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  • 特開-トルクコンバータの支持構造 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024008302
(43)【公開日】2024-01-19
(54)【発明の名称】トルクコンバータの支持構造
(51)【国際特許分類】
   F16H 41/24 20060101AFI20240112BHJP
【FI】
F16H41/24 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022110056
(22)【出願日】2022-07-07
(71)【出願人】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148301
【弁理士】
【氏名又は名称】竹原 尚彦
(74)【代理人】
【識別番号】100176991
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 由布子
(74)【代理人】
【識別番号】100217696
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 英行
(72)【発明者】
【氏名】川島 一訓
(57)【要約】
【課題】油路内のオイルの通流が阻害されないトルクコンバータの支持構造とする。
【解決手段】ポンプインペラと、タービンランナと、ステータと、カバーコンバータとを有し、カバーコンバータ内のオイルを介して、ポンプインペラとタービンランナとの間の回転伝達が行われるトルクコンバータの支持構造であって、ステータを支持すると共に、支持部材で回転不能に支持されたステータシャフトと、ポンプインペラの内径側に連結されると共に、ステータシャフトに外挿されるコンバータスリーブと、を有し、支持部材は、ステータシャフトの外周を囲む支持部を有しており、コンバータスリーブは、支持部に内挿されて、ステータシャフトとの間にオイルの第1油路を形成する第1ボス部と、支持部の外周を囲む第2ボス部を有しており、第1ボス部と支持部の間に配置されたベアリングと、第2ボス部と支持部の間に配置されたオイルシールと、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源の回転が入力されるポンプインペラと、回転伝達軸と一体に回転するタービンランナと、ステータと、カバーコンバータとを有し、前記カバーコンバータ内のオイルを介して、前記ポンプインペラと前記タービンランナとの間の回転伝達が行われるトルクコンバータの支持構造であって、
前記ステータを支持すると共に、支持部材で回転不能に支持されたステータシャフトと、
前記ポンプインペラの内径側に連結されると共に、前記ステータシャフトに外挿されるコンバータスリーブと、を有し、
前記支持部材は、前記ステータシャフトの外周を囲む支持部を有しており、
前記コンバータスリーブは、
前記支持部に内挿されて、前記ステータシャフトとの間にオイルの第1油路を形成する第1ボス部と、
前記支持部の外周を囲む第2ボス部を有しており、
前記第1ボス部と前記支持部の間に配置されたベアリングと、
前記第2ボス部と前記支持部の間に配置されたオイルシールと、を有する、トルクコンバータの支持構造。
【請求項2】
請求項1において、
前記ベアリングと前記オイルシールと前記ポンプインペラは、前記トルクコンバータの回転軸の径方向から見て、重なる範囲を持つ位置関係で設けられている、トルクコンバータの支持構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記回転伝達軸は、前記ステータシャフトの内側を貫通して、前記ステータシャフトとの間にオイルの第2油路を形成しており、
前記第1油路と前記第2油路のうちの一方が、前記カバーコンバータにオイルを供給する供給路、他方が前記カバーコンバータからオイルを排出する排出路である、トルクコンバータの支持構造。
【請求項4】
請求項3において、
前記支持部材では、前記支持部から見て前記トルクコンバータとは反対側に、前記ステータシャフトが内嵌する支持孔を囲む凹部、が設けられており、
前記ステータシャフトでは、前記凹部内に位置する領域の外周に、前記コンバータスリーブの内周との隙間を封止するシール部材が設けられており、
前記コンバータスリーブでは、前記凹部内に位置する領域の外周に、前記ポンプインペラに入力された回転を、外部に伝達する回転伝達機構の回転体が連結されている、トルクコンバータの支持構造。
【請求項5】
請求項4において、
前記トルクコンバータは、ロックアップクラッチを備えており、
前記回転伝達軸内に、前記ロックアップクラッチの作動用のオイルが通流する第3油路が設けられている、トルクコンバータの支持構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクコンバータの支持構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図3には、ベアリングとオイルシールとを径方向に重なる位置関係で配置することで、ポンプインペラのボス部の軸長を短くしたトルクコンバータの支持構造が開示されている。このトルクコンバータの支持構造は、オイルの油路内にベアリングを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-165278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ベアリング等の構成部品が油路内に配置されていると、油路内を通流するオイルの大きな抵抗となる。そこで、油路内のオイルの通流が阻害されないトルクコンバータの支持構造が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のある態様は、
駆動源の回転が入力されるポンプインペラと、回転伝達軸と一体に回転するタービンランナと、ステータと、カバーコンバータとを有し、前記カバーコンバータ内のオイルを介して、前記ポンプインペラと前記タービンランナとの間の回転伝達が行われるトルクコンバータの支持構造であって、
前記ステータを支持すると共に、支持部材で回転不能に支持されたステータシャフトと、
前記ポンプインペラの内径側に連結されると共に、前記ステータシャフトに外挿されるコンバータスリーブと、を有し、
前記支持部材は、前記ステータシャフトの外周を囲む支持部を有しており、
前記コンバータスリーブは、
前記支持部に内挿されて、前記ステータシャフトとの間にオイルの第1油路を形成する第1ボス部と、
前記支持部の外周を囲む第2ボス部を有しており、
前記第1ボス部と前記支持部の間に配置されたベアリングと、
前記第2ボス部と前記支持部の間に配置されたオイルシールと、を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のある態様によれば、油路を避けた位置にベアリングを配置できるので、油路内のオイルの通流が阻害されないトルクコンバータの支持構造とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、トルクコンバータの支持構造を説明する図である。
図2図2は、図1の要部拡大図である。
図3図3は、比較例に係るトルクコンバータの支持構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
始めに、本明細書における用語の定義を説明する。
「所定方向視においてオーバーラップする」とは、所定方向に複数の要素が並んでいることを意味し、「所定方向にオーバーラップする」と記載する場合と同義である。「所定方向」は、たとえば、軸方向、径方向、重力方向、車両前後方向等である。
図面上において複数の要素(部品、部分等)が所定方向に並んでいることが図示されている場合は、明細書の説明において、所定方向視においてオーバーラップしていることを説明した文章があるとみなして良い。
【0009】
「所定方向視においてオーバーラップしていない」、「所定方向視においてオフセットしている」とは、所定方向に複数の要素が並んでいないことを意味し、「所定方向にオーバーラップしていない」、「所定方向にオフセットしている」と記載する場合と同義である。「所定方向」は、たとえば、軸方向、径方向、重力方向、車両前後方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
図面上において複数の要素(部品、部分等)が所定方向に並んでいないことが図示されている場合は、明細書の説明において、所定方向視においてオーバーラップしていないことを説明した文章があるとみなして良い。
【0010】
「所定方向視において、第1要素(部品、部分等)は第2要素(部品、部分等)と第3要素(部品、部分等)との間に位置する」とは、所定方向から観察した場合において、第1要素が第2要素と第3要素との間にあることが観察できることを意味する。「所定方向」とは、軸方向、径方向、重力方向、車両走行方向(車両前進方向、車両後進方向)等である。
例えば、第2要素と第1要素と第3要素とが、この順で軸方向に沿って並んでいる場合は、径方向視において、第1要素は第2要素と第3要素との間に位置しているといえる。図面上において、所定方向視において第1要素が第2要素と第3要素との間にあることが図示されている場合は、明細書の説明において所定方向視において第1要素が第2要素と第3要素との間にあることを説明した文章があるとみなして良い。
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。実施形態では、車両用のトルクコンバータを例に挙げて説明する。
図1は、トルクコンバータ2の支持構造1を説明する図である。このトルクコンバータ2へのオイルの供給経路は3系統である。
図2は、図1のA領域の拡大図である。
【0012】
図1に示すように、トルクコンバータ2では、ポンプインペラ23と、タービンランナ24とが、共通の回転軸X上で相対回転可能に設けられている。ポンプインペラ23とタービンランナ24は、ステータ25を間に挟んで、回転軸X方向で対向している。
【0013】
ポンプインペラ23、タービンランナ24及びステータ25は、カバーコンバータ20の内部に設けられている。カバーコンバータ20は、駆動源の回転駆動力が入力されるフロントカバー21と、リアカバー22とを、回転軸X方向で組み付けて形成される。リアカバー22の内周には、ポンプインペラ23のポンプシェル230が一体に形成されている。
【0014】
ポンプインペラ23のポンプシェル230は、内径側でコンバータスリーブ7に連結されている。コンバータスリーブ7については後記する。タービンランナ24のタービンシェル240は、内径側でタービンハブ261に連結されている。タービンハブ261は、変速機構(図示せず)の入力軸26にスプライン嵌合している。ステータ25の内径側は、ワンウェイクラッチOCを介してステータシャフト28にスプライン嵌合している。
【0015】
駆動源の回転駆動力がフロントカバー21に入力されると、ポンプインペラ23が、回転軸X周りに回転する。カバーコンバータ20の内部は、オイルOLが供給される油室R2となっており、ポンプインペラ23の回転は、油室R2内のオイルOLを介してタービンランナ24に伝達される。タービンランナ24に伝達された回転駆動力は、入力軸26を介して、変速機構(図示せず)側に入力される。
【0016】
トルクコンバータ2は、ケース3に収容されている。ケース3は、トルクコンバータ2の外周を囲む周壁部31と、周壁部31から内径側に延びる底壁部32と、を有する。ケース3は、周壁部31と底壁部32とで囲まれた空間R1内にトルクコンバータ2を収容している。
【0017】
底壁部32は、回転軸Xに直交する向きで設けられている。底壁部32には、ステータシャフト28が内嵌する支持孔36が設けられている。ケース3は、底壁部32でステータシャフト28を回転不能に支持する支持部材を構成する。
また、底壁部32には、後記するコンバータスリーブ7の第1ボス部71(図2参照)が挿入される挿入孔33が設けられている。これら挿入孔33と支持孔36は、回転軸Xを中心として同心に配置されている。挿入孔33は、支持孔36よりも大径である。挿入孔33は、支持孔36よりもトルクコンバータ2側に位置している。
【0018】
底壁部32では、トルクコンバータ2側(図中、左側)の面に、トルクコンバータ2側に延びる支持壁部34が設けられている。支持壁部34は、挿入孔33を囲む円筒状を成している。支持壁部34は、ステータシャフト28の外周を囲むと共に、底壁部32から延びてポンプインペラ23の内側まで及んでいる。
【0019】
支持壁部34の内周には、ベアリングB1が設けられている。支持壁部34は、ベアリングB1を介して、コンバータスリーブ7を回転軸X回りに相対回転可能に支持している。
【0020】
図2に示すように、コンバータスリーブ7は、回転軸Xの径方向に沿う向きに設けられた側板部75と、側板部75から回転軸X方向におけるステータ25から離れる向きに延びる第1ボス部71及び第2ボス部72と、を有する。
【0021】
側板部75は、回転軸X方向から見てリング状を成している。側板部75は、回転軸Xの径方向において、ケース3の支持壁部34を外径側から内径側に横切る範囲に設けられている。側板部75の外径側端部75aは、溶接によりポンプシェル230に固定されている。側板部75の内径側端部75bには、円筒状の第1ボス部71が設けられている。
【0022】
第1ボス部71は、回転軸Xに沿う向きに設けられている。第1ボス部71は、回転軸X方向において、支持壁部34と挿入孔33を横切って、後記する凹部35に及ぶ長さを有する。
【0023】
第1ボス部71の外径側には、当該第1ボス部71を囲む円筒状の第2ボス部72が設けられている。第2ボス部72は、回転軸Xに沿う向きに設けられている。第2ボス部72は、ケース3の支持壁部34の外径D2よりも大径の内径D1を有する(D1>D2)。
【0024】
ここで、ケース3内の空間R1において、回転軸Xの径方向における支持壁部34の外径側に、底壁部32側に膨らむように湾曲したポンプシェル230が位置している。そのため、支持壁部34とポンプシェル230との間には空間的な余裕があり、回転軸X方向と、回転軸Xの径方向とに範囲を持つスペースR1aが形成されている(図1参照)。本実施形態では、このスペースR1aを利用して、コンバータスリーブ7に第2ボス部72を設けている。
【0025】
図2に示すように、第2ボス部72は、回転軸X方向において、支持壁部34を略全長に亘って囲む長さL1を有する。そのため、第1ボス部71、第2ボス部72及び支持壁部34は、回転軸Xの径方向で互いにオーバーラップしている。回転軸Xの径方向において、支持壁部34と第2ボス部72の間にはリップシールRsが設けられ、支持壁部34と第1ボス部71の間にはベアリングB1が設けられている。
【0026】
具体的には、図2の拡大領域に示すように、支持壁部34の外周面34aは、回転軸Xの径方向に沿う直線Lm方向で、第2ボス部72の内周面72bと間隔をあけて対向している。リップシールRsは、直線Lm方向における支持壁部34の外周面34aと第2ボス部72の内周面72bとに跨って設けられている。リップシールRsは、リップ部Raを支持壁部34の外周面34aに当接した状態で、第2ボス部72の内周面72bに内嵌されている。これにより、第2ボス部72の内側の空間R7は、ケース3内の空間R1との連通が遮断されている。
【0027】
また、図2の拡大領域に示すように、支持壁部34の内周面34bは、直線Lm方向で、第1ボス部71の外周面71aと間隔をあけて対向している。支持壁部34の内周面34bは、挿入孔33よりも大径に形成されている。支持壁部34の内周面34bと挿入孔33との境界は、段差面34cとなっている。段差面34cは、回転軸Xに直交する平坦面である。
【0028】
支持壁部34の内周面34bには、ベアリングB1のアウタレースB1aが内嵌されている。回転軸X方向におけるアウタレースB1aの一端側は、段差面34cに当接している。また、支持壁部34の内周面34bには、スナップリングSrが内嵌されている。スナップリングSrは、回転軸X方向における他端側からアウタレースB1aに当接している。この状態において、ベアリングB1は、直線Lm方向でリップシールRsとオーバーラップする。
【0029】
ベアリングB1の転動体B1bは、外径側でアウタレースB1aに当接し、内径側で第1ボス部71の外周面71aに当接している。これにより、第1ボス部71は、ベアリングB1を介して、支持壁部34に相対回転可能に支持される。
【0030】
ここで、コンバータスリーブ7の側板部75と、ワンウェイクラッチOCを保持するリテーナRtとの間には、スラストベアリングB2が介在している。これにより、コンバータスリーブ7は、リテーナRtとの相対回転が許容された状態で、ポンプインペラ23と一体に回転する。
【0031】
コンバータスリーブ7の側板部75は、第1ボス部71と第2ボス部72の間の第1領域751と、第2ボス部72よりも外径側の第2領域752と、を有する。
側板部75では、第2領域752がスラストベアリングB2に当接し、第1領域751がリテーナRtとの間に隙間Sを形成している。第1領域751から見て、回転軸X方向の隙間Sと反対側では、支持壁部34が間隔をあけて対向している。
【0032】
側板部75は、第1領域751と第2領域752の間が屈曲しており、第1領域751が、第2領域752よりも回転軸X方向のリテーナRt側にオフセットしている。第1領域751は、回転軸Xの径方向でスラストベアリングB2とオーバーラップしている。これにより、支持壁部34とリテーナRtとの回転軸X方向の間隔Wを狭めて、ポンプインペラ23と底壁部32との回転軸X方向の距離Lxを詰めている。
【0033】
図2に示すように、ケース3の底壁部32では、挿入孔33と支持孔36の間(支持壁部34から見てトルクコンバータ2とは反対側)に、径方向外側に窪む凹部35が設けられている。凹部35は、支持孔36を囲むように設けられている。
【0034】
コンバータスリーブ7の第1ボス部71は、回転軸X方向で支持壁部34と挿入孔33を横切って、凹部35が設けられた領域に及んでいる。凹部35内において、第1ボス部71の先端711側の外周には、ドライブスプロケット8がスプライン嵌合している。ドライブスプロケット8の歯部には、図示しないメカオイルポンプを駆動するチェーン9(図中、仮想線参照)が巻きかけられている。チェーン9は、凹部35内に配置されている。
【0035】
ドライブスプロケット8は、コンバータスリーブ7の回転に合わせて回転軸X回りに回転する。そうすると、チェーン9が回転軸X周りの周方向に周回する。これにより、メカオイルポンプが駆動される。メカオイルポンプはトルクコンバータ2の外部に設けられている。チェーン9は、ポンプインペラ23に入力された回転を、外部(メカオイルポンプ)に伝達する回転伝達機構を構成する。ドライブスプロケット8は、チェーン9を回転させる回転体を構成する。
【0036】
図2に示すように、第1ボス部71の内周には、ステータシャフト28が挿通している。
回転軸Xの径方向において、第1ボス部71の内周面71bは、ステータシャフト28の外周面28aと、隙間CL1をあけて配置されている。ステータシャフト28は、回転軸X方向で第1ボス部71とステータ25を横切って、タービンハブ261と底壁部32の支持孔36とに跨って設けられている。
【0037】
ステータシャフト28には、シールリングCが外嵌されている。シールリングCは、ステータシャフト28の外周面28aと、第1ボス部71の先端711側の内周面71bとの隙間CL1を封止する。また、ステータシャフト28には、シールリングCから見て、ステータ25側に連通孔28cが設けられている。連通孔28cは、ステータシャフト28の外周面28aと内周面28bを連通する。
【0038】
隙間CL1は、オイルOLが通流する第1油路P1として機能する。第1油路P1は、回転軸X方向におけるステータ25側が、リテーナRtと側板部75との隙間Sを介して油室R2に連絡している。また、第1油路P1は、回転軸X方向における第1ボス部71の先端711側が、シールリングCで封止されると共に、連通孔28cに連絡している。
【0039】
ステータシャフト28の内周には、ケース3の底壁部32側(図中、右側)から筒状部材29が挿入されている。回転軸X方向における筒状部材29の一端291は、連通孔28cよりもステータ25側に位置している。筒状部材29の外周には、凹溝29aが設けられている。凹溝29aは、回転軸Xに沿う向きに延びる直線状の溝である。凹溝29aは、一端291側で連通孔28cに接続し、他端側(図示せず)でケース3に設けられた油孔(図示せず)に接続している。
【0040】
図2に示すように、筒状部材29の内周には、ケース3の底壁部32側(図中、右側)から入力軸26が挿通している。図1に示すように、入力軸26は、回転軸X方向において、底壁部32側から筒状部材29、ステータシャフト28及びタービンハブ261を順番に横切って、後記する支持部材27で支持されている。
【0041】
図2に示すように、回転軸Xの径方向において、ステータシャフト28の内周面28bは入力軸26の外周面26aと隙間CL2を空けて配置されている。隙間CL2は、筒状部材29の内周面29bと入力軸26の外周面26aとの隙間CL2aに連絡している。また、隙間CL2は、タービンハブ261の歯溝部262と入力軸26の外周面26aとの隙間CL2bに連絡している。これら隙間CL2、CL2a、CL2bは、オイルOLが通流する第2油路P2として機能する。
【0042】
図1に示すように、タービンハブ261は、回転軸X方向における一端部268側(図中、右側)が、ステータシャフト28に内挿され、他端部267側(図中、左側)が、支持部材27の円筒状の支持部271に内挿されている。タービンハブ261は、ステータシャフト28及び支持部材27に対して相対回転可能である。
第2油路P2は、回転軸X方向に沿って、底壁部32側から、筒状部材29、ステータシャフト28及びタービンハブ261を順番に横切ると共に、支持部271の内側に及んでいる。
【0043】
支持部271の外周には、カバーコンバータ20のフロントカバー21が溶接されている。カバーコンバータ20の内部では、タービンランナ24とフロントカバー21との間に、ロックアップクラッチ6が設けられている。
【0044】
クラッチドラム61とクラッチハブ62との間には、複数のクラッチ板63が設けられている。複数のクラッチ板63は、回転軸X方向に並んでいる。
複数のクラッチ板63が設けられた領域のタービンランナ24側(図中、右側)には、ピストン64とプランジャ65が設けられている。ピストン64及びプランジャ65は、それぞれ支持部材27の支持部271に外挿されている。
【0045】
回転軸X方向において、ピストン64は、フロントカバー21とプランジャ65の間に位置している。プランジャ65は、支持部271に溶接されている。ピストン64は、支持部271との回転軸X回りの相対回転が許容された状態で、フロントカバー21とプランジャ65の間を回転軸X方向に往復移動可能に設けられている。
【0046】
図1に示すように、ピストン64とプランジャ65との間の空間は、ピストン油室R3を構成する。
支持部271の外周では、ピストン油室R3に、油孔271a(図中破線参照)が開口している。油孔271aは、ピストン油室R3と入力軸26の油孔26bとを連通している。油孔26bは、入力軸26の内部を、回転軸Xに沿う向きに延びている。
【0047】
ピストン64とフロントカバー21の間の空間R4は、カバーコンバータ20内の油室R2と連通している。支持部271の外周では、空間R4に油孔271bが開口している。油孔271bは、空間R4を介して油室R2と、第2油路P2とを連通している。
【0048】
以下、トルクコンバータ2内のオイルOLの流れを説明する。
ピストン油室R3には、入力軸26の油孔26bからピストン64の駆動用のオイルOLが供給される(図1における矢印a)。カバーコンバータ20内の油室R2には、空間R4を経由して、第2油路P2からトルクコンバータ2の作動用のオイルOLが供給される(図1における矢印b)。油室R2内のオイルOLは、第1油路P1から排出される(図1における矢印c)。
【0049】
トルクコンバータ2では、油室R2(空間R4)に供給されたオイルOLの油圧と、ピストン油室R3に供給されたオイルOLの油圧との差圧を利用して、ピストン64を回転軸X方向に変位させる。
【0050】
ピストン油室R3内の圧力が、油室R2よりも高くなると、ピストン64がフロントカバー21側(図中、左側)に変位する。そうすると、複数のクラッチ板63同士が、ピストン64とフロントカバー21との間で把持される。これにより、クラッチドラム61とクラッチハブ62との相対回転が規制され、ロックアップクラッチ6が作動する。すなわち、油孔26bは、ロックアップクラッチ6の作動用のオイルOLが通流する第3油路P3を構成する。
【0051】
一方、ピストン油室R3内の圧力が、油室R2内の圧力よりも低くなると、ピストン64がプランジャ65側(図中、右側)に変位して、クラッチ板63同士の相対回転が許容される。これにより、クラッチドラム61とクラッチハブ62との相対回転が許容される。
【0052】
この場合、フロントカバー21に入力された駆動源の回転駆動力が、油室R2内のオイルOLを介して、ポンプインペラ23からタービンランナ24に伝達されたのち、入力軸26に伝達される。
【0053】
図2に示すように、油室R2内のオイルOLの一部は、ポンプインペラ23側を内径側に移動して、リテーナRtとコンバータスリーブ7の側板部75との間の隙間Sから、第1油路P1に流入する。
【0054】
第1油路P1内のオイルOLは、油室R2側から第1油路P1に順次流入するオイルOLによって押されて、油室R2から離れる方向に移動する(図2における矢印c)。第1油路P1内を油室R2から離れる方向に移動するオイルOLは、シールリングCによって流れが堰き止められて、連通孔28cから筒状部材29の凹溝29aに移動し、トルクコンバータ2外へ排出される。
【0055】
かかる構成のトルクコンバータ2の支持構造1の作用効果について説明する。
本実施形態に係るトルクコンバータ2の支持構造1では、ケース3の支持壁部34の外径側と内径側に、コンバータスリーブ7の第1ボス部71と第2ボス部72を設けている。
【0056】
第1ボス部71の外径側には、ベアリングB1が配置されている。第2ボス部72の内径側には、リップシールRsが配置されている。従って、本実施形態では、第1油路P1には、オイルOLの流れを阻害するものが設けられていない。
【0057】
また、第1ボス部71の先端711側の外周には、ドライブスプロケット8がスプライン嵌合している。ドライブスプロケット8には、メカオイルポンプ(図示せず)を駆動するチェーン9が巻きかけられている。ポンプインペラ23が回転軸X回りに回転すると、コンバータスリーブ7とドライブスプロケット8もまた回転軸X回りに回転する。そうすると、ドライブスプロケット8に巻きかけられたチェーン9が回転軸X周りに周回する。
【0058】
チェーン9の周回によって、ケース3の下部に貯留されたオイルOLがかき上げられる。かき上げられたオイルOLの一部は、凹部35でキャッチされる。凹部35内のオイルOLの一部は、順次凹部35でキャッチされるオイルOLによって押されて、第1ボス部71と挿入孔33との間を通ってベアリングB1側に移動する。これにより、ベアリングB1は潤滑される。
【0059】
凹部35からベアリングB1側に移動したオイルOLは、コンバータスリーブ7の回転による遠心力によって、径方向外側に飛散する(図2の拡大領域における破線参照)。
本実施形態では、ケース3の支持壁部34と第2ボス部72との間にリップシールRsを配置している。これにより、チェーン9によってかき上げられたオイルOLの一部が、第2ボス部72の内径側の空間R7からケース3側の空間R1に漏出することを低減している。
【0060】
[比較例]
図3は、比較例に係るトルクコンバータ2の支持構造100を説明する図である。以下の比較例では、本実施形態と異なる部分のみを説明する。
図3に示すように、比較例に係るコンバータスリーブ700は、第2ボス部72を備えていない点で、本実施形態に係るコンバータスリーブ7と相違する。
【0061】
比較例に係るトルクコンバータ2の支持構造100では、回転軸Xの径方向において、コンバータスリーブ700の第1ボス部71の外周面71aと、ケース3の支持壁部34の内周面34bとの間に、リップシールRsが設けられている。
【0062】
また、回転軸Xの径方向において、第1ボス部71の内周面71bとステータシャフト28の外周面28aとの間にベアリングBが設けられている。回転軸X方向において、ベアリングBは、隙間Sと連通孔28cの間に位置している。そのため、ベアリングBは、第1油路P1内に配置されている。
【0063】
比較例に係るトルクコンバータ2の支持構造100では、ベアリングBを第1油路P1内に配置した状態で、回転軸Xの径方向でベアリングBとリップシールRsとをオーバーラップさせている。これにより、回転軸X方向におけるポンプインペラ23と底壁部32との距離Lxを詰めている。しかしながら、第1油路P1内に配置されたベアリングBは、第1油路P1内の通流するオイルOLの抵抗となる(図中、破線矢印)。
【0064】
これに対して、本実施形態に係るトルクコンバータ2の支持構造1では、第1ボス部71と第2ボス部72を有するコンバータスリーブ7を用いることで、第1ボス部71と第2ボス部72との間にベアリングB1とリップシールRsを設けることができる。これにより、ベアリングB1は、第1油路P1を避けた位置に配置される。
【0065】
また、トルクコンバータ2は、ケース3から見て、回転軸Xに対して僅かに傾くことがある。この場合、比較例に係るトルクコンバータ2の支持構造100では、コンバータスリーブ700の第1ボス部71に曲げ応力が集中することになる(図3参照)。
【0066】
これに対して、本実施形態に係るコンバータスリーブ7は、第1ボス部71がベアリングB1を介して支持壁部34で支持され、第2ボス部72と支持壁部34との間にはリップシールRsを挿入して、これらの間をシールする(図2参照)。
【0067】
また、本実施形態に係るトルクコンバータ2の支持構造1において、ステータシャフト28では、ケース3の凹部35が形成された領域の外周に、シールリングCが設けられている(図2参照)。
【0068】
ここで、ベアリングB1とリップシールRsは、支持壁部34を挟んで、回転軸Xの径方向に沿う直線Lm方向でオーバーラップして配置されている(図2の拡大領域参照)。ベアリングB1とリップシールRsが支持壁部34の補強材として機能し、支持壁部34自体が、径方向に変形しにくくなっている。これにより、ケース3によるトルクコンバータ2の支持強度が向上する。また、ベアリングB1とリップシールRsを回転軸X方向にオフセットして配置するよりも、支持壁部34の長さを短くできる。これにより、回転軸X方向におけるポンプインペラ23と底壁部32との距離Lxを詰めることができる。
【0069】
以下に、本発明のある態様におけるトルクコンバータ2の支持構造1の例を列挙する。
(1)トルクコンバータ2には、駆動源の回転が入力されるポンプインペラ23と、変速機構の入力軸26(回転伝達軸)と一体に回転するタービンランナ24と、ステータ25と、カバーコンバータ20とを有している。
カバーコンバータ20内のオイルOLを介して、ポンプインペラ23とタービンランナ24との間の回転伝達が行われる。
トルクコンバータ2の支持構造1は、
ステータ25を支持すると共に、ケース3(支持部材)で回転不能に支持されたステータシャフト28と、
ポンプインペラ23の内径側に連結されると共に、ステータシャフト28に外挿されるコンバータスリーブ7と、を有する。
ケース3の底壁部32は、ステータシャフト28の外周を囲む支持壁部34(支持部)を有している。
コンバータスリーブ7は、
支持壁部34に内挿されて、ステータシャフト28との間にオイルOLの第1油路P1を形成する第1ボス部71と、
支持壁部34の外周を囲む第2ボス部72を有している。
第1ボス部71と支持壁部34の間に配置されたベアリングB1と、
第2ボス部72と支持壁部34の間に配置されたリップシールRs(オイルシール)と、を有する。
【0070】
このように構成すると、第1油路P1内にベアリングB1を配置することなく、コンバータスリーブ7を支持できる。これにより、第1油路P1内のオイルOLの通流が阻害されないトルクコンバータ2の支持構造1とすることができる。
さらに、ベアリングB1とリップシールRsが、回転軸Xの径方向に重なる位置に配置される。これにより、コンバータスリーブ7(第1ボス部71)の回転軸X方向の長さを、ベアリングB1とリップシールRsを回転軸X方向に並べて配置する場合よりも短くできる。
【0071】
(2)ベアリングB1とリップシールRsとポンプインペラ23は、トルクコンバータ2の回転軸Xの径方向から見て、重なる範囲を持つ位置関係で設けられている。
【0072】
ポンプインペラ23は、底壁部32(支持部材)側に膨出した形状のポンプシェル230を有している。そのため、ポンプインペラ23の内径側には、回転軸方向と径方向に範囲を持つスペースR1aがある。
そこで、上記のように構成すると、このスペースR1aを利用して、ベアリングB1とリップシールRsを配置できる。よって、スペースR1aを有効に利用しつつ、コンバータスリーブ7(第1ボス部71)の回転軸X方向の長さを、ベアリングBとリップシールRsを回転軸方向に並べて配置する場合よりも短くできる。
特に、トルクコンバータ2を小型化する場合、ポンプシェル230とタービンシェル240のトーラス(図1参照)を扁平化することが考えられる。トーラスの扁平化は、外径を維持しつつ内径側を拡径することで行われる。従って、トーラスを扁平化するほど、スペースR1aは径方向に拡大する。そのため、上記の構成とすることは、トルクコンバータ2をより小型化することに寄与できる。
【0073】
(3)入力軸26は、ステータシャフト28の内側を回転軸X方向に貫通して設けられている。入力軸26の外周とステータシャフト28の内周との間に、オイルOLの第2油路P2が形成される。
第1油路P1と第2油路P2のうち、第2油路P2が、カバーコンバータ20内にオイルOLを供給する供給路である。第1油路P1が、カバーコンバータ20からオイルOLを排出する排出路である。
【0074】
このように構成すると、カバーコンバータ20へのオイルOLの給排に影響を及ぼすことなく、コンバータスリーブ7を底壁部32側の支持壁部34で支持できる。
【0075】
(4)ケース3の底壁部32では、支持壁部34から見てトルクコンバータ2とは反対側に、ステータシャフト28が内嵌する支持孔36を囲む凹部35が設けられている。
ステータシャフト28では、凹部35内に位置する領域の外周面28aに、コンバータスリーブ7の第1ボス部71の内周面71bとの隙間CL1を封止するシールリングC(シール部材)が設けられている。
コンバータスリーブ7では、凹部35内に位置する領域の外周に、ポンプインペラ23に入力された回転を、外部に伝達するチェーン9(回転伝達機構)のドライブスプロケット8(回転体)が連結されている。
【0076】
ポンプインペラ23に入力された回転を外部に伝達する際に、凹部35には、チェーン9により掻き上げられたオイルOLが到達する。
凹部35に到達したオイルOLは、第1ボス部71と支持壁部34との隙間を通って、トルクコンバータ2側に移動して、ベアリングB1を潤滑する。
上記のように、支持壁部34の内径側と外径側に、第1ボス部71と第2ボス部72が位置しており、第2ボス部72と支持壁部34との隙間がリップシールRsで封止されている。そのため、ベアリングB1を潤滑した後のオイルOLが、トルクコンバータ2を収容する空間R1内に流入することを低減できる。
【0077】
(5)トルクコンバータ2は、ロックアップクラッチ6を備えている。
入力軸26(回転伝達軸)内に、油孔26bが設けられている。
油孔26bは、ロックアップクラッチ6の作動用のオイルOLが通流する第3油路P3を構成する。
【0078】
このように構成すると、本実施形態のように、オイルOLの供給経路が3系統(第1油路P1、第2油路P2、第3油路P3)あるトルクコンバータ2において、カバーコンバータ20の回転軸X方向の厚みを薄くしても、コンバータスリーブ7の第1ボス部71を支持するベアリングB1の潤滑を確保しつつ、空間R1へのオイルOLの漏出を低減できる。
【0079】
本実施形態では、第2油路P2をカバーコンバータ20内にオイルOLを供給する供給路とし、第1油路P1をカバーコンバータ20からオイルOLを排出する排出路としたが、この態様に限定されない。例えば、本実施形態とはオイルOLの通流方向を逆にして、第1油路P1をカバーコンバータ20内にオイルOLを供給する供給路とし、第2油路P2をカバーコンバータ20からオイルOLを排出する排出路としてもよい。
【0080】
本実施形態では、一例として、車両に搭載されるトルクコンバータ2の支持構造1の例を説明したが、この態様に限定されない。本発明は、車両以外にも適用することができる。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。発明の技術的な思想の範囲内で、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 :支持構造
2 :トルクコンバータ
3 :ケース(支持部材)
6 :ロックアップクラッチ
7 :コンバータスリーブ
8 :ドライブスプロケット(回転体)
9 :チェーン(回転伝達機構)
20 :カバーコンバータ
23 :ポンプインペラ
24 :タービンランナ
25 :ステータ
26 :入力軸(回転伝達軸)
28 :ステータシャフト
32 :底壁部
34 :支持壁部(支持部)
35 :凹部
36 :支持孔
71 :第1ボス部
72 :第2ボス部
B1 :ベアリング
C :シールリング(シール部材)
CL1 :隙間
OL :オイル
P1 :第1油路
P2 :第2油路
P3 :第3油路
Rs :リップシール(オイルシール)
X :回転軸
図1
図2
図3