活性層14が発光するようにしている。
【0059】
再成長層20A~20Cは、保護層19上、第3溝32底面に露出する第2中間層17上、第2溝31底面に露出する第1中間層15上にそれぞれ設けられている。再成長層20A~20Cの構成は保護層19と同様である。
【0060】
電子ブロック層21A~21Cは、再成長層20A~20C上にそれぞれ設けられた半導体層であり、n層11から注入された電子を第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18に効率よく閉じ込めるためにブロックする層である。電子ブロック層はGaNやAlGaNの単層でもよいし、AlGaN、GaN、InGaNのうち2以上を積層させた構造や、組成比のみ替えて積層させた構造であってもよい。また、超格子構造としてもよい。電子ブロック層21A~21Cの厚さは、5~50nmが好ましく、より好ましくは5~25nmである。電子ブロック層21A~21CのMg濃度は1×1019~100×1019cm-3とするのがよい。
【0061】
p層22A~22Cは、電子ブロック層21A~21C上にそれぞれ設けられた半導体層であり、電子ブロック層21側から順に第1層、第2層で構成されている。第1層は、p-GaN、p-InGaNが好ましい。第1層の厚さは10~500nmが好ましく、より好ましくは10~200nm、さらに好ましくは10~100nmである。第1層のMg濃度は1×1019~100×1019cm-3とするのがよい。第2層は、p-GaN、p-InGaNが好ましい。第2層の厚さは2~50nmが好ましく、より好ましくは4~20nm、さらに好ましくは6~10nmである。第2層のMg濃度は1×1020~100×1020cm-3とするのがよい。
【0062】
n電極23は、第1溝30の底面に露出するn層11上に設けられた電極である。基板10が導電性材料である場合には、第1溝30を設けずに基板10裏面にn電極23を設けてもよい。n電極23の材料は、たとえばTi/AlやV/Alである。
【0063】
p電極24A~24Cは、p層22A~22C上にそれぞれ設けられた電極である。p電極24A~24Cの材料は、たとえばAg、Ni/Au、Co/Au、ITO、IZOなどである。実施形態1における発光素子はフェイスアップ型であるため、ITOやIZOなどの透明電極が好ましい。
【0064】
2.発光素子の動作
実施形態1における発光素子の動作について説明する。実施形態1における発光素子では、p電極24Aとn電極23の間に電圧を印加することで第3活性層18から緑色の光を発光させることができ、p電極24Bとn電極23の間に電圧を印加することで第2活性層16から青色の光を発光させることができ、p電極24Cとn電極23の間に電圧を印加することで第1活性層14から赤色の光を発光させることができる。また、青色、緑色、赤色のうち2以上を同時に発光させることもできる。このように、実施形態1における発光素子では、電圧を印加する電極の選択によって青、緑、赤の発光を制御することができ、ディスプレイの1ピクセルとして利用することができる。
【0065】
図2に実施形態1における発光素子の等価回路を示す。図2に示すように、実施形態1にける発光素子は、赤色、青色、緑色のLEDが1素子内に形成された構造であり、1素子でフルカラーの発光を実現することができる。そのため、赤色、青色、緑色のLEDを個別に準備してそれらを同一基板に配列させて1ピクセルのフルカラーの発光素子を作製するよりも、1素子のサイズを非常に小さくすることが可能である。さらに、実施形態1の構造であれば、赤色、青色、緑色のLEDを個別に準備して配列する工程を省くことができ、製造コストも大幅に低減でき、非常に低コストのフルカラー発光素子、およびそれを応用した発光ディスプレイを実現することができる。
【0066】
ここで、実施形態1では、第1中間層15、第2中間層17がInを含むため、Inのサーファクタント効果によって第1中間層15、第2中間層17の表面平坦性を向上させることができ、第2活性層16や第3活性層18の表面平坦性も向上させることができる。また、下地層13と第1活性層14との格子定数差によって生じる格子歪みも緩和させることができる。その結果、実施形態1における発光素子によれば発光効率を向上させることができる。
【0067】
また、実施形態1では、第1中間層15、第2中間層17について、ノンドープ層15A、17Aとn型層15B、17Bの2層構造としており、これによりpn接合間距離の調整を図っている。
【0068】
ここで、pn接合間距離について説明する。pn接合間距離は、ゼロバイアス時に空乏化している膜厚に相当する。LEDにおいては高濃度のアクセプタ不純物を持つp層と、高濃度のドナー不純物を持つn層とに挟まれたノンドープもしくは低ドープの活性層の総膜厚に相当する。
【0069】
第1中間層15、第2中間層17をノンドープとする場合、pn接合間距離(空乏層の厚さ)は、p電極24A下の領域においてはアクセプタ不純物を高ドープされた電子ブロック層21Aからドナー不純物を高ドープされたn層11までの距離、すなわち、第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18と、第1中間層15、第2中間層17を含む膜厚に相当する。また、p電極24B下においてはアクセプタ不純物を高ドープされた電子ブロック層21Bからn層11までの距離、すなわち、第1活性層14、第2活性層16と、第1中間層15と、第2中間層17の一部を含む膜厚に相当する。また、p電極24C下においてはアクセプタ不純物を高ドープされた電子ブロック層21Cからn層11までの距離、すなわち、第1活性層14と、第1中間層15の一部を含む膜厚に相当する。
【0070】
そのため、これら3つの場合でそれぞれpn接合間距離が異なり、駆動電圧や電流注入効率、逆方向電流が異なってしまう。また、p電極24Aに電圧を印加して第3活性層18を発光させたい場合に、電子と正孔のキャリアがすべての活性層に供給されてしまい、第2活性層16や第1活性層14からも発光してしまう可能性がある。同様に、p電極24Bに電圧を印加して第2活性層16を発光させたい場合に第1活性層14からも発光してしまう可能性がある。
【0071】
実施形態1では、このような問題を中間層の構造で解決している。つまり、実施形態1では、第1中間層15をノンドープ層15A、ドナー不純物が高濃度にドープされたn型層15Bの2層とし、第2中間層17をノンドープ層17A、ドナー不純物が高濃度にドープされたn型層17Bの2層とし、n型層15B、17BにSiをドープしてn型としている。
【0072】
そのため、pn接合間距離は、p電極24A下の領域においては電子ブロック層21Aから第2中間層17のn型層17Bまでの距離、p電極24B下の領域においては電子ブロック層21Bから第1中間層15のn型層15Bまでの距離、p電極24C下の領域においては電子ブロック層21Cからn層11までの距離となる。すなわち、すべての電極下におけるpn接合間距離は、複数の活性層を含まず、1つの活性層と中間層のうちノンドープ層とを含む総膜厚に相当することとなる。
【0073】
ここで、第1中間層15のノンドープ層15A、第2中間層17のノンドープ層17Aの厚さ、歪緩和層18Aの厚さとペア数、第2活性層16と量子井戸構造層18Bのペア数を適切に制御することで、これら3つの場合でpn接合間距離を等しくすることができる。その結果、これら3つの場合で駆動電圧や電流注入効率、逆方向電流のばらつきを抑えることができ、均一な制御が可能となる。さらに、これら3つの場合でpn接合間には第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18がそれぞれ1つしか含まれず、中間層のn型層が正孔にとって障壁層となるため、正孔が中間層のn型層を超えて下部の活性層へ注入され難くなる。その結果、pn接合間に位置する発光させたい活性層以外が発光してしまうことを抑制できる。
【0074】
なお、pn接合間距離の調整のために、n層11と第1活性層14の間にn-GaNやノンドープGaNなどの層を挿入してもよい。
【0075】
また、実施形態1では、赤色発光、緑色発光、青色発光の3つの活性層を、基板10側から順に、赤色発光の第1活性層14、青色発光の第2活性層16、緑色発光の第3活性層18の順に配置している。
【0076】
赤色発光の第1活性層14を最も基板10に近い側としているのは、次の理由による。第1に、実施形態1における発光素子はフェイスアップ型であり、基板10の上面側に光を取り出すため、第2活性層16や第3活性層18の上部に第1活性層14があると、第2活性層16や第3活性層18からの青色光、緑色光が第1活性層14に一部吸収されてしまう。このような吸収が生じないように、赤色発光の第1活性層14を第2活性層16、第3活性層18よりも基板10側に配置している。
【0077】
第2に、第1活性層14の成長温度を高くして結晶品質を向上させるためである。第1活性層14の赤色発光材料はEuドープGaNであり、InGaNを含んでいないため、成長温度を高くして結晶品質を向上させることができる。ここで、先に第2活性層16や第3活性層18を形成した後に、それらの成長温度よりも高温で第3活性層18を成長させると、第2活性層16や第3活性層18はInGaNを含むため熱ダメージを受けてしまう。そこで、赤色発光の第1活性層14を第2活性層16、第3活性層18よりも先に形成することで、第1活性層14の成長温度を高くして結晶品質を高めつつ、第2活性層16や第3活性層18への熱ダメージを防止している。
【0078】
青色発光の第2活性層16を基板10側から2番目としているのは、次の理由による。第2活性層16、第3活性層18はいずれもInGaNを発光材料とするが、青色発光である第2活性層16の方が、緑色発光である第3活性層18よりもIn組成が低い。そのため、第2活性層16は第3活性層18よりも高温で成長させて結晶品質を向上させることができる。ここで、先に第3活性層18を形成した後に、その成長温度よりも高温で第2活性層16を成長させると、第3活性層18はInGaNを含むため熱ダメージを受けてしまう。そこで、青色発光の第2活性層16を第3活性層18よりも先に形成することで、第2活性層16の成長温度を高くして結晶品質を高めつつ、第3活性層18への熱ダメージを防止している。
【0079】
なお、第2活性層16の上部に第3活性層18があるため、第2活性層16からの青色光が第3活性層18に一部吸収される。しかし、一般にInGaNの青色発光効率は緑色発光効率に比べて十分に高いため、そのような吸収があってもさほど問題とならない。
【0080】
上記のように、成長温度を高めて結晶品質を向上させる観点からは、実施形態1のように、基板10側から赤色発光の第1活性層14、青色発光の第2活性層16、緑色発光の第3活性層18の順が好ましい。ただし、活性層による光の再吸収防止の観点を重視して、基板10側から赤色発光の第1活性層14、緑色発光の第3活性層18、青色発光の第2活性層16の順としてもよい。
【0081】
3.発光素子の製造工程
次に、実施形態1における発光素子の製造工程について、図を参照に説明する。
【0082】
まず、基板10を用意し、水素や窒素、必要に応じてアンモニアを加えて、基板の熱処理を行う。
【0083】
次に、基板10上にバッファ層を形成し、バッファ層上にn層11、第1活性層14、第1中間層15、第2活性層16、第2中間層17、第3活性層18、保護層19を順にMOCVD法により形成する(図3参照)。MOCVD法における各種原料ガスはたとえば次の通りである。Ga原料ガスはTMG(トリメチルガリウム)やTEG(トリエチルガリウム)、Al原料ガスはTMA(トリメチルアルミニウム)、In原料ガスはTMI(トリメチルインジウム)、Si原料ガスはシラン、Mg原料ガスはCpMg(ビス(シクロペンタジエニル)マグネシウム)、Eu原料ガスはEuCppm (ビス(ノルマルプロピルテトラメチルシクロペンタジエニル)ユーロピウム)、Eu(DPM)などである。
【0084】
各層の好ましい成長温度は次の通りである。
【0085】
第1活性層14の成長温度は、900~1100℃が好ましい。第1活性層14の赤色発光材料がIn組成のInGaNではなくEuドープGaNであるため、このように成長温度を高くすることができる。その結果、結晶品質を向上でき、発光効率を高めることができる。より好ましくは950~1050℃である。第1活性層14は井戸層と障壁層で構成されるが、井戸層と障壁層は同じ温度で形成してもよいし、上記温度範囲内で異なる温度としてもよい。異なる温度とする場合は、井戸層の成長温度を障壁層の成長温度よりも低くすることが好ましい。
【0086】
第1中間層15の成長温度は、700~1000℃が好ましい。第1活性層14への熱ダメージを抑制するためである。また、700℃よりも低いと貫通転位に起因したピットや点欠陥が生じやすくなってしまう。より好ましくは800~950℃、さらに好ましくは850~950℃である。
【0087】
第2活性層16の成長温度は、700~950℃が好ましい。結晶品質を向上でき、発光効率を高めることができる。第2活性層16は井戸層と障壁層で構成されるが、井戸層と障壁層は同じ温度で形成してもよいし、上記温度範囲内で異なる温度としてもよい。異なる温度とする場合は、井戸層の成長温度を障壁層の成長温度よりも低くすることが好ましい。また、第2活性層16の成長温度は、第1活性層14の成長温度よりも低くすることが好ましい。
【0088】
第2中間層17の成長温度は、第1中間層15の成長温度と同様の範囲が好ましい。ただし、第2中間層17の成長温度は、第1中間層15の成長温度よりも低くすることが好ましい。青色発光の第2活性層16は、赤色発光でEuドープGaNである第1活性層14よりも熱ダメージを受けやすく、界面での歪みの影響が大きくなるためである。
【0089】
第3活性層18の歪緩和層18Aの成長温度は、700~800℃、量子井戸構造層18Bの成長温度は、600~800℃が好ましい。この範囲であれば、量子井戸構造層18Bの歪を効果的に緩和させることができる。歪緩和層18Aの井戸層のバンド端エネルギーに相当する波長を、第2活性層16の発光波長と等しくする場合、歪緩和層18Aの成長温度は第2活性層16と同様の成長温度で成長させてもよい。
【0090】
歪緩和層18Aは井戸層と障壁層で構成されるが、井戸層と障壁層は同じ温度で形成してもよいし、上記温度範囲内で異なる温度としてもよい。異なる温度とする場合は、井戸層の成長温度を障壁層の成長温度よりも低くすることが好ましい。量子井戸構造層18Bも井戸層と障壁層で構成されるが、同様である。また、量子井戸構造層18Bの成長温度は、第2活性層16の成長温度よりも低いことが好ましい。
【0091】
保護層19の成長温度は、500~950℃が好ましい。第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18への熱ダメージを抑制するためである。保護層19の結晶品質向上のためには成長温度が高い方が好ましく、より好ましくは600~900℃、さらに好ましくは700~900℃である。
【0092】
次に、保護層19表面の一部領域を第2中間層17に達するまでドライエッチングして第3溝32を形成し、第1中間層15に達するまでドライエッチングして第2溝31を形成する(図4参照)。第3溝32、第2溝31は、第2中間層17、第1中間層15の中間の厚さまでエッチングすることが好ましい。
【0093】
次に、保護層19上、第3溝32によって露出した第2中間層17上、および第2溝31によって露出した第1中間層15上に、再成長層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cを順に形成する(図5参照)。再成長層20A~20Cの成長温度は保護層19と同様である。電子ブロック層21A~21Cの成長温度は、750~1000℃が好ましい。第1活性層14、第2活性層16、第3活性層18への熱ダメージを抑制するためである。より好ましくは750~950℃、さらに好ましくは800~900℃である。p層22A~22Cの成長温度は、650~1000℃が好ましい。より好ましくは700~950℃、さらに好ましくは750~900℃である。
【0094】
次に、p層22C表面の一部領域をn層11に達するまでドライエッチングして第1溝30を形成する(図6参照)。そして、第1溝30の底面に露出するn層11上にn電極23を形成し、p層22A~22C上にp電極24A~24Cを形成する。以上によって実施形態1における発光素子が製造される。
【0095】
(実施形態1の変形形態)
実施形態1では、再成長層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cはそれぞれ分離して設けられているが、一続きにしてもよい(図7参照)。この場合、第3溝32の側面や第2溝31の側面にも再成長層、電子ブロック層、p層が形成されることとなるが、素子の動作にはほとんど影響しない。その理由は次の通りである。
【0096】
p電極24A、p電極24B、p電極24Cがそれぞれ空間的に十分に分離されていれば、p電極24A、p電極24B、p電極24Cの間をつなぐp層の抵抗が非常に高いために電流はほとんど流れない。加えて、ホールは移動度が低いため、電極と接触している領域から正孔は横方向に広がらず、電極直下のpnジャンクションを縦方向へ支配的に流れる。そのため再成長層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cが一続きであっても素子の動作に影響がないのである。すなわち、p電極24Aに電流を流した場合、p電極24Aの直下に電流が流れ、その結果p電極24A直下の活性層が発光し、p電極24B、24C直下の活性層に電流が流れて発光することはほとんどないのである。
【0097】
また、図8のように、第3溝32の側面や第2溝31の側面に絶縁膜27を設けてもよい。この絶縁膜27は、再成長層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cを選択成長させる際のマスクを残したものである。
【0098】
(実施形態2)
図9は、実施形態2における発光素子の構成を示した図であり、基板主面に垂直な断面図である。実施形態2における発光素子は、図9に示すように、実施形態1における発光素子の構成の一部を次のように変更したものである。実施形態1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
【0099】
図9に示すように、第1中間層15、第2中間層17に替えて、第1中間層415、第2中間層417を設けている。また、保護層19、再成長層20A~20C、電子ブロック層21A~21C、p層22A~22Cを省き、第3活性層18上に電子ブロック層421A、p層422を設け、p層422上にp電極24Aを設けている。つまり、実施形態2における発光素子には再成長層は存在していない。また、第2溝31底面に露出する第1中間層415上に第1電極424B、第3溝32底面に露出する第2中間層417上に第2電極424Cを設けている。また、第2活性層16と第2中間層17の間、および第1活性層14と第1中間層15の間に電子ブロック層421B、421Cをそれぞれ挿入している。
【0100】
電子ブロック層421Cは、第1活性層14上に設けられたp型の層であり、第1活性層14と第1中間層15の間に位置している。電子ブロック層421Cは、再成長層ではなく、第1活性層14上に連続的に成長させている点を除いて、電子ブロック層21A~21Cと同様である。
【0101】
第1中間層415は、第1活性層14側から順に、第1層415A(p層)、第2層415B(p+層)、第3層415C(n+層)、第4層415D(n層)を順に積層させた構造であり、第2溝31の底面に第4層415Dが露出している。第2層415B、第3層415Cはトンネル接合構造を形成している。このように、第1中間層415は、実施形態1の第1中間層15と同様の機能に加えて、トンネル接合の機能を有している。
【0102】
第1層415Aは、電子ブロック層421C上に設けられた半導体層である。第1活性層14を効率的に発光させるためには、第1活性層14をp型の層とn型の層で挟むことが好ましく、そのp型のコンタクト層として第1層415Aを設けている。
【0103】
第1層415Aの材料は、実施形態1における第1中間層15と不純物を除いて同様である。すなわち、Inを含むIII族窒化物半導体であり、たとえばInGaNとするのがよい。Inによるサーファクタント効果によって第1中間層415表面の荒れを抑制し、表面平坦性を向上させることができる。また、格子歪みを緩和させることができる。第1中間層415のIn組成は、第1活性層14、第2活性層16、および第3活性層18から発光した光を吸収しないバンドギャップとなるように設定されていればよい。
【0104】
第1層415Aの好ましいIn組成は、10%以下、より好ましくは5%以下、さらに好ましくは2%以下である。In組成が10%よりも大きいと、第1中間層415の表面が荒れる原因となる。Inは0%よりも大きければ任意であり、ドープレベル(混晶を形成しないレベル)でもよい。たとえばIn濃度が1×1014cm-3以上1×1022cm-3以下のGaNである。
【0105】
第1層415Aはp型不純物であるMgがドープされたp型半導体である。たとえば、Mg濃度が1×1018~1×1020cm-3、好ましくは5×1018~1×1020cm-3、さらに好ましくは1×1019~1×1020cm-3であってもよい。ノンドープでもよいが、上記のようにMgがドープされていることが好ましい。第1層415Aは、厚さ方向においてIn組成に傾斜を設ける分極ドープを用いてもよい。この場合はノンドープでもよい。また、第1層415Aの下層である電子ブロック層421CからのMg拡散によって第3層415CにMgがドープされてもよい。この場合、電子ブロック層421CのMg濃度は1×1019~1×1021cm-3の範囲がよい。
【0106】
第1層415Aの厚さは、10~300nmとすることが好ましい。300nmよりも厚いと、第1中間層415の表面が荒れる原因となり得る。また、10nmよりも薄いと、第1活性層14の発光効率を十分に高めることができない可能性がある。より好ましくは20~200nm、さらに好ましくは30~100nmである。
【0107】
第2層415Bは、第1層415A上に設けられた半導体層である。第2層415Bと第3層415Cの積層によりトンネル接合構造を形成する。
【0108】
第2層415Bの材料は、第1層415Aと不純物を除いて同様である。第2層415BのIn組成は第1層415Aや第4層415DのIn組成とは異なっていてもよく、その場合、第1層415Aや第4層415DのIn組成よりも高い方が好ましい。トンネル接合構造によるトンネル確率をより高めることができる。第2層415Bの好ましいIn組成の範囲は、第1層415Aと同様である。
【0109】
第2層415Bはp型不純物であるMgがドープされたp型半導体である。Mg濃度は、1×1020~1×1021cm-3である。第2層415BのMg濃度は第1層415AのMg濃度よりも高い。
【0110】
第2層415Bの厚さは、5~50nmである。この範囲であれば、トンネル接合構造のトンネル確率を十分に高めることができる。より好ましくは5~35nm、さらに好ましくは5~20nmである。また、第2層415Bの厚さは、第1層415Aよりも薄いことが好ましい。
【0111】
第3層415Cは、第2層415B上に設けられた半導体層である。第2層415Bと第3層415Cとの積層によりトンネル接合構造を形成する。このトンネル接合構造によってn型の第3層415Cからp型の第2層415Bへトンネル効果によって電流が流れるようにし、ホールが第1活性層14に供給されるようにしている。
【0112】
第3層415Cの材料は、第1層415Aと不純物を除いて同様である。第3層415CのIn組成は第1層415Aや第4層415DのIn組成とは異なっていてもよく、その場合、第1層415Aや第4層415DのIn組成よりも高い方が好ましい。トンネル接合構造によるトンネル確率をより高めることができる。また、第3層415CのIn組成は、第2層415BのIn組成と異なっていてもよい。その場合、第3層415CのIn組成は、第2層415BのIn組成よりも低いことが好ましい。第3層415Cの好ましいIn組成の範囲は、第1層415Aと同様である。
【0113】
第3層415Cはn型不純物であるSiがドープされたn型半導体である。Si濃度は、1×1020~1×1021cm-3である。
【0114】
第2層415Bと第3層415Cとの接合界面付近には、SiとMgが共ドープされた層が、意図的、もしくは自然形成的に存在していてもよい。Mgはメモリー効果により炉内に残留しやすいので、第3層415Cや第4層415DにMgがドープされていてもよい。ただし、第3層415C、第4層415DのMg濃度はそれぞれのSi濃度よりも低くなるようにする必要がある。
【0115】
第3層415Cの厚さは、1~30nmである。この範囲であれば、トンネル接合構造のトンネル確率を十分に高めることができる。より好ましくは2~25nm、さらに好ましくは5~20nmである。また、第3層415Cの厚さは、第4層415Dよりも薄いことが好ましい。
【0116】
上述のように、トンネル接合構造を形成する第2層415B、第3層415Cは、Inを含むのでバンドギャップが小さくなり、トンネル確率が高くなる。なお、第2層415Bと第3層415Cの間でトンネル接合する範囲で、第2層415Bと第3層415Cの間にさらに層を設けてもよい。たとえば、第2層415BのMgが第3層415Cに拡散するのを抑制するための緩衝層を設けてもよい。
【0117】
第4層415Dは、第3層415C上に設けられた半導体層である。第2活性層16を効率的に発光させるためには、第2活性層16をp型の層とn型の層で挟むことが好ましく、そのn型のコンタクト層として第4層415Dを設けている。また、第2溝31を形成する際に第3層415Cに達して露出してしまわないようにする層である。
【0118】
第4層415Dの材料は、実施形態1における第1中間層15と不純物を除いて同様である。In組成は第1層415Aと異なっていてもよい。
【0119】
第4層415Dはn型不純物であるSiがドープされたn型半導体である。たとえば、Si濃度が1×1017~1×1020cm-3、好ましくは1×1018~1×1019cm-3、さらに好ましくは2×1018~8×1018cm-3であってもよい。第3層415CのSi濃度は第4層415Dの不純物濃度よりも高い。
【0120】
第4層415Dの厚さは、10~500nmとすることが好ましい。500nmよりも厚いと、第1中間層415の表面が荒れる原因となり得る。また、10nmよりも薄いと、第2活性層16の発光効率を十分に高めることができない可能性がある。また、第2溝31を形成する際に第2溝31の深さを第4層415D内とする制御が難しくなる可能性がある。より好ましくは10~200nm、さらに好ましくは10~100nmである。第4層415Dの厚さは、第1層415Aの厚さと異なっていてもよい。
【0121】
電子ブロック層421Bは、第2活性層16上に設けられたp型の層であり、第2活性層16と第2中間層17の間に位置している。電子ブロック層421Bは、再成長層ではなく、第2活性層16上に連続的に成長させている点を除いて、電子ブロック層21A~21Cと同様である。
【0122】
第2中間層417は、第2活性層16側から順に、第1層417A、第2層417B、第3層417C、第4層417Dを積層させた構造であり、第3溝32の底面に第4層417Dが露出している。第2層417B、第3層417Cはトンネル接合構造を形成している。このように、第2中間層417は、実施形態1の第2中間層17と同様の機能に加えて、トンネル接合の機能を有している。
【0123】
第1層417A、第2層417B、第3層417C、第4層417Dは、それぞれ第1中間層415の第1層415A、第2層415B、第3層415C、第4層415Dと同様である。第2層417B、第3層417Cの積層によってトンネル接合構造を形成し、n型の第3層417Cからp型の第2層417Bへトンネル効果によって電流が流れるようにし、ホールが第2活性層16に供給されるようにしている。
【0124】
第1中間層415、第2中間層417はすべての層がInGaNで構成されているため、実施形態1の第1中間層15、第2中間層17と同様の効果が得られる。つまり、表面平坦性を向上させることができ、格子歪みを緩和させることができる。
【0125】
第1中間層415の平均In組成と第2中間層417の平均In組成は異なっていてもよい。第2中間層417の平均In組成は第1中間層415の平均In組成よりも高いことが好ましい。
【0126】
電子ブロック層421Aは、第3活性層18上に設けられたp型の層である。電子ブロック層421Aは、再成長層ではなく第3活性層18上に連続的に成長させている点を除いて、電子ブロック層21A~21Cと同様である。
【0127】
p層422は、電子ブロック層421A上に設けられた層である。p層422は、再成長層ではなく電子ブロック層421A上に連続的に成長させている点を除いて、p層22Aと同様である。
【0128】
p層422に替えて、第2層415Bと第3層415C、あるいは第2層417Bと第3層417Cのようなトンネル接合構造としてもよい。この場合、p電極24Aに替えてnコンタクトの材料を用いた電極とすることができ、第1電極424B、第2電極424Cと同一材料とすることができる。そのため、同一工程ですべての電極を形成することができる。
【0129】
第1電極424Bは、第3溝32の底面に露出する第2中間層417の第4層417D上に設けられている。また、第2電極424Cは、第2溝31の底面に露出する第1中間層415の第4層415D上に設けられている。第1電極424B、第2電極424Cはアノード電極とカソード電極を兼ねている。第1電極424B、第2電極424Cはn型のInGaNにオーミックコンタクトできる材料であればよく、たとえばTi/Alを用いることができる。n電極23と同一材料でもよい。
【0130】
実施形態1で述べた各種変形は実施形態2においても適用できる。
【0131】
次に、実施形態2における発光素子の動作について説明する。実施形態2における発光素子では、p電極24Aと第1電極424Bの間に電圧を印加することで第3活性層18から緑色の光を発光させることができる。また、第1電極424Bと第2電極424Cの間に電圧を印加することで第2活性層16から青色の光を発光させることができる。また、第2電極424Cとn電極23の間に電圧を印加することで第1活性層14から赤色の光を発光させることができる。
【0132】
また、青色、緑色、赤色のうち2以上を同時に発光させることもできる。具体的には以下のように電圧を印加する。青色、緑色、赤色のすべてを発光させる場合には、p電極24Aとn電極23の間に電圧を印加する。緑色と赤色を同時に発光させる場合には、p電極24Aと第1電極424B、および第2電極424Cとn電極23の間に電圧を印加する。青色と緑色を同時に発光させる場合には、p電極24Aと第2電極424Cの間に電圧を印加する。青色と赤色を同時に発光させる場合には、第1電極424Bとn電極23との間に電圧を印加する。
【0133】
このように、実施形態2における発光素子では、電圧を印加する電極の選択によって青、緑、赤の発光を制御することができ、ディスプレイの1ピクセルとして利用することができる。
【0134】
図10に実施形態2における発光素子の等価回路を示す。実施形態2における発光素子は、赤色LED、第1のトンネルジャンクション(逆順のトンネルダイオード)、青色LED、第2のトンネルジャンクション、緑色LEDを縦列接続し、赤色LEDと第1のトンネルジャンクションの接続部、および青色LEDと第2のトンネルジャンクションの接続部から電極を引き出した構成と等価である。実施形態2における発光素子もまた、実施形態1における発光素子と同様に、青色、緑色、赤色のLEDが1素子内に形成された構造であり、1素子でフルカラーの発光を実現することができる。
【0135】
次に、実施形態2における発光素子の製造工程について説明する。
【0136】
まず、実施形態1と同様に、基板10を用意し熱処理を行う。その後、基板10上に、バッファ層、n層11、ESD層12、下地層13、第1活性層14、電子ブロック層421C、第1中間層415、第2活性層16、電子ブロック層421B、第2中間層417、第3活性層18、電子ブロック層421A、p層422をMOCVD法によって順に形成する。
【0137】
ここで、第1中間層415、第2中間層417の成長温度は、実施形態1の第1中間層15、第2中間層17と同様の範囲である。第2中間層417の成長温度は、第1中間層415の成長温度よりも低くすることが好ましい。緑色発光の第3活性層18は、青色発光の第2活性層16よりも熱ダメージを受けやすく、界面での歪みの影響が大きくなるためである。
【0138】
また、第1中間層415の形成において、第2層415B、第3層415Cの成長温度は、第1層415A、第4層415Dの成長温度よりも低くすることが好ましい。結晶性を高め、トンネル接合におけるトンネル効果をより高めるためである。また、第2中間層417の形成においても、第2層417B、第3層417Cの成長温度を第1層417A、第4層417Dの成長温度よりも低くすることが好ましい。
【0139】
次に、p層422表面の一部領域を第2中間層417の第4層417Dに達するまでドライエッチングして第3溝32を形成し、第1中間層415の第4層415Dに達するまでドライエッチングして第2溝31を形成し、n層11に達するまでドライエッチングして第1溝30を形成する。
【0140】
次に、第1溝30の底面に露出するn層11上にn電極23を形成し、p層422上にp電極24A、第3溝32の底面に第1電極424B、第2溝31の底面に第2電極424Cを形成する。第1電極424B、第2電極424Cをn電極23と同一材料とする場合には、n電極23と同一工程で同時に形成することができる。以上によって実施形態2における発光素子が製造される。
【0141】
以上、実施形態2における発光素子は、第1中間層415および第2中間層417にトンネル接合構造を設けることで、電子ブロック層やp層の再成長層を設ける必要がなくなっている。再成長界面には、エッチングダメージ、大気暴露による不純物汚染、再成長による熱ダメージが生じるため、pn間に再成長界面が存在すると、デバイス特性を悪化させる可能性がある。しかし実施形態2における発光素子には再成長層がなく、pn間に再成長界面が存在しないため、このような問題は生じない。
【0142】
さらに、実施形態2では、実施形態1と同様に赤色発光材料としてEuドープGaNを用いている。そのため、赤色の発光効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0143】
10:基板 11:n層 14:第1活性層 15:第1中間層 15A、17A:ノンドープ層 15B、17B:n型層 16:第2活性層 17:第2中間層 18:第3活性層 18A:歪緩和層 18B:量子井戸構造層 19:保護層 20A~20C:再成長層 21A~21C:電子ブロック層 22A~22C:p層 23:n電極 24A~24C:p電極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10