(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083045
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】缶内表面塗料及び缶内表面被覆缶
(51)【国際特許分類】
C09D 201/08 20060101AFI20240613BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20240613BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20240613BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20240613BHJP
C09D 133/02 20060101ALI20240613BHJP
B65D 8/00 20060101ALI20240613BHJP
B65D 25/14 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
C09D201/08
C09D7/63
C09D5/02
C09D201/00
C09D133/02
B65D8/00 A
B65D25/14 A
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197336
(22)【出願日】2022-12-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-05-19
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(71)【出願人】
【識別番号】711004506
【氏名又は名称】トーヨーケム株式会社
(72)【発明者】
【氏名】夏本 徹哉
【テーマコード(参考)】
3E061
3E062
4J038
【Fターム(参考)】
3E061AA15
3E061AB04
3E061AB09
3E061AC02
3E061AD01
3E061BA01
3E062AA04
3E062AB02
3E062AC02
3E062AC03
3E062JA07
4J038BA212
4J038CE022
4J038CG031
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4J038CG071
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4J038CH031
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4J038DG002
4J038JA03
4J038JA69
4J038JC13
4J038KA03
4J038KA04
4J038KA06
4J038MA03
4J038MA07
4J038MA08
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4J038MA13
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4J038NA23
4J038PA06
4J038PB04
4J038PC02
4J038PC08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】缶内表面に形成される塗膜を形成する塗料であって、塗膜による内容物の変質を抑制し、塗膜の加工性を改善する缶内表面塗料を提供する。
【解決手段】カルボキシ基を有するポリマー(A)と、カルボキシ基と反応可能な官能基(f)を1個有し、エチレン性不飽和結合を有しない化合物(D)と、液状媒体とを含み、官能基(f)の数は、ポリマー(A)に含まれるカルボキシ基の数よりも少ない、缶内表面塗料である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシ基を有するポリマー(A)と、カルボキシ基と反応可能な官能基(f)を1個有し、エチレン性不飽和結合を有しない化合物(D)と、液状媒体とを含み、
前記官能基(f)の数は、前記ポリマー(A)に含まれるカルボキシ基の数よりも少ない、缶内表面塗料。
【請求項2】
少なくとも一部の前記ポリマー(A)と少なくとも一部の前記化合物(D)は、前記ポリマー(A)と前記化合物(D)の反応生成物(E)として含まれる、請求項1に記載の缶内表面塗料。
【請求項3】
前記ポリマー(A)はポリマーエマルションを形成している、請求項1または2に記載の缶内表面塗料。
【請求項4】
カルボキシ基を有しないポリマー(B)をさらに含み、前記ポリマー(A)と前記ポリマー(B)はポリマーエマルションを形成している、請求項1または2に記載の缶内表面塗料。
【請求項5】
硬化剤をさらに含む、請求項1または2に記載の缶内表面塗料。
【請求項6】
前記ポリマー(A)は、カルボキシ基を有するアクリル系重合体(A1)を含む、請求項1または2に記載の缶内表面塗料。
【請求項7】
前記官能基(f)はエポキシ基を含む、請求項1または2に記載の缶内表面塗料。
【請求項8】
前記化合物(D)は環状炭化水素構造をさらに有する、請求項7に記載の缶内表面塗料。
【請求項9】
前記環状炭化水素構造は芳香環を含む、請求項8に記載の缶内表面塗料。
【請求項10】
缶部材と、缶部材の内表面に形成される塗膜とを含み、前記塗膜は、請求項1または2に記載の缶内表面塗料を用いてなる塗膜である、缶内表面被覆缶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶内表面塗料及び缶内表面被覆缶に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料缶、食品缶等の缶は、その内容物と缶内面との接触によって、内容物の風味が損なわれる現象がある。これらの缶は、内容物を収容した状態で保管されるものであるため、ある程度の期間で内容物の風味を維持することが期待される。缶の内表面に塗料によって塗膜を形成することで、缶内面による内容物の変質を防ぐことができる。しかし、塗膜は主にポリマーによって形成されるため、ポリマーから溶出する成分によって、内容物の変質が引き起こされることもある。さらに、保管の間に内容物が腐食することで、缶内面が侵食されて、缶自体の劣化を引き起こす可能性がある。
【0003】
また、飲料缶、食品缶等では、缶内表面の塗膜から成分が僅かに溶出し内容物に混入したとしても、その影響を低減する方法として、缶内表面塗料として、環境ないし人体への安全性が高いポリマーを用いる技術が開発されている。
【0004】
特許文献1には、飲料又は食品用の缶用の塗料として、エチレン性不飽和多環式モノマーと、環内に3~5個の原子を有する環構造を有するエチレン性不飽和単環式モノマーとを含むモノマーを反応させてなり、スチレンを実質的に含まないエマルション重合ラテックスポリマーを有するコーティング組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2には、カルボキシル基、カルボキシル基以外の架橋性官能基、芳香環基および/または炭素原子数7以上のアルキル基を含有するソープフリー型熱硬化性水性樹脂分散体からなる製缶塗料用水性樹脂組成物が開示されている。
【0006】
一方、缶の製造工程においては、缶胴部材と底部材を一体成形した状態で、開口部を蓋部材の形状に合わせてネック加工し、その後に蓋部材を開口部に取り付ける方法がある。このような方法のように、缶部材の内面に塗膜が形成される状態で缶部材に加工が施される場合は、塗膜の加工追随性が要求される。
【0007】
また、アルコール度数の高い飲料又は食品、酸味の強い飲料又は食品等が内容物として缶に収容される場合、缶内面に形成される塗膜が腐食されやすくなる。これによって、これらの飲料又は食品の味、香り等が低下することがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2018-505821号公報
【特許文献2】特開2002-155234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1及び特許文献2に開示の技術を用いて、缶内表面を塗装した飲料又は食品用の缶では、塗膜の加工性が十分に得られず、さらに塗膜による内容物の変質が十分に防げず、飲料、食品等の内容物では風味が損なわれる場合がある。
【0010】
本発明の一つの目的としては、缶内表面に形成される塗膜を形成する塗料であって、塗膜による内容物の変質を抑制し、塗膜の加工性を改善する缶内表面塗料を提供することである。より具体的には、本発明の一つの目的としては、内容物の風味を損なうことを防止し、塗膜の加工性を改善する缶内表面塗料を提供することである。また、これらの缶内表面塗料を用いて、内容物の風味を損なうことを防止し、塗膜の加工性に優れる缶内表面被覆缶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のいくつかの実施形態を以下に示す。
<1>カルボキシ基を有するポリマー(A)と、カルボキシ基と反応可能な官能基(f)を1個有し、エチレン性不飽和結合を有しない化合物(D)と、液状媒体とを含み、前記官能基(f)の数は、前記ポリマー(A)に含まれるカルボキシ基の数よりも少ない、缶内表面塗料。
【0012】
<2>少なくとも一部の前記ポリマー(A)と少なくとも一部の前記化合物(D)は、前記ポリマー(A)と前記化合物(D)の反応生成物(E)として含まれる、<1>に記載の缶内表面塗料。
<3>前記ポリマー(A)はポリマーエマルションを形成している、<1>または<2>に記載の缶内表面塗料。
<4>カルボキシ基を有しないポリマー(B)をさらに含み、前記ポリマー(A)と前記ポリマー(B)はポリマーエマルションを形成している、<1>から<3>のいずれかに記載の缶内表面塗料。
<5>硬化剤をさらに含む、<1>から<4>のいずれかにに記載の缶内表面塗料。
【0013】
<6>前記ポリマー(A)は、カルボキシ基を有するアクリル系重合体(A1)を含む、<1>から<5>のいずれかに記載の缶内表面塗料。
<7>前記官能基(f)はエポキシ基を含む、<1>から<6>のいずれかに記載の缶内表面塗料。
<8>前記化合物(D)は環状炭化水素構造をさらに有する、<7>に記載の缶内表面塗料。
<9>前記環状炭化水素構造は芳香環を含む、<8>に記載の缶内表面塗料。
<10>缶部材と、缶部材の内表面に形成される塗膜とを含み、前記塗膜は、<1>から<9>のいずれかに記載の缶内表面塗料を用いてなる塗膜である、缶内表面被覆缶。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一つの実施形態によれば、缶内表面に形成される塗膜を形成する塗料であって、塗膜による内容物の変質を抑制し、塗膜の加工性を改善する缶内表面塗料を提供することができる。より具体的には、本発明の一つの実施形態によれば、内容物の風味を損なうことを防止し、塗膜の加工性を改善する缶内表面塗料を提供することができる。また、これらの缶内表面塗料を用いて、内容物の風味を損なうことを防止し、塗膜の加工性に優れる缶内表面被覆缶を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、一実施形態による缶内表面被覆缶の斜視図である。
【
図2】
図2は、実施例の塗膜の加工性の評価方法を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のいくつかの実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されず、以下の例示が本発明を限定することはない。
【0017】
本発明を詳細に説明する前に用語を説明する。(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸の一方又は両方を意味し、(メタ)アクリルは、アクリルおよびメタクリルの一方又は両方を意味し、(メタ)アクリレートは、アクリレートおよびメタクリレートの一方又は両方を意味する。アクリル系重合体は、アクリル酸、メタクリル酸、及びこれらの誘導体の単独重合体又は共重合体、あるいはこれらのモノマーと他のモノマーとの共重合体を意味する。塗膜は、塗料を金属板等の部材に塗装し、架橋が完了した後の被膜をいう。Tgは、ガラス転移温度である。
【0018】
本発明の一実施形態による缶内表面塗料は、カルボキシ基を有するポリマー(A)と、カルボキシ基と反応可能な官能基(f)を1個有し、エチレン性不飽和結合を有しない化合物(D)と、液状媒体とを含み、官能基(f)の数は、ポリマー(A)に含まれるカルボキシ基の数よりも少ないことを特徴とする。
【0019】
以下の説明において、カルボキシ基を有するポリマー(A)をポリマー(A)とも記し、カルボキシ基と反応可能な官能基(f)を1個有し、エチレン性不飽和結合を有しない化合物(D)を化合物(D)とも記し、カルボキシ基と反応可能な官能基(f)を官能基(f)とも記す。また、缶内表面塗料を塗料とも記す。
【0020】
本発明の塗料は、缶内表面塗料であり、缶の内表面を被覆する塗膜を形成する方法において用いることができる。缶の缶材は、金属、プラスチック等であってよい。缶は飲料又は食品を収容する缶であることが好ましい。
【0021】
本発明の缶内表面塗料によれば、缶の内面において塗膜による内容物の変質を抑制することができる。これによって、缶の内容物が飲料又は食品である場合は、内容物の風味を損なうことを防止することができる。本発明の缶内表面塗料によれば、塗膜の加工性を改善することができる。例えば、缶胴部材の開口部を蓋部材の形状に合わせてネック加工する方法のように、缶部材の内面に塗膜が形成される状態で缶部材に加工が施される場合に、塗膜の加工追随性を改善することができる。これによって、加工後においても缶の内面において塗膜表面の均一性を維持し、塗膜からの成分の溶出を抑制することができる。その理由の一つは、理論に拘束されるものではないが、缶内表面塗料に、ポリマー(A)とともに化合物(D)が含まれることで、塗料においてはポリマー(A)のカルボキシ基によって塗料の安定性が改善され、塗膜の成分が均一になり、塗膜の耐性が向上するためと考えられる。また、缶内表面に形成される塗膜では、化合物(D)の官能基(f)がポリマー(A)のカルボキシ基と結合する状態であることで、塗膜の耐性、特に飲料、食品等に対する耐性が向上し、塗膜から成分の溶出を抑制することができる。好ましくは、本発明の塗料は、缶内表面水性塗料として提供される。
【0022】
<カルボキシ基を有するポリマー(A)>
カルボキシ基を有するポリマー(A)は、カルボキシ基を有することで塗装する部材への密着性が向上するほか、塗料を水性塗料とする場合には、カチオン性化合物を用いて中和することで水溶液、エマルション等の形成が可能となる。また、ポリマー(A)のカルボキシ基は、ポリマーの架橋に関与する官能基として機能する。さらに後述する化合物(D)がポリマー(A)中のカルボキシ基と反応することにより、親水性であるカルボキシ基を減少させることができるため、塗膜の耐レトルト性が向上する。
【0023】
ポリマー(A)の樹脂骨格としては、アクリル系重合体、スチレン・マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。塗料の保存安定性を考慮すると、ポリマー(A)は、カルボキシ基を有するアクリル系重合体であることが好ましい。以下、カルボキシ基を有するアクリル系重合体をアクリル系重合体(A1)とも記す。
【0024】
カルボキシ基を有するポリマー(A)は、カルボキシ基を有するエチレン性不飽和モノマーと、必要に応じてその他のモノマー(これらをまとめてエチレン性不飽和モノマー(a1)と表記するが、単にモノマー(a1)と表記する場合もある)を重合して得られる重合体であることが好ましい。
【0025】
また、カルボキシ基を有するアクリル系重合体(A1)は、カルボキシ基を有するアクリル系モノマーと、必要に応じてその他のモノマー(これらはまとめてモノマー(a1)の一つの形態である)を重合して得られる重合体であることがより好ましい。カルボキシ基を有するアクリル系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸及びカルボキシ基を有する(メタ)アクリレートのうち少なくとも一方であってよい。
【0026】
より詳しくは、カルボキシ基を有するポリマー(A)は、カルボキシ基を有するモノマーと、反応性官能基を有しないモノマー及びカルボキシ基以外の反応性官能基を有するモノマーのうち少なくとも一方とを重合して得られる重合体であってよい。好ましくは、カルボキシ基を有するポリマー(A)は、カルボキシ基を有するモノマーと、カルボキシ基以外の反応性官能基を有するモノマーとを重合して得られる重合体であって、任意的に反応性官能基を有しないモノマーを用いてもよい。
【0027】
カルボキシ基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、(無水)イタコン酸、(無水)マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、α-ヒドロキシメチルアクリル酸、3-(アクリロイルオキシ)プロピオン酸、p-ビニル安息香酸、2-[(メタ)アクリロイルオキシエチル]コハク酸、2-[(メタ)アクリロイルオキシエチル]フタル酸、2-[(メタ)アクリロイルオキシエチル]ヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。なお、2つのカルボキシ基から脱水されて生成する酸無水物基含有モノマーが、カルボキシ基を有するモノマーに含まれてもよい。
【0028】
カルボキシ基を有するモノマーは、モノマー(a1)の合計100質量%中、10質量%以上含まれることが好ましく、20~90質量%含まれることがより好ましい。
【0029】
反応性官能基を有しないモノマーは、例えばメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン等の芳香族系モノマー等が挙げられる。
【0030】
反応性官能基を有しないモノマーの中でアルキル(メタ)アクリレートは、モノマー(a1)の合計100質量%中、5~90質量%含まれることが好ましく、10~80質量%がより好ましい。この含有量を5質量%以上とすることで、形成される塗膜の加工性をより向上することができる。この含有量を90質量%以下とすることで耐食性をより向上することができる。
【0031】
反応性官能基を有しないモノマーの中で芳香族系モノマーは、モノマー(a1)の合計100質量%中、1~80質量%含まれることが好ましく、10~70質量%がより好ましい。この含有量を1質量%以上とすることで耐食性をより向上することができる。この含有量を80質量%以下とすることで加工性をより向上することができる。
【0032】
反応性官能基を有しないモノマーの中でスチレンは、モノマー(a1)の合計100質量%中、1質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、又は30質量%以上で含まれてもよい。その上限値は特に限定されないが、80質量%以下、70質量%以下、又は50質量%以下であってよい。この含有量を1質量%以上とすることで耐食性をより向上することができる。この含有量を80質量%以下とすることで加工性をより向上することができる。
【0033】
ポリマー(A)は、カルボキシ基以外の反応性官能基を有していてもよい。反応性官能基は、反応が可能な官能基を意味し、例えば、水酸基、アミノ基等である。
【0034】
カルボキシ基以外の反応性官能基を有するモノマーとしては、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;N-ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシブチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-(n-,イソ)ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-(n-、イソ)ブトキシエチル(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリルアミド等のアミド系モノマー等が挙げられる。
【0035】
カルボキシ基以外の反応性官能基を有するモノマーは、モノマー(a1)の合計100質量%中、0~50質量%含まれることが好ましく、0~20質量%含まれることがより好ましく、0.1~10質量%がさらに好ましい。50質量%以下、好ましくは20質量%以下とすることで塗料の溶液安定性ないしは分散安定性が向上する。
【0036】
ポリマー(A)の合成は、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、および塊状重合等の公知の重合手法を使用できるが、本発明では、分子量および反応のコントロールが容易な溶液重合が好ましい。なお、溶液重合の際、反応溶媒として有機溶剤の他、水も使用できる。
【0037】
ポリマー(A)の数平均分子量(Mn)は、4000~20万が好ましく、1万~10万がより好ましい。数平均分子量が4000以上になることで、得られる塗料の泡立ちがより抑制できるほか、形成される塗膜の耐水性がより向上する。また、数平均分子量が20万以下になることで塗料の粘度を塗装しやすい粘度に調整し易くなり、凝集物もより低減できる。好ましくは、数平均分子量(Mn)が4000~20万、より好ましくは1万~10万であるアクリル系重合体(A1)である。
【0038】
本明細書において、ポリマーの数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて標準ポリスチレン換算にて測定することにより決定することができる。
【0039】
ポリマー(A)のガラス転移温度(Tg)は、-15℃以上が好ましく、5℃以上が好ましい。このTgの上限は、ポリマー(A)が、後述するポリマーエマルション(C)を合成する際の高分子乳化剤として機能すれば良いため特に限定されないが、150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。好ましくは、ガラス転移温度(Tg)が-15℃~150℃、より好ましくは5℃~120℃であるアクリル系重合体(A1)である。
【0040】
なお、ポリマーのガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)で測定した値でもよいし、理論値の計算が可能な場合には、ポリマー(A)を構成するモノマーのホモTgと配合比から算出してもよい。Tgを算出する場合には、FOXの式を使用することができる。
【0041】
本発明の塗料を水性塗料とする場合には、塩基性化合物を用いることが好ましい。塩基性化合物は、本発明の塗料を水性塗料とする場合において、カルボキシ基を有するポリマー(A)、あるいは後述する反応生成物(E)中のカルボキシ基の一部又は全部を中和するために使用する。塩基性化合物は、有機アミン化合物、アンモニア、アルカリ金属の水酸化物等が好ましい。有機アミン化合物は、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチル-エタノールアミン、N,N-ジエチル-エタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等が挙げられる。アルカリ金属の水酸化物は、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0042】
塩基性化合物は、カルボキシ基を有するポリマー(A)中のカルボキシ基の100モル%に対して、20~70モル%の割合で使用することが好ましい。塩基性化合物は、単独で使用してもよく、2種類以上併用してもよい。
【0043】
<カルボキシ基と反応可能な官能基(f)を1個有し、エチレン性不飽和結合を有しない化合物(D)>
本発明の塗料は、カルボキシ基を有するポリマー(A)と、カルボキシ基と反応可能な官能基(f)を1個有し、エチレン性不飽和結合を有しない化合物(D)とを含むものである。この塗料では、ポリマー(A)と化合物(D)との反応を利用する。この塗料の態様は以下の2つに大別されるが、本発明の塗料はこれに限定されない。
【0044】
第1の態様は、塗料に、少なくとも一部のポリマー(A)と少なくとも一部の化合物(D)が、ポリマー(A)と化合物(D)の反応生成物(E)として含まれるものである。第2の態様は、塗料に、ポリマー(A)と化合物(D)とが別々の化合物として含まれるものである。なお、第1の態様と第2の態様とが混在している塗料もまた本発明の態様に含まれる。以下、さらに詳細に説明する。
【0045】
[第1の態様]
ポリマー(A)と化合物(D)とが、ポリマー(A)中のカルボキシ基を介して結合してなる反応生成物(E)をあらかじめ用意し、これを塗料成分の一つとして、塗料を作製する。ポリマー(A)を合成した後に、ポリマー(A)中のカルボキシ基と化合物(D)とを反応させて反応生成物(E)を得てもよい。あるいは、ポリマー(A)を合成する際に、その原料として、カルボキシ基を導入するための成分(ポリマー(A)がアクリル系重合体である場合には(メタ)アクリル酸等)および化合物(D)を配合しておき、重合反応と、カルボキシ基と化合物(D)との付加反応とを並行して行うことによっても、反応生成物(E)を得ることができる。この反応生成物(E)を含む塗料のポリマー成分を架橋させることによって、塗膜を形成することができる。
【0046】
なお、上記いずれの場合においても、官能基(f)の数が、ポリマー(A)中のカルボキシ基の数よりも少ないことが重要である。化合物(D)との反応によってカルボキシ基がすべて消失してしまうと、ポリマー(A)ないし反応生成物(E)の水親和性が乏しくなり、塗料の水性化が困難となってしまう。また、カルボキシ基が関与するポリマーの架橋効率の低下につながる。
【0047】
[第2の態様]
反応生成物(E)を用意することなく、ポリマー(A)および化合物(D)を塗料の成分として配合し、得られた塗料を加熱架橋して塗膜を形成する際に、ポリマー(A)中のカルボキシ基と化合物(D)とが反応し、化合物(D)はポリマーに結合した状態で塗膜中に導入される。これによって、第1の態様を採用した場合と同様の構造を有する塗膜が形成される。この手法によれば、反応生成物(E)を用意する必要がないため、工程上の利点がある。
【0048】
第2の態様においては、第1の態様と同様、官能基(f)の数は、ポリマー(A)中のカルボキシ基の数よりも少ないことが重要である。官能基(f)の数がポリマー(A)中のカルボキシ基の数と等しいか、多い場合、カルボキシ基が関与するポリマーの架橋の、効率低下につながってしまう。
【0049】
上記第1の態様および第2の態様ともに、塗料の状態においては、カルボキシ基の存在により、ポリマー成分の水溶解性ないし水分散性が良好であり、形成された塗膜においては、ポリマーに結合している化合物(D)の存在により、耐水性が向上する。
【0050】
カルボキシ基と反応可能な官能基(f)としては、例えば、エポキシ基、N-メチロール基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、アルコキシシリル基、シラノール基、オキセタン基、β-ヒドロキシアルキルアミド基などが挙げられる。
【0051】
官能基(f)としての好ましい一形態は、エポキシ基である。エポキシ基は、例えばヒドロキシ基の存在下であってもカルボキシ基と選択的に反応することができるため好ましい。さらには、エポキシ基の中でも、反応性の点でグリシジル基がより好ましい。
【0052】
化合物(D)は、1分子中に官能基(f)を1個有する化合物である。また、化合物(D)は、エチレン性不飽和結合を有しない化合物である。そして、化合物(D)の官能基(f)は、ポリマー(A)のカルボキシ基と選択的に反応することが好ましい。なお、塗料において、化合物(D)は1種又は2種以上含まれてよい。塗料に2種以上の化合物(D)が含まれる場合、2種以上の化合物(D)において官能基(f)は同一でも一部又は全部が異なってもよい。
【0053】
化合物(D)は、環状炭化水素構造をさらに含むことが好ましい。化合物(D)が官能基(f)に加えて環状炭化水素構造を有することにより、形成される塗膜の耐傷付き性がより向上する。環状炭化水素構造としては、シクロアルカン、芳香環等が挙げられる。塗膜の硬さがより増すことから、化合物(D)において環状炭化水素構造は芳香環であることが好ましい。化合物(D)に含まれる芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。化合物(D)としては、芳香族グリシジルエーテルがより好ましい。
【0054】
化合物(D)としては、例えば、エチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、tert-ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、グリシジルヘキサデシルエーテルなどの脂肪族グリシジルエーテル;ベンジルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、グリシジル-4-メトキシフェニルエーテル、4-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、2-ノニルフェニルグリシジルエーテル、グリシジルトリチルエーテル、o-フェニルフェノールグリシジルエーテル、2,4-ジブロモフェニルグリシジルエーテル、2-ナフチルグリシジルエーテルなどの芳香族グリシジルエーテル;X-22-173BX(信越シリコーン社製)などの片末端型エポキシ変性シリコーン;グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、N-グリシジルフタルイミドなどのモノグリシジルアミン;1,2-エポキシヘキサン、1,2-エポキシオクタン、1,2-エポキシデカン、1,2-エポキシドデカン、1,2-エポキシテトラデカン、1,2-エポキシヘキサデカン、1,2-エポキシオクタデカンなどのモノエポキシアルカン;4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸ビス(2-エチルヘキシル)、3,4-エポキシシクロヘキサン-1-カルボン酸2-エチルヘキシルなどの脂環式モノエポキシ;スチレンオキサイド、α-メチルスチレンオキサイドなどの芳香族モノエポキシ;N-(ヒドロキシメチル)フタルイミドなどのN-メチロール化合物;ブチルイソシアネート、シクロヘキシルイソシアネート、イソシアン酸フェニルなどのイソシアネート化合物;N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド、ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミドなどのカルボジイミド化合物;2,4,4-トリメチル-2-オキサゾリン、(S)-4-tert-ブチル-2-(2-ピリジル)オキサゾリン、2-フェニル(2-オキサゾリン)などのオキサゾリン化合物;メチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランなどのアルコキシシリル化合物;トリエチルシラノール、トリフェニルシラノールなどのシラノール化合物;3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン、2-エチルヘキシルオキセタンなどのオキセタン化合物;N-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド、N-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド、N-エチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド、N-ブチル-N-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)ラクトアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)ラウリルアミド、N-(2-ヒドロキシエチル)ベンズアミド、1-(2-ヒドロキシエチル)-2-ピロリドン、N-(2-ヒドロキシエチル)フタルイミドなどのβ-ヒドロキシアルキルアミド等が挙げられる。
【0055】
これらの中でも上記した要件より、ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、o-フェニルフェノールグリシジルエーテルが好ましく用いられ、フェニルグリシジルエーテル、o-フェニルフェノールグリシジルエーテルがより好ましい。
【0056】
化合物(D)は、カルボキシ基と反応可能な官能基(f)を1個有することから、化合物(D)に含まれる官能基(f)は、ポリマー(A)に含まれるカルボキシ基1モルより少ないことが好ましい。例えば、化合物(D)に含まれる官能基(f)は、ポリマー(A)に含まれるカルボキシ基1モルを基準に、0.003~0.7モルであることが好ましい。より好ましくは、このモル比は、0.01~0.4モル、さらに好ましくは0.02~0.2モルである。
【0057】
<ポリマーエマルション(C)>
本発明の塗料において、カルボキシ基を有するポリマー(A)はポリマーエマルションを形成していることが好ましい。この態様は、塗料において、ポリマー(A)と化合物(D)との反応生成物(E)がポリマーエマルションを形成していることを包含する。
【0058】
より詳しくは、カルボキシ基を有するポリマー(A)ないしは反応生成物(E)は単独で、またはその他の成分を含んで水等の液状媒体中に分散し、ポリマーエマルション(C)を形成することが好ましい。水を含む水系液状媒体中に分散することで、有機溶剤溶解型塗料に比べて、塗料に用いる揮発性有機溶剤量を減らすことができ、環境負荷を低減できる。本明細書において、水系液状媒体は、水単独、又は水と親水性有機溶剤との混合液を意味する。
【0059】
好ましい態様では、カルボキシ基を有するポリマー(A)ないしは反応生成物(E)は、カルボキシ基を有しないポリマー(B)と複合化されて、ポリマーエマルション(C)を形成してよい。なお、カルボキシ基を有しないポリマー(B)は、ポリマー(A)と異なるポリマーである。以下、カルボキシ基を有しないポリマー(B)をポリマー(B)とも記す。
【0060】
例えば、ポリマー(B)は、アクリル系重合体、スチレン・(メタ)アクリル共重合体、ビスフェノールA型エポキシ樹脂等であって、カルボキシ基を有する単位を含まないポリマーであってよい。ポリマー(B)はカルボキシ基を有しないものであるが、カルボキシ基を除く反応性官能基を含むものであってもよい。ポリマー(B)に含まれ得る反応性官能基としては、エポキシ基、ヒドロキシ基、アミノ基等が挙げられる。
【0061】
ポリマー(B)の一つの例は、カルボキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマーを1種又は2種以上用いて重合して得ることができる。ポリマー(B)の重合反応に用いるための、カルボキシ基を有しないエチレン性不飽和モノマーを以下モノマー(b)とも記す。モノマー(b)は、上記したモノマー(a1)の中からカルボキシ基を有しないモノマーを適宜選択して用いることができる。
【0062】
また、ポリマー(A)とポリマー(B)とはコアシェル型ポリマーを形成していてもよい。コア部がポリマー(A)であり、シェル部がポリマー(B)であってもよく、コア部がポリマー(B)であり、シェル部がポリマー(A)であってもよい。好ましくは、コア部がポリマー(B)であり、シェル部がポリマー(A)であることで、水系液状媒体中において、ポリマー(A)のカルボキシ基によって塗料の安定性をより改善することができる。得られる塗料においても、成分が均一化され、塗膜の耐性をより改善することができる。
【0063】
より具体的には、例えば、以下のような方法により各種のポリマーエマルション(C)を得ることができる。なお、本発明の塗料は、ポリマーエマルション(C)が以下の方法によって製造されるものに限定されない。
【0064】
<ポリマーエマルション(C-1)>
水系液状媒体およびポリマー(A)の存在下でモノマー(b)を重合し、必要に応じて中和することにより、ポリマーエマルション(C-1)を得ることができる。
ポリマーエマルション(C-1)は、上記第2の態様にて使用可能である。
【0065】
<ポリマーエマルション(C-2)>
水系液状媒体および反応生成物(E)の存在下でモノマー(b)を重合し、必要に応じて中和することにより、ポリマーエマルション(C-2)を得ることができる。
別の方法では、水系液状媒体、ポリマー(A)および化合物(D)の存在下でモノマー(b)を重合することにより、モノマー(b)の重合反応と、ポリマー(A)と化合物(D)との付加反応とが並行して進行し、反応生成物(E)が生成し、さらに必要に応じて中和することにより、ポリマーエマルション(C-2)を得ることができる。
ポリマーエマルション(C-2)は、上記した第1の態様にて使用可能である。
【0066】
<ポリマーエマルション(C-3)>
水系液状媒体およびポリマー(B)の存在下で、モノマー(a1)を重合してポリマー(A)を生成させ、さらに必要に応じて中和することにより、ポリマーエマルション(C-3)を得ることができる。
ポリマーエマルション(C-3)は、上記した第2の態様にて使用可能である。
【0067】
<ポリマーエマルション(C-4)>
水系液状媒体、ポリマー(B)および化合物(D)の存在下で、モノマー(a1)を重合することにより、モノマー(a1)の重合反応と、モノマー(a1)に由来するカルボキシ基と化合物(D)との付加反応とが並行して進行し、反応生成物(E)が生成し、さらに必要に応じて中和することにより、ポリマーエマルション(C-4)を得ることができる。
ポリマーエマルション(C-4)は、上記した第1の態様にて使用可能である。
【0068】
上記のうち、本発明においては、ポリマーエマルション(C-1)およびポリマーエマルション(C-2)が好ましく用いられる。これらはコアシェル型ポリマーエマルションであり、ポリマーエマルション(C-1)においてはポリマー(A)がシェル部となる。ポリマーエマルション(C-2)においては反応生成物(E)がシェル部となる。ポリマーエマルション(C-1)及びポリマーエマルション(C-2)は、それぞれモノマー(b)の重合体であるポリマー(B)がコア部となる。
上記シェル部は高分子乳化剤として機能し、複合ポリマー粒子の分散安定性に寄与する。
【0069】
ポリマーエマルション(C-1)およびポリマーエマルション(C-2)を得るにあたっては、モノマー(b)として、カルボキシ基を有するモノマーを用いない。そのため、ポリマー(A)ないしは反応生成物(E)であるシェル部が高分子乳化剤として機能するため、モノマー(b)の重合体であるポリマー(B)がカルボキシ基を有していなくても、水系液状媒体中で複合ポリマー粒子は安定に分散できる。
【0070】
ポリマーエマルション(C-1)およびポリマーエマルション(C-2)を得るための重合は乳化重合で行うことができる。例えば、塩基性化合物によって中和されたポリマー(A)ないしは反応生成物(E)を水系液状媒体とともに使用し、モノマー(b)を乳化してモノマーエマルションを作製し、これを水系液状媒体が仕込まれている反応層へ供給して乳化重合を行うことができる。この際、水系液状媒体として水と親水性有機溶剤との混合液を使用すると、モノマー(b)の乳化が容易になる場合がある。
別の方法では、反応層に水系液状媒体、ポリマー(A)ないしは反応生成物(E)および必要に応じて塩基性化合物を仕込んでおき、ここへモノマー(b)を供給して乳化重合を行うこともできる。
【0071】
乳化重合の際に非親水性有機溶剤が存在すると、形成される塗膜の物性が低下する傾向にある。そこで、溶液重合でカルボキシ基を有するポリマー(A)ないしは反応生成物(E)を得た場合は、減圧法等により脱溶剤を行い非親水性有機溶剤を留去してからエチレン性不飽和モノマー(b)の乳化重合に使用することが好ましい。
【0072】
乳化重合に際し、カルボキシ基を有するポリマー(A)ないし反応生成物(E)は、モノマー(b)100質量部に対して10~200質量部使用することが好ましく、20~100質量部がより好ましい。カルボキシ基を有するポリマー(A)ないし反応生成物(E)を10質量部以上とすることでモノマー(b)の乳化がより容易になる。またカルボキシ基を有するポリマー(A)ないし反応生成物(E)が200質量部以下になることで、形成される塗膜の耐水性がより向上する。
【0073】
本発明の塗料は、硬化剤をさらに含んでもよい。硬化剤としては、フェノール樹脂、アミノ樹脂、ポリビニルアルコール、およびこれらの誘導体等を挙げることができる。なかでも、フェノール樹脂、アミノ樹脂、又はこれらの組み合わせ好ましい。
【0074】
本発明の塗料は、フェノール樹脂を含んでもよい。フェノール樹脂は、ポリマー(A)及び反応生成物(E)の少なくとも一方のカルボキシ基、水酸基等の反応性官能基と反応する硬化剤、または自己架橋成分として機能する。
フェノール樹脂は、多官能性フェノール化合物とアルデヒドとをアルカリ触媒の存在下で反応させた化合物が好ましい。
多官能性フェノール化合物は、例えば、フェノール、m-クレゾール、3,5-キシレノール等の3官能性フェノール化合物;o-クレゾール、p-クレゾール、およびp-tert-ブチルフェノール等の2官能性フェノール化合物等が挙げられる。
アルデヒドは、ホルムアルデヒド等が好ましい。
【0075】
本発明の塗料は、アミノ樹脂を含んでもよい。アミノ樹脂は、フェノール樹脂と同様に自己架橋するとともに、カルボキシ基を有するポリマー(A)及び反応生成物(E)の少なくとも一方のカルボキシ基と反応する硬化剤として機能する。
アミノ樹脂は、例えば尿素、メラミン、ベンゾグアナミン等のアミノ基含有化合物と、ホルムアルデヒドとを付加反応させた化合物等が挙げられる。
【0076】
フェノール樹脂、アミノ樹脂等がホルムアルデヒドを使用して合成した化合物である場合、ホルムアルデヒドの付加により生成したメチロール基の一部又は全部を、炭素数が1~12であるアルコール類によってエーテル化して使用することがより好ましい。これによりフェノール樹脂、アミノ樹脂等の、塗料中での安定性をより向上させることができる。
【0077】
フェノール樹脂を用いる場合には、塗料中の樹脂不揮発分の合計100質量%中、0.1~20質量%含まれることが好ましく、1~15質量%がより好ましい。なお、アミノ樹脂を用いる場合には、アミノ樹脂単独の含有量、又はアミノ樹脂とフェノール樹脂との合計含有量が、それぞれ塗料中の樹脂不揮発分の合計100質量%中、0.1~20質量%であることが好ましい。
【0078】
本発明の塗料は、さらに酸触媒を含むことができる。塗料が酸触媒を含むことで塗膜の硬度をより向上させることができる。
酸触媒は、例えばドデシルベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ジノニルナフタレンジスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、リン酸、硫酸等が挙げられ、これらの中和物等であってもよい。
酸触媒は、塗料中の樹脂不揮発分の合計100質量部に対して0.001~5質量部配合することが好ましい。酸触媒を0.001質量部以上使用することで塗膜の架橋性をより向上できる。また、酸触媒を5質量部以下とすることで、本発明の塗料を飲食料用缶の内面塗料として用いる場合に、溶出による内容物の風味劣化をより抑制できる。
【0079】
本発明の塗料は、必要に応じてワックス等の滑剤を含むことができる。塗料が滑剤を含むことで、例えば、缶を製造する工程で塗膜の傷付きをより防止しやすくなる。
滑剤は、例えば、カルナバワックス、ラノリンワックス、パーム油、キャンデリラワックス、ライスワックス等の天然系ワックス;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタム等の石油系ワックス;ポリオレフィンワックス、テフロン(登録商標)ワックス等の合成ワックス等が挙げられる。
【0080】
本発明の塗料は、塗装性を向上させる目的で、親水性有機溶剤を含んでもよい。
親水性有機溶剤は、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、エチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、エチレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、1,3-ブチレングリコール-3-モノメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジエチレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールジヘキシルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、プロピレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(イソ)ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジ(イソ)プロピルエーテル、ジプロピレングリコールジ(イソ)ブチルエーテル等の各種グリコールモノエーテルまたはジエーテル;エタノール、n-プロパノール、イソプロパール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n-アミルアルコール、イソアミルアルコール、メチルアミルアルコール、オクタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール;メチルエチルケトン、ジメチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール等のグリコール;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、1-メトキシ-2-プロピルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアルコキシエステル等が挙げられる。親水性有機溶剤は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0081】
本発明の塗料は、塗装性を向上させる目的で任意成分として疎水性有機溶剤、界面活性剤、消泡剤等の各種助剤を含んでもよい。
【0082】
本発明の塗膜のガラス転移温度(Tg)は、0℃~100℃が好ましく、0℃~70℃がより好ましい。塗膜が0℃以上のTgを有することで、形成される塗膜がより傷つきにくくなる。また、塗膜が100℃以下のTgを有することで、塗膜の加工性がより向上する。
【0083】
塗膜のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定する数値である。具体的には、塗膜のTgはDSCを用いて以下の条件で測定する。DSCには、TAインスツルメント社製のものを使用できる。
(i)塗膜を削り取って、その約5mgを精秤して入れたアルミニウムパンと、リファレンスである空のアルミニウムパンとをDSC測定ホルダーにセットし、窒素気流中で室温から-100℃まで降温し、降温完了後5分間保持する。
(ii)次いで、-100℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、昇温完了後5分間保持する。
(iii)次いで、再度-100℃まで降温し、降温完了後5分間保持する。
(iv)次いで、再度-100℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、昇温完了後5分間保持する。このときのDSC曲線における吸熱現象の低温側のベースラインと変曲点での接線との交点の温度を塗膜のガラス転移温度(Tg)とする。
【0084】
本発明の塗料は、缶の内表面に塗膜を形成する方法において用いることができる。缶は、例えば、缶胴部材、底部材、蓋部材等を含む。缶は、その内部に内容物が収容され、密閉されて保存可能であるものであってよい。内容物は飲料、食品、生活用品、工業用品等のいずれであってもよいが、本発明の塗料は飲料ないしは食品に適する。内容物は、粉末状、粒状、塊状等の固形物、液状物、ゲル状物、ペースト状物、又はこれらの組み合わせであってよいが、本発明の塗料は液状又はゲル状である飲料ないしは食品、あるいはペースト状である食品、又は水分を含み湿潤状態にある食品に適する。好ましくは、本発明の塗料は、飲料缶内表面塗料又は食品缶内表面塗料として提供され、より好ましくは飲料缶内表面塗料として提供される。
【0085】
本発明の塗料は、缶の内表面に塗装されるものであるが、缶胴部材、底部材、及び蓋部材等の少なくとも一つの部材に、少なくとも部分的に塗装されればよい。本発明の塗料は、缶の内表面の全てに塗装されてもよい。
【0086】
缶材は特に限定されず、金属及びプラスチックのいずれであってもよく、これらの複合材料であってもよい。缶材に用いる金属は、アルミニウム板、錫メッキ鋼板、クロム処理鋼板、ニッケル処理鋼板等の金属板が好ましい。さらに、これらの金属板にジルコニウム処理、燐酸処理等の表面処理が施されたものでもよい。缶材に用いるプラスチックは、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル等が好ましい。
【0087】
本発明の塗料の塗装方法は、エアスプレー、エアレススプレー、静電スプレー等のスプレー塗装、ロールコーター塗装、浸漬塗装、電着塗装等が好ましい。中でもスプレー塗装がより好ましい。塗装後、加熱架橋を行うことが好ましい。加熱条件は、150℃~280で10秒~30分間程度が好ましい。塗膜の厚みは、1~50μmであることが好ましい。
【0088】
本発明の缶内表面被覆缶は、缶部材と、缶部材の内表面に形成される塗膜とを含む。塗膜は、本発明の缶内表面塗料を用いてなる塗膜であることが好ましい。本発明の塗料を用いてなる塗膜については上記説明した通りである。缶内表面被覆缶において、缶胴部材、底部材、蓋部材等の少なくとも1つの部材に本発明の塗膜が形成されるとよい。また、缶部材の内表面の少なくとも一部又は全てに本発明の塗膜が形成されるとよい。
【0089】
図1を参照して缶内表面被覆缶の一実施形態を説明する。なお、本発明は図面に記載される具体例に限定されるものではない。
図1において、10は缶内表面被覆缶であり、缶内表面被覆缶10は缶部材11と塗膜12とを有する。塗膜12は缶部材11の内表面に形成される。缶部材11は、缶胴部材13と底部材14とを有する。不図示であるが、缶部材11は、蓋部材を有し、缶部材11の開口部が蓋部材によって密封されてもよい。缶部材11の缶胴部材13と蓋部材14は一体成形され、一体成形の前又は後において缶内表面に缶内表面塗料を用いて塗膜が形成されてよい。この場合、蓋部材は別途用意され、蓋部材の缶内表面に缶内表面塗料を用いて塗膜が形成されてもよい。そして、缶胴部材13の開口部に蓋部材が取り付けられる。
【0090】
図1を用いて缶内表面被覆缶の加工方法の一つの例について説明する。まず、平板状の缶部材を加工して、缶胴部材13と底部材14との一体成形品20を作製する。次いで、この一体成形品20の内面に缶内表面塗料を塗布して硬化させて塗膜12を形成する。次いで、一体成形品20の開口部21を蓋部材の大きさに合わせるように、開口部21付近にネック加工を施す。ネック加工部を
図1において22で示す。次いで、一体成形品20の開口部21に蓋部材を取り付ける。蓋部材の内面に塗膜12が形成されていてもよい。この構成では、ネック加工部において、缶内表面の塗膜の加工追随性が特に要求されるが、一実施形態による缶内表面塗料及びそれを用いる塗膜によれば、ネック加工部においても加工追随性を改善することができる。
【0091】
本発明によれば、缶内表面被覆缶と、缶内表面被覆缶に収容される飲料又は食品とを含む物品を提供することができる。この物品において、缶は、その内部に飲料又は食品を収容した状態で密封されていてもよい。
【実施例0092】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中、「部」は質量部を、「%」は質量%をそれぞれ表す。数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて標準ポリスチレン換算にて測定することにより決定することができる。
【0093】
表1にポリマー(A)の処方を示す。ポリマー(A)のうちポリマー(A-3)、ポリマー(A-5)、及びポリマー(A-8)は反応生成物(E)として提供される。表2に塗料の処方及び評価結果を示す。各表において、化合物(D)の略号は以下の通りである。詳細については後述の手順に従う。
【0094】
D-1:フェニルグリシジルエーテル
D-2:2-フェニル-2-オキサゾリン
D-3:o-フェニルフェノールグリシジルエーテル
D-4:フェノール(EO)5グリシジルエーテル
D-5:2-エチルヘキシルオキセタン
D-6:グリシジル2-ナフチルエーテル
D-7:N-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド
【0095】
[製造例1]カルボキシ基を有するポリマー(A-1)の合成
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル6.5部、イオン交換水15部を仕込んで、加熱を開始し100℃程度で還流した。還流を維持したままメタクリル酸6.8部、スチレン5.1部、エチルアクリレート5.1部、および過酸化ベンゾイル0.12部の混合物を滴下槽から2時間にわたって連続滴下し重合した。
滴下終了から1時間後、及び2時間後に過酸化ベンゾイル0.03部をそれぞれ添加し、滴下終了から3時間反応を継続した。
次に、ジメチルエタノールアミン2部を添加して、10分間撹拌した後、イオン交換水59.32部を加え水に分散させ、不揮発分が17%のカルボキシ基を有するポリマー(A-1)分散液を得た。
【0096】
[製造例2]カルボキシ基を有するポリマー(A-2)の合成
製造例1と同様の反応容器に、プロピレングリコールメチルエーテル5.05部、ブチルセロソルブ10部を仕込んで、加熱を開始し120℃程度で還流した。還流を維持したままメタクリル酸9.03部、エチルアクリレート3.58部、スチレン6.31部、ペルオキシオクタン酸tert-ブチル1.01部およびブチルセロソルブ4.04部の混合物を滴下槽から3時間にわたって連続滴下し重合した。
滴下終了から1時間後、及び2時間後にペルオキシオクタン酸tert-ブチル0.03部をそれぞれ添加し、滴下終了から3時間反応を継続した。
次に、ジメチルエタノールアミン4.66部を添加して、10分間撹拌した後、イオン交換水56.33部を加え水に分散させ、不揮発分が20%のカルボキシ基を有するポリマー(A-2)分散液を得た。
【0097】
[製造例3]カルボキシ基を有するポリマー(A-3)の合成
製造例1と同様の反応容器に、エチレングリコールモノブチルエーテル6.5部、ジメチルエタノールアミン0.5部、化合物(D)としてフェニルグリシジルエーテル0.74部、イオン交換水15部を仕込んで、加熱を開始し100℃程度で還流した。還流を維持したままメタクリル酸10.2部、スチレン6.29部、N-ブトキシメチルアクリルアミド0.51部、および過酸化ベンゾイル0.12部の混合物を滴下槽から2時間にわたって連続滴下し重合した。その後は製造例1と同様の手順にて、不揮発分が17%のカルボキシ基を有するポリマー(A-3)分散液を得た。
【0098】
[製造例4]カルボキシ基を有するポリマー(A-4)の合成
反応温度を70℃とした以外は製造例1と同様にして、不揮発分が17%のカルボキシ基を有するポリマー(A-4)分散液を得た。
【0099】
[製造例5]カルボキシ基を有するポリマー(A-5)の合成
化合物(D)として2-フェニル-2-オキサゾリンを0.74部、滴下槽に仕込む混合物として、メタクリル酸7.65部、スチレン0.85部、4-ヒドロキシブチルアクリレート8.5部、過酸化ベンゾイル0.6部の混合物を用いた以外は製造例3と同様にして、不揮発分が17%のカルボキシ基を有するポリマー(A-5)分散液を得た。
【0100】
[製造例6]カルボキシ基を有するポリマー(A-6)の合成
滴下槽に仕込む混合物として、メタクリル酸6.8部、スチレン10.2部、過酸化ベンゾイル0.6部の混合物を用いた以外は製造例1と同様にして、不揮発分が17%のカルボキシ基を有するポリマー(A-6)分散液を得た。
【0101】
[製造例7]カルボキシ基を有するポリマー(A-7)の合成
滴下槽に仕込む混合物として、メタクリル酸8.5部、α-メチルスチレン8.16部、ブチルアクリレート0.34部、過酸化ベンゾイル0.16部の混合物を用いた以外は製造例1と同様にして、不揮発分が17%のカルボキシ基を有するポリマー(A-7)分散液を得た。
【0102】
[製造例8]カルボキシ基を有するポリマー(A-8)の合成
メタクリル酸15部、スチレン4.5部、エチルアクリレート10.5部、o-フェニルフェノールグリシジルエーテル1部、1-ブタノール43.8部、および過酸化ベンゾイル1.2部の混合物を用意した。次いで、製造例1と同様の反応容器に前述の混合物の1/4量を仕込んで85℃に加熱した。温度を維持したまま、混合物の3/4量を滴下槽から2時間かけて滴下し、滴下終了後、さらに2時間撹拌した後、エチレングリコールモノブチルエーテル25部を加えて冷却し、不揮発分が31%のカルボキシ基を有するポリマー(A-8)溶液を得た。
【0103】
[製造例9]カルボキシ基を有するポリマー(A-9)の合成
メタクリル酸15部、スチレン12部、エチルアクリレート2.5部、1-ブタノール44.75部、および過酸化ベンゾイル0.25部の混合物を用いた以外は製造例8と同様にして、不揮発分が30%のカルボキシ基を有するポリマー(A-9)溶液を得た。
【0104】
合成したカルボキシ基を有するポリマー(A)のそれぞれについて数平均分子量(Mn)及びガラス転移温度(Tg)を測定し、表1に示す。ポリマー(A)のTgは、FOX式により算出した。
【0105】
[製造例10]フェノール樹脂(G-1)溶液の合成
製造例1と同様の反応容器に、フェノール500部、37%ホルマリン237部、シュウ酸5部を仕込み、95℃まで加熱して3時間反応を行った。次に、60mmHgまで減圧し、脱水を行いながら150℃まで加熱した後、窒素ガスを吹き込みながら更に脱水を続け、内温を210℃まで加熱した。この状態を4時間保持し、次いで20mmHgの減圧下で真空脱水を1時間行い、フェノール樹脂を得た。次いで、イオン交換水200部、20%水酸化ナトリウム水溶液200部、37%ホルマリン800部を仕込み、上記フェノール樹脂を溶解した後、60℃で3時間反応させたところ、赤褐色の透明な溶液を得た。次いで、40℃まで冷却してからこの赤褐色透明溶液に、20%塩酸190部を加えて攪拌したところ、10分程度で上層が無色透明な水層、下層が赤褐色の有機層に分離した。上層をデカンテーションにより分離・除去したのち、n-ブタノール490部を加え、不揮発分50%のフェノール樹脂(G-1)溶液を得た。
【0106】
[製造例11]フェノール樹脂(G-2)溶液の合成
製造例1と同様の反応容器に、m-クレゾール450部、86%パラホルムアルデヒド130部、クエン酸250部を仕込み、120℃まで加熱して4時間反応を行った。反応終了後、イオン交換水500部で水洗することで、クエン酸を除去した。次いで、60mmHgまで減圧脱水を行い、フェノール樹脂を得た。次いで、イオン交換水220部、20%水酸化ナトリウム水溶液180部、37%ホルマリン700部を仕込み、上記フェノール樹脂を溶解した後、60℃で3時間反応させたところ、赤褐色の透明な溶液を得た。次いで、40℃まで冷却してからこの赤褐色透明溶液に、20%塩酸180部を加えて攪拌したところ、10分程度で上層が無色透明な水層、下層が赤褐色の有機層に分離した。上層をデカンテーションにより分離・除去したのち、n-ブタノール490部を加え、不揮発分50%のフェノール樹脂(G-2)溶液を得た。
【0107】
[製造例12]フェノール樹脂(G-3)溶液の合成
m-クレゾールの代わりにp-クレゾールを用いた以外は製造例10と同様にして、不揮発分50%のフェノール樹脂(G-3)溶液を得た。
【0108】
[製造例13]フェノール樹脂(G-4)溶液の合成
製造例1と同様の反応容器に、イオン交換水60部、20%水酸化ナトリウム水溶液60部、ビスフェノールA100部、37%ホルマリン300部を仕込み、60℃まで加熱して3時間反応を行ったところ、赤褐色の透明な溶液を得た。次いで、40℃まで冷却してからこの赤褐色透明溶液に、20%塩酸55部を加えて攪拌したところ、10分程度で上層が無色透明な水層、下層が赤褐色の有機層に分離した。上層をデカンテーションにより分離・除去したのち、n-ブタノール140部を加え、不揮発分50%のフェノール樹脂(G-4)溶液を得た。
【0109】
[実施例1]
撹拌機、温度計、還流冷却管、滴下槽、及び窒素ガス導入管を備えた反応容器に、イオン交換水18部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、スチレン3.07部、エチルアクリレート9.93部、N-ブトキシメチルアクリルアミド1.46部、化合物(D)としてo-フェニルフェノールグリシジルエーテル0.67部の混合物を、製造例1で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-1)分散液30部を用いて乳化し、滴下槽1に仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.9部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液1部を仕込んだ。撹拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、ポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水24.58部、n-ブタノール5.3部、エチレングリコールモノブチルエーテル4.14部、ジメチルエタノールアミン0.05部、硬化剤として製造例10で得たフェノール樹脂溶液(G-1)0.40部、滑剤としてCERACOL79(BYK社製カルナバワックス、不揮発分20%)0.5部を添加し、ろ過することで不揮発分が20%のエマルション型水性塗料(1)を得た。
【0110】
[実施例2]
実施例1と同様の反応容器に、イオン交換水18部を仕込み、窒素ガス雰囲気下、撹拌しながら70℃になるまで加熱した。
別途、スチレン9.19部、エチルアクリレート8.27部、N-ブトキシメチルアクリルアミド0.92部の混合物を、製造例2で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-2)分散液40部を用いて乳化し、滴下槽1に仕込んだ。また滴下槽2に1%過酸化水素水0.9部を仕込み、滴下槽3に1%エリソルビン酸ナトリウム水溶液1部を仕込んだ。撹拌しつつ反応容器内の温度を70℃に保持しながら、それぞれの滴下槽から3時間かけて滴下し乳化重合を行うことで、ポリマーエマルションを得た。
その後、イオン交換水24.58部、化合物(D)としてフェノール(EO)5グリシジルエーテル0.7部、n-ブタノール5.3部、エチレングリコールモノブチルエーテル4.14部、ジメチルエタノールアミン0.05部、製造例11で得たフェノール樹脂溶液(G-2)0.27部、CERACOL79 0.3部を添加し、ろ過することで不揮発分が24%のエマルション型水性塗料(2)を得た。
【0111】
[実施例3]
スチレン13.25部、エチルアクリレート5.11部、N-ブトキシメチルアクリルアミド0.57部の混合物を、製造例3で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-3)分散液26部で乳化して用い、硬化剤として製造例12で得たフェノール樹脂溶液(G-3)2部を、滑剤としてCERACOL79を0.12部加えた以外は、実施例1と同様にして不揮発分が24%のエマルション型水性塗料(3)を得た。
【0112】
[実施例4]
スチレン10.85部、エチルアクリレート3.47部、N-ブトキシメチルアクリルアミド0.14部の混合物を、製造例4で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-4)分散液30部で乳化して用い、化合物(D)として2-フェニル-2-オキサゾリン0.35部、硬化剤として製造例10で得たフェノール樹脂溶液(G-1)0.6部および製造例12で得たフェノール樹脂溶液(G-3)0.6部、滑剤としてCERACOL79を0.12部加えた以外は、実施例2と同様にして不揮発分が22%のエマルション型水性塗料(4)を得た。
【0113】
[実施例5]
スチレン2.41部、エチルアクリレート8.43部、N-ブトキシメチルアクリルアミド0.55部の混合物を、製造例5で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-5)分散液50部で乳化して用い、硬化剤として製造例11で得たフェノール樹脂溶液(G-2)2部および製造例12で得たフェノール樹脂溶液(G-3)2部を、滑剤としてCERACOL79を2.3部加えた以外は、実施例3と同様にして不揮発分が19%のエマルション型水性塗料(5)を得た。
【0114】
[実施例6]
スチレン0.66部、ブチルアクリレート12.36部、N-ブトキシメチルアクリルアミド0.13部、化合物(D)としての2-エチルヘキシルオキセタン0.15部の混合物を、製造例6で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-6)分散液41部で乳化して用い、硬化剤として製造例10で得たフェノール樹脂溶液(G-1)0.2部および製造例12で得たフェノール樹脂溶液(G-3)0.2部を、滑剤としてCERACOL79を1.5部加えた以外は、実施例1と同様にして不揮発分が19%のエマルション型水性塗料(6)を得た。
【0115】
[実施例7]
スチレン14.7部、エチルアクリレート2.76部、N-ブトキシメチルアクリルアミド0.92部、化合物(D)としてのグリシジル2-ナフチルエーテル0.15部の混合物を、製造例7で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-7)分散液46部で乳化して用い、硬化剤として製造例13で得たフェノール樹脂溶液(G-4)0.8部を、滑剤としてCERACOL79を0.15部加えた以外は、実施例1と同様にして不揮発分が22%のエマルション型水性塗料(7)を得た。
【0116】
[実施例8]
スチレン3.07部、エチルアクリレート9.93部、N-ブトキシメチルアクリルアミド1.46部の混合物を、製造例7で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-7)分散液30部で乳化して用い、化合物(D)としてN-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド2部、硬化剤としてCymel 303LF(Allnex社製アミノ樹脂、不揮発分100%)0.4部、滑剤としてCERACOL79を0.15部加えた以外は、実施例2と同様にして不揮発分が22%のエマルション型水性塗料(8)を得た。
【0117】
[実施例9]
スチレン3.68部、エチルアクリレート8.41部、N-ブトキシメチルアクリルアミド1.05部、化合物(D)としてのフェニルグリシジルエーテル0.012部の混合物を、製造例1で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-1)分散液33部で乳化して用い、硬化剤としてCymel NF2000(Allnex社製アミノ樹脂、不揮発分50%)0.4部、滑剤としてCERACOL79を0.15部加えた以外は、実施例1と同様にして不揮発分が19%のエマルション型水性塗料(9)を得た。
【0118】
[実施例10]
実施例1と同様の反応容器に、jER1009(三菱ケミカル社製のBPA型エポキシ樹脂)15部、エチレングリコールモノブチルエーテル8部を仕込み、120℃で完全に溶解した後100℃まで冷却し、製造例8で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-8)溶液19.5部、ジメチルエタノールアミン1.1部を加え1時間撹拌した。次いで50℃まで冷却し、イオン交換水58.8部を30分かけて滴下した後、硬化剤として製造例13で得たフェノール樹脂溶液(G-4)2部、滑剤としてCERACOL79を0.1部を加え、不揮発分が21%のエマルション型水性塗料(10)を得た。
この水性塗料のポリマー成分は、エポキシ樹脂とアクリル系重合体との複合ポリマーである。
【0119】
[実施例11]
jER1009を17部、カルボキシ基を有するポリマーとして製造例9で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-9)溶液13部、硬化剤として製造例12で得たフェノール樹脂溶液(G-3)0.5部を用い、CERACOL79を仕込むと同時に化合物(D)としてo-フェニルフェノールグリシジルエーテル2部を加えた以外は実施例10と同様にして、不揮発分が23%のエマルション型水性塗料(11)を得た。
この水性塗料のポリマー成分は、エポキシ樹脂とアクリル系重合体との複合ポリマーである。
【0120】
[実施例12]
jER1009を17部、製造例8で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-9)溶液を13部、硬化剤としてCymel 303LFを0.25部用い、ポリマー(A-9)溶液を仕込むと同時に化合物(D)として2-エチルヘキシルオキセタン0.06部を加えた以外は実施例10と同様にして、不揮発分が22%のエマルション型水性塗料(12)を得た。
この水性塗料のポリマー成分は、エポキシ樹脂とアクリル系重合体との複合ポリマーである。
【0121】
[実施例13]
jER1009を17部、製造例8で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-9)溶液を13部、硬化剤として製造例10で得たフェノール樹脂溶液(G-1)を0.5部用い、ポリマー(A-9)溶液を仕込むと同時に化合物(D)としてN-(2-ヒドロキシエチル)アセトアミド0.01部を加えた以外は実施例10と同様にして、不揮発分が22%のエマルション型水性塗料(13)を得た。
この水性塗料のポリマー成分は、エポキシ樹脂とアクリル系重合体との複合ポリマーである。
【0122】
[実施例14]
jER1009を17部、製造例8で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-9)溶液を13部、硬化剤として製造例11で得たフェノール樹脂溶液(G-2)0.5部用い、ポリマー(A-8)溶液を仕込むと同時に化合物(D)として2-フェニル-2-オキサゾリン2部を加えた以外は実施例10と同様にして、不揮発分が23%のエマルション型水性塗料(14)を得た。
この水性塗料のポリマー成分は、エポキシ樹脂とアクリル系重合体との複合ポリマーである。
【0123】
[比較例1]
化合物(D)を加えなかったこと以外は実施例1と同様にして、不揮発分が20%のエマルション型水性塗料(15)を得た。
【0124】
[比較例2]
スチレン4.79部、ブチルメタクリレート6.21部、グリシジルメタクリレート0.95部、ヘキサンジオールジアクリレート0.5部の混合物を、製造例1で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-1)分散液15.4部で乳化して用い、硬化剤として製造例12で得たフェノール樹脂溶液(G-3)1.2部を加えた以外は、実施例1と同様にして不揮発分が19%のエマルション型水性塗料(16)を得た。
【0125】
[比較例3]
スチレン6.01部、ブチルアクリレート4.4部、ブチルメタクリレート3.08部、グリシジルメタクリレート1.17部の混合物を、製造例1で得られたカルボキシ基を有するポリマー(A-1)分散液31.19部で乳化して用い、硬化剤を加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして不揮発分が20%のエマルション型水性塗料(17)を得た。
【0126】
[比較例4]
硬化剤として製造例10で得たフェノール樹脂溶液(G-1)0.5部を加え、化合物(D)を加えなかったこと以外は実施例11と同様にして、不揮発分が22%のエマルション型水性塗料(18)を得た。
【0127】
[評価]
得られた水性塗料を、厚さ0.26mmのアルミニウム板上に乾燥・硬化後の塗膜の厚さが5μmになるように塗装し、ガスオーブンを用い、雰囲気温度200℃で2分間焼き付けを実施し、テストパネルを得た。水性塗料及び得られたテストパネルについて下記の評価を行った。評価結果を表2に併せて示す。
【0128】
<塗膜のガラス転移温度>
塗膜のガラス転移温度は、DSC(示差走査熱量計、TAインスツルメント社製)を用いて以下の条件で測定した。
(i)テストパネルから塗膜を削り取って、その約5mgを精秤して入れたアルミニウムパンと、リファレンスである空のアルミニウムパンとをDSC測定ホルダーにセットし、窒素気流中で室温から-100℃まで降温し、降温完了後5分間保持した。
(ii)次いで、-100℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、昇温完了後5分間保持した。
(iii)次いで、再度-100℃まで降温し、降温完了後5分間保持した。
(iv)次いで、再度-100℃から10℃/分の昇温速度で250℃まで昇温し、昇温完了後5分間保持した。このときのDSC曲線における吸熱現象の低温側のベースラインと変曲点での接線との交点の温度を塗膜のガラス転移温度(Tg)とした。
【0129】
<水性塗料の抑抱性>
容量225mLの容器に水性塗料を140g計りとり、比重カップ(容量100mL)を用いて質量を測定し、比重を算出した。水性塗料を容器に戻し、ラボディスパーで2400rpmの速度で2分間撹拌し、撹拌終了後1分間静置した。その後、泡を巻き込んだ状態の水性塗料を比重カップに注ぎ入れ、質量を測定し、泡を巻き込んだ状態での比重を算出した。撹拌前後の比重の値から、抱泡率を算出した。抱泡率から以下の基準で水性塗料の抑泡性を評価した。
A:10%未満(良好)
B:10%以上20%未満(使用可)
C:20%以上(実用不可)
【0130】
<塗膜のゲル分率>
テストパネルを幅15cm・長さ15cmの大きさに準備した。次いでテストパネルを、80℃にて還流させたメチルエチルケトン(MEK)中に60分間浸漬し、浸漬前後のテストパネルの質量変化から塗膜のゲル分率を算出した。塗膜のゲル分率を以下の基準で評価した。
A:95%以上(良好)
B:90%以上95%未満(使用可)
C:90%未満(実用不可)
【0131】
<塗膜の加工性>
テストパネルを幅30mm・縦50mmの大きさに準備した。次いで、
図2の(a)のようにテストパネル1の塗膜を外側にして、縦長さ30mmの位置に直径3mmの丸棒2を添える。そして
図2の(b)のように丸棒2に沿ってテストパネル1を2つ折りにして幅30mm・縦約30mmの試験片3を作製した。この2つ折りにした試験片3の折り曲げ部の間に厚さ0.26mmのアルミニウム板(省略)を2枚はさみ、
図2の(c)のように幅15cm×高さ5cm×奥行き5cmの直方体状の1kgのおもり4を高さ40cmから試験片3の折り曲げ部に落下させて完全に折り曲げた。得られた試料を試験片5(不図示)とする。
【0132】
次いで、試験片5の折り曲げ部を濃度1%の食塩水中に浸漬させた。次いで、試験片5の、食塩水中に浸漬されていない平面部の金属部分と、食塩水との間を6.0V×4秒間通電した時の電流値を測定した。電流値から以下の基準で塗膜の加工性を評価した。
塗膜の加工性が乏しい場合、折り曲げ加工部の塗膜がひび割れて、下地の金属板が露出して導電性が高まるため、電流値が高くなる傾向がある。
A+:5mA未満(非常に良好)
A :5mA以上10mA未満(良好)
B :10mA以上20mA未満(使用可)
C :20mA以上(不良)
【0133】
<塗膜の耐レトルト性>
テストパネルを水に浸漬したまま、レトルト釜で125℃、30分間レトルト処理を行い、レトルト処理後の塗膜の表面状態を目視で評価した。以下の基準で塗膜の耐レトルト性を評価した。
A:レトルト処理前の塗膜と変化なし(良好)
B:やや白化が見られるが、実用上問題ない(使用可)
C:著しく白化やブリスターが見られる(実用不可)
【0134】
<塗膜の耐食性>
テストパネルの塗装面にカッターナイフでクロスカットを行った後、このテストパネルを、塩化ナトリウム3%、クエン酸3%を溶解した水溶液中に浸漬し、37℃2週間後の塗膜の表面状態を目視評価した。以下の基準で塗膜の耐食性を評価した。
A:腐食や塗膜の剥がれがなく、浸漬前の塗膜と変化なし(良好)
B:浸漬前の塗膜と比べて若干変化が見られるが、腐食や塗膜の剥がれはなく実用上問題ない(使用可)
C:塗膜に著しく腐食や塗膜の剥がれが見られる(実用不可)
【0135】
<塗膜の衛生性>
テストパネルを幅15cm・長さ15cmの大きさに準備した。テストパネルを225mLのイオン交換水に浸漬したまま、レトルト釜で125℃、30分間レトルト処理を行った。レトルト処理後の水を「TOC-L CPH」(島津製作所社製)を使用して分析し、全有機炭素(TOC)量を測定した。なお、TOC量とは、水中に存在する有機物の総量を有機物中の炭素量で示したものである。全有機炭素量から以下の基準で塗膜の衛生性を評価した。
A:2ppm未満(良好)
B:2ppm以上5ppm未満(使用可)
C:5ppm以上(不良)
【0136】
<塗膜のフレーバー性>
フレーバー標準物質として、官能閾値の低いことから重要と考えられるオクタナール(官能閾値0.01ppb:日本環境衛生センター所報論文集_No17-1990)を用いた。塗膜面積500cm2のテストパネル1を、オクタナール5ppmを含む5%エタノール水溶液500mL中に浸漬し、密栓したのち40℃で1週間静置した。1週間経過後の各試験パネルを取り出し、蒸留水で水洗した後、二硫化炭素10mL中に塗膜を再浸漬し、試験パネルに吸着したオクタナールを抽出し、吸着量をガスクロマトグラフィーにより定量した。浸漬液(500mL)中に含まれるオクタナールの量を100%として、塗膜に吸着した量からオクタナールの吸着率を計算し、以下の基準に従って塗膜のフレーバー性を評価した。吸着率が低い程、フレーバー保持性が優れている。
A:10%未満(良好)
B:10%以上20%未満(使用可)
C:20%以上(不良)
【0137】
<塗膜の耐傷つき性>
テストパネルを40℃に加温し、トライボギアHEIDON-22H(新東科学社製)を使用し、引っ掻き針ダイヤ100μm、引っ掻き長さ50mm、引っ掻き速度300mm/分の条件において、連続的に0~500gまで荷重を掛けて引っ掻き測定を行った。塗膜に傷が発生し、その傷がアルミニウム基材に到達した際の荷重を測定した。この荷重から以下の基準で塗膜の耐傷つき性を評価した。
A:荷重400g以上(良好)
B:荷重200g以上400g未満(使用可)
C:荷重200g未満(実用不可)
【0138】
【0139】
【0140】
1 テストパネル、2 丸棒、3 試験片、4 おもり、10 缶内表面被覆缶、11 缶部材、12 塗膜、13 缶胴部材、14 缶底部材、20 一体成形品、21 開口部、22 ネック加工部
少なくとも一部の前記ポリマー(A)と少なくとも一部の前記化合物(D)は、前記ポリマー(A)と前記化合物(D)の反応生成物(E)として含まれる、請求項1に記載の缶内表面塗料。
カルボキシ基を有しないポリマー(B)をさらに含み、前記ポリマー(A)と前記ポリマー(B)はポリマーエマルションを形成している、請求項1または2に記載の缶内表面塗料。