(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083033
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】電動駐車ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 8/00 20060101AFI20240613BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/74 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197310
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】今枝 浩輝
(72)【発明者】
【氏名】河本 圭太
(72)【発明者】
【氏名】万木 将暉
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048CC49
3D048HH18
3D048HH58
3D048HH66
3D048QQ12
3D048RR01
3D048RR02
3D048RR06
3D048RR13
3D048RR29
3D246BA08
3D246DA02
3D246GA22
3D246GC14
3D246HA38A
3D246HA39A
3D246HA43A
3D246HA94A
3D246JA12
3D246JB01
3D246JB11
3D246JB43
3D246LA15Z
(57)【要約】
【課題】電動駐車ブレーキ装置において、電気モータの性能の個体差に応じて適切な目標電流値を設定する。
【解決手段】実施形態の電動駐車ブレーキ装置は、車両の制動制御時に電気モータの駆動によって前進方向に移動することで電動制動力を発生させ、制動解除制御時に電気モータの駆動によって前進方向の逆方向である後退方向に移動することで電動制動力を解除する直動部材と、電気モータを制御するコントローラと、を備える。コントローラは、電気モータを制御するときに、制動解除制御時に通電開始から電気モータの電流値の時間に対する変化勾配が第1閾値以下になるまでの第1経過時間、および、制動制御時に通電開始から電気モータの電流値の時間に対する変化勾配が第2閾値以上になるまでの第2経過時間のうちの少なくとも一つを取得し、それらに基づいて、制動制御時に、電気モータに通電する目標電流値を設定する。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動制御時に電気モータの駆動によって前進方向に移動することで電動制動力を発生させ、制動解除制御時に前記電気モータの駆動によって前記前進方向の逆方向である後退方向に移動することで前記電動制動力を解除する直動部材と、
前記電気モータを制御するコントローラと、
を備える電動駐車ブレーキ装置において、
前記コントローラは、
前記電気モータを制御するときに、前記制動解除制御時に通電開始から前記電気モータの電流値の時間に対する変化勾配が第1閾値以下になるまでの第1経過時間、および、前記制動制御時に通電開始から前記電気モータの電流値の時間に対する変化勾配が第2閾値以上になるまでの第2経過時間のうちの少なくとも一つを取得し、
前記第1経過時間、および、前記第2経過時間のうちの取得したものに基づいて、前記制動制御時に、前記電気モータに通電する目標電流値を設定する、電動駐車ブレーキ装置。
【請求項2】
前記コントローラは、
前記制動解除制御時に前記電気モータを制御して、前記第1経過時間を取得し、
前記制動制御時に、前記第1経過時間に基づいて、前記第1経過時間が長いほど前記目標電流値を大きく設定する、請求項1に記載の電動駐車ブレーキ装置。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記制動制御時に前記電気モータを制御して、前記第2経過時間を取得し、
前記制動制御時に、前記第2経過時間に基づいて、前記第2経過時間が長いほど前記目標電流値を小さく設定する、請求項1または請求項2に記載の電動駐車ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動駐車ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両(乗用車など)において、電動駐車ブレーキ装置(EPB(Electric Parking Brake))が多く採用されている。電動駐車ブレーキ装置では、コントローラは、例えば、電気モータを駆動することによって、直動部材を前進方向に移動させて電動制動力を発生させたり、直動部材を後退方向に移動させて電動制動力を解除したりする。電動制動力を発生させる場合、電気モータに通電している電流値が目標電流値に達すると目標とする電動制動力が発生したと判断し、電気モータの駆動を停止する。
【0003】
その場合、コントローラは、例えば、電気モータの温度や空転速度などの情報をセンサから取得し、それらの情報に応じて目標電流値を決定する。具体的には、例えば、電気モータの温度や空転速度などの情報と目標電流値の大きさとの関係情報が予め記憶されており、その関係情報に基づいて目標電流値を設定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の従来技術において、前記関係情報は電気モータの性能の個体差とは無関係なので、電気モータの性能の個体差に応じて適切な目標電流値を設定することはできない。
【0006】
そこで、本発明の課題は、電気モータの性能の個体差に応じて適切な目標電流値を設定することができる電動駐車ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電動駐車ブレーキ装置は、例えば、車両の制動制御時に電気モータの駆動によって前進方向に移動することで電動制動力を発生させ、制動解除制御時に前記電気モータの駆動によって前記前進方向の逆方向である後退方向に移動することで前記電動制動力を解除する直動部材と、前記電気モータを制御するコントローラと、を備える。前記コントローラは、前記電気モータを制御するときに、前記制動解除制御時に通電開始から前記電気モータの電流値の時間に対する変化勾配が第1閾値以下になるまでの第1経過時間、および、前記制動制御時に通電開始から前記電気モータの電流値の時間に対する変化勾配が第2閾値以上になるまでの第2経過時間のうちの少なくとも一つを取得し、前記第1経過時間、および、前記第2経過時間のうちの取得したものに基づいて、前記制動制御時に、前記電気モータに通電する目標電流値を設定する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系の車輪ブレーキ機構の断面模式図である。
【
図3】
図3は、実施形態において、電気モータの電流値の経時的な変化の様子を示すグラフである。
【
図4】
図4は、実施形態において、無負荷判定時間と目標電流値の関係の第1の例を示すグラフである。
【
図5】
図5は、実施形態において、無負荷判定時間と目標電流値の関係の第2の例を示すグラフである。
【
図6】
図6は、実施形態の電動駐車ブレーキ装置によって実行される処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、以下の構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0010】
以下の実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキ装置を例に挙げて説明する。
【0011】
図1は、実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。
図2は、実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系の車輪ブレーキ機構の断面模式図である。
【0012】
図1、
図2に示すように、実施形態の車両用ブレーキ装置は、サービスブレーキ1(液圧ブレーキ装置)と、EPB2(電動駐車ブレーキ装置)と、を備える。
【0013】
サービスブレーキ1は、車両の車輪と一体に回転するブレーキディスク12に向けて液圧によってブレーキパッド11を押圧して液圧制動力(サービスブレーキ力)を発生させる。
【0014】
EPB2は、EPBモータ10(電気モータ)を駆動することによってブレーキディスク12に向けてブレーキパッド11を押圧して電動制動力を発生させる。
【0015】
サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに基づいてブレーキ液圧を発生させ、このブレーキ液圧に基づいてサービスブレーキ力を発生させる液圧ブレーキ機構である。具体的には、サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をM/C(マスタシリンダ)5内に発生させる。そして、このブレーキ液圧を各車輪の車輪ブレーキ機構に備えられたW/C(ホイールシリンダ)6に伝えることでサービスブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられている。アクチュエータ7は、サービスブレーキ1により発生させるサービスブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行う。
【0016】
アクチュエータ7を用いた各種制御は、サービスブレーキ力を制御するESC(Electronic Stability Control)-ECU8にて実行される。例えば、アクチュエータ7に備えられる各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流をESC-ECU8が出力することにより、アクチュエータ7に備えられる液圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。例えば、アクチュエータ7は、車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。また、アクチュエータ7は、サービスブレーキ1の自動加圧機能を実現可能にしており、ポンプ駆動および各種制御弁の制御に基づいて、ブレーキ操作がない状態であっても自動的にW/C6を加圧できる。
【0017】
一方、EPB2は、EPBモータ10によって車輪ブレーキ機構を駆動させることで電動制動力を発生させるものであり、EPBモータ10の駆動を制御するEPB-ECU9(コントローラ)を有して構成されている。なお、EPB-ECU9とESC-ECU8は、例えばCAN(Controller Area Network)通信によって情報の送受信を行う。
【0018】
車輪ブレーキ機構は、実施形態の車両用ブレーキ装置においてブレーキ力(制動力)を発生させる機械的構造である。前輪系の車輪ブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作によってサービスブレーキ力を発生させる構造とされている。一方、後輪系の車輪ブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系の車輪ブレーキ機構は、後輪系の車輪ブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基づいて電動制動力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられている車輪ブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下では後輪系の車輪ブレーキ機構について説明する。
【0019】
後輪系の車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、
図2に示す摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12(12RL、12RR、12FR、12FL)を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
【0020】
具体的には、車輪ブレーキ機構は、
図1に示すキャリパ13内において、
図2に示すようにブレーキパッド11を押圧するためのW/C6のボディ14に直接固定されているEPBモータ10を回転させることにより、EPBモータ10の駆動軸10aに備えられた平歯車15を回転させる。そして、平歯車15に噛合わされた平歯車16にEPBモータ10の回転力を伝えることによりブレーキパッド11を移動させ、EPB2による電動制動力を発生させる。
【0021】
キャリパ13内には、W/C6およびブレーキパッド11に加えて、ブレーキパッド11に挟み込まれるようにしてブレーキディスク12の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ14の中空部14a内に通路14bを通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部14a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部14a内に回転軸17、推進軸18、ピストン19(直動部材)などを備えて構成されている。
【0022】
回転軸17は、一端がボディ14に形成された挿入孔14cを通じて平歯車16に連結され、平歯車16が回転させられると、平歯車16の回転に伴って回転させられる。この回転軸17における平歯車16と連結された端部とは反対側の端部において、回転軸17の外周面には雄ネジ溝17aが形成されている。一方、回転軸17の他端は、挿入孔14cに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔14cには、Oリング20と共に軸受け21が備えられており、Oリング20にて回転軸17と挿入孔14cの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされながら、軸受け21により回転軸17の他端を軸支している。
【0023】
推進軸18は、中空状の筒部材からなるナットにて構成され、内壁面に回転軸17の雄ネジ溝17aと螺合する雌ネジ溝18aが形成されている。この推進軸18は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、回転軸17が回転しても回転軸17の回転中心を中心として回転させられない構造になっている。このため、回転軸17が回転させられると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、回転軸17の回転力を回転軸17の軸方向に推進軸18を移動させる力に変換する。推進軸18は、EPBモータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標とする電動制動力になったときにEPBモータ10の駆動を停止すれば、推進軸18がその位置で保持され、所望の電動制動力を保持してセルフロック(以下、単に「ロック」という。)できるようになっている。
【0024】
ピストン19は、車両の制動制御時にEPBモータ10の駆動によって前進方向に移動することで電動制動力を発生させ、制動解除制御時にEPBモータ10の駆動によって前進方向の逆方向である後退方向に移動することで電動制動力を解除する。具体的には、以下の通りである。
【0025】
ピストン19は、推進軸18の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ14に形成された中空部14aの内壁面と接するように配置されている。ピストン19の外周面とボディ14の内壁面との間のブレーキ液漏れが生じないように、ボディ14の内壁面にシール部材22が備えられ、ピストン19の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。シール部材22は、アプライ制御(ロック制御)後のリリース制御時にピストン19を引き戻すための反力を発生させるために用いられる。このシール部材22を備えてあるため、基本的には旋回中に傾斜したブレーキディスク12によってブレーキパッド11およびピストン19がシール部材22の弾性変形量を超えない範囲で押し込まれても、それらをブレーキディスク12側に押し戻してブレーキディスク12とブレーキパッド11との間が所定のクリアランスで保持されるようにできる。
【0026】
また、ピストン19は、回転軸17が回転しても回転軸17の回転中心を中心として回転させられないように、推進軸18に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸18が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
【0027】
このピストン19の先端にブレーキパッド11が配置され、ピストン19の移動に伴ってブレーキパッド11を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン19は、推進軸18の紙面左方向への移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン19の端部(ブレーキパッド11が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸18から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。そして、推進軸18が通常リリースのときの待機位置であるリリース位置(EPBモータ10が回転させられる前の状態)のときに、中空部14a内のブレーキ液圧が付与されていない状態(W/C圧=0)であれば、後述するシール部材22の弾性力によりピストン19が紙面右方向に移動させられ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離間させられるようになっている。また、EPBモータ10が回転させられて推進軸18が初期位置から紙面左方向に移動させられているときには、W/C圧が0になっても、移動した推進軸18によってピストン19の紙面右方向への移動が規制され、ブレーキパッド11がその場所で保持される。
【0028】
このように構成された車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基づいてピストン19が紙面左方向に移動させられることでブレーキディスク12がブレーキパッド11に押圧され、サービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2が操作されると、EPBモータ10が駆動されることで平歯車15が回転させられ、それに伴って平歯車16および回転軸17が回転させられるため、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴って推進軸18の先端がピストン19の底面に当接してピストン19を押圧し、ピストン19も同方向に移動させられることでブレーキディスク12がブレーキパッド11に押圧され、電動制動力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の車輪ブレーキ機構とすることが可能となる。
【0029】
また、EPBモータ10の電流を検出する電流センサ(不図示)による電流検出値を取得することにより、EPB2による電動制動力の発生状態を確認したり、その電流検出値を認識したりすることができる。
【0030】
前後Gセンサ25は、車両の前後方向(進行方向)のG(加速度)を検出し、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0031】
M/C圧センサ26は、M/C5におけるM/C圧を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0032】
温度センサ28は、車輪ブレーキ機構(例えばブレーキディスク)の温度を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0033】
車輪速センサ29は、各車輪の回転速度を検出し、検出信号をEPB-ECU9に送信する。なお、車輪速センサ29は、実際には各車輪に対応して1つずつ設けられるが、ここでは、詳細な図示や説明を省略する。
【0034】
EPB-ECU9は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってEPBモータ10の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。
【0035】
EPB-ECU9は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作SW(スイッチ)23の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてEPBモータ10を駆動する。さらに、EPB-ECU9は、EPBモータ10の電流検出値に基づいてアプライ制御やリリース制御などを実行するものであり、その制御状態に基づいてアプライ制御中であることやアプライ制御によって車輪がロック状態であること、および、リリース制御中であることやリリース制御によって車輪がリリース状態(EPB解除状態)であることを認識する。そして、EPB-ECU9は、インストルメントパネルに備えられた表示ランプ24に対し、各種表示を行わせるための信号を出力する。
【0036】
以上のように構成された車両用ブレーキ装置では、基本的には、車両走行時にサービスブレーキ1によってサービスブレーキ力を発生させることで車両に制動力を発生させるという動作を行う。また、サービスブレーキ1によって車両が停車した際に、ドライバが操作SW23を押下してEPB2を作動させて電動制動力を発生させることで停車状態を維持したり、その後に電動制動力を解除したりするという動作を行う。すなわち、サービスブレーキ1の動作としては、車両走行時にドライバによるブレーキペダル3の操作が行われると、M/C5に発生したブレーキ液圧がW/C6に伝えられることでサービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2の動作としては、EPBモータ10を駆動することでピストン19を移動させ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けることで電動制動力を発生させて車輪をロック状態にしたり、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離すことで電動制動力を解除して車輪をリリース状態にしたりする。
【0037】
つまり、アプライ・リリース制御により、電動制動力を発生させたり解除したりする。アプライ制御では、EPBモータ10を正回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて所望の電動制動力を発生させられる位置でEPBモータ10の回転を停止し、この状態を維持する。これにより、所望の電動制動力を発生させる。リリース制御では、EPBモータ10を逆回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて発生させられている電動制動力を解除する。
【0038】
以下、
図3~
図5を参照しながら、EPBモータ10の性能の個体差に応じて適切な目標電流値を設定する技術について説明する。なお、以下において、動力伝達効率とは、EPBモータ10からピストン19までの動力伝達の効率を意味する。この動力伝達効率は、車輪ブレーキ機構の経年変化や環境温度や環境湿度などの様々な要因によって変わりえる。制動制御時にEPBモータ10へ通電する目標電流値が同じ場合、動力伝達効率が高いほど発生する電動制動力は大きく、動力伝達効率が低いほど発生する電動制動力は小さい傾向にある。
【0039】
以下では、説明を簡潔にするために、相対的な2つの状態として、動力伝達効率が高い高動力伝達効率状態と、動力伝達効率が低い低動力伝達効率状態と、を例にとって説明する。
【0040】
図3は、実施形態において、EPBモータ10の電流値の経時的な変化の様子を示すグラフである。(A)に示すように、制動解除制御(リリース制御)時において、電流値C11は高動力伝達効率状態でのものであり、電流値C12は低動力伝達効率状態でのものである。
【0041】
この場合、電流値C11は、時刻t1に突入電流により急上昇し、時刻t2に電流値C11の時間に対する変化勾配が第1閾値以下になっている。第1閾値とは、制動解除制御時にEPBモータ10の無負荷判定時間を決定するために用いられる閾値であって、電流値の時間に対する変化勾配の閾値である。そして、時刻t1から時刻t2までの時間T11は、高動力伝達効率状態での、EPBモータ10に対する通電開始からEPBモータ10の電流値の時間に対する変化勾配が第1閾値以下になるまでの第1経過時間である。
【0042】
また、電流値C12は、時刻t1に突入電流により急上昇し、時刻t3に電流値C12の時間に対する変化勾配は第1閾値以下になっている。時刻t1から時刻t3までの時間T12は、低動力伝達効率状態での第1経過時間である。
【0043】
このように、第1経過時間の長さは、動力伝達効率状態と相関がある。したがって、この第1経過時間を用いることで、EPBモータ10の性能の個体差に応じて適切な目標電流値を設定することができる。
【0044】
また、(B)に示すように、制動制御(アプライ制御)時において、電流値C21は高動力伝達効率状態でのものであり、電流値C22は低動力伝達効率状態でのものである。
【0045】
この場合、電流値C21は、時刻t11に突入電流により急上昇し、時刻t13に電流値C21の時間に対する変化勾配は第2閾値以上になっている。第2閾値とは、制動制御時の無負荷判定時間を決定するために用いられる閾値であって、電流値の時間に対する変化勾配の閾値である。時刻t11から時刻t13までの時間T21は、高動力伝達効率状態での、EPBモータ10に対する通電開始からEPBモータ10の電流値の時間に対する変化勾配が第2閾値以上になるまでの第2経過時間である。
【0046】
また、電流値C22は、時刻t11に突入電流により急上昇し、時刻t12に電流値C22の時間に対する変化勾配は第2閾値以上になっている。時刻t11から時刻t12までの時間T22は、低動力伝達効率状態での第2経過時間である。
【0047】
このように、第2経過時間の長さは、動力伝達効率状態と相関がある。したがって、この第2経過時間を用いることで、EPBモータ10の性能の個体差に応じて適切な目標電流値を設定することができる。
【0048】
図4は、実施形態において、無負荷判定時間と目標電流値の関係の第1の例を示すグラフである。(A)に示すように、EPB-ECU9は、制動解除制御(リリース制御)時の無負荷判定時間を用いる場合、無負荷判定時間が閾値SH1未満のときは目標電流値TC1を設定し、無負荷判定時間が閾値SH1以上のときは目標電流値TC2(>TC1)を設定する。
【0049】
また、(B)に示すように、EPB-ECU9は、制動制御(アプライ制御)時の無負荷判定時間を用いる場合、無負荷判定時間が閾値SH2未満のときは目標電流値TC3を設定し、無負荷判定時間が閾値SH2以上のときは目標電流値TC4(<TC3)を設定する。
【0050】
図5は、実施形態において、無負荷判定時間と目標電流値の関係の第2の例を示すグラフである。(A)に示すように、EPB-ECU9は、制動解除制御(リリース制御)時の無負荷判定時間を用いる場合、無負荷判定時間が長いほど目標電流値を大きく設定する。
【0051】
また、(B)に示すように、EPB-ECU9は、制動制御(アプライ制御)時の無負荷判定時間を用いる場合、無負荷判定時間が長いほど目標電流値を小さく設定する。
【0052】
以上を踏まえて、EPB-ECU9の制御の流れを、
図6を参照して説明する。
図6は、実施形態の電動駐車ブレーキ装置によって実行される処理を示すフローチャートである。
【0053】
EPB-ECU9は、EPBモータ10を制御するときに(ステップS1)、制動解除制御時に通電開始からEPBモータ10の電流値の時間に対する変化勾配が第1閾値以下になるまでの第1経過時間、および、制動制御時に通電開始からEPBモータ10の電流値の時間に対する変化勾配が第2閾値以上になるまでの第2経過時間のうちの少なくとも一つを取得する(ステップS2)。なお、ステップS1とステップS2は、制動制御または制動解除制御と同時に実行してもよいし、制動制御または制動解除制御とは独立したタイミングで実行してもよい。
【0054】
次に、ステップS3において、EPB-ECU9は、制動制御を実行するか否かを判定し、Yesの場合はステップS4に進み、Noの場合はステップS3に戻る。
【0055】
ステップS4において、EPB-ECU9は、第1経過時間、および、第2経過時間のうちのステップS2で取得したものに基づいて、制動制御時に、EPBモータ10に通電する目標電流値を設定する(
図4、
図5)。なお、ステップS4の目標電流値の設定は、ステップS3の前に実行しても良い。
【0056】
次に、ステップS5において、EPB-ECU9は、ステップS4で設定した目標電流値を用いて、EPBモータ10を制御する。
【0057】
このように、実施形態の電動駐車ブレーキ装置によれば、上述の第1経過時間、および、第2経過時間のうちの少なくとも一つに基づいて、制動制御時に、EPBモータ10に通電する目標電流値を設定することで、EPBモータ10の性能の個体差に応じて適切な目標電流値を設定することができる。これにより、電動駐車ブレーキ装置に必要以上の負荷がかかることを防止できる。
【0058】
また、第1経過時間に基づいて、第1経過時間(無負荷判定時間)が長いほど目標電流値を大きく設定するようにすれば(
図4(A)、
図5(A))、動力伝達効率の低下による電流の変化は制動制御時より制動解除制御時のほうが大きいため、目標電流値をより精度良く設定できる。
【0059】
なお、動力伝達効率の低下による電流の変化が制動制御時より制動解除制御時のほうが大きいのは、一般に、EPBモータ10の正回転時よりも逆回転時のときのほうが必要な電流値が小さいからである。
【0060】
また、第2経過時間に基づいて、第2経過時間(無負荷判定時間)が長いほど目標電流値を小さく設定するようにすれば(
図4(B)、
図5(B))、電動駐車ブレーキ装置の制動解除状態時を基準にすると、第1経過時間よりも第2経過時間のほうを早く取得できるので、その第2経過時間に基づいて適切な目標電流値をより早く設定することができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態を説明したが、上述した実施形態はあくまで例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態は、様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、または変更を行うことができる。また、上述した実施形態は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0062】
例えば、上述の実施形態では、後輪が電動制動車輪であるものとしたが、これに限定されず、前輪が電動制動車輪であってもよい。
【0063】
また、ディスクブレーキタイプのEPBに限定されず、ドラムブレーキタイプのEPBにも本発明を適用できる。
【0064】
また、
図4や
図5では、図示や説明を簡潔にするために線形なグラフとしたが、これに限定されず、非線形なグラフ(例えば二次関数、指数関数、対数関数などを示すグラフ)としてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…サービスブレーキ(液圧ブレーキ装置)、2…EPB(電動駐車ブレーキ装置)、5…M/C、6…W/C、7…アクチュエータ、8…ESC-ECU、9…EPB-ECU(コントローラ)、10…EPBモータ(電気モータ)、11…ブレーキパッド、12…ブレーキディスク、13…キャリパ、14…ボディ、14a…中空部、14b…通路、17…回転軸、17a…雄ネジ溝、18…推進軸、18a…雌ネジ溝、19…ピストン(直動部材)、23…操作SW、24…表示ランプ、25…前後Gセンサ、26…M/C圧センサ、28…温度センサ、29…車輪速センサ。