IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-エンジンのオイル通路構造 図1
  • 特開-エンジンのオイル通路構造 図2
  • 特開-エンジンのオイル通路構造 図3
  • 特開-エンジンのオイル通路構造 図4
  • 特開-エンジンのオイル通路構造 図5
  • 特開-エンジンのオイル通路構造 図6
  • 特開-エンジンのオイル通路構造 図7A
  • 特開-エンジンのオイル通路構造 図7B
  • 特開-エンジンのオイル通路構造 図8
  • 特開-エンジンのオイル通路構造 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083029
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】エンジンのオイル通路構造
(51)【国際特許分類】
   F01M 5/00 20060101AFI20240613BHJP
   F01M 1/02 20060101ALI20240613BHJP
   F01M 1/06 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
F01M5/00 N
F01M1/02 Z
F01M1/06 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197302
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山賀 勇真
(72)【発明者】
【氏名】外薗 徹
(72)【発明者】
【氏名】小池 祐輔
【テーマコード(参考)】
3G313
【Fターム(参考)】
3G313AB02
3G313BB14
3G313BC11
3G313BD11
3G313BD61
3G313FA08
(57)【要約】
【課題】エンジンの温間時にはオイルを効率的に冷却する一方で、エンジンの冷間時にはオイルの冷却を抑制することが可能なオイル通路構造を提供する。
【解決手段】エンジン本体10に設けられ、エンジン本体10のシリンダヘッド4からオイルパンへとオイルを戻すための排気側リターン通路41を備え、排気側リターン通路41は、シリンダヘッド4の排気ポート16の近傍に形成された主通路44と、シリンダヘッド4内において、主通路44から分岐して形成された副通路45と、を有し、副通路45の上側開口部45aは、主通路44の上側開口部44aよりも上側に位置しており、副通路45は、主通路44よりもシリンダヘッド4内の冷却部に近い位置に配置されている。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン本体のシリンダブロックの下側に配置されたオイルパンに貯留されたオイルを、オイルポンプによってシリンダヘッドの被潤滑部に供給した後に前記オイルパンに戻して循環するエンジンのオイル通路構造であって、
前記エンジン本体に設けられ、前記エンジン本体のシリンダヘッドから前記オイルパンへとオイルを戻すためのオイルリターン通路を備え、
前記オイルリターン通路は、
前記シリンダヘッドの排気ポートの近傍に形成された主通路と、
前記シリンダヘッド内において、前記主通路から分岐して形成された副通路と、
を有し、
前記主通路及び前記副通路は、前記シリンダヘッド内に、上側に向かって開口する上側開口部をそれぞれ有し、
前記副通路の前記上側開口部は、前記主通路の前記上側開口部よりも上側に位置しており、
前記副通路は、前記主通路よりも前記シリンダヘッド内の冷却部に近い位置に配置されていることを特徴とするエンジンのオイル通路構造。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンのオイル通路構造において、
前記副通路の流路断面積は、前記主通路の流路断面積よりも大きいことを特徴とするエンジンのオイル通路構造。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のエンジンのオイル通路構造において、
前記シリンダヘッドには、冷却水が流通するウォータジャケットが設けられ、
前記冷却部は、前記ウォータジャケットで構成されており、
前記副通路は、前記ウォータジャケットに隣接していることを特徴とするエンジンのオイル通路構造。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載のエンジンのオイル通路構造において、
前記副通路の前記上側開口部は、前記主通路の前記上側開口部よりも吸気側に位置しており、
前記シリンダヘッド内には、前記主通路及び前記副通路の各上側開口部よりも上側に位置する前記被潤滑部に供給された後のオイルを、前記副通路の前記上側開口部よりも吸気側に案内するガイド部が設けられていることを特徴とするエンジンのオイル通路構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、エンジンのオイル通路構造に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、エンジンの燃費の向上を目的に通常の粘度を備えたオイルよりも上限温度が低い低粘度オイルを採用する傾向がある。一方で、オイルの粘度が低いと潤滑性が低下するため、低粘度オイルを採用する場合には、特にエンジンの温間時において、オイルの冷却を積極的に行う必要がある。
【0003】
特許文献1には、シリンダブロックに形成したオイルリターン通路の上部を、ウォータジャケットを部分的に囲うように広がった拡幅部として、拡幅部のうちウォータジャケットの側に位置した内側面に複数のフィンを形成する構造が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、シリンダ軸線と略平行しかつ当該シリンダ軸線より下方に形成され、内燃機関のシリンダヘッドとクランクケースとを連通する主通路と、当該主通路の下方部分からシリンダ軸線よりに分岐し、クランクケース内に開口した第1分岐通路と、主通路の上方部分からシリンダ軸線よりに分岐し、シリンダヘッド内に開口した第2分岐通路と、を有するオイル通路構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-148227号公報
【特許文献2】特許第3741159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンの冷間時には、エンジンの暖気を早急に行うために、オイルの温度を出来る限り上昇させたいという要求がある。特許文献1のような構成では、オイルの冷却については積極的に行うことができるが、エンジンの冷間時におけるオイルの冷却抑制については有利な効果が得られない。
【0007】
また、特許文献2では、分岐通路を設けているが、これはブローバイガスの通路を確保するためのものであり、オイルパンに戻るオイルが流れることを想定していない。このため、この分岐通路は、オイルの冷却及び加熱には寄与しない。
【0008】
したがって、エンジンの温間時にはオイルを効率的に冷却する一方で、エンジンの冷間時にはオイルの冷却を抑制するという対立する要求を両立させるには改良の余地がある。
【0009】
ここに開示された技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジンの温間時にはオイルを効率的に冷却する一方で、エンジンの冷間時にはオイルの冷却を抑制することが可能なオイル通路構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術の第1の態様では、エンジン本体のシリンダブロックの下側に配置されたオイルパンに貯留されたオイルを、オイルポンプによってシリンダヘッドの被潤滑部に供給した後に前記オイルパンに戻して循環するエンジンのオイル通路構造を対象として、前記エンジン本体に設けられ、前記エンジン本体のシリンダヘッドから前記オイルパンへとオイルを戻すためのオイルリターン通路を備え、前記オイルリターン通路は、前記シリンダヘッドの排気ポートの近傍に形成された主通路と、前記シリンダヘッド内において、前記主通路から分岐して形成された副通路と、を有し、前記主通路及び前記副通路は、前記シリンダヘッド内に、上側に向かって開口する上側開口部をそれぞれ有し、前記副通路の前記上側開口部は、前記主通路の前記上側開口部よりも上側に位置しており、前記副通路は、前記主通路よりも前記シリンダヘッド内の冷却部に近い位置に配置されている、という構成とした。
【0011】
この構成によると、オイルの供給量が少ないエンジンの冷間時には、シリンダヘッド内において油面が副通路の上側開口部に到達しにくいため、オイルは主に主通路を通る。主通路は排気ポートに近いため、主通路を通るオイルは排気熱で温められる。これにより、エンジンの冷間時にはオイルの冷却が抑制される。一方で、エンジンの温間時には、オイルの供給量が多くなるため、シリンダヘッド内において油面が上昇して副通路の上側開口部に到達する。副通路は冷却部に近いため、副通路を通るオイルは該冷却部により冷却される。これにより、冷却されたオイルがオイルパンに戻されるため、オイルが積極的に冷却される。したがって、エンジンの温間時におけるオイルの冷却と、エンジンの冷間時におけるオイルの冷却抑制とを両立させることができる。
【0012】
ここに開示された技術の第2の態様では、第1の態様において、前記副通路の流路断面積は、前記主通路の流路断面積よりも大きい、という構成でもよい。
【0013】
この構成によると、エンジンの温間時において、副通路を通るオイルの流量を出来る限り多くすることができる。これにより、エンジンの温間時におけるオイルの冷却をより積極的に行うことができる。
【0014】
ここに開示された技術の第3の態様では、第1又は第2の態様において、前記シリンダヘッドには、冷却水が流通するウォータジャケットが設けられ、前記冷却部は、前記ウォータジャケットで構成されており、前記副通路は、前記ウォータジャケットに隣接している、という構成でもよい。
【0015】
この構成によると、副通路がウォータジャケットに隣接しているので、ウォータジャケットに流れる冷却水によって副通路の壁部が冷却される。これにより、オイルの放熱が促進されるため、エンジンの温間時におけるオイルの冷却をより積極的に行うことができる。
【0016】
ここに開示された技術の第4の態様では、第1の態様において、前記副通路の前記上側開口部は、前記主通路の前記上側開口部よりも吸気側に位置しており、前記シリンダヘッド内には、前記主通路及び前記副通路の各上側開口部よりも上側に位置する前記被潤滑部に供給された後のオイルを、前記副通路の前記上側開口部よりも吸気側に案内するガイド部が設けられている、という構成でもよい。
【0017】
この構成によると、排気側のカムジャーナルなどに供給された潤滑油についても副通路に流入させることができる。また、吸気側から排気側に向かうようなオイルの流れを形成することができ、オイルを副通路に積極的に流通させることができる。これにより、エンジンの温間時におけるオイルの冷却をより積極的に行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、エンジンの温間時におけるオイルの冷却と、エンジンの冷間時におけるオイルの加熱とを、それぞれ効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、例示的な実施形態に係るオイル通路構造を有するエンジン本体を示す断面図である。
図2図2は、エンジンのオイル供給通路を示す概略図である。
図3図3は、エンジンのオイルリターン通路を示す断面図である。
図4図4は、シリンダヘッドのミドルデッキを上側から見た図である。
図5図5は、図4のV-V線相当の断面図である。
図6図6は、副通路周辺を拡大して示す拡大斜視図である。
図7A図7Aは、油温とオイルの流量との関係を示すグラフである。
図7B図7Bは、オイルの流量とシリンダヘッド内の油面の高さとの関係を示すグラフである。
図8図8は、オイルの温度、主通路のオイル流量、及び副通路のオイル流量を示すタイムチャートである。
図9図9は、副通路の変形例を示す、図5相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、実施形態に係るオイル通路構造を有するエンジン本体10を示す。このエンジン本体10は、自動車の車両におけるエンジンルームに配置されている。エンジン本体10は、シリンダブロック3と、該シリンダブロック3の上側に配置されるシリンダヘッド4と、シリンダブロック3の下側に配置されるオイルパン30と、を備える。
【0022】
シリンダブロック3は、複数(ここでは4つ)のシリンダ2を有する。複数のシリンダ2は、図1の紙面方向(以下、気筒列方向という)に、筒軸が平行になるように並んで配置されている。シリンダ2内には、ピストン5が往復可能に配置されている。ピストン5は、シリンダブロック3の下部に回転自在に支持されたクランクシャフト6に、コンロッド7を介して連結されている。ピストン5がシリンダ2内で往復運動することで、クランクシャフト6が回転する。ピストン5の上面、シリンダ2、及びシリンダヘッド4の一部で燃焼室8が形成される。
【0023】
シリンダブロック3には、冷却水が流通するブロック側ウォータジャケット11が設けられている。ブロック側ウォータジャケット11は、シリンダ2を取り囲むように、気筒列方向に連通してシリンダ2の外周に設けられている。
【0024】
シリンダヘッド4は、ミドルデッキ4aにより上下に分かれており、ミドルデッキ4aの下側に吸気ポート15及び排気ポート16を有する。吸気ポート15及び排気ポート16は、1つのシリンダ2に対して2つずつ設けられている。ミドルデッキ4aは、エンジン本体10がエンジンルームに配置された状態で、水平になるように形成されている。
【0025】
シリンダヘッド4には、吸気ポート15を開閉するための吸気バルブ15aと、排気ポート16を開閉するための排気バルブ16aと、が設けられている。また、シリンダヘッド4には、吸気バルブ15aを開閉するための吸気カムシャフト17と、排気バルブ16aを開閉するための排気カムシャフト18とが設けられている。吸気カムシャフト17及び排気カムシャフト18は、クランクシャフト6にそれぞれ駆動連結されている。これにより、吸気バルブ15a及び排気バルブ16aは、クランクシャフト6の回転に合わせて、吸気ポート15及び排気ポート16をそれぞれ開閉する。
【0026】
シリンダヘッド4には、冷却水が流通するヘッド側ウォータジャケット19(図3参照)が設けられている。ヘッド側ウォータジャケット19は、吸気ポート15と排気ポート16との間の部分に、気筒列方向に連通して形成されている。ヘッド側ウォータジャケット19は、ブロック側ウォータジャケット11と連通しており、ブロック側ウォータジャケット11から冷却水が流れ込むようになっている。ヘッド側ウォータジャケット19は、エンジン本体10の冷却部を構成する。
【0027】
オイルパン30は、ピストン5、クランクシャフト6、吸気カムシャフト17、排気カムシャフト18等の被潤滑部を潤滑するためのオイルを貯留している。
【0028】
本実施形態では、エンジン本体10は、図1に示すように、シリンダ2が排気側に傾斜した方向に延びるように配置された状態で車体フレームに支持されて前記エンジンルームに配置されている。
【0029】
エンジン本体は、図2及び図3に示すように、被潤滑部(ピストン5、クランクシャフト6、吸気カムシャフト17、排気カムシャフト18等)を潤滑するオイルをエンジン本体10内で循環させるオイル通路が備えられている。オイル通路は、被潤滑部にオイルを供給するオイル供給通路21と、被潤滑部に供給したオイルをオイルパンに戻すためのオイルリターン通路22とを有する。
【0030】
オイル供給通路21は、オイルパン30に貯留されているオイルを吸い上げるオイルポンプ31と、オイルポンプ31から吐出されるオイルを濾過するオイルフィルタ32と、オイルポンプ31から吐出されるオイルを冷却するオイルクーラ33と、エンジン本体10に設けられた供給油路35と、を備える。
【0031】
供給油路35は、オイルパン30側に設けられた第1供給油路36と、シリンダブロックに設けられた第2供給油路37と、シリンダヘッド4に設けられた第3供給油路38と、第1供給油路36と第2供給油路37とを連通させる第1連通油路39と、第2供給油路37と第3供給油路38とを連通させる第2連通油路40とを備える。
【0032】
図2に示すように、第1供給油路36は、オイルパン30内に設けられると共にオイルポンプ31とオイルフィルタ32とを接続する油路と、オイルパン30の排気側の側面に隣接して設けられかつオイルフィルタ32とオイルクーラ33とを接続する油路と、を備える。
【0033】
図2に示すように、第1連通油路39は、シリンダブロック3内において、オイルクーラ33から上側に延びて、上下方向及び気筒列方向の両方に直交する幅方向に延びた後、上側に向かって延びている。
【0034】
第2供給油路37は、第1連通油路39が接続されかつ気筒列方向に延びるメインギャラリ37aと、メインギャラリ37aから分岐して下側に延びてクランクシャフト6の被潤滑部にオイルを供給するための複数の分岐油路37bと、メインギャラリ37aの一方側の端部から分岐して幅方向に延びて第2連通油路40に連通する油路37cと、を備える。メインギャラリ37aは、シリンダブロック3の気筒列方向に直交する幅方向においてシリンダブロック3の排気側の位置であってシリンダ2の下端部近傍に位置している。
【0035】
第2連通油路40は、油路37cのメインギャラリ37a側の端部から上側に向かって延びている。第2連通油路40は、下部がシリンダブロック3に設けられている一方、上部がシリンダヘッド4に設けられている。
【0036】
第3供給油路38は、第2連通油路40の上端から幅方向両側に延びる油路38aと、油路38aの排気側と吸気側から上側に延びる一対の油路38bと、油路38bから気筒列方向に延びるヘッド側ギャラリ38cとを備える。ヘッド側ギャラリ38cは、ヘッド側ギャラリ38cから吸気カムシャフト17及び排気カムシャフト18のそれぞれのカムジャーナル等にオイルを供給するように形成された複数の分岐油路38dを備える。
【0037】
尚、図示は省略するが、オイル供給通路21は、前述した構成以外にも、例えば、ピストンを冷却するためのオイルジェット等にオイルを供給するように形成されている。
【0038】
エンジン本体10の被潤滑部に供給されたオイルは、被潤滑部の冷却や潤滑を終えた後、オイルリターン通路22を通ってオイルパン30に戻される。
【0039】
図3に示すように、オイルリターン通路22は、被潤滑部としての吸気カムシャフト17及び排気カムシャフト18に供給されたオイルが、排気ポート16側と吸気ポート15側に分かれて流れる複数の排気側リターン通路41と、1つの吸気側リターン通路51と、を備える。排気側リターン通路41及び吸気側リターン通路51は、シリンダヘッド4に設けられたヘッド側リターン通路42,52と、シリンダブロック3に設けられたブロック側リターン通路43,53とを備える。吸気側リターン通路51の構成は、後述する副通路45がないこと以外は、排気側リターン通路41の構成と同じであるため、以下では、排気側リターン通路41について詳細に説明し、吸気側リターン通路51については詳細な説明を省略する。
【0040】
ヘッド側リターン通路42は、主通路44と副通路45とを有する。以下では、主通路44について説明し、副通路45については後述する。
【0041】
主通路44は、断面略円形状に形成されて上下方向に延びている。主通路44は、シリンダヘッド4の排気側に複数備えられる(図4参照)。主通路44の下端部は、ブロック側リターン通路43に連通されるようになっている。主通路44は、各シリンダ2間で、各シリンダ2と気筒列方向にずれた位置に配置されている。具体的には、主通路44は、各排気ポート16に隣接して配置されている。
【0042】
主通路44の上側開口部44aは、シリンダヘッド4のミドルデッキ4aに設けられている。主通路44は、シリンダヘッド4とシリンダブロック3とを接続する接続ボルト60(図5参照)が締結されるボルト孔61に隣接して配置されている。主通路44の上側開口部44aは、ボルト孔61の上端よりも低い位置に形成されている。
【0043】
ブロック側リターン通路43は、略円形状に形成されてシリンダブロック3の上端から下端に向けて延びている。ブロック側リターン通路43の下端は、オイルパン30に開口している。
【0044】
エンジンの運転が開始されると、クランクシャフト6の回転に伴ってオイルポンプ31が駆動される。そして、図2に矢印で示すように、オイルポンプ31は、オイルパン30に貯留されているオイルを吸入し、吸入されたオイルを、第1供給油路36、第1連通油路39、第2供給油路37、第2連通油路40、第3供給油路38を順次経由して、エンジン本体10内の被潤滑部に供給する。
【0045】
被潤滑部に供給されたオイルは、オイル供給通路21を介して被潤滑部を潤滑するとともに、被潤滑部の動作時に生じる摩擦熱等の熱を吸収する。シリンダヘッド4内に供給されたオイルは、シリンダヘッド4内に溜められて、ミドルデッキ4aをつたってヘッド側リターン通路42に流入する。そして、オイルリターン通路22を介してオイルパン30に戻される。
【0046】
ここで、近年では、エンジンの燃費の向上を目的に通常の粘度を備えたオイルよりも上限温度が低い低粘度オイルを採用する傾向がある。低粘度オイルを採用する場合には、特にエンジンの温間時における潤滑性の低下を抑制するために、オイルの冷却を積極的に行う必要がある。一方で、エンジンの冷間時には、エンジンの温度を上昇させるために、オイルを出来る限り温めたいという要求がある。
【0047】
そこで、本実施形態では、ヘッド側リターン通路42に、主通路44から分岐して形成された副通路45を形成した。
【0048】
図3及び図5に示すように、副通路45は、主通路44の下端部から分岐して、上側ほど吸気側に位置するように傾斜して延びている。副通路45の本実施形態では、副通路45の上端部は、接続ボルト60のボルトヘッド60aよりも吸気側に位置している。より具体的には、副通路45は、シリンダヘッド4のミドルデッキ4aの位置において、主通路44と副通路45との間にボルトヘッド60aが位置するように配置されている。
【0049】
本実施形態では、副通路45はパイプで形成されている。図5及び図6に示すように、副通路45を形成するパイプは、その一部がヘッド側ウォータジャケット19内に位置している。これにより、副通路45は、パイプの壁面を介して、ヘッド側ウォータジャケット19と隣接するようになって、主通路44よりもヘッド側ウォータジャケット19に近い位置に位置するようになる。
【0050】
副通路45は、その流路断面積が、主通路44の流路断面積よりも大きくなるように形成されている。
【0051】
副通路45の上側開口部45aは、主通路44の上側開口部44aよりも吸気ポートに近い位置に位置している。また、副通路45の上側開口部45aは、主通路44の上側開口部44aよりも上側の位置であって、ミドルデッキ4aの上面に対して、高さhだけ上側の位置に設けられている。
【0052】
副通路45の上側開口部45aの高さhは、エンジン本体10の暖機完了時におけるオイルの流量に基づいて設定されている。具体的には、まず、エンジンの暖機完了時のオイルの流量(以下、特定流量OFという)を算出する。オイルの流量は、図7に示すように、基本的にはオイルの温度(以下、油温という)に比例して増加するように制御されている。油温はエンジン本体10の温度とみなせるため、エンジン本体10の暖機完了時の温度を、エンジン本体10の暖機完了時における油温(以下、特定油温OTという)とみなして、特定流量OFを、図7Aに示すようなグラフから算出する。次に、算出した特定流量OFから、エンジン本体10の暖機完了時におけるシリンダヘッド4内の油面の高さ(ミドルデッキ4aの上面からの高さ、以下、特定高さOHという)を求める。本実施形態では、オイルの流量とシリンダヘッド4内の油面の高さとの関係は、図7Bに示すような線形の関係になる。ここから、特定高さOHを算出する。そして、この特定高さOHを、副通路45の上側開口部45aの高さhとする。尚、特定油温OTと特定流量OFとから、特定高さOHは、例えば4mmである。特定油温OTの設定温度が変われば、それに応じて、特定流量OF及び特定高さOHも変わる。
【0053】
尚、シリンダヘッド4の内部構造によっては、オイルの流量とシリンダヘッド4内の油面の高さとの関係が図7Bのような線形の関係とはならないことがある。この時には、オイルの流量とシリンダヘッド4内の油面の高さとの関係を示すグラフを別途作成して、特定高さOHを算出するようにすればよい。
【0054】
このように、エンジン本体10の暖機完了時の油面の高さに基づいて、副通路45の上側開口部45aの高さhを設定することで、エンジンの温間時には、オイルが積極的に冷却されて、オイルの温度上昇を抑制することができる。このことについて、図8を参照して説明する。
【0055】
図8は、油温と、主通路44の流量と、副通路45の流量との関係を示す。まず、油温が低いエンジンの冷間時には、油面が副通路45の上側開口部45aに到達しないため、オイルは、副通路45には流入せずに、主通路44にのみ流入する。主通路44は、排気ポート16に隣接しているため、主通路44を通るオイルが温められて、油温が上昇する。それに伴い、オイルの流量も増加する。
【0056】
オイルの温度が特定油温OTに到達したときには、オイルの流量が特定流量OFに到達する。このため、ミドルデッキ4aからの油面の高さは特定高さOHになって、油面が副通路45の上側開口部45aに到達する。
【0057】
そして、油温がさらに上昇すると、オイルが副通路45に流入する。副通路45は主通路44から分岐しているため、オイルが副通路45に流入すると、主通路44からの流入量は減少する。オイルが副通路45に流入することで、オイルが冷却されやすくなり、油温の上昇が抑えられる。
【0058】
その後、副通路45の流量が最大になると、オイルの温度がほぼ一定となる。このときの温度は、副通路45を設けなかった場合(図8に二点鎖線で示す)よりも低い温度である。
【0059】
このように、副通路45が設けられることによって、エンジンの冷間時にはオイルを温めてエンジンを早急に温める一方で、エンジンの温間時にはオイルの温度上昇を抑制させることができる。
【0060】
ここで、図4に示すように、副通路45の上側開口部45aを、主通路44の上側開口部44aよりも吸気側に設けると、副通路45の上側開口部45aは、主通路44の上側開口部44aよりも、排気カムシャフト18から遠い位置に位置するようになる。排気カムシャフト18は、主通路44及び副通路45の各上側開口部44a,45aよりも上側に位置するため、通常であれば、排気カムシャフト18を潤滑した後のオイルは、シリンダヘッド4の内壁面をつたって主通路44に直接流入する。しかしながら、エンジンの温間時において、オイルを積極的に冷却するには、排気カムシャフト18を潤滑した後のオイルについても、副通路45を通ることができるようにすることが望ましい。
【0061】
このため、本実施形態では、図4及び図5に示すように、主通路44及び副通路45の各上側開口部44a,45aよりも上側に位置する排気カムシャフト18に供給された後のオイルを、副通路45の上側開口部45aよりも吸気側に案内するガイド部46を設けた。尚、図6ではガイド部46を省略している。
【0062】
ガイド部46は、排気側リターン通路41の位置に対応して、複数設けられている。各ガイド部46は、オイルを受ける受け部と、受け部が受けたオイルを吸気側向かってに流す伝達部とをそれぞれ有する。各受け部は、前記伝達部から排気カムシャフト18の軸方向に延びて、排気カムシャフト18のカムジャーナルの直下にそれぞれ位置している。前記各伝達部は、副通路45の直上を通って、副通路45の上側開口部45aよりも吸気側の位置まで延びている。
【0063】
これにより、排気カムシャフト18を潤滑した後のオイルは、前記受け部が受けて、前記伝達部を通って、副通路45の上側開口部45aよりも吸気側の位置に排出される。これにより、排気カムシャフト18を潤滑した後のオイルについても、副通路45を通って冷却できるようになる。
【0064】
また、ガイド部46によって、排気カムシャフト18を潤滑したオイルを吸気側に伝達することで、ミドルデッキ4a上では、吸気側の方が排気側よりもオイルの供給量が多くなる。一方で、排気側リターン通路41は、吸気側リターン通路51よりも多く設けられているため、排気側の方が吸気側よりもシリンダヘッド4からのオイルの排出量が多くなる。このため、ガイド部46が設けられることで、吸気側から排気側に向かうようなオイルの流れが生じる。これにより、主通路44よりも吸気側(流れの上流側)に位置する副通路45に積極的にオイルを流入させることができ、オイルの冷却を積極的に行うことができる。
【0065】
また、図5及び図6に示すように、副通路45の上側開口部45aの排気側に接続ボルト60のボルトヘッド60aが位置していることにより、吸気側から排気側に向かうようなオイルの流れが生じたときには、ボルトヘッド60aでオイルの流れが一時的にせき止められる。これにより、副通路45にオイルを流通させやすくなる。
【0066】
したがって、本実施形態では、エンジン本体10に設けられ、エンジン本体10のシリンダヘッド4からオイルパン30へとオイルを戻すための排気側リターン通路41を備え、排気側リターン通路41は、シリンダヘッド4の排気ポート16の近傍に形成された主通路44と、シリンダヘッド4内において、主通路44から分岐して形成された副通路45と、を有し、主通路44及び副通路45は、シリンダヘッド4内に、上側に向かって開口する上側開口部44a,45aをそれぞれ有し、副通路45の上側開口部45aは、主通路44の上側開口部44aよりも上側に位置しており、副通路45は、主通路44よりもシリンダヘッド4内のヘッド側ウォータジャケット19に近い位置に配置されている。これにより、オイルの供給量が少ないエンジンの冷間時には、シリンダヘッド4内において油面が副通路45の上側開口部45aに到達しにくいため、オイルは主に主通路44を通る。主通路44は排気ポート16に近いため、主通路44を通るオイルは排気熱で温められる。これにより、エンジンの冷間時にはオイルの冷却が抑制される。一方で、エンジンの温間時には、オイルの供給量が多くなるため、シリンダヘッド4内において油面が上昇して副通路45の上側開口部45aに到達する。副通路45はヘッド側ウォータジャケット19に近いため、副通路45を通るオイルは、ヘッド側ウォータジャケット19により冷却される。これにより、冷却されたオイルがオイルパン30に戻されるため、オイルが積極的に冷却される。したがって、エンジンの温間時におけるオイルの冷却と、エンジンの冷間時におけるオイルの冷却抑制とを両立させることができる。
【0067】
特に、本実施形態では、副通路45の上側開口部45aのミドルデッキ4aからの高さは、エンジン本体10の暖機完了時(油温が暖気完了の温度になった時)におけるシリンダヘッド4内の油面の高さに基づいて設定されている。これにより、エンジンの冷間時において、オイルを効率的に温めることができる。
【0068】
また、本実施形態では、副通路45の流路断面積は、主通路44の流路断面積よりも大きい。これにより、エンジンの温間時において、副通路45を通るオイルの流量を出来る限り多くすることができる。これにより、エンジンの温間時におけるオイルの冷却をより積極的に行うことができる。
【0069】
また、本実施形態では、副通路45の上側開口部45aは、主通路44の上側開口部44aよりも吸気側に位置しており、シリンダヘッド4内には、主通路44及び副通路45の各上側開口部44a,45aよりも上側に位置する被潤滑部(ここでは、排気カムシャフト18)に供給された後のオイルを、副通路45の上側開口部45aよりも吸気側に案内するガイド部46が設けられている。これにより、排気カムシャフト18等に供給された潤滑油についても副通路45に流入させることができる。また、吸気側から排気側に向かうようなオイルの流れを形成することができ、オイルを副通路45に積極的に流通させることができる。これにより、エンジンの温間時におけるオイルの冷却をより積極的に行うことができる。
【0070】
また、本実施形態では、エンジン本体10の幅方向において、副通路45の上側開口部45aと主通路44の上側開口部44aとの間に、接続ボルト60のボルトヘッド60aが位置している。これにより、吸気側から排気側に向かうようなオイルの流れが生じたときには、ボルトヘッド60aでオイルの流れが一時的にせき止められる。これにより、副通路45にオイルを流通させやすくなる。
【0071】
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0072】
例えば、前述の実施形態では、副通路45はパイプで形成されていた。これに限らず、シリンダヘッド4を穿設することで副通路45を形成してもよい。この場合には、図9に示すように、ミドルデッキ4aの部分に上側に向かって突出する突出部247を形成して、該突出部247に副通路245の上端部を形成するようにする。これにより、シリンダヘッド4を穿設して副通路245を形成する場合であっても、副通路245の上側開口部を、主通路44の上側開口部44aよりも上側に位置させることができる。
【0073】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
ここに開示された技術は、エンジン本体のシリンダブロックの下側に配置されたオイルパンに貯留されたオイルを、オイルポンプによってシリンダヘッドの被潤滑部に供給した後にオイルパンに戻して循環するエンジンのオイル通路構造に有用である。
【符号の説明】
【0075】
3 シリンダブロック
4 シリンダヘッド
10 エンジン本体
16 排気ポート
22 オイルリターン通路
30 オイルパン
31 オイルポンプ
44 主通路
44a 上側開口部
45 副通路
45a 上側開口部
46 ガイド部
245 副通路
245a 上側開口部
247 突出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9