(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024083076
(43)【公開日】2024-06-20
(54)【発明の名称】フルードパワー義指、フルードパワー義指アセンブリ、フルードパワー義指用の指部、フルードパワー義手、及び、人体拡張デバイス
(51)【国際特許分類】
A61F 2/56 20060101AFI20240613BHJP
A61F 2/74 20060101ALI20240613BHJP
【FI】
A61F2/56
A61F2/74
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022197380
(22)【出願日】2022-12-09
(71)【出願人】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 茂
(72)【発明者】
【氏名】西川 弘太郎
【テーマコード(参考)】
4C097
【Fターム(参考)】
4C097AA12
4C097BB02
4C097CC01
4C097CC16
4C097TA03
4C097TB01
4C097TB13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得るフルードパワー義指を提供する。
【解決手段】フルードパワー義指は、手の中手指節間関節部よりも中手骨部側に配設されるベースと、中手指節間関節部又は中手指節間関節部よりも手の指の指先側の基節骨部に取り付けられる基部200と、手又は腕部の動作に応じて基部に対して動く牽引部材と、基部に対してベースとは反対側に設けられ、牽引部材の動きに応じて基部に対して手の指のPIP関節のように回動する第1の関節部400と、基部との間に第1の関節部を挟むように設けられ、牽引部材の動きに応じて第1の関節部に連動して、第1の関節部に対して手の指のDIP関節のように回動する第2の関節部500とを有する。第1の関節部及び第2の関節部の少なくとも一方は、作動流体が封入され、牽引部材の動きに応じて手の指の指腹側とは反対側が指腹側に比べて作動流体により伸縮する伸縮量が大きい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
手の中手指節間関節部よりも中手骨部側に配設されるベースと、
前記中手指節間関節部又は前記中手指節間関節部よりも前記手の指の指先側の基節骨部に取り付けられる基部と、
前記手又は腕部の動作に応じて前記基部に対して動く牽引部材と、
前記基部に対して前記ベースとは反対側に設けられ、前記牽引部材の動きに応じて前記基部に対して前記手の指のPIP関節のように回動する第1の関節部と、
前記基部との間に前記第1の関節部を挟むように設けられ、前記牽引部材の動きに応じて前記第1の関節部に連動して、前記第1の関節部に対して前記手の指のDIP関節のように回動する第2の関節部と
を有し、
前記第1の関節部及び前記第2の関節部の少なくとも一方は、作動流体が封入され、前記牽引部材の動きに応じて前記手の指の指腹側とは反対側が前記指腹側に比べて前記作動流体により伸縮する伸縮量が大きい、筒状の第1の伸縮部を有する、フルードパワー義指。
【請求項2】
前記第1の伸縮部には、前記作動流体として、大気圧から大気圧よりも高圧の範囲の空気が封入されている、請求項1に記載の義指。
【請求項3】
前記第1の伸縮部は、その軸方向に伸縮する伸縮性と、前記軸方向と交差する方向へ曲がる可撓性とを有する、中空のベローズとして形成される、請求項1又は請求項2に記載の義指。
【請求項4】
前記第1の伸縮部には、前記第1の伸縮部に流体的に接続され、前記牽引部材の動きに応じて前記第1の伸縮部との間で前記作動流体が移動する、第2の伸縮部が接続される、請求項1又は請求項2に記載の義指。
【請求項5】
前記牽引部材は、前記ベースに一端が連結され、前記基部に他端が連結され、
前記義指は、前記牽引部材の前記一端と前記他端との間で前記牽引部材の動きに応じて前記第2の伸縮部を押圧する押圧体を有する、
請求項4に記載の義指。
【請求項6】
前記第2の伸縮部及び前記押圧体は、前記中手指節間関節部よりも前記中手骨部側に取り付けられる、請求項5に記載の義指。
【請求項7】
前記第2の伸縮部は、筒状で、その軸方向に伸縮する伸縮性と、前記軸方向と交差する方向へ曲がる可撓性とを有する、中空のベローズとして形成される、
請求項4に記載の義指。
【請求項8】
前記第1の関節部は、前記第1の伸縮部を有し、
前記牽引部材は、
前記ベースに一端が連結され、前記基部及び前記第1の関節部の前記指腹側を通して前記第2の関節部側に他端が延び、前記第2の関節部に前記他端が連結されている、
請求項1又は請求項2に記載の義指。
【請求項9】
前記第2の関節部は、前記第1の関節部の前記第1の伸縮部とは別の第1の伸縮部を有する、請求項8に記載の義指。
【請求項10】
前記牽引部材は、前記基部と前記第2の関節部との間で、所定方向に曲がり、前記所定方向から外れる方向への曲がりを抑制する板状に形成される、請求項8に記載の義指。
【請求項11】
前記第1の関節部との間に前記第2の関節部を挟むように設けられるエンドエフェクタを有し、
前記第1の関節部及び前記第2の関節部は、それぞれ前記第1の伸縮部を有し、
前記第2の関節部は、前記第2の関節部の前記第1の伸縮部と前記エンドエフェクタとの間に、前記エンドエフェクタを前記手の指の指先のように回動させるリンク機構を有する、請求項1又は請求項2に記載の義指。
【請求項12】
請求項1又は請求項2に記載の義指と、
前記中手指節間関節部又は前記中手指節間関節部よりも前記手の別の指の指先側の基節骨部に取り付けられる、別の基部と、
前記別の基部に対して前記ベースとは反対側に設けられ、前記動作により前記別の基部に対して前記別の指のPIP関節のように回動する、別の第1の関節部と、
前記別の基部との間に前記別の第1の関節部を挟むように設けられ、前記動作により前記別の第1の関節部に連動して、前記別の第1の関節部に対して前記別の指のDIP関節のように回動する、別の第2の関節部と
を有し、
前記別の第1の関節部及び前記別の第2の関節部の少なくとも一方は、前記作動流体が封入され、前記動作により前記別の指の指腹側とは反対側が前記指腹側に比べて前記作動流体により伸縮する伸縮量が大きい、筒状の、別の第1の伸縮部を有する、
フルードパワー義指アセンブリ。
【請求項13】
フルードパワー義指用の指部であって、
基部と、
前記基部に設けられ、牽引部材の動きに応じて前記基部に対して手の指の関節のように回動する第1の関節部と、
前記基部との間に前記第1の関節部を挟むように設けられ、前記牽引部材の動きに応じて前記第1の関節部に連動して、前記第1の関節部に対して前記手の指の関節のように回動する第2の関節部と
を有し、
前記指部は、前記基部、前記第1の関節部、及び、前記第2の関節部によって前記手の指のように伸び、
前記第1の関節部及び前記第2の関節部の少なくとも一方は、作動流体が封入され、前記牽引部材の動きに応じて前記手の指の指腹側とは反対側が前記指腹側に比べて前記作動流体により伸縮する伸縮量が大きい、筒状の第1の伸縮部を有する、フルードパワー義指用の指部。
【請求項14】
ユーザの手に取り付けられる、請求項13に記載の指部と、
前記指部に並設される、請求項13に記載の別の1又は複数の指部と、
前記手の中手指節間関節部よりも中手骨部側に配設されるベースと、
一端が前記ベースに支持され、前記手又は腕部の動作に応じて前記指部の前記基部、及び、前記別の指部の前記基部に対して動く前記牽引部材と
を有する、人体拡張デバイス。
【請求項15】
腕部に当接される当接部を有し、前記腕部の回内動作及び回外動作の少なくとも一方を軸方向の動作に変換する変換機構と、
前記変換機構に設けられる基部と、
前記腕部の前記回内動作及び前記回外動作の少なくとも一方の動作に応じて前記基部に対して動く牽引部材と、
前記基部に対して前記変換機構とは反対側に設けられ、前記牽引部材の動きに応じて前記基部に対して手の指のPIP関節のように回動する第1の関節部と、
前記基部との間に前記第1の関節部を挟むように設けられ、前記牽引部材の動きに応じて前記第1の関節部に連動して、前記第1の関節部に対して前記手の指のDIP関節のように回動する第2の関節部と
を有し、
前記第1の関節部及び前記第2の関節部の少なくとも一方は、作動流体が封入され、前記牽引部材の動きに応じて前記手の指の指腹側とは反対側が前記指腹側に比べて前記作動流体により伸縮する伸縮量が大きい、筒状の第1の伸縮部を有する、フルードパワー義手。
【請求項16】
前記基部との間に前記第1の関節部を挟むように設けられ、前記牽引部材の動きに応じて前記第1の関節部及び前記第2の関節部に連動して、前記第1の関節部に対して前記手のMP関節のように回動する第3の関節部を有する、請求項15に記載のフルードパワー義手。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルードパワー義指、フルードパワー義指アセンブリ、フルードパワー義指用の指部、フルードパワー義手、及び、人体拡張デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、リンク機構を用いる能動義指が開示されている。この義指は3つの関節を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リンク機構を用いる義指は、3つの関節を有するため、自由度は大きいが、ガタを生じる可能性が高く、柔らかな動作を行い難い。
【0005】
本発明は、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得るフルードパワー義指、フルードパワー義指アセンブリ、フルードパワー義指用の指部、フルードパワー義手、及び、フルードパワーを用いる人体拡張デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の一態様に係るフルードパワー義指は、手の中手指節間関節部よりも中手骨部側に配設されるベースと、前記中手指節間関節部又は前記中手指節間関節部よりも前記手の指の指先側の基節骨部に取り付けられる基部と、前記手又は腕部の動作に応じて基部に対して動く牽引部材と、前記基部に対して前記ベースとは反対側に設けられ、前記牽引部材の動きに応じて前記基部に対して前記手の指のPIP関節のように回動する第1の関節部と、前記基部との間に前記第1の関節部を挟むように設けられ、前記牽引部材の動きに応じて前記第1の関節部に連動して、前記第1の関節部に対して前記手の指のDIP関節のように回動する第2の関節部とを有する。そして、前記第1の関節部及び前記第2の関節部の少なくとも一方は、作動流体が封入され、前記牽引部材の動きに応じて前記手の指の指腹側とは反対側が前記指腹側に比べて前記作動流体により伸縮する伸縮量が大きい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得るフルードパワー義指、フルードパワー義指アセンブリ、フルードパワー義指用の指部、フルードパワー義手、及び、人体拡張デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ユーザの手に取り付けた第1実施形態に係るフルードパワー義指を示す概略図。
【
図2】
図1に示す義指の指部を曲げた状態を示す概略図。
【
図3】第1実施形態に係る義指の第1の伸縮部の
図1の変形例を示す概略図。
【
図4】第1実施形態に係る義指の第1の伸縮部の
図2の変形例を示す概略図。
【
図5】ユーザの手に取り付けた第2実施形態に係る義指を示す概略図。
【
図6】
図5に示すポンプを圧縮した状態での義指を示す概略図。
【
図7】第1実施形態及び第2実施形態の変形例に係る、フルードパワー義指を有するフルードパワー義手を示す概略図。
【
図8】
図7に示す変換機構の内部構造を示す概略的な断面図。
【
図9】ユーザの手に取り付けた第3実施形態に係る義指を示す概略図。
【
図10】
図9に示す義指の指部を曲げた状態を示す概略図。
【
図11】第3実施形態の第1変形例に係る、義指を含むフルードパワー義手を示す概略図。
【
図12】第3実施形態の第2変形例に係る、義指を含むフルードパワー義手を示す概略図。
【
図13】ユーザの手に取り付けた第4実施形態に係る義指を示す概略図。
【
図15】ユーザの手に取り付けた第4実施形態の変形例に係る義指を示す概略図。
【
図17】ユーザの手に取り付けた第5実施形態に係る人体拡張デバイス(フルードパワー義指アセンブリ)を示す概略図。
【
図18】ユーザの手に取り付けた第5実施形態の変形例に係る、人体拡張デバイス(義指アセンブリ)を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら発明を実施するためのフルードパワー義指(人工装具)10の形態について説明する。以下に説明する、変形例を含む実施形態で用いる図面は、全て概略図であり、縮尺は、実際の大きさや長さは変更され得る。本実施形態に係る義指10の指部600は、実際には、ユーザの指の長さや太さに合わせて形成される。
【0010】
(第1実施形態)
第1実施形態に係る義指(人工装具)10について、
図1及び
図2を用いて説明する。
【0011】
図1及び
図2に示すように、義指10は、ベース100と、基部(取付部)200と、可動体300と、第1の関節部(PIP関節に対応する部位)400と、第2の関節部(DIP関節に対応する部位)500とを有する。なお、基部200、第1の関節部400及び、第2の関節部500は、指部600を形成する。指部600は、基部200、第1の関節部400、及び、第2の関節部500によって、基部200を指の付け根側として、手Hの指のように伸展する。
【0012】
ベース100は、義指10が取り付けられる手HのMP(中手指節間)関節部Jよりも中手骨部側に配設される。ベース100が配設される位置は、指部600が取り付けられる手だけでなく、その手Hの手首であってもよい。なお、MP関節部Jとは、実際のMP関節(軟骨、骨等の関節構成物)自体を指すのではなく、MP関節の近傍の外側の皮膚の外表面を指す。中手骨部とは、実際の中手骨自体を指すのではなく、中手骨の外側の皮膚の外表面を指す。
【0013】
基部200は、MP関節部J又はMP関節部Jよりも基節骨部P側に取り付けられる。基節骨部Pとは、実際の基節骨自体を指すのではなく、基節骨の外側の皮膚の外表面を指す。基部200は、義指10が取り付けられる指の外表面に対して、例えば適宜のバンド230等により固定される。
【0014】
基部200は、基節骨部Pの外形に合わせて例えば筒状又は略U字状等に一体的に形成されていてもよいが、本実施形態では、2体で形成されているものとして説明する。基部200は、基節骨部Pの指腹側とは反対側(手の甲側又は指の背側)の第1の基体210と、指腹側の第2の基体220とを有する。第1の基体210及び第2の基体220は、例えばバンド230等で連結される。
【0015】
第1の基体210は、基節骨部Pの指腹側とは反対側(手の甲側又は指の背側)、及び、基節骨部Pの先端側(指先側)を覆う略L字状に形成される。第1の基体210は、第1の伸縮部410の基端側を支持する本体211aと、本体211aの基節骨部Pの指腹側とは反対側に延びる延出部211bとを有する。
【0016】
第1の基体210の本体211aは、後述する第1の伸縮部(アクチュエータ)410に対して空気(圧縮空気)を供給する流路212を有する。本体211aのうち、第1の伸縮部410の基端側が支持される側とは反対側には、基節骨部Pの先端が接触し得る当接部211cが設けられる。当接部211cは、平面として形成されてもよく、基節骨部Pの先端の形状に合わせて形成されてもよい。また、当接部211cは、例えばシリコーンゴム材等、基節骨部Pの先端への負荷を抑制するクッション材で形成されていてもよい。
【0017】
第1の基体210の延出部211bは、MP関節部Jの可動の妨げにならない長さ及び形状を有する。延出部211bは、牽引部材310のワイヤ312の他端の案内方向を変更するワイヤガイド213を有する。
【0018】
なお、基部200の第1の基体210はMP関節部Jよりも手首側の手の甲の表面側に延出され、手の甲の表面に沿う形状に形成されることも好適である。この場合、第1の基体210のうち、手の甲上の位置、MP関節部J、指の背側上の位置に対応する位置が互いに屈曲可能に形成されていることが好適である。手首等の動作によって牽引部材310を牽引/解放する場合、第1の基体210のうち、手の甲上の位置、MP関節部J、指の背側上の位置に対応する位置が屈曲しないように形成されていることも好適である。
【0019】
第2の基体220は、基節骨部Pの指腹側に配設される。このため、基節骨部Pは、第1の基体210と第2の基体220とによって挟まれた状態に配置される。
【0020】
なお、基部200が略U字状に形成される場合(
図7参照)、一例として、基部200は、基節骨部Pの指腹側、基節骨部Pの先端側(指先側)及び指腹側とは反対側(手の甲側又は指の背側)に配置される。
【0021】
第2の基体220は、牽引部材310のワイヤ312の他端を案内する案内路225と、ワイヤ312の案内方向を変更するワイヤガイド226とを有する。案内路225は、貫通孔として形成される。案内路225の貫通方向は、指が伸展する方向で、後述するヒンジ514の回動軸の軸方向に対して直交又は略直交する方向であることが好適である。本実施形態では、案内路225は、基節骨部Pの指腹側において、後述する第1の案内部414よりも後方側(指の付け根側)に例えば離間する。本実施形態では、案内路225中において、ワイヤ312の他端及び板状部材314の一端が連結されている。案内路225は、また、ワイヤ312及び板状部材314をその軸方向に沿って移動することを許容し、板状部材314が捻じれることを抑制する。
【0022】
可動体300は、本実施形態では、牽引部材310として形成される。本実施形態の牽引部材310は、一端がベース100に連結される。牽引部材310は、1つの部材で形成されていてもよいが、本実施形態では、ワイヤ312と、板状部材314とを有する。牽引部材310は、手H又は腕部の動作に応じて基部200に対して動く。本実施形態では、牽引部材310は、手Hの動作に応じて基部200に対して動く。
【0023】
ワイヤ312の一端(後端)は、ベース100に連結される。このため、ワイヤ312の一端は、手Hとの相対位置が変化し難い。ワイヤ312は、手に当たるときに手に負荷をかけ難く、可撓性を有し、軸方向に伸縮し難い素材で形成されることが好適である。ワイヤ312は、適宜の繊維により形成されることが好適である。ベース100と基部200の第2の基部200との間において、ワイヤ312の外周は、可撓性を有するゴムチューブなどに覆われていてもよい。
【0024】
板状部材314の一端(後端)は、ワイヤ312の他端(先端)に連結部材313により連結される。板状部材314は、基部200と第2の関節部500との間で、所定方向に曲がり、所定方向から外れる方向への曲がりを抑制する板状(ストリップ状)に形成される。板状部材314は、シリコーンゴム材、ポリエチレン材、ポリエチレンテレフタレート材など、手に当たったときに手に付加をかけず、軸方向に伸縮し難い素材で形成される。板状部材314の他端(先端)は、第2の関節部500の後述する回動体(エンドエフェクタ)510に連結される。
【0025】
板状部材314の一方の面は、基節骨部Pの指腹、第1の伸縮部(アクチュエータ)410、ヒンジ514及び伸縮部材516側を向くように配置される。このため、板状部材314は、基部200と第2の関節部500との間で、所定方向に屈曲し、所定方向から外れる方向への屈曲を抑制する板状に形成される。
【0026】
牽引部材310は、ベース100から第1の基体210のワイヤガイド213、案内路225のワイヤガイド226を通して案内路225内までは、適宜の可撓性を有するワイヤ312が用いられる。そして、牽引部材310は、基節骨部Pの指腹側において、板状部材314が指先側に延びることが好適である。牽引部材310のワイヤ312は、ベース100から第1の基体210のワイヤガイド213までは手の甲の近傍に配置され、手Hの動作の妨げになることが抑制される。また、牽引部材310のワイヤ312は、第1の基体210のワイヤガイド213から案内路225のワイヤガイド226までは、基節骨部Pの外周の近傍に配置され、他の指等に干渉することが抑制される。牽引部材310は、ワイヤ312を用いず、板状部材314のみを用いてもよい。しかしながら、作業において、手の甲側よりも多く用いる掌側に牽引部材310を配置することを防止し、手と牽引部材310との接触面積を小さくするため、ワイヤ312をベース100から第2の基部200の案内路225まで用いることが好適である。
【0027】
第1の関節部400は、基部200に対してベース100とは反対側に設けられ、可動体300の牽引部材310の動きに応じて基部200に対して手Hの指のPIP(近位指節間)関節のように回動する。すなわち、本実施形態の第1の関節部400は、例えば人差し指、中指、薬指、小指のPIP関節に相当する。なお、手Hの指の関節のように回動するとは、義指10の第1の関節部400は、指腹側または掌側には、掌に指先が接するように回動させることができるが、手の甲側には、一般に、指先が接することがないように回動させることをいう。このため、第1の関節部400は、適宜の回動範囲を回動させることができ、その回動範囲を超える回動は、防止される。これは、第2の関節部500も同じである。なお、回動範囲は適宜に調整可能である。
【0028】
本実施形態では、第1の関節部400は、作動流体が封入され、可動体300の牽引部材310の動作により伸縮する、筒状の第1の伸縮部410を有する。第1の伸縮部410の一端(後端)は、第1の基体210で支持される。第1の伸縮部410の他端(先端)は、後述する関節コマ412で支持される。
【0029】
第1の伸縮部410は、その軸方向に伸縮する伸縮性と、その軸方向と交差する方向へ曲がる可撓性とを有する、中空のベローズ(蛇腹)として形成される。第1の伸縮部410の軸方向は、指が伸展する方向に沿う方向である。第1の伸縮部410の作動流体としては、空気等の気体、水や油等の液体のいずれを用いてもよいが、空気を用いることが最も好適であり、ここでは、空気を用いる例について説明する。なお、水や油等の液体を用いると、空気よりも重量が増す可能性があるが、把持力が増すと想定される。第1の伸縮部410には、作動流体として、大気圧から大気圧よりも高圧の範囲の空気が封入されている。本実施形態では、第1の伸縮部410は、後述するが、牽引部材310の作用により、手Hの指の指腹側とは反対側が指腹側に比べて作動流体により伸縮する伸縮量が大きくなり得る。
【0030】
第1の関節部400は、基部200の第1の基体210との間に第1の伸縮部410を配置する関節コマ412を有する。
【0031】
第1の関節部400は、基部200の第1の基体210に設けられる第1の案内部414と、関節コマ412に設けられる第2の案内部416とを有する。第1の案内部414及び第2の案内部416は、基節骨部Pの指腹側に形成される、例えば貫通孔として形成される。貫通孔は、指が伸展する方向で、後述するヒンジ514の回動軸の軸方向に対して直交又は略直交する方向に延びる。そして、第1の案内部414及び第2の案内部416には、牽引部材310の板状部材314が挿通される。したがって、板状部材314は、第1の案内部414及び第2の案内部416で案内される。
【0032】
このため、第1の関節部400の指腹側には、第1の案内部414及び第2の案内部416に牽引部材310の板状部材314が挿通され、指腹側とは反対側には、第1の伸縮部410が配置される。
【0033】
第1の伸縮部410は、閉塞され、内部に作動流体である空気を貯留する。第1の基体210には、第1の伸縮部410に適宜の内圧を負荷するように、空気等の流体を入れる流路212が形成される。本実施形態では、流路212には、チューブ214を介して逆止弁216が設けられる。逆止弁216は、第1の伸縮部410に空気を入れるときに解放され、第1の伸縮部410から空気が抜けることを抑制する。
【0034】
第2の関節部500は、基部200との間に第1の関節部400を挟むように設けられる。第2の関節部500は、可動体300の牽引部材310の動きに応じて第1の関節部400に連動して、第1の関節部400に対して手Hの指のDIP(遠位指節間)関節のように回動する。すなわち、本実施形態の第2の関節部500は、例えば人差し指、中指、薬指、小指のDIP関節に相当する。
【0035】
本実施形態では、第2の関節部500は、関節コマ412にヒンジ514により回動可能に連結される回動体510と、関節コマ412と回動体510との間の近接及び離隔を可能とする伸縮部材516と、回動体510に設けられ、牽引部材310の他端(遠位端)を固定する固定部518とを有する。
【0036】
回動体510は、指部600の指先に相当する部材として形成される。ヒンジ514は、ユーザの手Hのある指の基節骨部Pの指腹側の板状部材314に近接する位置に配置される。ヒンジ514の回動軸の軸方向は、指が伸展する方向に対して直交する方向など、交差する方向に延びる。
【0037】
伸縮部材516は、基節骨部Pの指腹側とは反対側(手の甲側)に配置される。伸縮部材516の一端は関節コマ412に支持され、他端は回動体510に支持される。
【0038】
固定部518は、基節骨部Pの指腹側に形成される。そして、回動体510の固定部518には、板状部材314の他端(先端)が連結される。このため、牽引部材310は、第1の関節部400及び第2の関節部500において、基節骨部Pの指腹側に配置される。
【0039】
本実施形態では、板状部材314は、ヒンジ514を伸縮部材516との間で挟むように配置する位置に配置される。
【0040】
義指10の基部200から回動体510の先端(指先対応部)511までの指部600の長さは、ユーザにより適宜に設定可能であるが、本実施形態では、略45mmとした。
【0041】
なお、回動体510の先端511は、指部600の指先に相当する。このため、回動体510の先端511は、把持対象の物品に対して適宜の摩擦力を発揮する素材又は形状が選択されることが好適である。
【0042】
なお、義指10の殆どの部材は、射出成型や3Dプリンタを用いた3Dプリンティング技術によって立体成形(三次元造形)されることが好適である。ベース100、基部200、第1関節部400の関節コマ412、第2関節部500の回動体510等は、PLA、ABS、ポリアミド等の樹脂材料によって形成される。第1の関節部400の第1の伸縮部410及び第2の関節部500の伸縮部材516は、柔軟性のある樹脂材料、例えばポリエチレン等によって形成される。第1の伸縮部410および伸縮部材516は、3Dプリンティングによってゴム状の弾性材料で形成されてもよい。3Dプリンティングに最適な材料としては、熱可塑性エラストマーやシリコーンゴム等がある。この立体成形に用いられる3Dプリンティングの方式としては、光造形法、粉末法、熱溶解積層法(FDM法)、シート積層法、インクジェット法等、任意の方式を採用できる。このように、本実施形態の能動義指10の部品の大部分を3Dプリンタで形成した結果、各ユーザに合わせて作成され得る能動義指10を安価に製造することが可能となる。
義指10は、一般的に重量があるとされる金属材を用いずに形成することができる。したがって、本実施形態に係る義指10は軽量に形成される。
【0043】
なお、人間の指の表皮に似せた人工皮膚等で指部600の外側を適宜に覆ってもよい。また、義指10のユーザ自身の皮膚を培養して作成した皮膚で指部600の外側を適宜に覆ってもよい。または、指部600の外側を適宜の外套で覆って、指部600の装飾性を向上させてもよい。これらは、以降の変形例を含む実施形態でも同様である。
【0044】
次に、本実施形態に係る義指10の作用について説明する。
【0045】
本実施形態に係る義指10のベース100を手HのMP関節部Jよりも中手骨部側である、例えば手の甲や手首等に取り付けた状態で、基節骨部Pに本実施形態に係る義指10の基部200を取り付ける。すなわち、基節骨部Pに本実施形態に係る義指10の指部600を取り付ける。このようにして、ユーザの手に義指10を取り付ける。本実施形態に係る義指10は、2つの関節部を有する2自由度として形成される。義指10の指部600の可動範囲は、自由度に比例する。本指部600は第1の関節部400の1自由度と第2の関節部500の1自由度の計2自由度となるため、指部600の可動範囲を広くすることができる。実際の人間の手Hの指と同様に用いるため、義指10は、MP関節とPIP関節との間の基節骨部Pに基部200が取り付けられることが好適である。
【0046】
義指10が
図1に示す状態のとき、牽引部材310には牽引力(張力)が実質的に負荷されておらず、解放されている。このとき、第1の伸縮部410自体には、内圧として圧縮空気が負荷されているが、人間の手Hの指のように、ヒンジ514の軸方向への多少の回動を許容し得る。第1の関節部400の板状部材314の面の向きによって、第1の基体210に対する第1の関節部400の、ヒンジ514の軸方向に沿う方向へのふらつきを抑制する。一方、板状部材314が容易に曲がる方向への屈曲を許容する。このとき、第1の関節部400は、外力により、回動体510の先端511が掌側に向かう方向、及び、掌側とは反対側に曲がり得る。なお、第1の関節部400の曲がり範囲は、掌側が、掌側とは反対側に比べて大きい。これは、牽引部材310の存在による。
【0047】
そして、
図1に示す状態から
図2に示す状態に、ユーザがMP関節部Jを曲げると、ベース100と第2の基体220の案内路225との間の距離又は経路が遠くなる。このため、牽引部材310のワイヤ312及び板状部材314が牽引される。ワイヤ312及び板状部材314は伸び難い素材で形成されているため、牽引部材310のワイヤ312、板状部材314を介して、第2の関節部500の回動体510の固定部518に牽引部材310の牽引力が伝達される。そして、回動体510の指腹側が、伸縮部材516の付勢力に抗して、関節コマ412に近接する。そして、回動体510の指腹側とは反対側は、伸縮部材516の付勢力に抗して、関節コマ412に対して離隔する。すなわち、第2の関節部500のヒンジ514により回動体510の先端511が掌側に向かって動く。
【0048】
また、牽引部材310の回動体510の指腹側が、関節コマ412に近接すると、関節コマ412も基部200側に引っ張られる。このとき、第1の関節部400の関節コマ412うち、基節骨部Pの指腹側は、基部200に近接する。したがって、第1の伸縮部410には、基部200の第1基体210と関節コマ412との間で圧縮力が負荷される。
【0049】
そして、第1の関節部400の関節コマ412うち、指腹側が基部200に近接すると、第1の伸縮部410は、指腹側が縮み、基部200に近接する。一方、第1の伸縮部410内に封入された空気の空気量は変化しないので、第1の伸縮部410の指腹側とは反対側は、空気圧により伸びる。このため、関節コマ412のうち、指腹側とは反対側は、基部200に対して離隔する。または、関節コマ412のうち、指腹側に比べて、指腹側とは反対側は、基部200に対して離隔する。したがって、牽引部材310の牽引により第1の伸縮部410は、指腹側が収縮し、指腹側とは反対側が、指腹側に比べて伸展する。
【0050】
したがって、本実施形態に係る義指10は、MP関節部Jを屈曲させることにより、第1の関節部400及び第2の関節部500を追従させて回動体510の先端511を掌側に曲げる。すなわち、本実施形態に係る義指10は、MP関節部Jを屈曲させると、手Hの指を内側に曲げる動作を行うように曲がる。このとき、第1の関節部400に加えて、第2の関節部500があることで、回動体510の先端511は、人間の手Hのように動き、十分な屈曲角度を得ることができる。
【0051】
なお、義指10の第1の関節部400及び第2の関節部500を屈曲させるとき、第1の関節部400及び第2の関節部500の板状部材314の向きによって、基部200に対する第1の関節部400及び第2の関節部500のヒンジ514の軸方向に沿う方向へのふらつきを抑制する。
【0052】
ユーザがMP関節部Jの屈曲角度を小さくすると、牽引部材310の牽引が解除される。そして、伸縮部材516の付勢力によって、関節コマ412と回動体510とが、
図2に示す状態から
図1に示す状態に戻される。第1の伸縮部410は、第1の伸縮部410内の作動流体の圧縮性により伸長し、指腹側では、第1の基体210に対して関節コマ412を離隔させる。このため、第1の伸縮部410は、復元力により伸びる。牽引部材310の牽引の解放により、第1の伸縮部410のうち、指腹側と指腹側とは反対側との長さの差が牽引部材310の牽引時に比べて小さくなる。第1の伸縮部410は、牽引部材310の牽引の解放により、指腹側及び指腹側とは反対側が同程度の長さとなり得る。このため、義指10は、フルードパワーを用いて、
図2に示す状態から、
図1に示す状態に変形する。
【0053】
このように、本実施形態に係る義指10は、ユーザのMP関節部Jの動作に応じて、指部600を、屈曲及び伸展を繰り返し行うことができる。
【0054】
本実施形態では、PIP(近位指節間関節)に相当する位置に第1の関節部400を用い、DIP(遠位指節間関節)に相当する位置に第2の関節部500を用いた。義指10は、ユーザの実際の手Hの指のように、PIP関節に相当する第1の関節部400が動き、DIP関節に相当する第2の関節部500が動く。このため、本実施形態に係る義指10は、MP関節部Jと基節骨部Pの先端との間に基部200を取り付け、牽引部材310及び2つの第1の関節部400,500により、健常指と同様に動作させることができる。したがって、義指10の指部600を用いて適宜の把持対象物を例えば掌や、残存する他の指等を用いて把持することができる。
【0055】
本実施形態に係る義指10の第1の伸縮部410は、空気圧式のベローズを用いることにより、牽引部材310(板状部材314)による外力に追従して第1の伸縮部410が第1の伸縮部410の軸方向に伸縮及び/又は第1の伸縮部410の軸方向に対して屈曲する。したがって、義指10の第1の伸縮部410は、空気の圧縮性によってバックドライバビリティに優れる、と言える。そして、第1の伸縮部410内の空気の圧力は、第1の伸縮部410外の空気の圧力(大気圧)よりも高い。このため、第1の伸縮部410は、第1の伸縮部410内の空気圧によるベローズの発生トルク、すなわち、フルードパワーによって、ガタが防止され、把持対象物を柔らかく安定的に保持することできる。
【0056】
このように、義指10の第1の伸縮部410がバックドラバビリティに優れるため、牽引部材310の牽引により、第1の伸縮部410及び板状部材314を含む第1の関節部400を動かしている最中、又は、動かした後、第1の伸縮部410、板状部材314、第2の関節部500への外力の負荷によっても、第1の伸縮部410は、把持対象物により形状が変化しやすい。このため、義指10は、把持対象物に対して柔軟な把持性能を実現することができる。
【0057】
本実施形態では、第1の伸縮部410に空気圧を用いることで、出力/重量の比を高くすることができる。このため、軽量でありながら、比較的高出力の義指10を提供することができる。
【0058】
本実施形態では、手を
図1に示す状態から
図2に示す状態に動かす例について説明した。すなわち、
図1において、掌と基節骨部Pの指腹とが略面一の状態のときに、牽引部材310を解放状態にする例について説明した。掌と基節骨部Pの指腹とが、
図1に示す位置と
図2に示す位置との間の位置において、牽引部材310を解放状態にしてもよい。このため、ユーザのMP関節を介して、手の甲と基節骨部Pの指腹とは反対側とが、例えば135°よりも大きく180°よりも小さい角度に配置された状態で、牽引部材310を解放状態にしてもよい。義指10を握り込まない場合、ユーザの手への負担が軽減される。なお、上述した角度、基部200の第1の基体210から回動体510の先端511までの長さ、すなわち、指部600の長さは、ユーザにより適宜に設定される。
【0059】
把持対象物を把持し続けるためには、義指10の指部600から把持対象物に対して把持力を負荷し続けることが必要となる。本実施形態に係る義指10は、ユーザがMP関節部Jを屈曲させた状態を維持しようとすれば、それに応えて、第1の伸縮部410の圧縮空気の作用により、把持力を負荷し続けることができる。
【0060】
また、第1の伸縮部410としてベローズを採用することにより、例えばピストンの直線運動を回転運動へ変換する必要がなく、直接、屈曲動作を行うことが可能なため、機械効率を高くすることができる。
【0061】
牽引部材310として、全てをワイヤ312で形成するのではなく、板状部材314を用いることで、リンク機構なしで伸縮部410の剛性を保つことができる。MP関節部Jの屈曲によって板状部材314が引かれ伸縮部410が屈曲し指先にある回動体510が屈曲することで十分な屈曲角度が得られる。MP関節部Jの屈曲後、また、屈曲の解除後、伸縮部410は、自身の復元力によって伸展することができる。したがって、本実施形態に係る義指10の指部600は、把持対象物からの反力に応じてバックドライブを行い、バックドライブに比例して復元トルクを増加させることで柔軟把持を可能とする可変コンプライアンス機構である。伸縮部410を1つにすることで義指10の指部600をより短くすることができる。
【0062】
本実施形態に係る義指10をユーザの手に適切に装着し、例えば紙片の把持実験、ポテトチップスの把持実験等、柔軟に把持ができるか否かの実験を行った。机に載置した紙片を把持する実験を行い、ポテトチップスを割らずに撓ませるように把持する実験を行った。
【0063】
紙片の把持実験については、本実施形態に係る義指10の回動体510の先端511の素材によっては、滑りが生じ、摘まみ難い場合が生じたが、把持することが可能であった。このため、例えば新聞紙等のページをめくることが可能である。
【0064】
ポテトチップスを割らずに撓ませる実験については、ポテトチップスの縁部を把持しながら、あるユーザがMP関節を10回程度動かしたが、割らずに把持することができた。
【0065】
その他、本実施形態に係る義指10をユーザの手に適切に装着し、例えば液体を入れたペットボトルの把持実験、消しゴムを把持した字消し実験等の義指10に負荷がかかる作業(重量把持)を行った。このとき、第1の伸縮部410内の圧力が低いと把持力が小さくなるが、第1の伸縮部410のバックドライブにより、把持力を補助することができることが分かった。
【0066】
把持対象物として水を入れた500mlペットボトルを把持する実験では、上手く把持することができない場合が生じた。なお、これは、第1の伸縮部410の空気による内圧を大きくすれば、解消した。このため、第1の伸縮部410の内圧を適宜に上昇させることで、解決できることが分かった。
【0067】
同様に、把持対象物として消しゴムを把持し、その状態で字消し実験を行った。このとき、上手く消しゴムを把持できない場合が生じた。なお、これは、第1の伸縮部410の空気による内圧を大きくすれば、解消した。このため、第1の伸縮部410の内圧を適宜に上昇させることで、解決できることが分かった。
【0068】
このように、本実施形態に係る義指10の第1の第1の関節部400について、第1の伸縮部410を用いる。このとき、第1の伸縮部410は、例えば空気圧を用いる。空気の圧縮性により、第1の第1の関節部400は、ガタがなく、バックドライバビリティに優れる。すなわち、本実施形態に係る義指10では、空気のバックドライバビリティによって物品を把持しているときの第1の関節部400の屈曲角度が自動的に調整され、第1の伸縮部410内の空気が圧縮されることで、指先となる回動体510の先端511に適切に力を負荷することができる。したがって、本実施形態に係る義指10は、フルードパワーを用いて柔軟で安定的な把持性能を実現することができる。また、本実施形態によれば、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得る義指10、及び、義指10用の指部600を提供することができる。
【0069】
なお、本実施形態に係る義指10は、手Hの屈曲角度を
図1に示す状態に比べて、
図2に示すように大きくするにしたがって、把持力を大きくすることができる。そして、義指10は、牽引部材310の牽引に応じて調整される空気圧による第1の伸縮部410の発生トルクにより把持力を維持し、把持対象物を安定的に保持し続けることができる。このため、本実施形態に係る義指10は、指部600を動かしたら、単にその位置に留まろうとし把持力を失うものではなく、第1の伸縮部410の発生トルク、バックドライバビリティにより、把持対象物を把持し続けるための力を、把持対象物に負荷し続けることができる。
【0070】
本実施形態では、電気エネルギーを用いる部材や外部動力源のコンプレッサ等を使用しない。このため、軽量で安価な能動義指10を提供することができる。
【0071】
本実施形態では、作動流体として、第1の伸縮部410内に圧縮空気を封入する例について説明した。例えば、第1の伸縮部410内に小径のビーズ等の添加物を封入してもよい。この場合、添加物により、第1の伸縮部410内の体積を稼ぐことで、第1の伸縮部410内に封入する空気の量、圧縮力を補助することができる。小径のビーズ等の添加物は、第1の伸縮部410の動作を妨げない量である。添加物の例は、一例であるが、ビーズの他、第1の伸縮部410の動作を妨げない量(体積)の、綿等の繊維体、樹脂、粉体等があり得る。
【0072】
また、第1の伸縮部410は、筒状のベローズを二重構造にしてもよい。この場合、内側のベローズ内、又は、内側のベローズの外周面と外側のベローズの内周面との間に作動流体を封入することで、作動流体の封入体積を小さくすることができる。後者の場合、内側のベローズは、作動流体の圧力によって外径が縮径されるなど潰され難く、作動流体の圧力に抗して、適宜の形状を維持できるように形成される。
【0073】
なお、第1の伸縮部410の作動流体として、空気の代わりに、水や油等の液体を用いることができる。この場合、空気よりも重量が増す可能性があるが、把持力が増すと想定される。
【0074】
図3及び
図4には、第1の伸縮部410の変形例を示す。
図3及び
図4中の下側が指腹側であり、上側が指腹側とは反対側である。第1の伸縮部410は、外側に配置されるベローズ410aと、ベローズ410aの内側に配置されるアセンブリ体410bとを有する。アセンブリ体410bは、上述した添加物の一例であり、ベローズ410a内に配置されることにより、第1の伸縮部410内の体積を稼ぐことができる。
【0075】
アセンブリ体410bは、複数の板状体411aと、複数の板状体411aを貫通する紐状部材411bとを有する。
【0076】
隣接する板状体411aは、平面同士が互いに対向するように配置される。複数の板状体411aは、ベローズ410aの外形に合わせて適宜の形状に形成される。すなわち、板状体411aは、円形板、楕円形板、多角形板、そろばんの一珠又は五珠状等、適宜の形状に形成される。本変形例では、板状体411aが円形板である場合を例にして説明する。
複数の板状体411aの外径は互いに同じであり、揃っていることが好適である。各板状体411aは、例えば中実であることが好適で、プラスチック材等、軽量で適宜の剛性を有する素材で形成される。また、各板状体411aは、ベローズ410aの内周面に対して連結部材411cを介して固定されていることが好適である。この場合、アセンブリ体410bは連結部材411cによって、ベローズ410aの中心軸の軸回りに回転することが防止される。
【0077】
紐状部材411bは、複数の板状体411aの中心ではなく、指腹側にずれた位置で複数の板状体411aを貫通することが好適である。紐状部材411bが伸縮しない非伸縮性素材である場合、紐状部材411bの一端部及び他端部は、アセンブリ体410bが屈曲するように、弛みをもって複数の板状体411aを貫通する。紐状部材411bの一端部は、例えば基部200の基体210に固定される。紐状部材411bの他端部は、例えば関節コマ412に固定される。このため、アセンブリ体410bは、ベローズ410aの軸方向に沿って所定位置に配置される状態を維持する。
このような構造の第1の伸縮部410は、例えば3Dプリンタにより形成され得る。
【0078】
紐状部材411bは、非伸縮性素材ではなく、伸縮性を有するゴム材等で形成されていることも好適である。この場合、紐状部材411bの弛みは、最小限にすることができる。
【0079】
例えば、第1の伸縮体410が
図1に示すように真っ直ぐに延びているとき、
図3に示すように、アセンブリ体410bの隣接する板状体411aの平面は互いに平行又は略平行に配置される。隣接する板状体411aの一部同士が接触していてもよい。
【0080】
なお、連結部材411cがない場合、紐状部材411bは複数の板状体411aの中心を貫通することが望ましい。
【0081】
牽引部材310が牽引され、
図2に示すように、第1の伸縮体410の指腹側が縮み、指腹側とは反対側が伸びると、
図4に示すように、アセンブリ体410bの隣接する板状体411a同士は、指腹側が近接し、指腹側とは反対側が離間する。このため、第1の伸縮部410の屈曲動作に追従して、アセンブリ体410bが屈曲する。したがって、アセンブリ体410bの存在によっても、第1の伸縮部410の動作を妨げることを防止する。
【0082】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る、加圧型の義指10について、
図5及び
図6を用いて説明する。本実施形態に係る義指10は、第1実施形態に係る義指10にポンプ700を付加したものである。
【0083】
図5に示すように、逆止弁216には、加圧機構としてポンプ700が接続される。このため、第1の伸縮部(アクチュエータ)410には、逆止弁216を介してポンプ700が接続される。ポンプ700は、第1実施形態で説明した義指10(
図1及び
図2参照)として形成されるように、不要なときには、取り外してもよい。
【0084】
本実施形態では、ポンプ700は、蛇腹状の筒状体(第2の伸縮部)として形成される。本実施形態では、ポンプ700は、中空のベローズとして形成され、軸方向(長手方向)に伸縮する伸縮性と、軸方向と交差する方向へ曲がる可撓性とを有する。ポンプ700の
図5及び
図6中の左端は例えば閉塞されている。ポンプ700内部の空気は、大気圧から大気圧よりも高圧となっており、把持対象物やユーザに応じてその圧力の調整を行うものとする。
【0085】
図5に示すポンプ700の左端を右端に向かって押圧すると、所定の空気圧以上の空気圧により逆止弁216が開き、チューブ214を通って空気が第1の伸縮部410内に供給される。このため、第1の伸縮部410内の空気圧が第1実施形態で説明した第1の伸縮部410内の空気圧に対して高められる。逆止弁216は、第1の伸縮部410内に入った空気が漏れないように、ポンプ700から第1の伸縮部410への空気の供給圧力が所定の値よりも低くなると、閉じる。
【0086】
義指10の作用(動作)は、第1実施形態で説明した義指10と同じであるため、ここでの説明を省略する。
【0087】
そして、ユーザ等がポンプ700の圧縮を繰り返すと、第1の伸縮部410及び第1の伸縮部410に逆止弁216を介して接続されるポンプ700の系の圧力は上昇する。ポンプ700には容量があるため、加圧できる圧力には上限があると想定される。また、第1の伸縮部410の耐圧性も上限が設定される。一方で、ポンプ700に逆止弁216を付加すれば、ポンプ700のポンピング回数により系の圧力の調整が可能である。このため、本実施形態で説明するようにポンプ700を有する義指10を用いることで、より多様な物体を把持することができると想定される。
【0088】
第1実施形態で説明したように、義指10をユーザに装着して、ペットボトルの把持実験を行うに際し、本実施形態に係るポンプ700を用いることにより、第1の伸縮部410の内圧を高めることができる。上述したように、本実施形態に係る義指10は、指部600を動かしたら、単にその位置に留まろうとし把持力を失うものではなく、第1の伸縮部410の発生トルク、バックドライバビリティにより、把持対象物を把持し続けるための力を、把持対象物に負荷し続けることができる。そして、第1の伸縮部410内の圧力を高めることで、第1の関節部400の剛性を高くすることができる。したがって、例えば液体が入った500mlペットボトルのような適宜の重量物の把持を、第1の伸縮部410の内圧を適宜に大きくすることにより、行うことができる。また、消しゴムを用いた字消しの際にも消しゴムを把持し続けながら、字消しを行うことができる。
【0089】
その他、本実施形態に係る義指10は、第1の伸縮部410の内圧(空気圧力)が、大気圧から大気圧よりも高圧の範囲の適宜の圧力の際に、紙片の把持、ポテトチップスを割らずに把持する動作を行うことができた。
【0090】
本実施形態によれば、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得る義指10、及び、義指10用の指部600を提供することができる。
【0091】
(変形例)
本変形例では、フルードパワー義指10を含むフルードパワー義手20について
図7及び
図8を用いて説明する。ここでは、義手20は、ユーザの例えば前腕(残存肢)Fに取り付けられて用いられる。本変形例に係る義手20は、義指10の牽引部材310のワイヤ312を例えば前腕Fの回転動作で牽引/解放することができる。
【0092】
可動体300は、取付部332と、取付部332に設けられる変換機構334と、変換機構334に固定される牽引部材310とを有する。
【0093】
取付部332は、肩等に掛けられるなど、ユーザに取り付けられるように、例えば紐状部材又はロッド状部材として形成される。取付部332は適宜の硬質のフレームとして形成されてもよい。取付部332は、前腕Fの回内動作、回外動作に対して旋回しないなど、回内動作、回外動作に対して連動せず、又は、連動し難く、捻じれることが防止されるように形成されることが好適である。
【0094】
図8には、変換機構334を示す。変換機構334は、外殻部342と、回転体344と、スライダ346とを有する。
【0095】
外殻部342は、本体として形成される。外殻部342は、略有底円筒状に形成される。すなわち、外殻部342の内周面は、底部342aと、曲面壁342bとを有する仮想的な円柱体の空間として形成される。
【0096】
なお、外殻部342には、適宜の剛性を有するチューブ343が接続される。チューブ343は、なくてもよく、例えば、ユーザの他の腕の長さとの調整を行うために用いられ得る。チューブ343には、牽引部材310が通される。本変形例では、チューブ343の先端(外殻部342側とは反対側)には、第1の基体210及び第2の基体220を一体化した基部200が固定される。チューブ343がない場合、外殻部342に直接的に、基部200が取り付けられていてもよい。
【0097】
回転体344は、外殻部342の曲面壁342bの内側を、円柱体の中心軸の軸回りに回転又は回動可能な円柱状に形成される。なお、外殻部342の曲面壁342bの内側には、回転体344が軸方向に移動することを防止する支持部351a,351bが設けられる。支持部351a,351bは、外殻部342の曲面壁342bの内側に円環状に形成されていてもよく、複数が離間して形成されていてもよい。このため、回転体344は、その場で回転し、軸方向には移動しない。なお、支持部351a,351bとしては、例えばスラストボールベアリングやスラストローラベアリング等が用いられ得る。
【0098】
回転体344のうち、底部342a側には、第1のネジ部353が形成される。回転体344のうち、底部342aとは反対側には、ユーザの前腕F等が当接される当接部344aが形成される。
【0099】
移動体346は、回転体344よりも、底部342a側に配置される略円柱状に形成される。曲面壁342bのうち、底部342aに近い側には、移動体346のための第1のガイド361が形成される。移動体346の外周面には、第1のガイド361に沿って移動する第2のガイド363が形成される。第1のガイド361及び第2のガイド363により、移動体346は仮想的な円柱体の中心軸の軸回りに回転又は回動不能である。移動体346のうち、回転体344側には、第1のネジ部353に螺合する第2のネジ部354が形成される。
【0100】
そして、移動体346のうち、底部342a側には、牽引部材310の一端が固定される。
【0101】
なお、第1の関節部400は、基部200に対して変換機構334とは反対側に設けられ、牽引部材310の動きに応じて基部200に対して手の指のPIP関節のように回動する。第2の関節部500は、基部200との間に第1の関節部400を挟むように設けられ、牽引部材310の動きに応じて第1の関節部400に連動して、第1の関節部400に対して手の指のDIP関節のように回動する。
【0102】
次に、本変形例に係るフルードパワー義手20の作用について説明する。
【0103】
図7に示すユーザが前腕Fの先端を当接部344aに当接させ、前腕Fを例えば回外動作させると、回転体344が一緒に回転する。一方、外殻部342及び移動体346は、回外動作に連動しない。
【0104】
前腕Fの例えば回外動作に伴って回転体344が回動すると、ネジの作用により、移動体346が回動体344に対して近接する。このため、牽引部材310が牽引される。
【0105】
この後の動作は、例えば第1実施形態で説明したので、説明を省略する。
【0106】
そして、
図7に示すユーザが前腕Fの先端を当接部344aに当接させ、前腕Fを例えば回内動作させると、回転体344が一緒に回転する。一方、外殻部342及び移動体346は、回内動作に連動しない。
【0107】
前腕Fの回内動作に伴って回転体344が回動すると、ネジの作用により、移動体346が回動体344に対して離間する。このため、牽引部材310の牽引が解放される。
【0108】
この後の動作は、例えば第1実施形態で説明したので、説明を省略する。
【0109】
本変形例によれば、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得る義指10、義指10用の指部600、及び、指部600を含む義手20を提供することができる。
【0110】
ここでは、前腕Fの回外動作により牽引部材310を牽引し、回内動作により牽引部材310の牽引を解放する例について説明した。前腕Fの回外動作により牽引部材310の牽引を解放し、回内動作により牽引部材310を牽引するように、変換機構334を形成してもよい。すなわち、変換機構334は、腕部Fの回内動作及び回外動作の少なくとも一方を軸方向の動作に変換することができる。
【0111】
なお、本変形例に係る義手20では、
図8に示す変換機構334を用いる例について説明した。変換機構334の回転体344及びスライダ346がない場合、ユーザの前腕Fを牽引部材取付部及び前腕取付部としての外殻部342に取り付け、牽引部材310を外殻部342の外表面等に取り付けることによって、ユーザの前腕Fの回転動作で牽引部材310を直接的に牽引/解放してもよい。この場合、牽引部材310を前腕Fの回動中心から外れた位置で、外殻部342に取り付ければよい。そうすると、前腕Fの回動動作に応じて牽引部材310が牽引/解放される。
【0112】
ここでは、
図7を用いて、義手20が1つの指部600を有する例について説明した。図示しないが、
図12を用いて説明する義手20のように、基部200に対して複数の指部600を並設してもよい。この場合、例えば牽引部材310をその指部600の本数分、用意すればよい。また、この場合、基部200のうち、チューブ343又は外殻部334に連結される位置は、手の甲を模擬する形状に形成されてもよい。
【0113】
また、
図7に示す外殻部342を含む変換機構334は、例えば手指を欠損したユーザに対して用い得る。その他、脳梗塞、リウマチ患者等の手指が不自由なユーザに対しても外殻部342の形状をユーザ自身の手指に合う形状に形成することが好適である。この場合も、ユーザは、ユーザの前腕Fの例えば回外動作によって義手20を駆動することができる。これは、後述する第3実施形態の第1変形例(
図11参照)、第2変形例(
図12参照)における義手20でも同様である。
【0114】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る、ポンプ外付型の義指10について、
図9及び
図10を用いて説明する。本実施形態は、第1実施形態及び第2実施形態の変形例であって、第1実施形態及び第2実施形態で説明した部材と同一の部材又は同一の機能を有する部材には極力同一の符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0115】
本実施形態では、基部200は、1体として形成される。牽引部材310の一端は、ベース100に支持され、他端は基部200に支持される。本実施形態では、牽引部材310は、例えば可撓性を有するが、伸縮性に乏しいワイヤ又は板状部材が用いられる。また、第1実施形態で説明したように、牽引部材310は、ワイヤと板状部材とが連結されていてもよい。
【0116】
本実施形態では、ベース100は、ユーザの例えば手首にバンド等を用いて支持される。
【0117】
ベース100には、加圧機構としてポンプ700が設けられる。ポンプ700は、ポンプ基体712と、ポンプ基体712に設けられる第2の伸縮部(ポンプ)714と、第2の伸縮部714を押圧により伸縮させる押圧体716と、ポンプ基体712と押圧体716とを近接及び離隔させるためのガイド718と、押圧体716に設けられ牽引部材310を案内する案内部720とを有する。
【0118】
ポンプ基体712は、ベース100に一体又は連結される。ポンプ基体712は、一例として手の甲に載せられる板状部材として形成される。
【0119】
第2の伸縮部714は、中空のベローズとして形成され、その軸方向(長手方向)に伸縮する伸縮性と、その軸方向と交差する方向へ曲がる可撓性と、を有する。本実施形態では、第2の伸縮部714は、3つのベローズが並べられている。3つのベローズは、互いに連通される。また、3つのベローズはチューブ214を介して第1の伸縮部410に連通する。第2の伸縮部714は、作動流体を貯留する。なお、第2の伸縮部714としてのベローズの数は一例であって、1つでも、2つでもよく、3つよりも多い4つ以上であってもよい。
【0120】
なお、ベローズの軸方向の一例は、例えば、ポンプ基体712のうち、手の甲に接触する面とは反対側の面の法線方向である。
【0121】
第1の関節部400は、基部200に対して回動可能なヒンジ422を有する第1部材420と、基部200と第1部材420との間に設けられる第1-1の伸縮部(アクチュエータ)424とを有する。ヒンジ422は、ユーザの手Hのある指の基節骨部Pに対して指腹側に配置され、第1-1の伸縮部424は、基節骨部Pに対して指腹側とは反対側(手の甲側)に配置される。ヒンジ422の回動軸は、指が延びる方向に対して直交する方向など、交差する方向に延びる。第1-1の伸縮部424は、その軸方向に伸縮する伸縮性と、その軸方向と交差する方向へ曲がる可撓性とを有する、中空のベローズとして形成される。第1-1の伸縮部424の軸方向は、指が伸展する方向に沿う方向である。
【0122】
第2の関節部500は、第1部材420に対して回動可能なヒンジ522を有する、指先部としての第2部材(エンドエフェクタ)520と、第1部材420と第2部材520との間に設けられる第1-2の伸縮部(アクチュエータ)524とを有する。ヒンジ522は、ユーザの手Hのある指の基節骨部Pに対して指腹側に配置され、第1-2の伸縮部524は、基節骨部Pに対して指腹側とは反対側(手の甲側)に配置される。ヒンジ522の回動軸は、指が伸展する方向に対して直交する方向など、交差する方向に延びる。第1-2の伸縮部524は、その軸方向に伸縮する伸縮性と、その軸方向と交差する方向へ曲がる可撓性とを有する、中空のベローズとして形成される。第1-2の伸縮部524の軸方向は、指が伸展する方向に沿う方向である。
【0123】
なお、第1部材420の流路426によって、第1-1の伸縮部424及び第1-2の伸縮部524は連通する。第1-1の伸縮部424及び第1-2の伸縮部524の内圧は同じである。第1-1の伸縮部424は、チューブ214によってポンプ700の第2の伸縮部714に連通する。このため、第1-1の伸縮部424及び第1-2の伸縮部524と、ポンプ700の第2の伸縮部714とは流体的に連結されている。
【0124】
なお、基部200と第2部材520との間は、例えば伸縮部材610で接続されている。伸縮部材610は、指腹側とは反対側に設けられる。伸縮部材610は、例えばシリコーンゴム材などで形成される。伸縮部材610は、第1の関節部400及び第2の関節部500の回動に追従する。
【0125】
次に、本実施形態に係る義指10の作用について説明する。
【0126】
図9に示すように、指部600の基部200は、バンド230により、ユーザの基節骨部Pに固定される。ポンプ700は、ユーザの手の甲に配置される。また、牽引部材310の一端は手首のベース100に、他端は、案内部720を通してバンド230に固定される。
【0127】
牽引部材310は、押圧体716を押圧してはいないが、弛みが少ない状態にあることが好適である。このとき、
図9に示す例は、ポンプ700の3つ以上の第2の伸縮部714、第1-1の伸縮部424、及び、第1-2の伸縮部524の内圧が同じである。このとき、第1-1の伸縮部424及び第1-2の伸縮部524は、それぞれ、軸方向に縮む。したがって、
図9に示す状態のとき、第1の関節部400及び第2の関節部500は屈曲せず、伸展している。
【0128】
ユーザがMP関節部Jを屈曲させると、義指10は、
図9に示す状態から、
図10に示す状態に変形する。牽引部材310は、案内部720に沿って移動しながら、全長又は経路を維持するため、押圧体716をポンプ基体712に向かって押圧する。このため、第2の伸縮部714内の空気が押し出され、チューブ214を通って、第1-1の伸縮部424及び第1-2の伸縮部524に移動する。
【0129】
図10に示す例は、ポンプ700の3つの第2の伸縮部714、第1-1の伸縮部424、及び、第1-2の伸縮部524の内圧が同じである。このとき、第1-1の伸縮部424及び第1-2の伸縮部524は、それぞれ、軸方向に伸展する。ここで、第1の関節部400は、第1-1の伸縮部424よりも指腹側にヒンジ422が設けられる。ヒンジ422の存在により、第1-1の伸縮部424は、指腹側が、指腹側とは反対側に対して延び量が少なく、すなわち、指腹側とは反対側が指腹側に対して延びるため、第1の関節部400は、ヒンジ422を支軸として屈曲する。同様に、第2の関節部500は、第1-2の伸縮部524よりも指腹側にヒンジ522が設けられる。ヒンジ522の存在により、第1-2の伸縮部524は、指腹側が、指腹側とは反対側に対して延び量が少なく、すなわち、指腹側とは反対側が指腹側に対して延びるため、第2の関節部500は、ヒンジ522を支軸として屈曲する。このため、第1の関節部400及び第2の関節部500がそれぞれ指腹側、すなわち掌側に屈曲する。
【0130】
ユーザがMP関節部Jの屈曲角度を小さくすると、牽引部材310のワイヤ312による押圧体716の押圧が解除される。ポンプ基体712に対する押圧体716の距離が離隔する。このため、第1-1の伸縮部424、第1-2の伸縮部524内の流体(作動流体)が、第2の伸縮部714に戻される。また、第2の伸縮部714自体の復元力も発揮される。また、伸縮部材610の付勢力により、第1の関節部400の基部200と第1部材420との間を近づけ、第2の関節部500の第1部材420と第2部材520との間を近づけるように作用する。このため、義指10は、
図10に示す状態から、
図9に示す状態に変形する。
【0131】
このため、本実施形態に係る義指10は、ユーザのMP関節部Jの動作に応じて、指部600を、屈曲及び伸展を繰り返し行うことができる。
【0132】
指部600は第1の関節部400の1自由度と第2の関節部500の1自由度の計2自由度となるため、指部600の可動範囲を広くすることができる。本実施形態に係る義指10は、手Hの屈曲角度を
図9に示す状態に比べて、
図10に示すように大きくするにしたがって、第2の伸縮部714の圧縮空気を、第1-1の伸縮部424及び第1-2の伸縮部524に送り出し、指部600での把持力を大きくすることができる。そして、義指10は、牽引部材310の牽引に応じて第2の伸縮部714から調整される空気圧による伸縮部424,524の発生トルクにより把持力を維持し、把持対象物を安定的に保持し続けることができる。このため、本実施形態に係る義指10は、指部600を動かしたら、単にその位置に留まろうとし把持力を失うものではなく、第1の伸縮部410の発生トルク、バックドライバビリティにより、把持対象物を把持し続けるための力を、把持対象物に負荷し続けることができる。
【0133】
本実施形態に係る義指10を用いても、第1実施形態で説明したように、500mlペットボトルのような比較的重量物の把持、紙片の把持、ポテトチップスを割らずに把持、消しゴムを把持した字消し等の作業を行うことが可能であった。
【0134】
本実施形態に係る義指10は、ユーザがMP関節部Jを屈曲させた状態を維持しようとすれば、それに応えて、第1-1の伸縮部424及び第1-2の伸縮部524の圧縮空気の作用により、把持力を負荷し続けることができる。本実施形態に係る義指10では、空気のバックドライバビリティによって第1の関節部400及び第2の関節部500の屈曲角度が自動的に調整され、第1-1の伸縮部424及び第1-2の伸縮部524内の空気が圧縮されることで、指先となる第2部材520に適切に力を負荷することができる。したがって、本実施形態に係る義指10は、柔軟な把持性能を実現することができる。また、本実施形態によれば、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得る義指10、及び、義指10用の指部600を提供することができる。
【0135】
本実施形態では、電気エネルギーを用いる部材や外部動力源のコンプレッサ等を使用しない。このため、軽量で安価な能動義指10を提供することができる。
【0136】
なお、ポンプ700の伸縮部734は、第1実施形態で説明した基部200の第1の基体210のうち、MP関節部Jよりも手首側の手の甲の表面側に延出された、手の甲の表面に沿う位置に内蔵されていてもよい。
【0137】
(第1変形例)
本変形例では、義指10を含むフルードパワー義手20について
図11を用いて説明する。ここでは、義手20は、ユーザの例えば前腕(残存肢)Fに取り付けられて用いられる。本変形例に係る義手20は、上述した変換機構334(
図7及び
図8参照)により、義指10の牽引部材310のワイヤ312を例えば前腕Fの回転動作で牽引/解放することができる。本変形例に係る義手20は、牽引部材310を直接的に外殻部342に取り付け、前腕Fを外殻部342に取り付けた状態で、前腕Fの回転動作を行うことで、牽引部材310の牽引/解放を行うことができる。
【0138】
本変形例では、指部600が1つの第1-1の伸縮部424を有する関節部400を用いる例について説明する。なお、
図11中の符号520は、本変形例における指先部としてのエンドエフェクタを示す。
【0139】
図11に示すように、ポンプ700は、フレーム732と、伸縮部734と、連結部736とを有する。
【0140】
フレーム732は、チューブ343又は変換機構334の外殻部342に固定される。
【0141】
伸縮部(第2の伸縮部)734は、中空のベローズとして形成され、その軸方向(長手方向)に伸縮する伸縮性と、その軸方向と交差する方向へ曲がる可撓性と、を有する。伸縮部734は、作動流体を貯留する。
図11中、伸縮部734は、1つのベローズとして描かれているが、ベローズの数は一例であって、2つ以上であってもよい。なお、伸縮部734の一端(基端)はフレーム732に支持され、他端(先端)は基部200に支持される。伸縮部734は、第1-1の伸縮部424とチューブ214により連通される。
【0142】
フレーム732は、伸縮部734により、基部200に対して所定方向に所定範囲内を移動可能である。
【0143】
連結部736は、可動体300の牽引部材310のワイヤ312の先端に連結される。連結部736は、ワイヤ312の先端に連結される連結体736aと、例えば複数のワイヤ736bとを有する。複数のワイヤ736bの一端は連結体736aに連結され、他端は、フレーム732の通路732aを通して基部200に連結される。
【0144】
なお、
図11に示す状態において、ポンプ700の伸縮部734、及び、第1-1の伸縮部424の内圧は、同じである。このとき、第1-1の伸縮部424は、軸方向に縮む。したがって、
図11に示す状態のとき、第1の関節部400は屈曲せず、伸展している。
【0145】
次に、本変形例に係る義手20の作用について説明する。
【0146】
図11に示すユーザが前腕Fの先端を変換機構334の当接部344a(
図8参照)に当接させ、前腕Fを例えば回外動作させると、回転体344が一緒に回転する。一方、外殻部342及び移動体346は、回外動作に連動しない。
【0147】
前腕Fの例えば回外動作に伴って回転体344が回動すると、ネジの作用により、移動体346が回動体344に対して近接する。このため、牽引部材310が牽引される。牽引部材310のワイヤ312、及び、連結部736のワイヤ736bが牽引されると、フレーム732に対して基部200が近接され、伸縮部734が押圧される。このため、伸縮部734内の空気が押し出され、チューブ214を通って、第1-1の伸縮部424に移動する。このため、第1の関節部400が指腹側、すなわち掌側に屈曲する。
【0148】
前腕Fの例えば回内動作に伴って回転体344が回動すると、ネジの作用により、移動体346が回動体344に対して離隔する。このため、牽引部材310の牽引が解放される。牽引部材310の牽引の解放に応じて、基部200によりフレーム732に向かう伸縮部734の押圧が解除される。このため、第1-1の伸縮部424内の流体(作動流体)が、伸縮部734に戻される。また、伸縮部734自体の復元力も発揮される。このため、義指10の第1の関節部400は、
図11に示すように、それぞれ伸展する。
【0149】
本変形例によれば、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得る義指10、義指10用の指部600、及び、指部600を含む義手20を提供することができる。
【0150】
なお、ポンプ700の伸縮部734は、例えば外殻部342など、変換機構334に設けられていてもよい。この場合、変換機構334の外殻部342を、手の甲に配置してもよい。また、ポンプ700は手の甲等に配置してもよい。
【0151】
(第2変形例)
本変形例では、第1変形例の更なる変形例の義手20として用いる例について
図12を用いて説明する。
【0152】
本変形例の能動義手20の指部600は、フレーム732に対して1つだけでなく、複数配置される。義指10の指部600は、例えば5本で構成されている。各指部600は、PIP関節に相当する第1の関節部400と、DIP関節に相当する第2の関節部500と、MP関節に相当する第3の関節部800とを有する。このため、1つの指部600が有する関節部の数は、適宜に設定可能である。
【0153】
第1の関節部400、第2の関節部500との関係は、
図7及び
図8に示す第3実施形態で説明した義指10の指部600と同じである。
【0154】
また、第3の関節部800と第1の関節部400との関係は、
図7及び
図8に示す第3実施形態で説明した義指10の指部600の第1の関節部400と第2の関節部500との関係と同じである。第3の関節部800は、基部200との間に第1の関節部400を挟むように設けられる。第3の関節部800は、牽引部材310の動きに応じて第1の関節部400及び第2の関節部500に連動して、第1の関節部400に対して手のMP関節のように回動する。そして、第1の関節部400の第1-1の伸縮部424、第2の関節部500の第1-2の伸縮部524、及び、第3の関節部800の第1-3の伸縮部824の内圧は同じである。
【0155】
これは、各指部600において同じである。
【0156】
このため、本変形例は、MP関節、PIP関節、DIP関節にそれぞれ相当する3つの関節部800,400,500を有する5つの指部600を同時期に動かすことが可能な義手20を提供することができる。したがって、本変形例に係る義手20は、手を握るグー動作、手を開くパー動作を行うことができる。
【0157】
そして、本変形例で説明した義指10の指部600のように、関節部の数は、適宜に設定可能である。
【0158】
本変形例によれば、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得る義指10、及び、義指10用の指部600、及び、指部600を含む義手20を提供することができる。
【0159】
(第4実施形態)
第4実施形態に係る、ポンプ内蔵型の義指10について、
図13及び
図14を用いて説明する。本実施形態は、第1実施形態から第3実施形態の変形例であって、第1実施形態から第3実施形態で説明した部材と同一の部材又は同一の機能を有する部材には極力同一の符号を付し、詳しい説明を省略する。
【0160】
本実施形態では、基部200は、1体として形成される。基部200は、例えば略U字状に形成され、基節骨部Pの指腹側、指腹側とは反対側、及び、基節骨部Pの先端側を覆う。
【0161】
本実施形態では、ベース100は、義指10が取り付けられるユーザの手HのMP関節部Jよりも中手骨部側に配設される。
【0162】
第1の関節部400は、基部200に対して回動可能なヒンジ432を有する第1部材430と、基部200と第1部材430との間に設けられる第1-1の伸縮部(アクチュエータ)434とを有する。ヒンジ432は、ユーザの手Hのある指の基節骨に対して指腹側に配置され、第1-1の伸縮部434は、基節骨に対して指腹側とは反対側(手の甲側)に配置される。ヒンジ432の回動軸は、指が延びる方向に対して直交する方向など、交差する方向に延びる。第1-1の伸縮部434は、その軸方向に伸縮する伸縮性と、その軸方向と交差する方向へ曲がる可撓性とを有する、中空のベローズとして形成される。第1-1の伸縮部434の軸方向は、指腹が伸びる方向に沿う方向である。
【0163】
第2の関節部500は、第1部材430に設けられるリンク機構530と、第1部材430とリンク機構530との間に設けられる第1-2の伸縮部(ポンプ)534とを有する。
【0164】
リンク機構530は、第1-2の伸縮部534の一端を支持する第1の支持部材542と、第1-2の伸縮部534の他端を支持する第2の支持部材544と、第2の支持部材544にヒンジ545を介して支持される指先部(エンドエフェクタ)546と、第1の支持部材542と指先部546との間を連結する回動リンク548とを有する。
【0165】
第1部材430と第2の関節部500のリンク機構530の第1の支持部材542とは一体化されていてもよい。第1部材430、及び、第2の関節部500のリンク機構530の第1の支持部材542には、第1-1の伸縮部434と第1-2の伸縮部534とを連通させる流路436が形成される。
【0166】
第1の支持部材542と第2の支持部材544とは対向する。本実施形態では、第1の支持部材542と第2の支持部材544とは略平板状で、略平行に対向する状態を維持する。
【0167】
指先部546のヒンジ545は、ユーザの手Hのある指の基節骨に対して指腹側に配置される。ヒンジ545の回動軸は、指が伸展する方向に対して直交する方向など、交差する方向に延びる。
【0168】
回動リンク548の一端の旋回軸548aは、第1の支持部材542のうち、ユーザの手Hのある指の基節骨部Pに対して指腹側とは反対側に支持される。回動リンク548の他端の旋回軸548bは、指先部546のうち、ユーザの手Hのある指の基節骨部Pに対して指腹側とは反対側に支持される。回動リンク548の旋回軸548a,548bは、指が伸展する方向に対して直交する方向など、交差する方向に延びる。
【0169】
牽引部材310の一端は、ベース100に支持され、他端は第2の関節部500に支持される。本実施形態では、牽引部材310は、例えば可撓性を有するが、伸縮性に乏しいワイヤ又は板状部材が用いられる。また、第1実施形態で説明したように、牽引部材310は、ワイヤと板状部材とが連結されていてもよい。
【0170】
牽引部材310として例えば可撓性を有し、伸縮性に乏しい1対のワイヤ322a,322bが用いられるものとして説明する。ワイヤ322a,322bの一端は、ベース100に支持される。ワイヤ322a,322bは、例えば基節骨部Pの先端側の基部200において、指腹とは反対側から指腹側に通される。そして、第1の関節部400の第1部材430のヒンジ432よりも指腹側を通す。
一方のワイヤ322aの他端は、第2の関節部500の第1の支持部材542の指腹側を通して第2の支持部材544のヒンジ545又はその近傍に固定される。
他方のワイヤ322bの他端は、第1部材430と第2関節部500の第1支持部材542との間を通して、指腹側とは反対側に延出させる。そして、他方のワイヤ322bの他端は、リンク548と第1-2の伸縮部524との間を通して第2の支持部材544に固定される。
【0171】
次に、本実施形態に係る義指10の作用について説明する。
【0172】
図13に示すように、指部600の基部200は、図示しないバンド等により、ユーザの基節骨部Pに固定される。ベース100はユーザの手の甲又は手首等に配置される。
【0173】
牽引部材310のワイヤ322a,322bは、適宜の弛みがあるが、弛みが少ない状態にあることが好適である。このとき、
図13に示す例では、第1-1の伸縮部434、第1-2の伸縮部534の内圧は同じである。このとき、第1-1の伸縮部434は、軸方向に縮小している。また、第1-2の伸縮部524は、軸方向に延伸している。このとき、第1の支持部材542と第2の支持部材544とは略平行である。したがって、
図13に示す状態のとき、第1の関節部400及び第2の関節部500は屈曲せず、伸展している。
【0174】
ユーザがMP関節部Jを屈曲させると、義指10は、
図13に示す状態から、
図14に示す状態に変形する。ワイヤ322a,322bは、各経路に沿って移動しながら、各ワイヤ322a,322bの他端が固定される第2支持部材544を引っ張る。このため、第1-2の伸縮部534内の空気が、第1-1の伸縮部434内に移動する。そして、第1-2の伸縮部534は収縮し、第1-1の伸縮部434は伸長する。第1の関節部400のヒンジ432が指腹側であるため、第1の関節部400の第1-1の伸縮部434は、指腹側に比べて、指腹側とは反対側が伸びた状態で伸長する。
【0175】
第2の関節部500は、第1-2の伸縮部534が収縮することにより、第1の支持部材542に対して第2の支持部材544が近づく。このとき、回動リンク548の他端に支持される指先部546が、第2の支持部材544のヒンジ545を介して回動する。
【0176】
このため、第1の関節部400がヒンジ432により、第2の関節部500がヒンジ545によりそれぞれ屈曲する。第1の関節部400及び第2の関節部500はそれぞれ指腹側、すなわち掌側に屈曲する。
【0177】
ユーザがMP関節部Jの屈曲角度を小さくすると、牽引部材310のワイヤ322a,322bによる牽引が解除される。第1-1の伸縮部434、第1-2の伸縮部534の復元力により、義指10は、
図14に示す状態から
図13に示す状態に変形する。
【0178】
このため、本実施形態に係る義指10は、ユーザのMP関節部Jの動作に応じて、指部600を、屈曲及び伸展を繰り返し行うことができる。
【0179】
指部600は第1の関節部400の1自由度と第2の関節部500の1自由度の計2自由度となるため、指部600の可動範囲を広くすることができる。本実施形態に係る義指10は、手Hの屈曲角度を
図13に示す状態に比べて、
図14に示すように大きくするにしたがって、第1-2の伸縮部524の圧縮空気を、第1-1の伸縮部424に送り出し、指部600での把持力を大きくすることができる。
【0180】
本実施形態に係る義指10の指部600は、第1-1の伸縮部434と第1-2の伸縮部534との間で空気を出し入れすることができる。ポンプとしての第1-2の伸縮部534をDIP関節に相当する位置に設置し、第1-2の伸縮部534をポンプとしてだけではなくアクチュエータとして使用することができる。このため、限られたスペースの中で、ポンプ及びアクチュエータとしての、第1-1の伸縮部434及び第1-2の伸縮部534の十分なストローク量を確保できる。したがって、指部600の屈曲角度を大きくすることができる。このため、ポンプを指部600の外側に外付けする必要がなく、義指10を小さく形成することができる。
【0181】
そして、義指10は、牽引部材310の牽引に応じて空気圧による伸縮部434,534の発生トルクにより把持力を維持し、把持対象物を安定的に保持し続けることができる。このため、本実施形態に係る義指10は、指部600を動かしたら、単にその位置に留まろうとし把持力を失うものではなく、伸縮部434,534の発生トルク、バックドライバビリティにより、把持対象物を把持し続けるための力を、把持対象物に負荷し続けることができる。
【0182】
本実施形態に係る義指10を用いても、第1実施形態から第3実施形態で説明したように、500mlペットボトルのような比較的重量物の把持、紙片の把持、ポテトチップスを割らずに把持、消しゴムを把持した字消し等の作業を行うことが可能であった。
【0183】
本実施形態に係る義指10は、ユーザがMP関節部Jを屈曲させた状態を維持しようとすれば、それに応えて、第1-1の伸縮部434及び第1-2の伸縮部534の圧縮空気の作用により、把持力を負荷し続けることができる。本実施形態に係る義指10では、空気のバックドライバビリティによって第1の関節部400及び第2の関節部500の屈曲角度が自動的に調整され、第1-1の伸縮部434及び第1-2の伸縮部534内の空気が圧縮されることで、指先となる指先部546に適切に力を負荷することができる。したがって、本実施形態に係る義指10は、柔軟な把持性能を実現することができる。本実施形態によれば、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得る義指10、及び、義指10用の指部600を提供することができる。
【0184】
本実施形態では、電気エネルギーを用いる部材や外部動力源のコンプレッサ等を使用しない。このため、軽量で安価な能動義指10を提供することができる。
【0185】
本実施形態に係る義指10も、
図7、
図8、
図11、
図12で説明した変換機構334を用いて、また、前腕F及び牽引部材310を直接的に外殻部342に取り付けて義手20の一部として用いることができる。
【0186】
また、
図13及び
図14に示すワイヤ322a,322bを、
図8に示す外殻部342に接続してもよい。この場合、回転体344及びスライダ346は不要となり得る。外殻部342は、ユーザの手に例えば固定される。または、ユーザが外殻部342を保持してもよい。そして、ユーザは、ユーザの前腕Fの例えば回外動作によってワイヤ322a,322bを牽引することができる。このため、脳梗塞、リウマチ患者等の手指が不自由なユーザに対しても外殻部342を用いることにより、指を欠損したユーザに用いるだけでなく、
図13及び
図14に示す義指10を用いることができる。これは、後述する第4実施形態の変形例(
図15及び
図16参照)における義指10でも同様である。
【0187】
(変形例)
第4実施形態の変形例に係る、ポンプ内蔵型の義指10について、
図15及び
図16を用いて説明する。
【0188】
第1の関節部400は、第4実施形態の第1の関節部400と同様に形成される。第2の関節部500の変形例について説明する。
【0189】
第2の関節部500は、第1部材430に設けられる中間体552と、1対のヒンジ553a,553bを有する指先部(エンドエフェクタ)554とを有する。
【0190】
中間体552は、第1の関節部400の第1部材430に設けられる筒状体562と、筒状体562内に設けられる第1-2の伸縮部(ポンプ)564と、第1部材430に対して接離する支持部材566と、支持部材566に設けられる第1ラック572と、第1ラック572に噛み合わせられるピニオン574と、ピニオン574に噛み合わせられる第2ラック576とを有する。支持部材566と第1ラック572との位置関係は不変である。
【0191】
指先部554の1対のヒンジ553a,553bの一方のヒンジ553aは、指腹側で中間体552の筒状体562と連結する。指先部554の1対のヒンジ553a,553bの他方のヒンジ553bは、指腹側とは反対側で第2ラック576と連結する。
【0192】
なお、第1-1の伸縮部434は、第1-2の伸縮部564と第1部材430に形成される流路436において連通する。
【0193】
また、ワイヤ322の一端はベース100に連結され、ワイヤ322の他端は支持部材566又は第1ラック572に連結されている。
【0194】
次に、本変形例に係る義指10の作用について説明する。
【0195】
図15に示す例では、第1-1の伸縮部434、第1-2の伸縮部564の内圧は同じである。このとき、第1-1の伸縮部434は、軸方向に縮小している。また、第1-2の伸縮部564は、軸方向に延伸している。
図15に示す状態のとき、第1の関節部400及び第2の関節部500は屈曲せず、伸展している。
【0196】
ユーザがMP関節部Jを屈曲させると、義指10は、
図15に示す状態から、
図16に示す状態に変形する。ワイヤ322は、各経路に沿って移動しながら、ワイヤ322の他端が固定される支持部材566を引っ張る。このため、第1-2の伸縮部564内の空気が、第1-1の伸縮部434内に移動する。このため、第1-2の伸縮部564は収縮し、第1-1の伸縮部434は伸長する。第1の関節部400のヒンジ432が指腹側であるため、第1の関節部400の第1-1の伸縮部434は、指腹側に比べて、指腹側とは反対側が伸びた状態で伸長する。
【0197】
第2の関節部500は、第1-2の伸縮部564が収縮することにより、第1部材430に対して支持部材566が近づく。このとき、第1ラック572が支持部材566と一緒に第1部材に近づく。このとき、第1ラック572と第2ラック576との間に噛み合わせられたピニオン574が
図16に示す矢印の方向に回動する。このため、第1のラック572と第2のラック576とが反対方向に移動する。このため、1対のヒンジ553a,553bにより、指先部554が回動する。
【0198】
このため、第1の関節部400がヒンジ432により、第2の関節部500がヒンジ553aによりそれぞれ屈曲する。第1の関節部400及び第2の関節部500はそれぞれ指腹側、すなわち掌側に屈曲する。
【0199】
ユーザがMP関節部Jの屈曲角度を小さくすると、牽引部材310のワイヤ322による牽引が解除される。第1-1の伸縮部434、第1-2の伸縮部534の復元力により、義指10は、
図16に示す状態から
図15に示す状態に変形する。このとき、第1ラック572、ピニオン574、第2ラック576の位置関係も
図15に示す状態に戻される。
【0200】
このため、本変形例に係る義指10は、ユーザのMP関節部Jの動作に応じて、指部600を、屈曲及び伸展を繰り返し行うことができる。
【0201】
本変形例に係る義指10は、ユーザがMP関節部Jを屈曲させた状態を維持しようとすれば、それに応えて、第1-1の伸縮部434、第1-2の伸縮部564の圧縮空気の作用により、把持力を負荷し続けることができる。本変形例に係る義指10では、空気のバックドライバビリティによって第1の関節部400及び第2の関節部500の屈曲角度が自動的に調整され、第1-1の伸縮部434、第1-2の伸縮部564内の空気が圧縮されることで、指先となる指先部554に適切に力を負荷することができる。したがって、本実施形態に係る義指10は、柔軟な把持性能を実現することができる。本実施形態によれば、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得る義指10及び義指10用の指部600を提供することができる。
【0202】
本変形例では、電気エネルギーを用いる部材や外部動力源のコンプレッサ等を使用しない。このため、軽量で安価な能動義指10を提供することができる。
【0203】
本変形例に係る義指10も、
図7、
図8、
図11、
図12で説明した変換機構334を用いて、また、前腕F及び牽引部材310を直接的に外殻部342に取り付けて義手20の一部として用いることができる。この場合、外殻部342を含む変換機構334は、例えば手指を欠損したユーザに対して用い得る。その他、脳梗塞、リウマチ患者等の手指が不自由なユーザに対しても外殻部342の形状をユーザ自身の手指に合う形状に形成することが好適である。この場合も、ユーザは、ユーザの前腕Fの例えば回外動作によって義手20を駆動することができる。
【0204】
(第5実施形態)
図17には、健常手の各指に対応するように、それぞれ指部600を取り付けた、人体拡張デバイス(義指アセンブリ)50の概略図を示す。人体拡張デバイス50は、例えば1つのベース100を共有できる。
【0205】
本実施形態に係る人体拡張デバイス50は、例えば第3実施形態で説明した
図9及び
図10に示す義指10を組み合わせて用いる例について説明する。上述した実施形態に係る義指10を適宜に組み合わせて用いることができる。
【0206】
本実施形態では、人体拡張デバイス50は、ユーザの手Hの例えば親指の代わりをする第1の指部600a、例えば人差し指の代わりをする第2の指部600b、例えば中指の代わりをする第3の指部600c、例えば薬指の代わりをする第4の指部600d、例えば小指の代わりをする第5の指部600eを有する。
【0207】
各指部600a-600eの構造は同じであることが好適である。なお、各指部600a-600eの大きさや長さは、作業内容等に応じて設定可能である。
【0208】
各指部600a-600eは、基部200と、第1の関節部400と、第2の関節部500とを有する。第1の関節部400及び第2の関節部500は、作動流体が封入され、手又は腕部の動作に応じて、指腹側とは反対側が指腹側に比べて作動流体により伸縮する伸縮量が大きい、筒状の、第1の伸縮部424,524を有する。
【0209】
ベース100、可動体300、チューブ214、第2の伸縮部714等は、各指部600a-600eに共通に用いることができる。
【0210】
図17中は、指部600の数が人間の手の指と同じ5つである例を図示したが、指部600の数は、6つや7つなど、適宜に設定可能である。この場合、例えば危険作業などを自らの指を用いずに、人体拡張デバイス50を用いて行うことができる。本実施形態のいずれの指部600も、PIP関節、DIP関節に相当する部分を有するため、適宜の操作性を維持して、人体拡張デバイス50を用いることができる。また、それぞれ第1の伸縮部424,524を用いることにより、ガタを抑制することができる。
【0211】
本実施形態によれば、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得る指部600a-600eを有する人体拡張デバイス50を提供することができる。
【0212】
また、
図17中、1つの指部600に対して2つの関節部400,500を有する例について説明したが、
図12に示すように、関節部の数は、3つ以上など、適宜に設定可能である。
【0213】
本実施形態に係る義指10は、MP関節とPIP関節との間の基節骨部Pに基部200が取り付けられることが好適であるとして説明したが、健常な指を有するユーザが、自身の指の保護のために、義指10を用いることができる。例えば、危険作業を行う場合に、義指10を用いることができる。
【0214】
義指10は、健常者の危険作業の他、農業、漁業等の収穫その他の作業に用いることができる。また、義指10は、遠隔的に医療手術を行う際のロボットフィンガとして用いることができる。医療機器に用いる場合、可動体300の牽引部材310等を適宜に駆動させるために、可動体300の一部として、モータ等を使用してもよい。すなわち、可動体300としてのモータ等のアクチュエータは、指部600の第1の関節部400及び第2の関節部500、その他の関節部(関節部の数に制限はない)をそれぞれ手の指の関節のように動作させるようにしてもよい。
【0215】
(変形例)
図18には、健常手の各指に対応するように、それぞれ指部600を取り付けた人体拡張デバイス(義指アセンブリ)50の概略図を示す。人体拡張デバイス50は、例えば1つのベース100を共有できる。
【0216】
本実施形態に係る人体拡張デバイス50は、例えば第4実施形態で説明した
図13及び
図14に示す義指10を組み合わせて用いる例について説明する。
【0217】
各指部600a-600eは、基部200と、第1の関節部400と、第2の関節部500とを有する。第1の関節部400及び第2の関節部500の一方には、作動流体が封入される、筒状の、第1-1の伸縮部434及び第1-2の伸縮部534を有する。
【0218】
なお、各指部600a-600eには、手の甲に各指部600a-600eの基部200を固定する固定部として形成される取付部240が設けられる。取付部240は可撓性を有する樹脂材等で形成され、ユーザの手の動きに追従するように形成される。
【0219】
ベース100及び可動体300等は、各指部600a-600eに共通に用いることができる。
【0220】
図18中は、指部600の数が人間の手の指と同じ5つである例を図示したが、指部600の数は、6つや7つなど、適宜に設定可能である。この場合、例えば危険作業などを自らの指を用いずに、人体拡張デバイス50を用いて行うことができる。本実施形態のいずれの指部600も、PIP関節、DIP関節に相当する部分を有するため、適宜の操作性を維持して、人体拡張デバイス50を用いることができる。また、それぞれ第1-1の伸縮部434及び第1-2の伸縮部534を用いることにより、ガタを抑制することができる。
【0221】
本変形例によれば、適宜の自由度を有しながら、柔らかな動作を行い得る指部600a-600eを有する人体拡張デバイス50を提供することができる。
【0222】
図17及び
図18に示す指部600a-600eは一例であって、上述した各変形例を含む第4実施形態以前の例えば
図1、
図2、
図5、
図9、
図10に説明した指部600を適宜に用いることができる。
したがって、上述した各変形例を含む第4実施形態以前に説明した指部600を含む義指10は、健常者の危険作業の他、農業、漁業等の収穫その他の作業に用いることができる。また、このような義指10は、遠隔的に医療手術を行う際のロボットフィンガとして用いることができる。医療機器に用いる場合、可動体300の牽引部材310等を適宜に駆動させるために、可動体300の一部として、モータ等を使用してもよい。すなわち、可動体300としてのモータ等のアクチュエータは、指部600の第1の関節部400及び第2の関節部500、その他の関節部(関節部の数に制限はなく、単数、複数は問わない)をそれぞれ手の指の関節のように動作させるようにしてもよい。
【0223】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0224】
10…義指、100…ベース、200…基部、210…第1の基体、212…流路、214…チューブ、216…逆止弁、220…第2の基体、230…バンド、300…可動体、310…牽引部材、312…ワイヤ、314…板状部材、400…第1の関節部、410…第1の伸縮部、412…関節コマ、414…第1の案内部、416…第2の案内部、420…第1部材、422…ヒンジ、424…第1-1の伸縮部、426…流路、430…第1部材、432…ヒンジ、434…第1-1の伸縮部、436…流路、500…第2の関節部、510…回動体、511…先端、514…ヒンジ、516…伸縮部材、518…固定部、520…第2部材、522…ヒンジ、524…第1-2の伸縮部、530…リンク機構、534…第1-2の伸縮部、545…ヒンジ、546…指先部、548…回動リンク、548a,548b…旋回軸、552…中間体、553a,553b…ヒンジ、554…指先部、562…筒状体、564…第1-2の伸縮部、566…支持部材、572…第1ラック、574…ピニオン、576…第2ラック、600…指部、700…ポンプ、712…ポンプ基体、714…伸縮部、716…押圧体、718…ガイド、720…案内部。