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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083054
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】紙積層体および紙容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/10 20060101AFI20240613BHJP
   B65D 3/22 20060101ALI20240613BHJP
   B65D 3/06 20060101ALI20240613BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240613BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
B32B27/10
B65D3/22 B
B65D3/06 B
B65D65/40 D
B32B27/32 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197350
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】000223193
【氏名又は名称】東罐興業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【弁理士】
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】荒木 慶
(72)【発明者】
【氏名】西島 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑典
(72)【発明者】
【氏名】武田 浩幸
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AD06
3E086AD23
3E086BA14
3E086BA15
3E086BA24
3E086BA25
3E086BA29
3E086BB51
3E086BB71
4F100AK05B
4F100AK06B
4F100AL05B
4F100BA02
4F100DG10A
4F100EH232
4F100EH23B
4F100GB16
4F100JA06B
4F100JK16B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】 紙容器に高い液漏れ防止性能が得られ、また、紙容器の成型時に樹脂の欠損クズの発生が抑止される紙積層体および紙容器の提供。
【解決手段】 紙積層体は、胴部と、前記胴部の下部を閉塞する底部とを有する紙容器を形成するための紙積層体であって、紙製基材の少なくとも一方の面に樹脂層が積層されてなり、前記樹脂層が、低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)を含有するポリエチレン系樹脂よりなり、前記ポリエチレン系樹脂における前記低密度ポリエチレン(LDPE)および前記高密度ポリエチレン(HDPE)の含有割合が、質量比で低密度ポリエチレン(LDPE):高密度ポリエチレン(HDPE)=90:10~80:20であることを特徴とする。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
胴部と、前記胴部の下部を閉塞する底部とを有する紙容器を形成するための紙積層体であって、
紙製基材の少なくとも一方の面に樹脂層が積層されてなり、
前記樹脂層が、低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)を含有するポリエチレン系樹脂よりなり、
前記ポリエチレン系樹脂における前記低密度ポリエチレン(LDPE)および前記高密度ポリエチレン(HDPE)の含有割合が、質量比で低密度ポリエチレン(LDPE):高密度ポリエチレン(HDPE)=90:10~80:20であることを特徴とする紙積層体。
【請求項2】
前記ポリエチレン系樹脂は、メルトフローレート(MFR)が8.1g/10minよりも大きく、かつ、温度190℃、せん断速度30.4S-1のときの溶融粘度が963Pa・sよりも小さいものであることを特徴とする請求項1に記載の紙積層体。
【請求項3】
前記ポリエチレン系樹脂の、50℃での動摩擦係数が0.40より小さいことを特徴とする請求項1に記載の紙積層体。
【請求項4】
前記低密度ポリエチレン(LDPE)および前記高密度ポリエチレン(HDPE)の少なくとも一方が、バイオマス由来のエチレンによる構成単位を含むことを特徴とする請求項1に記載の紙積層体。
【請求項5】
胴部と、前記胴部の下部を閉塞する底部とを有する紙容器であって、
前記胴部を形成するための胴部ブランク、および、前記底部を形成するための底部ブランクの少なくとも一方が紙積層体よりなり、
前記紙積層体は、紙製基材の少なくとも一方の面に樹脂層が積層されてなり、
前記樹脂層が、低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)を含有するポリエチレン系樹脂よりなり、
前記低密度ポリエチレン(LDPE)と前記高密度ポリエチレン(HDPE)との含有割合が、質量比で90:10~80:20であり、
前記紙積層体が、前記樹脂層が容器内面側に露出するように配置されていることを特徴とする紙容器。
【請求項6】
前記胴部は、胴部ブランクの両側端部が重ね合わされたサイドシール部を有する筒状の本体部を有する胴部ピースから形成され、
前記底部は、底部ブランクの中央の前記胴部の下部を閉塞する平板部と、当該平板部の外周縁から連続して下方に折れ曲げられた挟み込み部とを有する底部ピースから形成され、
前記胴部ピースと前記底部ピースとは、前記挟み込み部が前記本体部の内面と対向する状態で圧着されたボトムシール部を介して、一体的に接合されてなるものであることを特徴とする請求項5に記載の紙容器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製基材の少なくとも一方の面にポリエチレン系樹脂による樹脂層が形成された紙積層体、およびこの紙積層体により形成された紙容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙容器は、再生可能な天然資源由来材料から構成されることから、環境に優しい容器として広く普及している。
しかしながら、例えば胴部と底部とからなり上部が開口された紙カップ等の紙容器は、飲料水等の液体を収容しても外部に液体が漏れないことが要求されるところ、紙製基材のみでは耐水性やガスバリア性に劣ることから、紙製基材(原紙)の容器内面側に位置させる表面に止水層として樹脂層が積層された紙積層体が多く用いられている。
【0003】
一方、近年の環境対応要請の強化に従って、樹脂層に使用される樹脂材料をバイオマス由来のものにして化石燃料の使用量を削減することが望まれている。このような要請に従って、例えば、紙積層体の樹脂層としてバイオマス由来の材料よりなる低密度ポリエチレン(LDPE)を用いることが提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6957838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現状、紙積層体として、一般的な化石燃料由来の低密度ポリエチレン(LDPE)による樹脂層を有するものを用いて紙容器を形成した場合、紙容器に液漏れが発生したり、また紙容器の底絞り成型時にブランク底絞りツールとの摩擦に起因して樹脂の欠損クズによる異物が発生する、という問題が生じる。
一方、上述の通り化石燃料由来の樹脂材料をバイオマス由来のものに置き換える対応が望まれており、バイオマス由来の材料よりなる樹脂層を有する紙容器の形成を試みたが、液漏れや樹脂の欠損クズの発生という化石燃料由来の樹脂を用いた場合と同様の問題が生じることが判明した。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであって、その目的は、紙容器に高い液漏れ防止性能が得られ、また、紙容器の成型時に樹脂の欠損クズの発生が抑止される紙積層体およびこの紙積層体により形成された紙容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の紙積層体は、胴部と、前記胴部の下部を閉塞する底部とを有する紙容器を形成するための紙積層体であって、
紙製基材の少なくとも一方の面に樹脂層が積層されてなり、
前記樹脂層が、低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)を含有するポリエチレン系樹脂よりなり、
前記ポリエチレン系樹脂における前記低密度ポリエチレン(LDPE)および前記高密度ポリエチレン(HDPE)の含有割合が、質量比で低密度ポリエチレン(LDPE):高密度ポリエチレン(HDPE)=90:10~80:20であることを特徴とする。
【0008】
本発明の紙積層体においては、前記ポリエチレン系樹脂は、メルトフローレート(MFR)が8.1g/10minよりも大きく、かつ、温度190℃、せん断速度30.4S-1のときの溶融粘度が963Pa・sよりも小さいものであることが好ましい。
また、前記ポリエチレン系樹脂の、50℃での動摩擦係数が0.40より小さいことが好ましい。
【0009】
本発明の紙積層体においては、前記低密度ポリエチレン(LDPE)および前記高密度ポリエチレン(HDPE)の少なくとも一方が、バイオマス由来のエチレンによる構成単位を含むことが好ましい。
【0010】
本発明の紙容器は、胴部と、前記胴部の下部を閉塞する底部とを有する紙容器であって、
前記胴部を形成するための胴部ブランク、および、前記底部を形成するための底部ブランクの少なくとも一方が紙積層体よりなり、
前記紙積層体は、紙製基材の少なくとも一方の面に樹脂層が積層されてなり、
前記樹脂層が、低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)を含有するポリエチレン系樹脂よりなり、
前記低密度ポリエチレン(LDPE)と前記高密度ポリエチレン(HDPE)との含有割合が、質量比で90:10~80:20であり、
前記紙積層体が、前記樹脂層が容器内面側に露出するように配置されていることを特徴とする。
【0011】
本発明の紙容器においては、前記胴部は、胴部ブランクの両側端部が重ね合わされたサイドシール部を有する筒状の本体部を有する胴部ピースから形成され、
前記底部は、底部ブランクの中央の前記胴部の下部を閉塞する平板部と、当該平板部の外周縁から連続して下方に折れ曲げられた挟み込み部とを有する底部ピースから形成され、
前記胴部ピースと前記底部ピースとは、前記挟み込み部が前記本体部の内面と対向する状態で圧着されたボトムシール部を介して、一体的に接合されてなる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の紙積層体は、樹脂層を構成する樹脂材料が、低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)が特定の質量比で含有された特定のポリエチレン系樹脂である。この特定のポリエチレン系樹脂は、メルトフローレート(MFR)が高く溶融粘度が低いため、これを樹脂層としてラミネートした紙積層体を用いると、成型時に圧着部の樹脂の流動性が向上し、圧着部に形成され易い空隙に充填されるとともに樹脂と紙製基材との密着性が十分に得られるので液漏れ経路が塞がれ、その結果、本発明の紙積層体により成型された紙容器には高い液漏れ防止性能が得られる。
また、紙容器の成型時、成型機を連続稼働させた場合にはブランク底絞りツールは50℃程度まで温度が上昇するが、本発明で樹脂層に用いる特定のポリエチレン系樹脂は、当該温度域における動摩擦係数が十分に低いので、樹脂層にブランク底絞りツールに対する高い滑り性が得られ、従って、紙容器の成型時の樹脂の欠損クズ(ラミカス)の発生を抑制することができる。
また、本発明の紙積層体によれば、低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)の一部または全部をバイオマス由来の原料のものとすることにより、化石燃料の使用量を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る紙容器の構成を示す説明用斜視図である。
図2図1の矢視A-A線における胴部ピースおよび底部ピースの位置関係を示す切断断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る紙積層体の構成を示す断面図である。
図4】参考例1に係る糸底の切断面のマイクロスコープ画像である。
図5】実施例1に係る糸底の切断面のマイクロスコープ画像である。
図6】実施例2に係る糸底の切断面のマイクロスコープ画像である。
図7】比較例1に係る糸底の切断面のマイクロスコープ画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について図を用いて詳細に説明する。
[紙容器]
本発明の一実施形態に係る紙容器1は、図1に示されるように、逆円錐台筒形の胴部10およびこの胴部10の下部を閉塞する底部20とを有し、上部が開口されたものであり、胴部ブランクから成型された胴部ピース15と、底部ブランクから成型された底部ピース25とが組み立てられ、接合部が熱接着により液密に閉塞されることにより、形成されている。
胴部ピース15は、扇形状の胴部ブランクを巻いて両側端部が重ね合わされヒートシールされた縦方向に伸びるサイドシール部18が形成された、胴部10を構成する逆円錐筒状の本体部13と、本体部13の下端部から連続して内側上方に折り返された環状の裾部14とを有し、上部が開口に構成されると供に、例えば開口の周縁部が外側に巻込まれてカール部19を構成している。胴部ピース15の裾部14の長さは、底部ピース25の挟み込み部23の高さと同程度に形成されている。
底部ピース25は、円形状の底部ブランクの中央領域から構成される、胴部10の下部を閉塞して底部20を構成する平板部22と、この平板部22の外周縁から連続して下方に折れ曲げられた挟み込み部23とを有してなる。なお、底部20の平板部22の形状は、円形に限定されず、楕円、長方形、矩形であってもよく、従って、底部ブランクは、円形状に限らず、楕円形、長方形、矩形等であってもよい。
胴部ピース15および底部ピース25は、図2に示されるように、底部ピース25の挟み込み部23が胴部ピース15の本体部13と裾部14との間に挟み込まれた状態でヒートシールされた周方向に伸びるボトムシール部28を介して一体的に接合され、これにより胴部10の下部が底部20によって閉塞される。底部ピース25が胴部ピース15の本体部13の下部内壁に底上げされた状態で接着されることによって、胴部ピース15の本体部13の下部、裾部14、および底部ピース25の挟み込み部23により、紙容器1の底上げされた脚である糸底2が形成されている。
なお、図2においては、胴部ピース15および底部ピース25が離間して示されているが、これは説明上の都合であり、実際には胴部ピース15および底部ピース25は密着している。
【0015】
紙容器1においては、糸底2を構成する胴部ピース15および底部ピース25は、いずれも平らな胴部ブランクおよび底部ブランクから立体的に成型されるものであるため、各ブランクにはシワが不可避的に生じ、これにより各位置に空隙が形成されやすく、空隙がそのまま残留すると、紙容器1に充填した液体が洩れ出す主要因となると考えられている。
本発明の紙容器1においては、胴部ブランクと底部ブランクとが密に接する状態でボトムシール部28が形成されている。本発明において、胴部ブランクと底部ブランクとが密に接する状態でボトムシール部28が形成されてるとは、糸底2の上端(平板部22の裏面の位置)から下方に適宜の距離で水平に切断した切断面に空隙が形成されていないことをいう。少なくとも糸底の下端において空隙が形成されていなければ、すなわち液漏れ経路が閉塞されてれば液漏れを防止することができるが、本発明の紙容器1においては、糸底2の最上端から最下端までのいずれの切断面においても空隙が形成されていないことが好ましい。ボトムシール部28における空隙が形成されていない状態は、空隙に樹脂が充填されることによって実現することができる。
【0016】
[紙積層体]
胴部ブランクおよび底部ブランクは、図3に示されるように、主材である紙製基材31の少なくとも容器内面側の表面に止水層である樹脂層32を有する紙積層体30よりなり、この樹脂層32以外の層を有した3層以上の積層構造を有していてもよい。例えば、紙製基材31の容器外面側の表面に樹脂層32と同じ樹脂材料よりなる薄層が設けられていてもよく、また、樹脂層32と異なる樹脂材料よりなる薄層が設けられていてもよい。また例えば、金属蒸着層等よりなるバリア層や印刷層、接着層等が設けられていてもよい。
各ブランクは、樹脂層32が紙製基材31よりも容器内面側になるように使用されており、具体的には、得られる紙容器1において樹脂層32が容器内面側の表面に露出するように各ブランクが供されている。
本発明の紙積層体30は、胴部ブランクおよび底部ブランクの一方に用いられていてもよいが、両方に用いられることが好ましい。両方に用いられる場合は、胴部ブランクおよび底部ブランクとして互いに厚みや具体的な層構成、樹脂組成の異なる紙積層体30を用いることができる。本発明の紙積層体30は、各種ツールを用いて樹脂層32に物理的に接触した状態で圧着等行う工程においても、樹脂層32の欠損クズ(異粉)をほとんど発生させないので、特に、底部ブランクのように底絞り工程等を経る場合のブランクとして有用である。
【0017】
樹脂層32の厚みは、胴部ピース15と底部ピース25の熱接着時にヒートシール性が発揮される厚みであって、例えば10~80μmの範囲とすることができ、胴部ブランクとして用いる場合と底部ブランクとして用いる場合等、目的に応じてそれぞれ厚みを設定すればよい。
樹脂層32の厚みが過大である場合には、胴部ピース15や底部ピース25の成型性に劣るおそれや、ヒートシール不良が生じて特定のポリエチレン系樹脂に所望の溶融状態が得られず、空隙を十分に閉塞することができずに液漏れ経路が発生してしまうおそれがある。一方、樹脂層32の厚みが過小である場合には、紙容器1に十分な液漏れ防止性能が得られず、紙容器1に液体を収納したときにボトムシール部28やサイドシール部18から液漏れが発生してしまうおそれがある。
【0018】
胴部ブランクは、少なくともサイドシール部18において本体部13の内面側となる側端部の端縁の露出を防止する端部処理がなされているものであってもよい。側端部の端縁が端部処理されている胴部ブランクによれば、得られた紙容器1においてサイドシール部18およびボトムシール部28から液漏れを確実に抑制することができる。
端部処理としては、胴部ブランクの側端部の外面側を略半分の厚みに切り欠き、略半分の厚みとなって残留した部分を外面側に折り返して切り欠かれた部分に隙間無く重ねて接着するスカイブ処理や、胴部ブランクの端縁を含む側端部に樹脂を塗布、もしくは、樹脂のシートを貼り付けて断面を密閉する樹脂被覆処理が挙げられる。
【0019】
[紙製基材]
紙製基材31としては、紙容器1の形状や所望の強度等に応じて公知の種々の原紙を使用することができる。
紙製基材31は、坪量150~330g/m2の範囲にあるものを好ましく用いることができる。
また、紙製基材31の厚みは、例えば150~450μmの範囲とすることができる。
【0020】
[樹脂層]
樹脂層32を形成する樹脂材料は、低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)を含有する特定のポリエチレン系樹脂よりなる。
特定のポリエチレン系樹脂における低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)の含有割合は、質量比でLDPE:HDPE=90:10~80:20であり、好ましくは80:20である。特定のポリエチレン系樹脂における高密度ポリエチレン(HDPE)の含有割合が過少である場合は、十分に液漏れ経路を塞ぐことができずに液漏れが生じるおそれがある。一方、高密度ポリエチレン(HDPE)の含有割合が過多である場合は、樹脂の溶融張力が低下し、押出し時に製膜不良が発生するため、紙製基材上に樹脂層をラミネート加工することができないおそれがある。
特定のポリエチレン系樹脂は、後述するメルトフローレート(MFR)や溶融粘度が適正な範囲を逸脱しない範囲で、他の適宜のポリエチレン樹脂やその他の樹脂を含有してもよい。
【0021】
特定のポリエチレン系樹脂は、メルトフローレート(以下、単に「MFR」ともいう。)が8.1g/10minよりも大きく、かつ、温度が190℃、せん断速度γが30.4S-1のときの溶融粘度ηが963Pa・sよりも小さいものであることが好ましい。このようなMFRおよび溶融粘度を有する特定のポリエチレン系樹脂による樹脂層32をラミネートした紙積層体30を用いると、成型時に圧着部における樹脂層32の樹脂の流動性が向上し、圧着部に形成され易い空隙に充填されるとともに樹脂と紙製基材31との密着性が十分に得られるので液漏れ経路が塞がれ、その結果、本発明の紙積層体30により成型された紙容器1に高い液漏れ防止性能が得られる。
特定のポリエチレン系樹脂のMFRは、8.1g/10minよりも大きく、11.7g/10minより小さいことがより好ましく、さらに好ましくは、9.3g/10min以上、10.5g/10min以下である。特定のポリエチレン系樹脂のMFRが過大である場合は、紙製基材上に樹脂層をラミネート加工することができないおそれがある。一方、MFRが過小である場合は、十分に液漏れ経路を塞ぐことができずに液漏れが生じるおそれがある。
【0022】
特定のポリエチレン系樹脂の溶融粘度は、温度が190℃、せん断速度γが30.4S-1のときに、836Pa・sよりも大きく、963Pa・sよりも小さいことがより好ましく、さらに好ましくは863Pa・s以上、913Pa・s以下である。特定のポリエチレン系樹脂の溶融粘度が過大である場合は、十分に液漏れ経路を塞ぐことができずに液漏れが生じるおそれがある。一方、溶融粘度が過小である場合は、紙製基材上に樹脂層をラミネート加工することができないおそれがある。
【0023】
特定のポリエチレン系樹脂の50℃での動摩擦係数は、0.40より小さいことが好ましく、より好ましくは0.26より大きく0.40より小さく、さらに好ましくは0.28以上0.29以下である。特定のポリエチレン系樹脂の動摩擦係数が過大である場合は、紙容器の成型時の樹脂の欠損クズ(ラミカス)の発生を抑制することができないおそれがある。一方、動摩擦係数が過小である場合は、成型機へ胴ブランクを供給するために、重ねた胴部ブランクのうち最下端のものの一部をバキュームで吸引して横方向へスライドさせる際に、その振動により重ねた胴部ブランクが位置ずれを起こし、胴巻き不良を発生させるおそれがある。
【0024】
特定のポリエチレン系樹脂は、バイオマス由来のポリエチレン系樹脂であることが好ましく、具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)の少なくとも一方がバイオマス由来のものであることが好ましい。
バイオマス由来のポリエチレンとは、バイオマス由来のエチレンを含むモノマーの重合体であり、バイオマス由来のエチレンによる構成単位を含むものとなる。なお、原料モノマーとしては、バイオマス由来のエチレンを100質量%含むものでなくてもよく、化石燃料由来のエチレンのモノマーをともに含んでもよい。
【0025】
本発明において、好適に使用されるバイオマス由来の低密度ポリエチレン(LDPE)としては、Braskem社製の低密度ポリエチレン(商品名:SBC818)、Braskem社製の低密度ポリエチレン(商品名:SPB681)等が挙げられる。また、好適に使用されるバイオマス由来の高密度ポリエチレン(HDPE)としては、Braskem社製の高密度ポリエチレン(商品名:SHA7260)、Braskem社製の高密度ポリエチレン(商品名:SHC7260)等が挙げられる。
【0026】
[紙積層体の製造方法]
紙積層体30は、紙製基材31の表面に従来公知の種々の方法によって樹脂層32を積層させることによって製造することができる。
例えば、樹脂層32は、紙製基材31の表面に特定のポリエチレン系樹脂を押出ラミネート法により積層することができる。また、樹脂層32は、紙製基材31の表面にドライラミネートにより積層してもよく、さらに、適宜のコーティング法によりコーティング層として積層してもよい。なお、樹脂層32は、紙製基材31の表面を完全に被覆した状態のものに限られず、一部原紙の表面が露出されていてもよい。
【0027】
[紙容器の製造方法]
上記のような紙容器1は、公知の手法によって製造することができる。例えば、紙製基材31上に樹脂層32が形成されたシート状の紙積層体30から、胴部ブランクおよび底部ブランクを適宜の形状に打ち抜き、さらに底部ブランクにおいては外周縁を絞り込みにより下方に折り曲げて挟み込み部23を形成して底部ピース25を作製する。
胴部ブランクは、その両側端部を加熱して樹脂層32が内側となるよう胴巻きし、樹脂層32の溶融した樹脂材料によって側端部同士を接着してサイドシール部18を形成し、筒状の本体部13を作製する。次いで、底部ピース25の挟み込み部23と胴部10に係る本体部13の下部をそれぞれ加熱し、樹脂層32の溶融した樹脂材料によって、底部ピース25の挟み込み部23を本体部13の下部の内壁に接着し、さらに、本体部13の下端を内部上方に折り返して裾部14を形成し、挟み込み部23の内周壁に接着することによって糸底2を形成し、形成された糸底2を加圧することにより、接着部分を圧着させてボトムシール部28を形成する。
圧着方式には、ロールアウト(回転圧着)方式とエキスパンダ方式とがあり、いずれの方式でも、糸底2の内側に配置された加圧子を用いて底部ピース25の挟み込み部23と胴部ピース15の本体部13および裾部14を含む下部とが加圧される。さらに、胴部10の上側開口の側端部を外側に巻き込むいわゆるカーリング処理を施してカール部19を形成し、これにより、紙容器1を製造することができる。
サイドシール部18およびボトムシール部28における接着に係る加熱温度は、接着時に樹脂層32を形成する特定のポリエチレン系樹脂の融点以上となる温度であればよく、例えば150~200℃程度とされる。
【0028】
このような紙容器1は、各種の用途に供することができる。例えば、飲料用の容器、その他各種の内容物を充填するための容器として用いることができる。
【実施例0029】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
[樹脂A~Fの準備]
表1に示す単組成樹脂A,B,C,Hおよびブレンド樹脂D~Gをそれぞれ準備した。表1において、「P204」は東ソー株式会社製の化石燃料由来の低密度ポリエチレン(商品名:ペトロセン204)であり、「SBC818」はBraskem社製のバイオマス由来の低密度ポリエチレン(商品名:SBC818)であり、「SPB681」は、Braskem社製のバイオマス由来の低密度ポリエチレン(商品名:SPB681)であり、「SHA7260」は、Braskem社製のバイオマス由来の高密度ポリエチレン(商品名:SHA7260)である。
この樹脂A~GのMFR、溶融粘度、動摩擦係数および溶融張力を表1に示す。
MFRは、JIS K 7210に準拠し、温度190℃及び荷重2.16kgの条件で測定した値である。
溶融粘度の測定には、キャピラリーレオメーター「キャピログラフ」(東洋精機製作所社製)を用い、シリンダー温度:190℃、シリンダー速度V:5~500mm/min.、キャピラリーダイ:Φ2mmで測定した。表1の溶融粘度ηは、シリンダー速度V=20mm/min.、せん断速度γ=30.4S-1における値である。
動摩擦係数は、JIS K 7125「プラスチック-フィルム及びシート-摩擦係数試験方法」に準拠して測定した。測定においては、引き取り速度:200mm/min.、荷重:200g、試験片のサイズ:63mm×63mmの条件で、各種ラミネート面と、50℃の温度条件のSUS面との動摩擦係数を測定した。
溶融張力は、キャピラリーレオメーター「キャピログラフ」(東洋精機製作所社製)を用い、シリンダー温度:190℃、シリンダー速度V:100mm/min.、キャピラリー長:2mm、キャピラリーダイ:Φ2mm、15m/min.の条件で引き取った際の張力を測定した。
【0030】
<ラミネート加工適正>
上記樹脂A~Hについて、紙製基材の片面上にこれらの樹脂によるラミネート層を押出ラミネートにより積層させる実験を行ったところ、樹脂F,G,Hについては十分な押出ラミネート時の製膜性が得られないことが確認された。樹脂F,G,Hは、その溶融張力が極めて低いためと考えられる。
<欠損クズの発生>
また、上記樹脂A~Fが押出ラミネートされた樹脂層を有する紙積層体について、ブランク底絞りツールを用いて連続的に多数サンプルで底部ピースを成型した。このとき、樹脂の欠損クズが発生するかどうか、観察したところ、樹脂D~Fについては樹脂の欠損クズは発生せず、樹脂A~Cについては樹脂の欠損クズが発生することが確認された。樹脂A~Cは低密度ポリエチレン(LDPE)のみよりなる樹脂であって、成型時温度における動摩擦係数が大きいためと考えられる。なお、樹脂G,Hについては、製膜性がなく押出ラミネート加工することができないため、当該実験を行っていないが、樹脂の欠損クズは発生しないものと考えられる。
【0031】


【表1】
【0032】
[参考例1]
胴部ブランクとして、原紙Pの片面に樹脂Aによる樹脂層(厚み30μm)を押出ラミネートにより積層させ、原紙Pの反対側の面には印刷層を設け、印刷層上にさらに上記樹脂Aよりなる樹脂フィルム(厚み20μm)をラミネート接着剤によりラミネート加工した紙積層体を用意し、扇状に打ち抜いた。組み立て時に内側に配置される側端部には端面処理を行った。
また、底部ブランクとして、原紙Qの片面に樹脂Aによるラミネート層(厚み40μm)を押出ラミネートにより積層した紙積層体を用意し、円形状に打ち抜いた。
これらを用いて、公知の手法により、ブランク底絞りツールによって底部ブランクの外周縁を下方に折り曲げて挟み込み部を形成して底部ピースを作製し、胴部ブランクの両側端部を積重するよう筒状に組み立て、サイドシール部を熱(約200℃)および圧力によりシールし、この筒状体の内側の下部に底部ピースを嵌め込み、挟み込み部を胴部ピースの下端部を内側上方に向かって折り曲げた裾部により挟み込み、ボトムシール部を熱(約200℃)および圧力によりシールすることにより、カップ状の紙容器〔1〕を作製した。このカップ状の紙容器〔1〕の糸底の全高は9.5mmである。
【0033】
[実施例1]
胴部ブランクとして、原紙Pの片面に樹脂Dによるラミネート層(厚み30μm)を押出ラミネートにより積層した紙積層体を用意し、扇状に打ち抜いた。組み立て時に内側に配置される側端部には端面処理を行った。
また、底部ブランクとして、原紙Qの片面に樹脂Eによるラミネート層(厚み60μm)を押出ラミネートにより積層した紙積層体を用意し、円形状に打ち抜いた。
これらを用いて、参考例1と同様にしてサイドシール部およびボトムシール部を形成し、カップ状の紙容器〔2〕を作製した。
【0034】
[実施例2、比較例1,2]
実施例1において、表2に従って胴部ブランクや底部ブランクの樹脂層の樹脂材料を変更したこと以外は同様にして、それぞれカップ状の紙容器〔3〕、〔4〕、〔5〕を作製した。
【0035】
紙容器〔1〕~〔5〕について、以下の加圧漏れ試験を行った。結果を表2に示す。
-加圧漏れ試験-
(1)0.05%スコアロール液を紙容器の8割となるように充填した後、3.8kPaで10秒間加圧する。加圧は、紙容器を密閉可能な蓋をした状態でカップ内部空間にエアーを入れることによって行う。
(2)カップのボトム部に光を照射し、糸底へのスコアロール液の浸透(赤色に染色)を観察する。
(3)上記(2)において糸底へのスコアロール液の浸透が観察されたサンプルについては、追加で5分間放置し、漏れの発生の有無を観察する。
【0036】


【表2】
【0037】
表2から明らかなように、低密度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)のブレンド樹脂を用いた実施例1、実施例2、比較例2に係る紙容器〔2〕、〔3〕、〔5〕や、化石燃料由来の低密度ポリエチレン(LDPE)を用いた参考例1に係る紙容器〔1〕においては、加圧された状態でも液漏れは発生せず、特に実施例1、実施例2、比較例2に係る紙容器〔2〕、〔3〕、〔5〕においては、糸底への液体の浸透も観察されないことが確認された。一方、バイオマス由来の低密度ポリエチレン(LDPE)のみを用いた比較例1に係る紙容器〔4〕においては、糸底への液体の浸透も多く発生し、また、液漏れに至るサンプルもあった。以上のことから、バイオマス由来の低密度ポリエチレン(LDPE)のみよりなる樹脂層が積層されている場合に比べて、高密度ポリエチレン(HDPE)をブレンドした樹脂層が積層された紙積層体による紙容器は、液漏れが防止される、あるいは液漏れの発生率が極めて低いことが分かる。
【0038】
これらの紙容器〔1〕~〔4〕について、上記の加圧漏れ試験後、サイドシール部とボトムシール部の交差箇所に隣接する部分(図1の矢視A-A線の箇所)の、底部ピースの糸底の最上端(平板部の裏面)から下方にt(t=1mm、3mm、5mm)離間した位置を平板部と平行な面で切断し、その断面を上方(図2に示すX方向)から、デジタルマイクロスコープ「VHX-6000」(キーエンス社製)を用いて200倍の倍率で画像を撮影した。結果を図4図7に示す。図4は、参考例1、図5は実施例1、図6は実施例2、図7は比較例1に係る結果である。図4図7において、実際に赤色に染色されて観察される、液体が浸み込んだ領域を、実線で囲って斜線を付して示した。
【0039】
図4図7の結果から明らかなように、断面状態においても本発明に係る紙容器〔2〕、〔3〕についてはいずれも、糸底への液体の浸み込みがないことが一層明確に確認された。これは、特定のポリエチレン系樹脂として、低密度ポリエチレン(LDPE)に加えて溶融粘度の低い高密度ポリエチレン(HDPE)を適度にブレンドしたため、MFRおよび溶融粘度が適切に調整され、ロールアウトで底部ピースを圧着した際に樹脂層の樹脂が流動しやすく、糸底の空隙に充填されて液漏れ経路の閉塞に寄与したものと考えられる。
一方、参考例に係る紙容器〔1〕においては、下部(t=5mm)に至れば液体の浸み込みがほとんどないことが認められたが、糸底に近い上部(t=1mm)では液体の浸み込みが確認され、また、比較例に係る紙容器〔4〕においては、糸底の上部から下部にかけていずれの位置においても液体の浸み込みが確認され、液漏れ経路が形成されていた。
【0040】
以上、本発明の一実施形態に係る紙容器について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更を加えることができる。
例えば、紙容器は、胴部ピースの下部が折り返されていない構成のものであってもよい。すなわち、胴部ピースが本体部の下端部から連続して内側上方に折り返された環状の裾部を有さず、胴部ピースと底部ピースとが、底部ピースの挟み込み部が胴部ピースの本体部の下部にその内面と対向する状態で圧着されたボトムシール部を介して一体的に接合された構成を有していてもよい。
また例えば、胴部および底部よりなる紙容器をカップ本体として、このカップ本体の胴部の外周面を覆うよう例えばエンボス加工が施された紙製シートが巻付けられた構成のものであってもよい。
また、紙容器は、カップ状のものに限定されずに種々の形態のものとすることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 紙容器
2 糸底
10 胴部
13 本体部
14 裾部
15 胴部ピース
18 サイドシール部
19 カール部
20 底部
22 平板部
23 挟み込み部
25 底部ピース
28 ボトムシール部
30 紙積層体
31 紙製基材
32 樹脂層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7