(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083031
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】多機能ベルト
(51)【国際特許分類】
F16G 1/00 20060101AFI20240613BHJP
【FI】
F16G1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197308
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000111085
【氏名又は名称】ニッタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】兼田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】古木 信次
(72)【発明者】
【氏名】荒井 康一
(72)【発明者】
【氏名】田邊 滉一
(57)【要約】
【課題】端部の変形が生じることがなく、引張方向の力が強く作用しても導体心線が損傷することを防止できる多機能ベルトを提供すること。
【解決手段】多機能ベルト10は、熱可塑性エラストマーからなる平ベルト状のベルト本体11と、ベルト本体11内に埋設され、ベルト本体11の長手方向に延びる、複数の高強度心線12、14、及び複数の導体心線13とを備え、複数の高強度心線12、14のうち、一部の複数の高強度心線12は、ベルト本体11の幅方向略中央に埋設され、複数の導体心線13は、一部の複数の高強度心線12から幅方向の外側にオフセットして埋設され、複数の高強度心線12、14のうち、他の一部の高強度心線14は、複数の導体心線13の幅方向外側に埋設され、導体心線13の引張強度は、高強度心線12、14の引張強度よりも小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーからなる平ベルト状のベルト本体と、
前記ベルト本体内に埋設され、前記ベルト本体の長手方向に延びる、複数の高強度心線、及び複数の導体心線とを備え、
前記複数の高強度心線のうち、一部の複数の高強度心線は、前記ベルト本体の幅方向略中央に埋設され、前記複数の導体心線は、前記一部の複数の高強度心線から幅方向の外側にオフセットして埋設され、前記複数の高強度心線のうち、他の一部の高強度心線は、前記複数の導体心線の幅方向外側に埋設され、
前記導体心線の引張強度は、前記高強度心線の引張強度よりも小さい
多機能ベルト。
【請求項2】
前記複数の導体心線は、接続先となる制御対象を電気的に制御する制御信号線を含む
請求項1に記載の多機能ベルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多機能ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動倉庫等に設けられる天井搬送車及びスライドフォーク等に適用される多機能ベルトとして、樹脂製のベルト本体に埋設された複数の高強度心線及び複数の導体心線を備えた多機能ベルトが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された多機能ベルトは、ベルト本体の幅方向の略中央にアラミド繊維等の複数の高強度心線を埋設し、ベルト本体の幅方向端部にアルミニウム線、銅線、スチールコード等の複数の導体心線を埋設した構成である。
【0003】
多機能ベルトは、巻き取りプーリーを介して天井搬送車やスライドフォーク等の制御対象に接続され、複数の導体心線から制御対象に電力を供給したり、電気的な制御信号を送出することにより、制御対象の移動、荷物の搬入、搬出等を行う。また、多機能ベルトは、制御対象等の移動位置に応じて巻き取りプーリーにより巻き取られる。この際、多機能ベルトには、ベルトの引張方向に力が作用するので、引張方向に強度を持たせるために複数の高強度心線が埋設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に開示された多機能ベルトは、多機能ベルトに引張方向の力が作用すると、多機能ベルトの両端が伸びることで波打ち等の変形が生じ、巻き取りプーリーのフランジに乗り上げ易くなるという課題がある。また、ベルト本体の幅方向端部に埋設された複数の導体心線には引張方向の力が強く作用するため、金属疲労等により劣化して断線する可能性があり、制御対象への電力供給、制御信号の送出が困難となるという課題がある。
【0006】
本発明の目的は、端部の変形が生じることがなく、引張方向の力が強く作用しても導体心線が損傷することを防止できる多機能ベルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多機能ベルトは、熱可塑性エラストマーからなる平ベルト状のベルト本体と、前記ベルト本体内に埋設され、前記ベルト本体の長手方向に延びる、複数の高強度心線、及び複数の導体心線とを備え、前記複数の高強度心線のうち、一部の複数の高強度心線は、前記ベルト本体の幅方向略中央に埋設され、前記複数の導体心線は、前記一部の複数の高強度心線から幅方向の外側にオフセットして埋設され、前記複数の高強度心線のうち、他の一部の高強度心線は、前記導体心線の幅方向外側に埋設され、前記導体心線の引張強度は、前記高強度心線の引張強度よりも小さい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高強度心線が複数の導体心線の幅方向外側に埋設されているため、多機能ベルトに引張方向の力が作用しても、多機能ベルトの端部が伸びにくくなり、変形を防止することができる。また、導体心線の引張強度を高強度心線の引張強度よりも小さくすることにより、多機能ベルトに引張方向の力が作用しても、作用した力を高強度心線に多く負担させることが可能となるため、導体心線に断線等の損傷が生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る多機能ベルトの構造を示す断面図である。
【
図2】実施形態における高強度心線及び導体心線の強度に対する伸度を示すグラフである。
【
図3】比較例の多機能ベルトの構造を示す断面図である。
【
図4】比較例及び実施例の多機能ベルトを示す写真である。
【
図5】比較例及び実施例における多機能ベルトに作用する圧力分布を測定する方法を示す模式図である。
【
図6】
図5におけるフラットプーリー及びクラウンプーリーの構造を示す平面図である。
【
図7】フラットプーリーにおける比較例及び実施例に作用する圧力分布の状態を示す写真である。
【
図8】クラウンプーリーにおける比較例及び実施例に作用する圧力分布の状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明ではすでに説明した部材、構造等は同一符号を付して説明を省略する。
図1には、本発明の実施形態に係る多機能ベルト10の幅方向の断面図が示されている。多機能ベルト10は、スタッカークレーン等の自動倉庫に設けられる天井搬送車、スライドフォーク等の制御対象に接続され、制御対象に電力を供給したり、制御対象に制御信号を送出することにより、制御対象の移動、自動倉庫内の荷物の搬出、搬入等を行う。
【0011】
多機能ベルト10は、ベルト本体11、複数の高強度心線12、14、及び複数の導体心線13を備え、これらの心線12、13、14は、ベルト本体11の幅方向中央を中心として幅方向に対称に埋設される。ベルト本体11は、熱可塑性エラストマーからなる長尺の、平ベルト状のベルト本体11を有する平ベルトである。ベルト本体11を構成する熱可塑性エラストマーとしてはウレタン系樹脂が好ましい。超高分子量ポリエチレンで形成されたプーリーの表面に対する、ベルト本体11の表面の動摩擦係数は、0.1以上、0.2以下である。ベルト本体11内には、複数の高強度心線12、14と導体心線13とが埋設されている。本明細書において「埋設」とは、高強度心線12、14と導体心線13がベルト本体11内に完全に埋め込まれる場合に限定されず、部分的にベルト本体11から露出する場合を含む。具体的には、ベルト本体11の厚さtは、プーリーによる巻き取りを考慮すると、1.3mm以上、1.5mm以下とするのが好ましい。また、ベルト本体11の幅は、高強度心線12、14及び導体心線13の本数を考慮すると、20mm以上、40mm以下とするのが好ましい。
【0012】
複数の高強度心線12、14のうち、一部の複数の高強度心線12は、ベルト本体11の幅方向略中央に埋設される。本実施形態では、ベルト本体11の幅方向略中央には、8本の高強度心線12が埋設される。なお、ベルト本体11の幅方向略中央に埋設される高強度心線12の本数は、これに限らず、8本未満であってもよく、8本以上であってもよい。複数の高強度心線12、14は、例えば、アラミド心線、カーボン心線、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)心線、高強度ガラス心線等、高強度・高弾性の心線を利用できる。本実施形態では、アラミド心線を採用している。
【0013】
一部の複数の高強度心線12のベルト本体11の幅方向外側には、複数の導体心線13が埋設されている。複数の導体心線13は、略中央に埋設された一部の複数の高強度心線12から幅方向の外側で両側にオフセットして埋設される。複数の導体心線13は、例えば、スチール心線、軟銅心線、銅合金心線、又はアルミニウム心線等である。本実施形態では、スチール心線を採用している。高強度心線12、14の0.1%伸長時の引張強度は、15N/本以上とするのが好ましく、導体心線13の0.1%伸長時の引張強度は、5N/本以下とするのが好ましい。高強度心線12、14の引張弾性率は、導体心線13の引張弾性率の3~3.5倍とするのが好ましい。本実施形態では、導体心線13の線径は、複数の高強度心線12、14の線径よりも小さくなっている。具体的には、高強度心線12、14の線径は、0.4mm以上、1.2mm以下とされ、導体心線13の線径は、0.3mm以上、0.8mm以下とされる。
【0014】
複数の導体心線13の外側には、他の一部の複数の高強度心線14が埋設されている。複数の高強度心線14は、ベルト本体11の略中央に埋設された複数の高強度心線12と同様の材質、同様の線径であり、表面処理も施されている。本実施形態では、他の一部の複数の高強度心線14は、複数の導体心線13の外側に4本埋設されているが、これに限らず、埋設する本数は、多機能ベルト10の端部に求められる強度に応じて適宜の本数に設定される。
【0015】
多機能ベルト10は、例えばウレタン系樹脂組成物からなり、押し出し成形機にて、先端ダイ(Tダイ)よりシート状に連続的に溶融押し出して、金型ロールとスチールバンドとの間に形成されたキャビティに、溶融したウレタン系樹脂を流し込んで製造される。この際、流し込みとともに、導体心線13及び高強度心線12、14を引き込んで、心線が埋め込まれたウレタン系樹脂層を成形して多機能ベルト10を製造することができる。多機能ベルト10は、高強度心線12、14、導体心線13、及びベルト本体11が接着剤を用いずに一体化される。
【0016】
このような本実施形態によれば、以下のような効果がある。高強度心線14が複数の導体心線13の幅方向外側に埋設されているため、多機能ベルト10に引張方向の力が作用しても、多機能ベルト10の端部が延びにくくなり、変形を防止することができる。また、導体心線13の引張強度を高強度心線12、14の引張強度よりも小さくすることにより、多機能ベルト10に引張方向の力が作用しても、作用した力を高強度心線12、14に多く負担させることが可能となるため、導体心線13に断線等の損傷が生じることを防止できる。
【0017】
導体心線13の線径を高強度心線12、14の線径よりも小さくすることにより、多機能ベルト10を巻き取りプ-リ-に巻装し、巻き取り等を行った際、多機能ベルト10に作用する面外方向の圧力が導体心線13に作用することを低減することができ、導体心線13が金属疲労等による断線等により損傷することを防止することができる。
【実施例0018】
次に、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は各実施例に限定されるものではなく、種々の変更を含むものである。
【0019】
(1)実験例1
第1実施形態に係る多機能ベルト10に使用している高強度心線12及び導体心線13の強度はJIS L1013化学繊維フィラメント糸試験方法(2010)に準じて測定した。つかみ間隔は150mm、引張速度は300mm/分として、引張試験機((株)島津製作所製)で荷重-伸長曲線を求め、破断時の荷重値を強度(N/本)とし、破断時の伸びを初期試料長で割り、伸長率(%)とし、多機能ベルト10の高強度心線12及び導体心線13の強度(N/本)と伸度(%)の関係を比較した。なお、高強度心線12には、アラミドコード(線径0.7mm)を使用し、導体心線13には、線径0.36mmのスチールコードを使用した。
【0020】
実験結果を
図2に示す。
図2からわかるように、アラミドコードは、強度に対する伸度が小さく、引張力に対して伸びにくい素材であることが確認された。一方、スチールコードは、強度に対する伸度が大きく、引張力が作用すると金属疲労等を起こしやすい素材であることが確認された。従って、実施形態のように、複数の導体心線13を複数の高強度心線12、14で挟み込むことにより、多機能ベルト10に引張方向の力が作用しても、複数の導体心線13が伸びにくくなるので、金属疲労を防止して、断線等の発生を防止できることが確認された。
【0021】
(2)実験例2
多機能ベルトを巻き取りプ-リ-に取り付け、巻き取りプ-リ-で巻き取った際に多機能ベルトに作用する引張り力により発生する多機能ベルト内に生じる圧力分布を測定した。具体的には、実施形態で説明した多機能ベルト10に対して、比較例として
図3に示す多機能ベルト20に生じる圧力分布を測定した。比較例の多機能ベルト20は、中央部に12本の高強度心線12を埋設し、高強度心線12の両側端部に複数の導体心線13を埋設した。
図4には、比較例となる多機能ベルト20と、実施例となる多機能ベルト10の上方から見た写真を示す。
【0022】
測定方法は、
図5に示すように、巻き取りプ-リ-となる駆動輪31、従動輪32、及び圧力分布センサ33(ニッタ(株)社製:タクタイルセンサ iscan100)を備えた広幅走行試験機30に、300Nの張力で多機能ベルト10、20を巻装し、駆動輪31を駆動させながら、圧力分布センサ33で検出される圧力分布を測定した。駆動輪31及び従動輪32の径は、32mmφとし、多機能ベルト10、20の幅は30mmとした。また、駆動輪31及び従動輪32は、
図6(A)に示すフラットプーリーTypeFと、
図6(B)に示すクラウンプーリーTypeCについて測定を行った。クラウンプーリーTypeCのクラウンの曲率半径は770mmRであり、クラウンの高さは0.3mmであった。結果を
図7及び
図8に示す。
【0023】
フラットプーリーTypeFを駆動輪31、従動輪32とした場合、
図7に示すような測定結果が得られた。
図7(A)に示すように、比較例となる多機能ベルト20では、複数の導体心線13が埋設された領域Aで測定された圧力分布が高く、複数の導体心線13に作用する負荷が大きくなることが確認された。一方、
図7(B)に示すように、実施例となる多機能ベルト10では、複数の導体心線13の幅方向外側に複数の高強度心線14が埋設されているため、複数の導体心線13が埋設された領域Bで測定された圧力分布が低く、複数の導体心線13に作用する負荷が小さくなることが確認された。
【0024】
クラウンプーリーTypeCを駆動輪31、従動輪32とした場合であっても、
図8(A)、(B)に示すように、比較例の多機能ベルト20では、複数の導体心線13が埋設された領域Aの圧力分布が高くなり、実施例の多機能ベルト10では、複数の導体心線13が埋設された領域Bの圧力分布が低くなることが確認された。以上のことから、実施例に係る多機能ベルト10は、ベルト本体11の幅方向の端部に高強度心線14が埋設されることにより、多機能ベルト10に引張力が作用しても、複数の導体心線13に高い圧力分布が生じることがない。従って、複数の導体心線13に作用する負荷を低減して、複数の導体心線13に断線等の損傷が生じることを防止できることが確認された。